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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168125
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】車両用シートの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20241128BHJP
   A47C 7/62 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C7/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084556
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】安東 宏哉
(72)【発明者】
【氏名】呉竹 健
(72)【発明者】
【氏名】襟立 和伸
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084JC01
3B087DE08
3B087DE09
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】乗員の着座する方向に拘わらず、乗員に対して加速度が作用することによる乗り心地の悪化を抑制できる車両用シートの制御装置を提供する。
【解決手段】乗員が着座する座面部と、フロアに対する座面部の傾斜角度を変更可能な傾斜制御装置とを備えた車両用シートの制御装置であって、座面部に着座した前記乗員の姿勢を検出する姿勢検出器と、傾斜制御装置を制御するコントローラとを備え、コントローラは、座面部に着座した乗員に作用する重力方向に沿った重力軸に対する、姿勢検出器によって検出された乗員の背筋方向に沿った身体軸の傾きを求め(ステップS4)、傾斜制御装置による座面部の傾斜角度を、重力軸に対する身体軸の傾きが予め定められた所定角度未満となる傾斜角度に設定する(ステップS8,S9)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座する座面部と、フロアに対する前記座面部の傾斜角度を変更可能な傾斜制御装置とを備えた車両用シートの制御装置であって、
前記座面部に着座した前記乗員の姿勢を検出する姿勢検出器と、
前記傾斜制御装置を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記座面部に着座した前記乗員に作用する重力方向に沿った重力軸に対する、前記姿勢検出器によって検出された前記乗員の背筋方向に沿った身体軸の傾きを求め、
前記傾斜制御装置による前記座面部の傾斜角度を、前記重力軸に対する前記身体軸の傾きが予め定められた所定角度未満となる傾斜角度に設定する
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記姿勢検出器は、車両に固定され、
前記コントローラは、
前記座面部の上面に直交するシート軸に対する前記身体軸の傾斜角度を求め、
前記重力軸と前記シート軸との傾斜角度に基づいて、前記重力軸に対する前記身体軸の傾きを求める
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記姿勢検出器は、車両に取り付けられかつ前記乗員の撮影するカメラを含む
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記コントローラは、
前記カメラにより撮影された画像データから前記乗員の肩幅方向の中央である二点を抽出し、
前記抽出された二点を通る軸を前記身体軸とする
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記姿勢検出器は、前記座面部に着座する前記乗員の荷重を検出する複数の荷重センサを含む
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記荷重センサは、静電容量に基づいて前記乗員の荷重を検出する静電容量センサを含む
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記コントローラは、
前記複数の荷重センサによって検出された荷重分布に基づいて、前記重力軸に対する前記身体軸の傾きを求める
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記姿勢検出器は、前記乗員が装着した端末の設けられた慣性計測装置を含む
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記座面部は、車両の進行方向に対して前記乗員が直交する方向に向いて着座するように設けられている
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の車両用シートの制御装置であって、
前記座面部は、車両の進行方向における後側に向いて前記乗員が着座するように設けられている
ことを特徴とする車両用シートの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員が着座するシートの傾斜角度を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、横置き二輪車両の旋回走行時に、乗員の負担を低減することに加えて、旋回状態を体感することができるように、乗員が着座するシートの傾斜角度を変更する制御装置が記載されている。具体的には、乗員に作用する重力、および旋回することによって乗員に作用する遠心力の合力ベクトルと鉛直軸とがなす角度よりも小さい範囲で、車体の傾斜角度を制御するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/001863号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された制御装置は、横置き二輪車両に乗車しかつ操縦する操縦者への身体的な負担を抑制するための車体の傾斜角度を、操縦者の視覚上の負担が増加しない範囲に定めるように構成されている。しかしながら、四輪車両などの車両に設けられたパッセンジャシートに着座する乗員は、車外を目視しない場合がある。そのような場合に、特許文献1に記載された制御装置のように、シートの傾斜角度を制御すると、シートの傾斜角度が過度に大きくなって、乗員が違和感を抱く可能性がある。また、四輪車両などは車両の前方を向いて乗員が着座するようにシートが設けられているとは限らない。具体的には、車両の進行方向に対して横向きに乗員が着座する場合がある。そのような場合には、車両の前後加速度が変化することによる乗員の乗り心地の悪化を抑制することができない。
【0005】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、乗員の着座する方向に拘わらず、乗員に対して加速度が作用することによる乗り心地の悪化を抑制できる車両用シートの制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するために、乗員が着座する座面部と、フロアに対する前記座面部の傾斜角度を変更可能な傾斜制御装置とを備えた車両用シートの制御装置であって、前記座面部に着座した前記乗員の姿勢を検出する姿勢検出器と、前記傾斜制御装置を制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記座面部に着座した前記乗員に作用する重力方向に沿った重力軸に対する、前記姿勢検出器によって検出された前記乗員の背筋方向に沿った身体軸の傾きを求め、前記傾斜制御装置による前記座面部の傾斜角度を、前記重力軸に対する前記身体軸の傾きが予め定められた所定角度未満となる傾斜角度に設定することを特徴としている。
【0007】
本発明においては、前記姿勢検出器は、車両に固定され、前記コントローラは、前記座面部の上面に直交するシート軸に対する前記身体軸の傾斜角度を求め、前記重力軸と前記シート軸との傾斜角度に基づいて、前記重力軸に対する前記身体軸の傾きを求めてよい。
【0008】
本発明においては、前記姿勢検出器は、車両に取り付けられかつ前記乗員の撮影するカメラを含んでよい。
【0009】
本発明においては、前記コントローラは、前記カメラにより撮影された画像データから前記乗員の肩幅方向の中央である二点を抽出し、前記抽出された二点を通る軸を前記身体軸としてよい。
【0010】
本発明においては、前記姿勢検出器は、前記座面部に着座する前記乗員の荷重を検出する複数の荷重センサを含んでよい。
【0011】
本発明においては、前記荷重センサは、静電容量に基づいて前記乗員の荷重を検出する静電容量センサを含んでよい。
【0012】
本発明においては、前記コントローラは、前記複数の荷重センサによって検出された荷重分布に基づいて、前記重力軸に対する前記身体軸の傾きを求めてよい。
【0013】
本発明においては、前記姿勢検出器は、前記乗員が装着した端末の設けられた慣性計測装置を含んでよい。
【0014】
本発明においては、前記座面部は、車両の進行方向に対して前記乗員が直交する方向に向いて着座するように設けられていてよい。
【0015】
本発明においては、前記座面部は、車両の進行方向における後側に向いて前記乗員が着座するように設けられていてよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乗員が着座する座面部の傾斜角度を変更可能な傾斜制御装置による座面部の傾斜角度を、座面部に着座した乗員に作用する重力方向に沿った重力軸に対する、乗員の背筋方向に沿った身体軸の傾きが、所定角度未満となる傾斜角度に設定する。したがって、車両が旋回走行し、または傾斜した走行路を走行した場合などに、乗員の身体軸を重力軸にほぼ一致させることができる。そのため、座面部の傾斜角度が過度に大きくなることを抑制でき、乗員が違和感を抱くことを抑制できる。それに伴って、乗員が姿勢を移動させる必要がなく、またはその移動量を低減することができるため、背中や首の筋活動を抑制でき、乗員の負担を低減すること、つまり乗り心地が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態における車両用シートの一例を説明するための図であり、(a)は側面図であり、(b)は正面図である。
図2】本発明の実施形態における制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】車両の左旋回時におけるシートの傾斜角度を示す図である。
図4】スラローム走行時における乗員の首の角度の変化を計測した結果を示すタイムチャートであり、(a)は加速度の変化を示す図であり、(b)は比較例における首の角度の変化を示す図であり、(c)は実施例における首の角度の変化を示す図である。
図5】乗員の首の角度および振れ角度の定義を示す図であり、(a)は首の角度を示す図であり、(b)は首の振れ角度を示す図である。
図6】車両の減速時におけるシートの傾斜角度を示す図である。
図7】本発明の実施形態の対象とすることができる車幅方向における内側を向いた車両用シートを示す図である。
図8】本発明の実施形態の対象とすることができる車両後方を向いた車両用シートを示す図である。
図9】乗員の身体軸を求めるための荷重センサを座面部に設けた例を示す図であり、(a)はシートの側面図であり、(b)は座面部の上面図である。
図10】荷重センサの検出値に基づいて身体軸の傾斜角度を算出する方法を説明するための図であり、(a)はシートが傾斜した状態での検出値を示す図であり、(b)は座面部を拡大して示す図である。
図11】乗員の頭部に装着された端末に慣性計測装置を設けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0019】
図1には、本発明の実施形態における車両用シートの一例を説明するための側面図(a)および正面図(b)を模式的に示してある。図1に示す車両用シート(以下、単にシートと記す。)1は、車室内における助手席、後部座席などのいわゆるパッセンジャシートに設けられていて、乗員が着座する座面部2と、背もたれ部3と、ヘッドレスト4とによって構成されている。
【0020】
座面部2は、その形状を維持するための図示しない矩形状のフレーム部材と、対向するフレーム部材同士に掛け渡されるなどによって設けられた乗員を支持するスプリングと、フレーム部材およびスプリングの上面を覆うように設けられたクッションとによって構成されている。
【0021】
この座面部2には、前後方向の位置を調節するためのスライド機構5が設けられている。具体的には、座面部2と平行に配置された基部6と、座面部2との間にスライド機構5が設けられている。したがって、基部6と座面部2とには、スライド機構5を設けるためのクリアランスが空いている。なお、座面部2と基部6とのクリアランスは、常時、一定に保たれている。
【0022】
上記の基部6の四隅には、昇降機構7が連結されている。この昇降機構7は、車両のフロア8に設けられたアクチュエータ9と、そのアクチュエータ9の動力によって、フロアに対して垂直な方向に上下動する支持部10とによって構成されている。上記の支持部10の上端と基部6とは、例えば、ボールジョイントなどによって、基部6に対する支持部10の角度が変化できるように連結されている。したがって、四つの昇降機構7の高さを異ならせるなどによって、フロア8に対する基部6の傾斜角度、言い換えると、座面部2の傾斜角度を変更することができる。この昇降機構7が、本発明の実施形態における「傾斜制御装置」に相当する。
【0023】
昇降機構7は、例えば、モータと、モータの動力がラックアンドピニオンを介して伝達される支持部10とによって構成することができる。その場合、モータをステッピングモータなどによって構成することにより、その回転角を制御することによって、支持部10の上下方向の高さを制御することができる。
【0024】
なお、フロア8には、車両の前後方向、横方向、上下方向の三つの方向の加速度を検出するための加速度センサ11が設けられている。また、車両には、シート1に着座した乗員の姿勢を検出するために、車室内の乗員を撮影するカメラ12が設けられている。なお、カメラ12は、例えば、ルーフに固定されている。
【0025】
上記の各昇降機構7の高さを制御するための電子制御装置(以下、ECUと記す。)13が設けられている。このECU13は、本発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであり、マイクロコンピュータを主体に構成されている。ECU13には、車速センサ14、加速度センサ(慣性計測装置を含む)11、およびカメラ12の少なくとも三つの機器から信号が入力され、その入力された信号に基づいて、座面部2の傾斜角度、すなわち、各昇降機構7の昇降量を定め、その定められた昇降量に関するデータを、各アクチュエータ9に出力するように構成されている。
【0026】
本発明者は、車外を目視しない乗員においては、車両に横加速度が作用して車両が傾斜した場合に、乗員の背筋方向と重力方向とが乖離すると、乗員が違和感を抱いて姿勢を変化させることを見出した。具体的には、乗員に目隠しをした状態で、旋回走行を行うことにより、乗員の姿勢と、旋回走行による違和感との関係を官能試験によって見出した。したがって、本発明の実施形態における制御装置は、乗員の姿勢が違和感を抱く程度に変化した場合に、シート1の傾斜角度を制御するように構成されている。
【0027】
その制御の一例を説明するためのフローチャートを図2に示してある。図2に示す制御例では、まず、車速が所定車速以上であるか否かを判断する(ステップS1)。このステップS1は、車両が走行しているか否かを判断するためのステップであり、したがって、所定車速は、車速センサ14の検出誤差を考慮した車速以上に設定することができる。
【0028】
車速が所定車速未満であることによりステップS1で否定的に判断された場合は、リターンする。それとは反対に、車速が所定車速以上であることによりステップS1で肯定的に判断された場合は、横加速度が所定加速度以上であるか否かを判断する(ステップS2)。このステップS2は、車両が旋回走行し、または車両の横方向に傾斜した走行路を走行しているか否かを判断するためのステップであり、したがって、所定加速度は、加速度センサ11の検出誤差を考慮した横加速度以上に設定することができる。
【0029】
横加速度が所定加速度未満であることによりステップS2で否定的に判断された場合は、リターンする。それとは反対に、横加速度が所定加速度以上であることによりステップS2で肯定的に判断された場合は、乗員の背筋方向の軸(以下、身体軸と記す。)と、シート1の座面部2の上面に直交する軸(以下、シート軸と記す。)とがなす角度Pを算出する(ステップS3)。このステップS3における身体軸は、例えば、カメラ12によって撮影された画像データを解析して、乗員の肩幅の中央と、頭部の頂点とを結ぶ線などの、乗員の身体のうちの肩幅方向における中央部分の二点を抽出し、その二点を通る軸を身体軸として設定することができる。すなわち、カメラ12が、本発明の実施形態における「姿勢検出器」に相当する。
【0030】
なお、カメラ12によって撮影された画像データから、AI(人工知能)などを利用することにより、乗員の肩や頭部を認識することができる。また、身体軸は、乗員の肩幅方向における中央部分の二点を抽出する手段に限らず、例えば、画像データから肩幅の中央部分(喉頭隆起)を抽出し、その抽出点と座面部2の幅方向における中央部分とを結ぶ軸を身体軸として設定することができる。ここで、シート軸は、背もたれ部3の幅方向における中央を通る軸や、座面部2の上面に直交する軸などシートの画像データから抽出して定めることができる。
【0031】
上記のステップS3は、シート軸に対する身体軸の傾きを検出するものであるものの、旋回走行していることにより、または傾斜した走行路を走行していることにより、車両が傾斜している場合には、身体軸がシート軸に対して傾いていないとしても、座面部2に着座した乗員に作用する重力方向に沿った軸(以下、重力軸と記す。)に対して、身体軸が傾いている場合がある。そのような場合には、上述したように車外を目視しない乗員が違和感を抱く可能性がある。
【0032】
したがって、ステップS3に続いて、身体軸と重力軸との角度|H|(絶対値)が、所定角度未満か否かを判断する(ステップS4)。このステップS4では、まず、身体軸の傾斜角度を重力軸座標に補正する。具体的には、加速度センサ11によって求められる重力軸と、上記シート軸との角度差を求め、身体軸とシート軸との角度に、求められた角度差を加算することにより、身体軸と重力軸との角度Hを求める。続いて、実際に求められた身体軸と重力軸との角度Hが、上記官能試験によって見出された、乗員が違和感を抱く重力軸に対する身体軸の傾斜角度(所定角度)よりも小さいか否かを判断する。
【0033】
身体軸と重力軸との角度Hが、所定角度未満であることによりステップS4で肯定的に判断された場合は、横加速度が所定加速度未満であるか否かを判断する(ステップS5)。このステップS5は、旋回走行または傾斜した走行路の走行が終了したか否かを判断するためのステップである。したがって、所定加速度は、ステップS2における所定加速度と同一の値に設定することができる。なお、ステップS5における所定加速度は、ステップS2における所定加速度と異なった値に設定していてもよい。
【0034】
横加速度が所定加速度以上であることによりステップS5で否定的に判断された場合は、ステップS3にリターンする。それとは反対に、横加速度が所定加速度未満であることによりステップS5で肯定的に判断された場合は、車速が所定車速未満であるか否かを判断する(ステップS6)。このステップS6は、車両が停車したか否かを判断するためのステップである。したがって、所定車速は、ステップS1における所定車速と同一の値に設定することができる。なお、ステップS6における所定車速は、ステップS1における所定車速と異なった値に設定していてもよい。
【0035】
車速が所定車速以上であることによりステップS6で否定的に判断された場合は、ステップS2にリターンし、それとは反対に、車速が所定車速未満であることによりステップS6で肯定的に判断された場合は、このルーチンを終了する。
【0036】
一方、身体軸と重力軸との角度|H|が、所定角度以上であることによりステップS4で否定的に判断された場合は、その角度Hが正の値であるか否かを判断する(ステップS7)。このステップS7は、重力軸に対する身体軸の傾斜方向を判断するためのステップであり、乗員に対峙して見た場合に、重力軸よりも左側に身体軸が傾斜している場合、すなわち、乗員の右臀部側に重心が偏っている場合を正の値とし、右側に身体軸が傾斜している場合、すなわち、乗員の左臀部側に重心が偏っている場合を負の値としている。
【0037】
したがって、重力軸に対して身体軸が左側に傾斜していること、すなわち、身体軸と重力軸との角度Hが正の値であることによりステップS7で肯定的に判断された場合は、身体軸と重力軸との角度Hが零に近づくようにシート1の傾斜角度Sを変更して(ステップS8)、ステップS3にリターンする。具体的には、水平面に対する座面部2の傾斜角度を小さくする。すなわち、乗員の右臀部を押し上げ、または乗員の左臀部を下降させる。その制御量は、重心軸と身体軸との角度Hの大きさに応じて増加する。
【0038】
それとは反対に、重心軸に対して身体軸が右側に傾斜していること、すなわち、重心軸に対する身体軸の角度Hが負の値であることによりステップS7で否定的に判断された場合は、重力軸に対する身体軸の角度Hが零に近づくようにシート1の傾斜角度Sを変更して(ステップS9)、ステップS3にリターンする。具体的には、水平面に対する座面部2の傾斜角度を大きくする。すなわち、乗員の左臀部を押し上げ、または乗員の右臀部を下降させる。その制御量は、重心軸に対する身体軸の角度Hの大きさに応じて増加する。
【0039】
図3には、車両の左旋回時に上記の制御例を実行した場合のシート1の傾斜角度Sを示してある。車両の左旋回時には、車両に遠心力が作用することにより、車両の右側が沈むように傾斜する。すなわち、図3に示すようにフロア8の右側が左側よりも低くなるように傾斜する。図3には、水平面に対するフロア8の傾斜角度を、「F」と記してある。その場合、シート1の傾斜角を制御しないとすれば、身体軸Abは、図3に示す二点鎖線(before)に沿うため、重力軸Agに対して身体軸Abが大きくなることにより図2におけるステップS4で否定的に判断され、かつステップS7で肯定的に判断される。したがって、ステップS8が実行されることにより、乗員の右臀部を押し上げ、または乗員の左臀部を降下させる。すなわち、図3に示すように座面部2の右側の下面とフロア8との間隔が、座面部2の左側の下面とフロア8との間隔よりも大きくなるようにシート1を傾斜させる。なお、図3に示す例では、身体軸Ab(after)が重力軸Agを超える程度までシート1の傾斜角度Sを変更している。
【0040】
図4には、スラローム走行時に上記の制御例を実行した場合における乗員の首の角度の変化を計測した結果を示してある。なお、乗員の首の角度は、図5(a)に示すように背筋方向に沿って頭部が位置する角度を90度とし、その位置から頭部を左側に傾けるほど角度が小さくなり、反対に頭部を右側に傾けるほど角度を大きくなるように設定している。また、図5(b)に示すように、頭部が左右に振れた最大値を首の振れ角度として計測した。
【0041】
さらに、比較例として、重力と横加速度との合力ベクトルと重力軸とがなす角度よりも小さい範囲で、車体の傾斜角度を制御した場合における乗員の首の角度の変化を計測した。すなわち、比較例では、車外を目視する場合に、視覚上の負担を抑制するようにシート1の傾斜角度を制御した。
【0042】
スラローム走行した場合の加速度の変化を図4(a)に示してあり、比較例としての首の角度を図4(b)に示してあり、上記制御例を実行した場合の首の角度を図4(c)に示してある。また、試験条件として、乗員は、車外を目視できないようにした。図4(b)および図4(c)に示すように、スラローム走行した場合には、比較例では、首の角度が約70度から120度の間で大きく変化しているのに対して、上記制御例を実行した場合には、約70度から100度の間で変化している。すなわち、車外を目視することを前提としてシート1の傾斜角度を制御した場合には、車外を目視しないときに大きく首が振れ、その結果、乗員が不快に感じる。
【0043】
それに対して、乗員の身体軸Abが重力軸Agに対して傾いたことにより、その傾きを低減するようにシート1の傾斜角度を制御した場合、すなわち、上記の制御例を実行した場合には、乗員の首の振れ角度を小さくすることができる。
【0044】
上述したように重力軸Agに対して乗員の身体軸Abが傾いた場合に、その傾きを低減するようにシート1の傾斜角度Sを制御する。したがって、車両が旋回走行し、または傾斜した走行路を走行した場合であっても、乗員の身体軸Abを重力軸Agにほぼ一致させることができる。そのため、シート1の傾斜角度が過度に大きくなることを抑制でき、乗員が違和感を抱くことを抑制できる。それに伴って、乗員が姿勢を移動させる必要がなく、またはその移動量を低減することができるため、背中や首の筋活動を抑制でき、乗員の負担を低減すること、つまり乗り心地が低下することを抑制できる。
【0045】
また、車外を目視しない乗員の頭部が、車両の走行状態に応じて左右に揺さぶられることを抑制でき、あるいは、頭部が左右に揺さぶられることを抑制するための背中や首の筋活動を抑制でき、その結果、その乗員の乗り心地が悪化することを抑制できる。
【0046】
上述した制御例では、車両の前方を向いて着座する乗員に対して横加速度が作用した場合に、その乗員の姿勢(身体軸Ab)に応じてシート1の傾斜角度Sを制御するように構成されているが、本発明の実施形態における制御装置は、車両の前方を向いて着座する乗員に対して前後加速度が作用した場合に、その乗員の姿勢(身体軸Ab)に応じてシート1の傾斜角度Sを制御してもよい。具体的には、減速走行時における車両の前方側に向けた慣性力により車両の前方が後方よりも沈み込んでフロア8が傾斜する場合や、降坂路を走行していることによりフロア8の前方側が水平面に対して下側に向けて傾斜する場合に、シート1の前方を上昇させるように制御してもよい。
【0047】
図6には、減速時にシート1の傾斜角度を制御した例を示してある。図6に示すように減速時には、車両の前方側が水平面に対して沈み込むため、それに併せてフロア8の前方側が後方側よりも低くなるように傾斜する。したがって、身体軸Ab(before)が重力軸Agに対して車両の前方側に傾斜するため、その傾きを抑制するためにシート1の前方側を上昇させるように制御する。すなわち、フロア8に対するシート1の前方側の距離が、後方側の距離よりも大きくなるように各アクチュエータ9を制御する。
【0048】
このように前後方向の加速度が作用した場合であっても、身体軸Abが重力軸Agに一致するようにシート1を制御することにより、乗員の頭部が前後方向に揺さぶられることを抑制でき、乗員の乗り心地が悪化することを抑制できる。
【0049】
また、本発明の実施形態における車両用シートの制御装置は、車両の前方に向いて乗員が着座するシートに限らず、図7に示すように車幅方向における内側、すなわち、車両の進行方向に対して直交する方向に向いて乗員(制御対象者)が着座するように設けられたシートの傾斜角度を制御するように構成してもよく、あるいは図8に示すように車両の後方に向いて乗員(制御対象者)が着座するように設けられたシートの傾斜角度を制御するように構成してもよい。
【0050】
さらに、本発明の実施形態におけるシート1に対する乗員の身体軸の傾斜角度Pを算出するためのパラメータは、画像データに限らない。具体的には、図9に示すように座面部2の左右に荷重センサ15a,15bを設け、その荷重センサ15a,15bによって検出される荷重分布に応じて、シート1に対する傾斜角度Pを算出してもよい。ここで、荷重センサ15a,15bは、例えば、歪み量に基づいて荷重を検出するように構成されたものや、弾性部材の変位量に基づいて荷重を検出するように構成されたものを採用することができる。あるいは、コンデンサなどの絶縁された導体の電荷に基づいて荷重を検出する静電容量センサによって荷重センサ15a,15bを構成することができる。なお、図9(a)は、荷重センサ15a,15bを取り付けたシート1の側面図であり、図9(b)は、荷重センサ15a,15bの取付位置を示すための座面部2の上面図である。
【0051】
図10は、シート1に対する乗員の身体軸Abの傾斜角度Pを算出する方法を説明するための図である。図10(a)は、図3に示す例と同様の状態であって、このように重力軸Agに対して乗員の左半身が右半身よりも沈み込むように身体軸Abが傾斜している場合には、乗員の左臀部の下側に設けられた荷重センサ15aの検出値が、右臀部の下側に設けられた荷重センサ15bの検出値よりも大きくなる。その状態を拡大した図を図10(b)に示してあり、荷重センサ15a,15bの検出値の大きさを矢印の長さで示してある。
【0052】
図10(b)に示すようにセンサ15a,15b間の距離を「a」、左臀部の下側に設けられた荷重センサ15bの検出値を「b」、右臀部の下側に設けられた荷重センサ15aの検出値を「c」、シート軸Asに対する身体軸Abの傾斜角度を「P」とすると、その傾斜角度Pは、以下の式で求めることができる。なお、「K」は、係数である。
P=arctan(K(c-b)/a)
【0053】
したがって、図2におけるステップS3において、上式によって傾斜角度Pを求めることにより、上述した例と同様に、シート1の傾斜角度Sを適切な角度に制御することができる。
【0054】
また、車外を目視することを要さない乗員は、VRゴーグルなどのウェアラブル端末を使用することが想定される。そのように頭部に端末などを装着する場合には、図11に示すように、その端末に慣性計測装置16を設けることにより、重力軸Agに対する身体軸Abの傾きを検出してもよい。その場合には、図2に示す制御例におけるステップS3を実行しなくてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 シート
2 座面部
5 スライド機構
7 昇降機構
8 フロア
9 アクチュエータ
10 支持部
11 加速度センサ
12 カメラ
13 電子制御装置(ECU)
14 車速センサ
15a,15b 荷重センサ
16 慣性計測装置
Ab 身体軸
Ag 重力軸
As シート軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11