(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168136
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ブレース構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241128BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241128BHJP
E04C 3/292 20060101ALI20241128BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241128BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04B1/58 F
E04B1/58 E
E04C3/292
F16F15/02 Z
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084569
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 建一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 恒幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 初太郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 佳奈
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
2E163
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC15
2E125AC23
2E125AG03
2E125AG43
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC22
2E139AC33
2E139BA06
2E139BD16
2E139BD22
2E163FF02
3J048AA06
3J048AC01
3J048AC06
3J048BE12
3J048EA38
3J066AA30
3J066BA03
3J066BB04
3J066BC03
3J066BF01
3J066CA06
(57)【要約】
【課題】木鋼ハイブリッド部材と鋼材ダンパーを組み合わせたブレース構造を提供する。
【解決手段】梁12と、前記梁12の上に配置される鉄骨部材22と、この鉄骨部材22を被覆する木質被覆材24とを有する木鋼ハイブリッド部材14からなるブレースとを備えるブレース構造10であって、前記梁12と前記ブレースとの間に、鋼材ダンパー16が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁と、前記梁の上に配置される鉄骨部材と、この鉄骨部材を被覆する木質被覆材とを有する木鋼ハイブリッド部材からなるブレースとを備えるブレース構造であって、
前記梁と前記ブレースとの間に、鋼材ダンパーが設けられていることを特徴とするブレース構造。
【請求項2】
前記梁と前記ブレースとの間に設けられ、鉛直方向の荷重を伝達する一方、水平方向の荷重を逃がす方向に変形または移動させる機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のブレース構造。
【請求項3】
前記ブレースは、頂部を下側にしたV字形状に配置され、前記鋼材ダンパーは前記頂部に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のブレース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質被覆材と鉄骨部材からなる木鋼ハイブリッド部材を用いたブレース構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の建築分野では、CO2排出削減などを目的として木質部材の活用が推進されている。木質部材に地震力を積極的に負担させる場合、現行法規の構造計算では破壊形式により構造特性係数を割り増しして評価する必要があり、合理的な設計とならない場合が多い。このため、木質部材は、小梁や間柱のような地震力を受けない部材以外では採用しづらいという問題があった。
【0003】
一方、木質被覆材と鉄骨部材からなる木鋼ハイブリッド部材が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の木鋼ハイブリッド部材は、鉄骨部材と、この鉄骨部材の両外側に設けられた木質被覆材と、鉄骨部材と木質被覆材を固定するために一方の木質被覆材を貫通する貫通孔から鉄骨部材を貫通して他方の木質被覆材にねじ込まれる棒状の固定部材を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の木鋼ハイブリッド部材を架構の耐震補強ブレースに適用する場合、木鋼ハイブリッド部材内部の鉄骨部材の座屈を防ぐために構造計算時の構造特性係数を割り増しして評価する必要がある。このようにすると、効率的な架構設計ができなくなってしまう。そこで、本発明者は、効率的な架構設計を実現するために、木鋼ハイブリッド部材内部の鉄骨部材が座屈しない構造を鋭意検討した。その結果、木鋼ハイブリッド部材と制振要素を組み合わせた以下の本発明に至った。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、木鋼ハイブリッド部材と制振要素を組み合わせたブレース構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るブレース構造は、梁と、前記梁の上に配置される鉄骨部材と、この鉄骨部材を被覆する木質被覆材とを有する木鋼ハイブリッド部材からなるブレースとを備えるブレース構造であって、前記梁と前記ブレースとの間に、鋼材ダンパーが設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他のブレース構造は、上述した発明において、前記梁と前記ブレースとの間に設けられ、鉛直方向の荷重を伝達する一方、水平方向の荷重を逃がす方向に変形または移動させる機構を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他のブレース構造は、上述した発明において、前記ブレースは、頂部を下側にしたV字形状に配置され、前記鋼材ダンパーは前記頂部に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るブレース構造によれば、梁と、前記梁の上に配置される鉄骨部材と、この鉄骨部材を被覆する木質被覆材とを有する木鋼ハイブリッド部材からなるブレースとを備えるブレース構造であって、前記梁と前記ブレースとの間に、鋼材ダンパーが設けられているので、木鋼ハイブリッド部材内部の鉄骨部材が座屈しない構造を実現することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る他のブレース構造によれば、前記梁と前記ブレースとの間に設けられ、鉛直方向の荷重を伝達する一方、水平方向の荷重を逃がす方向に変形または移動させる機構を備えるので、木鋼ハイブリッド部材内部の鉄骨部材に過度な軸力が生じるのを防ぐことができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他のブレース構造によれば、前記ブレースは、頂部を下側にしたV字形状に配置され、前記鋼材ダンパーは前記頂部に設けられるので、架構面にV字形状の木質調の外観デザインを実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係るブレース構造の実施の形態を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るブレース構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るブレース構造10は、コンクリート製の梁12と、図示しない左右の柱および上方の梁と、梁12の上に配置される木鋼ハイブリッド部材14からなるブレース(斜材)と、鋼材ダンパー16と、すべり板18とを備えたV字型木質制振架構である。本実施の形態では、梁12と、図示しない上方の梁との間に、H形鋼からなる中間梁20を設けた場合を示しているが、中間梁20は省略することもできる。
【0016】
木鋼ハイブリッド部材14は、H形鋼からなる鉄骨部材22と、この鉄骨部材22を被覆する木質被覆材24とを有する矩形断面の部材である。それぞれの鉄骨部材22は、長手方向の端部26を突き合わせた複数の鉄骨部材22からなり、各端部26は、ウェブ28およびフランジ30のそれぞれに跨って配置された継手プレート32と、各継手プレート32、ウェブ28、フランジ30を貫通するボルト34を介して互いに連結される。木鋼ハイブリッド部材14は、例えば、特許文献1に記載のものを使用することができる。鉄骨部材22は、H形鋼に限るものではなく、他の形鋼で構成してもよい。木質被覆材24は、所定の耐火性能(例えば1時間の耐火性能)を有する木質材料で構成され、例えば、ヒバやカラマツなどの集成材を用いて構成することができる。鉄骨部材22と木質被覆材24は、鉄骨部材22の延在方向に所定の間隔で複数配置したラグスクリューなどの固定部材によって互いに固定してもよい。木鋼ハイブリッド部材14は、矩形断面の部材に限るものではなく、他の断面形状でもよい。
【0017】
木鋼ハイブリッド部材14は、頂部(部材中心線の交点P)を下側にした左右対称のV字形状に2本配置される。左右の木鋼ハイブリッド部材14の鉄骨部材22の上端は、図示しない上方の梁に固定される。木鋼ハイブリッド部材14の鉄骨部材22の下端36は、左右の水平プレート38にそれぞれ固定される。具体的には、
図2および
図3に示すように、左右の鉄骨部材22の下端36のウェブ28は、鉛直プレート40を介して左右方向に連続的に接続している。鉛直プレート40の上端には、左右のフランジ30同士を接続する態様で接続プレート42が溶接される。鉛直プレート40の前後面の上側には、リブプレート44が溶接される。鉛直プレート40、接続プレート42、リブプレート44の周囲は、木質被覆材24で覆われる。図の左側の水平プレート38の上面には、左側の鉄骨部材22のフランジ30とウェブ28の下端部が溶接され、図の右側の水平プレート38の上面には、右側の鉄骨部材22のフランジ30とウェブ28の下端部が溶接される。
【0018】
鋼材ダンパー16は、
図2~
図4に示すように、梁12と木鋼ハイブリッド部材14の下端との間に設けられる板状の鋼板ダンパーであり、過大入力が生じた際に降伏する。この鋼材ダンパー16は、鉛直プレート40の下側に複数のボルト48で固定される上側鋼板部50と、固定プレート52に複数のボルト48で固定される下側鋼板部54と、これらを連結する縦帯状の連結鋼板部56とを有する。上側鋼板部50、下側鋼板部54、連結鋼板部56は、同じ材質で連続的に構成されており、鉛直プレート40または固定プレート52の前後面にフィラープレート46を挟んで配置される。鋼材ダンパー16は、図に示した形状に限るものではなく、独自の形状でもよい。例えば、イクステンダム(登録商標)などの既製品を利用してもよい。
【0019】
すべり板18は、
図2~
図4に示すように、左右の水平プレート38の下面側にそれぞれ当接配置される。具体的には、梁12の上にモルタル等からなる台座58が設けられており、台座58の上には基部プレート60が配置される。基部プレート60は、アンカーボルト62で梁12に固定される。この基部プレート60の上面に対して左右方向に延びる固定プレート52が溶接される。この固定プレート52と基部プレート60に対して複数のリブレート64が間隔をあけて溶接される。すべり板18は、固定プレート52の上端の左側と右側とにそれぞれ溶接される。すべり板18の上面の略中央には、丸鋼66が設けられている。この丸鋼66は上方に延びて、その上端は、水平プレート38に設けた左右方向に長い長孔68を通って水平プレート38の上に突き出ている。水平プレート38はすべり板18上に沿って左右方向にスライド移動可能であるが、長孔68に挿入された丸鋼66によって過度な移動が規制される。水平プレート38の下面には、摩擦抵抗を減らすための研磨加工が施されている。すべり板18は、例えば、フロロゴールド(登録商標)などの既製品を利用することができる。
【0020】
上記構成の動作および作用について説明する。
木鋼ハイブリッド部材14の鉄骨部材22に荷重が作用すると、鉛直方向の荷重は水平プレート38、すべり板18、固定プレート52、基部プレート60、台座58を介して梁12に伝達される。一方、水平方向の荷重の一部は、水平プレート38がすべり板18上を左右方向に摺動することによって逃がされる。このように、すべり板18は、鉄骨部材22からの鉛直方向の荷重を梁12側に伝達する一方、水平方向の荷重を逃がす方向に水平プレート38をスライド移動させる機構として機能する。また、鋼材ダンパー16の部分でエネルギー吸収が可能である。過大入力が生じた際には、鋼材ダンパー16が降伏し、鉄骨部材22に生じる水平荷重を頭打ちにすることができる。
【0021】
本実施の形態によれば、すべり板18や鋼材ダンパー16の働きにより、木鋼ハイブリッド部材14内部の鉄骨部材22に過度な軸力が生じるのを防ぐことができるので、鉄骨部材22が座屈しない構造を実現することができる。構造計算時の構造特性係数を割り増しして評価する必要がないので、合理的な架構設計が可能となる。したがって、木鋼ハイブリッド部材14を、地震力を負担するブレース材として使用することができ、構造体の積極的な木質化が可能である。また、構造材の耐火被覆材として木質材料を使用することができる。また、架構面にV字形状の木質調の外観デザインを実現することができる。
【0022】
以上説明したように、本発明に係るブレース構造によれば、梁と、前記梁の上に配置される鉄骨部材と、この鉄骨部材を被覆する木質被覆材とを有する木鋼ハイブリッド部材からなるブレースとを備えるブレース構造であって、前記梁と前記ブレースとの間に、鋼材ダンパーが設けられているので、木鋼ハイブリッド部材内部の鉄骨部材が座屈しない構造を実現することができる。
【0023】
また、本発明に係る他のブレース構造によれば、前記梁と前記ブレースとの間に設けられ、鉛直方向の荷重を伝達する一方、水平方向の荷重を逃がす方向に変形または移動させる機構を備えるので、木鋼ハイブリッド部材内部の鉄骨部材に過度な軸力が生じるのを防ぐことができる。
【0024】
また、本発明に係る他のブレース構造によれば、前記ブレースは、頂部を下側にしたV字形状に配置され、前記鋼材ダンパーは前記頂部に設けられるので、架構面にV字形状の木質調の外観デザインを実現することができる。
【0025】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係るブレース構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係るブレース構造は、建物の柱梁架構に設けられるブレースに有用であり、特に、ブレースとして木鋼ハイブリッド部材を用いるのに適している。
【符号の説明】
【0027】
10 ブレース構造
12 梁
14 木鋼ハイブリッド部材(ブレース)
16 鋼材ダンパー
18 すべり板
20 中間梁
22 鉄骨部材
24 木質被覆材
28 ウェブ
30 フランジ
36 下端
38 水平プレート
40 鉛直プレート
46 フィラープレート
48 ボルト
50 上側鋼板部
52 固定プレート
54 下側鋼板部
56 連結鋼板部
58 台座
60 基部プレート
62 アンカーボルト
64 リブレート
66 丸鋼
68 長孔