(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168146
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】バルブおよびこのバルブを備えた緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/34 20060101AFI20241128BHJP
F16F 9/44 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F16F9/34
F16F9/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084582
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 理志
(72)【発明者】
【氏名】石川 正典
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 脩史
(72)【発明者】
【氏名】解 龍
(72)【発明者】
【氏名】吉田 洵也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大人
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA54
3J069DD26
3J069EE21
3J069EE43
3J069EE62
(57)【要約】
【課題】本発明は、パイロットバルブで発生した振動がメインバルブへ伝達されることを抑制した制御バルブを提供する。
【解決手段】本発明は緩衝器100に制御バルブ113を備える。制御バルブ113は、作動油の流量を制御するためのメインバルブ18と、メインバルブ18の背面側に配置される背圧室6の圧力を制御してメインバルブ18を開閉するためのパイロットバルブ19と、パイロットバルブ19と背圧室6とを連通する連通路5と、連通路5内の作動油によって伝達される圧力振動を抑制させる共振構造(分岐路41、共振室42)を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過する作動油の圧力を調整し減衰力を制御する制御バルブを備えた緩衝器において、
前記制御バルブは、
作動油の流量を制御するためのメインバルブと、前記メインバルブの背面側に配置される背圧室の圧力を制御して前記メインバルブを開閉するためのパイロットバルブと、前記パイロットバルブと前記背圧室とを連通する連通路と、前記連通路内の作動油によって伝達される圧力振動を抑制させる共振構造を備えることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
請求項1に記載の緩衝器において、
前記共振構造は、前記連通路から分岐する分岐路と、前記分岐路に接続し、前記分岐路を間に存在させて前記連通路とは反対側に広がる空間と、を備えることを特徴とする緩衝器。
【請求項3】
請求項1に記載の緩衝器において、
前記共振構造は、前記連通路から分岐する分岐路と、前記分岐路に接続し、前記分岐路の体積よりも大きな体積を有する空間と、で構成されるヘルムホルツ共鳴器であることを特徴とする緩衝器。
【請求項4】
請求項2に記載の緩衝器において、
前記空間は、前記背圧室側に開口する空洞と、前記空洞の開口を閉塞し且つ前記開口よりも断面積が小さい貫通孔を有する部材とによって形成され、
前記部材の前記貫通孔は前記分岐路の少なくとも一部を構成することを特徴とする緩衝器。
【請求項5】
請求項4に記載の緩衝器において、
前記分岐路は、略円形ディスクに曲線形状で形成された切り欠き部を、流路壁面を担うための他の略円形ディスクで閉塞して構成したことを特徴とする緩衝器。
【請求項6】
請求項4に記載の緩衝器において、
前記分岐路は、略円形ディスクを貫通した渦巻き形状の切り欠き部を、流路壁面を担うための他の略円形ディスクで閉塞して構成したことを特徴とする緩衝器。
【請求項7】
請求項4に記載の緩衝器において、
前記分岐路は、略円形の複数のディスクの重ね合わせで構成され、全てのディスクに位置合わせ用のキー溝を少なくとも一つ以上備えることを特徴とする緩衝器。
【請求項8】
請求項4に記載の緩衝器において、
前記分岐路を構成する複数のディスクの材質は、少なくとも金属と樹脂をそれぞれ1枚ずつ含むことを特徴とする緩衝器。
【請求項9】
請求項1に記載の緩衝器において、
ロッドに接続されたピストンを収容する内筒と、前記内筒の外周の配置された外筒と、前記外筒の外周に配置されたケースと、前記内筒と前記外筒の間に形成された接続流路と、前記外筒と前記ケースの間に形成されたリザーバー室とを備え、
前記制御バルブは、前記接続流路と前記リザーバー室を接続するように配置したことを特徴とする緩衝器。
【請求項10】
作動油の流量を制御するためのメインバルブと、前記メインバルブの背面側に配置される背圧室の圧力を制御して前記メインバルブを開閉するためのパイロットバルブと、前記パイロットバルブと前記背圧室とを連通する連通路と、を備えたバルブであって、
前記連通路内の作動油によって伝達される圧力振動を抑制させる共振構造を備えることを特徴とするバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインバルブとパイロットバルブとで構成されるバルブおよびこのバルブを備えた緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
減衰力を制御する緩衝器として、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、車両に搭載された緩衝器において、減衰力を能動的に制御することで、車両の安定性や乗り心地を向上させる構成が記載されている。この緩衝器は、内部の油圧回路中に減衰力変更器を備えることで、作動油の流れを制御し、減衰力を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における減衰力変更器は、パイロットバルブの開度によってパイロットバルブの上流側の圧力を変更し、連通路を通してその圧力をメインバルブの背圧室に伝達することで、メインバルブの開度を調節して作動油の流量が制御されることとなる。この減衰力変更器が緩衝器の油圧回路を構成する一部となっているため、作動油の流量制御によって緩衝器の減衰力が調節される仕組みとなっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、パイロットバルブとメインバルブが連通路によって接続されているだけであり、パイロットバルブで発生する可能性のある振動がメインバルブへ伝達し、異音が発生する可能性があった。特許文献1では、パイロットバルブからメインバルブへ伝達する振動を抑制する点については配慮されていなかった。
【0006】
本発明の目的は、パイロットバルブで発生した振動がメインバルブへ伝達されることを抑制したバルブおよびこのバルブを備えた緩衝器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、一つの態様として、通過する作動油の圧力を調整し減衰力を制御する制御バルブを備えた緩衝器において、前記制御バルブは、作動油の流量を制御するためのメインバルブと、前記メインバルブの背面側に配置される背圧室の圧力を制御して前記メインバルブを開閉するためのパイロットバルブと、前記パイロットバルブと前記背面室とを連通する連通路と、前記連通路内の作動油によって伝達される圧力振動を抑制させる共振構造を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パイロットバルブで発生した振動がメインバルブへ伝達されることを抑制したバルブおよびこのバルブを備えた緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例に係る緩衝器100の概略構成を示す断面図である。
【
図2】一般的な制御バルブ113’(比較例)の概略構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る制御バルブ113の概略構成を示す断面図である。
【
図4】
図3に示した分岐路ディスク43と、入口ディスク44と、連通路ディスク45の下面図である。
【
図5】パイロットボディ16を下方から見た斜視図である。
【
図7】パイロットバルブからメインバルブまでの、振動伝達に関するブロック線図である。
【
図8】ヘルムホルツ共鳴器による透過損失の一例と、パイロットバルブ19の振動周波数と、メインバルブ18の開閉動作の目標周波数の関係を示す図である。
【
図9】本発明の実施例2に係る制御バルブ113を構成する部品構成の一部を示す下面図である。
【
図10】本発明の実施例3に係る制御バルブ113を構成する部品構成の一部を示す下面図である。
【
図11】本発明の実施例4に係る消音器の他の構造例1を示す概略図である。
【
図12】本発明の実施例4に係る消音器の他の構造例2を示す概略図である。
【
図13】本発明の実施例4に係る消音器の他の構造例3を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。なお、以下に説明する構成はあくまで実施例に過ぎず、本発明に係る実施様態が、以下の具体的様態に限定されることを意図する趣旨ではない。
【0011】
本明細書では、添付図面の紙面上方向を「上」、紙面下方向を「下」と定義する。
【0012】
図1を用いて、本発明に係るバルブを緩衝器に適用した例について説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る緩衝器100の概略構成を示す断面図である。
【0013】
緩衝器100は、外郭を構成するケース115の一部からピストン111に接続されたロッド110が突出するように構成されている。ケース115の内部には、ピストン111を収容する内筒106と、内筒106の外周の配置された外筒107を備えている。ケース115は、外筒107の外周に配置されている。外筒107の一端(図中の上側)は開放されており、他端(図中の下側)が閉塞部107aによって閉塞されている。内筒106は、両端が開放され、一端(図中の上側)がケース115に接触して閉塞され、他端(図中の下側)が外筒107の閉塞部107aに接触して閉塞されている。
【0014】
内筒106の内部空間はピストン111によって仕切られ、ピストン111の下側に位置するピストン下室101と、ピストン111の上側に位置するピストン上室102が形成される。
【0015】
ピストン111には、ピストン下室101とピストン上室102とを連通するピストン流路111aが形成されており、ピストン流路111aには第1逆止弁112が備えられている。
【0016】
内筒106と外筒107の間には、作動油が収容された接続流路104が形成されている。内筒106には、ピストン上室102と接続流路104とを連通する連絡口103が形成されている。
【0017】
外筒107とケース115の間には、リザーバー室105が形成されている。外筒107の閉塞部107aには、リザーバー室105とピストン下室101とを連通する閉塞部流路107bが形成され、閉塞部流路107bには、第2逆止弁114が備えられている。
【0018】
また、本実施例の緩衝器100には、接続流路104とリザーバー室105とに接続される制御バルブ113(バルブ)が備えられている。
【0019】
緩衝器100は、自動車が段差を乗り越えてタイヤが下がるとき、ロッド110がケース115から引き抜かれる方向(図中上方向)に動作する。これを伸び側の動作と呼ぶ。伸び側の動作では、ロッド110に接続されたピストン111も図中上方向に移動するため、ピストン上室102の作動油が加圧される。したがって作動油は、連絡口103を通って接続流路104に排出され、制御バルブ113に導かれる。
【0020】
制御バルブ113では、コントローラ(図示せず)からの指示値に応じて制御バルブ113の開度が調整されることで作動油の通過時に生ずる圧力損失が調整され、緩衝器としての減衰力が調整される。制御バルブ113から流出する作動油はリザーバー室105に排出され、第2逆止弁114を通過してピストン下室101に導かれる。このとき、ピストン上室102で減少する体積よりも、ピストン下室101で増加する体積が大きくなるが、リザーバー室105にはガスが封入されているため、移動する作動油の不足分がガスの膨張によって補われる。
【0021】
緩衝器100は、自動車が段差を乗り上げるなどしてタイヤが持ち上がるとき、ロッド110がケース115内に押し込まれる。これを縮み側の動作と呼ぶ。縮み側の動作では、ピストン下室101内の作動油の圧力が上昇するので、ピストン下室101内の作動油は第1逆止弁112を通過してピストン上室102に流入する。このとき、ピストン上室102で増加する体積よりも、ピストン下室101で減少する体積が大きいので、余剰の作動油が連絡口103を通って接続流路104に排出され、制御バルブ113に導かれる。上述の伸び側と同様に、制御バルブ113において通過する作動油は、圧力が調整され、リザーバー室105に排出される。このとき、リザーバー室105の圧力はピストン下室101の圧力よりも低いために、リザーバー室105の作動油は第2逆止弁114を通過できないので、リザーバー室105内における作動油の増加分はリザーバー室105内に存在するガスの圧縮によって吸収される。
【0022】
図2を用いて、一般的な制御バルブ113’(比較例)について説明する。
図2は、一般的な制御バルブ113’(比較例)の概略構成を示す断面図である。本発明は制御バルブに特徴があり、後述する実施例1~4にて詳細を説明する。
【0023】
一般的な制御バルブ113’は、緩衝器100の減衰力を生じさせるための油圧回路の一部に組み込まれるものである。対象とする緩衝器は伸縮時に作動油が流動するが、本実施例では、伸び側、縮み側ともに作動油の流動方向が同一方向になるものを対象としているため、制御バルブ113’も内部の作動油の流動方向が一方向になるものを対象としている。図示した制御バルブ113’は略円筒形であり、一部の流路や構造を除き軸対称の形状となっている。以下の説明では、円筒形の中心軸に沿う方向D1を軸方向と呼び、軸方向D1に垂直な方向D2を径方向と呼ぶ。
【0024】
制御バルブ113’が減衰力を発生するための仕組みを以下に示す。制御バルブ入口1から流入する作動油は二手に分かれ、一つはメイン導入路2を経由してメイン上流室3に供給される。もう一方は、パイロットピン15の一部で構成される導入オリフィス15aを通過し、減圧されてパイロット上流室4に供給される。制御バルブ入口1とメイン導入路2は、接続流路104と接続されている。
【0025】
パイロットバルブ19は、パイロットボディ16の一部であるパイロット弁座16aとパイロット弁体17とで構成される。パイロットバルブ19はパイロット弁体17の上部に設置されたソレノイドやバネなど(図示せず)によって開閉力が制御される。パイロットバルブ19を通過した作動油はパイロット下流室7を経由して、出口であるメイン下流室8に導かれる。メイン下流室8はリザーバー室105と接続されている。
【0026】
パイロットバルブ19が閉方向に制御されるとパイロット上流室4の圧力が上昇し、パイロットバルブ19が開方向に制御されるとパイロット上流室4の圧力が下降する。パイロット上流室4(パイロットバルブ19)は連通路5を経由して背圧室6と連通されているため、パイロット上流室4と背圧室6の圧力が等しくなるように作動油が吸入、排出される。
【0027】
背圧室6は、ゴムシール13と金属製のディスク12とで構成されるメイン弁体14と、パイロットピン15と、パイロットボディ16と、で構成されている。背圧室6はメインバルブ18の背面側に配置される。パイロットバルブ19は、背圧室6の圧力を制御してメインバルブ18を開閉する。
【0028】
メインバルブ18は、メイン弁体14と、メイン弁体14を保持するパイロットピン15およびメインボディ11と、メインボディ11の一部であるメイン弁座11aと、で構成される。メインバルブ18は、作動油の流量を制御する。
【0029】
ディスク12は、その中心部に、パイロットピン15が挿通する開口(貫通穴)12bを有する。メイン弁体14は、開口(貫通穴)12bが形成されたディスク12の内周側部分をメインボディ11とパイロットピン15とで挟持されて、メインボディ11に保持されている。また
図2の比較例では、メイン弁座11aは、メインボディ11に一体に形成されることで、メインボディ11に保持されている。
【0030】
メイン弁体14の背圧室6側の受圧面積はメイン上流室3側の受圧面積よりも大きいため、パイロットバルブ19の開度が小さいときは、メイン弁体14はメイン上流室3側に押し付けられている。パイロットバルブ19の開度が大きいときは、パイロット上流室4の圧力が低下するため、背圧室6の圧力も低下する。これによりメイン弁体14の押し付け力が低下し、メイン弁体14が背圧室6側に移動し、メインバルブ18は開状態となる。メインバルブ18が開状態となることで、作動油はメインバルブ18を通ってメイン上流室3からメイン下流室8に流出する。
【0031】
メインバルブ18の開度はパイロットバルブ19の開度によって制御できるので、制御バルブ113’の流動抵抗を制御することで、制御バルブ113’を備える緩衝器100の減衰力を制御する仕組みとなっている。
【0032】
上述の制御バルブ113’では、メインバルブ18が開方向に動作すると背圧室6の体積が減少するため、背圧室6の作動油は連通路5を通ってパイロット上流室4に排出される。一方、メインバルブ18が閉方向に動作すると背圧室6の体積が増加するため、作動油がパイロット上流室4から連通路5を通って背圧室6に供給される。
【0033】
このように、メインバルブ18の開閉には連通路5を経由した作動油のスムーズな移動が重要であるために、連通路5の流路断面は広い方が好ましいが、パイロットバルブ19が何らかの原因によって振動した場合、連通路5の流路断面が広いほどその圧力変化が連通路5を経由して背圧室6に伝搬されやすくなるので、メインバルブ18が振動してしまう可能性が高くなる。メインバルブ18が予期しない振動を起こすと、異音の発生や減衰力異常を引き起こす可能性が有る。本発明に係る各実施例は、この振動の伝搬を抑制する構造を提供するものである。
【0034】
以下、本発明を適用した制御バルブ113の実施例について説明する。
【実施例0035】
図3および
図4を用いて、本発明の実施例1に係る制御バルブ113について説明する。
図3は、本発明の実施例1に係る制御バルブ113の概略構成を示す断面図である。
図4は、
図3に示した分岐路ディスク43と、入口ディスク44と、連通路ディスク45の下面図である。
図5は、パイロットボディ16を下方から見た斜視図である。なお、
図5では、パイロットボディ16を上下反転させ、一部の構成を省略して示している。
図2に示した比較例と共通する構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0036】
本実施例の制御バルブ113は、
図2の制御バルブ113’と比べて、分岐路ディスク43と、入口ディスク44と、連通路ディスク45を備えた点、およびパイロットボディ16に共振室42(空間)を備えた点が異なる。
【0037】
図5に示すように共振室42は、パイロットボディ16の周方向に渡って下方から上方に向かって掘り込まれた凹部(空洞)を備えている。また、共振室42は、底部42aを備えており、パイロットボディ16の上下方向において貫通していない。
【0038】
凹部(空洞)の背圧室6側の開口は、分岐路ディスク43で閉塞されている。分岐路ディスク43には、凹部(空洞)の背圧室6側の開口を閉じた状態で、開口よりも断面積が小さい貫通孔41bが形成されている。すなわち、共振室42(空間)は、背圧室6側に開口する凹部(空洞)と、凹部(空洞)の開口を閉塞し且つ凹部(空洞)よりも断面積が小さい貫通孔41bを有する分岐路ディスク43とによって形成されている。貫通孔41bは分岐路41の少なくとも一部を構成している。
【0039】
凹部(空洞)は、D1軸に対して軸対称の構造である。その他の構成は、
図2の制御バルブ113’と同様である。
【0040】
共振室42の開放側(下方側)は分岐路ディスク43で覆われ、分岐路ディスク43に形成した分岐路41と共振室42が連通する。上下方向と直交する方向における共振室42の断面積C1は、共振室42の入口と接続される部分の分岐路41(貫通孔)の断面積C2よりも大きくなっている(C1>C2)。また、共振室42の体積V1は、分岐路41の体積V2よりも大きくなっている(V1>V2)。
【0041】
分岐路ディスク43と、入口ディスク44と、連通路ディスク45には、それぞれその中心部に、パイロットピン15が挿通する開口(貫通穴)43b、44b、45bが形成されている。分岐路ディスク43と、入口ディスク44と、連通路ディスク45は、内周側部分をパイロットボディ16とパイロットピン15とで挟持されている。
【0042】
分岐路ディスク43には、分岐路ディスク43を貫通し、径方向に向かって伸びるように配置された分岐路41が形成されている。分岐路41は、上下方向が入口ディスク44とパイロットボディ16に挟まれることによって形成される。
【0043】
入口ディスク44には、入口ディスク44を貫通し、分岐路ディスク43の分岐路41と連通する分岐入口貫通孔41aが形成されている。分岐入口貫通孔41aは分岐路41の一部を構成している。
【0044】
連通路ディスク45には、連通路ディスク45を貫通し、開口(貫通穴)45bと連通すると共に開口(貫通穴)45bから径方向外側に向かって伸びた連通路5が形成されている。分岐路ディスク43に形成された分岐路41は、径方向内側が分岐入口貫通孔41aと連通し、径方向外側が共振室42と連通する。
【0045】
分岐路ディスク43、入口ディスク44、連通路ディスク45を積み重ねると、連通路5、分岐入口貫通孔41a、分岐路41が連通し、分岐入口貫通孔41a、分岐路41を通して共振室42と連通路5とが接続される。
【0046】
また、背圧室6は、メイン弁体14と、パイロットピン15と、パイロットボディ16と、連通路ディスク45と、で構成されている。
【0047】
作動油によって圧力振動が伝搬される可能性が有る連通路5に対し、分岐路41を通した共振室42を具備してヘルムホルツ共鳴器を構成することで、連通路5を通して伝搬する圧力振動の内、特定の周波数の圧力振動を抑制することができる。共振室42は、連通路5から分岐する分岐路41と、分岐路41に接続し、分岐路41を間に存在させて連通路5とは反対側に広がる空間となっている。本実施例では、分岐路41と共振室42とにより共振構造を構成している。
【0048】
ここで、ヘルムホルツ共鳴器について簡単に説明する。
図6は、ヘルムホルツ共鳴器の原理を示す図である。
【0049】
ボトル62の胴体63には、ネック64が接続されている。音速をvとし、ボトル62の胴体63の体積をV0、ネック64の断面積と長さをそれぞれS,Lとしたとき、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fHは、式(1)のようになる(引用元:ヘルムホルツ共鳴の仕組みと共鳴周波数の理論の簡単な証明 Yukkuri Machine Learning (laid-back-scientist.com))。
【0050】
【0051】
数1を参酌すると、抑制される周波数は、分岐路の断面積および長さと、共振室の体積と、空間を満たす作動油の音速とから計算できるので、抑制したい圧力伝搬の周波数に合わせてそれぞれの形状を決定すれば良い。
【0052】
また、パイロットバルブ19によるメインバルブ18の開閉で実現したい応答周波数は、伝達を抑制したいパイロットバルブ19の振動周波数よりも1桁程度小さい。ヘルムホルツ共鳴器では、抑制したい周波数の近傍を集中的に抑制することが可能であるため、伝達したい周波数が1桁近く離れていれば、その周波数では透過損失を十分小さくできるので、ヘルムホルツ共鳴器の設置によるパイロットバルブ19の応答特性の劣化は無視できるレベルになる。
【0053】
図7は、パイロットバルブからメインバルブまでの、振動伝達に関するブロック線図である。構造的にはヘルムホルツ共鳴器60は、連通路5から分岐した分岐路41と共振室42で構成されるが、振動の伝達は、ヘルムホルツ共鳴器60を挟みパイロットバルブ19とメインバルブ18が直列で接続された状態で表現される。
【0054】
ヘルムホルツ共鳴器60において、周波数fにおける透過損失T.L.は、分岐路41の長さをlb、分岐路41の半径をa、共振室42の体積をV、連通路5の流路断面積をSとすると、次式(2)により求められる。
【0055】
【0056】
ただし、fr、C0は、それぞれ次式(3)(4)により求められる。Cは音速である。
【0057】
【0058】
【0059】
(引用元:大中逸雄著、機械騒音の軽減について(その2)、日本舶用機関学会誌、第4巻、第4号、P.179(1969))
図8に、ヘルムホルツ共鳴器による透過損失の一例と、パイロットバルブ19の振動周波数と、メインバルブ18の開閉動作の目標周波数の関係を示す。このヘルムホルツ共鳴器60では、メインバルブ18の開閉周波数において損失がほとんど発生せず、パイロットバルブ19の振動周波数において大きな損失が発生することを確認できる。
【0060】
従来の構造であれば、圧力伝搬を抑制するために連通路5の流路断面積を小さくするか、もしくは、メインバルブ18の開閉の応答速度を向上させるために連通路5の流路断面積を大きくするかのどちらかを優先させる必要があった。
【0061】
本実施例の構造によれば、ヘルムホルツ共鳴器を構成する構造を制御バルブ113内に具備することで、連通路5の流路断面積を広げてメインバルブ18の開閉の応答速度を向上させることができ、また、連通路5を伝搬する圧力振動を抑制することができる。
本実施例におけるヘルムホルツ共鳴器の分岐路は、下から順に、連通路ディスク45と、入口ディスク46と、分岐路ディスク47と、出口ディスク48とを重ねることで構成される。これらのディスクは、略円形に形成されている。
連通路ディスク45と、入口ディスク46と、分岐路ディスク47と、出口ディスク48とは、それぞれその中心部に、パイロットピン15が挿通する開口(貫通穴)45b、46b、47b、48bを有する。連通路ディスク45と、入口ディスク46と、分岐路ディスク47と、出口ディスク48とは、内周側部分をパイロットボディ16とパイロットピン15とで挟持されている。
連通路ディスク45には、連通路ディスク45を貫通し、開口(貫通穴)45bと連通すると共に開口(貫通穴)45bから径方向外側に向かって伸びた連通路5が形成されている。
入口ディスク46には、入口ディスク46を貫通し、分岐路ディスク47の分岐路41と連通する分岐入口貫通孔41aが形成されている。分岐入口貫通孔41aは分岐路41の一部を構成している。
分岐路ディスク47には、分岐路ディスク47を貫通し、分岐路ディスク47の周方向に向かって渦巻き状に形成された切り欠き部41nが形成されている。そして、切り欠き部41nの上下方向を入口ディスク46と出口ディスク48で閉塞することにより、分岐路41が形成される。すなわち、入口ディスク46と出口ディスク48は、分岐路41の流路壁面を担っている。
出口ディスク48には、出口ディスク48を貫通し、分岐路41と連通する分岐出口貫通孔41cが形成されている。分岐出口貫通孔41cは分岐路41の一部を構成している。
連通路ディスク45、入口ディスク46、分岐路ディスク47、出口ディスク48を積み重ねると、連通路5、分岐入口貫通孔41a、分岐路41、分岐出口貫通孔41cが連通し、分岐入口貫通孔41a、分岐路41、分岐出口貫通孔41cを通して共振室42と連通路5とが接続される。
本実施例は、分岐路ディスク47に渦巻き状の分岐路41を形成したことを特徴としている。本実施例の渦巻き状の分岐路41は、実施例1の分岐路ディスク43に形成した分岐路41よりも流路長が長くなっている。ヘルムホルツ共鳴器によって伝搬を抑制される周波数は、分岐流路の長さによって調節することが可能である。本実施例によれば、連通路ディスク45と入口ディスク46の組合せの設置角度を変更することで分岐路41の有効長を変更できるので、パイロットバルブ19で発生数する振動周波数に応じた伝搬抑制を容易に実現できる。
また、入口ディスク46における分岐入口貫通孔41aを外周方向に延長することで、分岐路ディスク47における分岐路41の内周側から2列目以降に接続することも可能であり、この構造の選択的な併用によって、対応できる周波数の範囲をさらに拡大できる。
また、本実施例では出口ディスク48を設置しているが、これは共振室42と分岐路41を外周側で接続するためであり、これによって、分岐路ディスク47における分岐路41を外周側まで設置して流路量を延長することが可能になる。これに対し、分岐路ディスク47における分岐路41を共振室42の内周側で接続しても目的の伝搬抑制周波数が得られる場合であれば、出口ディスク48は不要となるので、その条件では出口ディスク48は必須の構成では無い。
さらに、分岐路41の流路断面積を大きくしつつ、同等の伝搬抑制周波数を実現するには、分岐路41を長くする必要がある。流路断面積は広いほど製作(加工)が容易であるため、分岐路ディスク47における分岐路41の長さは長い方が好ましい。