IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電力変換装置 図1
  • 特開-電力変換装置 図2
  • 特開-電力変換装置 図3
  • 特開-電力変換装置 図4
  • 特開-電力変換装置 図5
  • 特開-電力変換装置 図6
  • 特開-電力変換装置 図7
  • 特開-電力変換装置 図8
  • 特開-電力変換装置 図9
  • 特開-電力変換装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168163
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241128BHJP
【FI】
H02M7/48 R
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084604
(22)【出願日】2023-05-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 崇
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA11
5H770BA13
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770HA04Y
5H770HA05Y
5H770JA17Z
5H770KA01Z
(57)【要約】
【課題】送電線の抵抗が考慮された仮想同期発電機制御を行う電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、前記電力系統の所定位置の有効電力と、前記所定位置の無効電力に応じた値との差を出力する第1出力部と、前記有効電力の指令値と、前記差と、前記仮想同期発電機機能と、に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧の位相を生成する生成部と、を含む、電力変換装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、
系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、前記電力系統の所定位置の有効電力と、前記所定位置の無効電力に応じた値との差を出力する第1出力部と、
前記有効電力の指令値と、前記差と、前記仮想同期発電機機能と、に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧の位相を生成する生成部と、を含む、
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記所定位置の無効電力に応じた値は、前記所定位置の無効電力の所定周波数より大きい成分に対して所定の係数を乗じた値である、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記生成部は、
前記有効電力の指令値と前記差との差と、前記仮想同期発電機機能における慣性定数と、前記仮想同期発電機機能における制動定数と、に基づいて、前記出力電圧の周波数を出力する第2出力部と、
前記出力電圧の周波数を積分し、前記位相を出力する第3出力部と、
を有する、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置であって、
前記係数は、前記電力系統の抵抗を前記電力系統のリアクタンスで除した値である、
電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記無効電力の指令値と、前記所定位置の無効電力との差に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧振幅指令値を生成する無効電力制御部、
を更に含む、
電力変換装置。
【請求項6】
電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、
系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、前記所定位置の有効電力と、前記所定位置の無効電力に応じた値との第1の差を出力する第1出力部と、
前記有効電力の指令値と、前記無効電力の指令値に応じた値との第2の差を出力する第2出力部と、
前記第1の差と、前記第2の差と、前記仮想同期発電機機能と、に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧の位相を生成する生成部と、を含む、
電力変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電力変換装置であって、
前記所定位置の無効電力に応じた値は、前記所定位置の無効電力に対して所定の係数を乗じた値であり、
前記無効電力の指令値に応じた値は、前記無効電力の指令値に対して前記係数を乗じた値である、
電力変換装置。
【請求項8】
請求項6に記載の電力変換装置であって、
前記生成部は、
前記第1の差及び前記第2の差の差と、前記仮想同期発電機機能における慣性定数と、前記仮想同期発電機機能における制動定数と、に基づいて、前記出力電圧の周波数を出力する第3出力部と、
前記出力電圧の周波数を積分し、前記位相を出力する第4出力部と、
を有する、
電力変換装置。
【請求項9】
請求項7に記載の電力変換装置であって、
前記係数は、前記電力系統の抵抗を前記電力系統のリアクタンスで除した値である、
電力変換装置。
【請求項10】
請求項6に記載の電力変換装置であって、
前記無効電力の指令値と、前記所定位置の無効電力との差に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧振幅指令値を生成する無効電力制御部、
を更に含む、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統における再生可能エネルギーの増加に伴って電力変換装置(インバータ)の割合が増加しつつある。
【0003】
しかし、現在普及している電流制御型インバータでは慣性力をもたないため、さらなるインバータの割合増加によって周波数が変動しやすくなって系統が不安定になることが懸念されている。
【0004】
この問題の解決手段として、同期発電機のように振舞わせる、仮想同期発電機(VSG)制御を行うインバータの実用化が期待されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第713488号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、電力系統の送電線の抵抗が十分小さく無視できるとみなされ、送電線の抵抗が考慮されていない。
【0007】
そのため、電力系統の送電線の抵抗が大きくなると、インバータからの出力電圧がその目標値に対して無視できない程度に大きく変動する可能性がある。
【0008】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、送電線の抵抗が考慮された仮想同期発電機制御を行う電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための一の発明は、電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、前記電力系統の所定位置の有効電力と、前記所定位置の無効電力に応じた値との差を出力する第1出力部と、前記有効電力の指令値と、前記差と、前記仮想同期発電機機能と、に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧の位相を生成する生成部と、を含む、電力変換装置である。
【0010】
また、上記目的を達成するための他の発明は、電力系統に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、前記所定位置の有効電力と、前記所定位置の無効電力に応じた値との第1の差を出力する第1出力部と、前記有効電力の指令値と、前記無効電力の指令値に応じた値との第2の差を出力する第2出力部と、前記第1の差と、前記第2の差と、前記仮想同期発電機機能と、に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧の位相を生成する生成部と、を含む、電力変換装置である。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、送電線の抵抗が考慮された仮想同期発電機制御を行う電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電力変換装置2が設けられた電力系統1の一例を説明する図である。
図2】第1実施形態の制御装置20の機能ブロックを説明する図である。
図3】第1実施形態のインバータ出力電圧位相生成部21を説明する図である。
図4】第1実施形態の無効電力制御部22を説明する図である。
図5】数値シミュレーションの結果を示す図である。
図6】数値シミュレーションの結果を示す図である。
図7】数値シミュレーションの結果を示す図である。
図8】第2実施形態の制御装置50の機能ブロックを説明する図である。
図9】第2実施形態のインバータ出力電圧位相生成部51を説明する図である。
図10】変形例の無効電力制御部62を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。
【0015】
==実施形態==
<<電力変換装置2>>
図1は、電力系統1に連系した電力変換装置2を説明する図である。電力変換装置2は、電力系統1に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する装置である。
【0016】
連系中、負荷Gは抵抗R及びリアクタンスXを有する送電線10を介した電力系統1と、電力変換装置2tの双方から電力が供給される。遮断器3の設置点において、送電線10と電力変換装置2とが接続される。なお、負荷Gは、必ずしもなくてもよい。
【0017】
遮断器3と電力変換装置2との間に、測定部4が設置されている。測定部4は、設置点において、電力変換装置2からの出力である有効電力Pout、出力電圧vout(瞬時値)、出力電圧voutの周波数ωout、出力電圧の振幅Vout等を測定して電力変換装置2に入力される。
【0018】
あるいは、測定部4は、瞬時電圧vout及び瞬時電流ioutを測定して電力変換装置2に入力し、周波数ωout、有効電力Pout、及び連系点電圧振幅Voutを算出する。
【0019】
なお、連系点Nと測定部4の設置点との間の区間は十分に短く、この区間のインピーダンスは無視できることとする。そして、測定部4による測定値を、連系点Nにおける測定値とみなすこととする。
【0020】
なお、電力変換装置2と遮断器3との間のインピーダンス(リアクタンス)Xは十分小さいとする。
【0021】
<制御装置20>
以下では、先ず、制御装置20のハードウェア構成について説明し、次いで、制御装置20の機能ブロックについて説明する。
【0022】
・制御装置20のハードウェア構成
制御装置20は、DSP(Digital Signal Processor)200と、記憶装置201とを備える(図1)。
【0023】
[DSP200]
DSP200は、記憶装置201に記憶された所定のプログラムを実行することにより、制御装置20が有する様々な機能を実現する。
【0024】
[記憶装置201]
記憶装置201は、DSP200によって、実行または処理される各種データを格納する非一時的な(例えば不揮発性の)記憶装置を含む。
【0025】
記憶装置201は、更に、例えばRAM(Random-Access Memory)等(後述するメモリ36a)を有し、様々なプログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0026】
・制御装置20の機能ブロック
図2は、制御装置20の機能ブロックを説明する図である。制御装置20は、詳細は後述する電力変換部30が出力する電圧を制御する装置である。
【0027】
制御装置20には、インバータ出力電圧位相生成部21と、無効電力制御部22と、瞬時電圧指令生成部23と、PWMパルス生成部24とが実現される。
【0028】
[インバータ出力電圧位相生成部21]
図3は、インバータ出力電圧位相生成部21を説明する図である。インバータ出力電圧位相生成部21は、仮想同期発電機制御に基づいて、電力変換部30の出力電圧の位相θを生成する。
【0029】
具体的には、インバータ出力電圧位相生成部21は、電力変換装置2が電力系統1に出力する目標となる有効電力Prefと、電力系統1に実際に出力される有効電力Pout及び無効電力Qoutとに基づいてVSG周波数を生成する。
【0030】
そして、インバータ出力電圧位相生成部21は、VSG周波数に基づいて、VSG周波数を更新し、その積分値として位相θを生成する。
【0031】
ここで、目標となる電力Prefは、電力変換装置2の設計者、運用者等によって予め設定された値である。また、電力Poutは、図1及び図2の測定部4による測定値である。
【0032】
以下の説明では、インバータ出力電圧位相生成部21に実装する仮想同期発電機の慣性定数をMとし、制動定数をDとする。
【0033】
図3に示すように、インバータ出力電圧位相生成部21は、出力部21aと、生成部21bとを含む。
【0034】
・出力部21a
出力部21a(「第1出力部」に相当)は、電力系統1の所定位置の有効電力Poutと、所定位置の無効電力Qoutに応じた値との差Pout を出力する。
【0035】
ここで、「所定位置」とは、本実施形態では、測定部4の設置点である。また、詳細は後述するが、「所定位置の無効電力に応じた値」とは、本実施形態では、所定位置の無効電力Qoutの所定周波数より大きい成分に対して所定の係数αを乗じた値である。
【0036】
出力部21aは、ハイパスフィルタ21cと、乗算器21dと、加算器21eとを含む。
【0037】
ハイパスフィルタ21cは、無効電力の測定値Qoutに対し、所定周波数以下の成分を減衰させたQout を出力する。
【0038】
乗算器21dは、ハイパスフィルタ21cからの入力Qout に対し係数αを乗じた値を、加算器21eに出力する。
【0039】
上述した「所定の係数α」は、本実施形態では、電力系統1の抵抗Rを電力系統1のリアクタンスXで除した値である。
【0040】
【数1】
なお、係数αは、これに限らず、これに近い値の範囲で適宜選択してもよい。
【0041】
加算器21eは、有効電力Poutと、乗算器21dの出力(αQout )との差Pout を生成部21bに出力する。
【0042】
ここで、差Pout は、次式で表される。
【数2】
この式において、数式1の関係を用いた。
【0043】
・生成部21b
生成部21bは、有効電力の指令値Prefと、差Pout と、仮想同期発電機機能と、に基づいて、電力変換装置2の出力電圧の位相を生成する。
【0044】
生成部21bは、加算器21f,21g,21iと、乗算器21j,21kと、積分器21h,21lとを含む。
【0045】
加算器21fは、有効電力の指令値Prefから有効電力Poutを減じた値(Pref-Pout)を、加算器21gに出力する。
【0046】
加算器21gは、加算器21fからの入力値(Pref-Pout)に乗算器21j(後述)からの入力を加えた値を、積分器21hに出力する。
【0047】
積分器21hは、加算器21gからの入力に対して1/Mを乗じた(つまり、Mで除した)上で、初期値を与えた時刻から現在の時刻まで時間積分した結果を、乗算器21kに出力する。
【0048】
ここでの積分演算によって、得られた値は、電力変換装置2から出力される周波数ωを、電力系統1のノミナル周波数ωで単位化した値である。
【0049】
電力系統1のノミナル周波数ωは、例えば日本国内においては、東日本は50Hzに2πを乗じた値であり、西日本は60Hzに2πを乗じた値である。
【0050】
加算器21iは、1から積分器21hからの入力を減じた値を、乗算器21jに出力する。
なお、ここで加算器21iへの入力は、積分器21hからの入力に代えて、測定部4によって測定された連系点周波数ωoutをノミナル周波数ωで除した値としてもよい。
【0051】
乗算器21jは、加算器21iからの入力に対し、VSGの制動定数Dを乗じた値を、加算器21gに出力する。
【0052】
乗算器21kは、積分器21hからの入力に対して電力系統1のノミナル周波数ωを乗じた値を出力する。乗算器21kの出力値は、電力系統1に電力変換装置2の出力電圧に関する周波数である。
【0053】
積分器21lは、乗算器21kからの入力(出力電圧の周波数)を積分する。この演算によって、積分器21lは、電力変換装置2から出力される電圧の位相θを出力する。
【0054】
なお、本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部21において、加算器21gと、積分器21hと、加算器21iと、乗算器21jと、乗算器21kとは、「第2出力部」に相当する。
【0055】
つまり、「第2出力部」は、有効電力の指令値Prefと差Pout との差と、仮想同期発電機機能における慣性定数Mと、仮想同期発電機機能における制動定数Dと、に基づいて、出力電圧の周波数ωを出力する。また、積分器21lは、「第3出力部」に相当する。
【0056】
[無効電力制御部22]
図4は、無効電力制御部22を説明する図である。無効電力制御部22は、電力変換部30から出力される電圧の振幅を制御するためのインバータ出力電圧振幅指令値VINV(「出力電圧振幅指令値」に相当)を算出する。
【0057】
無効電力制御部22は無効電力の指令値Qrefと、無効電力の測定値Qoutとに基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値VINVを出力する。インバータ出力電圧振幅指令値VINVは、電力変換装置2から実際に出力される電圧の振幅に相当する。無効電力制御部22は、加算器22aと、振幅制御部22bとを含む。
【0058】
・加算器22a
加算器22aは、無効電力の指令値Qrefと、無効電力の測定値Qoutとが入力され、これらの差を振幅制御部22bに出力する。
【0059】
・振幅制御部22b
振幅制御部22bは、加算器22aの出力に基づいて、インバータ出力電圧振幅指令値VINVを生成する。
【0060】
このとき、振幅制御部22bは、測定部4の設置点において無効電力の測定値Qoutを無効電力の指令値Qrefに一致させるインバータ電圧振幅指令値VINVを生成する。
【0061】
[瞬時電圧指令生成部23]
図2に戻り、瞬時電圧指令生成部23は、電力変換装置2から出力される電圧に対する三相の各相の瞬時電圧指令値vINVを生成する。
【0062】
[PWMパルス生成部24]
PWMパルス生成部24は、例えば三角波で実現される搬送波と、基本波としての正弦波との交点を検出する。これによって、PWMパルス生成部24は、PWMパルスのデューティ比を決定し、決定したデューティ比を有するPWMパルス信号vPWMを生成する。
【0063】
PWMパルス信号VPWMは、電力変換部30に出力され、電力変換部30のインバータ回路が駆動される。
【0064】
[出力電圧の安定化]
本実施形態の電力変換装置2の制御装置20によれば、上述のインバータ出力電圧位相生成部21を有することにより、送電線10の抵抗Rが考慮され、有効電力Pout、無効電力Qout、出力電圧vout等を高精度で制御することができる。以下では、その理由を説明する。
【0065】
有効電力の測定値Pout及び無効電力の測定値Qoutを合わせた複素電力は、次式で表すことができる。
【数3】
【0066】
ここで、Voutは電力変換装置2の出力電圧voutの振幅、Vは電力系統1からの電圧vの振幅、δは出力電圧vout及び系統電圧vとの位相差である。
【0067】
ここで、平衡状態から位相差δの微小な変動Δδ及び振幅Voutの微小な変動ΔVoutが生じた場合を考える。この場合、インバータ出力電圧位相の変動Δθは位相差の変動Δδに等しくなるとみなしてよいので、数式3から、有効電力Poutの変動ΔPout及び無効電力の変動ΔQoutは、次式で表すことができる。
【0068】
【数4】
ここで、変動Δθ及び変動ΔVoutの二次以上の寄与は無視した。
【0069】
更に、有効電力Poutの変動ΔPout及び無効電力の変動ΔQoutが生じた場合を考える。この場合、数式4から、変動Δθ及び変動ΔVoutは、次式で表すことができる。
【0070】
【数5】
【0071】
先ず、数式4からわかるように、位相差δの変動Δδ=Δθが生じると、有効電力Poutのみならず、無効電力Qoutの変動も生じ得る。これは、送電線10の抵抗Rの影響により、α(=R/X)が0(零)でない値を取り得るためである。
【0072】
更に、数式5からわかるように、有効電力Poutのみならず、無効電力の変動ΔQoutが生じると、位相差δの変動Δδ=Δθが生じ得る。これについても、送電線10の抵抗Rの影響により、α(=R/X)が0(零)でない値を取り得るためである。
【0073】
以上のことから、出力電圧voutの位相θの制御においては、無効電力の変動ΔQoutに起因する位相差δの変動Δδ=Δθを考慮する必要がある。
【0074】
そのため、本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部21おいては、有効電力の測定値Poutのみならず、無効電力の測定値Qoutもフィードバックされ、位相θが生成される(図3)。
【0075】
前述のように、出力部21aからは、数式2に示した差Pout が出力される。ここで、差Pout の変動ΔPout は、次式で表わされる。
【数6】
ここで、数式1を用いた。
【0076】
数式6に示した変動ΔPout は、無効電力の所定周波数より大きい成分Qout において、数式5に示した変動Δθに比例する値である。
【0077】
本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部21によれば、差Pout が有効電力の指令値Prefとなるように制御される。従って、差Pout の変動ΔPout 、引いては変動Δθが、0(零)に抑えられるように制御される。
【0078】
以上のことから、本実施形態の電力変換装置2によれば、上述のインバータ出力電圧位相生成部21を有することにより、送電線10の抵抗Rが考慮され、有効電力Pout、無効電力Qout、出力電圧vout等を安定して制御することができる。
【0079】
<電力変換部30>
電力変換部30は、直流電源と、複数のスイッチング素子を含むインバータ回路(図示せず)とを有する。インバータ回路は、直流電源からの直流電圧を交流電圧に変換し、電力系統1に出力する。
【0080】
このとき、インバータ回路は、PWMパルス生成部24からの出力であるPWMパルス信号vPWMに基づいて生成された電圧を出力する。
【0081】
なお、図3の位相θは、「仮想同期発電機機能における位相」とも称し、図4の電圧振幅指令値VINVは、「仮想同期発電機機能におけるインバータ出力電圧振幅指令値」とも称する。
【0082】
<<数値シミュレーションの結果>>
図5図7は、数値シミュレーションの結果を示す図である。図5図7ではそれぞれ、従来の電力変換装置及び本実施形態の電力変換装置2を想定した数値シミュレーションの結果を比較している。
【0083】
図5図7はそれぞれ、送電線10の抵抗Rのみを変えたシミュレーションの結果である。それぞれの図に示したシミュレーションにおいて、送電線10のリアクタンスXは0.1[pu]とした。また、有効電力の指令値Prefは0.8[pu]、無効電力の指令値Qrefは0.5[pu]とした。
【0084】
図5は、送電線10の抵抗Rが0.01[pu]の場合の結果を示している。図5(a)~(c)は従来の電力変換装置、図5(d)~(f)は本実施形態の電力変換装置2を想定した結果である。
【0085】
図5において、(a)及び(d)は有効電力及び無効電力、(b)及び(e)は出力電圧の振幅Vout、(c)及び(f)は出力電圧の周波数ωを示している。
【0086】
図5に示したシミュレーションで想定した抵抗R(0.01[pu])の場合、従来の電力変換装置も本実施形態の電力変換装置2も結果はほぼ同じとなった。つまり、抵抗Rが0.01[pu]程度の場合であれば、これを無視しても問題は生じない。
【0087】
図6は、送電線10の抵抗が0.05[pu]の場合の結果を示している。つまり、この結果は、図5に示したシミュレーションで想定した抵抗よりも大きい抵抗を想定した場合の結果である。図6(a)~(f)は、図5(a)~(f)に対応する結果である。
【0088】
図6に示すシミュレーション結果によると、従来の電力変換装置では0.5[sec]以前の時刻で有効電力Poutの振動が発現している。一方、本実施形態の電力変換装置2では、従来に比べて有効電力Poutの振動は微弱である。
【0089】
有効電力Pout以外については、従来も本実施形態もほぼ同じとなった。つまり、抵抗Rが0.05[pu]程度の場合であっても、これを無視しても問題はほぼ生じない。
【0090】
図7は、送電線10の抵抗が0.1[pu]の場合の結果を示している。つまり、この結果は、図6に示したシミュレーションで想定した抵抗よりも大きい抵抗を想定した場合の結果である。図7(a)~(f)は、図5(a)~(f)に対応する結果である。
【0091】
図7に示すシミュレーション結果によると、従来の電力変換装置では有効電力、無効電力出力電圧の振幅及び位相の全てにおいて、顕著な振動が発現している(図7(a)~(c))。従って、送電線10の抵抗が0.1[pu]程度の場合はこれを無視することはできない。
【0092】
一方、本実施形態の電力変換装置2では、有効電力に振動が発現しているが、従来に比べれば微弱である(図7(d)~(f))。有効電力Pout以外については、顕著な振動は発現しない。
【0093】
以上の結果から、本実施形態の電力変換装置2によれば、送電線10の抵抗を考慮することにより、電力変換装置2からの出力を安定して制御することができる。
【0094】
==第2実施形態==
図8は、本実施形態の電力変換装置5の制御装置50の機能ブロックを説明する図である。本実施形態の電力変換装置5は、第1実施形態(図2)と比べると、インバータ出力電圧位相生成部51の構成が異なっている。
【0095】
[インバータ出力電圧位相生成部51]
図9は、本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部51を説明する図である。本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部51は、出力部51aと、出力部51dと、生成部21bとを含む。なお、生成部21bは第1実施形態と同じであるため、以下で説明は省略する。
【0096】
・出力部51a
出力部51aは、有効電力の指令値Prefと、無効電力の指令値Qrefに応じた値との差Pref (「第2の差」に相当)を出力する。出力部51aは、乗算器51bと、加算器51cとを含む。
【0097】
乗算器51bは、無効電力の指令値Qrefに対し係数αを乗じた値を、加算器51cに出力する。本実施形態においても、係数αは第1実施形態と同じ(数式1)である。
【0098】
加算器51cは、有効電力の指令値Prefと、乗算器51bの出力(αQref)との差Pref を生成部21bに出力する。
【0099】
出力部51dは、所定位置の有効電力Poutと、所定位置の無効電力Qoutに応じた値との差Pout (「第1の差」に相当)を出力する。
【0100】
出力部51dは、乗算器21dと、加算器21eとを含む。本実施形態の出力部51dは、第1実施形態の出力部21a(図3)に対し、ハイパスフィルタ21cを省略したものに相当する。
【0101】
従って、本実施形態の出力部51dの加算器21eは、有効電力の測定値Poutと、乗算器51bの出力(αQout)との差Pout を生成部21bに出力する。
【0102】
本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部51の構成であっても、差Pout が有効電力の指令値Prefとなるように制御される。従って、変動ΔPout 、引いては、数式5より変動Δθも0(零)に抑えられるように制御される。
【0103】
以上のことから、本実施形態の電力変換装置5によれば、上述のインバータ出力電圧位相生成部51を有することにより、送電線10の抵抗Rが考慮され、有効電力Pout、無効電力Qout、出力電圧vout等を安定して制御することができる。
【0104】
なお、本実施形態の出力部51aは「第1出力部」に相当し、本実施形態の出力部51dは「第2出力部」に相当する。
【0105】
なお、本実施形態のインバータ出力電圧位相生成部51において、積分器21hと、乗算器21kとは、「第3出力部」に相当する。また、積分器21lは、「第4出力部」に相当する。
【0106】
==変形例==
変形例の電力変換装置について説明する。図10は、本変形例の無効電力制御部62を説明する図である。
【0107】
本変形例の無効電力制御部62は、実施形態の無効電力制御部22と比べると、振幅制御部62aを更に含む点で異なっている。
【0108】
振幅制御部62aは、振幅制御部22bからの入力であるインバータ電圧振幅指令値VINVと、出力電圧の振幅の測定値Voutとに基づいて、補正されたインバータ電圧振幅指令値VINV を瞬時電圧指令生成部23に出力する。
【0109】
振幅制御部62aは、電力変換装置から測定部4までのインピーダンスXを考慮し、測定部4の設置点において、出力電圧Voutがインバータ電圧振幅指令値VINVに一致するように、補正されたインバータ電圧振幅指令値VINV を生成して出力する。
【0110】
==まとめ==
以上、第1実施形態の電力変換装置2は、電力系統1に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、系統連系中における所定位置の有効電力Poutと無効電力Qoutを計測し、電力系統1の所定位置の有効電力Poutと、所定位置の無効電力Qoutに応じた値との差Pout を出力する出力部21aと、有効電力の指令値Prefと、差Pout と、仮想同期発電機機能と、に基づいて、電力変換装置2の出力電圧の位相を生成する生成部21bと、を含む。
【0111】
このような構成によれば、送電線10の抵抗を考慮した有効電力及び無効電力の制御をすることができる。これによって、出力電圧の位相の変動Δθを介した有効電力及び無効電力の干渉を抑制することができる。従って、電力変換装置2からの出力を安定して制御することができる。
【0112】
また、電力変換装置2において、所定位置の無効電力に応じた値は、所定位置の無効電力の所定周波数より大きい成分に対して所定の係数を乗じた値である。このような構成によれば、有効電力を単独でも制御することが可能になる。従って、電力変換装置2からの出力を更に安定して制御することができる。
【0113】
また、電力変換装置2において、生成部21bは、有効電力の指令値Prefと差Pout との差と、仮想同期発電機機能における慣性定数と、仮想同期発電機機能における制動定数と、に基づいて、出力電圧の周波数を出力する第2出力部と、出力電圧の周波数を積分し、位相を出力する第3出力部と、を有する。このような構成によれば、電力変換装置2からの出力を更に安定して制御することができる。
【0114】
また、電力変換装置2において、係数は、電力系統1の抵抗を電力系統1のリアクタンスで除した値である。このような構成によれば、位相差δの変動Δδ=Δθの一次の寄与を相殺することができる。
【0115】
また、電力変換装置は、無効電力の指令値Qrefと、所定位置の無効電力Qoutとの差に基づいて、電力変換装置2の出力電圧振幅指令値を生成する無効電力制御部22、を更に含む。このよう構成によれば、出力電圧の振幅を安定かつ高精度で制御することができる。
【0116】
第2実施形態の電力変換装置5は、電力系統1に連系可能であり、仮想同期発電機機能を有する電力変換装置であって、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、系統連系中における所定位置の有効電力と無効電力を計測し、所定位置の有効電力Poutと、所定位置の無効電力Qoutに応じた値との差Pout を出力する出力部51dと、有効電力の指令値Prefと、無効電力の指令値Qrefに応じた値との差Pref を出力する出力部51aと、差Pout と、第2の差Pref と、仮想同期発電機機能と、に基づいて、電力変換装置5の出力電圧の位相を生成する生成部21bと、を含む。
【0117】
このような構成によれば、送電線10の抵抗を考慮した有効電力及び無効電力の制御をすることができる。これによって、出力電圧の位相の変動Δθを介した有効電力及び無効電力の干渉を抑制することができる。従って、電力変換装置5からの出力を安定して制御することができる。
【0118】
また、電力変換装置5において、所定位置の無効電力に応じた値は、所定位置の無効電力に対して所定の係数を乗じた値であり、無効電力の指令値に応じた値は、無効電力の指令値に対して係数を乗じた値である。このような構成によれば、有効電力を単独でも制御することが可能になる。従って、電力変換装置5からの出力を更に安定して制御することができる。
【0119】
また、電力変換装置5において、生成部21bは、差Pout 及び差Pref の差と、仮想同期発電機機能における慣性定数と、仮想同期発電機機能における制動定数と、に基づいて、出力電圧の周波数を出力する第3出力部と、出力電圧の周波数を積分し、位相を出力する第4出力部と、を有する。このような構成によれば、電力変換装置5からの出力を更に安定して制御することができる。
【0120】
また、電力変換装置5において、係数は、電力系統1の抵抗を電力系統1のリアクタンスで除した値である。このような構成によれば、位相差δの変動Δδ=Δθの一次の寄与を相殺することができる。
【0121】
また、電力変換装置5は、無効電力の指令値と、所定位置の無効電力との差に基づいて、電力変換装置5の出力電圧振幅指令値を生成する無効電力制御部22、を更に含む。このよう構成によれば、出力電圧の振幅を安定かつ高精度で制御することができる。
【0122】
上記実施形態は、発明の例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものでは
ない。上記の構成は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行
うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特
許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0123】
電力系統 1
送電線 10
遮断器 11
電力変換装置 2
制御装置 20
DSP 200
記憶装置 201
インバータ出力電圧位相生成部 21
出力部 21a
生成部 21b
ハイパスフィルタ 21c
乗算器 21d
加算器 21e
加算器 21f
加算器 21g
積分器 21h
加算器 21i
乗算器 21j
乗算器 21k
積分器 21l
無効電力制御部 22
加算器 22a
振幅制御部 22b
瞬時電圧指令生成部 23
PWMパルス生成部 24
電力変換部 30
遮断器 3
測定部 4
電力変換装置 5
制御装置 50
インバータ出力電圧位相生成部 51
出力部 51a
乗算器 51b
加算器 51c
出力部 51d
無効電力制御部 62
振幅制御部 62a
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
【特許文献1】特許第7134388号