IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両の制御装置 図1
  • 特開-車両の制御装置 図2
  • 特開-車両の制御装置 図3
  • 特開-車両の制御装置 図4
  • 特開-車両の制御装置 図5
  • 特開-車両の制御装置 図6
  • 特開-車両の制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168177
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241128BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241128BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084626
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 光磨
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC04
3D232CC08
3D232CC45
3D232DA03
3D232DA19
3D232DA24
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA98
3D232DB20
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD02
3D232DD05
3D232DD15
3D232EB08
3D232EC22
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】外乱が中点学習に及ぼす影響を抑制しながら、車両バランスの変更に対しては速やかに学習を実行し、操舵フィーリングを向上させる。
【解決手段】
舵角の中点位置θctrを学習する中点学習を実行する中点位置学習手段と、車両バランスの変更を検知する車両バランス変更検知手段と、を備える。車両バランスの変更を検知した場合は(S103)、車両バランスの変更に対する中点学習(第1中点学習)を、その検知前における中点学習(第2中点学習)よりも高い学習速度で実行する(S106)。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵角の中点位置を学習する中点学習を実行する中点位置学習手段と、
車両バランスの変更を検知する車両バランス変更検知手段と、を備え、
前記中点位置学習手段は、前記車両バランス変更検知手段により前記車両バランスの変更を検知した場合に、前記車両バランスの変更に対する前記中点学習を、その検知前における前記中点学習よりも高い学習速度で実行する、車両の制御装置。
【請求項2】
前記中点位置学習手段は、前記車両バランスの変更に対する前記中点学習において、一学習当たりの学習値の変化量を増大させるか、学習の頻度を増大させる、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両バランス変更検知手段は、前記車両バランスの変更として、前記車両の重量バランスの変更を検知する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両の走行状態に相関する状態パラメータが所定の範囲にある場合に、前記車両が直進走行中であると判定する直進走行判定手段をさらに備え、
前記中点位置学習手段は、前記直進走行判定手段により前記車両が直進走行中であると判定したことを条件に前記中点学習を実行し、
前記直進走行判定手段は、前記車両バランス変更検知手段により前記車両バランスの変更を検知した場合に、前記所定の範囲を検知前よりも拡大させる、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記直進走行判定手段は、前記車両バランスの変更に対する前記中点学習の開始後、前記中点学習における一学習当たりの学習値の変化量が所定の値よりも増大した場合に、前記所定の範囲を前記所定の値への到達前よりも縮小させる、請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記中点位置学習手段は、
前記車両バランスに応じた前記中点位置の学習初期値を有し、
前記車両バランスの変更を検知した場合に、変更後の前記車両バランスに応じた前記学習初期値から前記中点学習を開始する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記車両バランス変更検知手段は、車内に備わる座席のシートベルトの装着状況をもとに、前記中点位置の学習初期値を設定する、請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記中点位置学習手段は、
前記車両バランスの変更を検知した場合に、検知前における前記中点学習の最終値から前記中点学習を開始し、
変更後の前記車両バランスが変更前の前記車両バランスに近いときほど、前記中点学習を高い学習速度で実行する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記車両バランス変更検知手段は、前記車両バランスの変更を前記車両の停車時に検知する、請求項1から8のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
舵角の中点位置に生じた変化を学習し、中点位置を補正する車両の制御装置が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-240234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
舵角の中点位置は、車両の個体特性の違いや経年変化等によるほか、車両バランスに変更が生じることによっても変化する。
【0005】
車両の重量に関するバランス、つまり、重心位置の変更は、車内における乗員(運転者および同乗者を含む搭乗者)の配置変更を主な要因の一つとする。例えば、運転席および助手席に乗員が存在する場合と運転席およびその後方の後部席に乗員が存在する場合とでは、車両の重量バランスが相違する。その他、重量バランスの変更は、荷物が左右の一方に片寄った状態で積み込まれることなどによっても発生する。
【0006】
車両バランスの変更に対し、その影響を舵角の中点位置に速やかに反映させるには、中点位置に生じた変化を学習し、中点位置を補正する中点学習を実行する際の条件を緩やかに設定し、学習を促す必要がある。
【0007】
しかし、学習の実行条件を中点位置に生じた変化の要因を問わず一律に緩和したとすれば、横風等の外乱による一時的な中点位置の変化に対しても学習が敏感に応答することとなる。これにより、外乱の影響が中点位置に反映されてしまい、操舵フィーリングが却って悪化する事態が懸念される。
【0008】
このような実情に鑑み、本発明は、横風等の外乱が中点学習に及ぼす影響を抑制しながら、車両バランスの変更に対しては速やかに学習を実行し、操舵フィーリングを向上させることのできる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係る車両の制御装置は、舵角の中点位置を学習する中点学習を実行する中点位置学習手段と、車両バランスの変更を検知する車両バランス変更検知手段と、を備え、前記中点位置学習手段は、前記車両バランス変更検知手段により前記車両バランスの変更を検知した場合に、前記車両バランスの変更に対する前記中点学習を、その検知前における前記中点学習よりも高い学習速度で実行する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態によれば、車両バランスに変更が生じ、その変更を検知した場合に、車両バランスの変更に対する中点学習を実行するとともに、この場合の中点学習を検知前における中点学習よりも高い学習速度で実行する。これにより、車両自体のバランスの変更に対しては速やかに学習を実行して、その影響を舵角の中点位置に積極的に反映させ、操舵フィーリングの向上を図る一方、横風等の外乱については中点位置の学習に及ぼす影響を抑制し、操舵フィーリングが悪化する事態を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の構成を示す概略図である。
図2】EPSコントローラの内部構成を示す概略図である。
図3】中点位置学習制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
図4】第1中点学習処理の内容を示すフローチャートである。
図5】第2中点学習処理の内容を示すフローチャートである。
図6】シートベルトの装着状況に応じた車両バランスの評価方法を概念的に示す説明図である。
図7】中点位置学習制御による中点位置の学習値CLの変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(操舵制御システムの構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の操舵制御システムSの構成を示す概略図である。
【0014】
操舵制御システムSは、電動パワーステアリング装置1と、電動パワーステアリング装置1の動作を制御するコントローラ(以下「EPSコントローラ」という)101と、を備える。EPSコントローラ101は、本実施形態に係る「車両の制御装置」を構成する。
【0015】
本実施形態では、運転者により操作されるステアリングホイールと操作対象である車輪(つまり、操舵輪)とが機械的に接続され、連携動作可能に構成された車両を対象とする。このような車両において、ステアリングホイールに加えられた操作トルクは、ステアリングホイールから延びる操舵軸およびラック・ピニオン機構等の動力変換装置を介して左右の操舵輪に伝達される。電動パワーステアリング装置1は、電動モータを備え、運転者がステアリングホイールを介して行うステアリング操作を、電動モータにより補助する。具体的には、運転者によるステアリング操作に応じたアシストトルクを電動モータにより生じさせ、運転者が操舵軸に付与する操作トルクにこのアシストトルクを付加する。電動式のパワーステアリング装置1に限らず、油圧式のパワーステアリング装置を採用することも可能である。操舵制御システムSは、ステアリングホイールと操舵輪とが機械的に接続された関係になく、互いに分離された、いわゆるステアリングバイワイヤ方式のものであってもよい。
【0016】
操舵制御システムSは、舵角センサ201、車輪速センサ202、ヨーレートセンサ203および横加速度センサ204を備えるとともに、シートベルトリマインダスイッチ205を備える。
【0017】
舵角センサ201は、車両の舵角θstrとして、ステアリングホイールの回転位置を検出する。車輪速センサ202は、検出対象とする車輪の回転速度WSPを検出する。本実施形態では、左右一対の前輪(右前輪、左前輪)および左右一対の後輪(右後輪、左後輪)のそれぞれを検出対象とする。車輪速センサ202により検出される車輪速WSPをもとに、車両の走行速度(つまり、車速)VSPを検出することが可能である。ヨーレートセンサ203は、鉛直軸を中心とする車両の回転角速度(つまり、ヨーレート)Ryawを検出する。横加速度センサ204は、車両に対して横方向に働く加速度ACClを検出する。シートベルトリマインダスイッチ205は、シートベルトの装着または非装着に応じた信号を出力可能に構成され、シートベルトが設置された座席ごとに設けられている。これらの各種センサ201~204およびスイッチ205の出力信号は、EPSコントローラ101に入力される。EPSコントローラ101は、各種センサ情報の入力を受けると、車両の操舵制御に関わる所定の演算を実行し、その結果に応じた制御信号を電動パワーステアリング装置1に出力する。
【0018】
(EPSコントローラの内部構成)
図2は、EPSコントローラ101の内部構成を示す概略図である。
【0019】
EPSコントローラ101は、大別すると、車両バランス変更検知部111、直進/停車判定部112および中点位置学習部113と、を備える。本実施形態において、EPSコントローラ101は、電子制御ユニットとして構成され、中央演算ユニット(CPU)、ROMおよびRAM等の各種メモリユニット、入出力インターフェース等を備えるマイクロコントローラにより構成される。
【0020】
車両バランス変更検知部111は、車両バランスに変更が生じた場合に、これを検知する。車両バランスの変更は、車両の重量バランスの変更およびその他の要因により発生する。重量バランスの変更は、車内における乗員(運転者および同乗者を含む搭乗者)の配置変更により発生するほか、荷物が左右の一方に片寄った状態で積み込まれることなどによっても発生する。重量バランスの変更以外に車両バランスに変更を生じる要因として、タイヤの空気圧の不均衡やタイヤの種類、性能の不一致等を例示することが可能である。具体的には、一部の車輪でタイヤの空気圧が低下したり、一部の車輪に他とは異なる種類のタイヤ(例えば、テンパータイヤまたはテンポラリータイヤ)が取り付けられたりした場合に、車両バランスに変更が生じる。本実施形態では、乗員の配置変更による重量バランスの変更をシートベルトリマインダスイッチ205の出力信号をもとに検知する。
【0021】
直進/停車判定部112は、車両が直進走行中であるか、停車中であるかを判定する。具体的には、舵角センサ201、車輪速センサ202、ヨーレートセンサ203および横加速度センサ204の出力信号をもとに、舵角θstrが所定の値θ1以下であり、ヨーレートRyawが所定の値R1以下でありかつ横加速度ACClが所定の値A1以下である場合に、車両が直進走行中であると判定する。これら所定の値θ1、R1、A1は、車速VSPに応じて設定され、例えば、舵角θstrについては車速VSPが高いときほど小さな値に設定される。さらに、所定の値θ1、R1、A1は、車両バランスの変更に対する中点学習を行う場合とそれ以外の要因に対する中点学習を行う場合とで異なる値に設定され、車両バランスの変更に対する中点学習の際には、所定の値θ1、R1、A1を増加させ、直進走行中であるとの判定を促す設定に切り替える。車両が停車中であることは、車速VSPが所定の値V1以下であることをもって判定する。車速VSP、舵角θstr、ヨーレートRyawおよび横加速度ACClは、車両の走行状態に相関する状態パラメータである。
【0022】
中点位置学習部113は、中点位置に変化または現在の中点位置からのずれが生じた場合に、その変化を学習し、中点位置を補正する中点学習を実行する。中点位置の変化は、車両バランスの変更により生じるほか、道路カントや横風等の外乱によっても生じる。さらに、中点位置の変化は、車両の個体特性の違い(例えば、ステアリングホイールから操舵輪までの部品アライメントの相違)や部品劣化等の経年的な変化によっても生じる。本実施形態では、車両バランスの変更のほか、車両の個体特性の違いや経年変化等による変化を中点学習の対象とし、外乱による変化は、一時的または一過性のものであるとして、中点学習の対象としない。
【0023】
中点位置学習部113は、中点位置の変化が車両バランスの変更により生じた場合と車両バランスの変更以外の要因により生じた場合とで、中点位置を学習する速度を異ならせ、中点位置の変化が車両バランスの変更により生じた場合の中点学習を、車両バランスの変更以外の要因により生じた場合の中点学習よりも高い学習速度で実行する。本実施形態において、中点位置に変化を生じさせる「車両バランスの変更以外の要因」とは、車両の個体特性の違いや経年変化等である。
【0024】
中点位置学習部113は、第1学習部113aと第2学習部113bとを備え、車両バランスの変更により変化が生じた中点位置の学習を、第1学習部113aにより、比較的高い学習速度をもって速やかに実行する。他方で、車両バランスの変更以外の要因、つまり、車両の個体特性の違いや経年変化等により変化が生じた中点位置の学習を、第2学習部113bにより、第1学習部113aよりも低い学習速度をもって緩やかに、換言すれば、時間をかけて実行する。
【0025】
中点位置学習部113は、中点学習の結果として、中点位置の学習値CLを算出する。中点位置の初期値θ0にこの学習値CLを加算することにより、中点位置θctrを補正することが可能である(θctr=θ0+CL)。本実施形態では、中点位置の初期値θ0を0(ゼロ値)とする。仮に初期値θ0が0よりも大きく、出荷時の車両に中点位置θctrのズレがあるとしても、このズレは、車両の個体特性の違いによるものとして、第2学習部113bにより実行される中点学習により解消可能である。
【0026】
EPSコントローラ101は、舵角センサ201により検出された舵角θstrと中点位置θctrとの差分Δθ(=θstr-θctr)を算出するとともに、この差分Δθに所定のゲインGを乗算することによりアシストトルクTRQs(=G×Δθ)を算出する。そして、EPSコントローラ101は、電動パワーステアリング装置1に指令信号を出力し、電動モータによりアシストトルクTRQsを生じさせる。
【0027】
(EPSコントローラの動作)
以下に、EPSコントローラ101の動作について、フローチャートを参照して説明する。
【0028】
図3は、中点位置学習制御の全体的な流れを示すフローチャートである。ESPコントローラ101は、図3に示す手順による中点位置学習制御を所定の周期で繰り返し実行する。
【0029】
S101では、舵角センサ201、車輪速センサ202およびシートベルトリマインダスイッチ205等、各種センサおよびスイッチの出力情報を読み込む。
【0030】
S102では、車両が停車中であるか否かを判定する。停車中である場合は、S103へ進み、停車中でない、つまり、走行中である場合は、S105へ進む。
【0031】
S103では、車両バランスの変更を検知したか否かを判定する。車両バランスの変更を検知した場合は、S104へ進み、検知していない場合は、今回の制御を終了し、車両の発進まで待機する。車両バランスの変更は、シートベルトリマインダスイッチ205の出力信号をもとに検知する。ここで、シートベルトリマインダスイッチ205の出力信号に基づく変更の検知について、図6を参照して説明する。
【0032】
図6は、シートベルトの装着状況に応じた車両バランスの評価方法を概念的に示す説明図である。
【0033】
図6(a)は、紙面に対して上側を車両の前進方向とする前後2列5人乗りの座席配置を示す。前進方向を前にして第1列を前列、第2列を後列とする。このような配置において、第1列左側(1A)の座席には運転席が該当し、第1列右側(1C)の座席には助手席が該当する。本実施形態では、第1列中央(1B)には、着席可能な座席が設けられないものとする。第2列に並ぶ3つの座席(2A、2B、2C)には、左側後部席、中央後部席および右側後部席が夫々該当する。
【0034】
図6(b)は、車内における乗員の配置状況を指標する参照値i(i1~i7)を位置A~Cおよび人数Nに対応させて示したものである。本実施形態において、参照値iは、各位置A~Cにおける乗員の人数Nが左右の重量比に及ぼす影響度を示す。例えば、運転者のみが乗車している場合は、位置Aの人数N=1に対応させた参照値i1を読み出し、これを参照値iに設定する(i=i1)。運転者に加えて助手席にも乗員が存在する場合は、参照値i1および位置Cの人数N=1に対応させた参照値i6を読み出し、これらの合計値を参照値iに設定する(i=i1+i6)。各座席における乗員の存在についてはシートベルトリマインダスイッチ205の出力信号をもとに判定することが可能である。同様にして、位置AからCのそれぞれについて人数Nに応じた参照値i1~i7を読み出し、合計することで、車内全体での乗員の配置状況を指標する参照値iが得られ、概略の重量バランスを判定することが可能である。
【0035】
このように、本実施形態では、乗員に対するシートベルトの装着が完了している座席の数および配置をもとに、車両バランスを評価し、シートベルト装着済みの座席の数または配置に変更があった場合に、車両バランスに変更が生じたものとして、これを検知する。
【0036】
図3に戻り、S104では、フラグFRGを1に設定する。フラグFRGは、車両バランスの変更を検知した場合に、車両バランスの変更に対する中点学習(以下「第1中点学習」という)が実行中であることを示すためのものである。フラグFRGは、通常は0に設定され、車両バランスの変更を検知した後、第1中点学習が完了するまでの間、1に設定される。
【0037】
S105では、フラグFRGが1であるか否かを判定する。フラグFRGが1である場合は、第1中点学習を実行中であるとして、S106へ進み、1でない場合は、S108へ進む。
【0038】
S106では、第1中点学習を開始または継続して実行する。第1中点学習は、車両バランスの変更による中点位置θctrの変化に対する学習であり、第1学習条件による。第1中点学習は、第1学習部113aにより、図4のフローチャートに示す手順に従って実行される。
【0039】
S107では、フラグFRGが0であるか否かを判定する。フラグFRGが0である場合は、第1中点学習が完了したとして、S108へ進み、0でない場合は、完了していないとして、今回の制御を終了する。
【0040】
S108では、第2中点学習を再開または継続して実行する。第2中点学習は、車両バランスの変更以外の要因、具体的には、車両の個体特性の違いや経年変化等による中点位置θctrの変化に対する学習であり、第2学習条件による。第2中点学習は、第2学習部113bにより、図5のフローチャートに示す手順に従って実行される。
【0041】
図4は、第1中点学習処理の内容を示すフローチャートである。
【0042】
S201では、今回実行される第1中点学習の学習初期値(以下「今回初期値」という)CLiを設定する。本実施形態では、車両バランスに応じた学習初期値CLiが予め設定され、EPSコントローラ101のメモリユニットに記憶されている。EPSコントローラ101は、車両バランスの変更を検知した場合に、変更後の車両バランスに応じた学習初期値CLiをこのメモリユニットから読み出し、今回初期値CLiに設定する。
【0043】
S202では、現在設定されている学習値(以下「現在学習値」という)CL、つまり、直近の学習値を読み込むとともに、前回実行された第1中点学習における学習初期値(以下「前回初期値」という)CLin-1を読み込む。
【0044】
S203では、現在学習値CLと前回初期値CLin-1との差分を算出し、これを今回初期値CLiに加算することにより、学習値CLを更新する。S203による学習値CLの更新は、車両バランスの変更を検知するたびに一回、実施され、更新後の学習値CLから第1中点学習を開始する。つまり、本実施形態では、下式(1)による更新後の学習値CLが実質的な学習初期値となる。
CL=CLi+(CL-CLin-1) …(1)
【0045】
S204では、車両が直進走行中であるか否かを判定する。直進走行中である場合は、S205へ進み、直進走行中でない場合は、図3に示すフローチャートへ戻り、S107の処理を実行する。先に述べたように、第1中点学習の際には、直進判定用の閾値θ1、R1、A1を比較的大きな値に設定し、直進走行中であるとの判定を促すことにより、学習を促進する。閾値θ1、R1、A1は、第1学習条件を規定する。
【0046】
S205では、舵角センサ201の検出値から算出される実際の中点位置θctr’と、学習による計算上の中点位置θctrと、が充分に近いか否かを判定する。本実施形態では、中点位置の初期値θ0を0(ゼロ値)としているため、計算上の中点位置θctrは、学習値CLに等しい(θctr=CL)。実際の中点位置θctr’と学習値CLとの差分を算出し、これが所定の値SL以下である場合は、S207へ進み、所定の値SLよりも大きい場合は、車両バランスの変更に対する更なる学習が必要であるとして、S206へ進む。実際の中点位置θctr’は、舵角センサ201により検出される舵角θstrの平均値(例えば、時間または距離に応じた移動平均値)として算出可能である。
【0047】
S206では、実際の中点位置θctr’と学習値CLとの差分に所定の第1学習係数Kc1を乗算するとともに、現在学習値CLにその積を加算することで、学習値CLを更新する。これにより、実際の中点位置θctr’と学習値CLとの差分が徐々に解消され、学習値CLが実際の中点位置θctr’に近付く。第1学習係数Kc1は、直進判定用の閾値θ1、R1、A1とともに第1学習条件を規定するものであり、後に述べる第2学習係数Kc2よりも大きい。
CL=CL+Kc1×(θctr’-CL) …(2)
【0048】
S207では、第1中点学習が安定したか否かを判定する。第1中点学習の安定は、S206により算出される学習値の変化量ΔCL(=Kc1×(θctr’-CL))、つまり、一学習当たりの学習値の変化量ΔCLが所定の値以下にまで減少したことにより判定する。第1中点学習が安定した場合は、S208へ進み、安定していない場合は、図3に示すフローチャートへ戻り、S107の処理を実行する。
【0049】
S208では、今回検出された車両バランスの変更に対する中点学習(第1中点学習)が完了したとして、フラグFRGを0に設定する。
【0050】
図5は、第2中点学習処理の内容を示すフローチャートである。
【0051】
S301では、車両が直進走行中であるか否かを判定する。直進走行中である場合は、S302へ進み、直進走行中でない場合は、図3に示すフローチャートへ戻り、今回の制御を終了する。先に述べたように、第2中点学習の際には、直進判定用の閾値θ1、R1、A1を第1中点学習よりも小さな値に設定し、直進走行中であるとの判定を制限することにより、学習を抑制する。閾値θ1、R1、A1は、第2学習条件を規定する。
【0052】
S302では、S205と同様に、舵角センサ201の検出値から算出される実際の中点位置θctr’と、学習による計算上の中点位置θctr(=CL)と、が充分に近いか否かを判定する。実際の中点位置θctr’と学習値CLとの差分が所定の値SL以下である場合は、今回の制御を終了し、所定の値SLよりも大きい場合は、車両バランスの変更以外の要因に対する学習のため、S303へ進む。
【0053】
S303では、実際の中点位置θctr’と学習値CLとの差分に所定の第2学習係数Kc2を乗算するとともに、現在学習値CLにその積を加算することで、学習値CLを更新する。第2学習係数Kc2は、第2学習条件を規定するものであり、先に述べた第1学習係数Kc1よりも小さい。このような条件により、第2中点学習は、第1中点学習よりも低い学習速度で、時間をかけて進行する。
CL=CL+Kc2×(θctr’-CL) …(3)
【0054】
(作用および効果の説明)
車両バランスに変更が生じると、その影響により舵角の中点位置θctrが変化する。そこで、車両バランスの変更を検知した場合に、中点学習を実行し、舵角の中点位置θctrに生じた変化を補償する。
【0055】
車両バランスの変更に対する中点学習(第1中点学習)は、その検知前における中点学習、つまり、車両バランスの変更以外の要因に対する中点学習(第2中点学習)よりも高い学習速度で実行する。本実施形態において、学習速度の調整は、直進判定用の閾値θ1、R1、A1および学習係数Kc1、Kc2の設定による。閾値θ1、R1、A1の設定により、中点学習の頻度を調整可能であり、学習係数Kc1、Kc2の設定により、一学習当たりの学習値の変化量を調整可能である。
【0056】
具体的には、閾値θ1、R1、A1を増大させることで、中点学習の頻度を増大させることができ、学習係数Kc1、Kc2を増大させることで、一学習当たりの学習値の変化量を増大させることができる。いずれによっても中点学習を促進する実質的な効果を得ることが可能である。
【0057】
車両バランスの変更に対する第1中点学習では、それ以外の要因に対する第2中点学習よりも閾値θ1、R1、A1および学習係数Kc1を大きな値に設定することで、車両自体のバランスの変更(重量の不均衡のほか、タイヤの空気圧の不均衡やタイヤの種類、性能の不一致等による)に対しては速やかな学習を促し、舵角の中点位置θctrにその影響を積極的に反映させることで、操舵フィーリングの向上を図ることが可能となる。
【0058】
他方で、道路カントや横風等の外乱については中点学習に及ぼす影響を抑制し、外乱の影響が舵角の中点位置θctrに反映されることにより操舵フィーリングが悪化する事態を抑制することが可能となる。
【0059】
図7は、中点位置学習制御による中点位置の学習値CLの変化を示すタイムチャートである。
【0060】
図7中、時刻t0に車両バランスの変更を検知したものとする。車両バランスの変更は、車両の停車中に検知する。
【0061】
車両バランスの変更を検知した後、時刻t11に車両が直進走行中であると判定すると、第1中点学習を開始するべく、学習値CLを現在学習値CL(=CL1)から更新する。車両バランスの変更を検知した後の第1回目の学習値CLの更新は、学習初期値CLi(=CLi)の設定によるものであり、上式(1)による。車両バランスに変更がなく、これを検知していない場合は、検知前における中点学習、つまり、第2中点学習を継続する。換言すれば、車両バランスの変更を検知していない場合の中点学習は、前回までの中点学習の引き継ぎである。
【0062】
更新後の学習値CLが実際の舵角の中点位置θctr’から遠く、両者の差分(=θctr’-CL)が閾値SLよりも大きい場合は、車両が直進走行中であることを条件に第1中点学習を継続する。具体的には、上式(2)により差分に応じた学習値の変化量ΔCLaを算出し、これを学習値CLに順次加算することにより、学習値CLを更新する。差分に基づく学習値CLの更新は、車両が引き続き直進走行中である限り、周期T1ごとに実行する。学習値CLの更新周期T1は、中点位置学習制御の実行周期(図3に示す制御の実行周期)と同一であってもよいし、異なってもよい。例えば、更新周期T1は、中点位置学習制御の実行ルーチンよりも長い周期に設定することが可能である。
【0063】
学習値CLが実際の中点位置θctr’に近付くのに伴って学習値の変化量ΔCLaが減少し、所定の値に到達すると(時刻t1n)、第1中点学習が安定したとしてこれを終了し、その時点での学習値CL(CL2=A+CLa)をもって第2中点学習を開始または再開する。
A=CLi+(CL-CLin-1) …(4.1)
CLa=Σ(Kc1×(θctr’-CL)) …(4.2)
【0064】
ここで、第2中点学習は、車両の個体特性の違いや経年変化等、車両バランスの変更とは異なる要因に対する中点位置の変化を補償するものであり、低い学習速度をもって時間をかけて実行する。具体的には、第1中点学習よりも学習値CLの更新周期T2を延長し、学習の頻度を低下させるとともに、一学習当たりの学習値の変化量ΔCLbを減少させる。更新周期T2の延長は、閾値θ1、R1、A1の減少により、車両が直進走行中であるとの判定を制限することによるほか、中点位置学習制御の実行周期とは別個に更新周期T2を設定可能とし、第1中点学習における更新周期T1よりも長い周期として設定することによっても可能である。
【0065】
このように、車両バランスの変更に対する中点学習において、一学習当たりの学習値の変化量を増大させるか、学習の頻度を増大させることで、車両バランスの変更に対する中点学習の学習速度を容易に調整可能とし、第1中点学習において第2中点学習よりも高い学習速度を実現することが可能となる。
【0066】
舵角の中点位置θctrに変化が生じたことは、車両の重量バランスの変更により適切に検知することが可能であり、中点学習を通じて操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0067】
ここで、重量バランスの変更による中点位置θctrの変化は、道路カントや横風等の外乱による変化のように一時的なものでも一過性のものでもないため、学習速度を高め、時間をかけずに速やかに学習したとしても、尚早な学習として操舵フィーリングの悪化を招く性質のものではない。
【0068】
車両が直進走行中であることを条件に中点学習を実行するとともに、車両バランスの変更を検知した場合に、直進判定用の閾値θ1、R1、A1を増大させ、直進判定の条件を緩和することで、車両バランスの変更に対しては中点学習の実行を促進し、その影響を舵角の中点位置に速やかに反映させる一方、車両バランスの変更以外の要因に対しては中点学習の実行を抑制し、外乱の影響が舵角の中点位置に反映されにくくすることが可能となる。
【0069】
中点学習の開始後、一学習当たりの学習値の変化量ΔCL(ΔCLa)が所定の値以下に減少したことをもって学習が安定したことを判定し、第1中点学習に際して増大させた閾値θ1、R1、A1を再度減少させることで、中点学習が緩やかな条件のもとで不要に継続されることにより、外乱等による一時的な中点位置の変化が学習に影響を及ぼす事態を回避することが可能となる。
【0070】
ここで、中点学習の開始後、一学習当たりの学習値の変化量ΔCL(ΔCLa)が過度に増大した場合に、閾値θ1、R1、A1を第1中点学習に際して増大させた値よりも減少させるようにしてもよく、これにより、外乱等の影響下にあっても直進判定の条件が引き続き緩和され、中点学習の実行が促進されることにより、外乱等の影響が中点位置に反映される事態を抑制することが可能となる。例えば、学習の安定化判定に用いる閾値(S207)よりも大きな所定の値を設定し、学習値の変化量ΔCLがこの所定の値よりも増大した場合に、変化量ΔCLが所定の値よりも大きな値を維持する間、閾値θ1、R1、A1を減少させる。
【0071】
車両バランスに応じた学習初期値CLiを予め設定し、車両バランスの変更を検知した場合に、変更後の車両バランスに応じた学習初期値A=CLi+(CL-CLin-1)から中点学習を開始することで、学習が完了するまでの期間の短縮を図ることが可能となる。
【0072】
シートベルトの装着状況により、乗員の増減や配置変更による車両バランスの変更を適切かつ簡易に検知することが可能となる。さらに、車両が道路カントにある場合や登坂路または降坂路にある場合等、車両が傾いている状態にあっても車両バランスを適切に評価し、車両バランスに変更が生じた場合にこれを適切に検知することが可能となる。
【0073】
車両自体のバランスの変更は、停車時に乗員の乗り降りや荷物の積み卸し等があった場合に生じるのが一般的である。よって、車両バランスの変更を車両の停車時に検知することで、車両バランスの変更の誤った検知およびこれに基づく中点位置の誤学習を防止するとともに、不要な判定による制御負荷の増大を回避することが可能となる。
【0074】
本実施形態では、車両バランスの変更を検知した後(時刻t0)、車両が直進走行中であるとの判定を待って学習値CLを現在学習値CL(=CL1)から更新した(時刻t11)。
【0075】
これに限らず、車両バランスの変更を検知した場合に、これをもって学習値CLを更新し、実際の中点位置θctr’と学習値CLとの差分に基づく学習については車両の直進走行中に行うようにしてもよい。これにより、学習初期値CLiによる学習値CLの更新を車両が発進するまでに完了し、車両が直進走行中であると判定するまでの間(時刻t0からt11までの間)において、中点位置の変化による違和感の解消を図ることが可能となる。さらに、車両バランスの変更が大きい場合に、学習による中点位置の補正が走行中に実施されることにより、アシストトルクに過度な変動が生じる事態を回避することが可能となる。
【0076】
さらに、本実施形態では、車両バランスの変更を検知した場合に、変更後の車両バランスに応じた学習初期値A=CLi+(CL-CLin-1)を設定し、学習初期値Aから中点学習を開始することとした。
【0077】
これに限らず、車両バランスの変更を検知したものの、検知の前後において車両バランスに大きな変更がなく、中点位置にも大きな変化がない場合は、検知前における中点学習の最終値(つまり、現在学習値CL)から中点学習を開始するとともに、変更後の車両バランスが変更前の車両バランスに近いときほど、高い学習速度をもって実行するようにしてもよい。これにより、多少の車両バランスの変化については速やかに学習を完了し、操舵フィーリングの早期安定を図ることが可能となる。
【0078】
操舵制御システムSは、運転者によるステアリング操作を補助する形態のものに限らず、車両の舵角を自動制御可能に構成された、いわゆる自動運転車に適用することも可能である。自動運転車において、目標とする経路に沿って車両を走行させる際に操舵の基準となる中点位置を把握する必要があるためであり、中点位置に生じた変化を学習し、中点位置を補正することで、自動運転による走行安定性の向上を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0079】
S…車両の操舵制御システム、1…電動パワーステアリング装置、101…EPSコントローラ、201…舵角センサ、202…車輪速センサ、203…ヨーレートセンサ、204…横加速度センサ、205…シートベルトリマインダスイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7