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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168179
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20241128BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20241128BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084631
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】西口 航平
(72)【発明者】
【氏名】田窪 孝康
(72)【発明者】
【氏名】磯▲崎▼ 紘哉
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA08
3J701CA13
3J701EA67
3J701GA01
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB13
3J701XB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高速回転時の遠心力の負荷によって、保持器が拡径し難く、しかも保持器の背面側から内側軌道部材の方に、より多くの潤滑油が流れる構造の玉軸受を提供する。
【解決手段】保持器24は、玉23の軸方向一方側に位置する円環基部30と、この円環基部30から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪32とを有し、各対の保持爪32の対向面と前記円環基部30の軸方向一端面に、玉23を軸方向及び径方向に抜けないように収容する球状凹面のポケット31を形成し、前記円環基部30の軸方向一方側の背面における、外径角部30aと内径角部30bに面取りを施した玉軸受20において、前記円環基部30の背面の外径角部30aに形成した面取りよりも、内径角部30bに形成した面取りをより大きな形状にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内側軌道溝が形成されている内側軌道部材と、内周に外側軌道溝が形成されている外側軌道部材と、内側軌道溝と外側軌道溝との間に介装される複数の玉と、この玉を周方向に等間隔に保持する保持器とを備え、前記保持器は、玉の軸方向一方側に位置する円環基部と、この円環基部から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪とを有し、各対の保持爪の対向面と前記円環基部の軸方向一端面に、玉を軸方向及び径方向に抜けないように収容する球状凹面のポケットを形成し、前記円環基部の軸方向一方側の背面における、外径角部と内径角部に面取りを施した玉軸受であって、前記円環基部の背面の外径角部に形成した面取りよりも、内径角部に形成した面取りをより大きく形成したことを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記内径角部に形成した面取りを円弧形状にしたことを特徴とする請求項1記載の玉軸受。
【請求項3】
前記円環基部の背面の内径角部に形成した面取りは、前記円環基部の背面の内径から径方向にaの位置と、前記円環基部の背面の内径から軸方向他方側に向かってa’の位置とを結ぶ形状で、a<a’の関係に設定されている請求項1又は2記載の玉軸受。
【請求項4】
前記aは前記円環基部の背面の内径から前記玉のピッチ円径までの長さh1よりも短い長さ、a<h1の関係にあり、a’は前記円環基部の背面から前記ポケットの底部までの長さL2よりも短い長さ、a’<L2の関係にある請求項3記載の玉軸受。
【請求項5】
前記円環基部の背面の外径角部の面取り形状が、前記円環基部の背面の外径から径方向の内径側に向かってbの位置と、前記円環基部の背面の外径から軸方向他方側に向かってb’の位置とを結び、bは前記円環基部の背面の外径から前記玉のピッチ円径までの長さh2よりも短い長さ、b<h2の関係にあり、b’は前記円環基部の背面から前記ポケットの底部までの長さL2よりも短い長さ、b’<L2の関係にあり、b’は前記内径側の面取りの円弧形状のa’よりも短い、b'≦a'の関係にある請求項1記載の玉軸受。
【請求項6】
前記円環基部の背面に平面部を有する請求項5記載の玉軸受。
【請求項7】
前記円環基部の背面の内径角部に形成した面取りの円弧形状は、円弧径の異なる複数の円弧を組み合わせた複合円弧からなる請求項2記載の玉軸受。
【請求項8】
前記円環基部の背面の内径角部に形成した面取りの円弧形状は、前記円環基部の背面と前記円環基部の内径にそれぞれ接線で交わる請求項2記載の玉軸受。
【請求項9】
前記保持器の内径に、前記円環基部の内径角部の円弧形状の面取りに繋がる凹みを付加したことを特徴とする請求項2記載の玉軸受。
【請求項10】
前記請求項1~9の玉軸受を使用し、保持器の背面側から給油を行う軸受装置。
【請求項11】
前記給油がグリース潤滑である請求項10記載の軸受装置。
【請求項12】
保持器の背面側から給油を行う給油ノズルの位置が前記円環基部の背面の内径側に位置する請求項10記載の軸受装置。
【請求項13】
dmN換算値70万以上で回転する請求項10記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動自動車の電動機など高速回転する用途に適応可能な玉軸受に関し、特に、高速回転時における保持器の径方向への変形を抑制しつつ、保持器背面から潤滑油の給油を行った際に、内側軌道溝への潤滑油の流入効果が高く、高速回転時の発熱を緩和することができる玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保持器背面近傍の潤滑油の流動性を向上させることにより、トルク増大及び潤滑油温度の上昇を抑制する玉軸受10が知られている(特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に開示されている玉軸受10は、グリース潤滑を行う密封型の玉軸受であり、図26に示すように、外周に内側軌道溝1aが形成されている内側軌道部材1と、内周に外側軌道溝2aが形成されている外側軌道部材2と、内側軌道溝1aと外側軌道溝2aとの間に介装される転動体としての複数の玉3と、玉3を円周方向に等間隔に保持する保持器4と、潤滑剤を充填する内部空間と外部とを仕切るシール部材5とを備えている。
【0004】
前記保持器4は、冠型保持器であり、図27に示すように、転動体としての玉3の軸方向一方側に位置する円環基部4aと、この円環基部4aから軸方向他方側に延びる複数対の保持爪4bとを有し、各対の保持爪4bの対向面と前記円環基部4aの軸方向一端面に、玉3を軸方向及び径方向に抜けないように収容する球状凹面のポケット6を形成している。
【0005】
そして、前記保持器4を構成する円環基部4aの軸方向一方側の背面における外径角部4aaと内径角部4abに、円弧形状の面取りを形成し、この円弧形状の面取りによって、保持器4の背面近傍の潤滑剤の流動性を向上させ、トルク増大及び潤滑剤温度の上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-247553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、高速回転時には、玉軸受10の内側軌道部材1と外側軌道部材2とでは、内側軌道部材1の方が外側軌道部材2よりも温度上昇が高い。また、高速運転時の遠心力によって軸受内部の潤滑油が外側軌道部材2の方に流れやすく、内側軌道部材1側の潤滑油が希薄になる恐れがある。このため、内側軌道部材1と外側軌道部材2との温度差を緩和するためには、内側軌道部材1の方に、より多くの潤滑油が流れるようにすることが望ましい。
【0008】
ところが、前記特許文献1の玉軸受10に使用されている保持器4は、円環基部4aの背面の外径角部4aaと内径角部4abの面取りをそれぞれ同じ大きさに形成しているため、内側軌道部材1の方に、より多くの潤滑油が流れるという構造にはなっていない。
【0009】
円環基部4aの背面側からの潤滑油の流れを良くするために、背面の外径角部4aaと内径角部4abの面取り形状を大きくした場合、従来の保持器4は、円環基部4aから軸方向他方側に延びる保持爪4bの内径面と外径面とが軸方向に平行に形成されているため、高速回転時の遠心力の負荷によって、保持器4が拡径し易い。これにより、外側軌道部材2の内周面と保持器4の外径面とが接触し、あるいは、保持器4の保持爪4bと玉3が強接触して、保持器4の摩耗や発熱、損傷、融解といった懸念が生じる。
【0010】
そこで、この発明は、高速回転時の遠心力の負荷によって、保持器が拡径し難く、しかも保持器の背面側から内側軌道部材の方に、より多くの潤滑油が流れる構造の玉軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明に係る玉軸受は、外周に内側軌道溝が形成されている内側軌道部材と、内周に外側軌道溝が形成されている外側軌道部材と、内側軌道溝と外側軌道溝との間に介装される複数の玉と、この玉を周方向に等間隔に保持する保持器とを備え、前記保持器は、玉の軸方向一方側に位置する円環基部と、この円環基部から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪とを有し、各対の保持爪の対向面と前記円環基部の軸方向一端面に、玉を軸方向及び径方向に抜けないように収容する球状凹面のポケットを形成し、前記円環基部の軸方向一方側の背面における、外径角部と内径角部に面取りを施したものであって、前記円環基部の背面の外径角部に形成した面取りよりも、内径角部に形成した面取りをより大きく形成したことを特徴とする。
【0012】
前記内径角部に形成する面取りは、ストレート形状でも円弧形状でもよい。
【0013】
前記円環基部の背面の内径角部に形成する面取りは、前記円環基部の背面の内径から径方向にaの位置と、前記円環基部の背面の内径から軸方向他方側に向かってa’の位置とを結ぶ形状で、a<a’の関係に設定することにより、くさび効果による潤滑油の通油性が向上する。
【0014】
前記aは前記円環基部の背面の内径から前記玉のピッチ円径までの長さh1よりも短い長さ、a<h1の関係にあり、a’は前記円環基部の背面から前記ポケットの底部までの長さL2よりも短い長さ、a’<L2の関係にある。
【0015】
外側軌道溝へ潤滑油を供給するために、前記円環基部の背面の外径側の角部に面取りを形成してもよい。前記円環基部の背面の外径角部に形成する面取りは、前記円環基部の背面の内径から径方向にbの位置と、前記円環基部の背面の外径から軸方向他方側に向かってb’の位置とを結ぶ形状とした場合、b<b’の関係に設定して、くさび効果を得る必要は特にない。
【0016】
また、前記bは前記円環基部の背面の外径から前記玉のピッチ円径までの長さh2よりも短い長さ、b<h2の関係にあり、b’は前記円環基部の背面から前記ポケットの底部までの長さL2よりも短い長さ、b’<L2の関係にあり、b’は前記内径側の面取り形状のa’よりも短い、b'≦a'の関係にあり、前記円環基部の背面に平面部を有するようにしている。
【0017】
以上のように、円環基部の背面の外径側の角部に形成した面取りよりも、内径側の角部の面取り形状を大きくすると、高速回転時の保持器の拡径を抑制しつつ、保持器背面側から給油した際に、潤滑油が内側軌道溝の方に流入しやすくなるので、軸受内部の抵抗を抑え、かつ内側軌道部材の冷却効果を高めることができ、内側軌道部材と外側軌道部材の温度差を緩和することができる。
【0018】
前記円環基部の背面の内径側角部の面取りを円弧形状にすると、内側軌道部材の外径と保持器内径の間に潤滑油が流入する際の圧力損失が減少し、給油圧を一定とした際に流量および流速の増加が見込まれる。このことは、社団法人日本機械学会発行の「機械工学便覧 基礎編」の72頁~73頁所載の図(図25(a)(b)(c))の通り、管路内を流れる流体の圧力損失の関係式からも理解することができる。即ち、流体が管路に入るときの圧力損失は、損失係数ζ(ゼータ)に比例し、ζは管路の入口形状を面取りからR形状に変えることでζ=0.25からζ=0.06~0.005へと減少する。
【0019】
前記円環基部の背面の内径角部に形成した面取りの円弧形状は、円弧径の異なる複数の円弧を組み合わせた複合円弧からなるようにしてもよい。
【0020】
前記円環基部の背面の内径角部に形成した面取りの円弧形状は、前記円環基部の背面と前記円環基部の内径にそれぞれ接線で交わることが望ましい。
【0021】
前記保持器の内径に、前記円環基部の内径角部の円弧形状の面取りに繋がる凹みを付加してもよい。
【0022】
前記保持器の背面側から給油を行うようにしてもよいし、前記給油がグリース潤滑でもよい。
【0023】
保持器の背面側から給油を行う場合、給油ノズルの位置が前記円環基部の背面の内径側に位置するようにすることが好ましい。
【0024】
この発明は、dmN換算値70万以上で回転する玉軸受に適用することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、この発明に係る玉軸受は、高速回転時の遠心力の負荷によって、保持器が拡径し難く、しかも保持器の背面側から内側軌道部材の方に、より多くの潤滑油を流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明に係る玉軸受の第1の実施形態を示す縦断面図である。
図2図1の玉軸受に使用する保持器の部分拡大図である。
図3図1の玉軸受に使用する保持器の斜視図である。
図4】この発明に係る玉軸受の他の実施形態を示す縦断面図である。
図5図4の玉軸受に使用する保持器の部分拡大図である。
図6】この発明に使用する保持器の他の実施形態を示す部分拡大図である。
図7】この発明に使用する保持器の他の実施形態を示す部分拡大図である。
図8】この発明に使用する保持器の他の実施形態を示す部分拡大図である。
図9】この発明に使用する保持器の成形型の例を示す部分断面図である。
図10】この発明に係る玉軸受の他の実施形態を示す縦断面図である。
図11図10の玉軸受に使用する保持器の部分拡大図である。
図12図10の玉軸受に使用する保持器の部分拡大平面図である。
図13図10の玉軸受に使用する保持器の斜視図である。
図14】この発明に係る玉軸受の他の実施形態を示す縦断面図である。
図15】この発明に係る玉軸受の他の実施形態を示す縦断面図である。
図16図15の玉軸受に使用する保持器の部分拡大図である。
図17】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
図18図17の保持器の斜視図である。
図19】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
図20図19の保持器の斜視図である。
図21】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
図22図21の保持器の斜視図である。
図23】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
図24図23の保持器の斜視図である。
図25】管路入口形状を円弧形状にしたことによる流体の圧力損失の変化を関係式で示した説明図である。
図26】従来の玉軸受を示す縦断面図である。
図27図26の玉軸受に使用する保持器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、この発明の第1の実施形態に係る油潤滑タイプの玉軸受20を示している。この玉軸受20は、電気自動車用駆動モータやハイブリッド電気自動車用駆動モータ、自動車の駆動装置、電装部品や補機部品等に組み込まれ、高速回転で使用される。図1は玉軸受20の縦断面図、図2図1の玉軸受20に使用している保持器24の部分拡大図、図3図2の保持器24の斜視図である。
【0029】
玉軸受20は、外周面に内側軌道溝21aが形成された内側軌道部材21と、その内側軌道部材21の外側に配置され、内周面に外側軌道溝22aが形成された外側軌道部材22と、内側軌道溝21aと外側軌道溝22aとの間に転動自在に介装される転動体としての複数の玉23と、この玉23を周方向に等間隔に保持する保持器24とを備える。
【0030】
この図1に示す玉軸受20は、外側軌道部材22がハウジングなどの静止部材に装着され、内側軌道部材21が電動モータなど機力で回転駆動する回転軸に装着されるものである。
【0031】
この玉軸受20に使用する保持器24は、回転運動が、玉23によって案内される転動体案内、あるいは内側軌道部材21または外側軌道部材22で案内される軌道輪案内のどちらにも適用可能である。また、この発明が適用される軸受は、dmN値で70万を超える回転領域での使用が可能である。
【0032】
保持器24は、玉23の軸方向一方側に位置する円環基部30(軸方向幅L1)と、この円環基部30から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪32とを有し、各対の保持爪32の対向面及び円環基部30の軸方向一端面に、玉23が軸方向及び径方向に抜けないように抱え込む球状凹面のポケット31を形成している。
【0033】
前記円環基部30の軸方向一方側の背面における外径角部30aと内径角部30bには、面取りが施され、外径角部30aの面取りよりも、内径角部30bの面取りをより大きく形成している。
【0034】
前記円環基部30の背面の内径角部30bに形成した面取りは、前記円環基部30の背面の内径から径方向にaの位置と、前記円環基部30の背面の内径から軸方向他方側に向かってa’の位置とを結ぶストレート形状で、a<a’の関係に設定することにより、くさび効果によって潤滑油の通油性が向上する。
【0035】
前記円環基部30の背面の内径角部30bに形成した面取りにおいて、前記aは前記円環基部30の背面の内径から前記玉のピッチ円径dAまでの長さh1よりも短い長さ、a<h1の関係にあり、a’は前記円環基部30の背面から前記ポケット31の底部P2までの長さL2よりも短い長さ、a’<L2の関係にある。
【0036】
保持器24の背面側から潤滑油を給油した際に、前記円環基部30の背面の内径角部30bに形成した面取り形状が大きいと、内側軌道部材21の外径面と前記保持器24の円環基部30の外径面との間に潤滑油が流入する際の圧力損失が減少し、給油圧が一定であっても、内側軌道溝21aへの潤滑油の流量及び流速の増加が見込める。また、前記円環基部30の背面の外径角部30aではなく、内径角部30bの方の面取り形状を大きくするので、円環基部30の断面係数の低下も少なく、高速回転時の遠心力の負荷による保持器24の拡径も抑制することができる。
【0037】
次に、図4及び図5に示す実施形態は、前記円環基部30の軸方向一方側の背面における外径角部30aと内径角部30bに、円弧形状の面取りを施し、外径角部30aの面取りよりも、内径角部30bの面取りをより大きな円弧形状に形成している。
【0038】
図4及び図5に示す実施形態における円弧形状の面取りは、前記円環基部30の背面の内径から径方向にaの位置と、前記円環基部30の背面の内径から軸方向他方側に向かってa’の位置とを結ぶ円弧形状であって、図1図3の実施形態と同様に、a<a’の関係に設定することにより、くさび効果によって潤滑油の通油性を向上させている。
【0039】
また、図4及び図5に示す実施形態においても、前記aは前記円環基部30の背面の内径から前記玉のピッチ円径dAまでの長さh1よりも短い長さ、a<h1の関係にあり、a’は前記円環基部30の背面から前記ポケット31の底部P2までの長さL2よりも短い長さ、a’<L2の関係にある。
【0040】
前記円環基部30の内径角部30bの円弧形状は、図4及び図5に示すような単一円弧でも、図6に示すような、複数の円弧径R1、R2からなる複合円弧でもよく、複合円弧にすることにより、保持器24の背面から保持器24の内径面への潤滑油の流動性をより向上させることができる。
【0041】
また、図6に示すように、前記円環基部30の内径角部30bの円弧形状が、保持器24の背面と保持器24の内径面にそれぞれ接線で交わるようにすることによって、保持器24の背面から保持器24の内径面への潤滑油の流動性がより向上する。
【0042】
玉軸受20は、高速回転時に、外側軌道部材22よりも内側軌道部材21の方が、温度上昇が高く、外側軌道部材22と内側軌道部材21とで温度差が生じる。この温度差により運転すきまが減少し、軸受の短寿命化に繋がる恐れがある。このため、保持器24の背面から給油を行う際には、給油の狙い位置が保持器24の内径側となるように給油ノズルの位置と角度を調整し、内側軌道部材21側に、より多くの潤滑油が流れるようにすることにより、冷却効果が期待でき、内側軌道部材21と外側軌道部材22で生じる温度差を緩和することができる。
【0043】
次に、図7に示す実施形態は、前記円環基部30の外径角部30aの面取りを、円弧形状に形成したものである。この外径角部30aの面取りの円弧形状は、前記円環基部30の背面の外径から径方向の内径側に向かってbの位置と、前記円環基部30の背面の外径から軸方向他方側に向かってb’の位置とを結び、bは前記円環基部30の背面の外径から前記玉23のピッチ円径dAまでの長さh2よりも短い長さ、b<h2の関係にあり、b’は前記円環基部30の背面から前記ポケットの底部P2までの長さL2よりも短い長さ、b’<L2の関係にあり、b’は前記内径角部30bのR形状のa’よりも短い、b'≦a'の関係にある。
【0044】
この図7に示す実施形態のように、前記円環基部30の外径角部30aの面取りを、円弧形状に形成することにより、保持器24の円環基部30の断面係数の低下を抑制しつつ、保持器24の背面のピッチ円径dAから外径側に至る潤滑油の流れ方向と直交する平面の面積が減少し、保持器24の背面近傍の圧力の増加を緩和することが可能となり、潤滑油の流動性の向上に繋がる。
【0045】
また、図7に示す実施形態のように、保持器24の外径角部30aの面取りを、円弧形状を形成する場合、保持器24の背面には軸方向と直交する平面部cを設ける。これにより、保持器24の組付けや出来栄え確認を従来の保持器と同様に実施することが可能になる。
【0046】
次に、図8はこの発明の他の実施形態を示し、この実施形態は、 保持器24の内径に、内径角部30bの円弧形状の面取りに繋がる凹み30baを付加したものである。この図8の実施形態において、凹み30baの起点Aは円環基部30の内径角部30bに形成した円弧形状の面取りの保持爪32側とし、終点Bは内側軌道溝21aの肩Cと保持爪32の円環基部30側の端部Dとの間になるように設定する。これにより、内側軌道部材21の外径と保持器24の内径の間の断面が増加し、それに伴い流入する潤滑油の圧力損失が減少して内側軌道溝21aへの給油量が増加し、内側軌道部材21が昇温することを緩和する。
【0047】
この発明に係る保持器24は、樹脂製であり、この樹脂製の保持器24を成形する金型40としては、図9に示すように、保持器24の円環基部30の背面の内径角部30bに形成する円弧形状の面取りの起点A又は終点Bのいずれかに分割部を有する分割型40a、40bを使用することができる。このような分割型40a、40bを使用することにより、保持器24を金型40から取り出す作業が容易になる。生産性の向上を図るために、分割型40a、40bの分割部の高さzは、円弧形状の面取りの内径角部30bの径方向高さa以下になるように設定している。
【0048】
次に、図10図24は、この発明の他の実施形態を示している。これら図10図24に示す実施形態は、保持爪32に遠心力が負荷されても、保持爪32と玉23との接触圧が抑えられ、保持器24の振れ回りに伴う異音・異常振動、抵抗増大を抑制することができることが特徴であり、冠型の保持器24の保持爪32を、内径側よりも遠心加速度が大きい外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの三部位で構成している。そして、爪中央部32bの外径の輪郭は、玉23およびポケット31の中心P1よりも大径側で構成している。
【0049】
まず、図10図14に示す実施形態と、図15図16に示す実施形態における保持爪32は、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32a(軸方向幅L3)と、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32b(軸方向幅L4)と、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32c(軸方向幅L5)との三部位からなる。
【0050】
円環基部30は、保持爪32を周方向に配置するものであり、内側軌道部材21との間にクリアランスCLi、外側軌道部材22との間にクリアランスCLoがそれぞれ確保され、このクリアランスCLiとクリアランスCLoによって軸受内部への潤滑剤である油の供給と軸受外部への油の排出が行われる。
【0051】
円環基部30は、爪基底部32aに連なり、円環基部30の軸方向先端(図1のL1の左端)は、玉23の中心かつポケット31の中心P1と、ポケット31の底部P2との間に位置している。
【0052】
円環基部30の外径D1は、外側軌道部材22の内径よりも小さく、前記のように、外側軌道部材22との間にクリアランスCLoが確保されている。円環基部30の外径D1を大きくし過ぎると、クリアランスCLoが小さくなり、円環基部30と外側軌道部材22とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。反対に、円環基部30の外径D1を小さくし過ぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。なお、高速運転による遠心力によって円環基部30が遠心膨張し、円環基部30の外径D1と外側軌道部材22の内径が接触する懸念がある場合は、予め外側軌道部材22の内径に研削加工を施し、外側軌道部材22の内径と保持器の摩擦を抑える仕様としてもよい。
【0053】
円環基部30の内径D2は、内側軌道部材21の内径よりも大きく、前記のように、内側軌道部材21との間にクリアランスCLiが確保されている。円環基部30の内径D2を小さくし過ぎると、クリアランスCLiが小さくなり、円環基部30と内側軌道部材21とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。反対に、円環基部30の内径D2を大きくし過ぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。
【0054】
円環基部30の軸方向幅L1は、円環基部30の一方端(保持爪32が延びる方向と反対側の端、図10における右端)からポケット31の底部P2までの軸方向幅L2よりも大きく、即ち、図10におけるL1の左端がポケット31の底部P2よりも図10における左側に位置している。円環基部30の軸方向幅L1が小さすぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。
【0055】
保持爪32の爪基底部32aは、円環基部30に連なって保持爪32を含む保持器24の全体形状を維持し、保持器24の軸方向と径方向の位置決めを行う部位である。
【0056】
爪基底部32aの軸方向先端位置は、玉23の中心かつポケット31の中心P1と、ポケット31の底部P2との間にある。
【0057】
爪基底部32aの外径の上限は、円環基部30の外径D1と同等であり、外側軌道部材22の内径よりも小さく、外側軌道部材22との間にクリアランスCLoが確保されている。爪基底部32aの外径を大きくし過ぎると、クリアランスCLoが小さくなり、爪基底部32aと外側軌道部材22とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。爪基底部32aの外径の下限は、爪中央部32bの外径よりも大きい。なお、高速運転による遠心力によって爪基底部32aの外径が遠心膨張し、爪基底部32aの外径と外側軌道部材22の内径が接触する懸念がある場合は、予め外側軌道部材22の内径に研削加工を施し、外側軌道部材22の内径と保持器の摩擦を抑える仕様としてもよい。
【0058】
爪基底部32aの内径の上限は、円環基部30の内径D2と同等に設定されている。爪基底部32aの内径の下限は、玉23の輪郭内に収まる範囲内に設定されている。
【0059】
爪基底部32aの内径を大きくし過ぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。また、爪基底部32aの内径を小さくし過ぎると、爪基底部32aと内側軌道部材21とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。
【0060】
爪基底部32aの軸方向先端は、円環基部30の軸方向先端よりも軸方向先端側(図10の左側)に位置する。爪基底部32aの軸方向幅L3は、小さいほど、保持器24の質量の軽量化が図れ、回転時の慣性モーメントを低下させることが可能になるが、過少に設定すると、爪基底部32aの剛性が低下し、保持爪32における爪先の変形を増大させる懸念がある。
【0061】
図12に示すように、爪基底部32aにおける円環基部30側の周方向幅T1は、過大にすると保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。反対に、爪基底部32aの円環基部30側の周方向幅T1を過少にすると、爪基底部32aの強度が低下し、保持爪32が破損する懸念がある。爪基底部32aの周方向幅T1は、爪中央部32bに向かって次第に狭くなるように形成することができる。
【0062】
次に、爪中央部32bは、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有し、爪基底部32aと爪先端部32cに連なり、玉23の周方向位置を決める部位になっている。
【0063】
爪中央部32bの外径は、上限を爪基底部32aの外径D1と同等かそれよりも小さく、下限を玉23の中心かつポケット31の中心P1とポケット31の底部P2とを通る玉23のピッチ円径dAよりも大きく設定している。これにより、転動体としての玉23による保持器24の案内を安定した状態で維持することができ、保持器24の振れ回りに伴う異音・異常振動を抑制することができる。
【0064】
爪中央部32bの外径が爪基底部32aの外径D1よりも大きくなると、保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。反対に、爪中央部32bの外径が、玉23のピッチ円径dAよりも小さくなると、保持爪32、玉23間の周方向の接触圧に対して、径方向の分力が増大し、玉23の保持ができなくなり、保持器24の周方向の位置決め及び玉23の円滑な転動ができなくなる可能性がある。
【0065】
爪中央部32bの内径の上限は、爪基底部32aの内径D2と同等に設定されている。爪中央部32bの内径の下限は、玉23の輪郭内に収まる範囲内に設定されている。
【0066】
爪中央部32bの内径を大きくし過ぎると、爪中央部32bの強度が低下し、保持器24が破損する恐れがある。また、爪中央部32bの内径を小さくし過ぎると、通油性が悪化する懸念がある。
【0067】
爪中央部32bの軸方向先端は、玉23の中心かつポケット31の中心P1よりも軸方向先端側(図10の左側)に位置する。爪中央部32bの軸方向先端が、玉23の中心かつポケット31の中心P1よりも爪基底部32aに位置すると、玉23の安定した保持ができなくなり、保持器24と玉23との周方向の接触圧に対して、径方向の分力が増大し、周方向の位置決め及び玉23の円滑な転動ができなくなる可能性がある。
【0068】
図12に示すように、爪中央部32bの爪基底部32a側の周方向幅T2は、爪基底部32aの周方向幅T1の同等以下であり、過大にすると保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。反対に、爪中央部32bの爪基底部32a側の周方向幅T2を過少にすると、爪中央部32bの強度が低下し、保持爪32が破損する恐れが生じる。爪中央部32bの周方向幅T2は、爪先端部32cに向かって次第に狭くなるように形成することができる。
【0069】
次に、爪先端部32cは、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有し、爪中央部32bに連なり、ポケット31の内周面及び先端部で、保持器24の軸方向と径方向の位置を決める部位になっている。
【0070】
爪先端部32cの外径は、遠心力に伴う爪先の拡径を抑える観点より、玉23のピッチ円径dAよりも小さい設定にする。
【0071】
爪先端部32cの外径が、玉23のピッチ円径dAよりも大きくなると、保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。
【0072】
爪先端部32cの内径の上限は、爪中央部32bの内径D2と同等に設定されている。爪先端部32cの内径の下限は、玉23の輪郭内に収まる範囲内にある。
【0073】
爪先端部32cの軸方向先端は、玉23の輪郭内に収まる範囲内にある。爪先端部32cの軸方向先端が、玉23の輪郭から外れた位置にあると、内側軌道部材21との干渉や遠心力の増大による変形量の増加、組込み性の低下が生じる。
【0074】
図12に示すように、爪先端部32cの周方向幅T3は、爪中央部32bの周方向幅T2と同等以下であり、先端に向かって幅を狭く形成することができる。
【0075】
爪中央部32bの外径形状は、図10図13に示す実施形態においては、爪基底部32a側から軸方向先端側に、玉23の中心かつポケット31の中心P1辺りまでが外径が次第に小さくなるように円弧形状に湾曲し、中心P1付近から先端に向けて外径が同一径で直線状に延び、先端から爪先端部32cに向けて次第に外径が次第に小さくなるように円弧形状に湾曲しているのに対し、図15図16に示す実施形態においては、爪基底部32a側から軸方向先端側に、玉23の中心かつポケット31の中心P1辺りまでが図10図13に示す実施形態よりも急傾斜の円弧形状に湾曲し、中心P1付近から先端に向けて直線状に傾斜している。
【0076】
また、爪先端部32cの外径形状は、図10図13に示す実施形態においては、爪中央部32bに連なる部分が湾曲し、先端が同一径で直線状に延びているのに対し、図15図16に示す実施形態においては、爪中央部32bに同傾斜で連なっている。
【0077】
次に、保持爪32の先端寄りのポケット31内周面には、内径側から外径側に至る凹溝35を設けている。この凹溝35を設けることにより、潤滑剤である油がポケット31内に流入しやすくなり、玉23と保持爪32との摩擦抵抗を軽減することができる。
【0078】
以上のように、この発明に係る冠型の保持器24の保持爪32は、内径側よりも遠心加速度が大きい外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの三部位で構成されているので、保持爪32の内径側を拡径しなくても、保持爪32に負荷される遠心力が緩和され、保持爪32の変形を抑制することが可能となる。
【0079】
これにより、保持爪32に遠心力が負荷されても、保持爪32と玉23との接触圧が抑えられた状態で径方向の案内機能が維持され、また、転動体としての玉23の公転中心と同心に保持器24の回転中心が維持されるので、保持器24の振れ回りに伴う異音・異常振動、抵抗増大を抑制することができる。
【0080】
次に、保持器24の材料としては、耐摩耗性や耐焼き付等に優れた樹脂を用いることができ、特に、引張伸び、引張強さ、耐衝撃性、耐摩耗性、潤滑性等に優れたポリアミド樹脂、例えば、PA66(ポリアミド66)、PA46(ポリアミド46)、PA6T(ポリアミド6T)、PA9T(ポリアミド9T)、あるいはPA6(ポリアミド6)などが望ましい。また、これらの樹脂には、炭素繊維,ガラス繊維あるいはアラミドなど、繊維状強化材を複合することで、弾性率、強度、耐衝撃性を高め、かつ、寸法変化、クリープ変形を抑えることができる。
【0081】
この発明では、保持器24の保持爪32の外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの3部位で構成するので、組込み時に保持爪32が内径側に倒れやすくなる。このため、PA9T(ポリアミド9T)などの強度が高い硬質樹脂を保持器24の材料としても組込みを容易に行うことができる。
【0082】
また、この発明に係る保持器24は、保持爪32の外径側に、爪基底部32a、爪中央部32b及び爪先端部32cを形成するので、保持器24を合成樹脂の射出成型で製作する際に、型から抜き易く、射出成型が容易である。
【0083】
前記内側軌道部材21、外側軌道部材22及び玉23は、例えば軸受鋼、浸炭鋼等の金属で形成される。
【0084】
次に、この発明で提案する保持器24の形態は、グリース潤滑で回転する軸受に適用可能であり、図14は、図10図13に示す実施形態と同様の保持器24を使用し、内側軌道部材21と外側軌道部材22間の軸方向両側に、内側軌道部材21と外側軌道部材22間に形成された環状空間25を密封するシール部材26を設け、このシール部材26により密封された環状空間25に、グリース等の潤滑剤を封入した玉軸受20を示している。
【0085】
グリース潤滑を想定した図14に示す玉軸受20の場合、転動体としての玉23の公転に伴い軸受内部グリースの多くは外側軌道部材22側へ移動する。この発明に係る保持器24によれば、保持器24の外径部とグリースの接触が抑えられ、攪拌抵抗を減少させ、低トルクでの運転が可能となる。また、軸受内部の空間容積に対する保持器24の体積が減少するため、空間容積あたりのグリースの体積が低下する。これにより、グリース漏れを起こし難くする効果も期待できる。
【0086】
シール部材26は、環状の芯金26aとこの芯金26aに一体に固着されるゴム状部材26bとで構成され、外側軌道部材22の内周面に形成されたシール取付溝27に外周部が嵌合状態に固定されている。内側軌道部材21は、シール部材26の内周部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝28を備え、シール部材26の内周側端に形成されたシールリップ26cが内側軌道部材21のシール溝28に摺接または非接触で近接している。
【0087】
この図14に示す実施形態に係る玉軸受20は、運転中、シール部材26の先端のシールリップ26cが内側軌道部材21の外周端部に摺接、または、非接触で近接した状態を維持しながら、内側軌道部材21が回転する。これにより、水やダスト等の異物が軸受内部に侵入したり、あるいは、軸受内部から潤滑剤が外部へ漏れたりすることを未然に防止している。
【0088】
また、この図14に示す実施形態に係る玉軸受20に充填される潤滑剤としては、基油、増ちょう剤及び添加剤から成る半固体状のグリースを使用することができる。このグリースを構成する基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブデン、ポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等、一般に潤滑グリースの基油として使用されている油であれば特に限定することなく使用できる。
【0089】
増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0090】
グリース用の公知の添加剤としては、例えば極圧剤、アミン系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加できる。
【0091】
次に、図17及び図18に示す保持器24は、保持爪32の爪中央部32bと爪先端部32cの外径形状が、図10図14に示す実施形態と異なる形状をしている。
【0092】
図10図14に示す実施形態の玉軸受20に使用している保持器24の保持爪32は、爪中央部32bの外径形状が、爪基底部32a側から軸方向に、玉23の中心かつポケット31の中心P1辺りまでが外径が次第に小さくなるように円弧形状に湾曲している。これに対し、図17及び図18に示す保持器24は、爪中央部32bの外径形状が、爪基底部32a側から軸方向に湾曲することなく、直線状に傾斜している。
【0093】
また、図10図14に示す実施形態の玉軸受20に使用している保持器24は、爪先端部32cの外径形状が、爪中央部32bに連なる部分が湾曲している。これに対し、図17及び図18に示す保持器24は、爪先端部32cの外径形状が、爪中央部32b側から軸方向に湾曲することなく、直線状に傾斜している。
【0094】
なお、図17及び図18に示す実施形態の保持器24の他の構成は、図10図14に示す実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0095】
次に、図19及び図20に示す実施形態の保持器24は、爪中央部32bと爪先端部32cを形成する保持爪32の外径形状が、図10図13に示す実施形態と異なる形状をしている。
【0096】
この図19及び図20に示す保持器24の保持爪32の外径形状は、爪基底部32aの軸方向先端側が2段に傾斜する傾斜面に形成され、先端側の傾斜面が爪基底部32a側の傾斜面よりも傾斜勾配が大きなっている。
【0097】
なお、図19及び図20に示す保持器24の他の構成は、図10図13に示す実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0098】
次に、図21及び図22に示す保持器24は、爪中央部32bと爪先端部32cを形成する保持爪32の外径形状が、図10図13に示す実施形態と異なる形状をしている。
【0099】
この図21及び図22に示す保持器24の保持爪32の外径形状は、爪基底部32aの軸方向先端側が2段に傾斜する傾斜面に形成され、先端側の傾斜面が爪基底部32a側の傾斜面よりも傾斜勾配が小さくなっている。
【0100】
なお、図21及び図22に示す保持器24の他の構成は、図10図13に示す実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0101】
次に、図23及び図24に示す保持器24は、爪中央部32bと爪先端部32cを形成する保持爪32の外径形状が、図10図13に示す実施形態と異なる形状をしている。
【0102】
この図23及び図24に示す保持器24の保持爪32の外径形状は、爪基底部32aの軸方向先端側が2段の湾曲面に形成されている。
【0103】
なお、図23及び図24に示す保持器24の他の構成は、図10図13に示す実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0104】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、各実施形態の爪各部位・形状を組み合わせるなど、種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0105】
20 玉軸受
21 内側軌道部材
21a 内側軌道溝
22 外側軌道部材
22a 外側軌道溝
23 玉
24 保持器
30 円環基部
30a 外径角部
30b 内径角部
30ba 凹み
31 ポケット
32 保持爪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図20
図21
図22
図23
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図27