(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168187
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電池用電解質材料、電解液又は電解質膜、及び熱電変換装置
(51)【国際特許分類】
H01M 14/00 20060101AFI20241128BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20241128BHJP
H01M 8/18 20060101ALN20241128BHJP
H01M 8/02 20160101ALN20241128BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
H10N10/856
H01M8/18
H01M8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084644
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】南 和也
(72)【発明者】
【氏名】土田 和也
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】宮村 拓弥
【テーマコード(参考)】
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
5H032AA08
5H032CC17
5H032EE04
5H032HH01
5H032HH06
5H126AA02
5H126BB10
5H126GG17
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】電解液中に電解質を高濃度に溶解させることができ、イオン伝導度に優れる電池用電解質材料を提供する。
【解決手段】レドックス対となるアニオンと、カウンターイオンである有機カチオンと、を有し、前記有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオンからなる塩が融点25℃以下の常温溶融塩となる有機カチオンであることを特徴とする、電池用電解質材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックス対となるアニオンと、
カウンターイオンである有機カチオンと、を有し、
前記有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオンからなる塩が融点25℃以下の常温溶融塩となる有機カチオンであることを特徴とする、電池用電解質材料。
【請求項2】
前記有機カチオンが、下記一般式(1)で表されるカチオンである請求項1に記載の電池用電解質材料。
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。]
【請求項3】
前記有機カチオンが、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオン、及び、ジエチルメチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオンからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1に記載の電池用電解質材料。
【請求項4】
レドックス対となる前記アニオンが、フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオン、又は、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンである、請求項1に記載の電池用電解質材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の電池用電解質材料を含む電解液又は電解質膜。
【請求項6】
請求項5に記載の電解液又は電解質膜を含む熱電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電解質材料、電解液又は電解質膜、及び熱電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レドックス対を用いた電池として、レドックスフロー電池や熱化学電池が知られている。
とくに、熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる熱電変換素子の一種である熱化学電池が注目されており、熱化学電池を用いると温度差から電気エネルギーを得ることができる。
【0003】
非特許文献1では、K3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]を電解質とした従来型の水系熱化学電池は動作温度が100℃未満に制限されるが、高い熱安定性を有する深共晶溶媒(エタリン)を水の代わりに使用することで、約150℃域で動作することを確認したと記載されている。
【0004】
非特許文献2では、K3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]を電解質とした場合は有機溶媒に対する溶解度が低く、電解質をカリウム塩からテトラエチルアンモニウム塩に変更することで、有機溶媒に対する溶解度が向上したことが記載されている。
【0005】
特許文献1には、電解液の熱安定性を向上させるために水系電解質に樹脂を混合してゲル電解質化したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Antariksa, N.F., Yamada, T. & Kimizuka, N. High seebeck coefficient in middle-temperature thermocell with deep eutectic solvent. Sci Rep 11, 11929 (2021)
【非特許文献2】Taheri, A., MacFarlane, D. R., Pozo-Gonzalo, C., & Pringle, J. M. The Effect of Solvent on the Seebeck Coefficient and Thermocell Performance of Cobalt Bipyridyl and Iron Ferri/Ferrocyanide Redox Couples. Australian Journal of Chemistry, 72(9), 709-716
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱化学電池等のレドックス対を用いた電池の高性能化のためには、電解液中に電解質を高濃度に溶解させること、粘度上昇が小さいこと、イオン伝導度に悪影響を及ぼさないこと等が必要とされる。
【0009】
非特許文献1では、K3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]を電解質として使用しているが、K3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]は有機溶媒に対する溶解度が低く、溶解させた場合の粘度上昇が大きいことから、出力が25mW付近で最大となり、電解質を高濃度に溶解させることによる性能向上が見込めない。
【0010】
非特許文献2では、カチオンとしてテトラエチルアンモニウムカチオンとアンモニウムカチオンを併用している。カチオンがテトラエチルアンモニウムカチオンである場合、テトラエチルアンモニウム塩の溶解性が不充分という課題がある。また、カチオンがアンモニウムカチオンである場合、アンモニウム塩が100℃付近で熱分解してしまうという課題がある。
【0011】
特許文献1では、樹脂を加えてゲル電解質化しているが、ゲル電解質化するとゲル電解質中でのレドックス種の移動が阻害され、イオン伝導度が低下するため、熱化学電池としての性能の低下が懸念される。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、電解液中に電解質を高濃度に溶解させることができ、イオン伝導度に優れる電池用電解質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明はレドックス対となるアニオンと、カウンターイオンである有機カチオンと、を有し、前記有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオンからなる塩が融点25℃以下の常温溶融塩となる有機カチオンであることを特徴とする、電池用電解質材料;上記電池用電解質材料を含む電解液又は電解質膜、及び、上記電解液又は電解質膜を含む熱電変換装置に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解液中に電解質を高濃度に溶解させることができ、イオン伝導度に優れる電池用電解質材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、熱化学電池の性能評価を行う装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、レドックス対となるアニオンと、カウンターイオンである有機カチオンと、を有し、前記有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオンからなる塩が融点25℃以下の常温溶融塩となる有機カチオンであることを特徴とする、電池用電解質材料に関する。
【0017】
本発明の電池用電解質材料は、溶媒に溶解させて電池の電解液として使用することができる。また、電池用電解質材料自体が液体(イオン液体)であれば、溶媒に溶解させることなく電解液として使用することができる。
また、電池用電解質材料を含む電解質膜として使用することもできる。
【0018】
本発明の電池用電解質材料は、レドックス対となるアニオンと、上記アニオンのカウンターイオンである有機カチオンとを有する。
【0019】
はじめに、レドックス対となるアニオンについて説明する。
レドックス対となるアニオンは、酸化還元反応が可能な2種類のイオンからなる対を意味する。
【0020】
アニオンの例としては、フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオン[Fe(CN)6
3-]/[Fe(CN)6
4-]、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン[I-]/[I3-]等が挙げられる。
好ましくは、フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオン、又は、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンである。
【0021】
次に、カウンターイオンである有機カチオンについて説明する。
有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオン(BF4アニオン)からなる塩が融点25℃以下の常温溶融塩となる有機カチオンである。
【0022】
本発明の電池用電解質材料では、非水系においてもレドックス種の溶解性を向上させるために、カリウムカチオン等の無機カチオンに代えて有機カチオンを用いる。そして、有機カチオンとして、対称性が低く、電子の非局在化を生じる分子構造のもの、立体障害を有する分子構造のものを用いる。上記の分子構造を有する有機カチオンであると、有機カチオンとレドックス種との相互作用が弱まる。当該相互作用を弱めることにより、レドックス種の溶解性を向上させ、イオン伝導度を改善することができる。
【0023】
有機カチオンがイミダゾリウムカチオン又はピリジニウム環を有するカチオンである場合、有機カチオンにおける電子の非局在化が生じる。有機カチオンがピロリジニウム型カチオンである場合、分子構造が立体障害を有する。
【0024】
本発明の電池用電解質材料では、レドックス種との相互作用が弱い有機カチオンを用いている。レドックス種との相互作用が弱い有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオン(BF4アニオン)と組み合わせて塩とした際の融点が低い傾向にある。
すなわち、有機カチオンとテトラフルオロボレートアニオンの塩の融点は、有機カチオンとレドックス種の相互作用の強さの指標として利用することができる。
本発明の電池用電解質材料では、有機カチオンとテトラフルオロボレートアニオンの塩の融点が25℃以下と低い有機カチオンを用いており、これは、有機カチオンとレドックス種の相互作用が弱い有機カチオンを使用していることを意味している。
【0025】
「有機カチオンとテトラフルオロボレートアニオンの塩の融点」は、有機カチオンとレドックス種の相互作用の強さの指標であり、有機カチオンの特性を示すための表記であるので、本発明の電池用電解質材料に「有機カチオンとテトラフルオロボレートアニオンの塩」が含まれていることを意味するわけではない。
【0026】
有機カチオンの例としては、下記一般式(1)で表されるカチオンが挙げられる。
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。]
上記一般式(1)で表されるカチオンはイミダゾリウムカチオンである。
【0027】
イミダゾリウムカチオンの例としては、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチル-イミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオン、及び、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオンからなる群から選択された少なくとも1種のカチオンが挙げられる。
【0028】
また、有機カチオンとして、一般式(1)で表されるカチオンの他に、ジエチルメチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオンも挙げられる。
【0029】
また、有機カチオンがピリジニウム環を有するカチオンである場合、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオンが挙げられる。
また、有機カチオンがピロリジニウム型カチオンである場合、N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウムカチオンが挙げられる。
【0030】
有機カチオンが、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオン、及び、ジエチルメチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオンからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
上記に例示した有機カチオンとテトラフルオロボレートアニオンとからなる塩の融点の一例は以下のとおりである。
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンの塩:15℃
1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオンの塩:17℃
1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンの塩:-75℃
1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオンの塩:-81℃
ジエチルメチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオンの塩:9℃
1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオンの塩:-30℃
N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウムカチオンの塩:18℃
【0032】
有機カチオンとアニオンの組み合わせの例としては以下の例が挙げられる。
組み合わせの例を、有機カチオン/アニオン の順に示す。
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン/フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオン
1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン/ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン
1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン/ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン
【0033】
本発明の電池用電解質材料は、上記有機カチオンとアニオン以外のイオンを含んでいてもよい。本発明の電池用電解質材料が4級アンモニウム塩(Br塩やCl塩)を含んでいてもよく、4級アンモニウム塩に由来するイオンを含んでいてもよい。4級アンモニウム塩の例としては、塩化グアジニウムや臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)等が挙げられる。
【0034】
本発明の電解液又は電解質膜は、本発明の電池用電解質材料を含む。
本発明の電解液は、本発明の電池用電解質材料と、必要に応じて溶媒を含む。
溶媒としては、非水系溶媒又は水系溶媒を使用することができる。
非水系溶媒としてはエタリン(エチレングリコール(EG)と塩化コリン(ChCl)のモル比2:1混合物)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジシアナミド等が挙げられる。
水系溶媒としては水、アルコール類(エチレングリコール等)の水溶液が挙げられる。また、本発明の電池用電解質材料がイオン液体(常温溶融塩)であって、電池用電解質材料自体を電解液として使用できる場合は、本発明の電解液は溶媒を含まなくてもよい。
【0035】
本発明の電解液は、レドックス種を高濃度で含有することができ、レドックス種を高濃度で含有した場合でもレドックス種のイオン移動性を良好とすることができる。
レドックス種の濃度(電解液1kgあたりのモル数)は0.2mol/kg以上であることが好ましく、0.4mol/kg以上であることがより好ましい。また、1mol/kg以下であることが好ましい。
【0036】
本発明の電池用電解質材料がイオン液体(常温溶融塩)であり、溶媒を含まない場合の電解液中のレドックス種の濃度は、電池用電解質材料1kgあたりの電池用電解質材料のモル数(mol/kg)で表される。
【0037】
本発明の電解液には、本発明の電池用電解質材料、溶媒の他に捕捉化合物等が含まれていてもよい。捕捉化合物は、レドックス対のうちの一方のみを選択的に低温で捕捉し、かつ、高温で放出する物質であり、シクロデキストリン、デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0038】
本発明の電解質膜は、本発明の電池用電解質材料を含む膜であり、その両端(両面)に電極を形成することで熱化学電池とすることができる。
例えば、吸液性を有するセパレータに本発明の電解液を含浸させて電解質膜とすることができる。
【0039】
本発明の熱電変換装置は、本発明の電解液又は電解質膜を含む。
熱電変換装置としては、熱化学電池、レドックスフロー電池、熱電センサー等が挙げられる。
【0040】
熱化学電池としては、本発明の電解液と、本発明の電解液に接触した低温側の第1電極及び高温側の第2電極を備えるものが挙げられる。
電極の材料としては白金又は炭素材料が挙げられる。
熱化学電池の低温側の第1電極を、熱化学電池の設置場所において低温になるような位置とし、かつ、高温側の第2電極を、熱化学電池の設置場所において高温になるような位置とすることで、第1電極と第2電極間の温度差が生じる。この温度差によって、第1電極と第2電極において酸化還元反応が起こり、第1電極と第2電極の間に電位差が生じるので、熱化学電池として作動させることができる。
【0041】
熱化学電池の性能は以下のゼーベック係数(Se)で評価することができる。
Se=ΔE/ΔT
ΔE=高温側と低温側の電位差
ΔT=高温側と低温側の温度差
ゼーベック係数が高いほど起電力が高い熱化学電池であるといえる。
【0042】
また、熱化学電池は、本発明の電解質膜と、前記電解質膜の両端(両面)に形成された電極とからなっていてもよい。
【0043】
レドックスフロー電池の場合は、本発明の電解液をレドックスフロー電池の電解液として使用すればよい。本発明の電解液は、レドックス種を高濃度で含有することができるので、レドックスフロー電池に使用する場合も、エネルギー密度を向上させることができる。
レドックスフロー電池においては2種類の電解液を使用するが、一方の電解液を本発明の電解液とすればよく、他方の電解液は特に限定されない。
【0044】
また、熱電センサーとして使用する場合は、その構成は熱化学電池と同様であるが、第1電極と第2電極についてあらかじめ高温側と低温側という区別はしない。
第1電極と第2電極がそれぞれ触れている物質が異なったり、第1電極と第2電極の周囲の気温が異なったりすると、第1電極と第2電極間の温度差によって、第1電極と第2電極において酸化還元反応が起こり、第1電極と第2電極の間に電位差が生じる。この電位差を検出することで熱電センサーとして使用することができる。
【0045】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0046】
本開示(1)は、レドックス対となるアニオンと、
カウンターイオンである有機カチオンと、を有し、
前記有機カチオンは、テトラフルオロボレートアニオンからなる塩が融点25℃以下の常温溶融塩となる有機カチオンであることを特徴とする、電池用電解質材料である。
【0047】
本開示(2)は、前記有機カチオンが、下記一般式(1)で表されるカチオンである本開示(1)に記載の電池用電解質材料である。
【化2】
[一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。]
【0048】
本開示(3)は、前記有機カチオンが、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオン、及び、ジエチルメチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオンからなる群から選択された少なくとも1種である本開示(1)又は(2)に記載の電池用電解質材料である。
【0049】
本開示(4)は、レドックス対となる前記アニオンが、フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオン、又は、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンである、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の電池用電解質材料である。
【0050】
本開示(5)は、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の電池用電解質材料を含む電解液又は電解質膜である。
【0051】
本開示(6)は、本開示(5)に記載の電解液又は電解質膜を含む熱電変換装置である。
【実施例0052】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0053】
各実施例及び比較例において、表1及び表2に示すように、溶媒、有機カチオン、レドックス種を選定して電解液を調製した。
表1及び表2には、有機カチオンとテトラフルオロボレートアニオン(BF4
-イオン)からなる塩の融点を記載した。
【0054】
表1及び表2に記載した、各実施例及び比較例で使用した物質は以下のとおりである。
溶媒
エタリン:エチレングリコール(EG)と塩化コリン(ChCl)のモル比2:1混合物
DMSO:ジメチルスルホキシド
[EMIM][DCA]:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジシアナミド
有機カチオン
EMIM:1-エチル-3-メチルイミダゾリウム
PMIM:1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム
BMIM:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム
K:カリウムカチオン
TEA:テトラエチルアンモニウムカチオン
レドックス種
[Fe(CN)6]3-/4-:フェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオン
I-/I3-:ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン
【0055】
【0056】
[熱化学電池としての性能評価]
図1は、熱化学電池の性能評価を行う装置の模式図である。
図1には、熱化学電池の性能評価装置1を示している。この装置では、H字のガラス管10に電解液20を入れて、H字の低温側30を氷浴に浸し、H字の高温側40を加熱することでH字の両端に温度差を生じさせる。温度差がついたH字のガラス管10に2本の白金線を入れて、低温側30の白金線を第1電極50、高温側の白金線を第2電極60として、電流電圧計により、熱起電力及び取り出し電流値を測定した。
H字の低温側30及び高温側40の底部にはスターラー70を置いて撹拌を行った。
低温側と高温側の温度差(ΔT)は約100℃とした。
低温側の温度は約20℃、高温側の温度は約120℃である。
【0057】
表1及び表2には、各実施例及び比較例におけるゼーベック係数(Se係数)、取り出し電流値(μA)を示した。
ゼーベック係数(Se係数)は、低温側と高温側の温度差(ΔT)を横軸とし、縦軸を当該温度差の時に生じた端子間の電位差(電流電圧計によりモニタした値)をプロットしたときの傾きから算出した。
取り出し電流値(μA)は、最大温度差(本実験系では約100℃)となった際に、電流電圧計により端子間の電圧を0mV(強制短絡)にした時の値として測定した。
表1及び表2からは、以下のことが理解できる。
【0058】
(溶媒がエタリン(深共晶溶媒)でレドックス種がフェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオンである場合)
有機カチオンとしてKカチオンやTEAカチオンを使用した場合(比較例1、2)と、有機カチオンとしてEMIMカチオンを使用した場合(実施例1、2)を対比すると、熱起電力(Se係数)は同程度であるが、各実施例においては取り出し電流値が大きくなっていた。
電解液の抵抗(Ω)が小さいために取り出し電流値が大きくなったものと推定される。
【0059】
(溶媒が[EMIM][DCA](イオン液体)でレドックス種がフェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオンである場合)
有機カチオンとしてKカチオンを使用した場合(比較例4)と、有機カチオンとしてEMIMカチオンを使用した場合(実施例6)を対比すると、熱起電力(Se係数)は実施例6の方がやや高く、実施例6においては取り出し電流値が大きくなっていた。
電解液の抵抗(Ω)が小さいために取り出し電流値が大きくなったものと推定される。
【0060】
(溶媒がエチレングリコールでレドックス種がフェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオンである場合)
有機カチオンとしてKカチオンを使用した場合(比較例5)と、有機カチオンとしてEMIMカチオンを使用した場合(実施例7)を対比すると、熱起電力(Se係数)は実施例7の方がやや高く、実施例7においては取り出し電流値が大きくなっていた。
電解液の抵抗(Ω)が小さいために取り出し電流値が大きくなったものと推定される。
【0061】
(レドックス種がヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンである場合)
溶媒としてDMSOを使用して、有機カチオンとしてTEAカチオンを使用した場合が比較例3であり、有機カチオンとしてBMIMカチオンを使用した場合が実施例5である。これらの例ではいずれもレドックス種を高濃度(1mol/kg)で溶解させた。実施例5では取り出し電流値が5μAと良好であったが、比較例3では溶液抵抗が高く、電流の取り出しができなかった。
また、実施例3及び4は溶媒を使用していないが、有機カチオンとしてPMIMカチオンやBMIMカチオンを使用した場合、PMIMカチオン又はBMIMカチオンとヨウ化物イオン又は三ヨウ化物イオンからなる塩がいずれも液体(イオン液体)となるため、希釈溶媒を用いずにレドックス種の高濃度化が可能であった。また、実施例3及び4での取り出し電流値も大きくなっていた。
なお、実施例4と5を対比すると、実施例5のようにDMSOで希釈することで粘度減少により実施例4よりも取り出し電流値を高くすることができた。
【0062】
[レドックスフロー電池への使用を想定した性能評価]
レドックスフロー電池への使用を想定して、溶媒にレドックス種としてフェリシアン化物イオンとフェロシアン化物イオンをそれぞれ使用し、カチオンとしてEMIMカチオン又はKカチオンを使用して、レドックス種の溶解度の上限を求めた。
【0063】
溶解度の上限から、レドックスフロー電池における電解液のエネルギー密度[Ah/L]を以下のように算出した。
レドックスフロー電池で生じる反応が
A→A++e-
である場合、
電解液に含まれるレドックス種Aのモル濃度をX[mol/L]とすると、1Lあたりのモル数はXとなるため、取り出せる電子の量はX[mol]×96500[C/mol]=96500×X[C]となる。
1Ahは3600[C]であるので、この電解液のエネルギー密度[Ah/L]は、
96500X[C/L]÷3600[C/Ah]=26.8X[Ah/L]となる。
【0064】
【0065】
溶媒が水の場合、エチレングリコール(有機溶媒)の場合のいずれにおいても、カチオンとしてEMIMカチオンを用いた各実施例において、カチオンとしてKカチオンを用いた各比較例に対してレドックス種の溶解度上限が高くなっていた。溶解度を高くできることから、レドックスフロー電池に使用したときにエネルギー密度を高くできることがわかった。