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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168199
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】貫通用カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
A61M25/00 530
A61M25/00 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084665
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 睦
(72)【発明者】
【氏名】梅山 隼一
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267BB02
4C267BB11
4C267BB38
4C267BB40
4C267BB63
4C267CC09
4C267DD01
(57)【要約】
【課題】血管に形成された狭窄部の貫通性を確保しながら、狭窄部までスムーズに到達可能な柔軟性を有し、さらに術者の操作力を先端部まで伝える力の伝達性及び良好な操作性を持った貫通用カテーテルを提供する。
【解決手段】貫通用カテーテル1は、先端部に設けられたチップ2と、手元部からチップ2まで延びるカテーテル本体10とを備えている。カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度がチップ2に近づけば近づくほど低くなるように設定されている。チップ2の硬度は、カテーテル本体10の先端部の硬度よりも高く設定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管に挿入され、血管内の狭窄部を貫通する貫通用カテーテルであって、
先端部に設けられたチップと、
手元部から前記チップまで延びるカテーテル本体とを備え、
前記カテーテル本体を構成する樹脂材の硬度が前記チップに近づけば近づくほど低くなるように設定され、
前記チップの硬度は、前記カテーテル本体の先端部の硬度よりも高く設定されていることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項2】
請求項1に記載の貫通用カテーテルにおいて、
前記カテーテル本体は、第1樹脂材と、前記第1樹脂材よりも硬度の低い第2樹脂材とが混合された混合材で構成され、
前記第2樹脂材の含有量が前記チップに近づけば近づくほど多くなるように設定されていることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項3】
請求項2に記載の貫通用カテーテルにおいて、
前記カテーテル本体の先端部は前記第2樹脂材で構成されていることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項4】
請求項2に記載の貫通用カテーテルにおいて、
前記第1樹脂材の含有量が手元部に近づけば近づくほど多くなるように設定されていることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項5】
請求項4に記載の貫通用カテーテルにおいて、
前記カテーテル本体を構成する樹脂材の硬度が前記チップに近づけば近づくほど低くなるように設定されている領域は、前記カテーテル本体の全長のうち、先端側の1/3未満の領域であることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項6】
請求項1に記載の貫通用カテーテルにおいて、
前記チップは、放射線不透過性金属の粉体または粒体が混合された樹脂材で構成されていることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項7】
血管に挿入され、血管内の狭窄部を貫通する貫通用カテーテルであって、
先端部に設けられたチップと、
手元部から前記チップまで延びるカテーテル本体とを備え、
前記カテーテル本体の先端側の部分は、少なくとも2種類の硬度の異なる樹脂材を混合させることによって前記チップに近づけば近づくほど硬度が低くなるように前記チップに至るまで連続して構成され、
前記チップの硬度は、前記カテーテル本体の先端部の硬度よりも高く設定されていることを特徴とする貫通用カテーテル。
【請求項8】
請求項7に記載の貫通用カテーテルにおいて、
前記硬度の異なる樹脂材を混合させることによって構成された部分は、前記カテーテル本体の先端部から基端側へ200mm以下の範囲に存在していることを特徴とする貫通用カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば動脈、静脈、シャントの狭窄部等へのガイドワイヤの通過が困難な患者に対して経皮的血管形成術を実施する場合に、ガイドワイヤの通過部を確保するために使用される狭窄部貫通用カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば動脈の一部に狭窄部ができて血行障害が起こった閉塞性動脈硬化症の患者に対しては、経皮的血管形成術が実施される場合がある。経皮的血管形成術では、ガイドワイヤを通した貫通用カテーテルを用意し、この貫通用カテーテルを患者の穿刺箇所から血管に挿入して狭窄部まで到達させてから狭窄部の貫通処置を行う。狭窄部が貫通した後、ガイドワイヤを残した状態で貫通用カテーテルを抜去し、その後、例えばバルーンカテーテル等を狭窄部まで挿入して狭窄部を拡張させて血流を確保する。
【0003】
特許文献1には、上記狭窄部を貫通する際に使用される貫通用カテーテルが開示されている。特許文献1の貫通用カテーテルは、カテーテル本体と、タングステン粉末を含有した先端チップとを備えている。先端チップは、先端領域と基端領域とで構成されており、先端領域の硬度を基端領域の硬度よりも高く設定することで、狭窄部への挿入性を向上させるとともに、狭窄部への挿入後における先端領域の潰れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/146026号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、貫通用カテーテルは、血管の複雑な形状に追従しながら挿入部位から狭窄部までスムーズに到達するための柔軟性と、術者の手元部での操作力を先端部まで伝える力の伝達性との両立が必要となる。さらに、上述した柔軟性を必要とする一方で、狭窄部でガイドワイヤをサポートしながら進めることが可能な貫通性も必要であり、相反する性能の両立が必要となる。
【0006】
ここで、近年、石灰化の進んだ狭窄部で貫通用カテーテルを用いた貫通処置に難渋するケースが増加しており、貫通用カテーテルにはより強い貫通性及び直進性が求められている。より強い貫通性及び直進性を得るには、硬度の高い樹脂でカテーテル本体を成形すればよいのであるが、そうするとカテーテル本体の柔軟性がなくなるので狭窄部までの到達性が劣る結果となる。
【0007】
そこで、例えば特許文献1のように先端領域の硬度を高く、基端領域の硬度を低くする構成が考えられる。しかしながら、硬度の異なる樹脂を接合した場合には、接合箇所において硬度が急激に変化することになるので、術者が意図したとおりの力を先端部へ伝えにくくなり、操作性、貫通性、直進性が劣ってしまう。
【0008】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、血管に形成された狭窄部の貫通性を確保しながら、狭窄部までスムーズに到達可能な柔軟性を有し、さらに術者の操作力を先端部まで伝える力の伝達性及び良好な操作性を持った貫通用カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本態様では、血管に挿入され、血管内の狭窄部を貫通する貫通用カテーテルを前提とすることができる。貫通用カテーテルは、先端部に設けられたチップと、手元部から前記チップまで延びるカテーテル本体とを備えている。前記カテーテル本体を構成する樹脂材の硬度が前記チップに近づけば近づくほど低くなるように設定されている。また、前記チップの硬度は、前記カテーテル本体の先端部の硬度よりも高く設定されている。
【0010】
この構成によれば、カテーテル本体の硬度が先端部に向かって徐々に低くなっているので、血管の複雑な形状に追従しながら挿入部位から狭窄部までスムーズに到達可能な柔軟性をカテーテル本体に持たせることができるとともに、従来例の硬度が異なる樹脂を接合した場合のように硬度が途中で急激に変化しないので、術者が意図したとおりの力を先端部へ伝えることができる。さらに、貫通用カテーテルの先端部に位置するチップの硬度がカテーテル本体の先端部の硬度よりも高いので、例えば石灰化の進んだ狭窄部であっても貫通可能な貫通性を持たせることができる。
【0011】
また、前記カテーテル本体は、第1樹脂材と、前記第1樹脂材よりも硬度の低い第2樹脂材とが混合された混合材で構成されていてもよい。この場合、前記第2樹脂材の含有量が前記チップに近づけば近づくほど多くなるように設定されているので、樹脂材の含有量を調整することにより、硬度が途中で急激に変化しないカテーテル本体を得ることができる。尚、前記混合材には、第1樹脂材及び第2樹脂材とは異なる第3樹脂材が混合されていてもよい。
【0012】
また、前記カテーテル本体の先端部は前記第2樹脂材で構成されていてもよい。これにより、カテーテル本体の先端部を柔らかくすることができ、操作性が良好になるとともに、複雑な形状の血管への追従性が良好になる。
【0013】
また、前記第1樹脂材の含有量が手元部に近づけば近づくほど多くなるように設定されていることで、カテーテル本体の手元部側の硬度を高くすることができる。これにより、術者が意図したとおりの力を先端部に伝達できるようになる。
【0014】
また、前記カテーテル本体を構成する樹脂材の硬度が前記チップに近づけば近づくほど低くなるように設定されている領域は、前記カテーテル本体の全長のうち、先端側の1/3未満の領域とすることができる。これにより、カテーテル本体の硬度が低い領域を、柔軟性が必要な先端側に限定し、残りの2/3以上の領域の硬度を高めて術者が意図したとおりの力を先端部に伝達し易くなる。
【0015】
前記チップは、放射線不透過性金属の粉体または粒体が混合された樹脂材で構成されていてもよい。これにより、カテーテル本体の先端部よりも硬いチップを得ることができるとともに、放射線造影下でチップの視認性を高めて手技が安全に行えるようになる。
【0016】
また、前記カテーテル本体の先端側の部分は、少なくとも2種類の硬度の異なる樹脂材を混合させることによって前記チップに近づけば近づくほど硬度が低くなるように前記チップに至るまで連続して構成されていてもよい。前記硬度の異なる樹脂材を混合させることによって構成された部分は、特に限定されるものではないが、前記カテーテル本体の先端部から基端側へ200mm以下の範囲に存在していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、カテーテル本体を構成する樹脂材の硬度がチップに近づけば近づくほど低くなるようにし、チップの硬度をカテーテル本体の先端部の硬度よりも高くしたので、血管内の狭窄部の貫通性を確保しながら、狭窄部までスムーズに到達可能な柔軟性を貫通用カテーテルに持たせることができ、さらに術者の操作力を先端部まで伝える際の力の伝達性及び良好な操作性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る貫通用カテーテルの側面図である。
図2】貫通用カテーテルの先端側を拡大して示す側面図である。
図3】カテーテル本体の柔軟性を示すグラフである。
図4】カテーテル本体の先端側の柔軟性を示すグラフである。
図5】プッシャビリティ(押込力)を示すグラフである。
図6】閉塞性動脈硬化症の患者に対して経皮的血管形成術を実施する場合を説明する図である。
図7】FIG.7Aは狭窄部の内部にガイドワイヤの先端部を差し込んだ状態を示し、FIG.7Bは狭窄部を貫通用カテーテルによって貫通した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る貫通用カテーテル1の側面図であり、図2は、貫通用カテーテル1の先端側を拡大して示す側面図である。貫通用カテーテル1は、当該貫通用カテーテル1の先端部に設けられたチップ2と、長尺状のカテーテル本体10と、コネクタ部20とを備えており、例えば閉塞性動脈硬化症の患者に対して経皮的血管形成術を実施する場合等に使用される医療器具である。具体的には、貫通用カテーテル1は、部分的に狭窄部ができた血管に挿入され、血管内の狭窄部を貫通して狭窄部内の血流路を拡張し、当該血流路にバルーンカテーテルやステント留置用カテーテルを挿入可能にするための器具である。狭窄部は、石灰化している場合もある。尚、貫通用カテーテル1は、閉塞性動脈硬化症の患者以外にも使用することも可能であり、使用対象となる患者は特に限定されない。
【0021】
この実施形態の説明では、貫通用カテーテル1の術者側を手元側といい、手元側と反対側を先端側というものとする。貫通用カテーテル1の手元側は基端側または近位側ということもでき、また貫通用カテーテル1の先端側は遠位側ということもできる。
【0022】
コネクタ部20は、貫通用カテーテル1の手元部を構成する部分であり、施術時には患者の体外に配置される。コネクタ部20は例えば硬質樹脂材等で構成された筒状をなしている。コネクタ部20の基端部には、他の医療器具が接続され、接続された他の医療器具によってガイドワイヤG(図2に一部のみ示す)が貫通用カテーテル1に挿通されるようになっている。ガイドワイヤGは、特に限定されるものではないが、例えば直径が0.014インチまたは0.018インチ等、細いものを用いることができる。
【0023】
カテーテル本体10は、細長い管状をなしており、シャフトとも呼ばれる部分である。カテーテル本体10の基端部は、コネクタ部20の先端部に対して気密性及び液密性を持った状態で接続されている。カテーテル本体10の内部とコネクタ部20の内部とは連通している。図2に示すように、カテーテル本体10の内部には、ガイドワイヤGが挿通可能な通路11が形成されている。通路11は、カテーテル本体10の先端部から基端部まで連続している。
【0024】
カテーテル本体10は、コネクタ部20の先端部からチップ2まで延びている。カテーテル本体10の長さLは、カテーテル本体10の先端部からコネクタ部20の先端部までの寸法と定義することができる。カテーテル本体10の長さLは、特に限定されるものではないが、例えば600mm以上1800mm以下の範囲で設定されている。
【0025】
カテーテル本体10は樹脂材で構成されており、カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度はチップ2に近づけば近づくほど低くなるように設定されている。具体的には、カテーテル本体10は、第1樹脂材と、第1樹脂材よりも硬度の低い第2樹脂材とが混合された混合材で構成されている。この場合、混合材における第1樹脂材の割合を増やしていくと硬度が高まり、反対に第2樹脂材の割合を増やしていくと硬度が低くなるので、混合材における第1樹脂材の割合または第2樹脂材の割合を変えることで、ほぼ無段階にカテーテル本体10の硬度を変えることができる。尚、カテーテル本体10を構成する樹脂材として、第1樹脂材及び第2樹脂材とは異なる第3樹脂材や第4樹脂材がふくまれていてもよい。
【0026】
カテーテル本体10を構成する樹脂材中の第2樹脂材の含有量は、チップ2に近づけば近づくほど多くなるように設定されている。言い換えると、カテーテル本体10を構成する樹脂材中の第1樹脂材の含有量が貫通用カテーテル1の手元部に近づけば近づくほど多くなるように設定されている。これにより、カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度はチップ2に近づけば近づくほど低くなる。
【0027】
このようなカテーテル本体10は、例えば押出成形によって得ることが可能である。図示しないが、材料が押し出される口金よりも上流側で第1樹脂材と第2樹脂材とを混ぜ合わせて口金に供給することで、混合材が口金によって成形されてカテーテル本体10が得られる。このとき、口金よりも上流側で第1樹脂材の含有量または第2樹脂材の含有量を連続的に変更することで、混合材における第1樹脂材の割合または第2樹脂材の割合を変えることができる。第2樹脂材の含有量が先端部に近づけば近づくほど多くなるように第1樹脂材の割合または第2樹脂材の割合を変えることで、カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度がチップ2に近づけば近づくほど低くなる。反対に、第1樹脂材の含有量が手元部に近づけば近づくほど多くなるように第1樹脂材の割合または第2樹脂材の割合を変えることで、カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度がチップ2に近づけば近づくほど低くなる。これにより、カテーテル本体10の硬度が先端部に近くなるにつれて低くなるように徐々に変化させること、及びカテーテル本体10の硬度が手元側に近くなるにつれて高くなるように徐々に変化させることができる。
【0028】
すなわち、カテーテル本体10の先端側の部分(領域R1)は、少なくとも2種類の硬度の異なる樹脂材を混合させることによってチップ2に近づけば近づくほど硬度が低くなるようにチップ2に至るまで連続して構成されている。これにより、領域R1は、接続部が存在せず、樹脂のグラデーションによって徐々に硬度が変化する構造とすることができる。
【0029】
カテーテル本体10の先端部を構成する樹脂材は、第2樹脂材であってもよい。これにより、カテーテル本体10の先端部の硬度を十分に低くすることができる。尚、カテーテル本体10の先端部を構成する樹脂材には、第1樹脂材が含まれていてもよい。
【0030】
また、カテーテル本体10の手元部を構成する樹脂材は、第1樹脂材であってもよい。これにより、カテーテル本体10の手元部の硬度を十分に高くすることができる。尚、カテーテル本体10の手元部を構成する樹脂材には、第2樹脂材が含まれていてもよい。
【0031】
第1樹脂材及び第2樹脂材は、特に限定されるものではないが、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン等のうち、任意の一または複数で構成されている。
【0032】
カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度がチップ2に近づけば近づくほど低くなるように設定されている領域R1は、カテーテル本体10の全長のうち、先端側の1/3未満の領域とされている。カテーテル本体10の領域R1以外の領域R2は、全体が同じ硬度の樹脂材で構成されている。本実施形態では、カテーテル本体10の領域R2の硬度は、カテーテル本体10の領域R1の基端部の硬度と同じ硬度となっている。尚、領域R1は、カテーテル本体10の全長のうち、先端側の1/4未満であってもよいし、1/5未満であってもよい。また、領域R1の長さL1の下限は、例えば50mm以上、100mm以上とすることができる。領域R1の長さL1の上限は、300mm以下、200mm以下とすることができる。
【0033】
チップ2は、放射線不透過性金属の粉体または粒体が混合された樹脂材で構成されている。放射線不透過性金属としては、例えばタングステン、プラチナ、金、バリウム、チタン、イリジウム、ステンレス等を挙げることができ、これらのうち、任意の一または任意の複数を組み合わせたものを樹脂材に混合させることで、放射線不透過のチップ2を得ることができる。放射線不透過性金属は、粉体または粒体に限られるものではなく、リング状に成形されていてもよい。また、チップ2を構成する樹脂材は、1種であってもよいし、2種以上が混合されていてもよい。
【0034】
チップ2の硬度は、カテーテル本体10の先端部の硬度よりも高く設定されている。具体的には、チップ2は、カテーテル本体10を構成している第1樹脂材の硬度または第1樹脂材よりも高い硬度を持っている。このような樹脂材としては、例えばタングステン粉末を混練したポリアミド等を挙げることができる。タングステン粉末を混練することで、チップ2の全体が放射線不透過になるので、放射線透視下における視認性が向上する。
【0035】
図2に示すように、チップ2の外周面は先端に向かって縮径するテーパ面2aで構成されている。チップ2の内部には、ガイドワイヤGが挿通する挿通孔2bが形成されている。挿通孔2bの基端部は、カテーテル本体10の通路11と連通している。また、挿通孔2bの先端部は、チップ2の先端面に開口しており、この開口からガイドワイヤGが突出するようになっている。チップ2の長さの下限は、例えば1mm以上とすることができる。チップ2の長さの上限は、例えば15mm以下とすることができる。チップ2の長さの範囲は、好ましい範囲として4mm以上10mm以下の範囲とすることができる。
【0036】
(カテーテル本体の柔軟性)
図3は、カテーテル本体10の柔軟性を示すグラフであり、三点曲げ試験の結果を示している。金属板を引張試験機にセットした後、圧縮速度30mm/minで金属板を移動させ、固定されたカテーテル本体10に押し付ける。このときに発生するカテーテル本体10による反力を引張試験機で測定し、グラフにプロットした。カテーテル本体10の硬度が高まると柔軟性が低下し、硬度が低くなると柔軟性が高まる関係にあるので、縦軸の数値が低いほど高い柔軟性を持っていることになる。
【0037】
図3のグラフの横軸は、カテーテル本体10の先端部からの距離(mm)であり、左端がカテーテル本体10の先端部を示し、右端がカテーテル本体10の基端部を示している。図3のグラフの縦軸は、力(N:ニュートン)である。図4は、図3の横軸の0~400(mm)の範囲を拡大したものである。
【0038】
図3及び図4に示す例では、カテーテル本体10の領域R1の長さL1は、先端部から基端側へ200mmの領域(0~200mmの領域)であり、領域R2は、200~1400mmの領域である。領域R1の領域は全長の1/3以下であって、全長の5%以上30%以下が望ましい。尚、一例を示すと、カテーテル本体10の長さLが800mmの場合、領域R1の長さL1は例えば100mm以上200mm以下の範囲で設定することができる。また、カテーテル本体10の長さLが1500mmの場合、領域R1の長さL1は例えば100mm以上200mm以下の範囲で設定することができる。
【0039】
図3及び図4に示すように、カテーテル本体10の領域R1の柔軟性は先端部に近づけば近づくほど高くなっている。また、カテーテル本体10の領域R1の基端部の柔軟性を示す力の大きさは、約4.2Nであるのに対して、カテーテル本体10の領域R1の先端部の柔軟性を示す力の大きさは、約1.3Nである。このように、カテーテル本体10の領域R1の先端部の柔軟性は、基端部の柔軟性の2倍以上、または3倍以上に設定されている。これにより、カテーテル本体10の領域R1の先端部の柔軟性が十分に確保される。カテーテル本体10の領域R1の基端部の柔軟性を示す力の大きさは、例えば5N以下、または4N以下とすることができ、3N以上とすることができる。カテーテル本体10の領域R1の先端部の柔軟性を示す力の大きさは、例えば2N以下、または1.5N以下とすることができる。
【0040】
図5は、カテーテル本体10のプッシャビリティ(押込力)を示すグラフである。横軸は、図3図4と同じであり、カテーテル本体10の先端部からの距離(mm)を示している。縦軸は、力(N:ニュートン)である。カテーテル本体10を引張試験にセットした後、圧縮速度100mm/minでカテーテル本体10を移動させ、チップ2を、固定された金属板等に押し付ける。このときに発生するカテーテル本体10による反力を引張試験で測定し、グラフにプロットした。図5に示すように、チップ2が硬いのでカテーテル本体10の先端部の押込力は高くなっている。
【0041】
(貫通用カテーテルの使用方法)
図6は、閉塞性動脈硬化症の患者に対して経皮的血管形成術を実施する場合を説明する図である。例えば左の下肢の血管100に狭窄部101ができている場合には、右の下肢に切開部103を形成し、貫通用カテーテル1をその先端側(チップ2側)から血管104に挿入する。このときガイドワイヤGをカテーテル本体10に挿通しておく。放射線(X線)造影下でチップ2を視認しながら、左の下肢の目的とする血管100へ到達させる。このとき、カテーテル本体10の硬度が先端部に向かって徐々に低くなっているので、血管100、104の複雑な形状に追従しながら挿入部位から狭窄部101までスムーズに到達させることができる。また、硬度が途中で急激に変化しないので、術者が意図したとおりの力を先端部(チップ2)へ伝えることができ、操作性が良好である。
【0042】
操作性は、トルク試験によって評価を行った。トルク試験では、カテーテル本体10の基端部と先端部とを試験装置(図示せず)に固定し、カテーテル本体10の基端部を回転させ、カテーテル本体10の基端部の回転力がカテーテル本体10の先端部へ伝導されたときに当該先端部で検出された値(回転力)に基づいて評価を行った。
【0043】
図7のFIG.7Aに示すように、ガイドワイヤGの先端部を狭窄部101の内部に入れてから、FIG.7Bに示すようにカテーテル本体10をガイドワイヤGと一緒に狭窄部101に押し込む。このとき、カテーテル本体10の先端側のプッシャビリティが高く、かつ、チップ2の硬度が高いので、石灰化した狭窄部101であっても、チップ2を狭窄部101に押し込んでいくことができ、狭窄部101を貫通させることができる。
【0044】
その後、図示しないがガイドワイヤGを留置した状態で貫通用カテーテル1を抜去し、バルーンカテーテルやステント留置用カテーテルを挿入して狭窄部101を拡張させる。
【0045】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、カテーテル本体10を構成する樹脂材の硬度がチップ2に近づけば近づくほど低くなるように設定され、チップ2の硬度は、カテーテル本体10の先端部の硬度よりも高く設定されているので、血管100、104の複雑な形状に追従しながら挿入部位から狭窄部101までスムーズに到達可能な柔軟性をカテーテル本体10に持たせることができるとともに、硬度が途中で急激に変化しないので、術者が意図したとおりの力をチップ2へ伝えることができ、操作性が高まる。さらに、貫通用カテーテル1の先端部に位置するチップ2の硬度がカテーテル本体10の先端部の硬度よりも高いので、例えば石灰化の進んだ狭窄部101であっても貫通可能な貫通性を持たせることができる。加えて、従来のカテーテルと異なり、連結部が存在せず複数の樹脂材のグラデーションで成形されていることから、中折れなどのリスクを低減しつつ、先端まで力を伝えることができる。
【0046】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。例えば 、今回カテーテルの使用方法にて、下肢の血管狭窄部への使用方法を記載したが、これに限らず、上肢等の血管の狭窄部であっても使用することは可能である。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明に係る貫通用カテーテルは、例えば動脈、静脈、シャントの狭窄部等へのガイドワイヤの通過が困難な患者に対して経皮的血管形成術を実施する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 貫通用カテーテル
2 チップ
10 カテーテル本体
100 血管
101 狭窄部
G ガイドワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7