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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168203
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ゴムと金属との接着性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/085 20180101AFI20241128BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20241128BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241128BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01N23/085
G01N23/046
C08L9/00
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084681
(22)【出願日】2023-05-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業CREST研究課題名「反応リマスターによるエコ材料開発のフロンティア共創」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鹿久保 隆志
(72)【発明者】
【氏名】唯 美津木
(72)【発明者】
【氏名】松井 公佑
(72)【発明者】
【氏名】ダム ヒョウチ
【テーマコード(参考)】
2G001
4J002
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA13
2G001CA01
2G001FA02
2G001FA06
2G001HA03
2G001HA14
2G001JA08
2G001KA01
2G001LA02
2G001LA05
2G001MA04
2G001NA13
2G001NA17
2G001PA12
2G001RA03
4J002AC001
4J002DA047
4J002DA076
4J002DA106
4J002DB006
4J002FD147
4J002FD156
4J002GN01
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】湿熱老化による金属と加硫ゴムとの接着性の変化具合をより明確に把握できるゴムと金属との接着性の評価方法を提供する。
【解決手段】試料10を用いる初期測定工程S110と湿熱老化処理された試料10を用いる処理後測定工程S130とを実行して3次元空間分解X線吸収微細構造解析により取得したそれぞれの3次元像データD1、D2を利用して、同一の粒状体についてその粒状体に存在する異なる成分のそれぞれの粒子の検出強度、検出頻度を測定結果として得て、機械学習を用いてそれぞれの測定結果を演算装置3によりデータ処理することにより、それぞれの同一の粒状体での異なる成分のそれぞれの粒子の湿熱老化処理の前後での特徴を示す特徴点がプロットされた散布図データD3を作成し、作成した散布図データD3を用いて加硫ゴムと金属との接着性を評価する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属が含まれた未加硫ゴムを加硫した加硫ゴムを試料として、3次元空間分解X線吸収微細構造解析により、前記試料に存在する前記金属を由来とする金属成分を有する複数の粒状体の3次元像データを取得して、取得した前記3次元像データを利用するゴムと金属との接着性の評価方法において、
それぞれの前記粒状体について、前記金属成分が異なる金属化合物および同一種類の前記金属成分でその価数が異なる金属化合物をそれぞれ異なる成分の粒子として扱い、
前記試料を用いる初期測定工程と、この初期測定工程後に湿熱老化処理された前記試料を用いる処理後測定工程とを実行して、それぞれの前記測定工程では、それぞれの前記3次元像データを取得して、取得したそれぞれの前記3次元像データを用いて、同一の前記粒状体についてその粒状体に存在する異なる前記成分のそれぞれの前記粒子の検出強度および検出頻度を測定結果として得て、
機械学習を用いてそれぞれの前記測定工程でのそれぞれの前記粒状体についての前記測定結果を演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの同一の前記粒状体での異なる前記成分のそれぞれの前記粒子の前記湿熱老化処理の前後での特徴を示す特徴点がプロットされた散布図データを作成し、
作成した前記散布図データを用いて前記加硫ゴムと前記金属との接着性を評価するゴムと金属との接着性の評価方法。
【請求項2】
前記未加硫ゴムの配合または/および加硫条件を異ならせた多数種類の前記加硫ゴムを前記試料として用いて、それぞれの前記試料についての前記散布図データを取得しておき、それぞれの前記散布図データに基づいて、前記配合または/および前記加硫条件と前記接着性の変化具合との関係を把握する請求項1に記載のゴムと金属との接着性の評価方法。
【請求項3】
前記散布図データの作成では、前記機械学習を用いてそれぞれの前記測定工程でのそれぞれの前記粒状体についての前記測定結果を前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記粒状体についての前記湿熱老化処理の前後でのそれぞれの異なる前記成分に関する前記特徴を示す特徴量を多数種類の前記特徴について抽出し、抽出したそれぞれの前記特徴に対する主成分分析による次元削減を行って得られた主成分得点を前記特徴点として用いる請求項1または2に記載のゴムと金属との接着性の評価方法。
【請求項4】
前記試料として、粒子径1μm以上100μm以下の金属粉末が0.5質量%以上10質量%以下配合されている前記加硫ゴムを用いる請求項1または2に記載のゴムと金属との接着性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムと金属との接着性の評価方法に関し、より詳しくは、湿熱老化による金属と加硫ゴムとの接着性の変化具合をより明確に把握できるゴムと金属との接着性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム製品にはスチールコードなどの金属材料が使用されている。金属材料と加硫ゴムとの接着性は湿熱老化により大きな影響を受ける。例えば、ブラス(真鍮)めっきスチールコードのブラス成分や硫化金属層の銅成分や亜鉛化合物がイオン化して加硫ゴム中に拡散することで接着性が低下する。
【0003】
本願発明者らは、金属成分がゴム中に拡散して増減する様子をコンピュータトモグラフィ-X線吸収微細構造解析により3次元的に定量し評価する方法を提案している(特許文献1参照)。特許文献1で提案されている発明では、コンピュータトモグラフィ-X線吸収微細構造解析により得られた金属成分の粒子の3次元像を用いてゴム中の金属成分の増減をミクロ的に把握する。得られた3次元像からは粒子の組成、粒子径(球相当径)、粒子形状、粒子の密度などの様々なパラメータを得ることができる。しかしながら、湿熱老化による接着性と変化具合は、様々なパラメータが複雑に関連するので把握することが難しい。それ故、湿熱老化による加硫ゴムと金属との接着性の変化具合をより明確に把握するには更なる工夫が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-188741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、湿熱老化による金属と加硫ゴムとの接着性の変化具合をより明確に把握できるゴムと金属との接着性の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のゴムと金属との接着性の評価方法は、金属が含まれた未加硫ゴムを加硫した加硫ゴムを試料として、3次元空間分解X線吸収微細構造解析により、前記試料に存在する前記金属を由来とする金属成分を有する複数の粒状体の3次元像データを取得して、取得した前記3次元像データを利用するゴムと金属との接着性の評価方法において、それぞれの前記粒状体について、前記金属成分が異なる金属化合物および同一種類の前記金属成分でその価数が異なる金属化合物をそれぞれ異なる成分の粒子として扱い、前記試料を用いる初期測定工程と、この初期測定工程後に湿熱老化処理された前記試料を用いる処理後測定工程とを実行して、それぞれの前記測定工程では、それぞれの前記3次元像データを取得して、取得したそれぞれの前記3次元像データを用いて、同一の前記粒状体についてその粒状体に存在する異なる前記成分のそれぞれの前記粒子の検出強度および検出頻度を測定結果として得て、機械学習を用いてそれぞれの前記測定工程でのそれぞれの前記粒状体についての前記測定結果を演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの同一の前記粒状体での異なる前記成分のそれぞれの前記粒子の前記湿熱老化処理の前後での特徴を示す特徴点がプロットされた散布図データを作成し、作成した前記散布図データを用いて前記加硫ゴムと前記金属との接着性を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、前記散布図データにプロットされたそれぞれの特徴点は、湿熱老化処理の前後でのそれぞれの粒状体における金属成分のそれぞれの異なる成分の状態としてその体積や質量を表している。即ち、前記散布図データでの金属成分の異なる成分毎のそれぞれの特徴点を、湿熱老化処理の前後で比較することにより、試料でのそれぞれの金属成分のイオン化の進行やゴムの硫黄との硫化反応の進行の度合いを把握できる。したがって、前記散布図データを作成することにより、湿熱老化による加硫ゴムと金属との接着性の変化具合を視覚的により明確に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】評価システムを例示する説明図である。
図2】湿熱老化処理前の粒状体の3次元像データを例示する説明図である。
図3】湿熱老化処理後の粒状体の3次元像データを例示する説明図である。
図4】ゴムと金属の接着性の評価方法の実施形態の手順を例示するフロー図である。
図5】初期測定工程での測定結果データを例示する説明図である。
図6】処理後測定工程での測定結果データを例示する説明図である。
図7】初期測定工程での特徴データを例示する説明図である。
図8】散布図データを例示する説明図である。
図9】別の散布図データを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のゴムと金属との接着性の評価方法を、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1に例示する評価システム1は、ゴムと金属との接着性の評価方法を実施するために使用される。この評価方法では、3次元空間分解X線吸収微細構造イメージング解析装置2(以下、XAFSイメージング解析装置2)を用いて取得した、試料10に含まれる粒状体の3次元像データD1、D2(後述する図2、3)を利用した測定を行う。この測定では、初期測定工程(後述する図4に例示する初期測定工程S110)と処理後測定工程(後述する図4に例示する処理後測定工程S130)とを行う。次いで、それぞれの測定で得られた測定結果を演算装置3により機械学習を用いてデータ処理することにより、後述する図8に例示する散布図データD3を作成する。そして、作成された散布図データD3を用いて加硫ゴムと金属との接着性を評価する。
【0011】
まず、評価システム1について説明する。
【0012】
評価システム1は、XAFSイメージング解析装置2および演算装置3を備えている。演算装置3は種々のデータが入力、記憶され、これらデータを用いてデータ処理を行う。演算装置3は公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置3は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えば、HDD)、入力部(キーボード、マウス)、および、出力部(ディスプレイ)を有している。
【0013】
XAFSイメージング解析装置2は、3次元空間分解X線吸収微細構造解析により試料10のX線吸収スペクトルを測定、解析する公知のXAFSイメージング解析装置を用いることができる。3次元空間分解X線吸収微細構造解析には、コンピュータトモグラフィ-X線吸収微細構造解析法などの公知の種々の手法を用いることができる。
【0014】
試料10には、金属が含まれた状態の未加硫ゴムを加硫することにより製造された金属ゴム複合材料が用いられる。試料10の加硫ゴムの中には、金属に由来する金属成分を有する粒状体が多数、存在している。それぞれの粒状体には、一種類の金属成分の粒子(0価の金属成分の粒子)と、その金属成分とゴムの硫黄との金属化合物の粒子(1価、2価などの金属成分の粒子)と、が含まれている。この試料10のような金属ゴム複合材料は、例えば、タイヤなどのゴム製品におけるブラスめっきスチールコードに接触した加硫ゴムの状態を概ね再現している。したがって、この試料10でのゴムと金属との接着性の湿熱老化による変化具合を把握してその接着性を評価することで、湿熱老化に対して接着性を改善させる対策を見出すことが可能となる。
【0015】
試料10は、例えば、粒子径(長径)1μm以上100μm以下の金属粉末が0.5質量%以上10質量%以下配合されている加硫ゴムである。金属粉末は、銅および亜鉛の少なくとも一方を含むことが好ましく、銅および亜鉛の両方を含んでもよい。金属粉末は、例えば、銅50質量%以上90質量%以下、亜鉛50質量%以下10質量%以上からなる黄銅の粉末であるとよい。このような黄銅粉末が配合されている試料10を評価することにより、タイヤなどのゴム製品におけるブラスめっきスチールコードと加硫ゴムとの接着性をゴム製品の実体に即してより忠実に評価することができる。
【0016】
未加硫ゴムは、原材料となるゴム成分(ポリマー)が、硫黄を含む架橋剤により架橋可能なゴム成分であればよく、天然ゴム(NR)、あるいは、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などの合成ゴムが例示される。架橋剤としては、少なくとも硫黄を含んでいればよく、硫黄とパーオキサイドなどの有機過酸化物とを併用してもよい。未加硫ゴムには、架橋剤以外の添加剤として、例えば、架橋促進剤(加硫促進剤)、充填剤(シリカやカーボンブラックなど)、老化防止剤、難燃剤、補強材、および、着色剤などが配合されていてもよい。
【0017】
試料10の加硫具合は、所望の程度に設定して、金属成分とゴムに含まれる硫黄とが硫化反応して生成された金属化合物を含む粒状体が存在していればよい。試料10の加硫ゴムには、金属成分(例えば、銅と亜鉛)が異なる多数の粒状体が存在している。また、同一種類の金属成分を含む粒状体にその金属成分の価数が異なる金属化合物が含まれる場合、それぞれの金属化合物を成分が異なる個別の粒子として扱う。例えば、加硫ゴム中の銅成分を含む粒状体では、その粒状体に0価の銅成分(Cu)としてCu、1価の銅成分(Cu)としてCuS、2価の銅成分(Cu2+)としてCuSのそれぞれの粒子が存在する場合がある。その場合には、それぞれを異なる成分の個別の粒子として扱う。したがって、銅成分を含む粒状体では、0価の銅成分(Cu)、1価の銅成分(Cu)、2価の銅成分(Cu2+)のそれぞれの粒子を成分が異なる三つの個別の粒子として扱う。同様に、亜鉛成分を含む粒状体では、0価の亜鉛成分(Zn)としてZn、2価の亜鉛成分(Zn2+)としてZnSのそれぞれの粒子を成分が異なる二つの個別の粒子として扱う。このように、同一種類の金属成分を含む粒状体に存在するその金属成分の価数が異なる金属化合物を、成分が異なる個別の粒子として扱うことで、金属ゴム複合材料の湿熱老化前後での金属成分の価数変化(イオン化や硫化反応)を正確に把握する。
【0018】
XAFSイメージング解析装置2を用いた測定では、試料10に存在するそれぞれの粒状体の3次元像データ(後述する図2、3に例示する3次元像データD1、D2)を取得して、取得した3次元像データD1、D2から粒状体における異なる成分のそれぞれの粒子の検出強度、検出頻度を測定して、測定結果として得ている。3次元像データD1、D2を取得する方法では、例えば、試料10が収納されたチューブ11を検体として用いて、その検体を回転させながら、X線吸収微細構造解析を行う。検体は、直径100μm~2mmの円柱形の試料10を作成して、作成したその試料をポリイミドフィルムで構成された中空のチューブ11に収納して作成される。検体をX線の光軸に対して±90度の角度にて微小角度ごとに回転させてX線を照射する。X線の照射エネルギーは、試料10の金属粉末として銅および亜鉛の粉末を用いる場合に、銅のK吸収端(K殻吸収端)である8857eVから9357eVを含み、亜鉛のK吸収端である9640eVから9700eVを含み、さらに詳細な化学情報を得るためにこれらの吸収端からさらに+50eV~+1500eVの領域を併せるとよい。
【0019】
XAFSイメージング解析装置2を用いた3次元像データD1、D2の取得条件は、特に制限されるものではなく、例えば、以下のように行うことができる。検体にX線を照射して、X線のエネルギーを上げていくと、試料10の金属成分のK吸収端のエネルギーでX線の吸収が検出される。検体を透過したX線を二次元に投影して撮像して、試料10の吸収量の二次元画像を得る。また、検体を微小角度回転させながら吸収の二次元画像を撮像し、各画像において、X線の吸収量および吸収ピークの検出強度や形状を解析することで、金属成分の価数、原子レベルでの局所構造(原子間距離、配位数)を示す画像が得られる。具体的に、X線吸収端構造領域を解析することで、金属成分の価数を取得する。また、X線広域微細構造領域を解析することで原子レベルでの局所構造(原子間距離、配位数)を取得する。各画像を再構成することにより、3次元像データD1、D2が得られる。
【0020】
図2に例示する3次元像データD1は、湿熱老化処理を施していない試料10を用いてXAFSイメージング解析装置2により取得される。3次元像データD1は、銅成分を含む粒状体を示していて、その粒状体には価数(0価、1価、2価)が異なる銅成分(Cu、Cu、Cu2+)が存在している。詳述すると、この粒状体の中心部には0価の銅成分(Cu)が存在していて、その周囲に1価の銅成分(Cu)が存在している。2価の銅成分(Cu2+)は、0価や1価の銅成分の粒子に比してその存在比が小さいため、図2中には図示されないが定量化されている。図2中では、存在比が0価の銅成分(Cu)、1価の銅成分(Cu)、2価の銅成分(Cu2+)の順に小さくなっていて、0価の銅成分(Cu)の存在比が最も大きくなっている。
【0021】
図3に例示する3次元像データD2は、湿熱老化処理を施した試料10を用いてXAFS解析装置2により取得されたものである。この3次元像データD2は、図2に例示する3次元像データD1と同一の粒状体を示していて、その粒状体は試料10の同じ位置に存在している。この粒状体の中心部に存在している0価の銅成分(Cu)は、図2に比してその存在比が小さくなっている。一方、0価の銅成分(Cu)の周囲を覆う1価の銅成分(Cu)は、図2に比してその存在比が大きくなり、より広く拡散している。また、2価の銅成分(Cu2+)も、図2に比してその存在比が大きくなっている。
【0022】
次に、図4に例示する評価方法について説明する。
【0023】
この評価方法では、XAFSイメージング解析装置2を用いて、試料10に存在するそれぞれの粒状体を測定する(S110~S130)。この測定は、初期測定工程S110と処理後測定工程S130とで行う。初期測定工程S110と処理後測定工程S130では、同一の試料10を用いる。初期測定工程S110では作成した試料10をそのまま用いて、処理後測定工程S130では初期測定工程S110で使用した試料10を湿熱老化処理(S120)した後で用いる。次いで、測定で得られたそれぞれの粒状体についての測定結果を演算装置3により機械学習を用いてデータ処理する(S140)。このデータ処理で作成された散布図データD3を用いて試料10での加硫ゴムと金属との接着性を評価する(S150)。以下に、各ステップ(S110~S150)の内容について詳述する。
【0024】
初期測定工程S110では、XAFSイメージング解析装置2により上述した図2の3次元像データD1を取得し、取得したその3次元像データD1を用いてその粒状体における異なる成分のそれぞれの粒子の検出強度(密度)、検出頻度(割合、存在比)を測定する。初期測定工程S110での測定結果は、測定結果データD4(後述する図5に例示)として演算装置3の補助記憶部に記憶される。
【0025】
試料10には多数の粒状体が存在しているが、初期測定工程S110では、それぞれの粒状体の中から複数の粒状体を選択する。具体的には、試料10に存在する多数の粒状体を、それぞれに含まれる金属成分が異なるグループに分類し、分類したグループの中から複数個ずつの粒状体を選択する。また、粒状体に金属成分の価数が異なる金属化合物が生成される場合には、生成される可能性がある全ての金属化合物を有する粒状体を測定対象の粒状体として採用する。例えば、試料10に銅成分を含む粒状体と亜鉛成分を含む粒状体とが存在する場合、銅成分を含む粒状体と亜鉛成分を含む粒状体とをそれぞれ異なるグループに分類し、それぞれのグループの中から複数個ずつの粒状体を選択する。また、測定対象の粒状体が銅成分を含む場合、0価、1価、2価の銅成分(Cu、Cu、Cu2)の粒子が存在している粒状体を採用するとよい。また、測定対象の粒状体が亜鉛成分を含む場合、0価、2価の亜鉛成分(Zn、Zn2+)の粒子が存在している粒状体を採用するとよい。
【0026】
後述する処理後測定工程S130では、試料10において初期測定工程S110で測定した位置と同じ位置に存在する粒状体を測定するため、即ち、それぞれの工程S110、S130で同じ粒状体を測定して比較するため、初期測定工程S110では、測定したそれぞれの粒状体の位置を特定可能にしておく。測定した粒状体の位置の特定には、試料10を収納したチューブ11に付けられている目印との相対位置関係を用いる。これにより、初期測定工程S110と処理後測定工程S130とで、同一の粒状体を測定対象として用いることが可能になり、同じ粒状体での湿熱老化処理による変化をより確実に把握する。
【0027】
上述した図2図3の3次元像データD1、D2では、同じ粒状体に含まれる同一の銅成分でも検出強度(密度)が異なる粒子が存在している。本発明では、0価、1価、2価のそれぞれの銅成分で同一(同程度)の検出強度を有する粒子を同一成分の粒子として扱う。例えば、上述した図2中では、2価の銅成分は、粒状体の複数の箇所に点在するが、一塊の粒状体に点在する同価数で同一(同程度)の検出強度を有する粒子は、それらを纏めて一つの粒子として見做される。したがって、この初期測定工程S110では、例えば、0価の銅成分(Cu)の検出強度(密度)毎の検出頻度(割合、存在比)が測定され、1価の銅成分(Cu)の検出強度毎の検出頻度が測定され、2価の銅成分(Cu2+)の検出強度毎の検出頻度が測定される。
【0028】
図5に例示する測定結果データD4は、図2の3次元像データD1を用いた測定結果に基づいて作成されて演算装置3の補助記憶部に記憶される。測定結果データD4は、同一の粒状体における異なる成分のそれぞれの粒子の検出強度(密度)、検出頻度(割合、存在比)を示している。したがって、この測定結果データD4は、初期測定工程S110で測定対象とした粒状体毎に作成される。測定対象の粒状体の個数が、例えば、100個の場合、測定結果データD4も100個作成される。
【0029】
測定結果データD4は、横軸を検出強度(密度)とし、縦軸を検出頻度(割合、存在比)とする。図5中の横軸に付けられたa、b、c、・・・は、所定の検出強度の範囲を示していて、検出強度範囲aから順に検出強度が高くなっている。測定結果データD4は、それぞれの粒子の総質量や粒子数などを示している。測定結果データD4の横軸や縦軸は、測定結果データD4が同一の粒状体における異なる成分のそれぞれの粒子の総質量や総数などを示すことができれば、任意に設定できる。例えば、粒子の検出強度は、その粒子の密度と高い相関性があり、検出強度が高い程、金属成分の密度が高く、検出強度が低い程、金属成分の密度が低い。また、粒子の検出頻度は、その粒子の総体積の割合(粒状体での粒子の体積の合計の割合)や粒状体での存在比と高い相関性があり、検出頻度が高い程、粒子の総体積の割合が大きく、存在比も大きくなり、検出頻度が低い程、粒子の総体積の割合が小さく、存在比も小さくなる。よって、測定結果データD4の横軸や縦軸には、それらのパラメータを用いることもできる。
【0030】
ステップ(S120)では、初期測定工程S110で使用した試料10に対して湿熱老化処理を施す。湿熱老化処理の条件は、例えば、加熱温度70℃、湿度96%RH、処理期間2週間に設定される。湿熱老化処理の条件は、試料10に含まれる金属成分の種類、ゴムの組成や加硫条件、金属ゴム複合材料としての使用環境などに応じて、適宜、変更することができる。例えば、加熱温度は、50℃~100℃、湿度は50%RH~100%RH、処理期間は1日~1ヶ月の範囲で設定する。湿熱老化処理は、試料10をチューブ11に収納したまま行う。
【0031】
処理後測定工程S130では、ステップ(S120)での前述した湿熱老化処理が施された試料10に対して初期測定工程S110と同様の測定が行われる。処理後測定工程S130では、XAFSイメージング解析装置2により上述した図3の3次元像データD2を取得し、取得したその3次元像データD2を用いてその粒状体における異なる成分のそれぞれの粒子の検出強度(密度)、検出頻度(割合、存在比)を測定する。処理後測定工程S130での測定結果は、図5に例示する測定結果データD4と同様に後述する図6に例示する測定結果データD5として演算装置3の補助記憶部に記憶される。
【0032】
処理後測定工程S130では、初期測定工程S110で測定した位置と同じ位置に存在する粒状体を測定対象として用いる。具体的には、処理後測定工程S130では、試料10を収納したチューブ11に付けられている目印と初期測定工程S110で特定した相対位置関係とを用いて、初期測定工程S110で測定した位置を特定する。このように、初期測定工程S110と処理後測定工程S130とで同じ粒状体を特定しようとしても、同一粒状体と断定できない場合もあるので、確実に同一粒状体と断定できるものだけを利用する。
【0033】
図6に例示する測定結果データD5は、図3の3次元像データD2を用いた測定結果に基づいて作成されて演算装置3の補助記憶部に記憶される。測定結果データD5は、上述した図5の測定結果データD4と同様に、同一粒状体における異なる成分のそれぞれの粒子の検出強度(密度)、検出頻度(割合、存在比)を示している。この測定結果データD5と図5の測定結果データD4とを比較すると、測定結果データD5では、全体的に0価の銅成分(Cu)の検出頻度が低くなっていて、検出強度も低くなっている。また、測定結果データD5では、全体的に1価や2価の銅成分(Cu、Cu2+)の検出強度(密度)や検出頻度(割合、存在比)が高くなっている。したがって、測定結果データD5と測定結果データD4との比較により、0価の銅成分(Cu)の粒子が湿熱老化処理によりイオン化して拡散し、ゴム中の硫黄との硫化反応により1価や2価の銅成分(Cu、Cu2+)が増加していることが分かる。
【0034】
ステップ(S140)では、機械学習を用いて演算装置3により初期測定工程S110と処理後測定工程S130で測定されたそれぞれの測定結果から、後述する図8に例示する散布図データD3を作成するデータ処理が実行される。散布図データD3には、それぞれの同一の粒状体での異なる成分のそれぞれの粒子の湿熱老化処理の前後での特徴を示す特徴点がプロットされている。同一の粒状体での異なる成分のそれぞれの粒子の特徴は、異なる成分のそれぞれに関する特徴を意味する。具体的には、演算装置3が、測定結果データD4、D5から、機械学習による特徴量抽出を用いて、それぞれの粒状体についての湿熱老化処理の前後での異なる成分のそれぞれに関する特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について抽出するデータ処理を実行する。例えば、銅成分を含む粒状体では、0価、1価、2価の銅成分(Cu、Cu、Cu2+)のそれぞれの特徴について抽出される。次いで、演算装置3は、抽出したそれぞれの粒子の特徴データに対する次元削減解析を行って得られた主成分得点を特徴点として用いて、散布図データD3を作成するデータ処理を実行する。
【0035】
特徴量の抽出には、フィルタ法、ラッパー法、組み込み法などの公知の種々の特徴量抽出手法を用いることができる。また、演算装置3の入力部を用いて指定した特徴に関して、特徴量を抽出することもできる。当業者であれば、ゴム製品の製造過程で得られた経験、公知の種々の文献、多数の実験や試験データの蓄積やコンピュータシミュレーション結果の蓄積などを参考にして、加硫ゴムと金属との接着性に密接に関係する特徴を把握している。そこで、特徴量の抽出では、予め把握されている接着性に密接に関係する特徴を指定して、指定した特徴を示す特徴量を抽出してもよい。
【0036】
抽出される特徴量としては、一塊の粒状体での価数が異なる成分の体積の割合(粒状体での0価、1価、2価の銅成分のそれぞれの体積と粒状体の体積の割合)や所定の検出強度範囲での価数が異なる成分の割合(検出強度範囲aでの0価、1価、2価の銅成分の割合)などが例示される。抽出される特徴量の数(特徴の種類)は、特に限定されるものではないが、例えば、50個程度である。
【0037】
図7に例示する特徴データD6は、初期測定工程S110の測定結果データD4に対する機械学習を用いた演算装置3のデータ処理により作成されて演算装置3の補助記憶部に記憶される。特徴データD6は、図7の表の最左列に記載された粒子体(A1、・・・、An)についてのそれぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)に関する特徴を示す特徴量が多数種類の特徴について備える一群データ(粒子体毎、かつ、価数が異なる成分毎の特徴量の集まり)が集積されたものである。図7の表中では、特徴の一部および特徴量が「・・・」によって省略された記載になっている。特徴データD6と同時に、処理後測定工程S130で測定された測定結果データD5に対する機械学習を用いた演算装置3のデータ処理によりもう一つの特徴データD7を作成する。この特徴データD7は、この図7に例示する特徴データD6と同様のデータ構造を有していて、表に記載される特徴量が異なるだけであるため、詳細な説明は省略する。
【0038】
散布図データD3(図8に例示)の作成では、特徴データD6、D7を統合して、統合したデータを主成分分析による次元削減を行って得られた粒子体毎、かつ、成分毎の主成分得点を特徴点として用いる。次元削減解析は、主成分分析に限定されるものではなく、非負値行列因子分解、t分布型確率的近傍埋め込み法、オートエンコーダなどの公知の種々の機械学習による次元削減の手法を用いることができる。なお、機械学習によるデータの次元の縮小は、多次元から二次元への縮小に限定されるものではなく、例えば、多次元から3次元への縮小でもよい。
【0039】
図8に例示する散布図データD3は、粒子体毎、かつ、成分毎の主成分得点を特徴点として用いて作成されて演算装置3の補助記憶部に記憶される。散布図データD3は、抽出したそれぞれの特徴量をパラメータと見做して、それらのパラメータから作成された2軸の一方の第一主成分軸PC1を横軸とし、他方の第二主成分軸PC2を縦軸とする。図8中の白丸点は、湿熱老化処理前の0価の銅成分(Cu)の特徴点(主成分得点)を粒子体毎にプロットしたものである。黒丸点は、湿熱老化処理後の0価の銅成分(Cu)の特徴点(主成分得点)を粒子体毎にプロットしたものである。白三角点は、湿熱老化処理前の1価の銅成分(Cu)の特徴点(主成分得点)を粒子体毎にプロットしたものである。黒三角点は、湿熱老化処理後の1価の銅成分(Cu)の特徴点(主成分得点)を粒子体毎にプロットしたものである。白四角点は、湿熱老化処理前の2価の銅成分(Cu2+)の特徴点(主成分得点)を粒子体毎にプロットしたものである。黒四角点は、湿熱老化処理後の2価の銅成分(Cu2+)の特徴点(主成分得点)を粒子体毎にプロットしたものである。実際の散布図データD3では、測定対象の粒状体の個数と同じ個数の特徴点が、粒子体毎、かつ、成分毎にプロットされるが、図8では図の煩雑さを避けるため、代表的な各10個の特徴点を用いている。
【0040】
プロットされた各特徴点は、湿熱老化処理の前後での各粒状体におけるそれぞれの異なる成分の状態を表している。詳述すると、各特徴点は、測定結果データD4、D5での検出強度(密度)や検出頻度(割合、存在比)が反映されたそれぞれの特徴量を分析した結果であり、状態として、粒状体における同一の金属成分で価数の異なるそれぞれの成分の総質量や粒子数、総体積などを表している。
【0041】
図8に例示する三つの矢印は、湿熱老化処理(S120)の前後でのそれぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)の状態の変化を表している。図8では、それぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)について、湿熱老化処理前から処理後に向かって、包括的な傾向を示す3本の矢印が記載されているが、実際には同一の粒状体に存在するそれぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)毎に矢印が記載される。各矢印は、それぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)の湿熱老化処理の前後での特徴点群の代表値(平均値、中央値、最頻値など)を始点と終点とする。散布図データD3の第一主成分軸PC1や第二主成分軸PC2は、主成分分析の結果を解析することで、それぞれの軸が表す特徴を推測できる。この推測により、散布図データD1の第一主成分軸PC1は、概ね粒状体での価数が異なる成分の検出強度(密度)や存在比を表していて、図8のグラフの左側から右側に向かって値が大きくなっている。第二主成分軸PC2は、概ね粒状体での価数が異なる成分の濃度(質量百分率、体積百分率など)を表していて、図8のグラフの下側になる程、その濃度が高くなっていて、上側になる程、その濃度が低くなっている。この推測は、散布図データD3の元になった上述した図5、6の測定結果データD4、D5が、それぞれの粒子の検出強度(密度)と検出頻度(割合、存在比)とを表していることを考慮しても、概ね正しいことが分かる。したがって、この散布図データD3の各矢印は、試料10における湿熱老化処理(S120)の前後でのそれぞれの成分の総質量や粒子数の増減具合と拡散状況が示されていることが分かる。具体的には、散布図データD3を用いることにより、湿熱老化による試料10中の0価の銅成分(Cu)の質量の減少具合と1価および2価の銅成分(Cu、Cu2+)の質量の増加具合とを把握できる。また、それぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)が試料10中に広く拡散していることを把握できる。
【0042】
ステップ(S150)では、作成した散布図データD3を用いてゴムと金属との接着性を評価する。図8の散布図データD3でのそれぞれの銅成分の質量の増減具合から、試料10での湿熱老化前後でのイオン化や硫化反応の進行具合を把握することができる。試料10でのイオン化や硫化反応の進行具合が早い程、加硫ゴムと金属との接着性が早期に低下し、イオン化や硫化反応の進行具合が遅い程、加硫ゴムと金属との接着性が低下し難い。イオン化や硫化反応の進行具合は、0価の銅成分(Cu)の質量の減少具合と1価および2価の銅成分(Cu、Cu2+)の質量の増加具合、それぞれの成分の拡散状況に依存する。0価の銅成分(Cu)の質量の減少具合が大きく、かつ、1価および2価の銅成分(Cu、Cu2+)の質量の増加具合が大きい程、硫化反応の進行具合は早く、それぞれの銅成分(Cu、Cu、Cu2+)が広く拡散する程、硫化反応の進行具合は早い。したがって、図8の散布図データD3から測定対象の試料10では、湿熱老化によってイオン化や硫化反応の進行が進むことに伴って加硫ゴムと金属との接着性が低下していることが分かる。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、散布図データD3にプロットされたそれぞれの特徴点は、湿熱老化処理の前後でのそれぞれの粒状体における価数が異なる成分の粒子の状態として、それぞれの成分の粒子の総質量や粒子数を表している。即ち、散布図データD3での異なる成分毎のそれぞれの特徴点を、湿熱老化処理の前後で比較することにより、試料10でのそれぞれの成分のイオン化の進行やゴムの硫黄との硫化反応の進行の度合いを把握できる。したがって、散布図データD3を作成することにより、加硫ゴムと金属との接着性の変化具合を視覚的により明確に把握できるので、金属ゴム複合材料の湿熱接着性を精度よく評価できる。
【0044】
図9に例示する散布図データD3aは、先の実施形態とは配合が異なる試料10aを用いて上述の評価方法により作成されている。図9の散布図データD3aと図8の散布図データD3とを比較すると、図9の散布図データD3aでは、湿熱老化処理によって、0価の銅成分(Cu)の質量が同程度に減少しているが、より狭く拡散していて(密になっていて)、1価の銅成分(Cu)は、より広く拡散しているが、その質量の増加量が大幅に少なくなっている。したがって、図9の散布図データD3aから測定対象の試料10aは、実施形態の試料10に比して、イオン化や硫化反応の進行具合が遅く、加硫ゴムと金属との接着性の低下が抑制されていることが分かる。先の実施形態とは試料10の配合が同じであっても、異なる加硫条件で試料10を製造した場合も、先の実施形態の散布図データD3とは異なる散布図データが得られる。
【0045】
そこで、未加硫ゴムの配合または/および加硫条件を異ならせた多数種類の加硫ゴムを試料10として用いて、それぞれの試料10についての散布図データD3を取得しておき、それぞれの散布図データD3に基づいて、配合または/および加硫条件と接着性の変化具合との関係を把握する。このように、本実施形態の評価方法での評価結果を蓄積していくことで、金属成分のイオン化や硫化反応の進行具合を指標として、加硫ゴムと金属との接着性を評価できる。これにより、加硫ゴムと金属との湿熱接着性を向上できる未加硫ゴムの配合や加硫条件などを見出し易くなるので、金属材料を用いるタイヤ、ホース、コンベヤベルトなどのゴム製品の品質向上に大いに寄与する。
【0046】
本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において、種々の変形・変更が可能である。
【0047】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明(1):金属が含まれた未加硫ゴムを加硫した加硫ゴムを試料として、3次元空間分解X線吸収微細構造解析により、前記試料に存在する前記金属を由来とする金属成分を有する複数の粒状体の3次元像データを取得して、取得した前記3次元像データを利用するゴムと金属との接着性の評価方法において、
それぞれの前記粒状体について、前記金属成分が異なる金属化合物および同一種類の前記金属成分でその価数が異なる金属化合物をそれぞれ異なる成分の粒子として扱い、
前記試料を用いる初期測定工程と、この初期測定工程後に湿熱老化処理された前記試料を用いる処理後測定工程とを実行して、それぞれの前記測定工程では、それぞれの前記3次元像データを取得して、取得したそれぞれの前記3次元像データを用いて、同一の前記粒状体についてその粒状体に存在する異なる前記成分のそれぞれの前記粒子の検出強度および検出頻度を測定結果として得て、
機械学習を用いてそれぞれの前記測定工程でのそれぞれの前記粒状体についての前記測定結果を演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの同一の前記粒状体での異なる前記成分のそれぞれの前記粒子の前記湿熱老化処理の前後での特徴を示す特徴点がプロットされた散布図データを作成し、
作成した前記散布図データを用いて前記加硫ゴムと前記金属との接着性を評価するゴムと金属との接着性の評価方法。
発明(2):前記未加硫ゴムの配合または/および加硫条件を異ならせた多数種類の前記加硫ゴムを前記試料として用いて、それぞれの前記試料についての前記散布図データを取得しておき、それぞれの前記散布図データに基づいて、前記配合または/および前記加硫条件と前記接着性の変化具合との関係を把握する発明(1)に記載のゴムと金属との接着性の評価方法。
発明(3):前記散布図データの作成では、前記機械学習を用いてそれぞれの前記測定工程でのそれぞれの前記粒状体についての前記測定結果を前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記粒状体についての前記湿熱老化処理の前後でのそれぞれの異なる前記成分に関する前記特徴を示す特徴量を多数種類の前記特徴について抽出し、抽出したそれぞれの前記特徴に対する主成分分析による次元削減を行って得られた主成分得点を前記特徴点として用いる発明(1)または(2)に記載のゴムと金属との接着性の評価方法。
発明(4):前記試料として、粒子径1μm以上100μm以下の金属粉末が0.5質量%以上10質量%以下配合されている前記加硫ゴムを用いる発明(1)~(3)のいずれかに記載のゴムと金属との接着性の評価方法。
【符号の説明】
【0048】
1 評価システム
2 3次元空間分解X線吸収微細構造イメージング解析装置
3 演算装置
10 試料
11 チューブ
D1、D2 3次元像データ
D3 散布図データ
D4、D5 測定結果データ
D6、D7 特徴データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9