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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168209
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】搬送車システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241128BHJP
   B65G 1/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G05D1/02 P
B65G1/00 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084688
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 歩
【テーマコード(参考)】
3F022
5H301
【Fターム(参考)】
3F022AA07
3F022CC03
3F022LL07
3F022MM44
5H301AA02
5H301AA09
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD07
5H301DD17
5H301EE04
5H301GG07
5H301GG08
5H301KK02
5H301KK04
5H301KK08
5H301KK09
5H301KK19
5H301QQ04
(57)【要約】
【課題】搬送能力を過剰に設定せず、搬送時間の遅延の許容値をもとに搬送要求を処理することにより、各処理装置をできる限り稼働させることができる搬送車システムを提供する。
【解決手段】搬送車システム1は、物品を搬送元から搬送先へと搬送するための搬送要求に基づいて、無人搬送車10を制御する搬送車コントローラ20を備える。搬送車コントローラ20は、搬送先の処理装置におけるバッファ数nと、搬送先の処理装置における処理時間の統計量と、搬送元から搬送先の処理装置へと搬送する搬送フローの搬送時間と、当該物品の搬送の遅延が発生しないことを信頼できる程度を表す確率と、に基づいて、当該搬送フローにおける搬送時間のばらつき許容値を算出し、当該ばらつき許容値に基づいて無人搬送車10を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の処理装置の間で物品を搬送する少なくとも1つの搬送車と、
前記処理装置のそれぞれに設けられ、バッファ数に応じた少なくとも1つの処理前の他の物品を一時的に保持できるバッファと、
前記物品を搬送元から前記処理装置の何れか1つである搬送先へと搬送するための少なくとも1つの搬送要求に基づいて、前記搬送車を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記搬送要求に関し、
前記搬送先の処理装置におけるバッファ数と、
前記搬送先の処理装置における処理時間の統計量と、
前記搬送要求に対応する搬送フローの搬送時間と、
当該物品の搬送の遅延が発生しないことを信頼できる程度を表す確率と、
に基づいて、当該搬送フローにおける搬送時間のばらつき許容値を算出し、当該ばらつき許容値に基づいて前記搬送車を制御する、搬送車システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先して割付を行う、請求項1に記載の搬送車システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求に対し、前記搬送元の処理装置に、他の搬送要求を実行中でない空き搬送車を配置する、請求項1又は2に記載の搬送車システム。
【請求項4】
前記コントローラは、経路計画において、前記ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先させる、請求項1又は2に記載の搬送車システム。
【請求項5】
前記コントローラは、ある搬送フローを持った搬送要求に対して割付を行った後、別の搬送フローを持った別の搬送要求が新たに発生した場合に、前記ばらつき許容値が小さい方の搬送要求を優先して再度割付を行う、請求項1又は2に記載の搬送車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、地上コントローラに処理装置のサイクルタイムを記憶させ、処理装置に物品を搬入後、サイクルタイム経過時に無人搬送車がステーションに到着するように無人搬送車を割り付けるシステムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-296922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記システムでは、地上コントローラは、処理装置から物品の搬出が可能になる時間を予測して、無人搬送車を処理装置へ向けて配車する。これにより、無人搬送車に搭載するまでの待ち時間が短縮する。しかしながら、上記システムでは、処理装置における処理時間のばらつきや搬送時間の遅延がどの程度許容されるかが考慮されていない。したがって、システムにおける搬送能力が過剰になる可能性がある。
【0005】
本開示は、搬送能力を過剰に設定せず、搬送時間の遅延の許容値をもとに搬送要求を処理することにより、各処理装置をできる限り稼働させることができる搬送車システムを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る搬送車システムは、複数の処理装置の間で物品を搬送する少なくとも1つの搬送車と、処理装置のそれぞれに設けられ、バッファ数に応じた少なくとも1つの処理前の他の物品を一時的に保持できるバッファと、物品を搬送元から処理装置の何れか1つである搬送先へと搬送するための少なくとも1つの搬送要求に基づいて、搬送車を制御するコントローラと、を備える。コントローラは、搬送要求に関し、搬送先の処理装置におけるバッファ数と、搬送先の処理装置における処理時間の統計量と、搬送要求に対応する搬送フローの搬送時間と、当該物品の搬送の遅延が発生しないことを信頼できる程度を表す確率と、に基づいて、当該搬送フローにおける搬送時間のばらつき許容値を算出し、当該ばらつき許容値に基づいて搬送車を制御する。
【0007】
この搬送車システムによれば、ばらつき許容値を定量的に算出し、それに基づいて搬送車を制御することで処理装置の待ち時間を発生させず、各処理装置をできる限り稼働させることができる。
【0008】
コントローラは、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先して割付を行ってもよい。この場合、ばらつき許容値が小さい搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。
【0009】
コントローラは、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求に対し、搬送元の処理装置に、他の搬送要求を実行中でない空き搬送車を配置してもよい。この場合、ばらつき許容値が小さい搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。
【0010】
コントローラは、経路計画において、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先させてもよい。この場合、ばらつき許容値が小さい搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。この場合、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送先で到着待ちが発生することを防ぐ。
【0011】
コントローラは、ある搬送フローを持った搬送要求に対して割付を行った後、別の搬送フローを持った別の搬送要求が新たに発生した場合に、ばらつき許容値が小さい方の搬送要求を優先して再度割付を行ってもよい。この場合、新たに発生した搬送要求の搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ばらつき許容値を定量的に算出し、それに基づいて搬送車を制御することで処理装置の待ち時間を発生させず、各処理装置をできる限り稼働させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る搬送車システムの全体概要図である。
図2図2は、複数の搬送元からある搬送先への搬送時間について説明するための図である。
図3図3は、搬送時間から、バッファに置かれた前物品が処理装置に処理されるまでにかかる時間を差し引いた時間差分の分布の一例を示す図である。
図4図4は、コントローラの機能構成を示す機能ブロック図である。
図5図5は、3つの搬送フローに関する各入力値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
まず図1図3を参照して、無人搬送車システム1の概要について説明する。図1に示されるように、無人搬送車システム1は、例えば、二次電池を製造する工場の建屋に配置された複数の処理装置11~15の間の物品の搬送、及び、建屋の外部と内部との間の物品の搬送等を行う搬送システムである。図1に示されるように、無人搬送車システム1は、複数の処理装置11~15と、物品を搬送する複数の無人搬送車10と、複数の無人搬送車10を制御する搬送車コントローラ20と、搬送車コントローラ20に対して搬送要求を与える上位コントローラ5とを備える。以下、無人搬送車システム1は「搬送車システム1」と略称され、無人搬送車10は「搬送車10」と略称される。
【0016】
図1には、一例として、5つの処理装置が示されている。第1処理装置11、第2処理装置12、第3処理装置13、第4処理装置14及び第5処理装置15のそれぞれは、所定の経路2に沿って走行する搬送車10によって、物品を移載可能に配置されている。各種処理装置としては、例えば、加工機、ピッキングロボット、電極製造装置、又はセル組立装置等が挙げられる。なお、搬送車システム1が、複数の物品を保管する1つ又は複数の自動倉庫(図示せず)を備えてもよい。自動倉庫は、複数の物品を載置可能な保管棚と、保管棚に対して物品を移載するスタッカクレーンと、搬送車10によって物品が移載可能な複数の出入ポートと、を有してもよい(何れも図示せず)。処理装置の個数と配置、及び経路2は、自由に決められてよく、図1に示される例に限定されない。
【0017】
第1処理装置11、第2処理装置12、第3処理装置13、第4処理装置14及び第5処理装置15のそれぞれは、物品を装置内に受け入れるための受入ステーション3と、処理後の物品を排出するための排出ステーション4とを有する。各処理装置において、受入ステーション3は、例えば、1つ又は複数のコンベア(図示せず)と、コンベアに隣接して設けられたバッファB(図2参照)とを有する。排出ステーション4は、例えば、1つ又は複数のコンベアを有する(図示せず)。受入ステーション3におけるバッファBは、物品を一時的に保持するための仮置き場である。バッファBに保持できる物品の個数(バッファ数)は、各処理装置において決められている。すなわち、バッファBは、処理装置11~15のそれぞれに設けられ、バッファ数に応じた複数の処理前の物品を一時的に保持できる。バッファ数は1つであってもよいし複数であってもよい。各処理装置は、バッファBにおける物品の在席を検知可能である。各処理装置は、バッファBに保持されている物品の個数(在席バッファ数)を検知可能である。各処理装置は、優先又は無線の通信手段により、現在の在席バッファ数を搬送車コントローラ20に向けて送信する。
【0018】
なお、バッファ数は、各処理装置に物理的に用意された個数とは限られない。例えば、次の物品が受入ステーション3に届くまでにバッファBが空くことを想定して、実際の数より多い数に設定されてもよい。排出ステーション4にバッファBが設けられてもよい。また、受入ステーション3及び排出ステーション4が別々に設けられる場合に限られず、これらが一体となって移載ステーションを構成してもよい。
【0019】
建屋の壁部の一部には、工場に対して原材料及び/又は物品を搬入及び搬出するための搬入・搬出口7が設けられている。搬入・搬出口7は、図示しないコンベア等をそれぞれ含む搬出ステーション3A及び搬入ステーション4Aを有する。搬出ステーション3A及び/又は搬入ステーション4Aが、上記と同様のバッファBを有してもよい。
【0020】
搬送車10は、予め設定された経路2に沿って自律的に走行する。搬送車10は、例えば、AGV(Automated Guided Vehicle)である。経路2は、建屋の床面に、搬送車10の走行経路を形成するよう設けられた、例えば、磁気テープ又は磁気マーカーであってもよい。この場合、搬送車10は、磁気テープ又は磁気マーカー等から出力される磁気信号等を検出しながら走行する。なお、搬送車10は、レーザ等から光を発生させ、建屋の壁部等に取り付けられたミラーにて反射した反射光を検出することで自己位置を検出しながら走行してもよいし、GPS等の情報を利用することで自己位置を検出しながら走行してもよい。搬送車10に対する誘導方式として、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が用いられてもよい。搬送車システム1が、搬送車10に電力を供給するための充電ポイント又は充電ステーション等が設けられてもよい。搬送車10は、単に「走行車」と称されてもよい。
【0021】
本実施形態の搬送車システム1には、複数の搬送車10が配備されている。各搬送車10は、少なくとも複数の処理装置間で、物品を搬送する。各搬送車10は、何れかの処理装置の排出ステーション4から、他の何れかの処理装置の受入ステーション3、及び、搬入・搬出口7の搬出ステーション3Aへ物品を搬送可能である。また各搬送車10は、搬入・搬出口7の搬入ステーション4Aから、何れかの処理装置の受入ステーション3へ物品を搬送可能である。各搬送車10は、受入ステーション3、排出ステーション4、搬出ステーション3A、及び搬入ステーション4Aのそれぞれとの間で、物品を移載(受け渡し)可能である。以下の説明において、受入ステーション3、排出ステーション4、搬出ステーション3A、及び搬入ステーション4Aを、「移載ステーション」と総称する場合がある。
【0022】
搬送車10は、搬送車コントローラ20から搬送指令(後述)が割り当てられた場合、当該搬送指令の搬送元の排出ステーション4又は搬入ステーション4Aから、搬送先の受入ステーション3又は搬出ステーション3Aへと物品を搬送させるための走行制御及び荷積み荷下ろし制御を実行する。走行制御では、例えば、上記した各種の誘導方式が利用され得る。荷積み荷下ろし制御では、搬送車10が有するリフターを上昇及び下降させることで、排出ステーション4又は搬入ステーション4Aから搬送車10への荷積みを実施し、搬送車10から受入ステーション3又は搬出ステーション3Aへの荷下ろしを実施する。
【0023】
搬送車コントローラ20は、複数の搬送車10を管理する制御装置である。搬送車コントローラ20は、プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random AccessMemory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、及び、無線LAN等の通信回路等を有するコンピュータである。搬送車コントローラ20は、例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されるソフトウェアとして構成することができる。搬送車コントローラ20は、電子回路等によるハードウェアとして構成されてもよい。搬送車コントローラ20は、一つの装置で構成されてもよいし、複数の装置で構成されてもよい。複数の装置で構成されている場合には、これらがインターネット又はイントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの搬送車コントローラ20が構築される。
【0024】
搬送車コントローラ20は、搬送車10及び上位コントローラ5と、有線又は無線により接続されている。搬送車コントローラ20は、搬送車10から当該搬送車10の現在位置及び現在速度等に関する情報を受信する。搬送車コントローラ20は、上位コントローラ5から、ある処理装置から別の処理装置へ物品を搬送させるための搬送要求を受信する。搬送要求は、例えば、出庫コンベアの先端に物品が到着したこと、又は、上流設備での処理が完了して払い出しステーションに物品が到着したことを契機として発生する。搬送要求のそれぞれは、搬送元の移載ステーション(処理装置)から搬送先の移載ステーション(処理装置)へと物品を搬送する仕事を意味する搬送フローを含む。すなわち、1つの搬送要求に対応して、1つの搬送フロー(FromとToの組)が定まる。搬送車コントローラ20は、受信した搬送要求に応じて搬送指令を生成し、搬送車10に対して当該搬送指令を割り付ける。なお、搬送要求のそれぞれは、搬送フローの他、要求発生時刻、割付可能な搬送車グループ番号、荷おろし時の荷姿勢指定などといった情報を含んでもよい。
【0025】
搬送指令は、搬送要求における搬送元の移載ステーションから搬送先の移載ステーションまで物品を搬送車10により搬送させるための制御指令である。搬送指令は、搬送元の移載ステーションにおける物品の移載、搬送元の移載ステーションから搬送先の移載ステーションへの経路2に沿った走行、搬送先の移載ステーションにおける物品の移載に関する情報を含む。
【0026】
すなわち、搬送車コントローラ20は、物品を、搬送元から処理装置11~15の何れか1つである搬送先へと搬送するための搬送要求に基づいて、搬送車10を制御する。
【0027】
本実施形態の搬送車コントローラ20による搬送制御では、複数の搬送要求のそれぞれにおける搬送フローにつき、搬送時間の遅延がどの程度許容されるかが考慮されている。「搬送時間の遅延がどの程度許容されるか」の指標は、搬送の遅延を発生させないための、搬送時間に関する「ばらつき許容値」として、搬送車コントローラ20による制御に用いられる。
【0028】
図2を参照して、無人搬送車システム1における遊休防止条件について説明する。図2は、複数の搬送元の移載ステーションから、ある搬送先の移載ステーションへの搬送時間について説明するための図である。搬送元である第1搬出ステーション41、第2搬出ステーション42、及び第3搬出ステーション43を含む複数の移載ステーションから、搬送先である受入ステーション50へとそれぞれ物品が搬送される。受入ステーション50におけるバッファBの数すなわちバッファ数はn個である(nは1以上の整数)。
【0029】
搬送先への搬送時間Tが、平均μ、分散σ を持つ何らかの確率分布(これは正規分布でなくてよい)に従い、搬送先での処理時間Tが、平均μ、分散σ を持つ何らかの確率分布(これは正規分布でなくてよい)に従うと仮定する。ここで、搬送時間からバッファBに置かれた前物品が処理装置に処理されるまでにかかる時間を差し引いた時間差分に関する変数として、確率変数Tが定義される。搬送元から搬送先への搬送が十分に繰り返された搬送定常状態を考えると、確率変数Tは、中心極限定理により、以下の正規分布(図3も参照)に従う。
【数1】
【0030】
そして、生産工程に遊休時間を与えないための前提条件として、搬送先の移載ステーションにおいて、バッファ数nに相当する物品(荷物)が処理されるまでに、次の物品(荷物)が当該搬送先の移載ステーションに到着しなければならない。すなわち、上記確率変数Tの値が0未満(負の値)でなければならない。言い換えると、以下の式(2)、さらには式(2)が変形された式(3)が成り立たなければならない。
【数2】

【数3】
【0031】
式(3)をσについて解くと、以下の不等式(4)が求まる。
【数4】

ただし、ルート内は正であり、かつ、nμ-μは正である。なお、能力平均では, 生産能力より搬送供給能力のほうが高いことが前提条件となるため、荷物の到着が連続して遅れる確率は十分に小さく、無視できる。
【0032】
ここで、γは確率pの値に応じて決まる定数であり、標準正規分布表から読み取ることのできる値である。例えば、
確率pが90.0%であれば、γは1.29であり、
確率pが95.0%であれば、γは1.65であり、
確率pが97.5%であれば、γは1.96であり、
確率pが99.0%であれば、γは2.33である。
【0033】
続いて、搬送車コントローラ20おける「ばらつき許容値」の算出等について説明する。図4に示されるように、搬送車コントローラ20は、搬送要求受信部21と、情報取得部23と、許容値算出部24と、割付決定部25と、記憶部27とを有する。搬送要求受信部21は、上位コントローラ5から搬送要求を受信し、受信した搬送要求に応じて搬送指令を生成する。
【0034】
情報取得部23は、処理装置11~15のそれぞれから受信する装置情報を取得する。情報取得部23は、それぞれの搬送要求について、搬送先の処理装置におけるバッファ数nと、搬送先の処理装置における処理時間の統計量と、搬送要求に対応する搬送フローの搬送時間と、当該物品の搬送の遅延が発生しないことを信頼できる程度を表す確率と、の各情報を取得する。搬送先の処理装置における処理時間の統計量とは、例えば、処理装置における処理時間の平均とばらつきである。平均とばらつきは、上記の平均μとσにそれぞれ相当する。これらの平均とばらつきは、記憶部27に記憶された実績値等に基づく値であってもよく、現在の運転状況が反映された値であってもよい。搬送フローの搬送時間とは、例えば、搬送時間の平均であり、搬送距離及び平均搬送速度から算出することができる時間である。搬送時間の平均は、上記平均μに相当する。搬送フローの搬送時間として、同一の搬送経路における実績値が用いられてもよい。
【0035】
物品の搬送の遅延が発生しないことを信頼できる程度を表す確率は、信頼度とも呼ばれ、搬送車システム1の利用者(ユーザ)によって与えられる。この確率は、例えば、物品の搬送の遅延が発生しないことを保証する確率である。本明細書において、「遅延」とは、「処理装置で遊休時間が発生すること」を意味する。その遅延が発生する要因として、以下のいくつかの要因が挙げられる。
・搬送要求を割り付けられた搬送車10が搬送元に向かい始めるのが遅いこと
(この場合、当該搬送車10が既に持っているタスクを処理するに時間がかかる。)
・搬送車10が搬送元に向かい始めてから搬送元に到着するのが遅いこと
(この場合、搬送元までの経路が他の搬送車10等で混雑している。)
・搬送車10が搬送元から搬送先に到着するのが遅いこと
(この場合も、搬送経路が他の搬送車10等で混雑している。)
【0036】
許容値算出部24は、情報取得部23によって取得された各種情報に基づいて、それぞれの搬送要求に対応する搬送フローにおける搬送時間のばらつき許容値を算出する。詳細には、許容値算出部24は、例えば、上記の各種の値を入力として、下記式(5)に示される値σを出力する。ただし、許容値算出部24は、値σの算出時に、ルート内は正であり、かつ、nμ-μは正であるという条件が満たされない場合には、入力値エラーを出力する。
【数5】
【0037】
ばらつき許容値は、時間に関する概念である。ばらつき許容値の単位は時間であってもよいし、時間の二乗であってもよい。なお、許容値算出部24によって算出されるばらつき許容値は、上記式(5)に限られない。例えば、許容値算出部24は、ばらつき許容値として、t値の計算式を用いて出力してもよい。この場合、搬送定常状態を考えるのではなく、搬送時間Ta、搬送先での処理時間Tsが各々サンプル数m,mのデータとして収集されると仮定される。許容値算出部24は、ばらつき許容値として、下記式(6)に示されるt値を出力する。
【数6】
【0038】
ここで、搬送先への搬送時間Tの分散σ、及び搬送先での処理時間Tの分散σは、不偏分散として定義される。t値の分布表から、サンプル数m,m、及び確率pに対応するt値を見つけ、上記式(6)から、分散σについて解いた式が用いられる。なお、ばらつき許容値は、搬送要求において、物品をすぐに搬送する必要があるかないかについての「時間余裕」とは異なる概念である。
【0039】
割付決定部25は、許容値算出部24によって算出されたばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先して、割付を行う。すなわち、割付決定部25は、ばらつき許容値が小さい搬送フローほど、搬送要求の処理を優先する。割付決定部25は、当該搬送要求に対して、他の搬送要求を実行中でない搬送車10である空き搬送車(空きの無人搬送車)を割り付ける。
【0040】
搬送要求の処理を優先する例を幾つか例示する。第1の例として、割付決定部25は、同時間帯に複数の搬送要求が発生した場合に、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先して、割付を行う。
【0041】
第2の例として、割付決定部25は、ある搬送フローを持った搬送要求に対して割付を行った後(仮の割付後)、別の搬送フローを持った別の搬送要求が新たに発生した場合に、ばらつき許容値が小さい方の搬送要求を優先して再度割付を行う。つまり、割付決定部25は、仮の割付後に、より優先すべき搬送要求が発生したら、割付を変更する。
【0042】
第3の例として、割付決定部25は、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求に対し、搬送元の処理装置に、他の搬送要求を実行中でない空き搬送車を配置する。すなわち、割付決定部25は、特に優先すべき搬送フローにおいて、搬送元の移載ステーションに事前に空き搬送車を配備する。
【0043】
第4の例として、割付決定部25は、経路計画において、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先させる。経路計画は、事前に実施されるオフラインの計画であってもよいし、搬送制御を実行しながら実施されるオンラインの計画であってもよい。割付決定部25は、優先順位付きの経路計画を実施し、これによって進路確保を行う。経路計画の一例としては、ばらつき許容値が小さい搬送フローほどショートカット経路を適用する等の例が挙げられる。経路計画に代えて、排他制御が行われてもよい。
【0044】
以上説明した各種の優先処理例によれば、ばらつき許容値を定量的に算出し、それに基づいて搬送車を制御することで処理装置の待ち時間を発生させず、各処理装置をできる限り稼働させることができる。
【0045】
図5を参照して、第1の例における3つの搬送フローについての搬送制御例を説明する。搬送フローAは、第4処理装置14の排出ステーション4から搬入・搬出口7の搬出ステーション3Aへと物品を搬送する搬送フローである。搬送フローBは、第2処理装置12及び第3処理装置13の排出ステーション4から第4処理装置14の受入ステーション3へと物品を搬送する搬送フローである。搬送フローCは、第1処理装置11の排出ステーション4から第5処理装置15の受入ステーション3へと物品を搬送する搬送フローである。各搬送フローにおける搬送距離、処理時間の平均μと分散σ、及びバッファ数nは図5に示される表のとおりである。無人搬送車10の平均速度が0.3m/秒であるとき、搬送フローA,B,Cのそれぞれにおける搬送時間の平均μは、200秒、150秒、及び100秒である。例えば、99%の確率(信頼度)で搬送が間に合うためには、上記のとおりγは2.33である。
【0046】
許容値算出部24は、上記の各値に基づき、搬送フローA,B,Cのそれぞれについて、33秒、83秒、及び79秒というばらつき許容値を出力する。よって、割付決定部25は、搬送フローA、搬送フローC、搬送フローBの順で、処理を優先させる。ここで第3の例によれば、搬送フローAを特に優先すべき搬送フローであるとして、第4処理装置14の排出ステーション4に事前に空き台車を配備してもよい。
【0047】
本実施形態によれば、搬送車コントローラ20は、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先して割付を行うので、ばらつき許容値が小さい搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。
【0048】
搬送車コントローラ20は、ある搬送フローを持った搬送要求に対して割付を行った後、別の搬送フローを持った別の搬送要求が新たに発生した場合に、ばらつき許容値が小さい方の搬送要求を優先して再度割付を行う(上記第2の例)。これにより、新たに発生した搬送要求の搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。
【0049】
搬送車コントローラ20は、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求に対し、搬送元の処理装置に、他の搬送要求を実行中でない空き搬送車を配置する(上記第3の例)。これにより、ばらつき許容値が小さい搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。
【0050】
搬送車コントローラ20は、経路計画において、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先させる(上記第4の例)。これにより、ばらつき許容値が小さい搬送フローにおいて、搬送の遅れが発生する確率が低くなる。この場合、ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送先で到着待ちが発生することを防ぐ。
【0051】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、搬送車コントローラ20は、ばらつき許容値に基づいて、例えば搬送車10の最高速度等の能力が過剰であることを判断してもよい。搬送車コントローラ20は、ばらつき許容値の大小だけでなく、ばらつき許容値に別の指標を加味して、優先すべき搬送要求(搬送フロー)を決めてもよい。例えば、搬送車コントローラ20は、「到着期限」に基づいて、優先すべき搬送要求を決めてもよい。到着期限とは、「搬送要求発生時刻」に、「搬送時間」と「ばらつき許容値」を加えることにより得られる時間に関する指標である。或いは、搬送車コントローラ20は、「許容搬送リードタイム」に基づいて、優先すべき搬送要求を決めてもよい。許容搬送リードタイムとは、「搬送時間」に「ばらつき許容値」を加えることにより得られる時間に関する指標である。搬送車コントローラ20は、このように、ばらつき許容値を含んだ時間的指標に基づいて、優先すべき搬送要求を決めてもよい。搬送車コントローラ20は、例えば、ばらつき許容値を含んだ時間的指標の大小に基づいて、優先すべき搬送要求を決める。搬送車コントローラ20は、例えば、ばらつき許容値を含んだ時間的指標が小さい搬送フローの搬送要求を優先して割付を行う。
【0052】
搬送車10は、AGVに特に限定されず、例えば天井走行車及び有軌道台車等であってもよい。搬送車10は、昇降機能を備えて三次元空間を移動領域とする移動体、及び、三次元空間を自在に移動できるドローン等であってもよい。
【0053】
本開示の一態様の構成要件は以下の通りに記載される。
[1]
複数の処理装置の間で物品を搬送する少なくとも1つの搬送車と、
前記処理装置のそれぞれに設けられ、バッファ数に応じた少なくとも1つの処理前の他の物品を一時的に保持できるバッファと、
前記物品を搬送元から前記処理装置の何れか1つである搬送先へと搬送するための少なくとも1つの搬送要求に基づいて、前記搬送車を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記搬送要求に関し、
前記搬送先の処理装置におけるバッファ数と、
前記搬送先の処理装置における処理時間の統計量と、
前記搬送要求に対応する搬送フローの搬送時間と、
当該物品の搬送の遅延が発生しないことを信頼できる程度を表す確率と、
に基づいて、当該搬送フローにおける搬送時間のばらつき許容値を算出し、当該ばらつき許容値に基づいて前記搬送車を制御する、搬送車システム。
[2]
前記コントローラは、前記ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先して割付を行う、[1]に記載の搬送車システム。
[3]
前記コントローラは、前記ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求に対し、前記搬送元の処理装置に、他の搬送要求を実行中でない空き搬送車を配置する、[1]又は[2]に記載の搬送車システム。
[4]
前記コントローラは、経路計画において、前記ばらつき許容値が小さい搬送フローの搬送要求を優先させる、[1]~[3]の何れか1つに記載の搬送車システム。
[5]
前記コントローラは、ある搬送フローを持った搬送要求に対して割付を行った後、別の搬送フローを持った別の搬送要求が新たに発生した場合に、前記ばらつき許容値が小さい方の搬送要求を優先して再度割付を行う、[1]~[3]の何れか1つに記載の搬送車システム。
【符号の説明】
【0054】
1…搬送車システム(無人搬送車システム)、2…経路、3…受入ステーション、4…排出ステーション、10…無人搬送車(搬送車)、11…第1処理装置、12…第2処理装置、13…第3処理装置、14…第4処理装置、15…第5処理装置、20…搬送車コントローラ(コントローラ)、21…搬送要求受信部、23…情報取得部、24…許容値算出部、25…割付決定部、27…記憶部、B…バッファ。
図1
図2
図3
図4
図5