(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168222
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】水中軸受装置及び立軸ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/00 20060101AFI20241128BHJP
F04D 29/06 20060101ALI20241128BHJP
F04D 29/043 20060101ALI20241128BHJP
F04D 29/046 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F04D13/00 D
F04D29/06
F04D29/043 Z
F04D29/046 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084710
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】兼森 祐治
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB05
3H130AB13
3H130AB22
3H130AB24
3H130AB50
3H130AC30
3H130BA33D
3H130BA33E
3H130BA56D
3H130BA56E
3H130BA97D
3H130BA97E
3H130BA97J
3H130BA98D
3H130BA98E
3H130BA98J
3H130DA02X
3H130DA05X
3H130DB03X
3H130DB06X
3H130DB11X
3H130DB13X
3H130DB15X
3H130DH04X
3H130DH06X
3H130EA01D
3H130EA01E
3H130EA07D
3H130EA07E
(57)【要約】
【課題】気中運転を行う立軸ポンプに用いられる水中軸受装置における摺接部材の冷却機構の簡素化とコストダウンを課題とする。
【解決手段】水中軸受装置30は、保護管によって取り囲まれていない回転軸25に固着されたスリーブ31と、スリーブ31を取り囲むホルダ33と、スリーブ31とホルダ33の間に間隙部35とともに潤滑液41の貯留部42を形成する下カバー43と、スリーブ31を介して回転軸25を回転可能に支持する摺接部材37と、摺接部材37の下側部分と上側部分を連通させるパイプ47と、スリーブ31を介して回転軸25と一体に回転することによって、パイプ47を通して貯留部42内の潤滑液41を循環させる羽根50とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びるポンプケーシング内に下部が配置されて保護管によって取り囲まれていない回転軸に固着されたスリーブと、
前記ポンプケーシング内に固着され、前記スリーブとの間に間隙部が形成されるように前記スリーブを取り囲むホルダと、
前記スリーブの下方を覆うように前記ホルダに設けられ、連通した前記間隙部とともに潤滑液の貯留部を形成する下カバーと、
前記ホルダの前記スリーブと対向する部分に配置され、前記スリーブを介して前記回転軸を回転可能に支持する摺接部材と、
前記貯留部のうち前記摺接部材の下側部分と上側部分を連通させる流路と、
前記摺接部材の上側又は下側に位置するように前記スリーブに固着され、前記スリーブを介して前記回転軸と一体に回転することによって、前記流路を通して前記貯留部内の前記潤滑液を循環させる羽根と
を備える、水中軸受装置。
【請求項2】
前記スリーブの上部を覆うように前記ホルダに設けられた上カバーを備え、
前記流路は、前記ホルダのうち前記摺接部材の下側又は前記下カバーを貫通した下端部と、前記ホルダのうち前記摺接部材の上側又は前記上カバーを貫通した上端部とを有するパイプによって構成されている、請求項1に記載の水中軸受装置。
【請求項3】
前記ホルダは、前記摺接部材を内側に配置したホルダ本体と、前記ホルダ本体の下部から外側へ突出した底壁と、前記底壁から上側に突出して前記ホルダ本体を取り囲む外周壁とを有し、前記ポンプケーシング内に配置されてインペラが下側に配置された軸受ケーシング内に配置され、
前記下カバーは前記底壁に固着されており、
前記流路は、
前記ホルダ本体、前記底壁、及び前記外周壁によって画定された液槽と、
前記底壁に設けられ、前記液槽内と前記下カバー内を連通させる第1連通孔と、
前記ホルダ本体に設けられ、前記液槽内と前記間隙部の前記摺接部材よりも上側の部分とを連通させる第2連通孔と
によって構成されている、請求項1に記載の水中軸受装置。
【請求項4】
前記摺接部材は、前記スリーブの上下のうちの一方の端部側に偏って配置されており、
前記スリーブの前記一方の端部側には、内側から外側へ窪む凹部が設けられ、
前記スリーブと前記回転軸の間には、前記凹部によって前記一方の端部を開放した空隙部が形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の水中軸受装置。
【請求項5】
前記摺接部材は、前記スリーブの下端部に配置されており、
前記下カバーには、前記空隙部内に突出し、前記回転軸及び前記スリーブに対して間隔をあけて位置する内筒が設けられている、請求項4に記載の水中軸受装置。
【請求項6】
前記羽根は、前記スリーブの下端に固着され、前記下カバー内に配置されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の水中軸受装置。
【請求項7】
上下方向に延びるポンプケーシングと、
前記ポンプケーシング内に下部が配置され、保護管によって取り囲まれていない回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する水中軸受装置と
を備え、
前記水中軸受装置は、
前記回転軸に固着されたスリーブと、
前記ポンプケーシング内に固着され、前記スリーブとの間に間隙部が形成されるように前記スリーブを取り囲むホルダと、
前記ホルダの前記スリーブと対向する部分に配置され、前記スリーブを介して前記回転軸を回転可能に支持する摺接部材と、
前記スリーブの下方を覆うように前記ホルダに設けられ、連通した前記間隙部とともに潤滑液の貯留部を形成する下カバーと、
前記間隙部の前記摺接部材よりも上側の部分と前記下カバー内を連通させる流路と、
前記摺接部材の上側又は下側に位置するように前記スリーブに固着され、前記スリーブを介して前記回転軸と一体に回転することによって、前記流路を通して前記貯留部内の前記潤滑液を循環させる羽根と
を備える、立軸ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中軸受装置及び立軸ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸を回転可能に支持する水中軸受を冷却する冷却機構を設けた立軸ポンプが開示されている。この冷却機構は、回転軸を取り囲む保護管と、保護管に給水管を介して接続された外部水源と、外部水源の潤滑水を保護管に供給する給水ポンプ(駆動源)とを備える。気中運転時、摺接部材に潤滑水を供給して冷却することによって、摩擦による回転軸と摺接部材の焼き付けを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の冷却機構は、潤滑水を循環させる駆動源と保護管が必要なため、大掛かりで製造コストも高くなる。そのため、特許文献1の冷却機構には、構造の簡素化と製造コストの低減について改善の余地がある。
【0005】
本発明は、気中運転を行う立軸ポンプに用いられる水中軸受装置の冷却機構の簡素化とコストダウンを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上下方向に延びるポンプケーシング内に下部が配置されて保護管によって取り囲まれていない回転軸に固着されたスリーブと、前記ポンプケーシング内に固着され、前記スリーブとの間に間隙部が形成されるように前記スリーブを取り囲むホルダと、前記スリーブの下方を覆うように前記ホルダに設けられ、連通した前記間隙部とともに潤滑液の貯留部を形成する下カバーと、前記ホルダの前記スリーブと対向する部分に配置され、前記スリーブを介して前記回転軸を回転可能に支持する摺接部材と、前記貯留部のうち前記摺接部材の下側部分と上側部分を連通させる流路と、前記摺接部材の上側又は下側に位置するように前記スリーブに固着され、前記スリーブを介して前記回転軸と一体に回転することによって、前記流路を通して前記貯留部内の前記潤滑液を循環させる羽根とを備える、水中軸受装置を提供する。
【0007】
本発明の他の態様は、上下方向に延びるポンプケーシングと、前記ポンプケーシング内に下部が配置され、保護管によって取り囲まれていない回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する水中軸受装置とを備え、前記水中軸受装置は、前記回転軸に固着されたスリーブと、前記ポンプケーシング内に固着され、前記スリーブとの間に間隙部が形成されるように前記スリーブを取り囲むホルダと、前記ホルダの前記スリーブと対向する部分に配置され、前記スリーブを介して前記回転軸を回転可能に支持する摺接部材と、前記スリーブの下方を覆うように前記ホルダに設けられ、連通した前記間隙部とともに潤滑液の貯留部を形成する下カバーと、前記間隙部の前記摺接部材よりも上側の部分と前記下カバー内を連通させる流路と、前記摺接部材の上側又は下側に位置するように前記スリーブに固着され、前記スリーブを介して前記回転軸と一体に回転することによって、前記流路を通して前記貯留部内の前記潤滑液を循環させる羽根とを備える、立軸ポンプを提供する。
【0008】
回転軸は、保護管によって取り囲まれてなく、スリーブを介して摺接部材によって回転可能に支持されている。また、スリーブに固着された羽根は、回転軸と一体に回転することによって、スリーブとホルダの間の間隙部と下カバーによって構成された貯留部内の潤滑液を、流路を通して循環させる。これにより、潤滑液によって摺接部材を確実に冷却でき、摺接部材とスリーブ(回転軸)の焼焼き付きを防止できる。また、回転軸を取り囲む保護管、保護管からの液漏れを防ぐためのメカニカルシール、及び給水ポンプ等の駆動源を用いる場合と比較して、摺接部材の冷却機構を簡素化できるうえコストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、気中運転を行う立軸ポンプに用いられる水中軸受装置の冷却機構の簡素化とコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る水中軸受装置を用いた立軸ポンプの断面図。
【
図6】回転軸を回転させた状態を示す
図3と同様の拡大断面図。
【
図8】回転軸を回転させた状態を示す
図7のVIII部分の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0012】
図1を参照すると、本発明の実施形態に係る水中軸受装置30が用いられた立軸ポンプ10は、ポンプケーシング15、回転軸25、及びインペラ27を備え、吸水槽1に流入した雨水等を下流側へ排出する。
【0013】
立軸ポンプ10は、吸水槽1内の水位によって全水運転、気水混合運転、及び気中運転に切り換わる先行待機形である。全水運転では、吸水槽1内の水位がインペラ27よりも高く、ポンプケーシング15内は排出する揚水で満たされている。気水混合運転では、吸水槽1内の水位がインペラ27と同等の高さまで低下し、排出するポンプケーシング15内の揚水に空気が含まれている。気中運転では、吸水槽1内の水位がインペラ27よりも低く、インペラ27によって揚水できないため、ポンプケーシング15内の少なくともインペラ27よりも上方は空気で満たされている。
【0014】
水中軸受装置30は、ポンプケーシング15内に回転軸25を回転可能に支持する。水中軸受装置30の数は、ポンプケーシング15の全長によって定められており、本実施形態では合計で2個用いられている。ポンプケーシング15の全長が短い場合、水中軸受装置30は1個のみ配置され、ポンプケーシング15の全長が長い場合、水中軸受装置30は3個以上配置される。
【0015】
水中軸受装置30は、揚水による冷却が望めない気中運転時でも、摩擦によって過熱することによる焼き付きを防止して回転軸25の回転を継続するために、冷却機構40を備える。そして、本実施形態では、この冷却機構40の簡素化を図り、大掛かりな構成部品を不要とする。
【0016】
以下、立軸ポンプ10と水中軸受装置30の構成について、具体的に説明する。
【0017】
(立軸ポンプの構成)
図1を参照すると、立軸ポンプ10は、上下方向に延びる筒状のポンプケーシング15と、一部がポンプケーシング15内に配置された回転軸25と、回転軸25の下端に取り付けられたインペラ27とを備える。
【0018】
ポンプケーシング15は、吸水槽1の上方を覆う据付床2に形成された取付孔に上方から差し込まれ、据付床2に固定されている。このポンプケーシング15は、揚水管16と、揚水管16の上端に接続された吐出管23とを備える。
【0019】
揚水管16は、据付床2から鉛直方向下向きに突出している。揚水管16は、一様な直径の直管17と、径方向外向きに膨出した楕円筒状のベーンケーシング18と、下端に向かうに従って次第に拡開したベルマウス19とを備える。直管17、ベーンケーシング18、及びベルマウス19は、この順で上から下へ接合されている。直管17の数は、ポンプケーシング15に必要な全長に依存する。
【0020】
ベーンケーシング18の内部には、インペラ27を配置するための軸受ケーシング20が配置されている。この軸受ケーシング20は、下側に向かうに従って次第に拡開した楕円錐筒状で、放射状に突出した板状の支持部材21を介してベーンケーシング18に固着されている。軸受ケーシング20の上端は、回転軸25に固着されたスリンガ22によって塞がれている。
【0021】
吐出管23は、概ね90度屈曲された曲がり管であり、据付床2から上方へ突出している。吐出管23には、流路を開閉可能な仕切弁(図示せず)を介して、下流側の吐出槽に配管された送水管(図示せず)が接続される。
【0022】
回転軸25は、吐出管23を貫通して揚水管16内に配置された下部と、吐出管23から外側へ突出した上部とを備える。揚水管16内に位置する回転軸25の下部は、揚水管16の軸線に沿って上下方向に延び、軸受ケーシング20を貫通して下側に突出している。吐出管23から突出した回転軸25の上部には、図示しない電動モータ(駆動源)が機械的に接続されている。回転軸25のうち吐出管23を貫通した部分は、軸封装置26によって液密にシールされている。
【0023】
インペラ27は、軸受ケーシング20から突出した回転軸25の下端に取り付けられている。インペラ27は、電動モータによる回転軸25の回転によって一体に回転する(上方から見て時計回り)。これにより、吸水槽1内の水は、揚水管16の下端の吸込口から吸引され、ポンプケーシング15内の揚水路28を通して下流側へ排出される。揚水路28は、ベルマウス19内の空間、ベーンケーシング18と軸受ケーシング20の間の空間、及び直管17と回転軸25の間の空間からなる。
【0024】
(水中軸受装置の構成)
図1を参照すると、水中軸受装置30は、ポンプケーシング15の上部である直管17内、及びポンプケーシング15の下部であるベーンケーシング18内の2箇所に配置されている。以下の説明では、2個の水中軸受装置30のうち、直管17内に配置する方を水中軸受装置30Aと言い、ベーンケーシング18内に配置する方を水中軸受装置30Bと言うことがある。水中軸受装置30を1個のみ配置すればよい場合、ベーンケーシング18内の水中軸受装置30Bが用いられ、水中軸受装置30Aは用いられない。水中軸受装置30を3個以上配置する必要がある場合、ベーンケーシング18内に水中軸受装置30Bが用いられ、直管17内には間隔をあけて2個以上の水中軸受装置30Aが用いられる。
【0025】
図2及び
図7を参照すると、水中軸受装置30A,30Bはいずれも、スリーブ31、ホルダ33、及び摺接部材37を備える。また、水中軸受装置30A,30Bは、気中運転を継続して行うために、摺接部材37を冷却するための冷却機構40を更に備える。
【0026】
スリーブ31と摺接部材37の基本構成は、上側の水中軸受装置30Aと下側の水中軸受装置30Bとで共通である。ホルダ33と冷却機構40は、上側の水中軸受装置30Aと下側の水中軸受装置30Bとで構成が異なっている。以下の説明では、水中軸受装置30Aが備える方をそれぞれホルダ33A及び冷却機構40Aと言い、水中軸受装置30Bが備える方をそれぞれホルダ33B及び冷却機構40Bと言うことがある。
【0027】
図1を参照すると、水中軸受装置30A,30Bによって支持する回転軸25は、軸封装置26から軸受ケーシング20までの間のどの部分も、筒状の保護管によって取り囲まれていない。つまり、上側の水中軸受装置30Aを含み、回転軸25のうち軸封装置26と軸受ケーシング20の間に位置する部分は、揚水路28内に露出している。下側の水中軸受装置30Bは、軸受ケーシング20内に配置されているため、揚水路28内には露出していない。
【0028】
以下、
図2及び
図3を参照して、上側の水中軸受装置30Aの具体的構成を説明する。
【0029】
水中軸受装置30Aのスリーブ31は、可撓性を有する材料(例えば樹脂)によって形成された円筒体であり、回転軸25に固着されている。スリーブ31の上端部(他方の端部)31a側は、回転軸25に密着状態で配置され、キーの差し込みによって回転軸25に対して相対回転不可能に取り付けられている。スリーブ31の下端部(一方の端部)31b側には、径方向の内側から外側へ窪む凹部31cが設けられている。この凹部31cの上下方向の全長は、スリーブ31の全長の半分以上に設定されている。
【0030】
凹部31cによってスリーブ31と回転軸25の間には、下端を開放した空隙部32が形成されている。これにより、スリーブ31は、上端部31aのみが回転軸25に固着された片持ち構造になり、空隙部32によって下端部31b側には、径方向に変形可能な緩衝部としての機能が付与されている。下端部31bのばね定数は凹部31cの全長に依拠しており、凹部31cの全長を長くするほど小さくなる。本実施形態では、摺接部材37の耐衝撃力に基づき、摺接部材37に加わる衝撃力を緩和して損傷を防止できるばね定数になるように、凹部31cの全長が設定されている。スリーブ31の全長は、凹部31cに必要な長さと、回転軸25への固着に必要な長さを踏まえた寸法に設定されている。
【0031】
水中軸受装置30Aのホルダ33Aは、スリーブ31を取り囲む円筒状であり、放射状に突出した板状の支持部材34を介して直管17に固着されている。ホルダ33Aとスリーブ31の間には、摺接部材37の配置に必要な間隙部35が確保されている。ホルダ33Aの下端内周には、摺接部材37を配置するために、径方向の内側から外側へ窪む配置凹部36が設けられている。
【0032】
水中軸受装置30Aの摺接部材37は、スリーブ31を介して回転軸25を回転可能に支持する円筒体である。本実施形態の摺接部材37は、樹脂やゴムよりも耐衝撃力は低いが耐摩耗性は高いセラミック製である。この摺接部材37は、ホルダ33のスリーブ31と対向する配置凹部36に取り付けられ、スリーブ31の下端部31b側に偏って配置されている。摺接部材37は、後に詳述する下カバー43によって配置凹部36から脱落不可能に位置決めされている。
【0033】
水中軸受装置30Aの冷却機構40Aは、潤滑液41(例えば清水又は油)を貯留するための貯留部42、摺接部材37の下方と上方を連通させるためのパイプ(流路)47、及び潤滑液41を循環させるための羽根50を備える。貯留部42を形成するために、ホルダ33Aの下端には下カバー43が取り付けられ、この下カバー43に内筒44が取り付けられている。また、ホルダ33内への揚水の侵入を防ぐために、ホルダ33Aの上端には上カバー46が取り付けられている。
【0034】
貯留部42は、スリーブ31とホルダ33Aの間の間隙部35と、この間隙部35に連通する下カバー43の内部空間によって構成されている。
【0035】
下カバー43は、受皿状のカバー本体43aを備え、スリーブ31の下方を覆うようにホルダ33Aに液密に取り付けられている。カバー本体43aの上端には、ホルダ33Aの下端に面接触状態で配置される上面部43bが設けられている。この上面部43bの径方向の内周部には、ホルダ33Aの配置凹部36に嵌まり、摺接部材37の下端を支持する支持部43cが設けられている。
【0036】
内筒44は、円筒状で、カバー本体43aの内周縁に液密に取り付けられている。内筒44は、カバー本体43aから上向きに突出して空隙部32内に配置されている。内筒44の上端は、スリーブ31に干渉しない範囲で凹部31cの上端近傍まで延びている。内筒44の下端内周には、全水運転時に揚水の侵入を防ぐためのネジ部44aが設けられている。このネジ部44aは、回転軸25の回転によって内筒44内の液体が揚水路28内へ流れる向きに旋回した螺旋状のネジ山を有する。
【0037】
内筒44は、空隙部32を画定する回転軸25とスリーブ31に対して、それぞれ間隔をあけて位置している。内筒44とスリーブ31の間の間隙は、下カバー43内(貯留部42内)に連通している。そのため、この間隙には貯留部42内の潤滑液41が流入可能である。但し、潤滑液41は、液位が内筒44の上端を越えない限り、内筒44と回転軸25の間の隙間を通して揚水路28内へ漏出することはない。言い換えれば、スリーブ31の凹部31cを含む内筒44の全高は、貯留部42内の潤滑液41が漏出しない高さに設定されている。
【0038】
このように構成された貯留部42には、潤滑液41を補充するための注入管45が接続されている。この注入管45は、内端がホルダ33Aを貫通して貯留部42内に連通し、外端が直管17を貫通してポンプケーシング15外に露出している。注入管45の外端は、栓体によって塞がれ、潤滑液41を補充時のみ開放される。注入管45には、図示しない内視鏡を挿入可能な内径のパイプが用いられている。これにより、内視鏡によって摺接部材37の摩耗量等、水中軸受装置30A内を定期的に観察できる。
【0039】
上カバー46は、スリーブ31の上部を覆うようにホルダ33に液密に取り付けられている。この上カバー46の内部空間は間隙部35内に連通している。つまり、上カバー46の内部空間も貯留部42の一部を構成する。上カバー46の上端内周部には、全水運転時に揚水路28からの揚水の侵入を防ぐためのラビリンス部46aが設けられている。但し、ラビリンス部46aの代わりに、回転軸25の上カバー46よりも上側にスリンガ(
図1参照)を配置してもよい。
【0040】
パイプ47は、貯留部42のうち、摺接部材37よりも下側部分である下カバー43内と、摺接部材37よりも上側部分である上カバー46内とを連通させるために設けられている。具体的には、パイプ47は、下カバー43を貫通して下カバー43の内部空間に連通した下端部47aと、上カバー46を貫通して上カバー46の内部空間に連通した上端部47bとを備える。パイプ47のうち端部47a,47b以外の部分は、ホルダ33Aの径方向外側に配置され、揚水路28内に露出している。パイプ47は、1本のみであってよいし、複数本を周方向に間隔をあけて配置してもよく、その数とパイプ径は、摺接部材37の冷却に必要な潤滑液41の循環流量に応じて設定される。
【0041】
羽根50は、スリーブ31の下端に固着され、スリーブ31を介して回転軸25と一体に回転することによって、パイプ47を通して貯留部42内の潤滑液41を循環させる。
図4を参照すると、羽根50は、いわゆるオープン羽根であり、円環状の基板50aの下面に概ね放射状に延びる複数の羽根板50bを備え、潤滑液41を基板50aの径方向外側へ送出する。但し、羽根50は、
図5に示すように、厚みを有する円環状の基板50aに径方向に延びる複数の送液孔50cを放射状に設けたクローズド羽根であってもよい。
【0042】
以上のように構成された水中軸受装置30Aでは、
図3に示すように、回転軸25の停止状態での潤滑液41の液位は、内筒44の上端付近に位置している。
図6に示すように、電動モータによって回転軸25が回転されると、スリーブ31と一体に羽根50も回転し、貯留部42内の潤滑液41が径方向外向きに送出される。送出された潤滑液41の一部は、下端部47aからパイプ47内を上向き流動し、上端部47bから間隙部35の上部に流出される。
【0043】
羽根50の停止状態では空気層であったパイプ47内の上部が、羽根50の回転によって潤滑液41で満たされるため、スリーブ31と内筒44の間の潤滑液41が貯留部42内に流入する。パイプ47を通して摺接部材37の下側の潤滑液41が摺接部材37の上側に供給されるため、間隙部35内では上側から下側に向けた液流が生じる。これにより、潤滑液41は、スリーブ31と摺接部材37の微細な隙間を通過して下カバー43内へ循環される。
【0044】
立軸ポンプ10が全水運転、気水混合運転、及び気中運転のいずれの状態であっても、摺接部材37とスリーブ31の間が潤滑液41によって潤滑される。そのため、摺接部材37を冷却でき、摺接部材37とスリーブ31(回転軸25)の焼き付きを防止できる。しかも、立軸ポンプ10が気水混合運転又は全水運転の場合、揚水路28内の揚水によってパイプ47内の潤滑液41が熱交換(冷却)されるため、摺接部材37を効果的に冷却できる。
【0045】
以下、
図7及び
図8を参照して、下側の水中軸受装置30Bの具体的構成を説明する。以下の説明において、特に言及しない点は上側の水中軸受装置30Aと同様である。
図7及び
図8において、水中軸受装置30Aと同一の要素には同一の符号を付している。
【0046】
水中軸受装置30Bのスリーブ31は、水中軸受装置30Aのスリーブ31と同様に、上端部31a、下端部31b、及び凹部31cを備え、上端部31aの外周部が縮径されていない点でのみ、水中軸受装置30Aのスリーブ31と相違している。
【0047】
水中軸受装置30Bのホルダ33Bは、後に詳述する冷却機構40Bの一部を構成する液槽49を備える点で、水中軸受装置30Aのホルダ33Aとは具体的構成が異なっている。このホルダ33Bは、円筒状のホルダ本体33aと、ホルダ本体33aの下端から径方向外側へ突出した底壁33bと、底壁33bから上側に突出してホルダ本体33aを取り囲む外周壁33cとを備える。これらホルダ本体33a、底壁33b、及び外周壁33cによって液槽49が画定されている。
【0048】
ホルダ33Bは、外周壁33cから放射状に突出した板状の支持部材34を介して軸受ケーシング20に固着されている。水中軸受装置30Aのホルダ33Aと同様に、ホルダ本体33aとスリーブ31の間には間隙部35が確保され、ホルダ本体33aの下端内周部には配置凹部36が設けられている。外周壁33cは、摺接部材37よりも上側へ突出している。
【0049】
水中軸受装置30Bの摺接部材37は、水中軸受装置30Aの摺接部材37と同様に、セラミック製で、ホルダ33Bの配置凹部36に取り付けられている。
【0050】
水中軸受装置30Bの冷却機構40Bは、
図2及び
図3に示すパイプ47の代わりに、ホルダ33Bに設けられた液槽49が用いられている点で、水中軸受装置30Aの冷却機構40Aと大きく相違している。具体的には、冷却機構40Bは、貯留部42、液槽(流路)49、及び羽根50を備える。貯留部42を形成するために、ホルダ33Bの下端には下カバー43が取り付けられ、この下カバー43に内筒44が取り付けられている。冷却機構40Bは、上端が塞がれた軸受ケーシング20内に配置されるため、ホルダ33Bの上端には、
図2及び
図3に示す上カバー46の代わりに、スリンガ22を位置決めするスリーブ48が取り付けられている。
【0051】
冷却機構40Bの貯留部42は、冷却機構40Aの貯留部42と同様に、スリーブ31とホルダ33Bの間の間隙部35と、この間隙部35に連通する下カバー43の内部空間によって構成されている。
【0052】
冷却機構40Bの下カバー43は、受皿状であり、スリーブ31の下方を覆うようにホルダ33Bの底壁33bに液密に取り付けられている。この下カバー43には、
図3に示すような摺接部材37を支持する支持部43cは設けられていない。
【0053】
冷却機構40Bの内筒44は、冷却機構40Bの内筒44と同様に、下カバー43の内周縁に液密に取り付けられ、空隙部32内へ突出している。但し、水中軸受装置30Bが軸受ケーシング20内に配置されるため、内筒44には、
図3に示すネジ部44aは設けられていない。
【0054】
このように構成された冷却機構40Bの貯留部42には、潤滑液41を補充するための注入管45が接続されている。この注入管45は、軸受ケーシング20及びホルダ33Bの外周壁33cを貫通し、内端がホルダ本体33aを貫通して貯留部42内に連通し、外端がベーンケーシング18を貫通してポンプケーシング15外に露出している。
【0055】
スリンガ22を位置決めするスリーブ48は、樹脂製で、回転軸25に密着状態で配置される内径の筒体である。スリーブ48の下端はホルダ本体33aの上端に当接し、スリーブ48の上端はスリンガ22の下面に当接している。
【0056】
液槽49は、全体として円環状の空間であり、前述のようにホルダ本体33a、底壁33b、及び外周壁33cとによって画定されている。底壁33bには、液槽49内と下カバー43内を連通させる第1連通孔33dが設けられている。ホルダ本体33aには、液槽49内と間隙部35の摺接部材37よりも上側の部分とを連通させる第2連通孔33eが設けられている。これら連結孔33d,33eは、それぞれ1個ずつであってもよいし、周方向に間隔をあけて複数個ずつ設けられていてもよく、その数と直径は、摺接部材37の冷却に必要な潤滑液41の循環流量に応じて設定される。
【0057】
冷却機構40Bの羽根50は、冷却機構40Aの羽根50と同様に、スリーブ31の下端に固着され、スリーブ31を介して回転軸25と一体に回転することによって、液槽49を通して貯留部42内の潤滑液41を循環させる。この羽根50には、
図4に示すオープン羽根及び
図5に示すクローズド羽根のいずれかが用いられる。
【0058】
以上のように構成された水中軸受装置30Bでは、回転軸25の停止状態での潤滑液41の液位は、内筒44の上端付近に位置している。
図8に示すように、電動モータによって回転軸25が回転されると、スリーブ31と一体に羽根50も回転することにより、貯留部42内の潤滑液41は、径方向外向きに送出される。これにより、下カバー43内の径方向の外側が内側よりも高圧になるため、潤滑液41の一部が第1連通孔33dを通って液槽49内に流入し、液槽49内の潤滑液41の一部が第2連通孔33eを通って間隙部35の上部に流出される。また、間隙部35内では上側から下側に向けた液流が生じ、これにより潤滑液41は、スリーブ31と摺接部材37の微細な隙間を通過して下カバー43内へ循環される。
【0059】
以上のように構成された水中軸受装置30は、以下の特徴を有する。
【0060】
回転軸25は、保護管によって取り囲まれてなく、スリーブ31を介して摺接部材37によって回転可能に支持されている。また、スリーブ31に固着された羽根50は、回転軸25と一体に回転することによって、スリーブ31とホルダ33の間の間隙部35と下カバー43によって構成された貯留部42内の潤滑液41を、パイプ47又は液槽49を通して循環させる。これにより、潤滑液41によって摺接部材37を確実に冷却でき、摺接部材37とスリーブ31(回転軸25)の焼焼き付きを防止できる。また、回転軸25を取り囲む保護管、保護管からの液漏れを防ぐためのメカニカルシール、及び給水ポンプ等の駆動源を用いる場合と比較して、摺接部材37の冷却機構40を簡素化できるうえコストダウンを図ることができる。
【0061】
上側の水中軸受装置30Aは、スリーブ31の上部を覆うようにホルダ33Aに設けられた上カバー46を備える。これにより、排水時に揚水に含まれる異物がスリーブ31と摺接部材37の間に侵入することを防止できる。また、循環用の流路は、下カバー43を貫通した下端部47aと、上カバー46を貫通した上端部47bとを有するパイプ47によって構成されている。つまり、下カバー43、上カバー46、及びパイプ47が無い周知の水中軸受に対し、下カバー43、上カバー46、パイプ47、及び羽根50を設けるだけで、ホルダ33内に貯留部42を形成し、潤滑液41を循環できる。よって、気中運転を行う立軸ポンプ10に用いられる水中軸受装置30Aの冷却機構40Aを、確実に簡素化できるとともにコストダウンを図ることができる。また、パイプ47は、ポンプケーシング15内の揚水路28に露出されるため、排水時の揚水によって潤滑液41を効果的に冷却できる。
【0062】
下側の水中軸受装置30Bのホルダ33Bは、ポンプケーシング15内に配置されてインペラ27が下側に配置される軸受ケーシング20内に配置されている。これにより、排水時に揚水に含まれる異物がスリーブ31と摺接部材37の間に侵入することを防止できる。また、循環用の流路は、ホルダ33が備えるホルダ本体33aと底壁33bと外周壁33cとによって画定された液槽49と、底壁33bに設けられた第1連通孔33dと、ホルダ本体33aに設けられた第2連通孔33eとによって構成されている。よって、気中運転を行う立軸ポンプ10に用いられる水中軸受装置30Bの冷却機構40Bを、確実に簡素化できるとともにコストダウンを図ることができる。
【0063】
摺接部材37が配置されたスリーブ31の下端部31b側には凹部31cが設けられ、この凹部31cによってスリーブ31と回転軸25の間には、下端部31bを開放した空隙部32が形成されている。これにより、スリーブ31は、上端部31aのみが回転軸25に固着された片持ち構造になり、摺接部材37を配置する下端部31bには空隙部32によって緩衝機能を付与できる。よって、回転軸25の回転によって摺接部材37に加わる衝撃を緩和できるため、摺接部材37がセラミック製の場合に摺接部材37の損傷を効果的に抑制できる。
【0064】
摺接部材37がスリーブ31の下端部47aに配置され、下カバー43には、回転軸25及びスリーブ31に対して間隔をあけて位置する内筒44が設けられている。これにより、貯留部42に連通した空隙部32に流入する潤滑液41は、液位が内筒44の上端を越えるまで漏出することはない。よって、貯留部42に所定量の潤滑液41を確実に貯留できる。
【0065】
羽根50はスリーブ31の下端に固着されている。これにより、潤滑液41を循環させるための羽根50をスリーブ31に容易に固着できる。また、羽根50は下カバー43内に配置されている。これにより、羽根50の直径を確保できるため、潤滑液41を確実に循環できる。
【0066】
なお、本発明は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、
図9に示すように、水中軸受装置30Aには、
図3に示すセラミック製の摺接部材37の代わりに、セラミックスよりも耐衝撃力が高いゴム製又は樹脂製の摺接部材37が用いられてもよい。この場合、スリーブ31には緩衝用の凹部31cを設ける必要はなく、下端部31bも回転軸25に密着する構成とすることが好ましい。この場合、下カバー43には内筒44を設ける必要はなく、揚水の侵入を防ぐためのネジ部は下カバー43の内周部に設けることが好ましい。
図8に示す水中軸受装置30Bも、
図9に示す水中軸受装置30Aと同様に構成してもよい。また、水中軸受装置30Aに用いられる摺接部材37の材質と、水中軸受装置30Bに用いられる摺接部材37の材質とは、異なっていてもよい。
【0068】
スリーブ32は、上端部31a側に凹部31cが設けられて下端部31bが回転軸25に固着される構成で、摺接部材37は、凹部31cと対応するようにスリーブ32の上部に配置される構成であってもよい。
【0069】
下カバー43及び上カバー46のうちの一方は、ホルダ34に一体に設けられていてもよい。内筒44は、下カバー43に一体に設けられてもよい。
【0070】
水中軸受装置30Aでは、パイプ47の下端部47aは、ホルダ33Aのうち摺接部材37の下側を貫通し、パイプ47の上端部47bは、ホルダ33Aのうち摺接部材37の上側を貫通してもよい。
【0071】
羽根50は、スリーブ32の上端部32a側に固着されてもよいし、下端又は上端に対して間隔をあけた位置に固着されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 吸水槽
2 据付床
10 立軸ポンプ
15 ポンプケーシング
16 揚水管
17 直管
18 ベーンケーシング
19 ベルマウス
20 軸受ケーシング
21 支持部材
22 スリンガ
23 吐出管
25 回転軸
26 軸封装置
27 インペラ
28 揚水路
30,30A,30B 水中軸受装置
31 スリーブ
31a 上端部(他方の端部)
31b 下端部(一方の端部)
31c 凹部
32 空隙部
33,33A,33B ホルダ
33a ホルダ本体
33b 底壁
33c 外周壁
33d 第1連通孔
33e 第2連通孔
34 支持部材
35 間隙部
36 配置凹部
37 摺接部材
40,40A,40B 冷却機構
41 潤滑液
42 貯留部
43 下カバー
43a カバー本体
43b 上面部
43c 支持部
44 内筒
44a ネジ部
45 注入管
46 上カバー
46a ラビリンス部
47 パイプ(流路)
47a 下端部
47b 上端部
48 スリーブ
49 液槽(流路)
50 羽根
50a 基板
50b 羽根板
50c 送液孔