(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168235
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】非空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 7/00 20060101AFI20241128BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B60C7/00 H
B60C9/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084728
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】野村 和哉
(72)【発明者】
【氏名】染野 和明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 明彦
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA30
3D131BA02
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB19
3D131BC05
3D131BC31
3D131BC42
3D131CC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、乗り心地性を損なうことなく、耐久性を向上させた、非空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の非空気入りタイヤは、内筒体と、前記内筒体をタイヤ径方向外側から囲繞する外筒体と、前記内筒体と前記外筒体とを互いに連結する弾性変形可能な連結部材と、前記外筒体の径方向外側に配置されたトレッドと、を備え、前記外筒体よりもタイヤ径方向外側且つ前記トレッドよりもタイヤ径方向内側に、環状の1層以上の補強層が配置され、前記補強層は、補強コードを有さず、前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒体と、前記内筒体をタイヤ径方向外側から囲繞する外筒体と、前記内筒体と前記外筒体とを互いに連結する弾性変形可能な連結部材と、前記外筒体の径方向外側に配置されたトレッドと、を備える非空気入りタイヤであって、
前記外筒体よりもタイヤ径方向外側且つ前記トレッドよりもタイヤ径方向内側に、環状の1層以上の補強層が配置され、
前記補強層は、補強コードを有さず、
前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率よりも大きいことを特徴とする、非空気入りタイヤ。
【請求項2】
2層以上の前記補強層を有し、
前記2層以上の前記補強層は、径方向外側に配置される前記補強層ほど、弾性率が大きい、請求項1に記載の非空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記内筒体、前記外筒体、前記連結部材、及び前記補強層は、同種の樹脂からなる、請求項1又は2に記載の非空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率の1倍超500倍以下である、請求項1又は2に記載の非空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率の2~50倍である、請求項4に記載の非空気入りタイヤ。
【請求項6】
1層分の前記補強層の厚さは、前記外筒体の厚さの0.1~10倍である、請求項1又は2に記載の非空気入りタイヤ。
【請求項7】
1層分の前記補強層の厚さは、前記外筒体の厚さの0.3~3倍である、請求項6に記載の非空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車軸に取り付けられる取り付け体、該取り付け体に外装される内筒体、及び該内筒体をタイヤ径方向の外側から囲繞する外筒体、を備えるリング部材と、内筒体と外筒体との間にタイヤ周方向に沿って複数配設されるとともに、これらの両筒体同士を連結する連結部材と、を備える、非空気入りタイヤが知られている。
【0003】
このような非空気入りタイヤは、耐久性を向上させることが望まれるが、例えばリング部材を高剛性のものとしてしまうと、縦ばね係数が増大して乗り心地性が低下してしまう。これに対し、例えば特許文献1では、本出願人により、外筒体の径方向外側にコード(スパイラルコード)を用いた補強層を配置して、非空気入りタイヤの耐久性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような非空気入りタイヤでは、荷重時に補強層のコードに圧縮歪が生じてコードが折れ曲がってしまうことにより、上記補強層の故障が発生するおそれがあり、タイヤの耐久性には向上の余地があった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、乗り心地性を損なうことなく、耐久性を向上させた、非空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)内筒体と、前記内筒体をタイヤ径方向外側から囲繞する外筒体と、前記内筒体と前記外筒体とを互いに連結する弾性変形可能な連結部材と、前記外筒体の径方向外側に配置されたトレッドと、を備える非空気入りタイヤであって、
前記外筒体よりもタイヤ径方向外側且つ前記トレッドよりもタイヤ径方向内側に、環状の1層以上の補強層が配置され、
前記補強層は、補強コードを有さず、
前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率よりも大きいことを特徴とする、非空気入りタイヤ。
ここで、「弾性率」とは、JISK7161-1(2014年)に基づいて測定されるものである。
【0008】
(2)2層以上の前記補強層を有し、
前記2層以上の前記補強層は、径方向外側に配置される前記補強層ほど、弾性率が大きい、前記(1)に記載の非空気入りタイヤ。
【0009】
(3)前記内筒体、前記外筒体、前記連結部材、及び前記補強層は、同種の樹脂からなる、前記(1)又は(2)に記載の非空気入りタイヤ。
【0010】
(4)前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率の1倍超500倍以下である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載の非空気入りタイヤ。
【0011】
(5)前記補強層の弾性率は、前記連結部材の弾性率の2~50倍である、前記(4)に記載の非空気入りタイヤ。
【0012】
(6)1層分の前記補強層の厚さは、前記外筒体の厚さの0.1~10倍である、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の非空気入りタイヤ。
ここで、「厚さ」は、無負荷状態における径方向に測定した厚さをいうものとする。
【0013】
(7)1層分の前記補強層の厚さは、前記外筒体の厚さの0.3~3倍である、前記(6)に記載の非空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乗り心地性を損なうことなく、耐久性を向上させた、非空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる非空気入りタイヤの一部の構成要素を示す側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる非空気入りタイヤの部分斜視図である。
【
図4】実施例の各非空気入りタイヤの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態にかかる非空気入りタイヤの一部の構成要素を示す側面図である。
図2は、本発明の一実施形態にかかる非空気入りタイヤの部分斜視図である。
図1、
図2に示すように、非空気入りタイヤ1は、内筒体2と、内筒体2をタイヤ径方向外側から囲繞する外筒体3と、内筒体2と外筒体3とを互いに連結する弾性変形可能な複数の連結部材4と、を備えている。また、
図2に示すように、非空気入りタイヤ1は、外筒体3の径方向外側に配置されたトレッド5をさらに備えている。
【0018】
図1、
図2に示すように、この非空気入りタイヤ1では、外筒体3の径方向外側且つトレッド5の径方向内側に、環状(側面視で円環状)の1層以上の(
図1、
図2に示す例では、1層の)補強層6が配置されている。
【0019】
本実施形態において、内筒体2、外筒体3、及び連結部材4は、既知の様々な構成とすることができる。本例では、内筒体2は、リムを介して車軸に取り付けられる。内筒体2及び外筒体3の中心軸は、リムの中心軸と同軸に配置される。本例では、内筒体2、外筒体3、及び連結部材4は、それぞれのタイヤ幅方向の中央部が互いに一致した状態で配置される。本例では、内筒体2、外筒体3、及び連結部材4は、熱可塑性樹脂からなる。内筒体2、外筒体3、及び連結部材4を形成する材質の弾性率は、特には限定されないが、例えば100MPa以上1500MPa以下とすることができる。内筒体2、外筒体3、及び連結部材4は、熱可塑性樹脂からなる場合、射出成形により一体形成することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば1種だけの樹脂、2種以上の樹脂を含む混合物、又は1種以上の樹脂と1種以上のエラストマーとを含む混合物であっても良く、さらに、例えば老化防止剤、可塑剤、充填剤、若しくは顔料等の添加物を含んでいても良い。なお、内筒体2、外筒体3、及び連結部材4は、それぞれ別体に形成されていても良い。内筒体2、外筒体3、及び連結部材4は、熱可塑性樹脂以外の材質により形成されていても良い。
【0020】
本例では、連結部材4は、内筒体2と外筒体3との間において、中心軸線を基準に互いに点対称となるように、複数配置されている。本例では、タイヤ周方向で隣り合う連結部材4同士は、互いに非接触で離間して配置されている。図示例では、連結部材4は、側面視で屈曲した形状を有しており、これにより、連結部材4をタイヤ径方向に弾性変形し易い板ばねとして利用することができる。なお、連結部材4の形状は、様々なものとすることができ、側面視で直線状(平板状)であっても、弾性変形の効果を得ることができ、また、屈曲した形状とする場合に、図示例では、4つの屈曲点により連結された5つの(側面視で)直線状の部分からなっているが、屈曲点の個数は、4つに限られることはなく、1~3個又は5個以上とすることができ、また、(側面視で)直線状の部分のタイヤ径方向に対する傾斜角度も、所望の、弾性変形の効果を得ることができるように、様々な傾斜角度に調整することができる。
【0021】
本例で、トレッド5は、非空気入りタイヤ1の中心軸を中心としてタイヤ幅方向に延びる筒状に形成されている。本例では、トレッド5は、外筒体3において、その外周面だけでなく、タイヤ幅方向を向く側面のうちのタイヤ径方向の外端部も覆っている。トレッド5を形成する材質の弾性率は、非空気入りタイヤ1の他の部分を形成する材質の弾性率よりも小さい。本例では、トレッド5の外周面は、タイヤ幅方向及びタイヤ径方向の双方向に沿う縦断面視において、タイヤ径方向の外側に向けて凸となる曲線状を呈する。トレッド5は、例えば、天然ゴム及び/又はゴム組成物が加硫された加硫ゴム、あるいは熱可塑性材料等で形成されている。耐摩耗性の観点ではトレッド5を加硫ゴムで形成するのが好ましい。熱可塑性材料として、例えば熱可塑性エラストマー若しくは熱可塑性樹脂等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばJIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えばウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、若しくはポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0022】
図1、
図2に示すように、本実施形態では、外筒体3よりもタイヤ径方向外側且つトレッド5よりもタイヤ径方向内側に、環状(側面視で円環状)の1層以上の(
図1、
図2に示した例では、1層のみの)補強層6が配置されている。本実施形態において、補強層6の弾性率は、連結部材4の弾性率よりも大きい。特には限定されないが、補強層6は、例えば、樹脂(例えば熱可塑性樹脂)又はゴムからなるものとすることができる。本実施形態において、補強層6は、補強コードを有していない。例えば、補強層6は、樹脂のみ(熱可塑性樹脂のみ)からなる部材とすることができ、又は、ゴムのみからなる部材とすることができる。
以下、本実施形態の非空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0023】
本実施形態の非空気入りタイヤ1では、外筒体3の径方向外側且つトレッド5の径方向内側に、連結部材4よりも弾性率の大きい、円環状の1層以上の補強層6を配置している。このため、弾性率の大きい補強層6により、非空気入りタイヤ1に生じる歪みを低減することができる。そして、そのような補強層6が、補強コードを有していないため、荷重時に補強コードが折れ曲がってしまうような現象が発生せず、補強層6での故障の発生も抑制することができる。このようにして、非空気入りタイヤ1の耐久性を高めることができる。
また、例えば弾性変形の役割を担う連結部材4の弾性率を高くして耐久性を高めようとする場合と比べて、縦ばね係数の増大を抑えることができるため、乗り心地性を大きく損なうこともない。
以上のように、本実施形態の非空気入りタイヤ1によれば、乗り心地性を損なうことなく、耐久性を向上させることができる。
【0024】
図3は、変形例の部分斜視図である。
図3に示すように、外筒体3の径方向外側且つトレッド5の径方向内側に、円環状の2層以上の補強層(図示例では、2層の補強層7、8)を配置することもできる。これにより、歪みを抑制する効果を2層以上に分担させて、補強層にかかる歪みを低減することができる。
【0025】
この場合、2層以上の補強層は、径方向外側に配置される補強層ほど、弾性率が大きいことが好ましい。図示例では、径方向外側に配置されている補強層8の弾性率が、径方向内側に配置されている補強層7の弾性率よりも大きいことが好ましい。外筒体3、補強層7、及び補強層8の順に弾性率が大きくなっていくことにより、径方向に隣接する部材間で剛性段差が大きくならないようにして、部材間で生じる応力を低減することができるからである。
【0026】
内筒体2、外筒体3、連結部材4、及び補強層6(7、8)は、同種(同一)の樹脂からなることが好ましく、同種(同一)の熱可塑性樹脂とすることが特に好ましい。溶着により容易に部材間を接着することができるからである。一方、例えば、内筒体2、外筒体3、及び連結部材4を同種(同一)の樹脂とし、補強層6(7、8)をそれとは異なる樹脂とすることもできる。一例としては、内筒体2、外筒体3、及び連結部材4を熱可塑性樹脂とし、補強層6(7、8)のみを熱硬化性樹脂とすることもできる。
【0027】
補強層の弾性率は、連結部材の弾性率の1倍超500倍以下であることが好ましい。1倍超とすることで、上記の効果を得ることができ、一方で、500倍以下とすることで補強層の弾性率が高くなり過ぎることによる乗り心地性の低下を抑制することができるからである。同様の理由により、補強層の弾性率は、連結部材の弾性率の2~50倍であることがより好ましく、2~10倍であることがさらに好ましい。
【0028】
1層分の補強層の厚さは、外筒体の厚さの0.1~10倍であることが好ましい。0.1倍以上とすることにより、非空気入りタイヤ1の歪みを低減する効果を得ることができ、一方で、10倍以下とすることにより、重量増や乗り心地性の低下を抑えることができる。同様の理由により、1層分の補強層の厚さは、外筒体の厚さの0.3~3倍であることがより好ましく、0.3~1倍とすることがさらに好ましい。1層分の補強層の厚さは、外筒体の厚さよりも薄いことも好ましく、これにより、乗り心地性の低下や重量増を有効に抑えることができる。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。タイヤサイズPCR155/70R13の非空気入りタイヤとして、
図4に示すようなタイヤ構造の非空気入りタイヤについて性能をシミュレーションする。比較例1、2は、補強層を有しないタイヤ構造であり、発明例1、2は、補強層を1層のみ有しており、発明例3は、補強層を2層のみ有している。各タイヤのさらなる諸元は、評価結果と共に以下の表1に示している。
【0030】
試験は、各タイヤの重量、タイヤ耐久性(応力)、及び乗り心地性(縦ばね係数)をシミュレーションにより評価する。表1において、重量は、比較例1を100とするINDEXで示しており、数値が小さい方が、重量が小さいことを示している。また、タイヤ耐久性は、比較例1を100とするINDEXで示しており、数値が小さい方が、応力が小さく、タイヤ耐久性が高いことを示す。また、縦ばね係数は、比較例1を100とするINDEXで示しており、数値が小さい方が、乗り心地性が良好であることを示す。シミュレーションは平押し計算を実施し、3kN荷重負荷時の連結部材にかかる最大応力を材料の降伏応力で割った値を耐久性の指標として用いる。また、縦ばね係数は想定される最大荷重の80%における縦ばね値を乗り心地の指標として用いる。
【0031】
【0032】
表1及び
図5に示すように、発明例1~3は、比較例1、2と対比して、乗り心地性を損なうことなく、耐久性を向上させることができていることがわかる。発明例1は、比較例1と比較して、重量、タイヤ耐久性、及び乗り心地性において優位となっている。比較例2のように、耐久性を高めるだけだと連結部材の弾性率を高めることにより可能ではあるが、乗り心地が大きく低下する。これに対し、発明例2と比較例2との対比により、発明例2では、比較例2と比較して、重量、タイヤ耐久性、及び乗り心地性において優位(重量は同等)となっている。
【0033】
次に、発明例1~3について、各補強層にかかる歪みをシミュレーションする。荷重条件等の試験条件は、前記のシミュレーションと同様の条件である。
【0034】
【0035】
表2に示すように、補強層を複数層配置している発明例3では、1層当たりの荷重負荷時の歪みが分散されて低減している。