(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168242
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】PET樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/08 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084737
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000198477
【氏名又は名称】石塚硝子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399097476
【氏名又は名称】日本パリソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥野 希一
(72)【発明者】
【氏名】日比野 卓
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AB10
4F401BA13
4F401BB09
4F401CA14
4F401CA22
4F401CA56
4F401CA79
4F401CB40
4F401EA01
4F401EA54
4F401EA66
(57)【要約】
【課題】不純物の含有量が少ないPET樹脂を低コストで製造することができるPET樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】PET樹脂の製造方法においては、使用済みPET樹脂を良溶媒で溶解してPET溶液を生成し、前記PET溶液と活性炭とを接触させ、前記PET溶液から、前記活性炭を含む、大きさが50μm以上の物質を分離し、前記PET溶液に貧溶媒を加えてPET樹脂の粒子を析出させ、析出した前記PET樹脂の粒子を回収する。製造したPET樹脂のb
*値は1.5以下である。前記良溶媒のうち25質量%以上は、非プロトン性極性溶媒から成る特定良溶媒である。前記活性炭における、所定の測定方法により測定される試験液の全光線透過率が80%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みPET樹脂を良溶媒で溶解してPET溶液を生成し、
前記PET溶液と活性炭とを接触させ、
前記PET溶液から、前記活性炭を含む、大きさが50μm以上の物質を分離し、
前記PET溶液に貧溶媒を加えてPET樹脂の粒子を析出させ、
析出した前記PET樹脂の粒子を回収し、
前記良溶媒のうち25質量%以上は、非プロトン性極性溶媒から成る特定良溶媒であり、
前記活性炭における、下記の測定方法により測定される試験液の全光線透過率が80%以上であり、
製造したPET樹脂のb*値が1.5以下である、
PET樹脂の製造方法。
全光線透過率の測定方法:前記活性炭300mgと、N-メチル-2-ピロリドン30mLとを混合し、試験液を作成する。次に、前記試験液を165℃で15分間加熱攪拌する。次に、前記試験液から前記活性炭をろ過により取り除く。次に、光路長10mmのガラスセルで、ろ液の前記全光線透過率を測定する。
【請求項2】
請求項1に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記PET溶液と前記活性炭とを接触させる前に、
前記活性炭に含まれるタール成分の少なくとも一部を除去する、
PET樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記特定良溶媒は、N-アルキル-2-ピロリドン、N-アルケニル-2-ピロリドン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンから成る群から選ばれる1種以上である、
PET樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記特定良溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンである、
PET樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記PET溶液と前記活性炭とを接触させた後、目開き0.5μm以上50μm以下のフィルターで前記PET溶液を濾過する、
PET樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
抽出溶媒を用いて、回収された前記PET樹脂の粒子から前記良溶媒及び前記貧溶媒を抽出する、
PET樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記抽出溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトン、及びエタノールから成る群から選ばれた少なくとも1種である、
PET樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記活性炭は、主として細孔直径が2nm以下のマイクロ孔を有する、
PET樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記活性炭は、直径が0.3mm以上3mm以下である粒状の活性炭である、
PET樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記活性炭が破砕炭である、
PET樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
析出した前記PET樹脂の粒子の粒子径が100μm以上1000μm以下であり、
目開き5μm以上100μm以下のフィルターを用いて、析出した前記PET樹脂の粒子を濾別回収する、
PET樹脂の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記PET溶液に前記貧溶媒を加える方法は滴下である、
PET樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はPET樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済みPETボトルからPET樹脂を再生する方法として、ケミカルリサイクルと、メカニカルリサイクルとがある。PETとは、ポリエチレンテレフタレートを意味する。ケミカルリサイクルは、使用済みPETボトルを、PET樹脂の原料又は中間原料にまで解重合し、精製し、再重合する工程を含む。ケミカルリサイクルは特許文献1に開示されている。
【0003】
メカニカルリサイクルでは、使用済みPETボトルの表面の汚れや異物を取り除き、高温下に曝すことでPET樹脂の内部に溜まっている汚染物質を拡散除去する。メカニカルリサイクルは、特許文献2~4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3715812号公報
【特許文献2】特表2002-536203号公報
【特許文献3】特表2005-532192号公報
【特許文献4】特表2007-531642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケミカルリサイクルは、使用済みPETボトルを、PET樹脂の原料又は中間原料にまで解重合し、精製し、再重合する工程を含む。そのため、ケミカルリサイクルを実施するためには、多大なエネルギーが必要であり、ランニングコストが高い。また、ケミカルリサイクルは、大掛かりな分解設備や重合設備を必要とするため、イニシャルコストが高い。メカニカルリサイクルでは、PET樹脂に含まれる不純物を十分に除去することは困難である。PET樹脂に含まれる不純物を十分に除去できないと、PET樹脂の色調が悪化する。
【0006】
本開示の1つの局面では、不純物の含有量が少ないPET樹脂を低コストで製造することができるPET樹脂の製造方法を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの局面は、使用済みPET樹脂を良溶媒で溶解してPET溶液を生成し、前記PET溶液と活性炭とを接触させ、前記PET溶液から、前記活性炭を含む、大きさが50μm以上の物質を分離し、前記PET溶液に貧溶媒を加えてPET樹脂の粒子を析出させ、析出した前記PET樹脂の粒子を回収する、PET樹脂の製造方法である。
【0008】
製造したPET樹脂のb*値は1.5以下である。b*値とは、CIE1976L*a*b*色空間におけるb*の値である。前記良溶媒のうち25質量%以上は、非プロトン性極性溶媒から成る特定良溶媒であり、前記活性炭における、下記の測定方法により測定される試験液の全光線透過率が80%以上である。
【0009】
全光線透過率の測定方法:前記活性炭300mgと、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPとする)30mLとを混合し、試験液を作成する。次に、前記試験液を165℃で15分間加熱攪拌する。次に、前記試験液から前記活性炭をろ過により取り除く。次に、光路長10mmのガラスセルで、ろ液の前記全光線透過率を測定する。
【0010】
本開示の1つの局面であるPET樹脂の製造方法によれば、不純物の含有量が少ないPET樹脂を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】PET樹脂の製造方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
1.PET樹脂の製造方法
PET樹脂の製造方法は、例えば、
図1に示す各工程を順次行う製造方法である。
図1のS1では、以下の方法で、使用済みPET樹脂の形態をPETフレークとする。
【0013】
まず、使用済みPET樹脂を用意する。使用済みPET樹脂は、例えば、使用済みのPETボトル、PET製食品用トレイ、PET製ブリスターパック、PET製食品用中仕切り等である。
使用済みPET樹脂を、大きさが約8mm角である小片に粉砕する。次に、小片に対し、比重分離による異物の除去、脱水、乾燥、光選別機による異物の除去、及び着色フレークの除去を順次行う。以上の工程によりPETフレークが得られる。
【0014】
PETフレークの品質は、JIS K 7390-1:2015「プラスチック-使用済ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトル再生材料-第1部:呼び方のシステム及び仕様表記の基礎」、及びJIS K 7390-2:2015「プラスチック-使用済ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトル再生材料-第2部:試験片の作製方法及び特性の求め方」に記載の品質測定項目及び管理項目により求められる。
【0015】
PETフレークの品質は、(公財)日本容器包装リサイクル協会作成の「PETボトル再商品化製品の品質基準値(例)」を満たしていることが好ましい。PETフレークの品質がこの基準値の範囲内である場合、PETフレークに含まれる不純物の量が少なくなるため、本開示の製造方法により製造されたPET樹脂に含まれる不純物の量を低減することができる。
【0016】
PETフレークは、ポリエチレンテレフタレートのホモポリマーでもよいし、共重合成分を小割合共重合したコポリエステルでもよい。共重合成分として、例えば、イソフタル酸、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0017】
PETフレークの水分率は、1.0%以下であることが好ましく、0.6%以下であることがより好ましい。PETフレークの水分率が1.0%以下である場合、PETフレークを良溶媒に溶解した際にPET樹脂が加水分解することを抑制できる。
【0018】
?
図1のS2では、良溶媒でPETフレークを溶解してPET溶液を生成する工程(以下では溶解工程とする)を行う。
なお、PETフレークに不純物が含まれている場合がある。不純物として、PETフレークの内部に分散又は相溶したPET樹脂以外の不純物、PETフレークの表面に存在するコーティング材料や汚染物質、PETフレークの間に夾雑した不純物等がある。S2~S5の工程の目的は、これらの不純物を取り出すことである。
【0019】
良溶媒は、PET樹脂を溶解する有機溶媒である。良溶媒のうち、25質量%以上は、特定良溶媒である。特定良溶媒とは、非プロトン性極性溶媒である。非プロトン性極性溶媒として、例えば、アルコール性水酸基及びエステル結合を持たない分子から成る良溶媒が挙げられる。
【0020】
良溶媒のうち、25質量%以上が特定良溶媒であることにより、良溶媒でPET樹脂を溶解した場合、PET樹脂の分子量が低下し難い。
良溶媒のうち、50質量%以上が特定良溶媒であることが好ましく、75質量%以上が特定良溶媒であることがさらに好ましく、良溶媒の全てが特定良溶媒であることが特に好ましい。良溶媒に含まれる特定良溶媒の量が多いほど、PET樹脂の分子量が低下し難い。なお、無極性溶媒も、理論的には、PET樹脂の分子量を低下させ難い。
【0021】
なお、プロトン性極性溶媒でPET樹脂を溶解した場合、溶媒とPET樹脂の分子間反応により、PET樹脂の分子量が低下する。プロトン性極性溶媒の例として、アルコール性水酸基又は水素原子を含むアミノ基を持つ分子から成る溶媒が挙げられる。無極性溶媒は、それ単体ではPETを溶解することが困難である。
【0022】
良溶媒のPETフレーク溶解度は100g/L以上であることが好ましい。PETフレーク溶解度が100g/L以上であるとは、PETフレーク100gを良溶媒1Lに投入し、165℃で1時間攪拌した際に、PETフレークが完全に溶解することを意味する。PETフレーク溶解度が100g/L以上である場合、使用する良溶媒の量が少なくて済む。
【0023】
特定良溶媒として、N-アルキル-2-ピロリドン、N-アルケニル-2-ピロリドン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンから成る群から選ばれる1種以上が好ましい。
N-アルキル-2-ピロリドンとして、例えば、NMP、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、N-n-オクチル-2-ピロリドン等が挙げられる。N-アルケニル-2-ピロリドンとして、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン等が挙げられる。特定良溶媒として、NMPが特に好ましい。
【0024】
良溶媒は、例えば、PETフレーク溶解度が100g/L以上である範囲で、N-アルキル-2-ピロリドン、N-アルケニル-2-ピロリドン、及び2,5-ジアルキルイミダゾリジノンのいずれでもない良溶媒を含んでいてもよい。
【0025】
PET溶液におけるPET樹脂の濃度は、40g/L以上、400g/L以下であることが好ましく、40g/L以上、250g/L以下であることがさらに好ましく、40g/L以上、150g/L以下であることが特に好ましい。
【0026】
PET溶液におけるPET樹脂の濃度が上記の範囲内である場合、PET溶液の粘度を抑制することができ、PET溶液から不純物を濾別することが容易になる。
溶解工程における良溶媒の温度(以下では溶解時温度とする)、及び、溶解工程におけるPET溶液の温度は特に限定されない。溶解時温度、及び、溶解工程におけるPET溶液の温度は、100℃以上、190℃以下であることが好ましく、120℃以上、170℃以下であることがさらに好ましい。
【0027】
溶解時温度、及び、溶解工程におけるPET溶液の温度が100℃以上である場合、良溶媒でPETフレークを短時間で溶解することができる。
溶解時温度、及び、溶解工程におけるPET溶液の温度が190℃以下である場合、PET樹脂及び良溶媒の熱分解を抑制でき、PET樹脂の加水分解を抑制できる。
【0028】
良溶媒がNMPである場合、溶解時温度、及び、溶解工程におけるPET溶液の温度は、140℃以上、190℃以下であることが好ましく、160℃以上、180℃以下であることがさらに好ましい。
【0029】
溶解工程は、例えば、溶解槽で行うことができる。溶解槽は、例えば、良溶媒及びPETフレークの投入口、撹拌機、温度制御装置等を備える。溶解工程では、例えば、予め加熱された良溶媒中にPETフレークを投入する。溶解工程では、例えば、加熱前の良溶媒中にPETフレークを投入した後、良溶媒を加熱する。
【0030】
S2以後の工程における、PETフレークの全量を溶解したPET溶液の温度(以下では後工程時温度とする)は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、溶解時温度に比べて、ΔTだけ低い温度であることが好ましい。
【0031】
ΔTは20℃以上、30℃以下である。後工程時温度が溶解時温度に比べてΔTだけ低い温度である場合、S2以後の工程において、PET樹脂及び良溶媒の熱分解と、PET樹脂の加水分解とを抑制することができる。良溶媒がNMPである場合、後工程時温度は、110℃以上、170℃以下であることが好ましく、120℃以上、150℃以下であることが一層好ましい。
【0032】
図1のS3では、第1濾過を行う。第1濾過は、PET溶液に含まれる粗大な不溶性不純物を濾別し、除去する工程である。
なお、PET溶液には、良溶媒に溶解した可溶性不純物と、良溶媒に不溶な不溶性不純物とが含まれている。不溶性不純物には、粗大な不溶性不純物と微小な不溶性不純物とがある。粗大な不溶性不純物には、大きさが50μm以上の粗大な固形異物が含まれる。固形異物として、金属、ガラス、砂、PET樹脂の炭化物等が挙げられる。
【0033】
第1濾過では、粗大な不溶性不純物をPET溶液から濾別し、除去する。微小な不溶性不純物は、後述するS5の第2濾過で除去する。S3の工程で粗大な不溶性不純物を除去しておくことで、S5の第2濾過においてフィルターの目詰まりを抑制できる。
【0034】
第1濾過のとき、PET溶液の温度は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、低いことが好ましい。良溶媒がNMPである場合、第1濾過のときのPET溶液の温度は、110℃以上170℃以下であることが好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0035】
第1濾過で使用するフィルターの目開きは、5μm以上、100μm以下であることが好ましく、10μm以上、50μm以下であることがさらに好ましい。
フィルターの目開きが上記の範囲内である場合、第1濾過の作業性を損なうことなく、大きさが100μm以上の粗大な不溶性不純物を取り除くことができる。フィルターの目開きが5μm以上である場合、フィルターの目詰まりを抑制できる。また、フィルターの目開きが5μm以上である場合、第1濾過のときに高い圧力をかけなくてもよく、第1濾過に要する時間を短縮できる。
【0036】
第1濾過を行う前に、目開きが一層大きいフィルターを用いてPET溶液を濾過してもよい。この場合、第1濾過で使用するフィルターの目詰まりを抑制することができる。
図1のS4では、PET溶液と活性炭とを接触させる。S3の工程が終了した時点で、PET溶液には、良溶媒に可溶な可溶性不純物が含まれている。可溶性不純物は、PETボトルの成形工程及びリサイクル工程で生成した黄変物質、PETボトルに意図的に添加された着色剤及び添加剤、PETフレークに付着していた汚れ等を含む。PETフレークに付着していた汚れとして、インク、糊、糖類、色素等が挙げられる。
【0037】
PET溶液と活性炭とを接触させたとき、PET溶液中の可溶性不純物は活性炭に吸着される。PET溶液と活性炭とを接触させる方法は特に限定されない。PET溶液と活性炭とを接触させる方法は、バッチ式でもよいし、連続式でもよい。PET溶液と活性炭とを接触させる方法として、例えば、PET溶液と活性炭とを容器に入れて攪拌する方法や、活性炭を充填したカラムにPET溶液を通す方法等が挙げられる。
【0038】
活性炭の使用量は、PET溶液中に含まれる可溶性不純物の量に応じて、適宜調整することが好ましい。1LのPET溶液に対する活性炭の使用量(g)は、4g/L以上、40g/L以下であることが好ましく、4g/L以上、25g/L以下であることがさらに好ましく、4g/L以上、15g/L以下であることが特に好ましい。
【0039】
活性炭の使用量が4g/L以上である場合、活性炭がPET溶液中の可溶性不純物を吸着する効果が一層高い。活性炭の使用量が40g/Lを超えても、活性炭の使用量が40g/Lである場合に比べて、活性炭がPET溶液中の可溶性不純物を吸着する効果が向上し難い。
【0040】
PET溶液と活性炭とを接触させるときのPET溶液の温度は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、低いことが好ましい。PET溶液に含まれる良溶媒がNMPである場合、PET溶液と活性炭とを接触させるときのPET溶液の温度は、110℃以上、170℃以下であることが好ましく、120℃以上、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0041】
PET溶液と活性炭とを接触させる時間は、5分間以上、60分間以下であることが好ましく、10分間以上、30分間以下であることがさらに好ましい。
PET溶液と活性炭とを接触させる時間が上記の範囲内である場合、PET樹脂及び良溶媒の熱分解と、PET樹脂の加水分解とを抑制できる。PET溶液と活性炭とを接触させる時間が5分間以上である場合、活性炭がPET溶液中の可溶性不純物を吸着する効果が一層高い。
【0042】
PET溶液と活性炭とを接触させた後、遠心分離、フィルター濾過等の公知の固液分離法により、PET溶液と活性炭とを分離し、PET溶液から活性炭を除去することができる。フィルター濾過として、熱時濾過が好ましい。フィルター濾過が熱時濾過である場合、PET溶液からPET樹脂が析出することを抑制できる。
【0043】
フィルターの目開きは、例えば、50μm以下である。フィルターの目開きが50μm以下である場合、活性炭を含む、大きさが50μm以上の物質を、PET溶液から分離できる。大きさが50μm以上の物質とは、目開き50μm以下のフィルターにより分離される物質である。大きさが50μm以上の物質は、例えば、活性炭と、活性炭から生じる微塵とを含む。微塵は、活性炭の一部が崩壊して発生する。PET溶液から分離される物体は、大きさがフィルターの目開きより大きく、50μm未満の物質を含んでいてもよい。
【0044】
PET溶液と活性炭とを分離するときのPET溶液の温度は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、低いことが好ましい。PET溶液に含まれる良溶媒がNMPである場合、PET溶液と活性炭とを分離するときのPET溶液の温度は、110℃以上、170℃以下であることが好ましく、120℃以上、150℃以下であることがさらに好ましい。PET溶液と活性炭とを分離する工程は、S5において行ってもよい。
【0045】
S4の工程で使用する活性炭は、その活性炭を用いて下記の測定方法により測定される試験液の全光線透過率が80%以上となるような活性炭である。全光線透過率は、活性炭をS4の工程で使用する前に測定される値である。
【0046】
測定方法:活性炭300mgと、NMP30mLとを混合し、試験液を作成する。次に、試験液を165℃で15分間加熱攪拌する。次に、試験液から、ろ過により、活性炭を取り除く。次に、光路長10mmのガラスセルで、ろ液の全光線透過率を測定する。全光線透過率の測定に使用する装置は日本電色工業製ヘイズメーターNDH8000である。
【0047】
S4の工程で使用する活性炭を用いて上記の方法で測定された全光線光透過率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
市販の活性炭には、その製造工程で生成するタール成分と50μm未満の微小な活性炭とが含まれている。タール成分の除去を行わずにPET溶液と市販の活性炭とを接触させると、活性炭に含まれるタール成分がPET溶液中に溶出し、PET溶液を汚染する。S4の工程で使用する活性炭は、タール成分の含有量が少ないものであることが好ましい。本開示のPET樹脂の製造方法で使用する活性炭は、タール成分の含有量が少ないため、タール成分がPET溶液中に溶出することを抑制できる。
【0048】
PET溶液と活性炭とを接触させる前に、活性炭に含まれるタール成分の少なくとも一部を除去することが好ましい。本開示のPET樹脂の製造方法で使用する活性炭は、例えば、市販の活性炭に含まれるタール成分の少なくとも一部を除去することで製造できる。活性炭に含まれるタール成分を除去する方法として、タール抽出溶媒を用いて活性炭からタール成分を抽出する方法(以下ではタール成分抽出方法とする)が挙げられる。
【0049】
タール抽出溶媒は特に限定されない。タール抽出溶媒として、活性炭に含まれるタール成分を多く抽出できるものが好ましい。活性炭に含まれるタール成分を多く抽出できるタール抽出溶媒として、Hildebrand溶解度パラメーター(SP値)が9~13の範囲内のタール抽出溶媒が挙げられる。
【0050】
SP値が9~13の範囲内のタール抽出溶媒として、例えば、SP値が12.1であるN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、SP値が10.8であるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、SP値が9.1であるテトラヒドロフラン(THF)、SP値が12.1であるジメチルスルホキシド(DMSO)、SP値が11.3であるNMP等が挙げられる。タール抽出溶媒として、NMPが特に好ましい。
【0051】
タール抽出溶媒の少なくとも一部が、S2の工程で使用する良溶媒であることが好ましく、タール抽出溶媒の全部が、S2の工程で使用する良溶媒であることがさらに好ましい。タール抽出溶媒の少なくとも一部が、S2の工程で使用する良溶媒である場合、同一の溶媒を、S2の工程の良溶媒と、タール抽出溶媒とに使用することができる。
【0052】
タール成分抽出方法は特に限定されない。タール成分抽出方法は、バッチ式でもよいし、連続式でもよい。タール成分抽出方法として、例えば、タール抽出溶媒と活性炭とを容器に入れて攪拌する方法や、活性炭を充填したカラムにタール抽出溶媒を通す方法等が挙げられる。
【0053】
タール成分抽出方法がバッチ式である場合、タール成分抽出方法を複数回行うことが好ましい。タール抽出溶媒の合計使用量は特に限定されない。タール抽出溶媒の合計使用量は、活性炭1質量部に対して、5質量部以上、50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上、30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0054】
タール成分抽出方法を1回のみ行う場合、タール抽出溶媒の合計使用量は、1回のタール成分抽出方法での使用量である。タール成分抽出方法を複数回行う場合、タール抽出溶媒の合計使用量は、それぞれのタール成分抽出方法での使用量の合計である。
【0055】
タール抽出溶媒の合計使用量が活性炭1質量部に対して、5質量部以上である場合、活性炭に含まれるタール成分を抽出する効果が一層高い。タール抽出溶媒の合計使用量が活性炭1質量部に対して、50質量部を超えても、活性炭1質量部に対して50質量部である場合に比べて、活性炭に含まれるタール成分を抽出する効果が向上し難い。
【0056】
タール成分抽出方法を行うときのタール抽出溶媒及び活性炭の温度は特に限定されない。タール抽出溶媒及び活性炭の温度は、60℃以上、180℃以下であることが好ましい。タール抽出溶媒及び活性炭の温度が60℃以上である場合、活性炭に含まれるタール成分を抽出する効果が一層高い。タール抽出溶媒及び活性炭の温度が180℃以下である場合、タール抽出溶媒の沸点が180℃以下であればよいので、タール抽出溶媒の選択肢が多くなる。また、タール抽出溶媒及び活性炭の温度が180℃以下である場合、タール抽出溶媒の熱分解を抑制できる。
【0057】
タール抽出溶媒がNMPである場合、タール成分抽出方法を行うときのタール抽出溶媒の温度は、140℃以上、170℃以下であることが好ましい。
タール成分抽出方法において、活性炭とタール抽出溶媒とが接触する時間は特に限定されない。活性炭とタール抽出溶媒とが接触する時間は、0.5時間以上、5時間以下であることが好ましく、0.5時間以上、2時間以下であることがさらに好ましい。
【0058】
活性炭とタール抽出溶媒とが接触する時間が0.5時間以上である場合、活性炭に含まれるタール成分を抽出する効果が一層高い。活性炭とタール抽出溶媒とが接触する時間が5時間を超えても、活性炭とタール抽出溶媒とが接触する時間が5時間である場合に比べて、活性炭に含まれるタール成分を抽出する効果が向上し難い。
【0059】
タール成分抽出方法を実施したとき、活性炭は、通常、タール抽出溶媒との混和性を有する。タール成分抽出方法を実施した後、沸点が100℃未満の低沸点リンス溶媒を用いた濯ぎ洗いと、乾燥とを順次行うことが好ましい。
【0060】
濯ぎ洗いを行なう場合、活性炭からタール抽出溶媒が取り除かれるとともに、活性炭の表面に付着していたタール成分が洗い落とされる。濯ぎ洗いを行う場合、タール抽出溶媒の使用量や、タール成分抽出方法の実施回数を減らしても、活性炭を用いて上記の方法で測定した全光線透過率を高くすることができる。
【0061】
低沸点リンス溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン等が好ましい。タール抽出溶媒と、S2の工程で使用する良溶媒とが同一の溶媒である場合は、濯ぎ洗いの工程を省略してもよい。
【0062】
タール成分抽出方法を実施する前の活性炭(以下では抽出前活性炭とする)の形状及びサイズは特に限定されない。抽出前活性炭の直径は、0.3mm以上、3mm以下であることが好ましい。抽出前活性炭の直径が0.3mm以上、3mm以下である場合、タール成分抽出方法を実施した後、活性炭をPET溶液から分離する作業が容易である。
【0063】
抽出前活性炭の比表面積は、500m2/g以上、2500m2/g以下であることが好ましく、750m2/g以上、2000m2/g以下であることがさらに好ましい。抽出前活性炭の比表面積が上記の範囲内である場合、活性炭は、一層多くの可溶性不純物を吸着することができる。
【0064】
抽出前活性炭は、主として、細孔直径が2nm以下であるマイクロ孔を多く含むことが好ましい。抽出前活性炭が、主として細孔直径が2nm以下であるマイクロ孔を多く含む場合、活性炭は、PETよりも分子量の小さな可溶性不純物を効率的に吸着することができる。分子量の小さな可溶性不純物として、例えば、着色剤、黄変原因物質等が挙げられる。「主として、細孔直径が2nm以下であるマイクロ孔を多く含む」ことの定義は、細孔直径が2nm以下のマイクロ孔、細孔直径が2nm~50nmのメソ孔、及び、細孔直径が50nm以上のマクロ孔のうちマイクロ孔の存在比が最も多いことである。
【0065】
活性炭は、タール抽出溶媒や良溶媒との接触において、及び、S4以降の工程において、微塵を発生し難いものであることが好ましい。また、活性炭は、タール成分抽出方法を実施することで、タール成分が速やかに除去されるものであることが好ましい。
【0066】
活性炭に使用される主な原料として、例えば、ヤシ殻、おが屑、石炭等がある。これらの中ではヤシ殻が好ましい。ヤシ殻を原料とする活性炭は、マイクロ孔、細孔直径が2~50μmのメソ孔、細孔直径が50μm以上のマクロ孔のうちマイクロ孔を多く有しており、小さい分子の吸着に優れる。活性炭の形状は直径0.3mm以上の粒から成る粒状が好ましく、直径が0.3mm以上3mm以下の粒から成る粒状であることがさらに好ましい。活性炭の製造方法として破砕が好ましい。
【0067】
ヤシ殻系粒状活性炭は、木質系活性炭に比べて、良溶媒と接触させた際に活性炭の形状が崩れ難く、微塵を生成し難い。ヤシ殻系粒状活性炭は、石炭系活性炭に比べて、タール成分抽出方法を実施したとき、タール成分が速やかに除去される。ヤシ殻系粒状活性炭は、石炭系活性炭に比べて、微塵を生成し難い。ヤシ殻系活性炭はヤシ殻を原料とする活性炭である。木質形活性炭は、木質材料を原料とする活性炭である。石炭系活性炭は、石炭を原料とする活性炭である。
【0068】
活性炭の形態は、粉末状ではないことが好ましい。粉末状の定義は、活性炭の直径が0.3mm未満であることである。粉末状と、上述した粒状との違いは活性炭の大きさである。活性炭の形態は、顆粒状ではないことが好ましい。顆粒状の定義は、粉末状、又は繊維状の活性炭を押出成形又は圧縮成形により、活性炭の直径を大きくしたものである。顆粒状と、上述した粒状との違いは、押出成形又は圧縮成形の有無である。活性炭の形態は、造粒炭でないことが好ましい。造粒炭の定義は、粉末状の活性炭や破砕状の活性炭を圧縮成形等で成形したものである。
【0069】
粉末状の活性炭は、粒子が小さく、物理濾過等によるPET溶液からの分離が困難であるため、また、再生利用が困難であるため、好ましくない。顆粒状の活性炭、及び造粒炭は、良溶媒と接触させた際に活性炭の形状が崩れ易く、多くの微塵を生成し易いため、好ましくない。
【0070】
木質系活性炭は、一般的に、製材で発生するおが屑から製造されるため、粉末状又は顆粒状であることが多い。顆粒状の活性炭の場合、良溶媒と接触させた際に活性炭の形状が崩れ易く、多くの微塵を生成しやすいため、好ましくない。粉末状の活性炭の場合、粒子が小さく物理濾過等によるPET溶液からの分離が困難であるため、好ましくない。石炭系活性炭は、活性炭の形状が崩れ易く、多くの微塵を生成し易いため、好ましくない。また、石炭系活性炭は、タール成分抽出方法を繰り返し行ってもタール成分が溶出し続け易く、高い洗浄度を得ることが困難であるため、好ましくない。
【0071】
図1のS5では、第2濾過を行う。S3の工程により、PET溶液から、粗大な不溶性不純物が除去された。S4の工程により、PET溶液から、可溶性不純物が除去された。S4の工程が終了した時点で、PET溶液は、微小な不溶性不純物と、活性炭に吸着されなかった可溶性不純物とを含む。
【0072】
微小な不溶性不純物として、例えば、PET樹脂の炭化物、PETボトルに意図的に添加された添加剤、PETボトルの表面に施されたコーティング材料等が挙げられる。また、微小な不溶性不純物として、S4の工程で活性炭から生じた微塵が挙げられる。第2濾過は、PET溶液に含まれる微小な不溶性不純物と、活性炭に吸着されなかった可溶性不純物とを、PET溶液から濾別し、除去する工程である。
【0073】
第2濾過は、例えば、熱時濾過である。第2濾過で使用するフィルターの目開きは、0.5μm以上、50μm以下であることが好ましく、1μm以上、45μm以下であることがさらに好ましい。
【0074】
フィルターの目開きが上記の範囲内である場合、大きさがフィルターの目開きより大きく、50μm以下である不溶性不純物を除去することができる。大きさが50μm以下の不溶性不純物は、従来のメカニカルリサイクル法では除去することが困難であった。フィルターの目開きが50μm以下である場合、大きさが50μm以上の物質をPET溶液から分離し、除去することができる。
【0075】
フィルターの目開きが0.5μm以上である場合、第2濾過のときに高い圧力をかけなくてもよく、第2濾過に要する時間を短縮できる。第2濾過を行う前に、目開きが一層大きいフィルターを用いてPET溶液を濾過してもよい。この場合、第2濾過で使用するフィルターの目詰まりを抑制できる。
【0076】
第2濾過のとき、PET溶液の温度は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、低いことが好ましい。良溶媒がNMPである場合、第2濾過のときのPET溶液の温度は、110℃以上170℃以下であることが好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0077】
第2濾過の終了時から、S6の工程が終了するまでの期間において、PET溶液の温度は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、低いことが好ましい。良溶媒がNMPである場合、第2濾過の終了時から、S6の工程が終了するまでの期間において、PET溶液の温度は、110℃以上170℃以下であることが好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
図1のS6では、PET溶液に貧溶媒を加えてPET樹脂の粒子(以下ではPET粒子とする)を析出させる。貧溶媒とは、PET樹脂に対する溶解度が低い溶媒である。PET樹脂に対する貧溶媒の溶解度は、PET樹脂に対する良溶媒の溶解度より低い。
【0078】
PET溶液に貧溶媒を加えることで、PET溶液の溶媒は、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒となる。良溶媒と貧溶媒との混合溶媒は、良溶媒に比べて、PET樹脂に対する溶解度が低い。そのため、PET溶液に貧溶媒を加えると、PET溶液からPET粒子が析出する。
【0079】
貧溶媒は、100℃以上の温度で良溶媒と混和性を有することが好ましい。貧溶媒の沸点は、T1℃以上、T2℃以下であることが好ましい。T1は、貧溶媒を加える直前のPET溶液の温度よりも、10℃だけ低い温度である。T2は、貧溶媒を加える直前のPET溶液の温度よりも、20℃だけ高い温度である。PET溶液に含まれる良溶媒がNMPである場合、貧溶媒の沸点は110℃以上、150℃以下であることが好ましい。
【0080】
貧溶媒の沸点がT1℃以上である場合、PET溶液に添加した貧溶媒が激しく沸騰することを抑制でき、良溶媒と貧溶媒が混合し易い。貧溶媒の沸点がT2℃以下である場合、析出したPET粒子から貧溶媒を加熱により除去することが容易である。
【0081】
貧溶媒は、無極性溶媒であることが好ましい。貧溶媒が無極性溶媒である場合、PET溶液から、細かな粒子状のPET粒子を析出させることが容易になる。また、貧溶媒が無極性溶媒である場合、析出したPET粒子同士が融着したり、凝集したりして大きな塊となることを抑制できる。
【0082】
特定良溶媒がNMPである場合、貧溶媒は、飽和炭化水素が好ましく、炭素数が8~12のn-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカンから成る群から選ばれる少なくとも1種の飽和炭化水素であることがさらに好ましく、n-オクタンが特に好ましい。n-オクタンは、沸点が低いため、減圧、加熱等によって容易に除去することができる。
【0083】
貧溶媒を添加する直前において、PET溶液の温度は、PET樹脂が析出しない温度範囲内で、低いことが好ましい。貧溶媒を添加する直前において、PET溶液の温度は、貧溶媒の沸点以下であることが好ましい。
【0084】
良溶媒がNMPである場合、貧溶媒を添加する直前において、PET溶液の温度は、110℃以上170℃以下であることが好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0085】
良溶媒がNMPであり、貧溶媒がn-オクタンである場合、貧溶媒を添加する直前において、PET溶液の温度は、110℃以上170℃以下であることが好ましく、120℃以上140℃以下であることがさらに好ましい。
【0086】
貧溶媒を添加する方法として、PET溶液を攪拌しながら、少量ずつ時間をかけて貧溶媒を添加する方法が好ましい。貧溶媒を添加する方法として、PET溶液中の良溶媒と同体積の貧溶媒を、1分間以上、30分間以下の時間をかけて添加する方法が好ましく、5分間以上、30分間以下の時間をかけて添加する方法がさらに好ましい。貧溶媒を添加する方法として、例えば、貧溶媒を滴下する方法が挙げられる。
【0087】
貧溶媒を少量ずつ添加する場合、良溶媒と貧溶媒との限定された混合比率範囲において、PET樹脂のみが選択的に粒子状に析出し易い。PET樹脂のみが選択的に粒子状に析出した場合、不純物の少ないPET粒子を回収することができる。
【0088】
貧溶媒の添加量は、PET溶液中のPET樹脂のほぼ全量を析出させるのに十分な量であることが好ましい。貧溶媒の添加量は、通常、PET溶液に含まれる良溶媒の体積の1倍以上、3倍以下である。
【0089】
貧溶媒の全量を添加した後、PET粒子、良溶媒、及び貧溶媒から成る固液混合物を、PET粒子の濾別及び回収に適した温度まで冷却する。冷却後の固液混合物の温度は、50℃以上、110℃以下であることが好ましく、80℃以上、100℃以下であることがさらに好ましい。
【0090】
冷却後の固液混合物の温度が50℃以上である場合、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒が二層に分離し難く、固液混合物からPET粒子を濾別し、回収することが容易になる。また、冷却後の固液混合物の温度が50℃以上である場合、混合溶媒中に可溶性不純物が析出し難い。冷却後の固液混合物の温度が110℃以下である場合、濾別し、回収したPET粒子同士が固着することを抑制できる。
【0091】
PET溶液から析出するPET粒子の粒子径は、100μm以上、1500μm以下であることが好ましく、100μm以上、1000μm以下であることがさらに好ましい。PET粒子の粒子径が100μm以上である場合、PET粒子のみを濾別し、回収することが容易であり、PET粒子に不溶性不純物が混入することを抑制できる。PET粒子の粒子径が1500μm以下である場合、PET粒子中に不溶性不純物が取り込まれ難く、PET粒子中の良溶媒及び貧溶媒の除去が容易である。PET粒子の粒子径の測定方法は、ハイロックス製デジタルマイクロスコープ KH-8700の2D計測機能による測定である。
【0092】
図1のS7では、析出したPET粒子、良溶媒及び貧溶媒から成る固液混合物をフィルターで濾過することで、PET粒子を回収する。
濾過の方法は特に限定されない。濾過の方法は、重力濾過、加圧濾過、及び真空濾過のうちのいずれの方法であってもよい。濾過で使用するフィルターの目開きは、5μm以上、100μm以下であることが好ましく、10μm以上、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0093】
フィルターの目開きが上記の範囲内である場合、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に存在する微小な不溶性不純物及び混合溶媒をPET粒子から分離し、除去することが容易である。フィルターの目開きが5μm以上である場合、PET粒子とともに不溶性不純物が濾別されることを抑制できる。また、フィルターの目開きが5μm以上である場合、固液混合物を濾過するときに高い圧力をかけなくてもよく、濾過に要する時間を短縮できる。フィルターの目開きが100μm以下である場合、PET粒子がフィルターを通過することを抑制できる。
【0094】
S7の工程で回収されたPET粒子には、良溶媒と貧溶媒とが含まれている。良溶媒が、極性が大きな高沸点溶媒である場合、PET粒子を、減圧下、又は清浄なガスの気流下で加熱乾燥しても、PET粒子中の良溶媒を全て除去することは困難である。製造したPET樹脂中に良溶媒が残存していることは好ましくない。
【0095】
そのため、
図1のS8では、抽出溶媒を用いて、回収されたPET粒子から、良溶媒及び貧溶媒を抽出する工程(以下では溶媒抽出工程とする)を行う。
抽出溶媒は、良溶媒及び貧溶媒との混和性を有し、PET樹脂を溶解し難い有機溶媒である。抽出溶媒は、抽出溶媒の沸点以下の温度でPET粒子と接触させた際に、PET粒子を膨潤することが可能な溶媒であることが好ましい。
【0096】
抽出溶媒の沸点以下の温度でPET粒子と接触させた際に、PET粒子を膨潤することが可能な抽出溶媒として、SP値を有する溶媒が挙げられる。抽出溶媒のSP値は、8.5以上、13.0以下であることが好ましく、9.0以上、9.8以下であることがさらに好ましい。
【0097】
抽出溶媒のSP値が上記の範囲内である場合、抽出溶媒とPET粒子とを接触させた際にPET粒子が膨潤し易く、PET粒子から良溶媒及び貧溶媒を抽出する効果が一層高い。
抽出溶媒の沸点は、50℃以上、100℃以下であることが好ましい。抽出溶媒の沸点が50℃以上である場合、抽出溶媒の沸点の温度において抽出溶媒とPET粒子とを接触させた際にPET粒子が膨潤し易く、PET粒子から良溶媒及び貧溶媒を抽出する効果が一層高い。抽出溶媒の沸点が100℃以下である場合、加熱乾燥によりPET粒子から抽出溶媒を除去することが容易になる。
【0098】
SP値及び沸点が上記の範囲内である抽出溶媒として、SP値が9.2であり、沸点が66℃であるテトラヒドロフラン、SP値が9.6であり、沸点が57℃である酢酸メチル、SP値が9.1であり、沸点が77℃である酢酸エチル、及び、SP値が9.9であり、沸点が57℃であるアセトンから成る群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0099】
溶媒抽出工程における抽出溶媒及びPET粒子の温度は特に限定されない。溶媒抽出工程における抽出溶媒及びPET粒子の温度は、抽出溶媒の沸点に近い温度であることが好ましい。溶媒抽出工程における抽出溶媒及びPET粒子の温度が、抽出溶媒の沸点に近い温度である場合、PET粒子から良溶媒及び貧溶媒を抽出する効果が一層高い。
【0100】
溶媒抽出工程は、抽出溶媒の沸点で抽出溶媒の還流を行いながら抽出を行う工程であることが好ましい。抽出溶媒がテトラヒドロフランである場合、溶媒抽出工程は、テトラヒドロフランの沸点である66℃でテトラヒドロフランの還流を行いながら抽出を行う工程であることが好ましい。
【0101】
溶媒抽出工程は、バッチ式でもよいし、連続式でもよい。溶媒抽出工程として、PET粒子と抽出溶媒とを容器に入れて攪拌する工程や、PET粒子を充填したカラムに抽出溶媒を通す工程等が挙げられる。
【0102】
溶媒抽出工程がバッチ式である場合、抽出を複数回行うことが好ましい。抽出の回数は、2~3回が好ましい。抽出溶媒の使用量は特に限定されない。抽出溶媒の使用量は、PET粒子1質量部に対して、2.5質量部以上、25質量部以下が好ましく、5質量部以上、15質量部以下がさらに好ましい。抽出溶媒の使用量が2.5質量部以上である場合、良溶媒及び貧溶媒を抽出する効果が一層高い。抽出溶媒の使用量が25質量部を越えても、抽出溶媒の使用量が25質量部である場合に比べて、良溶媒及び貧溶媒を抽出する効果が向上し難い。
抽出溶媒は、例えば、安定剤を0.4質量%程度含む。本実施形態では、安定剤が微量であるため、安定剤を除去する工程を省略しているが、スケールアップする場合、安定剤を除去することが好ましい。安定剤を含む抽出溶媒として、例えば、THF等が挙げられる。安定剤として、例えば、BHT等が挙げられる。BHTは、水に難溶であり、アルコール及び油脂に易溶である。BHTの沸点は265℃である。
使用溶剤は、安定剤を含む場合がある。使用溶剤の定義は、本開示のPET樹脂の製造方法で使用される良溶媒、貧溶媒、又は抽出溶媒である。使用溶剤から安定剤を、減圧、加熱により除去できない場合、適宜、使用溶剤から安定剤を除去する工程を行うことが好ましい。例えば、酸化防止剤としてBHTを含むTHFを溶媒除去工程((S8)で使用した場合、THFとの混和性を有し、沸点が100℃未満の低沸点溶媒であるアルコール、ヘキサンで洗浄することができる。
【0103】
溶媒抽出工程の後、PET粒子を、抽出溶媒より除去が容易な溶媒で洗浄し、PET粒子を乾燥させる。抽出溶媒より除去が容易な溶媒として、抽出溶媒との混和性を有し、沸点が100℃未満の低沸点溶媒が好ましく、エタノール、アセトンがさらに好ましい。抽出溶媒が低沸点溶媒である場合は、抽出溶媒より除去が容易な溶媒で洗浄する工程を省略しても良い。
【0104】
S8の工程の終了時点で、PET粒子の内部には、未だに、微量の揮発性不純物が残っていることがある。揮発性不純物には、良溶媒、貧溶媒、及び抽出溶媒が含まれる。
図1のS9では、以下の方法でPET粒子から揮発性不純物を除去する。
【0105】
PET粒子を除染装置に投入する。除染装置内で、PET粒子を減圧、高温の環境に曝すと、PET粒子の内部に溜まっていた揮発性不純物が拡散し、除去される。除染装置内の圧力は、10kPa以下が好ましく、5kPa以下がさらに好ましく、1kPa以下が特に好ましい。除染装置内の圧力が10kPa以下である場合、揮発性不純物を除去する効果が一層高い。
【0106】
除染装置内の温度は、110℃以上、190℃以下であることが好ましく、130℃以上、170℃以下であることがさらに好ましい。除染装置内の温度が110℃以上である場合、揮発性不純物を除去する効果が一層高い。除染装置内の温度が190℃以下である場合、PET粒子の内部の溶媒が熱分解を起こし難く、PET粒子が変色し難い。
【0107】
除染装置内で、PET粒子を減圧、高温の環境に曝す時間は、6時間以上、36時間以下であることが好ましく、12時間以上、36時間以下であることがさらに好ましい。
上記の時間が6時間以上である場合、揮発性不純物を除去する効果が一層高い。上記の時間が36時間を超えても、上記の時間が36時間である場合に比べて、揮発性不純物の除去は進み難い。
【0108】
図1のS10では、ペレット化工程を行う。ペレット化工程とは、押出成形により、PET粒子をPET樹脂のペレット(以下ではPETペレットとする)とする工程である。ペレットは、成形加工に適した形状である。
【0109】
ペレット化工程において、PET粒子の内部に残存する微量の揮発性不純物を除去することができる。揮発性不純物には、良溶媒、貧溶媒、及び抽出溶媒が含まれる。
ペレット化工程では、押出機を使用する。押出機は、例えば、バージンPET樹脂ペレット、又は再生PET樹脂ペレットの製造工程で広く使用される押出機である。押出機は、1つ以上の真空引き流路を備える。PET樹脂の溶融中に発生するアセトアルデヒド、環状オリゴマー、及び、これまでの工程で使用した溶媒は、真空引き流路に吸い込まれ、除去される。
【0110】
押出機は、汚染物質、不純物由来のガス、又は溶媒の蒸気を効率的に取り除くため、少なくとも二軸のスクリューを持つことが好ましい。PET樹脂の滞留による熱劣化を抑えるため、押出機のスクリューの全長は短いことが好ましい。押出成形後のPETペレットに対し、結晶化処理を行うことが好ましい。結晶化処理を行った場合、成形加工前の水分乾燥時の熱でPETペレットが融着することを抑制できる。
【0111】
図1のS11では、結晶化処理後のPETペレットに対し、固相重合工程を行う。固相重合工程では、PET樹脂の分子量をPETボトル用途に適したレベルに回復させる。また、固相重合工程では、PETペレットの押出成形時に生成したアセトアルデヒド及び環状オリゴマー、これまでの工程で使用した溶媒、並びに、その他の揮発性不純物を除去することができる。
【0112】
固相重合工程では、バージンPET樹脂ペレット、又は再生PET樹脂の製造工程で一般的に使用される固相重合装置を使用することができる。固相重合の具体的な方法は、例えば、結晶化処理後のPETペレットを、酸素を取り除いた不活性ガス雰囲気下又は真空下で、130℃以上、190℃以下の温度となるように加熱する方法である。固相重合の時間は、目標とするPET樹脂の固有粘度IVに応じて調整することができる。
【0113】
PET樹脂の用途がPETボトルである場合、固有粘度IVは0.70~0.85である。固有粘度IVは、PETボトルの用途に応じて異なる。固相重合の時間は、12時間以上、36時間以下であることが好ましい。固相重合の時間が36時間以下である場合、PET樹脂の生産性が高い。
【0114】
製造したPET樹脂は、PETボトル、繊維、フィルム、シート等の製造に用いることができる。原料の使用済みPET樹脂が使用済みPETボトルであり、製造したPET樹脂でPETボトルを製造する場合、PETボトルからPETボトルへのリサイクルを行うことができる。
【0115】
製造したPET樹脂のb*値は1.5以下である。CIE1976L*a*b*色空間での色調の測定方法は、後述する実施例に記載の方法である。PET樹脂精製工程において、PETが析出しない加熱温度にすること、加熱時間を短くすることにより、b*値の上昇が抑えられる。また、使用する活性炭が石炭系活性炭ではない場合、b*値は小さくなり易い。また、使用する活性炭がヤシ殻系活性炭である場合、b*値は小さくなり易い。
【0116】
2.PET樹脂の製造方法が奏する効果
(1A)本開示のPET樹脂の製造方法では、PET溶液と活性炭とを接触させる。活性炭は、PET溶液に含まれる可溶性不純物を吸着する。そのため、本開示のPET樹脂の製造方法によれば、不純物の含有量が少ないPET樹脂を製造することができる。特に、本開示のPET樹脂の製造方法によれば、可溶性不純物の含有量が少ないPET樹脂を製造することができる。不純物の含有量が少ないPET樹脂は色調が良好である。
【0117】
また、本開示のPET樹脂の製造方法では、ケミカルリサイクルとは異なり、解重合、再重合の工程を行わなくてもよい。そのため、本開示のPET樹脂の製造方法によれば、低コストで不純物の含有量が少ないPET樹脂を製造することができる。
【0118】
(1B)本開示のPET樹脂の製造方法で使用する活性炭は、タール成分の含有量が少ない。そのため、活性炭を使用した場合、タール成分がPET溶液中に溶出することを抑制できる。その結果、不純物の含有量が一層少ないPET樹脂を製造することができる。
(1C)本開示のPET樹脂の製造方法では、例えば、PET溶液と活性炭とを接触させる前に、活性炭に含まれるタール成分を除去することができる。この場合、タール成分がPET溶液中に溶出することを一層抑制できる。その結果、不純物の含有量が一層少ないPET樹脂を製造することができる。
【0119】
<実施例>
1.モデル試料の作成
(1-1)3回押出PETの作成
市販のPETボトル用バージンレジン(遠東新世紀製CB-602A_K)を280℃で溶融し、押出を行うことで、ペレットを作成した。押出には池貝製二軸押出機PCM-30を使用した。次に、ペレタイザーを用いてペレットをカットし、複数の小片を得た。それぞれの小片の幅は3mmであり、それぞれの小片の質量は約15mgであった。次に、小片を固相重合装置に投入し、120℃で4時間乾燥させた。次に、170℃まで昇温し、2時間結晶化した。次に、205℃で14時間固相重合を実施した。以上の工程により、1回押出PETを得た。1回押出PETを得るための工程を合計3回繰り返すことで、3回押出PETを得た。3回押出PETを、冷凍粉砕機を用いて、粒径が約600μm以下の微粒子となるように粉砕した。
【0120】
(1-2)緑色PETの作成
市販の炭酸ボトルを用意した。この炭酸ボトルはペリエ500mLであった。炭酸ボトルは3層から成っていた。3層のうちの最外層を幅約5mmにカットした。カットした最外層を、冷凍粉砕機を用いて粉砕し、緑色PETを得た。
【0121】
(1-3)模擬コゲの作成
バージンPETレジン(CB-602A_K)を金属板の上に置き、下面からバーナーで加熱した。加熱は、PETレジンから分解による気泡が発生しなくなり、且つ、PETレジンが完全に黒色化するまで行った。次に、常温において、粒径100μm程度の微粒子になるまで、黒色化したPETレジンを粉砕し、模擬コゲを得た。
【0122】
(1-4)モデル試料の作成
95質量部の3回押出PETと、4.8質量部の緑色PETと、0.2質量部の模擬コゲとを混合することで、モデル試料を得た。モデル試料は使用済みPET樹脂に対応する。
【0123】
2.実施例1
(2-1)洗浄済み活性炭の作成
(a)活性炭3.0gに対し、特級NMP30mLを加え、固液混合物を調製した。なお、NMPはタール抽出溶媒に対応する。活性炭は、フタムラ化学製ヤシ殻系粒状活性炭CW830Aであった。ヤシ殻系粒状活性炭CW830Aの平均細孔直径は1.67nmであった。ヤシ殻系粒状活性炭CW830Aの粒の直径は0.50~2.36mmであった。ヤシ殻系粒状活性炭CW830Aの粒の直径の平均値は1.35mmであった。ヤシ殻系粒状活性炭CW830Aは破砕炭であった。
【0124】
次に、固液混合物を165℃まで加熱し、撹拌子で60分間攪拌した。このとき、活性炭からタール成分が除去された。次に、固液混合物を吸引ろ過し、活性炭を回収した。
(b)回収した活性炭に対し、前記(a)の操作をもう一度行った。なお、(a)及び(b)の処理は、それぞれ、タール成分抽出方法に対応する。実施例1では、タール成分抽出方法を2回行った。
【0125】
(c)前記(a)及び前記(b)の後、活性炭に工業用アルコール10mLを注ぎ、洗浄した。工業用アルコールは、以下の組成を有していた。
エタノール:86.90%
i-プロパノール:4.90%
n-プロパノール:8.20%
次に、活性炭を、室温で15時間風乾した。以上の工程により、洗浄済み活性炭が得られた。
【0126】
(2-2)PET樹脂の製造
(i)50mL三角フラスコに、モデル試料3.0gと、NMP30mLと、洗浄済み活性炭300mgとを加えて固液混合物を調製した。固液混合物は、PET樹脂をNMPで溶解しているPET溶液と、洗浄済み活性炭とを含んでいた。NMPは、非プロトン性極性溶媒から成る特定良溶媒に対応する。固液混合物において、PET溶液と洗浄済み活性炭とは接触していた。
【0127】
(ii)次に、固液混合物を、165℃の温度で15分間加熱攪拌した。
(iii)次に、固液混合物を、ろ過装置及びスクリーンメッシュを用いて熱時ろ過した。熱時ろ過を行う前にろ過装置を予め130℃に加温しておいた。スクリーンメッシュの目開きは1.0μmであった。
【0128】
熱時ろ過により、固液混合物から、洗浄済み活性炭を含む物質を分離し、除去した。洗浄済み活性炭を含む物質の大きさは1.0μm以上であった。洗浄済み活性炭を含む物質は、大きさが50μm以上の物質も含んでいた。洗浄済み活性炭を含む物質は、洗浄済み活性炭に加えて、NMP不溶物を含んでいた。NMP不溶物とはNMPに溶解しない物質である。NMP不溶物は、洗浄済み活性炭の一部が崩壊して発生した微塵を含んでいた。
【0129】
熱時ろ過の結果、PET溶液と洗浄済み活性炭とは分離された。熱時ろ過後のPET溶液は、放冷によりゲル化した。165℃に加熱することで、ゲルを溶液へ変質させた。
(iv)次に、PET溶液を130℃で保温し、撹拌しながら、PET溶液にn-オクタン60mLを5分間かけて滴下した。n-オクタンは貧溶媒に対応する。このとき、PET溶液からPET粒子がゆっくり析出した。その結果、PET粒子と、NMPと、n-オクタンとを含む固液混合物が得られた。次に、固液混合物の撹拌を続けながら、固液混合物を約80℃まで冷却した。
【0130】
(v)次に、目開き10μmのスクリーンメッシュを用いて、固液混合物からPET粒子を回収した。
(vi)次に、抽出溶媒を用いて、回収したPET粒子からNMP及びn-オクタンを抽出する処理を行った。具体的には、100mL三角フラスコに、PET粒子と、THF100mLとを入れ、加熱還流させた。THFは抽出溶媒に対応する。このとき、PET粒子が含有していたNMP及びn-オクタンがTHFに置換された。次に、固液混合物を、目開き10μmのスクリーンメッシュでろ過した。
【0131】
(vii)次に、前記(vi)の処理をもう一度繰り返した。
(viii)次に、PET粒子を63℃で15時間真空乾燥した。以上の工程により、PET樹脂から成るPET粒子が製造された。製造されたPET粒子を目視観察したところ、PET粒子の粒径は揃っていた。実施例1、並びに、後述する実施例2~6及び比較例1~8の製造条件を表1に示す。
【0132】
【0133】
表1における「タール成分抽出方法」とは、前記「(2-1)洗浄済み活性炭の作成」における前記(a)及び前記(b)の処理である。表1における「タール抽出溶媒」とは、前記「(2-1)洗浄済み活性炭の作成」における前記(a)及び前記(b)で使用した溶媒である。表1における「抽出回数(回)」とは、前記「(2-1)洗浄済み活性炭の作成」において、前記(a)を実行した回数と、前記(b)を実行した回数との合計である。
【0134】
表1における「良溶媒」とは、前記(i)でモデル試料に加えられる溶媒である。表1における「フィルター目開き」とは、前記(iii)で使用したスクリーンメッシュの目開きである。表1における「貧溶媒」とは、前記(iv)においてPET溶液に滴下される溶媒である。表1における「抽出溶媒」とは、前記(vi)及び前記(vii)において使用する抽出溶媒である。
【0135】
3.実施例2~6及び比較例1~8
基本的には実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~8のPET樹脂を製造した。ただし、実施例2では、抽出溶媒としてエタノールを使用した。実施例3では、抽出溶媒としてアセトンを使用した。
【0136】
実施例4では、前記(iii)で使用したスクリーンメッシュの目開きは10μmであった。実施例4では、前記(iii)において、PET溶液から、活性炭を含む、大きさが10μm以上の物質が分離された。大きさが10μm以上の物質は、大きさが50μm以上の物質も含んでいた。
【0137】
実施例5では、前記(iii)で使用したスクリーンメッシュの目開きは25μmであった。実施例5では、前記(iii)において、PET溶液から、活性炭を含む、大きさが25μm以上の物質が分離された。大きさが25μm以上の物質は、大きさが50μm以上の物質も含んでいた。
【0138】
実施例6では、前記(iii)で使用したスクリーンメッシュの目開きは45μmであった。実施例6では、前記(iii)において、PET溶液から、活性炭を含む、大きさが45μm以上の物質が分離された。大きさが45μm以上の物質は、大きさが50μm以上の物質も含んでいた。
【0139】
比較例1では、活性炭を使用しなかった。比較例2では、使用した活性炭がフタムラ化学製の顆粒状の木質系活性炭であるSG840であった。比較例3では、使用した活性炭がフタムラ化学製の石炭系粒状活性炭であるGM830Aであった。
【0140】
比較例4では、使用した活性炭がフタムラ化学製の石炭系粒状活性炭であるGL830Aであった。比較例5では、使用した良溶媒がベンジルアルコールであった。比較例6では、使用した良溶媒がDMPであった。
比較例7では、活性炭に対しタール成分抽出方法を実施しなかった。比較例8では、前記(iii)で使用したスクリーンメッシュの目開きは100μmであった。比較例8では、前記(iii)の工程の後、固液混合物中に、大きさが50μm以上の物質が残った。
【0141】
4.各実施例及び各比較例の評価方法
各実施例及び各比較例で製造したPET樹脂について、以下の(4-1)~(4-4)の評価を行った。また、比較例1を除き、PET樹脂の製造に使用する活性炭について、以下の(4-5)の評価を行った。評価結果を表1又は下記の表2に示す。
【0142】
【0143】
(4-1)PET樹脂回収率X
以下の式(1)により、PET樹脂回収率X(%)を算出した。
式(1)
X=(A/B)×100
式(1)において、Aは製造されたPET樹脂の質量である。Bは、モデル試料に含まれる3回押出PETの質量である。PET樹脂回収率Xを表2に示す。
【0144】
(4-2)固有粘度IV
製造したPET樹脂0.25gを、130℃で混合溶液に加熱溶解し、樹脂含有溶液を調製した。混合溶液は、フェノールと、1,1,2,2-テトラクロロエタンとを、6:4の体積比で混合した溶液であった。次に、樹脂含有溶液を室温まで冷却し、恒温水槽で30℃に保温した。柴田科学器械製作所製自動粘度測定装置(SS-500-L1)を用いて樹脂含有溶液の流下時間を測定した。測定した流下時間に基づき、固有粘度IVを算出した。製造したPET樹脂の固有粘度IVを表2に示す。
【0145】
また、モデル試料に含まれる3回押出PETについても、同様に、固有粘度IVを算出した。モデル試料に含まれる3回押出PETの固有粘度IVは、各実施例及び各比較例のいずれでも、0.704であった。また、IV保持率を算出した。IV保持率とは、モデル試料に含まれる3回押出PETの固有粘度IVに対する、製造したPET樹脂の固有粘度IVの比率(%)である。IV保持率を表2に示す。
【0146】
(4-3)PET樹脂の色調
製造したPET樹脂0.7gを、内径35mm、厚さ3.5mmの塩ビ製のリングに入れた。次に、PET樹脂をプレス圧200Kg/cm2でプレスし、厚さが約2.3mmのプレートを作成した。このプレートのCIE1976L*a*b*色空間における色調を、HunterLab製ColorQuestXEを用いて測定した。製造したPET樹脂の色調を表2に示す。
【0147】
また、モデル試料に含まれる3回押出PETについても、同様に、色調を算出した。モデル試料に含まれる3回押出PETの色調である(L*/a*/b*)は、各実施例及び各比較例のいずれでも、(89.92 / -3.50 / 4.39)であった。
【0148】
(4-4)黒色異物の個数
2枚のPTFEシートに異物やほこりが付着していないことを、ライトボードを使用して確認した。次に、製造したPET樹脂100mgを2枚のPTFEシートに挟んだ。次に、2枚のPTFEシートを、手動油圧加熱プレス機を用い、280℃にて5秒間プレスした後、急冷した。このとき、2枚のPTFEシートの間にPETシートが成形された。PETシートの厚みは約100μmであった。
【0149】
次に、PETシートを、ハイロックス製マイクロスコープKH-8700で観察し、自動カウント機能で7mm2あたりの黒色異物の個数と、黒色異物のそれぞれの直径とを測定した。観察時の倍率は100倍であった。自動カウント機能の設定は以下のとおりであった。
【0150】
フィルター設定:なし
二値化設定:対象は輝度、階調濃度は106~255
条件:平滑度は9、最大面積は100%、最小面積は6、全領域
製造したPET樹脂での黒色異物の7mm2あたりの個数を表2に示す。表2では、直径が1.0μm以上10μm未満の黒色異物の個数と、直径が10μm以上50μm以下の黒色異物の個数とを区分して示す。
【0151】
また、モデル試料に含まれる3回押出PETについても、同様に、黒色異物の個数を算出した。モデル試料に含まれる3回押出PETでは、直径が1.0μm以上10μm未満の黒色異物の個数は、各実施例及び各比較例のいずれでも、70個であった。また、モデル試料に含まれる3回押出PETでは、直径が10μm以上50μm以下の黒色異物の個数は、各実施例及び各比較例のいずれでも、17個であった。
【0152】
(4-5)全光線透過率
全光線透過率の測定対象となる活性炭を用意した。全光線透過率の測定対象となる活性炭は、PET樹脂の製造に使用する直前の状態のものである。すなわち、各実施例及び比較例2~6、8においては、全光線透過率の測定対象となる活性炭は、タール成分抽出方法を実施済みであり、未だPET樹脂の製造に使用されていない活性炭である。比較例7においては、全光線透過率の測定対象となる活性炭は、タール成分抽出方法を実施しておらず、未だPET樹脂の製造に使用されていない活性炭である。
【0153】
全光線透過率の測定対象となる活性炭300mgと、NMP30mLとを混合し、試験液を作成した。次に、試験液を165℃で15分間加熱攪拌した。次に、ろ過により、試験液から活性炭を取り除いた。ろ過には保留粒子径1.0mmのPTFEろ紙を使用した。次に、ろ液を光路長10mmのガラスセルに移し、日本電色工業製ヘイズメーターNDH8000を用いて全光線透過率を測定した。全光線透過率を表1に示す。
【0154】
5.各実施例及び各比較例の評価結果
各実施例で製造したPET樹脂は、色調が良好であった。色調が良好な理由は、PET樹脂における不純物の含有量が少ないためである。各実施例では、PET樹脂回収率Xが高かった。各実施例では、製造したPET樹脂の固有粘度IV及びIV保持率が高かった。固有粘度IV及びIV保持率が高い理由は、PET樹脂の分子量が低下し難いためである。各実施例では、製造したPET樹脂に含まれる黒色異物の個数が少なかった。実施例1~3では、製造したPET樹脂に含まれる黒色異物の個数が特に少なかった。
【0155】
各比較例で製造したPET樹脂は、色調は不良であった。比較例5、6では、PET樹脂の分子量が低下し、PET粒子のほとんどがバルク状に析出した。そのため、比較例5、6では、製造したPET粒子の色調を測定することができなかった。また、比較例5、6では、製造したPET樹脂の固有粘度IV及びIV保持率が低かった。また、比較例2、3、8では、製造したPET樹脂に含まれる黒色異物の個数が多かった。また、比較例4では、b*値が2.47であった。すなわち、比較例4では製造したPET樹脂の色調が不良であった。
【0156】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
(1)
図1に示す各工程の一部を省略してもよい。例えば、S3、S8~S11の工程の一部又は全部を省略してもよい。また、S1~S11以外の工程を追加してもよい。
(2)
図1のS2~S4の工程は、以下のものであってもよい。良溶媒に、PETフレークと活性炭とを同時に投入する。その後、PETフレークが良溶媒に溶解し、PET溶液が生成する。PET溶液が生成したとき、PET溶液中には、既に活性炭が存在している。PET溶液が生成した時点以降、PET溶液と活性炭とが接触する。
【0157】
(3)
図1のS2~S4の工程は、以下のものであってもよい。良溶媒に、活性炭を投入する。次に、良溶媒にPETフレークを投入する。その後、PETフレークが良溶媒に溶解し、PET溶液が生成する。PET溶液が生成したとき、PET溶液中には、既に活性炭が存在している。PET溶液が生成した時点以降、PET溶液と活性炭とが接触する。
【0158】
(4)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0159】
(5)上述したPET樹脂の製造方法の他、PET樹脂の再生方法、PET樹脂から不純物を除去する方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【0160】
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
使用済みPET樹脂を良溶媒で溶解してPET溶液を生成し、
前記PET溶液と活性炭とを接触させ、
前記PET溶液から、前記活性炭を含む、大きさが50μm以上の物質を分離し、
前記PET溶液に貧溶媒を加えてPET樹脂の粒子を析出させ、
析出した前記PET樹脂の粒子を回収し、
前記良溶媒のうち25質量%以上は、非プロトン性極性溶媒から成る特定良溶媒であり、
前記活性炭における、下記の測定方法により測定される試験液の全光線透過率が80%以上であり、
製造したPET樹脂のb*値が1.5以下である、
PET樹脂の製造方法。
全光線透過率の測定方法:前記活性炭300mgと、N-メチル-2-ピロリドン30mLとを混合し、試験液を作成する。次に、前記試験液を165℃で15分間加熱攪拌する。次に、前記試験液から前記活性炭をろ過により取り除く。次に、光路長10mmのガラスセルで、ろ液の前記全光線透過率を測定する。
[項目2]
項目1に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記PET溶液と前記活性炭とを接触させる前に、
前記活性炭に含まれるタール成分の少なくとも一部を除去する、
PET樹脂の製造方法。
[項目3]
項目1又は2に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記特定良溶媒は、N-アルキル-2-ピロリドン、N-アルケニル-2-ピロリドン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンから成る群から選ばれる1種以上である、
PET樹脂の製造方法。
[項目4]
項目3に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記特定良溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンである、
PET樹脂の製造方法。
[項目5]
項目1~4のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記PET溶液と前記活性炭とを接触させた後、目開き0.5μm以上50μm以下のフィルターで前記PET溶液を濾過する、
PET樹脂の製造方法。
[項目6]
項目1~5のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
抽出溶媒を用いて、回収された前記PET樹脂の粒子から前記良溶媒及び前記貧溶媒を抽出する、
PET樹脂の製造方法。
[項目7]
項目6に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記抽出溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトン、及びエタノールから成る群から選ばれた少なくとも1種である、
PET樹脂の製造方法。
[項目8]
項目1~7のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記活性炭は、主として細孔直径が2nm以下のマイクロ孔を有する、
PET樹脂の製造方法。
[項目9]
項目1~8のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記活性炭は、直径が0.3mm以上3mm以下である粒状の活性炭である、
PET樹脂の製造方法。
[項目10]
項目1~9のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記活性炭が破砕炭である、
PET樹脂の製造方法。
[項目11]
項目1~10のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
析出した前記PET樹脂の粒子の粒子径が100μm以上1000μm以下であり、
目開き5μm以上100μm以下のフィルターを用いて、析出した前記PET樹脂の粒子を濾別回収する、
PET樹脂の製造方法。
[項目12]
項目1~11のいずれか1つの項目に記載のPET樹脂の製造方法であって、
前記PET溶液に前記貧溶媒を加える方法は滴下である、
PET樹脂の製造方法。