(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168251
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】自動車用の多機能バッテリーカバー
(51)【国際特許分類】
H01M 50/278 20210101AFI20241128BHJP
B29C 70/40 20060101ALI20241128BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/271 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/28 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/242 20210101ALN20241128BHJP
【FI】
H01M50/278
B29C70/40
H01M50/249
H01M50/271 S
H01M50/28
H01M50/242
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084757
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】十倉 大地
(72)【発明者】
【氏名】秋山 努
【テーマコード(参考)】
4F205
5H040
【Fターム(参考)】
4F205AC03
4F205AD16
4F205AD17
4F205AG03
4F205AG20
4F205AH17
4F205HA19
4F205HA22
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK03
4F205HK04
5H040AA01
5H040AA03
5H040AA14
5H040AS07
5H040LL04
5H040LL06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車体の剛性を保持しながらも軽量で耐衝撃性に優れ、且つ低コストで製造可能な、自動車用のバッテリーカバーを提供する。
【解決手段】自動車用の多機能バッテリーカバー1であって、バッテリーカバー本体11と、該バッテリーカバー本体に接合され、一方向に延びるように構成された複数のフロアクロスメンバー12と、を備え、前記バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーは、連続強化繊維を含む繊維束と熱可塑性樹脂とを含有する連続強化繊維樹脂複合材からなり、前記バッテリーカバー本体が、車室の床面を構成するフロアパネルとしても機能する、ことを特徴とする、多機能バッテリーカバーである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の多機能バッテリーカバーであって、
バッテリーカバー本体と、該バッテリーカバー本体に接合され、一方向に延びるように構成された複数のフロアクロスメンバーと、を備え、
前記バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーは、連続強化繊維を含む繊維束と熱可塑性樹脂とを含有する連続強化繊維樹脂複合材からなり、前記バッテリーカバー本体が、車室の床面を構成するフロアパネルとしても機能する、
ことを特徴とする、多機能バッテリーカバー。
【請求項2】
前記バッテリーカバー本体と前記フロアクロスメンバーとにより閉断面構造が形成された、請求項1に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項3】
前記フロアクロスメンバーが、熱可塑性樹脂からなるリブ構造体を更に有する、請求項1又は2に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項4】
前記フロアクロスメンバーにおいて、前記連続強化繊維樹脂複合材を構成する前記熱可塑性樹脂と、前記リブ構造体を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂である、請求項3に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項5】
前記バッテリーカバー本体が、熱可塑性樹脂からなるリブ構造体を更に有する、請求項1又は2に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項6】
前記バッテリーカバー本体において、前記連続強化繊維樹脂複合材を構成する前記熱可塑性樹脂と、前記リブ構造体を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂である、請求項5に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項7】
前記バッテリーカバー本体が、熱可塑性樹脂からなるリブ構造体を更に有する、請求項3に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項8】
前記バッテリーカバー本体において、前記連続強化繊維樹脂複合材を構成する前記熱可塑性樹脂と、前記リブ構造体を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂である、請求項7に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項9】
前記閉断面構造の領域に、熱可塑性樹脂発泡体を備える、請求項2に記載の多機能バッテリーカバー。
【請求項10】
前記連続強化繊維が、ガラス繊維を含む、請求項1又は2に記載の多機能バッテリーカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の多機能バッテリーカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両には、リチウムイオン電池等のバッテリーモジュール(以下、単に「バッテリー」と称することがある。)が搭載される。このようなバッテリーは、車室の床面を構成するフロアパネルの下部に搭載されることが一般的である。
【0003】
概して、電動車両は、車幅方向外側に車体前後方向に延在する一対のサイドシルと、該一対のサイドシルに固定された、車室の床面を構成するフロアパネルとを備える。そして、上記バッテリーは、通常、上記フロアパネルの下部にて、ロアーケース(バッテリーケース)とアッパーケース(バッテリーカバー)とに覆われて収納される。
【0004】
また、通常、上記フロアパネルの上部には、車室の車幅方向に延びるように複数のフロアクロスメンバーが配置される(特許文献1)。このフロアクロスメンバーは、その上部に配置される乗員座席を支持する目的や、車体の剛性を高める目的などのために用いられる部品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の電動車両においては、車体の剛性を担保するため、バッテリーケース、バッテリーカバー、フロアパネル、及びフロアクロスメンバーのいずれの部品も、一般的には鋼材から作製される。そのため、車体の軽量化に限界がある上、製造(加工)コストも嵩むという問題を抱えており、改良の余地があった。
【0007】
更に、上述した従来の電動車両においては、より多くのバッテリーを積載したいという要求がある。しかしながら、その要求を満たすためには、衝突時のバッテリーの安全確保のために、十分なスペースを確保するか、或いはバッテリーまわりの部品の耐衝撃性を一層向上させる必要性も生じる。中でも、車体のコンパクト化などの需要に応じるためには、バッテリーまわりの部品の耐衝撃性の向上が、より重要である。
【0008】
そこで、本発明は、車体の剛性を保持しながらも軽量で耐衝撃性に優れ、且つ低コストで製造可能な、自動車用のバッテリーカバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するに当たり、各部品の作製に用いる材料の適正化について鋭意検討した。その結果、バッテリーカバー本体の作製に、所定の繊維及び樹脂を含む複合材を用いることで、単なる金属からの脱却により軽量化が図れるだけでなく、車体の剛性も鋼材同等に担保できることが見出された。また、上記複合材の高強度性ゆえ、上記複合材からなるバッテリーカバー本体は、車室の床面を構成するフロアパネルとしての機能を具備できることも見出された。
【0010】
更に、フロアクロスメンバーについても、上記複合材を用いて作製し、上記バッテリーカバー本体に接合することができ、これにより高い耐衝撃性を発現できることも見出された。これら新たな知見を組み合わせることで、複数の部品を統合して部品点数を低減できる結果、製造コストの一層の低減を図ることもできる。このようにして、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の通りである。
【0012】
〔1〕
自動車用の多機能バッテリーカバーであって、
バッテリーカバー本体と、該バッテリーカバー本体に接合され、一方向に延びるように構成された複数のフロアクロスメンバーと、を備え、
前記バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーは、連続強化繊維を含む繊維束と熱可塑性樹脂とを含有する連続強化繊維樹脂複合材からなり、前記バッテリーカバー本体が、車室の床面を構成するフロアパネルとしても機能する、
ことを特徴とする、多機能バッテリーカバー。
【0013】
〔2〕
前記バッテリーカバー本体と前記フロアクロスメンバーとにより閉断面構造が形成された、〔1〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0014】
〔3〕
前記フロアクロスメンバーが、熱可塑性樹脂からなるリブ構造体を更に有する、〔1〕又は〔2〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0015】
〔4〕
前記フロアクロスメンバーにおいて、前記連続強化繊維樹脂複合材を構成する前記熱可塑性樹脂と、前記リブ構造体を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂である、〔3〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0016】
〔5〕
前記バッテリーカバー本体が、熱可塑性樹脂からなるリブ構造体を更に有する、〔1〕又は〔2〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0017】
〔6〕
前記バッテリーカバー本体において、前記連続強化繊維樹脂複合材を構成する前記熱可塑性樹脂と、前記リブ構造体を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂である、〔5〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0018】
〔7〕
前記バッテリーカバー本体が、熱可塑性樹脂からなるリブ構造体を更に有する、〔3〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0019】
〔8〕
前記バッテリーカバー本体において、前記連続強化繊維樹脂複合材を構成する前記熱可塑性樹脂と、前記リブ構造体を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂である、〔7〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0020】
〔9〕
前記閉断面構造の領域に、熱可塑性樹脂発泡体を備える、〔2〕に記載の多機能バッテリーカバー。
【0021】
〔10〕
前記連続強化繊維が、ガラス繊維を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の多機能バッテリーカバー。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、車体の剛性を保持しながらも軽量で耐衝撃性に優れ、且つ低コストで製造可能な、自動車用の多機能バッテリーカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態の多機能バッテリーカバーの概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の多機能バッテリーカバーの概略部分断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の多機能バッテリーカバーの概略部分断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態の多機能バッテリーカバーにおけるフロアクロスメンバーの概略斜視図である。
【
図5】実施例及び比較例において測定した荷重-変位曲線である。
【
図6】実施例及び比較例において測定した荷重-変位曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書において、「からなる」の語は、いわゆるオープンエンドの概念で用いられるものである。
【0025】
本発明の一実施形態の多機能バッテリーカバー(以下、単に「本実施形態のバッテリーカバー」と称することがある。)は、自動車用、特には電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両に用いられる部材である。そして、本実施形態のバッテリーカバーは、バッテリーカバー本体と、該バッテリーカバー本体に接合され、一方向に延びるように構成された複数のフロアクロスメンバーと、を備え、前記バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーは、連続強化繊維を含む繊維束と熱可塑性樹脂とを含有する連続強化繊維樹脂複合材からなり、前記バッテリーカバー本体が、車室の床面を構成するフロアパネルとしても機能する、ことを特徴とする。
【0026】
図1に、本実施形態のバッテリーカバー1の概略斜視図を示す。
図1のバッテリーカバー1は、バッテリーカバー本体11と、複数のフロアクロスメンバー12とを備える。バッテリーカバー本体11は、典型的には、略平面状であるとともに、電動車両のフロアパネルとしても機能するよう、平面視で略矩形状である。また、バッテリーカバー本体11は、電動車両の下部に搭載されるバッテリーを覆ってそれを良好に保護できるよう、バッテリーの形状などに応じて、適切な詳細形状を有することができる。
【0027】
また、バッテリーカバー1においては、複数のフロアクロスメンバー12が、一方向に延びるようにしてバッテリーカバー本体11に接合されている。なお、フロアクロスメンバー12が延びる方向は、典型的には、本実施形態のバッテリーカバー1を電動車両に配設した際の車両幅方向である。バッテリーカバー1におけるフロアクロスメンバー12の数及び位置は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
そして、本実施形態のバッテリーカバー1、特にはバッテリーカバー本体11及び複数のフロアクロスメンバー12は、「連続強化繊維を含む繊維束と熱可塑性樹脂とを含有する連続強化繊維樹脂複合材」を用いて作製される。そのため、かかるバッテリーカバー1は、軽量でありながらも、高い剛性及び耐衝撃性を発揮することができる。また、バッテリーカバー本体11は、上記連続強化繊維樹脂複合材を用いて作製されているため、車室の床面を構成するフロアパネルとしても良好に機能することができる。つまり、本実施形態の多機能バッテリーカバーは、フロアパネル及びバッテリーカバーの統合によって部品点数が従来対比で低減されているので、製造コストの一層の低減に寄与している。
本実施形態で用いられる連続強化繊維樹脂複合材については、後で詳述する。
【0029】
本実施形態のバッテリーカバー1におけるバッテリーカバー本体11及び複数のフロアクロスメンバー12は、いずれも、鋼材等の金属材料を含まないことが好ましい。ただし、部品としての強度及び/又は剛性を更に向上させる必要がある場合には、バッテリーカバー本体11及び/又は複数のフロアクロスメンバー12に、形状を最適化した金属材料の部品を必要最低限だけ組み合わせて備えさせてもよい。
【0030】
また、
図2に、本実施形態のバッテリーカバー1について、複数のフロアクロスメンバー12が延びる方向に対して垂直に切断したときの概略断面図を示す。
図2に示すように、本実施形態のバッテリーカバー1は、バッテリーカバー本体11とフロアクロスメンバー12とにより閉断面構造(閉断面15)が形成されていることが好ましい。この場合、当該バッテリーカバー1を電動車両に配設した際に、車体の曲げ剛性及びねじり剛性、並びに即突時の吸収エネルギーをより向上させることができる。
【0031】
なお、上記閉断面15の形状は、特に限定されず、例えば
図2に示すように矩形状とすることができる。また、上記閉断面15の形状は、フロアクロスメンバー12が延びる方向に亘り、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
また、本実施形態のバッテリーカバー1は、上述のようにバッテリーカバー本体11とフロアクロスメンバー12とにより閉断面構造(閉断面15)が形成されている場合には、
図3に示すように、閉断面構造の領域に、熱可塑性樹脂発泡体17を備えることが好ましい。この場合、バッテリーカバー1の遮音性及び制振性をより高めることができる。
熱可塑性樹脂発泡体については、後で詳述する。
【0033】
また、本実施形態のバッテリーカバー1におけるフロアクロスメンバー12は、
図4に示すように、リブ構造体18を更に有することが好ましい。この場合、当該バッテリーカバー1を電動車両に配設した際に、車体の剛性及び強度をより向上させることができる。
なお、フロアクロスメンバー12は、当該フロアクロスメンバー12が延びる方向に対して垂直に切断したときに、開口された断面形状を有することが好ましい(
図2~
図4)。この場合、フロアクロスメンバー12に、上記リブ構造体18をより容易に形成することができる。
また、リブ構造体の形成は、バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーを接合する前に行うことができる。
【0034】
上記リブ構造体18は、具体的には、
図4に示すように、フロアクロスメンバー12の開口内部において、複数の熱可塑性樹脂からなる板が略直立し、これらが一体的に連なった構造とすることができる。上記リブ構造体18は、少なくとも熱可塑性樹脂を含む成形材料を用い、例えば射出成形により得ることができる。上記成形材料は、熱可塑性樹脂のみを含む成形材料であってもよく、或いは、熱可塑性樹脂及び強化繊維を含む成形材料であってもよい。また、上記成形材料が強化繊維を含む場合、当該強化繊維の長さは、特に限定されない。即ち、当該強化繊維は、0.2~0.4mm程度の短繊維であってもよく、3mm以上の長繊維であってもよい。更に、上記成形材料としては、例えばペレット状のものを用いることができる。
【0035】
別の実施形態において、上記リブ構造体18は、成形材料としてのランダム繊維強化材に対し、所望のリブ構造体の構造に対応する形状を有する成形金型でプレスして作製することもできる。ランダム繊維強化材としては、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させてなるプリプレグを短冊状にカットとしてなるチョップドシート等が挙げられる。この場合、高出力圧の射出ユニットが組み込まれたプレス機が不要になり、設備投資の大幅な削減が期待できる。また、上記強化繊維として炭素繊維を用いてリブ構造体を作製した場合には、バッテリーカバーの剛性をより向上させることができる。
【0036】
上記成形材料に含まれ得る強化繊維の具体例については、後述の連続強化繊維樹脂複合材を構成する連続強化繊維に用いられる強化繊維の説明を適用することができる。
【0037】
また、リブ構造体18を有するフロアクロスメンバー12においては、上記リブ構造体18を構成する熱可塑性樹脂と、連続強化繊維樹脂複合材(後で詳述)を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂であることが好ましい。この場合、連続強化繊維樹脂複合材からなるフロアクロスメンバー12とリブ構造体18とを熱溶着によって組み合わせる際に、当該2つの部材間の接合強度をより高めることができる。
【0038】
図示しないが、本実施形態のバッテリーカバー1におけるバッテリーカバー本体11も、リブ構造体を更に有してもよい。この場合、当該バッテリーカバー1を電動車両に配設した際に、車体の剛性及び強度をより向上させることができる。
【0039】
また、リブ構造体を有するバッテリーカバー本体11においては、上記リブ構造体を構成する熱可塑性樹脂と、連続強化繊維樹脂複合材(後で詳述)を構成する前記熱可塑性樹脂とが、同じ樹脂であることが好ましい。この場合、連続強化繊維樹脂複合材からなるバッテリーカバー本体11とリブ構造体とを熱溶着によって組み合わせる際に、当該2つの部材間の接合強度をより高めることができる。
【0040】
上記リブ構造体を構成する熱可塑性樹脂の具体例については、後述の連続強化繊維樹脂複合材を構成する熱可塑性樹脂の説明を適用することができる。
【0041】
本実施形態のバッテリーカバー1は、電動車両における、車幅方向外側に車体前後方向に延在する一対のサイドシルに固定して配設できるように構成されることが好ましい。固定のしかたとしては、例えば、接着剤による接着、ボルト締結、リベット締結等が挙げられる。
【0042】
<連続強化繊維樹脂複合材>
本実施形態で用いられる連続強化繊維樹脂複合材は、連続強化繊維を含む繊維束と、熱可塑性樹脂とを含有する材料である。本実施形態のバッテリーカバーにおいては、バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバー等の成形体が、かかる連続強化繊維樹脂複合材からなる。
連続強化繊維樹脂複合材としては、例えば、強化繊維の織物や編み物、組紐、パイプ状のものと樹脂とを複合化した材料や、一方向に引き揃えた強化繊維と熱可塑性樹脂とを複合化した材料、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる糸を一方向に引き揃えて成形した材料、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる糸を織物や編み物、組紐、パイプ状にして成形した材料、等が挙げられる。
連続強化繊維樹脂複合材の成形前の中間材料としては、連続強化繊維と樹脂繊維との混繊糸、連続強化繊維の束の周囲を樹脂で被覆したコーティング糸、連続強化繊維に予め樹脂を含浸させテープ状にしたもの、連続強化繊維を樹脂のフィルムで挟んだもの、連続強化繊維に樹脂パウダーを付着させたもの、連続強化繊維の束を芯材としてその周囲を樹脂繊維で組紐としたもの、連続強化繊維の束の間に樹脂を含浸させたもの、等が挙げられる。
【0043】
本実施形態の連続強化繊維樹脂複合材は、連続強化繊維の断面が略丸断面であり、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と熱可塑性樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維の本数が、連続強化繊維の総数の10%以上であることが好ましい。すなわち、本実施形態の連続強化繊維樹脂複合材は、略丸断面の連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該合成樹脂との間の極界面に観察される、該連続強化繊維の周縁部から、半径方向に、該連続強化繊維1本の半径rの10分の1(すなわち、r/10)離れた周縁外側領域内の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維が存在し、その本数が、連続強化繊維の総数の10%以上であることが好ましい。
なお、連続強化繊維の断面は、略丸断面であることが好ましく、また、楕円形状であってもよい。その場合、上記「半径」とは、繊維断面の中心からの周縁部に向かう最短距離とする。
【0044】
上述の空隙率は、例えば、バンドソー等により1cm角に切削した連続強化繊維樹脂複合材の連続強化繊維の長さ方向に直交する断面を、研磨面に400g/cm2の力がかかるように、研磨台を100rpmで回転させて、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#400で2分間、耐水ペーパー番手#800で5分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で15分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで15分間、アルミナフィルム粒度5μmで15分間、アルミナフィルム粒度3μmで15分間、アルミナフィルム粒度1μmで15分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で10分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨し、研磨したサンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ImageJ等のソフトにより画像解析することで、下記式により求めることができる。
空隙率(%)=(連続強化繊維の周縁部から該連続強化繊維の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙の面積)/(連続強化繊維の周縁部から該連続強化繊維の半径の10分の1離れた周縁外側領域の面積)×100
【0045】
そして、任意の連続強化繊維1本の連続強化繊維の周縁部から、半径の10分の1の距離、該連続強化繊維の周縁部から離れた周縁外側領域における空隙率を求め、これを任意の100本について観察する。これらの結果から、連続強化繊維の総数における、空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維の本数の割合を求めることができる。上記割合は、成形体の剛性や強度を高めるという観点から、10%以上(すなわち、100本の内10本以上)であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
また、本実施形態の連続強化繊維樹脂複合材においては、剛性や強度を高めるという観点から、連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率は5%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0046】
「連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維の本数が、連続強化繊維の総数の10%以上」を達成するためには、例えば、連続強化繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維の製造において塗布される集束剤と熱可塑性樹脂との間のμドロップ生成係数が10以上であり、相性が良いものを選択し、インロー型等の成形中に型内を密閉できる成形方法や圧力を調整したダブルベルトプレスによる成形方法を選択することにより、樹脂の漏れ出しを防ぎ、連続強化繊維樹脂複合材のガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう)の成形前後の変化を小さくし、集束剤に適した温度条件で成形することが好ましい。
【0047】
なお、μドロップ生成係数は、熱可塑性樹脂と強化繊維の相性を示す指標であり、μドロップ生成係数は樹脂の主成分のみでなく、樹脂に含まれる微量成分も影響する。μドロップ生成係数は、例えば、複合材界面特性評価装置(HM410、東栄産業株式会社)を用いて、強化繊維の単糸1本に樹脂付けをする際に、強化繊維に樹脂を複数回(例えば、4回)タッチさせ、生成したμドロップの数を数え、下記式:
(μドロップ生成係数)={(生成したμドロップ数)/(強化繊維に樹脂をタッチさせた回数)}×10
により算出できる。
【0048】
連続強化繊維樹脂複合材に占める強化繊維の体積比率(Vf)は、強度の観点から、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましく、55%以上が一層好ましく、65%以上が特に好ましい。
なお、連続強化繊維樹脂複合材に占める強化繊維の体積比率(Vf)は、連続強化繊維樹脂複合材を650℃で3時間加熱して、樹脂を焼き飛ばした後、室温まで自然冷却し、残存する強化繊維の質量を測定することで、成形体に含まれる強化繊維と樹脂の比率を算出でき、かかる比率から、密度で割りかえすことにより、強化繊維の体積比率(Vf)を算出することができる。
【0049】
-強化繊維-
上記連続強化繊維に用いられる強化繊維は、吸収エネルギー量のより高い衝撃吸収体が得られる観点から、降伏点を持たない繊維であることが好ましい。
また、衝撃吸収性という観点から、上記強化繊維は、JIS K7127に準拠して測定される引張弾性率が、15GPa以上であることが好ましい。
また、破壊時のエネルギー吸収の観点から、上記強化繊維は、JIS K7161に準拠して測定される引張強さが、350MPa以上であることが好ましい。
なお、本開示において、「降伏点を持たない」とは、応力-歪み曲線図において、歪みが大きくなるにつれて応力が増大し続ける曲線を示すことである。降伏点を持たない繊維は、破断するまで弾性変形を行い、荷重を除荷すれば元の形状に戻る。
【0050】
上述した強化繊維の具体例としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、超高強カポリエチレン繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、セラミックス繊維、ポリカーボネート繊維等が挙げられる。これら強化繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、耐熱性、不燃性、柔軟性、コストや取扱い性等の観点から、強化繊維としては、ガラス繊維が好ましい。換言すると、本実施形態において、上記連続強化繊維は、ガラス繊維を含むことが好ましい。
【0051】
強化繊維の断面は、略丸断面であることが好ましく、また、楕円形状であってもよい。
【0052】
強化繊維としては、カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤を含む集束剤が添加されている連続強化繊維を用いることが好ましい。
【0053】
カップリング剤は、通常、強化繊維の表面処理剤として用いられ、界面接着強度の向上に寄与する。
カップリング剤としては、強化繊維がガラス繊維である場合、シランカップリング剤は挙げられる。シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類、マレイン酸類等が挙げられる。熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いる場合には、シランカップリング剤としてはアミノシラン類やマレイン酸類が好ましく、熱可塑性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合には、シランカップリング剤としてはエポキシシラン類が好ましい。
【0054】
結束剤は、強化繊維の集束性向上及び界面接着強度向上に寄与する。
結束剤としては、目的に応じたポリマー、熱可塑性樹脂が使用可能である。結束剤として用いられるポリマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩等が挙げられる。また、例えば、m-キシリレンジイソシアナート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びイソホロンジイソシアナート等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるポリウレタン系樹脂も好適に使用される。
結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例 えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0055】
潤滑剤は、強化繊維の開繊性向上に寄与する。
潤滑剤としては、目的に応じた通常の液体又は固体の任意の潤滑材料が使用可能であり、以下に限定されるものではないが、例えば、カルナウバワックスやラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳 香族系エステル、芳香族系エーテル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0056】
上記のほか、集束剤としては、例えば、特開2015-101794号公報に記載のものを用いることができる。また、上記集束剤(カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤)の種類、付与量については、強化繊維の特性に応じて、適宜選択することができる。
【0057】
連続強化繊維は、複数本の強化繊維からなるマルチフィラメントであることが好ましい。また、連続強化繊維の単糸数は、取扱い性の観点から、30~15,000本であることが好ましい。連続強化繊維の単糸径は、強度の観点、及び、取り扱い性の観点から、2~30μmであることが好ましく、4~25μmであることがより好ましく、6~20μmであることが更に好ましく、8~18μmであることが特に好ましい。
【0058】
-熱可塑性樹脂-
上記連続強化繊維樹脂複合材における熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルケトン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;熱可塑性ポリエーテルイミド;テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性フッ素系樹脂;、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱可塑性樹脂としては、結晶性樹脂が好ましい。また、これらの中でも、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、及び熱可塑性フッ素系樹脂が好ましい。また、これらの中でも、熱可塑性樹脂としては、機械的物性、汎用性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリエステル系樹脂がより好ましく、熱的物性の観点を加えると、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が更に好ましい。更に、熱可塑性樹脂としては、繰り返し荷重負荷に対する耐久性の観点を加えると、ポリアミド系樹脂がより一層好ましく、ポリアミド66が特に好ましい。
【0059】
上記ポリアミド系樹脂とは、主鎖に-CO-NH-(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。例えば、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ポリアミド系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のラクタム、ジアミン(単量体)、ジカルボン酸(単量体)の詳細に関しては、適宜特開2015-101794号公報に記載のものを適用することができる。
【0060】
ポリアミドの具体例としては、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及びポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミド等が挙げられる。
【0061】
共重合ポリアミドとしては、例えば、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合物、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合物、並びにヘキサメチレンテレフタルアミド及び2-メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合物が挙げられる。
【0062】
上記ポリエステル系樹脂とは、主鎖に-CO-O-(エステル)結合を有する高分子化合物を意味する。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
その他のポリエステル系樹脂の詳細に関しては、適宜特開2015-101794号公報に記載のものを用いることができる。
【0063】
連続強化繊維樹脂複合材100質量%に占める熱可塑性樹脂の割合は、25~40質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。
【0064】
-難燃剤-
また、自動車用のバッテリーカバーは難燃性能が求められることから、上記連続強化繊維樹脂複合材は、難燃剤を含有することが好ましい。難燃剤としては、例えば、有機ホスフィン酸塩が挙げられ、より具体的には、例えば、下記一般式(1)で表される有機ホスフィン酸塩(以下、「ホスフィン酸塩(1)」ともいう。)、下記一般式(2)で表される有機ジホスフィン酸塩(以下、「ジホスフィン酸塩(2)」ともいう。)、及びこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機ホスフィン酸塩が挙げられる。
【0065】
【0066】
[式(1)中、R11及びR12は、各々独立して、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基である。mは、2又は3である。複数存在するR11及びR12は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。M1a+は、a価の金属イオンであり、M1は、元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン、又はアルミニウムイオンであり、aは、2又は3である。a=mである。]
【0067】
【0068】
[式(2)中、R21及びR22は、各々独立して、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基である。R23は、炭素数1~10のアルキレン基又は炭素数6~10のアリーレン基である。nは1~3の整数である。nが2又は3である場合、複数存在するR21、R22、及びR23は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。M2b+は、b価の金属イオンであり、M2は、元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン、又はアルミニウムイオンであり、bは2又は3である。jは1又は2である。jが2である場合、複数存在するM2は、同一であってもよく、異なっていてもよい。n、b、及びjは、2n=b×jの関係式を満たす整数である。]
【0069】
好ましいホスフィン酸塩(1)として具体的には、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。中でも、難燃性、ポリアミドとの相溶性、原料の入手容易性の観点から、ジエチルホスフィン酸金属塩が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0070】
好ましいジホスフィン酸塩(2)として具体的には、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0071】
上記難燃剤の含有量は、連続強化繊維樹脂複合材100質量%のうち、0.5~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1~6質量%、更に好ましくは1.2~3質量%である。上記難燃剤の含有量が上記範囲であると、熱可塑性樹脂の性質を損なうことなく、難燃性を向上させることができる。また、上記難燃剤の含有量が上記範囲であると、機械的強度の低下が低減されるため、難燃性と機械的強度とのバランスに優れる連続強化繊維樹脂複合材を得ることができる。
なお、上記難燃剤は、例えば、あらかじめ熱可塑性樹脂とブレンドすることにより、連続強化繊維樹脂複合材に含有させることができる。
【0072】
-その他の添加剤-
上記連続強化繊維樹脂複合材は、必要に応じて、上述したもの以外の添加剤を含有してもよい。上記添加剤としては、例えば、老化防止剤、酸化防止剤、耐候剤、金属不活性剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、防菌・防黴剤、防臭剤、導電性付与剤、分散剤、軟化剤、可塑剤、架橋剤、共架橋剤、加硫剤、加硫助剤、発泡剤、発泡助剤、着色剤、制振剤、造核剤、中和剤、滑剤、ブロッキング防止剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤等が挙げられる。
【0073】
連続強化繊維樹脂複合材における上記添加剤の含有量は、強化繊維と熱可塑性樹脂の合計100質量%に対して、10質量%以下としてよい。
なお、これら添加剤は、例えば、あらかじめ熱可塑性樹脂とブレンドすることにより、連続強化繊維樹脂複合材に含有させることができる。
【0074】
<熱可塑性樹脂発泡体>
熱可塑性樹脂発泡体は、本実施形態のバッテリーカバーにおいて、バッテリーカバー本体11とフロアクロスメンバー12とにより閉断面構造(閉断面15)を形成した場合に、閉断面構造の領域に配置させることができる材料である。熱可塑性樹脂発泡体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、発泡性を有する熱可塑性樹脂に発泡剤を含有(含浸)させ、発泡を生じさせることによって樹脂粒子(予備発泡粒子)を得て、次いで、所定の形状を有する成形用型内に当該樹脂粒子を充填し、水蒸気等で加熱し、樹脂粒子を発泡させると同時に樹脂粒子同士を熱融着させることにより、発泡成形品として熱可塑性樹脂発泡体を得ることができる。
【0075】
発泡性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。発泡性を有する熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
熱可塑性樹脂に発泡剤を含有(含浸)させる方法としては、水等の懸濁系で水性媒体を用いて行う方法(懸濁含浸法)、重炭酸ナトリウム等の熱分解型発泡剤を用いる方法(発泡剤分解法)、ガス発泡剤を臨界圧力以上の雰囲気とし液相状態にして、熱可塑性樹脂に接触させる方法(液相含浸法)、ガス発泡剤を臨界圧力未満の雰囲気とし気相状態にして、熱可塑性樹脂に接触させる方法(気相含浸法)等が挙げられる。これらの中でも、気相含浸法が好ましい。その理由として、上記気相含浸法では、高温条件下で実施される懸濁含浸法の場合と比較して、ガスの熱可塑性樹脂への溶解度がより高く、発泡剤の含有量をより多くすることができる。そのため、気相含浸法では、高発泡倍率を達成しやすく、その結果、樹脂粒子内の気泡サイズが均一になりやすいからである。
【0077】
気相含浸法に用いられる熱可塑性樹脂の形状としては、特に限定されないが、例えば、ビーズ状、ペレット状、球体、不定形の粉砕物等が挙げられる。また、その大きさは、発泡後の予備発泡粒子の大きさを適度なものとし、予備発泡粒子の取り扱いやすさを高め、成形時の充填をより密にする観点から、平均径が0.2~3mmであることが好ましい。
【0078】
気相含浸法の条件としては、特には限定されることなく、例えば、ガスの樹脂への溶解をより効率的に進める観点から、雰囲気圧力としては、0.5~6.0MPaであることが好ましく、雰囲気温度としては、5~30℃であることが好ましい。
【0079】
ガス発泡剤としては、環境への影響が少なく、可燃性や支燃性がないものが好ましく、取り扱い時の安全性の観点から、可燃性及び支燃性のない無機化合物が更に好ましく、樹脂への溶解性、取り扱いの容易性の観点から、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)が特に好ましい。
【0080】
成形用金型への樹脂粒子(予備発泡粒子)の充填方法は、特には限定されないが、例えば、金型を多少開けた状態で樹脂粒子を充填するクラッキング法、金型を閉じたままの状態で加圧圧縮した樹脂粒子を充填する圧縮法、金型に加圧圧縮した樹脂粒子を充填した後に上記クラッキング法を行う圧縮クラッキング法等が挙げられる。
なお、閉断面構造の領域への熱可塑性樹脂発泡体の配置は、バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーを接合する前に行うことができる。
【0081】
<バッテリーカバーの製造方法>
本実施形態のバッテリーカバーは、バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーがそれぞれ、上述した連続強化繊維樹脂複合材を用いて製造されていればよく、その製造方法は特に限定されない。本実施形態のバッテリーカバーは、例えば、以下の工程:
(A1)連続強化繊維と、熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように加熱プレスし、次いで、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却して、連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を得る工程;
(A2)(A1)工程で得られた該連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を、ヒーター又はオーブンなどにより該熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、次いで、所定の形状を有する成形金型に上記連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を配置して冷却プレスする工程;
(A3)(A2)工程の後、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却し、連続強化繊維樹脂複合材からなる成形品として、フロアクロスメンバーを得る工程;
(A4)(A1)工程で得られた該連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を、ヒーター又はオーブンなどにより該熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、次いで、所定の形状を有する成形金型に上記連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を配置して冷却プレスする工程;
(A5)(A4)工程の後、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却し、連続強化繊維樹脂複合材からなる成形品として、バッテリーカバー本体を得る工程;
(A6)(A5)工程で得られたバッテリーカバー本体及び(A3)工程で得られたフロアクロスメンバーを接合する工程;
を含む製造方法により、製造することができる。
【0082】
また、本実施形態のバッテリーカバーは、例えば、以下の工程:
(B1)連続強化繊維と、熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように加熱プレスし、次いで、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却して、連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を得る工程;
(B2)(B1)工程で得られた該連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)とランダム繊維強化材とを、ヒーター又はオーブンなどにより該熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、次いで、所定の形状を有する成形金型に上記ランダム繊維強化材、上記連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)の順番に配置して冷却プレスする工程;
(B3)(B2)工程の後、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却し、連続強化繊維樹脂複合材とランダム繊維強化材とからなる成形品として、フロアクロスメンバーを得る工程;
(B4)(B1)工程で得られた該連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)とランダム繊維強化材とを、ヒーター又はオーブンなどにより該熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、次いで、所定の形状を有する成形金型に上記ランダム繊維強化材、上記連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)の順番に配置して冷却プレスする工程;
(B5)(B4)工程の後、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却し、連続強化繊維樹脂複合材とランダム繊維強化材とからなる成形品として、バッテリーカバー本体を得る工程;
(B6)(B5)工程で得られたバッテリーカバー本体及び(B3)工程で得られたフロアクロスメンバーを接合する工程;
を含む製造方法により、製造することもできる。
この場合、フロアクロスメンバーがリブ構造体を有し、かつ、バッテリーカバー本体がリブ構造体を有するバッテリーカバーが得られる。
【0083】
上述したが、連続強化繊維としては、カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤を含む集束剤が添加されている連続強化繊維を用いることが好ましい。また、上記熱可塑性樹脂としては、上記カップリング剤と反応性がある末端官能基を有する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0084】
また、上記熱可塑性樹脂には、あらかじめ添加剤(難燃剤など)をブレンドしておいてもよい。
【0085】
連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を得る際の加熱プレスの方法は、特に限定されないが、生産性の観点から、ダブルベルトプレスによる加熱プレス方法が好ましい。このとき、連続強化繊維樹脂複合材を構成する基材の投入としては、複数のロールから強化繊維と熱可塑性樹脂とを繰り出してダブルベルトプレス装置に投入してもよいし、所望の大きさにカットした強化繊維と熱可塑性樹脂とを所望の枚数重ねて投入してもよい。また、このとき、基材の前後に誘導用のシート(例えばテフロン(登録商標)シート)を一緒に投入してもよい。
【0086】
バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーをそれぞれ得る際の冷却プレス方法として、具体的には、例えば、連続強化繊維樹脂複合材を構成する基材を、所望の成形体に合わせて裁断し、目的とする製品の厚みを考慮して必要枚数積層させ、金型形状に合わせてセットすることができる。基材の裁断は、1枚ずつ行ってもよいし、所望の枚数を重ねてから行ってもよい。生産性の観点からは、重ねた状態で裁断することが好ましい。裁断する方法は任意の方法でよく、例えば、ウォータージェット、刃プレス機、熱刃プレス機、レーザー、プロッター等を用いて裁断することができる。
適切な裁断形状は、トライアンドエラーを繰り返すことでも調整できるが、金型の形状にあわせてCAE(computer aided engineering)によるシミュレーションを行うことで設定することが好ましい。
【0087】
基材を金型にセットした後には、金型を閉じてプレス(圧縮)する。そして、連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)を構成する熱可塑性樹脂の融点以下の温度に金型を温調して熱可塑性樹脂を固化させ、賦型する。型締め圧力としては、特に限定されないが、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上である。圧縮成形の時間は、成形品の反りの観点からは、長いほうが好ましいが、生産性の観点からは、好ましくは2分以内、より好ましくは1分以内が適している。
【0088】
バッテリーカバー本体及びフロアクロスメンバーを接合する方法としては、接着剤による接着、ボルト締結又はリベット締結などによる機械締結、等が挙げられる。
【0089】
上記フロアクロスメンバーは、車体フレームとの締結点が多い方が好ましい。この場合、バッテリーカバーの剛性をより向上させることができる。より具体的に、上記フロアクロスメンバーにおける、車体フレームとの締結点の数は、50以上であることが好ましい。
【実施例0090】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0091】
(実施例1-1)
[連続強化繊維の作製]
連続強化繊維として、集束剤を0.45質量%付着させた、繊度11500dtexで単糸数2000本のガラス繊維を作製した。巻き取り形態はダイレクトワインドロービング(DWR)であり、平均単糸径は17μmとした。
上記の集束剤は、カップリング剤としてのγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、「KBE-903」)0.5質量%、潤滑剤(カルナウバワックス)1質量%、結束剤としてのポリウレタン樹脂(株式会社ADEKA製、「Y65-55」)2質量%、無水マレイン酸40質量%、アクリル酸メチル50質量%、及びメタクリル酸メチル10質量%を共重合させ、重量平均分子量が20000である共重合化合物が3質量%、共重合化合物水溶液が3質量%となるように脱イオン水で調製することで作製した。
【0092】
レピア織機(織幅2m)を用い、前記ガラス繊維を経糸、緯糸として用いて製織することでガラスクロスを製造した。得られたガラスクロスの織形態は、平織、織密度は6.5本/25mm、目付は600g/m2であった。
【0093】
[熱可塑性樹脂フィルムの作製]
熱可塑性樹脂として、ポリアミド66(旭化成株式会社製、「レオナ1300S」、融点265℃、カルボキシル末端基数は70μmol/g、アミノ末端基は32μmol/gであった)を準備し、かかる熱可塑性樹脂を用いてTダイ押し出し成形機(株式会社創研製)にて成形することでフィルムを得た。フィルムの厚さは100μmであった。
【0094】
[強度試験用サンプルの作製]
ガラスクロス5枚と熱可塑性樹脂のフィルム6枚とを重ね、所定の成形機(金型)を用いて成形(加熱プレス)を行った。次いで、金型を急冷した後に金型を開放し、得られた平板状の連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)(フロアクロスメンバー中間体、厚み2.2mm)を取り出した。なお、成形時間は、ポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、成形中の最大温度は285℃とした。
【0095】
次いで、フロアクロスメンバー中間体と、ランダム繊維強化材(リブ構造体を得るための材料。連続強化繊維樹脂複合材と同じ熱可塑性樹脂を含む。)とを、ヒーターにより熱可塑性樹脂(ポリアミド66)の融点以上に加熱し、次いで、所定の形状を有する成形金型に上記ランダム繊維強化材、上記フロアクロスメンバー中間体の順番に配置して冷却プレスした。次いで、熱可塑性樹脂(ポリアミド66)の融点以下の温度まで冷却し、
図4に示すような、開口内にリブ構造体が形成されたフロアクロスメンバーを得た。なお、成形金型の温度は、90℃~150℃の範囲とした。
【0096】
上記フロアクロスメンバーの作製にあたっては、ガラス繊維の配向方向が、当該フロアクロスメンバーの長手方向に対して0度及び90度となるようにした。
【0097】
一方、上記の平板状の連続強化繊維樹脂複合材(プリプレグ)と同様のものとして、バッテリーカバー本体相当品を得た。バッテリーカバー本体相当品の作製にあたっては、ガラス繊維の配向方向が、当該バッテリーカバー本体相当品の長手方向に対して0度及び90度となるようにした。
【0098】
次いで、上記で得られたフロアクロスメンバーに、このバッテリーカバー本体相当品を、リベット締結(ブラインドリベット)により接合し、
図2に示す断面形状を有する強度試験用サンプルを作製した。得られた強度試験用サンプルの質量は、0.29kgであった(リベットを含まない)。
【0099】
(実施例1-2)
実施例1-1において、フロアクロスメンバーの開口内にリブ構造体を形成しなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、強度試験用サンプルを作製した。得られた強度試験用サンプルの質量は、0.23kgであった(リベットを含まない)。
【0100】
(実施例2-1)
実施例1-1において、上記フロアクロスメンバーにおけるガラス繊維の配向方向を、当該フロアクロスメンバーの長手方向に対して45度及び135度となるようにしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、強度試験用サンプルを作製した。得られた強度試験用サンプルの質量は、0.29kgであった(リベットを含まない)。
【0101】
(実施例2-2)
実施例2-1において、フロアクロスメンバーの開口内にリブ構造体を形成しなかったこと以外は、実施例2-1と同様にして、強度試験用サンプルを作製した。得られた強度試験用サンプルの質量は、0.23kgであった(リベットを含まない)。
【0102】
(比較例1)
780MPaハイテン材(厚み0.8mm)を用い、上記実施例と同等の形状を有するフロアクロスメンバーを作製し、これらをスポット溶接により接合して、上記実施例と同等の形状を有する強度試験用サンプルを作製した。得られた強度試験用サンプルの質量は、0.34kgであった。
【0103】
<荷重-変位曲線>
実施例1-1、実施例1-2、実施例2-1、実施例2-2、及び比較例1の強度試験用サンプルについて、3点曲げ試験により、荷重-変位曲線を作成した。実施例1-1及び実施例1-2(繊維の配向方向が0度及び90度である例)並びに比較例1の荷重-変位曲線を
図5に示し、実施例2-1及び実施例2-2(繊維の配向方向が45度及び135度である例)並びに比較例1の荷重-変位曲線を
図6に示す。これらの図では、最大荷重が強度の指標となり、傾きが剛性(弾性率)の指標となり、また、荷重-変位曲線の積分値が、吸収エネルギー量の指標となる。
【0104】
図5及び
図6より、実施例の強度試験用サンプルは、比較例の強度試験用サンプルに比べて強度及び剛性に優れていることが分かる。特に、実施例1-1及び実施例2-1のように、バッテリーカバー本体とフロアクロスメンバーとによる閉断面構造の領域にリブ構造体を形成することで、わずかな質量の増加でありながら、強度、剛性及び吸収エネルギー量(耐衝撃性)が効果的に向上することが分かる。
【0105】
(実施例3)
実施例3では、実施例1-1における強度試験用サンプルの開口内に、熱可塑性樹脂発泡体を形成して、
図3に示すような、閉断面構造の領域に熱可塑性樹脂発泡体を備える強度試験用サンプルを得た。
【0106】
<3点曲げ試験>
実施例3及び比較例1の強度試験用サンプルについて、3点曲げ試験を行い、エネルギー吸収量を測定した。その結果、実施例3は、比較例1に比べ、単位質量当たりのエネルギー吸収量が1.7倍であった。
【0107】
<落錘試験>
実施例3及び比較例1の強度試験用サンプルについて、錘20kg、落下高さ5mの条件で、落錘試験を行った。その結果、エネルギー吸収の際の変位量が、(実施例3)<(比較例1)となっていた。この値が小さいほど、少ない変位でエネルギー吸収が可能である(耐衝撃性に優れる)。
【0108】
(バッテリーカバー総重量の試算)
従来のバッテリーを収納するための構成部材として、バッテリーカバー(フロアパネル下部のアッパーケース):1個、フロアパネル:1個、及びフロアクロスメンバー部品類:20個を想定し、CAD図及び金属材料(鋼材)の種類から、総重量は47kgと試算された。
一方、本発明の多機能バッテリーカバーの構成部材として、連続強化繊維樹脂複合材からなるバッテリーカバー本体:1個、連続強化繊維樹脂複合材からなるフロアクロスメンバー:5個を想定すると、総重量は28kgと試算された。以上より、本発明の多機能バッテリーカバーは、従来対比で、部品点数を低減できるとともに、約20kgの軽量化を図れることが期待できる。