(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168252
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリアミド組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20241128BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241128BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241128BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20241128BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20241128BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08L77/06
C08L15/00
C08K3/013
C08K7/14
C08K7/06
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084758
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】難波 知也
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB01
4J001DB04
4J001EB08
4J001EB09
4J001EB36
4J001EB37
4J001EC07
4J001EC08
4J001EC09
4J001FB03
4J001FB06
4J001FC03
4J001FC06
4J001GA12
4J001GB02
4J001GB03
4J001GB05
4J001JB06
4J002BB212
4J002CL031
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA096
4J002DE076
4J002DE186
4J002DE236
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】吸湿時の剛性低下抑制と塗装性に優れるポリアミド組成物、及び、ポリアミド組成物を成形してなる成形品を提供すること。
【解決手段】ポリアミドと、酸変性エラストマーと、を含むポリアミド組成物であって、ポリアミドは、ジカルボン酸単位を含み、ジカルボン酸単位の総モル量に対する芳香族ジカルボン酸単位の含有率が50mol%より多く、ポリマー単位のC/N比が、6.0より大きく8.0より小さく、JIS-K7121に準じた示差走査熱量測定において、ポリアミド組成物の融解ピーク温度が、310℃以上であり、酸変性エラストマーの量が、ポリアミド組成物100質量%に対して、6質量%未満である、ポリアミド組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドと、
酸変性エラストマーと、
を含むポリアミド組成物であって、
前記ポリアミドは、ジカルボン酸単位を含み、
前記ジカルボン酸単位の総モル量に対する芳香族ジカルボン酸単位の含有率が50mol%より多く、
ポリマー単位のC/N比が、6.0より大きく8.0より小さく、
JIS-K7121に準じた示差走査熱量測定において、前記ポリアミド組成物の融解ピーク温度が、310℃以上であり、
前記酸変性エラストマーの量が、前記ポリアミド組成物100質量%に対して、6質量%未満である、ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドが、ジアミン単位を含み、当該ジアミン単位の炭素数が4~6である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ジアミン単位が、テトラメチレンジアミン単位を含む、請求項2に記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記芳香族ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項5】
前記ジカルボン酸単位の総モル量に対する、前記テレフタル酸単位の含有率が、90~100mol%である請求項4に記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
充填材をさらに含み、前記充填材が、繊維状充填材である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項7】
充填材をさらに含み、前記充填材が、ガラス繊維または炭素繊維である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項8】
充填材をさらに含み、前記充填材が、炭素繊維である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項9】
前記融解ピーク温度が、325℃以上である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のポリアミド組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車部品など強度の求められるスポーツ用品には金属部品が用いられてきた。しかし近年、軽量化を目的とした金属代替部品として、力学特性の高いポリアミドが広く用いられている。
【0003】
スポーツ用品としては自転車部品に限らず、ラケット、スピニングリールなどの用途が知られている。これらの用途での部品は、製造後、ユーザーに渡るまで、運搬等により数週間~数か月の時間を要することに加え、特にスピニングリールなどの水回りでの用途では多湿な環境に曝される。
【0004】
一般的にポリアミドは、親水性のアミド基を有するため吸湿しやすく、これにより剛性が低下することが知られている。このため、低吸水化を目的として長鎖や芳香環骨格を含む骨格を用いるといった工夫がされている(特許文献1、2)。
【0005】
一方、スポーツ用品には意匠性も重視されるため塗装を施されることがあるが、部品に使用される樹脂の親水性が高いほど、溶剤が表面に馴染みやすくなるため塗装性が良いとされている。このため、吸湿性が低い長鎖骨格のポリアミドは塗装性が悪く、吸湿状態での剛性保持と良好な塗装性の両立が課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第672065号公報
【特許文献2】特開2009-215514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に多湿環境で使用される場合、耐熱性が不要なため、融点が低くてもアミド基濃度が低い長鎖骨格のポリアミドが用いられてきた。また、芳香族骨格を有するポリアミドは芳香族に由来した疎水性により吸湿性が低いことが知られていた。しかし、短鎖骨格を有するポリアミドは長鎖骨格を有するポリアミドに比べて吸湿性が高く、吸湿時の物性はより低くなる傾向にあった。
【0008】
そこで、本発明は、吸湿時の剛性低下抑制と塗装性に優れるポリアミド組成物、及び、ポリアミド組成物を成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、短鎖骨格を有することでアミド基濃度が高く、芳香族骨格を有する高融点ポリアミドに、酸変性エラストマーを少量添加することで吸湿時の剛性低下を抑制できることを見出した。また、アミド基濃度が高く適度に吸湿することで、長鎖骨格ポリアミドの課題であった塗装性が良好となり、吸湿状態での剛性保持と良好な塗装性を両立できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]
ポリアミドと、
酸変性エラストマーと、
を含むポリアミド組成物であって、
前記ポリアミドは、ジカルボン酸単位を含み、
前記ジカルボン酸単位の総モル量に対する芳香族ジカルボン酸単位の含有率が50mol%より多く、
ポリマー単位のC/N比が、6.0より大きく8.0より小さく、
JIS-K7121に準じた示差走査熱量測定において、前記ポリアミド組成物の融解ピーク温度が、310℃以上であり、
前記酸変性エラストマーの量が、前記ポリアミド組成物100質量%に対して、6質量%未満である、ポリアミド組成物。
[2]
前記ポリアミドが、ジアミン単位を含み、当該ジアミン単位の炭素数が4~6である、[1]に記載のポリアミド組成物。
[3]
前記ジアミン単位が、テトラメチレンジアミン単位を含む、[2]に記載のポリアミド組成物。
[4]
前記芳香族ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[5]
前記ジカルボン酸単位の総モル量に対する、前記テレフタル酸単位の含有率が、90~100mol%である[4]に記載のポリアミド組成物。
[6]
充填材をさらに含み、前記充填材が、繊維状充填材である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[7]
充填材をさらに含み、前記充填材が、ガラス繊維または炭素繊維である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[8]
充填材をさらに含み、前記充填材が、炭素繊維である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[9]
前記融解ピーク温度が、325℃以上である、[1]~[8]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド組成物によれば、成形品としたときの吸湿時の剛性低下抑制と塗装性に優れる。本発明の成形品によれば、吸湿時の剛性低下抑制と塗装性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施することができる。
【0012】
本明細書中、ポリアミドとは、主鎖中にアミド結合(-NHCO-)を有する重合体を意味する。
【0013】
本明細書中、半芳香族ポリアミドとは、脂肪族単位と芳香族単位とを有するポリアミドを意味する。脂肪族単位は、脂肪族モノマー由来の単位を指す。芳香族単位は、芳香族モノマー由来の単位を指す。
【0014】
本明細書に記載の材料、成分、化合物、樹脂および溶媒は、別段の記載がない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、90~100mol%は、90mol%以上100mol%以下の範囲を意味する。
【0016】
本実施形態において、ポリアミド組成物の融解ピーク温度は、実施例に記載の測定方法により測定した値とする。
【0017】
ポリアミド組成物
本実施形態のポリアミド組成物は、ポリアミドと、酸変性エラストマーとを含む。これにより、吸湿時の剛性低下抑制、塗装性に優れる成形品を製造できる。
【0018】
以下、本実施形態のポリアミド組成物の各構成成分の詳細について説明する。
【0019】
ポリアミド
本実施形態のポリアミド組成物に含まれるポリアミドは、吸湿時の剛性低下抑制、塗装性の観点から、半芳香族ポリアミドのみからなることが好ましい。
【0020】
半芳香族ポリアミド
半芳香族ポリアミドの構成単位は、以下の(1)と(2)の少なくとも1つの条件を満たすことが好ましい。半芳香族ポリアミドの構成単位は、(1)を満たすことが特に好ましい。
(1)芳香族ジカルボン酸単位及び脂肪族ジカルボン酸単位と脂肪族ジアミン単位とを含有すること。
(2)芳香族ジカルボン酸単位と脂肪族ジアミン単位とを含有すること。
【0021】
芳香族ジカルボン酸単位
芳香族ジカルボン酸単位としては、テレフタル酸単位、イソフタル酸単位が挙げられ、テレフタル酸単位が好ましい。テレフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を有するジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。
【0022】
この置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~10のアリールアルキル基、炭素数7~10のアルキルアリール基、ハロゲン基、炭素数1~6のシリル基、スルホン酸基及びその塩(ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0023】
炭素数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0024】
炭素数6以上10以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数7以上10以下のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数7以上10以下のアルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0027】
ハロゲン基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0028】
炭素数1以上6以下のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0029】
イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0030】
無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
【0031】
好適な実施形態では、ジカルボン酸単位の総モル量に対する、テレフタル酸単位の含有率が、90~100mol%である。
【0032】
脂肪族ジカルボン酸単位
脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数3~20の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。炭素数3~20の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
【0033】
ポリアミド組成物の耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び、剛性等がより優れる傾向にあるので、脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。炭素数6以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、ポリアミド組成物の耐熱性等の観点で、アジピン酸、セバシン酸又はドデカン二酸が好ましい。
【0034】
脂肪族ジアミン単位
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、例えば、炭素数2~20の直鎖状飽和脂肪族ジアミン、又は、炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。炭素数2~20の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンともいう)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(2-メチルオクタメチレンジアミンともいう)、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0035】
脂肪族ジアミンの炭素数は、4~12が好ましく、4~10がより好ましい。脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンの炭素数が4以上であることにより、得られる成形品の耐熱性がより優れる。一方、当該炭素数が12以下であることにより、得られる成形品の結晶性及び離形性がより優れる。一実施形態では、脂肪族ジアミン単位の炭素数は、4~6である。
【0036】
好ましい炭素数4~12の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとして具体的には、例えば、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン等が挙げられる。炭素数4~12の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、又は、2-メチルペンタメチレンジアミンが好ましい。このような脂肪族ジアミン単位を含むことにより、ポリアミド組成物から得られる成形品の剛性等がより優れる。
【0037】
また、半芳香族ポリアミドは、本実施形態のポリアミド組成物の効果を損なわい範囲で、必要に応じて、3価以上の多価脂肪族アミンに由来する単位を更に含んでもよい。3価以上の多価脂肪族アミンとしては、例えば、ビスヘキサメチレントリアミン等が挙げられる。
【0038】
一実施形態では、半芳香族ポリアミドは、ポリアミド4T/6T、ポリアミド4T/6T/66およびポリアミド6T/6Iからなる群より選択される1種以上である。ここで、4は、テトラメチレンジアミン単位を表し、6は、ヘキサメチレンジアミン単位を表し、Tは、テレフタル酸単位を表し、Iは、イソフタル酸単位を表す。
【0039】
半芳香族ポリアミドとしては、機械物性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸単位とジアミン単位とを含有するポリアミドが好ましく、ポリアミド4T/6Tがより好ましい。ポリアミド4T/6Tは、機械物性、耐熱性、成形性及び靭性に優れていることから、自動車用部品に適した材料と考えられている。
【0040】
ポリアミド組成物の融解ピーク温度は、310℃以上である。融解ピーク温度が310℃以上であることによって、耐熱性に優れる傾向にある。ポリアミド組成物の融解ピーク温度は、例えば、310~332℃である。一実施形態では、ポリアミド組成物の融解ピーク温度は、325℃以上である。別の実施形態では、ポリアミド組成物の融解ピーク温度は、315~330℃である。
【0041】
半芳香族ポリアミドの含有量は、ポリアミド組成物中のポリアミドの総質量に対して、例えば50~100質量%とすることができ、例えば55~100質量%とすることができ、例えば57~100質量%とすることができる。
【0042】
ポリマー単位のC/N比は、ポリアミドのモノマー単位に含まれる炭素原子数を窒素原子の数で割ることで求められる。ジアミン、ジカルボン酸からなるポリアミドはジアミンとジカルボン酸が1対1で縮合したものをモノマー単位とする。ポリマー単位のC/Nが、6.0より大きく8.0より小さいことで吸湿率が適切な範囲となる。一実施形態では、ポリマー単位のC/Nは、6.4~7.0である。
【0043】
末端封止剤
本実施形態のポリアミド組成物に含まれるポリアミドの末端は、公知の末端封止剤により末端封止されていてもよい。ポリアミドの末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、ポリアミド組成物から得られる成形品の熱安定性がより優れる傾向にある。このような末端封止剤は、ジカルボン酸とジアミンとから、又は、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種から、ポリアミドを製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
【0044】
末端封止剤としては、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物(無水フタル酸等)、モノイソシアネート、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。末端封止剤としては、モノカルボン酸、又は、モノアミンが好ましい。
【0045】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよい。モノカルボン酸としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。脂環族モノカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。特に、半芳香族ポリアミドの末端は、流動性及び機械的強度の観点から、酢酸によって封止されていることが好ましい。
【0046】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシル基との反応性を有するものであればよい。モノアミンとしては、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。脂肪族モノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。脂環族モノアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
【0047】
末端封止剤により末端封止されたポリアミドを含有するポリアミド組成物は、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び、剛性により優れる傾向にある。
【0048】
ポリアミドの製造方法
本実施形態のポリアミド組成物に含まれるポリアミド(半芳香族ポリアミド)を製造する際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9~1.2が好ましく、0.95~1.10がより好ましく、0.98~1.05がさらに好ましい。
【0049】
ポリアミドの製造方法としては、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含む。
(1)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
(2)ラクタム単位を構成するラクタム、及び、アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
【0050】
また、ポリアミドの製造方法としては、重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程を、更に含むことが好ましい。また、必要に応じて、重合工程及び上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0051】
ポリアミドの具体的な製造方法としては、例えば、以下の第1~第4に例示するように種々の方法が挙げられる。
第1:ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
第2:熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
第3:ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)。
第4:ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
【0052】
ポリアミドの具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、ポリアミド組成物に適した重合条件で製造することが必要となる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14~25kg/cm2(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm2)になるまで30分以上かけながら降圧する。
【0053】
ポリアミドの製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。ポリアミドの製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0054】
以下、ポリアミドの製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に例示する。
【0055】
まず、ポリアミドの原料成分(ジカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、並びに、必要に応じて、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種)を、約40~60質量%含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110~180℃の温度、及び。約0.035~0.6MPa(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、約65~90質量%に濃縮して濃縮溶液を得る。次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が約1.2~2.2MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を約1.2~2.2MPa(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が約220~260℃に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドのペレットを得る。
【0056】
ポリアミドの特性
ポリアミドのポリマー末端
本実施形態のポリアミド組成物に含まれるポリアミドのポリマー末端としては、特に限定されないが、以下の第1~第4に分類し、定義することができる。すなわち、第1:アミノ末端、第2:カルボキシ末端、第3:封止剤による末端、第4:その他の末端である。
第1:アミノ末端は、アミノ基(-NH2基)を有するポリマー末端であり、ジアミン単位に由来する。
第2:カルボキシル末端は、カルボキシ基(-COOH基)を有するポリマー末端であり、ジカルボン酸単位に由来する。
第3:封止剤による末端は、重合時に封止剤を添加した場合に形成される末端である。封止剤としては、上述した末端封止剤が挙げられる。
第4:その他の末端は、上述した第1~第3に分類されないポリマー末端である。その他の末端として具体的には、アミノ末端が脱アンモニア反応して生成した末端、カルボキシル末端から脱炭酸反応して生成した末端等が挙げられる。
【0057】
酸変性エラストマー
酸変性エラストマーは、ポリアミド組成物の疎水性を向上させる働きを有する。本実施形態のポリアミド組成物に含まれる酸変性エラストマーは、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)、エチレンアクリレート共重合体(EEA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのエラストマー、またはスチレン系エラストマー(スチレン・エチレンブチレン・スチレン共重合体:SEBS、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体:SEPSなど)を無水マレイン酸により変性したものである。酸変性エラストマーは、耐熱性の観点から、ポリオレフィン、SEBSまたはSEPSを酸変性したものが特に好ましい。一実施形態では、酸変性エラストマーは、EVA、EEA、PE、PP、SEBSおよびSEPSからなる群より選択されるエラストマーの酸変性体の1種以上である。別の実施形態では、酸変性エラストマーは、EVA、EEA、PE、PP、SEBSおよびSEPSからなる群より選択されるエラストマーの無水マレイン酸変性体の1種以上である。
【0058】
本実施形態では、酸変性エラストマーの量は、ポリアミド組成物100質量%に対して、6質量%未満である。酸変性エラストマーの量は、ポリアミド組成物100質量%に対して、好ましくは2.0質量%以上6.0質量%未満、更にこの好ましくは2.5~5.5質量%、特に好ましくは3.0~5.0質量%である。一実施形態では、酸変性エラストマーの量は、3.0~4.5質量%である。
【0059】
充填材
本実施形態のポリアミド組成物は、ポリアミドと酸変性エラストマーに加えて、充填材をさらに含有してもよい。充填材を含有することにより、靭性及び剛性等の機械物性により優れるポリアミド組成物とすることができる。
【0060】
本実施形態のポリアミド組成物に含まれる充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。この他、例えば、特開2023-035802号に記載の充填材を用いてもよい。充填材としては、ガラス繊維又は炭素繊維がより好ましく、ガラス繊維がさらに好ましい。
【0061】
充填材の数平均繊維径及び重量平均繊維長は、特開2023-035802号に記載の方法を用いて測定することができる。
【0062】
ポリアミド組成物中の充填材の含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、1~80質量%が好ましく、5~70質量%がより好ましく、10~60質量%がさらに好ましく、15~55質量%が特に好ましく、20~50質量%が最も好ましい。充填材の含有量が1質量%以上であることにより、ポリアミド組成物の強度及び剛性等の機械物性がより向上する傾向にある。一方、充填材の含有量が80質量%以下であることにより、より成型性に優れるポリアミド組成物を得ることができる傾向にある。
【0063】
その他添加剤
本実施形態のポリアミド組成物には、本実施形態のポリアミド組成物の効果を損なわない範囲で、ポリアミドに慣用的に用いられるその他添加剤を含んでもよい。その他添加剤としては、例えば、成形性改良剤、劣化抑制剤、造核剤、熱安定剤等が挙げられる。
【0064】
成形性改良剤
成形性改良剤としては、例えば、特開2022-115097号に記載の成形性改良剤が挙げられる。
【0065】
劣化抑制剤
劣化抑制剤としては、例えば、特開2021-050323号に記載の劣化抑制剤が挙げられる。
【0066】
造核剤
造核剤としては、例えば、特開2021-050323号に記載の造核剤が挙げられる。
【0067】
熱安定剤
熱安定剤としては、例えば、特開2023-028935号、特開2021-050323号に記載の熱安定剤が挙げられる。
【0068】
ポリアミド組成物の製造方法
本実施形態のポリアミド組成物の製造方法としては、ポリアミドと、酸変性エラストマーと、、任意成分とを混合する方法であれば、特に限定されない。例えば、特開2023-035802号に記載の方法が挙げられる。本実施形態のポリアミド組成物を製造する際の各成分の配合量は、上述したポリアミド組成物における各成分の含有量と同様である。
【0069】
ポリアミドが半芳香族ポリアミドを含有する場合、溶融混練の温度は、半芳香族ポリアミドの融点より1~100℃程度高い温度が好ましく、半芳香族ポリアミドの融点より10~50℃程度高い温度がより好ましい。
【0070】
混練機での剪断速度は100sec-1以上程度が好ましい。また、混練時の平均滞留時間は0.5~5分間程度が好ましい。
【0071】
溶融混練を行う装置としては、公知の装置であればよく、例えば、特開2023-028935号に記載の方法が挙げられる。
【0072】
成形品
本実施形態の成形品は、ポリアミド組成物を成形してなる。
【0073】
成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。公知の成形方法としては、例えば、特開2022-115097号に記載の方法が挙げられる。
【0074】
用途
本実施形態の成形品は、ポリアミド組成物を成形してなり、Wet時の弾性率保持率、塗装性に優れ、様々な用途に用いることができる。成形品の用途としては、例えば、スポーツ用品等の多湿環境用途、自動車分野、電気及び電子分野、機械及び工業分野、事務機器分野、航空及び宇宙分野において、好適に用いることができる。
【実施例0075】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
本実施例及び比較例に用いたポリアミド組成物の各構成成分について説明する。
【0077】
ポリアミド
ポリアミド4T/6T、後述する方法で合成、表中「4T/6T」と表記
ポリアミド4T/6T/66、後述する方法で合成、表中「4T/6T/66」と表記
ポリアミド6T/6I、後述する方法で合成、表中「6T/6I」と表記
ポリアミド9T/2Me8T(クラレ社製、GenestarTMN1000、表中「9T/2Me8T」と表記
ポリアミド610、後述する方法で合成、表中「610」と表記
【0078】
酸変性エラストマー
酸変性ポリオレフィン(三井化学社製、型番:タフマー(登録商標)MH5020)、表中、「MH5020」と表記
酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、タフテック(登録商標)M1911)、表中、「M1911」と表記
無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)(旭化成社製)(酸素指数:28%、分子量:54000)、表中m化PPE」と表記
【0079】
充填材
炭素繊維(CF)(帝人社製、商品名「HT C413」)、表中、「HT C413」と表記
【0080】
ポリアミドの製造
半芳香族ポリアミドの各製造方法について以下に詳細を説明する。なお、下記製造方法によって、得られた脂肪族ポリアミド、及び、半芳香族ポリアミドは、窒素気流中で乾燥し、水分率を約0.2質量%に調整してから、後述の実施例及び比較例におけるポリアミド組成物の原料として用いた。
【0081】
合成例1:ポリアミド4T/6Tの合成
特表2020-513438号の段落[0052]に記載の方法によって合成した。
【0082】
合成例2:ポリアミド4T/6T/66の合成
特表2009-524711号の段落[0055]に記載の方法によって合成した。
【0083】
合成例2:ポリアミド6T/6Iの合成
特開2018-145292号の段落[0081]に記載の方法によって合成した。
【0084】
合成例3:ポリアミド610の合成
特開2016-030787号の段落[0043]に記載の方法によってポリアミド610を得た。
【0085】
ポリアミド組成物の製造
実施例1
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度:350℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、ポリアミド4T/6Tと酸変性エラストマーMH5020との混合物を供給した。また、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口より充填材を供給した。次いで、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして、ポリアミド組成物のペレットを得た。配合量を表1に示す。各成分の配合量の単位は質量%である。
【0086】
また、得られたポリアミド組成物の水分量を調整したペレットを、射出成形機(PS-40E、日精樹脂株式会社製)を用いて、ISO3167に準拠して、多目的試験片(A型、ダンベル形引張試験片)を成形した。なお、多目的試験片の寸法は、全長≧170mm、タブ部間距離109.3±3.2mm、平行部の長さ80±2mm、肩部の半径24±1mm、端部の幅20±0.2mm、中央の平行部の幅10±0.2mm、厚さ4±0.2mmである。具体的な射出成形時の条件としては、射出及び保圧の時間:5秒、冷却時間:5秒、金型温度:120℃、シリンダー温度:350℃に設定した。
【0087】
上記方法により成形品を製造し、各種物性の測定及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
実施例2~5、比較例1~5
表1に示す組成に変更して、実施例1と同様の方法でポリアミド組成物を製造した。評価結果を表1に示す。実施例4~5と比較例2では、押出機の設定温度を330℃に変更し、比較例3では、押出機の設定温度を250℃に変更した。
【0089】
物性及び評価
まず、実施例及び比較例で得られたポリアミド組成物のペレットを、窒素気流中で乾燥し、ポリアミド組成物中の水分量を500ppm以下にした。次いで、水分量を調整した各ポリアミド組成物のペレットを用いて下記の方法を用いて、各種物性の測定及び各種評価を実施した。
【0090】
[物性1]ポリアミドのC/N比は下記式を用いて求めた。
C/N=モノマー単位中の炭素原子数÷モノマー単位中の窒素原子数
【0091】
[物性2]ポリアミド組成物の融解ピーク温度
JIS-K 7121に準じて、PERKIN-ELMER社製Diamond-DSCを用いて測定した。窒素雰囲気下、ポリアミド組成物約10mgを昇温速度20℃/minでサンプルの融点(Tm)に応じて280℃以上370℃以下まで昇温したとき(1回目の昇温時)に現れる吸熱ピーク(融解ピーク)の最も高温側に現れた融解ピーク温度をTm1(℃)とした。また、ポリアミド組成物の融解ピーク温度Tm2は次のようにして測定した。1回目の昇温後、昇温の最高温度の溶融状態で温度を1分間保った後、降温速度20℃/minで30℃まで降温し、30℃で1分間保持した。その後、昇温速度20℃/minで同様に昇温したとき(2回目の昇温時)に現れる吸熱ピークの最も高温側に現れた吸熱ピーク温度をポリアミド組成物の融解ピーク温度Tm2とした。
【0092】
[評価1](吸湿率:塗装性評価)
試験平板(60mm×60mm×3mm)上記の成型方法に準じて成型し、得られた試験平板をJIS K-7143に準じて調湿し、試験片の重量を測定した。吸湿率は下記式を用いて求めた。
吸湿率(%)=(吸湿時試験片重量-絶乾時試験片重量)÷絶乾時試験片重量×100
【0093】
塗装性は成型品の吸湿率と相関がある。吸湿率が低すぎると成型品表面が塗料によって十分に侵襲されないため塗料が載りにくい。一方、吸湿率が高すぎると成型品表面が侵襲されすぎてしまい表面が荒れて外観が悪化する。本発明の検討においては、塗料の載りやすさと外観性を併せて塗装性としており、吸湿率1.2%に近いほど良好な塗装性を示し、1.2%から離れるほど塗装性が悪化した。
【0094】
[評価2]引張強度保持率
多目的試験片(A型)を、ISO 527に準拠しつつ引張速度5mm/minで上述した方法と同様の方法により引張試験を行い、吸湿前の各引張強度を測定した。また、多目的試験片(A型)を80℃の温水に浸漬し、重量が一定(飽和吸水)になったものを上記と同様に引張試験を行い吸湿状態での各引張強度を測定した。吸湿時引張強度保持率は下記式を用いて求めた。
飽和吸水時の引張強度保持率(%)=(飽和吸水時引張強度÷絶乾時引張強度)×100
【0095】
【0096】
表1から、ポリアミドと、酸変性エラストマーを含む本実施形態のポリアミド組成物では、適度な吸水と高弾性率保持率を両立できる成形品が得られた。
【0097】
また、ポリアミド4T/6T、4T/6T/66または6T/6Iを含有する実施例1~3のポリアミド組成物では、吸湿率、弾性率保持率が特に良好であった。また、実施例2では、酸変性ポリオレフィンの量を増やしても良好な結果が得られた。
【0098】
一方、酸変性エラストマーを含まない比較例1のポリアミド組成物では、吸湿率、弾性率保持率を両立できる成形品が得られなかった。また、(B)酸変性エラストマーを6部添加したものでは弾性率保持率が低下した。
【0099】
実施例1では、吸湿率が特定の範囲であることにより適量で成型品を塗装することができ、平滑な表面外観を有する成型品が得られた。一方、比較例5では吸湿率が特定の範囲より低いため、塗装に際し実施例1よりも大量の塗料を必要とした。さらに成型品表面に塗料のムラができた。
【0100】
以上のことから、本実施形態のポリアミド組成物によれば、良好な塗装性、Wet時に高い弾性率保持できる成形品が得られることが明らかとなった。
本実施形態のポリアミド組成物によれば、成形品としたときの良好な塗装性、Wet時の弾性率保持率に優れるポリアミド組成物を提供することができる。本実施形態の成形品は、そのため、本実施形態の成形品は、スポーツ用品等の多湿環境用途に用いられる。