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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168253
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】研削制御装置及び研削方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 47/20 20060101AFI20241128BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20241128BHJP
   B24B 7/02 20060101ALI20241128BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20241128BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B24B47/20
B24B49/10
B24B7/02
B24D5/00 P
B23Q15/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084759
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】市原 浩一
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3C063
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB73
3C034BB92
3C034CA13
3C034CA26
3C034CB01
3C043BA02
3C043BA18
3C043CC03
3C043DD01
3C043DD03
3C043DD05
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA02
3C063BA24
(57)【要約】
【課題】研削において発生する凸状の切り残しを小さくしたり、被加工面に形成された複数のピットをさらに深くしたりすることが可能な研削制御装置を提供する。
【解決手段】外周面に複数のブレードが形成された砥石を回転させる回転駆動装置、加工対象物を保持する可動テーブル及び砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させる研削方向駆動装置を、研削制御装置が制御することによって加工対象物の研削を行う。研削制御装置は、砥石の回転角と可動テーブルの研削方向の位置とを同期させる制御を行う機能を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に複数のブレードが形成された砥石を回転させる回転駆動装置、加工対象物を保持する可動テーブル及び前記砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させる研削方向駆動装置を制御して研削を行う研削制御装置であって、
前記砥石の回転角と前記可動テーブルの研削方向の位置とを同期させる制御を行う機能を有する研削制御装置。
【請求項2】
前記可動テーブル及び前記砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させて研削を行った後、前記可動テーブル及び前記砥石の他方に対する一方の移動方向を反転させる反転動作を行って次の研削を行う際に、前記砥石の回転速度を一定に維持し、前記反転動作の時間の長さを調整することにより、前記砥石の回転角と前記可動テーブルの研削方向の位置とを同期させる請求項1に記載の研削制御装置。
【請求項3】
前記可動テーブルが第1位置を通過し、移動方向が反転して前記第1位置に戻るまでの前記砥石の回転角の位相ずれ量の目標値が設定されると、前記目標値の位相ずれ量が生じるように前記反転動作の時間の長さを調整する請求項2に記載の研削制御装置。
【請求項4】
外周面に複数のブレードが形成された砥石を回転させながら、加工対象物及び前記砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させて研削を行う研削方法であって、
前記砥石の回転角と前記加工対象物の研削方向の位置とを同期させて研削を行う研削方法。
【請求項5】
前記加工対象物及び前記砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させて研削を行った後、前記加工対象物及び前記砥石の他方に対する一方の移動方向を反転させる反転動作を行って次の研削を行う際に、前記砥石の回転速度を一定に維持し、前記反転動作の時間の長さを調整することにより、前記砥石の回転角と前記加工対象物の研削方向の位置とを同期させる請求項4に記載の研削方法。
【請求項6】
前記加工対象物が第1位置を通過し、移動方向が反転して前記第1位置に戻るまでの前記砥石の回転角の位相ずれ量の目標値を設定し、
前記目標値の位相ずれ量が生じるように前記反転動作の時間の長さを調整する請求項5に記載の研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削制御装置及び研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状の砥石の外周面をドレッシングすることにより、複数のブレードが形成される。ドレッシングによって複数のブレードが形成された砥石を回転させながらワークの研削を行う技術が公知である(非特許文献1)。ブレードの形状がワークに転写され、被研削面にテクスチャパターンが刻まれる。このテクスチャパターンは、面粗さ、うねり、ビビリマーク等の原因になる。非特許文献1に、多条ドレッシングを行って作製された砥石を用いることにより、うねりの狭ピッチ化、振幅低減効果が確認され、ビビリ対策に有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】市原浩一、「ドレス条痕の砥石真円度への影響および多条ドレス原理と研削効果」、砥粒加工学会誌、Vol.63 No.7、pp.26-32(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研削時に砥石のブレードに接触しなかった領域に、凸状の切り残しが生じる。被研削面の平坦性を高めるために、凸状の切り残しを除去することが望ましい。また、ブレードに削られることによって形成された複数のピットを摺動面の油だまりとして利用する場合には、ピットをさらに深くしたい場合もある。
【0005】
本発明の目的は、研削において発生する凸状の切り残しを小さくしたり、被加工面に形成された複数のピットをさらに深くしたりすることが可能な研削制御装置及び研削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
外周面に複数のブレードが形成された砥石を回転させる回転駆動装置、加工対象物を保持する可動テーブル及び前記砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させる研削方向駆動装置を制御して研削を行う研削制御装置であって、
前記砥石の回転角と前記可動テーブルの研削方向の位置とを同期させる制御を行う機能を有する研削制御装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
外周面に複数のブレードが形成された砥石を回転させながら、加工対象物及び前記砥石の一方を他方に対して研削方向に移動させて研削を行う研削方法であって、
前記砥石の回転角と前記加工対象物の研削方向の位置とを同期させて研削を行う研削方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
砥石の回転角と可動テーブルの研削方向の位置とを同期させて追加の研削を行うことにより、1回の研削で残った切り残し部を小さくしたり、1回の研削で形成されたピットを深くしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施例による研削制御装置を搭載した平面研削装置の概略斜視図である。
図2図2Aは、砥石及びドレッサの概略斜視図であり、図2Bは、砥石の外周面近傍及びドレッサの断面図である。
図3図3Aは、ドレッシングされた砥石の外周面の展開図であり、図3Bは、図3Aの一点鎖線3B-3Bにおける砥石の断面図である。
図4-1】図4A図4Dは、可動テーブル及びワークの移動方向を反転させるときの制御を説明するための可動テーブル、ワーク、及び砥石の位置関係を示す図である。
図4-2】図4E及び図4Fは、可動テーブル及びワークの移動方向を反転させるときの制御を説明するための可動テーブル、ワーク、及び砥石の位置関係を示す図である。
図5図5は、可動テーブル及びワークの研削方向(x方向)の速度の時間変化を示すグラフである。
図6図6は、研削制御装置のブロック図である。
図7図7は、研削制御装置(図1)が実行する手順を示すフローチャートである。
図8図8は、ステップS1の手順を終了した後のワークの被研削面に形成されている凹凸パターンを示す図である。
図9図9は、ステップS2、S3、S4の手順において、砥石のブレードが研削する領域と、ステップS1で形成されたピットとの位置関係を示す図である。
図10図10は、ステップS4の手順を終了した後のワークの被研削面に形成されている凹凸パターンを示す図である。
図11図11は、他の実施例による研削制御装置が実行する手順を示すフローチャートである。
図12図12Aは、図11に示した実施例による研削制御装置で研削されたワークの被研削面の凹凸パターンを示す図であり、図12B及び図12Cは、それぞれステップS1の後及びステップS10の後の、図12Aの一点鎖線12B-12Bにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図10を参照して、一実施例による研削制御装置及び研削方法について説明する。
図1は、本実施例による研削制御装置20を搭載した平面研削装置の概略斜視図である。基台50に、テーブル案内機構51を介して可動テーブル52が水平面内の一方向に往復移動可能に支持されている。可動テーブル52の移動方向をx方向とし、鉛直上方をz軸の正の向きとするxyz直交座標系を定義する。可動テーブル52の上に加工対象物であるワーク60が支持される。
【0011】
砥石ヘッド53が、可動テーブル52の上方に支持されている。砥石ヘッド53は、昇降可能に、かつ水平面内で可動テーブル52の移動方向と直交する方向(x方向)に移動可能である。例えば、トラバース方向案内レール59に沿ってx方向に移動可能にサドルが支持されており、サドルに対して砥石ヘッド53が昇降可能に支持されている。
【0012】
砥石ヘッド53の下端部に砥石54が取り付けられている。砥石54は円柱状の形状を有し、その中心軸がy軸方向と平行である。砥石54がワーク60に接触する程度まで砥石ヘッド53を下降させ、砥石54を回転させながらワーク60を研削方向(x方向)に移動させることにより、ワーク60の研削が行われる。砥石54をワーク60に接触させてワーク60の一端から他端までx方向に移動させたときに研削される領域を「パス」という。砥石ヘッド53をトラバース方向(y方向)にずらす手順と、1つのパスを研削する手順とを繰り返すことにより、ワーク60の上面(被加工面)の全域を研削することができる。
【0013】
回転駆動装置10が、砥石54を回転させる。トラバース方向駆動装置11が、砥石54をy方向に移動(トラバース)させる。研削方向駆動装置12が、可動テーブル52をx方向に移動させる。昇降駆動装置13が、砥石ヘッド53を昇降させる。研削制御装置20が、回転駆動装置10、トラバース方向駆動装置11、研削方向駆動装置12、昇降駆動装置13を制御する。砥石54の回転方向の現在位置を示す情報、及び可動テーブル52の研削方向(x方向)の現在位置を示す情報が研削制御装置20に入力される。一例として、砥石54の回転角はロータリエンコーダで検出され、可動テーブル52の研削方向の位置はリニアエンコーダで検出される。
【0014】
砥石54は、研削加工を行う前にドレッシング処理される。つぎに、図2A及び図2Bを参照して、砥石54のドレッシング処理について説明する。
【0015】
図2Aは、砥石54及びドレッサ70の概略斜視図であり、図2Bは、砥石54の外周面近傍及びドレッサ70の断面図である。円柱状の砥石54の外周面にドレッサ70の先端を接触させ、砥石54を回転させるとともに、ドレッサ70をトラバース方向(砥石54の中心軸と平行な方向)に移動させることにより、砥石54の外周面にドレス溝55を形成する。砥石54の回転軸はトラバース方向(y方向)に平行である。砥石54の外周面の周方向をc方向と標記する。ドレッサ70の先端の頂角をαと標記し、砥石54の外周面からのドレッサ70の切込量をZcと標記し、ドレス溝55の回転軸方向のピッチ(ドレスピッチ)をPと標記する。
【0016】
往復ドレッシングを行うと、砥石54の外周面に複数のブレード56が形成される。ブレード56の高さは、切込量Zc、ドレスピッチP、ドレッサ70の先端の頂角α等によって変化する。
【0017】
以下、通常のドレッシングの手順について説明する。砥石54を回転させながら、ドレッサ70を砥石54の幅方向(回転軸方向)の一端から他端まで移動させる。砥石54の1回転あたりにドレッサ70がy方向に移動する距離(ドレスリード)をLdと標記する。このドレスリードLdを、ドレスピッチPに等しくする。ドレッサ70が砥石54の幅方向の端部に達すると、ドレッサ70の移動方向を反転させ、反対側の端部まで移動させる。このように、ドレッサ70の移動方向を反転させて行うドレッシングは、往復ドレッシングと呼ばれる。
【0018】
次に、多条ドレッシングを行う手順について説明する。条数をjと標記する。j条のドレッシングを行う場合は、ドレスリードLdをドレスピッチPのj倍にする。これにより、ピッチがP×jのドレス溝が形成される。x方向に並ぶドレス溝55のピッチ(位相差)がドレスピッチPになるようにドレッサ70を位置決めしてj回の往復ドレッシングを行う。これにより、j条のドレス溝55が形成される。
【0019】
図3Aは、ドレッシングされた砥石54の外周面の展開図である。図3Aの横方向がy方向(回転軸方向)に相当し、縦方向が周方向(c方向)に相当する。図3Aでは、y方向及びc方向に関して、砥石54の外周面の一部分のみを表している。図3Aでは、多条ドレッシングの例として4条ドレッシングを行った場合の外周面を示している。
【0020】
往復ドレッシングを行うことにより、yc面内で斜め方向に延び、相互に交差する複数のドレス溝55が形成される。ドレス溝55の間にブレード56が形成される。複数のブレード56は、第1系列の複数のブレード56Aと、第2系列の複数のブレード56Bとに区分することができる。図3Aにおいて、第1系列のブレード56Aに相対的に濃い右上がりのハッチングを付し、第2系列のブレード56Bに相対的に淡い右下がりのハッチングを付している。ブレード56を取り囲むように、斜面57が現れている。
【0021】
第1系列の複数のブレード56Aは、y方向にドレスピッチPで配列し、c方向にピッチPcで配列している。ピッチPcは、砥石54の周長の1/j倍である。第2系列の複数のブレード56Bも同様に、y方向にドレスピッチPで配列し、c方向にピッチPcで配列している。第1系列のブレード56Aの配列と第2系列のブレード56Bの配列とには、x方向にP/2の位相ずれが生じ、c方向にPc/2の位相ずれが生じている。
【0022】
図3Bは、図3Aの一点鎖線3B-3Bにおける砥石54の断面図である。周方向に第1系列の4個のブレード56Aが等間隔に配列している。図3Bの断面には現れていないが、回転軸方向(図3Bにおいて紙面に垂直な方向)の他の位置に第2系列の4個のブレード56Bが配置されている。第1系列の4個のブレード56Aの位置と、第2系列の4個のブレード56Bの位置とは、相互に回転方向に45°だけずれている。
【0023】
本実施例による研削制御装置20は、砥石54に対してワーク60を研削方向に1回移動させて1つのパスの研削を行った後、ワーク60の移動方向を反転させて追加の研削を行う。次に、図4A図4Fを参照して、可動テーブル52及びワーク60の移動方向を反転させる制御について説明する。
【0024】
図4A及び図4Bは、可動テーブル52、ワーク60、及び砥石54のx方向の位置関係を示す図である。可動テーブル52がx方向に移動する。砥石54の回転中心のx座標をx軸の原点Oと定義する。可動テーブル52のx軸上の位置を、可動テーブル52に固定された基準点52Gxのx座標で表すこととする。ワーク60のx軸の正の側の端部(図4Aにおいて左端)を先端60Feと称し、x軸の負の側の端部(図4Aにおいて右端)を後端60Reと称することとする。図4Aに示すように、ワーク60の先端60Feのx軸上の位置がx軸の原点Oに一致するときの基準点52Gxのx座標をXfeと標記する。図4Bに示すように、ワーク60の後端60Reのx軸上の位置がx軸の原点Oに一致するときの基準点52Gxのx座標をXreと標記する。
【0025】
図4Cは、砥石54の回転角の定義を説明するための図である。砥石54の任意の半径ベクトルをrと標記する。砥石54の回転軸に対して垂直な面をx’y’面とする直交座標系を定義する。一例として、x軸(図4A図4B)の負の向きをx’軸の正の向きと定義し、z軸(図1)の正の向きをy’軸の正の向きと定義する。x’軸から半径ベクトルrまでの反時計回り(x’軸の正の向きからy’軸の正の向きに向かう回転方向)の回転角を、砥石54の回転角θと定義する。
【0026】
図4Dは、ワーク60の後端60Reが、x軸の正の向きに向ってx軸の原点Oを通過するときの砥石54の回転角θを説明するための図である。可動テーブル52の基準点52Gxのx座標はXreである。このときの砥石54の回転角をθと標記する。図4Dでは、回転角θが(3/2)πである例を示している。なお、規準となる半径ベクトルrの定義によって、回転角θはその他の値を取り得る。
【0027】
図4Eは、図4Dの状態から可動テーブル52がx軸の正の向きに前進し、その後、前進から後退に転じたときの可動テーブル52、ワーク60、及び砥石54の回転角θの位置関係を示す図である。このときの砥石54の回転角をθと標記する。回転角θは、回転角θより大きい。一例として、回転角θは、(3/2)πより大きく、2π以下である。
【0028】
図4Fは、図4Eの状態から可動テーブル52が後退を続け、ワーク60の後端60Reのx方向の位置がx軸の原点Oまで戻った状態を示す図である。可動テーブル52の基準点52Gxのx座標はXreである。このときの砥石54の回転角をθと標記する。可動テーブル52のx方向の位置と、砥石54の回転角θとの同期制御がなされていない場合は、図4Dの状態の砥石54の回転角θと、図4Fの状態の砥石54の回転角θとは、一般的にθ-θの位相差が生じ、この位相差を特定の値に制御することはできない。
【0029】
図5は、可動テーブル52及びワーク60の研削方向(x方向)の速度の時間変化及びx方向の位置変化を示すグラフである。横軸は時間を表し、左縦軸は可動テーブル52及びワーク60の研削方向の速度vを表し、右縦軸はx座標を表す。図5の太い実線及び太い破線は、それぞれ同期制御を行うとき、及び行わないときの速度vの変化を示す。図5の細い実線及び細い破線は、それぞれ同期制御を行うとき、及び行わないときの位置xの変化を示す。まず、同期制御を行わないときの可動テーブル52の移動の制御について説明する。
【0030】
ワーク60をx軸の正の向きに加速し、速度が一定値vに達した後、時刻tにおいて、可動テーブル52の基準点52Rのx座標がXfeに達し、ワーク60の先端60Feが砥石54に接触する。さらに、ワーク60をx軸の正の向きに等速で移動させると、時刻tにおいて可動テーブル52の基準点52Reのx座標がXreに達し、ワーク60の後端60Reのx方向の位置が、x軸の原点Oに一致する。このときの砥石54の回転角θは、例えば、図4Dに示したように(3/2)πである。
【0031】
その後、x軸の正の向きの速度を減速させ、さらに、移動方向を反転させてx軸の負の向きに加速する。時刻tにおいてワーク60の後端60Reがx軸の原点Oに一致する。ワーク60の後端60Reが砥石54から離れて(時刻t)、ワーク60の移動方向が反転し、ワーク60の後端60Reが再び砥石54に接触するまでの時間を、反転時間Treと標記する。反転時間Treは、例えば、研削方向駆動装置12の駆動力、可動テーブル52の慣性等から、最適な時間に設定される。
【0032】
反転時間Treの間に、時刻tの時点から砥石54が回転を継続し、半径ベクトルrが時刻tのときの位置からさらに回転している。砥石54の回転周期をTと標記すると、反転時間Treの間に砥石54が回転する回転数fは、以下の式で表される。
=Tre/T・・・(1)
【0033】
砥石54の回転数fの小数点以下の値をMOD(f,1)と標記すると、時刻tの状態を基準としたときの時刻tにおける回転角θのずれ量(位相のずれ量)Δθ[rad]は、以下の式で表される。
Δθ=2π×MOD(f,1)・・・(2)
【0034】
ワーク60の研削方向の位置と、砥石54の回転角とが同期されていないため、ワーク60の後端60Reのx方向の位置とx軸の原点Oが一致した時刻tにおいて砥石54の回転角θは不定である。すなわち、位相のずれ量Δθは、不定であり、位相のずれ量Δθを特定の値に一致させることはできない。
【0035】
次に、本実施例による可動テーブル52の移動の制御について説明する。可動テーブル52の減速開始時点を、破線で示した同期制御無しのときと比べて遅延時間Tだけ遅らせる。このとき、ワーク60の後端60Reが砥石54から離れた後、ワーク60の移動方向が反転し、ワーク60の後端60Reが砥石54に再度接する時刻tまでの経過時間は、反転時間Treよりも遅延時間Tの2倍の長さだけ長くなる。時刻tにおいて、可動テーブル52及びワーク60のx軸の負の向きへの移動速度は一定速度-vに達している。
【0036】
本実施例による研削制御装置20(図1)は、遅延時間Tを調整することにより、砥石54の位相ずれ量Δθ=θ-θ図4F図4D)を制御することができる。すなわち、本実施例による研削制御装置20は、ワーク60の研削方向の位置xと、砥石54の回転角θとの同期制御を行う。
【0037】
例えば、遅延時間Tを調整することにより、位相ずれ量Δθをゼロにすることができる。nを自然数として、遅延時間Tが以下の式を満たすとき、位相ずれ量Δθがゼロになる。
=T×(n-MOD(f,1))/2・・・(3)
例えば、図5の時刻tにおける砥石54の回転角、及び時刻tにおける砥石54の回転角をともに(3/2)πにすることができる。
【0038】
また、位相ずれ量Δθを目標値Δθtg[rad]にしたい場合は、遅延時間Tを以下の式を満たすように設定すればよい。
=T×(Δθtg/(2π)-MOD(f,1)+n)/2・・・(4)
【0039】
ワーク60がx軸の負の向きに一定速度-vで移動すると、時刻tにおいて、ワーク60の先端60Feのx方向の位置が原点Oに一致する。その後、時刻tからtまでの制御と同様に、ワーク60の移動方向をx軸の負の向きから正の向きに反転させ、研削を継続する。ワーク60の移動方向をx軸の負の向きから正の向きに反転させるときの反転時間をTfeと標記する。このときも、反転時間Tfeに遅延時間Tを付加することにより、ワーク60の先端60Feのx方向の位置が原点Oに戻った時の砥石54の回転角の位相ずれ量Δθを目標とする値に設定することができる。
【0040】
図6は、研削制御装置20のブロック図である。可動テーブル52の基準点52Rが位置Xfe図4A)に達すると、テーブル前端位置検出器21が前端位置検出パルスPfeを出力する。すなわち、ワーク60の先端60Feのx座標とx軸の原点O(砥石54の回転中心のx座標)とが一致すると、テーブル前端位置検出器21が前端位置検出パルスPfeを出力する。同様に、可動テーブル52の基準点52Rが位置Xre図4B)に達すると、テーブル後端位置検出器22が後端位置検出パルスPreを出力する。すなわち、ワーク60の後端60Reのx座標とx軸の原点Oとが一致すると、テーブル後端位置検出器22が後端位置検出パルスPreを出力する。
【0041】
反転トリガ発生器23が、前端位置検出パルスPfeまたは後端位置検出パルスPreを受信すると、反転開始指令Cを出力する。第1タイマー24が、同期制御を行わないときの後端位置検出パルスPreの発生(時刻t)から、次の後端位置検出パルスPreの発生(時刻t)までの後端側の反転時間Tre図5)を測定する。同様に、第1タイマー24は、同期制御を行わないときの前端位置検出パルスPrfの発生から、次の前端位置検出パルスPfeの発生までの前端側の反転時間Tfe図5)を測定する。
【0042】
第1タイマー24は、同期制御を行わないで可動テーブル52を駆動しているときに、常時反転時間Tre、Tfeを測定し、測定結果を蓄積する。例えば、蓄積された複数の測定値の平均値が、反転時間Tre、Tfeとして出力される。
【0043】
砥石54(図4B)の基準となる半径ベクトルrの回転角θ(図4C)がゼロになると、砥石軸原点検出器25が原点パルスPを出力する。第2タイマー26が、原点パルスPの発生間隔から、砥石54の回転周期Tを算出する。第2タイマー26は、研削装置を駆動しているときに、回転周期Tを常時測定し、測定結果を蓄積する。例えば、蓄積された複数の測定値の平均値が、回転周期Tとして出力される。
【0044】
位相設定器27が、位相ずれ量Δθの目標値Δθtgを出力する。位相調整器28が、反転時間Tfe、Tre、砥石54の回転周期T、及び位相ずれ量Δθの目標値Δθtgに基づいて、遅延時間Tを計算する。遅延時間Tは、式(1)及び式(4)を用いて計算することができる。
【0045】
同期制御モードフラグ30に、同期制御を行うか否かの情報が設定される。例えば、同期制御モードフラグ30には、同期制御を行うことを表す「オン」と、同期制御を行わないことを表す「オフ」とを2値のいずれかが設定される。
【0046】
同期制御モードフラグ30の設定値が「オフ」のときに反転トリガ発生器23から反転開始指令Cがモーションジェネレータ29に入力されると、モーションジェネレータ29は、図5において破線で示した速度変化になるように、研削方向駆動装置12に速度指令Cを与える。研削方向駆動装置12は、与えられた速度指令Cに基づいて、可動テーブル52(図1)を移動させる。
【0047】
同期制御モードフラグ30の設定値が「オン」のときに反転トリガ発生器23から反転開始指令Cがモーションジェネレータ29に入力されると、モーションジェネレータ29は、速度変化パターンを、位相調整器28から与えられる遅延時間Tだけ遅らせて、図5において実線で示した速度変化になるように、研削方向駆動装置12に速度指令Cを与える。研削方向駆動装置12は、与えられた速度指令Cに基づいて、可動テーブル52(図1)を移動させる。
【0048】
図7は、研削制御装置20(図1)が実行する手順を示すフローチャートである。
【0049】
まず、研削制御装置20が、研削方向駆動装置12、回転駆動装置10、昇降駆動装置13を制御して、ワーク60への砥石54の切込深さを所定値に設定し、砥石54を回転させた状態で、ワーク60に対して砥石54を研削方向に1回移動させることにより第1研削を実行する(ステップS1)。
【0050】
図8は、ステップS1の手順を終了した後のワーク60の被研削面に形成されている凹凸パターンを示す図である。砥石54のブレード56(図2B図3A図3B)によって削られた複数のピット61が、ワーク60の被研削面に形成される。複数のピット61の間に、凸状の切り残し部62が残留する。図8において、切り残し部62にハッチングを付している。ピット61を囲むように斜面63が現れる。
【0051】
第1系列のブレード56A(図2B図3A図3B)によって削られた複数のピット61A(以下、第1系列のピット61Aという。)がx方向及びy方向に行列状に配置され、第2系列のブレード56B(図2B図3A図3B)によって削られた複数のピット61B(以下、第2系列のピット61Bという。)も、x方向及びy方向に行列状に配置される。
【0052】
第1系列のピット61Aのy方向のピッチは、ドレスピッチP図2B図3A)に等しい。第2系列のピット61Bのx方向のピッチPは、砥石54が1/4回転する間にワーク60がx方向に移動する距離に等しい。第2系列のピット61Bは、第1系列のピット61Aに対してx方向及びy方向に半ピッチ分ずれている。
【0053】
ステップS1(図7)の後、ワーク60の移動方向を反転させ、位相ずれ量Δθの目標値Δθtg図6)を(1/4)πに設定し、1回目の追加の研削を行う(ステップS2)。ステップS2の後、ワーク60の移動方向を再反転させ、位相ずれ量Δθの目標値Δθtg図6)を(1/2)πに設定し、2回目の追加の研削を行う(ステップS3)。ステップS3の後、ワーク60の移動方向を再反転させ、位相ずれ量Δθの目標値Δθtg図6)を(3/4)πに設定し、3回目の追加の研削を行う(ステップS4)。
【0054】
ワーク60の被研削面の全域の加工が完了したら、研削加工を終了する(ステップS5)。未加工の領域が残っている場合は、砥石54を未加工の領域までy方向に移動させ、ステップS1からS4までの手順を繰り返す(ステップS5、S6)。
【0055】
図9は、ステップS2、S3、S4の手順において、砥石54のブレード56が研削する領域と、ステップS1で形成されたピット61との位置関係を示す図である。ステップS2、S3、S4において第1系列のブレード56Aによって削られる領域61A1、61A2、61A3、及び第2系列のブレード56Bによって削られる領域61B1、61B2、61B3を破線で示す。第1系列のピット61A、第1系列のブレード56Aによって削られる領域61A1、61A2、61A3が、x方向にP/4のピッチで並ぶ。第2系列のピット61B、第2系列のブレード56Bによって削られる領域61B1、61B2、61B3も、x方向にP/4のピッチで並ぶ。
【0056】
図10は、ステップS4の手順を終了した後のワーク60の被研削面に形成されている凹凸パターンを示す図である。ステップS1~S4で形成されるピット61がx方向に連続することにより、x方向に長い帯状のピット61が形成される。帯状のピット61の間に、切り残し部62が残る。図10において、切り残し部62にハッチングを付している。ピット61と切り残し部62との境界に斜面63が現れている。
【0057】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、ワーク60の研削方向の位置と、砥石54の回転方向との位置とを同期させることにより、1回の研削で形成されたピット61(図9)に対して、x方向の相対位置を制御して追加の研削を行うことができる。これにより、1回目の研削で残った切り残し部62(図8)の少なくとも一部分を、追加の研削で効率よく取り除くことができる。
【0058】
次に、上記実施例の変形例による研削制御装置について説明する。
上記実施例では、4条の多条ドレッシングを行った砥石54(図3A図3B)を用いたが、ドレッシングの条数は、4条以外でもよい。j条ドレッシングの砥石54を用いる場合は、ステップS2~S4(図7)において追加の研削を行う際に、位相ずれ量Δθの目標値Δθtgを、π/jの整数倍にするとよい。
【0059】
また、上記実施例では、研削方向に研削を行う際に、ワーク60を研削方向に移動させたが、砥石54を研削方向に移動させてもよい。すなわち、ワーク60と砥石54との一方を他方に対して移動させればよい。
【0060】
上記実施例では、可動テーブル52の位置と砥石54の回転角との同期制御を行うにあたり、砥石54の回転速度を一定にし、可動テーブル52の反転時間に遅延時間を付加しているが、可動テーブル52の反転時間を一定にし、砥石54の回転速度を制御してもよい。
【0061】
次に、図11図12Cを参照して、他の実施例による研削制御装置及び研削方法について説明する。以下、図1図10を参照して説明した実施例による研削制御装置及び研削方法と共通の構成については説明を省略する。
【0062】
図11は、本実施例による研削制御装置が実行する手順を示すフローチャートである。まず、図7に示した実施例と同様に、第1研削を実行する(ステップS1)。図7に示した実施例では、位相ずれ量Δθの目標値Δθtgを、(1/4)π等に設定して追加の研削を行うが、本実施例では、位相ずれ量Δθの目標値Δθtgをゼロに設定して追加の研削を行う(ステップS10)。このとき、ワーク60への砥石54の切込量を増加させる。ステップS5、S6の手順は、図7に示した実施例の場合と同様である。
【0063】
図12Aは、本実施例による研削制御装置20で研削されたワーク60の被研削面の凹凸パターンを示す図である。図12B及び図12Cは、それぞれステップS1の後及びステップS10の後の、図12Aの一点鎖線12B-12Bにおける断面図である。
【0064】
図12Aに示すように、砥石54のブレード56によって形成された複数のピット61が被研削面に分布している。追加の研削(ステップS10)を行うときの位相ずれ量Δθの目標値Δθtgがゼロに設定されているため、第1研削(ステップS1)及び追加の研削(ステップS10)で、ブレード56によって削られる領域はほぼ一致する。図12B及び図12Cに示すように、追加の研削(ステップS10)を行うと、ピット61が深くなる。
【0065】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例のように、追加の研削を行うときの位相ずれ量Δθの目標値Δθtgをゼロに設定し、砥石54の切込量を増大させると、より深いピット61を形成することができる。ピット61は、例えば摺動面に設けられる油だまりとして利用することができる。このように、本実施例による研削技術は、従来のキサゲ加工の代替技術として利用することができる。
【0066】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0067】
10 回転駆動装置
11 トラバース方向駆動装置
12 研削方向駆動装置
13 昇降駆動装置
20 研削制御装置
21 テーブル前端位置検出器
22 テーブル後端位置検出器
23 反転トリガ発生器
24 第1タイマー
25 砥石軸原点検出器
26 第2タイマー
27 位相設定器
28 位相調整器
29 モーションジェネレータ
30 同期制御モードフラグ
50 基台
51 テーブル案内機構
52 可動テーブル
53 砥石ヘッド
54 砥石
55 ドレス溝
56 ブレード
56A 第1系列のブレード
56B 第2系列のブレード
57 斜面
59 トラバース方向案内レール
60 ワーク
61 ピット
61A 第1系列のブレードで形成されたピット
61A1、61A2、61A3 第1系列のブレードで研削される領域
61B 第2系列のブレードで形成されたピット
61B1、61B2、61B3 第2系列のブレードで研削される領域
62 切残しパターン
63 斜面
70 ドレッサ
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2024-05-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
砥石ヘッド53が、可動テーブル52の上方に支持されている。砥石ヘッド53は、昇降可能に、かつ水平面内で可動テーブル52の移動方向と直交する方向(方向)に移動可能である。例えば、トラバース方向案内レール59に沿って方向に移動可能にサドルが支持されており、サドルに対して砥石ヘッド53が昇降可能に支持されている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
次に、多条ドレッシングを行う手順について説明する。条数をjと標記する。j条のドレッシングを行う場合は、ドレスリードLdをドレスピッチPのj倍にする。これにより、ピッチがP×jのドレス溝が形成される。方向に並ぶドレス溝55のピッチ(位相差)がドレスピッチPになるようにドレッサ70を位置決めしてj回の往復ドレッシングを行う。これにより、j条のドレス溝55が形成される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
第1系列の複数のブレード56Aは、y方向にドレスピッチPで配列し、c方向にピッチPcで配列している。ピッチPcは、砥石54の周長の1/j倍である。第2系列の複数のブレード56Bも同様に、y方向にドレスピッチPで配列し、c方向にピッチPcで配列している。第1系列のブレード56Aの配列と第2系列のブレード56Bの配列とには、方向にP/2の位相ずれが生じ、c方向にPc/2の位相ずれが生じている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
同期制御モードフラグ30に、同期制御を行うか否かの情報が設定される。例えば、同期制御モードフラグ30には、同期制御を行うことを表す「オン」と、同期制御を行わないことを表す「オフ」と2値のいずれかが設定される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
まず、研削制御装置20が、研削方向駆動装置12、回転駆動装置10、昇降駆動装置13を制御して、ワーク60への砥石54の切込深さを所定値に設定し、砥石54を回転させた状態で、砥石54に対してワーク60を研削方向に1回移動させることにより第1研削を実行する(ステップS1)。