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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168260
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20241128BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20241128BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20241128BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20241128BHJP
   C08G 18/78 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A63B37/00 212
C08G18/44
C08G18/48
C08G18/79 010
C08G18/78 031
C08G18/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084769
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 雅之
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡明
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA03
4J034BA07
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DC50
4J034DF02
4J034DG06
4J034HA01
4J034HA08
4J034HA09
4J034HB07
4J034HB08
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC35
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KD02
4J034QB16
4J034QC03
4J034QC07
4J034QD06
4J034RA03
(57)【要約】
【課題】アプローチショットのスピン性能に優れる新規なゴルフボールを提供する。
【解決手段】本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜の少なくも一層が、樹脂成分としてポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンは、ポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポイソシアネート組成物とを反応させてなるものであり、前記ポリオール組成物は、ポリオール成分として、ポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記塗膜の少なくも一層が、樹脂成分としてポリウレタンを含有し、
前記ポリウレタンは、ポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポイソシアネート組成物とを反応させてなるものであり、前記ポリオール組成物は、ポリオール成分として、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有することを特徴とするゴルフボール。
【化1】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【請求項2】
前記反応において、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.6以上、1.4以下の範囲である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記ポリエーテルポリカーボネートジオールは、数平均分子量が800~2500である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記ポリウレタンポリオール中のポリエーテルポリカーボネートジオール成分の含有率は、20質量%~80質量%である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項5】
式(A)中、R、Rは、それぞれ、炭素数が1~10の直鎖アルキレン基である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ポリウレタンポリオールは、前記ポリエーテルポリカーボネートジオールとは異なるポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有する請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネートとして、
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、
ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体、
ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、および、
イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項8】
塗膜の最外層が、前記ポリウレタンを含有する請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項9】
ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールの製造方法であって、
式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポリイソシアネート組成物とを、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)が、0.6以上、1.4以下の範囲となるようにゴルフボール本体表面に塗布する工程と、
前記ポリオール組成物と前記ポイソシアネート組成物とを反応させて塗膜を形成する工程とを有することを特徴とするゴルフボールの製造方法。
【化2】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜を有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフボールには、ゴルフボール本体の表面に塗膜が形成されている。この塗膜を改良することで、アプローチショットのスピン性能を改良することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、コアと、このコアの外側に位置するカバーと、このカバーの外側に位置するペイント層を備えており、上記カバーのショアD硬度が61以下であり、上記ペイント層のマルテンス硬度が2.0mgf/μm以下であるゴルフボールが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ゴルフボール本体とゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、マルテンス硬度が2.0mgf/μm以下であり、10%モジュラスに対する50%モジュラスの比(50%モジュラス/10%モジュラス)が1.6以上であることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、動的粘弾性装置により特定の測定条件にて測定した120℃~150℃の温度範囲における貯蔵弾性率(E’)が、1.00×10dyn/cm以上、1.00×10dyn/cm以下であり、且つ、10℃における損失正接(tanδ)が、0.050以上であることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0006】
特許文献4には、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜の動的粘弾性を測定して得られる損失正接tanδのピーク温度が、50℃以下であり、ピーク高さが0.8未満であることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0007】
特許文献5には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、ゴルフボールの最外層に位置する最外層塗膜が、基材樹脂として、(A)ポリイソシアネート組成物と、(B)ポリオール組成物とを反応させてなるポリウレタンを含有し、前記(B)ポリオール組成物が、ポリオール成分として、ウレタンポリオールを含有し、前記最外層塗膜は、動的粘弾性装置により特定の測定条件にて測定した損失正接(tanδ)のピーク温度が、-40℃~40℃であることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0008】
特許文献6には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜の最外層を構成する基材樹脂は、(A)ポリオール組成物と、(B)ポリイソシアネート組成物とを反応させてなるポリウレタンであり、前記ポリウレタンの動的粘弾性を特定の条件で測定して得られる-50℃での損失弾性率(E”)が、1.00×10Pa以上であることを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-67595号公報
【特許文献2】特開2011-217820号公報
【特許文献3】特開2014-14383号公報
【特許文献4】特開2017-209298号公報
【特許文献5】特開2020-69309号公報
【特許文献6】特開2020-99669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アプローチショットには、ゴルフボールとウェッジのクラブフェースとの間に水が存在しない条件(ドライ条件)において、グリーンエッジやフェアウェイなどの芝がカットされた場所から打つアプローチショットがある。一方、グリーン周りの芝がカットされていないラフからのアプローチショットがある。ラフからのアプローチショットは、ゴルフボールとウェッジのクラブフェースとの間に芝が存在するために、所望のスピンを与えることが難しい。上記アプローチショットはいずれも、ゴルフのスコアメイクに重要なショットである。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、アプローチショットのスピン性能に優れる新規なゴルフボールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することができた本発明のゴルフボールは、
ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記塗膜の少なくも一層が、樹脂成分としてポリウレタンを含有し、
前記ポリウレタンは、ポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポイソシアネート組成物とを反応させてなるものであり、前記ポリオール組成物は、ポリオール成分として、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有することを特徴とする。
【化1】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【0013】
本発明には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールの製造方法であって、
前記式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポリイソシアネート組成物とを、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)が、0.6以上、1.4以下の範囲となるようにゴルフボール本体表面に塗布する工程と、
前記ポリオール組成物と前記ポイソシアネート組成物とを反応させて塗膜を形成する工程とを有するゴルフボールの製造方法が含まれる。
【0014】
本発明のゴルフボールは、塗膜を形成するポリレタンが、ポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有することにより、アプローチスピン性能に優れる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アプローチショットのスピン性能に優れた新規なゴルフボールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
図2】塗膜の膜厚の測定箇所を説明する模式断面図。
図3】塗膜の膜厚の測定箇所を説明する模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記塗膜の少なくも一層が、樹脂成分としてポリウレタンを含有し、
前記ポリウレタンは、ポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポイソシアネート組成物とを反応させてなるものであり、前記ポリオール組成物は、ポリオール成分として、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有することを特徴とする。
【化1】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【0018】
本発明のゴルフボールの塗膜は、樹脂成分としてポリウレタンを含有する。前記ポリウレタンは、ポリイソシアネートを含有するポリイソシアネート組成物とポリオールを含有するポリオール組成物とを反応させることにより得られるものが好ましい。ポリイソシアネートとポリオールとの反応により、ポリウレタンの主鎖には複数のウレタン結合が形成される。以下、本発明の塗膜を形成する原料について説明する。
【0019】
(ポリオール組成物)
本発明で使用するポリオール組成物は、ポリオール成分として、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有する。
【化2】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【0020】
前記ウレタンポリオールとは、分子内にウレタン結合を複数有し、一分子中にヒドロキシ基を2以上有する化合物である。ウレタンポリオールとしては、例えば、第一ポリオール成分と第一ポリイソシアネート成分とを、第一ポリオール成分のヒドロキシ基が、第一ポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させて得られるウレタンプレポリマーを挙げることができる。
【0021】
得られるウレタンプレポリマーは、第一ポリイソシアネートに由来する構造単位と、第一ポリオールに由来する構造単位とを有する。第一ポリイソシアネートに由来する構造単位とは、第一ポリイソシアネートが第一ポリオールと反応することにより形成される構造単位を意味する。第一ポリオールに由来する構造単位とは、第一ポリオールが第一ポリイソシアネート反応することにより形成される構造単位を意味する。
【0022】
本発明で使用するウレタンプレポリマーの第一ポリオール成分は、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールを含有する。
【0023】
本発明では、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールを、単に「ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)」と称する場合がある。前記ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)は、ポリエーテル構造が(-R-O-)が、カーボネート基(-O-C(=O)-O-)によって結合された構造を有している。
【0024】
式(A)において、m=1の場合、「ポリエーテルポリカーボネートジオール」ではなく、「ポリエーテルカーボネートジオール」と称されるものとなるが、本発明では、式(A)で表されるポリエーテルカーボネートジオールも含めて「ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)」と称す。
【0025】
式(A)中、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、2~10の数であることが好ましく、2~6の数であることがより好ましい。mは、2~10の数であることが好ましく、3~10の数であることがより好ましい。l、m、nは、整数であることが好ましい。
【0026】
式(A)中、RおよびRで表されるアルキレン基の炭素数は、それぞれ、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましく、30以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。
【0027】
前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であってもよいし、分岐アルキレン基であってもよい。R、Rは、それぞれ、炭素数が1~10の直鎖アルキレン基であることが好ましい。
【0028】
およびRで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基(C2)、プロピレン基(C3)、ブチレン基(C4)、ペンチレン基(C5)、ヘキシレン基(C6)、ヘプチレン基(C7)、オクチレン基(C8)、ノニレン基(C9)、デシレン基(C10)、ウンデシレン基(C11)、ドデシレン基(C12)、トリデシレン基(C13)、テトラデシレン基(C14)、ペンタデシレン基(C15)、ヘキサデシレン基(C16)、ヘプタデシレン基(C17)、オクタデシレン基(C18)、ノナデシレン基(C19)、イコシレン基(C20)、ヘンイコシレン基(C21)、ドコシレン基(C22)、トリコシレン基(C23)、テトラコシレン基(C24)、ペンタコシレン基(C25)、ヘキサコシレン基(C26)、ヘプタコシレン基(C27)、オクタコシレン基(C28)、ノナコシレン基(C29)、トリアコンチレン基(C30)が挙げられる。RとRは、n-ブチレン基であることが特に好ましい。
【0029】
ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)は、RとRが同一であり、lとnも同一であるものが好ましく、RとRがn-ブチレン基であり、lとnが同一であるものがより好ましい。本発明で使用するポリエーテルポリカーボネートジオール(A)としては、ポリテトラメンレンエーテルポリカーボネートジオールが好ましい。
【0030】
前記ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)は、ポリオキシアルキレングリコールとカーボネート化合物とを、触媒の存在下に常法に従って重合反応させることにより製造することが好ましい。
【0031】
ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の製造に使用するポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、3-メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランの共重合ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルポリオール、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルポリオール、プロピレンオキサイドとテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルグリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)がより好ましい。なお、前記のポリオキシアルキレングリコールは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の製造に使用するポリオキシアルキレングリコールの水酸基価から求めた数平均分子量(Mn)は、150以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、250以上であることがさらに好ましく、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1200以下であることがさらに好ましい。数平均分子量が250以上であれば、アプローチスピンが良好である柔軟性なウレタン塗膜となり、分子量が2000以下であれば、タック性をおさえた汚れが落としやすい塗膜の形成が容易となるからである。
【0033】
ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の製造に使用可能なカーボネート化合物としては、例えば、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。これらは1種であっても複数種であってもよい。このうち反応性の観点からジアルキルカーボネートとアルキレンカーボネートが好ましい。
【0034】
カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、ジメチルカーボネートとエチレンカーボネートが好ましい。
【0035】
ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)を製造する際には、重合を促進するために必要に応じてエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、一般にエステル交換能があるとされている化合物であれば制限なく用いることができる。
【0036】
エステル交換触媒の例を挙げると、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の長周期型周期表(以下、単に「周期表」と記載する。)第1族金属(水素を除く)の化合物;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表第2族金属の化合物;チタン、ジルコニウム等の周期表第4族金属の化合物;ハフニウム等の周期表第5族金属の化合物;コバルト等の周期表第9族金属の化合物;亜鉛等の周期表第12族金属の化合物;アルミニウム等の周期表第13族金属の化合物;ゲルマニウム、スズ、鉛等の周期表第14族金属の化合物;アンチモン、ビスマス等の周期表第15族金属の化合物;ランタン、セリウム、ユーロピウム、イッテルビウム等ランタナイド系金属の化合物等が挙げられる。
【0037】
前記ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の数平均分子量は、800以上が好ましく、900以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましく、2500以下が好ましく、2300以下がより好ましく、2100以下がさらに好ましい。前記ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の数平均分子量が、前記範囲内であれば、アプローチスピンが一層良好になるからである。
【0038】
ウレタンポリオール中のポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の含有率は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。前記ポリウレタン中のポリエーテルカーボネートジオール(A)成分の含有率が、前記範囲内であれば、アプローチスピンが一層良好になるからである。
【0039】
前記ウレタンポリオールは、ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)とは異なるポリカーボネートジオール(BC)に由来する構造単位を有することが好ましい。前記ウレタンポリオールを構成する第1ポリオール成分が、ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)と前記ポリカーボネートジオール(BC)とを含有することにより、ラフからのアプローチスピン性能がさらに向上し、塗膜の汚れが落としやすくなる。
【0040】
前記ポリカーボネートジオール(BC)は、ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)とは異なるものであれば、特に限定されない。
【0041】
前記ポリカーボネートジオール(BC)は、下記式(B)で表される繰り返し単位(B)と下記式(C)で表される繰り返し単位(C)を有することが好ましい。返し単位(B)は、式(B)において、p=1で表される。繰り返し単位(C)は、式(C)においてq=1で表される。式(C)において、qが0の場合、ポリカーボネートジオール中に繰り返し単位(C)は存在しない。本発明において、下記式(B)で表される繰り返し単位(B)と下記式(C)で表される繰り返し単位(C)とを有するポリカーボネートジオールを単に「ポリカーボネートジオール(BC)」と称する場合がある。なお、「ポリカーボネートジオール(BC)」には、繰り返し単位(C)を含有しないものも含まれる。
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
前記式(B)において、Rは炭素数2~20の二価の炭化水素基を表し、pは3~50の数であり、前記式(C)においてRはRとは異なるものであり、炭素数3~20の二価の炭化水素基を表し、又は、脂環式構造若しくは複素環式構造を含む炭素数3~20の二価の炭化水素基を表し、qは0~50の数である。
【0045】
式(B)において、Rで表される二価の炭化水素基の炭素数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましく、20以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。
【0046】
式(B)におけるRは、直鎖又は分岐のアルキレン基であることが好ましい。Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基(C2)、プロピレン基(C3)、ブチレン基(C4)、ペンチレン基(C5)、ヘキシレン基(C6)、ヘプチレン基(C7)、オクチレン基(C8)、ノニレン基(C9)、デシレン基(C10)、ウンデシレン基(C11)、ドデシレン基(C12)、トリデシレン基(C13)、テトラデシレン基(C14)、ペンタデシレン基(C15)、ヘキサデシレン基(C16)、ヘプタデシレン基(C17)、オクタデシレン基(C18)、ノナデシレン基(C19)、イコシレン基(C20)を挙げることができる。
【0047】
式(B)において、Rで表される二価の炭化水素基は、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールに由来するものであることが好ましく、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基が好ましい。
【0048】
式(B)において、pは、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。pが3以上であれば、他のポリオールとの相溶性が高くなり、pが50以下であれば、得られるポリレタンの耐摩耗性が高くなる。pは、整数であることが好ましい。
【0049】
繰り返し単位(C)において、Rで表される二価の炭化水素基の炭素数は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、20以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。
【0050】
式(C)において、Rは、直鎖又は分岐のアルキレン基であることが好ましい。Rで表されるアルキレン基としては、例えば、プロピレン基(C3)、ブチレン基(C4)、ペンチレン基(C5)、ヘキシレン基(C6)、ヘプチレン基(C7)、オクチレン基(C8)、ノニレン基(C9)、デシレン基(C10)、ウンデシレン基(C11)、ドデシレン基(C12)、トリデシレン基(C13)、テトラデシレン基(C14)、ペンタデシレン基(C15)、ヘキサデシレン基(C16)、ヘプタデシレン基(C17)、オクタデシレン基(C18)、ノナデシレン基(C19)、イコシレン基(C20)を挙げることができる。
【0051】
式(C)のRで表される分岐アルキレン基としては、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール及び2-メチル-1,4-ブタンジオールの1種又は2種以上に由来するものが挙げられる。
【0052】
さらに、式(C)のRは、脂環式構造あるいは複素環式構造を含む脂肪族炭化水素基でもよく、具体的にはイソソルビド、イソマンニド、イソイディッド、1,4-シクロヘキサンジメタノールの1種又は2種以上に由来するものが挙げられる。
【0053】
式(C)において、qは1上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。qは、整数であることが好ましい。式(C)において、qが1以上で、ポリカーボネートジオールが繰り返し単位(C)を含むことにより、他のポリオールとの相溶性が高くなる場合がある。qが50以下であれば、得られるポリウレタンの耐久性、耐摩耗性が向上する。
【0054】
ポリカーボネートジオール(BC)には、繰り返し単位(B)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。また、繰り返し単位(C)についても1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。また、繰り返し単位(B)と繰り返し単位(C)が同じ構造を取っても良い。
【0055】
ポリカーボネートジオール(BC)には、繰り返し単位(B)及び繰り返し単位(C)以外の繰り返し単位が、例えば全繰り返し単位中に5.0モル%以下含まれていてもよい。
【0056】
ポリカーボネートジオール(BC)は、前述のポリエーテルポリカーボネートジオール(A)の製造方法において、ポリオキシアルキレングリコールの代りに上述の繰り返し単位(B)を導入するためのジヒドロキシ化合物と、繰り返し単位(C)を導入するためのジヒドロキシ化合物を用いること以外は同様にして製造することができる。
【0057】
繰り返し単位(B)を導入するためのジヒドロキシ化合物としては、炭素数が2~20の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物が好ましく、炭素数が3~6の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0058】
前記直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、好ましくは1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオールの1種又は2種以上が挙げられる。
【0059】
繰り返し単位(C)を導入するためのジヒドロキシ化合物としては、炭素数が3~20の分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物が好ましく、炭素数が4~12の分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物がより好ましい。
【0060】
前記分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオールなどを挙げることができる。
【0061】
繰り返し単位(C)を導入するためのジヒドロキシ化合物として、脂環式構造又は複素環式構造を含む脂肪族ジヒドロキシ化合物も使用することができる。脂環式構造又は複素環式構造を含む脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、イソソルビド、イソマンニド、イソイディッド、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。
【0062】
ポリカーボネートジオールは、例えば、繰り返し単位(B)を導入するためジヒドロキシ化合物と、繰り返し単位(C)を導入するためジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを、触媒の存在下に常法に従って重合反応させることにより製造することができる。
【0063】
ポリカーボネートジオール(BC)の製造に使用可能なカーボネート化合物としては、本発明の効果を損なわない限り限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。これらは1種であっても複数種であってもよい。このうち反応性の観点からジアリールカーボネートが好ましい。
【0064】
カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0065】
ポリカーボネートジオール(BC)に残存する触媒量は、ポリウレタン化反応の制御の観点から金属換算量で100重量ppm以下、特に10重量ppm以下であることが好ましい。一方で、必要な触媒量として金属換算量で0.01重量ppm以上、特に0.1重量ppm以上、とりわけ5重量ppm以上であることが好ましい。
【0066】
前記ポリカーボネートジオール(BC)は、液状ポリカーボネートジオールであることが好ましい。ここで、液状とは、25℃で粘性液体であること意味する。液状ポリカーボネートジオールを使用することにより、塗膜が柔らかくなり、スピン性能が一層高くなるからである。前記液状ポリカーボネートジオールの粘度は、50mPa・s/50℃~100,000mPa・s/50℃、30mPa・s/60℃~50,000mPa・s/60℃、あるいは、10mPa・s/70℃~20,000mPa・s/70℃であることが好ましい。前記粘度は、例えば、B型粘度計、ロータHM2を用いて測定することができる。
【0067】
前記液状ポリカーボネートジオールの粘度は、50mPa・s以上/50℃、100,000mPa・s以下/50℃であることが好ましく、100mPa・s以上/50℃、5,000mPa・s以下/50℃であることがより好ましく、200mPa・s以上/50℃、2,000mPa・s以下/50℃であることがさらに好ましい。
【0068】
前記ポリカーボネートジオール(BC)の数平均分子量は、400以上が好ましく、より好ましくは450以上であり、さらに好ましくは、500以上であり、1200以下が好ましく、より好ましくは1,000以下、さらに好ましくは900以下である。ポリカーボネートジオールの数平均分子量が400以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、スピン性能が向上する。前記数平均分子量が1,200以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。なお、第一ポリオール成分の数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして有機溶媒系GPC用カラム(例えば、昭和電工社製「Shodex(登録商標) KFシリーズ」など)を用いて測定すればよい。
【0069】
ウレタンポリオールを構成する第1ポリオール成分が、ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)とポリカーボネートジオール(BC)とを含有する場合、ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)/ポリカーボネートジオール(BC)の質量比率は、40/60以上が好ましく、50/50以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましく、90/10以下が好ましく、80/20以下がより好ましく、70/30以下がさらに好ましい。ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)/ポリカーボネートジオール(BC)の質量比率が前記範囲内であれば、高アプローチスピンと汚れの落としやすさを両立した塗膜となるからである。
【0070】
前記ウレタンポリオールは、第一ポリオール成分として、前記ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)やポリカーボネートジオール(BC)に加えて、分子量が400未満の低分子量ポリオールや数平均分子量が400以上の高分子量ポリオールに由来する構造単位を有することも好ましい。
【0071】
前記高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。前記高分子量ポリオールは、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0072】
前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記低分子量ポリオールは、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0073】
前記ウレタンポリオールは、第一ポリオール成分として、トリオール成分とジオール成分とを含有するものが好ましい。前記トリオール成分としては、トリメチロールプロパンが好ましい。前記トリオール成分とジオール成分の混合比率(トリオール成分/ジオール成分)は、OH基のモル比で、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、2.6以下が好ましく、2.4以下がより好ましい。
【0074】
前記ウレタンポリオールを構成し得る第一ポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
前記ウレタンポリオールは、ポリイソシアネート成分として、脂環式ジイソシアネートを含有することが好ましい。
【0076】
前記ウレタンポリオールは、重量平均分子量が、5,000以上が好ましく、より好ましくは5,300以上、さらに好ましくは5,500以上であり、20,000以下が好ましく、より好ましくは18,000以下、さらに好ましくは16,000以下である。ウレタンポリオールの重量平均分子量が5,000以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、スピン性能が向上する。前記重量平均分子量が20,000以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。
【0077】
前記ウレタンポリオールの水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以上、さらに好ましくは20mgKOH/g以上であり、200mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは190mgKOH/g以下、さらに好ましくは180mgKOH/g以下である。水酸基価は、JIS K 1557-1に準じて、例えば、アセチル化法によって測定することができる。
【0078】
本発明で使用するポリオール組成物は、ポリオール成分として、ウレタンポリオールに加えて、さらに第二ポリオールを含有してもよい。前記第二ポリオールとしては、分子量が400未満の低分子量ポリオールや数平均分子量が400以上の高分子量ポリオールを挙げることができる。
【0079】
前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記高分子量のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0080】
前記ポリオール組成物が含有するポリオール成分中の前記ウレタンポリオールの含有率は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、99質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下さらに好ましい。ポリオール組成物が含有するポリオール成分として、ウレタンポリオールのみを用いることも好ましい。
【0081】
なお、ポリオールとして含有する各成分の含有率は、これらの各成分の合計含有率が100%となるように、各成分の含有率の範囲から適宜選択される。
【0082】
(ポリイソシアネート組成物)
ポリイソシアネート組成物が含有するポリイソシアネートとしては、例えば、イソシアネート基を少なくとも2つ有する化合物を挙げることができる。前記ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネート;およびこれらのポリイソシアネートの誘導体が挙げられる。本発明では、前記ポリイソシアネートとして、2種以上のポリイソシアネートを使用してもよい。
【0083】
前記ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、ジイソシアネートと多価アルコールとを反応させて得られるアダクト変性体;ジイソシアネートのイソシアヌレート変性体;ビュレット変性体;アロハネート変性体などが挙げられ、遊離ジイソシアネートが除去されているものがより好ましい。前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、および、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0084】
前記ビュレット変性体としては、例えば、ジイソシアネートが三量化されたビュレット変性体(下記式(1))が挙げられる。式(1)中、Rは、ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表す。前記ビュレット変性体としては、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体が好ましい。
【0085】
【化5】
【0086】
前記イソシアヌレート変性体としては、例えば、下記式(2)で表されるジイソシアネートの3量体が挙げられる。式(2)中、Rは、ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表す。前記イソシアヌレート変性体としては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、または、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体が挙げられ、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、または、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレートの3量体が好ましい。
【0087】
【化6】
【0088】
前記アダクト変性体とは、ジイソシアネートと多価アルコールとを反応させて得られるポリイソシアネートである。前記多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの低分子量トリオールが好ましい。前記アダクト変性体としては、例えば、ジイソシアネートとトリメチロールプロパンとを反応させて得られるトリイソシアネート(下記式(3));ジイソシアネートとグリセリンとを反応させて得られるトリイソシアネート(下記式(4))が好ましい。式(3)、および、式(4)中、Rは、ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表す。
【0089】
【化7】
【0090】
前記アダクト変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとを反応させて得られるトリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネートとグリセリンとを反応させて得られるトリイソシアネートが好ましい。
【0091】
前記アロハネート体とは、例えば、ジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて形成されるウレタン結合にさらにジイソシアネートが反応して得られるトリイソシアネートである。
【0092】
(アダクト変性体)
本発明の好ましい態様において、前記ポリイソシアネート成分としては、アダクト変性体が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体(好ましくは3量体)がより好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体を用いる場合、ポリイソシアネート成分中のヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体の含有率は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体のみを用いることも好ましい。
【0093】
(イソシアヌレート変性体)
本発明の別の好ましい態様において、前記ポリイソシアネート成分としては、イソシアヌレート変性体も好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(好ましくは3量体)、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(好ましくは3量体)がより好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(好ましくは3量体)とイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(好ましくは3量体)とを併用することがさらに好ましい。併用する場合、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体との質量比(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体/イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体)は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり、9以下が好ましく、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。前記質量比が上記範囲であれば、芝を噛んだ条件でのアプローチショットのスピン速度がより増大する。
【0094】
(アダクト変性体+イソシアヌレート変性体)
本発明の別の好ましい態様において、前記ポリイソシアネート成分は、アダクト変性体とイソシアヌレート変性体とを併用することも好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体(好ましくは3量体)とヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(好ましくは3量体)とを、あるいは、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体(好ましくは3量体)とイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(好ましくは3量体)とを併用することがより好ましい。この場合、アダクト変性体とイソシアヌレート変性体との質量比(アダクト変性体/イソシアヌレート変性体)は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.3以上であり、さらに好ましくは0.4以上であり、9以下が好ましく、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは4以下である。前記質量比が上記範囲であれば、ラフからのアプローチショットにおいてスピン性能が増大する。
【0095】
(HDIアダクト変性体+HDIイソシアヌレート変性体)
本発明の別の好ましい態様において、ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体およびヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を用いる場合、ポリイソシアネート成分中のヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体およびヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体の合計含有率は、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体およびヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体のみを用いることも好ましい。
【0096】
(HDIイソシアヌレート変性体+IPDIイソシアヌレート変性体)
本発明の別の好ましい態様において、ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を用いる場合、ポリイソシアネート成分中のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体の合計含有率は、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体のみを用いることも好ましい。
【0097】
(HDIアダクト変性体+IPDIイソシアヌレート変性体)
本発明の別の好ましい態様において、ポリイソシアネート成分としてヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を用いる場合、ポリイソシアネート成分中のヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体の合計含有率は、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。ポリイソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体のみを用いることも好ましい。
【0098】
前記ポリイソシアネート成分のイソシアネート基量(NCO%)は、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。なお、ポリイソシアネート成分のイソシアネート基量(NCO%)は、100×[ポリイソシアネート中のイソシアネート基のモル数×42(NCOの分子量)]/ポリイソシアネートの総質量(g)で表わすことができる。
【0099】
前記ポリイソシアネート成分の具体例としては、DIC社製バーノック(登録商標)D-800、バーノックDN-950、バーノックDN-955、住化バイエルウレタン社製デスモジュール(登録商標)N75MPA/X、デスモジュールN3300、デスモジュールN3390、デスモジュールL75(C)、スミジュール(登録商標)E21-1、東ソー社製コロネート(登録商標)HX、コロネートHK、コロネートHL、コロネートEH、旭化成ケミカルズ社製デュラネート(登録商標)24A-100、デュラネート21S-75E、デュラネートTPA-100、デュラネートTKA-100、デュラネート24A-90CX、デグサ社製VESTANAT(登録商標) T1890などを挙げることができる。
【0100】
本発明ゴルフボールの塗膜は、ポリオール成分を含有するポリオール組成物とポリイソシアネート成分を含有するポリイソシアネート組成物とを含有する塗料から形成されることが好ましい。前記塗料としては、ポリオール組成物を主剤とし、ポリイソシアネート組成物を硬化剤とするいわゆる硬化型塗料を例示することができる。本発明のゴルフボールの塗膜が含有するポリウレタンは、ポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポイソシアネート組成物とを反応させることにより形成される。
【0101】
前記硬化型塗料組成物における硬化反応において、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.6以上が好ましく、0.75以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましい。前記モル比(NCO基/OH基)が、0.6以上であれば、硬化反応が良好となる。前記モル比(NCO基/OH基)は、1.4以下が好ましく、1.3以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。前記モル比(NCO基/OH基)が1.4以下であれば、イソシアネート基量が過剰とならず、得られる塗膜の硬さが適度で外観も良くなる。なお、塗料中のイソシアネート基量が過剰になると得られる塗膜の外観が悪くなる理由は、イソシアネート基量が過剰になると、空気中の水分とイソシアネート基との反応が多くなり、炭酸ガスが多量に発生するためと考えられる。
【0102】
前記塗料としては、水を主たる分散媒とする水系塗料、有機溶剤を分散媒とする溶剤系塗料のいずれであってもよいが、溶剤系塗料が好ましい。溶剤系塗料の場合、好ましい溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルエチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール、酢酸エチルなどを挙げることができる。なお、溶剤は、ポリオール組成物およびポリイソシアネート組成物のいずれに配合してもよいが、均一に硬化反応をさせる観点から、ポリオール組成物およびポリイソシアネート組成物のそれぞれに配合することが好ましい。
【0103】
前記塗料は、さらに変性シリコーンを含有することが好ましい。レベリング剤として、変性シリコーンを含有することにより、塗布面の凹凸を軽減し、ゴルフボール表面に平滑な塗布面を形成することができる。前記変性シリコーンとしては、ポリシロキサン骨格の側鎖又は末端に有機基を導入したもの、ポリシロキサンブロックにポリエーテルブロックおよび/またはポリカプロラクトンブロックなどを共重合したポリシロキサンブロック共重合体、または、前記ポリシロキサンブロック共重合体の側鎖又は末端に有機基を導入したものなどを挙げることができる。前記ポリシロキサン骨格またはポリシロキサンブロックとしては、直鎖状であることが好ましく、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどを挙げることができる。前記有機基としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルビノール基などを挙げることができる。本発明では、変性シリコーンオイルとして、ポリジメチルシロキサン-ポリカプロラクトンブロック共重合体を使用することが好ましく、末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン-ポリカプロラクトンブロック共重合体を使用することがより好ましい。本発明で使用する変性シリコーンの具体例としては、Gelest社製のDBL-C31、DBE-224、DCE-7521などが挙げられる。
【0104】
前記変性シリコーンは、塗料組成物から形成された塗膜に残存する。塗膜および硬化型塗料組成物における前記変性シリコーンの含有量は、塗膜層を構成する樹脂成分100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0105】
硬化反応には、公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒が好ましく、特に、ジブチルチンジラウリレートが好適に使用される。
【0106】
前記塗膜は、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、レベリング剤、スリップ剤、粘度調整剤などの、一般にゴルフボール用塗料に含有され得る添加剤を含有してもよい。
【0107】
(ゴルフボール)
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであれば、特に限定されない。ゴルフボール本体の構造は、特に限定されず、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、スリーピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボール、あるいは、糸巻きゴルフボールであってもよい。いずれの場合であっても、本発明を好適に適用できる。
【0108】
(コア)
前記ワンピースゴルフボール本体、ならびに、糸巻きゴルフボール、ツーピースゴルフボールおよびマルチピースゴルフボールに用いられるコアについて説明する。
【0109】
前記ワンピースゴルフボール本体およびコアには、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
【0110】
前記基材ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤としては、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸またはその金属塩が好ましく、アクリル酸の金属塩またはメタクリル酸の金属塩がより好ましい。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。前記共架橋剤として炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸を使用する場合、金属化合物(例えば、酸化マグネシウム)を配合することが好ましい。架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。
【0111】
また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類(例えば、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド)、チオフェノール類、チオナフトール類(例えば、2-チオナフトール)に属する化合物を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。前記コア用ゴム組成物は、さらにカルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。カルボン酸および/またはその塩としては、炭素数が1~30のカルボン酸および/またはその塩が好ましい。前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸(安息香酸など)のいずれも使用できる。カルボン酸および/またはその塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上、40質量部以下である。
【0112】
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、有機硫黄化合物に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの重量調整剤、老化防止剤、色粉などを適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃~200℃で10分間~60分間加熱するか、あるいは130℃~150℃で20分間~40分間加熱した後、160℃~180℃で5分間~15分間と2段階加熱することが好ましい。
【0113】
(カバー)
前記ゴルフボール本体は、コアと前記コアを被覆するカバーとを有するものが好ましい。この場合、前記カバーの硬度は、ショアD硬度で、80以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下がさらに好ましく、45以下が特に好ましい。カバーの硬度がショアD硬度で60以下であれば、スピン速度が一層高くなるからである。前記カバー硬度は、特に限定されないが、ショアD硬度で、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。カバー硬度は、カバーを形成するカバー用組成物をシート状に成形して測定したスラブ硬度である。
【0114】
前記カバーの厚さは、0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上であり、1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.9mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。前記カバーの厚さが0.1mm以上であれば、ゴルフボールの打球感がより良好となり、1.0mm以下であればゴルフボールの反発性を維持することができる。
【0115】
前記カバーを構成する樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY82A」、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱ケミカル(株)から商品名「テファブロック」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーや熱可塑性ポリエステル系エラストマーなどを挙げることができる。前記カバー材料は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0116】
これらの中でもカバーを構成する樹脂成分としては、ポリウレタン、アイオノマー樹脂が好ましく、特にポリウレタンが好ましい。前記カバーを構成する樹脂成分にポリウレタンを使用する場合、樹脂成分中のポリウレタンの含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。前記カバーを構成する樹脂成分にアイオノマー樹脂を使用する場合、樹脂成分中のアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0117】
前記ポリウレタンは、いわゆる熱可塑性ポリウレタンや熱硬化性ポリウレタンのいずれの態様であってもよい。熱可塑性ポリウレタンとは、加熱により可塑性を示すポリウレタンであり、一般に、ある程度高分子量化された直鎖構造を有するポリウレタンを意味する。一方、熱硬化性ポリウレタン(二液硬化型ポリウレタン)は、カバーを成形する際に、低分子量のウレタンプレポリマーと硬化剤(鎖長延長剤)とを反応させて高分子量化することにより得られるポリウレタンである。熱硬化性ポリウレタンには、使用するプレポリマーや硬化剤(鎖長延長剤)の官能基の数を制御することによって、直鎖構造のポリウレタンや3次元架橋構造を有するポリウレタンが含まれる。前記ポリウレタンとしては、熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0118】
前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0119】
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
【0120】
カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0121】
前記ゴルフボールが、スリーピース、フォーピースゴルフボール、ファイブピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボールである場合には、コアと最外層カバーとの間に設ける中間層の材料としては、例えば、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、ポリアミド、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂;スチレンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ゴム組成物の硬化物などが挙げられる。ここで、アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものが挙げられる。前記中間層には、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの重量調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。なお、中間層は、ゴルフボールの構成に応じて、内側カバー層や、外層コアと称される場合がある。
【0122】
(ゴルフボールの製造方法)
本発明には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールの製造方法であって、
式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポリイソシアネート組成物とを、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)が、0.6以上、1.4以下の範囲となるようにゴルフボール本体表面に塗布する工程と、前記ポリオール組成物と前記ポイソシアネート組成物とを反応させて塗膜を形成する工程とを有するゴルフボールの製造方法が含まれる。
【化2】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【0123】
ゴルフボール本体表面に塗料を塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗装、静電塗装などを挙げることができる。
【0124】
エアーガンを用いたスプレー塗装の場合には、ポリイソシアネート組成物とポリオール組成物とをそれぞれのポンプで供給して、エアーガン直前に配置されたラインミキサーで連続的に混合し、得られた混合物をスプレー塗装してもよいし、混合比制御機構を備えたエアースプレーシステムを用いて、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを別々にスプレー塗装してもよい。塗装は、1回でスプレー塗布しても良いし、複数回重ね塗りをしても良い。
【0125】
前記塗布工程では、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)が、0.6以上、1.4以下の範囲となるようにゴルフボール本体表面に塗布することが好ましい。
【0126】
塗料をゴルフボール本体表面に塗布する際に、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.6以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。前記モル比(NCO基/OH基)が、0.6以上であれば、硬化反応が良好となる。前記モル比(NCO基/OH基)は、1.4以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。前記モル比(NCO基/OH基)が1.4以下であれば、イソシアネート基量が過剰とならず、得られる塗膜の硬さが適度で外観も良くなる。なお、塗料中のイソシアネート基量が過剰になると得られる塗膜の外観が悪くなる理由は、イソシアネート基量が過剰になると、空気中の水分とイソシアネート基との反応が多くなり、炭酸ガスが多量に発生するためと考えられる。
【0127】
本発明のゴルフボールの製造方法は、ポリオール組成物と前記ポイソシアネート組成物とを反応させて塗膜を形成する工程を有する。ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との反応は、例えば、ゴルフボール本体に塗布された塗料を乾燥することにより行われる。ゴルフボール本体に塗布された塗料は、例えば、30℃~70℃の温度で1時間~24時間乾燥することにより、塗膜を形成することができる。
【0128】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜の少なくとも一層が、樹脂成分として前記ポリウレタンを含有する。
【0129】
塗膜が多層構造を有する場合、最外層の塗膜が、樹脂成分として前記ポリウレタンを含有することが好ましい。
【0130】
塗膜が多層構造の場合、最も外側に位置する塗膜層が最外塗膜層である。塗膜が単層の場合、単層の塗膜が最外塗膜層である。前記樹脂成分のポリウレタンの含有率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。塗膜の樹脂成分が実質的に前記ポリウレタンのみからなることも好ましい態様である。
【0131】
塗膜が多層構造である場合、最外層以外の塗膜層を構成する樹脂としては、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらの中でもポリウレタンが好ましい。また、最外層以外の塗膜層を構成する樹脂として、上記した最外層に使用しうるポリウレタンを使用してもよい。
【0132】
前記ポリウレタンを含有する塗膜の厚さは、5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは9μm以上であり、40μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。前記塗膜の厚さが、上記範囲内であれば外観が良好であり、ゴルフボールの耐擦過傷性が優れ、かつ、アプローチ性能が良好となる。
【0133】
本発明のゴルフボールの塗膜が多層構造を有する場合は、塗膜全体の厚さは、5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは9μm以上であり、50μm以下が好ましく、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。前記厚さが5μm以上であればアプローチショットでのスピン速度が増加し、50μm以下であればドライバーショットでのスピン速度を抑えることができる。
【0134】
前記塗膜層のタック性及び10%モジュラスは、塗膜の樹脂成分、配合量などによって制御できる。
【0135】
前記ポリウレタンを含有する塗膜の10%モジュラスは、1kgf/cm(0.10MPa)以上が好ましく、より好ましくは3kgf/cm(0.29MPa)以上、さらに好ましくは10kgf/cm(0.98MPa)以上であり、70kgf/cm(6.9MPa)以下が好ましく、より好ましくは60kgf/cm(5.9MPa)以下、さらに好ましくは50kgf/cm(4.9MPa)以下である。前記塗膜の10%モジュラスが1kgf/cm以上であれば塗膜の粘着性が低く、汚れにくくなり、70kgf/cm以下であれば塗膜の静摩擦力が大きくなり、ラフからの(芝を噛んだ条件での)アプローチショットのスピン速度が増加する。
【0136】
本発明のゴルフボールの直径は、40mm~45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は、42.67mm以上が好ましい。空気抵抗の観点から、直径は44mm以下が好ましく、42.80mm以下がより好ましい。ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44.00g以上が好ましく、45.00g以上がより好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が好ましい。
【0137】
本発明のゴルフボールは、直径40mm~45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.2mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【0138】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆するカバー3と、このカバー3の表面に設けられた塗膜4を有する。前記カバー3の表面には、多数のディンプル31が形成されている。このカバー3の表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。
【実施例0139】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0140】
[評価方法]
(1)スラブ硬度(ショアD硬度)
中間層用組成物、カバー用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように3枚以上重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore D」を用いた。
【0141】
(2)塗膜の膜厚(μm)
ゴルフボールを半球状に切断し、半球上の塗膜断面をマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-1000)を用いて観察し、塗膜の膜厚を求めた。
膜厚の測定箇所について図2、3を参照して説明する。図2はゴルフボールの断面の模式図である。図2に示すように、ゴルフボール断面において、ボール中心といずれかのディンプルの底とを通る直線A、この直線Aと直交する直線B、直線Aとのなす角が45°である直線Cを作成し、これらの直線と塗膜表面との交点をそれぞれポールP、赤道部E、肩部Sとする。
【0142】
図3はディンプル31の底Deおよびゴルフボール1の中心を通過する断面の模式図である。ディンプルの底Deとは、ディンプル31の最も深い箇所である。エッジEdは、ディンプル31の両側に共通の接線Tが画かれたときの、ディンプル31と接線Tとの接点である。斜面における測定箇所Yは、ディンプルの底DeとエッジEdとを結ぶ直線の中点から、ディンプル31に向けて垂線を下ろした際、該垂線とディンプルの斜面とが交わる点である。ランドにおける測定箇所Xは、隣接するディンプルのエッジ間の中点である。なお、隣接ディンプル同士が接している等ランド部が存在しないものや、ランド部が極めて狭く膜厚を測定することが困難な場合は、ディンプルの底、エッジ、斜面を測定点とする。
【0143】
測定では、まず6個のボールについて、ポールPの存在するディンプルと、赤道部Eおよび肩部Sの近傍のディンプルの3カ所から試験片を作製する。次に、各試験片(ディンプル)において、ディンプルの底De、エッジEd、斜面Y、ランドXにおける塗膜の厚みを測定する。最後に、ボール6個についての測定値から平均値を求め、その平均値を塗膜の膜厚とした。
【0144】
(3)塗膜の10%モジュラス
塗膜の引張特性は、JIS K7161(2014)に準じて測定した。具体的には、ポリイソシアネート組成物およびポリオール組成物を配合した塗料を40℃で4時間乾燥及び硬化をさせて塗膜(厚さ0.05mm)を作製した。この塗膜を、JIS K7127(1999)で規定された試験片タイプ2(平行部の幅10mm、標線間距離50mm)に打ち抜いて試験片を作製した。この試験片について、精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフ(登録商標))を用いて引張試験を行った。試験条件は、つかみ具間距離100mm、引張速度50mm/min、試験温度23℃とした。そして、10%ひずみ時の引張応力(10%モジュラス)を記録した。
【0145】
(4)アプローチスピン速度
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、サンドウェッジ(クリーブランドゴルフ社製、商品名「CG15フォードウェッジ」、ロフト角:58°)を取り付け、ヘッドスピード16m/sで、ゴルフボールを打撃し、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによってドライスピン速度(rpm)を測定した。なお、ラフからの(芝を噛んだ条件での)アプローチスピン速度を測定する場合には、測定対象となるゴルフボールには、野芝の葉(長さ約3cm)を2枚貼付け、打撃時にクラブフェースとゴルフボールとの間に野芝が位置するように打撃した。測定は、各ゴルフボールについて10回ずつ行い、その平均値をスピン速度とした。
<スピン保持率=100×ラフスピン/ドライスピン>
【0146】
1.球状コアの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で150℃、19分間加熱プレスすることにより直径39.7mmの球状コアを得た。なお、ボール質量が45.6gとなるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0147】
【表1】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日触テクノファインケミカル社製、「ZN-DA90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
ジフェニルジスルフィド:住友精化製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
【0148】
2.中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表2、表3に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160~230℃に加熱された。
【0149】
【表2】
ハイミラン(登録商標)AM7329:三井・ダウ・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
サーリン8945:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0150】
【表3】
エラストランXNY82A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
チヌビン770:BASFジャパン社製ヒンダードアミン系光安定剤
【0151】
3.中間層の成形
上記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得た球状コア上に直接射出成形することにより、前記球状コアを被覆する中間層(厚さ:1.0mm)を形成した。
【0152】
4.補強層の作製
二液硬化型エポキシ樹脂を基材樹脂とする補強層用組成物(神東塗料社製、商品名「ポリン(登録商標)750LE」)を調製した。主剤は、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂を30質量部と、溶剤を70質量部含有する。硬化剤は、変性ポリアミドアミンを40質量部、二酸化チタンを5質量部、溶剤を55質量部含有する。主剤と硬化剤との質量比は、1/1とした。この補強層用組成物を中間層の表面にエアガンで塗布し、23℃雰囲気下で12時間保持して、補強層を形成した。補強層の厚みは、7μmであった。
【0153】
5.カバーの成形
ペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。補強層を形成した球体を2枚のハーフシェルで同心円状に被覆した。この球体およびハーフシェルを、キャビティ面に多数のピンプルを備えたファイナル金型に投入した。圧縮成形によりカバー(厚さ:0.5mm)を成形し、ゴルフボール本体を得た。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状のディンプルが多数形成された。
【0154】
6.塗料の調製
ウレタンポリオールNo.1~No.8の調製
表4に示した配合比になるように、第一ポリオール成分として、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリカーボネートジオール(PCD)、ポリエーテルポリカーボネートジオール、トリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン、メチルエチルケトン)に溶解した。ここに、触媒としてジブチル錫ジラウレートを、ポリオール成分100質量%に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら第一ポリイソシアネート成分としてのイソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。滴下後は、イソシアネートがなくなるまで撹拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール(固形分:60質量%)を調製した。得られたウレタンポリオールの組成等を表4に示した。
【0155】
【表4】
【0156】
表4に使用する材料は、下記の通りである。
PCD500:ダイセル社製ポリカーボネートジオール(粘度1400mPa・s/25℃)
PEPCD1002:三菱ケミカル社製ポリテトラメチレンエーテルポリカーボネートジオール(数平均分子量:1000,数平均分子量が250のポチテトラメチレンエーテルグリコールをカーボネート結合でつないだもの)
PEPCD2002:三菱ケミカル社製ポリテトラメチレンエーテルポリカーボネートジオール(数平均分子量:2000,数平均分子量が250のポチテトラメチレンエーテルグリコールをカーボネート結合でつないだもの)
PTMG1000:三菱ケミカル社製ポリテトラメチレンエーテルグリコール_
TMP:東京化成工業社製トリメチロールプロパン
IPDI:住化コベストロウレタン社製イソホロンジイソシアネート
【0157】
ポリオール組成物No.1~8の調製
前記ウレタンポリオール成分100質量部に対して、溶剤(キシレン/メチルエチルケトン=70/30(質量比)の混合溶剤)100質量部を混合し、ポリオール組成物No.1~No.8を調製した。なお、触媒としてジブチル錫ジラウレートを、ポリオール組成物の樹脂成分100質量%に対して0.1質量%となるように添加した。
【0158】
ポリイソシアネート組成物の調製
表5に示した配合比になるように、ポリイソシアネートを配合して、ポリイソシアネート組成物を調製した。
【0159】
ポリイソシアネートとしては、以下のものを使用した。
HDIイソシアヌレート変性体:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネートTKA-100(NCO含有率:21.7%))
HDIアダクト変性体:ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネートE402-80B(NCO含有率:7.3%)
HDIビュレット変性体:ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート(登録商標)21S-75E(NCO含有率:15.5%))
IPDIイソシアヌレート変性体:イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(デグサ社製、VESTANAT(登録商標)T1890(NCO含有率:12.0%))
【0160】
【表5】
【0161】
7.塗膜の形成
表5に示したように、ポリオール組成物、ポリイソシアネート組成物を配合して、硬化型塗料組成物を調製した。前記で得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.6gのゴルフボールを得た。塗膜の厚さは10±2μmであった。
【0162】
塗装は、プロングを備えた回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。重ね塗りの各回のインターバルを1.0秒とした。エアーガンの吹付条件は、重ね塗り;2回、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃~27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。得られたゴルフボールについて評価した結果を表5に示した。
【0163】
表5から明らかなように、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜の少なくとも一層が、樹脂成分としてポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンは、ポリエーテルポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位を有するゴルフボールは、ドライ条件でのスピン量、若しくは、ラフからスピン量が高く、アプローチショットのスピン性能に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0164】
1:ゴルフボール、2:球状コア、3:カバー、4:塗膜、31:ディンプル、32:ランド
【0165】
本発明の好ましい態様(1)は、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜の少なくも一層が、樹脂成分としてポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンは、ポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポイソシアネート組成物とを反応させてなるものであり、前記ポリオール組成物は、ポリオール成分として、式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有することを特徴とする。
【0166】
【化1】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
【0167】
本発明の好ましい態様(2)は、前記反応において、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.6以上、1.4以下の範囲である態様(1)に記載のゴルフボールである。
【0168】
本発明の好ましい態様(3)は、前記ポリエーテルポリカーボネートジオールは、数平均分子量が800~2500である態様(1)または(2)に記載のゴルフボールである。
【0169】
本発明の好ましい態様(4)は、前記ポリウレタンポリオール中のポリエーテルポリカーボネートジオール成分の含有率は、20質量%~80質量%である態様(1)~(3)のいずれか一つに記載のゴルフボールである。
【0170】
本発明の好ましい態様(5)は、式(A)中、R、Rは、それぞれ、炭素数が1~10の直鎖アルキレン基である態様(1)~(6)のいずれか一つに記載のゴルフボールである。
【0171】
本発明の好ましい態様(6)は、前記ポリウレタンポリオールは、前記ポリエーテルポリカーボネートジオールとは異なるポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有する態様(1)~(5)のいずれか一つに記載のゴルフボールである。
【0172】
本発明の好ましい態様(7)は、前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、および、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する態様(1)~(6)のいずれか一つに記載のゴルフボールである。
【0173】
本発明の好ましい態様(8)は、塗膜の最外層が、前記ポリウレタンを含有する態様(1)~(7)のいずれか一つに記載のゴルフボールである。
【0174】
本発明の好ましい態様(9)は、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた少なくとも一層の塗膜とを有するゴルフボールの製造方法であって、
式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオールに由来する構造単位を有するウレタンポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートを含有するポリイソシアネート組成物とを、ポリオール組成物が有するヒドロキシ基(OH基)とポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)が、0.6以上、1.4以下の範囲となるようにゴルフボール本体表面に塗布する工程と、前記ポリオール組成物と前記ポイソシアネート組成物とを反応させて塗膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0175】
【化2】
[式(A)中、R、Rは、同一または異なって、炭素数が1~30の直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であり、l、nは、同一または異なって、2~15の数であり、mは、1~15の数である。]
図1
図2
図3