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  • 特開-筋萎縮抑制用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168267
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】筋萎縮抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20241128BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20241128BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20241128BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20241128BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241128BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 21/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K38/08
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
A23L33/18
A23L5/00 M
A61K38/10
A61P21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084787
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 かずみ
(72)【発明者】
【氏名】湯田 直樹
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB04
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD22
4B018ME14
4B018MF11
4B018MF12
4B035LC06
4B035LE01
4B035LE02
4B035LE03
4B035LG15
4B035LP22
4B035LP41
4B035LP59
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA94
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA01
4H045EA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】筋萎縮抑制作用を有するペプチドを提供する。
【解決手段】以下の(a)及び(b)からなる群から選択される一種又は二種以上のペプチドを、筋萎縮抑制用組成物の有効成分とする。
(a)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、筋萎縮抑制作用を有するペプチド
配列番号1:Ala-Pro-Phe-Pro-Glu-Val-Phe
配列番号2:Ala-Pro-Phe-Pro-Glu-Val-Phe-Gly-Lys-Glu
配列番号3:Ser-Leu-Pro-Gln-Asn-Ile-Pro-Pro-Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)及び(b)からなる群から選択されるペプチドを一種又は二種以上含有する、筋萎縮抑制用組成物。
(a)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、筋萎縮抑制作用を有するペプチド
【請求項2】
選択されるペプチドが前記(a)に記載のペプチドである、請求項1に記載の筋萎縮抑制用組成物。
【請求項3】
医薬品である、請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制用組成物。
【請求項4】
飲食品である、請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制用組成物。
【請求項5】
以下の(a’)及び(b’)からなる群から選択されるペプチド。
(a’)配列番号2~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b’)配列番号2~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド(ただし、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるペプチドを除く)
【請求項6】
前記(a’)に記載の、請求項5に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペプチド、及び筋萎縮抑制作用を有するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋は、成人の身体重量の約40%を占め、関節運動を協調させた円滑な動きや姿勢の維持に関与している。また、熱産生による体温の維持やインスリンの標的臓器として血糖調節にも重要な役割を果たしている。骨格筋は、加齢、不活動(ベッドレスト、ギプス固定)、無重力環境下暴露、除神経及び疾病等によって萎縮し、その機能が低下する。骨格筋の萎縮は運動能力の低下を招き、やがて日常生活の動作にも不具合をきたすようになり、生活の質(Quality of Life;QOL)を低下させる。したがって、QOLの維持向上のために、筋萎縮の対策は重要な課題であると言える。
【0003】
また、超高齢社会を迎えている日本において「フレイル」が、高齢者が要介護に至る前段階として問題視されている。「フレイル」とは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、健常な状態と生活機能に障害がある状態又は要介護状態との中間にある虚弱化状態を指す語である(非特許文献1)。筋力の低下はフレイルの評価基準の一つであり(日本版Cardiovascular Health Study基準:J-CHS基準)、加齢による筋肉量の減少(筋萎縮)および筋力の低下した状態であるサルコペニアがフレイルに至る身体的な側面として問題視されている。したがって、筋萎縮を抑制することは、健康寿命を延伸させるためにサルコペニアの予防及び改善を図る観点からも重要である。
【0004】
一般に筋萎縮に対しては、筋力トレーニングによる運動療法が効果的であるとされている。しかしながら、筋萎縮によって運動能力が低下すると、身体的な運動に困難が伴うようになるため、効果的な筋力トレーニングを十分に行えない場合も多い。また、筋萎縮によって行動量が減少し、さらに病態を悪化させてしまうという悪循環を招くこともある。
そのため、非力学的な治療法、すなわち、筋萎縮に有効な成分を食品や医薬品の形態で摂取する方法に需要がある。
【0005】
これまでに、筋萎縮の抑制に有効な成分であって食品や医薬品の形態で摂取が可能なものとして、大豆ペプチドを有効成分とするものが提案されている(特許文献1~3)。また、コラーゲンもしくはゼラチン又はこれらを加水分解して得られるペプチドも筋萎縮抑制剤の有効成分として開示されている(特許文献4)。また、乳由来塩基性タンパク質画分又は乳由来塩基性タンパク質画分加水分解物も筋萎縮を防止する成分として開示されている(特許文献5)。さらに、特定のアミノ酸配列を有するペプチド混合物についても筋萎縮抑制剤の有効成分として開示されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-013468号公報
【特許文献2】特開2016-44146号公報
【特許文献3】特開2019-48775号公報
【特許文献4】国際公開2014/030514号
【特許文献5】特開2014-193821号公報
【特許文献6】特開2016-160183号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本老年医学会によるステートメント https://jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、筋萎縮抑制作用を有するペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のアミノ酸配列を含むペプチドが、筋管が細くなることを抑制する作用を有することを見出した。これに基づき、これらのペプチドが筋萎縮抑制用組成物の有効成分となることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、以下の(a)及び(b)からなる群から選択されるペプチドを一種又は二種以上含有する、筋萎縮抑制用組成物である。
(a)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、筋萎縮抑制作用を有するペプチド
本態様において、選択されるペプチドは前記(a)に記載のペプチドであることが好ましい。
本態様の組成物は、好ましくは医薬品又は飲食品である。
【0011】
本発明の第二の態様は、以下の(a’)及び(b’)からなる群から選択されるペプチドである。
(a’)配列番号2~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b’)配列番号2~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド(ただし、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるペプチドを除く)
本態様において、ペプチドは(a’)に記載のペプチドであることが好ましい。
本態様の組成物は、好ましくは医薬品又は飲食品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペプチドは優れた筋萎縮抑制作用を有することから、医薬組成物や飲食品などの形態で筋萎縮抑制用組成物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ペプチド含有試験試料を添加して培養した筋芽細胞における筋管直径を示すグラフ(ブランク対照群を100%とする)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0015】
本発明の筋萎縮用組成物は、以下の(a)及び(b)からなる群から選択されるペプチド(以降、「本発明のペプチド」とも記す)を一種又は二種以上を有効成分として含有する。
(a)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、筋萎縮抑制
作用を有するペプチド
【0016】
これらのうち、以下の(a’)及び(b’)からなる群から選択されるペプチドは、新たに見出されたものである。
(a’)配列番号2~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b’)配列番号2~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド(ただし、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるペプチドを除く)
【0017】
なお、本明細書において配列番号1~3は、以下のアミノ酸配列をそれぞれ指す。
配列番号1:Ala-Pro-Phe-Pro-Glu-Val-Phe(APFPEVF)
配列番号2:Ala-Pro-Phe-Pro-Glu-Val-Phe-Gly-Lys-Glu(APFPEVFGKE)
配列番号3:Ser-Leu-Pro-Gln-Asn-Ile-Pro-Pro-Leu-Thr-Gln-Thr-Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro-Phe(SLPQNIPPLTQTPVVVPPF)
【0018】
ここで、Ala(A)はアラニン残基を、Pro(P)はプロリン残基を、Phe(F)はフェニルアラニン残基を、Glu(E)はグルタミン酸残基を、Val(V)はバリン残基を、Gly(G)はグリシン残基を、Lys(K)はリジン残基を、Ser(S)はセリン残基を、Leu(L)はロイシン残基を、Gln(Q)はグルタミン残基を、Asn(N)はアスパラギン残基を、Ile(I)はイソロイシン残基を、Thr(T)はスレオニン残基を、それぞれ示す。いずれのアミノ酸も、L-型アミノ酸であることが好ましい。
【0019】
前述の(b)又は(b’)に関し、アミノ酸残基が置換、欠失、又は付加される位置は、ペプチドが筋萎縮抑制作用を有する限りにおいて特に制限されない。好ましくは、配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端にアミノ酸残基が付加される。
また、置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、ペプチドが筋萎縮抑制作用を有する限りにおいて特に制限されない。置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、例えば、1~10個であってもよく、1~5個であってもよく、1~3個であってもよく、1個であってもよい。
また、置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基は、ペプチドが筋萎縮抑制作用を有する限りにおいて特に制限されない。
なお、「筋萎縮抑制作用」については後述する。
【0020】
本発明のペプチドは、フリー体であっても、その塩の形態であってもよい。塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属類;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属類等との塩が挙げられる。また、塩酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩の形態であってもよい。
【0021】
本発明の筋萎縮抑制用組成物に含有させるペプチドとしては、(a)配列番号1~3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるペプチドが特に好ましい。
【0022】
本発明のペプチドは、例えば、(1)本発明のペプチドのアミノ酸配列のうち所望の配列を含むタンパク質やペプチドを加水分解酵素等にて分解し、得られた分解物から分離精製して得る方法、(2)ペプチドの合成法によって本発明のペプチドを合成した後、得られた粗合成物から所望の本発明のペプチドを分離精製して得る方法、(3)本発明のペプ
チドを生産する植物、動物又は微生物から抽出し、得られた抽出物から分離精製する方法等により得ることができる。
以下に(1)及び(2)の方法について具体的に説明する。
【0023】
(1)加水分解により得る方法
本発明のペプチドは、その所望の配列、例えば配列番号1~3のいずれかを含むタンパク質やペプチドをタンパク質加水分解酵素や、酸・アルカリ等により加水分解し、得られた加水分解物から本発明のペプチドを分離精製して得ることができる。原料となるタンパク質やペプチドを含むものとしては、例えば、乳、大豆、えんどう豆、稲(米)、小麦、大麦、じゃが芋、さつま芋、トウモロコシ、卵、畜肉、魚肉、魚介などに由来するタンパク質などが挙げられる。
【0024】
以下に一般的なタンパク質を原料として用いる場合を例に挙げて、加水分解酵素による処理によって本発明のペプチドを得る方法を説明するが、タンパク質原料の種類に応じて適宜改変してペプチドを得ることができる。
タンパク質原料は、本発明のペプチドを一次構造中に含むタンパク質であって、適宜加水分解酵素で消化したときに本発明のペプチドが生成可能なものを用いる。
まず、酵素で加水分解する前に、原料タンパク質を水又は温湯に分散し、溶解してタンパク質水溶液を調製する。当該タンパク質を可溶化させるために、適宜pH調整を行ってもよい。当該タンパク質水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、タンパク質濃度として2質量%以上、さらに好ましくは5~30質量%程度の濃度範囲に設定するのが好適である。
さらに、前記タンパク質水溶液を、ナトリウム型又はカリウム型陽イオン交換樹脂(好適には強酸性陽イオン交換樹脂)を用いたイオン交換法、電気透析法、限界ろ過膜法、ルーズ逆浸透膜法等で脱塩し、適宜pH調整やカルシウム濃度調整を行うのが好適である。脱塩の際には、カラム式やバッチ式の何れを採用してもよい。また、タンパク質水溶液を、脱塩前等に適宜、加熱殺菌をおこなってもよい。
【0025】
次いで、前記タンパク質水溶液を、加水分解処理する。当該加水分解処理として、例えば酵素処理、酸処理、アルカリ処理、熱処理等が挙げられ、これらの2種以上の処理を適宜組み合わせてもよい。
酵素処理には、植物由来、動物由来、微生物由来等のタンパク質分解酵素を使用でき、これらから1種又は2種以上組み合わせて使用できる。当該タンパク質分解酵素としては、エンドプロテアーゼが好適である。
前記エンドプロテア-ゼとしては、例えば、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼが挙げられ、これらを1種又は2種以上選択して用いることができる。このうち、セリンプロテアーゼ及び/又はメタロプロテアーゼを用いるのが好適である。
また、プロテアーゼは、アルカリ性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ及び酸性プロテアーゼに分類される。このうち中性プロテアーゼを用いるのが好適である。
【0026】
前記タンパク質分解酵素は、市販品を用いることができる。前記タンパク質分解酵素として、例えば、スミチームLP(新日本化学工業社製)、ビオプラーゼ(ナガセケムテックス社製)、プロレザー(天野エンザイム社製)、プロテアーゼS(天野エンザイム社製)、PTN6.0S(ノボザイムズ社製)、サビナーゼ(ノボザイムズ社製)、GODO
B.A.P(合同酒精社製)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)、GODO B.N.P(合同酒精社製)、ニュートラーゼ(ノボザイムズ社製)、アルカラーゼ(ノボザイムズ社製)、トリプシン(ノボザイムズ社製)、キモトリプシン(ノボザイムズ社製)、スブチリシン(ノボザイムズ社製)、パパイン(天野エンザイム社製)、ブロメライン(天野エンザイム社製)等が挙げられ、これらから1種又は2種以上の酵素を選択して
用いてもよい。
【0027】
前記タンパク質に対するエンドプロテア-ゼの使用量は、特に限定されず、基質濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間等により適宜調整すればよいが、一般的には、タンパク質中のタンパク質1g当り100~30,000活性単位の割合で添加することが好ましい。
前記タンパク質分解酵素による加水分解条件を適宜調整することにより、所望のペプチドを得ることができる。
【0028】
前記タンパク質分解酵素による加水分解前に、前記原料タンパク質溶液のpHを、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の食品上使用可能な塩類を用いて、使用酵素の至適pHに調整することもできる。前記原料タンパク質溶液のpHは、好ましくは5~10、より好ましくは7~10に調整する。
【0029】
前記タンパク質分解酵素の反応温度は、使用酵素の最適温度の範囲で行うことが望ましく、好ましくは30~70℃、より好ましくは40~60℃で行う。
前記タンパク質分解酵素の反応保持時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ければよく例えば30分~24時間で行うことが可能であり、好ましくは1~15時間、より好ましくは3~10時間である。分解率は、特に限定されないが、10~40%であることが好ましい。
【0030】
なお、原料タンパク質の分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547頁、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0031】
前記タンパク質分解酵素による加水分解は、当該酵素を加熱して失活させて終了させればよい。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができる。例えば、100℃以上(好適には120~140℃)で失活させる場合には1~3秒間、100℃未満60℃以上で失活させる場合には3~40分間で行うことが好適である。
加熱処理の方式としては、バッチ方式、連続方式のいずれの方式も可能であり、連続方式として、プレート熱交換方式、インフュージョン方式、インジェクション方式等の方式を用いることができる。
なお、前記の加熱失活処理は、加水分解物の殺菌処理として併用することも可能であり、常法による加熱処理方法等を用いることができる。
加水分解終了後、必要に応じて分解液のpHを、好ましくは6~8、より好ましくは7.0±0.5、さらに好ましくは7.0±0.3とするのが好適である。
【0032】
なお、本明細書におけるタンパク質加水分解物の製造において、カルシウム濃度未調整の溶液を加水分解した場合には、得られた分解液を、前記のような脱塩処理し、カルシウム濃度を調整してもよい。次いで、常法により加熱して酵素を失活させる。反応加熱温度と反応保持時間は使用した酵素の熱安定性を配慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができる。加熱失活後、常法により冷却し、そのまま利用することもでき、必要に応じて濃縮して濃縮液を得ることもでき、更に濃縮液を乾燥し、粉末製品を得ることも可能である。
【0033】
また、前記タンパク質水溶液を酸処理又はアルカリ処理にて加水分解する際には、タン
パク質水溶液のpHを調整して処理すればよい。当該pH調整による処理の場合には、タンパク質水溶液のpHが、好ましくはpH5以下又はpH9以上であり、より好ましくはpH4以下又はpH10以上である。このようにpH処理された水溶液は、室温にて数分以上、好ましくは5分~1時間、放置又は撹拌することによって、酸処理又はアルカリ処理の加水分解物を得ることができる。ここで、「室温」とは、4~40℃程度であるが、10~30℃が好適である。
また、前記タンパク質水溶液を、熱処理にて加水分解してもよい。このタンパク質水溶液は、pH未調整でもよく、またpH調整(具体的には、酸性(pH5以下)、中性(pH6~8)、アルカリ性(pH8以上))してもよい。熱処理は、4~100℃程度で、上記酸アルカリ処理のような条件にて行えばよい。
【0034】
タンパク質加水分解物中の本発明のペプチドの含有率は特に限定されないが、その下限値は、本発明の効能をより良好に発揮させる観点から、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、その上限値は、本発明の分解物の製造効率の観点から、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、よりさらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0035】
なお、本発明において、対象のペプチド含有量は、下記の方法にて測定できる。
(a)試料粉末を、1.0mg/mLとなるように、0.1質量%ギ酸水溶液に溶解し、10分間超音波破砕したのち、0.22μm口径のPVDFフィルター(Millipore社製)でろ過して粉末溶液を調製し、下記測定条件によるLC/MS分析を実施する。一方、測定対象のペプチドの化学合成標準ペプチド(ベックス社製)の溶解液を濃度別に数点調製し、下記測定条件によるLC/MS分析を実施し、検量線を作成する。
前記粉末溶液の分析におけるピークのうち、標準ペプチドと分子量及びリテンションタイムが一致するものを、標準ペプチドと同一の配列として同定する。標準ペプチドのピーク面積と試料粉末のピーク面積を対比することにより、前記粉末溶液中に対象ペプチドの含有量を求める。
【0036】
(b)対象ペプチド含有量(mg/タンパク質加水分解物1g)
対象ペプチド含有量(mg/タンパク質加水分解物1g)=〔得られたタンパク質加水分解物中の対象ペプチド測定値(mg)〕/〔得られたタンパク質加水分解物の質量(g)〕
〔得られたタンパク質加水分解物中の対象ペプチド測定値(mg)〕は、下記「LC/MS」による、試料中の対象ペプチドの測定値である。
【0037】
(c)LC/MS使用機器
質量分析計:Q Excative Focus(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
高速液体クロマトグラフ:Vanquish UHPLCシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 φ2.1 mm×150 mm,1.7 μm(Waters社製)
【0038】
(d)LC/MS測定条件
移動相A:0.1質量% ギ酸-水溶液
移動相B:0.1質量% ギ酸-アセトニトリル溶液
タイムプログラム:2%B-30%B(30分)-90%B(5分)-2%B(1分)-2%B(9分)
試料注入量:10μL、カラム温度:40℃、液体流量:200μL/min
イオン化モード:正イオンモード
質量電荷比(m/z):表1に示す通り
【0039】
【表1】
【0040】
得られたタンパク質加水分解物は、未精製のままの状態で使用しても効能を発揮することが可能である。すなわち、タンパク質加水分解物を後述の飲食品や医薬組成物の態様として、摂取や投与に供してもよい。
また、さらに、得られたタンパク質加水分解物に対して、適宜公知の分離精製を行ってもよい。例えば、得られたタンパク質加水分解物に対して分子量分画を行い、本発明のペプチドの分子量に該当する分画を含むタンパク質加水分解物を得ることができる。目的物質を含む画分は、後述する筋萎縮抑制作用を指標として決定することができる。
分子量分画として、例えば、限外ろ過、ゲルろ過等の方法が採用でき、これにより不要な分子量のペプチドや遊離アミノ酸の除去率を高めることができる。
限外ろ過の場合には、所望の限外ろ過膜を使用すればよく、ゲルろ過の場合には、所望のサイズ排除クロマトグラフィーに用いるゲルろ過剤を使用すればよい。
さらに、脱塩や不純物を除去したり、純度を高めたりするために、公知の分離精製方法例えば、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を用いてもよい。
【0041】
分離精製したペプチドの分画物は、本発明のペプチドが含まれているかどうかを確認することを目的として、質量分析法によりペプチドの同定を行うことができる。
このようにして得られた本発明のペプチドは、ペプチド溶液のまま使用することもでき、また、必要に応じて、該溶液を公知の方法により、濃縮した濃縮液として使用することもできる。また、該濃縮液を公知の方法により乾燥し、粉末にして使用することもできる。
【0042】
(2)合成により得る方法
本発明のペプチドは、化学合成又は生合成によっても製造することができる。
ペプチドの化学合成は、ペプチドの合成に通常用いられている液相法または固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは必要に応じて脱保護され、未反応試薬や副生物等を除去して、本発明のペプチドを単離することが可能である。このようなペプチドの合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。
ペプチドの生合成は、宿主生物にペプチド発現ベクターを導入して生成・分泌させるといった常法により行うことができる。
目的とするペプチドが得られたことは、後述する筋萎縮抑制作用を指標として確認することができる。
【0043】
本発明のペプチドは、筋萎縮抑制作用を有する。
本明細書において「筋萎縮」とは、筋肉を構成する骨格筋タンパク質の生成と分解のバランスが分解側に傾くことによって、筋肉がやせることを意味する。具体的には、筋管が細くなることを指す。
また、本明細書において「抑制」とは、適用対象における疾患の症状・状態の好転、疾
患の症状・状態の悪化の防止若しくは遅延又は進行の逆転等を意味するものである。さらに、本明細書における「抑制」とは、適用対象における疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象の疾患の発症の危険性を低下させる等の予防的な意味をも包含するものである。
【0044】
筋萎縮抑制作用を有するとは、本発明のペプチド存在下における筋萎縮の程度が、非存在下における作用に比べて小さいことをいう。すなわち、筋肉が萎縮する前の状態を維持することをいう。
より具体的には、例えば筋萎縮を促す条件(デキサメタゾン存在下、加齢など)において、本発明のペプチド存在下の筋萎縮の程度が非存在下の筋萎縮の程度の好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましく70%以下であることをいう。かかる筋萎縮の程度は、筋管の太さを指標としてよく、筋肉がやせる(筋管が細くなる)速度を指標としてよく、筋肉量を指標としてもよい。
筋萎縮抑制作用は、例えば、後述の実施例に記載する方法や、定法により確認することができる。
【0045】
したがって、本発明のペプチドは、筋萎縮抑制用組成物の有効成分として好ましく含有させることができる。ここで、本発明のペプチドはタンパク質加水分解物の態様で剤に含まれていてもよく、言い換えると本発明のペプチドを一種又は二種以上を含むタンパク質加水分解物は、筋萎縮抑制用組成物の有効成分として好ましく含有させることができる。
【0046】
本発明の筋萎縮抑制用組成物は、種々の筋萎縮や筋萎縮に伴う又は筋萎縮を伴う疾患や症状の予防、改善又は治療に好ましく供することができる。なお、筋萎縮や筋萎縮に伴う又は筋萎縮を伴う疾患や症状には、医学的な診断がなされる前の段階の好ましくない状態を含むものであってよい。
ここで、筋萎縮や疾患や症状等の予防とは、筋萎縮や疾患や症状等を罹患(発症)していない適用対象において、その発生を防止すること、該発生を遅延させること、及び該発生の危険性を低下させることを含む。
【0047】
例えば、「廃用性筋萎縮」は、最も一般的にみられる筋萎縮であり、何らかの事情で筋肉が一定期間使用されなかったことによって筋肉の容量が減退して起こるものである。具体的には、寝たきり、無運動、無重力飛行に起因する筋萎縮;怪我の治療等で行われる四肢の固定、又は術後の安静に起因する筋萎縮;等が本発明の筋萎縮抑制用組成物の適用の対象として挙げられる。
また、サルコペニア等の「加齢性筋萎縮」や、それで引き起こされるフレイルもまた、本発明の筋萎縮抑制用組成物の適用の対象となり得る。
また、「筋原性筋萎縮」と呼ばれる、筋肉自体に何らかの障害が発生して生じる筋萎縮もまた、本発明の筋萎縮抑制用組成物の適用の対象となり得る。具体的には、筋ジストロフィー、先天性ミオパチー代謝性筋疾患、ミトコンドリア病及び糖原病等の病態において観察される筋萎縮が挙げられる。
また、「神経原性筋萎縮」と呼ばれる、筋肉に指令や栄養を供給している運動ニューロンにおける何らかの障害が原因となって誘発される筋萎縮もまた、本発明の筋萎縮抑制用組成物の適用の対象となり得る。具体的には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、乳児脊椎性筋萎縮症、シャルコ・マリー・ツース病、先天性ミエリン形成不全症等が挙げられる。
また、筋萎縮は、筋力低下、リハビリテーション時の日常生活動作(ADL:activities of daily living)の低下などを引き起こすため、これらの回復に対しても本発明の筋萎縮抑制用組成物は適用の対象となり得る。
【0048】
本発明のペプチドを投与する対象(被投与者)及び摂取させる対象(摂取者)は、動物であれば特に限定されないが、通常はヒトである。また、成人、小児、乳児、新生児等の
いずれであってもよい。また、性別は特に限定されない。
また、本発明の摂取者及び被投与者は、好ましくは筋萎縮を起こしていない状態である。ここで、筋萎縮を起こしていないことは、医師により「廃用性筋萎縮」、「筋原性筋萎縮」、又は「神経原性筋萎縮」であると診断されていないことであってもよいし、種々の検査で筋萎縮の判定基準に該当していないことであってもよい。摂取者(被投与者)がヒトである場合は、好ましくは、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下を示すサルコペニアの診断基準(ガイドラインAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019またはEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)2)において、サルコペニアに該当しないことにより、確認することができる。
【0049】
本発明の別の側面は、筋萎縮抑制用組成物の製造における、本発明のペプチドの使用である。
本発明の別の側面は、筋萎縮の抑制における、本発明のペプチドの使用である。
本発明の別の側面は、筋萎縮の抑制のために用いられる、本発明のペプチドである。
本発明の別の側面は、本発明のペプチドを動物に投与することを含む、筋萎縮を抑制する方法である。
【0050】
なお、本明細書において「本発明のペプチドを動物に投与すること」は、「本発明のペプチドを動物に摂取させること」と同義であってよい。摂取は、自発的なもの(自由摂取)であってもよく、強制的なもの(強制摂取)であってもよい。すなわち、投与工程は、具体的には、例えば、本発明のペプチドを飲食品や飼料に配合して対象に供給し、以て対象に本発明のペプチドを自由摂取させる工程であってもよい。
【0051】
本発明のペプチドの摂取(投与)時期は、特に限定されず、投与対象の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0052】
本発明のペプチドの摂取(投与)量は、摂取(投与)対象の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。
本発明のペプチドの摂取(投与)量は、本発明のペプチド1種類ずつの摂取量として、例えば、成人において1μg/日~200mg/日の範囲が好ましく、5μg/日~20mg/日の範囲がさらに好ましい。
なお、摂取(投与)の量や期間にかかわらず、本発明のペプチドは1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0053】
本発明のペプチドの摂取(投与)期間は、特に限定されないが、好ましくは12週間以上、より好ましくは24週間以上とすると、効果が得られやすい。また、摂取(投与)期間の上限は特に設けられず、継続的な、長期の摂取(投与)が可能である。
【0054】
本発明のペプチドの摂取(投与)経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
【0055】
本発明の筋萎縮抑制用組成物における本発明のペプチドの含量は、総量で、好ましくは0.000001%以上、より好ましくは0.000005%以上、さらに好ましくは0.00001%以上、さらに好ましくは0.0001%以上、さらに好ましくは0.001%以上であり、一方で、好ましくは100%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。例えば、総量で、0.000001%~100%の範囲内、0.000005%~20%の範囲内、0.00001%~10%の範囲内、0.0001%~10%の範囲内、又は0.001%~10%の範囲内等である。
【0056】
本発明の筋萎縮用組成物は、医薬品の態様とすることができる。すなわち、筋萎縮や筋萎縮に伴う又は筋萎縮を伴う疾患や症状の予防、改善又は治療のための医薬組成物も本発明の一態様である。かかる筋萎縮や疾患・症状については前述した説明に準ずる。
【0057】
医薬組成物の投与経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
医薬組成物の形態としては、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤、注射剤等に製剤化することができる。
製剤化に際しては、本発明のペプチドの他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、他の薬効成分や、公知の又は将来的に見出される筋萎縮に起因する疾患や症状を予防、改善及び/又は治療し得る成分等の他の医薬を併用することも可能である。
また、本発明の効果を妨げない限りにおいて、他のペプチドが併存してもかまわない。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、通常製剤化に用いる担体を配合して製剤化してもよい。かかる担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0058】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0059】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0060】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0061】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0062】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0063】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤等が挙げられる。
【0064】
本発明の医薬組成物を摂取するタイミングは、例えば食前、食後、食間、就寝前など特に限定されないが食前が好ましい。
【0065】
本発明の筋萎縮用組成物を経口摂取される形態とする場合は、飲食品の態様とすることが好ましい。すなわち、筋萎縮や筋萎縮に伴う又は筋萎縮を伴う好ましくない状態の予防又は改善のための飲食品も本発明の一態様である。言い換えると、本発明に係る飲食品は、筋萎縮の抑制作用に関する用途を付した飲食品である。かかる筋萎縮や状態については前述した説明に準ずる。
【0066】
飲食品としては、本発明の効果を損なわず、経口摂取できるものであれば形態や性状は特に制限されず、本発明のペプチドを含有させること以外は、通常飲食品に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
【0067】
飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、例えば、錠菓;流動食(経管摂取用栄養食);パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬のり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、サプリメント等の栄養補助食品等が挙げられる。
【0068】
なお、飲食品としてサプリメントの形態とする場合は、腸溶性コーティング等により腸溶処理されてもよい、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;等に製剤化することができる。かかる製剤化に際しては、前述の医薬品の製剤化に係る成分、担体、及び方法の説明に準ずることができる。
【0069】
また、飲食品の一態様として飼料とすることもできる。飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
飼料の形態としては特に制限されず、本発明のペプチドの他に例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
【0070】
本発明のペプチドが飲食品(飼料を含む)の態様である場合、筋萎縮や筋萎縮に伴う又
は筋萎縮を伴う好ましくない状態の予防又は改善に関する用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。また、本明細書に係る本発明のペプチドは、これら飲食品等の製造のために使用可能である。
【0071】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0072】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0073】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0074】
かかる表示としては、例えば、「筋肉の衰えが気になる方に」、「筋肉の萎縮が気になる方に」、「健康な筋肉を保つ」、「筋肉量を維持する」、「加齢に伴い低下する筋肉量を維持する」、「筋肉を痩せさせないために」、「運動機能の改善のために」、「老化を防ぎたい方に」、「健康寿命を延ばしたい方に」等と表示することが挙げられる。
【実施例0075】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
<ペプチドの筋萎縮抑制作用の評価>
Fmoc固相合成法により以下の配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列からなるペプチドを化学合成した。脱保護後に逆相HPLCで精製後、凍結乾燥した。
【0077】
筋萎縮抑制を評価する系として一般的に用いられるマウス骨格筋由来の筋芽細胞株であるC2C12細胞(CRL-1772、ATCC)の筋管直径の長さに与える影響を指標にして筋萎縮抑制効果を評価した。なお、C2C12細胞は、分化誘導によって筋細胞に分化する細胞であるため、ここでは、分化前のC2C12細胞を「C2C12前駆細胞」と表記する。
C2C12前駆細胞を、細胞培養用6ウェルプレートに約2.4×10cells/ウェルの量で播種し、Dulbecco’s Modified Eagle Medi
um(DMEM)高グルコース培地に1%(v/v) penicillin/streptomycin及び2mmol/L L-Glutamineを添加した培地(以下、基本培地とする)に、10%(v/v) Fetal Bovine Serum(FBS)を添加した培地を用いて、37℃、CO濃度5%の条件下で24時間培養した。その後、筋管形成の分化を誘導するために、基本培地に2%(v/v) Horse Serumを添加した分化培地に替えて、37℃、CO濃度5%の条件下でさらに6日間培養した。培養期間中は2又は3日おきに分化培地を交換した。
分化したC2C12細胞に、ブランク対照群(基本培地)、陰性対照群(10μMデキサメタゾンを添加した基本培地)、陽性対照群(10μMデキサメタゾンおよび0.2mg/mLインスリンを添加した基本培地)、並びに試験試料群1~5(配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列からなるペプチドをそれぞれ100μg/mL、及び10μMデキサメタゾンを添加した基本培地)の各培地をそれぞれ細胞に添加して、37℃、CO濃度5%の条件下で24時間培養した(各群n=3)。
【0078】
培養後のC2C12細胞をD-PBS(-)で洗浄し、ヘマトキシリン・エオジン染色にて、核と細胞質を染色し、染色後の筋管をカメラ付き光学顕微鏡により撮影した。各ウェルにつき4ヶ所の写真を撮影し、各写真から標準的な太さの筋管をそれぞれ5本ずつ選択後、筋管の標準的な太さの箇所の直径をcell Sencesイメージングソフトウェア(OLYMPUS)を用いて測定した。
【0079】
ブランク対照群におけるC2C12細胞の筋管直径の平均値を100%とした際の、各群におけるC2C12細胞の筋管直径の平均値の相対値と、標準偏差を図1に示す。統計解析として、陰性対照群を基準としたダネット検定を行った。その結果、ブランク対照群に比べると、陰性対照群の筋管直径は有意に減少したことから、デキサメタゾンが筋管を細くし、筋萎縮を引き起こす可能性があることを示した。また、陰性対照群に比べて、陽性対照群、試験試料群1、2および3は相対値が有意に高かったことから、試験試料群1、2および3に含まれるペプチドはデキサメタゾンによって誘発される筋管直径の減少を抑え、筋萎縮を抑制することが確認された。また、試験試料群4及び試験試料群5と陰性対照群との間に有意差はなく、これらの試料は筋管直径に影響を与えないことが確認された。
図1
【配列表】
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