IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TMTマシナリー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-紡糸引取装置 図1
  • 特開-紡糸引取装置 図2
  • 特開-紡糸引取装置 図3
  • 特開-紡糸引取装置 図4
  • 特開-紡糸引取装置 図5
  • 特開-紡糸引取装置 図6
  • 特開-紡糸引取装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168288
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】紡糸引取装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 57/14 20060101AFI20241128BHJP
   B65H 54/44 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B65H57/14
B65H54/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084835
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】田中 竣也
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇倫
【テーマコード(参考)】
3F110
【Fターム(参考)】
3F110BA00
3F110CA04
3F110DA09
3F110DB15
(57)【要約】
【課題】支点ガイドの局所摩耗を低減するとともに、支点ガイドの早期破損を抑制することを目的とする。
【解決手段】紡糸引取装置1は、支点ガイド31を有するガイド体16と、制御装置60と、を備える。制御装置60は、ゴデットローラ3、4の回転数を、第1糸巻取速度と第1糸掛け速度との間で切り替える。また、制御装置60は、ボビンホルダ13の回転数を、第2糸巻き取り速度と第2糸掛け速度との間で切り替える。支点ガイド31は、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能である。紡糸引取装置1では、加速期間における支点ガイド31の最大回転数は、定速期間における支点ガイド31の最大回転数よりも大きい。ガイド体16には、加速期間における支点ガイド31の回転数が14400rpm未満となるように、支点ガイド31に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段37が設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸送りローラによって送られる複数の糸を、ボビンホルダに装着された複数のボビンに巻き取る紡糸引取装置であって、
前記ボビンホルダに装着された前記ボビンに前記糸を綾振りしながら巻き取る際の支点となる支点ガイドを有し、前記糸が走行する糸走行方向において前記糸送りローラと前記ボビンホルダとの間に設けられたガイド体と、
前記糸送りローラの回転数を、前記ボビンに前記糸を巻き取るときの第1糸巻き取り速度と、前記第1糸巻き取り速度よりも低速であって前記ボビンに前記糸を掛けるときの第1糸掛け速度と、の間で切り替える第1切替制御部と、
前記ボビンホルダの回転数を、前記ボビンに前記糸を巻き取るときの第2糸巻き取り速度と、前記第2糸巻き取り速度よりも低速であって前記ボビンに前記糸を掛けるときの第2糸掛け速度と、の間で切り替える第2切替制御部と、
を備え、
前記支点ガイドは、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能であり、
前記糸送りローラの回転数が前記第1糸掛け速度から前記第1糸巻き取り速度に加速し、且つ、前記ボビンホルダの回転数が前記第2糸掛け速度から前記第2糸巻き取り速度に加速する期間である加速期間における前記支点ガイドの最大回転数は、
前記糸送りローラの回転数が前記第1糸巻き取り速度であり、且つ、前記ボビンホルダの回転数が前記第2糸巻き取り速度であるときの定速期間における前記支点ガイドの最大回転数よりも大きく、
前記ガイド体には、前記加速期間における前記支点ガイドの最大回転数が14400rpm未満となるように、前記支点ガイドに回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段が設けられていることを特徴とする紡糸引取装置。
【請求項2】
前記ボビンホルダに装着された前記複数のボビンの外周面に接触するコンタクトローラと、
前記コンタクトローラの回転数を、前記ボビンに前記糸を巻き取るときの第3糸巻き取り速度と、前記第3糸巻き取り速度よりも低速であって前記ボビンに前記糸を掛けるときの第3糸掛け速度と、の間で切り替える第3切替制御部と、
を備え、
前記加速期間では、前記コンタクトローラの回転数が前記第3糸掛け速度から前記第3糸巻き取り速度に加速し、
前記定速期間では、前記コンタクトローラの回転数が前記第3糸巻き取り速度であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取装置。
【請求項3】
前記回転抵抗付与手段は、前記加速期間における前記支点ガイドの最大回転数が12000rpm以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸引取装置。
【請求項4】
前記回転抵抗付与手段は、
前記支点ガイドの軸方向の一方側に配置される被押付部と、
前記支点ガイドを前記被押付部に向かって押し付ける押付部材と、
を有し、
前記支点ガイドと前記被押付部との間、及び/又は、前記支点ガイドと前記押付部材との間に、介在部材が配置されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記介在部材は、PEEK系樹脂からなることを特徴とする請求項4に記載の紡糸引取装置。
【請求項6】
前記押付部材と前記介在部材との間に、前記押付部材から前記介在部材に向かう力を分散させるための分散部材が配置されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の紡糸引取装置。
【請求項7】
前記支点ガイドは、セラミック製であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の紡糸引取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を綾振りしながらボビンに巻き取る際の支点となる支点ガイドを有するガイド体を備える紡糸引取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された糸を綾振りしながらボビンに巻き取る紡糸引取装置が知られている。このような紡糸引取装置には、糸を綾振りする際の支点となる支点ガイドが設けられている。例えば、特許文献1では、円筒形状の支点ガイドが設けられており、支点ガイドの外周面に糸が掛けられる。
【0003】
特許文献1の支点ガイドは、支点ガイドが走行する糸から所定値以上のトルクを受けた場合に、糸の走行速度よりも遅い周速で回転する構成となっている。糸の巻き取り中に支点ガイドが回転することによって、支点ガイドの外周面において糸と接触する部分を変化させることができ、支点ガイドの外周面の局所的な摩耗を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-112481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、支点ガイドが早期に破損するという問題が見られた。
【0006】
そこで、本願発明は、支点ガイドの局所摩耗を低減するとともに、支点ガイドの早期破損を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の紡糸引取装置は、糸送りローラによって送られる複数の糸を、ボビンホルダに装着された複数のボビンに巻き取る紡糸引取装置であって、前記ボビンホルダに装着された前記ボビンに前記糸を綾振りしながら巻き取る際の支点となる支点ガイドを有し、前記糸が走行する糸走行方向において前記糸送りローラと前記ボビンホルダとの間に設けられたガイド体と、前記糸送りローラの回転数を、前記ボビンに前記糸を巻き取るときの第1糸巻き取り速度と、前記第1糸巻き取り速度よりも低速であって前記ボビンに前記糸を掛けるときの第1糸掛け速度と、の間で切り替える第1切替制御部と、前記ボビンホルダの回転数を、前記ボビンに前記糸を巻き取るときの第2糸巻き取り速度と、前記第2糸巻き取り速度よりも低速であって前記ボビンに前記糸を掛けるときの第2糸掛け速度と、の間で切り替える第2切替制御部と、を備え、前記支点ガイドは、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能であり、前記糸送りローラの回転数が前記第1糸掛け速度から前記第1糸巻き取り速度に加速し、且つ、前記ボビンホルダの回転数が前記第2糸掛け速度から前記第2糸巻き取り速度に加速する期間である加速期間における前記支点ガイドの最大回転数は、前記糸送りローラの回転数が前記第1糸巻き取り速度であり、且つ、前記ボビンホルダの回転数が前記第2糸巻き取り速度であるときの定速期間における前記支点ガイドの最大回転数よりも大きく、前記ガイド体には、前記加速期間における前記支点ガイドの最大回転数が14400rpm未満となるように、前記支点ガイドに回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
本願発明者らが、早期に支点ガイドが破損するという問題の原因を鋭意調査したところ、加速期間における支点ガイドの回転数が定速期間における支点ガイドの回転数と比べて過剰に大きくなることがあり、加速期間に支点ガイドに大きなトルクがかかり、軸受けへの負荷が非常に大きくなることが一因であると推定するに至った。そして、支点ガイドの回転数がおおよそ14000rpm以上になると、支点ガイドが破損するとともに、軸受けの損耗が激しくなるという知見を得た。このような知見に基づいて、加速期間中の支点ガイドの回転数が14400rpm未満となるように、支点ガイドに対する回転抵抗を調整したところ、支点ガイドの早期破損が効果的に抑制され、加えて軸受けの損耗が効果的に抑制された。
【0009】
本発明の紡糸引取装置において、前記ボビンホルダに装着された前記複数のボビンの外周面に接触するコンタクトローラと、前記コンタクトローラの回転数を、前記ボビンに前記糸を巻き取るときの第3糸巻き取り速度と、前記第3糸巻き取り速度よりも低速であって前記ボビンに前記糸を掛けるときの第3糸掛け速度と、の間で切り替える第3切替制御部と、を備え、前記加速期間では、前記コンタクトローラの回転数が前記第3糸掛け速度から前記第3糸巻き取り速度に加速し、前記定速期間では、前記コンタクトローラの回転数が前記第3糸巻き取り速度であることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、加速期間にコンタクトローラの回転数が加速する構成において、支点ガイドの早期破損を効果的に抑制できる。
【0011】
本発明の紡糸引取装置において、前記回転抵抗付与手段は、前記加速期間における前記支点ガイドの最大回転数が12000rpm以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与することが好ましい。
【0012】
支点ガイドの回転数を12000rpm以下とさらに低くすることで、支点ガイドの早期破損をさらに抑制できる。
【0013】
本発明の紡糸引取装置において、前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの軸方向の一方側に配置される被押付部と、前記支点ガイドを前記被押付部に向かって押し付ける押付部材と、を有し、前記支点ガイドと前記被押付部との間、及び/又は、前記支点ガイドと前記押付部材との間に、介在部材が配置されていることが好ましい。
【0014】
押付部材による押付力によって、支点ガイドに回転抵抗を付与することができる。また、介在部材の形状、寸法、材質等によって支点ガイドに作用する押付力の調整が可能となり、支点ガイドの回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0015】
本発明の紡糸引取装置において、前記介在部材は、PEEK系樹脂からなることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、介在部材として、摺動性及び耐熱性に優れるPEEK系樹脂を用いているため、回転する支点ガイドと直接接触する介在部材が摩耗して劣化することを抑制できる。
【0017】
本発明の紡糸引取装置において、前記押付部材と前記介在部材との間に、前記押付部材から前記介在部材に向かう力を分散させるための分散部材が配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明によれば、押付部材から介在部材に局所的に力がかかるのを抑制し、介在部材の早期損傷を抑制できる。
【0019】
本発明の紡糸引取装置において、前記支点ガイドは、セラミック製であることが好ましい。
【0020】
セラミック製の支点ガイドの場合、他の材質の支点ガイドを用いる場合と比べて、支点ガイドと接触する糸が摩擦によって損耗することを抑えられる。一方で、セラミック製の支点ガイドは、破損しやすいという性質を持つ。このような破損しやすいセラミック製の支点ガイドを用いた構成において、本発明を適用することで、支点ガイドの破損をより効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る紡糸引取装置の側面図である。
図2】ガイドユニットの側面図である。
図3】ガイド体の断面図である。
図4】紡糸引取装置の電気的構成を示すブロック図である。
図5】ボビンホルダの周速とボビンホルダに掛けられた糸の張力の関係を示すグラフである。
図6】加速期間における支点ガイドの回転数の推移を示すグラフである。
図7】ばねの強さと加速期間における支点ガイドの最高回転数との関係について示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る紡糸引取装置の実施形態について説明する。
【0023】
(紡糸引取装置)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取装置1の側面図である。本明細書では、図1に示す前後左右上下の各方向を、紡糸引取装置1の前後左右上下と定義する。
【0024】
紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数(本実施形態では16本)の糸Yを引き取る装置であり、ゴデットローラ3、4(本発明の糸送りローラ)及び糸巻取機10を備えている。紡糸装置2は、紡糸引取装置1の上方に配置されており、合成樹脂からなる複数の糸Yを紡出する。ゴデットローラ3、4は、紡糸装置2の下方に配置されており、後述のローラモータ51、52(図4参照)によって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、ゴデットローラ3、4を経由して、糸巻取機10へ送られる。
【0025】
糸巻取機10は、ゴデットローラ3、4の下方に配置されている。糸巻取機10は、機台11に内蔵されたターレット12によって片持ち支持された2本のボビンホルダ13を有する。ボビンホルダ13は前後方向に延びており、その後端部がターレット12によって支持されている。ボビンホルダ13には、前後方向に複数のボビンBを装着することができる。ボビンホルダ13は、後述の巻取モータ53(図4参照)によって軸周りに回転駆動される。
【0026】
ターレット12は、前後方向に平行な回転軸を有する円板状の部材であり、周方向に180度異なる上位置と下位置とのそれぞれにボビンホルダ13が取り付けられている。ターレット12を回転させることによって、2本のボビンホルダ13が上位置と下位置との間で移動する。上位置のボビンホルダ13では、複数の糸Yを複数のボビンBに巻き取って、複数のパッケージPを形成する。一方、下位置のボビンホルダ13では、複数のパッケージPの回収、及び、新しい複数のボビンBの装着が行われる。
【0027】
糸巻取機10は、機台11に片持ち支持された支持フレーム14を有する。支持フレーム14は、その後端部が機台11によって支持されている。支持フレーム14の上方には、ガイドユニット15が配置されている。ガイドユニット15には、糸Yの本数と同じ数のガイド体16が前後方向に並んで設けられている。支持フレーム14には、糸Yの本数と同じ数のトラバース装置17が前後方向に並んで設けられている。トラバース装置17は、対応するガイド体16を支点として糸Yを前後方向に綾振りさせる。
【0028】
支持フレーム14の下方には、支持フレーム14によって回転可能に支持されたコンタクトローラ18が配置されている。コンタクトローラ18は、上位置のボビンホルダ13に装着されている複数のボビンBの外周面、又は複数のボビンBに糸Yが巻き取られて形成された複数のパッケージPの外周面に接触する。糸巻取時に、コンタクトローラ18がパッケージPに所定の接圧を付与しながら回転することで、パッケージPの形状を整えることができる。コンタクトローラ18は、後述のCRモータ54(図4参照)によって回転駆動される。
【0029】
(紡糸引取装置の電気的構成)
続いて、本実施形態の紡糸引取装置1の電気的構成について、図4を参照しつつ説明する。図4は、紡糸引取装置1の電気的構成を示すブロック図である。紡糸引取装置1は、制御装置60を有する。制御装置60は、ローラモータ51、ローラモータ52、巻取モータ53、CRモータ54と電気的に接続されている。
【0030】
制御装置60は、ローラモータ51を制御して、ゴデットローラ3の回転数を、第1糸巻き取り速度と第1糸掛け速度との間で切り替える。ゴデットローラ3の第1糸巻き取り速度とは、糸巻取機10によってボビンBに糸Yを巻き取るときのゴデットローラ3の回転数である。ゴデットローラ3の第1糸掛け速度とは、第1糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときのゴデットローラ3の回転数である。また、制御装置60は、ローラモータ52を制御して、ゴデットローラ4の回転数を、第1糸巻き取り速度と第1糸掛け速度との間で切り替える。ゴデットローラ4の第1糸巻き取り速度とは、糸巻取機10によってボビンBに糸Yを巻き取るときのゴデットローラ4の回転数である。ゴデットローラ4の第1糸掛け速度とは、第1糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときのゴデットローラ4の回転数である。以上のように、本実施形態の制御装置60は、本発明の第1切替制御部に相当する。なお、ゴデットローラ3の第1糸巻き取り速度及び第1糸掛け速度と、ゴデットローラ4の第1糸巻き取り速度及び第1糸掛け速度とは、異なっていてもよく、同じでもよい。
【0031】
また、制御装置60は、巻取モータ53を制御して、ボビンホルダ13の回転数を、第2糸巻き取り速度と第2糸掛け速度との間で切り替える。第2糸巻き取り速度とは、糸巻取機10によってボビンBに糸Yを巻き取るときのボビンホルダ13の回転数である。第2糸掛け速度とは、第2糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときのボビンホルダ13の回転数である。以上のように、本実施形態の制御装置60は、本発明の第2切替制御部にも相当する。
【0032】
さらに、制御装置60は、CRモータ54を制御して、コンタクトローラ18の回転数を、第3糸巻き取り速度と第3糸掛け速度との間で切り替える。第3糸巻き取り速度とは、糸巻取機10によってボビンBに糸Yを巻き取るときのコンタクトローラ18の回転数である。第3糸掛け速度とは、第3糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときのコンタクトローラ18の回転数である。以上のように、本実施形態の制御装置60は、本発明の第3切替制御部にも相当する。
【0033】
(ガイドユニット)
ガイドユニット15の構成について説明する。図2は、ガイドユニット15の側面図である。図2のa図は、複数のガイド体16が巻取位置に位置する状態を示し、図2のb図は、複数のガイド体16が糸掛位置に位置する状態を示す。巻取位置とは、複数のボビンBに複数の糸Yを巻き取るときの複数のガイド体16の位置である。糸掛位置とは、複数のガイド体16に複数の糸Yを掛けるときの複数のガイド体16の位置である。複数のガイド体16は、巻取位置と糸掛位置との間で移動可能に構成されている。
【0034】
ガイドユニット15、複数のガイド体16、複数のスライダ21、案内レール22、及び、エアシリンダ23を有する。スライダ21はガイド体16と同じ数だけ設けられており、それぞれのガイド体16は対応するスライダ21に取り付けられている。案内レール22は、前後方向に延びる部材であり、不図示のブラケットを介して支持フレーム14に固定されている。案内レール22には、複数のスライダ21が前後方向に並んだ状態で摺動可能に取り付けられている。互いに隣り合うスライダ21同士は、不図示のベルトによって連結されている。エアシリンダ23は、複数のガイド体16を巻取位置と糸掛位置との間で移動させるための駆動装置である。エアシリンダ23のロッド23aが、最も後側のスライダ21に連結されている。なお、複数のガイド体16を移動させる駆動装置は、エアシリンダ23に限定されず、モータ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0035】
図2のa図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが縮んでいるとき、複数のスライダ21は互いに離間した状態で前後方向に並んでいる。このときの複数のガイド体16の位置が巻取位置である。一方、図2のb図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが伸長しているとき、複数のスライダ21が案内レール22の前端部に集合する。このときの複数のガイド体16の位置が糸掛位置である。
【0036】
図2のa図に示すように、ゴデットローラ4から巻取位置に位置する複数のガイド体16に分配される複数の糸Yの糸道は、前後方向において複数のガイド体16の中心を通る鉛直面に関して略対称になっている。前側半分の8本の糸Yは、ガイド体16の前側に掛けられるのに対し、後側半分の8本の糸Yは、ガイド体16の後側に掛けられる。また、複数のガイド体16のうち端に近いものほど糸Yとの接触角(巻き掛け角)が大きく、中央に近いものほど糸Yとの接触角(巻き掛け角)が小さくなっている。
【0037】
(ガイド体)
ガイド体16の詳細について説明する。図3は、ガイド体16の断面図である。ガイド体16は、支点ガイド31、固定部材32、及び、軸部材33を有する。ガイド体16は、糸Yが走行する糸走行方向においてゴデットローラ4とボビンホルダ13との間に設けられている。支点ガイド31は、ボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yを綾振りしながら巻き取る際の支点となる。支点ガイド31は、左右方向に延びる円筒形状を有しており、軸部材33によって中心軸周りに回転可能に支持されている。糸Yは、支点ガイド31の外周面に掛けられ、糸巻取時には支点ガイド31の外周面に接触した状態で走行する。支点ガイド31の材質は限定されるものではないが、例えば、セラミック製であることが好ましい。
【0038】
固定部材32は、円筒形状の小径部32aと円筒形状の大径部32bとを有する。小径部32aは、スライダ21に形成された円形の取付穴21aに挿入される。大径部32bの右端部には、円環形状の凹部32cが形成されている。凹部32cには、ばね36(本発明の押付部材)が配置されている。固定部材32には、左右方向に貫通する雌ねじ部32dが形成されている。固定部材32は、小径部32aが取付穴21aの右側から挿入され、且つ、大径部32bのフランジ面がスライダ21に当接した状態で、不図示のボルトによってスライダ21に固定される。
【0039】
軸部材33は、軸部33aとフランジ部33b(本発明の被押付部)とが一体的に形成された部材である。軸部33aは、左右方向に延びる円筒形状を有する。軸部33aは、軸部33aに外嵌された支点ガイド31を回転可能に支持する。フランジ部33bは、軸部33aの右端部から軸部33aの径方向外側に広がった円環形状の部位である。軸部材33には、左右方向に貫通する貫通孔33cが形成されている。貫通孔33cの右端部は、右に向かうほど内径が大きくなっており、ボルト39の頭部が当接するテーパー面33dが形成されている。
【0040】
支点ガイド31の軸方向の両側には、樹脂製の介在部材34、35が支点ガイド31に隣接して配置されている。介在部材34、35は、L字形状の断面を有する円環部材であり、支点ガイド31の径方向に延びるスラスト軸受部34a、35aと、支点ガイド31の軸方向に延びるラジアル軸受部34b、35bとを有する。このような樹脂製の介在部材34、35を設けることで、支点ガイド31及び軸部材33の損耗を抑えることができる。なお、介在部材34、35には、例えばPEEK系樹脂が使用される。
【0041】
右側の介在部材34のスラスト軸受部34aは、支点ガイド31の軸方向において支点ガイド31と軸部材33のフランジ部33bとの間に配置されており、支点ガイド31の右端面に当接している。左側の介在部材35のスラスト軸受部35aは、支点ガイド31の軸方向において支点ガイド31と後述する分散リング45を介してばね36との間に配置されており、支点ガイド31の左端面に当接している。ラジアル軸受部34b、35bは、支点ガイド31の径方向において支点ガイド31と軸部材33の軸部33aとの間に配置されており、支点ガイド31の内周面に当接している。
【0042】
ばね36と介在部材35のスラスト軸受部35aとの間には、分散リング45(本発明の分散部材)が設けられている。分散リング45は、円環部材である。分散リング45は、ばね36から介在部材35に向かう力を分散させるための部材である。分散リング45は、例えば、金属製であってもよく、樹脂製であってもよい。
【0043】
軸部材33に支点ガイド31を外嵌した状態で、貫通孔33cにボルト39を挿入し、そのボルト39を固定部材32の雌ねじ部32dに締め付けると、軸部材33が固定部材32に固定される。このとき、支点ガイド31は、固定部材32の凹部32cに配置されたばね36の付勢力によって、フランジ部33bに向かって押し付けられる。
【0044】
(糸掛け期間、加速期間、定速期間)
本実施形態の紡糸引取装置1は、制御装置60が各モータの駆動を制御することによって、糸掛け期間、加速期間、定速期間をとる。具体的に説明すると、糸掛け期間は、上位置にあるボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yが掛けられる期間である。糸掛け期間のとき、ゴデットローラ3及び4の回転数が第1糸掛け速度であり、ボビンホルダ13の回転数が第2糸掛け速度であり、且つ、コンタクトローラ18の回転数が第3糸掛け速度である。言い換えれば、制御装置60は、糸掛け期間のとき、ゴデットローラ3及び4の回転数が第1糸掛け速度で定速となり、ボビンホルダ13の回転数が第2糸掛け速度で定速となり、且つ、コンタクトローラ18の回転数が第3糸掛け速度で定速となるように、各モータの駆動を制御する。
【0045】
加速期間は、ボビンホルダ13に糸Yが掛けられた後に、ボビンホルダ13の回転数が糸巻き取り速度まで加速するときの期間である。加速期間のとき、ゴデットローラ3及び4の回転数が第1糸掛け速度から第1糸巻き取り速度に加速し、ボビンホルダ13の回転数が第2糸掛け速度から第2糸巻き取り速度に加速し、且つ、コンタクトローラ18の回転数が第3糸掛け速度から第3糸巻き取り速度に加速する。言い換えれば、制御装置60は、加速期間のとき、ゴデットローラ3及び4の回転数が第1糸掛け速度から第1糸巻き取り速度に加速し、ボビンホルダ13の回転数が第2糸掛け速度から第2糸巻き取り速度に加速し、且つ、コンタクトローラ18の回転数が第3糸掛け速度から第3糸巻き取り速度に加速するように、各モータの駆動を制御する。
【0046】
定速期間は、上位置にあるボビンホルダ13の回転数を糸巻き取り速度で一定とする期間である。定速期間のとき、ゴデットローラ3及び4の回転数が第1糸巻き取り速度であり、ボビンホルダ13の回転数が第2糸巻き取り速度であり、且つ、コンタクトローラ18の回転数が第3糸巻き取り速度である。言い換えれば、制御装置60は、定速期間のとき、ゴデットローラ3及び4の回転数が第1糸巻き取り速度で定速となり、ボビンホルダ13の回転数が第2糸巻き取り速度で定速となり、且つ、コンタクトローラ18の回転数が第3糸巻き取り速度で定速となるように、各モータの駆動を制御する。
【0047】
加速期間において糸Yと接触することで回転する支点ガイド31の最大回転数は、定速期間における支点ガイド31の最大回転数よりも大きくなる。
【0048】
紡糸引取装置1が加速期間から定速期間に移行すると、まずターレット12が回転して、加速期間中に糸Yが巻き取られたボビンBが装着されたボビンホルダ13を下位置に移動させるとともに、空のボビンBが装着されたボビンホルダ13を上位置に移動させる。その後、新たに上位置に移動したボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPの形成が行われる。
【0049】
ここで、上述した特許文献1(特開2022-112481号公報)の構成では、支点ガイドが早期に破損するという問題が見られた。これを受けて、本願発明者らが、早期に支点ガイドが破損するという問題の原因を鋭意調査したところ、加速期間における支点ガイドの回転数が定速期間における支点ガイドの回転数と比べて過剰に大きくなることがあり、加速期間に支点ガイドに大きなトルクがかかり、軸受けへの負荷が非常に大きくなることが一因であると推定するに至った。そして、支点ガイドの回転数がおおよそ14000rpm以上になると、支点ガイド31が破損するとともに、軸受けの損耗が激しくなるという知見を得た。以下詳しく説明する。
【0050】
(加速期間と定速期間における糸の張力の推移)
まず、加速期間と定速期間における糸Yの張力の推移について、図5を参照しつつ以下に説明する。図5は、ボビンホルダ13の周速V1[m/min]とボビンホルダ13に掛けられた糸Yの張力T[cN]の関係を知るために、周速V1と張力Tの時間依存性を同時に示したグラフである。図5に示すボビンホルダ13の周速V1[m/min]及び糸Yの張力T[cN]は、本実施形態の紡糸引取装置1を使用した場合の値である。
【0051】
図5の横軸は時間経過[sec]を示す。糸Yの張力Tは、支点ガイド31とゴデットローラ4との間を走行する糸Yの張力Tの測定値である。糸Yの張力Tの測定値とは、複数の支点ガイド31から1つの支点ガイド31を選んで、当該支点ガイド31とゴデットローラ4との間を走行する糸Yの張力Tを測定したときの値である。なお、いずれの支点ガイド31を選択した場合でも、糸Yの張力Tは同様の挙動を示すと推測される。
【0052】
図5において、ボビンホルダ13の周速V1は、約1700m/minで定速の期間(0sec~約2sec)、約1700m/minから約4300m/minまで加速する期間(約2sec~約37sec)、約4300m/minで定速の期間(約37sec~50sec)がある。これは、それぞれ、糸掛け期間(0sec~約2sec)、加速期間(約2sec~約37sec)、定速期間(約37sec~50sec)を示している。なお、ボビンホルダ13の周速V1が変動するタイミング、すなわちボビンホルダ13の回転数が変動するタイミングは、ゴデットローラ3、4及びコンタクトローラ18の回転数が変動するタイミングと同じである。図5では、糸掛け期間、加速期間、定速期間を示すためにボビンホルダ13の周速V1を示しており、ボビンホルダ13の周速V1(または回転数)の推移と同様の挙動を示すゴデットローラ3、4、コンタクトローラ18の周速(または回転数)の記載は省略している。また、図5では、糸掛け期間は最後の一部のみ記載しているが、実際には、糸掛け期間は2secよりも長いことが一般である。同様に図5では、定速期間の最初の一部のみ記載しているが、実際には定速期間は、加速期間と比べて非常に長い時間である。また、図5には示していないが、定速期間において、ボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPの形成が行われているときの糸Yの張力Tは、10[cN]以下となっている。
【0053】
図5に示すように、加速期間(図5の約2sec~約37sec)における糸Yの張力Tは、定速期間(図5の約37sec~50sec)における糸Yの張力Tよりも全体的に大きい。また、図5に示すように、加速期間における糸Yの張力Tの変動の度合いは、定速期間における糸Yの張力Tの変動の度合いと比べて大きい。具体的には、加速期間では糸Yの張力Tは常に変動しているのに対して、定速期間では糸Yの張力Tは最初に大きく減少した後、略一定で推移している。以上のように、加速期間中、糸Yの張力Tが大きく且つ不安定となっている。これに起因して、糸Yから支点ガイド31にかかるトルクが大きくなり、その結果、支点ガイド31が過剰に回転してしまい、支点ガイド31や軸受け(例えば、スラスト軸受部34a、35a、ラジアル軸受部34b、35b)への負荷が大きくなると本願発明者らは推定している。
【0054】
(加速期間における支点ガイドの挙動)
次に、加速期間における支点ガイド31の挙動について、図6及び図7を参照しつつ以下に説明する。図6は、加速期間における支点ガイド31の回転数[rpm]の推移を示すグラフである。図7は、ばね36の強さ[gf]と加速期間における支点ガイド31の最高回転数[rpm]との関係について示す表である。図6及び図7に示す支点ガイド31の回転数は、上述の特許文献1の支点ガイドを用いた場合の値である。また、図7に示すばね36の強さ[gf]は、支点ガイド31の最高回転数[rpm]を変化させるべく調整したものであって、本願発明のばね36の強さがこの値に限定されるという意味ではないことに留意されたい。
【0055】
図6の縦軸は、支点ガイド31の回転数[sec]を示す。図6の横軸は、時間経過[sec]を示す。図6では、支点ガイド31の回転数が急激に低下するときを0secとしている。図6に示すように、支点ガイド31の回転数が14400rpmに到達した後、回転数が約3000rpmまで急激に低下している。これは、支点ガイド31の振れ回りが発生したことに起因するものだと考えられる。図7では、支点ガイド31の最高回転数が14400rpmのときに支点ガイド31の振れ回りが発生することが示されている。支点ガイド31の振れ回りは目視にて確認している。
【0056】
支点ガイド31の振れ回りについて説明する。特許文献1や本実施形態のようなガイド体16では、支点ガイド31とラジアル軸受部34b、35bとの間、軸部33aとラジアル軸受部34b、35bとの間、フランジ部33bとスラスト軸受部34aとの間などには、若干隙間がある。支点ガイド31の回転数が大きくなると、遠心力によって、各部材が隙間を埋めるように動く。しかし、各部材の動く方向が異なっているため、支点ガイド31が振動してしまう。これが、支点ガイド31の振れ回りである。支点ガイド31の振れ回りが起こると、支点ガイド31や軸受け(例えば、スラスト軸受部34a、35a、ラジアル軸受部34b、35b)が傷ついてしまい、やがて破損してしまうおそれがある。特に、支点ガイド31がセラミック製の場合、支点ガイド31の振れ回りが起こると、支点ガイド31の破損リスクはより大きくなる。また、支点ガイド31が振れ回りした結果、支点ガイド31の姿勢が崩れ、正常に回転することができなくなる。そして、支点ガイド31の回転数が急激に低下する。この様子を示しているのが、図6の0secのところであると考えられる。
【0057】
(回転抵抗付与手段)
以上の知見に基づいて、支点ガイド31の早期破損を抑制するために、本実施形態では、加速期間における支点ガイド31の最大回転数が14400rpm未満となるように、支点ガイド31に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段37が設けられている。回転抵抗付与手段37は、支点ガイド31が糸Yから所定値以上のトルクを受けた場合に、支点ガイド31の回転数が14400rpm以下となるように調整されている。所定値とは、加速期間において支点ガイド31が受ける所定のトルク値である。14400rpmとは、上述したように支点ガイド31の振れ回りが発生するときの支点ガイド31の回転数であり、加速期間における糸Yの走行速度よりも遅い周速である。
【0058】
所定値は、定速期間において、上位置にあるボビンホルダ13に装着されたボビンBへの糸Yの巻き取りが行われているときに、支点ガイド31が受けるトルク値よりも大きいことが好ましい。言い換えれば、回転抵抗付与手段37は、定速期間において、上位置にあるボビンホルダ13に装着されたボビンBへの糸Yの巻き取りが行われているときは支点ガイド31が回転しないように、支点ガイド31に回転抵抗を付与することが好ましい。但し、所定値はこれに限られない。
【0059】
支点ガイド31は、定速期間においても所定値以上のトルクを受ける場合がある。この場合においても、支点ガイド31は、回転抵抗付与手段37から付与される回転抵抗によって、14400rpm未満の回転数で従動回転する。
【0060】
本実施形態の回転抵抗付与手段37の構成について具体的に説明する。回転抵抗付与手段37は、ばね36と軸部材33のフランジ部33bとによって構成されている。ばね36が支点ガイド31をフランジ部33bに向かって押し付けることで、支点ガイド31が回転する際の摩擦抵抗が大きくなり、回転抵抗を付与することができる。その結果、支点ガイド31の回転数を小さくすることができる。
【0061】
支点ガイド31に付与される回転抵抗の大きさは、介在部材34、35又はばね36を変更することによって調整することができる。あるいは、固定部材32の凹部32cと軸部材33のフランジ部33bとの間の適当な位置にスペーサを設けて、ばね36による付勢力を調整するようにしてもよい。回転抵抗付与手段37によって、加速期間における支点ガイド31の最大回転数が14400rpm未満、より好ましくは12000rpm以下、さらに好ましくは6000rpm以下となるように調整される。
【0062】
さらに、支点ガイド31の回転数が小さいと、ボールベアリング等の精密な軸受構造が不要となり、滑り軸受等の簡単な軸受構造で済ませられるので、コストをさらに低減できるという副次的な効果もある
【0063】
なお、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が大きいガイド体16(複数のガイド体16のうち端に近いもの、図2参照)では、糸Yと支点ガイド31との間の摩擦力が大きい。一方で、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が小さいガイド体16(複数のガイド体16のうち中央に近いもの、図2参照)では、糸Yと支点ガイド31との間の摩擦力が小さい。このため、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が大きいガイド体16と、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が小さいガイド体16とで、支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値を超えるタイミングが異なる。そうすると、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が大きいガイド体16では、支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値を越えるが、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が小さいガイド体16では支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値を越えないということが起こり得る。しかしながら、これは特に問題にならない。
【0064】
仮に糸Yとの摩擦力によって支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値に達しない場合、すなわち、糸Yの走行によって支点ガイド31が従動回転しない場合、糸Yは支点ガイド31の外周面の同じ部分に接触し続けて局所的な摩耗が生じる。支点ガイド31に摩耗が生じると、糸Yとの摩擦力が大きくなり、支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値に達し、支点ガイド31はわずかに従動回転する。そして、糸Yが支点ガイド31の摩耗が生じていない部分と接触するようになると、再び支点ガイド31は回転しなくなる。このような支点ガイド31の挙動であっても、支点ガイド31の局所摩耗を抑えることができ、糸Yが支点ガイド31の摩耗した部分と接触し続けることによる糸品質の変化は抑えられる。
【0065】
(効果)
本実施形態の紡糸引取装置1は、ゴデットローラ3、4によって送られる複数の糸Yを、ボビンホルダ13に装着された複数のボビンBに巻き取る紡糸引取装置1である。紡糸引取装置1は、ボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yを綾振りしながら巻き取る際の支点となる支点ガイド31を有するガイド体16と、制御装置60(本発明の第1切替制御部及び第2切替制御部)と、を備える。ガイド体16は、糸Yが走行する糸走行方向においてゴデットローラ4とボビンホルダ13との間に設けられている。制御装置60は、ゴデットローラ3、4の回転数を、ボビンBに糸を巻き取るときの第1糸巻取速度と、第1糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときの第1糸掛け速度と、の間で切り替える。また、制御装置60は、ボビンホルダ13の回転数を、ボビンBに糸を巻き取るときの第2糸巻き取り速度と、第2糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときの第2糸掛け速度と、の間で切り替える。支点ガイド31は、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能である。本実施形態の紡糸引取装置1では、ゴデットローラ3、4の回転数が第1糸掛け速度から第1糸巻き取り速度に加速し、且つ、ボビンホルダ13の回転数が第2糸掛け速度から第2糸巻き取り速度に加速する期間である加速期間における支点ガイド31の最大回転数は、ゴデットローラ3、4の回転数が第1糸巻き取り速度であり、且つ、ボビンホルダ13の回転数が第2糸巻き取り速度であるときの定速期間における支点ガイド31の最大回転数よりも大きい。ガイド体16には、加速期間における支点ガイド31の最大回転数が14400rpm未満となるように、支点ガイド31に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段37が設けられている。
【0066】
本願発明者らが、早期に支点ガイド31が破損するという問題の原因を鋭意調査したところ、加速期間における支点ガイド31の回転数が定速期間における支点ガイド31の回転数と比べて過剰に大きくなることがあり、加速期間に支点ガイド31に大きなトルクがかかり、軸受けへの負荷が非常に大きくなることが一因であると推定するに至った(詳しくは上述の「加速期間と定速期間における糸の張力の推移」の記載を参照)。そして、支点ガイド31の回転数がおおよそ14000rpm以上になると、支点ガイド31が破損するとともに、軸受けの損耗が激しくなるという知見を得た(詳しくは上述の「加速期間における支点ガイドの挙動」の記載を参照)。このような知見に基づいて、加速期間中の支点ガイド31の最大回転数が14400rpm未満となるように、支点ガイド31に対する回転抵抗を調整したところ、支点ガイド31の早期破損が効果的に抑制され、加えて軸受けの損耗が効果的に抑制された。また、本実施形態の紡糸引取装置1では、少なくとも加速期間において支点ガイド31を回転させるように構成されているため、支点ガイド31の外周面の局所的な摩耗を低減できる。
【0067】
また、本実施形態の紡糸引取装置1は、ボビンホルダ13に装着された複数のボビンBの外周面に接触するコンタクトローラ18を含む。制御装置60は、コンタクトローラ18の回転数を、ボビンBに糸Yを巻き取るときの第3糸巻き取り速度と、第3糸巻き取り速度よりも低速であってボビンBに糸Yを掛けるときの第3糸掛け速度と、の間で切り替える。そして、加速期間では、コンタクトローラ18の回転数が第3糸掛け速度から第3糸巻き取り速度に加速し、定速期間では、コンタクトローラ18の回転数が前記第3糸巻き取り速度である。これによれば、加速期間にコンタクトローラ18の回転数が加速する構成において、支点ガイド31の早期破損を効果的に抑制できる。
【0068】
また、本実施形態の紡糸引取装置1において、回転抵抗付与手段37は、加速期間における支点ガイド31の最大回転数が好ましくは12000rpm以下となるように支点ガイド31に回転抵抗を付与する。これによれば、支点ガイド31の回転数を12000rpm以下とさらに低くすることで、支点ガイド31の早期破損をさらに抑制できる。
【0069】
また、本実施形態の紡糸引取装置1において、回転抵抗付与手段37は、支点ガイド31の軸方向の一方側に配置されるフランジ部33b、支点ガイド31をフランジ部33bに向かって押し付けるばね36と、を有し、支点ガイド31とフランジ部33bとの間及び支点ガイド31とばね36との間に、介在部材34、35が配置されている。これによれば、ばね36による押付力によって、支点ガイド31に回転抵抗を付与することができる。また、介在部材34、35の形状、寸法、材質等によって支点ガイド31に作用する押付力の調整が可能となり、支点ガイド31の回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0070】
さらに、本実施形態の紡糸引取装置1において、介在部材34、35は、PEEK系樹脂からなる。これによれば、介在部材34、35として、摺動性及び耐熱性に優れるPEEK系樹脂を用いているため、回転する支点ガイド31と直接接触する介在部材34、35が摩耗して劣化することを抑制できる。
【0071】
また、本実施形態の紡糸引取装置1において、ばね36と介在部材35との間に、ばね36から介在部材35に向かう力を分散させるための分散リング45が配置されている。これによれば、ばね36から介在部材35に局所的に力がかかるのを抑制し、介在部材35の早期損傷を抑制できる。
【0072】
また、本実施形態の紡糸引取装置1において、支点ガイド31は、セラミック製であることが好ましい。セラミック製の支点ガイドの場合、他の材質の支点ガイドを用いる場合と比べて、支点ガイドと接触する糸が摩擦によって損耗することを抑えられる。一方で、セラミック製の支点ガイドは、破損しやすいという性質を持つ。このような破損しやすいセラミック製の支点ガイドを用いた構成において、本発明を適用することで、支点ガイドの破損をより効果的に抑制できる。
【0073】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0074】
上記実施形態では、本発明の押付部材をばね36によって構成するものとした。しかしながら、押付部材をOリング等の弾性体によって構成することも可能である。
【0075】
上記実施形態では、ばね36を固定部材32の凹部に配置するものとした。しかしながら、ばね36の配置はこれに限定されるものではない。例えば、ばね36を支点ガイド31とフランジ部33bとの間に配置するようにしてもよい。この場合は、固定部材32が本発明の被押付部として機能する。
【0076】
上記実施形態では、介在部材34、35を設けるものとした。しかしながら、介在部材34、35を省略することも可能であるし、介在部材34、35のうちどちらか一方のみを設けてもよい。また、介在部材34、35の具体的な形状や材料は、上記実施形態のものに限定されることはない。
【0077】
上記実施形態では、複数のガイド体16が巻取位置と糸掛位置との間で移動可能であるものとした。しかしながら、複数のガイド体16を移動可能に構成することは必須ではない。
【0078】
上記実施形態では、回転抵抗付与手段37がばね36とフランジ部33bとによって構成されるものとした。しかしながら、回転抵抗付与手段の具体的な構成はこれに限定されるものではない。
【0079】
上記実施形態では、制御装置60が、本発明の第1切替制御部、第2切替制御部及び第3切替制御部に相当する。しかしながら、第1切替制御部、第2切替制御部及び第3切替制御部は、それぞれ別に設けられてもよい。
【0080】
上記実施形態では、コンタクトローラ18の回転数は、第3糸掛け速度と、第3糸巻き取り速度との間で切り替え可能に構成されている。しかしながら、ボビンホルダ13に装着されたボビンBの外周面又はパッケージPの外周面に接触するコンタクトローラ18は、ボビンホルダ13の回転に従動して回転するように構成されていてもよい。
【0081】
上記実施形態では、介在部材34、35にはPEEK系樹脂が使用されている。しかしながら、介在部材34、35には、例えば、POM(ポリアセタール)などの他の樹脂が使用されてもよい。
【0082】
上記実施形態では、ばね36と介在部材35との間に分散リング45が配置されている。しかしながら、分散リング45を配置することは必須ではない。
【符号の説明】
【0083】
1 紡糸引取装置
3 ゴデットローラ(糸送りローラ)
4 ゴデットローラ(糸送りローラ)
10 糸巻取機1
13 ボビンホルダ
16 ガイド体
18 コンタクトローラ
31 支点ガイド
33b フランジ部(被押付部)
36 ばね(押付部材)
37 回転抵抗付与手段
45 分散リング(分散部材)
60 制御装置(第1切替制御部、第2切替制御部、第3切替制御部)
B ボビン
P パッケージ
Y 糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-04-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
ガイドユニット15は、複数のガイド体16、複数のスライダ21、案内レール22、及び、エアシリンダ23を有する。スライダ21はガイド体16と同じ数だけ設けられており、それぞれのガイド体16は対応するスライダ21に取り付けられている。案内レール22は、前後方向に延びる部材であり、不図示のブラケットを介して支持フレーム14に固定されている。案内レール22には、複数のスライダ21が前後方向に並んだ状態で摺動可能に取り付けられている。互いに隣り合うスライダ21同士は、不図示のベルトによって連結されている。エアシリンダ23は、複数のガイド体16を巻取位置と糸掛位置との間で移動させるための駆動装置である。エアシリンダ23のロッド23aが、最も後側のスライダ21に連結されている。なお、複数のガイド体16を移動させる駆動装置は、エアシリンダ23に限定されず、モータ等の他のアクチュエータであってもよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
図2のa図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが縮んでいるとき、複数のスライダ21は互いに離隔した状態で前後方向に並んでいる。このときの複数のガイド体16の位置が巻取位置である。一方、図2のb図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが伸長しているとき、複数のスライダ21が案内レール22の前端部に集合する。このときの複数のガイド体16の位置が糸掛位置である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
図6の縦軸は、支点ガイド31の回転数[rpm]を示す。図6の横軸は、時間経過[sec]を示す。図6では、支点ガイド31の回転数が急激に低下するときを0secとしている。図6に示すように、支点ガイド31の回転数が14400rpmに到達した後、回転数が約3000rpmまで急激に低下している。これは、支点ガイド31の振れ回りが発生したことに起因するものだと考えられる。図7では、支点ガイド31の最高回転数が14400rpmのときに支点ガイド31の振れ回りが発生することが示されている。支点ガイド31の振れ回りは目視にて確認している。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0083】
1 紡糸引取装置
3 ゴデットローラ(糸送りローラ)
4 ゴデットローラ(糸送りローラ)
10 糸巻取機
13 ボビンホルダ
16 ガイド体
18 コンタクトローラ
31 支点ガイド
33b フランジ部(被押付部)
36 ばね(押付部材)
37 回転抵抗付与手段
45 分散リング(分散部材)
60 制御装置(第1切替制御部、第2切替制御部、第3切替制御部)
B ボビン
P パッケージ
Y 糸