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特開2024-168289チャート付き支持体及び色ずれ検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168289
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】チャート付き支持体及び色ずれ検知システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/34 20060101AFI20241128BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G02B21/34
G01N21/01 A
G01N21/27 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084836
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】籠田 将慶
(72)【発明者】
【氏名】荻野 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 渉
【テーマコード(参考)】
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB10
2G059BB12
2G059DD03
2G059DD20
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF12
2G059KK04
2G059MM05
2H052AE05
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】読み込んだ画像に色ずれが発生したことを容易に検知することが可能な、チャート付き支持体及び色ずれ検知システムを提供する。
【解決手段】医療用検体観察用のチャート付き支持体10は、支持体と、支持体の少なくとも一方の面から視認可能な位置に存在するカラーチャート20と、を備える。カラーチャート20は、一定の色域内の色を有するパッチ21と、パッチ21が表す色に関する色情報22と、色域に関する色域情報23と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用検体観察用のチャート付き支持体において、
支持体と、
前記支持体の少なくとも一方の面から視認可能な位置に存在するカラーチャートと、を備え、
前記カラーチャートは、
一定の色域内の色を有するパッチと、
前記パッチが表す色に関する色情報と、
前記色域に関する色域情報と、を含む、チャート付き支持体。
【請求項2】
前記支持体の表面に複数のカラーチャートが存在し、
前記複数のカラーチャートは、繰り返し配置されている、請求項1に記載のチャート付き支持体。
【請求項3】
前記パッチの最小径が、1μm以上、1000μm以下である、請求項1に記載のチャート付き支持体。
【請求項4】
医療用検体観察用のチャート付き支持体において、
支持体と、
前記支持体に対して相対的に移動可能な可動部と、
前記可動部上に位置するカラーチャートと、を備える、チャート付き支持体。
【請求項5】
色ずれ検知システムにおいて、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のチャート付き支持体を撮影する撮影装置と、
前記撮影装置から送られた画像を処理する処理装置と、を備え、
前記処理装置は、前記色情報及び前記色域情報に基づいて、前記画像の色ずれを検知する、色ずれ検知システム。
【請求項6】
色ずれ検知システムにおいて、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のチャート付き支持体を撮影する撮影装置と、
前記撮影装置から処理装置を経由して送られた画像を処理する画像処理サーバと、を備え、
前記画像処理サーバは、前記色情報及び前記色域情報に基づいて、前記画像の色ずれを検知する、色ずれ検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チャート付き支持体及び色ずれ検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、病理学分野で組織や細胞等の医療用検体を検査することが行われている。この際、染色剤を用いて医療用検体を染色する。その後、染色された医療用検体を観察し、疾患を診断する。
【0003】
染色された医療用検体は、デジタル画像化されることがある。また、スキャナ等を用いて大量の医療用検体をまとめてスキャンする場合もある。しかしながら、大量の医療用検体をまとめてスキャンしている間、スキャンした画像に急な色ずれが発生する場合がある。これは、ごみ等の異物の影響であったり、スキャナの光学系に突発的な変化が生じたり、カラーチップが劣化したりすることが原因である。あるいは、医療用検体を撮影するCCDカメラ等の受光機器に突発的な変化が生じたことや、観察者の操作ミス等が原因になる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/044639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、読み込んだ画像に色ずれが発生したことを容易に検知することが可能な、チャート付き支持体及び色ずれ検知システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施の形態は、以下の[1]~[6]に関する。
【0007】
[1]医療用検体観察用のチャート付き支持体において、支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面から視認可能な位置に存在するカラーチャートと、を備え、前記カラーチャートは、一定の色域内の色を有するパッチと、前記パッチが表す色に関する色情報と、前記色域に関する色域情報と、を含む、チャート付き支持体。
【0008】
[2]前記支持体の表面に複数のカラーチャートが存在し、前記複数のカラーチャートは、繰り返し配置されている、[1]に記載のチャート付き支持体。
【0009】
[3]前記パッチの最小径が、1μm以上、1000μm以下である、[1]又は[2]に記載のチャート付き支持体。
【0010】
[4]医療用検体観察用のチャート付き支持体において、支持体と、前記支持体に対して相対的に移動可能な可動部と、前記可動部上に位置するカラーチャートと、を備える、チャート付き支持体。
【0011】
[5]色ずれ検知システムにおいて、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のチャート付き支持体を撮影する撮影装置と、前記撮影装置から送られた画像を処理する処理装置と、を備え、前記処理装置は、前記色情報及び前記色域情報に基づいて、前記画像の色ずれを検知する、色ずれ検知システム。
【0012】
[6]色ずれ検知システムにおいて、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のチャート付き支持体を撮影する撮影装置と、前記撮影装置から処理装置を経由して送られた画像を処理する画像処理サーバと、を備え、前記画像処理サーバは、前記色情報及び前記色域情報に基づいて、前記画像の色ずれを検知する、色ずれ検知システム。
【発明の効果】
【0013】
本実施の形態によれば、読み込んだ画像に色ずれが発生したことを容易に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施の形態によるチャート付き支持体を示す平面図である。
図2図2(A)(B)は、第1の実施の形態の変形例によるカラーチャートを示す平面図である。
図3図3(A)-(C)は、第1の実施の形態の変形例によるカラーチャートを示す平面図である。
図4図4は、第1の実施の形態の変形例によるチャート付き支持体を示す平面図である。
図5図5(A)-(C)は、第1の実施の形態の変形例によるチャート付き支持体を示す平面図である。
図6図6(A)(B)は、第1の実施の形態の変形例によるチャート付き支持体を示す平面図である。
図7図7は、第1の実施の形態による色ずれ検知システム及び色ずれ検知方法を示す図である。
図8図8は、第1の実施の形態の変形例による色ずれ検知システム及び色ずれ検知方法を示す図である。
図9図9は、第2の実施の形態によるチャート付き支持体を示す斜視図である。
図10図10(A)(B)は、第2の実施の形態の変形例によるチャート付き支持体を示す斜視図である。
図11図11は、第2の実施の形態の変形例によるチャート付き支持体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら各実施の形態について具体的に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものである。そのため、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために、適宜誇張している。また、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。なお、以下に示す各図において、同一部分には同一の符号を付しており、一部詳細な説明を省略する場合がある。また、本明細書中に記載する各部材の寸法等の数値及び材料名は、実施の形態としての一例であり、これに限定されるものではなく、適宜選択して使用できる。本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば平行や直交、垂直等の用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含む。
【0016】
(第1の実施の形態)
図面を参照して第1の実施の形態について説明する。図1乃至図8は第1の実施の形態を示す図である。
【0017】
(チャート付き支持体の構成)
本実施の形態によるチャート付き支持体について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態によるチャート付き支持体の一例を示す概略平面図である。
【0018】
本実施の形態によるチャート付き支持体10は、医療用検体Sを観察する際に用いられる。チャート付き支持体10は、細胞等の医療用検体Sを顕微鏡又はスライドガラススキャナ等の撮影装置を用いて、デジタル画像として取り込む際に用いられても良い。このとき、チャート付き支持体10は、医療用検体Sと一体化されても良い。医療用検体Sと一体化されたチャート付き支持体10は、撮影装置によって読み込まれる。このとき、チャート付き支持体10は、部分撮影法又は全体撮影法によって読み込まれても良い。部分撮影法とは、撮影装置によって医療用検体Sの一視野を部分的に撮影することをいう。全体撮影法とは、医療用検体Sの全体又は大部分を、分割画像を連結したり、あるいは連続的にラインスキャナで読み込んだりすることによって撮影することをいう。
【0019】
部分撮影法及び全体撮影法のいずれを用いた場合であっても、医療用検体Sの状態を判断するために、医療用検体Sに対して染色を施すことが多い。医療用検体Sは、染色された組織や細胞等の医療用検体であっても良い。医療用検体Sの染色としては、例えばヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、Papanicolaou染色、ギムザ(Giemsa)染色、PAS染色、グラム染色、グロコット染色、又はライト染色等が挙げられる。このうちヘマトキシリン・エオジン(HE)染色が最も一般的に用いられる。ヘマトキシリン(hematoxylin)液は、青紫色であり、細胞核やリボソームを青紫色に染色するものである。エオジン(eosin)液は、赤色であり、細胞質、細胞間結合組織、繊維及び赤血球等を赤色又は紫色に染色するものである。結果として、医療用検体Sに含まれる細胞核、細胞質、骨組織、軟部組織の結合組織、赤血球、線維組織、内分泌顆粒等が染色される。
【0020】
本実施の形態によるチャート付き支持体10は、上述したように、医療用検体Sを観察する際に用いられるものである。チャート付き支持体10は、支持体11と、カラーチャート20と、を備える。カラーチャート20は、支持体11の少なくとも一方の面から視認可能な位置に存在する。カラーチャート20は、パッチ21と、色情報22と、色域情報23と、を含む。パッチ21は、一定の色域内の色を有する。色情報22は、パッチ21が表す色に関する情報を含む。色域情報23は、パッチ21の上記色域に関する情報を含む。
【0021】
カラーチャート20のパッチ21は、染色された医療用検体Sの色に近い色を有していても良い。パッチ21の色を、染色された医療用検体Sに特徴的な色に近づけることにより、チャート付き支持体10を用いて撮影装置の色ずれ検知を正確に行うことができる。すなわち本実施の形態において、カラーチャート20は、様々な色のパッチを有することは必ずしも必要ではない。カラーチャート20は、例えばHE染色に適した色のパッチ21を有することが好ましい。具体的には、パッチ21は、HE染色の色域内か、HE染色の色域の境界に位置する色を有していても良い。これにより、パッチ21の面積を広くし過ぎることなく、HE染色に特有の色域で医療用検体Sの画像の色ずれを発見できる。このため、チャート付き支持体10と一体化する医療用検体Sの面積を確保できる。
【0022】
カラーチャート20は、スキャンされる全ての医療用検体Sに対応して付与されることが好ましい。すなわち、スキャンされる複数の支持体11のそれぞれにカラーチャート20が付与されることが好ましい。全ての医療用検体Sに対して必要最小限の数のカラーチャート20を付与することにより、撮影された画像の異常を1枚ずつ検出できる。また撮影された画像が再撮影不可能である場合にも、少数のカラーチャート20に基づいて色補正の情報を提供できる。
【0023】
支持体11としては、カラーチャート20を支持できるものが用いられる。カラーチャート20が透過式で読み込まれる場合には、支持体11は、光透過性を有する透明基板であっても良い。カラーチャート20が反射式で読み込まれる場合には、支持体11は、光透過性を有さない不透明基板であっても良い。支持体11としては、ガラス基板等の無機基板や樹脂基板を用いても良い。樹脂基板は、板状のもののほか、フィルムやシートであってもよい。
【0024】
支持体11は、顕微鏡等の病理用撮影装置によって観察する際に用いられるスライドガラスであっても良い。スライドガラスである支持体11には、医療用検体Sを支持する検体支持領域SAが設けられていても良い。カラーチャート20、医療用検体S及び検体支持領域SAは、図示しないカバーガラスによって覆われても良い。カラーチャート20は、スライドガラスの表面に位置していても良く、スライドガラスの内部に位置していても良い。カラーチャート20をスライドガラス上に配置することにより、医療用検体Sの作製時に、医療用検体Sとカラーチャート20との位置関係を特定しやすい。カラーチャート20は、スライドガラスの医療用検体Sが載置される面と同一の面に位置していても良い。この場合、医療用検体Sとカラーチャート20との、病理用撮影装置の光軸方向の距離を近づけることができる。このため、とりわけ医療用検体Sを高倍率で見る場合に、医療用検体Sとカラーチャート20との焦点を合わせやすい。
【0025】
あるいは、チャート付き支持体10は、医療用検体Sを支持するスライドガラスと別体に設けられても良い。この場合、支持体11は、医療用検体Sを覆うカバーガラスであっても良い。この場合、チャート付き支持体10がカバーガラスによって覆われないため、カバーガラスの汚れや傷によってカラーチャート20に影響が及ぶことが抑制される。また、カバーガラスに覆われることによりカラーチャート20の色が変化することを抑制できる。カラーチャート20は、カバーガラスの表面に位置していても良く、カバーガラスの内部に位置していても良い。カラーチャート20をカバーガラスに配置することにより、医療用検体Sとカラーチャート20との、病理用撮影装置の光軸方向の距離を近づけることができる。このため、とりわけ医療用検体Sを高倍率で見る場合に、医療用検体Sとカラーチャート20との焦点を合わせやすい。
【0026】
カラーチャート20は、上述したように、パッチ21と、色情報22と、色域情報23と、を含む。色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21に近接して配置されても良い。
【0027】
カラーチャート20は、1個以上のパッチ21を含む。カラーチャート20は、複数個のパッチ21を含んでも良い。パッチ21は、一定の色域内の色を有する。本来個々のパッチ21は、色差が検出できない程度のレベルで製造されることが望ましい。しかしながら、実際には、パッチ21は、所定の色域内で一定の範囲の幅をもって作製される場合が多い。これは、パッチ21を作製するための色材や、パッチ21の大きさや、パッチ21のコスト等の制約を受けるためである。本実施の形態によるパッチ21は、後述する色情報22及び色域情報23を満たした状態で作製されている。例えば図1に示す例では、カラーチャート20は、2つのパッチ21を含む。2つのパッチ21は、互いに異なる色を有する。カラーチャート20が複数のパッチ21を含む場合、一部のパッチ21が汚れ等によって視認できない場合でも、視認できるパッチ21のみを利用して、色ずれを確認できる。
【0028】
透過式のカラーチャート20の場合、パッチ21は、蒸着法、染色法、印刷法、インクジェット法、カラーフィルター法等の従来公知の方法を用いて生成されても良い。パッチ21は、例えばsRGB(国際電気標準会議(IEC)が定めた国際標準規格)の色域においてD65光源に基づいて算出した際の赤色(Red)、緑色(Green)、青色(Blue)の数値から構成される色を有しても良い。この場合、パッチ21は、明暗/彩度/色相等が規定される。パッチ21は、無彩色である白又はグレーの色を有していても良い。この場合、パッチ21は、明暗等が規定される。パッチ21の色域は、AdobeRGB又はBT.2020等汎用的に使われる範囲のものでもよい。パッチ21の色の測定方法としては、顕微分光器を用いる。これにより、微小領域のパッチ21のスペクトル測定が可能となる。
【0029】
反射式のカラーチャート20の場合、パッチ21は、下地部材に対して上記と同様の透過性の色材を重ねて形成しても良い。この場合、下地部材は無彩色の白色の材料が用いられても良い。白色の材料としては、例えば硫酸バリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、塩化ナトリウム、ポリテトラフルオロエチレン等、一般的に用いられる白色塗料であっても良い。この際、無彩色の白色の材料は、可視光において低波長から長波長までの反射スペクトルが一定であることが望ましい。下地部材として、白色のガラスを用いても良い。下地部材は、アクリル樹脂や紙等の上に上述した透過性のパッチ21を配置することにより作製してもよい。
【0030】
パッチ21の色を測定する際、予め支持体11上にある5mm角以上の大きさを持つ下地部材の白色の材料を、反射タイプの分光計にて測定しておくことが望ましい。パッチ21は、微小サイズであるため、顕微分光計にて測定を行う。予め測定しておいた5mm角以上の大きさを持つ下地部材の測定値を基準とし、顕微分光計で白色の材料の反射率の比率を較正することにより、精度よくパッチ21の測定値を再現できる。
【0031】
図1において、パッチ21の平面形状は四角形であるが、パッチ21の平面形状は円形又は多角形であっても良い。撮影装置が撮影する画像がチャート付き支持体10の全体であれば、パッチ21の平面形状は、医療用検体Sの撮影の妨げにならない多角形としても良い。撮影装置が撮影する画像がチャート付き支持体10の一部である場合、この画像は長方形の視野で撮影されることもある。このため、パッチ21の平面形状は、視野の4隅に配置しやすいような四角形としても良い。
【0032】
パッチ21の最小径は、1μm以上であっても良く、10μm以上であっても良い。パッチ21の最小径は、1000μm以下であっても良く、200μm以下であっても良く、20μm以下であっても良い。ここで、パッチ21の最小径とは、平面視でパッチ21内に全体を収容可能な最大の円の直径をいう。パッチ21が平面視で正方形である場合、パッチ21の最小径とは、パッチ21の一辺の長さである。パッチ21が平面視で長方形である場合、パッチ21の最小径とは、パッチ21の短辺の長さである。パッチ21が平面視で円形である場合、パッチ21の最小径とは、パッチ21の直径である。
【0033】
パッチ21の最小径が、1μm以上、1000μm以下であることにより、医療用検体Sの撮影時に医療用検体Sを中心とした一部分のみをスキャンする場合であっても、カラーチャート20を容易に撮影できる。
【0034】
より詳細には、パッチ21の最小径が1μm以上であることにより、医療用検体Sである例えば細胞及びその集合体に倍率を合わせた際に、色ずれの検出が困難になることを抑えられる。顕微鏡等の撮影装置等を通して、パッチ21を医療用検体Sとともに撮影する場合を想定する。このとき、パッチ21が観察対象となる医療用検体Sよりも極端に小さいと、撮影装置を通して撮影した画像のパッチ21の部分に、十分なサイズの画素やドットを対応させられない場合もある。例えば、医療用検体Sの画像が数十ドット分の幅をもっていても、パッチ21の画像が数ドット分の幅である場合もある。この場合、パッチ21単体の画像のRGB値が、その周辺部分のRGB値と混色するおそれがある。このため、パッチ21は観察対象と同程度かそれ以上の大きさであることが望ましい。
【0035】
一般に、病理診断等、細胞を観察する際、細胞を染色して観察することが多い。観察対象としては、例えば上皮細胞(一般に15μm以上60μm以下)、内皮細胞(一般に10μm以上50μm以下)、筋細胞(一般に50μm以上100μm以下)、脂肪細胞(一般に70μm以上90μm以下)、白血球(一般に6μm以上30μm以下)、赤血球(一般に2μm以上3μm以下)、腫瘍細胞(一般に20μm)等が挙げられる。これらの細胞をパッチ21と同時に撮影することを考える。この場合、パッチ21が最も小さい細胞と同程度の大きさであれば、その小さい細胞を撮影する際に、支持体11の全体をスキャンする方法ではなく、支持体11の一部だけを撮影することもありえる。この際、撮影の視野内に小さな細胞1個が写ることを考えると、パッチ21の最小径が細胞の大きさと同程度かその半分程度であれば、パッチ21を細胞と同時に撮影できる可能性が高い。このため、パッチ21の最小径が1μm以上であることが望ましい。さらに、一般にスライドガラス等の支持体11を用いて、組織をスライスした組織片の観察を行うことが多く、白血球や赤血球等を観察することは少ない。このため、パッチ21の最小径は、組織片の細胞1個程度の大きさに相当する10μm以上であることが望ましい。
【0036】
また、パッチ21の最小径が1000μm以下であることにより、顕微鏡やスライドスキャナ等の撮影装置で医療用検体Sを読み取る際に、医療用検体Sの撮影を阻害する可能性を減らせる。
【0037】
一般に、顕微鏡やスライドスキャナ等の撮影装置で細胞を観察する場合、高倍率の対物レンズで1つの細胞だけを見るのではなく、低倍率の対物レンズで観察することもある。これにより、個々の細胞の形状が確認でき、かつ一定の細胞組織を視野内に収めることができる。この場合、1つの視野に、細胞群である一定の組織とパッチ21の群、例えば2つのパッチ21(図1参照)とが同時に見えることが望ましい。
【0038】
例えば医療用検体Sを観察する際に使われる低倍率な対物レンズとして、10倍の対物レンズを用いることを想定する。パッチ21が、細胞を観察する視野の妨げにならない程度の大きさであるとすると、パッチ21は最大で視野全体の半分程度の大きさであると考えられる。また、一般的な接眼レンズとしては視野数(FN:Field Number)22程度のものが多い。このため、観察される範囲としては、
実視野=接眼レンズの視野数/対物レンズの倍率
=22/10
=2.2mm=2200μm
となる。視野の半分以上に観察対象の細胞を撮影し、視野の一部に数個のパッチを配置される場合を考慮すると、パッチ21の最小径は、少なくとも視野の半分程度の1000μm以下である。パッチ21の最小径は、医療用検体Sが視野の多くを占めつつもパッチ21が確認できる程度であり、視野の1/10程度の大きさである200μm以下としても良い。
【0039】
また上述したように、細胞は、1個あたり数μmから100μm程度の大きさを持つ。例えば上皮組織を観察する場合、1個あたり数十μm程度の細胞とともに、円柱上皮や扁平上皮のような凹凸部を数か所視野の中に入れる程度の倍率で観察されることが多い。円柱上皮や扁平上皮等の凹凸部の大きさは200μm程度である。このため、パッチ21の最小径は、複数個の凹凸部と同程度の1000μm以下であっても良い。パッチ21の最小径は、1個の凹凸部と同程度の200μm以下であっても良い。パッチ21の最小径は、凹凸部を中心とした視野では凹凸部の1/10程度に相当する20μm以下とすることがより望ましい。
【0040】
色情報22は、パッチ21が表す色に関する情報を含む。色情報22は、パッチ21が本来持っている色の情報である。色情報22は、パッチ21の色の基準を示す情報であっても良い。色情報22は、所定の色空間における特定の数値であっても良い。上記色空間としては、例えばLab表色系であっても良い。Lab表色系としては、例えば、Hunter 1948 L,a,bの色空間表色系、CIE 1976規格の(L*,a*,b*)の色空間表色系であっても良い。色情報22は、人間に認識可能な状態で記載されていても良い。色情報22は、各種文字等の可読情報として、印刷等により形成されたパターンであっても良い。あるいは、色情報22は、コード、記号又は絵柄等の識別子として、印刷等により形成されたパターンであっても良い。色情報22は、パッチ21の色の情報の全てを記載しなくても良い。例えばパッチ21が本来持っている色の詳細は、別途データベース等に登録されていても良い。この場合、撮影装置が色情報22を自動認識することが可能になる。例えば図1に示す例では、2つのパッチ21にそれぞれ対応する色情報22として、「P」及び「LP」という文字が記載されている。文字「P」は、紫色(purple)を意味する。文字「LP」は、薄紫色(light purple)を意味する。「P」及び「LP」が示す色の詳細な情報は、別途データベース等に登録されていても良い。色情報22として文字又は記号を用いることにより、色情報22を配置する面積を抑えられ、かつ人間が理解しやすくなる。
【0041】
色域情報23は、パッチ21の上記色域に関する情報を含む。色域情報23は、色情報22、すなわちパッチ21が本来持っている色の許容範囲の情報を示す。言い換えれば、色域情報23は、色情報22の許容される変動幅を示す。色域情報23は、所定の色空間における個々の軸ごとに独立した範囲であっても良い。あるいは、色域情報23は、所定の色空間における複数軸の組合せで表現された特定の領域(例えば3次元空間内の球体内等)であっても良い。上記色空間としては、例えばLab表色系であっても良い。Lab表色系としては、例えば、Hunter 1948 L,a,bの色空間表色系、CIE 1976規格の(L*,a*,b*)の色空間表色系であっても良い。色域情報23は、人間に認識可能な状態で記載されていても良い。色域情報23は、各種文字等の可読情報として、印刷等により形成されたパターンであっても良い。あるいは、色域情報23は、コード、記号又は絵柄等の識別子として、印刷等により形成されたパターンであっても良い。色域情報23は、パッチ21の色域に関する情報の全てを記載しなくても良い。例えばパッチ21が本来持っている色の許容範囲の情報は、別途データベース等に登録されていても良い。この場合、撮影装置が、色域情報23を自動認識することが可能になる。例えば図1に示す例では、2つのパッチ21に対応する色域情報23として、それぞれ「+1」という数値が記載されている。「+1」は、色差ΔEが+1以内であれば許容されることを意味する。色域情報23として色差等の数値を用いることにより、色域情報23を配置する面積を抑えられ、かつ人間が理解しやすくなる。
【0042】
色域情報23としては、上述したように色差ΔEが色情報22に示す基準値に対して一定の数値範囲以内であることを示す情報であっても良い。この場合、色域情報23は、色差ΔEが一定の正の値以内であることを示す情報であっても良い。あるいは、色域情報23は、例えばLab表色系のL値、a値又はb値が、色情報22に示す基準値に対して一定の数値範囲以内であることを示す情報であっても良い。この場合、色域情報23は、L値、a値又はb値が基準値に対して正又は負の一定の値以内であることを示す情報であっても良い。例えば、色域情報23は、「±1」、「±3」、又は「-1から+1」等、正負で対称的な範囲の記載であっても良い。あるいは、色域情報23は、「-1から+2」等、正負で非対称な範囲の記載であっても良い。Lab表色系として、CIE 1976規格の(L*,a*,b*)の色空間表色系を用いた場合は、色域情報23は、L*値、a*値又はb*値が、色情報22に示す基準値に対して一定の数値範囲以内であることを示す情報であっても良い。あるいは、色域情報23は、正の値の場合は、符号を省略しても良い。符号を省略することで、色域情報23を配置する面積を少なくすることができる。
【0043】
カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の近傍に存在しても良い。カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の一辺に沿って配置されていても良い。具体的には、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の上側に位置しても良い。パッチ21の近傍に当該パッチ21に対応する色情報22及び色域情報23が配置されることにより、パッチ21と色情報22及び色域情報23との対応関係が明瞭になる。なお、パッチ21に対して「上」、「下」、「左」、「右」に位置するとは、医療用検体Sを観察する向きを基準とする「上」、「下」、「左」、「右」をいう。
【0044】
図1を参照すると、カラーチャート20は、医療用検体S又は検体支持領域SAの近傍に配置されている。カラーチャート20は、検体支持領域SAの内側に配置されても良く、検体支持領域SAの外側に配置されても良い。カラーチャート20は、顕微鏡等の病理用撮影装置によって観察する際の観察範囲に存在しても良い。カラーチャート20は、医療用検体Sと重ならない領域に配置されることが好ましい。
【0045】
図2(A)(B)及び図3(A)-(C)は、カラーチャート20の各種変形例を示す。
【0046】
図2(A)に示すように、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれバーコードで示されていても良い。図2(A)において、色情報22は、それぞれLab表色系のL値、a値及びb値が「33.65、00.73、-0.832」及び「83.56、00.10、-0.024」である例を示している。図2(A)において、色域情報23は、色差ΔEが「+1以内」である例を示している。図2(A)において、色情報22及び色域情報23が、JIS X 0503で規定されるCODE39規格によるバーコードによって表示される場合を例にとって示している。これに限らず、色情報22及び色域情報23は、他の規格によるバーコード又は2次元コードでも良く、独自のコード体系を用いても良い。本変形例によれば、色情報22及び色域情報23を自動認識しやすい。また、バーコードにチェックデジット等を含めることにより、色情報22及び色域情報23が汚れ等によって認識不能になることを抑制できる。
【0047】
図2(B)に示すように、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれ複数のドットによって示されていても良い。図2(B)において、色情報22及び色域情報23は、それぞれ白と黒の二種類のドットで示されている。具体的には、図2(B)の左側に位置する色情報22及び色域情報23は、「黒、白、白、白」の4つのドットで示されている。「黒、白、白、白」のドットは、例えばLab表色系のL値、a値及びb値が「33.65、00.73、-0.832」であり、色差ΔEが「+1以内」であることを意味しても良い。この情報は、別途データベース等に登録されていても良い。同様に、図2(B)の右側に位置する色情報22及び色域情報23は、「白、黒、白、白」の4つのドットで示されている。「白、黒、白、白」のドットは、例えばLab表色系のL値、a値及びb値が「83.56、00.10、-0.024」であり、色差ΔEが「+1以内」であることを意味しても良い。この情報は、別途データベース等に登録されていても良い。図2(B)において、例えば白のドットを「0」、黒のドットを「1」と定義しても良い。この場合、各ドットを画像認識を用いて「0」又は「1」に変換しても良い。本変形例によれば、最低限1つのドット(1bit)を配置することで、色情報22及び色域情報23を表現できる。このため、色情報22及び色域情報23を配置する面積を狭くできる。さらに、白又は黒のN個のドットを用いることにより、2通りの色情報22及び色域情報23を表現できる。さらに、各ドットについて、例えば白、灰、黒等の3通り以上の色を用いることにより、少ない面積でより多くの色情報22及び色域情報23を表現できる。
【0048】
図3(A)に示すように、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21を挟んで互いに対向する位置に存在しても良い。具体的には、カラーチャート20の色情報22は、それぞれパッチ21の上側に位置し、色域情報23は、それぞれパッチ21の下側に位置する。この場合、各パッチ21が、それぞれ対応する色情報22及び色域情報23によって挟まれるので、パッチ21と色情報22及び色域情報23との対応関係が明瞭になる。なお、色情報22がそれぞれパッチ21の下側に位置し、色域情報23がそれぞれパッチ21の上側に位置しても良い。
【0049】
図3(B)に示すように、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の一辺に沿って並んで配置されていても良い。具体的には、色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の下側に位置しても良い。
【0050】
図3(C)に示すように、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の一辺に沿って配置されていても良い。具体的には、色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の右側に位置しても良い。あるいは、色情報22及び色域情報23は、それぞれパッチ21の左側に位置しても良い。
【0051】
図4図5(A)-(C)及び図6(A)(B)は、チャート付き支持体10及びカラーチャート20の各種変形例を示す。
【0052】
図4に示すように、カラーチャート20は複数のパッチ21を有し、複数のパッチ21は、医療用検体Sに対して互いに対向する位置に配置されていても良い。例えば、複数のパッチ21は、検体支持領域SAの4つの角部のいくつかに沿って配置されても良い。図4において、カラーチャート20の色情報22はパッチ21の上側に位置し、色域情報23はパッチ21の左側又は右側に位置している。すなわち、カラーチャート20の色情報22及び色域情報23は、それぞれ医療用検体Sに対して遠い側に配置される。この場合、医療用検体Sがカラーチャート20に重なることを抑え、医療用検体S及びカラーチャート20が認識しにくくなることを抑制できる。
【0053】
図5(A)に示すように、カラーチャート20のパッチ21は、医療用検体Sの近傍に配置され、色情報22及び色域情報23は、医療用検体Sから離れて配置されていても良い。具体的には、色情報22及び色域情報23は、対応するパッチ21から、パッチ21の最小径の2倍以上離れていても良い。複数のパッチ21が存在する場合、複数のパッチ21の位置関係と、対応する色情報22及び色域情報23の位置関係とが、同一であることが好ましい。例えば図5(A)において、左(右)側のパッチ21が、左(右)側の色情報22及び色域情報23に対応している。また、色情報22及び色域情報23の大きさは、パッチ21のサイズよりも大きいことが好ましい。具体的には、色情報22及び色域情報23に含まれる1文字の幅が、パッチ21の最小径よりも大きいことが好ましい。本変形例によれば、パッチ21のサイズが小さい場合でも、色情報22及び色域情報23が大きいため、色情報22及び色域情報23を肉眼で認識しやすい。また、パッチ21の近傍に色情報22及び色域情報23を配置していないため、パッチ21のサイズを小さくできる。
【0054】
図5(B)に示すように、カラーチャート20のパッチ21は、医療用検体Sの近傍に配置され、色情報22及び色域情報23が医療用検体Sから離れて配置されていても良い。さらにパッチ21を拡大した追加のパッチ21Lを、色情報22及び色域情報23の近傍に配置しても良い。具体的には、追加のパッチ21Lは、対応するパッチ21から、パッチ21の最小径の2倍以上離れていても良い。この場合、色情報22及び色域情報23に加え、追加のパッチ21Lを肉眼で認識しやすい。
【0055】
図5(C)に示すように、カラーチャート20のパッチ21、色情報22及び色域情報23が医療用検体Sの近傍に配置され、追加のパッチ21L、追加の色情報22L及び追加の色域情報23Lが医療用検体Sから離れて配置されていても良い。具体的には、追加のパッチ21L、追加の色情報22L及び追加の色域情報23Lは、それぞれ対応するパッチ21から、パッチ21の最小径の2倍以上離れていても良い。この場合、追加のパッチ21L、追加の色情報22L及び追加の色域情報23Lを肉眼で認識しやすい。パッチ21、色情報22又は色域情報23が汚れ等によって認識不可能になった場合でも、追加のパッチ21L、追加の色情報22L又は追加の色域情報23Lによってこれらの情報を認識できる。
【0056】
図6(A)に示すように、チャート付き支持体10は、複数のカラーチャート20を有していても良い。複数のカラーチャート20は、互いに同一の色を有するパッチ21を含む。複数のカラーチャート20は、繰り返し配置されている。図6において、各カラーチャート20は、2つのパッチ21を含む。検体支持領域SAの4つの角部には、それぞれ2つずつのカラーチャート20が配置されている。支持体11の角部近傍には、検体支持領域SA内のカラーチャート20よりも大きいカラーチャート20が配置されている。この場合、医療用検体Sの撮影時に、支持体11の全面をスキャンせず、医療用検体Sを中心とした一部分をスキャンした場合であっても、カラーチャート20を容易に撮影できる。すなわち医療用検体Sの周囲にパッチ21を複数配置することにより、撮影場所によらず、パッチ21が写る可能性を高めることができる。また、パッチ21にガイドの役割を持たせることもできるため、医療用検体Sの撮影時に医療用検体Sを探しやすくなる。また、医療用検体Sが複数存在する場合、観察している医療用検体Sがどの検体であるかを容易に識別できる。医療用検体Sが小さい場合は、医療用検体Sをカラーチャート20に近づけることにより、視野やデジタル画像内に医療用検体Sと隣接してパッチ21を収めやすくなる。
【0057】
図6(B)に示すように、チャート付き支持体10は、複数のカラーチャート20A、20B、20Cを有していても良い。カラーチャート20A、20B、20Cは、それぞれ2つのパッチ21A、21B、21Cを含む。パッチ21A、21B、21Cの色の組合せは、互いに同一である。複数のカラーチャート20A、20B、20Cは、繰り返し配置されている。図6において、パッチ21A、21B、21Cは幅が互いに異なる。パッチ21Aは最も幅が狭く、パッチ21Bは2番目に幅が狭く、パッチ21Cは最も幅が広い。パッチ21A、21B、21Cの幅は、スケールとしての役割を果たしても良い。例えば、パッチ21Aの長辺の長さが0.4mmである場合、パッチ21Bの長辺の長さが0.8mmであり、パッチ21Cの長辺の長さが1.2mmであっても良い。本変形例によれば、医療用検体Sの観察時に、医療用検体Sの所定の部分の長さをパッチ21A、21B、21Cの幅に基づいて容易に測定できる。
【0058】
(色ずれ検知システム及び色ずれ検知システムで行われる処理)
次に、図7を参照して、本実施の形態による色ずれ検知システム及び色ずれ検知方法について説明する。図7は、本実施の形態による色ずれ検知システム50及び色ずれ検知システム50で行われる色ずれ検知処理を示す図である。
【0059】
図7に示すように、色ずれ検知システム50は、撮影装置51と、撮影装置51から送られた画像を処理する処理装置52とを含む。撮影装置51としては、例えばスライドスキャナ等のスキャナ、カメラ、顕微鏡、モバイル機器等が挙げられる。撮影装置51は、専ら医療用検体の撮影に用いられる病理用撮影装置であっても良い。撮影装置51は、医療用検体以外の撮影にも用いられる一般的な撮影装置であっても良い。処理装置52としては、撮影装置51とは別体に構成されたコンピュータであっても良く、スキャナ等の撮影装置51を制御する制御用コンピュータであっても良い。
【0060】
[事前準備(色変換情報の生成)]
<1:基準チャートの読み込み>
実際の色ずれ検知処理を行う前に、事前準備として、図示しない基準チャートを撮影装置51に読み込む。基準チャートは、RGB、CMYK等の色に着色されたパッチを含む。基準チャートのパッチの正しい色情報は、Lab表色系又はXYZ表色系で予め判明しているとする。具体的には、例えば測色機等を用いて基準チャートのパッチを実際に測定することにより、予めパッチの正しい色情報が得られている。
【0061】
次に、基準チャートを、対象となる撮影装置51で読み込むことにより、較正用デジタル画像ファイルを作製する。較正用デジタル画像ファイルは、基準チャートのパッチの色をRGB値として含む。このRGB値を撮影装置51から処理装置52に出力する。
【0062】
<2:色管理空間への変換>
次に、処理装置52は、基準チャートのRGB値を色管理空間へ単位系変換処理する。ここで、色管理空間とは、較正されている測色機等で測色した際の機器によらない正しい色情報を扱う中間的な空間をいう。色管理空間は、プロファイル空間又は色変換空間と称しても良い。ここでは色管理空間として、Lab表色系を用いた場合の例を示す。一般に、Lab表色系は均等色空間であるという特徴があり、色の差を色差として距離で表すことができるので、色を調整する際に有効な座標系の1つである。
【0063】
この場合、処理装置52は、まず上述した基準チャートのRGB値を、例えば国際規格ITU-R BT.709にしたがって、XYZ表色系の値に変換する。次いで、処理装置52は、XYZ表色系の値を、例えばCIE 1976規格の(L*,a*,b*)にしたがって、Lab表色系に単位系を変換をする。Lab表色系を用いた場合、上述したように色の差を色差として距離で表すことができる。このため色ずれの検出や、色補正に適した表色系である。一方、Lab表色系は基準白色光源を変えた場合には値が変わるが、XYZ表色系はその値が変わることがない。このため、XYZ表色系を経由してLab表色系に単位系の変換を行うことが好ましい。本実施の形態においては、基準白色光源としてD65光源及びD50光源のいずれを用いても良い。なお、基準白色光源が変わる場合には、変換処理をすることにより、元の基準白色光源のLab表色系となるように演算を行う。このようにして、基準チャートのRGB値がLab値として色管理空間上にマッピングされる。処理装置52は、このような、色管理空間上にマッピングするための変換処理を関数として予め持っておいても良く、後述のように計算結果をテーブルとして持っておいても良い。
【0064】
色管理空間に変換された基準チャートのLab値は、本来のLab値とは異なることが多い。これは、スキャナ等の撮影装置51に偏りが存在するためである。例えば撮影装置51が出力した基準チャートのL値が、本来の基準チャートのL値とずれることもある。このずれを加味して、以降に読み込む医療用検体Sの色を補正する。例えば基準チャートの基準色が黒色であり、基準色のLab値が、L値=0、a値=0、b値=0であるとする。また、撮影装置51が読み込んだ基準チャートのLab値が、例えばL値=5、a値=0、b値=0であるとする。この場合、色味を示すa値及びb値にずれはなく、補正は不要である。一方、L値は、本来の値が0であるべきところ、5となっている。このため、これを補正する補正処理を定義する。これにより、実際の医療用検体Sの画像を読み込んだ際に、基準チャートで求めた差分を加味して、撮影装置51の偏りを抑制した色変換が可能となる。なお、L値は0~100の値をとることが一般的である。
【0065】
色管理空間上にマッピングするための変換処理を予め関数として規定しておく場合、例えば以下のようにしても良い。例えば、上述した例の場合、撮影装置51が読み込んだL値が0以上5以下である場合は、色管理空間におけるL値が0(一定値)としても良い。例えば、撮影装置51が読み込んだL値が5であれば、色管理空間におけるL値が0となる。また例えば、撮影装置51が読み込んだL値が100であれば、色管理空間におけるL値が100となる。撮影装置51が読み込んだL値が5以上100以下である場合は、色管理空間におけるL値が0以上100以下になるようにリニアに変換しても良い。また、上記では基準チャートのLab値を分解し、L値、a値、b値をそれぞれ独立に扱い、L値のみを変換する例を示したが、これに限らない。Lab値を3次元のベクトルとして捉え、複合的な変換処理等を行っても良い。このような色変換処理法は特に限定されるものではない。いずれの場合においても、後述するように、撮影装置51によって医療用検体Sの画像を多数(例えば1000枚以上)読み込む際、上述した変換処理法によって処理する。これにより、撮影装置51によって撮影された医療用検体Sの画像のLab値を補正処理し、本来の医療用検体Sの画像のLab値を計算できる。
【0066】
色管理空間上にマッピングするための変換処理をした計算結果を予めテーブルとして規定しておく場合、例えば以下のようにしても良い。一般に、RGB値は、8bitであれば0以上255以下の離散的な値であり、16bitであれば0以上65535以下の離散的な値である。このため、事前に全てのパターンを計算しておいても良い。例えばRGB値が8bitである場合、RGB値が(200、200、200)であればLab値が(80.6、0、0)であり、RGB値が(201、200、200)であればLab値が(80.7、0.4、0.1)である。処理装置52は、このような計算結果を参照テーブルとして保有していても良い。この場合、RGB値に対応するLab値を選択することにより、Lab値の算出が完了する。
【0067】
<3:基本的な変換処理方法>
次に、本実施の形態において、撮影装置51によって医療用検体Sを撮影し、撮影された医療用検体Sの画像を変換する場合の基本的な変換処理方法について説明する。この処理方法は、例えばスキャナ等の撮影装置51によって医療用検体Sを多数(例えば1000枚以上)読み込み、この画像を補正処理する場合に用いられる。
【0068】
まず、撮影装置51によって医療用検体Sを撮影する。
【0069】
次に、処理装置52は、撮影装置51が読み込んだ医療用検体Sの画像をRGB値として画像ファイル等で保存する(以下、第1の処理という)。
【0070】
次に、上記RGB値を色管理空間の単位系である例えばLab値に変換する(以下、第2の処理という)。この変換処理方法は、例えば上述した単位系変換処理を用いても良い。
【0071】
次に、変換されたLab値を、予め定められている色管理空間上へ、補正処理する(以下、第3の処理という)。
【0072】
このようにして補正処理された色管理空間でのLab値は、機器の特性に依存しないように処理した値である。補正処理された値は、データベース等にRGB値のファイルとして保存した方が利用しやすい。このため、色管理空間に準拠したRGB値であることをメタ情報等で書き加えた、RGB値による画像ファイルとして保存しても良い(以下、第4の処理という)。
【0073】
保存された画像ファイルを特定のディスプレイで見る場合には、この保存された画像ファイルを当該ディスプレイに合わせたRGB値による画像ファイルに変換しても良い。この際、色管理空間に準拠したRGB値による画像ファイルを、一旦色管理空間に準拠したLab値に戻しても良い。次いで、別途新たに定義された補正処理を用いることにより、色均等空間であるLab単位系で、ディスプレイの特性に合わせたディスプレイ用のLab値に変換する。その後、このディスプレイ用のLab値を、XYZ表色系を経由等することによりディスプレイ用のRGB値を持つRGB値のファイルに変換して利用しても良い。このように、色の変換は、色の差を距離で読み替えられるLab値に基づいて行うことが一般的である。なお、XYZ表色系を経由することにより、RGB値以外のデジタルファイルにも変換しやすい場合もある。
【0074】
[本実施の形態による色ずれ検出方法]
次に、図7を参照して、本実施の形態によるチャート付き支持体10を用いて医療用検体Sの色ずれを検出する方法について説明する。
【0075】
まず、撮影装置51によって医療用検体Sの画像を読み込む。医療用検体Sの画像は、多数(例えば1000枚以上)読み込んでも良い。撮影装置51によって読み込まれた医療用検体Sの画像は、処理装置52に送られる。撮影装置51によって読み込まれた医療用検体Sの画像は、有線・無線LANもしくはインターネット等の任意の通信手段またはUSBメモリ等の記憶媒体を介して処理装置52に送られても良い。
【0076】
次に、処理装置52において、医療用検体Sの画像に本実施の形態によるカラーチャート20が存在するか否かを確認する(図7のステップS11)。なお、カラーチャート20のパッチ21、色情報22及び色域情報23のいずれかが欠損又は汚損している場合にも、カラーチャート20が存在しないものとする。
【0077】
カラーチャート20が存在しない場合、上述した第1の処理乃至第4の処理を順次行う(図7のステップS12、S13、S14、S15)。このとき、医療用検体Sに対応する患者ID情報と、医療用検体Sの画像等とを紐づけて、医療用検体Sがどの患者の病理検体であるかをわかるようにして保存しても良い。
【0078】
<第1の色ずれ検出工程>
医療用検体Sの画像に本実施の形態によるカラーチャート20が存在する場合、第1の色ずれ検出工程を行う(図7のステップS16)。
【0079】
この間、まず処理装置52は、撮影装置51から送られたカラーチャート20の画像を検査する。次に、処理装置52は、RGB値であるパッチ21の色をLab値へ変換する。このときの色変換は、一般的な色変換手法を用いても良い。次いで、処理装置52は、色補正前のパッチ21の色が、色情報22及び色域情報23に基づく範囲を大きく超える場合には、アラートを発する。
【0080】
具体的には、処理装置52は、例えば取り込まれた画像データから、パッチ21の形状、色情報22及び色域情報23の配置等に基づき、パッチ21の画像部分を抽出し、パッチ21のRGB値を算出する。この際、処理装置52は、例えば取り込まれた画像データから、パッチ21の形状、色情報22及び色域情報23の配置等に基づき、パッチ21の画像部分を抽出する。ここで、画像部分が複数画素からなる場合、個々の画素のRGB値が例えば8bitであれば0~255の値を取っているが、パッチ21の色むらや、撮影装置51のノイズ等の影響で、必ずしも全ての画素で同じ値ではないこともありえる。そこで、パッチ21の色むらや撮影装置51のノイズがRGB値に影響を与えないような場合は、パッチ21の画像部分の任意の画素のRGB値をパッチ21のRGB値としても良い。また、多少なりともパッチ21の色むらや撮影装置51のノイズがあり得る場合には、パッチ21の画像の全画素のRGB値において、RGB各色それぞれの平均値をパッチ21のRGB値としても良い。また、パッチ21の画像の全画素のRGB値において、各色それぞれの最頻値をパッチ21のRGB値としても良い。また、パッチ21の外周部にノイズが発生しやすいこともありえるため、あらかじめ設定したパッチ21の外周部にあたる一定の画素数を除くなどして、中心部の画素におけるRGB各色それぞれの平均値や最頻値をパッチ21のRGB値としても良い。また、図6(A)や図6(B)に示すように、同一の色を有するパッチ21が複数配置されている場合は、任意の1つのパッチ21において、パッチ21の画像に含まれる画素におけるRGB各色の平均値や最頻値をパッチ21のRGB値としても良いし、複数のパッチ21の画像にまたがって、RGB各色の平均値や最頻値を算出し、パッチ21のRGB値としても良い。なお、平均値については整数とは限らないが、平均値をそのままパッチ21のRGB値としても良いし、平均値を四捨五入などして整数としても良い。また、処理装置52は、色情報22及び色域情報23を抽出し、識別子又はバーコードを読み取る。これにより、処理装置52は、色情報22及び色域情報23を読み出す。続いて、処理装置52は、パッチ21から算出したRGB値から仮Lab値を算出する。仮Lab値とは、パッチ21から算出したRGB値を、XYZ値を経ることによりLab値に変換し、色管理空間にそのまま変換したと仮定した場合の、Lab値である。処理装置52は、この仮Lab値と、色情報22に記載されているLab値との差が、予め設定されている閾値(例えば色差ΔE=10)以内であるか判別する。
【0081】
処理装置52は、上記差が閾値以内であれば正常と判断する。一方、処理装置52は、上記差が閾値以上であれば、アラートを表示又は送信する。アラートは、ディスプレイに表示されても良く、事前に設定されたメールアドレス又はサーバへ送信されても良い。アラートは、例えば「色補正前色差エラー」という内容であっても良い。この際、アラートに加えてアラートが発生した時刻、画像ファイル名、画像データのID、及び/又は、患者ID等の情報を表示又は送信しても良い。カラーチャート20が2つのパッチ21を含む場合、2つのパッチ21の両方について上記差が閾値以上である場合に、アラートを表示又は送信しても良い。あるいは、2つのパッチ21の一方について上記差が閾値以上である場合に、アラートを表示又は送信しても良い。また、2つのパッチ21の一方が汚れ等で判定できない場合には、他方のパッチ21のみに基づいて判定してもよい。
【0082】
<第2の色ずれ検出工程>
第1の色ずれ検出工程が正常であった場合、第2の色ずれ検出工程を行う(図7のステップS17)。
【0083】
第2の色ずれ検出工程は、医療用検体Sの画像が連続して同じ条件で複数枚送り込まれる場合に行う処理である。この場合、例えば撮影装置51の自動色合わせ機能等が作動することにより、読み込まれた医療用検体Sの画像の色が1枚だけ大きく変わることが考えられる。このような場合、処理装置52は、色補正前のパッチ21の色が、その前に読み込んだパッチ21の色と大きく異なる場合には、アラートを発する。この場合、処理装置52は、1枚前のカラーチャート20の情報や、予め設定された枚数より前のカラーチャート20の情報を保存しておく。処理装置52は、現在読み込まれたパッチ21と、例えば1枚前のパッチ21とを比較し、色差ΔEが予め設定されている閾値(例えば色差ΔE=3)以内であるかを判別する。
【0084】
具体的には、処理装置52は、例えば取り込まれた画像データから、パッチ21の形状、色情報22及び色域情報23の配置等に基づき、パッチ21の画像部分を抽出し、パッチ21のRGB値を算出する。パッチ21のRGB値の具体的な算出方法は、第1の色ずれ検出工程で説明した通りである。また、処理装置52は、色情報22及び色域情報23を抽出し、識別子又はバーコードを読み取ることにより、色情報22及び色域情報23を読み出す。続いて、処理装置52は、パッチ21から算出したRGB値から仮Lab値を算出する。仮Lab値とは、パッチ21から算出したRGB値を、XYZ値を経ることによりLab値に変換し、色管理空間にそのまま変換したと仮定した場合の、Lab値である。次に処理装置52は、1枚前に取り込んだカラーチャート20の色情報22及び色域情報23と、現在のカラーチャート20の色情報22及び色域情報23とが同一であるか否かを確認する。これが同一でない場合、第2の色ずれ検出工程を終了する。1枚前に取り込んだ画像にカラーチャート20が存在しない場合も、第2の色ずれ検出工程を終了する。あるいは、1枚前に取り込んだ画像が存在しない場合も、第2の色ずれ検出工程を終了する。処理装置52は、この仮Lab値と、1枚前に取り込んだ画像のパッチ21から算出した仮Lab値との差が、予め設定されている閾値(例えば色差ΔE=3)以内であるかを判別する。
【0085】
処理装置52は、上記差が閾値以内であれば正常と判断する。一方、処理装置52は、上記差が閾値以上であれば、アラートを表示又は送信する。アラートは、ディスプレイに表示されても良く、事前に設定されたメールアドレス又はサーバへ送信されても良い。アラートは、例えば「連続読み込み色差エラー」という内容であっても良い。この際、アラートに加えてアラートが発生した時刻、画像ファイル名、画像データのID、及び/又は、患者ID等の情報を表示又は送信しても良い。カラーチャート20が2つのパッチ21を含む場合、2つのパッチ21の両方について上記差が閾値以上である場合に、アラートを表示又は送信しても良い。あるいは、2つのパッチ21の一方について上記差が閾値以上である場合に、アラートを表示又は送信しても良い。また、2つのパッチ21の一方が汚れ等で判定できない場合には、他方のパッチ21のみに基づいて判定してもよい。なお、処理装置52は、現在のパッチ21より前に取り込まれた複数のパッチ21の平均値と比較し、この平均値が予め設定されている閾値(例えば色差ΔE=3)以内であるかを判別しても良い。
【0086】
<第1の処理乃至第3の処理>
第2の色ずれ検出工程が正常であった場合、または、第2の色ずれ検出工程を終了した場合、上述した第1の処理乃至第3の処理を順次行う(図7のステップS18、S19、S20)。
【0087】
<第3の色ずれ検出工程>
第3の処理を行った後、第3の色ずれ検出工程を行う(図7のステップS21)。
【0088】
第3の色ずれ検出工程は、色補正済みの医療用検体Sの画像について色ずれ検出を行うものである。この状態においては、色補正された医療用検体Sの画像の色は一定の精度でRGB値からLab値に正しく変換されている。第3の色ずれ検出工程においては、このパッチ21の色補正をした結果が、色情報22及び色域情報23に照らして不整合がないか否かを判定するものである。
【0089】
具体的には、処理装置52は、一定精度で色補正された色補正済みの画像データから、パッチ21の形状、色情報22及び色域情報23の配置等に基づき、パッチ21の画像部分を抽出し、パッチ21のRGB値を算出する。パッチ21のRGB値の具体的な算出方法は、第1の色ずれ検出工程で説明した通りである。また、処理装置52は、色情報22及び色域情報23を抽出し、識別子又はバーコードを読み取ることにより、色情報22及び色域情報23を読み出す。続いて、処理装置52は、算出したパッチ21のRGB値が、色情報22及び色域情報23の範囲内であるか否かを判別する。
【0090】
処理装置52は、算出したパッチ21のRGB値が、色情報22及び色域情報23の範囲内であれば正常と判断する。一方、処理装置52は、算出したパッチ21のRGB値が、色情報22及び色域情報23の範囲になければ、アラートを表示又は送信する。アラートは、ディスプレイに表示されても良く、事前に設定されたメールアドレス又はサーバへ送信されても良い。アラートは、例えば「色補正後色差エラー」という内容であっても良い。この際、アラートに加えて時刻、画像ファイル名、画像データのID、及び/又は、患者ID等の情報を表示又は送信しても良い。カラーチャート20が2つのパッチ21を含む場合、2つのパッチ21の両方について、算出したパッチ21のRGB値が色情報22及び色域情報23の範囲外である場合に、アラートを表示又は送信しても良い。あるいは、2つのパッチ21の一方について、算出したパッチ21のRGB値が色情報22及び色域情報23の範囲外である場合に、アラートを表示又は送信しても良い。また、2つのパッチ21の一方が汚れ等で判定できない場合には、他方のパッチ21のみに基づいて判定してもよい。
【0091】
例えば、色情報22のLab値が「33.65、0.73、-0.832」であり、色域情報23が色差ΔEが+1以内である場合を想定する。また、色管理空間のRGB値から色変換したパッチ21のLab値が「33.55、0.33、-0.832」であるとする。このとき、色情報22のLab値「33.65、0.73、-0.832」と、パッチ21のLab値「33.55、0.33、-0.832」との距離が色差ΔEであり、下記の式で算出される。
色差ΔE=√{(33.65-33.55)+(0.73-0.33)+((-0.832)-(-0.832))}=約0.412
この場合、色差ΔEが1以内であるため、正常と判定される。なお、色差ΔEの算出方法としては、CIE DE2000(delta E00)を用いても良い。
【0092】
一般にはLab表色系は均等色空間であり、上記のように空間上の距離である色差ΔEを色域情報23とすることで、色ずれ検出を上記のように行える。一方で、色域情報23として、Lab表色系のL値、a値又はb値が、色情報22に示す基準値に対して一定の数値範囲以内であることを示す情報として、例えば「L±1、a-1から+2、b-3から+3」などと表してもよい。機器の読み取り特性などに応じて、L値、a値又はb値それぞれに範囲を設定できる。色域情報23とは、色情報22のLab値とパッチ21のLab値との差のあるべき範囲を示している。このとき、色情報22のLab値「33.65、0.73、-0.832」であり、パッチ21のLab値「33.55、0.33、-0.832」であったとすると、
L値の差:33.65-33.55=0.1
a値の差:0.73-0.33=0.4
b値の差:(-0.832)-(-0.832)=0
であり、L値、a値及びb値のいずれも
「L±1、a-1から+2、b-3から+3」
の範囲内であることから、正常と判定される。
【0093】
<第4の処理>
第3の色ずれ検出工程が正常であった場合、上述した第4の処理を行う(図7のステップS22)。
【0094】
なお、第1の色ずれ検出工程乃至第3の色ずれ検出工程の全てを行っても良く、任意の1つ又は2つのみを行っても良い。
【0095】
[色ずれ検出工程の変形例]
次に、図8を参照して、チャート付き支持体10を用いて医療用検体Sの色ずれを検出する方法の変形例について説明する。図8は、本変形例による本実施の形態による色ずれ検知システム50A及び色ずれ検知システム50Aで行われる色ずれ検知処理を示す図である。図8に示す変形例は、色ずれ検知システム50Aが画像処理サーバ53を含む点が異なるものであり、他の構成は上述した図7に示す形態と略同一である。図8において、図7に示す形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0096】
図8に示すように、本変形例による色ずれ検知システム50Aは、撮影装置51と、処理装置52と、画像処理サーバ53とを含む。画像処理サーバ53は、撮影装置51から処理装置52を経由して送られた画像を処理する。
【0097】
図8において、まず、撮影装置51によって医療用検体Sの画像を読み込む。医療用検体Sの画像は、多数(例えば1000枚以上)読み込んでも良い。撮影装置51によって読み込まれた医療用検体Sの画像は、処理装置52に送られる。医療用検体Sの画像は、処理装置52から画像処理サーバ53に送られる。医療用検体Sの画像は、有線・無線LANもしくはインターネット等の任意の通信手段またはUSBメモリ等の記憶媒体を介して画像処理サーバ53に送られても良い。
【0098】
画像処理サーバ53で行われる色ずれ検出方法は、図7に示す色ずれ検知システム50の処理装置52で行われる色ずれ検出工程と略同一である。以下において、図7に示す色ずれ検出方法と異なる点について説明する。
【0099】
図8に示す色ずれ検知システム50Aにおいて、アラートを表示又は送信する場合に、アラートに加えて画像の送信元を表示又は送信しても良い。これは、画像処理サーバ53に対して、複数の処理装置52からデータが送信される場合があるため、送信された画像が、どの処理装置52から送信されてきたかを画像とともに記録しておく必要があるためである。この送信元は、例えば、病院を表すID、又は病院内の個人を特定するIDであっても良い。
【0100】
また、例えば、医療用検体Sの画像が特定の病院を表すIDと紐づけられ、その画像に色ずれが起こった場合、それをアラートとして表示又は送信しても良い。本変形例の場合、アラートは、遠隔地に存在するコンピュータの画面又は携帯端末の画面に表示し、あるいはメール、電話発信又は自動音声等で警告することが考えられる。この際、アラートの宛先と、アラートに関するコンテンツとの少なくとも2つを予め決めておいても良い。例えば、アラートをコンピュータの画面又は携帯端末の画面に送信する場合、IPアドレス及びアプリへの警告表示命令を予め決めておいても良い。例えば、アラートをメールで送信する場合、メールアドレス及び警告メールの本文を予め決めておいても良い。例えば、アラートを電話で送信する場合、電話番号及び自動音声のコンテンツを予め決めておいても良い。
【0101】
画像処理サーバ53は、医療用検体Sの画像に色ずれを検出した場合、その画像に紐づくユーザIDを特定し、そのユーザIDに紐づく警告宛先情報と警告コンテンツ情報を特定し、例えば遠隔地にあるコンピュータの画面に警告を表示しても良い。ユーザIDに、複数の警告宛先情報が紐づけられ、遠隔地にあるコンピュータの画面への警告、メールの発信、電話等を、1回の色ずれに対して、複数実施しても良い。
【0102】
本変形例において、医療用検体Sの画像データは、画像処理サーバ53に保存され、ユーザは必要に応じて画像処理サーバ53のデータを参照しても良い。あるいは、医療用検体Sの画像データの保存先が、ユーザの遠隔地にある撮影装置51と接続されている処理装置52であっても良い。医療用検体Sの画像データは、画像処理サーバ53に加えて、他のコンピュータで保存しても良い。あるいは、医療用検体Sの画像データは、画像処理サーバ53に保存せず、他のコンピュータのみに保存しても良い。
【0103】
以上説明したように、本実施の形態によれば、チャート付き支持体10のカラーチャート20は、一定の色域内の色を有するパッチ21と、パッチ21が表す色に関する色情報22と、色域に関する色域情報23と、を含む。これにより、撮影装置51が読み込んだ画像に色ずれが発生したことを容易に検知できる。また、複数のチャート付き支持体10を連続して読み込む際に、一部のチャート付き支持体10に上記までに記載したカラーチャート20があれば、色ずれ発生を容易に検知できる。より望ましくはすべてのチャート付き支持体10に上記までに記載したカラーチャート20があれば、色ずれ発生をより確実に検知することができる。
【0104】
(第2の実施の形態)
次に、図9乃至図11を参照して第2の実施の形態について説明する。図9乃至図11は第2の実施の形態を示す図である。図9乃至図11において、図1乃至図8に示す第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0105】
図9により、本実施の形態による医療用検体観察用のチャート付き支持体の構成について説明する。
【0106】
図9に示すように、本実施の形態によるチャート付き支持体10Aは、医療用検体Sを観察する際に用いられるものである。チャート付き支持体10Aは、支持体11と、可動部15と、カラーチャート20と、を備える。可動部15は、支持体11に対して相対的に移動可能である。カラーチャート20は、可動部15上に位置する。カラーチャート20は、可動部15の少なくとも一方の面から視認可能な位置に存在する。
【0107】
本実施の形態によれば、カラーチャート20と医療用検体Sとが固定されることなく、個々に独立して動かせるようになっている。このため、撮影装置の観察視野内の任意の場所へカラーチャート20を配置できる。これにより、医療用検体Sの大きさに関わらず、医療用検体Sとカラーチャート20とが互いに重ならないようにし、撮影面積を効率的に活用できる。
【0108】
可動部15は、支持体11上で摺動可能なものであっても良い。可動部15は、支持体11の主たる面に対して平行に移動可能であっても良い。可動部15は、支持体11の長手方向に沿って移動可能であっても良い。可動部15は、光透過性を有する透明基板であっても良く、光透過性を有さない不透明基板であっても良い。可動部15としては、ガラス基板等の無機基板や樹脂基板を用いることができる。樹脂基板は、板状の他、フィルムやシートであってもよい。
【0109】
支持体11の対向する一対の辺に沿って、それぞれガイド16が設けられている。一対のガイド16は、可動部15が支持体11の辺に沿って移動することを案内する。可動部15は、一対のガイド16の間に配置される。ガイド16は、レールであっても良い。ガイド16は、支持体11と一体に構成されても良い。ガイド16は、支持体11と別体に構成され、支持体11に取り付けられても良い。
【0110】
カラーチャート20は、少なくとも1つのパッチ21を含む。図9に示す例において、カラーチャート20は、2つのパッチ21を含む。パッチ21は、一定の色域内の色を有する。パッチ21は、第1の実施の形態の場合と同様に構成しても良い。カラーチャート20は、第1の実施の形態の場合と同様に、色情報と色域情報とを更に含んでも良い。この場合、色情報及び色域情報の構成は、それぞれ第1の実施の形態の場合と同様に構成しても良い。本実施の形態によれば、カラーチャート20が可動部15上に位置することにより、医療用検体Sとカラーチャート20とが重なることにより医療用検体Sの観察を阻害するおそれが少ない。このため、可動部15上により多くのパッチ21、色情報及び色域情報を載せることが可能になる。なお、カラーチャート20は、色情報及び色域情報を含まなくても良い。
【0111】
医療用検体S上には、図示しないカバーガラスが配置されていても良い。
【0112】
図10(A)(B)及び図11は、本実施の形態によるチャート付き支持体10Aの変形例を示す。
【0113】
図10(A)に示すように、可動部15の側面(ガイド16側の面)に取っ手17が設けられていても良い。取っ手17は、可動部15が支持体11の辺に沿って移動することを補助する。図10(A)において、一方のガイド16の長手方向に沿って溝16aが形成されている。取っ手17は、溝16aから外方に向けて延び出している。なお、図示しないが、取っ手は、可動部15の側面に代えて、可動部15の表面(支持体11の反対側の面)に設けられていても良い。
【0114】
図10(B)に示すように、可動部15を覆うカバー18が設けられていても良い。カバー18としては、ガラス基板等の無機基板や樹脂基板を用いることができる。また、可動部15の側面(ガイド16の長手方向に直交する側の面)に取っ手17が設けられている。取っ手17は、可動部15の移動方向に平行に延びる。取っ手17は、カバー18と支持体11との間の空間から外方に向けて延び出している。
【0115】
図11に示すように、ガイド16は、可動部15に設けられていても良い。可動部15の対向する一対の辺に沿って、それぞれガイド16が設けられている。一対のガイド16は、可動部15が支持体11の辺に沿って移動することを案内する。支持体11は、一対のガイド16の間に配置される。
【0116】
なお、可動部15は、必ずしも支持体11に結合していたり、支持体11に接したりしている必要はない。可動部15は、顕微鏡等の撮影装置側に設けられていても良い。
【0117】
また、可動部15上にARマーカーを付与しても良い。ARマーカーとは、カラーチャート20を拡張コンテンツとして画像に合成するための合図(トリガー)となるものである。この場合、ARマーカーを用いてパッチ21の位置を自動認識できる。
【0118】
また、可動部15上のカラーチャート20は、互いに大きさの異なる複数のパッチ21を有していても良い。この場合、対物レンズに合わせて複数のパッチ21の中から所定の大きさのパッチ21を設定できる。これにより、様々な倍率に対応する最適な大きさのパッチ21を選択できる。可動部15やガイド16の側面や上面に、取っ手17Aが設けられていても良い。可動部15やガイド16の側面や上面に取っ手17Aが設けられていることで、可動部15を移動させる際に、取っ手17Aを持ち移動させやすくなる。
【0119】
本実施の形態によれば、チャート付き支持体10Aは、支持体11に対して相対的に移動可能な可動部15を備える。カラーチャート20は、可動部15上に位置する。可動部15とともにカラーチャート20を移動することにより、カラーチャート20を医療用検体Sの近くに配置できる。また、カラーチャート20と医療用検体Sとが互いに分離しているため、医療用検体Sの観察位置を決めた後、カラーチャート20を視野内に入れることができる。
【0120】
上記各実施の形態及び各変形例に開示されている複数の構成要素を必要に応じて適宜組合せることも可能である。あるいは、上記各実施の形態及び各変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0121】
10 チャート付き支持体
10A チャート付き支持体
11 支持体
15 可動部
20 カラーチャート
21 パッチ
22 色情報
23 色域情報
50 色ずれ検知システム
51 撮影装置
52 処理装置
53 画像処理サーバ
S 医療用検体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11