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特開2024-168295リチウムイオン電極用バインダー、リチウムイオン電極、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電極用バインダーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168295
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン電極用バインダー、リチウムイオン電極、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電極用バインダーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241128BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08G81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084843
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石賀 絢香
(72)【発明者】
【氏名】西村 英起
【テーマコード(参考)】
4J031
5H050
【Fターム(参考)】
4J031AA12
4J031AA19
4J031AA20
4J031AA29
4J031AB02
4J031AC03
4J031AD01
4J031AE03
4J031AF23
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA17
5H050CB08
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA00
(57)【要約】
【課題】 集電体との密着性が良好であり、充分な電極強度を有し、電池性能(内部抵抗、サイクル特性)に悪影響を及ぼすことのないリチウムイオン電極を無溶剤系で製造することのできるリチウムイオン電極用バインダー及びこのリチウムイオン電極用バインダーを無溶剤系で製造する方法を提供する。
【解決手段】 (メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)であって、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、上記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダー。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)であって、
前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、
前記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダー。
【請求項2】
前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)に由来する構造単位の重量割合が、前記エステル(C)の重量を基準として50~70%である請求項1に記載のリチウムイオン電極用バインダー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電極用バインダーを含むリチウムイオン電極。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン電極を備えるリチウムイオン電池。
【請求項5】
(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)の製造方法であって、
前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の存在下で、前記(メタ)アクリレート(a1)と前記炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)とを重合して前記共重合体(A)を得る工程を有し、
前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、前記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電極用バインダー、リチウムイオン電極、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電極用バインダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の非水系二次電池は、高電圧及び高エネルギー密度という特徴を持つことから、携帯電話やノート型パソコンを始めとする携帯情報機器分野等において広く利用されている。また、携帯機器などの高性能化と多様化に伴い、その電源である非水系二次電池に対しても更なる高性能化(高容量化及び高エネルギー密度化等)が求められている。
【0003】
リチウムイオン電池の電極用バインダーとしては、溶剤系と水系の2種類が知られている。このうち、溶剤系の電極用バインダーは人体への有害性や環境負荷も大きいことから近年は敬遠される傾向があり、水系の電極用バインダーの検討が進められている。
水系の電極用バインダーとしては、従来SBR系バインダーが広く用いられており、その他としては、エチレン-(メタ)アクリル酸の共重合体(特許文献1)やエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物(特許文献2)が検討されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のバインダーは、加工性に乏しく電極作製時には増粘剤が別途必要とされる。また、特許文献2に記載のバインダーは、不揮発性アルカリ化合物等の残渣により電池性能に影響(具体的には、例えば、内部抵抗の上昇、サイクル特性の悪化)を及ぼす恐れがある等、課題も残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-051678号公報
【特許文献2】国際公開第2015/083358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、集電体との密着性が良好であり、充分な電極強度を有し、電池性能(内部抵抗、サイクル特性)に悪影響を及ぼすことのないリチウムイオン電極を無溶剤系で製造することのできるリチウムイオン電極用バインダー及びそのリチウムイオン電極用バインダーを無溶剤系で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)であって、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、上記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダー;上記リチウムイオン電極用バインダーを含むリチウムイオン電極;上記リチウムイオン電極を備えるリチウムイオン電池;及び(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)の製造方法であって、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の存在下で、上記(メタ)アクリレート(a1)と上記炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)とを重合して上記共重合体(A)を得る工程を有し、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、上記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダーの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、集電体との密着性が良好であり、充分な電極強度を有し、電池性能(内部抵抗、サイクル特性)に悪影響を及ぼすことのないリチウムイオン電極を無溶剤系で製造することのできるリチウムイオン電極用バインダー及びそのリチウムイオン電極用バインダーを無溶剤系で製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<リチウムイオン電極用バインダー(X)>
本発明のリチウムイオン電極用バインダー(X)は、(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)であって、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、上記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gである。
【0010】
共重合体(A)は、(メタ)アクリレート(a1)と、炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体である。
【0011】
[(メタ)アクリレート(a1)]
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを意味する。また、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0012】
(メタ)アクリレート(a1)を構成するアルキル基は、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましい。
(メタ)アクリレート(a1)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリレート(a1)は、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)が好ましい。
【0013】
[ビニルカルボン酸(a2)]
ビニルカルボン酸(a2)の炭素数は4以上である。
【0014】
炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)としては、メタクリル酸、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸、9-デセン酸、10-ウンデセン酸、11-ドデセン酸、12-トリデセン酸、13-テトラデセン酸、14-ペンタデセン酸、15-ヘキサデセン酸、16-ヘプタデセン酸、17-オクタデセン酸、18-ノナデセン酸、19-イコセン酸、等の脂肪族ビニルカルボン酸、4-ビニル安息香酸、4-アリル安息香酸、等の芳香族ビニルカルボン酸、等が挙げられる。
ビニルカルボン酸(a2)は、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ビニルカルボン酸(a2)の炭素数は、5以上であることが好ましい。
ビニルカルボン酸(a2)の炭素数は、11以下であることが好ましい。
【0016】
ビニルカルボン酸(a2)は、脂肪族ビニルカルボン酸であることが好ましく、炭素数が5以上の脂肪族ビニルカルボン酸であることがより好ましい。
炭素数が5以上の脂肪族ビニルカルボン酸を用いることで、サイクル特性を向上させることができる。
【0017】
共重合体(A)に占める(メタ)アクリレート(a1)の重量割合は、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましく、40重量%以上が特に好ましい。
共重合体(A)に占める(メタ)アクリレート(a1)の重量割合は、80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましく、50重量%以下が特に好ましい。
【0018】
[ポリオレフィンマクロモノマー(B)]
ポリオレフィンマクロモノマー(B)は、少なくとも片末端に水酸基を有する。
ポリオレフィンマクロモノマー(B)は、両末端に水酸基を有していてもよい。
【0019】
ポリオレフィンマクロモノマー(B)としては、例えば水添(水素添加)ポリブタジエンアルコール、水酸基変性ポリプロピレン等を用いることができる。
【0020】
ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、5,000~10,000である。
ポリオレフィンマクロモノマー(B)のMwは、6,000以上であることが好ましい。
ポリオレフィンマクロモノマー(B)のMwは、8,000以下であることが好ましい。
【0021】
[エステル(C)]
エステル(C)は、共重合体(A)と、ポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステルである。
【0022】
ポリオレフィンマクロモノマー(B)に由来する構造単位の重量割合は、電極強度の観点から、エステル(C)の重量を基準として50~70%であることが好ましい。
ポリオレフィンマクロモノマー(B)に由来する構造単位の重量割合が、エステル(C)の重量を基準として70%を超えると、エステル(C)の破断強度が低下してしまうことがある。また、ポリオレフィンマクロモノマー(B)に由来する構造単位の重量割合が、エステル(C)の重量を基準として50%未満であると、エステル(C)の柔軟性が低下してしまうことがある。
【0023】
エステル(C)中の、ポリオレフィンマクロモノマー(B)に由来する構造単位の重量割合は、エステル(C)の水酸基価によって求めることができる。
【0024】
エステル(C)のガラス転移温度(Tg)は、成形性の観点から、-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、5℃以上がさらに好ましい。
またエステル(C)のガラス転移温度(Tg)は、40℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましい。
【0025】
なお、エステル(C)のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。
具体的には、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計を用いて得られた熱流束曲線のベースラインと、変曲点での接線との交点から決定する。熱流束曲線は、試料約10mgを-50℃まで冷却し、5分間保持した後、10℃/minで120℃まで昇温し、引き続き-50℃まで冷却して5分間保持した後、10℃/minで120℃まで昇温する条件で得て、2回目の熱流束曲線を用いてガラス転移温度(Tg)を決定する。
示差走査熱量計としては、例えば、TA Instrument社製、DSC Q2000等を用いることができる。
【0026】
エステル(C)の酸価は15~25mgKOH/gである。
エステル(C)の酸価は17~23mgKOH/gであることが好ましい。
なお、エステル(C)の酸価は、JIS K0070(1992)に規定の方法で測定することができる。
【0027】
エステル(C)の重量平均分子量(Mw)は、電極強度及び電池性能の観点から、5,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、50,000以上がさらに好ましく、100,000以上が特に好ましく、140,000以上が最も好ましい。
エステル(C)の重量平均分子量(Mw)は、電極強度及び電池性能の観点から、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下がさらに好ましく、200,000以下が特に好ましく、150,000以下が最も好ましい。
【0028】
共重合体(A)、ポリオレフィンマクロモノマー(B)及びエステル(C)の重量平均分子量(Mw)は、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)測定することにより求めることができる。
なお、試料となる重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して0.25重量%のTHF溶液を調製し、不溶解分を口径1μmのPTFEフィルターで濾過したものを試料溶液とする。
装置:HLC-8320 [東ソー(株)製]
カラム:TSK GEL GMH6 2本 [東ソー(株)製]
測定温度:40℃
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン(THF)溶液
移動相:THF(重合禁止剤を含まない)
溶液注入量:100μL
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)
【0029】
エステル(C)の破断強度は0.2MPa以上であることが好ましく、0.3MPa以上であることが好ましく、0.4MPa以上であることがより好ましい。
【0030】
エステル(C)の破断強度は、エステル(C)を100℃、20kgf/cmの加圧下で30秒プレスして厚さ1mmのシート状に成形した後、JIS K 7127(1999)に準拠した形状に打ち抜いて得られた試験片に対して、オートグラフによる引張試験を行うことで測定できる。
測定条件は、温度25℃、試験片の引張速度を200mm/minとする。
【0031】
エステル(C)の剥離強度は0.8N/mm以上であることが好ましく、1.0N/mm以上であることがより好ましい。
【0032】
エステル(C)の剥離強度は、エステル(C)を厚さ25μmのポリプロピレンフィルムと重ね、100℃、20kgf/cmの加圧下で30秒プレスして、厚さ1mmのエステル(C)製のシートと厚さ25μmのポリプロピレンフィルムを接着した接着フィルムに対して、90°剥離強度試験を行うことで求められる。測定条件は、温度25℃、引張速度は20mm/minとする。
【0033】
本発明のリチウムイオン電極用バインダー(X)は、上記エステル(C)のみを含んでいてもよいし、上記エステル(C)以外の成分を含んでいてもよい。
リチウムイオン電極用バインダー(X)が上記エステル(C)以外の成分を含む場合、リチウムイオン電極用バインダー(X)に占めるエステル(C)以外の成分の重量割合は、10重量%以下が好ましい。
【0034】
<リチウムイオン電極>
本発明のリチウムイオン電極は、本発明のリチウムイオン電極用バインダーを含む。
なお、リチウムイオン電極とは、リチウムイオン電池用電極のことを指す。
【0035】
本発明のリチウムイオン電極は、本発明のリチウムイオン電極用バインダーを含んでいるため、集電体との密着性が良好であり、充分な電極強度を有し、電池性能(内部抵抗、サイクル特性)に悪影響を及ぼすことがない。
【0036】
本発明のリチウムイオン電極用バインダーを用いているので、本発明のリチウムイオン電極は、溶剤(有機溶媒及び水系溶媒)を使用しない方法により作製される。このため、人体への有害性が低く、環境負荷も小さい。
【0037】
本発明のリチウムイオン電極を構成するリチウムイオン電極用バインダー以外の構成については、公知の材料を用いることができる。
すなわち、正極活物質、負極活物質及び導電助剤等の材料としては、公知の材料を使用することができる。
また、本発明のリチウムイオン電極は、リチウムイオン電池用の正極であってもよく、負極であってもよい。
【0038】
<リチウムイオン電池>
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電極を備える。
【0039】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電極を備えるため、電池性能(内部抵抗、サイクル特性)に優れる。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池を構成する、リチウムイオン電極以外の構成については、公知の材料を用いることができる。
すなわち、集電体、電解液及びセパレータ等の材料としては公知の材料を使用することができる。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池は、正極だけが本発明のリチウムイオン電極で構成されていてもよく、負極だけが本発明のリチウムイオン電極で構成されていてもよく、正極及び負極の両方が本発明のリチウムイオン電極で構成されていてもよい。
【0042】
<リチウムイオン電極用バインダーの製造方法>
本発明のリチウムイオン電極用バインダーの製造方法は、(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)の製造方法であって、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の存在下で、上記(メタ)アクリレート(a1)と上記炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)とを重合して上記共重合体(A)を得る工程を有し、上記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、上記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gである。
【0043】
本発明のリチウムイオン電極用バインダーの製造方法においては、ポリオレフィンマクロモノマー(B)の存在下で、(メタ)アクリレート(a1)と炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)とを重合して共重合体(A)を得る工程[以下、第1重合工程ともいう]を有する。
【0044】
本発明のリチウムイオン電極用バインダーの製造方法においては、第1重合工程において、ポリオレフィンマクロモノマー(B)が、(メタ)アクリレート(a1)とビニルカルボン酸(a2)が重合する際の溶媒として機能する。そのため、第1重合工程において溶媒を用いる必要がない。
【0045】
本発明のリチウムイオン電極用バインダーの製造方法においては、第1重合工程に続いて、ポリオレフィンマクロモノマー(B)と共重合体(A)を重合してポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を得る工程[以下、第2重合工程ともいう]を行う。
【0046】
第2重合工程でも、未反応のポリオレフィンマクロモノマー(B)及び、エステル化反応により生じる水が溶媒として機能するため、別途溶媒を添加する必要がない。
【0047】
以上より、本発明のリチウムイオン電極用バインダーの製造方法は、有機溶剤を使用することなく、無溶剤系で、本発明のリチウムイオン電極用バインダーを製造することができる。
【0048】
本発明のリチウムイオン電極用バインダーの製造方法においては、第1重合工程において、有機溶剤を使用しないことが好ましく、ポリオレフィンマクロモノマー(B)と、(メタ)アクリレート(a1)と、ビニルカルボン酸(a2)と重合開始剤のみを混合することがより好ましい。
【0049】
なお、第1重合工程において用いられるポリオレフィンマクロモノマー(B)の量は、第2重合工程において共重合体(A)との重合に用いられる量と同じ量であってもよく、第2重合工程において共重合体(A)との重合に用いられる量よりも少ない量であってもよい。
第1重合工程において用いられるポリオレフィンマクロモノマー(B)の量が、第2重合工程において共重合体(A)との重合に用いられる量よりも少ない量である場合、第1重合工程の後、第2重合工程の開始前に、ポリオレフィンマクロモノマー(B)の量を調節することが好ましい。
【0050】
なお、第2重合工程において共重合体(A)との重合に用いられるポリオレフィンマクロモノマー(B)の量は、共重合体(A)とポリオレフィンマクロモノマー(B)との合計重量に対して、50~70重量%となる量であることが好ましい。
【0051】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0052】
本開示(1)は、(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)であって、前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、前記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダーである。
【0053】
本開示(2)は、前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)に由来する構造単位の重量割合が、前記エステル(C)の重量を基準として50~70%である本開示(1)に記載のリチウムイオン電極用バインダーである。
【0054】
本開示(3)は、本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電極用バインダーを含むリチウムイオン電極である。
【0055】
本開示(4)は、本開示(3)に記載のリチウムイオン電極を備えるリチウムイオン電池である。
【0056】
本開示(5)は、(メタ)アクリレート(a1)及び炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)の共重合体(A)と、少なくとも片末端に水酸基を有するポリオレフィンマクロモノマー(B)とのエステル(C)を含むリチウムイオン電極用バインダー(X)の製造方法であって、前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の存在下で、前記(メタ)アクリレート(a1)と前記炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)とを重合して前記共重合体(A)を得る工程を有し、前記ポリオレフィンマクロモノマー(B)の重量平均分子量が5,000~10,000であり、前記エステル(C)の酸価が15~25mgKOH/gであるリチウムイオン電極用バインダーの製造方法である。
【実施例0057】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0058】
(実施例1)
<リチウムイオン電極用バインダー(X)の作製>
オートクレーブにポリオレフィンマクロモノマー(B)である水添ブタジエンアルコール(Mw:7,000)658部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌化密閉状態で70℃まで昇温した。オートクレーブ内を70℃にコントロールしながら、(メタ)アクリレート(a1)であるメタクリル酸メチル164部、炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)であるメタクリル酸164部、及び、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)3.5部の混合溶液を3時間かけて滴下し、重合を行った。
滴下後、滴下ラインを水添ブタジエンアルコール12部で洗浄した。
さらに同温度で1時間保持した後、80℃に昇温して2時間反応させた。その後、120℃でエステル化反応を行い、共重合体(A)とポリオレフィンマクロモノマー(B)のエステル(C-1)からなるリチウムイオン電極用バインダー(X-1)を得た。
リチウムイオン電極用バインダー(X-1)[エステル(C-1)]の酸価、重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、破断強度及び剥離強度を上述した方法で測定したところ、それぞれ、酸価:20mgKOH/g、Mw:145,000、Tg:1.5℃、剥離強度:1.0N/mm、破断強度:0.4MPaとなった。
【0059】
(実施例2~4、比較例1~3)
(a1)の添加量、(a2)の種類及び添加量、並びに、(B)の添加量を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様の手順で、エステル(C-2)~(C-4)及び(比C-1)~(比C-3)からなるリチウムイオン電極用バインダー(X-2)~(X-4)及び(比X-1)~(比X-3)を作製し、酸価、重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、破断強度及び剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果より、本発明のリチウムイオン電極用バインダーは、剥離強度及び破断強度が高いことがわかった。
【0062】
(実施例5)
(リチウムイオン電池用正極の作製)
正極活物質としてのニッケル酸リチウム(NCA)粉末(住友金属鉱山(株)製)85部、及びアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]10部を、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)[シグマアルドリッチ(株)製]5部を含むN-メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを作製した。
上記スラリーを、大気中でコーターを用いて厚さ20μmのアルミニウム電解箔の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させて、リチウムイオン電池用正極を作製した。
アルミニウム電解箔上に形成された正極活物質層の目付量は18.0mg/cmであった。
【0063】
(リチウムイオン電池用負極の作製)
負極活物質としての黒鉛92部、導電材としての炭素繊維2部、実施例1で作製したバインダー(X-1)4部、及び、導電助剤としてのアセチレンブラック2部を、ヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした後、80℃に温調して、加熱プレス機で30秒間、圧力15MPaでプレスして得られた電極シートをΦ16mmに打ち抜いて、リチウムイオン電池用負極を作製した。リチウムイオン電池用負極の目付量は20mg/cmであった。
【0064】
(性能評価用電池の作製)
作製したリチウムイオン電池用負極を、Φ15mmに打ち抜いたリチウムイオン電池用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
負極側の集電体としては、厚さ20μmの銅箔を用いた。
電極間にセパレータ(セルガード3501)2枚を挿入し、評価用電池セルを作製した。
評価用電池セルに上記電解液を注液密封し、実施例5に係る評価用電池(Y-1)を作製した。
【0065】
(実施例6~8、比較例4~8)
リチウムイオン電極用バインダー(X-1)を、表2に示すバインダーに変更したほかは、実施例5と同様の手順で、実施例6~8に係る評価用電池(Y-2)~(Y-4)及び比較例4~8に係る比較用電池(比Y-1)~(比Y-5)を得た。
なお、比較例8では、リチウムイオン電極用バインダー(比X-4)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。
【0066】
[電極強度評価]
以下の方法により、得られた負極(Φ16mm)の降伏応力を、ISO178(プラスチック-曲げ特性の求め方)に準拠して、オートグラフ[(株)島津製作所製]を用いて測定し、以下の基準で電極強度を評価した。
負極(Φ16mm)を支点間距離5mmの治具の中央にセットし、オートグラフにセットされたロードセル(定格荷重:20N)を1mm/minの速度で電極に向かって降下させ、降伏点から降伏応力を算出した。結果を表2に示す。
[評価基準]
〇:降伏応力が1kPa以上
△:降伏応力が0.8kPa以上1kPa未満
×:降伏応力が0.8kPa未満
【0067】
[直流抵抗(DCR)の測定]
室温下、充放電測定装置[HJ0501SM8A][北斗電工(株)製]を用いて、1Cで4.2CまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止した後、0.1Cで2.5Vまで放電を行った。放電を行う直前の電圧をV、放電後10秒経過した時点での電圧をV、放電中の電流をIとし、(V-V)/Iを直流抵抗(DCR)として求めた。結果を表2に示す。
【0068】
[サイクル特性評価]
室温下、充放電測定装置[HJ0501SM8A][北斗電工(株)製]を用いて、0.1Cで4.2CまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止した後、0.01Cで2.5Vまで放電を行った。この時の放電容量を初回容量Xとした。その後、充放電を繰り返し、50サイクル目の放電容量Xを得た。
このX/Xを、50サイクル放電容量維持率として、下記の基準によりサイクル特性の評価を行った。結果を表2に示す。
[評価基準]
◎:放電容量維持率が93%以上
〇:放電容量維持率が89%以上93%未満
×:放電容量維持率が89%未満
【0069】
【表2】
【0070】
表2の結果より、本発明のリチウムイオン電極用バインダーを用いて製造された本発明のリチウムイオン電極は、充分な電極強度を有していることがわかった。
さらに、本発明のリチウムイオン電極を備えるリチウムイオン電池は、DCRが低く、サイクル特性に優れることがわかった。特に、炭素数が4以上のビニルカルボン酸(a2)として、炭素数が5以上の脂肪族ビニルカルボン酸である5-ヘキセン酸又は10-ウンデセン酸を用いた実施例2、3に係るリチウムイオン電極用バインダー(X-2)、(X-3)を用いた評価用電池(Y-2)、(Y-3)は、特にDCRが低く、サイクル特性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のリチウムイオン電極用バインダー及びリチウムイオン電極用バインダーの製造方法は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用等に用いられるリチウムイオン電池を構成するリチウムイオン電極を作製するために有用である。本発明のリチウムイオン電極は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用等に用いられるリチウムイオン電池用のリチウムイオン電極として有用である。本発明のリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用のリチウムイオン電池として有用である。