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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016831
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】換気評価装置及び換気評価方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/007 20060101AFI20240131BHJP
   G06Q 50/10 20120101ALI20240131BHJP
   F24F 11/47 20180101ALI20240131BHJP
   F24F 110/70 20180101ALN20240131BHJP
   F24F 120/10 20180101ALN20240131BHJP
【FI】
F24F7/007 Z
G06Q50/10
F24F7/007 B
F24F11/47
F24F110:70
F24F120:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120320
(22)【出願日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2022119078
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501464255
【氏名又は名称】株式会社テプコシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】栗山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】真保 崇
【テーマコード(参考)】
3L056
3L260
5L049
【Fターム(参考)】
3L056BD01
3L260AB15
3L260BA09
3L260BA13
3L260BA64
3L260BA75
3L260CA03
3L260CA17
3L260EA01
3L260EA07
3L260EA08
3L260GA24
5L049CC11
(57)【要約】
【課題】部屋の利用を妨げることなく換気能力を定量化して部屋の安全な運用を行うことが可能な換気評価装置及び換気評価方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る換気評価装置100は、換気設備を有する部屋200内に配置された二酸化炭素センサ20から二酸化炭素濃度データを取得する制御部10を備え、制御部10は、部屋200から人が退出したタイミングにおける二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、部屋200内の換気回数を推定することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
換気設備を有する部屋内に配置された二酸化炭素センサから二酸化炭素濃度データを取得する制御部を備え、
前記制御部は、前記部屋から人が退出したタイミングにおける前記二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、前記部屋内の換気回数を推定する、換気評価装置。
【請求項2】
前記部屋から人が退出したタイミングは、前記二酸化炭素濃度データの時間変化を示す曲線に対する、前記曲線を指数関数で近似した近似曲線の近似の良さを示す決定係数が所定の閾値以上となるタイミングである、請求項1に記載の換気評価装置。
【請求項3】
前記決定係数は、0.8以上1.0以下である、請求項2に記載の換気評価装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記部屋内の人の数をカウントする人数カウンタから更にデータを取得し、前記部屋から人が退出したタイミングを決定する、請求項1に記載の換気評価装置。
【請求項5】
前記部屋から人が退出したタイミングは、単位時間当たりの前記部屋からの退出人数が所定の閾値以上となるタイミングである、請求項1に記載の換気評価装置。
【請求項6】
前記制御部は、取得した前記部屋の容積と、推定した前記換気回数から、前記部屋の利用時間に応じた最大収容人数を推定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の換気評価装置。
【請求項7】
前記制御部は、取得した前記部屋の容積と、推定した前記換気回数と、前記部屋内の在室人数の時間変化とから、最大二酸化炭素濃度を推定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の換気評価装置。
【請求項8】
前記制御部は、二酸化炭素濃度の最大値と、二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間とを検出し、二酸化炭素濃度における所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分を算出する、請求項1から4のいずれか一項に記載の換気評価装置。
【請求項9】
前記制御部は、二酸化炭素濃度の最大値、及び二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間の一方をプロットする点の横方向位置、他方をプロットする点の縦方向位置、二酸化炭素濃度における所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分をプロットする点の大きさとして表現したグラフを生成する、請求項8に記載の換気評価装置。
【請求項10】
換気設備を有する部屋内に配置された二酸化炭素センサから二酸化炭素濃度データを取得するステップと、
前記部屋から人が退出したタイミングにおける前記二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、前記部屋内の換気回数を推定するステップと
を含む、換気評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、換気設備を備えた部屋の換気能力を評価する、換気評価装置及び換気評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2020年に新型コロナウィルスの感染が拡大し、同ウィルスのエアロゾル感染を防止するために、部屋内の換気を促進したり部屋の利用人数を制限して感染拡大を抑制する試みがなされている。例えば、特許文献1には、複数の吹出し孔を備える室内において空気の一方向からの流れを確保できる換気装置であって、外気を積極的に室内に導入しつつ外気を室内に拡散できるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022- 40656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来、換気能力を定量化して安全な部屋の運用につなげるための手法について十分な検討がなされているとは言えなかった。例えば、換気能力を定量化していないために十分な換気能力があるにも関わらず収容人数を一律に減らすことで利用機会の損失が発生したり、部屋の利用を一時停止して換気能力の定量化を行なうなど効率的な運用に支障が出る場合があったため、これらの点において改善の余地があった。
【0005】
本開示は、このような問題点を解決することを課題とするものであり、その目的は、部屋の利用を妨げることなく換気能力を定量化して部屋の安全な運用を行うことが可能な換気評価装置及び換気評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本開示の換気評価装置は、
[1]
換気設備を有する部屋内に配置された二酸化炭素センサから二酸化炭素濃度データを取得する制御部を備え、
前記制御部は、前記部屋から人が退出したタイミングにおける前記二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、前記部屋内の換気回数を推定することを特徴とする。
【0007】
また、本開示の換気評価装置は、
[2]
上記[1]に記載の構成において、前記部屋から人が退出したタイミングは、前記二酸化炭素濃度データの時間変化を示す曲線に対する、前記曲線を指数関数で近似した近似曲線の近似の良さを示す決定係数が所定の閾値以上となるタイミングであることが好ましい。
【0008】
また、本開示の換気評価装置は、
[3]
上記[2]の構成において、前記決定係数は、0.8以上1.0以下であることが好ましい。
【0009】
また、本開示の換気評価装置は、
[4]
上記[1]に記載の構成において、前記制御部は、前記部屋内の人の数をカウントする人数カウンタから更にデータを取得し、前記部屋から人が退出したタイミングを決定することが好ましい。
【0010】
また、本開示の換気評価装置は、
[5]
上記[1]に記載の構成において、前記部屋から人が退出したタイミングは、単位時間当たりの前記部屋からの退出人数が所定の閾値以上となるタイミングであることが好ましい。
【0011】
また、本開示の換気評価装置は、
[6]
上記[1]から[5]のいずれかに記載の構成において、前記制御部は、取得した前記部屋の容積と、推定した前記換気回数から、前記部屋の利用時間に応じた最大収容人数を推定することが好ましい。
【0012】
また、本開示の換気評価装置は、
[7]
上記[1]から[6]のいずれかに記載の構成において、前記制御部は、取得した前記部屋の容積と、推定した前記換気回数と、前記部屋内の在室人数の時間変化とから、最大二酸化炭素濃度を推定することが好ましい。
【0013】
また、本開示の換気評価装置は、
[8]
上記[1]から[7]のいずれかに記載の構成において、前記制御部は、二酸化炭素濃度の最大値と、二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間とを検出し、二酸化炭素濃度における所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分を算出することが好ましい。
【0014】
また、本開示の換気評価装置は、
[9]
上記[8]に記載の構成において、前記制御部は、二酸化炭素濃度の最大値、及び二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間の一方をプロットする点の横方向位置、他方をプロットする点の縦方向位置、二酸化炭素濃度における所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分をプロットする点の大きさとして表現したグラフを生成することが好ましい。
【0015】
また、上述の課題を解決するため、本開示の換気評価方法は、
[10]
換気設備を有する部屋内に配置された二酸化炭素センサから二酸化炭素濃度データを取得するステップと、
前記部屋から人が退出したタイミングにおける前記二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、前記部屋内の換気回数を推定するステップと
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、部屋の利用を妨げることなく換気能力を定量化して部屋の安全な運用を行うことが可能な換気評価装置及び換気評価方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態に係る換気評価装置の構成を示すブロック図である。
図2】本開示の一実施形態に係る換気評価装置による評価対象である部屋の構成の一例を示す斜視図である。
図3】本開示の一実施形態に係る換気評価方法の実施手順を示すフローチャートである。
図4】二酸化炭素センサから取得した二酸化炭素濃度データを、温度及び湿度データとともに示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る換気評価装置の制御部が検出及び算出するパラメータ(i)から(iii)を説明する図である。
図6A】本開示の一実施形態に係る換気評価装置の制御部が検出及び算出するパラメータ(i)から(iii)を3次元空間上に示した図である。
図6B】本開示の一実施形態に係る換気評価装置の制御部が検出及び算出するパラメータ(i)から(iii)を2次元空間上に示した図である。
図7】本開示の一実施形態に係る換気評価装置が換気評価に用いるザイデルの式における各変数を定義する図である。
図8A】二酸化炭素濃度データにおける下降曲線部分とその回帰式の一例を示す図である。
図8B】二酸化炭素濃度データにおける下降曲線部分とその回帰式の一例を示す図である。
図8C】二酸化炭素濃度データにおける下降曲線部分とその回帰式の一例を示す図である。
図9】回帰式の傾きと決定係数との関係を示す図である。
図10A】本開示の一実施形態に係る換気評価装置によって推定された換気回数をデータの時系列で示す図である(決定係数0.8以上1.0以下の場合)。
図10B】本開示の一実施形態に係る換気評価装置によって推定された換気回数をデータの時系列で示す図である(決定係数0.9以上1.0以下の場合)。
図11】2つのイベントにおける部屋内の在室人数の時間変化を示す図である。
図12図11と同一の2つのイベントにおける部屋内の二酸化炭素濃度の時間変化を示す図である。
図13A】本開示の一実施形態に係る換気評価装置によって推定された二酸化炭素濃度データの上昇曲線を示す図である(換気回数が0.67[回/時間]の場合)。
図13B】本開示の一実施形態に係る換気評価装置によって推定された二酸化炭素濃度データの上昇曲線を示す図である(換気回数が1.0[回/時間]の場合)。
図14】換気回数ごとの収容人数と二酸化炭素濃度が800ppmに到達する時間との関係を示す図である。
図15】二酸化炭素濃度の推定に用いる部屋内の在室人数の時間変化と、実際の部屋内の在室人数の時間変化とを示す図である。
図16図15の2種類の在室人数の時間変化を想定したときの、二酸化炭素濃度の時間変化の差異を示す図である。
図17】部屋内の在室人数が瞬時に所定人数(250人)になった場合と、3段階にわたって徐々に増加して所定人数になった後に退出した場合とで、二酸化炭素濃度曲線の差異を示す図である。
図18】部屋内の在室人数が瞬時に所定人数(20人)になった場合と、3段階にわたって徐々に増加して所定人数になった場合とで、二酸化炭素濃度曲線の差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本開示をより具体的に説明する。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態に係る換気評価装置100の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る換気評価装置100は、評価対象となる部屋200(図2参照)内に配置された二酸化炭素センサ20によって計測された二酸化炭素濃度のデータを取得する制御部10と、制御部10が実行するプログラムや二酸化炭素濃度のデータ等を記憶する記憶部12と、二酸化炭素濃度のデータから推定した部屋200の換気回数等の換気評価結果を表示する表示部16と、二酸化炭素センサ20等と通信する通信部14とを備えている。
【0020】
制御部10は、換気評価装置100が備えるCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)で実行させることによって、ソフトウエア処理として実現することができる。しかし、この態様には限定されず、各処理は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等によってハードウエア処理として実現するように構成してもよい。
【0021】
記憶部12は、制御部10が実行するプログラム、取得した二酸化炭素濃度のデータ及び制御部10が推定した換気評価結果等を記憶する。記憶部12は、読取り可能な記憶媒体を含み、当該記憶媒体には、EPROM、EEPROM若しくはフラッシュメモリ等の書換え可能でプログラム可能なROM若しくは情報を格納可能な磁気ディスク記憶媒体や光ディスク記憶媒体など、他の有形の記憶媒体又はこれらいずれかの組合せが含まれる。記憶部12は、換気評価装置100内に設けられていてもよいし、換気評価装置100と接続可能な外部記憶装置内の記憶媒体であってもよい。
【0022】
制御部10は、通信部14を介して外部機器と通信し、データの送受信を行うことができる。通信部14は、例えばUSB(Universal Serious Bus)又はEthernet(登録商標)などの有線通信や、Bluetooth(登録商標)又はWiFi(登録商標)などの無線通信を含む通信手段によって二酸化炭素センサ20や後述する人数カウンタ30などの外部機器と通信を行う。ただし、例示した通信手段に限定するものではなく他の各種通信手段を利用することができる。
【0023】
表示部16は、制御部10が推定した換気評価結果等を表示したり、換気評価装置100を制御するためのグラフィカルユーザインターフェース(GUI)を表示することができる。表示部16は、例えば入力機能を備えた液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等である。表示部16は、換気評価装置100内に設けられていてもよいし、換気評価装置100と接続可能な外部ディスプレイであってもよい。
【0024】
換気評価装置100は、更に換気評価装置100を制御したり、換気評価パラメータを入力する入力部を備えていてもよい。
【0025】
換気評価装置100は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)を用いて構成することができる。
【0026】
換気評価対象となる部屋200は、図2に示すように、吸気孔210と排気扇220とを有する換気設備を備えている。部屋200は、扉230から出入りする利用者が排出する二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素センサ20と、扉230から出入りする利用者をモニターして部屋200を利用している利用者の人数をカウントする人数カウンタ30とを備えている。
【0027】
二酸化炭素センサ20は、ドア、窓、換気口から離れた場所で、人から少なくとも50cm離れた場所に設置することが好ましく、部屋の中央部の床上75cm以上150cm以下の位置で測定を行うことが好ましい(厚生労働省:「冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000698849.pdf )参照)
【0028】
二酸化炭素センサ20は、例えば気体固有の赤外線吸収波長帯の光量変化を測定することで気体の濃度を測定する、非分散型赤外吸収(NDIR:Non-Dispersive Infrared)に基づくセンサなどを用いることができる。しかし、この態様に限定されるものではなく、他の様々な手法を用いて検出するセンサであってもよい。
【0029】
人数カウンタ30は、例えば、扉230を出入りする利用者を写すカメラから取得した画像データから、部屋200を利用している利用者の人数をカウントする。すなわち、人数カウンタ30は、扉230から部屋200内に入った人数から、部屋200外に出た人数を引き算することによって利用者の人数をカウントする。なお、人数のカウントは、カメラからの画像を用いる手法のほか、光電センサの出力データから人数をカウントしたり、LIDAR(Light Detection And Ranging)(光による検知と測距)を用いてより広範囲にわたって人数のカウントを行うようにしてもよい。
【0030】
本実施形態では、制御部10は、通信部14経由でWiFiによって二酸化炭素センサ20及び人数カウンタ30と通信し、二酸化炭素濃度データ及び部屋200内の人数データを取得することができる。なお、人数カウンタ30を設けない構成としてもよい。
【0031】
換気評価の対象となっている部屋200には、部屋200内に外気を取り込む吸気孔210と、部屋200内の空気を外部に強制排気する排気扇220とを有する換気設備を備えている。換気設備は、排気扇220などの強制換気を行う設備を備えることが好ましいが、この態様には限定されず、強制換気を行う設備を備えていなくてもよい。
【0032】
次に、本実施形態の換気評価装置100を用いた部屋200の換気評価方法の実施手順について図3等を用いて詳細に説明する。
【0033】
まず、制御部10は、通信部14経由で二酸化炭素センサ20から部屋200内の二酸化炭素濃度データを取得する(図3のステップS101)。また制御部10は、ステップS101で取得した二酸化炭素濃度データに対してノイズデータや重複データの削除等を行うとともに換気評価プログラムに入力可能なデータへと整形する(図3のステップS102)。図4には、部屋200内の温度及び湿度データと同時に取得した二酸化炭素濃度データの一例を示している。
【0034】
次に制御部10は、ステップS101,S102で取得し整形した二酸化炭素濃度データから、最大二酸化炭素濃度値を検出する(図3のステップS103)。最大二酸化炭素濃度値の検出は、例えば、図4における矢印(1), (2), (3)で示す各領域の最大値として検出される。
【0035】
次に制御部10は、最大二酸化炭素濃度値(図5における最大二酸化炭素濃度(i))を検出した濃度曲線における所定の二酸化炭素濃度の閾値(図5の例では800ppm)を超えた状態の継続時間(図5における継続時間(ii))を検出する(図3のステップS104)。また、制御部10は、二酸化炭素濃度における所定の閾値(図5の例では800ppm)を超えた超過濃度値(二酸化炭素濃度値における所定の閾値を超えた分の濃度値)の時間積分(図5における積分値(iii))を算出する(図3のステップS105)。
【0036】
制御部10は、上述のように、二酸化炭素濃度データから、最大二酸化炭素濃度値に加えて、所定の二酸化炭素濃度の閾値(図5の例では800ppm)を超えた状態の継続時間を検出し、さらに所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分を算出し、例えば図6Aに示すように各検出値及び算出値を3次元表示して表示部16に表示させることができる。図6Aは、奥行き方向軸が最大二酸化炭素濃度値(ppm)、横軸が二酸化炭素濃度が800ppmを超えた状態の継続時間(時間)、高さ方向軸が所定の閾値(二酸化炭素濃度:800ppm)を超えた超過濃度値の時間積分を示している。図6Aに示すように3つのパラメータを3次元空間に表示させることによって、例えば最大二酸化炭素濃度値が高かったとしても、所定の二酸化炭素濃度の閾値を超えた状態の継続時間が短ければ超過濃度値の時間積分がそれほど大きくならないため、換気不足には至らないと判断できる可能性がある。また、所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分を算出しておくことによってリスクを可視化し、どの程度換気回数を改善すればよいかについての指針を得ることができる。
【0037】
また、図6Aのような3次元表示に代えて、図6Bに示すように2次元表示を採用し、各プロットの大きさ(直径)が所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分に対応するように表示させてもよい。図6Bは、横軸が最大二酸化炭素濃度値(ppm)、縦軸が二酸化炭素濃度が800ppmを超えた状態の継続時間(時間)、各プロットの大きさ(直径)が所定の閾値(二酸化炭素濃度:800ppm)を超えた超過濃度値の時間積分を示している。図6Bに示すように所定の閾値(二酸化炭素濃度:800ppm)を超えた超過濃度値の時間積分をプロットの大きさに対応させることによって、2次元表示でありながら3つのパラメータの関係や、空気質の劣化度合いの指標として有効な「所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分」をより視認し易くすることができる。
【0038】
ここで、本実施形態に係る換気評価方法による換気回数の推定について説明しておく。例えば、図7に示すような二酸化炭素濃度データにおける、時刻sから時刻iに至るまでの下降曲線について考える。部屋200内の時刻s,iにおける二酸化炭素濃度をC,C、外気の二酸化炭素濃度をC図7の例ではC=400ppmとしている。)、部屋200の容積をV、換気量をQ、二酸化炭素発生量をMとすると、以下のザイデルの数式(1)が成立する。
【0039】
【数1】
【0040】
数式(1)において、部屋200から人が退出したタイミングを仮定すると、無人状態となるため二酸化炭素発生量M=0とすることができる。したがって、数式(1)においてM=0を代入すると、以下の数式(2)が導かれる。
【0041】
【数2】
【0042】
ここで、部屋200を1回換気するために必要な時間(i-s)は、Q/Vの逆数となるため、数式(2)に、i-s=V/Qを代入すると、
【0043】
【数3】
が導かれる。数式(3)より、C-CがC-Cの36.8%まで低下する時間が部屋200を1回換気するために必要な時間となる。
【0044】
図7の例において、二酸化炭素濃度がピークを迎える時刻s(C=909ppm)からC-CがC-Cの36.8%まで低下する時刻i(C=587ppm)までの所要時間は51分(0.85時間)であるから、図7に示す二酸化炭素濃度データにおける下降曲線から推定される換気回数は、1/0.85=1.18回/時間と算出することができる。
【0045】
制御部10は、上述の手法により換気回数を精度よく推定するために、二酸化炭素濃度データの下降曲線を指数関数で近似し、回帰式及び決定係数(R)を算出する(図3のステップS106)。決定係数Rは、二酸化炭素濃度データの下降曲線とその回帰式との近似の良さを示す指標である。
【0046】
図8Aは、図4の二酸化炭素濃度データにおける矢印(1)で示した下降曲線部分(図8Aに黒丸でプロットしている)を指数関数で近似した回帰式(図8Aに破線で示す)を算出し、下降曲線と回帰式(二酸化炭素濃度の変化を指数関数で近似し、図8Aの縦軸は自然対数で表示しているので、回帰曲線は直線となる。)との近似の良さを示す決定係数Rを更に算出した結果を示している。図8Aの例では、決定係数Rは0.6244となっており、二酸化炭素濃度の最大値を記録した時刻から約1時間経過後における二酸化炭素濃度の小さなピークを指数関数では近似できないために近似がよくない(決定係数Rが小さい)結果となっている。なお、図8Aにおける回帰式の傾きyは、図4の二酸化炭素濃度データにおける矢印(1)で示した下降曲線部分から推定した、換気回数となる。
【0047】
図8B及び図8Cは、それぞれ図4の二酸化炭素濃度データにおける矢印(2)及び(3)で示した下降曲線部分(図8B及び図8Cに黒丸でプロットしている)をそれぞれ指数関数で近似した回帰式(図8B及び図8Cに破線で示す)を算出し、下降曲線と回帰式との近似の良さを示す決定係数Rを更に算出した結果を示している。図8B及び図8Cに示す二酸化炭素濃度データの下降曲線部分では、図8Aの場合と比較して下降曲線と回帰式との近似がよく、決定係数Rはそれぞれ0.9371と0.984という算出結果となった。図8B及び図8Cに示す二酸化炭素濃度データの下降曲線部分は、比較的直線に近く、数式(1)のザイデルの式にM=0を代入した数式が描く曲線(直線となる)に近似する曲線を描いているからであると考えられる。
【0048】
図9は、二酸化炭素濃度データから抽出した下降曲線部分ごとに回帰式及び決定係数Rを算出した結果を示している。決定係数Rが0.8以上1.0以下の範囲のデータ(図9において四角で囲んだ領域)では、回帰式の傾きの絶対値(換気回数)が0.2以下のデータが除外されている。このように決定係数Rが所定の閾値を超える(図9の例では0.8以上1.0以下)データのみを抽出する(図3のステップS107)ことによって、換気回数の推定結果として不適切なデータ、すなわち二酸化炭素濃度データのうち下降曲線部分をM=0と仮定したザイデルの式(上述の数式(2))で近似しづらいデータを除外することができる。このような決定係数Rが小さく除外されるデータには、二酸化炭素センサ20の出力に何らかの理由によりノイズが加わったデータや、M=0という仮定から大きく外れた状態(部屋200から一部の人が退出したものの、依然として多くの人が部屋200内に留まっている状態など)におけるデータ等が含まれる。この決定係数Rに基づく二酸化炭素濃度データの下降曲線部分の選別によって、部屋200から人が退出したタイミングにおける二酸化炭素濃度データが抽出されることになる。
【0049】
図10Aは、図9における決定係数Rが0.8以上1.0以下の範囲のデータについて、換気回数の値を二酸化炭素濃度データの時系列で並べたものである。横軸の左端がある年の12月7日20時2分のデータから推定した換気回数の値を示しており、横軸の右端が翌年3月15日20時41分のデータから推定した換気回数の値を示している。上述のように決定係数Rが0.8以上1.0以下の範囲のデータを抽出することによって、換気回数:0.2[回/時間]以下の不適切な推定結果を除外することができる。また、不適切な推定結果を除外した結果、換気回数は、0.2から2.0[回/時間]の範囲でデータ取得日によってばらつきがあるという推定結果になっている(図3のステップS108)。これは、部屋200の換気設備の運転状況等がデータ取得日ごとにばらついているからであると考えられる。ただし、換気回数の、0.2から2.0[回/時間]の範囲のばらつきは、換気設備の運転状況等に起因するばらつきとしてはやや大きいとも考えられるため、図10Aに示す換気回数の推定結果には、推定誤差も含まれている可能性があると考えられる。
【0050】
図10Bは、図9における決定係数Rが0.9以上1.0以下の範囲のデータについて、換気回数の値を二酸化炭素濃度データの時系列で並べたものである。横軸の左端がある年の12月7日20時19分のデータから推定した換気回数の値を示しており、横軸の右端が翌年3月15日20時41分のデータから推定した換気回数の値を示している。決定係数Rが所定の閾値を超える(0.9以上1.0以下)データを抽出する(図3のステップS107)ことによって、部屋200の換気回数が概ね0.6から1.2[回/時間]の範囲であると推定することができる(図3のステップS108)。また、3月に他の時期と比較して換気回数が増加する傾向がはっきりと分かるようになっており、部屋200の利用状況や換気設備の運転状況等に応じて換気回数が変化している状況を把握することができたと考えられる。
【0051】
以上の推定結果より、換気能力(換気回数)の推定に適した二酸化炭素濃度データの下降曲線部分を抽出するための決定係数Rは、0.8以上1.0以下が望ましく、0.9以上1.0以下が更に好ましい。なお、決定係数Rに代えて相関係数Rを用いても一定の効果が得られると考えられる。
【0052】
本実施形態では、二酸化炭素濃度データの下降曲線部分を抽出するために決定係数Rを用いるように構成したが、この態様には限定されない。制御部10は、部屋200の扉230近傍に配置した人数カウンタ30(図2参照)から取得した部屋200内の利用人数に基づいて、部屋200から人が退出したタイミング(数式(1)においてM=0が概ね成り立つタイミング)を決定するように構成してもよい。制御部10は、例えば部屋200内の利用人数が10人未満になったときを、部屋200から人が退出したタイミングと判断してもよい。
【0053】
図11は、イベント1及びイベント2が発生したときに、制御部10が部屋200の扉230近傍に配置した人数カウンタ30(図2参照)から取得した部屋200内の在室人数の時間変化を表している。また図12は、イベント1及びイベント2が発生したときの部屋200内の二酸化炭素濃度データを表している。
【0054】
本実施形態では、部屋200から人が退出したタイミングでは、数式(1)においてM=0が概ね成り立つと仮定して、二酸化炭素濃度データの下降曲線部分から換気回数を推定するように構成している。すなわち、部屋200から人が退出したタイミングにおいて、部屋200内の人が一斉に部屋200の外に退出したものと仮定している(図11に太い破線で示すように、部屋200内の人が在室人数最大から一斉に退出して在室人数ゼロまで変化することを想定している)。しかし、実際には、部屋200内の人が一斉に退出しない場合もあり、図11の下降曲線部分を太線で近似して示すように、ある時間をかけて部屋200内の人が徐々に外部に退出していく場合もある。例えば、図11の例では、最初に発生したイベント1(左側)よりも後に発生したイベント2(右側)の方が部屋200から人が退出するのに長い時間を要している。そして、換気回数の推定において前提とする人が瞬時に退出すると仮定した二酸化炭素濃度の下降曲線よりも実際の二酸化炭素濃度データの下降曲線の方が緩やかに下降する場合がある。その場合、下降曲線が緩やかに下降する分だけ換気能力が低い、すなわち換気回数がより小さいと推定される傾向にある。
【0055】
そこで、例えば、制御部10が部屋200の扉230近傍に配置した人数カウンタ30(図2参照)から取得した部屋200内の在室人数(図11参照)に基づいて、単位時間当たりの人の退出人数を定量化する(図11における下降部分の太線の傾斜が単位時間当たりの人の退出人数に相当)。そして、単位時間当たりの人の退出人数が所定の閾値以上となるイベントにおける人が退出したタイミングのみを、本実施形態における「部屋から人が退出したタイミング」として用いるように構成してもよい。すなわち、図11の例において、単位時間当たりの人の退出人数が所定の閾値以上となるイベント1の下降曲線部分のみを用いて換気回数を推定し、単位時間当たりの人の退出人数が所定の閾値未満となるイベント2の下降曲線を用いないようにしてもよい。この構成によって、まだ部屋200の中に多数の人が残っているような状態における二酸化炭素濃度データの下降曲線を用いて換気回数を推定してしまうことを抑制することができる。従って、部屋200内の換気回数の推定精度が向上する。
【0056】
なお、単位時間当たりの人の退出人数についての所定の閾値は、例えば上述の決定係数Rが所定の閾値以上となる割合がある値を超えるように定めることができる。また、単位時間当たりの人の退出人数についての所定の閾値は、例えば、在室人数が最大となった後に減少し始めてから60分以内に在室人数がほぼゼロになる(退出が概ね完了する)ようなイベントのみが抽出されるように定めてもよい。ここで、在室人数がほぼゼロになるとは、例えば在室人数が最大在室人数の10%以下となった場合とすることができるがこれに限定されるものではない。また、在室人数が最大となった後に減少し始めてから30分以内に在室人数がほぼゼロになる(退出が概ね完了する)ようなイベントのみが抽出されるように所定の閾値を定めることによって、二酸化炭素濃度の下降曲線部分が無人状態に比較的近い事象のみを抽出することができる。そのため、換気回数の推定精度を向上させることができる。
【0057】
なお、図11のイベント1とイベント2とを比較すると、最大在室人数は概ね同じであるが、イベント2の方が人が部屋200内に入室する速度が速く(単位時間当たりの入室者数が多い)、部屋200から退出する速度が遅い(単位時間当たりの退出者数が少ない)傾向にある。このため、イベント2の方が、部屋200内の在室人数を時間積分した値が大きいため、図12に示すように、二酸化炭素濃度の最大値が大きくなる傾向にあると言える。
【0058】
本実施形態では、部屋200から人が退出したタイミングを、二酸化炭素濃度データにおける下降曲線と近似曲線との決定係数Rが大きくなるタイミング、又は人数カウンタからのデータに基づいて決定するように構成したが、この態様には限定されない。例えば、学習用に用意した人数カウンタからのデータと二酸化炭素濃度データから、部屋200から人が一斉に退出したタイミングにおける二酸化炭素濃度データの下降曲線形状を学習させた換気回数推定用学習済みモデルをあらかじめ生成して記憶部12に記憶しておき、制御部10が、新たに取得した二酸化炭素濃度データと上記学習済みモデルとを用いて、部屋200から人が退出したタイミングにおける新たな二酸化炭素濃度データの下降曲線部分を抽出して換気回数を推定するように構成してもよい。
【0059】
次に、数式(1)に示すザイデルの式を用いた、二酸化炭素濃度データの上昇曲線部分の推定について説明する。
【0060】
制御部10は、数式(1)を用いて部屋200内に利用者が入室したときの二酸化炭素濃度の上昇曲線を推定する(図3のステップS109)。この二酸化炭素濃度の上昇曲線の推定は、少なくともステップS108で推定した換気回数の範囲を含む条件で行う。
【0061】
より具体的には、制御部10は、数式(1)において、Q/Vすなわち換気回数の値として、少なくともステップS109で推定した換気回数の範囲を含む条件で二酸化炭素濃度の上昇曲線を推定する。例えば、ステップS108において換気回数が0.6から1.2[回/時間]の範囲であると推定された場合、数式(1)のQ/Vの値として0.6,0.8,1.0,1.2の4つの値を代入して二酸化炭素濃度の上昇曲線を計算する。さらにQ/Vの値として0.4又は1.4の値を代入して更なる二酸化炭素濃度の上昇曲線を推定するようにしてもよい。
【0062】
また、制御部10は、部屋200の容積Vを取得する。容積Vは、例えば換気評価装置100の利用者が、部屋200の図面から容積を算出して、換気評価装置100の入力部から入力するようにしてもよい。
【0063】
制御部10は、部屋200内における二酸化炭素発生量Mを取得する。二酸化炭素発生量Mは、例えば換気評価装置100の使用者が、部屋200の利用者名簿から利用者数、利用者の属性(大人、子供など)及び利用者の活動状態(標準時、軽度の動きがある場合、運動時など)等の情報を取得し、部屋200内における二酸化炭素発生量Mを換気評価装置100の入力部から入力するようにしてもよい。二酸化炭素発生量Mは、制御部10が部屋200の利用者名簿等を読み込んで自動的に算出してもよい。
【0064】
二酸化炭素発生量Mの取得は、より具体的には、以下の数式(4)の計算によって行われる。
【0065】
【数4】
【0066】
ここで、Ce:呼気中の二酸化炭素濃度[ppm]、n:在室人数[人]、R:一人当たりの呼気発生量(安静時)[m/時間]、k:呼吸量の大きさを表す係数である。Ceは、46000[ppm](4.6体積%)であり、Rは、0.39[m/時間]、kは在室者の活動状態により変化し、標準値は1である。なお、「安静時」は、着座事務作業時を想定している。
【0067】
制御部10は、換気回数(Q/V)及び部屋200の容積Vから部屋200の換気設備による換気量Qを算出する。
【0068】
制御部10は、上記Q,V,Mの値を数式(1)に代入するとともに、s=0、C=Cとして時刻iにおける二酸化炭素濃度Cを計算し、換気回数ごとの二酸化炭素濃度上昇曲線を推定する(図3のステップS109)。
【0069】
図13A及び図13Bは、それぞれ換気回数:0.67[回/時間]及び1.0[回/時間]のときの二酸化炭素濃度上昇曲線を収容人数ごとに計算し推定した結果を示している。換気回数:0.67[回/時間](図13A)の条件下では、収容人数が100人以下では100分経過後も二酸化炭素濃度が800ppmを超えないが、収容人数が150人を超えると100分経過前に二酸化炭素濃度が800ppmを超えるという結果になっている。一方、換気回数:1.0[回/時間](図13B)の条件下では、収容人数が150人以下であれば100分経過後も二酸化炭素濃度が800ppmを超えないという結果になっており、換気回数の増加により収容人数を約1.5倍まで増やせることが分かる。
【0070】
図14は、換気回数ごとに、部屋200内の収容人数と二酸化炭素濃度が800ppmに到達するまでの経過時間との関係を示したものである。このように、二酸化炭素濃度の上昇曲線を推定することによって、部屋の利用時間に応じた最大収容人数を推定することもできる(図3のステップS110)。
【0071】
なお、図13Aから図13Bでは、経過時間0[分]において部屋200内に所定の収容人数が一斉に入室したとして二酸化炭素濃度の推定を行っている(図15における太破線部分が二酸化炭素濃度の推定に用いる在室人数変化)。しかし、実際には、イベント1及びイベント2共に、部屋200内の人数が最大となるまでに2時間から3時間程度の時間を要している。そのため、図15に太線の傾きで示される単位時間当たりの入室人数が小さくなるほど、部屋200内の人の数を時間積分した値が小さくなるため、二酸化炭素濃度が上がり難くなる。
【0072】
図16は、図15におけるイベント1及びイベント2が発生したときの部屋200内の二酸化炭素濃度データを表している。また、太破線は、図15において太破線で示したように部屋200内に人が一斉に入室したと仮定したときの二酸化炭素濃度の推定結果を示している。図16に示すように、部屋200内に人が一斉に入室したと仮定すると、実際の二酸化炭素濃度と比較して最大二酸化炭素濃度が約2倍となる場合も存在する。
【0073】
また、図17に太い破線で示す二酸化炭素濃度の推定結果(部屋200内に250人が一斉に入室したと仮定)に対して、経過時間0分~60分:在室人数100人、経過時間60分~120分:在室人数200人、経過時間120分~200分:在室人数250人、といったように徐々に在室人数が増加することを仮定すると、図17に太線で示すように、部屋200内に250人が一斉に入室したと仮定したときの推定結果と比較して二酸化炭素濃度の最大値が小さくなるという結果が予想される。このため、在室人数の増加時の増加曲線を考慮した最大二酸化炭素濃度の推定を行うことによって、推定結果の精度が向上すると考えられる。
【0074】
在室人数の増加時の増加曲線を考慮するため、数式(4)における在室人数:n[人]が経過時間と共に増加するように変化させる。図18は、経過時間0分~60分:在室人数5人、経過時間60分~120分:在室人数15人、経過時間120分~:在室人数20人、といったように徐々に在室人数nを増加させたときの二酸化炭素濃度の推定値(実線)と、経過時間0分から在室人数20人とした場合の二酸化炭素濃度の推定値(破線)とを比較したグラフである。経過時間と共に在室人数nを5人→15人→20人へと徐々に増加させた場合の方が、在室人数nの時間積分値が小さくなる分だけ室内の二酸化炭素濃度の最大値が小さくなり、実際の二酸化炭素濃度の最大値に近づくと考えられる。
【0075】
以上のように、本実施形態では、換気設備を有する部屋200内に配置された二酸化炭素センサ20から二酸化炭素濃度データを取得する制御部10を備え、制御部10は、部屋200から人が退出したタイミングにおける二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、部屋200内の換気回数を推定するように構成した。このような構成の採用によって、部屋200の利用を停止させることなく二酸化炭素濃度データから換気回数を推定することができる。また、推定した換気能力(換気回数)から部屋200の利用機会の最大化を図ることができる。
【0076】
また、本実施形態では、部屋200から人が退出したタイミングは、二酸化炭素濃度データの時間変化を示す曲線に対する、曲線を指数関数で近似した近似曲線の近似の良さを示す決定係数が所定の閾値以上となるタイミングであるように構成した。このような構成の採用によって、二酸化炭素濃度データのみから換気能力(換気回数)を推定することができるので、換気評価に必要な構成を簡素化することができる。
【0077】
また、本実施形態では、決定係数Rは、0.8以上1.0以下であるように構成した。このような構成の採用によって、二酸化炭素濃度データのうち下降曲線部分を二酸化炭素発生量M=0と仮定したザイデルの式(数式(2))でよく近似できるデータを抽出することができる。したがって、新たな二酸化炭素の発生が少ない状況での下降曲線部分を用いて換気回数を推定することができるので、換気回数の推定精度を高めることができる。
【0078】
また、本実施形態では、制御部10は、部屋200内の人の数をカウントする人数カウンタ30から更にデータを取得し、人数カウンタ30からのデータに基づいて部屋200から人が退出したタイミングを決定するように構成した。このような構成の採用によって、部屋200から人が退出したタイミングを人数カウンタ30によって直接検出することができるので、部屋200内の人数を正確に把握して二酸化炭素発生量M=0と仮定できる二酸化炭素濃度の下降曲線部分を正確に抽出して換気回数を正確に推定することができる。
【0079】
また、本実施形態では、部屋200から人が退出したタイミングは、単位時間当たりの部屋200からの退出人数が所定の閾値以上となるタイミングであるように構成した。このような構成の採用によって、まだ部屋200の中に多数の人が残っているような状態における二酸化炭素濃度データの下降曲線を用いて換気回数を推定してしまうことを抑制することができる。従って、部屋200内の換気回数の推定精度が向上する。
【0080】
また、本実施形態では、制御部10は、取得した部屋200の容積と、推定した換気回数から、部屋200の利用時間に応じた最大収容人数を推定するように構成した。このような構成の採用によって、換気能力に応じた部屋200の利用が可能となるため、部屋200の利用機会の損失を抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態では、制御部10は、取得した部屋200の容積と、推定した換気回数と、部屋200内の在室人数nの時間変化とから、最大二酸化炭素濃度を推定するように構成した。このような構成の採用によって、在室人数nの時間変化を考慮することで在室人数nの時間積分値が小さくなるため、室内の最大二酸化炭素濃度の推定値が小さくなり、実際の二酸化炭素濃度の最大値に近づけることができる。
【0082】
また、本実施形態では、制御部10は、二酸化炭素濃度の最大値と、二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間とを検出し、二酸化炭素濃度における所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分を算出するように構成した。このような構成の採用によって、二酸化炭素濃度の最大値に加えて二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間を検出し、更に所定の閾値を超えた濃度の時間積分値を算出することによって、二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた時のリスクの大きさをより正確に把握することができる。
【0083】
また、本実施形態では、制御部10は、二酸化炭素濃度の最大値、及び二酸化炭素濃度が所定の閾値を超えた状態の継続時間の一方をプロットする点の横方向位置、他方をプロットする点の縦方向位置、二酸化炭素濃度における所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分をプロットする点の大きさとして表現したグラフを生成するように構成した。このような構成の採用によって、2次元表示でありながら上記3つのパラメータの関係や、空気質の劣化度合いの指標として有効な「所定の閾値を超えた超過濃度値の時間積分」をより視認し易い形で表示することができる。
【0084】
また、本実施形態では、換気設備を有する部屋200内に配置された二酸化炭素センサ20から二酸化炭素濃度データを取得するステップと、部屋200から人が退出したタイミングにおける二酸化炭素濃度データの単位時間あたりの減少値から、部屋200内の換気回数を推定するステップとを含むように構成した。このような構成の採用によって、部屋200の利用を停止させることなく二酸化炭素濃度データから換気回数を推定することができる。また、推定した換気能力(換気回数)から部屋200の利用機会の最大化を図ることができる。
【0085】
本開示を諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0086】
例えば、本実施形態では、図2に示すように部屋200の略中央部に二酸化炭素センサ20を配置するように構成したが、この態様には限定されず、例えば排気扇220の手前に二酸化炭素センサ20を配置するなど、他の場所に配置してもよい。
【0087】
本実施形態では、部屋200としてホテルの宴会場などを想定したが、この態様には限定されない。本開示は、オフィスの大会議室や映画館など、比較的大人数が収容されるとともに利用者が一斉に退出する傾向がある他の様々な閉空間の換気評価に特に適している。
【符号の説明】
【0088】
10 制御部
12 記憶部
14 通信部
16 表示部
20 二酸化炭素センサ
30 人数カウンタ
100 換気評価装置
200 部屋
210 吸気孔
220 排気扇
230 扉
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18