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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168330
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】乾式屋根及びデッキプレート
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20241128BHJP
   E04D 3/35 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E04B1/94 A
E04B1/94 D
E04D3/35 F
E04D3/35 P
E04D3/35 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084897
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591115006
【氏名又は名称】三菱地所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】関 勝輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 歩未
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 渉
【テーマコード(参考)】
2E001
2E108
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DE01
2E001EA06
2E001FA16
2E001GA12
2E001GA42
2E001HC01
2E001HC11
2E001JD02
2E001KA01
2E001KA05
2E108AA01
2E108AS02
2E108BB04
2E108BN06
2E108CC02
2E108CV03
2E108CV08
2E108EE01
2E108FF01
2E108GG01
2E108GG10
(57)【要約】
【課題】デッキプレート下部に木部を備えることで乾式屋根におけるデッキプレートに施す処理を簡略化しつつも、乾式屋根におけるデッキプレートの耐火性能と構造性能の向上及び見映えや断熱性、遮音性など居住環境性能の向上を図ることができ、防水シート等を交換する際の養生作業を省くこと。
【解決手段】支持梁(B)に載置されるデッキプレート(10)と、デッキプレート(10)の上面に設けられ、性能を向上させる部材(40,50,60)と、を備える乾式屋根(1)であって、デッキプレート(10)は、少なくとも部材(40,50,60)の取付位置の下面側を覆うと共に、乾式屋根(1)の補強領域におけるデッキプレート本体部(10a)を露出させるように、デッキプレート本体部(10a)の下面に設けられた木部(20)を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持梁に載置されるデッキプレートと、前記デッキプレートの上面に設けられ、性能を向上させる部材と、を備える乾式屋根であって、
前記デッキプレートは、少なくとも前記部材の取付位置の下面側を覆うと共に、乾式屋根の補強領域におけるデッキプレート本体部を露出させるように、前記デッキプレート本体部の下面に設けられた木部を備えることを特徴とする乾式屋根。
【請求項2】
前記補強領域は、前記デッキプレートが載置される支持梁近傍であることを特徴とする請求項1に記載の乾式屋根。
【請求項3】
前記デッキプレートは、前記支持梁に載置されていない領域における前記デッキプレート本体部の長手方向端部が所定距離だけ露出されていることを特徴とする請求項2に記載の乾式屋根。
【請求項4】
前記木部は、前記デッキプレート本体部の下面における壁材等の取付位置を除いた位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の乾式屋根。
【請求項5】
前記性能を向上させる部材は、前記デッキプレート本体部の上面に設けられた断熱部であることを特徴とする請求項1に記載の乾式屋根。
【請求項6】
前記断熱部を覆う防水部を備えることを特徴とする請求項5に記載の乾式屋根。
【請求項7】
前記デッキプレート本体部と前記断熱部との間に設けられた野地部を備えることを特徴とする請求項5または6に記載の乾式屋根。
【請求項8】
前記性能を向上させる部材を前記デッキプレート本体部に固定する固定部を備え、
前記固定部は、野地部、前記デッキプレート本体部、または、前記木部に係止されていることを特徴とする請求項5または6に記載の乾式屋根。
【請求項9】
乾式屋根に用いられ、上面に性能を向上させる部材が取り付けられるデッキプレートであって、
デッキプレート本体部と、前記デッキプレート本体部の下面に設けられた木部と、を備え、
前記木部は、少なくとも前記部材の取付位置の下面側を覆うと共に、乾式屋根の補強領域における前記デッキプレート本体部を露出させるように設けられていることを特徴とするデッキプレート。
【請求項10】
前記木部は、意匠仕上げ材から形成されていることを特徴とする請求項9に記載のデッキプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式屋根及びデッキプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
平屋や中低層の建築物の屋根や屋上は、デッキプレートに断熱材と防水材を設けた外断熱乾式屋根により構築されている場合がある。乾式屋根は、デッキプレートの上面にコンクリートを打設しないため、軽量で、工期も短く、施工性に優れている(例えば、特許文献1参照)。
乾式屋根において、デッキプレートは、下方の室内側にあるため、火災時の熱により耐力が失われると、乾式屋根の下地としての機能を損なう。そこで、支持梁と乾式屋根の接合部である支点位置を補強して、許容スパンなどの構造性能の向上、耐火性能の向上を図った乾式屋根が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような乾式屋根において、火災時に崩壊しやすい支持梁近傍を補強した場合、補強箇所以外の箇所が新たな弱点となり、新たに弱点となった箇所から崩壊を招く恐れがある。
また、デッキプレートは、所定の耐火性能を有しているものの、コンクリートを打設しないので、デッキプレート単体で耐火性能を向上させることは困難である。
一方で、乾式屋根の断熱性能の向上が求められているが、デッキプレートに設けられる断熱材を増やすと、火災の際に断熱材がデッキプレートから外部への熱の放出を阻害してしまうため、デッキプレートに熱が溜まって耐火性能が低下するため、設計基準上、許容されるスパンを短くせざるを得ないという問題がある。
また、デッキプレートの下面を下方の室内に露出させておくことは見映えが良くなかったり、比熱が低いためデッキプレート面の結露が懸念されるなどの理由から、、デッキプレートの下面に仕上げ処理を施すことが多い。
このように、乾式屋根用のデッキプレートには断熱性能の向上と、その向上に相反する耐火性能の向上が求められ、一方で常時は構造性能の向上、見映えの向上や遮音性の向上、断熱性の向上による結露などのない快適な居住環境も求められるため、デッキプレートに施す処理が多くなっており、防水材等を改修する際の養生作業も手間がかかるものとなっている。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、乾式屋根におけるデッキプレートに施す処理を簡略化しつつも、乾式屋根におけるデッキプレートの耐火性能、構造性能の向上及び見映えや断熱性、遮音性など居住環境性能の向上を図ることができ、防水材等を改修する際の養生作業を省くことができ、乾式屋根の弱点を解消して崩壊を抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る一態様は、支持梁に載置されるデッキプレートと、前記デッキプレートの上面に設けられ、性能を向上させる部材と、を備える乾式屋根であって、前記デッキプレートは、少なくとも前記部材の取付位置の下面側を覆うと共に、乾式屋根の補強領域におけるデッキプレート本体部を露出させるように、前記デッキプレート本体部の下面に設けられた木部を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記補強領域は、前記デッキプレートが載置される支持梁近傍であることが好ましい。
【0008】
また、前記デッキプレートは、前記支持梁に載置されていない領域における前記デッキプレート本体部の長手方向端部が所定距離だけ露出されていることが好ましい。
【0009】
また、前記木部は、前記デッキプレート本体部の下面における壁材等の取付位置を除いた位置に設けられていることが好ましい。
【0010】
また、前記性能を向上させる部材は、前記デッキプレート本体部の上面に設けられた断熱部であることが好ましい。
【0011】
また、前記断熱部を覆う防水部を備えることが好ましい。
【0012】
また、前記デッキプレート本体部と前記断熱部との間に設けられた野地部を備えることが好ましい。
【0013】
また、前記性能を向上させる部材を前記デッキプレート本体部に固定する固定部を備え、前記固定部は、野地部、前記デッキプレート本体部、または、前記木部に係止されていることが好ましい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る一態様は、乾式屋根に用いられ、上面に性能を向上させる部材が取り付けられるデッキプレートであって、デッキプレート本体部と、前記デッキプレート本体部の下面に設けられた木部と、を備え、前記木部は、少なくとも前記部材の取付位置の下面側を覆うと共に、乾式屋根の補強領域における前記デッキプレート本体部を露出させるように設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、前記木部は、意匠仕上げ材から形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、乾式屋根におけるデッキプレートに施す処理を簡略化しつつも、乾式屋根におけるデッキプレートの耐火性能、構造性能の向上及び見映えや断熱性、遮音性など居住環境性能の向上を図ることができ、防水材等を改修する際の養生作業を省くことができ、乾式屋根の弱点を解消して崩壊を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】乾式屋根の一部を示す斜視図である。
図2】デッキプレートの斜視図である。
図3】乾式屋根を短手方向から見た図である。
図4】乾式屋根を長手方向から見た図である。
図5】木部の厚さと耐火時間との関係を説明する表である。
図6】(a)は従来のデッキプレートに形成される空間を説明する図であり、(b)は木部を有するデッキプレートに形成される空間を説明する図である。
図7】(a)は従来のデッキプレートの断熱性能を説明する図であり、(b)は木部を有するデッキプレートの断熱性能を説明する図である。
図8】木部を有するデッキプレートの効果を説明する図である。
図9】デッキプレートに架台基礎を取り付ける際の構造を説明する図である。
図10】デッキプレートに架台基礎を取り付ける際の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率等が異なる部分が含まれている場合がある。
【0019】
<乾式屋根>
図1は、乾式屋根の一部を示す斜視図である。図3は、乾式屋根を短手方向から見た図である。図4は、乾式屋根を長手方向から見た図である。
図1図3図4に示すように、乾式屋根1は、建築物の屋根や屋上に用いられるものであり、コンクリートを用いない屋根構造である。
乾式屋根1は、例えば、デッキプレート10と、野地部40と、断熱部50と、防水部60と、固定部70を備えている。
乾式屋根1は、支持梁Bに架け渡された状態において、下方からデッキプレート10、野地部40、断熱部50、防水部60の順に積み重なるように配置されている。したがって、乾式屋根1を支持梁Bと支持梁Bとの間に架け渡した際には、デッキプレート10の下面が室内空間に露出している。なお、支持梁Bは鋼材に限定されず、鉄筋コンクリートや製材・木質材料でもよい。デッキプレート10と支持梁Bは溶接などにより固定されている。この固定方法は溶接に限らず例えばビスやくぎなどでもよいし、しなくてもよい。また、デッキプレート10は、支持梁Bと直交する方向に配置される梁(図示せず)や、支持梁Bと支持梁Bの間に配置される中間梁(図示せず)とも、支持梁Bと同様の方法で固定されている。なお、この固定方法は支持梁Bと同様である必要はない。
【0020】
以下の説明において、デッキプレート10が建築物の支持梁Bと支持梁Bとに架け渡される方向を、デッキプレート10の長手方向(長さ方向)Lとし、長手方向Lに交差してデッキプレート10が延びる方向を短手方向(幅方向)Wとし、デッキプレート10を支持梁Bに載置する方向を、デッキプレート10の高さ方向Hとする。
【0021】
(デッキプレート)
図2は、デッキプレート10の斜視図である。図3は、乾式屋根を短手方向から見た図である。図4は、乾式屋根を長手方向から見た図である。
図2図4に示すように、デッキプレート10は、デッキプレート本体部10aと、木部20と、を備えている。
デッキプレート本体部10aは、亜鉛メッキ等の表面処理が施された薄板状の鋼板をロールフォーミング等することによって形成した波形状の鋼板である。なお、デッキプレート本体部10aにはメッキ等の表面処理が施されていなくてもよい。デッキプレート本体部10aは、山部11と、谷部13と、傾斜部15と、を有する。デッキプレート本体部10aは、複数の山部11と谷部13が交互に形成されており、隣接する山部11と谷部13とが傾斜部15によって繋がっている。デッキプレート本体部10aは、それぞれ長手方向Lに延びる山部11及び谷部13が傾斜部15を介して互いに短手方向Wに連続する波形状をなしている。
【0022】
デッキプレート本体部10aは、例えば、2つの山部11と、1つの谷部13と、2組の一対の傾斜部15とを有しており、短手方向Wに沿った断面において波形に形成されている。なお、デッキプレート10の短手方向Wの寸法によっては、1つのデッキプレート本体部10aに1つの山部11のみが設けられていてもよい。また、1つのデッキプレート10が短手方向Wにおいて他のデッキプレート10と連結された場合、デッキプレート10同士の連結部は、谷部13として機能するこの時、デッキプレート10同士の連結部をビスなどで接合してもよい。当該接合により、耐火性能や構造性能などの向上を図ることができるため、接合の有無を含め必要に応じて接合仕様を選択することができる。また、デッキプレート10は、長手方向Lの両端部においてエンドクローズ加工が施されていてもよい。
【0023】
山部11は、支持梁Bと支持梁Bとの間にデッキプレート10が架け渡された状態(以下、「架渡し状態」ともいう)において、支持梁Bに対して上側に位置する平坦に形成された部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。
山部11は、溝12を有する。溝12は、デッキプレート10の下面側に向けて凹むように形成されている。溝12は、長手方向Lに延在し、溝12が1つの場合には短手方向Wにおいて中央近傍に設けられている。
山部11における溝12により山部11の強度が向上する。溝12は、山部11に1つ形成されている場合に限らず、複数形成されていてもよい。溝12は、長手方向Lに沿って断続して形成されていてもよい。なお、溝12は、形成されていなくてもよい。
【0024】
谷部13は、山部11に対して平行または略平行であり、架渡し状態において、支持梁Bに載置される平坦に形成された部分である。谷部13は、長手方向Lに延在する板状の部分である。谷部13は、短手方向Wにおいて山部11とは重ならない。なお、山部11に形成される溝12が谷部13に形成されていてもよい。
谷部13は、凸部14を有する。凸部14は、デッキプレート10の上面側に向けて突出するように形成されている。凸部14は、長手方向Lに延在し、凸部14が1つの場合には短手方向Wにおいて中央近傍に設けられている。
谷部13における凸部14により谷部13の強度が向上する。凸部14は、谷部13に1つ形成されている場合に限らず、複数形成されていてもよい。凸部14は、長手方向Lに沿って断続して形成されていてもよい。なお、凸部14は、形成されていなくてもよい。
【0025】
傾斜部15は、山部11と谷部13とを繋ぐ部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。傾斜部15は、短手方向Wにおいて山部11の側縁から斜めに谷部13の側縁に向かって斜めに延びている。傾斜部15は、山部11及び谷部13に対して所定の角度、例えば、鈍角を形成するように傾斜している。なお、山部11に形成される溝12が傾斜部15に形成されていてもよい。
【0026】
傾斜部15は、係合部16を有する。係合部16は、傾斜部15の表面からデッキプレート10の上面側に突出するように形成された凸部である。係合部16は、例えば、エンボス加工により形成されており、傾斜部15の延在方向(長手方向L)に沿って所定の間隔をあけて複数設けられている。係合部16により、傾斜部15の強度が向上する。係合部16は、長手方向Lに延在していてもよい。
【0027】
谷部13と傾斜部15との間の移行部には、膨出部17が形成されている。膨出部17は、1つの山部11における一対の傾斜部15において互いに反対側に突出した部分である。すなわち、谷部13を挟んで対向する一対の傾斜部15における膨出部17は、対向するように形成されており、互いに近づく方向に膨出している。膨出部17は、係合部16に対して谷部13側に位置する。膨出部17は、長手方向Lに沿って断続して形成されていてもよい。
【0028】
膨出部17と谷部13との間の移行部には、溝18が形成されている。溝18は、長手方向Lに沿って延在する係合溝(蟻溝)として形成されている。溝18の短手方向Wに沿った断面は湾曲するように形成されている。溝18は、1つの山部11における一対の傾斜部15において互いに接近する方向に形成されている。すなわち、デッキプレート10の谷部13に連続する一対の傾斜部15において、溝18は、対向するように形成されており、互いに離れる方向に湾曲している。溝18は、長手方向Lに沿って断続して形成されていてもよい。
【0029】
デッキプレート10の下面側(デッキプレート本体部10aの下面側)には、木部20が設けられている。木部20は、例えば、板状に形成された木板であり、谷部13の下面側にビス等を用いて固定されている。木部20は製材や挽き板を幅方向に接着した木パネルのみならず、木質材料例えば薬剤処理や樹脂を添加するなどして強度若しくは耐火・難燃性能、またはその両方を向上させた集成材、LVL等の所謂エンジニアードウッドでもよいし、さらにカビや腐朽菌への耐性を向上させたものでもよいし、例えば、木毛セメント板や石膏ボードなどのボード類やパネル類、シート類であってもよい。また、木部20が幅方向単位のユニットとなる場合、その幅はデッキプレート10の幅と同じでもよいし、デッキプレート10の幅よりも大きくても小さくてもよい。また、木部20相互の継ぎ目とデッキプレート10相互の嵌合部が一致していてもよいし、一致していなくてもよい。なお、木部20相互の継ぎ目とデッキプレート10相互の継ぎ目が一致していない場合は、一致している場合に比べて耐火性能が向上する。また、デッキプレート本体部10aへの木部20の取り付けについては、ビスに限らず、接着剤やその他の手段により取り付けられていればよく、その取り付け方法は限定されない。当該取付方法により、耐火性能や構造性能などの向上を図ることができるため、設計仕様に応じた取付方法を選択することができる。また、木部20は、デッキプレート本体部10aの谷部13の下面に直接接触するように取り付けられる場合に限らず、管材や鋼材等の部材を介してデッキプレート本体部10aの谷部13の下面から間隔を空けた状態で木部20が取り付けられていてもよい。つまり、デッキプレート10は、デッキプレート本体部10aの下面側に木部20が何らかの手段で直接的または間接的に取り付けられていればよい。なお、デッキプレート本体部10aと木部20とを連結するビスは、固定部70と共用してもよいし、固定部70とは別個のビスを用いてもよい。
木部20は、デッキプレート10を支持梁Bに載置した状態において、支持梁Bの間から室内に露出するデッキプレート10の下面を覆い、見映えを向上させる意匠仕上げ材である。
木部20は、デッキプレート10に付加する耐火時間(耐火性能)と当該木部20の炭化速度との積により算出される厚さを有するように形成されている。
【0030】
図5は、木部20の厚さと耐火時間との関係を説明する表である。
具体的には、図5に示すように、木部20を構成する木材の炭化速度が0.65mm/minで、デッキプレート10に30分の耐火時間を付加したい場合には、木部20の厚さを0.65mm/min×30min=19.5mmとすればよい。
同様に、図5に示すように、デッキプレート10に30~60分の耐火時間を付加したい場合には、木部20の厚さを19.5~39.0mmとし、デッキプレート10に60~120分の耐火時間を付加したい場合には、木部20の厚さを39.0~78.0mmとし、乾式屋根1に120~180分の耐火時間を付加したい場合には、木部20の厚さを78.0~117.0mmとすればよい。なお、木材の炭化速度は0.65mmでなくてもよく、炭化速度に応じて木部20の厚さが変動する。
【0031】
また、乾式屋根1を構成するデッキプレート10は、デッキプレート本体部10aに何の被覆処理もされておらず、木部20を設けていない無被覆状態でも、所定時間の耐火性能を有している。例えば、デッキプレート本体部10aが無被覆状態で30分の耐火時間(耐火性能)を有している場合、厚さ39mmの木部20をデッキプレート10の下面に設けることで、デッキプレート10の耐火性能は、デッキプレート本体部10a自身の耐火時間30分と、木部20の耐火時間60分とを足した90分の耐火時間を確保することができる。一方、このデッキプレート10を130分の耐火時間としたい場合には、木部20は、デッキプレート本体部10a自身の耐火時間30分を減じて、残りの耐火性能100分に必要な65mmの厚さに形成すればよい。
【0032】
また、木部20に所定時間の防火性能を付加する不燃処理が施されていてもよい。例えば、木部20を構成する木板に不燃性能(20分の不燃時間を確保)、準不燃性能(10分の不燃時間を確保)、難燃性能(5分の不燃時間を確保)を付加するような処理(例えば、薬液処理など)を施した場合、これらの各不燃時間に炭化速度を乗じた分の厚さだけ木部20を薄くすることができる。
具体的には、デッキプレート10に耐火時間120分の耐火性能を付加したい場合において、木部20に不燃性能(20分の不燃時間を確保)の処理が施されている場合、木部20は、耐火時間120分から不燃性能の処理分の不燃時間20分を減じた耐火時間100分の厚さ、すなわち、0.65mm/min×100min=65.0mmとすればよい。
【0033】
このように、木部20はデッキプレート10の下面に設けられているので、火災時には最初に木部20が熱せられることになる。したがって、木部20の炭化速度を考慮して乾式屋根1に付加したい耐火時間の厚さに形成しておくことで、木部20が燃え尽きるまではデッキプレート本体部10aは熱による影響をほとんど受けることがない。
なお、木部20は、木材であれば、その材質は問わないが、木材の種類等に応じて炭化速度が異なるので、木材の種類に応じて木部20の厚さを調整する必要がある。
このように、火災時の加熱に対して木板が炭化により消失するまでは被覆効果を発揮する性質を利用し、デッキプレート10の下面に木部20を設けることで、乾式屋根1及びデッキプレート10の耐火性能(非損傷性、断熱性)を高めることができる。また、木部20を構成する木材の材質に基づく炭化速度とデッキプレート10に付加したい耐火時間とに基づいて木部20の厚さを決めることができるので、木部20を最適な厚さに構成することができ、耐火性能に過不足が生じることもなく、最適な機能とコストの選択が可能となる。すなわち、木部20を最適な厚さとすることで、木部20を火災の熱で完全に燃焼させることができ、木部20が燃え尽きる前に木部20の加熱が終わることがなく、火災の鎮火後に木部20が燃え草となって燃焼が継続することもない。また、木部20の厚さを調節するだけでデッキプレート10の耐火性能(耐火時間)を簡単に調節することができる。
【0034】
ここで、図6を用いて、木部20を有するデッキプレート10の断熱性の向上効果について説明する。
図6(a)に示す従来の乾式屋根のように、デッキプレートが木部を有していない構造の場合、デッキプレート10Aの谷部13と傾斜部15と野地部40とで囲まれた空間S1のみが空気層となり、断熱性を向上させるが、デッキプレート10Aの山部11と野地部40は直接接触しているので、この領域に空気層となる空間は形成されず、火災時の熱はデッキプレート10Aから野地部40に容易に伝わり耐火性能を低下させている。また、常時においても室内の温度がこの領域から外部に流出しやすく、断熱性能を低下させている。
これに対して、図6(b)に示す乾式屋根のように、木部20を有するデッキプレート10においては、木部20は、長手方向L及び短手方向Wに沿って、下方の室内に露出するデッキプレート本体部10aの下面を覆うように設けられており、デッキプレート本体部10aの谷部13に当接した状態でデッキプレート本体部10aに固定されている。したがって、図4図6(b)に示すように、デッキプレート本体部10aの谷部13と傾斜部15と野地部40とで囲まれた空間S1が空気層となるだけでなく、デッキプレート本体部10aの山部11と木部20との間には隙間が形成され、山部11と傾斜部15と木部20の上面とで囲まれた空間S2が空気層となる。よって、木部20と野地部40との間のほぼ全域を空間S1,S2とすることができ、従来のデッキプレート10Aよりもデッキプレート10の耐火性と断熱性を高めることができる。
【0035】
図7に示した熱抵抗Rを用いて、、乾式屋根の性能を熱貫流率で比較する。熱貫流率とは、室内外の空気温度に1℃の差があるとき1時間に壁1mを通過する熱量をさし、1を熱抵抗の合計Rで除した値であり、値が小さくなるほど、断熱性能が高いことを示す。
木部を有していないデッキプレート10Aを用いた従来の乾式屋根においては、空間S1の領域A1における熱抵抗Rは2.729(mK/W)、空間S1のない領域B1における熱抵抗Rは2.639(mK/W)であり、デッキプレート10Aが敷き並べられたときの領域A1と領域B1の面積比率は1:1となる。このことから乾式屋根としての熱貫流率Ua(W/m・K)は、以下の値となる。
Ua=1/(2.729×0.5+2.639×0.5)=0.373
一方、木部を有するデッキプレート10を用いた乾式屋根1においては、熱抵抗Rは2.937(mK/W)であり、乾式屋根としての熱貫流率Ua(W/m・K)は、以下の値となる。
U=1/2.937=0.340
このように、木部20を有するデッキプレート10の断熱性能が従来のデッキプレート10Aの断熱性能よりも向上していることがわかる。
【0036】
木部20は、下方の室内に露出するデッキプレート本体部10aの下面において、乾式屋根1の一部の領域においてデッキプレート本体部10aの下面を露出させるようにデッキプレート本体部10aに設けられている。
具体的には、乾式屋根1は、デッキプレート10が載置される支持梁B近傍で補強された場合、、その補強が及ぶ範囲(補強領域)においては、木部20でデッキプレート本体部10aを覆わず、デッキプレート本体部10aの下面を露出させている。この補強は例えばデッキプレート10と支持梁Bとをビスなどで接合することによる強度向上がある。例えば、図1、3に示すように、木部20は、デッキプレート10の長手方向に沿った端部が支持梁Bから所定距離だけ離れた場所に位置している。すなわち、木部20は、デッキプレート10の長手方向端部近傍において、支持梁Bに載置される領域以外の一部の領域にも設けられておらず、木部20のデッキプレート10の長手方向に沿った端部は、支持梁Bのフランジから間隔をあけて対向した状態となっている。したがって、木部20のデッキプレート10の長手方向に沿った長さは、デッキプレート10が架け渡される支持梁B間の距離よりも短くなるように形成されている。これにより、木部20のデッキプレート10の長手方向に沿った端部から支持梁Bのフランジまでの間においては、デッキプレート本体部10aは木部20に覆われておらず、デッキプレート本体部10aの下面が室内に露出した状態となっていてもよい。
例えば、乾式屋根1の下面(木部20を設けた側)において、間仕切り壁(壁材)や梁の意匠仕上げがある場合などは、他の仕上げ部材が取り付けられる領域の乾式屋根1を補強しておき、当該領域に木部20を設けないようにして、当該領域以外の領域を木部20で覆えばよいし、仕上げなどの干渉物が無い場合は、全ての領域を木部20で覆ってもよい。なお、補強を行わなくても、例えば周辺の木部20の効果などにより所定の耐火性能を有する場合は、補強されていない範囲についても木部20を設けないことができる。
【0037】
ここで、乾式屋根1の補強領域に対する木部20でデッキプレート本体部10aの下面を被覆しない範囲について説明する。木部20で被覆しない範囲は、補強の度合いによって変わる。ここでは、支持梁B付近の補強を対象とした場合の例を示す。
乾式屋根1の支持梁B近傍に補強をしていない場合、支持梁Bのフランジから木部20の端部までの距離(デッキプレート本体部10aの露出長さ)は、例えば、0~150mmの範囲とすることが好ましい。
また、乾式屋根1の支持梁B近傍に補強が行われている場合、乾式屋根1の短手方向の長さをLxとすると、支持梁Bのフランジから木部20の端部までの距離(デッキプレート本体部10aの露出長さ)は、例えば、150~(Lx/4)/2mmの範囲とすることが好ましい。具体的には、乾式屋根1の短手方向の長さLxが3600mmの場合、支持梁Bのフランジから木部20の端部までの距離(デッキプレート本体部10aの露出長さ)は、150~450mm(簡便に150~500mm程度)の範囲となる。
また、乾式屋根1の支持梁B近傍に比較的大きな補強が行われている場合、乾式屋根1の短手方向の長さをLxとすると、支持梁Bのフランジから木部20の端部までの距離(デッキプレート本体部10aの露出長さ)は、例えば、450~(Lx/4)mmの範囲とすることが好ましい。具体的には、乾式屋根1の短手方向の長さLxが3600mmの場合、支持梁Bのフランジから木部20の端部までの距離(デッキプレート本体部10aの露出長さ)は、450~900mm(簡便に500~1000mm程度)の範囲となる。
【0038】
(野地部)
野地部40は、乾式屋根1の耐火性及び遮音性、断熱性を向上させ、また、乾式屋根の施工時やメンテナンス等で屋根の上を歩行する場合に断熱部50の割れなどによる損傷を防止できるものであり、支持梁Bに配置されたデッキプレート10の上面に設けられている。野地部40は、固定部70の他にデッキプレート10に固定されていてもよいし、されていなくてもよい。
野地部40は、例えば、硬質木毛セメント板から形成されている。木毛セメント板には、普通木毛セメント板、中質木毛セメント板、硬質木毛セメント板の3種類(JIS A 5404「木質系セメント板」)があるが、板の含水率の規定値は、多くのメーカーで20%以下(出荷時)としている。このため、「かさ密度」が大きい硬質木毛セメント板の含水量は、3種の中で最大となる。
乾式屋根1の野地部40として硬質木毛セメント板を使用すると、含水量が多いことから、火災時の屋根構造内の温度上昇を遅らせ、温度上昇率を抑制し、他の種類の木毛セメント板(中質、普通)を用いる場合と比べて屋根内部の温度を下げることができる。このため木毛セメント板の軟化・炭化・収縮を遅らせことができる。
また、上部への熱の伝達を遅らせ、断熱材が軟化・炭化・収縮して面剛性が低下することによる屋根のたわみ増大や断熱材の発炎を抑制することができるため、屋根の耐火性能が向上する。さらに、性能評価の屋根の「耐火性能試験」の合格判定においても有効である。野地部40を硬質木毛セメント板とすることによって、遮音性、施工性および断熱性能の向上を図ることができる。
また、野地部40として木毛セメント板を用いることにより、遮音性は向上し、なかでも硬質木毛セメント板は、普通木毛セメント板、中質木毛セメント板よりも遮音効果が高い。
また、野地部40として硬質木毛セメント板を用いることにより、石膏ボードや普通コンクリートよりも断熱性能を高めることができる。
また、野地部40として硬質木毛セメント板を用いることにより、施工時の断熱部50の踏み抜きや割れが解消されるので、施工性の向上を図ることができる。
なお、硬質木毛セメント板に代えて、硬質木片セメント板を用いてもよい。
【0039】
(断熱部)
断熱部50は、乾式屋根1の断熱性を向上させるためのものであり、野地部40の上面に設けられている。
図1に示すように、断熱部50は、例えば、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリウレタンフォームまたはフェノールフォーム等の有機系断熱板から形成されている。例えば、断熱部50は、例えば厚さが0より大きく2000mmの範囲内で形成されている。断熱部50は、150mmの厚さを有する一枚の断熱板を用いてもよいし、50mmの厚さを有する断熱板を三枚重ねて用いてもよい。
【0040】
(防水部)
防水部60は、乾式屋根1内部への雨水等の進入を防止するものであり、断熱部50の上面に設けられている。
図1に示すように、防水部60は、アスファルト防水工法、改良アスファルトシート防水工法、塩化ビニル樹脂系シート防水工法、ゴム系シート防水工法、または塗膜防水工法などを用いたものから形成されている。防水部60は、断熱部50の上面を隙間なく完全に覆うように配置されている。
【0041】
(固定部)
固定部70は、野地部40、断熱部50及び防水部60をデッキプレート本体部10aに固定するものであり、例えば、ビスから形成されている。図1図4に示すように、固定部70は、デッキプレート10の上面に野地部40、断熱部50、防水部60の順に重ねた後、防水部60の上からその面方向に直交する方向に沿って、固定ディスク71を介して先端を防水部60、断熱部50、野地部40、デッキプレート本体部10aの山部11に貫通させ、木部20に係止されている。すなわち、固定部70により、デッキプレート10(デッキプレート本体部10a及び木部20)、野地部40、断熱部50、防水部60が一体に連結され、固定された状態となっている。なお、固定部70はデッキプレート10に固定されていれば木部20に固定されていなくてもよいし、野地部40に固定されていれば、デッキプレート10や木部20に固定されていなくてもよい。
【0042】
以上のようなデッキプレート10及び乾式屋根1によれば、火災時の加熱に対して木材が炭化により消失するまでは被覆効果を発揮する性質を利用し、デッキプレート10の下面に木部20を設けることで、デッキプレート10及び乾式屋根1の耐火性能(非損傷性、遮炎性)を高めることができる。また、木部20を構成する木材の材質に基づく炭化速度と乾式屋根1に付加したい耐火時間とに基づいて木部20の厚さを決めることができるので、木部20を最適な厚さに構成することができ、耐火性能に過不足が生じることもなく、最適な機能とコストの選択が可能となる。すなわち、木部20を最適な厚さとすることで、木部20を火災の熱で完全に燃焼させることができ、木部20が燃え尽きる前に木部20の加熱が終わることがなく、火災の鎮火後に木部20が燃え草となって燃焼が継続することもない。また、木部20の厚さを調節するだけで乾式屋根1の耐火性能(耐火時間)を簡単に調節することができる。
ここで、デッキプレート本体部10aは、木部20を設けていない無被覆状態でも、設計基準上30分の耐火性能を有している。そのため、木部20を有するデッキプレート10の耐火時間が30分でよいのであれば、木部20によって向上した耐火性能によって支持梁Bに架け渡されるデッキプレート10の許容スパンを増やすことができ、設計の自由度を高めることができる。また、デッキプレート10の耐火性能の向上により、デッキプレート本体部10aの薄肉化、デッキ山高さ(谷部13から山部11までの高さ)の低減が可能となる。なお、木部20による補強効果は耐火性能だけに限定されるものではなく、構造性能としても鉛直荷重または水平荷重に対する耐力の向上が期待できるため、許容スパンの増加やデッキプレートの仕様低減、あるいは、水平荷重を負担するブレース材の省略など様々なメリットを得ることができる。例えば、面内剪断力の向上について、デッキプレートは、地震や風による面内剪断力を負担する機能を有するが、木部20があることでその機能を向上させることができるため、デッキプレートや、その相互接合などの構成をそのままに耐力を向上させることができる。一方で木部20がないデッキプレートと同程度の性能が必要な場合、木部20があることで、デッキプレートやその構成、例えばデッキプレートの高さや板厚、その相互の接合、および、水平ブレース材などを適切に省略もしくは簡略化できたり、スラブのスパンや荷重を増加することができる。
その他のメリットとは例えば構造性能の向上であり、デッキプレートの施工時やデッキ構造スラブの完成時における鉛直荷重の支持機能を、木部20があることで向上させることができる。一方で木部20がないデッキプレートやデッキ構造スラブと同程度の性能が必要な場合、木部20があることで、デッキプレートやデッキ構造スラブの構成、例えばデッキプレートの高さや板厚、梁・母屋との接合仕様などを簡略化できたり、スパンや荷重を増加することができる。
また、デッキプレート10は、木部20を取り付けることによりコストアップとなるものの、デッキプレート10の耐火性能の向上による各種合理化や施工省力化により、先のコストアップ以上のコストダウンを図ることができる。
【0043】
例えば、乾式屋根1において支持梁B近傍のみ補強した場合、補強されていない乾式屋根1の中央が弱点となる。ここで、デッキプレート10の下面全域に耐火被覆(木部20)を設けると、弱点は乾式屋根1の中央のままであるが、補強が行われる支持梁B近傍のみ敢えて被覆をしなければ、耐火上の弱点は支持梁B近傍となる。
そこで、乾式屋根1に施す補強の仕様に応じて、支持梁Bのフランジから所定の長さだけ木部20を設けずにデッキプレート本体部10aの下面を露出させる。これにより、火災時において、仕上げ部材(化粧材)が焼失すると、支持梁B近傍の木部20がない部分は、デッキプレート本体部10aが集中的に加熱されるため熱伸びによる座屈などが発生するが、補強が施されているため、乾式屋根1としての構造強度低下を最小限に抑えることができる。
木部20の消失後も、座屈した当該箇所に熱伸びが更に集中し、その伸びを吸収できる。すなわち、デッキプレート10が集中的に加熱された箇所においては、余計な付加力であるデッキプレート10の熱伸びを、他の領域へ損傷を与えることなく、吸収することができるので、木部20が設けられていたデッキプレート10の領域では熱伸びは発生せず、広範囲の当該領域は熱伸びによる損傷を受けない。
【0044】
このように、例えば支持梁B近傍を敢えて乾式屋根1の弱点としても、支持梁B近傍に補強を行えば、即座に乾式屋根1の崩壊に繋がるような弱点とはなり得ない。また、設計条件によっては、補強がなくとも支持梁B近傍が即座に崩壊するようなことは起こり得ない。つまり、支持梁B近傍のデッキプレート本体部10aを敢えて被覆しないことで、支持梁B近傍にデッキプレート10の熱伸びを集中させることができる。そして、火災が進行し、全ての木部20が燃え尽きた後、通常の乾式屋根と同様にデッキプレート10全面が加熱されるが、その時は既に座屈している支持梁B近傍のデッキプレート10が熱伸びを吸収するため、乾式屋根1の広範囲に渡って損傷を与えることはない。
よって、乾式屋根1によれば、通常の乾式屋根1の中央近傍で蓄積されるはずだったデッキプレート10の熱伸びによる損傷を強度の高い支持梁B近傍の熱伸びで解消することができ、乾式屋根1の耐火性能を格段に向上させることができる。さらに、通常の乾式屋根に施される様々な補強コスト増を、被覆範囲を必要最小限に減らすことで相殺し、減ずることが可能である。
【0045】
また、木部20は、デッキプレート本体部10aの下面を隠す意匠仕上げ材としても機能するので、デッキプレート10に木部20を設けるだけで、乾式屋根1にデッキプレート10への入熱を遮断する耐火被覆の機能と意匠仕上げの機能とを持たせることができ、デッキプレート10に施す処理を簡略化しつつも、デッキプレート10及び乾式屋根1の耐火性能の向上及び見映え向上、断熱性能の向上による結露防止、遮音性向上など居住環境の向上を図ることができる。
また、木部20による補強効果は耐火性能だけに限定されるものではなく、構造性能としても鉛直荷重または水平荷重に対する耐力の向上が期待できるため、許容スパンの増加やデッキプレートの仕様低減、あるいは、水平荷重を負担するブレース材の省略など様々なメリットを得ることができる。例えば、面内剪断力の向上について、デッキプレートは、地震や風による面内剪断力を負担する機能を有するが、木部20があることでその機能を向上させることができるため、デッキプレートや、その相互接合などの構成をそのままに耐力を向上させることができる。一方で木部20がないデッキプレートと同程度の性能が必要な場合、木部20があることで、デッキプレートやその構成、例えばデッキプレートの高さや板厚、その相互の接合、および、水平ブレース材などを適切に省略もしくは簡略化できたり、スラブのスパンや荷重を増加することができる。
その他のメリットとは例えば構造性能の向上であり、デッキプレートの施工時やデッキ構造スラブの完成時における鉛直荷重の支持機能を、木部20があることで向上させることができる。一方で木部20がないデッキプレートやデッキ構造スラブと同程度の性能が必要な場合、木部20があることで、デッキプレートやデッキ構造スラブの構成、例えばデッキプレートの高さや板厚、梁・母屋との接合仕様などを簡略化できたり、スパンや荷重を増加することができる。 また、デッキプレート本体部10aの谷部13に木部20をプレキャストしておくだけで、デッキプレート10の意匠仕上げと耐火性能の付加とを行うことができるので、現場で支持梁Bにデッキプレート10を設置するだけで乾式屋根1の下地工事と天井仕上げをまとめて同時に行うことができるため、現場施工も省力化でき工事費を低減することができる。
また、木部20に所定時間の耐火性能を付加する耐火処理を施すことで、求められる耐火性能に必要な木部20の厚さを薄くすることができる。
また、乾式屋根1に所定時間の耐火性能を持たせることで、求められる耐火性能に必要な木部20の厚さを薄くすることができる。
また、デッキプレート本体部10aの下面と木部20との間に空間S1,S2が形成されているので、乾式屋根1に空気層を形成することができ、断熱性を高めることで乾式屋根1の上面側(屋根裏側)への熱の伝達を抑制することができる。また断熱性能が向上するため上面側の断熱部の軽減等によりコストを低減することができる。これにより、建物外部での可燃物発火温度に到達するまでの時間を長くすることができる。
また、木部20は、デッキプレート本体部10aの山部11の下面にも設けられているので、図8に示すように、デッキプレート本体部10aと野地部40と断熱部50と防水部60とを固定部70で固定する際に、木部20が固定部70のねじ切りにより発生する各部の粉塵Dの受け皿となり、室内への粉塵Dの落下を防止することができる。これにより、断熱部50等の取り付けの際の養生作業を省くことができる。また、補修工事で断熱部50を追加したり、防水部60を交換する際にも施工時の粉塵Dが室内に影響を与えることがなく、平常通り室内空間を利用することができる。
また、デッキプレート10に断熱部50等を取り付ける際に、固定部70を木部20に係止させることで、各部の取り付け強度を向上させることができ、固定部材の軽減等によりコストを低減することができる。
また、建物の大規模改修時に、要求される耐火性能が変更されていても、木部20を室内側から後付けすることができるので、施工の自由度を高めることができる。
【0046】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
例えば、乾式屋根1の中央近傍が補強されているのであれば、中央近傍を木部20で覆わないようにすればよい。要は、乾式屋根1において、補強されている領域、または、他より強度が高い領域のみを、補強の仕様に応じて所定範囲だけ木部20で覆わないことで、強度が高い領域を耐火上の弱点とするように構成するとよい。
また、補強の仕様も上記の仕様に限らず、各仕様に応じて、あるいは補強せずとも設計上の機能を満足している場合などは、デッキプレート本体部10aの下面を木部20で覆わない範囲を設定することができる。
また、デッキプレート本体部10aに取り付けられる木部20に代えて、石膏ボード等の耐火性能を有する耐火部材を設けてもよい。この場合、石膏ボードには、予め意匠仕上げを施していることが好ましい。
【0047】
また、図9図10に示すように、デッキプレート10に架台基礎200を取り付ける場合においても、架台基礎200の固定部材210をデッキプレート10の木部20にも係止することで架台基礎200の取り付け強度を向上することができる。ここで、架台基礎200は、デッキプレート10に取り付けられて、例えば、太陽光発電設備、水加熱をするための温水ユニット、エアコンの室外ユニット等の機器、その他看板等を含む設備を建築物の屋根に設置するための土台となるものである。架台基礎200は、デッキプレート10に取り付けられる取付板220と、設備等を連結する連結装置230とを備えている。
具体的には、図9に示すように、連結装置230をデッキプレート本体部10aの谷部13の上方に設ける場合、平板状の取付板220をデッキプレート本体部10aの隣接する山部11にわたって設け、ビス等の固定部材210を用いてデッキプレート本体部10aと木部20と取付板220とを連結する。そして、取付板220に連結装置230を立設し、ビス等で固定する。
また、図10に示すように、連結装置230をデッキプレート本体部10aの山部11の上方に設ける場合、山部11の形状に追随するように形成された板状の取付板220を一つの山部11全域から隣接する谷部13にわたって設け、ビス等の固定部材210を用いてデッキプレート本体部10aと木部20と取付板220とを連結する。そして、取付板220に連結装置230を立設し、ビス等を用いて連結装置230を取付板220に固定する。
いずれの場合においても、架台基礎200をデッキプレート本体部10aだけでなく、木部20にも連結して固定することができるので、架台基礎200の取り付け強度を向上することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 乾式屋根
10 デッキプレート
10a デッキプレート本体部
11 山部
12 溝
13 谷部
14 凸部
15 傾斜部
16 係合部
17 膨出部
18 溝
20 木部
40 野地部
50 断熱部
60 防水部
70 固定部
S1,S2 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10