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特開2024-168385窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受
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  • 特開-窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168385
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/591 20060101AFI20241128BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20241128BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C04B35/591
F16C33/32
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084994
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】中村 文耶
(72)【発明者】
【氏名】早川 康武
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701BA10
3J701EA44
3J701FA31
3J701GA01
3J701GA21
(57)【要約】
【課題】加工性と良好な機械特性を両立した窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素焼結体は、ビッカース硬度が1220Hv以上1400Hv以下であり、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部の空孔の最大径が30μm以下であり、結晶化度が75%以上90%以下であり、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、希土類元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、アルミニウム元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素焼結体であって、
ビッカース硬度が1220Hv以上1400Hv以下であり、前記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部の空孔の最大径が30μm以下であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項2】
前記窒化ケイ素焼結体は、結晶化度が75%以上90%以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項3】
前記窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、
前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項4】
前記希土類元素および前記アルミニウム元素の含有量の合計が、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で15重量%以上26重量%以下であることを特徴とする請求項3記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項5】
前記希土類元素は、Y、Ce、Nd、およびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項3記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項6】
前記窒化ケイ素焼結体は、ビッカース硬度が1250Hv以上1320Hv以下であり、結晶化度が75%以上85%以下であり、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、かつ、遷移金属元素を含まず、
前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で7.5重量%以上13重量%以下であり、前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で7.5重量%以上13重量%以下であり、前記希土類元素および前記アルミニウム元素の含有量の合計が、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で15重量%以上26重量%以下であり、前記希土類元素は、YまたはCeであることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体を用いたことを特徴とする機械部品。
【請求項8】
前記機械部品は、転動体であることを特徴とする請求項7記載の機械部品。
【請求項9】
請求項8記載の転動体を用いたことを特徴とする軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素(Si)焼結体は、優れた機械特性、熱伝導性、および電気絶縁性を有することから、ベアリング部材、エンジン部品、工具材料、および放熱基板材料などへの適用が進められている。窒化ケイ素焼結体は窒化ケイ素粉末を出発原料として用いて製造することが知られている。窒化ケイ素粉末は難焼結性であるため、緻密化した窒化ケイ素焼結体を製造するためには、窒化ケイ素粉末とともに焼結助剤が用いられる。このような焼結助剤として、一般的には希土類元素の酸化物、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化シリコンなどが挙げられる。
【0003】
窒化ケイ素粉末は価格が高いため、窒化ケイ素粉末を用いて窒化ケイ素焼結体を製造すると、窒化ケイ素焼結体の価格も上昇する傾向にある。そこで、窒化ケイ素粉末に比較して低価格であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)を出発原料として用い、これを反応焼結させることにより窒化ケイ素焼結体を製造する製造方法が注目されている(例えば、特許文献1~3)。このような製造方法として、PS-RBSN(Post-Sintering of Reaction Bonded Silicon-Nitride)法と称される方法が知られている。PS-RBSN法は、窒素ガスを含む環境下において、例えば温度1100℃~1450℃付近で熱処理することによりケイ素粉末を成形した圧粉体を窒化させる第1工程と、第1工程で得られた窒化体を、例えば温度1600℃~1950℃付近で熱処理することにより緻密化する第2工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-149328号公報
【特許文献2】特開2008-247716号公報
【特許文献3】特開2013-49595号公報
【特許文献4】特開2021-95317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、窒化ケイ素焼結体は、機械特性に優れる反面、硬度が非常に高いため(一般的な窒化ケイ素焼結体のビッカース硬度は1400~1500Hv程度)、難加工性である。そのため、加工にかかる時間が長くなり、その結果、コストも高くなるおそれがある。一方で、加工性を向上するべく硬度を下げると、耐摩耗特性も下がる(特許文献4参照)ため、窒化ケイ素焼結体を軸受部材などに使用すると、製品寿命の低下などに繋がるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、加工性と良好な機械特性を両立した窒化ケイ素焼結体、それを用いた機械部品、および軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、ビッカース硬度が1220Hv以上1400Hv以下であり、上記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部の空孔の最大径が30μm以下であることを特徴とする。なお、上記窒化ケイ素焼結体は、表層部に空孔を有さない形態も包含するものである。
【0008】
上記窒化ケイ素焼結体は、結晶化度が75%以上90%以下であることを特徴とする。
【0009】
上記窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、上記希土類元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、上記アルミニウム元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であることを特徴とする。
【0010】
上記希土類元素および上記アルミニウム元素の含有量の合計が、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で15重量%以上26重量%以下であることを特徴とする。
【0011】
上記希土類元素は、Y、Ce、Nd、およびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする。
【0012】
上記窒化ケイ素焼結体は、ビッカース硬度が1250Hv以上1320Hv以下であり、結晶化度が75%以上85%以下であり、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、かつ、遷移金属元素を含まず、上記希土類元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で7.5重量%以上13重量%以下であり、上記アルミニウム元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で7.5重量%以上13重量%以下であり、上記希土類元素および上記アルミニウム元素の含有量の合計が、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で15重量%以上26重量%以下であり、上記希土類元素は、YまたはCeであることを特徴とする。
【0013】
本発明の機械部品は、本発明の窒化ケイ素焼結体を用いたことを特徴とする。また、上記機械部品は、転動体であることを特徴とする。
【0014】
本発明の軸受は、上記転動体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒化ケイ素焼結体のビッカース硬度を低硬度にしながらも、空孔の最大径(更には結晶化度)を規定することで、加工性と良好な機械特性を両立でき、例えば、軸受部材などの製品に加工した場合に良好な製品寿命を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の軸受の一例を示す縦断面図である。
図2】本発明の軸受の他の例を示す縦断面図である。
図3】本発明の軸受の他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(窒化ケイ素焼結体)
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素の結晶質相を主体とし、焼結助剤などからなるガラス相(非結晶質相)を適量含む。なお、焼結助剤などについては後述する。
【0018】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、ビッカース硬度が1220Hv以上1400Hv以下である。ビッカース硬度を1400Hv以下とし、通常の窒化ケイ素焼結体よりも低硬度にすることで、加工性を向上させている。また、1220Hv以上とすることで、耐摩耗性などの機械特性を確保している。
【0019】
本発明において、ビッカース硬度は、1250Hv以上であることが好ましく、1280Hv以上であってもよい。また、加工性の観点からは、1350Hv以下であることが好ましく、1320Hv以下であってもよい。なお、ビッカース硬度は、後述する実施例の方法によって測定される。
【0020】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、表面から2mm以内の領域である表層部の空孔の最大径が30μm以下である。空孔の最大径は、25μm以下であってもよく、また本実施形態において空孔を有していなくてもよい。空孔の最大径が30μm以下であることにより、低硬度としつつも、機械特性を維持でき、窒化ケイ素焼結体を軸受の転動体などの製品に加工した場合に、良好な製品寿命を得ることができる。表層部における空孔は、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に存在するものをいい、表層部に空孔全体が存在するものをいうものとする。表層部における空孔の最大径は、表層部に存在する空孔のうちの径が最大である空孔の径をいう。空孔の最大径は、窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料として用いる母材(窒化ケイ素またはケイ素)の含有量および/または焼結助剤の添加量を調整することによって調整することができる。
【0021】
空孔の最大径は、後述する実施例に記載の方法によって作製した試験片の断面において、表層部に全体が存在する空孔について測定した値である。空孔の最大径は、後述する実施例に記載の方法によって算出することができる。
【0022】
また、窒化ケイ素焼結体は、表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)を有していてもよい。介在物(I)は、窒化ケイ素以外の成分を含むものであり、例えば遷移金属元素を含む介在物(It)、窒化されていないケイ素元素を含む介在物(Is)などが挙げられる。介在物(It)は、例えば窒化ケイ素焼結体の製造時に用いた遷移金属元素を含む焼結助剤(通常、遷移金属元素の酸化物)に由来するものであり、例えば遷移金属元素のケイ化物である。介在物(Is)は、例えば窒化されていないケイ素元素の凝集体であり、介在物(Is)は含まれないか、その存在割合が少ないことが好ましい。介在物は、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に全体が存在するものをいう。
【0023】
窒化ケイ素焼結体は、遷移金属元素を含まないことが好ましい。つまりこの場合、窒化ケイ素焼結体は、介在物(It)を有さない。遷移金属元素は、IUPAC周期表の第3属から第11属までの間に含まれる元素であり、例えばFe、Ti、Cr、Mnなどが挙げられる。
【0024】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、結晶化度が75%以上90%以下であることが好ましい。ここで、窒化ケイ素焼結体の結晶化度は、窒化ケイ素焼結体を構成する全成分中における結晶質相の比率を意味し、上記結晶化度は、窒化ケイ素焼結体を鏡面研磨した切断面のXRD回析パターンに基づき、以下の式から求められる。
結晶化度(%)=結晶質のピーク面積/(結晶質のピーク面積+非結晶質のピーク面積)×100
【0025】
窒化ケイ素焼結体の結晶化度は、具体的には、「XRD回析パターンにおける結晶質窒化ケイ素およびその他の結晶質成分のピーク面積」/「XRD回析パターンにおける焼結体を構成する全成分の各ピーク面積の総和」である。ここで、結晶質窒化ケイ素は、α型、β型、またはγ型の結晶構造を有する結晶質窒化ケイ素である。また、焼結体を構成する全成分は、例えば、ケイ素、窒化ケイ素、窒化ケイ素を製造する際の熱処理時に焼結を促進する焼結助剤由来成分などである。
【0026】
窒化ケイ素焼結体が、例えば、PS-RBSN法(2段階焼結法)により、ケイ素粉末と焼結助剤とを用いて製造される場合、所定の条件下では、焼結助剤は焼結体中の非結晶質相の主成分となる。PS-RBSN法は、ケイ素の窒化工程と、その後の焼結工程とを含む2段階焼結法をいう。例えば、PS-RBSN法によりケイ素粉末と焼結助剤とからなる圧粉体を窒素雰囲気中で熱処理し、ケイ素が完全に窒化され、焼結助剤のすべてが非晶質化した場合、上記結晶化度は、「XRD回析パターンにおける結晶質窒化ケイ素のピーク面積」/「XRD回析パターンにおける焼結体を構成する全成分の各ピーク面積の総和」である。また、ケイ素が完全に窒化され、焼結助剤の一部が結晶質化した場合、上記結晶化度は、「XRD回析パターンにおける結晶質窒化ケイ素および焼結助剤由来の結晶質成分のピーク面積」/「XRD回析パターンにおける焼結体を構成する全成分の各ピーク面積の総和」である。
【0027】
窒化ケイ素焼結体の原料としては、窒化ケイ素粉末のみを用いてもよいし、ケイ素粉末を用いてもよいし、ケイ素粉末および焼結助剤を用いてもよい。なお、窒化ケイ素焼結体の原料および製造方法は、窒化ケイ素焼結体が得られれば、どのような原料を用いてもよく、製造方法もPS-RBSN法に限定されない。また、熱処理の際に使用する雰囲気ガスも、窒素ガスを用いてもよいし、窒素ガスと水素ガスやアルゴンガスの混合ガスを用いてもよい。
【0028】
窒化ケイ素焼結体の結晶化度は、78%以上であってもよく、81%以上であってもよい。また、上記結晶化度は、87%以下であってもよく、85%以下であってもよい。窒化ケイ素焼結体の結晶化度が75%以上90%以下の範囲内であることにより、低硬度としつつも、機械特性を維持しやすく、窒化ケイ素焼結体を軸受の転動体などの製品に加工した場合に、良好な製品寿命を得やすい。
【0029】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素および/またはアルミニウム元素を含むことができる。窒化ケイ素焼結体が希土類元素を含む場合、希土類元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であることが好ましい。また、窒化ケイ素焼結体がアルミニウム元素を含む場合、アルミニウム元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であることが好ましい。
【0030】
希土類元素としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、ユウロピウム(Eu)、エルビウム(Er)などが挙げられる。このうち、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、ユウロピウム(Eu)が好ましい。
【0031】
窒化ケイ素焼結体は、非結晶質相に、希土類元素を含むことが好ましく、Y、Ce、Nd、およびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。なお、窒化ケイ素焼結体は、結晶質相に希土類元素を含んでもよい。
【0032】
希土類元素の上記含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6.5重量%以上であることがより好ましく、7.0重量%以上であってもよく、7.5重量%以上であってもよい。希土類元素の上記含有量は、12.5重量%以下であることがより好ましく、11.5重量%以下であってもよく、10.5重量%以下であってもよい。
【0033】
アルミニウム元素の上記含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6.5重量%以上であることがより好ましく、7.0重量%以上であってもよく、7.5重量%以上であってもよい。アルミニウム元素の上記含有量は、12.5重量%以下であることがより好ましく、11.5重量%以下であってもよく、10.5重量%以下であってもよい。窒化ケイ素焼結体が、希土類元素およびアルミニウム元素を含む場合、アルミニウム元素の含有量(酸化物換算)は、希土類元素の含有量(酸化物換算)の±5重量%以内であってもよく、±2重量%以内であってもよく、±1重量%以内であってもよく、希土類元素の含有量と同じであってもよい。
【0034】
窒化ケイ素焼結体中の希土類元素およびアルミニウム元素の含有量が上記の範囲内であることにより、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)の窒化反応を促進し、その後の焼結を促進することができ、窒化ケイ素焼結体のビッカース硬度、空孔の最大径、さらには結晶化度を所望の範囲にしやすい。希土類元素、アルミニウム元素の含有量は、原料に添加する希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)、アルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の添加量によって調整することができる。
【0035】
また、希土類元素およびアルミニウム元素の含有量の合計が、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で15重量%以上26重量%以下であることが好ましい。
【0036】
希土類元素およびアルミニウム元素の上記含有量は、蛍光X線分析装置(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、または高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて決定すればよい。具体的には、上記分析装置により、窒化ケイ素焼結体中の希土類元素およびアルミニウム元素の含有量を求め、希土類元素(RE)の酸化物(REまたはREO)および酸化アルミニウム(Al)に換算すればよい。窒化ケイ素焼結体を構成する他の成分の元素についても上記分析装置を用いて分析し、窒化ケイ素焼結体の総重量を算出して、希土類元素およびアルミニウム元素の上記含有量を決定すればよい。窒化ケイ素焼結体を製造するために用いる原料粉末にケイ素(金属シリコン粉末)が含まれ、当該ケイ素が窒化によりSiとなる場合、窒化ケイ素焼結体におけるSiの重量はケイ素の重量の1.67倍となる。したがって、ケイ素が窒化されたときの重量変化を考慮すれば、原料粉末の組成から希土類元素の酸化物および酸化アルミニウムの含有量を算出することができる。
【0037】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の特に好ましい形態は、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、かつ、遷移金属元素を含まない窒化ケイ素焼結体であって、ビッカース硬度が1250Hv以上1320Hv以下であり、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部の空孔の最大径が30μm以下であり、結晶化度が75%以上85%以下であり、非結晶質相にY、Ce、Nd、およびEuからなる群より選ばれる1種以上を含み、希土類元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、アルミニウム元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下である。さらに、希土類元素およびアルミニウム元素の含有量の合計が、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で15重量%以上26重量%以下であることが好ましい。また、上記形態に対して、上述した数値範囲などを適宜組み合わせることができる。
【0038】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の形状は特に限定されず、球状、円柱形状、円錐形状、円錐台形状、直方体形状など、用途によって適宜選択すればよいが、球状であることが好ましい。窒化ケイ素焼結体のサイズも特に限定されず、例えば、球状であれば直径を0.5cm~10cmとすることができ、円柱形状であれば底面の直径を0.5cm~15cmとし、高さを3cm~20cmとすることができる。
【0039】
(窒化ケイ素焼結体の製造)
一般的に窒化ケイ素焼結体を製造する方法は、窒化ケイ素粉末またはケイ素粉末と焼結助剤とを含む原料粉末を混合する混合工程と、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを含む。なお、焼結工程後、必要に応じて窒化ケイ素焼結体に対して研磨などを行ってもよい。なお、本発明における窒化ケイ素焼結体は、原料にケイ素粉末を含み、焼結工程にPS-RBSN法(2段階焼結法)を用いることが好ましい。
【0040】
混合工程では、例えば、原料粉末を水および有機溶媒を使用せずに乾式で混合する。この場合、バインダ成分を用いずに混合することが好ましい。混合後の粉末の粒径は、特に限定されないが、D90が10μm以上100μm以下であることが好ましい。また、D50が2μm以上10μm以下であることが好ましい。D90および/またはD50が上記の範囲内であることにより、良好な流動性および成形性を発揮させつつ、緻密な窒化ケイ素焼結体を得ることができる。なお、D50およびD90は、それぞれ体積基準の累積50%径および累積90%径であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定などによって得られる。
【0041】
なお、混合工程で湿式造粒を行い、混合物として造粒粉を得るようにしてもよい。この場合、原料粉末とバインダ成分を、水および/または有機溶媒(例えばエタノール)で混合してスラリー化し、それをスプレードライなどで噴霧造粒乾燥することで造粒粉を得ることができる。バインダ成分には有機バインダなどが用いられ、原料粉末全体に対して、例えば1重量%~10重量%添加される。
【0042】
成形工程では、混合工程で得られた混合物を所定の形状に成形して圧粉体を得る。例えば、球状の場合、冷間等圧加圧法などのプレス成形を行って球状の圧粉体とした後、その圧粉体をグリーン加工装置で加工することでグリーン球が得られる。
【0043】
焼結工程は、例えば、得られた圧粉体を、窒素雰囲気中にて、例えば800℃~1200℃の範囲内の温度から焼結温度まで、所定の昇温速度で昇温した後、所定時間(例えば5時間~8時間)保持して熱処理することにより焼結させる工程である。焼結温度で焼結させる前において、所定の温度で温度保持せずに昇温させていくことで、製造効率の向上を図ることができる。上記昇温速度は、例えば2.0℃/min以上10℃/min未満であり、2.0℃/min以上5.0℃/min未満が好ましく、2.0℃/min以上4.0℃/min以下であってもよい。焼結温度は、例えば1600℃~1950℃であり、好ましくは1600℃~1800℃であり、より好ましくは1650℃~1750℃である。比較的緩やかに昇温させ、ケイ素の窒化速度を制御することで、焼結体を緻密化させやすく、表面の低硬度化を図りながら、表層部に存在する空孔の最大径を小さくしやすくなる。また、結晶化度についても所望の範囲にしやすくなる。
【0044】
上記の窒化ケイ素焼結体の製造において、原料粉末に用いる焼結助剤としては、希土類元素、アルミニウム元素、遷移金属元素を含むものを用いることができる。希土類元素を含む焼結助剤としては、Y、CeO、Nd、およびEuのうちのいずれかを含むことが好ましい。アルミニウム元素を含む焼結助剤としては、Alを含むことが好ましい。また、遷移金属元素を含む焼結助剤としては、Cr、TiO、MnO、Feなどが挙げられる。
【0045】
原料粉末は、ケイ素粉末および焼結助剤以外に、窒化ケイ素粉末および/または有機バインダを含んでいてもよく、希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素以外の元素を含む焼結助剤を含んでいてもよい。
【0046】
原料粉末に含まれるケイ素粉末の含有量は、ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、および焼結助剤の総重量に対して、65重量%以上であることが好ましく、67重量%以上であることがより好ましく、69重量%以上であることがさらに好ましく、71重量%以上であってもよく、80重量%以下であることが好ましく、78重量%以下であってもよく、76重量%以下であってもよい。原料粉末は窒化ケイ素粉末を含んでいてもよく、窒化ケイ素粉末を含んでいなくてもよい。
【0047】
原料粉末に含まれる希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)の含有量は、上記総重量に対して、10重量%以上であることが好ましく、11重量%以上であることがより好ましく、12重量%以上であることがさらに好ましく、13重量%以上であってもよい。希土類元素の上記含有量は、17.5重量%以下であってもよく、16.5重量%以下であってもよく、15.5重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれるアルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の含有量は、上記総重量に対して、10重量%以上であることが好ましく、11重量%以上であることがより好ましく、12重量%以上であることがさらに好ましく、13重量%以上であってもよい。アルミニウム元素の上記含有量は、17.5重量%以下であってもよく、16.5重量%以下であってもよく、15.5重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれる焼結助剤の含有量が少ないと緻密な窒化ケイ素焼結体が得られにくく、焼結助剤の含有量が多いと窒化ケイ素焼結体の機械特性が低下しやすい。
【0048】
原料粉末に含まれるケイ素粉末の平均粒径は、例えば5μm以下とすることができる。窒化ケイ素を含む場合、その平均粒径は、例えば0.5μm以下とすることができる。焼結助剤の平均粒径は、焼結助剤の種類にもよるが、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であってよく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよく、2μm以下であってよく、1μm以下であってもよく、0.4μm以下であってもよい。なお、平均粒径は、体積基準の累積50%径であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定などによって得られる。
【0049】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体を製造する方法は、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を混合する混合工程と、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを有し、上記焼結工程は、窒素雰囲気中にて、焼結温度まで所定の昇温速度で昇温した後、その焼結温度で所定時間保持して熱処理する工程であり、上記昇温速度が2.0℃/min以上5.0℃/min未満であることが好ましい。また、上記焼結温度は、1600℃~1800℃であることがより好ましい。また、上記焼結助剤は、希土類酸化物と酸化アルミニウムを含み、かつ、遷移金属酸化物は含まず、上記原料粉末は、上記希土類酸化物を上記原料粉末全体に対して9.5重量%以上17重量%以下含み、上記酸化アルミニウムを上記原料粉末全体に対して9.5重量%以上17重量%以下含むことが好ましい。また、上記方法に対して、上述した数値範囲などを適宜組み合わせることができる。
【0050】
(窒化ケイ素焼結体の用途)
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の用途は特に限定されないが、機械特性などに優れることから、機械部品として用いられることが好ましい。機械部品は、例えば、転がり部位や滑り部位に使用される。本発明の機械部品は、本発明の窒化ケイ素焼結体を構成の一部または全部に用いた部品である。機械部品としては、例えば、摺動部材、軸受部材、圧延用ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼などのエンジン部品、切削工具(チップ)などが挙げられる。軸受部材としては、例えば、内外輪などの軌道輪、軸受用転動体、保持器などが挙げられる。本発明の軸受は、この機械部品を軸受部材の一部または全部として備える軸受であり、例えば、転がり軸受、滑り軸受(球面ブッシュなど)、直動案内軸受、ボールねじ、直動ベアリングなどが挙げられる。特に、本発明の軸受としては、上記窒化ケイ素焼結体を軸受用転動体に用いた転がり軸受であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の軸受の一例について図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面2aを有する内輪2と内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に複数個の玉(転動体)4が配置される。これら玉4が、上述した窒化ケイ素焼結体で形成されている。玉4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも玉4の周囲にグリース組成物7が封入される。グリース組成物7が玉4との軌道面に介在して潤滑される。なお、転がり軸受の軸受形式は、深溝玉軸受に限定されず、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受などでもよい。
【0052】
本実施形態の軸受の他の例について図2に基づいて説明する。図2は、ボールねじを示す断面図である。図2に示すように、ボールねじは、案内部材であるねじ軸11の外周面に形成したねじ溝12と、ボールナット13の内周面に形成したねじ溝14の間に複数のボール15を介在させたものであり、ねじ軸11(またはボールナット13)の回転動力をボール15を介してボールナット13(またはねじ軸11)に伝達し、ボールナット13を軸方向に移動させるものである。図2において、ボール15が、上述した窒化ケイ素焼結体で形成され、ねじ軸11およびボールナット13が鋼(例えば、軸受鋼や低炭素鋼など)で形成されている。また、ねじ軸11とボールナット13との間でボール15の周囲にグリース組成物が封入され、ボールねじ用シール部材16によってシールされている。
【0053】
図2に示すボールねじにおいて、ボールの循環方式は特に限定されず、チューブ式、リターンチューブ(パイプ)式、デフレクタ式、エンドデフレクタ式、エンドキャップ式、こま式などのいずれの循環方式を採用することができる。なお、いずれの循環方式でも循環路は、ボールの円滑な循環に大きく影響する。
【0054】
ボールねじは、具体的には、モーターの回転運動を直動運動に変換するものとして用いられる。例えば、電動アクチュエーター、位置決め装置用、電動ジャッキ用、サーボシリンダ用、電動サーボプレス機用、メカニカルプレス装置用、電動ブレーキ装置用、トランスミッション用、電動パワーステアリング装置用、電動射出成形機用などにおいて好適に用いることができる。
【0055】
ここで、ボールねじでは、耐摩耗性や靭性、高負荷容量などが要求される。近年では、小型化などを背景に、高荷重に耐え得る性能がより求められており、また、滑りや高荷重負荷により潤滑剤から発生する水素に起因する水素脆化の抑制なども求められている。図2の例では、ボールとして上述した窒化ケイ素焼結体を用いているので、これらの要求を満たしやすく、ボールの製品寿命にも優れる。
【0056】
また、ボールねじにおいては、ボールねじを取り付ける際に取り付け誤差などによるミスアライメントが大きいと、こじり(すなわち、ねじ軸とナットとの間の相対的な傾き)が発生するおそれがある。そして、こじりによるモーメントがボールねじに作用すると、ナット内での負荷バランスが崩れ、部分的に接触面圧の上昇する箇所が生じて、寿命が低下するおそれがある。これに対して、ボールとして上述した窒化ケイ素焼結体を用いることで、ボールの循環性能を良好にでき、寿命の低下を抑制しやすくなる。
【0057】
さらに、本実施形態の軸受の他の例について図3に基づいて説明する。図3は、球面滑り軸受の一例を示す断面図である。図3に示すように、球面滑り軸受21は、球状の外周面22bを有し、内周面22aに支持軸を貫挿できる軸受孔24が形成されている内輪22と、該外周面22bに対応する凹面23aを有する外輪23との組合せからなる。球面滑り軸受21では、内輪22および外輪23の少なくともいずれかが、上述した窒化ケイ素焼結体で形成されている。他方の部材の材質は、特に限定されず、例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、鉄鋼などの金属製や、合成樹脂製、上述した窒化ケイ素焼結体以外のセラミックス製とすることができる。
【0058】
球面滑り軸受は、滑り部が球面でラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重が負荷できる自動調心形の滑り軸受である。球面滑り軸受は、揺動運動や調心運動などに適しており、産業機械や建設機械などの関節部などに使用されている。球面滑り軸受としては、無給油式(図3参照)と給油式のいずれも採用でき、例えば給油式の場合には、内輪および外輪に油穴および油溝が設けられる。なお、球面滑り軸受の取り付けにおいて、滑り面にはグリースが塗布されてもよい。
【実施例0059】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0060】
<実施例1~7、比較例1~2>
表1に示す配合比で原料粉末を準備し、メディアとして窒化ケイ素ボールを用いて、ボールミルにより回転数200rpmで48時間乾式混合した。なお、金属シリコンの溶融を抑制し、窒化反応を進行させやすくするため、原料に用いる金属シリコンの比表面積を調整してもよい。
【0061】
【表1】
【0062】
得られた混合粉末を用いて、RIP(Rubber Isostatic Pressing)法により、直径12mmの球状の圧粉体に成形した。なお、成形時において、ゴム型のスプリングバックやゴム金型内の空気の滞留による圧粉体の割れを抑制するべく、ゴム金型の形状を調整してもよい。例えば、上下ゴム型の合わせ面に隙間を設けたりしてもよい。得られた圧粉体を、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)で、800℃から1750℃(焼結温度)まで、2.5℃/minの昇温速度で昇温した後、6時間保持して、窒化ケイ素焼結体を得た。
【0063】
得られた窒化ケイ素焼結体中の各酸化物の組成比について、原料粉末に含まれるケイ素(金属シリコン)が全て窒化され、窒化ケイ素の重量はケイ素の重量の1.67倍になるものとして、原料粉末の組成比から算出した値を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
得られた球状の窒化ケイ素焼結体を、JIS B 1563に準拠し、G5になるまで球研磨し、3/8インチ(直径9.525mm)の球状の試験片を作製した。
【0066】
<加工レートの算出>
上記研磨において、球の直径が9.625mmまでは#200のダイヤモンド定盤を用いて研磨した。その際、一時間毎に球寸法をJIS B 1501に準拠して測定し、加工レートμm/hを算出した。結果を表3に示す。
【0067】
<空孔の最大径の測定>
実施例および比較例で得た試験片を、その中心を通る断面で切断して、切断面を鏡面研磨した。鏡面研磨した切断面を、株式会社キーエンス製「VHX5000」を用いて撮影し、その撮影画像を、三谷商事株式会社製「WinRoof」を用いて解析し、球状の試験片の表面から2mm以内の範囲に相当する領域である表層部に存在する空孔の最大径を測定した。空孔の径は、空孔の包絡面積の平方根として求めた(空孔の径=√(空孔の包絡面積))。表層部に、径が30μm超の空孔が存在しないものを「A」と評価し、存在するものを「B」として評価した。空孔は、表層部に空孔の全体が存在するものを測定対象とした。結果を表3に示す。
【0068】
<ビッカース硬度の測定>
上記鏡面研磨した試験片を用いて、ビッカース硬度をJIS R 1610に準拠して測定した。
【0069】
<結晶化度の算出>
窒化ケイ素焼結体の結晶化度は、上述の鏡面研磨した切断面のXRD回析パターンに基づき、以下の式で求めた。
結晶化度(%)=結晶質のピーク面積/(結晶質のピーク面積+非結晶質のピーク面積)×100
【0070】
<転動疲労試験>
実施例および比較例で得た試験片を用い、軸受外輪、軸受内輪、および保持器としてNTN株式会社製「6206」を用いて、回転数を3000rpm、負荷荷重1.5GPa、試験時間を168時間として転動疲労試験を行い、製品寿命を評価した。潤滑油は、JXTGエネルギー株式会社製の無添加タービンオイル「VG56」を用いた。試験時間内に試験片が剥離しなかったものを「a」と評価し、剥離したものを「b」と評価した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、ビッカース硬度が1220Hv以上1400Hv以下であり、空孔の最大径が30μm以下である実施例1~7は、加工レートが良好(例えば10μm/h以上)であり、かつ、転動疲労試験の結果は、すべて「a」で剥離耐性に優れることが分かった。なお、実施例1~7の結晶化度は、75%~90%の範囲内(詳細には76%~88%)であった。実施例の結果より、本発明の窒化ケイ素焼結体は、転動体などに使用可能な機械特性を維持して良好な製品寿命を有しつつ、通常の窒化ケイ素焼結体よりも加工性を向上させることができる。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、転がり軸受、直動案内軸受、ボールねじ、直動ベアリングなどの軸受の転動体に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8a、8b 開口部
11 ねじ軸
12 ねじ溝
13 ボールナット
14 ねじ溝
15 ボール
16 ボールねじ用シール部材
21 球面滑り軸受
22 内輪
23 外輪
24 軸受孔
図1
図2
図3