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特開2024-168404車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ
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  • 特開-車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168404
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/06 20060101AFI20241128BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20241128BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20241128BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241128BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F16L11/06
C08L23/14
C08K3/10
C08K3/013
C08L53/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085038
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】岡久 正志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一朗
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111BA34
3H111CB02
3H111CB14
3H111CB29
3H111DA26
3H111DB09
3H111EA04
4J002BB122
4J002BP001
4J002DJ046
4J002FD016
4J002GN00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポリプロピレン系樹脂の結晶化を抑制することで物性および無機フィラーの分散性を両立できる車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブを提供する。
【解決手段】下記(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、(A)が75質量%以上99質量%以下、(B)が1質量%以上25質量%以下、(A)および(B)の合計100質量部に対し(C)が5質量部以上35質量部以下、(A)と(B)のメルトフローレートの差が5g/10分以上50g/10分以下である車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物とする。車両用冷却液輸送チューブは、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下のプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)プロピレン単独重合体
(C)無機フィラー
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(C)を含有し、
ポリマー成分100質量%中、下記(A)が75質量%以上99質量%以下、下記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、
下記(A)および下記(B)の合計100質量部に対し、下記(C)が5質量部以上35質量部以下であり、
下記(A)と下記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上50g/10分以下である、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)プロピレン単独重合体
(C)無機フィラー
【請求項2】
前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、10g/10分以上50g/10分以下である、請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが、10g/10分以上50g/10分以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項4】
ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)が、エチレン-プロピレンブロック共重合体である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリマー成分中における前記(C)の凝集塊の径が、15μm以上60μm以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)のメジアン径が、25μm以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、10g/10分以上50g/10分以下であり、
前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが、10g/10分以上50g/10分以下であり、
ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下であり、
前記(A)が、エチレン-プロピレンブロック共重合体であり、
前記ポリマー成分中における前記(C)の凝集塊の径が、15μm以上60μm以下であり、
前記(C)のメジアン径が、25μm以下である、請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる車両用冷却液輸送チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブに関し、さらに詳しくは、自動車等の冷却システムにおける冷却液を輸送するためのチューブとして好適な車両用冷却液輸送チューブ用の樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車や電気自動車などの冷却システムにおける冷却液を輸送するためのチューブとして、冷却液輸送チューブがある。冷却液輸送チューブには、耐熱性の観点から、ポリアミド樹脂がよく採用されている。近年、冷却液輸送チューブの材料として、コスト的に有利なポリプロピレン系樹脂が検討されている。ポリプロピレン系樹脂には、チューブ強度の向上などを目的として、無機フィラーが配合されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2020/195143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チューブの製造地や製造時期などの違いにより気候や温度などの外部環境が異なる。外部環境が異なると、チューブの押出成形時において、材料のポリプロピレン系樹脂が結晶化することがある。ポリプロピレン系樹脂の結晶化したところには無機フィラーが入らないため、成形されたチューブには強度の低いところが生じるおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ポリプロピレン系樹脂の結晶化を抑制することで物性および無機フィラーの分散性を両立できる車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、下記(A)が75質量%以上99質量%以下、下記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、下記(A)および下記(B)の合計100質量部に対し、下記(C)が5質量部以上35質量部以下であり、下記(A)と下記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上50g/10分以下である。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)プロピレン単独重合体
(C)無機フィラー
【0007】
前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差は、10g/10分以上50g/10分以下であるとよい。前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、10g/10分以上50g/10分以下であるとよい。ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下であるとよい。前記(A)は、エチレン-プロピレンブロック共重合体であるとよい。前記ポリマー成分中における前記(C)の凝集塊の径は、15μm以上60μm以下であるとよい。前記(C)のメジアン径は、25μm以下であるとよい。
【0008】
そして、本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
【0009】
(1)本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、下記(A)が75質量%以上99質量%以下、下記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、下記(A)および下記(B)の合計100質量部に対し、下記(C)が5質量部以上35質量部以下であり、下記(A)と下記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上50g/10分以下である。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)プロピレン単独重合体
(C)無機フィラー
【0010】
(2)上記(1)において、前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差は、10g/10分以上50g/10分以下であるとよい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、10g/10分以上50g/10分以下であるとよい。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1において、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下であるとよい。
【0013】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1において、前記(A)は、エチレン-プロピレンブロック共重合体であるとよい。
【0014】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1において、前記ポリマー成分中における前記(C)の凝集塊の径は、15μm以上60μm以下であるとよい。
【0015】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1において、前記(C)のメジアン径は、25μm以下であるとよい。
【0016】
(8)本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記(1)から(7)のいずれか1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、上記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、上記(A)が75質量%以上99質量%以下、上記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、上記(A)および上記(B)の合計100質量部に対し、上記(C)が5質量部以上35質量部以下であり、上記(A)と上記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上50g/10分以下である。このため、ポリプロピレン系樹脂の結晶化が抑制され、物性および無機フィラーの分散性を両立することができる。
【0018】
ここで、前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および無機フィラーの分散性を高度に両立することができる。
【0019】
また、前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および無機フィラーの分散性を高度に両立することができる。
【0020】
また、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下であると、物性および無機フィラーの分散性を高度に両立することができる。
【0021】
そして、前記(A)がエチレン-プロピレンブロック共重合体であると、物性および無機フィラーの分散性を両立する効果に優れる。
【0022】
そして、前記ポリマー成分中における前記(C)の凝集塊の径が15μm以上60μm以下であると、物性および無機フィラーの分散性を両立する効果に優れる。
【0023】
そして、前記(B)のメジアン径が25μm以下であると、(B)の凝集塊の径を60μm以下にしやすい。
【0024】
そして、本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。このため、ポリプロピレン系樹脂の結晶化が抑制され、物性および無機フィラーの分散性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用冷却液輸送チューブを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブについて詳細に説明する。
【0027】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物(以下、本樹脂組成物ということがある。)は、下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、下記(A)が75質量%以上99質量%以下、下記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、下記(A)および下記(B)の合計100質量部に対し、下記(C)が5質量部以上35質量部以下であり、下記(A)と下記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上50g/10分以下である。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体(以下、ブロックポリプロピレンということがある。)
(B)プロピレン単独重合体(以下、ホモポリプロピレンということがある。)
(C)無機フィラー
【0028】
(A)のブロックポリプロピレンは、特定のMFRを示すものである。(A)のブロックポリプロピレンのMFRが1.5g/10分超であると、物性を確保できない。また、トルクが高くなりすぎて、(C)の分散性が低下する。(A)のブロックポリプロピレンのMFRが0.2g/10分未満であると、押出時の流動性が確保できない。(A)のブロックポリプロピレンのMFRが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であることで、物性、流動性を確保することができる。また、(C)の分散性を向上することができる。(A)のブロックポリプロピレンのMFRは、より好ましくは0.2g/10分以上1.3g/10分以下、さらに好ましくは0.2g/10分以上1.0g/10分以下、特に好ましくは0.3g/10分以上0.8g/10分以下である。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されるものである。
【0029】
(A)のブロックポリプロピレンは、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体である。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単量体が連続してなるブロックと、α-オレフィン単量体が連続してなるブロックとを少なくとも有するブロック共重合体である。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、上記に限られず、プロピレンの単独重合体等のポリプロピレン成分を海相とし、ポリエチレン成分および/またはエチレン系ゴム成分を島相とする海島構造を有するアロイ(混合物)であってもよい。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、このようなアロイを包含する概念である。
【0030】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。なかでも、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセンが好ましく、特にエチレンが好ましい。(A)のブロックポリプロピレンがエチレン-プロピレンブロック共重合体であると、チューブの物性と(C)の分散性を両立する効果に優れる。
【0031】
ポリエチレン成分としては、エチレン単独重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとα-オレフィンの共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体)等のエチレン系共重合体が挙げられる。エチレン系ゴム成分としては、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)等が挙げられる。アロイ(混合物)全体に対するポリエチレン成分および/またはエチレン系ゴム成分の含有割合は、1~49質量%が好ましく、2.5~20質量%がより好ましい。
【0032】
(B)のホモポリプロピレンは、(A)のブロックポリプロピレンとともに用いることで、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制することができる。特に、チューブの製造地や製造時期などで、気候や温度などの外部環境が異なる場合に、チューブの押出成形時において、材料のポリプロピレン系樹脂が結晶化することがあり、このような場合に特に有効である。そして、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制することで、(C)の分散性の低下が抑えられるため、物性および無機フィラーの分散性を両立することができる。
【0033】
(B)は、ポリプロピレンであるとよい。(B)がポリプロピレンであることで、ポリプロピレンである(A)との相溶性に優れる。また、(B)は、ホモポリプロピレンであるとよい。ブロックポリプロピレンの場合と比較して、ブロックポリプロピレンである(A)の結晶化の抑制により効果的となる。
【0034】
(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンは、MFRの差が5g/10分以上50g/10分以下である。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されるものである。上記MFRの差が5g/10分以上であることで、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果に優れる。上記MFRの差が5g/10分未満であると、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果が発揮されない。このため、(C)の分散性の低下が抑えられない。また、この観点から、上記MFRの差は、より好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは12g/10分以上である。一方、上記MFRの差が50g/10分超であると、(B)の影響により物性が低下する。上記MFRの差が50g/10分以下であることで、物性を確保しつつ、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果を発揮することができる。また、この観点から、上記MFRの差は、好ましくは40g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下である。そして、上記MFRの差が10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および無機フィラーの分散性を高度に両立することができる。
【0035】
ポリマー成分100質量%中、(A)のブロックポリプロピレンは、75質量%以上99質量%以下、(B)のホモポリプロピレンは、1質量%以上25質量%以下である。(A)のブロックポリプロピレンが75質量%未満であると、物性を確保できない。(A)のブロックポリプロピレンが99質量%超であると、(B)のホモポリプロピレンの量が少なすぎて、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果が発揮されない。(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンの割合が上記範囲内であると、物性を確保しつつ、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果を発揮することができる。また、この観点から、(A)のブロックポリプロピレンは、ポリマー成分100質量%中、より好ましくは85質量%以上97質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上97質量%以下である。また、(B)のホモポリプロピレンは、ポリマー成分100質量%中、より好ましくは3質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上10質量%以下である。そして、ポリマー成分100質量%中、(A)のブロックポリプロピレンが90質量%以上97質量%以下、(B)のホモポリプロピレンが3質量%以上10質量%以下であると、物性および結晶化の抑制効果による(C)の分散性向上効果を高度に両立する。
【0036】
(B)のホモポリプロピレンは、特定のMFRを示すものであることが好ましい。具体的には、(B)のホモポリプロピレンは、MFRが6g/10分以上50g/10分以下であることが好ましい。(B)のホモポリプロピレンのMFRが50g/10分以下であると、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差が大きくなりすぎないため、物性の低下が抑えられる。また、(B)のホモポリプロピレンのMFRが6g/10分以上であると、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差が小さくなりすぎないため、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果を発揮することができる。(B)のホモポリプロピレンのMFRが6g/10分以上50g/10分以下であることで、物性を確保しつつ、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制する効果を発揮することができる。(B)のホモポリプロピレンのMFRは、より好ましくは10g/10分以上50g/10分以下である。(B)のホモポリプロピレンのMFRが10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および結晶化の抑制効果による(C)の分散性向上効果を高度に両立する。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されるものである。
【0037】
(C)の無機フィラーとしては、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、チタン酸カルシウム、アパタイト、雲母などが挙げられる。これらは、(C)の無機フィラーとして1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。これらのうちでは、補強性に優れる、押出加工性に優れるなどの観点から、タルクが好ましい。
【0038】
(C)の無機フィラーの含有量は、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンの合計100質量部に対し、5質量部以上35質量部以下である。(C)の無機フィラーの含有量が5質量部未満であると、物性の向上効果が低下する。一方、(C)の無機フィラーの含有量が35質量部超であると、(C)の無機フィラーが凝集しやすくなり、物性低下および分散性低下となる。また、これらの観点から、(B)の無機フィラーの含有量は、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンの合計100質量部に対し、好ましくは10質量部以上30質量部以下、より好ましくは15質量部以上30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以上30質量部以下である。
【0039】
(C)の無機フィラーは、物性の観点から、凝集塊が小さいことが好ましい。具体的には、凝集塊の径は、60μm以下が好ましい。より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは45μm以下である。本発明では、(B)のホモポリプロピレンにより(A)のブロックポリプロピレンの結晶化が抑制されることで、(C)の無機フィラーの分散性が向上し、(C)の無機フィラーの凝集が抑えられることで、凝集塊が小さく抑えられる。一方、凝集塊の径の下限は、特に限定されるものではないが、粘度上昇による押出加工性への影響、弾性率上昇による曲げ加工性への影響などの観点から、10μm以上が好ましい。より好ましくは15μm以上である。また、(C)の無機フィラーの分散性をよくするために練りすぎると、(A)のブロックポリプロピレンが低分子量化しやすく、耐低温衝撃性が悪化しやすい。この観点から、凝集塊の径の下限は、10μm以上が好ましい。凝集塊の径は、本樹脂組成物の断面をマイクロスコープで観察した際の最大凝集塊の最大長さを合計3か所で測定し、その中央値で表すことができる。
【0040】
(C)の無機フィラーのメジアン径は、25μm以下であることが好ましい。(C)の無機フィラーのメジアン径が25μm以下であると、(C)の無機フィラーの凝集塊の径を特定の大きさ以下にしやすい。また、この観点から、(C)の無機フィラーのメジアン径は、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。一方、(C)の無機フィラーのメジアン径の下限は、特に限定されるものではないが、粘度上昇による押出加工性への影響、弾性率上昇による曲げ加工性への影響などの観点から、1.0μm以上が好ましい。より好ましくは1.5μm以上である。(C)の無機フィラーのメジアン径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、マイクロトラック・ベル製マイクロトラックMT3300EXIIなどが挙げられる。
【0041】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(A)(B)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。他の樹脂成分としては、これらを相溶化させる変性樹脂が含まれていてもよい。このような変性樹脂としては、酸変性あるいはカルボキシ変性されたポリプロピレンを挙げることができる。変性樹脂の含有量は、特に限定されないが、(A)のブロックポリプロピレン100質量部に対して、0.5~10質量部であり、好ましくは0.5~5質量部である。
【0042】
酸変性物における酸またはその誘導体としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、金属塩等が挙げられる。
【0043】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(A)(B)(C)に加え、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、耐候安定剤、滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤、老化防止剤などが挙げられる。
【0044】
老化防止剤としては、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、リン酸系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤は、これらの1種のみで構成されていてもよいし、2種以上で構成されていてもよい。これらのうちでは、より耐熱性に優れるなどの観点から、フェノール系老化防止剤が好ましい。また、フェノール系老化防止剤のなかでも、耐熱性の観点から、ヒンダードフェノール系老化防止剤が特に好ましい。
【0045】
老化防止剤の含有量は、特に限定されないが、(A)のブロックポリプロピレン100質量部に対して、0.05~1.0質量部であり、好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0046】
以上の構成の本樹脂組成物は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンを特定割合で併用しており、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差が5g/10分以上50g/10分以下であるため、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制することができる。特に、チューブの製造地や製造時期などで、気候や温度などの外部環境が異なる場合に、チューブの押出成形時において、材料のポリプロピレン系樹脂が結晶化することがあり、このような場合に特に有効である。そして、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑制することで、(C)の分散性の低下が抑えられるため、物性および無機フィラーの分散性を両立することができる。
【0047】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ(以下、本樹脂チューブということがある。)は、本樹脂組成物から得ることができる。本樹脂チューブは、例えば、図1に示すような単層構造の樹脂チューブ10として好適に実施される。また、必要に応じ、他の樹脂層や補強糸層を更に積層して多層構造の樹脂チューブとしてもよい。
【0048】
本樹脂チューブは、その用途上の観点から、内径が2.5~30mm、特には4~25mmの範囲であり、厚みが0.5~5.0mm、特には0.75~4.0mmの範囲であるものが好ましい。
【0049】
本樹脂チューブは、例えば、自動車内における冷却液の配管に用いられるものであり、具体的には、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに好適に用いられる。
【0050】
本樹脂チューブは、本樹脂組成物をチューブ状に溶融押出成形することにより製造することができる。本樹脂組成物は、(A)(B)(C)および必要に応じて配合される成分を配合し、混練することにより、得ることができる。
【0051】
本樹脂組成物の混練工程は、例えば二軸混練押出機などを用いて行うとよい。混練温度としては、190℃~230℃が好ましい。混練時間としては、0.01~10分が好ましい。
【0052】
本樹脂組成物の押出工程は、例えば二軸混練押出機などを用いて行うとよい。押出温度としては、低温押出の観点から、190℃~255℃が好ましい。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【実施例0054】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0055】
(実施例1-8、比較例1-5)
表に示す配合割合(質量部)にて、無機フィラーを除く各成分を配合し、二軸混練押出機(東芝機械製「TEM-18SS」)により200℃で5分間混練した後、無機フィラーを加え、さらに上記二軸混練押出機により200℃で5分間混練して混練物を得た。つぎに、上記混練物をペレット化し、そのペレットを、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機(プラスチック工学研究所製「GT-40」)により、250℃でチューブ状に溶融押出成形することにより、内径18mm,外径20mmの樹脂チューブを得た。
【0056】
用いた材料は、以下の通りである。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されたものである。
(A)プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
・ブロックPP<1>:プライムポリマー製「E-701G」、MFR0.5g/10分
・ブロックPP<2>:プライムポリマー製「E-702MG」、MFR1.4g/10分
(B)プロピレン単独重合体
・ホモPP<1>:プライムポリマー製「F704NP」、MFR7.0g/10分
・ホモPP<2>:プライムポリマー製「J106MG」、MFR16g/10分
・ホモPP<3>:プライムポリマー製「J108M」、MFR45g/10分
(B’)プロピレン単独重合体
・ホモPP<4>:プライムポリマー製「E200GPL」、MFR1.4g/10分
・ホモPP<5>:Lyondellbasell製「C14EP348U」、MFR70g/10分
(C)無機フィラー
・無機フィラー:タルク(富士タルク製「FH108」メジアン径8.0μm)
【0057】
得られた各樹脂チューブに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0058】
<分散性>
押出チューブ(2000mm)の先端、中央、後端の3箇所それぞれの任意の3箇所(合計9箇所)をカットして断面を出し、それぞれ1500μm×1500μmの視野角(マイクロスコープ)で見たときに、無機フィラーの最大凝集塊の最大長さ(凝集塊の径)が60μmを超えるものがなかったものを「◎」、1箇所または2箇所で60μmを超えるものがあったものを「○」、3箇所以上で60μmを超えるものがあったものを「×」とした。
【0059】
<物性>
樹脂チューブを160℃1時間熱処理後、半割し、幅10mm、長さ15cmの短冊状に打ち抜いた。得られた短冊状のサンプルの破断時の伸び[Eb]を、JIS K 6251に準拠し、引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)により測定した。破断時の伸びが350%以上のものを「◎」、破断時の伸びが300%以上のものを「〇」、300%未満のものを「×」とした。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例1は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンのみ用いており、(B)のホモポリプロピレンを用いていない。このため、チューブの押出成形時において(A)のブロックポリプロピレンの結晶化が抑えられず、無機フィラーの分散性に劣っている。比較例2は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンとホモポリプロピレンを併用しているが、これらのMFRの差が5g/10分未満である。このため、チューブの押出成形時において(A)のブロックポリプロピレンの結晶化が抑えられず、無機フィラーの分散性に劣っている。比較例3は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンとホモポリプロピレンを併用しているが、これらのMFRの差が50g/10分超である。このため、チューブの物性に劣っている。比較例4は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンを併用しているが、(B)のホモポリプロピレンの量が多すぎる。このため、チューブの物性に劣っている。比較例5は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンを併用しているが、(C)の無機フィラーの量が多すぎる。このため、チューブの物性に劣っている。
【0062】
これに対し、実施例は、ポリマー成分として(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンを特定割合で併用しており、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差が5g/10分以上50g/10分以下である。また、(C)の無機フィラーを特定割合で含んでいる。このため、押出成形時において(A)のブロックポリプロピレンの結晶化が抑えられ、無機フィラーの分散性に優れている。また、チューブの物性にも優れている。
【0063】
以上より、(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体と、(B)プロピレン単独重合体と、(C)無機フィラーを含有し、ポリマー成分100質量%中、(A)が75質量%以上99質量%以下、(B)が1質量%以上25質量%以下であり、(A)および(B)の合計100質量部に対し、(C)が5質量部以上35質量部以下であり、(A)と(B)のメルトフローレートの差が5g/10分以上50g/10分以下である樹脂組成物とすることで、(A)のブロックポリプロピレンの結晶化を抑えて(C)の分散性の低下を抑え、物性および無機フィラーの分散性を両立できることが確認できた。
【0064】
そして、実施例どうしの比較では、実施例1,2,5から、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差が10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および無機フィラーの分散性を高度に両立することがわかる。また、実施例2,6,7から、ポリマー成分100質量%中、(A)のブロックポリプロピレンが90質量%以上97質量%以下であり、(B)のホモポリプロピレンが3質量%以上10質量%以下であると、物性および無機フィラーの分散性を高度に両立することがわかる。
【0065】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 樹脂チューブ
図1