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特開2024-168433捺染印刷装置、及び、捺染印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168433
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】捺染印刷装置、及び、捺染印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/30 20060101AFI20241128BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241128BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
D06P5/30
B41J2/01 123
B41J2/21
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085122
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 涼
【テーマコード(参考)】
2C056
4H157
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EA11
2C056EE18
2C056FA10
2C056FB03
2C056HA29
2C056HA42
4H157AA03
4H157CB02
4H157GA06
(57)【要約】
【課題】下地形成用インク及び画像形成用インクを吐出する捺染印刷装置及び捺染印刷物の製造方法において、印刷品質を向上させる。
【解決手段】捺染印刷装置(1)は、前処理液が付与された基材(S)に下地形成用インクを吐出する下地形成用インク吐出部(52)と、前記基材(S)に吐出された前記下地形成用インクを均す均し部(54)と、前記下地形成用インクが均された前記基材(S)に画像形成用インクを吐出する画像形成用インク吐出部(53)とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理液が付与された基材に下地形成用インクを吐出する下地形成用インク吐出部と、
前記基材に吐出された前記下地形成用インクを均す均し部と、
前記下地形成用インクが均された前記基材に画像形成用インクを吐出する画像形成用インク吐出部と
を備えることを特徴とする捺染印刷装置。
【請求項2】
前記下地形成用インク吐出部は、前記前処理液の付与後にウェットオンウェット方式で前記下地形成用インクを吐出する
ことを特徴とする請求項1記載の捺染印刷装置。
【請求項3】
前記下地形成用インク吐出部は、皮膜伸度800%以上の樹脂を含む前記下地形成用インクを吐出する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の捺染印刷装置。
【請求項4】
基材に前処理液を付与することと、
前記前処理液が付与された基材に下地形成用インクを吐出することと、
前記基材に吐出された前記下地形成用インクを均すことと、
前記下地形成用インクが均された前記基材に画像形成用インクを吐出することと
を含むことを特徴とする捺染印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地形成用インク及び画像形成用インクを吐出する、捺染印刷装置及び捺染印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、織物、編み物、不織布等の布等に、文字、絵、図柄等の画像を捺染する方法として、スクリーン捺染法やローラ捺染法の他に、インクジェット捺染法がある。このインクジェット捺染法を用いた装置としては、例えば、前処理液が塗布された被捺染媒体を加熱しながら圧縮した後、被捺染媒体に印刷液を吐出する捺染装置が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-183331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インクジェット捺染法では、色が付いた生地などの有色の基材に、インクを凝集させる成分を含む前処理液が付与され、白色インクなどの下地形成用インクの吐出により下地が形成され、その上にカラーインクが吐出される場合がある。この場合、下地には、基材の色を隠ぺいすることで、下地の上に形成されるカラー画像を鮮明化させる役割がある。
【0005】
このようにカラーインクなどの画像形成用インクを基材に吐出する場合、吐出部と基材とが非接触であるため、印刷品質は、基材の毛羽の影響を受けやすい。具体的には、前処理液の付与後に乾燥工程を経ずにウェットオンウェット方式で基材に下地形成用インクを吐出する場合、基材の毛羽に前処理液と下地形成用インクとが混合したインク玉が形成される。続けて画像形成用インクを基材に吐出すると、前処理液と下地形成用インクと画像形成用インクとが混合したインク玉が形成される。このインク玉は、基材表面(水平面)よりも高い位置にある毛羽の先端付近に存在していることが多い。このため、画像形成後にヒートプレス等で基材の乾燥処理を行うと、毛羽が倒れ、毛羽に形成されたインク玉は基材表面からの高さ分、本来着弾されるべきであった座標よりも、水平方向のずれた座標に定着し、着弾位置ずれが発生する。
【0006】
また、インク玉が着地した箇所に、このインク玉がつぶされたことによる点状の汚れが形成される。通常、濃色基材の場合、使用されるインク量は下地形成用インクの方が画像形成用インクよりも多いことから、画像の中に下地形成用インクの色の点が形成される。下地形成用インクとしては白色インクを用いることが多いので、通常、画像の中に白点が点在することとなる。この点状の汚れや上述の着弾位置ずれによって、印刷品質が低下する。
【0007】
なお、前処理液を乾燥させてからウェットオンドライ方式で下地形成用インクを吐出する場合であっても、特に、樹脂等の定着成分を含まない前処理液を用いる場合に、基材の毛羽が前処理液の乾燥時に寝ていても再び起き上がりやすい。そのため、ウェットオンドライ方式で下地形成用インクを吐出する場合であっても、ウェットオンウェット方式で下地形成用インクを吐出する場合と同様に、着弾位置ずれや点状の汚れにより印刷品質が低下し得る。
【0008】
本発明の目的は、下地形成用インク及び画像形成用インクを吐出する捺染印刷装置及び捺染印刷物の製造方法において、印刷品質を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様では、捺染印刷装置は、前処理液が付与された基材に下地形成用インクを吐出する下地形成用インク吐出部と、前記基材に吐出された前記下地形成用インクを均す均し部と、前記下地形成用インクが均された前記基材に画像形成用インクを吐出する画像形成用インク吐出部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
前記態様によれば、下地形成用インク及び画像形成用インクを吐出する捺染印刷装置及び捺染印刷物の製造方法において、印刷品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態に係る捺染印刷装置と、ユーザ端末とを示す制御構成図である。
図2】一実施の形態に係る捺染印刷装置の印刷部等を示す右側面図である。
図3】一実施の形態に係る捺染印刷物の製造方法の各工程を説明するための右側面図である。
図4】一実施の形態に係る捺染印刷物の製造方法の各工程を示す図である。
図5】一実施の形態の第1変形例に係る捺染印刷装置の印刷部等を示す右側面図である。
図6】一実施の形態の第2変形例に係る捺染印刷装置の印刷部等を示す右側面図である。
図7】一実施の形態の実施例1~3及び比較例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態に係る、捺染印刷装置及び捺染印刷物の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る捺染印刷装置1と、ユーザ端末100とを示す制御構成図である。
【0014】
図2は、捺染印刷装置1の印刷部50等を示す右側面図である。なお、図2、並びに後述する図3図5、及び図6における前後、左右、及び上下の各方向は、基材Sの被印刷面を水平面とし、基材S(ステージ60)の移動方向を前後方向とした場合の一例である。
【0015】
図1に示す捺染印刷装置1は、制御部10と、記憶部20と、入力部30と、インターフェース部40と、印刷部50と、ステージ60(図2参照)とを備える。この捺染印刷装置1に印刷ジョブを送信するユーザ端末100などの装置(又は捺染印刷装置1の印刷制御を行う印刷制御装置)と、捺染印刷装置1とを備えるシステムを印刷制御システムとみなすことができる。
【0016】
制御部10は、印刷部50などの捺染印刷装置1の各部の動作を制御する演算処理装置として機能する1つ以上のプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit)を有する。このプロセッサは、例えば、記憶部20から、或いは、捺染印刷装置1に対して着脱可能な記憶媒体(非一過性のコンピュータ読み取り可能記録媒体)から、所定のプログラムを読み出して実行するコンピュータとして機能する。
【0017】
記憶部20は、例えば、所定の制御プログラムが予め記録されている読み出し専用半導体メモリであるROM(Read Only Memory)、プロセッサが各種の制御プログラムを実行する際に必要に応じて作業用記憶領域として使用される随時書き込み読み出し可能な半導体メモリであるRAM(Random Access Memory)などのメモリや、ハードディスク装置などを有する。
【0018】
入力部30は、例えば、印刷開始操作、基材Sの位置調整操作などの各種情報の入力を受け付ける操作パネルなどである。
【0019】
インターフェース部40は、ネットワークを介して無線で又は有線で接続されるユーザ端末100などの各種機器との間での各種情報の授受を行い、例えば、ユーザ端末100から画像データを含む印刷ジョブを受信する。
【0020】
図2に示すように、印刷部50は、複数のヘッド51~53と、ローラ54とを有する。
【0021】
ヘッド51(P)は、ステージ60上に載置された基材Sに前処理液を吐出する。前処理液としては、例えば、多価金属塩、有機酸、カチオンポリマー、カチオン性界面活性剤などの凝集剤を含有する液体で、インクと反応してインクを凝集させるものが挙げられる。なお、基材Sは、例えば、織物、編み物、不織布等の布である。
【0022】
ヘッド52(W)は、前処理液が吐出(付与)された基材Sに下地形成用インクを吐出する下地形成用インク吐出部の一例である。下地形成用インクは、例えば白色インクである。ここで、白色インクのような淡い色のインクを下地として印刷するのは、黒や紺などの濃い色の基材Sであってもカラーインクで形成された画像に対する基材Sの色の影響を軽減するためである。例えば、黒布に下地なしでカラーインクを用いて画像形成を行うと、白布に形成するのと比較して画像が黒っぽくなってしまう。本明細書における発明を実施するための形態において、下地形成用インクとして白色インクを用いて説明する。
【0023】
ヘッド53(KCMY)は、画像形成用インクを吐出する画像形成用インク吐出部の一例である。画像形成用インクは、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの各色のインクである。
【0024】
ここで、ヘッド51(P)、ヘッド52(W)、及びヘッド53(KCMY)のそれぞれは、いわゆるシリアル方式であり、基材Sの移動方向(前後方向)に直交する幅方向(左右方向)に移動しながら、前処理液又はインクを吐出する。なお、基材Sは、ステージ60上に載置されているため、ステージ60の移動に伴って前後方向に移動する。
【0025】
ローラ54は、各ヘッド51~53の印刷領域(印刷可能領域)における基材Sの幅方向(左右方向)の全体に亘って配置されている。ローラ54は、基材Sに接触する接触位置(図2に実線で示す位置)と、この接触位置から上方に退避した退避位置(図2に破線で示す位置)とに昇降可能に配置されている。ローラ54は、上記接触位置において基材Sに接触して回転する。これにより、ローラ54は、ヘッド52(W)によって基材Sに吐出された白色インクを均す均し部の一例として機能する。なお、ローラ54は、駆動源に接続される駆動ローラであってもよい。また、ローラ54は、基材Sの移動方向に複数配置されていてもよい。また、均し部としては、回転不能なブレードなどの部材であってもよいし、2種類以上の均し部が用いられてもよい。また、ユーザが、平面状の均し面を有するアイロン(非加熱状態)や、ブレードなどの均し部を用いて白色インクを均してもよい。なお、ブレードが用いられる場合には、白色インクを均す際に、鉛直方向に立っていてもよいし、鉛直方向に対して寝た状態であってもよい。
【0026】
図1に示すユーザ端末100は、制御部110と、記憶部120と、入力部130と、インターフェース部140と、表示部150とを備える。ユーザ端末100は、例えば、タブレット機器、スマートフォン、ノートパソコン、デスクトップパソコンなどである。
【0027】
制御部110は、例えば、制御部110の各部の動作を制御する演算処理装置として機能する1つ以上のプロセッサ(例えばCPU)を有する。記憶部120は、例えば、所定の制御プログラムが予め記録されている読み出し専用半導体メモリであるROM、プロセッサが各種の制御プログラムを実行する際に必要に応じて作業用記憶領域として使用される随時書き込み読み出し可能な半導体メモリであるRAMなどのメモリや、ハードディスク装置などを有する。入力部130は、各種情報の入力を受け付ける操作キー、タッチパネルなどである。インターフェース部140は、ネットワークを介して無線で、又は有線で接続される捺染印刷装置1などの各種機器との間での各種情報の授受を行う。表示部150は、各種情報を表示するディスプレイである。
【0028】
図3は、本実施の形態に係る捺染印刷物の製造方法の各工程を説明するための右側面図であり、図4は、捺染印刷物の製造方法の各工程を示す図である。
【0029】
まず、ステージ60が印刷部50よりも前方の基材Sの着脱位置(図示せず)にあるときに、ステージ60に基材Sが載置され、その後、図3(a)に示すように、ステージ60(基材S)が後方に移動しながら、ヘッド51(P)が基材Sに前処理液を吐出する(図4のステップST1)。
【0030】
前処理液の吐出量は、100g/m以下が好ましく、50g/m以下がより好ましい。前処理液の吐出量を100g/m以下、特に50g/m以下とすることで、基材Sに着弾する後述する白色インクの硬化の進行を遅くすることができる。これにより、白色インクの柔軟性が高いまま後述する均し工程を行うことができるため、白色インクの層を一層平坦に均すことができる。
【0031】
一方で、前処理液の吐出量は、10g/m以上が好ましく、20g/m以上がより好ましい。前処理液の付与量を10g/m以上、特に20g/m以上とすることで、基材Sに着弾した白色インクが適度に増粘し、十分なタックを得ることができる。そのため、起毛しやすい基材Sなどの多様な基材Sに対して、後述する均し工程後に毛羽が再び起毛することを抑制することができる。
【0032】
次に、ステージ60(基材S)が一度前方に移動した後、図3(b)に示すように、ステージ60(基材S)が後方に移動しながら、ヘッド52(W)が、基材Sに白色インクを吐出する(図4のステップST2)。この白色インクの吐出は、後述する画像形成用インク吐出工程(ステップST4)で画像形成用インクが吐出される領域のみであってもよいし、この領域を含む印刷領域全体であってもよい。
【0033】
なお、ヘッド52(W)は、ヘッド51(P)による前処理液の付与後に乾燥工程が行われない状態で、すなわちウェットオンウェット方式で、白色インクを吐出するとよい。これにより、白色インクは、前処理液に接触することで粘土状に増粘し、基材Sの毛羽には、前処理液と混合したインク玉が形成される。ここで、乾燥工程としては、基材Sを加熱することによる前処理液の強制乾燥や、例えば数時間以上の時間をかけて基材Sを放置することによる前処理液の自然乾燥などが挙げられる。本実施の形態において、このような乾燥工程が行われるウェットオンドライ方式で白色インクが吐出されてもよい。
【0034】
白色インクの吐出量は、50g/m以上が好ましく、100g/m以上がより好ましい。白色インクの吐出量が50g/m以上、特に100g/m以上であると、インクとインクとのドット間に隙間の少ない下地層を形成することができる。そのため、隙間による凹凸が軽減でき、後述する均し工程において、白色インクの層を一層平坦に均すことができる。
【0035】
また、質量基準で、前処理液の付与量1に対する白色インクの付与量は40以下が好ましく、20以下がより好ましい。前処理液の付与量1に対する下地形成用のインクの付与量を40超えとすると、基材Sの種類によっては均し部にインクが付着することがある。例えば均し部として上述のローラ54を使用した場合、ローラ54に付着した白色インクが白色インクを付着させる予定ではなかった場所に再転写してしまい、印刷品質を低下させてしまう恐れがある。
【0036】
また、白色インクは、皮膜伸度800%以上の樹脂を含むことが好ましく、皮膜伸度1000%以上の樹脂を含むことがより好ましい。例えば、皮膜伸度800%以上の水分散性樹脂(樹脂エマルション)と、水と、白色顔料とを含有する白色インクであることが好ましい。皮膜伸度の測定方法は、後述する。白色インクは、皮膜伸度800%以上の樹脂を含むことで柔軟性が高くなり、白色インクの層を一層平坦に均すことができる。
【0037】
次に、ステージ60(基材S)が一度前方に移動した後、図3(c)に示すように、ローラ54が基材Sに接触する実線で示す接触位置に下降し、ステージ60(基材S)が後方に移動するのに伴ってローラ54が回転し、白色インクを規定の厚さに均す(図4のステップST3)。これにより、基材Sの毛羽及びこの毛羽に付着した上述のインク玉が寝かしつけられる。なお、白色インク層は粘土状となっているためタックが強く、一端寝かしつけられた毛羽は、再度起毛することが抑制される。
【0038】
なお、白色インクを均すのは、白色インクを吐出してから10分以内に行うとよい。これにより、基材Sに着弾した白色インクの脱水、脱溶剤が進んでいない状態で白色インクを均すことができるため、柔軟性が高い状態で一層平坦に均すことができる。また、白色インクを均すのは、白色インクが加熱されていない状態で行うとよい。これにより、基材Sに着弾した白色インクの脱水、脱溶剤が抑制されるため、柔軟性が高い状態で一層平坦に均すことができる。
【0039】
次に、ステージ60(基材S)が一度前方に移動した後、図3(d)に示すように、ステージ60(基材S)が後方に移動しながら、ヘッド53(KCMY)が、基材Sにブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの各色のインクを吐出する(図4のステップST4)。なお、このインクの吐出時には、ローラ54は実線で示す退避位置に上昇している。
【0040】
なお、上述の図3(a)~(d)の例では、各ヘッド51~53による前処理液又はインクの吐出や白色インクの均しが、基材Sが後方に移動しながら行われるが、前処理液又はインクの吐出時や均し時の基材Sの移動方向は任意である。また、本実施の形態では、ステージ60が前後方向に移動するが、各ヘッド51~53及びローラ54が前後方向に移動してもよい。すなわち、各ヘッド51~53及びローラ54と基材Sとは前後方向に相対的に移動すればよい。
【0041】
また、上述の説明では、図2に示すヘッド51(P)、ヘッド52(W)、及びヘッド53(KCMY)のそれぞれが基材Sの幅方向(左右方向)に移動しながら、いわゆるシリアル方式で、前処理液又はインクを吐出する。しかし、各ヘッド51~53が印刷領域における基材Sの幅方向(左右方向)の全体に亘って配置されたいわゆるライン方式が採用されてもよい。この場合、図5(第1変形例)に示すように、ヘッド53(KCMY)に代えて、インクの色ごとに、ブラックのインクを吐出するヘッド55(K)、シアンのインクを吐出するヘッド56(C)、マゼンタのインクを吐出するヘッド57(M)、及びイエローのインクを吐出するヘッド58(Y)が配置される。
【0042】
また、上述の説明では、捺染印刷装置1の印刷部50が前処理液を吐出するヘッド51(P)を有するが、前処理液をスプレー法、ローラ法などで付与する前処理液付与部が配置されてもよい。また、ヘッド51(P)が省略され、ユーザが、スプレー、ローラなどを用いて手動で前処理液を付与してもよい。或いは、第2変形例に対応する図6の(a)に示すように、前処理液を吐出するヘッド251(P)を備える前処理液付与装置200が配置され、このヘッド251(P)が、ステージ260上の基材Sに前処理液を吐出してもよい。この場合、図6(b)に示すようにヘッド51(P)が省略された捺染印刷装置1と、図6(a)に示す前処理液付与装置200とを備えるシステムを、捺染印刷システムとみなすことができる。なお、図6(b)の捺染印刷装置1では、ローラ54の位置がヘッド52よりも前方に位置するが、これらの位置関係は任意に変更することができる。
【0043】
[実施例]
以下、下地形成用インクに含まれる樹脂の皮膜伸度の測定、前処理液及び各インクの作製、各工程の詳細、捺染印刷物の評価、並びに実施例1~3及び比較例の結果を記す。
【0044】
<皮膜伸度の測定>
下地形成用インクに含まれる樹脂に関して、乾燥後の樹脂の膜厚が500μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上に各樹脂の水分散体を塗布し、23℃で15時間乾燥し、さらに80℃で6時間、及び120℃で20分の乾燥を行った後、シートから剥離して樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、幅2cm、長さ4cmの柱状に切断して樹脂フィルム試験片とした。テンシロン万能試験機RTC-1225A(株式会社オリエンテック製)を用い、測定温度20℃、測定スピード200mm/minで、樹脂フィルム試験片を伸長させて、樹脂フィルム試験片が破断するまでに伸長する長さを測定し、もとの長さに対するその割合をパーセントで表した値を皮膜伸度とした。
【0045】
<前処理液(PT1)の作製>
多価金属塩「塩化カルシウム二水和物」(富士フイルム和光純薬株式会社製)33.1g、ノニオン性界面活性剤「オルフィンE1010」(日信化学株式会社製)0.8g、水溶性溶剤「エチレングリコール」(富士フイルム和光純薬株式会社製)15.5g、水溶性溶剤「グリセリン」(富士フイルム和光純薬株式会社製)9.0g、「イオン交換水」41.6gを混合し、孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過し、前処理液PT1を得た。
【0046】
<下地形成用インクの作製>
(白顔料分散体の作製)
酸化チタン「R62N」(堺化学工業(株)製)300g、顔料分散剤「デモールEP」(花王(株)製)12g(有効成分で3.0g)を用い、「イオン交換水」688gと混合し、ビーズミル((株)シンマルエンタープライゼス製、DYNO-MILL KDL A型)を用いて、0.5mmΦのジルコニアビーズを充填率80%、滞留時間2分で分散し、白顔料分散体を得た。
【0047】
(下地形成用インクW1の作製)
前記「白顔料分散体」150g、樹脂エマルション「スーパーフレックス740」(第一工業製薬株式会社製、皮膜伸度1300%)125g(有効成分で50g)、樹脂エマルション「スーパーフレックス150」(第一工業製薬株式会社製、皮膜伸度330%)100g(有効成分で30g)、水溶性溶剤「グリセリン」(富士フイルム和光純薬株式会社製)25g、水溶性溶剤「ジエチレングリコール」(富士フイルム和光純薬株式会社製)50g、ノニオン性界面活性剤「オルフィンE1010」(日信化学工業株式会社製)2.5g、「イオン交換水」47.5gを混合し、孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過し、白色の下地形成用インクW1を得た。
【0048】
(下地形成用インクW2の作製)
前記「白顔料分散体」150g、樹脂エマルション「スーパーフレックス150」(第一工業製薬株式会社製、皮膜伸度330%)266.7g(有効成分で80g)、水溶性溶剤「グリセリン」(富士フイルム和光純薬株式会社製)25g、水溶性溶剤「ジエチレングリコール」(富士フイルム和光純薬株式会社製)50g、ノニオン性界面活性剤「オルフィンE1010」(日信化学工業株式会社製)2.5g、「イオン交換水」5.8gを混合し、孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過し、白色の下地形成用インクW2を得た。
【0049】
<画像形成用インクM1の作製>
「CAB-O-JET260M」(キャボットコーポレーション製)35g(顔料分3.5%)、樹脂エマルション「モビニール6817」33.3g(有効成分で15g)、水溶性溶剤「グリセリン」(富士フイルム和光純薬株式会社製)10g、水溶性溶剤「ジエチレングリコール」(富士フイルム和光純薬株式会社製)10g、ノニオン性界面活性剤「オルフィンE1010」(日信化学工業株式会社製)を0.5g、「イオン交換水」11.2gを調合し、孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過し、マゼンタの画像形成用インクM1を得た。
【0050】
<前処理液付与工程>
上述の基材Sとして、トムス株式会社製黒綿Tシャツ(製品名Printstar)を用い、この黒綿Tシャツの表面の10cm×20cmの部分に、前処理液をインクジェット法で付与した。画像はベタ画像とし、前処理液の付与量は約30g/mとした。前処理液の付与、並びに後述する下地形成用インク及び画像形成用インクの付与には、いずれも、印刷装置として、マスターマインド社製「MMP-8130」(商品名)を使用した。
【0051】
<下地形成用インク吐出工程>
前処理液付与後、乾燥工程を設けずに、前処理液を付与した部分に白色インクをインクジェット法で付与した。画像はベタ画像とし、白色インクの付与量は約200g/mとした。
【0052】
<均し工程>
白色インク付与後、上述のローラ54又は手動でアイロンのかけ面(非加熱状態)を用いて基材Sを加圧した。アイロンはパナソニック製スチームアイロンを使用した。ローラ54は15cm幅の硬質ゴムローラを使用した。基材Sの加圧に使用する部品の材質は前処理液と下地形成用インクとの混合液が付着しにくい材質が好ましい。混合液が付着しやすい材質を使用する場合は、加圧材料と基材Sとの間に、テフロン(登録商標)シート等のシート類、混合液が付着しにくいシートなどを挟んでもよい。
【0053】
<画像形成用インク吐出工程>
均し工程の後、乾燥工程を設けずに、白色インクを付与した部分に上述の画像形成用インクM1(マゼンタインク)をインクジェット法で付与した。画像はベタ画像とし、画像形成用インクM1の付与量は約20g/mとした。マゼンタインク付与後、FUSION社製ヒートプレス機を用いて170℃で1分間加熱乾燥し、10cm×20cmのベタ画像を有する捺染印刷物を得た。
【0054】
<捺染印刷物の評価>
(印刷品質(白点)の評価)
捺染印刷物のマゼンタインクのベタ画像の白点を目視で評価し、以下の基準で判定した。
A:白点もなくムラも感じられない
B:白点がわずかにあるがムラは感じられない
C:白点が多くムラも感じられる
なお、印刷品質として、捺染印刷物のマゼンタインクのベタ画像の発色を目視で評価したが、後述する実施例1~3のすべてで画像の発色が非常に優れていた。
【0055】
(摩擦堅牢度(乾燥摩擦堅牢度)の評価)
JIS L 0849:2013の規格に基づいて、学振試験機RT-200(大栄科学精器製作所)を使用して評価を行った。試験機の摩擦子に摩擦用白布綿100%カナキン3号を取り付け、重り無しの状態で摩擦子を印字部分に置き100往復擦過した。擦過後、カナキン3号の汚染をグレースケールで等級付けし、以下の基準で判定した。
A:3.5級以上
B:3.0級以上3.5級未満
【0056】
<実施例1~3及び比較例の結果>
図7の表に示すとおり、下地形成用インクとして、実施例1,2及び比較例では下地形成用インクW1を用い、実施例3では下地形成用インクW2を用いた。また、均し工程に関して、実施例1では手動のアイロンを用い、実施例2,3ではローラ54を用い、比較例では均し工程を省略した。
【0057】
実施例1及び2では、印刷品質の白点が「A」で非常に良好な印刷品質となった。実施例2(下地形成用インクW1)とは下地形成用インクW2のみ異なる実施例3では、印刷品質の白点が「B」であったが、白点はわずかでムラが感じられない良好な印刷品質となった。この結果は、皮膜伸度800%以上の樹脂を含む実施例2の下地形成用インクW1が、実施例3の下地形成用インクW2よりも均し工程で平坦に均された結果と考えられる。
【0058】
一方、実施例1及び2とは均し工程の有無のみで相違する比較例では、印刷品質の白点が「C」で白点が多く、ムラが感じられる印刷品質となった。これにより、均し工程の有効性が確認された。
【0059】
次に、乾燥摩擦の摩擦堅牢度に関しては、実施例1,2及び比較例で判定が行われ、均し工程で手動のアイロンを用いる実施例1では「B」であったのに対し、ローラ54を用いる実施例2では「A」であった。この結果は、手動のアイロンを用いるよりもローラ54を用いる方が、下地形成用インクを平坦に均すことができた結果と考えられる。
【0060】
以上説明した本実施の形態では、捺染印刷装置1は、下地形成用インク吐出部の一例であるヘッド52(W)と、均し部の一例であるローラ54と、画像形成用インク吐出部の一例であるヘッド53(KCMY)とを備える。ヘッド52(W)は、前処理液が付与された基材Sに下地形成用インクを吐出する。ローラ54は、基材Sに吐出された下地形成用インクを均す。ヘッド53(KCMY)は、下地形成用インクが均された基材Sに画像形成用インクを吐出する。
【0061】
方法の観点では、捺染印刷物の製造方法は、基材Sに前処理液を付与すること(前処理液付与工程)と、前処理液が付与された基材Sに下地形成用インクを吐出すること(下地形成用インク吐出工程)と、基材Sに吐出された下地形成用インクを均すこと(均し工程)と、下地形成用インクが均された基材Sに画像形成用インクを吐出すること(画像形成用インク吐出工程)とを含む。
【0062】
これらの捺染印刷装置1及び捺染印刷物の製造方法では、基材Sに吐出された下地形成用インクを均すため、前処理液の付与後も基材Sの毛羽が立った状態で下地形成用インクが基材Sに吐出された場合であっても、画像形成用インクは、平坦な下地形成用インク上に吐出される。これにより、本実施の形態とは異なり、基材Sの毛羽が立った状態で、画像形成用インクが基材Sに吐出された場合に生じる問題、すなわち、画像形成後の乾燥処理などで毛羽が倒れ、毛羽に付着した画像形成用インクの着弾位置ずれが生じたり、毛羽に付着した玉状の下地形成用インクがつぶれて画像の中に下地形成用インクの色の点状の汚れが発生したりするという問題を回避することができる。よって、本実施の形態によれば、下地形成用インク及び画像形成用インクを吐出する捺染印刷装置1及び捺染印刷物の製造方法において、印刷品質を向上させることができる。
【0063】
また、本実施の形態に係る捺染印刷装置1では、ヘッド52(W)は、前処理液の付与後にウェットオンウェット方式で下地形成用インクを吐出する。また、本実施の形態に係る捺染印刷物の製造方法の、前処理液が付与された基材Sに下地形成用インクを吐出すること(工程)では、前処理液の付与後にウェットオンウェット方式で下地形成用インクを吐出する。
【0064】
これにより、前処理液の付与後に前処理液の乾燥工程を行うウェットオンドライ方式と比較して、乾燥工程の時間を省略することで生産性を高めたり、乾燥工程で各ヘッド51~53の乾燥を促進してしまい各ヘッド51~53にノズルの閉塞を誘発するという問題を回避したりすることができる。更には、基材Sの毛羽は、前処理液の乾燥工程を経てもなお立ち上がる可能性があるところ、本実施の形態では、下地形成用インクの吐出後に下地形成用インクを均すため、上述のように、基材Sの毛羽が立った状態で画像形成用インクが基材Sに吐出された場合に生じる、画像形成用インクの着弾位置ずれや点状の汚れが発生するという上述の問題を、乾燥工程を経ずに回避することができる。
【0065】
また、本実施の形態に係る捺染印刷装置1では、ヘッド52(W)は、皮膜伸度800%以上の樹脂を含む下地形成用インクを吐出する。また、本実施の形態に係る捺染印刷物の製造方法の、前処理液が付与された基材Sに下地形成用インクを吐出すること(工程)では、皮膜伸度800%以上の樹脂を含む下地形成用インクを吐出する。
【0066】
このように、下地形成用インクが皮膜伸度800%以上の樹脂を含むことによって、下地形成用インクの柔軟性が高くなり、下地形成用インクを均す際に下地形成用インクを平坦に均しやすくなる。これにより、画像形成用インクの着弾位置ずれや点状の汚れが発生するという上述の問題をより確実に回避することができるため、印刷品質をより一層向上させることができる。なお、皮膜伸度800%未満の多量の樹脂を下地形成用インクに包含させた場合、下地形成用インクの粘度が高くなりすぎて吐出不良が生じたり、顔料の量が相対的に減って画像品質が低下したりし得る。
【0067】
なお、本発明は、上述の実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上述の実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施の形態に示される全構成要素を適宜組み合わせてもよい。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。以下に、本願の出願当初の特許請求項の範囲に記載の発明を付記する。
【0068】
[付記1]
前処理液が付与された基材に下地形成用インクを吐出する下地形成用インク吐出部と、
前記基材に吐出された前記下地形成用インクを均す均し部と、
前記下地形成用インクが均された前記基材に画像形成用インクを吐出する画像形成用インク吐出部と
を備えることを特徴とする捺染印刷装置。
【0069】
[付記2]
前記下地形成用インク吐出部は、前記前処理液の付与後にウェットオンウェット方式で前記下地形成用インクを吐出する
ことを特徴とする付記1記載の捺染印刷装置。
【0070】
[付記3]
前記下地形成用インク吐出部は、皮膜伸度800%以上の樹脂を含む前記下地形成用インクを吐出する
ことを特徴とする付記1又は2記載の捺染印刷装置。
【0071】
[付記4]
基材に前処理液を付与することと、
前記前処理液が付与された基材に下地形成用インクを吐出することと、
前記基材に吐出された前記下地形成用インクを均すことと、
前記下地形成用インクが均された前記基材に画像形成用インクを吐出することと
を含むことを特徴とする捺染印刷物の製造方法。
【符号の説明】
【0072】
1 捺染印刷装置
10 制御部
20 記憶部
30 入力部
40 インターフェース部
50 印刷部
51~53 ヘッド
54 ローラ
55~58 ヘッド
60 ステージ
100 ユーザ端末
110 制御部
120 記憶部
130 入力部
140 インターフェース部
150 表示部
200 前処理液付与装置
251 ヘッド
260 ステージ
S 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7