(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168434
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】干渉光生成方法及び干渉光生成装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/066 20140101AFI20241128BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B23K26/066
G02B5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085124
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】倉田 将輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 覚
(72)【発明者】
【氏名】川合 一希
(72)【発明者】
【氏名】酒井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】渡利 威士
(72)【発明者】
【氏名】木根 悠太
【テーマコード(参考)】
2H249
4E168
【Fターム(参考)】
2H249CA15
2H249CA28
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA05
4E168EA06
4E168EA19
(57)【要約】
【課題】所望の干渉光のパターンを高い自由度で精度良く形成できると共に、レーザ光と開口との精密なアライメントが不要となる干渉光生成方法及び干渉光生成装置を提供する。
【解決手段】この干渉光生成方法では、基材15を第1のレーザ光LAの光路に配置し、第1のレーザ光LAを分割した複数の第1の光束L1を基材15に照射することで、基材15に複数の第1の光束L1の照射位置に対応する複数の開口Pを形成してフィルタ6を作製し、フィルタ6の複数の開口Pのそれぞれを当該複数の開口Pに対応する複数の第1の光束L1の光軸上に維持した状態で、第2のレーザ光LBを複数の第1の光束L1と同一の光軸の複数の第2の光束L2に分割し、複数の開口Pのそれぞれを通過させた複数の第2の光束L2を互いに干渉させることで干渉光Lsを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ形成用の基材を第1のレーザ光の光路に配置する配置工程と、
前記第1のレーザ光を複数の第1の光束に分割し、当該複数の第1の光束を前記基材に照射することで、前記基材に前記複数の第1の光束の照射位置に対応する複数の開口を形成してフィルタを作製する作製工程と、
前記フィルタの前記複数の開口のそれぞれを当該複数の開口に対応する前記複数の第1の光束の光軸上に維持した状態で、第2のレーザ光を前記複数の第1の光束と同一の光軸の複数の第2の光束に分割し、前記複数の開口のそれぞれを通過させた前記複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する生成工程と、を含む干渉光生成方法。
【請求項2】
前記作製工程では、前記第1のレーザ光の前記複数の第1の光束への分割及び前記第2のレーザ光の前記複数の第2の光束への分割に、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用いる、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項3】
前記作製工程では、前記ホログラムパターンに前記複数の開口のサイズを拡大するための位相パターンを重畳する、請求項2記載の干渉光生成方法。
【請求項4】
前記ホログラムパターンに基づいて前記基材上における前記複数の第1の光束のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置を算出し、前記n次回折光及び前記(n+1)次回折光の輝点位置間の任意の位置に至るように、前記n次回折光に対応する開口のサイズを決定する決定工程を含む、請求項2記載の干渉光生成方法。
【請求項5】
前記ホログラムパターンに基づいて前記基材上における前記複数の第1の光束のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置及び強度をそれぞれ算出し、前記n次回折光の輝点位置から前記開口の縁までの距離と前記開口の縁から前記(n+1)次回折光の輝点位置までの距離との比が、前記n次回折光の強度と前記(n+1)次回折光との強度との比となるように、前記n次回折光に対応する開口のサイズを決定する決定工程を含む、請求項2記載の干渉光生成方法。
【請求項6】
前記基材において前記複数の開口の形成に必要な前記第1のレーザ光の強度を算出する算出工程を含む、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項7】
前記作製工程における前記第1のレーザ光の強度は、前記生成工程における前記第2のレーザ光の強度よりも大きい、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項8】
前記作製工程では、前記複数の第1の光束のみを用いて前記複数の開口を形成する、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項9】
前記作製工程では、前記複数の開口のそれぞれを断面円形に形成する、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項10】
前記作製工程で作製した前記複数の開口のサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えているか否かを判別する判別工程と、
前記判別工程において前記複数の開口のサイズの設定値からのずれ量が前記閾値を超えていると判断された場合に、前記複数の開口のサイズを再調整する再調整工程と、を含む、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項11】
前記作製工程では、前記第1のレーザ光の前記複数の第1の光束への分割及び前記第2のレーザ光の前記複数の第2の光束への分割に、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用い、
前記再調整工程では、前記ホログラムパターンを変化させた後、前記複数の第1の光束を前記基材に再照射する、請求項10記載の干渉光生成方法。
【請求項12】
前記再調整工程では、前記基材の位置を前記複数の第1の光束の光軸に沿って変化させた後、前記複数の第1の光束を前記基材に再照射する、請求項10記載の干渉光生成方法。
【請求項13】
前記配置工程では、長尺の基材の一領域を前記複数の第1の光束の光軸上に繰り出す、請求項1記載の干渉光生成方法。
【請求項14】
前記生成工程で生成された前記干渉光を対象物に照射して前記対象物を加工する加工工程を更に含む、請求項1~13のいずれか一項記載の干渉光生成方法。
【請求項15】
第1のレーザ光及び第2のレーザ光を出力する光源と、
前記第1のレーザ光の光路に配置されるフィルタ形成用の基材と、
前記第1のレーザ光を複数の第1の光束に分割し、前記第2のレーザ光を複数の第2の光束に分割する光分割部と、
前記光源の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記複数の第1の光束を前記基材に照射することで、前記基材に前記複数の第1の光束の照射位置に対応する複数の開口を形成してフィルタを作製し、
前記フィルタの前記複数の開口のそれぞれを当該複数の開口に対応する前記複数の第1の光束の光軸上に維持した状態で、前記第2のレーザ光を前記複数の第1の光束と同一の光軸の前記複数の第2の光束に分割し、前記複数の開口のそれぞれを通過させた前記複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する、干渉光生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、干渉光生成方法及び干渉光生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば対象物の表面或いは内部に微細加工を施すレーザ加工の分野では、多点同時加工を可能にするための干渉光生成技術が注目されている。かかる干渉光生成技術では、例えばレーザ光を複数の光束に分割し、複数の光束同士を互いに干渉させることで、所望のパターン(周期的な二次元強度分布)を有する干渉光を生成する。
【0003】
干渉光生成技術としては、例えば特許文献1に記載のパターン化干渉光生成装置がある。このパターン化干渉光生成装置は、レーザ光源と、ホログラムパターンの提示によってレーザ光の波面を制御する波面制御部と、波面制御光を目標位置に結像する結像光学系と、結像光学系の集光部分に配置されたフィルタと、結像光学系の集光部分に所望次数の輝点が複数生成されるようにホログラムパターンを制御する制御部とを備えている。フィルタには、複数の所望次数の輝点に対して放射状に延在する長尺形状の複数のスリットが形成されている。これにより、輝点の位置が長尺形状のスリットを通過する範囲内であれば、フィルタを交換することなく干渉光の周期的な二次元強度分布を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような干渉光生成技術では、フィルタに形成する開口の形状及び位置が非常に重要となる。開口に入射するレーザ光のビーム径に対して、開口の形状及び位置が適切でない場合、通過させるべき光が開口でカットされる、或いはカットすべき光が開口を通過するといった理由で、得られる干渉光のパターンが所望のパターンからずれてしまうため、パターンの設計自由度が阻害されることが課題となっていた。また、得られる干渉光のパターンを変更する場合、レーザ光のビーム径などの変更に応じて、開口の形状及び位置が異なるフィルタを用意する必要があるが、レーザ光が開口を適切に通過するように高い精度でのアライメントが都度要求されることとなる。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、所望の干渉光のパターンを高い自由度で精度良く形成できると共に、レーザ光と開口との精密なアライメントが不要となる干渉光生成方法及び干渉光生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る干渉光生成方法は、フィルタ形成用の基材を第1のレーザ光の光路に配置する配置工程と、第1のレーザ光を複数の第1の光束に分割し、当該複数の第1の光束を基材に照射することで、基材に複数の第1の光束の照射位置に対応する複数の開口を形成してフィルタを作製する作製工程と、フィルタの複数の開口のそれぞれを当該複数の開口に対応する複数の第1の光束の光軸上に維持した状態で、第2のレーザ光を複数の第1の光束と同一の光軸の複数の第2の光束に分割し、複数の開口のそれぞれを通過させた複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する生成工程と、を含む。
【0008】
この干渉光生成方法では、第1のレーザ光を分割して複数の第1の光束とし、これらの第1の光束を基材に照射して複数の開口を形成することでフィルタを作製する。これにより、第1のレーザ光に対する単一の光学系で基材に複数の開口を形成できるため、所望の干渉光のパターンを高い自由度で精度良く形成できる。また、この干渉光生成方法では、第2のレーザ光を複数の第1の光束と同一の光軸の複数の第2の光束に分割し、複数の開口のそれぞれを通過させた複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する。つまり、この方法では、干渉光の生成にあたって、その場で干渉光生成用のフィルタを作製するのであり、フィルタの作製後に複数の第2の光束をそのまま複数の開口に通すことができる。したがって、生成する干渉光のパターンを変更する場合であっても、レーザ光と開口との精密なアライメントが不要となる。
【0009】
作製工程では、第1のレーザ光の複数の第1の光束への分割及び第2のレーザ光の複数の第2の光束への分割に、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用いてもよい。この場合、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用いて、所望の干渉光のパターンに応じた第1の光束及び第2の光束の生成(第1のレーザ光及び第2のレーザ光の波面制御)を容易に実施できる。
【0010】
作製工程では、ホログラムパターンに複数の開口のサイズを拡大するための位相パターンを重畳してもよい。これにより、生成工程で第2の光束が干渉しない適切なサイズの開口を容易に形成できる。
【0011】
ホログラムパターンに基づいて基材上における複数の第1の光束のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置を算出し、n次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置間の任意の位置に至るように、n次回折光に対応する開口のサイズを決定する決定工程を含んでいてもよい。これにより、n次回折光に対応する開口のサイズを適切に決定できる。
【0012】
ホログラムパターンに基づいて基材上における複数の第1の光束のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置及び強度をそれぞれ算出し、n次回折光の輝点位置から開口の縁までの距離と開口の縁から(n+1)次回折光の輝点位置までの距離との比が、n次回折光の強度と(n+1)次回折光との強度との比となるように、n次回折光に対応する開口のサイズを決定する決定工程を含んでいてもよい。これにより、n次回折光に対応する開口のサイズを適切に決定できる。
【0013】
基材において複数の開口の形成に必要な第1のレーザ光の強度を算出する算出工程を含んでいてもよい。この場合、適切な強度で第1の光束による開口の形成を実施できる。
【0014】
作製工程における第1のレーザ光の強度は、生成工程における第2のレーザ光の強度よりも大きくてもよい。これにより、干渉光の生成の際に第2の光束が開口に干渉することを抑制できる。
【0015】
作製工程では、複数の第1の光束のみを用いて複数の開口を形成してもよい。この場合、第1の光束のみが開口の形成に寄与することで、干渉光の生成の際に干渉光の生成に寄与しない余分な光束が開口を通過することを抑制できる。
【0016】
作製工程では、複数の開口のそれぞれを断面円形に形成してもよい。この場合、複数の開口のそれぞれが矩形状などの他の形状を有する場合に比べて、生成される干渉光のノイズを低減できる。
【0017】
作製工程で作製した複数の開口のサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えているか否かを判別する判別工程と、判別工程において複数の開口のサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えていると判断された場合に、複数の開口のサイズを再調整する再調整工程と、を含んでいてもよい。この場合、開口のサイズが適切に再調整されることで、所望の干渉光のパターンを精度良く形成できる。
【0018】
作製工程では、第1のレーザ光の前記複数の第1の光束への分割及び前記第2のレーザ光の前記複数の第2の光束への分割に、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用い、再調整工程では、ホログラムパターンを変化させた後、複数の第1の光束を基材に再照射してもよい。この場合、開口のサイズの再調整にあたって基材の移動などが不要となるため、開口のサイズの再調整を簡便に実施できる。
【0019】
再調整工程では、基材の位置を複数の第1の光束の光軸に沿って変化させた後、複数の第1の光束を基材に再照射してもよい。この場合、開口のサイズの再調整を短時間で簡便に実施できる。
【0020】
配置工程では、長尺の基材の一領域を複数の第1の光束の光軸上に繰り出してもよい。このような手法によれば、第1の光束の光軸に対して長尺の基材の配置領域をずらしていくことで、レーザ光の光軸方向に対する基材の位置を変えることなく、複数の第1の光束に対して基材の新しい領域(開口の無い領域)を配置することができる。したがって、干渉光のパターンを変更する際に、その場でのフィルタの生成を簡便に実施できる。
【0021】
生成工程で生成された干渉光を対象物に照射して対象物を加工する加工工程を更に含んでいてもよい。この場合、精度の良いパターンを有する干渉光を用いて対象物の加工を好適に実施できる。
【0022】
本開示の一側面に係る干渉光生成装置は、第1のレーザ光及び第2のレーザ光を出力する光源と、第1のレーザ光の光路に配置されるフィルタ形成用の基材と、第1のレーザ光を複数の第1の光束に分割し、第2のレーザ光を複数の第2の光束に分割する光分割部と、光源の動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、複数の第1の光束を基材に照射することで、基材に複数の第1の光束の照射位置に対応する複数の開口を形成してフィルタを作製し、フィルタの複数の開口のそれぞれを当該複数の開口に対応する複数の第1の光束の光軸上に維持した状態で、第2のレーザ光を複数の第1の光束と同一の光軸の複数の第2の光束に分割し、複数の開口のそれぞれを通過させた複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する。
【0023】
この干渉光生成装置では、第1のレーザ光を分割して複数の第1の光束とし、これらの第1の光束を基材に照射して複数の開口を形成することでフィルタを作製する。これにより、第1のレーザ光に対する単一の光学系で基材に複数の開口を形成できるため、所望の干渉光のパターンを高い自由度で精度良く形成できる。また、この干渉光生成装置では、第2のレーザ光を複数の第1の光束と同一の光軸の複数の第2の光束に分割し、複数の開口のそれぞれを通過させた複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する。つまり、この装置では、干渉光の生成にあたって、その場で干渉光生成用のフィルタを作製するのであり、フィルタの作製後に複数の第2の光束をそのまま複数の開口に通すことができる。したがって、生成する干渉光のパターンを変更する場合であっても、レーザ光と開口との精密なアライメントが不要となる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、所望の干渉光のパターンを高い自由度で精度良く形成できると共に、レーザ光と開口との精密なアライメントが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の一実施形態に係る干渉光生成装置を示す模式的な図である。
【
図2】(a)は光分割部である空間光変調器が提示するホログラムパターンの一例を示す図であり、(b)は集光位置での複数の輝点を示す図であり、(c)は目標位置で生成される干渉光を示す図である。
【
図3】(a)は光分割部である空間光変調器が提示するホログラムパターンの別例を示す図であり、(b)は集光位置での複数の輝点を示す図であり、(c)は目標位置で生成される干渉光を示す図である。
【
図4】フィルタにおける開口のサイズと干渉光のパターンとの関係を示す図である。
【
図5】(a)はフラットトップ型のレーザ光のビーム断面を示す図であり、(b)はガウシアン型のレーザ光のビーム断面を示す図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る干渉光生成方法を示すフローチャートである。
【
図7】(a)はn次回折光に対する開口のサイズの決定の一例を示す模式的な図であり、(b)はn次回折光に対する開口のサイズの決定の別例を示す模式的な図である。
【
図10】(a)は断面長円形の開口を用いた場合の干渉光のパターンの一例を示す図であり、(b)は断面円形の開口を用いた場合の干渉光のパターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る干渉光生成方法及び干渉光生成装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本開示の一実施形態に係る干渉光生成装置を示す模式的な図である。
図1に示す干渉光生成装置1は、目標位置2に所望のパターン(周期的な二次元強度分布)を有する干渉光を生成する装置として構成されている。本実施形態では、目標位置2に対象物Sが配置され、干渉光Lsによる対象物Sの表面の多点同時加工が実施可能となっている。
図1に示すように、干渉光生成装置1は、光源3と、光分割部4と、結像光学系5と、フィルタ6(後述の基材15)と、制御部7とを備えている。
【0028】
光源3は、目標位置2に向けて第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBを出力する装置である。光源3は、後述の第1の光束L1の出力及び第2の光束L2の出力を兼ねた光源であり、制御部7からの制御信号に基づいて、第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBのいずれかを切り替えて出力する。光源3としては、例えば数百ピコ秒から数フェムト秒のパルス幅を有するパルスレーザ光源を用いることができる。光源3から出力した第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBは、直接或いは所定の光学系を介して光分割部4に入力される。光源3は、波長を制御可能な単一のレーザ光源を有し、第1のレーザ光LAの出力時と第2のレーザ光LBの出力時との間で波長を変更するものであってもよい。また、光源3は、例えば互いに異なる波長のレーザ光を出力する複数のレーザ光源を有し、第1のレーザ光LA時と第2のレーザ光LBの出力時との間で、複数のレーザ光源からのレーザ光の光路をミラー等で切り替える構成を有していてもよい。
【0029】
光分割部4は、第1のレーザ光LAを複数の第1の光束L1に分割し、第2のレーザ光LBを複数の第2の光束L2に分割する部分である。第1の光束L1は、基材15を加工してフィルタ6を形成するフィルタ形成用の光束である。第2の光束L2は、目標位置2における干渉光形成用の光束であり、対象物Sの表面の加工に用いられる光束である。第1の光束L1及び第2の光束L2の詳細は、後述する。
【0030】
光分割部4としては、例えば位相変調型の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)、デフォーマブルミラーなど、第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBの波面を動的に制御できるものを用いることができる。また、光分割部4としては、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)など、第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBの波面を静的に制御できるものを用いることができる。空間光変調器、デフォーマブルミラー、及び回折光学素子は、透過型及び反射型のいずれであってもよい。空間光変調器は、LCD(Liquid Crystal Display型)、LCOS(Liquid Crystalon Silicon)型、MEMS(Micro Electron Mechanical Systems)型、光アドレス型、磁気光学型のいずれであってもよい。本実施形態では、光分割部4として、透過型かつLCOS型の空間光変調器8が用いられている。
【0031】
空間光変調器8は、入力された第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBに対し、2次元配列された複数の画素において、レーザ光Lの波面(位相)を制御するホログラムパターンを呈示し、レーザ光Lの波面制御を実施する。ホログラムパターンは、数値計算によって求められるホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)であることが好ましい。空間光変調器8から出力される波面制御光(ここでは、複数の第1の光束L1又は複数の第2の光束L2)は、結像光学系5に入力される。
【0032】
結像光学系5は、空間光変調器8から出力される波面制御光を目標位置2に結像する光学系である。結像光学系5は、例えば一対のレンズ9,10を有している。本実施形態では、結像光学系5は、縮小光学系である。レンズ9は、入力側焦点(焦点距離f1)が空間光変調器8の出力面に位置するように配置されている。レンズ10は、入力側焦点(焦点距離f2)がレンズ9の出力側焦点(焦点距離f1)に位置し、かつ出力側焦点(焦点距離f2)が目標位置2に位置するように配置されている。このような配置により、レンズ9ではフーリエ変換が行われ、レンズ10では逆フーリエ変換が行われる。
【0033】
フィルタ6は、干渉光形成用の光束である第2のレーザ光LBのうち、所定次数の輝点のみを通過させる部分である。フィルタ6は、レンズ9,10間において、結像光学系5の集光位置F、すなわち、レンズ9の出力側焦点(フーリエ面)及びレンズ10の入力側焦点に配置されている。フィルタ6は、レンズ9の出力側焦点において、所望次数の輝点のみを通過させる複数の開口Pを有している。開口Pの断面形状は、円形、楕円形、多角形などの種々の形状を採り得るが、ここでは断面円形に形成されている。本実施形態では、フィルタ6は、所望次数の輝点として+1次回折光のみを開口Pから通過させ、+1次回折光以外の輝点をカットする。
【0034】
制御部7は、光源3及び光分割部4の動作を制御する部分である。物理的には、例えばCPU等のプロセッサ、RAM、ROM等の記憶媒体を備えて構成されている。制御部7は、表示部や入力部を一体に備えたスマートフォン或いはタブレット端末であってもよい。コンピュータは、マイクロコンピュータやFPGA(Field-Programmable Gate Array)などで構成されていてもよい。
【0035】
本実施形態では、制御部7は、光源3から出力される第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBの出力条件(強度、繰返周波数など)を指示する指示信号を出力する。また、制御部7は、光分割部4を構成する空間光変調器8における波面制御量(位相変調量)を設定し、画素毎の波面制御量の設定信号を出力し、空間光変調器8が提示するホログラムパターンを制御する。なお、光分割部4を回折光学素子で構成する場合、回折光学素子には予め必要な微細パターンが形成されているため、制御部7による光分割部4の制御は不要となる。
【0036】
以上のような干渉光生成装置1では、例えば
図2(a)及び
図3(a)に示すようなホログラムパターン11A,11Bの提示により、
図2(b)及び
図3(b)に示すような+1次回折光12A,12Bが結像光学系5の集光位置F(フィルタ6の位置)にそれぞれ生成される。フィルタ6によって0次光及び高次回折光がカットされ、開口Pを通過した+1次回折光12がレンズ10によって逆フーリエ変換されることで、
図2(c)及び
図3(c)に示すような干渉光Ls1,Ls2が目標位置2に生成される。
【0037】
図2(a)のホログラムパターン11Aによって形成される
図2(b)の4つの+1次回折光12Aは、
図3(a)のホログラムパターン11Aによって形成される
図3(b)の4つの+1次回折光12Bと比較して、中心に対する間隔が狭くなっている。
図2(c)及び
図3(c)に示すように、4つの+1次回折光12A,12Bの中心に対する間隔を狭くすると、目標位置2における干渉光Ls1,Ls2の周期的な二次元強度分布の周期間隔が広がることが分かる。このように、干渉光生成装置1では、干渉光形成用の光束である第2のレーザ光LBに対して提示するホログラムパターンの制御により、目標位置2において様々なパターンの周期的な二次元強度分布を有する干渉光Lsを生成することができる。
【0038】
干渉光生成装置1では、フィルタ6に形成する開口Pの形状及び位置が非常に重要となる。例えば開口Pに入射するレーザ光(第2の光束L2)のビーム径に対して、開口Pの形状及び位置が適切でない場合、通過させるべき光が開口Pでカットされる、或いはカットすべき光が開口Pを通過するといった理由で、得られる干渉光Lsのパターンが所望のパターンからずれてしまうため、パターンの設計自由度が阻害され得る。
【0039】
図4は、フィルタにおける開口のサイズと干渉光のパターンとの関係を示す図である。同図では、ビーム内の強度分布が一様なレーザ光を用いた場合を例示する。
図4に示すように、レーザ光のビーム径に対して開口Pのサイズが最適である場合、
図4の中央に示すような均一な周期構造の二次元強度分布を有する干渉光Lsが生成され得る。これに対し、レーザ光のビーム径に対して開口のサイズが不足すると、
図4の左二つに示すように、意図していた干渉が実現せず、干渉光Lsの周期構造の均一性が損なわれてしまうことが考えられる。また、レーザ光のビーム径に対して開口Pのサイズが過剰になると、
図4の右二つに示すように、意図しない干渉が加わって、二次元強度分布が異なる干渉光Lsが生成されてしまうことも考えられる。
【0040】
干渉光Lsの生成に用いられるレーザ光としては、フラットトップ型のビーム断面を有するものが用いられる場合がある。フラットトップ型のビーム断面を有するレーザ光Laを集光する場合、例えば
図5(a)に示すように、集光位置Fにおいて、輝点の周囲にサイドローブが出現し得る。n次回折光及び(n+1)次回折光のそれぞれのサイドローブが重なり合う場合など、多重のサイドローブのいずれを用いるかは、所望の干渉光Lsのパターンによっても異なるが、開口Pの形状或いは位置が適切でなく、フィルタ6によってサイドローブがカットされてしまうと、
図5(b)に示すようなガウシアン型のビーム断面を有するレーザ光Lbとほぼ等価となり、干渉光Lsのパターンが所望のパターンからずれてしまうおそれがある。
【0041】
また、得られる干渉光Lsのパターンを変更する場合、レーザ光のビーム径などの変更に応じて、開口Pの形状及び位置が異なるフィルタ6を用意する必要がある。このため、フィルタ6を交換する際に、レーザ光が開口Pを適切に通過するように、高い精度でのアライメントが都度要求されることとなる。
【0042】
このような課題に対し、干渉光生成装置1では、干渉光Lsの生成にあたって、複数の第1の光束L1を基材15に照射して開口Pを形成することで、その場で干渉光生成用のフィルタ6を作製し、作製したフィルタ6の開口Pにそのまま複数の第2の光束L2を通過させて干渉光Lsの生成に用いることで、レーザ光(第2の光束L2)と開口Pとの精密なアライメントを不要とし、かつ、所望の干渉光Lsのパターンの精度向上を図っている。
【0043】
以下、干渉光生成装置1の動作と共に、本開示の一実施形態に係る干渉光生成方法について、詳細に説明する。
【0044】
図6は、本開示の一実施形態に係る干渉光生成方法を示すフローチャートである。同図に示すように、本実施形態に係る干渉光生成方法は、算出工程(ステップS01)と、決定工程(ステップS02)と、配置工程(ステップS03)と、作製工程(ステップS04)と、判別工程(ステップS05)と、再調整工程(ステップS06)と、生成工程(ステップS07)とを含んで構成されている。
【0045】
算出工程S01は、基材15において複数の開口Pの形成に必要な第1のレーザ光LAの強度を算出する工程である。算出工程S01では、例えば制御部7において、フィルタ6の形成に用いる基材15の材質、厚さなどに基づいて、作製工程S04で用いる第1のレーザ光LA(第1の光束L1)の強度の算出を行う。ここでは、作製工程S04における第1のレーザ光LA(第1の光束L1)の強度を、生成工程S07における第2のレーザ光LB(第2の光束L2)の強度よりも大きく設定する。制御部7は、算出結果に基づく指示信号を生成し、当該指示信号を光源3に出力することで、光源3からの第1のレーザ光LAの強度を制御する。
【0046】
決定工程S02は、基材15に形成する開口Pのサイズを決定する工程である。決定工程S02では、例えば制御部7において、第1のレーザ光LAのn次回折光に対応する開口Pのサイズを決定する。制御部7は、決定した開口Pのサイズに基づいて指示信号を生成し、当該指示信号を光分割部4に出力して空間光変調器8が提示するホログラムパターンを制御する。
【0047】
開口Pのサイズの決定にあたっては、例えば
図7(a)に示すように、ホログラムパターンに基づいて基材15上における複数の第1の光束L1のn次回折光の輝点位置B
n及び(n+1)次回折光の輝点位置B
n+1をそれぞれ算出し、n次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置B
n,B
n+1間の任意の位置に至るように、n次回折光に対応する開口Pのサイズを決定してもよい。
図7(a)の例では、n次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置B
n,B
n+1間の中点の位置に至るように、n次回折光に対応する断面円形の開口Pの半径を決定している。
【0048】
また、例えば
図7(b)に示すように、ホログラムパターンに基づいて基材15上における複数の第1の光束L1のn次回折光の輝点位置B
n及び強度、(n+1)次回折光の輝点位置B
n+1及び強度をそれぞれ算出し、n次回折光の輝点位置B
nから開口Pの縁までの距離と開口Pの縁から(n+1)次回折光の輝点位置B
n+1までの距離との比が、前記n次回折光の強度と前記(n+1)次回折光との強度との比となるように、n次回折光に対応する開口Pのサイズを決定してもよい。
【0049】
すなわち、n次回折光の強度と前記(n+1)次回折光との強度との比がX:Yである場合、n次回折光の輝点位置B
nから開口Pの縁までの距離と開口Pの縁から(n+1)次回折光の輝点位置B
n+1までの距離との比がX:Yとなるように、n次回折光に対応する開口Pのサイズを決定する。
図7(b)の例では、n次回折光の強度と(n+1)次回折光の強度との比が7:3となっており、n次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置B
n,B
n+1間の距離を1とした場合に、開口Pの縁が7/10となる位置に至るように、n次回折光に対応する断面円形の開口Pの半径を決定している。
【0050】
なお、上述した算出工程S01及び決定工程S02は、いずれを先に実施してもよく、同時に実施してもよい。
【0051】
配置工程S03は、フィルタ形成用の基材15を第1のレーザ光LAの光路に配置する工程である。基材15は、例えば金属板或いは樹脂板によって構成されている。金属材料としては、例えばステンレス鋼(SUS)、アルミニウムなどが挙げられる。樹脂材料としては、例えば紫外線硬化性アクリル樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられる。熱伝導率が低く、第1のレーザ光LAによる開口Pの形成を精度良く実施できる観点からは、ステンレス鋼による金属板によって基材15を構成することが好適である。
【0052】
本実施形態では、
図8に示すように、長尺の基材15を用意し、当該長尺の基材15を第1のレーザ光LAの光軸に対して繰り出すことで、基材15の一領域Rを結像光学系5の集光位置Fに配置する。長尺の基材15は、例えばロール状のものを用意し、繰出ローラと巻取ローラとの間で第1のレーザ光LAの光軸を跨るように基材15を搬送する構成としてもよい。このような構成を採用することで、干渉光Lsのパターンを変更する際、長尺の基材15の巻き取りによって、開口Pが形成された基材15の一領域Rを結像光学系5の集光位置Fから外すと共に、新たな一領域Rを結像光学系5の集光位置Fに配置することができる。
【0053】
作製工程S04は、基材15に複数の開口Pを形成してフィルタ6を作製する工程である。作製工程S03では、算出工程S01で算出した強度に基づいて制御部7が光源3を制御し、光源3から第1のレーザ光LAを出力する。また、決定工程S02で決定した開口Pのサイズに基づいて、制御部7が光分割部4を制御し、空間光変調器8からホログラムパターンを呈示する。ホログラムパターンによって第1のレーザ光LAの波面を制御することで、光源3から出力された第1のレーザ光LAを複数の第1の光束L1に分割する。そして、
図9に示すように、複数の第1の光束L1を長尺の基材15の一領域Rに照射することで、当該一領域Rに複数の第1の光束L1の照射位置に対応する複数の開口Pを形成してフィルタ6を作製する。なお、複数の第1の光束L1の照射に際して、基材15の加工時の飛散物を回収する集塵機を基材15の近傍に配置してもよい。
【0054】
作製工程S04では、通常は、複数の第1の光束L1のみを用い、複数の第1の光束L1の集光径に応じた複数の開口Pを基材15の一領域Rに形成する。一方、基材15を集光位置Fから複数の第1の光束L1の光軸方向に前後させることで、複数の第1の光束L1の集光径よりも一回り大きいサイズの複数の開口Pを基材15の一領域Rに形成してもよい。この場合、基材15の前後移動に代えて、ホログラムパターンに複数の開口Pのサイズを拡大するための位相パターンを重畳してもよい。このような位相パターンとしては、例えばチルト成分やデフォーカス成分などが挙げられる。このような位相パターンをホログラムパターンに重畳することで、第1の光束L1によって基材15に形成される複数の開口Pのサイズが、第1の光束L1におけるビーム径よりも僅かに大きくなり、後述の生成工程S07で第2の光束L2が開口Pのエッジに干渉してしまうことを抑制できる。
【0055】
例えばチルト成分を第1の光束L1に重畳する場合、集光位置F付近での第1の光束L1のビーム強度が大きくなり、第1の光束L1によって基材15に形成される複数の開口Pのサイズを第1の光束L1におけるビーム径よりも僅かに大きくすることができる。また、例えばデフォーカス成分を第1の光束L1に重畳する場合、集光位置Fにおける第1の光束L1のビーム位置をずらすことができる。したがって、ビーム位置をずらしながら複数回にわたって照射を行うことで、第1の光束L1によって基材15に形成される複数の開口Pのサイズを第1の光束L1におけるビーム径よりも僅かに大きくすることができる。
【0056】
複数の開口Pのサイズは、n次回折光が通過し、且つ(n+1)次回折光が通過しない範囲において、可能な限り大きくしてもよい。複数の開口Pのサイズを大きくすることで、結像光学系5に振動が加わった場合であっても、後述の生成工程S07で第2の光束L2が開口Pのエッジに干渉してしまうことを抑制できる。また、n次回折光の利用効率を高めることも可能となる。
【0057】
判別工程S05は、作製工程S04で作製したフィルタ6に対し、複数の開口Pのサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えているか否かを判別する工程である。判別工程S05での判別結果を示す情報は、例えば制御部7に入力される。複数の開口Pのサイズの評価は、種々の方法を適用可能である。例えば複数の開口Pを通過した複数の第1の光束L1又は複数の第2の光束L2によって目標位置2に生成される干渉光Lsのパターンに基づいて実施してもよい。複数の第2の光束L2に対して複数の第1の光束L1に上述したチルト成分やデフォーカス成分が含まれる場合には、評価用の干渉光Lsのパターン生成が難しい場合も考えられるが、複数の第2の光束L2に対し強度のみが異なる複数の第1の光束L1を用いる場合には、かかる評価用の干渉光Lsのパターン生成を好適に実施できる。
【0058】
また、複数の開口Pのサイズの評価にあたって、例えば複数の開口Pが形成されたフィルタ6をカメラ等で撮像し、画像解析などで開口Pのサイズを取得してもよく、複数の開口Pを通過した第1の光束L1(或いは第2の光束L2)のファーフィールドパターンに基づいて開口Pのサイズを取得してもよい。本実施形態のように光分割部4に空間光変調器8を用いる場合、基材15に形成される開口Pのサイズはホログラムパターンによって事前に演算可能であるが、演算結果と実際の開口Pの画像比較などにより、複数の開口Pのサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えているか否かを判別してもよい。
【0059】
再調整工程S06は、複数の開口のサイズを再調整する工程である。再調整工程S06は、判別工程S05において複数の開口Pのサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えていると判断された場合に実施され、判別工程S05において複数の開口Pのサイズの設定値からのずれ量が閾値以下であると判断された場合には、スキップされる。なお、ここでは、作製工程S04で形成された複数の開口Pのサイズが設定値に対して閾値を超えて小さい場合に再調整工程S06を実施し、複数の開口Pのサイズを設定値に近づける。作製工程S04で形成された複数の開口Pのサイズが設定値に対して閾値を超えて大きい場合には、基材15の新たな一領域Rを結像光学系5の集光位置Fに配置し、作製工程S04を改めて実施する。
【0060】
再調整工程S06では、第1の光束L1の強度、位置、ビーム形状などの条件を初回の照射の際の条件から変えて基材15への第1の光束L1の再照射を実施する。具体的には、空間光変調器8が提示するホログラムパターンを変化させた後、複数の第1の光束L1を基材15に再照射してもよい。また、基材15の位置を複数の第1の光束L1の光軸に沿って前後に変化させた後、複数の第1の光束L1を基材15に再照射してもよい。
【0061】
再調整工程S06を実施した後は、判別工程S05及び再調整工程S06を再度実行してもよく、判別工程S05及び再調整工程S06の再実行を省略して生成工程S07に移行してもよい。
【0062】
生成工程S07は、複数の開口Pを形成したフィルタ6を用いて干渉光Lsを生成する工程である。生成工程S07では、上記工程で作製したフィルタ6の複数の開口Pのそれぞれを当該複数の開口Pに対応する複数の第1の光束L1の光軸上に維持した状態で保持する。制御部7が光源3及び光分割部4を制御し、空間光変調器8が提示したホログラムパターンによって第2のレーザ光LBの波面を制御することで、光源3から出力された第2のレーザ光LBを複数の第1の光束L1と同一の光軸の複数の第2の光束L2に分割する。そして、複数の開口Pのそれぞれを通過させた複数の第2の光束L2を目標位置2において互いに干渉させることで、当該目標位置2に干渉光Lsを生成する。
【0063】
生成工程S07では、第2のレーザ光LB(複数の第2の光束L2)と開口Pとの精密なアライメントを不要とする観点から、フィルタ6の複数の開口Pのそれぞれを当該複数の開口Pに対応する複数の第1の光束L1の光軸上に維持した状態で保持したままレーザ光を複数の第1の光束L1から複数の第2の光束L2に切り替えるが、上記作製工程S04の説明で触れたように、開口Pのサイズの拡大を目的として基材15を集光位置Fから複数の第1の光束L1の光軸方向に前後させた場合には、フィルタ6を光軸方向に移動させ、集光位置Fに戻してもよい。
【0064】
加工工程S08は、対象物Sを加工する工程である。加工工程S08では、目標位置2に配置された対象物Sに干渉光Lsを照射し、対象物Sの表面の加工を実施する。加工工程S08では、目標位置2に配置された対象物Sを複数の第2の光束L2の光軸に直交する面内に移動自在な保持部(不図示)に保持してもよい。保持部によって対象物Sの表面の任意の位置に干渉光Lsを走査することで、当該表面における所望の領域の加工を簡便に実施できる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、第1のレーザ光LAを分割して複数の第1の光束L1とし、これらの第1の光束L1を基材15に照射して複数の開口Pを形成することでフィルタ6を作製する。これにより、第1のレーザ光LAに対する単一の光学系で基材15に複数の開口Pを形成できるため、所望の干渉光Lsのパターンを高い自由度で精度良く形成できる。また、本実施形態では、第2のレーザ光LBを複数の第1の光束L1と同一の光軸の複数の第2の光束L2に分割し、複数の開口Pのそれぞれを通過させた複数の第2の光束L2を互いに干渉させることで干渉光Lsを生成する。つまり、この方法では、干渉光Lsの生成にあたって、その場で干渉光生成用のフィルタ6を作製するのであり、フィルタ6の作製後に複数の第2の光束L2を複数の開口Pに通すことができる。したがって、生成する干渉光Lsのパターンを変更する場合であっても、レーザ光L(第2の光束L2)と開口Pとの精密なアライメントが不要となる。
【0066】
本実施形態では、第1のレーザ光LAの複数の第1の光束L1への分割及び第2のレーザ光LBの複数の第2の光束L2への分割に、空間光変調器8によって提示されるホログラムパターンを用いている。このように、空間光変調器8によって提示されるホログラムパターンを用いることで、所望の干渉光Lsのパターンに応じた第1の光束L1及び第2の光束L2の生成(第1のレーザ光LA及び第2のレーザ光LBの波面制御)を容易に実施できる。空間光変調器8を用いた光分割では、回折光学素子などを用いた光分割に比べて、分割後の光束の偏光方向の変化などを抑えることが可能となる。また、空間光変調器8の各画素のレベルで分割後の光束の変調を行うことができる。
【0067】
本実施形態では、ホログラムパターンに複数の開口Pのサイズを拡大するための位相パターンを重畳する態様を採り得る。この場合、干渉光Lsの生成に用いる複数の第2の光束L2が干渉しない適切なサイズの開口Pを容易に形成できる。
【0068】
本実施形態では、ホログラムパターンに基づいて基材15上における複数の第1の光束L1のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置Bn,Bn+1を算出し、n次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置Bn,Bn+1間の任意の位置に至るように、n次回折光に対応する開口Pのサイズを決定する態様を採り得る。
【0069】
また、本実施形態では、ホログラムパターンに基づいて基材15上における複数の第1の光束L1のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置Bn,Bn+1及び強度をそれぞれ算出し、n次回折光の輝点位置Bnから開口Pの縁までの距離と当該開口Pの縁から(n+1)次回折光の輝点位置Bn+1までの距離との比が、n次回折光の強度と(n+1)次回折光との強度との比となるように、n次回折光に対応する開口Pのサイズを決定する態様を採り得る。これらの態様によれば、n次回折光に対応する開口Pのサイズを適切に決定できる。
【0070】
本実施形態では、基材15において複数の開口Pの形成に必要な第1のレーザ光LAの強度の算出を実施する。基材15の材質等に基づいて第1のレーザ光LAの強度を算出することで、適切な強度で第1の光束L1による開口Pの形成を実施できる。
【0071】
本実施形態では、フィルタ6の作製に用いる第1のレーザ光LAの強度(複数の第1の光束L1の強度)を、干渉光Lsの生成に用いる第2のレーザ光LBの強度(複数の第2の光束L2の強度)よりも大きくしている。これにより、適切なサイズの開口Pを基材15に好適に形成することが可能となり、干渉光Lsの生成の際に第2の光束L2が開口Pに干渉することを抑制できる。
【0072】
本実施形態では、複数の第1の光束L1のみを用いて複数の開口Pを形成している。第1の光束L1のみが開口Pの形成に寄与することで、干渉光Lsの生成の際に干渉光Lsの生成に寄与しない余分な光束が開口Pを通過することを抑制できる。
【0073】
本実施形態では、複数の開口Pのそれぞれを断面円形に形成している。これにより、複数の開口Pのそれぞれが矩形状などの他の形状を有する場合に比べて、生成される干渉光Lsのノイズを低減できる。なお、例えば熱硬化樹脂或いは紫外線硬化樹脂などの樹脂を基材15の構成材料として使用する場合には、第1の光束L1を用いた複数の開口Pの形成の後に、樹脂を硬化させるための近赤外光或いは紫外光を、第1の光束L1とは別に基材15に照射してもよい。
【0074】
図10(a)は、断面長円形の開口を用いた場合の干渉光のパターンの一例を示す図である。同図に示すように、断面長円形の開口を用いた場合では、中央から遠い領域である程、干渉光のパターンが外側に伸びるような形に歪んでいることが分かる。このような干渉光のパターンの歪みは、長円の長軸方向において、本来はフィルタでカットされるべき光が通過しやすいことに起因するものと考えられる。
【0075】
これに対し、
図10(b)は、断面円形の開口を用いた場合の干渉光のパターンの一例を示す図である。同図に示すように、断面円形の開口を用いた場合では、領域の全体において、干渉光のパターンが一定の形に保たれていることが分かる。したがって、断面円形の開口を用いた場合には、干渉光Lsのノイズを低減でき、より精度の良いパターンで干渉光Lsを生成できることが分かる。
【0076】
本実施形態では、作製した複数の開口Pのサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えていると判断された場合に、複数の開口Pのサイズを再調整する。開口Pのサイズが適切に再調整されることで、干渉光Lsの生成の際に第2の光束L2が開口Pに干渉することをより確実に抑制でき、所望の干渉光Lsのパターンを精度良く形成できる。
【0077】
本実施形態では、開口Pのサイズの再調整にあたって、ホログラムパターンを変化させた後、複数の第1の光束L1を基材15に再照射する態様を採り得る。この場合、開口Pのサイズの再調整にあたって基材15の移動などが不要となるため、開口Pのサイズの再調整を簡便に実施できる。
【0078】
また、本実施形態では、開口Pのサイズの再調整に当たって、基材15の位置を複数の第1の光束L1の光軸に沿って変化させた後、複数の第1の光束L1を基材15に再照射する態様を採り得る。この場合、ホログラムパターンの切り替えのための時間を要しないため、開口Pのサイズの再調整を短時間で簡便に実施できる。
【0079】
本実施形態では、長尺の基材15の一領域Rを複数の第1の光束L1の光軸上に繰り出してフィルタ6の作製を実施している。このような手法によれば、第1の光束L1の光軸に対して長尺の基材15の配置領域をずらしていくことで、第1のレーザ光LAの光軸方向に対する基材15の位置を変えることなく、複数の第1の光束L1に対して基材15の新しい領域(開口Pの無い領域)を配置することができる。したがって、干渉光Lsのパターンを変更する際に、その場でのフィルタ6の生成を簡便に実施できる。
【0080】
本実施形態では、生成された干渉光Lsを対象物Sに照射して対象物Sを加工する。これにより、精度の良いパターンを有する干渉光Lsを用いて対象物Sの加工を好適に実施できる。
【0081】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、第1の光束L1へのチルト成分やデフォーカス成分の重畳、或いは第1の光束L1の強度を第2の光束L2の強度よりも大きくすることで、開口Pのサイズを第1の光束L1のビーム径よりも大きくしているが、第1の光束L1の波長を第2の光束L2に比べて基材15でのエネルギー吸収が大きい波長とする、或いは第1の光束L1のパルス幅を第2の光束L2のパルス幅に比べて大きくし、基材15に入力されるエネルギー量を大きくすることで、開口Pのサイズを第1の光束L1のビーム径よりも大きくしてもよい。なお、第1の光束L1を構成する第1のレーザ光LAと、第2の光束L2を構成する第2のレーザ光LBとを同一のパラメータとしてもよい。この場合、光源3からのレーザ光Lのパラメータ(強度、波長、パルス幅、ビーム径等)を変更せずに作製工程S04及び生成工程S07を連続的に実施することができる。
【0082】
また、上記実施形態では、長尺の基材15の一領域Rを複数の第1の光束L1の光軸上に繰り出してフィルタ6の作製を実施しているが、長尺の基材15に代えて、大面積の基材の一領域を複数の第1の光束L1の光軸上に配置し、フィルタ6の作製の度に当該基材を面内方向に移動させて新たな一領域を複数の第1の光束L1の光軸上に配置する態様としてもよい。また、円形の基材の一領域を複数の第1の光束L1の光軸上に配置し、フィルタ6の作製の度に当該基材を中心周りに回転させて新たな一領域を複数の第1の光束L1の光軸上に配置する態様としてもよい。
【0083】
本開示の要旨は、以下の[1]~[15]に示すとおりである。
[1]フィルタ形成用の基材を第1のレーザ光の光路に配置する配置工程と、前記第1のレーザ光を複数の第1の光束に分割し、当該複数の第1の光束を前記基材に照射することで、前記基材に前記複数の第1の光束の照射位置に対応する複数の開口を形成してフィルタを作製する作製工程と、前記フィルタの前記複数の開口のそれぞれを当該複数の開口に対応する前記複数の第1の光束の光軸上に維持した状態で、第2のレーザ光を前記複数の第1の光束と同一の光軸の複数の第2の光束に分割し、前記複数の開口のそれぞれを通過させた前記複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する生成工程と、を含む干渉光生成方法。
[2]前記作製工程では、前記第1のレーザ光の前記複数の第1の光束への分割及び前記第2のレーザ光の前記複数の第2の光束への分割に、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用いる、[1]記載の干渉光生成方法。
[3]前記作製工程では、前記ホログラムパターンに前記複数の開口のサイズを拡大するための位相パターンを重畳する、[2]記載の干渉光生成方法。
[4]前記ホログラムパターンに基づいて前記基材上における前記複数の第1の光束のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置を算出し、前記n次回折光及び前記(n+1)次回折光の輝点位置間の任意の位置に至るように、前記n次回折光に対応する開口のサイズを決定する決定工程を含む、[2]又は[3]記載の干渉光生成方法。
[5]前記ホログラムパターンに基づいて前記基材上における前記複数の第1の光束のn次回折光及び(n+1)次回折光の輝点位置及び強度をそれぞれ算出し、前記n次回折光の輝点位置から前記開口の縁までの距離と前記開口の縁から前記(n+1)次回折光の輝点位置までの距離との比が、前記n次回折光の強度と前記(n+1)次回折光との強度との比となるように、前記n次回折光に対応する開口のサイズを決定する決定工程を含む、[2]又は[3]記載の干渉光生成方法。
[6]前記基材において前記複数の開口の形成に必要な第1のレーザ光の強度を算出する算出工程を含む、[1]~[5]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[7]前記作製工程における前記第1のレーザ光の強度は、前記生成工程における前記第2のレーザ光の強度よりも大きい、[1]~[6]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[8]前記作製工程では、前記複数の第1の光束のみを用いて前記複数の開口を形成する、[1]~[7]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[9]前記作製工程では、前記複数の開口のそれぞれを断面円形に形成する、[1]~[8]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[10]前記作製工程で作製した前記複数の開口のサイズの設定値からのずれ量が閾値を超えているか否かを判別する判別工程と、前記判別工程において前記複数の開口のサイズの設定値からのずれ量が前記閾値を超えていると判断された場合に、前記複数の開口のサイズを再調整する再調整工程と、を含む、[1]~[9]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[11]前記作製工程では、前記第1のレーザ光の前記複数の第1の光束への分割及び前記第2のレーザ光の前記複数の第2の光束への分割に、空間光変調器によって提示されるホログラムパターンを用い、前記再調整工程では、前記ホログラムパターンを変化させた後、前記複数の第1の光束を前記基材に再照射する、[10]記載の干渉光生成方法。
[12]前記再調整工程では、前記基材の位置を前記複数の第1の光束の光軸に沿って変化させた後、前記複数の第1の光束を前記基材に再照射する、[10]記載の干渉光生成方法。
[13]前記配置工程では、長尺の基材の一領域を前記複数の第1の光束の光軸上に繰り出す、[1]~[12]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[14]前記生成工程で生成された前記干渉光を対象物に照射して前記対象物を加工する加工工程を更に含む、[1]~[13]のいずれか記載の干渉光生成方法。
[15]第1のレーザ光及び第2のレーザ光を出力する光源と、前記第1のレーザ光の光路に配置されるフィルタ形成用の基材と、前記第1のレーザ光を複数の第1の光束に分割し、前記第2のレーザ光を複数の第2の光束に分割する光分割部と、前記光源の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記複数の第1の光束を前記基材に照射することで、前記基材に前記複数の第1の光束の照射位置に対応する複数の開口を形成してフィルタを作製し、前記フィルタの前記複数の開口のそれぞれを当該複数の開口に対応する前記複数の第1の光束の光軸上に維持した状態で、第2のレーザ光を前記複数の第1の光束と同一の光軸の前記複数の第2の光束に分割し、前記複数の開口のそれぞれを通過させた前記複数の第2の光束を互いに干渉させることで干渉光を生成する、干渉光生成装置。
【符号の説明】
【0084】
1…干渉光生成装置、3…光源、4…光分割部、6…フィルタ、8…空間光変調器(光分割部)、11A,11B…ホログラムパターン、15…基材、R…一領域、LA…第1のレーザ光、LB…第2のレーザ光、L1…第1の光束、L2…第2の光束、Bn,Bn+1…輝点位置、Ls(Ls1,Ls2)…干渉光、P…開口、S…対象物。