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特開2024-168439イチゴの水耕栽培における花芽誘導方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168439
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】イチゴの水耕栽培における花芽誘導方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20241128BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20241128BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G31/00 601A
A01G31/00 612
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085132
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】521089498
【氏名又は名称】株式会社エコタイプ次世代植物工場
(71)【出願人】
【識別番号】523194606
【氏名又は名称】株式会社いちご研究室
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹葉 剛
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022DA08
2B022DA19
2B314MA14
2B314PA01
2B314PD61
(57)【要約】
【課題】植物の花芽形成を効果的に誘導する植物栽培方法を提供する。
【解決手段】生育中の植物に対し、400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育中の植物に対し、
400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導する、
植物栽培方法。
【請求項2】
前記青色光の光量子束密度が150~280μmol/m/sである、
請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記植物は、少なくとも子葉が展葉している状態である、
請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
前記青色光は、少なくとも2日以上連続して照射する、
請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項5】
前記青色光に加えて、300~400nmの波長域にピーク波長を有する近紫外光を照射する、
請求項1に記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の花芽形成を誘導する植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工光を利用して植物の成長を調節(制御あるいは促進)する技術が取り入れられた植物栽培が行われている。例えば、下記特許文献1には、生育中の植物に対して特定の出力波長と特定の光量子束密度を有する青色光からなる人工光を照射する植物栽培方法が記載されており、この方法によって植物の花芽形成を促進することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-258389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えばイチゴやランのように、温度、光、養分等の影響を受けやすく生育が難しい植物に対して上記のような従来技術を用いた場合、植物に人工光を長時間照射する必要があった。すなわち、花芽形成を誘導させる処理に必要な時間が長く、人工光等に必要な電力量も膨大であった。その上、成った花実は小さく、実の糖度も低い場合が多い傾向にあった。
【0005】
より付加価値の高い植物の栽培が求められている現状において、花芽形成を促進して花実数を増やし、かつ、品質の良い植物を生育することは、生産者の収量や利益が向上するだけでなく、消費者に対して時期を問わずに高品質な植物(花実)を提供できるというメリットがある。
【0006】
本発明は、上記のような現状を検討して改善を施した植物栽培方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の植物栽培方法は、生育中の植物に対し、400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導するというものである。
【0008】
本発明の青色光の光量子束密度が150~280μmol/m/sであってもよい。
【0009】
本発明の植物は、少なくとも子葉が展葉している状態であればよい。
【0010】
本発明の青色光は、少なくとも2日以上連続して照射すればよい。
【0011】
本発明の青色光に加えて、300~400nmの波長域にピーク波長を有する近紫外光を照射してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、様々な植物の花芽形成を直接的に促進する栽培が可能である。すなわち、生育中の植物に対し、特定波長の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給すると、植物体内で活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わることによって、複数日程度で花芽形成が誘導される。このため、花芽形成を誘導するのに必要な作業の時間を大幅に短縮できる。また、花実が大きかったり、実の糖度が高かったり、高品質な植物(花実)を生育することが可能になる。なお、前記青色光に加えて特定波長の近紫外光を照射することで、さらに優れた花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施例に係る酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果(試験1の結果)を示す表である。
図2】第1実施例に係る酸化ストレス処理の養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験2の結果)を示す表である。
図3】第1実施例に係る酸化ストレス処理の光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験3の結果)を示す表である。
図4】第2実施例に係る近紫外光を加えた酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果(試験4の結果)を示す表である。
図5】第2実施例に係る近紫外光を加えた酸化ストレス処理の養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験5の結果)を示す表である。
図6】第2実施例に係る近紫外光を加えた酸化ストレス処理の光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験6の結果)を示す表である。
図7】第3実施例に係る酸化ストレス処理を施す日数によるコチョウランの花芽誘導効果(試験7の結果)を示す表である。
図8】第3実施例に係る酸化ストレス処理の養液および光源の違いによるコチョウランの花芽誘導効果(試験8の結果)を示す表である。
図9】第3実施例に係る酸化ストレス処理の光強度の違いによるコチョウランの花芽誘導効果(試験9の結果)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の植物栽培方法は、生育中の植物に対し、特定の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培するものである。このように栽培することで、植物体内の青色光受容体が青色光を受光した後、活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わる。これにより、栄養成長から生殖成長へと傾き、植物の葉で花芽形成を誘導する物質が効果的に形成されて、植物の花芽形成が著しく促進される。
【0015】
酸化によるストレス(以下、酸化ストレスという。)とは、生体内で活性酸素を発生させる条件である。酸化ストレスを与える条件として、例えば強光、水ストレス(乾燥)、二酸化炭素(CO)不足、低温等がある。
【0016】
植物体内の青色光受容体は、クリプトクロム(Cryptochrome)とフォトトロピン(Phototropin)の2つが存在する。これらは青色光と近紫外光を吸収するものであって、植物の花芽形成促進、制御、成長制御等に関わるものである。クリプトクロムおよびフォトトロピンは、400~500nmの波長域の青色光と、300~400nmの波長域の近紫外光を吸収する。クリプトクロムおよびフォトトロピンが吸収する光のピーク波長は350nmと450nmである。特にクリプトクロムは花芽形成制御の役割を有するものである。また、植物の葉で花芽形成を誘導する物質とは、例えば花成ホルモンであるフロリゲン(Florigen)等がある。
【0017】
本発明は、生育中の植物に対して酸化ストレスを与えることで、花芽形成を効果的に促進する栽培方法である。この方法で栽培することで、個体維持のために株が大きくなる栄養成長から、種族維持のために花芽形成が促進される生殖成長へと傾く。これにより、植物の花芽形成が著しく促進されることとなる。
【0018】
本発明の栽培方法に係る特定波長の青色光について説明する。
使用する光源(青色光)は、その出力波長のピークが400~500nmの青色域に含まれるものである。出力ピークが複数存在したり、スペクトルの出力パターンが不規則かつブロードな形態を示したりする光源の場合、出力エネルギーの少なくとも50%以上が400~500nmの波長域に含まれるものであっても構わない。
【0019】
青色光におけるピーク波長のスペクトル幅は、効果的な花芽誘導の観点から、半値幅で100nm以下であることが好ましい。植物への照射光としては、上記青色光の他に、根の伸長や茎の分化等の別の目的のために、必要に応じて、他のピーク波長を有する光(例えば近紫外光)を照射してもよいが、600~800nmの赤色波長域の光は花芽誘導の阻害効果が著しいため、この波長域に含まれる放射エネルギー量は全放射エネルギー量の30%以下に抑えることが好ましく、さらには15%以下に抑えることが好ましい。
【0020】
青色光を照射するための光源としては、青色波長を効率的に発光し、かつ、青色光以外のエネルギー放射の少ない光源が求められる。具体的には、青色蛍光灯、青色発光ダイオード、青色レーザーダイオード、青色フィルター装置ランプ等が挙げられる。単色性や発光率の観点から、青色発光ダイオード、青色レーザーダイオードが特に好ましい。
【0021】
本発明の栽培方法において必要な光強度(光量子束密度)は、対象とする植物種や生育ステージ、使用する光源のスペクトルパターン等によって変化するが、光量子束密度として150~280μmol/m/sであることが好ましい。特に、210~250μmol/m/sであることが効率的な花芽形成を導く上で好ましい。
【0022】
本発明の栽培方法に係る窒素を含まない養液について説明する。
窒素を含まない養液とは、例えば水(HO)等がある。窒素を微量に含んでいる養液を使用しても構わないが、養液の窒素含有量の増加に比例して花芽形成を誘導する効果が低下する。従って、例えば窒素を含んでいない水道水等を用いることが好ましい。
【0023】
本発明に係る栽培方法の対象について説明する。
本発明に係る栽培方法の対象である生育中の植物とは、葉が形成された状態の苗(株)であって、少なくとも子葉が展葉している状態であることが好ましい。花芽形成を誘導する物質は植物の葉で形成されるため、葉が展葉している必要がある。子葉に加えて本葉1枚が展葉した苗に対して酸化ストレス処理を行った場合、子葉が展葉した苗に対してストレス処理を行った場合と比較して、開花が約2~3週間遅くなる。従って、本発明に係る酸化ストレス処理を施す対象としては、少なくとも子葉が展葉された苗(植物)を用いることが特に好ましい。なお、展葉数が同じ苗を集めて酸化ストレス処理を行うことで、発育段階を揃えることができる。
【0024】
本発明に係る酸化ストレス処理について説明する。
本発明において、酸化ストレス処理とは、生育中の植物に対し、特定波長の青色光または特定波長の青色光および近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導させる処理をいう。すなわち、生育中の植物に対し、特定波長の青色光または特定波長の青色光および近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培し、植物体内で活性酸素を発生させて酸化ストレスを与える一連を酸化ストレス処理と称する。当該酸化ストレス処理を施すことで、栄養成長から生殖成長へと傾き、花芽形成が著しく促進される。
【0025】
本発明に係る酸化ストレス処理を施す時期は、生育中の植物の子葉が展葉した後であればよい。なお、育種交配等の目的のために早期に花が必要となる場合には、子葉が出た後の早い時期から酸化ストレス処理を行ってもよい。また、果菜類・果樹類・穀物類・観賞用植物の場合には、植物が目的の大きさまで育った時点以降(例えば、本葉が展葉した後等)に酸化ストレス処理を施しても構わない。
【0026】
本発明に係る酸化ストレス処理は、子葉が展葉した植物に対して少なくとも2日以上行う。従来技術では花芽形成を誘導する処理に30日間等の長期間を要していたが、本発明に係る酸化ストレス処理はたった数日間行うだけでよい。なお、最初の数日間において酸化ストレス処理を行い、通常の生育方法に戻した後、再度酸化ストレス処理を行ってもよい。当該酸化ストレス処理は、植物に対して1度行うだけでも花芽形成を誘導する効果を十分に発揮するが、植物に対して周期的に酸化ストレス処理を複数回行うことで、より確実に花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【0027】
一般に花芽形成を誘導する方法として、植物に対して青色光を照射する方法や、植物に対して無窒素(窒素欠乏)処理のみを施す方法が用いられている。しかし、それぞれの方法では植物に対して長期間の処理を施さなければならず、短期間(例えば3日程度)の処理では花芽形成を誘導する効果は低い。本発明に係る酸化ストレス処理は従来の方法と異なり、生育中の植物に対し、特定波長の青色光または特定波長の青色光および近紫外光を照射する条件と、窒素を含まない養液を供給する条件の両方を適用したものであるため、植物に対して非常に強い酸化ストレスを与えることができる。このため、わずか3日程度という短期間の処理のみで優れた花芽形成効果が得られるのである。
【0028】
特定波長の青色光の照射形態としては、連続照射でも間欠照射(パルス照射)でも構わない。間欠照射の場合のパルス間隔(明滅間隔)は特に限定されず、連続照射および間欠照射のどれにおいても、各対象植物に対して、目的とする効果が得られるように十分な照射量が確保されていればよい。
【0029】
上記酸化ストレス処理後、通常の生育条件に戻して成長させれば、約1ヶ月後に花芽が形成され、肉眼で確認することができる。本発明に係る栽培方法で花芽形成を誘導すると、酸化ストレス処理を行った植物(株)はその後も花芽を形成し続ける。さらに、ランナー(つる)がでてきた場合、そのランナーにも花芽が形成される。
【0030】
植物に対して加えられる酸化ストレスが強すぎる場合、酸化ストレス処理後に葉の一部が褐変色する等の影響が生ずる場合がある。このような場合には、特定波長の青色光の照射位置を変えたり、光強度(光量子束密度)を下げたりする対応が有効である。すなわち、各植物の種類および展葉枚数等によって、特定波長の青色光の照射位置を調節することで、より効果的に花芽形成を促進することができる。
【0031】
本発明の栽培方法は、様々な植物に適用することが可能である。例えば、植物の多くは、昼間の時間(明期時間)に応じて花芽形成を調節する光周性(日長反応)を有するが、本発明の栽培方法を適用する植物としては、長日植物(長日に反応して花芽形成を調節する植物)でも、短日植物(短日に反応して花芽形成を調節する植物)でも、中性植物(光周期に反応しない植物)でも特に限定されずに適用することができる。
【0032】
具体的には、花き園芸植物、果菜類、果樹類および穀物類が挙げられる。例えば、ファレノプシス、シンピジウム、デンドロジウムをはじめとするラン類、サボテン類、バラ、カーネーション、ガーベラ、カスミソウ、ユリ、スターチス等の切り花用途の花き類、パンジー、プリムラ、ベコニア、ペチュニア、シクラメン等鉢花用途の花き類、トマト、キュウリ、メロン、イチゴ、ピーマン等の果菜類、ナシ、リンゴ、ブドウ等の果樹類、トウモロコシ、コムギ等の穀物類等にも適用可能である。なお、上記以外の植物に適用してもよい。
【0033】
本発明に係る栽培方法は、特に、花芽形成が遅い植物、自然状態での花芽形成数が少ない植物、あるいは特別に通常状態よりも多くの実生が必要な状態になった植物に効果的である。また、対象植物の生育に適した時期以外に栽培する場合にも効果的である。例えば、一般的に行われる光周性(日長反応)を用いたイチゴの花芽形成は約2週間かかり、従来技術では約30日かかったところ、本発明に係る栽培方法によれば約3日で花芽形成を誘導することができ、花芽誘導に必要な作業の時間を大幅に短縮できる。
【0034】
対象植物の栽培方法は、特に限定されない。例えば、スポンジキューブ(発芽ベッド)上で発芽させた後そのまま水耕栽培する方法や、培土をつめたトレイやポットを用いて発芽・育苗したものを圃場に定植し栽培する方法、養分を含んだ寒天上で無菌的に組織培養し育苗する方法等、植物の種類や栽培の目的に応じた栽培方法を用いることができる。特に、水耕栽培は、無農薬で季節を問わずに栽培できる等の多くのメリットがある。また、外的環境に影響されるおそれが低いため、本発明に係る酸化ストレス処理による花芽形成を誘導する効果がより期待できる。
【0035】
本発明の栽培方法に係る特定波長の近紫外光について説明する。
使用する光源(近紫外光)は、その出力波長のピークが300~400nmの近紫外域に含まれるものである。出力ピークが複数存在したり、スペクトルの出力パターンが不規則かつブロードな形態を示したりする光源の場合、出力エネルギーの少なくとも50%以上が300~400nmの波長域に含まれるものであっても構わない。近紫外光におけるピーク波長のスペクトル幅は、効果的な花芽形成の誘導という観点から、半値幅で100nm以下であることが好ましい。
【0036】
使用する光源(近紫外光)は、その出力波長のピークが300~400nmの波長域に含まれるものである。近紫外光を照射するための光源としては、近紫外波長を効率的に発光し、かつ、近紫外光以外のエネルギー放射の少ない光源が求められる。具体的には、近紫外線蛍光灯、近紫外線発光ダイオード、近紫外線レーザーダイオード、近紫外線フィルター装置ランプ等が挙げられる。単色性や発光率の観点から、近紫外線発光ダイオード、近紫外線レーザーダイオードが特に好ましい。
【0037】
生育中の植物に対し、特定波長の青色光に加えて、特定波長の近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培することによって、花芽形成を誘導する効果を向上することができる。なお、特定波長の青色光を使用せず、特定波長の近紫外光のみを使用しても構わない。すなわち、生育中の植物に対し、特定波長の近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培してもよい。この場合、青色受容体のクリプトクロムおよびフォトトロピンのうち、フォトトロピンに対する当該近紫外光の影響は少ないと解される。
【0038】
以下、各実施例において本発明を具体的に説明する。なお、本発明における条件は下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【0039】
<第1実施例>
第1実施例では、イチゴ(Fragaria ananassa)の種子を用いて本発明の栽培方法に係る酸化ストレス処理による花芽形成を誘導する効果(以下、花芽誘導効果という。)の試験1~3を行った。
【0040】
(酸化ストレス処理を施す対象)
試験1~3に用いた苗は、以下の手順で種子から水耕栽培生育したものである。
まず、種子を発芽させるまでの手順について説明する。水道水を十分に加えたウレタン製の発芽ベッドに種子を配置し、上部から光を照射する。光源は成長抑制作用が小さい白色光が好ましい。温度は25℃程度が適当である。一般の野菜種子は約2~3日で発芽するのに対し、イチゴ種子が発芽するまでに約7~10日程度必要である。種子発芽は、子葉が展葉するまでは水のみを使用して栽培する。
【0041】
次に、イチゴ種子の発芽後から子葉を展葉させるまでの手順について説明する。子葉が展葉した後は、発芽ベッドの下に発芽期用養液a(EC値=0.6~0.8m S/cm程度)を循環させる。これは、子葉が展葉する時期には種子中に貯えられた貯蔵養分が使い果たされるため、以後の成長のためには養液から各種イオンを吸収する必要があるためである。なお、EC値とは、電気伝導度(水溶性塩類の総量)を示すものである。
【0042】
養液aの保存酸素が不足しないようにエアポンプで空気(酸素)を補充しながら約5~7日間循環させる。その後、通常の生育用養液b(EC値=1.8m S/cm程度)に切り換えて、子葉が展葉するまで養液aを循環させる。
【0043】
以下、酸化ストレス処理による花芽形成について試験1~3を行った。各試験には、上記栽培方法で生育され子葉が展葉した苗(以下、展葉株)を用いた。各試験において酸化ストレス処理終了後、通常の生育用養液bで約1ヶ月生育し、花芽誘導効果率を調べた。
【0044】
[試験1:日数によるイチゴの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図1参照)。具体的には下記の条件で、展葉苗に対して各処理日数(1~4日)の間、連続して酸化ストレス処理を施した。
【0045】
(試験1の条件)
各処理日数(1~4日)の間、酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、特定波長の青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光強度(光量子束密度)は葉の表面で210μmol/m/sである。光波長のピークは450nmである。
処理日数(1~4日)ごとに20株の展葉株を用いた。
【0046】
(試験1の結果)
図1に示すように試験1の結果として、処理日数が1日の花芽誘導効果率は10%、処理日数が2日の花芽誘導効果率は75%、処理日数が3日の花芽誘導効果率は100%、処理日数が4日の花芽誘導効果率は100%であった。
従って、展葉株に少なくとも2日以上連続して酸化ストレス処理を施すことで花芽誘導効果を発揮することが示された。特に3日以上酸化ストレスを与えることで優れた花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0047】
[試験2:養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に使用する養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図2参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続して、養液および光源が異なる各酸化ストレス処理を施した。
【0048】
(試験2の条件)
酸化ストレス処理の養液は、窒素を含む通常の生育用養液b(EC値=1.8m S/cm程度)または窒素を含まない養液の水道水を用いた。
酸化ストレス処理の光源は、レイトロン社のLEDを使用し、特定波長の青色光または赤色光を用いた。青色光または赤色光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sである。各光波長のピークは、青色光が450nm、赤色光が650nmである。
各酸化ストレス処理の条件(使用する養液と光源の組合せ)は、養液bおよび特定波長の青色光を用いた条件、水道水および特定波長の青色光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件である。展葉株に対して3日間連続して上記各条件の酸化ストレス処理を行った。
酸化ストレス処理ごとに20株の展葉株を用いた。
【0049】
(試験2の結果)
図2に示すように試験2の結果として、水道水および特定波長の青色光を用いた条件での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は100%であった。この条件以外(養液bおよび特定波長の青色光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件)での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は0%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射することによる酸化ストレス処理が、優れた花芽誘導効果を有することが示された。また、特定波長の青色光を用いた条件又は水道水を用いた条件のいずれか一方のみでは花芽形成を誘導する効果がないことも示された。すなわち、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給する条件と、特定波長の青色光を照射する条件の両方を実施した場合にのみ、非常に強い酸化ストレスを与えることができ、顕著な花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0050】
[試験3:光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に用いる青色光の光強度(光量子束密度)の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図3参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続で、窒素を含まない養液を供給し、光強度の異なる特定波長の青色光を照射して酸化ストレス処理を施した。
【0051】
(試験3の条件)
酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、各光強度の異なる青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光波長のピークは450nmである。各光強度(光量子束密度)は、150、180、210、250μmol/m/sで行った。
光強度ごとに20株の展葉株を用いた。
【0052】
(試験3の結果)
図3に示すように試験結果として、光強度150μmol/m/sの花芽誘導率は80%、光強度180μmol/m/sの花芽誘導率は90%、光強度210の花芽誘導率は100%、光強度250μmol/m/sの花芽誘導率は100%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射して酸化ストレスを与える際の青色光の光強度(光量子束密度)は、少なくとも150μmol/m/s以上であれば花芽誘導効果を生ずることが示された。特に、光強度が210μmol/m/s以上の場合、著しい花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0053】
<第2実施例>
第2実施例では、イチゴ(Fragaria ananassa)の種子を用いて本発明の栽培方法に係る酸化ストレス処理による花芽誘導効果の試験4~6を行った。第2実施例は、第1実施例で使用した特定波長の青色光を、特定波長の青色光および近紫外光に変えて試験を行った。
【0054】
(酸化ストレス処理を施す対象)
試験4~6に用いた苗は、第1実施例と同様の手順で種子から水耕栽培生育したものであるため、説明を省略する。
【0055】
以下、近紫外光を加えた酸化ストレス処理による花芽形成について試験4~6を行った。各試験には、上記栽培方法で生育され子葉が展葉した苗(以下、展葉株)を用いた。各試験において酸化ストレス処理終了後、通常の生育用養液bで約1ヶ月生育し、花芽誘導効果率を調べた。
【0056】
[試験4:日数によるイチゴの花芽誘導効果(近紫外光追加)]
近紫外線光を加えた酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図4参照)。具体的には下記の条件で、展葉苗に対して各処理日数(1~4日)の間、連続して酸化ストレス処理を施した。
【0057】
(試験4の条件)
各処理日数(1~4日)の間、酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、特定波長の青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光および近紫外光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sである。光波長のピークは、青色光が450nm、近紫外光が350nmである。
処理日数(1~4日)ごとに20株の展葉株を用いた。
【0058】
(試験4の結果)
図4に示すように試験4の結果として、処理日数が1日の花芽誘導効果率は15%、処理日数が2日の花芽誘導効果率は80%、処理日数が3日の花芽誘導効果率は100%、処理日数が4日の花芽誘導効果率は100%であった。
従って、展葉株に少なくとも2日以上連続して酸化ストレス処理を施すことで花芽誘導効果を発揮することが示された。特に3日以上酸化ストレスを与えることで優れた花芽誘導効果を発揮することが示された。
第1実施例の試験1の結果と比較すると、試験1よりも試験4のほうが、処理日数が1日および2日の花芽誘導率が高かった。すなわち、特定波長の青色光のみを照射した場合(試験1)よりも、特定波長の近紫外光を加えた場合(試験4)のほうが、より優れた花芽誘導効果が示された。
【0059】
[試験5:養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果(近紫外光追加)]
近紫外光を加えた酸化ストレス処理に使用する養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図5参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続して、養液および光源が異なる各酸化ストレス処理を施した。
【0060】
(試験5の条件)
酸化ストレス処理の養液は、窒素を含む通常の生育用養液b(EC値=1.8m S/cm程度)または窒素を含まない養液の水道水を用いた。
酸化ストレス処理の光源は、レイトロン社のLEDを使用し、特定波長の青色光、近紫外光、赤色光を用いた。青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sである。光波長のピークは、青色光が450nm、近紫外光が350nmである。赤色光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sであって、光波長のピークは650nmである。
酸化ストレス処理の各条件(使用する養液と光源の組合せ)は、養液bおよび特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件、水道水および特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件である。展葉株に対して3日間連続して上記各条件の酸化ストレス処理を行った。
酸化ストレス処理ごとに20株の展葉株を用いた。
【0061】
(試験5の結果)
図5に示すように試験5の結果として、水道水と特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は100%であった。この条件以外(養液bおよび特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件)での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は0%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光および近紫外光を照射することによる酸化ストレス処理が、より優れた花芽誘導効果を有することが示された。
【0062】
[試験6:光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果(近紫外光追加)]
近紫外光を加えた酸化ストレス処理に用いる青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図6参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続で、窒素を含まない養液を供給し、光強度(光量子束密度)の異なる特定波長の青色光および近紫外光を照射して酸化ストレス処理を施した。
【0063】
(試験6の条件)
酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、各光強度の異なる青色光および近紫外光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光および近紫外光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光波長のピークは、青色光が450nm、近紫外光が350nmである。青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)は、150、180、210、250μmol/m/sで行った。
光強度ごとに20株の展葉株を用いた。
【0064】
(試験6の結果)
図6に示すように試験結果として、光強度150μmol/m/sの花芽誘導率は85%、光強度180μmol/m/sの花芽誘導率は95%、光強度210の花芽誘導率は100%、光強度250μmol/m/sの花芽誘導率は100%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光および近紫外光を照射して酸化ストレスを与える際の光強度は、少なくとも150μmol/m/s以上であれば花芽誘導効果を生ずることが示された。特に、光強度が210μmol/m/s以上の場合、著しい花芽誘導効果を発揮することが示された。
第1実施例の試験3の結果と比較すると、試験3よりも試験6のほうが光強度150μmol/m/sおよび180μmol/m/sの花芽誘導率が高かった。すなわち、酸化ストレス処理の光源において、特定波長の青色光のみを照射した場合(試験1)よりも、特定波長の青色光に特定波長の近紫外光を加えた場合(試験4)のほうが、より優れた花芽誘導効果が示された。
【0065】
<第3実施例>
第3実施例では、コチョウラン(Phalaenopsis aphrodite)の苗を用いて、上記実施例1と同一手法を用いて、酸化ストレス処理による花芽誘導効果の試験7~9を行った。上記実施例1と同一内容の説明部分についての記載は省略する。
【0066】
(酸化ストレス処理を施す対象)
以下、酸化ストレス処理による花芽形成について試験7~9を行った。各試験には、クローン技術を用いて生育されたコチョウランの展葉株(子葉が展葉した苗)を用いた。各試験において酸化ストレス処理終了後、通常の生育用養液c(EC値=1.8m S/cm程度)で約1ヶ月生育し、花芽誘導効果率を調べた。
【0067】
[試験7:日数によるコチョウランの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理を施す日数によるコチョウランの花芽誘導効果について試験を行った(図7参照)。具体的には下記の条件で、展葉苗に対して各処理日数(1~4日)の間、連続して酸化ストレス処理を施した。
【0068】
(試験7の条件)
各処理日数(1~4日)の間、酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、特定波長の青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光強度は葉の表面で210μmol/m/sであって、光波長のピークは450nmである。
処理日数(1~4日)ごとに20株の展葉株を用いた。
【0069】
(試験7の結果)
図7に示すように試験7の結果として、処理日数が1日の花芽誘導効果率は15%、処理日数が2日の花芽誘導効果率は85%、処理日数が3日の花芽誘導効果率は100%、処理日数が4日の花芽誘導効果率は100%であった。
従って、展葉株に少なくとも2日以上連続して酸化ストレス処理を施すことで花芽誘導効果を発揮することが示された。特に3日以上酸化ストレスを与えることで優れた花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0070】
[試験8:養液および光源の違いによるコチョウランの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に使用する養液および光源の違いによるコチョウランの花芽誘導効果について試験を行った(図8参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続して、養液および光源が異なる各酸化ストレス処理を施した。
【0071】
(試験8の条件)
酸化ストレス処理の養液は、窒素を含む通常の生育用養液c(EC値=1.8m S/cm程度)または窒素を含まない養液の水道水を用いた。
酸化ストレス処理の光源は、レイトロン社のLEDを使用し、特定波長の青色光または赤色光を用いた。青色光または赤色光の光強度は、葉の表面で210μmol/m/sである。各光波長のピークは、青色光が450nm、赤色光が650nmである。
各酸化ストレス処理の条件(使用する養液と光源の組合せ)は、養液cおよび特定波長の青色光を用いた条件、水道水および特定波長の青色光を用いた条件、養液cおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件である。展葉株に対して3日間連続して上記各条件の酸化ストレス処理を行った。
酸化ストレス処理ごとに20株の展葉株を用いた。
【0072】
(試験8の結果)
図8に示すように試験8の結果として、水道水および特定波長の青色光を用いた条件での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は100%であった。この条件以外(養液cおよび特定波長の青色光を用いた条件、養液cおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件)での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は0%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射することによる酸化ストレス処理が、より優れた花芽誘導効果を有することが示された。
【0073】
[試験9:光強度の違いによるコチョウランの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に用いる青色光の光強度の違いによるコチョウランの花芽誘導効果について試験を行った(図9参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続で、窒素を含まない養液を供給して、光強度(光量子束密度)の異なる特定波長の青色光を照射して酸化ストレス処理を施した。
【0074】
(試験9の条件)
酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給して、各光強度(光量子束密度)の異なる青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光波長のピークは450nmである。各光強度(光量子束密度)は、150、180、210、250μmol/m/sで行った。
光強度ごとに20株の展葉株を用いた。
【0075】
(試験9の結果)
図9に示すように試験結果として、光強度150μmol/m/sの花芽誘導率は85%、光強度180μmol/m/sの花芽誘導率は90%、光強度210の花芽誘導率は100%、光強度250μmol/m/sの花芽誘導率は100%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射して酸化ストレスを与える際の青色光の光強度は、少なくとも150μmol/m/s以上であれば花芽誘導効果を生ずることが示された。特に、光強度が210μmol/m/s以上の場合、著しい花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0076】
以上のことから明らかなように、上記実施例に係る植物栽培方法は、生育中の植物に対し、特定波長の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導すると、植物体内で活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わる。これにより、栄養成長から生殖成長へと傾き、植物の葉で花芽形成を誘導する物質が効果的に形成されることで、植物の花芽形成が著しく促進し、開花促進、花実数の増加、花実の大きさや実の糖度向上を促すことができる。なお、前記青色光に加えて特定波長の近紫外光を照射することで、さらに優れた花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【0077】
また、通常よりも短時間の処理で優れた花芽誘導効果を得ることができる。このように、実施例に係る栽培方法は、従来よりも短時間かつ効率的に花芽形成を促進することができる。実施例に係る栽培方法は、花き園芸植物での利用はもちろん、果菜類や果樹類、穀物類においても花芽形成の促進による増収効果を期待でき、幅広い農業分野で利用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育中のイチゴ苗に対し、
400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導する、
イチゴの栽培方法。
【請求項2】
前記青色光の光量子束密度が150~250μmol/m/sである、
請求項1に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項3】
前記イチゴ苗は、少なくとも子葉が展葉している状態である、
請求項1に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項4】
前記青色光は、少なくとも2日以上連続して照射する、
請求項1に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項5】
前記青色光に加えて、300~400nmの波長域にピーク波長を有する近紫外光を照射する、
請求項1に記載のイチゴの栽培方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、イチゴの花芽形成を誘導するイチゴの栽培方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明は、上記のような現状を検討して改善を施したイチゴの栽培方法を提供することを技術的課題とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明のイチゴの栽培方法は、生育中のイチゴ苗に対し、400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導するというものである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の青色光の光量子束密度が150~250μmol/m/sであってもよい。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明のイチゴ苗は、少なくとも子葉が展葉している状態であればよい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明によると、様々な植物の花芽形成を直接的に促進する栽培が可能である。たとえば、生育中のイチゴ苗に対し、特定波長の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給すると、植物体内で活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わることによって、複数日程度で花芽形成が誘導される。このため、花芽形成を誘導するのに必要な作業の時間を大幅に短縮できる。また、花実が大きかったり、実の糖度が高かったり、高品質な植物(花実)を生育することが可能になる。なお、前記青色光に加えて特定波長の近紫外光を照射することで、さらに優れた花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも子葉が展葉して以降のイチゴ苗に対し、
400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を2~4日連続して照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、イチゴ苗内に活性酸素を発生させて酸化ストレスが加わることによって、
イチゴ苗を栄養成長から生殖成長に傾けて花芽形成を誘導する、
イチゴ水耕栽培における花芽誘導方法。
【請求項2】
前記青色光の光量子束密度が150~250μmol/m/sであり、
前記青色光に加えて、300~400nmの波長域にピーク波長を有する近紫外光を照射する、
請求項1に記載したイチゴの水耕栽培における花芽誘導方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴの水耕栽培において花芽形成を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工光を利用して植物の成長を調節(制御あるいは促進)する技術が取り入れられた植物栽培が行われている。例えば、下記特許文献1には、生育中の植物に対して特定の出力波長と特定の光量子束密度を有する青色光からなる人工光を照射する植物栽培方法が記載されており、この方法によって植物の花芽形成を促進することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-258389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えばイチゴやランのように、温度、光、養分等の影響を受けやすく生育が難しい植物に対して上記のような従来技術を用いた場合、植物に人工光を長時間照射する必要があった。すなわち、花芽形成を誘導させる処理に必要な時間が長く、人工光等に必要な電力量も膨大であった。その上、成った花実は小さく、実の糖度も低い場合が多い傾向にあった。
【0005】
より付加価値の高い植物の栽培が求められている現状において、花芽形成を促進して花実数を増やし、かつ、品質の良い植物を生育することは、生産者の収量や利益が向上するだけでなく、消費者に対して時期を問わずに高品質な植物(花実)を提供できるというメリットがある。
【0006】
本発明は、上記のような現状を検討して改善を施したイチゴの水耕栽培における花芽誘導方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るイチゴの水耕栽培における花芽誘導方法は、少なくとも子葉が展葉して以降のイチゴ苗に対し、400~500nmの波長域にピーク波長を有する青色光を2~4日連続して照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、イチゴ苗内に活性酸素を発生させて酸化ストレスが加わることによって、イチゴ苗を栄養成長から生殖成長に傾けて花芽形成を誘導するというものである。
【0008】
本発明に係るイチゴの水耕栽培における花芽誘導方法において、青色光の光量子束密度は、150~250μmol/m/sであってもよい。
【0009】
【0010】
【0011】
本発明に係るイチゴの水耕栽培における花芽誘導方法においては、青色光に加えて、300~400nmの波長域にピーク波長を有する近紫外光を照射してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、様々な植物の花芽形成を直接的に促進する栽培が可能である。たとえば、生育中のイチゴ苗に対し、特定波長の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給すると、植物体内で活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わることによって、複数日程度で花芽形成が誘導される。このため、花芽形成を誘導するのに必要な作業の時間を大幅に短縮できる。また、花実が大きかったり、実の糖度が高かったり、高品質な植物(花実)を生育することが可能になる。なお、前記青色光に加えて特定波長の近紫外光を照射することで、さらに優れた花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施例に係る酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果(試験1の結果)を示す表である。
図2】第1実施例に係る酸化ストレス処理の養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験2の結果)を示す表である。
図3】第1実施例に係る酸化ストレス処理の光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験3の結果)を示す表である。
図4】第2実施例に係る近紫外光を加えた酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果(試験4の結果)を示す表である。
図5】第2実施例に係る近紫外光を加えた酸化ストレス処理の養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験5の結果)を示す表である。
図6】第2実施例に係る近紫外光を加えた酸化ストレス処理の光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果(試験6の結果)を示す表である。
図7】第3実施例に係る酸化ストレス処理を施す日数によるコチョウランの花芽誘導効果(試験7の結果)を示す表である。
図8】第3実施例に係る酸化ストレス処理の養液および光源の違いによるコチョウランの花芽誘導効果(試験8の結果)を示す表である。
図9】第3実施例に係る酸化ストレス処理の光強度の違いによるコチョウランの花芽誘導効果(試験9の結果)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の植物栽培方法は、生育中の植物に対し、特定の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培するものである。このように栽培することで、植物体内の青色光受容体が青色光を受光した後、活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わる。これにより、栄養成長から生殖成長へと傾き、植物の葉で花芽形成を誘導する物質が効果的に形成されて、植物の花芽形成が著しく促進される。
【0015】
酸化によるストレス(以下、酸化ストレスという。)とは、生体内で活性酸素を発生させる条件である。酸化ストレスを与える条件として、例えば強光、水ストレス(乾燥)、二酸化炭素(CO)不足、低温等がある。
【0016】
植物体内の青色光受容体は、クリプトクロム(Cryptochrome)とフォトトロピン(Phototropin)の2つが存在する。これらは青色光と近紫外光を吸収するものであって、植物の花芽形成促進、制御、成長制御等に関わるものである。クリプトクロムおよびフォトトロピンは、400~500nmの波長域の青色光と、300~400nmの波長域の近紫外光を吸収する。クリプトクロムおよびフォトトロピンが吸収する光のピーク波長は350nmと450nmである。特にクリプトクロムは花芽形成制御の役割を有するものである。また、植物の葉で花芽形成を誘導する物質とは、例えば花成ホルモンであるフロリゲン(Florigen)等がある。
【0017】
本発明は、生育中の植物に対して酸化ストレスを与えることで、花芽形成を効果的に促進する栽培方法である。この方法で栽培することで、個体維持のために株が大きくなる栄養成長から、種族維持のために花芽形成が促進される生殖成長へと傾く。これにより、植物の花芽形成が著しく促進されることとなる。
【0018】
本発明の栽培方法に係る特定波長の青色光について説明する。
使用する光源(青色光)は、その出力波長のピークが400~500nmの青色域に含まれるものである。出力ピークが複数存在したり、スペクトルの出力パターンが不規則かつブロードな形態を示したりする光源の場合、出力エネルギーの少なくとも50%以上が400~500nmの波長域に含まれるものであっても構わない。
【0019】
青色光におけるピーク波長のスペクトル幅は、効果的な花芽誘導の観点から、半値幅で100nm以下であることが好ましい。植物への照射光としては、上記青色光の他に、根の伸長や茎の分化等の別の目的のために、必要に応じて、他のピーク波長を有する光(例えば近紫外光)を照射してもよいが、600~800nmの赤色波長域の光は花芽誘導の阻害効果が著しいため、この波長域に含まれる放射エネルギー量は全放射エネルギー量の30%以下に抑えることが好ましく、さらには15%以下に抑えることが好ましい。
【0020】
青色光を照射するための光源としては、青色波長を効率的に発光し、かつ、青色光以外のエネルギー放射の少ない光源が求められる。具体的には、青色蛍光灯、青色発光ダイオード、青色レーザーダイオード、青色フィルター装置ランプ等が挙げられる。単色性や発光率の観点から、青色発光ダイオード、青色レーザーダイオードが特に好ましい。
【0021】
本発明の栽培方法において必要な光強度(光量子束密度)は、対象とする植物種や生育ステージ、使用する光源のスペクトルパターン等によって変化するが、光量子束密度として150~280μmol/m/sであることが好ましい。特に、210~250μmol/m/sであることが効率的な花芽形成を導く上で好ましい。
【0022】
本発明の栽培方法に係る窒素を含まない養液について説明する。
窒素を含まない養液とは、例えば水(HO)等がある。窒素を微量に含んでいる養液を使用しても構わないが、養液の窒素含有量の増加に比例して花芽形成を誘導する効果が低下する。従って、例えば窒素を含んでいない水道水等を用いることが好ましい。
【0023】
本発明に係る栽培方法の対象について説明する。
本発明に係る栽培方法の対象である生育中の植物とは、葉が形成された状態の苗(株)であって、少なくとも子葉が展葉している状態であることが好ましい。花芽形成を誘導する物質は植物の葉で形成されるため、葉が展葉している必要がある。子葉に加えて本葉1枚が展葉した苗に対して酸化ストレス処理を行った場合、子葉が展葉した苗に対してストレス処理を行った場合と比較して、開花が約2~3週間遅くなる。従って、本発明に係る酸化ストレス処理を施す対象としては、少なくとも子葉が展葉された苗(植物)を用いることが特に好ましい。なお、展葉数が同じ苗を集めて酸化ストレス処理を行うことで、発育段階を揃えることができる。
【0024】
本発明に係る酸化ストレス処理について説明する。
本発明において、酸化ストレス処理とは、生育中の植物に対し、特定波長の青色光または特定波長の青色光および近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導させる処理をいう。すなわち、生育中の植物に対し、特定波長の青色光または特定波長の青色光および近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培し、植物体内で活性酸素を発生させて酸化ストレスを与える一連を酸化ストレス処理と称する。当該酸化ストレス処理を施すことで、栄養成長から生殖成長へと傾き、花芽形成が著しく促進される。
【0025】
本発明に係る酸化ストレス処理を施す時期は、生育中の植物の子葉が展葉した後であればよい。なお、育種交配等の目的のために早期に花が必要となる場合には、子葉が出た後の早い時期から酸化ストレス処理を行ってもよい。また、果菜類・果樹類・穀物類・観賞用植物の場合には、植物が目的の大きさまで育った時点以降(例えば、本葉が展葉した後等)に酸化ストレス処理を施しても構わない。
【0026】
本発明に係る酸化ストレス処理は、子葉が展葉した植物に対して少なくとも2日以上行う。従来技術では花芽形成を誘導する処理に30日間等の長期間を要していたが、本発明に係る酸化ストレス処理はたった数日間行うだけでよい。なお、最初の数日間において酸化ストレス処理を行い、通常の生育方法に戻した後、再度酸化ストレス処理を行ってもよい。当該酸化ストレス処理は、植物に対して1度行うだけでも花芽形成を誘導する効果を十分に発揮するが、植物に対して周期的に酸化ストレス処理を複数回行うことで、より確実に花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【0027】
一般に花芽形成を誘導する方法として、植物に対して青色光を照射する方法や、植物に対して無窒素(窒素欠乏)処理のみを施す方法が用いられている。しかし、それぞれの方法では植物に対して長期間の処理を施さなければならず、短期間(例えば3日程度)の処理では花芽形成を誘導する効果は低い。本発明に係る酸化ストレス処理は従来の方法と異なり、生育中の植物に対し、特定波長の青色光または特定波長の青色光および近紫外光を照射する条件と、窒素を含まない養液を供給する条件の両方を適用したものであるため、植物に対して非常に強い酸化ストレスを与えることができる。このため、わずか3日程度という短期間の処理のみで優れた花芽形成効果が得られるのである。
【0028】
特定波長の青色光の照射形態としては、連続照射でも間欠照射(パルス照射)でも構わない。間欠照射の場合のパルス間隔(明滅間隔)は特に限定されず、連続照射および間欠照射のどれにおいても、各対象植物に対して、目的とする効果が得られるように十分な照射量が確保されていればよい。
【0029】
上記酸化ストレス処理後、通常の生育条件に戻して成長させれば、約1ヶ月後に花芽が形成され、肉眼で確認することができる。本発明に係る栽培方法で花芽形成を誘導すると、酸化ストレス処理を行った植物(株)はその後も花芽を形成し続ける。さらに、ランナー(つる)がでてきた場合、そのランナーにも花芽が形成される。
【0030】
植物に対して加えられる酸化ストレスが強すぎる場合、酸化ストレス処理後に葉の一部が褐変色する等の影響が生ずる場合がある。このような場合には、特定波長の青色光の照射位置を変えたり、光強度(光量子束密度)を下げたりする対応が有効である。すなわち、各植物の種類および展葉枚数等によって、特定波長の青色光の照射位置を調節することで、より効果的に花芽形成を促進することができる。
【0031】
本発明の栽培方法は、様々な植物に適用することが可能である。例えば、植物の多くは、昼間の時間(明期時間)に応じて花芽形成を調節する光周性(日長反応)を有するが、本発明の栽培方法を適用する植物としては、長日植物(長日に反応して花芽形成を調節する植物)でも、短日植物(短日に反応して花芽形成を調節する植物)でも、中性植物(光周期に反応しない植物)でも特に限定されずに適用することができる。
【0032】
具体的には、花き園芸植物、果菜類、果樹類および穀物類が挙げられる。例えば、ファレノプシス、シンピジウム、デンドロジウムをはじめとするラン類、サボテン類、バラ、カーネーション、ガーベラ、カスミソウ、ユリ、スターチス等の切り花用途の花き類、パンジー、プリムラ、ベコニア、ペチュニア、シクラメン等鉢花用途の花き類、トマト、キュウリ、メロン、イチゴ、ピーマン等の果菜類、ナシ、リンゴ、ブドウ等の果樹類、トウモロコシ、コムギ等の穀物類等にも適用可能である。なお、上記以外の植物に適用してもよい。
【0033】
本発明に係る栽培方法は、特に、花芽形成が遅い植物、自然状態での花芽形成数が少ない植物、あるいは特別に通常状態よりも多くの実生が必要な状態になった植物に効果的である。また、対象植物の生育に適した時期以外に栽培する場合にも効果的である。例えば、一般的に行われる光周性(日長反応)を用いたイチゴの花芽形成は約2週間かかり、従来技術では約30日かかったところ、本発明に係る栽培方法によれば約3日で花芽形成を誘導することができ、花芽誘導に必要な作業の時間を大幅に短縮できる。
【0034】
対象植物の栽培方法は、特に限定されない。例えば、スポンジキューブ(発芽ベッド)上で発芽させた後そのまま水耕栽培する方法や、培土をつめたトレイやポットを用いて発芽・育苗したものを圃場に定植し栽培する方法、養分を含んだ寒天上で無菌的に組織培養し育苗する方法等、植物の種類や栽培の目的に応じた栽培方法を用いることができる。特に、水耕栽培は、無農薬で季節を問わずに栽培できる等の多くのメリットがある。また、外的環境に影響されるおそれが低いため、本発明に係る酸化ストレス処理による花芽形成を誘導する効果がより期待できる。
【0035】
本発明の栽培方法に係る特定波長の近紫外光について説明する。
使用する光源(近紫外光)は、その出力波長のピークが300~400nmの近紫外域に含まれるものである。出力ピークが複数存在したり、スペクトルの出力パターンが不規則かつブロードな形態を示したりする光源の場合、出力エネルギーの少なくとも50%以上が300~400nmの波長域に含まれるものであっても構わない。近紫外光におけるピーク波長のスペクトル幅は、効果的な花芽形成の誘導という観点から、半値幅で100nm以下であることが好ましい。
【0036】
使用する光源(近紫外光)は、その出力波長のピークが300~400nmの波長域に含まれるものである。近紫外光を照射するための光源としては、近紫外波長を効率的に発光し、かつ、近紫外光以外のエネルギー放射の少ない光源が求められる。具体的には、近紫外線蛍光灯、近紫外線発光ダイオード、近紫外線レーザーダイオード、近紫外線フィルター装置ランプ等が挙げられる。単色性や発光率の観点から、近紫外線発光ダイオード、近紫外線レーザーダイオードが特に好ましい。
【0037】
生育中の植物に対し、特定波長の青色光に加えて、特定波長の近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培することによって、花芽形成を誘導する効果を向上することができる。なお、特定波長の青色光を使用せず、特定波長の近紫外光のみを使用しても構わない。すなわち、生育中の植物に対し、特定波長の近紫外光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して栽培してもよい。この場合、青色受容体のクリプトクロムおよびフォトトロピンのうち、フォトトロピンに対する当該近紫外光の影響は少ないと解される。
【0038】
以下、各実施例において本発明を具体的に説明する。なお、本発明における条件は下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【0039】
<第1実施例>
第1実施例では、イチゴ(Fragaria ananassa)の種子を用いて本発明の栽培方法に係る酸化ストレス処理による花芽形成を誘導する効果(以下、花芽誘導効果という。)の試験1~3を行った。
【0040】
(酸化ストレス処理を施す対象)
試験1~3に用いた苗は、以下の手順で種子から水耕栽培生育したものである。
まず、種子を発芽させるまでの手順について説明する。水道水を十分に加えたウレタン製の発芽ベッドに種子を配置し、上部から光を照射する。光源は成長抑制作用が小さい白色光が好ましい。温度は25℃程度が適当である。一般の野菜種子は約2~3日で発芽するのに対し、イチゴ種子が発芽するまでに約7~10日程度必要である。種子発芽は、子葉が展葉するまでは水のみを使用して栽培する。
【0041】
次に、イチゴ種子の発芽後から子葉を展葉させるまでの手順について説明する。子葉が展葉した後は、発芽ベッドの下に発芽期用養液a(EC値=0.6~0.8m S/cm程度)を循環させる。これは、子葉が展葉する時期には種子中に貯えられた貯蔵養分が使い果たされるため、以後の成長のためには養液から各種イオンを吸収する必要があるためである。なお、EC値とは、電気伝導度(水溶性塩類の総量)を示すものである。
【0042】
養液aの保存酸素が不足しないようにエアポンプで空気(酸素)を補充しながら約5~7日間循環させる。その後、通常の生育用養液b(EC値=1.8m S/cm程度)に切り換えて、子葉が展葉するまで養液aを循環させる。
【0043】
以下、酸化ストレス処理による花芽形成について試験1~3を行った。各試験には、上記栽培方法で生育され子葉が展葉した苗(以下、展葉株)を用いた。各試験において酸化ストレス処理終了後、通常の生育用養液bで約1ヶ月生育し、花芽誘導効果率を調べた。
【0044】
[試験1:日数によるイチゴの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図1参照)。具体的には下記の条件で、展葉苗に対して各処理日数(1~4日)の間、連続して酸化ストレス処理を施した。
【0045】
(試験1の条件)
各処理日数(1~4日)の間、酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、特定波長の青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光強度(光量子束密度)は葉の表面で210μmol/m/sである。光波長のピークは450nmである。
処理日数(1~4日)ごとに20株の展葉株を用いた。
【0046】
(試験1の結果)
図1に示すように試験1の結果として、処理日数が1日の花芽誘導効果率は10%、処理日数が2日の花芽誘導効果率は75%、処理日数が3日の花芽誘導効果率は100%、処理日数が4日の花芽誘導効果率は100%であった。
従って、展葉株に少なくとも2日以上連続して酸化ストレス処理を施すことで花芽誘導効果を発揮することが示された。特に3日以上酸化ストレスを与えることで優れた花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0047】
[試験2:養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に使用する養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図2参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続して、養液および光源が異なる各酸化ストレス処理を施した。
【0048】
(試験2の条件)
酸化ストレス処理の養液は、窒素を含む通常の生育用養液b(EC値=1.8m S/cm程度)または窒素を含まない養液の水道水を用いた。
酸化ストレス処理の光源は、レイトロン社のLEDを使用し、特定波長の青色光または赤色光を用いた。青色光または赤色光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sである。各光波長のピークは、青色光が450nm、赤色光が650nmである。
各酸化ストレス処理の条件(使用する養液と光源の組合せ)は、養液bおよび特定波長の青色光を用いた条件、水道水および特定波長の青色光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件である。展葉株に対して3日間連続して上記各条件の酸化ストレス処理を行った。
酸化ストレス処理ごとに20株の展葉株を用いた。
【0049】
(試験2の結果)
図2に示すように試験2の結果として、水道水および特定波長の青色光を用いた条件での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は100%であった。この条件以外(養液bおよび特定波長の青色光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件)での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は0%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射することによる酸化ストレス処理が、優れた花芽誘導効果を有することが示された。また、特定波長の青色光を用いた条件又は水道水を用いた条件のいずれか一方のみでは花芽形成を誘導する効果がないことも示された。すなわち、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給する条件と、特定波長の青色光を照射する条件の両方を実施した場合にのみ、非常に強い酸化ストレスを与えることができ、顕著な花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0050】
[試験3:光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に用いる青色光の光強度(光量子束密度)の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図3参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続で、窒素を含まない養液を供給し、光強度の異なる特定波長の青色光を照射して酸化ストレス処理を施した。
【0051】
(試験3の条件)
酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、各光強度の異なる青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光波長のピークは450nmである。各光強度(光量子束密度)は、150、180、210、250μmol/m/sで行った。
光強度ごとに20株の展葉株を用いた。
【0052】
(試験3の結果)
図3に示すように試験結果として、光強度150μmol/m/sの花芽誘導率は80%、光強度180μmol/m/sの花芽誘導率は90%、光強度210の花芽誘導率は100%、光強度250μmol/m/sの花芽誘導率は100%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射して酸化ストレスを与える際の青色光の光強度(光量子束密度)は、少なくとも150μmol/m/s以上であれば花芽誘導効果を生ずることが示された。特に、光強度が210μmol/m/s以上の場合、著しい花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0053】
<第2実施例>
第2実施例では、イチゴ(Fragaria ananassa)の種子を用いて本発明の栽培方法に係る酸化ストレス処理による花芽誘導効果の試験4~6を行った。第2実施例は、第1実施例で使用した特定波長の青色光を、特定波長の青色光および近紫外光に変えて試験を行った。
【0054】
(酸化ストレス処理を施す対象)
試験4~6に用いた苗は、第1実施例と同様の手順で種子から水耕栽培生育したものであるため、説明を省略する。
【0055】
以下、近紫外光を加えた酸化ストレス処理による花芽形成について試験4~6を行った。各試験には、上記栽培方法で生育され子葉が展葉した苗(以下、展葉株)を用いた。各試験において酸化ストレス処理終了後、通常の生育用養液bで約1ヶ月生育し、花芽誘導効果率を調べた。
【0056】
[試験4:日数によるイチゴの花芽誘導効果(近紫外光追加)]
近紫外線光を加えた酸化ストレス処理を施す日数によるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図4参照)。具体的には下記の条件で、展葉苗に対して各処理日数(1~4日)の間、連続して酸化ストレス処理を施した。
【0057】
(試験4の条件)
各処理日数(1~4日)の間、酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、特定波長の青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光および近紫外光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sである。光波長のピークは、青色光が450nm、近紫外光が350nmである。
処理日数(1~4日)ごとに20株の展葉株を用いた。
【0058】
(試験4の結果)
図4に示すように試験4の結果として、処理日数が1日の花芽誘導効果率は15%、処理日数が2日の花芽誘導効果率は80%、処理日数が3日の花芽誘導効果率は100%、処理日数が4日の花芽誘導効果率は100%であった。
従って、展葉株に少なくとも2日以上連続して酸化ストレス処理を施すことで花芽誘導効果を発揮することが示された。特に3日以上酸化ストレスを与えることで優れた花芽誘導効果を発揮することが示された。
第1実施例の試験1の結果と比較すると、試験1よりも試験4のほうが、処理日数が1日および2日の花芽誘導率が高かった。すなわち、特定波長の青色光のみを照射した場合(試験1)よりも、特定波長の近紫外光を加えた場合(試験4)のほうが、より優れた花芽誘導効果が示された。
【0059】
[試験5:養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果(近紫外光追加)]
近紫外光を加えた酸化ストレス処理に使用する養液および光源の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図5参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続して、養液および光源が異なる各酸化ストレス処理を施した。
【0060】
(試験5の条件)
酸化ストレス処理の養液は、窒素を含む通常の生育用養液b(EC値=1.8m S/cm程度)または窒素を含まない養液の水道水を用いた。
酸化ストレス処理の光源は、レイトロン社のLEDを使用し、特定波長の青色光、近紫外光、赤色光を用いた。青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sである。光波長のピークは、青色光が450nm、近紫外光が350nmである。赤色光の光強度(光量子束密度)は、葉の表面で210μmol/m/sであって、光波長のピークは650nmである。
酸化ストレス処理の各条件(使用する養液と光源の組合せ)は、養液bおよび特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件、水道水および特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件である。展葉株に対して3日間連続して上記各条件の酸化ストレス処理を行った。
酸化ストレス処理ごとに20株の展葉株を用いた。
【0061】
(試験5の結果)
図5に示すように試験5の結果として、水道水と特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は100%であった。この条件以外(養液bおよび特定波長の青色光および近紫外光を用いた条件、養液bおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件)での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は0%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光および近紫外光を照射することによる酸化ストレス処理が、より優れた花芽誘導効果を有することが示された。
【0062】
[試験6:光強度の違いによるイチゴの花芽誘導効果(近紫外光追加)]
近紫外光を加えた酸化ストレス処理に用いる青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)の違いによるイチゴの花芽誘導効果について試験を行った(図6参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続で、窒素を含まない養液を供給し、光強度(光量子束密度)の異なる特定波長の青色光および近紫外光を照射して酸化ストレス処理を施した。
【0063】
(試験6の条件)
酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、各光強度の異なる青色光および近紫外光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光および近紫外光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光波長のピークは、青色光が450nm、近紫外光が350nmである。青色光および近紫外光の光強度(光量子束密度)は、150、180、210、250μmol/m/sで行った。
光強度ごとに20株の展葉株を用いた。
【0064】
(試験6の結果)
図6に示すように試験結果として、光強度150μmol/m/sの花芽誘導率は85%、光強度180μmol/m/sの花芽誘導率は95%、光強度210の花芽誘導率は100%、光強度250μmol/m/sの花芽誘導率は100%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光および近紫外光を照射して酸化ストレスを与える際の光強度は、少なくとも150μmol/m/s以上であれば花芽誘導効果を生ずることが示された。特に、光強度が210μmol/m/s以上の場合、著しい花芽誘導効果を発揮することが示された。
第1実施例の試験3の結果と比較すると、試験3よりも試験6のほうが光強度150μmol/m/sおよび180μmol/m/sの花芽誘導率が高かった。すなわち、酸化ストレス処理の光源において、特定波長の青色光のみを照射した場合(試験1)よりも、特定波長の青色光に特定波長の近紫外光を加えた場合(試験4)のほうが、より優れた花芽誘導効果が示された。
【0065】
<第3実施例>
第3実施例では、コチョウラン(Phalaenopsis aphrodite)の苗を用いて、上記実施例1と同一手法を用いて、酸化ストレス処理による花芽誘導効果の試験7~9を行った。上記実施例1と同一内容の説明部分についての記載は省略する。
【0066】
(酸化ストレス処理を施す対象)
以下、酸化ストレス処理による花芽形成について試験7~9を行った。各試験には、クローン技術を用いて生育されたコチョウランの展葉株(子葉が展葉した苗)を用いた。各試験において酸化ストレス処理終了後、通常の生育用養液c(EC値=1.8m S/cm程度)で約1ヶ月生育し、花芽誘導効果率を調べた。
【0067】
[試験7:日数によるコチョウランの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理を施す日数によるコチョウランの花芽誘導効果について試験を行った(図7参照)。具体的には下記の条件で、展葉苗に対して各処理日数(1~4日)の間、連続して酸化ストレス処理を施した。
【0068】
(試験7の条件)
各処理日数(1~4日)の間、酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、特定波長の青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光強度は葉の表面で210μmol/m/sであって、光波長のピークは450nmである。
処理日数(1~4日)ごとに20株の展葉株を用いた。
【0069】
(試験7の結果)
図7に示すように試験7の結果として、処理日数が1日の花芽誘導効果率は15%、処理日数が2日の花芽誘導効果率は85%、処理日数が3日の花芽誘導効果率は100%、処理日数が4日の花芽誘導効果率は100%であった。
従って、展葉株に少なくとも2日以上連続して酸化ストレス処理を施すことで花芽誘導効果を発揮することが示された。特に3日以上酸化ストレスを与えることで優れた花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0070】
[試験8:養液および光源の違いによるコチョウランの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に使用する養液および光源の違いによるコチョウランの花芽誘導効果について試験を行った(図8参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続して、養液および光源が異なる各酸化ストレス処理を施した。
【0071】
(試験8の条件)
酸化ストレス処理の養液は、窒素を含む通常の生育用養液c(EC値=1.8m S/cm程度)または窒素を含まない養液の水道水を用いた。
酸化ストレス処理の光源は、レイトロン社のLEDを使用し、特定波長の青色光または赤色光を用いた。青色光または赤色光の光強度は、葉の表面で210μmol/m/sである。各光波長のピークは、青色光が450nm、赤色光が650nmである。
各酸化ストレス処理の条件(使用する養液と光源の組合せ)は、養液cおよび特定波長の青色光を用いた条件、水道水および特定波長の青色光を用いた条件、養液cおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件である。展葉株に対して3日間連続して上記各条件の酸化ストレス処理を行った。
酸化ストレス処理ごとに20株の展葉株を用いた。
【0072】
(試験8の結果)
図8に示すように試験8の結果として、水道水および特定波長の青色光を用いた条件での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は100%であった。この条件以外(養液cおよび特定波長の青色光を用いた条件、養液cおよび特定波長の赤色光を用いた条件、水道水および特定波長の赤色光を用いた条件)での酸化ストレス処理による花芽誘導効果率は0%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射することによる酸化ストレス処理が、より優れた花芽誘導効果を有することが示された。
【0073】
[試験9:光強度の違いによるコチョウランの花芽誘導効果]
酸化ストレス処理に用いる青色光の光強度の違いによるコチョウランの花芽誘導効果について試験を行った(図9参照)。具体的には下記の条件で、展葉株に対して3日間連続で、窒素を含まない養液を供給して、光強度(光量子束密度)の異なる特定波長の青色光を照射して酸化ストレス処理を施した。
【0074】
(試験9の条件)
酸化ストレス処理として、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給して、各光強度(光量子束密度)の異なる青色光を連続して照射した。
窒素を含まない養液は、水道水を用いた。
青色光の光源は、レイトロン社のLEDを用いた。光波長のピークは450nmである。各光強度(光量子束密度)は、150、180、210、250μmol/m/sで行った。
光強度ごとに20株の展葉株を用いた。
【0075】
(試験9の結果)
図9に示すように試験結果として、光強度150μmol/m/sの花芽誘導率は85%、光強度180μmol/m/sの花芽誘導率は90%、光強度210の花芽誘導率は100%、光強度250μmol/m/sの花芽誘導率は100%であった。
従って、展葉株に対して、窒素を含まない養液を供給し、かつ、特定波長の青色光を照射して酸化ストレスを与える際の青色光の光強度は、少なくとも150μmol/m/s以上であれば花芽誘導効果を生ずることが示された。特に、光強度が210μmol/m/s以上の場合、著しい花芽誘導効果を発揮することが示された。
【0076】
以上のことから明らかなように、上記実施例に係る植物栽培方法は、生育中の植物に対し、特定波長の青色光を照射し、かつ、窒素を含まない養液を供給して、花芽形成を誘導すると、植物体内で活性酸素が発生して酸化によるストレスが加わる。これにより、栄養成長から生殖成長へと傾き、植物の葉で花芽形成を誘導する物質が効果的に形成されることで、植物の花芽形成が著しく促進し、開花促進、花実数の増加、花実の大きさや実の糖度向上を促すことができる。なお、前記青色光に加えて特定波長の近紫外光を照射することで、さらに優れた花芽形成を誘導する効果を得ることができる。
【0077】
また、通常よりも短時間の処理で優れた花芽誘導効果を得ることができる。このように、実施例に係る栽培方法は、従来よりも短時間かつ効率的に花芽形成を促進することができる。実施例に係る栽培方法は、花き園芸植物での利用はもちろん、果菜類や果樹類、穀物類においても花芽形成の促進による増収効果を期待でき、幅広い農業分野で利用が期待できる。