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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168444
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085142
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 亮
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA13
5J097BB11
5J097EE08
5J097GG03
5J097GG04
5J097HA06
5J097KK09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】2倍波を励振させることができ、基本波を抑制する弾性波装置を提供する。
【解決手段】弾性波装置1は、圧電体層6を含む圧電性基板2と、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19と、を有する。隣り合う2つの電極指が重なり合っている領域が交叉領域である。圧電体層6は、第1の領域A及び第1の領域Aと分極方向が異なる第2の領域Bを有する。第1の領域A及び第2の領域Bは、少なくとも交叉領域に位置している。交叉領域は、第1の領域A及び第2の領域Bが、電極指直交方向において交互に並んでいる分極変化領域を含む。分極変化領域に位置している第1の領域Aは、平面視において、第1の電極指18の少なくとも一部と重なっていてる。同様に第2の領域Bは、第2の電極指19の少なくとも一部と重なっている。分極変化領域において、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置している区間が周期的に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層を含む圧電性基板と、
前記圧電体層上に設けられており、互いに間挿し合っており、互いに異なる電位に接続される複数の第1の電極指及び複数の第2の電極指を有するIDT電極と、
を備え、
前記圧電体層における前記IDT電極が設けられている部分が、交叉領域を含み、前記複数の第1の電極指及び前記複数の第2の電極指が延びる方向を電極指延伸方向、前記電極指延伸方向と直交する方向を電極指直交方向とし、前記電極指直交方向から前記IDT電極を見たときに、隣り合う前記第1の電極指及び前記第2の電極指が重なり合っている領域が前記交叉領域であり、
前記圧電体層が、第1の領域、及び前記第1の領域と分極方向が異なる第2の領域を有し、前記第1の領域及び前記第2の領域が、少なくとも前記交叉領域に位置しており、
前記交叉領域が、前記第1の領域及び前記第2の領域が前記電極指直交方向において交互に並んでいる、分極変化領域を含み、
前記分極変化領域に位置している前記第1の領域が、平面視において、前記第1の電極指及び前記第2の電極指のうち、少なくとも前記第1の電極指と重なっており、かつ前記第1の領域が、前記第1の電極指の少なくとも一部と重なっており、
前記分極変化領域に位置している前記第2の領域が、平面視において、前記第2の電極指の少なくとも一部と重なっており、
1対の前記第1の電極指及び前記第2の電極指の、前記電極指直交方向における中心間の領域を1つの区間としたときに、前記分極変化領域において、前記第1の領域及び前記第2の領域の双方が位置している前記区間が周期的に配置されている、弾性波装置。
【請求項2】
前記分極変化領域における全ての前記区間に、前記第1の領域及び前記第2の領域の双方が位置している、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記第1の領域及び前記第2の領域において、分極方向が互いに反転しており、前記第1の領域における分極軸、及び前記第2の領域における分極軸がなす角の角度が180°±5°以内の範囲である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記分極変化領域における前記区間内において、前記第1の領域の前記電極指直交方向に沿う寸法をL1、前記第2の領域の前記電極指直交方向に沿う寸法をL2としたときに、L2/L1が1±0.1以内の範囲である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記圧電性基板が高音速部材層を含み、
前記高音速部材層上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられており、
前記高音速部材層を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体層を伝搬する弾性波の音速よりも高い、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記圧電性基板が音響反射膜を含み、
前記音響反射膜上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられており、
前記音響反射膜が、相対的に音響インピーダンスが低い、少なくとも1層の低音響インピーダンス層と、相対的に音響インピーダンスが高い、少なくとも1層の高音響インピーダンス層と、を有し、前記低音響インピーダンス層及び前記高音響インピーダンス層が交互に積層されている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記圧電性基板が電極層を含み、
前記電極層上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記圧電性基板が酸化ケイ素膜を含み、
前記酸化ケイ素膜上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられている、請求項1に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置は携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。下記の特許文献1には、弾性波装置の一例が開示されている。この弾性波装置においては、支持基板、高音速膜、低音速膜及び圧電膜がこの順序で積層されている。圧電膜上にIDT(Interdigital Transducer)電極が設けられている。特許文献1には、圧電膜を伝搬する主モードとして、P波を主成分とするモード、SH波を主成分とするモード及びSV波を主成分とするモードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/086639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高周波フィルタに弾性波装置を用いる場合、弾性波装置を動作させるモードの周波数が高いことが必要となる。しかしながら、従来の弾性波装置においては、高調波を好適に励振させることは困難である。例えば、従来においては、3倍波の電気機械結合係数は小さく、2倍波の電気機械結合係数は特に小さい。なお、2倍波を弾性波装置の動作に利用する場合には、基本波は不要波となる。そのため、基本波を抑制することが要される。
【0005】
本発明の目的は、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、圧電体層を含む圧電性基板と、前記圧電体層上に設けられており、互いに間挿し合っており、互いに異なる電位に接続される複数の第1の電極指及び複数の第2の電極指を有するIDT電極とを備え、前記圧電体層における前記IDT電極が設けられている部分が、交叉領域を含み、前記複数の第1の電極指及び前記複数の第2の電極指が延びる方向を電極指延伸方向、前記電極指延伸方向と直交する方向を電極指直交方向とし、前記電極指直交方向から前記IDT電極を見たときに、隣り合う前記第1の電極指及び前記第2の電極指が重なり合っている領域が前記交叉領域であり、前記圧電体層が、第1の領域、及び前記第1の領域と分極方向が異なる第2の領域を有し、前記第1の領域及び前記第2の領域が、少なくとも前記交叉領域に位置しており、前記交叉領域が、前記第1の領域及び前記第2の領域が前記電極指直交方向において交互に並んでいる、分極変化領域を含み、前記分極変化領域に位置している前記第1の領域が、平面視において、前記第1の電極指及び前記第2の電極指のうち、少なくとも前記第1の電極指と重なっており、かつ前記第1の領域が、前記第1の電極指の少なくとも一部と重なっており、前記分極変化領域に位置している前記第2の領域が、平面視において、前記第2の電極指の少なくとも一部と重なっており、1対の前記第1の電極指及び前記第2の電極指の、前記電極指直交方向における中心間の領域を1つの区間としたときに、前記分極変化領域において、前記第1の領域及び前記第2の領域の双方が位置している前記区間が周期的に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる、弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す模式的正面断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の模式的平面図である。
図3】本発明の第1の実施形態における第1の領域及び第2の領域の配置を示す、圧電体層の模式的平面図である。
図4】本発明の第1の実施形態におけるアドミッタンス周波数特性を示す図である。
図5】比較例における2対の電極指付近を示す模式的正面断面図であって、比較例において基本波が励振されることを説明するための図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図であって、第1の実施形態において基本波が励振され難いことを説明するための図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図であって、第1の実施形態において2倍波が励振されることを説明するための図である。
図8】本発明の第1の実施形態の第1の変形例に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図9】本発明の第1の実施形態の第2の変形例に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図10】本発明の第1の実施形態の第3の変形例に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図13】本発明の第4の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図14】本発明の第5の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図15】本発明の第5の実施形態の第1の変形例に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図16】本発明の第5の実施形態の第2の変形例に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
図17】本発明の第5の実施形態の第3の変形例に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す模式的正面断面図である。図2は、第1の実施形態に係る弾性波装置の模式的平面図である。なお、図1は、図2中のI-I線に沿う模式的断面図である。
【0012】
図1に示すように、弾性波装置1は圧電性基板2を有する。圧電性基板2は圧電性を有する基板である。圧電性基板2は、圧電材料からなる圧電体層6を含む。より具体的には、本実施形態においては、圧電性基板2は、高音速部材層としての高音速支持基板4と、低音速膜としての酸化ケイ素膜5と、上記圧電体層6とを含む。高音速支持基板4上に酸化ケイ素膜5が設けられている。酸化ケイ素膜5上に圧電体層6が設けられている。なお、圧電性基板2の積層構成は上記に限定されない。圧電性基板2は、少なくとも圧電体層6を含んでいればよい。
【0013】
圧電体層6の材料としては、ニオブ酸リチウムが用いられている。より具体的には、圧電体層6の材料として、回転YカットのLiNbOが用いられている。もっとも、圧電体層6の材料は上記に限定されない。例えば、圧電体層6の材料には、LiTaOなどのタンタル酸リチウムなどが用いられていてもよい。
【0014】
圧電体層6上にはIDT電極12が設けられている。IDT電極12に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。弾性波装置1は、2倍波を利用可能に構成されている。2倍波の周波数は、基本波の周波数の約2倍である。2倍波の波長は、基本波の波長の約1/2倍である。弾性波装置1の動作に2倍波を利用する場合には、基本波は不要波となる。
【0015】
高音速支持基板4である高音速部材層は、相対的に高音速な層である。より具体的には、高音速部材層を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層6を伝搬する弾性波の音速よりも高い。本実施形態における高音速部材層としての高音速支持基板4は、シリコン基板である。もっとも、高音速部材層の材料はシリコンに限定されない。なお、高音速部材層は高音速膜であってもよい。この場合、圧電性基板2は、例えば、支持基板を有していればよい。支持基板上に高音速膜が設けられていればよい。
【0016】
低音速膜は相対的に低音速な膜である。より具体的には、低音速膜を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層6を伝搬するバルク波の音速よりも低い。本実施形態における低音速膜は酸化ケイ素膜5である。もっとも、低音速膜の材料は酸化ケイ素に限定されない。
【0017】
図2に示すように、IDT電極12は、1対のバスバーと、複数の電極指とを有する。1対のバスバーは、具体的には、第1のバスバー16及び第2のバスバー17である。第1のバスバー16及び第2のバスバー17は互いに対向している。複数の電極指は、具体的には、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19である。複数の第1の電極指18の一端はそれぞれ、第1のバスバー16に接続されている。複数の第2の電極指19の一端はそれぞれ、第2のバスバー17に接続されている。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19は互いに間挿し合っている。
【0018】
第1の電極指18及び第2の電極指19は、互いに異なる電位に接続される。例えば、第1の電極指18及び第2の電極指19のうち一方が信号電位に接続され、他方がグラウンド電位に接続されてもよい。あるいは、第1の電極指18及び第2の電極指19のうち一方が信号電位における入力電位に接続され、他方が信号電位における出力電位に接続されてもよい。
【0019】
圧電体層6上には、1対の反射器13A及び反射器13Bが設けられている。より具体的には、反射器13A及び反射器13Bは、弾性波伝搬方向において、IDT電極12を挟み互いに対向するように設けられている。弾性波装置1は弾性表面波共振子である。
【0020】
本実施形態では、IDT電極12及び各反射器は単層の金属膜からなる。具体的には、IDT電極12及び各反射器の材料としてAlが用いられている。もっとも、IDT電極12及び各反射器の材料は上記に限定されない。あるいは、IDT電極12及び各反射器は、積層金属膜からなっていてもよい。
【0021】
以下においては、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19が延びる方向を電極指延伸方向、電極指延伸方向と直交する方向を電極指直交方向とする。電極指直交方向と弾性波伝搬方向とは平行である。電極指直交方向からIDT電極12を見たときに、隣り合う第1の電極指18及び第2の電極指19が重なり合っている領域が交叉領域Cである。なお、交叉領域Cは、IDT電極12の構成により規定される圧電体層6の領域である。すなわち、圧電体層6におけるIDT電極12が設けられている部分が、交叉領域Cを含む。
【0022】
図1に示すように、圧電体層6は第1の領域A及び第2の領域Bを有する。第1の領域A及び第2の領域Bは、分極方向が互いに反転した関係である。本明細書では、2つの部分において分極方向が互いに反転した関係とは、双方において、結晶の音響的な性質は同一であり、分極方向のみが約180°互いに異なっていることをいう。第1の領域A及び第2の領域Bにおける分極方向の差は、例えば、走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)などを用いて評価することができる。
【0023】
なお、結晶の音響的な性質が同一であるとは、結晶構造が実質的に同じであることを意味している。結晶構造が同じであるか否かは、例えば、結晶構造をX線回折(XRD)によって確認することにより、あるいは、分極の状態を非線形誘電率顕微鏡によって確認することにより判断することができる。
【0024】
2つの部分において分極方向が互いに完全に反転した関係は、該2つの部分のオイラー角(φ,θ,ψ)におけるθの差の絶対値が180°であることと等価である。弾性波装置1における第1の領域A及び第2の領域Bにおいては、双方の分極軸がなす角の角度が180°±5°以内である。
【0025】
本実施形態では、第1の領域Aにおいては、オイラー角は(0°,110°,0°)である。第2の領域Bにおいては、第1の領域Aに対して、分極方向は完全に反転している。よって、第2の領域Bにおいては、オイラー角は等価的に(0°,290°,0°)である。なお、第1の領域A及び第2の領域Bにおいては、分極方向が互いに異なっていればよい。
【0026】
図3は、第1の実施形態における第1の領域及び第2の領域の配置を示す、圧電体層の模式的平面図である。なお、図3においては、第1の領域A及び第2の領域Bを、ハッチングを付して示している。
【0027】
第1の領域A及び第2の領域Bは、少なくとも交叉領域Cに位置している。具体的には、本実施形態においては、第1の領域Aは、交叉領域C外の全体にも位置している。他方、第2の領域Bは、交叉領域C内のみに位置している。すなわち、第2の領域Bは第1の領域Aにより囲まれている。もっとも、第2の領域Bは、交叉領域Cの外側に位置する部分を有していてもよい。
【0028】
図1に戻り、第1の領域A及び第2の領域Bはそれぞれ、圧電体層6の厚み方向における全体に位置している。なお、第1の領域Aまたは第2の領域Bは、圧電体層6の厚み方向における一部に位置していてもよい。第1の領域A及び第2の領域Bは、少なくとも、圧電体層6における、IDT電極12が設けられている主面に位置していればよい。
【0029】
交叉領域Cは分極変化領域を含む。具体的には、分極変化領域とは、第1の領域A及び第2の領域Bが、電極指直交方向において交互に並んでいる領域である。本実施形態では、分極変化領域は交叉領域Cの全体に位置している。もっとも、分極変化領域は、交叉領域Cの、電極指延伸方向及び電極指直交方向のうち少なくとも一方における一部に位置していてもよい。
【0030】
なお、上記のように、図3に示す本実施形態の第1の領域Aは、交叉領域C内に位置する複数の部分、及び交叉領域C外に位置する部分を有する。そして、第1の領域Aにおける交叉領域C内に位置する複数の部分は、交叉領域C外に位置する部分により接続されている。よって、第1の領域Aは、連続した1つの領域である。もっとも、本明細書においては、第1の領域Aにおける、第2の領域Bを挟み互いに対向している各部分を、便宜上、それぞれ別個の第1の領域Aとして記載することがある。なお、実際の構成として、圧電体層6が複数の第1の領域A及び複数の第2の領域Bを有していてもよい。
【0031】
本実施形態では、平面視において、1個の第1の領域Aと、1本の第1の電極指18とが重なっている。本明細書において平面視とは、図1における上方に相当する方向から弾性波装置を見ることをいう。図1においては、例えば、高音速支持基板4側及び圧電体層6側のうち、圧電体層6側が上方である。
【0032】
交叉領域Cでは、各第1の領域Aは、平面視において1本の第1の電極指18における全体と重なっている。さらに、各第1の領域Aは、平面視において、電極指直交方向における第1の電極指18の外側とも重なっている。もっとも、第1の領域Aは、平面視において、第1の電極指18における交叉領域Cに位置している部分の、少なくとも一部と重なっていればよい。
【0033】
分極変化領域に位置している第1の領域Aは、平面視において第2の電極指19と重なっていない。なお、本発明では、分極変化領域に位置している第1の領域Aが、平面視において、第1の電極指18及び第2の電極指19のうち、少なくとも第1の電極指18と重なっていればよい。分極変化領域に位置している第1の領域Aは、平面視において第2の電極指19と重なっていてもよい。
【0034】
図1に示すように、平面視において、1個の第2の領域Bと、1本の第2の電極指19とが重なっている。より具体的には、交叉領域Cでは、各第2の領域Bは、平面視において1本の第2の電極指19における全体と重なっている。さらに、各第2の領域Bは、平面視において、電極指直交方向における第2の電極指19の外側とも重なっている。もっとも、第2の領域Bは、平面視において、第2の電極指19における交叉領域Cに位置している部分の、少なくとも一部と重なっていればよい。第2の領域Bは、平面視において、第1の電極指18と重なっていない。
【0035】
分極変化領域においては、全ての第2の電極指19が、平面視において第2の領域Bと重なっている。なお、本発明においては、分極変化領域に、第2の領域Bが周期的に配置されていればよい。例えば、分極変化領域に位置している第2の領域Bは、1本おきまたは2本おきなどの第2の電極指19と、平面視において重なっていてもよい。第2の領域Bと平面視において重なっていない第2の電極指19は、第1の領域Aと平面視において重なっていればよい。
【0036】
第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、圧電体層6における、第1の電極指18及び第2の電極指19の間の部分と平面視において重なる部分に位置している。
【0037】
ここで、1対の第1の電極指18及び第2の電極指19の、電極指直交方向における中心間の領域を1つの区間とする。本実施形態の特徴は、交叉領域Cにおいて、第1の領域A及び第2の領域Bによって分極変化領域が構成されており、分極変化領域において、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置している区間が、周期的に配置されていることにある。それによって、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。従って、弾性波装置1の動作に2倍波を好適に利用することができ、不要波としての基本波を抑制することができる。これを以下において説明する。
【0038】
第1の実施形態の構成を有する弾性波装置1のアドミッタンス周波数特性を、FEM(Finite Element Method)シミュレーションにより導出した。弾性波装置1の設計パラメータは以下の通りである。ここで、IDT電極12の電極指ピッチにより規定される波長をλとする。電極指ピッチとは、隣り合う第1の電極指18及び第2の電極指19の、電極指直交方向における中心間距離である。例えば、電極指ピッチをpとしたときに、λ=2pである。波長λは基本波の波長である。
【0039】
高音速支持基板:材料…仮想高音速材料
酸化ケイ素膜:材料…SiO、厚み…0.14λ
圧電体層:材料…回転YカットのLiNbO、厚み…0.14λ、第1の領域におけるオイラー角…(0°,110°,0°)、第2の領域におけるオイラー角…(0°,290°,0°)
IDT電極:材料…Al、厚み…0.05λ
波長λ…1μm
デューティ比…0.3
【0040】
図4は、第1の実施形態におけるアドミッタンス周波数特性を示す図である。
【0041】
図4中の矢印N1は、基本波が生じる周波数を示している。より詳細には、本実施形態においては、圧電体層6を伝搬する弾性波の音速は、約4000m/sである。そして、上記の設計パラメータより、基本波の波長は1μmである。なお、任意の波の波長をλn、周波数をf、音速をvとしたときに、f=v/λnである。この式から、本実施形態における基本波の周波数は、約4GHzである。
【0042】
図4中の矢印N2は、2倍波が生じる周波数を示している。2倍波の周波数は7GHzを超える周波数である。図4に示すように、本実施形態においては、2倍波を強勢に励振させることができ、基本波を効果的に抑制することができる。従って、弾性波装置1の動作に2倍波を好適に利用することができ、不要波としての基本波を効果的に抑制することができる。
【0043】
以下において、第1の実施形態における上記の効果を得られる理由を説明する。なお、参考のために比較例も示す。比較例は、圧電体層に分極方向が反転した領域が含まれない点において、第1の実施形態と異なる。比較例では、圧電体層の分極方向は一定である。
【0044】
図5は、比較例における2対の電極指付近を示す模式的正面断面図であって、比較例において基本波が励振されることを説明するための図である。図6は、第1の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図であって、第1の実施形態において基本波が励振され難いことを説明するための図である。図7は、第1の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図であって、第1の実施形態において2倍波が励振されることを説明するための図である。
【0045】
図5図7においては、圧電体層における分極方向を模式的に示す。図5図7においては、分極方向の符号として、圧電体層の、各電極指が設けられている主面側の符号を示している。図5及び図6においては、基本波が励振されたと仮定した場合の変位と、これに伴い生じる電荷を模式的に示す。図7においては、2倍波が励振されたと仮定した場合の変位と、これに伴い生じる電荷を模式的に示す。
【0046】
図5に示すように、圧電体層が変位することにより生じる電荷の符号は、圧電体層の分極方向の符号と、変位の方向との積により表わすことができる。比較例では、第1の電極指18が設けられている部分においては、分極方向の符号が正であり、変位の方向は正である。よって、第1の電極指18が設けられている部分において生じる電荷の符号は正である。第2の電極指19が設けられている部分においても、分極方向の符号は正である。そして、第2の電極指19が設けられている部分において、変位の方向は負である。よって、第2の電極指19が設けられている部分において生じる電荷の符号は負である。
【0047】
これらのように、第1の電極指18が設けられている部分において生じる電荷と、第2の電極指19が設けられている部分において生じる電荷とにおいては、符号が互いに異なる。そのため、第1の電極指18及び第2の電極指19は電位差を有する。すなわち、基本波の励振と、第1の電極指18及び第2の電極指19が電位差を有することとが整合する。従って、比較例においては、基本波が強勢に励振されることとなる。
【0048】
一方で、図6に示すように、第1の実施形態においては、第1の領域A及び第2の領域Bは、分極方向が互いに反転した関係である。これにより、第1の電極指18が設けられている部分、及び第2の電極指19が設けられている部分は、分極方向が互いに反転した関係となっている。この結果、基本波が励振されたと仮定した場合、第1の電極指18及び第2の電極指19において生じる電荷の符号は同じとなる。そのため、第1の電極指18及び第2の電極指19は電位差を有しない。すなわち、基本波が励振されることと、第1の電極指18及び第2の電極指19が電位差を有することとは整合しない。従って、第1の実施形態において、基本波の励振を効果的に抑制することができる。
【0049】
なお、図6は理想的な状態を示している。図6においては、基本波が励振されないことが示されている。もっとも、第1の領域A及び第2の領域Bは、必ずしも分極方向が互いに反転した関係ではなくともよい。第1の領域A及び第2の領域Bにおいて、分極方向が互いに異なっていればよい。この場合においても、基本波が励振されることによる、第1の電極指18及び第2の電極指19の電位差は小さくなる。従って、基本波による応答の強度を小さくすることができる。すなわち、基本波を抑制することができる。
【0050】
図7に示すように、2倍波が励振されたと仮定した場合、第1の電極指18が設けられている部分、及び第2の電極指19が設けられている部分において、変位の方向が同じとなる。そして、第1の電極指18が設けられている部分、及び第2の電極指19が設けられている部分は、分極方向が互いに反転した関係である。よって、第1の電極指18が設けられている部分において生じる電荷と、第2の電極指19が設けられている部分において生じる電荷とにおいては、符号が互いに異なる。そのため、第1の電極指18及び第2の電極指19は電位差を有する。すなわち、2倍波の励振と、第1の電極指18及び第2の電極指19が電位差を有することとが整合する。従って、第1の実施形態では、2倍波を強勢に励振させることができる。
【0051】
なお、第1の領域A及び第2の領域Bを有する圧電体層6を得る際には、例えば、第1の領域Aのみを有する圧電体層に相当するウエハ上に、成膜処理を行えばよい。これにより、第1の領域A及び第2の領域Bを有する圧電体層6を形成してもよい。この場合、例えば、ウエハの表面の一部における結晶性を、イオンビームの照射やプラズマ処理などの表面処理によって、予め乱しておけばよい。あるいは、上記ウエハ上に成膜処理をする際の成膜温度を低くすることによって、表面拡散を減らせばよい。これらにより、第2の領域Bを有する膜を成長させることができる。例えば、上記表面処理時にレジストパターンを形成することにより、第1の領域A及び第2の領域Bの配置を調整することができる。
【0052】
あるいは、スパッタリングによる成膜を行う場合であれば、セルフバイアスによるミリング効果を用いればよい。これにより、優先される配向面を制御し、第1の領域Aの分極方向に対して、第2の領域Bの分極方向を容易に傾けることができる。より具体的には、例えば、ウエハの材料としてLiNbOを用いる場合には、ウエハの主面の法線方向から、イオンビームの照射を行ってもよい。これにより、結晶c軸方向が上記法線方向から傾いた膜を成長させ易くすることができる。それによって、分極方向が傾いた膜を成膜することができる。
【0053】
ウエハにおいて第2の領域Bを形成した後に、ウエハの厚みを調整することなどにより、第2の領域Bが、ウエハの厚み方向における全体に位置するようにしてもよい。その後、ウエハを分割することにより、複数の圧電体層6を得てもよい。
【0054】
以下において、第1の実施形態の好ましい構成を示す。
【0055】
図1に示すように、分極変化領域における全ての区間に、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置していることが好ましい。それによって、2倍波をより確実に、強勢に励振させることができ、基本波をより確実に、効果的に抑制することができる。
【0056】
第1の領域Aにおける分極軸、及び第2の領域Bにおける分極軸がなす角の角度が180°±5°以内の範囲であることが好ましい。この場合には、上記のように、第1の領域A及び第2の領域Bは、分極方向が互いに反転した関係である。これにより、2倍波を強勢に励振させることができ、基本波を効果的に抑制することができる。
【0057】
図1に示すように、分極変化領域における1つの区間内において、第1の領域Aの電極指直交方向に沿う寸法をL1、第2の領域Bの電極指直交方向に沿う寸法をL2としたときに、L2/L1が1±0.1以内の範囲であることが好ましい。この場合には、寸法L1及び寸法L2の差が十分に小さい。それによって、2倍波をより確実に強勢に励振させることができ、基本波をより確実に、効果的に抑制することができる。
【0058】
圧電性基板2が、高音速部材層及び圧電体層6を含む積層基板であることが好ましい。圧電性基板2が、高音速部材層、低音速膜及び圧電体層6がこの順序において積層された積層基板であることがより好ましい。なお、第1の実施形態においては、高音速部材層は高音速支持基板4であり、低音速膜は酸化ケイ素膜5である。
【0059】
2倍波の周波数は高いため、2倍波のエネルギーが圧電体層6側に十分に閉じ込められないおそれもある。これに対して、圧電性基板2が上記のような積層構成を有する場合には、2倍波のエネルギーを圧電体層6側に効果的に閉じ込めることができる。
【0060】
なお、第1の実施形態のように、低音速膜が酸化ケイ素膜5であることが好ましい。それによって、弾性波装置1の周波数温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることができる。よって、弾性波装置1の周波数温度特性を改善することができる。
【0061】
もっとも、低音速膜の材料としては、例えば、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、酸化タンタル、もしくは酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物などの誘電体、または上記材料を主成分とする材料を用いることもできる。
【0062】
本明細書において主成分とは、占める割合が50重量%を超える成分をいう。上記主成分の材料は、単結晶、多結晶、及びアモルファスのうちいずれかの状態、もしくは、これらが混在した状態で存在していてもよい。
【0063】
本実施形態では、低音速膜としての酸化ケイ素膜5上に直接的に圧電体層6が設けられている。なお、低音速膜上に、圧電体層6以外の圧電体層や、誘電体層などを介して間接的に圧電体層6が設けられていてもよい。
【0064】
高音速部材層である高音速支持基板4の材料としては、シリコンが用いられている。もっとも、高音速部材層の材料は上記に限定されない。高音速部材層の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、スピネル、サイアロンなどのセラミック、酸化アルミニウム、酸窒化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、ダイヤモンドなどの誘電体、もしくはシリコンなどの半導体、または上記材料を主成分とする材料を用いることもできる。なお、上記スピネルには、Mg、Fe、Zn、Mnなどから選ばれる1以上の元素と酸素とを含有するアルミニウム化合物が含まれる。上記スピネルの例としては、MgAl、FeAl、ZnAl、MnAlを挙げることができる。
【0065】
第1の実施形態においては、高音速部材層としての高音速支持基板4上に、低音速膜を介して間接的に圧電体層6が設けられている。なお、例えば、高音速部材層上に、圧電体層6以外の圧電体層や低音速膜以外の誘電体膜を介して間接的に圧電体層6が設けられていてもよい。あるいは、高音速部材層上に直接的に圧電体層6が設けられていてもよい。
【0066】
図1に示すように、弾性波装置1においては、第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、各区間における電極指直交方向における中央に位置している。該境界は、圧電体層6の主面の法線方向に延びている。すなわち、弾性波装置1では、L2/L1=1である。なお、第1の領域A及び第2の領域Bの境界の配置は上記に限定されない。以下において、第1の領域A及び第2の領域Bの境界の配置のみが第1の実施形態と異なる、第1の実施形態の第1~第3の変形例を示す。第1~第3の変形例においても、第1の実施形態と同様に、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。
【0067】
図8に示す第1の変形例の圧電体層6Aにおいては、L2/L1<1である。なお、本変形例においては、第1の実施形態と同様に、第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、圧電体層6Aの主面の法線方向に延びている。第1の領域Aの電極指直交方向における中央と、第1の電極指18の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっている。第2の領域Bの電極指直交方向における中央と、第2の電極指19の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっている。
【0068】
図9に示す第2の変形例の圧電体層6Bにおいては、第1の領域Aの電極指直交方向における中央と、第1の電極指18の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっていない。第2の領域Bの電極指直交方向における中央と、第2の電極指19の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっていない。そのため、隣り合う区間同士における寸法L1は互いに異なる。なお、本変形例においては、第1の変形例と同様に、第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、圧電体層6Bの主面の法線方向に延びている。同様に、隣り合う区間同士における寸法L2は互いに異なる。もっとも、本変形例では、いずれの区間においてもL2/L1<1である。
【0069】
図10に示す第3の変形例の圧電体層6Cにおいては、第1の領域A及び第2の領域Bの境界が、電極指直交方向に沿う断面において曲線状の形状を有する。より具体的には、第2の領域Bの寸法L2が、圧電体層6Cの厚み方向において、第2の電極指19から遠ざかるほど小さくなっている。なお、図10では、圧電体層6Cにおける、IDT電極12が設けられている主面においての寸法L1及び寸法L2が示されている。本変形例では、圧電体層6Cの厚み方向におけるいずれの位置においても、L2/L1<1である。
【0070】
第1~第3の変形例における、第1の領域A及び第2の領域Bの境界の構成は、本発明における他の形態においても採用することができる。
【0071】
図3により模式的に示すように、圧電体層6は1つの第1の領域A及び複数の第2の領域Bを有する。もっとも、圧電体層6は、複数の第1の領域A及び複数の第2の領域Bを有していてもよい。例えば、一部の第2の領域Bが複数の第1の領域Aのうち1つの第1の領域Aを囲んでいてもよい。この場合、具体的には、例えば、一部の第2の領域Bが、交叉領域C内に位置する複数の部分、及び交叉領域C外に位置する複数の部分を有する。そして、第2の領域Bにおける交叉領域C内に位置する複数の部分が、交叉領域C外に位置する各部分により接続されている。該第2の領域Bにより、1つの第1の領域Aが囲まれている。
【0072】
ところで、図1に示す圧電体層6上には、誘電体膜が設けられていてもよい。これにより、誘電体膜によってIDT電極12が保護されるため、IDT電極12が破損し難い。誘電体膜の材料としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素または酸窒化ケイ素などを用いることができる。この誘電体膜が設けられた構成は、本発明における他の形態においても採用することができる。
【0073】
圧電体層6及びIDT電極12の間には、圧電体層6以外の圧電体層または、誘電体層が設けられていてもよい。この場合には、上記圧電体層または上記誘電体層の厚みを調整することなどにより、弾性波装置の比帯域を調整することができる。上記圧電体層または、上記誘電体層が設けられた構成は、本発明における他の形態においても採用することができる。
【0074】
第1の実施形態においては、IDT電極12の電極指ピッチは一定である。なお、本発明においては、IDT電極12が、電極指ピッチが互いに異なる複数の部分を含んでいてもよい。例えば、IDT電極12において、電極指ピッチがランダムであってもよい。この場合には、L2/L1を、隣り合う第1の電極指18同士の電極指直交方向における中心間距離と、隣り合う第2の電極指19同士の電極指直交方向における中心間距離との比に基づく値にすることが好ましい。具体的には、隣り合う第1の電極指18同士の電極指直交方向における中心間距離をp1、隣り合う第2の電極指19同士の電極指直交方向における中心間距離をp2としたときに、(p2/p1)/(L2/L1)=1±0.1以内の範囲とすることが好ましい。それによって、2倍波を強勢に励振させることができ、基本波を抑制することができる。
【0075】
第1の実施形態におけるIDT電極12の電極指の幅は一定である。電極指の幅は、電極指の電極指直交方向に沿う寸法である。もっとも、本発明においては、IDT電極12の複数の電極指が、幅が異なる電極指を含んでいてもよい。
【0076】
図11は、第2の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【0077】
本実施形態は、圧電性基板22の積層構成において第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置1と同様の構成を有する。
【0078】
圧電性基板22は、支持基板23と、音響反射膜27と圧電体層6とを有する。支持基板23上に音響反射膜27が設けられている。音響反射膜27上に圧電体層6が設けられている。
【0079】
支持基板23はシリコン基板である。本実施形態における支持基板23は、高音速部材層としての高音速支持基板である。よって、支持基板23の材料として、シリコン以外の、上述した高音速部材層の材料を用いることもできる。もっとも、支持基板23は高音速部材層ではなくともよい。支持基板23の材料としては、例えば樹脂などの、高音速部材層の材料とは異なる材料を用いることもできる。
【0080】
音響反射膜27は複数の音響インピーダンス層の積層体である。具体的には、音響反射膜27は、複数の低音響インピーダンス層27aと、複数の高音響インピーダンス層27bとを有する。低音響インピーダンス層27aは、相対的に音響インピーダンスが低い層である。一方で、高音響インピーダンス層27bは、相対的に音響インピーダンスが高い層である。
【0081】
音響インピーダンス層において、相対的に音響インピーダンスが低いとは、該音響インピーダンス層と隣接する音響インピーダンス層よりも、音響インピーダンスが低いことをいう。音響インピーダンス層において、相対的に音響インピーダンスが高いとは、該音響インピーダンス層と隣接する音響インピーダンス層よりも、音響インピーダンスが高いことをいう。低音響インピーダンス層27a及び高音響インピーダンス層27bは交互に積層されている。なお、低音響インピーダンス層27aが、音響反射膜27において最も圧電体層6側に位置する層である。
【0082】
音響反射膜27は、低音響インピーダンス層27aを6層有し、高音響インピーダンス層27bを6層有する。もっとも、音響反射膜27は、低音響インピーダンス層27a及び高音響インピーダンス層27bをそれぞれ少なくとも1層ずつ有していればよい。
【0083】
低音響インピーダンス層27aの材料としては、例えば、酸化ケイ素またはアルミニウムなどを用いることができる。高音響インピーダンス層27bの材料としては、例えば、白金またはタングステンなどの金属や、窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素などの誘電体を用いることができる。
【0084】
圧電体層6は、第1の実施形態と同様に構成されている。そのため、交叉領域において、第1の領域A及び第2の領域Bによって分極変化領域が構成されており、分極変化領域における各区間内に、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置している。それによって、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。従って、弾性波装置の動作に2倍波を好適に利用することができ、不要波としての基本波を抑制することができる。
【0085】
本実施形態においては、音響反射膜27上に直接的に圧電体層6が設けられている。もっとも、音響反射膜27上に、圧電体層6以外の圧電体層や、誘電体層などを介して間接的に圧電体層6が設けられていてもよい。圧電性基板22は、該誘電体層として、酸化ケイ素膜を含んでいてもよい。圧電性基板22において、圧電体層6及び音響反射膜27が積層されていればよい。それによって、2倍波のエネルギーを効果的に圧電体層6側に閉じ込めることができる。
【0086】
支持基板23及び音響反射膜27の間に、酸化ケイ素膜が設けられていてもよい。この場合には、弾性波装置の周波数温度係数の絶対値を小さくすることができる。よって、弾性波装置の周波数温度特性を改善することができる。
【0087】
図12は、第3の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【0088】
本実施形態は、酸化ケイ素膜5及び圧電体層6の間に電極層38が設けられている点において、第1の実施形態と異なる。電極層38の材料としては、適宜の金属を用いることができる。上記の点以外においては、本実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置1と同様の構成を有する。
【0089】
圧電体層6は、第1の実施形態と同様に構成されている。そのため、交叉領域において、第1の領域A及び第2の領域Bによって分極変化領域が構成されており、分極変化領域における各区間内に、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置している。それによって、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。従って、弾性波装置の動作に2倍波を好適に利用することができ、不要波としての基本波を抑制することができる。
【0090】
IDT電極12及び電極層38は、圧電体層6を挟み互いに対向している。これにより、静電容量を大きくすることができる。例えば、圧電体層6の厚みを調整することなどにより、静電容量の大きさを調整することができる。それによって、弾性波装置における比帯域を調整することができる。
【0091】
本実施形態においては、電極層38上に直接的に圧電体層6が設けられている。もっとも、電極層38上に、圧電体層6以外の圧電体層や、誘電体層などを介して間接的に圧電体層6が設けられていてもよい。この場合には、上記圧電体層または上記誘電体層の厚みを調整することなどにより、弾性波装置の静電容量を調整することができる。それによって、弾性波装置の比帯域を調整することができる。
【0092】
なお、例えば、酸化ケイ素膜5の代わりに、図11に示した音響反射膜27が用いられていてもよい。
【0093】
図13は、第4の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【0094】
本実施形態は、高音速支持基板4上に直接的に圧電体層6Aが設けられている点において、第1の実施形態と異なる。本実施形態は、L2/L1<1である点においても第1の実施形態と異なる。なお、圧電体層6Aは、図8に示す第1の実施形態の第1の変形例と同様に構成されている。上記の点以外においては、本実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置1と同様の構成を有する。
【0095】
圧電体層6Aにおいては、第1の領域A及び第2の領域Bの境界の配置は、第1の実施形態における圧電体層6とは異なる。もっとも、交叉領域において、第1の領域A及び第2の領域Bによって分極変化領域が構成されており、分極変化領域における各区間内に、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置している。それによって、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。従って、弾性波装置の動作に2倍波を好適に利用することができ、不要波としての基本波を抑制することができる。
【0096】
本実施形態では、圧電性基板42において、高音速支持基板4及び圧電体層6Aが積層されている。それによって、2倍波のエネルギーを圧電体層6A側に効果的に閉じ込めることができる。
【0097】
図14は、第5の実施形態に係る弾性波装置の、2対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【0098】
本実施形態は、圧電性基板52が圧電体層のみからなる点において第1の実施形態と異なる。圧電性基板52は、圧電材料のみからなる基板である。上記の点以外においては、本実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置1と同様の構成を有する。
【0099】
圧電性基板52における、IDT電極12が設けられている主面においては、第1の領域A及び第2の領域Bの配置は第1の実施形態と同様である。もっとも、第2の領域Bは、圧電性基板52の厚み方向における一部に位置している。平面視において第2の領域Bが位置している部分では、第1の領域A及び第2の領域Bが積層されている。
【0100】
圧電性基板52では、第1の実施形態と同様に、交叉領域において、第1の領域A及び第2の領域Bによって分極変化領域が構成されており、分極変化領域における各区間内に、第1の領域A及び第2の領域Bの双方が位置している。それによって、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。従って、弾性波装置の動作に2倍波を好適に利用することができ、不要波としての基本波を抑制することができる。
【0101】
図14に示すように、圧電性基板52の厚み方向において第2の領域Bが位置する部分では、第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、圧電性基板52の主面の法線方向に延びている。そして、該部分では、L2/L1=1である。
【0102】
もっとも、圧電性基板52が圧電体層のみからなる場合においても、第1の領域A及び第2の領域Bの境界の配置は上記に限定されない。以下において、第1の領域A及び第2の領域Bの境界の配置のみが第5の実施形態と異なる、第5の実施形態の第1~第3の変形例を示す。第1~第3の変形例においても、第5の実施形態と同様に、2倍波を励振させることができ、基本波を抑制することができる。
【0103】
図15に示す第1の変形例の圧電性基板52Aにおいては、L2/L1<1である。なお、本変形例においては、第5の実施形態と同様に、第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、圧電性基板52Aの主面の法線方向に延びている。第1の領域Aの電極指直交方向における中央と、第1の電極指18の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっている。第2の領域Bの電極指直交方向における中央と、第2の電極指19の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっている。
【0104】
図16に示す第2の変形例の圧電性基板52Bにおいては、第1の領域Aの電極指直交方向における中央と、第1の電極指18の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっていない。第2の領域Bの電極指直交方向における中央と、第2の電極指19の電極指直交方向における中央とは、平面視において重なっていない。そのため、隣り合う区間同士における寸法L1は互いに異なる。同様に、隣り合う区間同士における寸法L2は互いに異なる。なお、本変形例においては、第1の変形例と同様に、第1の領域A及び第2の領域Bの境界は、圧電性基板52Bの主面の法線方向に延びている。本変形例では、いずれの区間においてもL2/L1<1である。
【0105】
図17に示す第3の変形例の圧電性基板52Cにおいては、第1の領域A及び第2の領域Bの境界が、電極指直交方向に沿う断面において曲線状の形状を有する。より具体的には、第2の領域Bの寸法L2が、圧電性基板52Cの厚み方向において、第2の電極指19から遠ざかるほど小さくなっている。なお、図17では、圧電性基板52Cにおける、IDT電極12が設けられている主面においての寸法L1及び寸法L2が示されている。本変形例では、圧電性基板52Cの厚み方向におけるいずれの位置においても、L2/L1<1である。
【0106】
以下において、本発明に係る弾性波装置の形態の例をまとめて記載する。
【0107】
<1>圧電体層を含む圧電性基板と、前記圧電体層上に設けられており、互いに間挿し合っており、互いに異なる電位に接続される複数の第1の電極指及び複数の第2の電極指を有するIDT電極と、を備え、前記圧電体層における前記IDT電極が設けられている部分が、交叉領域を含み、前記複数の第1の電極指及び前記複数の第2の電極指が延びる方向を電極指延伸方向、前記電極指延伸方向と直交する方向を電極指直交方向とし、前記電極指直交方向から前記IDT電極を見たときに、隣り合う前記第1の電極指及び前記第2の電極指が重なり合っている領域が前記交叉領域であり、前記圧電体層が、第1の領域、及び前記第1の領域と分極方向が異なる第2の領域を有し、前記第1の領域及び前記第2の領域が、少なくとも前記交叉領域に位置しており、前記交叉領域が、前記第1の領域及び前記第2の領域が前記電極指直交方向において交互に並んでいる、分極変化領域を含み、前記分極変化領域に位置している前記第1の領域が、平面視において、前記第1の電極指及び前記第2の電極指のうち、少なくとも前記第1の電極指と重なっており、かつ前記第1の領域が、前記第1の電極指の少なくとも一部と重なっており、前記分極変化領域に位置している前記第2の領域が、平面視において、前記第2の電極指の少なくとも一部と重なっており、1対の前記第1の電極指及び前記第2の電極指の、前記電極指直交方向における中心間の領域を1つの区間としたときに、前記分極変化領域において、前記第1の領域及び前記第2の領域の双方が位置している前記区間が周期的に配置されている、弾性波装置。
【0108】
<2>前記分極変化領域における全ての前記区間に、前記第1の領域及び前記第2の領域の双方が位置している、<1>に記載の弾性波装置。
【0109】
<3>前記第1の領域及び前記第2の領域において、分極方向が互いに反転しており、前記第1の領域における分極軸、及び前記第2の領域における分極軸がなす角の角度が180°±5°以内の範囲である、<1>または<2>に記載の弾性波装置。
【0110】
<4>前記分極変化領域における前記区間内において、前記第1の領域の前記電極指直交方向に沿う寸法をL1、前記第2の領域の前記電極指直交方向に沿う寸法をL2としたときに、L2/L1が1±0.1以内の範囲である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【0111】
<5>前記圧電性基板が高音速部材層を含み、前記高音速部材層上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられており、前記高音速部材層を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体層を伝搬する弾性波の音速よりも高い、<1>~<4>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【0112】
<6>前記圧電性基板が音響反射膜を含み、前記音響反射膜上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられており、前記音響反射膜が、相対的に音響インピーダンスが低い、少なくとも1層の低音響インピーダンス層と、相対的に音響インピーダンスが高い、少なくとも1層の高音響インピーダンス層と、を有し、前記低音響インピーダンス層及び前記高音響インピーダンス層が交互に積層されている、<1>~<4>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【0113】
<7>前記圧電性基板が電極層を含み、前記電極層上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられている、<1>~<6>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【0114】
<8>前記圧電性基板が酸化ケイ素膜を含み、前記酸化ケイ素膜上に、直接的または間接的に前記圧電体層が設けられている、<1>~<7>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【符号の説明】
【0115】
1…弾性波装置
2…圧電性基板
4…高音速支持基板
5…酸化ケイ素膜
6,6A~6C…圧電体層
12…IDT電極
13A,13B…反射器
16,17…第1,第2のバスバー
18,19…第1,第2の電極指
22…圧電性基板
23…支持基板
27…音響反射膜
27a…低音響インピーダンス層
27b…高音響インピーダンス層
38…電極層
42,52,52A~52C…圧電性基板
A,B…第1,第2の領域
C…交叉領域
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