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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168446
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/42 20060101AFI20241128BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20241128BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G05B11/42 Z
G05B11/36 505A
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085144
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】515037069
【氏名又は名称】神港テクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117260
【弁理士】
【氏名又は名称】福永 正也
(72)【発明者】
【氏名】益田 智
(72)【発明者】
【氏名】下村 辰彦
【テーマコード(参考)】
4F206
5H004
【Fターム(参考)】
4F206AM23
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JQ88
4F206JQ90
5H004GA03
5H004GA05
5H004GB15
5H004HA01
5H004HB01
5H004JA11
5H004KA43
5H004KA52
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
5H004KB16
(57)【要約】
【課題】目標値フィルタへの追従性とオーバーシュートの抑制の両立を可能とする制御装置を提供する。
【解決手段】偏差に基づく積分演算部と、偏差に基づく比例操作量を演算する比例演算部と、検出値に基づく微分操作量を演算する第1の微分演算部と、物理量の設定値と目標値フィルタの出力とを加算する第1の加算部と、第1の加算部に基づく微分操作量を演算する第2の微分演算部と、比例演算部の出力と、積分演算部の出力と、第1の微分演算部の出力と、第2の微分演算部の出力とを加算する第2の加算部と、第2の加算部からの出力を上限値と下限値との間に制限する出力リミッタと、第2の加算部からの出力と第2の出力リミッタからの出力の反転とを加算する第3の加算部と、第3の加算部からの出力に応じて積分演算部を機能させるか否かを制御するスイッチ部とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量の設定値に基づいて目標値を算出する目標値フィルタの出力から物理量の検出値を減算した値である偏差に基づく積分演算部と、
前記偏差に基づく比例操作量を演算する比例演算部と、
前記検出値に基づく微分操作量を演算する第1の微分演算部と、
物理量の設定値と前記目標値フィルタの出力とを加算する第1の加算部と、
前記第1の加算部に基づく微分操作量を演算する第2の微分演算部と、
前記比例演算部の出力と、前記積分演算部の出力と、前記第1の微分演算部の出力と、前記第2の微分演算部の出力とを加算する第2の加算部と、
前記第2の加算部からの出力を上限値と下限値との間に制限する出力リミッタと、
前記第2の加算部からの出力と前記第2の出力リミッタからの出力の反転とを加算する第3の加算部と、
前記第3の加算部からの出力に応じて前記積分演算部を機能させるか否かを制御するスイッチ部と
を備え、
前記比例演算部は、100/PBを有する第1のゲイン設定部を含み、
前記第1の微分演算部は、微分器と、Td×(100/PB)を有する第2のゲイン設定部とを含み、
前記第2の微分演算部は、微分器と、Td×(100/PB)を有する第3のゲイン設定部とを含み、
前記積分演算部は、積分器と、(1/TI)×(100/PB)を有する第4のゲイン設定部とを含み、
前記第1の出力リミッタからの出力は、物理量を制御するための操作量として制御対象に出力されることを特徴とする制御装置。
(PB、TI及びTdは、それぞれ、比例帯、積分時間及び微分時間を示す。)
【請求項2】
前記スイッチ部は、第3の加算部からの出力が0であるか否かを判断する判断部を備え、
前記判断部において、第3の加算部からの出力が0であると判断された場合、前記偏差を前記積分演算部への入力とするよう接続することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形機の温度制御に代表される温度等の物理量を最適値に調節するための制御装置に関する。特に、PID制御におけるオーバーシュート問題を解決する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PID(Proportional-Integral-Differential Controller)制御を用いた温度制御に代表されるように、各種の物理量の制御は、様々な分野で広く行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、最終目標値である変更後の設定値SVに対して、比例制御及び微分制御を行う成型機の温度制御装置が開示されている。特許文献1では、最終目標値である変更後の設定値SVに対して比例制御及び微分制御を行うことにより、複数の部位に対する昇温速度の増減を吸収しやすく、同時昇温性を担保することが容易となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-037711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、最終目標値(設定値)SVを変更した場合に、最適な操作量を特定することが困難である。そして、算出された操作量と最適な操作量MVとの間の偏差を減少させるために、操作量に基づく微分動作を加えることでオーバーシュートの防止及び応答性の向上を図っている。
【0006】
しかし、操作量に基づく微分動作を加えることで応答性は向上するものの、目標値フィルタに対する追従性は向上しない。結果としてオーバーシュートが生じる確率がそれほど減少していないという問題点があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、目標値フィルタへの追従性とオーバーシュートの抑制の両立を可能とする制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係る制御装置は、物理量の設定値に基づいて目標値を算出する目標値フィルタの出力から物理量の検出値を減算した値である偏差に基づく積分演算部と、前記偏差に基づく比例操作量を演算する比例演算部と、前記検出値に基づく微分操作量を演算する第1の微分演算部と、物理量の設定値と前記目標値フィルタの出力とを加算する第1の加算部と、前記第1の加算部に基づく微分操作量を演算する第2の微分演算部と、前記比例演算部の出力と、前記積分演算部の出力と、前記第1の微分演算部の出力と、前記第2の微分演算部の出力とを加算する第2の加算部と、前記第2の加算部からの出力を上限値と下限値との間に制限する出力リミッタと、前記第2の加算部からの出力と前記第2の出力リミッタからの出力の反転とを加算する第3の加算部と、前記第3の加算部からの出力に応じて前記積分演算部を機能させるか否かを制御するスイッチ部と を備え、前記比例演算部は、100/PBを有する第1のゲイン設定部を含み、前記第1の微分演算部は、微分器と、Td×(100/PB)を有する第2のゲイン設定部とを含み、前記第2の微分演算部は、微分器と、Td×(100/PB)を有する第3のゲイン設定部とを含み、前記積分演算部は、積分器と、(1/TI)×(100/PB)を有する第4のゲイン設定部とを含み、前記第1の出力リミッタからの出力は、物理量を制御するための操作量として制御対象に出力されることを特徴とする。なお、PB、TI及びTdは、それぞれ、比例帯、積分時間及び微分時間を示す。
【0009】
また、本発明に係る制御装置は、前記スイッチ部が、第3の加算部からの出力が0であるか否かを判断する判断部を備え、前記判断部において、第3の加算部からの出力が0であると判断された場合、前記偏差を前記積分演算部への入力とするよう接続することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記発明によれば、比例演算及び微分演算を最終目標値である変更後の設定値に対して行うのではなく、設定値の変更時に、変更前の設定値と最終目標値である変更後の設定値との偏差に対して微分演算を行うことにより、目標値フィルタからの出力値との偏差を軽減してオーバーシュートを予防するとともに、目標値フィルタからの出力値を目標値として比例演算及び微分演算を行うことで、目標値フィルタへの追従性を担保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る制御装置を適用する射出成型機の構成を示す模式図である。
図2】従来の制御装置のPID演算部に等価であるブロック線図の例示図である。
図3】従来の制御装置を用いた射出成型機での加熱部へ出力される操作量と検出される温度(検出値)との関係を時系列に示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態に係る制御装置のPID演算部に等価であるブロック線図の例示図である。
図5】本発明の実施の形態に係る制御装置を用いた射出成型機での加熱部へ出力される操作量と検出される温度(検出値)との関係を時系列に示すグラフである。
図6】従来の制御装置を用いた射出成型機での加熱部へ出力される操作量と検出温度(検出値)との関係を示すグラフである。
図7】本発明の実施の形態に係る制御装置を用いた射出成型機での加熱部へ出力される操作量と検出温度(検出値)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る制御装置について、図面に基づいて具体的に説明する。以下の実施の形態は、特許請求の範囲に記載された発明を限定するものではなく、実施の形態の中で説明されている特徴的事項の組み合わせの全てが解決手段の必須事項であるとは限らないことは言うまでもない。
【0013】
また、本発明は多くの異なる態様にて実施することが可能であり、実施の形態の記載内容に限定して解釈されるべきものではない。実施の形態を通じて同じ要素には同一の符号を付している。
【0014】
本発明の実施の形態によれば、比例演算及び微分演算を最終目標値である変更後の設定値に対して行うのではなく、設定値の変更時に、変更前の設定値と最終目標値である変更後の設定値との偏差に対して微分演算を行うことにより、目標値フィルタからの出力値との偏差を軽減してオーバーシュートを予防するとともに、目標値フィルタからの出力値を目標値として比例演算及び微分演算を行うことで、目標値フィルタへの追従性を担保することが可能となる。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る制御装置10を適用する射出成型機の構成を示す模式図である。図1では、射出成形機Mに本実施の形態に係る制御装置10を適用して温度制御を行う。図1に示す射出成形機Mは、射出装置Miと型締装置Mcとを備える。
【0016】
図1に示す射出装置Miは、樹脂材料を加熱するための加熱部として加熱筒を備える。図1の例では、加熱筒は、前部3a、中間部3b、及び後部3cを有しており、加熱筒の前端には射出ノズル21が設けられるとともに、後端には樹脂材料を供給するためのホッパ22(材料供給部)が設けられている。型締装置Mcの構成は、当業者によく知られているので、その説明は省略する。
【0017】
図1に示すように、加熱筒の内部にはスクリュ2が挿入されている。スクリュ2の後端には、材料供給部22の後方へ延出することによりスクリュ2を回転駆動及び進退駆動するスクリュ駆動部23が接続される。なお、スクリュ駆動部23の構成は、当業者によく知られているので、その説明は、省略する。
【0018】
加熱筒の外部には、加熱部を構成する3つの加熱体(ヒータ等)4a、4b、4cが装着されている。3つの温度センサ6a、6b、6cが、加熱筒(前部3a、中間部3b及び後部3c)に設けられており、加熱後の温度を検出することができる。なお、ホッパ22から加熱筒の内部に供給された固形状のペレット(樹脂材料)は、スクリュ2の回転による剪断及び加熱筒による加熱により可塑化混練され、型締装置Mcの金型に射出充填するための溶融樹脂が生成される。
【0019】
図1に示す射出成型機Mの制御装置10(PID演算部7)を用いて比例操作量、積分操作量及び微分操作量の操作量MV及び検出温度PVが検出される。なお、図1に示す制御装置10は、射出成型機Mの動作全体を制御するものであり、制御対象としては温度だけでなく、スクリュ駆動部23、型締装置Mc等、射出成形機M全体の動作を制御する。
【0020】
図2は、従来の制御装置10のPID演算部7に等価であるブロック線図の例示図である。図2に示すように、制御装置10のPID演算部7は、積分演算部201、比例演算部202、微分演算部203、第1の加算部204、第2の加算部205、リミッタ206、第3の加算部207、経路208、スイッチ部120及び目標値フィルタ121を備える。
【0021】
積分演算部201は、設定値SVに基づく目標値フィルタ121の出力値iSVから検出値PVを減算した値である偏差eに基づく積分操作量を演算する。第1の加算部204は、目標値フィルタ121の出力値iSVと検出値PVの反転とを加算する。比例演算部202は、目標値フィルタ121の出力値iSVから検出値PVを減算した値に基づく比例操作量を演算する。
【0022】
微分演算部203は、検出値PVに基づく微分操作量を演算する。第2の加算部205は、比例演算部202からの出力と、積分演算部201からの出力と、微分演算部203からの出力である操作量MVDSV とを加算する。
【0023】
出力リミッタ206は、第2の加算部205からの出力(比例操作量、積分操作量、微分操作量の総和)を第1の上限値と第1の下限値との間に制限する。第3の加算部207は、第2の加算部205からの出力(操作量MVPDI )から出力リミッタ206からの出力を減算した値を、経路208を介して積分演算部201にフィードバックする。
【0024】
出力リミッタ206からの出力(操作量MV)は、操作量として制御対象20に出力される。
【0025】
図2において、積分演算部201は、積分器と、(1/TI )×(100/PB)を有するゲイン設定部と、を含む。比例演算部202は、100/PBを有するゲイン設定部を含む。経路208は、PB/100を有するゲイン設定部を含み、より具体的には、減算した値(操作量MVPDI -操作量MV)を積分演算部201にフィードバックするためのスイッチ部120に接続されている。微分演算部203は、微分器と、(Td )×(100/PB)を有するゲイン設定部と、を含む。ここで、PB、TI 及びTd は、それぞれ、比例帯、積分時間(秒)及び微分時間(秒)を意味する。
【0026】
スイッチ部120は、第3の加算部207からの出力が0であるか否かを判断する判断部(図示せず)を備えている。判断部において、第3の加算部207からの出力が0であると判断された場合にのみ、設定値SVに基づく目標値フィルタ121の出力値から検出値PVを減算した値である偏差eを積分演算部201への入力とするよう接続する。
【0027】
ここで、目標値フィルタ121は、経時的に変化する関数f(t)で表すことができる。したがって、目標値フィルタ121からの出力であるiSVは、上昇し始めるタイミングに遅れが生じる。それに対して、設定値の変更はステップ入力であることから、目標値フィルタの出力との偏差が大きくなる。これにより、従来は目標値フィルタ121に追従することなくオーバーシュートが生じやすい状況が生じていた。
【0028】
図3は、従来の制御装置1を用いた射出成型機Mでの加熱部へ出力される操作量と検出される温度(検出値)との関係を時系列に示すグラフである。図3に示すように、加熱部を制御する操作量301に対して、設定値302がステップ入力された場合、検出温度303が設定温度304を大きく超過するオーバーシュートが生じていることがわかる。これは、主として目標値フィルタに対する追従性が低下することにより、過積分が増大していることが主たる原因であると考えられる。
【0029】
そこで、本発明では、比例演算及び微分演算を最終目標値である変更後の設定値SVに対して行うのではなく、設定値の変更時に、変更前の設定値と最終目標値である変更後の設定値との偏差に対して微分演算を行うことにより、目標値フィルタからの出力値との偏差を軽減してオーバーシュートを予防する。加えて、目標値フィルタからの出力値を目標値として比例演算及び微分演算を行うことで、目標値フィルタへの追従性を維持するようにした。
【0030】
図4は、本発明の実施の形態に係る制御装置10のPID演算部7に等価であるブロック線図の例示図である。図4に示すように、制御装置10のPID演算部7は、積分演算部111、比例演算部112、第一の微分演算部113、第二の微分演算部114、第1の加算部115、第2の加算部116、出力リミッタ117、第3の加算部118、経路119、スイッチ部120及び目標値フィルタ121を備える。
【0031】
積分演算部111は、設定値SVに基づく目標値フィルタ121の出力値iSVから検出値PVを減算した値である偏差eに基づく積分操作量を演算する。第1の加算部115は、設定値SVと目標値フィルタ121の出力値iSVとを加算する。比例演算部112は、目標値フィルタ121の出力値iSVから検出値PVを減算した値に基づく比例操作量を演算する。
【0032】
第1の微分演算部113は、第1の加算部115の出力値に基づく微分操作量を演算する。第2の微分演算部114は、検出値PVに基づく微分操作量を演算する。第2の加算部116は、比例演算部112からの出力と、積分演算部111からの出力と、第1の微分演算部からの出力と第2の微分演算部からの出力とを加算した操作量MVDSV とを加算する。
【0033】
出力リミッタ117は、第2の加算部116からの出力(比例操作量、積分操作量、微分操作量の総和MVPDI )を第1の上限値と第1の下限値との間に制限する。第3の加算部118は、第2の加算部116からの出力(操作量MVPDI )から出力リミッタ117からの出力である操作量MVを減算した値を、経路119を介して積分演算部111にフィードバックする。
【0034】
出力リミッタ117からの出力(操作量MV)は、操作量として制御対象20に出力される。
【0035】
図4において、積分演算部111は、積分器と、(1/TI )×(100/PB)を有するゲイン設定部と、を含む。比例演算部112は、100/PBを有するゲイン設定部を含む。経路119は、PB/100を有するゲイン設定部を含み、より具体的には、減算した値(操作量MVPDI -操作量MV)を積分演算部111にフィードバックするためのスイッチ部120に接続されている。第1の微分演算部113及び第2の微分演算部114は、それぞれ微分器と、(Td )×(100/PB)を有するゲイン設定部と、を含む。ここで、PB、TI 及びTd は、それぞれ、比例帯、積分時間(秒)及び微分時間(秒)を意味する。
【0036】
スイッチ部120は、第3の加算部118からの出力が0であるか否かを判断する判断部(PID演算部7に内蔵)において、第3の加算部118からの出力が0であると判断された場合にのみ、設定値SVに基づく目標値フィルタ121の出力値iSVから検出値PVを減算した値である偏差eを積分演算部111への入力とするよう接続する。
【0037】
図4に示すPID制御系においては、以下に示す演算式が成立する。まず、設定値SVを変更した時点、すなわちt=0においては、第1の微分演算部113の出力と第2の微分演算部114からの出力との総和である微分操作量MVDSV (t)は、(式1)により算出される。
【0038】
【数1】
・・・(式1)
【0039】
ここで、iSV(t)は、設定値変更後の目標値フィルタで算出される目標値を、iSV(t-1)は、設定値変更前の目標値フィルタで算出される目標値を、それぞれ示している。同様にSV(t)は、設定値変更後の目標値を、iSV(t-1)は、設定値変更前の目標値を、それぞれ示している。なお、TD は、Td と同様、微分時間を示している。設定値SV(t)が変更された場合、SV(t)とSV(t-1)との間に差分が生じるため微分演算される。その後、SV(t)とSV(t-1)とが同じ値となるので、目標値フィルタの出力iSV(t)とiSV(t-1)との差分による微分演算となる。(式2)は、設定値変更後、すなわちSV(t)とSV(t-1)とが同じ値となった場合の微分操作量MVDSV (t)を示している。
【0040】
【数2】
・・・(式2)
【0041】
このように本実施の形態では、目標値フィルタで算出される目標値iSV(t)とiSV(t-1)とを用いて微分演算をしているので、目標値フィルタに対する追従性を維持することができる。
【0042】
図5は、本発明の実施の形態に係る制御装置1を用いた射出成型機Mでの加熱部へ出力される操作量と検出される温度(検出値)との関係を時系列に示すグラフである。図5に示すように、加熱部を制御する操作量501に対して、設定値502が変更された場合、検出温度503が設定温度504を大きく超過することがない。したがって、オーバーシュートは抑制されていることがわかる。これは、主として目標値フィルタに対する追従性が向上しているので、過積分が生じていないことによるものと考えられる。
【0043】
ここで、目標値フィルタにどの程度追従しているかを確認する。図6は、従来の制御装置1を用いた射出成型機Mでの加熱部へ出力される操作量と検出温度(検出値)との関係を示すグラフである。
【0044】
図6に示すように、加熱部を制御する操作量601に対して、積分操作量603が設定値をオーバーシュートしていることがわかる。この時、目標値フィルタ602の時系列変化と積分操作量603の時系列変化との間には大きな偏差が生じている。したがって、目標値フィルタへの追従性が高いとは言えない。
【0045】
一方、図7は、本発明の実施の形態に係る制御装置10を用いた射出成型機Mでの加熱部へ出力される操作量と検出温度(検出値)との関係を示すグラフである。図7に示すように、加熱部を制御する操作量601に対して、積分操作量603の時系列変化は、目標値フィルタ602の時系列変化に近づいているので両者間の偏差は時間が経過するにつれて減少している。したがって、目標値フィルタへの追従性が高く、オーバーシュートが大きく抑制されていることがわかる。
【0046】
以上のように本実施の形態によれば、比例演算及び微分演算を最終目標値である変更後の設定値に対して行うのではなく、設定値の変更時に、変更前の設定値と最終目標値である変更後の設定値との偏差に対して微分演算を行うことにより、目標値フィルタからの出力値との偏差を軽減してオーバーシュートを予防するとともに、目標値フィルタからの出力値を目標値として比例演算及び微分演算を行うことで、目標値フィルタへの追従性を担保することが可能となる。
【0047】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変更、改良等が可能である。例えば、積分時間TI を10倍してリミット幅を拡張しているが、特に10倍に限定されるものではない。例えば、拡張変数aを用いて、偏差eに対してe/(TI×a)と一般化しても良い。
【符号の説明】
【0048】
7 PID演算部
10 制御装置
20 制御対象
111 積分演算部
112 比例演算部
113 第1の微分演算部
114 第2の微分演算部
115 第1の加算部
116 第2の加算部
117 出力リミッタ
118 第3の加算部
119 経路
120 スイッチ部
121 目標値フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7