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特開2024-168454角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168454
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20241128BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241128BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085158
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広之
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健成
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045BB20
2G045BB24
2G045CB09
2G045FB03
4B063QA18
4B063QQ61
4B063QS33
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分解酵素が透過しづらい角層細胞同士の接着領域に対して効果的に分解酵素を透過させる角層剥離促進剤のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【解決手段】角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価することによる、角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法を見出すことで上記課題を解決した。
【効果】本発明によって、角層接着構造分解促進剤の提供が可能になり、加えて角層接着構造分解に伴う効果も得られることから、角層剥離促進剤、肌の透明度改善剤、角層肥厚改善剤の提供が可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の[1]から[4]の工程を含む角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法。
[1]角層細胞同士の接着領域が保持された角層を得る工程
[2]被験物質と角層細胞同士の接着領域が保持された角層を共存させる工程
[3]角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価する工程
[4]被験物質を共存させない場合に比べて角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を増加させる被験物質を角層接着構造分解促進剤として選択する工程
【請求項2】
前記角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価する工程が
角層細胞同士の接着領域に対する指標物質の透過性を評価する工程である
請求項1のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価する工程が
角層接着構造を構成するタンパク質を免疫染色し、角層細胞同士の接着領域中の染色度を計測する工程である
請求項1のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記角層接着構造分解促進剤が、角層剥離促進剤、角層肥厚改善剤、および/又は肌の透明度改善剤である、請求項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法により選択された物質を含有させる工程、
を含む、組成物の設計方法。
【請求項6】
請求項5の組成物が、角層接着構造分解促進用化粧料、角層剥離促進用化粧料、角層肥厚改善用化粧料、もしくは肌の透明度改善用化粧料である、請求項5に記載の設計方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価することを特徴とする、角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌(皮膚)は人体が外気と接する表層から順に表皮、真皮、皮下組織の3層から構成されている。表皮は、ケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、真皮に近い深部から基底層、有棘層、顆粒層、角層(角質層)にさらに分類される。表皮では分裂と分化によりケラチノサイトが基底層から角層に向けて押し上げられながら角層細胞になり、角層最表層ではいわゆる垢として剥がれ落ちる。
【0003】
角層は、肌の最表面に存在することで、肌のバリアとして働き、皮膚中の水分保持や、外部刺激からの防御などの重要な機能を持つ。この機能を維持するために、レンガ・モルタル・モデルと呼ばれる、角層細胞がレンガ状に積み重なり、その間を細胞間脂質がモルタル状に埋め尽くす構造をとる。角層細胞間は角層接着構造であるコルネオデスモソームにより結合しており、このコルネオデスモソームが接着構造分解酵素により分解されることで、角層細胞間の結合が崩壊し、最後は垢となって剥がれ落ちる。
【0004】
コルネオデスモソームはデスモグレイン1、デスモコリン1、コルネオデスモシンなどからなり、セリンプロテアーゼであるカリクレイン(KLK)1、5、6、7、14などによって分解される(非特許文献1)ため、従来、角層剥離や角層接着構造分解を促進する成分の選択方法としては、免疫染色によりコルネオデスモソームの構成因子の減少を指標とする方法(特許文献1)や、KLKファミリーの発現促進を指標とする方法(特許文献2)があげられる。
【0005】
コルネオデスモソームの分解を促進する効果としては、まず、角層細胞同士の接着が解消されることで、角層剥離が促進される。加えて、角層剥離促進により角層細胞数が減少することで角層の厚みが低減する、すなわち角層肥厚改善につながる。さらには、角層が厚いほど肌の透明度が低下することが知られることから、角層肥厚改善の結果として肌の透明度が改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-82369公報
【特許文献2】特開2022-97632公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山本明美,井川哲子.角層細胞の接着構造,コルネオデスモソームと皮膚疾患.西日本皮膚科,2015;77:5-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
角層細胞間では角層接着構造が接着構造分解酵素により分解されることで角層細胞間の結合が崩壊し、角層剥離が生じるのが通常であるところ、角層細胞間が角層接着構造であるコルネオデスモソームにより密着しているが故に、角層接着構造分解酵素が接着領域全域に透過しづらいことが本発明者らにより見出された。従来の角層剥離促進技術により分解酵素の活性を上げても、その分解酵素自体がコルネオデスモソームの存在部位に到達できなければ効果が限定的になってしまうことから、本発明では、分解酵素が透過しづらい接着領域内部に対して効果的に分解酵素を透過させる角層剥離促進剤のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価することによる、角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法を見出すことで上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、角層接着構造分解促進剤の提供が可能になり、加えて角層接着構造分解に伴う効果も得られることから、角層剥離促進剤、肌の透明度改善剤、角層肥厚改善剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】角層細胞同士の接着領域の模式図。
図2】TritonX-100を用いた透過促進処理ありとなしの条件における、角層のデスモグレイン1検出性。
図3】TritonX-100を用いた透過促進処理ありとなしの条件における、トリプシン処理後の角層のデスモグレイン1検出性。
図4】各被験物質の蛍光領域面積率。
図5】TritonX-100のトリプシン処理後の蛍光領域面積率。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、実施例に示すように、角層細胞同士の接着領域には角層接着構造分解酵素が透過しづらく、接着領域周囲の角層接着構造は比較的容易に分解されるものの、接着領域内部の角層接着構造は分解されづらいことを示した。本結果を受け、鋭意検討し、接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を上げる成分が、角層接着構造分解を促進することを見出した。
【0013】
本発明において、角層接着構造とは、コルネオデスモソームである旨上記したが、角層にあって細胞と細胞を引きつける細胞接着装置であれば、コルネオデスモソーム以外の角層接着構造であっても本発明の趣旨に反しない。例えば、タイトジャンクションのような表皮角化細胞間の接着構造が一部残存している角層においては、それらの接着構造も角層接着構造とみなせる。また、角層接着構造分解酵素とはコルネオデスモソームのような角層接着構造を構成する分子を分解しうる酵素を指し、例えば、KLKファミリーが角層接着構造分解酵素としてみなされる。
【0014】
一つの角層接着構造に着目すれば、該構造が可能にする接着は角層細胞表面において、角層接着構造を構成する分子のスケール、という角層細胞の大きさと対比して考えると極小さい点での接着であるが、角層細胞表面に複数の角層接着構造が存在すれば、角層細胞同士の接着は、角層接着構造の存在領域に渡る面での接着となる。本発明において角層細胞同士の接着領域とは、2つの角層細胞が角層接着構造を介して接着し、その結果として接着している角層細胞内の領域を指す。より詳細には、図1に示すように、2つの重なり合う角層細胞間の角層接着構造の局在部位である。主には、隣接する角層細胞と重なり合っている、角層細胞の辺縁部に角層細胞同士の接着領域が存在する場合が多い。また、単に接着領域と記載されていても同義となる。
【0015】
角層細胞同士の接着領域が保持された角層を得る工程は、スクリーニングで用いる角層を入手する工程である。角層細胞同士の接着領域が保持された角層とは、角層接着構造による接着領域を保っている角層を指し、接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価することができる程度に保持されていれば、多少角層接着構造が損なわれていても良い。角層細胞同士の接着領域が保持された角層は例えば、テープストリッピングや擦過により肌から剥離した角層、摘出された皮膚組織、生体の皮膚表面などが挙げられる。一方で、角層接着構造分解する効果を持つ酵素であるトリプシンなどにより処理され、接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価することができない程に角層接着構造が分解された角層は本スクリーニングに適さない。
【0016】
被験物質と角層細胞同士の接着領域が保持された角層を共存させる工程は、被験物質を角層細胞同士の接着領域に作用させることができれば方法は特に限定されず、角層細胞同士の接着領域が保持された角層と共存させることができれば、被験物質の種類、性状は特に問われない。なお、共存させる際は、被験物質と角層が物理的に接触することが望ましいが、被験物質がなんらかの作用をする条件さえ整えば非接触でも問題はなく、例えば、気化する被験物質を非接触で共存させ、発生した気体が作用しても構わない。
【0017】
角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価する工程は、角層細胞同士の接着領域の角層細胞間にどれだけ角層接着構造分解酵素が透過しやすい状態になっているかを評価する工程であり、透過性が評価できればその方法は問われず、直接的に評価しても良いし、間接的に評価してもよい。角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を直接的に評価する方法としては、例えば蛍光等でラベルした角層接着構造分解酵素の存在位置を評価する方法があげられる。また、角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を間接的に評価する方法としては、例えば、角層接着構造分解酵素自体ではなくその代わりのモデル成分を指標物質として用い、その透過性を評価する方法があげられ、角層接着構造分解酵素の少なくとも一部の性質を持つモデル成分が指標物質として利用されうる。例えば、角層接着構造分解酵素と同じ親水性の成分を指標物質とし、角層細胞同士の接着領域に対する指標物質の透過性を評価することで、角層接着構造分解酵素の透過性を間接的に評価できる。指標物質は蛍光などによりその存在位置を評価することで透過性を評価できる物質である必要がある。また、角層接着構造分解酵素に特性が近い指標物質であればより精度は上がり、例えば高分子であることが望ましい。例えば、角層接着構造を構成するタンパク質の抗体を指標物質とし、角層接着構造を構成するタンパク質を免疫染色し、角層細胞同士の接着領域中の染色度を計測することで、間接的に角層接着構造分解酵素の透過性を評価できる。
【0018】
被験物質を共存させない場合に比べて角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を増加させる被験物質を角層接着構造分解促進剤として選択する工程は、被験物質が角層接着構造分解促進剤であるかを判定する工程であり、被験物質と角層細胞同士の接着領域が保持された角層を共存させる工程により、角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性が増加した場合、被験物質は角層接着構造分解促進剤であると判定する。透過性の増加の判定に関しては、コントロール(被験物質による処理の代わりとして水で処理した場合や未処理の場合)と比較して、透過性が増加していればよく、透過性が高ければ高いほど良い。定量化した際に、コントロールに対して、透過性が1.2倍以上であることが望ましく、1.5倍以上であるとより望ましく、2.0倍以上であるとさらに望ましい。また、ばらつきを加味し、コントロールに対して有意な差が検出されるとなお好ましい。
【0019】
角層接着構造の分解を促進する効果としては、まず、角層細胞同士の接着が解消されることで、角層剥離が促進される。加えて、角層剥離促進により角層細胞数が減少することで角層の厚みが低減する、すなわち角層肥厚改善につながる。さらには、角層が厚いほど肌の透明度が低下することにより角層肥厚改善の結果として肌の透明度が改善することから、本角層接着構造分解促進剤のスクリーニング方法は、角層剥離促進剤、角層肥厚改善剤、および/又は肌の透明度改善剤のスクリーニング方法としても用いることができる。
【0020】
本発明のスクリーニング方法により選択された角層接着構造分解促進剤は、角層接着構造分解促進用の組成物の有効成分として好適に配合することができる。すなわち、本明細書は、本発明のスクリーニング方法を行い、それにより選択された物質(角層接着構造分解促進剤)を含有させる工程を含む、組成物の設計方法も提供する。そして、かかる組成物は、経皮投与される組成物(例えば、化粧料、医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤)の態様とすることができる。また、組成物の剤型は特に限定されない。例えば、化粧料組成物として設計される場合の剤型は、通常知られているローション剤型、乳液剤型、エッセンス剤型、クリーム剤型、粉体含有剤型等が挙げられる。さらには、組成物には、適宜必要な成分を配合するよう、設計してもよい。例えば、化粧料組成物として設計する場合は、通常化粧料に使用される成分を広く配合することが可能である。
【0021】
本発明における角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を評価する工程の例として、角層接着構造を構成するタンパク質を免疫染色し、角層細胞同士の接着領域中の染色度を計測する工程があげられるが、この際に、透過性が増加する、すなわち染色度が増加する場合に、その被験物質は角層接着構造分解促進剤であるとみなされる。従来も、角層接着構造を構成するタンパク質を免疫染色することにより、角層接着構造の量を指標とする角層接着構造減少剤の選択方法は知られるが、従来は染色度が低下するほど角層接着構造が減少しているとみなし、染色度を低下させる成分が選択されていたのに対し、本発明では染色度が増加しているほど、抗体の透過性が増加しており、角層接着構造分解が促進される成分であるとみなすため、判定基準は全く異なる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
<デスモグレイン1(DSG1)免疫染色によるDSG1分解性の検討>
前腕内側部からスキンチェッカー(プロモツール)を用いて角層サンプルを採取し、スキンチェッカー上に約7mm四方の範囲をペンで囲い、この範囲中について以下の処理を行った。
0.25%トリプシンを90μL滴下して、室温で10分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、DSG1分解処理とした。20% TritonX-100(Promega)/PBS(-)溶液を90μL滴下して、室温で90分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、抗体透過促進処理とした。3%BSA/PBS(-)溶液を90μL滴下して、室温で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、ブロッキング処理とした。
1%BSA/PBS(-)溶液で抗デスモグレイン1(DSG1)一次抗体(anti-Desmoglein 1 mouse monoclonal, Dsg1-P124, supernatant(PROGEN))を10倍希釈し、90μL滴下して、室温で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、一次抗体処理とした。
1%BSA/PBS(-)溶液で二次抗体(Goat Anti-Mouse IgG H&L (Alexa Fluor568) preadsorbed(Abcam))を200倍希釈し、90μL滴下して、暗所・室温下で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、二次抗体処理とした。
風乾後、蛍光顕微鏡(BZ-X700、KEYENCE)で観察し、蛍光画像を取得し、ImageJで蛍光領域面積を定量化した。DSG1分解処理をしないサンプルの蛍光領域面積に対するDSG1分解処理をしたサンプルの蛍光領域面積を蛍光領域残存率とした。
【0024】
【数1】
【0025】
TritonX-100を用いた処理は一般的には抗体による細胞膜透過促進を目的としたものだが、高濃度で処理することで、図2に示すように隣接する角層細胞同士が重なり密着している、角層細胞間の接着領域への抗体透過も促進され、接着領域内部のDSG1を染色することができるようになることから、角層細胞間の接着領域への抗体透過促進処理として用いた。
【0026】
図3に示すように、抗体透過促進処理をしない場合、セリンプロテアーゼであるトリプシンによるDSG1分解処理により、DSG1の蛍光はほとんどなくなるが、抗体透過促進処理をすると、DSG1の蛍光が多く残った。この結果から、トリプシンによるDSG1分解処理により、角層細胞間の接着領域周囲のDSG1が分解される一方で、角層細胞間の接着領域の内側にはトリプシンが届きづらく、DSG1が分解されづらいことが分かった。実際にトリプシン処理後の接着領域周囲の蛍光領域残存率と接着領域内部の蛍光領域残存率を算出したところ、接着領域周囲の蛍光領域残存率は14%であったのに対して、接着領域内部の蛍光領域残存率は38%で接着領域内部のDSG1は多くが分解されず残っていることが確認された。
すなわち、角層細胞の接着領域にDSG1が局在しているが、接着領域の内側には分解酵素が届きづらく、接着領域の内側に分解酵素を届けることが角層接着構造分解促進・角層剥離促進において重要であることが分かった。
【0027】
<DSG1免疫染色によるスクリーニング>
前腕内側部からスキンチェッカー(プロモツール)を用いて角層サンプルを採取し、スキンチェッカー上に約7mm四方の範囲をペンで囲い、この範囲中について以下の処理を行った。
被験物質としては、上述の通り、角層細胞間の接着領域への抗体の透過促進効果が分かっている10% TritonX-100水溶液および、ウイキョウエキス、アマチャエキス、オオヒラタケ培養液、ダイズ種子エキスを選択した。各被験物質を90μL滴下して、室温で120分間静置したのちPBS(-)で洗浄した。3%BSA/PBS(-)溶液を90μL滴下して、室温で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、ブロッキング処理とした。
1%BSA/PBS(-)溶液で抗デスモグレイン1(DSG1)一次抗体(anti-Desmoglein 1 mouse monoclonal, Dsg1-P124, supernatant(PROGEN))を10倍希釈し、90μL滴下して、室温で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、一次抗体処理とした。
1%BSA/PBS(-)溶液で二次抗体(Goat Anti-Mouse IgG H&L (Alexa Fluor568) preadsorbed(Abcam))を200倍希釈し、90μL滴下して、暗所・室温下で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、二次抗体処理とした。
風乾後、蛍光顕微鏡(BZ-X700、KEYENCE)で観察し、蛍光画像を取得し、ImageJで蛍光領域面積を定量化した。また、同一サンプルについて、可視光画像を取得し、可視光領域面積として画像中の角層領域の面積を求めた。蛍光領域面積を可視光領域面積で除することで蛍光領域面積率としたときに、蛍光領域面積率が高いほど、角層領域に対する蛍光領域が大きいといえ、すなわち抗体などの水溶性成分が接着領域内側に透過しやすくなっていると言えることから、コントロール(水)と比較して蛍光領域面積率が高い被験物質ほど分解酵素の透過促進効果があると判断できる。
【0028】
図4に示すように、10% TritonX-100では蛍光領域面積率がコントロールと比べて約5倍となり、親水性成分であるDSG1抗体を角層細胞同士の接着領域に送達できていると言え、角層細胞同士の接着領域への角層接着構造分解酵素の透過性が高いとみなせた。このように、DSG1を免疫染色し角層細胞同士の接着領域中の染色度を計測することで、言い換えると角層細胞同士の接着領域への抗体の透過性を指標とすることで、TritonX-100のような角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性が高い物質を見出すことができる。
【0029】
<TritonX-100の角層接着構造分解促進効果>
前腕内側部からスキンチェッカー(プロモツール)を用いて角層サンプルを採取し、スキンチェッカー上に約7mm四方の範囲をペンで囲い、この範囲中について以下の処理を行った。
10% TritonX-100もしくはコントロール(水)を90μL滴下して、室温で120分間静置したのちPBS(-)で洗浄した。0.25%トリプシンを90μL滴下して、室温で10分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、DSG1分解処理とした。20% TritonX-100/PBS(-)溶液を90μL滴下して、室温で90分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、抗体透過促進処理とした。3%BSA/PBS(-)溶液を90μL滴下して、室温で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、ブロッキング処理とした。
1%BSA/PBS(-)溶液で抗デスモグレイン1(DSG1)一次抗体(anti-Desmoglein 1 mouse monoclonal, Dsg1-P124, supernatant(PROGEN))を10倍希釈し、90μL滴下して、室温で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、一次抗体処理とした。
1%BSA/PBS(-)溶液で二次抗体(Goat Anti-Mouse IgG H&L (Alexa Fluor568) preadsorbed(Abcam))を200倍希釈し、90μL滴下して、暗所・室温下で60分間静置したのちPBS(-)で洗浄し、二次抗体処理とした。
風乾後、蛍光顕微鏡(BZ-X700、KEYENCE)で観察し、蛍光画像を取得し、ImageJで蛍光領域面積を定量化した。また、同一サンプルについて、可視光画像を取得し、可視光領域面積として画像中の角層領域の面積を求めた。蛍光領域面積を可視光領域面積で除することで蛍光領域面積率としたときに、蛍光領域面積率が低いほどDSG1が少ない、すなわちトリプシンによるDSG1の分解が促進されているとみなすことができる。
【0030】
結果として、図5に示すように、接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性が高いTritonX-100を適用し、角層細胞同士の接着領域に対するトリプシン透過促進処理をすることで、実際にコントロール(水)と比較してより多くのDSG1が分解されていた。
このことから、角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過性を指標としたスクリーニング方法を用い、角層細胞同士の接着領域に対する角層接着構造分解酵素の透過を促進することで、角層接着構造分解を促進する成分のスクリーニングが可能であることが確認された。さらに角層接着構造の分解は角層剥離促進、角層肥厚改善、肌の透明度改善につながることが知られているため、これらの改善剤のスクリーニングも可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5