(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168462
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】車両制御システム、車両制御装置、および、車両制御方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/38 20110101AFI20241128BHJP
B60R 21/0134 20060101ALI20241128BHJP
B60R 21/0136 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B60R21/38 310
B60R21/0134 311
B60R21/0136 320
B60R21/0136 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085168
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グエン バンコン
(72)【発明者】
【氏名】清宮 大司
(57)【要約】
【課題】 従来技術より適切な状況で歩行者保護装置を作動させることを可能にする、車両制御システムを提供する。
【解決手段】 車載カメラの撮影画像を分析する画像分析装置と、車両と衝突した歩行者を保護する歩行者保護装置と、前記画像分析装置の分析結果に基づき前記歩行者保護装置を制御する車両制御装置と、を有する車両制御システムであって、前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断した場合、前記車両制御装置は、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に前記歩行者保護装置を作動させる車両制御システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載カメラの撮影画像を分析する画像分析装置と、
車両と衝突した歩行者を保護する歩行者保護装置と、
前記画像分析装置の分析結果に基づき前記歩行者保護装置を制御する車両制御装置と、
を有する車両制御システムであって、
前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断した場合、
前記車両制御装置は、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に前記歩行者保護装置を作動させることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記車両の加速度を検知する加速度センサと、
前記車両の前方に設けたチャンバの圧力を検知する圧力センサと、更にを備え、
前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断し、前記圧力センサの出力偏差の大きさが所定の閾値を超え、かつ、前記加速度センサの出力偏差の大きさが所定の閾値を超えた場合、
前記車両制御装置は、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングにかかわらず、前記歩行者保護装置を作動させることを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御システムにおいて、
前記画像分析装置が歩行者以外の障害物との衝突を判断した場合は、
前記圧力センサの出力偏差の大きさが所定の閾値を超え、かつ、前記加速度センサの出力偏差の大きさが所定の閾値を超えた場合であっても、
前記車両制御装置は、前記歩行者保護装置を作動させないことを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
車載カメラの撮影画像を分析する画像分析装置と、
車両と衝突した歩行者を保護する歩行者保護装置と、
前記画像分析装置の分析結果に基づき前記歩行者保護装置を制御する車両制御装置と、
を有する車両制御システムであって、
前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断した場合、
前記車両制御装置は、
前記歩行者との衝突予想位置が前記車両の正面であれば、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に前記歩行者保護装置を作動させ、
前記歩行者との衝突予想位置が前記車両の正面以外であれば、前記歩行者保護装置を作動させないことを特徴とする車両制御システム。
【請求項5】
車載カメラの撮影画像を分析する画像分析装置と、
車両と衝突した歩行者を保護する歩行者保護装置と、
前記画像分析装置の分析結果に基づき前記歩行者保護装置を制御する車両制御装置と、
を有する車両制御システムであって、
前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断した場合、
前記車両制御装置は、
前記車両と前記歩行者の相対速度が所定の閾値より大きければ、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に前記歩行者保護装置を作動させ、
前記車両と前記歩行者の相対速度が所定の閾値以下であれば、前記歩行者保護装置を作動させないことを特徴とする車両制御システム。
【請求項6】
車載カメラの撮影画像を分析する画像分析装置の分析結果に基づき、車両と衝突した歩行者を保護する歩行者保護装置を制御する車両制御装置であって、
前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断した場合、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に前記歩行者保護装置を作動させることを特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
車載カメラの撮影画像を分析する画像分析ステップと、
画像分析ステップの分析結果が歩行者との衝突の判断であった場合、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に、車両と衝突した前記歩行者を保護する歩行者保護装置を作動させる歩行者保護ステップと、
を有することを特徴とする車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載の歩行者保護装置を制御する、車両制御システム、車両制御装置、および、車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両と衝突した歩行者を保護する従来技術として、バンパー部に設けた圧力室の圧力を検知する圧力センサの検出結果と、車速センサの検出結果に応じて作動する、特許文献1の歩行者保護装置が知られている。
【0003】
例えば、同文献の段落0030には、「コントローラ11は、圧力センサ3および車速センサ12の検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出し、衝突物の種類を歩行者と判別し、さらに歩行者保護装置21を作動させるべき速度であると判定した場合には、歩行者保護装置21の駆動装置23を動作させるための信号を出力し、歩行者保護装置21を作動させる。」と記載されており、同文献の段落0032には、「歩行者保護装置21はポップアップフード、ポップアップエンジンフード、アクティブボンネット、アクティブフード、カウルエアバッグ、フードエアバッグ等の名称で呼ばれる公知のものであってよく、エンジンフードの後端を衝突検知後瞬時に上昇させ、上昇した分のストロークを緩衝用機構で支え、歩行者がエンジンフードにたたきつけられる衝撃を和らげ保護するというものか、または、カウルエアバッグ、フードエアバッグ等の名称で呼ばれる、車体外部のエンジンフード上からフロントウインド下部にかけてエアバッグを展開し歩行者の衝撃を緩衝するというもの等である。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧力センサが歩行者を検出するのは歩行者との衝突後であるため、特許文献1の歩行者保護装置が作動するのは、必然的に歩行者との衝突後になる。従って、特許文献1の技術では、歩行者を保護するうえでより望ましい、衝突前のタイミングで歩行者保護装置を作動させることはできなかった。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術より適切な状況で歩行者保護装置を作動させることを可能にする、車両制御システム、車両制御装置、および、車両制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の車両制御システムは、車載カメラの撮影画像を分析する画像分析装置と、車両と衝突した歩行者を保護する歩行者保護装置と、前記画像分析装置の分析結果に基づき前記歩行者保護装置を制御する車両制御装置と、を有する車両制御システムであって、前記画像分析装置が前記歩行者との衝突を判断した場合、前記車両制御装置は、前記歩行者に衝突すると予想されたタイミングの前に前記歩行者保護装置を作動させる車両制御システムとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両制御システム、車両制御装置、および、車両制御方法によれば、従来技術より適切な状況で歩行者保護装置を作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の歩行者保護システムの概略構成図。
【
図5】自動ブレーキシステムの処理を示すフローチャート。
【
図7】実施例1の歩行者保護システムのハードウェア構成を示す機能ブロック図。
【
図8】衝突前後の各センサ出力の変化を示すグラフ。
【
図9】実施例1の歩行者保護システムの処理を示すフローチャート。
【
図10】相対速度と衝突エネルギーの関係を示すグラフ。
【
図11】実施例2の歩行者保護システムの処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明の車両制御装置の実施例を説明する。
【実施例0011】
図1から
図9を用いて、本発明の歩行者保護システムの実施例1を説明する。
【0012】
<歩行者保護システム100の概要>
まず、
図1を用いて、車両1に搭載した歩行者保護システム100の概略構成を説明する。この車両1では、前側のバンパー1aの後方に密閉空間を備えたチャンバ1bが配置されており、ボンネット1cの下方にエンジン等の高剛性構造体1dが配置されている。また、本実施例の車両1には、歩行者保護システム100に加え、自動ブレーキシステム200も搭載されている。なお、以下の「歩行者」には、文字通りの歩行者に加え、走っている人や、自転車に乗った人など、車両1との衝突時に保護が必要な人全般が含まれるものとする。
【0013】
図1に示す歩行者保護システム100は、車両1と衝突した歩行者Pを保護する歩行者保護装置(以下、単に「保護装置2」と称する。)を制御するシステムであり、後述する車両制御装置11と、左右のカメラ12a、12bを接続した画像分析装置12と、車両1の加速度を検知する加速度センサ13と、チャンバ1bの内部圧力を検知する圧力センサ14を有している。この歩行者保護システム100の詳細は後述する。
【0014】
<<保護装置2の概要>>
図2は、保護装置2の機能を説明する図である。
図2上図に示すように、車両1のボンネット1cの下方には、エンジン等の高剛性構造体1dと、保護装置2が配置されている。
【0015】
ここで、保護装置2を非搭載車両では、車両と衝突した歩行者Pがボンネット1cに乗り上げ、その結果変形したボンネット1cが高剛性構造体1dに接触すると、ボンネット1cに乗り上げた歩行者Pは実質的に高剛性構造体1dと衝突したのと同程度の大きな衝撃を受けることになる。
【0016】
そこで、本実施例の車両1では、歩行者Pとの衝突が予測された場合、
図2下図の破線で示すように、保護装置2を起動してボンネット1cを事前に持ち上げておき、歩行者Pとの接触によるボンネット1cの変形後でも、ボンネット1cと高剛性構造体1dの接触、すなわち、歩行者Pと高剛性構造体1dの実質的な衝突を回避して、歩行者Pが受ける衝撃を低減できるようにした。なお、保護装置2は、
図2で例示した形態に限定されず、例えば、特許文献1の段落0032に列挙された周知のものを利用しても良い。
【0017】
<自動ブレーキシステム200の概要>
次に、
図3と
図4を用いて、車両1に搭載した自動ブレーキシステム200を説明する。自動ブレーキシステム200は、前方障害物との衝突が予想された場合、その障害物との衝突に先立ち自動的に制動を開始することで、衝突を回避したり衝突時の衝撃を軽減したりするシステムである。前方障害物の検知には各種のセンサを利用できるが、以下では、左右のカメラ12a、12bを障害物検出用のセンサとして利用する例を説明する。
【0018】
図3の例では、車両1は速度V
1で歩行者方向に移動している。車両1にとっての障害物である歩行者Pとの距離Lとすると、車両1と歩行者Pの相対速度V
0は、下記の式1のように距離Lの微分値で求められる。また、車両1と歩行者Pの衝突予想時間Tは、下記の式2で求められる。なお、車両1の速度V
1は車速センサ(図示せず)の出力に基づいて求められ、距離Lはカメラ12a、12bの出力画像の視差を三角測量の原理などを利用して処理して求めた距離L
0(カメラから歩行者Pまでの距離)から既知の距離ΔL(カメラから車両先端までの距離)を減算することで求められる。
【0019】
【0020】
【0021】
したがって、自動ブレーキシステム200は、カメラ12a、12bの撮影画像の分析により障害物の有無、障害物との距離等を検知し、衝突予想時間Tが衝突の可能性十分となった場合に、自動的に車両の制動を開始する。
【0022】
図4は、
図3の車両1と歩行者Pのラップ率Rを説明する平面図である。車両1の幅をL
2、歩行者Pの中心線と車両左端線との距離をL
1とすると、衝突可能性を判断するための指標であるラップ率Rは、下記の式3で定義できる。
【0023】
【0024】
ラップ率Rが0~100の場合、車両1の進路に歩行者Pがいると判断できるため、自動ブレーキシステム200は、歩行者Pとの衝突前に自動的に制動を開始する。一方、ラップ率Rが0より小さい場合や100より大きい場合は、車両1の進路に歩行者Pがいないと判断できるため、自動ブレーキシステム200は、制動を実行しない。
【0025】
このように、自動ブレーキシステム200では、障害物との衝突可能性を判定したり、衝突予想時間Tを予測したりできるため、本実施例の歩行者保護システム100では、自動ブレーキシステム200の一部である画像分析装置12が出力した衝突可能性や衝突予想時間Tの情報を利用して、障害物との衝突前であっても保護装置2を制御できるようにした。
【0026】
次に、
図5のフローチャートを用いて、歩行者Pとの衝突を避けるために車両1を自動的に制動させる場合の、自動ブレーキシステム200の動作例を説明する。なお、歩行者以外の障害物(例えば先行車や電柱)との衝突を避ける場合も、自動ブレーキシステム200は
図5と同様に動作するが、その場合は、歩行者保護システム100と自動ブレーキシステム200の連携は無いため、以下では、車両前方の障害物が歩行者Pである場合に限定して説明する。
【0027】
まず、ステップS1では、自動ブレーキシステム200(画像分析装置12)は、カメラ12a、12bの撮影画像をパターン認識するなどして、車両1の前方障害物が歩行者Pであると認識する。
【0028】
ステップS2では、自動ブレーキシステム200は、カメラ12a、12bの撮影画像を三角測量の原理などを利用して演算処理し、障害物である歩行者Pとの相対距離Lを求める(
図3参照)。
【0029】
ステップS3では、自動ブレーキシステム200は、式1を用いて、あるいは、相対距離Lの時間変化から、障害物である歩行者Pとの相対速度V0を求める。
【0030】
ステップS4では、自動ブレーキシステム200は、式3を用いて、障害物である歩行者Pと車両1のラップ率Rを求める(
図4参照)。
【0031】
ステップS5では、自動ブレーキシステム200は、式2を用いて、障害物である歩行者Pとの衝突までの時間(衝突予想時間T)を求める。
【0032】
ステップS6では、自動ブレーキシステム200は、歩行者Pが車両1と衝突すると予想される、衝突予想位置を演算する。
【0033】
図6は、本ステップでの衝突予想位置の演算方法を例示した図である。この図では、車両1に対する歩行者Pの相対位置や相対速度を、車両1の前端中心を原点、車両1の右方向をX軸の正方向、前方向をY軸の正方向とした、XY座標系で示している。
【0034】
まず、保護装置2の作動が有効なパターンを説明する。車両1の左前の歩行者Paは、相対位置(Xa0,Ya0)から相対速度ベクトルVaで車両1に向かって移動している。このとき、歩行者Paと車両1の距離がLaであれば、歩行者Paが車両1に衝突するまでの時間Taは、La/Vaで計算でき、歩行者Paの衝突予想位置(Xa,Ya)は、Xa=Xa0+Vax×Ta、Ya=Ya0+Vay×Taで演算できる。ここで、Vaxは相対速度ベクトルVaのX成分であり、VayはY成分である。本例の歩行者Paの衝突予想位置(Xa,Ya)は車両1の正面であり、その場合、保護装置2を作動させることで車両1と衝突した歩行者Paを保護できる。そのため、自動ブレーキシステム200から衝突予想位置を受信した歩行者保護システム100は、歩行者Paとの衝突を、保護装置2を作動させるパターンに分類する。
【0035】
なお、車両1の正面の歩行者Pbについても、同様の方法で車両1の正面に衝突すると予測できるため、歩行者保護システム100では、歩行者Pbとの衝突を、保護装置2を作動させるパターンに分類することができる。
【0036】
次に、保護装置2の作動が無効なパターンを説明する。車両1の左側の歩行者Pcは、相対位置(Xc0,Yc0)から相対速度ベクトルVcで車両1に向かって相対移動している。このとき、歩行者Pcと車両1の距離がLcであれば、歩行者Pcが車両1に衝突するまでの時間Tcは、Lc/Vcで計算でき、歩行者Pcの衝突予想位置(Xc,Yc)は、Xc=Xc0+Vcx×Tc、Yc=Yc0+Vcy×Tcで演算できる。ここで、Vcxは相対速度ベクトルVcのX成分であり、VcyはY成分である。本例の歩行者Pcの衝突予想位置(Xc,Yc)は車両1の左側面であり、その場合、保護装置2を作動させても車両1と衝突した歩行者Pcを保護できない。そのため、自動ブレーキシステム200から衝突予想位置を受信した歩行者保護システム100は、歩行者Pcとの衝突を、保護装置2を作動させないパターンに分類する。
【0037】
なお、車両1の右前の歩行者Pdについても、同様の方法で車両1の右側面に衝突すると予測できるため、歩行者保護システム100では、歩行者Pbとの衝突を、保護装置2を作動させないパターンに分類することができる。
【0038】
ステップS7では、自動ブレーキシステム200は、以上の演算結果を踏まえて、障害物である歩行者Pとの衝突態様を予測し、必要に応じて自動的に制動を開始したり、検知結果を歩行者保護システム100に送信したりする。
【0039】
<歩行者保護システム100の機能ブロック図>
図7は、本実施例の歩行者保護システム100のハードウェア構成を示す機能ブロック図である。この車両制御装置11は、自動ブレーキシステム200の一部でもある画像分析装置12から出力された障害物特定結果11aと衝突予測結果11b、加速度センサ13の出力である加速度情報、および、圧力センサ14の出力である圧力情報に基づいて保護装置2を制御する制御装置であり、この機能を実現すべく、衝突判定部11cと、保護装置制御部11dを備えている。
【0040】
なお、この車両制御装置11は、具体的には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の記憶装置、および、通信装置などのハードウェアを備えたコンピュータである。そして、演算装置が所定のプログラムを実行することで、衝突判定部11c等の各機能部を実現するが、以下では、このような周知技術を適宜省略しながら説明する。
【0041】
本実施例の画像分析装置12は、パターン認識などの技術により車両1と衝突する障害物の種別を判定する画像処理機能を有している。従って、
図3、
図4、
図6等の状況下では、画像分析装置12は、障害物が歩行者Pであることを示す障害物特定結果11aを出力する。また、
図4や
図6の状況下では、画像分析装置12は、障害物との衝突の可能性が高いことを示す衝突予測結果11bを出力する。
【0042】
衝突判定部11cでは、上記した障害物特定結果11a、衝突予測結果11b、加速度情報、圧力情報を用いることで、歩行者Pとの衝突態様をより正確に予測し、保護装置2の作動要否を適切に判定する。
【0043】
そして、保護装置制御部11dでは、衝突判定部11cの判定結果に応じて、保護装置2の作動を制御する。これにより、加速度センサ13と圧力センサ14の出力のみから判断する従来技術では保護装置2の作動が遅延する状況下であっても、本実施例によれば保護装置2を早期に作動させたり、従来技術では保護装置2が誤作動する状況であっても、本実施例によれば保護装置2の誤作動を防止したりすることができる。
【0044】
<<歩行者との衝突時のタイミングチャート>>
次に、
図8のタイミングチャートを用いて、各センサの出力変化と、衝突判定の動作を具体的に説明する。なお、本図では、車両1と歩行者Pの衝突の時刻を、衝突時点Cとしている。
【0045】
図6の歩行者Paや歩行者Pbとの衝突のように、車両1の正面で歩行者Pと衝突する場合、衝突によりチャンバ1bが圧縮されるため、衝突時点C以後は、圧力センサ14が検出する圧力は図中に示すように単調に増加する。また、加速度センサ13が検出する加速度は、衝突前の所定速度での走行中は加減速がないため0の値を示すが、歩行者Pとの衝突時点Cでの減速を負の加速度として検知し、衝突の終了に伴い、0の値に復帰する。
【0046】
このような、圧力センサ14と加速度センサ13の出力遷移を観察すると、歩行者Pとの衝突により各センサの出力偏差が衝突時点Cの直後に急増することが分かる。これを利用し、従来は、複数のセンサによる確度が高い衝突判定を行い、保護装置2を作動させていた。
【0047】
ただし、加速度センサ13と圧力センサ14の出力遷移に基づく衝突判定は、実際の衝突後にしか行えないため、本実施例ではさらに、自動ブレーキシステム200の出力に基づいても歩行者Pとの衝突を予測し、衝突前に保護装置2を起動する方法も併用するようにしている。
【0048】
具体的には、
図5のステップ7で自動ブレーキシステム200(画像分析装置12)により生成された、障害物特定結果11aと衝突予測結果11bを活用し、保護装置2の作動を適切なタイミングとするようにしている。より具体的には、障害物との衝突までの衝突予想時間Tは
図3の原理により、障害物との接近に基づき所定時間間隔で演算させている。障害物との距離が小さくなるにつれ障害物認識位置、速度の精度が向上するため、衝突予想時間Tの精度は向上する一方、衝突の回避は困難となる。よって、所定の衝突予想時間Tより短時間での衝突が予想されるタイミング、すなわち
図8下段図中の「衝突判断」のタイミングで、衝突回避を不可と推定することができる。
【0049】
また、保護装置2の作動には、歩行者Pの保護のためには最適なタイミングが存在する。したがって、本実施例では、衝突予想時間Tを踏まえ、保護装置2を衝突に先立って作動させる。
図8の例では、衝突予想時間Tが0となるタイミング、すなわち、衝突時点Cにおいて、衝突判定している。
【0050】
さらに、
図8では、カメラ12a、12bの画像センサの誤差により、画像分析装置12が衝突予想時間Tを遅く演算した例も示している。この場合、衝突予想時間Tが0となるタイミングは実際の衝突時点Cより遅いC’となるため、実際の衝突時点Cより前に衝突判断をすることができないが、衝突時点C以後の圧力センサ14の出力偏差、および、加速度センサ13の出力偏差を観察した結果を基に、保護装置2を作動させることができる。すなわち、仮にカメラ12a、12bの出力に不備があった場合でも、圧力センサ14と加速度センサ13による衝突判定も併用することで、画像データによる衝突判定の誤りを補完し、少なくとも従来技術と同等のタイミングで衝突判定することが可能となる。
【0051】
次に、
図9のフローチャートを用いて、歩行者保護システム100としての衝突判定処理を説明する。なお、
図5とは別に
図9のフローチャートを設けたことから自明であるが、本実施例では、自動ブレーキシステム200としての衝突判定結果と歩行者保護システム100としての衝突判定結果が相違することは当然に予定されている。
【0052】
まず、ステップS11では、画像分析装置12は、
図5と同等の方法で歩行者Pとの衝突判断を行う。すなわち、ステップS11は、画像分析装置12が自動ブレーキシステム200として歩行者Pとの衝突を判断する処理である。そして、画像分析装置12が歩行者と衝突すると判断した場合は、ステップS12に進み、歩行者と衝突しないと判断した場合(電柱など、歩行者以外の障害物と衝突すると判断した場合も含む)は、ステップS16に進む。
【0053】
ステップS12では、衝突判定部11cは、画像分析装置12が出力した衝突予測結果11bに含まれる衝突予想時間Tまでの残時間が、衝突回避不可の判断基準となる所定の閾値以下であるかを判断する。そして、要件を満たせばステップS13に進み、要件を満たさなければステップS14に進む。
【0054】
ステップS13では、衝突判定部11cは、歩行者Pと衝突すると判定し、保護装置制御部11dは、歩行者保護のため保護装置2を作動させる。なお、ステップS12からステップS13に直接進んだ場合は、車両1が歩行者Pと衝突する前に、保護装置2が作動することになる。
【0055】
ステップS14では、衝突判定部11cは、圧力センサ14の出力偏差の大きさが所定の閾値より大であるかを判定する。そして、要件を満たせばステップS15に進み、要件を満たさなければステップS16に進む。
【0056】
ステップS15では、衝突判定部11cは、加速度センサ13の出力偏差の大きさが所定の閾値より大であるかを判定する。そして、要件を満たせばステップS13に進み、要件を満たさなければステップS16に進む。なお、ステップS15からステップS13に進んだ場合は、車両1が歩行者Pと衝突した後に、保護装置2が作動することになる。
【0057】
ステップS16では、衝突判定部11cは、歩行者Pと衝突しないと判定し、保護装置制御部11dは、保護装置2を作動させない。なお、ステップS11からステップS16に直接進んだ場合は、加速度センサ13や圧力センサ14の出力にかかわらず、保護装置2は作動しない。従って、人以外との衝突により加速度センサ13や圧力センサ14の出力偏差の大きさが閾値以上になっても、画像分析装置12が歩行者Pとの衝突でないと事前に判断していた場合は、歩行者保護システム100は、歩行者Pの保護に寄与しない保護装置2の作動を禁止することになる。
【0058】
次に、
図8の状況下で
図9のフローチャートに従った場合の特徴的な状況を説明する。
【0059】
衝突時点C前は、ステップS13やステップS14での出力偏差の大きさは閾値より小さいため、ステップS15からステップS13に至る経路で衝突を検知することはないが、画像分析装置12で衝突予想時間Tを正しく演算できれば、障害物との衝突が不可避となった時点で、ステップS13の衝突判定を実施することができ、歩行者Pと衝突する前に保護装置2を作動させることができる。
【0060】
また、画像センサの誤差により、画像分析装置12で演算した衝突予想時間Tが本来の衝突時間より大きく遅延した場合であっても、ステップS13やステップS14での出力偏差の大きさが閾値より大となれば、従来技術と同等のタイミングで保護装置2を作動させることができる。
【0061】
よって、本フローチャートに従った制御により、自動ブレーキシステム200が障害物を歩行者Pと判断していた場合は、通常は歩行者Pとの衝突前に保護装置2を作動させることができ、仮に画像センサ出力にエラーがあっても歩行者Pとの接触直後には保護装置2を作動させることができる。一方、自動ブレーキシステム200が障害物を歩行者Pでないと判断していた場合は、圧力センサ14が障害物との衝突を検知した場合であっても、保護装置2の誤動作を防ぐことができる。このように、本実施例によれば、信頼性の高い保護装置制御を実現することが可能となる。