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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168496
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】干渉計
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/06 20060101AFI20241128BHJP
   G01J 3/45 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01J3/06
G01J3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085219
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】松本 哲郎
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020CA12
2G020CB23
2G020CC22
2G020CC55
2G020CC65
2G020CD16
2G020CD35
2G020CD41
2G020CD60
(57)【要約】
【課題】移動ミラーの位置を精度よく計測することができ、かつ、小型化および低消費電力化が図られている干渉計を提供すること。
【解決手段】分析部および測長部を備える干渉計であって、分析部は、分析光を反射させる移動ミラー、および、分析光を受光する第1受光素子を有し、試料に対する分析光の照射および分析光の干渉により、試料の分析に供される分析光学系と、ミラー駆動信号に基づいて移動ミラーを駆動するミラー駆動部と、を備え、測長部は、レーザー光源、振動素子を用いてレーザー光の周波数を変調し、変調成分を付加する光変調器、および、レーザー光が移動ミラーに照射されることによって生成される測長成分および変調成分を含むレーザー光を受光し、第2受光信号を出力する第2受光素子を有し、レーザー光の干渉により、移動ミラーの位置の検出に供される測長光学系、を備え、振動素子は、ミラー駆動信号の信号源である干渉計。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析部および測長部を備える干渉計であって、
前記分析部は、
分析光を反射させる移動ミラー、および、前記分析光を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子を有し、試料に対する前記分析光の照射および前記分析光の干渉により、前記試料の分析に供される分析光学系と、
ミラー駆動信号に基づいて前記移動ミラーを駆動するミラー駆動部と、
を備え、
前記測長部は、
レーザー光を射出するレーザー光源、振動素子を用いて前記レーザー光の周波数を変調し、変調成分を付加する光変調器、および、前記レーザー光が前記移動ミラーに照射されることによって生成される測長成分および前記変調成分を含む前記レーザー光を受光し、第2受光信号を出力する第2受光素子を有し、前記レーザー光の干渉により、前記移動ミラーの位置の検出に供される測長光学系、
を備え、
前記振動素子は、前記ミラー駆動信号の信号源であることを特徴とする干渉計。
【請求項2】
前記振動素子を信号源として周期信号を生成する周期信号生成部をさらに備え、
前記ミラー駆動部は、前記周期信号の周波数を調整し、前記ミラー駆動信号を生成するミラー駆動信号生成部を有する請求項1に記載の干渉計。
【請求項3】
前記ミラー駆動信号生成部は、前記周期信号の周波数を調整し、タイミング信号を生成する請求項2に記載の干渉計。
【請求項4】
前記測長部は、前記周期信号および前記第2受光信号に基づいて、前記測長成分を復調する復調処理部を有する請求項2または3に記載の干渉計。
【請求項5】
前記ミラー駆動部は、
ステッピングモーターと、
前記ステッピングモーターの回転出力で前記移動ミラーを移動させる動力変換部と、
を有し、
前記ミラー駆動信号生成部は、
前記周期信号の周波数を調整して、所定の周波数のパルス信号を出力する周波数調整部と、
前記パルス信号に基づいて前記ミラー駆動信号を生成するモーター制御部と、
を有する請求項2または3に記載の干渉計。
【請求項6】
前記ミラー駆動部は、
直流モーターと、
前記直流モーターの回転出力で前記移動ミラーを移動させる動力変換部と、
を有し、
前記ミラー駆動信号生成部は、
前記周期信号の周波数を調整して、所定の周波数のパルス信号を出力する周波数調整部と、
前記パルス信号の周波数を直流電圧に変換するF/V変換部と、
を有する請求項2または3に記載の干渉計。
【請求項7】
前記移動ミラーの移動速度をvとし、前記レーザー光の波長をλとし、前記光変調器による前記レーザー光の変調周波数をfmとするとき、前記ミラー駆動部は、前記移動速度vが下記式(3)を満たすように前記移動ミラーを駆動する請求項1または2に記載の干渉計。
v<(fm/4)λ (3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料が放射または吸収する光のスペクトル情報を取得し、それに基づいて試料中の成分等を分析する分光分析に用いられる光学モジュールが開示されている。この光学モジュールは、ミラーユニットと、ビームスプリッターユニットと、光入射部と、第1光検出器と、第2光源と、第2光検出器と、を備えている。ミラーユニットは、所定方向に移動する可動ミラーと、位置が固定された固定ミラーと、を含んでいる。このような光学モジュールでは、ビームスプリッターユニット、可動ミラーおよび固定ミラーによって、測定光およびレーザー光がそれぞれ入射される干渉光学系が構成される。
【0003】
第1光源から測定対象を介して入射した測定光は、光入射部を経て、ビームスプリッターユニットにおいて分割される。分割された測定光の一部は、可動ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。分割された測定光の残部は、固定ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。ビームスプリッターユニットに戻った測定光の一部および残部は、干渉光として第1光検出器によって検出される。
【0004】
一方、第2光源から射出されたレーザー光は、ビームスプリッターユニットにおいて分割される。分割されたレーザー光の一部は、可動ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。分割されたレーザー光の残部は、固定ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。ビームスプリッターユニットに戻ったレーザー光の一部および残部は、干渉光として第2光検出器によって検出される。
【0005】
このような光学モジュールでは、レーザー光の干渉光の検出結果に基づいて、可動ミラーの位置を計測する。そして、可動ミラーの位置の計測結果および測定光の干渉光の検出結果に基づいて、測定対象についての分光分析が可能になる。具体的には、可動ミラーの各位置における測定光の強度を求めることにより、インターフェログラムと呼ばれる波形が得られる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、測定対象についてのスペクトル情報を求めることができる。したがって、特許文献1に記載の光学モジュールは、FTIR(フーリエ変換型赤外分光分析器)に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/009404号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の光学モジュールでは、静電アクチュエーターとして機能する駆動部により、可動ミラーが駆動される。駆動部には、外部から入力された周期的な電気信号が付与され、可動ミラーはその共振周波数によって往復動するようになっている。
【0008】
一方、フーリエ変換型分光分析器では、分析精度の向上を求める観点から、可動ミラーの位置をより高精度に計測することが求められている。そこで、光ヘテロダイン干渉法を用いて可動ミラーの位置を計測することが検討されている。その場合、光変調器を用いてレーザー光の周波数を変調する必要があることから、光変調器に入力するための電気信号を発生させる信号源が必要になる。そうすると、可動ミラーを駆動するための電気信号発生装置と、光変調器を駆動するための電気信号発生装置が、それぞれ必要になり、光学モジュールを用いた干渉計の大型化および消費電力の増大が懸念される。
【0009】
そこで、移動ミラーの位置を精度よく計測することができ、かつ、小型化および低消費電力化が図られている干渉計の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の適用例に係る干渉計は、
分析部および測長部を備える干渉計であって、
前記分析部は、
分析光を反射させる移動ミラー、および、前記分析光を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子を有し、試料に対する前記分析光の照射および前記分析光の干渉により、前記試料の分析に供される分析光学系と、
ミラー駆動信号に基づいて前記移動ミラーを駆動するミラー駆動部と、
を備え、
前記測長部は、
レーザー光を射出するレーザー光源、振動素子を用いて前記レーザー光の周波数を変調し、変調成分を付加する光変調器、および、前記レーザー光が前記移動ミラーに照射されることによって生成される測長成分および前記変調成分を含む前記レーザー光を受光し、第2受光信号を出力する第2受光素子を有し、前記レーザー光の干渉により、前記移動ミラーの位置の検出に供される測長光学系、
を備え、
前記振動素子は、前記ミラー駆動信号の信号源である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る干渉計としての分光装置を示す概略構成図である。
図2図1の分析部、測長部、周期信号生成部および演算部の各主要部を示す概略構成図である。
図3図1に示す振動素子の構成例を示す斜視図である。
図4図1に示す振動素子の他の構成例を示す斜視図である。
図5図2のミラー駆動部の機能を示す機能ブロック図である。
図6図1に示す分光装置で取得される第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)の一例を示す図である。
図7】インターフェログラムF(x)の一例を示す図である。
図8】試料に分光分析を行って得られるスペクトルパターンSP0の一例である。
図9】前処理部で演算処理される信号PASS1、PASS2の各帯域を模式的に示す図である。
図10】第2実施形態に係る干渉計としての分光装置が備えるミラー駆動部の機能を示す機能ブロック図である。
図11】第3実施形態に係る干渉計としての形状測定装置を示す概略構成図である。
図12図11の分析部、測長部、周期信号生成部および演算部の各主要部を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の干渉計を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.第1実施形態
まず、第1実施形態に係る干渉計について説明する。
【0013】
図1は、第1実施形態に係る干渉計としての分光装置100を示す概略構成図である。図2は、図1の分析部300、測長部400、周期信号生成部6および演算部7の各主要部を示す概略構成図である。
【0014】
1.1.分光装置の構成
図1に示す分光装置100では、入射された分析光L1を被検体である試料9に照射させ、試料9から放射された分析光L1をマイケルソン型干渉光学系に通す。そして、移動ミラーを移動させて干渉光学系の内部の光路長を変化させながら、得られた干渉光の強度変化を検出し、その結果に対して演算を行うことにより、インターフェログラムを取得する。取得したインターフェログラムをフーリエ変換することにより、試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンが得られる。分析光L1の波長を選択することで、図1に示す分光装置100は、例えば試料9に対するFT-IR(フーリエ型赤外分光分析)、FT-NIR(フーリエ型近赤外分光分析)、FT-VIS(フーリエ型可視分光分析)、FT-UV(フーリエ型紫外分光分析)、FT-THz(フーリエ型テラヘルツ分光分析)等に適用可能である。
【0015】
分光装置100は、図2に示すように、分析光学系3およびミラー駆動部8を有する分析部300、測長光学系4を有する測長部400、周期信号生成部6、ならびに、演算部7、を備える。
【0016】
分析光学系3は、分析光L1を試料9に照射するとともに、分析光L1から試料9に由来する試料由来成分を取り出せるように、分析光L1の光路長を変化させながら、分析光L1の分割および混合を行い、干渉を生じさせる。測長光学系4では、レーザー光である測長光L2を用いて、分析光L1の光路長の変化を測定する。
【0017】
周期信号生成部6は、演算部7に向けて基準信号Ssを出力する。演算部7は、分析光学系3から出力された干渉光の強度を表す信号および測長光学系4から出力された光路長の変化を表す信号に基づいて、光路長に対する干渉光の強度を表す波形、すなわち前述したインターフェログラムを求める。また、演算部7は、インターフェログラムにフーリエ変換を行い、スペクトルパターンを取得する。
【0018】
1.1.1.分析光学系
分析光学系3は、第1光源51、ビームスプリッター54、集光レンズ55および減光フィルター56を備える。なお、分析光学系3では、これらの光学要素の一部が省略されていてもよいし、これら以外の光学要素を備えていてもよいし、これらの光学要素が他の光学要素で置換されていてもよい。
【0019】
第1光源51は、例えば白色光、すなわち幅広い波長の光が集まった光を分析光L1として射出する光源である。分析光L1の波長域、つまり第1光源51の種類は、試料9に対して行う分光分析の目的に応じて適宜選択される。赤外分光分析を行う場合には、第1光源51としては、例えば、ハロゲンランプ、赤外ランプ、タングステンランプ等が挙げられる。可視光分光分析を行う場合には、第1光源51としては、例えば、ハロゲンランプ等が挙げられる。紫外分光分析を行う場合には、第1光源51としては、例えば、重水素ランプ、UV-LED(紫外線発光ダイオード)等が挙げられる。
【0020】
なお、分析光L1の波長として100nm以上760nm未満を選択することにより、紫外分光分析または可視光分光分析を行い得る分光装置100を実現することができる。また、分析光L1の波長として760nm以上20μm以下を選択することにより、赤外分光分析または近赤外分光分析を行い得る分光装置100を実現することができる。さらに、分析光L1の波長として30μm以上3mm以下を選択することにより、テラヘルツ波分光分析を行い得る分光装置100を実現することができる。
【0021】
なお、第1光源51は、分光装置100に含まれず、外部に設けられていてもよい。この場合、外部に設けられた第1光源51から射出された分析光L1が、分光装置100に導入されるようになっていればよい。一方、本実施形態のように、分光装置100が第1光源51を備えることにより、第1光源51とビームスプリッター54とのアライメント精度を特に高めることができ、アライメント不良に伴う分析光L1の損失を最小限に抑えることができる。
【0022】
また、第1光源51は、レーザー光を射出するレーザー光源であってもよい。第1光源51としてレーザー光源を用いることにより、試料9に対するフーリエ型ラマン分光分析、フーリエ型蛍光分光分析のようなレーザー励起分光分析を実現可能な分光装置が得られる。なお、この場合、分析光学系3の構成を上記の構成から変更してもよい。この場合、レーザー光源としては、ラマン分光や蛍光分光に用いられる公知の光源が用いられる。
【0023】
分析光L1は、ビームスプリッター54を透過し、集光レンズ55で集光されて、試料9に照射される。
【0024】
ビームスプリッター54には、例えば、無偏光ビームスプリッターが用いられるが、偏光ビームスプリッターが用いられてもよい。この場合、必要な波長板を適宜追加すればよい。
【0025】
集光レンズ55は、分析光L1を集光させ、試料9に照射される分析光L1のスポットサイズを小さくする。これにより、局所分析が可能になる。局所分析が必要なければ、集光レンズ55は省略されていてもよい。
【0026】
試料9から射出された分析光L1は、試料9との作用により生成された試料由来成分を含んでいる。試料由来成分としては、例えば、分析光L1が試料9に作用したときの、試料9による特定波長の光吸収、反射、散乱、発光等が挙げられる。この分析光L1は、集光レンズ55を経て、ビームスプリッター54で反射され、減光フィルター56を通過する。減光フィルター56は、所定波長の光を選択的に減衰させる。これにより、試料由来成分のS/N比(信号対雑音比)を高めることができ、分光分析をより精度よく行うことができる。減光フィルター56としては、例えば、光学濃度(OD値)が6.0以上のノッチフィルター等が挙げられる。
【0027】
また、分析光学系3は、マイケルソン型干渉光学系を構成する、ビームスプリッター32、移動ミラー33、固定ミラー34、集光レンズ35および第1受光素子36を備える。なお、分析光学系3では、これらの光学要素の一部が省略されていてもよいし、これら以外の光学要素を備えていてもよいし、これらの光学要素が他の光学要素で置換されていてもよい。
【0028】
ビームスプリッター32は、分析光L1を2つの分析光L1a、L1bに分割する無偏光ビームスプリッターである。具体的には、ビームスプリッター32は、分析光L1の一部を分析光L1aとして移動ミラー33に向けて反射させ、分析光L1の他部を分析光L1bとして固定ミラー34に向けて透過させることにより、分析光L1を2つに分割する。
【0029】
ビームスプリッター32の種類としては、例えば、図1に示すプリズム型素子(キューブ型素子)の他、プレート型素子、積層型素子等が挙げられる。プレート型のビームスプリッター32を用いた場合には、分析光L1aと分析光L1bとで波長分散が生じるので、必要に応じて、ビームスプリッター32と固定ミラー34との間に、波長分散補償板を配置するようにしてもよい。波長分散補償板は、硝材の光路長差による波長分散を補償する光学要素である。本実施形態では、ビームスプリッター32としてプリズム型素子が用いられているので、この波長分散補償板は不要である。プリズム型素子は、プリズム同士の間に光学薄膜が挟まれた形態の素子である。また、積層型素子は、2枚の透明平板の間に光学薄膜が挟まれた形態の素子である。積層型素子でも、プリズム型素子と同様、波長分散補償板を不要にできる。また、プリズム型素子や積層型素子では、光学薄膜が露出しないので、ビームスプリッター32の長期信頼性を高めることができる。
【0030】
また、ビームスプリッター32は、移動ミラー33で反射された分析光L1aを第1受光素子36に向けて透過させ、固定ミラー34で反射された分析光L1bを第1受光素子36に向けて反射させる。したがって、ビームスプリッター32は、分割された分析光L1a、L1bを混合する。
【0031】
移動ミラー33は、ビームスプリッター32に対して分析光L1aの入射方向に移動し、かつ、分析光L1aを反射させる鏡である。移動ミラー33は、ミラー駆動部8により、前述した分析光L1aの入射方向において往復するように移動する。移動ミラー33で反射した分析光L1aは、移動ミラー33の位置に応じて位相が変化する。これにより、移動ミラー33は、分析光L1aに移動ミラー33に由来する位相情報を付加する。移動ミラー33に由来する位相情報は、移動ミラー33の位置に応じて分析光L1aに付加される位相の変化である。
【0032】
固定ミラー34は、ビームスプリッター32に対して位置が固定され、分析光L1bを反射させる鏡である。固定ミラー34で反射した分析光L1bは、ビームスプリッター32で分析光L1aと混合され、干渉光として第1受光素子36で受光される。分析光学系3では、移動ミラー33の位置に応じて、分析光L1aの光路と、分析光L1bの光路と、の間に光路差が生じる。
【0033】
移動ミラー33および固定ミラー34は、それぞれ平板ミラーであってもよいし、コーナーキューブミラーであってもよい。各ミラーの反射面には、Al、Au、Agのような金属を用いたメタルコート、誘電体多層膜等が成膜されていてもよい。また、移動ミラー33について、「分析光の入射方向に移動」は、分析光の入射方向の成分を含む方向に移動することを含む。したがって、移動ミラー33は、入射方向に対して斜めに傾いた方向(非平行な方向)に移動してもよい。その場合、演算部7は、移動ミラー33が分析光の入射方向に対して斜めに傾いた影響を除去する機能を有していればよい。さらに、固定ミラー34も移動するように構成されていてもよい。その場合、演算部7は、固定ミラー34が移動した影響を除去する機能を有していればよい。
【0034】
集光レンズ35は、干渉光、すなわち混合された分析光L1a、L1bを第1受光素子36に集光させる。第1受光素子36の受光部の面積によっては、集光レンズ35が省略されていてもよい。
【0035】
第1受光素子36は、干渉光を受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第1受光信号F(t)として出力する。この第1受光信号F(t)は、分析光L1と試料9との相互作用により生成された試料由来成分と、前述した移動ミラー33に由来する位相情報と、を含む。
【0036】
第1受光素子36としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスター、光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)等が挙げられる。このうち、フォトダイオードとしては、例えば、InGaAs系フォトダイオード、Si系フォトダイオード、アバランシェ型フォトダイオード等が挙げられる。
【0037】
1.1.2.測長光学系
測長光学系4は、マイケルソン型干渉光学系であり、第2光源41、ビームスプリッター42、光変調器12、第2受光素子45、1/2波長板46、1/4波長板47、1/4波長板48、および、検光子49を備える。なお、測長光学系4では、これらの光学要素の一部が省略されていてもよいし、これら以外の光学要素を備えていてもよいし、これらの光学要素が他の光学要素で置換されていてもよい。測長光学系4は、光ヘテロダイン干渉法により、移動ミラー33の位置に由来する位相情報および移動速度に由来する周波数情報を、演算部7に出力する。本明細書では、これらの情報を「測長成分」という。
【0038】
第2光源41は、スペクトル線幅の狭い光を射出する光源が好ましく用いられる。第2光源41としては、例えば、He-Neレーザー、Arレーザーのようなガスレーザー、DFB-LD(Distributed FeedBack - Laser Diode:分布帰還型レーザーダイオード)、FBG-LD(Fiber Bragg Grating - Laser Diode:ファイバーブラッググレーティング-レーザーダイオード)、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザーダイオード)、FP-LD(Fabry-Perot Laser Diode:ファブリーペロー型半導体レーザーダイオード)のような半導体レーザー素子、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)のような結晶レーザー等が挙げられる。
【0039】
第2光源41は、特に半導体レーザー素子であるのが好ましい。これにより、分光装置100の小型化、軽量化および低消費電力化を図ることができる。
【0040】
ビームスプリッター42は、P偏光を透過させ、S偏光を反射させる偏光ビームスプリッターである。1/2波長板46は、その光学軸が、測長光L2の偏光軸に対して回転した状態で配置されている。これにより、測長光L2は、1/2波長板46を通過することにより、P偏光とS偏光とを含む直線偏光になり、ビームスプリッター42でP偏光とS偏光の2つに分割される。
【0041】
S偏光である測長光L2aは、1/4波長板48で円偏光に変換され、光変調器12に入射する。光変調器12は、測長光L2aを反射させることにより、測長光L2aに変調成分を付加する。変調成分は、測長光L2aが振動素子30で反射されることに伴って生じる周波数の変化である。反射された測長光L2aは、ビームスプリッター42に戻る。このとき、測長光L2aは、1/4波長板48でP偏光に変換される。
【0042】
一方、P偏光である測長光L2bは、1/4波長板47で円偏光に変換され、移動ミラー33に入射する。移動ミラー33は、測長光L2bを反射させる。これにより、測長光L2bは、移動ミラー33の位置に応じて位相が変化する。移動ミラー33で反射した測長光L2bは、ビームスプリッター42に戻る。このとき、測長光L2bは、1/4波長板47でS偏光に変換される。
【0043】
なお、図1に示す測長光学系4は、前述した分析光学系3において分析光L1aが入射する移動ミラー33の面とは異なる面に、測長光L2bが入射するように構成されているが、測長光L2bは、分析光L1aが入射する面と同じ面に入射するようになっていてもよい。
【0044】
また、ビームスプリッター42は、光変調器12から戻った測長光L2aを第2受光素子45に向けて透過させ、移動ミラー33で反射された測長光L2bを第2受光素子45に向けて反射させる。したがって、ビームスプリッター42は、分割された測長光L2a、L2bを混合する。混合された測長光L2a、L2bは、検光子49を透過し、第2受光素子45に入射する。
【0045】
なお、ビームスプリッター42には、偏光ビームスプリッターに代えて無偏光ビームスプリッターを用いるようにしてもよい。この場合、波長板等が不要となるため、部品点数の削減による分光装置100の小型化を図ることができる。
【0046】
光変調器12としては、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている光変調器が挙げられる。本実施形態では、光変調器12が振動素子30を有する。振動素子30は、素子駆動信号Sdにより振動するとともに、測長光L2aを反射させる。これにより、光変調器12は、測長光L2aに対して変調成分を重畳させる。
【0047】
振動素子30としては、例えば、水晶振動子、シリコン振動子、セラミック振動子等が挙げられる。これらの振動子は、機械的共振現象を利用した振動子であるため、Q値が高く、固有振動数の安定化を容易に図ることができる。これにより、光変調器12が測長光L2aに印加する変調成分のS/N比を高めることができ、かつ、基準信号Ssの精度を高めることができる。これにより、移動ミラー33の位置を精度よく求めることができ、最終的に、波長軸(波数軸)の正確度が高いスペクトルパターンを生成可能な分光装置100を実現できる。
【0048】
水晶振動子としては、例えば、水晶AT振動子、SCカット水晶振動子、音叉型水晶振動子、水晶表面弾性波素子等が挙げられる。水晶振動子の発振周波数は、例えば1kHzから数100MHz程度である。
【0049】
シリコン振動子は、単結晶シリコン基板からMEMS技術を用いて製造される単結晶シリコン片と、圧電膜と、を備える振動子である。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小電気機械システムのことである。単結晶シリコン片の形状としては、例えば、2脚音叉型、3脚音叉型等の片持ち梁形状、両持ち梁形状等が挙げられる。シリコン振動子の発振周波数は、例えば1kHzから数100MHz程度である。
【0050】
セラミック振動子は、圧電セラミックスを焼き固めて製造される圧電セラミック片と、電極と、を備える振動子である。圧電セラミックスとしては、例えば、チタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BTO)等が挙げられる。セラミック振動子の発振周波数は、例えば数100kHzから数10MHz程度である。
【0051】
図3は、図1に示す振動素子30の構成例を示す斜視図である。
図3に示す振動素子30は、板形状の振動片431と、振動片431に設けられた回折格子434と、を備えている。
【0052】
振動片431は、電位を加えることにより、面に沿う方向に歪むように振動するモードを繰り返す材料で構成されている。図3に示す振動片431は、MHz帯の高周波領域で、振動方向436に沿って厚みすべり振動する水晶AT振動子である。また、振動片431の表面には、回折格子434が設けられている。回折格子434は、振動方向436と交差する成分を持つ溝432、すなわち、振動方向436と交差する方向に延在する直線状の複数の溝432を有している。
【0053】
振動片431は、互いに表裏の関係を有する表面4311および裏面4312を有している。表面4311には、回折格子434が配置されている。また、表面4311には、振動片431に電位を加えるためのパッド433が設けられている。一方、裏面4312にも、振動片431に電位を加えるためのパッド435が設けられている。
【0054】
振動片431の大きさは、例えば、長辺が0.50mm以上10.0mm以下程度とされる。また、振動片431の厚さは、例えば、0.10mm以上2.0mm以下程度とされる。一例として、振動片431の形状は、1辺が1.6mmの正方形とされ、その厚さは0.35mmとされる。
【0055】
回折格子434の大きさは、例えば、長辺が0.20mm以上3.0mm以下程度とされる。また、回折格子434の厚さは、例えば、0.003mm以上0.50mm以下程度とされる。
【0056】
本実施形態では、振動片431が厚みすべり振動するが、この振動は、図3に振動方向436として示すように、面内振動であることから、振動片431単体の表面に対して垂直に光を入射しても、光変調はできない。そこで、振動素子30では、振動片431に回折格子434を設けることにより、光変調を可能にしている。
【0057】
図3に示す回折格子434は、一例としてブレーズド回折格子である。ブレーズド回折格子とは、回折格子の断面形状が階段状になっているものをいう。なお、回折格子434の形状は、これに限定されない。
【0058】
図4は、図1に示す振動素子30の他の構成例を示す斜視図である。なお、図4では、互いに直交する3つの軸として、A軸、B軸およびC軸を設定し、矢印で示している。矢印の先端側を「プラス」とし、矢印の基端側を「マイナス」とする。また、例えば、A軸のプラス側およびマイナス側の両方向を「A軸方向」という。B軸方向およびC軸方向もそれぞれ同様である。
【0059】
図4に示す振動素子30は、音叉型水晶振動子である。図4に示す振動素子30は、基部401と、第1振動腕402および第2振動腕403とを有する振動基板を有する。このような音叉型水晶振動子は、製造技術が確立されているため、容易に入手可能であり、かつ、発振も安定している。このため、音叉型水晶振動子は、振動素子30として好適である。また、振動素子30は、振動基板に設けられた、電極404、405および光反射面406を有する。
【0060】
基部401は、A軸に沿って延在する部位である。第1振動腕402は、基部401のA軸マイナス側の端部からB軸プラス側に向かって延びる部位である。第2振動腕403は、基部401のA軸プラス側の端部からB軸プラス側に向かって延びる部位である。
【0061】
電極404は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と平行な側面に設けられている導電膜である。なお、図4には図示していないが、電極404は、互いに対向する側面にそれぞれ設けられ、互いに極性が異なるように電圧が印加されることで、第1振動腕402を駆動する。
【0062】
電極405は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と交差する側面に設けられている導電膜である。なお、図4には図示していないが、電極405も、互いに対向する側面にそれぞれ設けられ、互いに極性が異なるように電圧が印加されることで、第2振動腕403を駆動する。
【0063】
光反射面406は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と交差する側面に設定され、測長光L2aを反射する機能を有する。側面とは、第1振動腕402および第2振動腕403の延在方向に沿って広がる面のことを指す。図4に示す光反射面406は、第1振動腕402の側面のうち、特に、電極405の表面に設定されている。第1振動腕402に設けられた電極405は、光反射面406としての機能も有している。なお、電極405とは別に、図示しない光反射膜を設けるようにしてもよい。
【0064】
音叉型水晶振動子には、水晶基板から切り出された水晶片を用いる。音叉型水晶振動子の製造に用いられる水晶基板としては、例えば、水晶Zカット平板等が挙げられる。図4には、A軸と平行なX軸、B軸と平行なY’軸、C軸と平行なZ’軸を設定している。水晶Zカット平板は、例えば、X軸が電気軸、Y’軸が機械軸、Z’軸が光軸となるように、水晶の単結晶から切り出された基板である。具体的には、X軸、Y’軸およびZ’軸からなる直交座標系において、X軸まわりに、X軸およびY’軸からなるX-Y’平面を反時計方向に約1°から5°傾けた主面を持つ基板が、水晶の単結晶から切り出され、水晶基板として好ましく用いられる。そして、このような水晶基板をエッチングすることにより、図4に示す振動素子30に用いられる水晶片が得られる。エッチングは、ウェットエッチングであっても、ドライエッチングであってもよい。
【0065】
一方、光反射面406を、電極404の表面に設定してもよい。この場合、音叉型水晶振動子が面外振動するように、例えば、面外振動するモード(スプリアス成分を含む)を励振するように、各電極に印加する信号を調整すればよい。
【0066】
第2受光素子45は、混合された測長光L2a、L2bを干渉光として受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第2受光信号S2として出力する。この第2受光信号S2は、移動ミラー33に由来する測長成分を含む。
【0067】
第2受光素子45としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスター等が挙げられる。
【0068】
以上、各光学系が備える光学要素について説明したが、光を入射させる必要がある光学要素については、反射防止処理が施されているのが好ましい。これにより、第1受光信号F(t)および第2受光信号S2のS/N比を高めることができる。
【0069】
1.1.3.周期信号生成部
図2に示す周期信号生成部6は、周期信号を生成し、基準信号Ssとして出力する。本実施形態では、図1に示すように、周期信号生成部6が、発振回路62および矩形波発生回路64を有する。
【0070】
発振回路62としては、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている発振回路が挙げられる。発振回路62は、振動素子30が信号源となって動作し、精度の高い周期信号を生成する。これにより、発振回路62は、精度の高い素子駆動信号Sdおよび基準信号Ssを出力する。そうすると、素子駆動信号Sdおよび基準信号Ssは、外乱を受けた場合、互いに同じ影響を受けることになる。その結果、素子駆動信号Sdにより駆動された振動素子30を介して付加される変調成分、および、基準信号Ssも、互いに同じ影響を受ける。このため、第2受光信号S2および基準信号Ssが、演算部7における演算に供されたとき、演算の過程で、双方が含む外乱の影響を互いに相殺または低減させることができる。その結果、演算部7では、外乱を受けても、移動ミラー33の位置を精度よく求めることができる。
【0071】
なお、上記の公報に開示されている発振回路は、インバーターICを用いた回路であるが、それに代えてコルピッツ発振回路が用いられていてもよい。
【0072】
矩形波発生回路64は、発振回路62から出力されたアナログ信号である基準信号Ssを、デジタル信号であるパルス信号Spに変換する。矩形波発生回路64としては、例えば、コンパレーターを用いたアナログ/デジタル変換回路等が挙げられる。
【0073】
1.1.4.ミラー駆動部
図5は、図2のミラー駆動部8の機能を示す機能ブロック図である。
【0074】
図5に示すミラー駆動部8は、ミラー駆動信号生成部82および動力伝達部86を有する。このうち、ミラー駆動信号生成部82は、周波数調整部83およびモーター制御部84を有する。また、動力伝達部86は、ステッピングモーターSPMおよび動力変換部862を有する。ミラー駆動信号生成部82は、周期信号生成部6から入力されたパルス信号Spに基づいて、目的とする駆動周波数fkのミラー駆動信号Smを生成する。そして、モーター制御部84は、ミラー駆動信号SmをステッピングモーターSPMに向けて出力し、動力変換部862を介して移動ミラー33を駆動する。
【0075】
周波数調整部83は、基本波生成部832および分周器834を有する。
基本波生成部832には、周期信号生成部6からパルス信号Spが入力される。基本波生成部832は、このパルス信号Spに基づいて、例えばタイミング信号等に利用可能な周波数1Hzの基本波信号を生成する。この場合、基本波生成部832は、例えば、周波数が32.768kHzのパルス信号Spを用い、これを15分周させる機能を有していればよい。なお、基本波信号の周波数は、1Hzに限定されない。
【0076】
分周器834にも、周期信号生成部6からパルス信号Spが入力される。分周器834は、パルス信号Spを1/n倍に分周し、低周波化する。分周器834には、例えば複数段のフリップフロップで構成されたデジタル方式の周波数分周器が用いられる。このような構成によれば、複数種の周波数を選択可能になるため、後述するモーター制御部84は、移動ミラー33の駆動において必要とする移動速度に応じて、適当な周波数を選択できる。ここでは、モーター制御部84が選択する周波数を駆動周波数fkとする。駆動周波数fkは、モーター制御部84からの要求に応じて、例えばf1、f2、f3、・・・・のように分周数に応じた異なる値をとる変数である。
【0077】
以上のような周波数調整部83では、タイミング信号等に利用可能な基本波信号を生成するとともに、所望の駆動周波数fkのパルス信号を生成できる。基本波信号は、タイミング制御等の用途に適しているため、例えば移動ミラー33の移動方向を切り替える制御や、分析時間の制御等、様々な目的で用いることができる。したがって、周波数調整部83によれば、新たな信号源を用意することなく、基本波信号を生成することができる。また、周波数調整部83では、所望の駆動周波数fkのパルス信号を出力できる。このため、ミラー駆動部8では、移動ミラー33の移動速度を任意に調整できる。これにより、移動ミラー33の移動速度の選択幅が広いミラー駆動部8を実現できる。
【0078】
モーター制御部84は、回転方向制御部842および駆動周波数決定部844を有する。
【0079】
回転方向制御部842には、例えば周波数1Hzの基本波信号が入力される。回転方向制御部842は、基本波信号に基づいて、ステッピングモーターSPMが同一方向に回転する経過時間を計測する。そして、目的とする時間が経過したら、回転方向を逆転させる制御信号を出力する。これにより、所定の時間間隔でステッピングモーターSPMの回転方向を切り替えることができる。その結果、移動ミラー33の往復移動が可能になる。
【0080】
駆動周波数決定部844には、駆動周波数fkのパルス信号が入力される。駆動周波数決定部844は、移動ミラー33に必要な移動速度に応じて、駆動周波数fkを決定する。例えば、ステッピングモーターSPMの駆動方式がパルス周波数変調方式(PFM方式)であって、動力変換部862がボールねじのような回転運動を直線運動に変換する機構を有する場合、移動ミラー33の移動速度は、例えば、駆動周波数fkに比例する。したがって、駆動周波数決定部844は、例えば、このような比例関係に基づいて、駆動周波数fkを決定する機能を有していればよい。このような駆動周波数決定部844の具体例として、マルチ位相生成ドライバー等が挙げられる。
【0081】
以上のようなモーター制御部84は、回転方向制御部842が決定した回転方法、および、駆動周波数決定部844が決定した駆動周波数fkに基づいて、ステッピングモーターSPMの駆動方式に応じた形式でミラー駆動信号Smを出力する。
【0082】
ステッピングモーターSPMは、ミラー駆動信号Smにより、所定の回転方向および回転速度で回転する。この回転出力は、動力変換部862に伝達される。
【0083】
動力変換部862は、例えば、ボールねじを有する変換機構、ラックギアおよびピニオンギアを有する変換機構等を有する。これらの変換機構は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)機構を用いて移動ミラー33の移動させる場合に比べて、移動量を容易に大きくできる。このため、取得できるスペクトルパターンの波長分解能(波数分解能)を容易に高くできる。このうち、ボールねじを有する変換機構が好ましく用いられる。位置精度が高く、移動ミラー33を精度よく移動させることができる。
【0084】
以上のように、本実施形態は、周期信号生成部6から出力される基準信号Ssに基づいて、ミラー駆動信号Smを生成するように構成されている。つまり、本実施形態では、光変調器12が有する振動素子30が、測長光L2aに変調成分を付加する周波数シフターとしての機能や、基準信号Ssの信号源としての機能だけでなく、ミラー駆動信号Smの信号源としての機能も有している。信号源とは、発振回路62を用いて振動素子30を発振させて得られる周期信号を、基準信号Ssやミラー駆動信号Smの生成に用いることを指す。
【0085】
このような構成によれば、振動素子30をミラー駆動信号Smの発生にも用いることができる。このため、基準信号Ssの信号源とは別の信号源を用意する必要がなく、分光装置100の小型化、軽量化および低消費電力化が図られる。また、従来よりも信号源を減らせるため、分光装置100の低コスト化を図ることができる。
【0086】
また、ステッピングモーターSPMは、ミラー駆動信号Smのパルス数に基づいて正確な回転角制御が可能であるため、上記のミラー駆動部8によれば、移動ミラー33の移動量や移動速度を正確に制御することができる。
【0087】
1.1.5.演算部
図2に示す演算部7は、移動ミラー位置演算部72、光強度演算部74およびフーリエ変換部76を有する。これらの機能部が発揮する機能は、例えば、プロセッサー、メモリー、外部インターフェース、入力部、表示部等を備えるハードウェアによって実現される。具体的には、メモリーに格納されているプログラムをプロセッサーが読み出し、実行することによって実現される。なお、これらの構成要素は、外部バスによって互いに通信可能になっている。
【0088】
プロセッサーとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等が挙げられる。なお、これらのプロセッサーがソフトウェアを実行する方式に代えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が上述した機能を実現する方式を採用するようにしてもよい。
【0089】
メモリーとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等が挙げられる。
【0090】
外部インターフェースとしては、例えば、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等が挙げられる。
【0091】
入力部としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タッチパッド等の各種入力装置が挙げられる。表示部としては、例えば、液晶ディスプレイパネル、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等が挙げられる。なお、入力部および表示部は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0092】
1.1.5.1.移動ミラー位置演算部
図2に示す移動ミラー位置演算部72は、光ヘテロダイン干渉法により、移動ミラー33の位置を特定し、その結果に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。具体的には、測長光学系4が光変調器12を備えることにより、測長光L2aに変調成分を付加することができる。そして、測長光L2a、L2bを干渉させたとき、得られた干渉光から移動ミラー33に由来する測長成分を高い精度で取得することができる。そして、演算部7において測長成分から移動ミラー位置信号X(t)を高精度に求められる。光ヘテロダイン干渉法によれば、測長成分を取り出すとき、外乱の影響、特にノイズとなる周波数の迷光の影響を受けにくく、高いロバスト性が与えられる。
【0093】
図2に示す移動ミラー位置演算部72は、前処理部722、復調処理部724、および、移動ミラー位置信号出力部726を有する。前処理部722および復調処理部724には、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている前処理部および復調部が適用できる。
【0094】
前処理部722は、基準信号Ssに基づいて第2受光信号S2に前処理を行う。復調処理部724は、前処理部722から出力された前処理済み信号から、基準信号Ssに基づいて移動ミラー33に由来する測長成分を復調する。つまり、復調処理部724は、周期信号生成部6が生成した周期信号である基準信号Ss、および、第2受光信号S2に基づいて、測長成分を復調する。
【0095】
移動ミラー位置信号出力部726は、復調処理部724が復調した移動ミラー33に由来する測長成分に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成し、出力する。この方法で求めた移動ミラー位置信号X(t)は、時刻ごとに変化する移動ミラー33の位置を表す信号であって、測長光L2の波長よりも十分に狭い間隔で移動ミラー33の変位を捉えている。例えば、測長光L2の波長が数100nmである場合、移動ミラー位置信号X(t)の位置分解能としては10nm未満が達成可能になる。このため、光強度演算部74では、インターフェログラムF(x)の高精度なデジタルデータを生成することができる。
【0096】
図6は、図1に示す分光装置100で取得される第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)の一例を示す図である。図6の横軸は、時間tであり、縦軸は、第1受光素子36に入射する干渉光の強度または移動ミラー33の位置である。
【0097】
図6に示す移動ミラー位置信号X(t)は、移動ミラー33の位置の変化を連続的に検出し、高い位置分解能を実現した信号である。このため、それに基づいてインターフェログラムF(x)を生成することで、よりデータ点数の多いインターフェログラムF(x)が得られる。データ点数の多さは、インターフェログラムF(x)のサンプリング間隔が短く、精度が高いことを意味する。したがって、このようにして得られたインターフェログラムF(x)を用いることで、最終的に、高い波長分解能(波数分解能)のスペクトルパターンを取得することができる。
【0098】
また、サンプリング間隔を短くできることで、より波長の短い(より波数の大きい)分析光L1を用いても、十分なデータ点数を持つインターフェログラムF(x)を得ることができる。これにより、より広い波長範囲(広い波数範囲)のスペクトルパターン、すなわち、より広帯域のスペクトルパターンを取得することができる。
【0099】
1.1.5.2.光強度演算部
光強度演算部74は、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、移動ミラー33の位置に対する干渉光の強度を表す波形(インターフェログラムF(x))を生成する。
【0100】
第1受光信号F(t)は、前述したように、試料由来成分および移動ミラー33に由来する位相情報を含んでいる。光強度演算部74では、移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、第1受光信号F(t)の強度を抽出する。そして、光強度演算部74は、移動ミラー位置信号X(t)から求められる移動ミラー33の位置と第1受光信号F(t)の強度とにより、インターフェログラムF(x)を生成する。なお、インターフェログラムF(x)は、分析光学系3における移動ミラー33での反射光と固定ミラー34での反射光との光路差と、第1受光素子36で受光される干渉光の強度(第1受光信号F(t)の強度)と、の関数で表される。
【0101】
図7は、インターフェログラムF(x)の一例を示す図である。図7の横軸は、分析光学系3の光路差であり、縦軸は、干渉光の強度である。なお、分析光学系3の光路差とは、ビームスプリッター32と移動ミラー33との光路長およびビームスプリッター32と固定ミラー34との光路長の差であり、図7では、光路差ゼロを横軸の原点としている。
【0102】
1.1.5.3.フーリエ変換部
フーリエ変換部76は、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行う。これにより、試料9に固有の情報を含むスペクトルパターンを取得する。
【0103】
図8は、試料9に分光分析を行って得られるスペクトルパターンSP0の一例である。スペクトルパターンSP0は、試料9の反射スペクトルの例である。
【0104】
図8に示すスペクトルパターンSP0には、分析光L1が試料9に作用して生成された試料由来成分が吸収ピークX9として反映されている。分光装置100によれば、スペクトルパターンSP0に基づいて、試料9の特性、例えば材料、構造、成分量等を分析することができる。
【0105】
このスペクトルパターンSP0は、インターフェログラムF(x)をフーリエ変換して生成される。インターフェログラムF(x)は、移動ミラー33の位置をパラメーターとして得られた電界振幅波形であるから、これをフーリエ変換して得られるスペクトルパターンSP0は、波長情報を持つ。移動ミラー33の位置は、スペクトルパターンSP0の波数精度に直結する。よって、本実施形態に係る分光装置100によれば、波長軸(波数軸)の正確度が高いスペクトルパターンSP0を生成可能である。
【0106】
1.2.ミラー駆動部の作動条件
前述した演算部7では、光変調器12の変調周波数fmに基づいて決まる演算処理可能な周波数帯域が存在する。具体的には、前処理部722では、復調処理に先立ち、受光信号を変調周波数fmの1倍に対応する帯域(fm帯)の信号PASS1と、変調周波数fmの2倍に対応する帯域(2fm帯)の信号PASS2とに分けて、前処理を施す。これらの2つの信号PASS1、PASS2は、互いに重なることなく分離されている必要がある。
【0107】
図9は、前処理部722で演算処理される信号PASS1、PASS2の各帯域を模式的に示す図である。
【0108】
図9に示す信号PASS1、PASS2は、互いに帯域が重複しないように分離されている。具体的には、信号PASS1の帯域の最大値は、fmから高周波数側にfm/2までの範囲に制限される。
【0109】
前述した測長光学系4の第2受光素子45には、変調周波数fmで変調された変調成分と、移動ミラー33に由来する測長成分と、を含む干渉光が入射する。このため、第2受光素子45から出力される第2受光信号S2には、図9に示すように、移動ミラー33の移動速度に応じたドップラー周波数fdの周波数シフトが含まれる。このドップラー周波数fdを計測することにより、移動ミラー33の移動速度、そして、移動ミラー33の位置を算出できる。
【0110】
ドップラー周波数fdを計測するためには、ドップラー周波数fdがfm帯および2fm帯の各帯域に含まれている必要がある。この制約条件を満たすように、ミラー駆動部8の作動条件が設定されることが好ましい。以下、作動条件について説明する。
【0111】
まず、図9に示すように、ドップラー周波数fdは、下記式(1)を満たすことが好ましい。
fd<fm/2 (1)
【0112】
ドップラー周波数fdは、移動ミラー33の移動速度vおよび測長光L2aの波長λで表すことができるので、上記式(1)から下記式(2)が導かれる。
(2/λ)v<fm/2 (2)
【0113】
上記式(2)を変形すると、下記式(3)が導かれる。
v<(fm/4)λ (3)
【0114】
上記式(3)から、移動ミラー33の移動速度は、変調周波数fmおよび波長λに基づく所定の範囲であることが好ましい。
この制約条件から、ミラー駆動部8の作動条件を求める。
【0115】
図5に示す構成のミラー駆動部8では、駆動周波数決定部844が駆動周波数fkを決定する。この駆動周波数fkは、例えば、移動ミラー33の移動速度vと比例関係にある。具体的には、両者の間は、下記式(4)が成り立つ。
v=h・fk (4)
【0116】
なお、上記式(4)のhはモーター性能を表す係数である。モーター性能を表す係数hは、例えば、次のように計算される。
【0117】
動力変換部862がボールねじを含む場合、ボールねじのねじピッチをP[mm]とする。また、ステッピングモーターSPMに入力されるミラー駆動信号Smの1パルスで回転する角度をs[deg/パルス]とする。このとき、係数hは、1パルスで移動ミラー33が移動する距離と考えることができ、下記式(5)で表される。
h=P・s/360 (5)
【0118】
そうすると、上記式(4)および上記式(5)から、下記式(6)が導かれる。
v={(P・s)/360}fk=g(fk,h) (6)
【0119】
上記のように、移動ミラー33の移動速度vは、駆動周波数fkおよびモーター性能を表す係数hの関数gで表現できる。そうすると、上記式(3)および上記式(6)から、ミラー駆動部8の作動条件を表す下記式(7)、(8)が導かれる。
【0120】
{(P・s)/360}fk<(fm/4)λ (7)
fk<{90/(P・s)}λ・fm (8)
【0121】
以上のように、ミラー駆動部8の作動時には、上記式(8)を満たすように駆動周波数fkを選択すればよい。これにより、移動ミラー33の位置を計測可能な移動速度vで移動ミラー33を移動させることができる。このため、小型化、軽量化および低消費電力化を図りつつ、移動ミラー33の位置を再現性よく計測可能な分光装置100を実現することができる。
【0122】
なお、本実施形態では、光変調器12の変調周波数fmが振動素子30の固有振動数に応じて決まる。このため、固有振動数が高い振動素子30を用いることで、変調周波数fmが高くなり、それに伴って前述したfm帯および2fm帯も広帯域化できる。例えば、前述した水晶AT振動子のようにMHz帯の高い固有振動数を有する。これにより、計測可能な移動ミラー33の移動速度vを高くできるため、より高速で移動ミラー33を移動させることが可能になる。その結果、計測時間の短縮、つまり、高速での分析が可能な分光装置100が得られる。
【0123】
なお、上記のように、移動ミラー33の移動速度vを関数g(fk,h)で表現できるのは、ステッピングモーターSPM以外のモーター、例えば、PWM(パルス幅変調)方式のモーター、ピエゾモーター、リニアモーター等も同様である。したがって、ミラー駆動部8には、ステッピングモーターSPMに代えて、これらのモーターが用いられていてもよい。
【0124】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る分光装置について説明する。
【0125】
図10は、第2実施形態に係る干渉計としての分光装置100が備えるミラー駆動部8の機能を示す機能ブロック図である。
【0126】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、図10において、前記第1実施形態と同様の事項については、同一の符号を付している。
【0127】
第2実施形態は、図10に示すミラー駆動部8の構成が図5と異なる以外、第1実施形態と同様である。
【0128】
図10に示すミラー駆動信号生成部82は、周波数調整部83およびモーター制御部84を有する。また、図10に示す動力伝達部86は、直流モーターDCMおよび動力変換部862を有する。図10に示すミラー駆動信号生成部82は、周期信号生成部6から入力されたパルス信号Spに基づいて、目的とする直流電圧Vのミラー駆動信号Smを生成する。そして、モーター制御部84は、ミラー駆動信号Smを直流モーターDCMに向けて出力し、動力変換部862を介して移動ミラー33を駆動する。
【0129】
図10に示す周波数調整部83は、第1実施形態と同様、周期信号生成部6からのパルス信号Spが入力される分周器834を有する。
【0130】
図10に示すモーター制御部84は、位置算出部846、極性制御部847およびF/V変換部848を有する。
【0131】
位置算出部846には、演算部7から出力された移動ミラー位置信号X(t)が入力される。位置算出部846は、この移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、移動ミラー33の位置を算出する。なお、位置算出部846には、移動ミラー33の位置を算出可能な別の情報が入力されるようになっていてもよい。
【0132】
極性制御部847は、直流モーターDCMに入力するミラー駆動信号Smを出力する。直流モーターでは、ミラー駆動信号Smの電圧に応じて、回転速度が変化し、一般には、電圧と回転速度とが比例する。また、極性制御部847は、移動ミラー33の往復時間に応じて、ミラー駆動信号Smの極性を切り替える。これにより、移動ミラー33の往復移動が可能になる。
【0133】
F/V変換部848は、移動ミラー33に必要な移動速度に応じて、駆動周波数fkを決定する。そして、F/V変換部848は、分周器834から出力された駆動周波数fkを直流電圧Vに変換する。F/V変換部848では、例えば、駆動周波数fkと出力する直流電圧Vとが比例する関係に基づいて、周波数-電圧変換を行う。
【0134】
したがって、図10に示すミラー駆動部8では、移動ミラー33の移動速度を関数g(V,h)で表現できる。この場合、Vは、F/V変換部848の出力電圧である。なお、直流モーターDCMは、同様の駆動方式のモーター、例えばリニアモーター等で代替可能である。
【0135】
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
また、直流モーターDCMは、ミラー駆動信号Smの直流電圧に基づいて回転速度制御が容易であるため、上記のミラー駆動部8によれば、移動ミラー33の移動速度を容易に制御することができる。
【0136】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る干渉計について説明する。
【0137】
図11は、第3実施形態に係る干渉計としての形状測定装置200を示す概略構成図である。図12は、図11の分析部300、測長部400、周期信号生成部6および演算部7の各主要部を示す概略構成図である。
【0138】
以下、第3実施形態について説明するが、以下の説明では、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、図11および図12において、前記第1実施形態と同様の事項については、同一の符号を付している。
【0139】
前記第1実施形態に係る分光装置100は、第1光源51から射出された分析光L1を試料9に照射し、試料9の分光分析を行う装置である。これに対し、第2実施形態に係る形状測定装置200は、分析光L1を試料9に照射し、試料9の表面や内部の形状測定を行う装置である。図11に示す形状測定装置200は、分析光学系3の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
【0140】
図11に示す分析光学系3は、第1光源51、ビームスプリッター32、移動ミラー33、集光レンズ35、集光レンズ37および第1受光素子36を備える。
【0141】
図11に示す第1光源51には、例えば、SLD(Super Luminescent Diode)、LED(Light Emitting Diode)のような白色光源の他、波長掃引光源、第1実施形態で挙げている各種ランプ等が挙げられる。好ましくは、低コヒーレンス光源と呼ばれる広帯域光源が用いられる。
【0142】
第1光源51から射出された分析光L1は、ビームスプリッター32で2つに分割される。図11に示すビームスプリッター32は、分析光L1の一部を分析光L1aとして移動ミラー33に向けて反射させ、分析光L1の他部を分析光L1bとして試料9に向けて透過させる。分析光L1bは、集光レンズ37を介して試料9に集光される。
【0143】
また、ビームスプリッター32は、移動ミラー33で反射された分析光L1aを第1受光素子36に向けて透過させ、試料9で反射された分析光L1bを第1受光素子36に向けて反射させる。したがって、ビームスプリッター32は、分割された分析光L1a、L1bを混合する。
【0144】
第1受光素子36は、干渉光を受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第1受光信号F(t)として出力する。この第1受光信号F(t)は、分析光L1bと試料9との相互作用により生成された試料由来成分と、前述した移動ミラー33に由来する位相情報と、を含む。試料由来成分は、例えば、試料9の表面形状に応じて分析光L1bに付加される位相の変化である。
【0145】
第1受光素子36としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスター等の他、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)のようなイメージセンサー等が挙げられる。イメージセンサーを用いることにより、第1受光信号F(t)の2次元分布を取得することができる。これにより、試料9の表面形状を2次元で測定することができる。
【0146】
図11に示す測長光学系4、周期信号生成部6およびミラー駆動部8は、図1と同様である。
【0147】
図12に示す演算部7は、移動ミラー位置演算部72、光強度演算部74および形状算出部78を有する。
【0148】
図12に示す光強度演算部74は、前記第1実施形態と同様、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、移動ミラー33の各位置における第1受光信号F(t)の強度を表す波形(インターフェログラムF(x))を生成する。図12に示す形状算出部78は、この波形に基づいて、試料9の表面形状を算出する。具体的な解析方法は、白色干渉計測法、時間領域OCT(Optical Coherence Tomography)等の名称で知られている。
【0149】
なお、図11では、試料9が分析光L1bを反射させる場合について図示しているが、試料9が分析光L1bを透過させる場合、図11に示す形状測定装置200は、試料9の内部形状(内部構造)を測定可能となる。具体的な解析方法は、光干渉断層撮影等の名称で知られている。
以上のような第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0150】
4.前記実施形態が奏する効果
前記実施形態に係る干渉計としての分光装置100および形状測定装置200は、それぞれ、分析部300および測長部400を備える。分析部300は、分析光学系3およびミラー駆動部8を備える。分析光学系3は、分析光L1を反射させる移動ミラー33、および、分析光L1を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子36を有し、試料9に対する分析光L1の照射および分析光L1の干渉により、試料9の分析、すなわち分光分析や形状測定等に供される。ミラー駆動部8は、ミラー駆動信号Smに基づいて移動ミラー33を駆動する。測長部400は、第2光源41(レーザー光源)、光変調器12、および、第2受光素子45を有する。第2光源41は、レーザー光である測長光L2を射出する。光変調器12は、振動素子30を用いて測長光L2aの周波数を変調し、変調成分を付加する。第2受光素子45は、測長光L2bが移動ミラー33に照射されることによって生成される測長成分および変調成分を含む測長光L2a、L2bを受光し、第2受光信号S2を出力する。このような測長光学系4は、測長光L2a、L2bの干渉により、移動ミラー33の位置の検出に供される。そして、前記実施形態に係る干渉計では、振動素子30が、ミラー駆動信号Smの信号源である。
【0151】
このような構成によれば、振動素子30を、基準信号Ssの信号源として用いるだけでなく、ミラー駆動信号Smの信号源としても用いる。このため、各信号用に個別の信号源を用意する必要がなく、干渉計(分光装置100および形状測定装置200)の小型化、軽量化および低消費電力化が図られる。また、従来よりも信号源を減らせるため、干渉計の低コスト化を図ることができる。
【0152】
また、前記実施形態に係る干渉計としての分光装置100および形状測定装置200は、周期信号生成部6をさらに備えている。周期信号生成部6は、振動素子30を信号源として周期信号を生成する。そして、ミラー駆動部8は、ミラー駆動信号生成部82を有する。ミラー駆動信号生成部82は、周期信号の周波数を調整し、ミラー駆動信号Smを生成する。
【0153】
このような構成によれば、振動素子30を信号源とする周期信号を用いて、所望の駆動周波数fkのミラー駆動信号Smを生成できる。このため、移動ミラー33の移動速度を任意に調整できる。
【0154】
また、ミラー駆動信号生成部82は、周期信号の周波数を調整し、タイミング信号を生成するように構成されていてもよい。
【0155】
このような構成によれば、新たな信号源を用意することなく、例えば、タイミング制御等の用途に適するタイミング信号を生成することができる。
【0156】
また、測長部400は、復調処理部724を有する。復調処理部724は、周期信号および第2受光信号S2に基づいて、測長成分を復調する。
【0157】
このような構成によれば、振動素子30を信号源とする周期信号を用いて、測長成分を復調できる。つまり、測長光L2aの周波数を変調する目的に加え、測長成分を復調する復調処理における基準信号Ssの信号源として振動素子30を用いることができる。これにより、干渉計のさらなる小型化、軽量化および低消費電力化ならびに低コスト化を図ることができる。
【0158】
また、ミラー駆動部8は、ステッピングモーターSPMと、動力変換部862と、を有していてもよい。動力変換部862は、ステッピングモーターSPMの回転出力で移動ミラー33を移動させる。さらに、ミラー駆動信号生成部82は、周期信号の周波数を調整して、所定の周波数のパルス信号を出力する周波数調整部83と、パルス信号に基づいてミラー駆動信号Smを生成するモーター制御部84と、を有する。
【0159】
このような構成によれば、ミラー駆動信号Smのパルス数に基づいて正確な回転角制御が可能なステッピングモーターSPMを用いているため、移動ミラー33の移動量や移動速度を正確に制御することができる。
【0160】
また、ミラー駆動部8は、直流モーターDCMと、動力変換部862と、を有していてもよい。動力変換部862は、直流モーターDCMの回転出力で移動ミラー33を移動させる。さらに、ミラー駆動信号生成部82は、周期信号の周波数を調整して、所定の周波数のパルス信号を出力する周波数調整部83と、パルス信号の周波数を直流電圧に変換するF/V変換部848と、を有する。
【0161】
このような構成によれば、ミラー駆動信号Smの直流電圧に基づいて回転速度制御が容易な直流モーターDCMを用いているため、移動ミラー33の移動速度を容易に制御することができる。
【0162】
また、移動ミラー33の移動速度をvとし、測長光L2a(レーザー光)の波長をλとし、光変調器12による測長光L2の変調周波数をfmとする。このとき、ミラー駆動部8は、移動速度vが下記式(3)を満たすように移動ミラー33を駆動することが好ましい。
v<(fm/4)λ (3)
【0163】
このような構成によれば、移動ミラー33の位置を計測可能な移動速度vで移動ミラー33を移動させることができる。このため、小型化、軽量化および低消費電力化を図りつつ、移動ミラー33の位置を再現性よく計測可能な干渉計を実現することができる。
【0164】
以上、本発明の干渉計を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明の干渉計は、前記実施形態に限定されるものではなく、各部の構成は、任意の構成物で置換されていてもよいし、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0165】
また、本発明の干渉計は、前記実施形態のうち、2つ以上を含み合わせたものであってもよい。さらに、本発明の干渉計が備える各機能部は、複数の要素に分割されていてもよく、複数の機能部が1つに統合されていてもよい。
【0166】
また、前記実施形態では、マイケルソン型干渉光学系が用いられているが、他の方式の干渉光学系が用いられていてもよい。
【0167】
さらに、試料の配置は、図示した配置に限定されない。試料由来成分は、試料に分析光を作用させることによって生成されるので、試料から射出する分析光が第1受光素子に入射する位置であれば、任意の位置に試料を配置すればよい。
【符号の説明】
【0168】
3…分析光学系、4…測長光学系、6…周期信号生成部、7…演算部、8…ミラー駆動部、9…試料、12…光変調器、30…振動素子、32…ビームスプリッター、33…移動ミラー、34…固定ミラー、35…集光レンズ、36…第1受光素子、37…集光レンズ、41…第2光源、42…ビームスプリッター、45…第2受光素子、46…1/2波長板、47…1/4波長板、48…1/4波長板、49…検光子、51…第1光源、54…ビームスプリッター、55…集光レンズ、56…減光フィルター、62…発振回路、64…矩形波発生回路、72…移動ミラー位置演算部、74…光強度演算部、76…フーリエ変換部、78…形状算出部、82…ミラー駆動信号生成部、83…周波数調整部、84…モーター制御部、86…動力伝達部、100…分光装置、200…形状測定装置、300…分析部、400…測長部、401…基部、402…第1振動腕、403…第2振動腕、404…電極、405…電極、406…光反射面、431…振動片、432…溝、433…パッド、434…回折格子、435…パッド、436…振動方向、722…前処理部、724…復調処理部、726…移動ミラー位置信号出力部、832…基本波生成部、834…分周器、842…回転方向制御部、844…駆動周波数決定部、846…位置算出部、847…極性制御部、848…F/V変換部、862…動力変換部、4311…表面、4312…裏面、DCM…直流モーター、F(x)…インターフェログラム、F(t)…第1受光信号、L1…分析光、L1a…分析光、L1b…分析光、L2…測長光、L2a…測長光、L2b…測長光、PASS1…信号、PASS2…信号、S2…第2受光信号、SP0…スペクトルパターン、Sd…素子駆動信号、Sm…ミラー駆動信号、Sp…パルス信号、SPM…ステッピングモーター、Ss…基準信号、X(t)…移動ミラー位置信号、X9…吸収ピーク、fk…駆動周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12