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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001685
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】移動体、及び移動体の推進方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/06 20060101AFI20231227BHJP
   B01J 25/02 20060101ALI20231227BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20231227BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20231227BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20231227BHJP
   B60W 10/28 20060101ALI20231227BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20231227BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20231227BHJP
   B60L 50/70 20190101ALI20231227BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20231227BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231227BHJP
【FI】
C01B3/06
B01J25/02 M
H01M8/04 Z
H01M8/0606
B60K6/24 ZHV
B60W10/28 900
B60K6/40
B60W20/00
B60L50/70
B60L58/30
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100515
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】長坂 政彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 康孝
(72)【発明者】
【氏名】内山 晃臣
【テーマコード(参考)】
3D202
4G169
5H125
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
3D202BB01
3D202BB43
3D202BB58
3D202DD22
3D202EE00
3D202EE06
3D202EE20
4G169AA02
4G169BB03A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB81
4G169DA05
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC07
5H125BD12
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127BA02
5H127BB02
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でリアクタの温度上昇を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】電力によって移動する移動体であって、テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する原液容器と、原液容器によって調製された水溶液を反応させて水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する触媒を有するリアクタと、リアクタによって生成された水素と酸素とを反応させて電力を得る電力変換器と、電力によって駆動される電動機と、電動機によって駆動する推進器と、リアクタによって生成されたメタほう酸塩水溶液を貯蔵する回収容器と、原液容器から前記リアクタへの流路と、回収容器からリアクタへの流路とを切り替える切替部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力によって移動する移動体であって、
テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する原液容器と、
前記原液容器によって調製された前記水溶液を反応させて水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する触媒を有するリアクタと、
前記リアクタによって生成された水素と酸素とを反応させて電力を得る電力変換器と、
前記電力によって駆動される電動機と、
前記電動機によって駆動する推進器と、
前記リアクタによって生成された前記メタほう酸塩水溶液を貯蔵する回収容器と、
前記原液容器から前記リアクタへの流路と、前記回収容器から前記リアクタへの流路とを切り替える切替部と、
を備える移動体。
【請求項2】
前記リアクタは、前記原液容器によって調製された前記水溶液又は前記回収容器に貯蔵された前記メタほう酸塩水溶液を前記触媒に噴霧するノズルを有する、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記リアクタによって生成された水素及びメタほう酸塩水溶液を分離するバッファ容器を備え、
前記バッファ容器は、前記電力変換器と前記回収容器とに接続される、請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項4】
前記触媒の温度に基づいて前記切替部の切り替えを制御する制御部を備える、請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項5】
前記制御部は、前記原液容器から前記リアクタへの流路を開通するように前記切替部を制御し、前記原液容器と前記リアクタとを接続した後に前記触媒の温度が第1温度以上となった場合には、前記原液容器から前記リアクタへの流路を遮断し、かつ、前記回収容器から前記リアクタへの流路を開通するように、前記切替部を制御する、請求項4に記載の移動体。
【請求項6】
前記制御部は、前記回収容器と前記リアクタとを接続した後に前記触媒の温度が第2温度以下となった場合には、前記回収容器から前記リアクタへの流路を遮断し、かつ、前記原液容器から前記リアクタへの流路を開通するように、前記切替部を制御する、請求項5に記載の移動体。
【請求項7】
前記触媒はラネーニッケルで形成され、前記第1温度は100~120℃であり、前記第2温度は50~95℃であり、前記回収容器に貯蔵された前記メタほう酸塩水溶液の温度は-20~45℃である、請求項6に記載の移動体。
【請求項8】
前記切替部は三方弁である、請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項9】
前記テトラヒドロほう酸塩は、前記メタほう酸塩水溶液から乾燥抽出したメタほう酸塩を原料として、水素化反応により再生産されたテトラヒドロほう酸塩である、請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項10】
前記電力変換器は、燃料電池及び内燃機関発電機の少なくとも一方である、請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項11】
移動体の推進方法であって、
テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する工程と、
触媒に前記水溶液を供給し、触媒作用により水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する工程と、
生成された前記メタほう酸塩水溶液を貯蔵する工程と、
生成された前記水素と酸素とを反応させて電力を得る工程と、
前記電力によって電動機を駆動して前記移動体の推進器を動作させる工程と、
前記水素を生成する工程において前記触媒の温度が第1温度以上となった場合には、前記貯蔵された前記メタほう酸塩水溶液を前記触媒に噴霧して前記触媒を冷却する工程と、
を含む、移動体の推進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体、及び移動体の推進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、潜水艦の発電システムを開示する。この発電システムは、水素化ホウ素亜鉛などの水溶液を、触媒を有するリアクタに投入し、触媒作用によって水素を生成する。生成された水素は、燃料電池において酸素と反応して直流電力に変換される。水素を生成する際に生じた反応熱は、熱交換器を通して外部に吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-509246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の潜水艦は、熱交換器が必要となることから、構成が複雑化するおそれがある。本開示は、簡易な構成でリアクタの温度上昇を抑制できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る移動体は、電力によって移動する。移動体は、原液容器、リアクタ、電力変換器、電動機、推進器、回収容器及び切替部を備える。原液容器は、テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する。リアクタは、原液容器によって調製された水溶液を反応させて水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する触媒を有する。電力変換器は、リアクタによって生成された水素と酸素とを反応させて電力を得る。電動機は、電力によって駆動される。推進器は、電動機によって駆動する。回収容器は、リアクタによって生成されたメタほう酸塩水溶液を貯蔵する。切替部は、原液容器からリアクタへの流路と、回収容器からリアクタへの流路とを切り替える。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、簡易な構成でリアクタの温度上昇を抑制できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る発電システムの一例を示す模式図である。
図2】(A)は、実施形態に係る発電システムが搭載された車の一例を示す側面図である。(B)は、実施形態に係る発電システムが搭載された車の一例を示す平面図である。
図3】(A)は、実施形態に係る発電システムが搭載された船の一例を示す側面図である。(B)は、実施形態に係る発電システムが搭載された船の一例を示す平面図である。
図4】(A)は、実施形態に係る発電システムが搭載された飛行体の一例を示す側面図である。(B)は、実施形態に係る発電システムが搭載された飛行体の一例を示す平面図である。
図5】実施形態に係る推進方法の一例を示すフローチャートである。
図6】冷却方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。
【0009】
以下の説明では、テトラヒドロほう酸塩には、以下に例示したほう酸塩に対応する水素化物が含まれる。例えば、ほう酸塩としてメタほう酸塩を用いた場合、NaBH(水素化ほう素ナトリウム)、KBH、LiBH、Ca(BH、Mg(BH等が含まれる。
【0010】
ほう酸塩としては、例えばメタほう酸塩、四ほう酸塩、五ほう酸塩等が挙げられる。メタほう酸塩としては、例えばNaBO、KBO、LiBO、Ca(BO、Mg(BO等が挙げられる。四ほう酸塩としては、例えばNa、NaO・2BO、KO・B、Li、Mg等が挙げられる。五ほう酸塩としては、例えばNaB、NaO・5B、KB、KO・5B、LiB等が挙げられる。また、天然のほう酸塩鉱物であるNa・10HO、Na・4HO、Ca11・5HO、CaNaB・6HO、MgCl1730等を用いることもできる。入手容易性、入手コスト、化学的安定性、水素脱着容易性、水素貯蔵密度等の観点からは、ほう酸塩としてメタほう酸ナトリウムを用いることができる。
【0011】
図1は、実施形態に係る発電システム1の一例を示す模式図である。図1に示される発電システム1は、電力によって移動する移動体に搭載される。図1に示されるように、発電システム1は、原料容器10、水容器11、原液容器20、リアクタ30、バッファ容器31、回収容器32、電力変換器40及び制御部70を備える。
【0012】
原料容器10は、テトラヒドロほう酸塩を貯蔵する。原料容器10は、配管によって原液容器20に接続される。原料容器10に貯蔵されたテトラヒドロほう酸塩は、配管を介して原液容器20に供給される。原料容器10は、第1供給装置10aを介して配管に接続されてもよい。第1供給装置10aは、原料容器10から一定量のテトラヒドロほう酸塩を、配管を介して原液容器20に供給する。第1供給装置10aによって供給されるテトラヒドロほう酸塩の量は、制御部70によって制御される。第1供給装置10aは、例えばスクリューフィーダである。第1供給装置10aは、振動フィーダであってもよい。
【0013】
水容器11は、水を貯蔵する。水容器11は、配管によって原液容器20に接続される。水容器11に貯蔵された水は、配管を介して原液容器20に供給される。水容器11と原液容器20との間の配管には、第2供給装置11aが設けられてもよい。第2供給装置11aは、水容器11から一定量の水を原液容器20に供給する。第2供給装置11aによって供給される水の量は、制御部70によって制御される。第2供給装置11aは、例えばポンプである。
【0014】
原液容器20は、テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する。原液容器20では、原料容器10から供給されたテトラヒドロほう酸塩と、水容器11から供給された水とが混合される。原液容器20の内部には、撹拌機が設けられてもよい。以下では、原液容器20で調製されたテトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を、単に「水溶液」と記載する場合がある。水溶液に含まれるテトラヒドロほう酸塩の濃度は、予め定められた濃度に調製される。
【0015】
原液容器20は、配管によってリアクタ30に接続される。この配管は、原液容器20からリアクタ30への第1流路L1を構成する。原液容器20に貯蔵された水溶液は、配管を介してリアクタ30に供給される。原液容器20とリアクタ30との間の配管には、第3供給装置20aが設けられてもよい。第3供給装置20aは、原液容器20から一定量の水溶液をリアクタ30に供給する。第3供給装置20aによって供給される水溶液の量は、制御部70によって制御される。第3供給装置20aは、例えばポンプである。
【0016】
リアクタ30は、原液容器20によって調製された水溶液を反応させて水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する触媒30aを有する。例えば、リアクタ30の内部には触媒30aが配置される。触媒30aは、一例としてメッシュ触媒である。触媒30aの材料は、一例としてラネーニッケルである。リアクタ30の内部では、原液容器20から供給された水溶液が触媒30aによって反応して、水素及びメタほう酸塩水溶液が生成される。リアクタ30の内部には、ノズル30bが設けられてもよい。ノズル30bは、原液容器20から供給された水溶液を、リアクタ30の内部に配置されたメッシュ触媒に向けて噴霧する。
【0017】
触媒と接触した水溶液は、以下の式(1)で示されるように加水分解され、水素及びメタほう酸塩水溶液が生成される。生成される水素及びメタほう酸塩水溶液の量は、第3供給装置20aによって供給される水溶液の量によって調整される。生成される水素及びメタほう酸塩水溶液の量は、制御部70によって制御される。
NaBH4(aq)+2HO→NaBO2(aq)+4H+217kJ (1)
【0018】
バッファ容器31は、リアクタ30の下方に設けられる。リアクタ30とバッファ容器31とは、リアクタ30の内部空間とバッファ容器31の内部空間とが一つの空間を画成するように連結される。リアクタ30において生成された水素及びメタほう酸塩水溶液は、バッファ容器31に貯蔵される。バッファ容器31には、圧力センサ及び水量センサが設けられてもよい。
【0019】
バッファ容器31は、配管によって回収容器32に接続される。バッファ容器31に貯蔵されたメタほう酸塩水溶液は、配管を介して回収容器32に供給される。バッファ容器31と回収容器32との間の配管には、液体調整弁が設けられてもよい。液体調整弁は、例えば電磁弁であり、制御部70によって制御される。制御部70は、バッファ容器31に設けられた水量センサの測定値に応じて液体調整弁の開閉を制御することによって、バッファ容器31から回収容器32に供給されるメタほう酸塩水溶液の量を制御する。
【0020】
バッファ容器31は、配管によって電力変換器40に接続される。バッファ容器31に貯蔵された水素は、配管を介して電力変換器40に供給される。バッファ容器31と電力変換器40との間の配管には、気体調整弁31aが設けられてもよい。気体調整弁31aは、例えば電磁弁であり、制御部70によって制御される。制御部70は、バッファ容器31に設けられた圧力センサの測定値に応じて気体調整弁31aの開閉を制御することによって、バッファ容器31から電力変換器40に供給される水素の量を制御する。
【0021】
電力変換器40は、リアクタ30によって生成された水素と酸素とを反応させて電力を得る。電力変換器40は、例えば燃料電池である。制御部70は、電力変換器40の起電力に応じて気体調整弁31aの開閉を制御することで、バッファ容器31から電力変換器40に供給される水素の量を制御してもよい。電力変換器40は、電動機60(後述する図2図4参照)に電力を供給する。
【0022】
原液容器20で調製されるテトラヒドロほう酸塩を含む水溶液は、メタほう酸塩を含んでいてもよい。例えば、水が貯蔵される水容器11に、メタほう酸塩水溶液が貯蔵される回収容器32から、メタほう酸塩水溶液が供給されてもよい。
【0023】
発電システム1は、リアクタ30で生成される水素に含まれた水分を除去する除湿部31bを備えてもよい。除湿部31bは、例えば、バッファ容器31の水素が電力変換器40に向かって流れる配管に配置される。除湿部31bは、例えば、シリカゲルを含む弁である。
【0024】
回収容器32は、メタほう酸塩水溶液を貯蔵する。回収容器32は、配管によってリアクタ30に接続される。この配管は、回収容器32からリアクタ30への第2流路L2を構成する。回収容器32に貯蔵されたメタほう酸塩水溶液は、配管を介してリアクタ30に噴霧用の冷却水として供給される。回収容器32とリアクタ30との間の配管には、第4供給装置32aが設けられてもよい。第4供給装置32aは、回収容器32から一定量のメタほう酸塩水溶液をリアクタ30に供給する。第4供給装置32aによって供給されるメタほう酸塩水溶液の量は、制御部70によって制御される。第4供給装置32aは、例えばポンプである。
【0025】
第1流路L1と第2流路L2とは切替部50によって切り替え可能に接続される。切替部50は、三方弁であってもよいし、第1流路L1及び第2流路L2それぞれに開閉バルブを設けた構造であってもよい。第1流路L1が開であり第2流路L2が閉の場合、リアクタ30には、テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液が供給され、ノズル30bから触媒30aに噴霧される。これにより、水素及びメタほう酸塩水溶液が生成される。第1流路L1が閉であり第2流路L2が開の場合、リアクタ30には、回収されたメタほう酸塩水溶液が冷媒として供給され、ノズル30bから触媒30aに噴霧される。これにより、触媒30aの温度が速やかに低下する。切替部50は電磁弁で構成され、切替部50の切り替えは、制御部70によって制御されてもよい。
【0026】
図2の(A)は、実施形態に係る発電システム1が搭載された車の一例を示す側面図である。図2の(B)は、実施形態に係る発電システム1が搭載された車の一例を示す平面図である。車2は、発電システム1が搭載される移動体の一実施形態である。
【0027】
図2の(A)及び(B)に示されるように、発電システム1は、車2の電動機60に接続される。電動機60の一例はモータである。電動機60の動力は、推進装置80の一例である車輪に伝達される。これにより、車2は発電システム1から供給される電力で移動できる。
【0028】
図3の(A)は、実施形態に係る発電システム1が搭載された船の一例を示す側面図である。図3の(B)は、実施形態に係る発電システム1が搭載された船の一例を示す平面図である。船3は、発電システム1が搭載される移動体の一実施形態である。
【0029】
図3の(A)及び(B)に示されるように、発電システム1は、船3の電動機60に接続される。電動機60の一例はモータである。電動機60の動力は、推進装置80の一例であるスクリュに伝達される。これにより、船3は発電システム1から供給される電力で移動できる。
【0030】
図4の(A)は、実施形態に係る発電システム1が搭載された飛行体の一例を示す模式図である。図4の(B)は、実施形態に係る発電システム1が搭載された飛行体の一例を示す平面図である。飛行体4は、発電システム1が搭載される移動体の一例である。
【0031】
図4の(A)及び(B)に示されるように、発電システム1は、飛行体4の電動機60に接続される。電動機60の一例はモータである。電動機60の動力は、推進装置80の一例であるプロペラに伝達される。これにより、飛行体4は発電システム1から供給される電力で移動できる。
【0032】
実施形態に係る発電システム1が搭載される飛行体は、クアッドコプターには限定されない。実施形態に係る発電システム1が搭載される飛行体は、飛行機、ヘリコプター、飛行船、グライダー又はロケット等であってもよい。当該飛行機は、ジェット機及びプロペラ機の何れであってもよい。
【0033】
図5は、実施形態に係る推進方法の一例を示すフローチャートである。推進方法は、例えば、移動体及び発電システム1の制御部70によって実行される。推進方法は、例えば、制御部70の開始信号に基づいて開始される。なお、推進方法の一部工程または全てを作業員が実行してもよい。
【0034】
最初に、制御部70は、テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する調製工程(ステップS10)を実行する。制御部70は、第1供給装置10a及び第2供給装置11aを操作して、所定の濃度のテトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製してもよい。
【0035】
次に、制御部70は、触媒によって水溶液を反応させて水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する水素生成工程(ステップS20)を実行する。水溶液は、調製工程(ステップS10)で調製された水溶液である。制御部70は、第3供給装置20aを操作して、反応する水溶液の量を制御してもよい。
【0036】
次に、制御部70は、生成された水素と酸素とを反応させて電力を得る電力変換工程を実行する(ステップS30)。水素は、水素生成工程(ステップS20)で生成された水素である。制御部70は、気体調整弁31aを制御することによって、バッファ容器31から電力変換器40に向かって流れる水素の量を制御してもよい。
【0037】
最後に、移動体の電動機60は、電力変換器40によって生成された電力に基づいて推進装置80を駆動させ、移動する推進工程(ステップS40)を実行する。以上で、図5に示されるフローチャートを終了する。
【0038】
図6は、冷却方法の一例を示すフローチャートである。冷却方法は、例えば、発電システム1の制御部70によって実行される。
【0039】
最初に、制御部70は、判定工程(ステップS50)として、水素生成工程(ステップS10)が開始されているか否かを判定する。制御部70は、第1流路L1がリアクタ30に接続され、テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液がリアクタ30へ供給されている場合には、水素生成工程が開始されていると判定する。
【0040】
水素生成工程(ステップS10)が開始されていると判定された場合(ステップS50:YES)、制御部70は、判定工程(ステップS52)として、触媒温度が第1温度以上であるか否かを判定する。第1温度は、冷却要否の判定のために予め設定された温度であり、一例として100~120℃である。制御部70は、リアクタ30に設けられた温度センサから触媒30aの温度を取得し、触媒温度が第1温度以上であるか否かを判定する。
【0041】
触媒温度が第1温度以上であると判定された場合(ステップS52:YES)、制御部70は、切替工程(ステップS54)として、原液容器20からリアクタ30への第1流路L1を遮断する。
【0042】
続いて、制御部70は、判定工程(ステップS56)として、回収容器32の水溶液の温度が第3温度以下であるか否かを判定する。第3温度は、リアクタ30で生成されたメタほう酸塩水溶液が冷媒として機能するまで冷却したか否かを判定するために予め定められた温度であり、一例として-20~45℃である。制御部70は、回収容器32に設けられた温度センサからメタほう酸塩水溶液の温度を取得し、メタほう酸塩水溶液の温度が第3温度以下であるか否かを判定する。
【0043】
メタほう酸塩水溶液の温度が第3温度以下でないと判定された場合(ステップS56:NO)、制御部70は、時間を空けて、判定工程(ステップS56)を再実行する。つまり、メタほう酸塩水溶液の温度が第3温度以下となるまで待機する。制御部70は、待機時間に制限を設けてもよい。
【0044】
メタほう酸塩水溶液の温度が第3温度以下であると判定された場合(ステップS56:YES)、制御部70は、切替工程(ステップS58)として、回収容器32からリアクタ30への第2流路L2を開通する。これにより、触媒30aの冷却が行われる。
【0045】
続いて、制御部70は、判定工程(ステップS60)として、触媒温度が第2温度以下であるか否かを判定する。第2温度は、冷却終了の判定のために予め設定された温度であり、一例として50~95℃である。制御部70は、リアクタ30に設けられた温度センサから触媒30aの温度を取得し、触媒温度が第2温度以下であるか否かを判定する。
【0046】
触媒温度が第2温度以下でないと判定された場合(ステップS60:NO)、制御部70は、時間を空けて、判定工程(ステップS60)を再実行する。つまり、触媒温度が第2温度以下となるまで冷却を続行して待機する。制御部70は、待機時間に制限を設けてもよい。
【0047】
触媒温度が第2温度以下であると判定された場合(ステップS60:YES)、制御部70は、制御部70は、切替工程(ステップS62)として、回収容器32からリアクタ30への第2流路L2を遮断する。これにより、触媒30aの冷却が終了する。
【0048】
続いて、制御部70は、切替工程(ステップS64)として、原液容器20からリアクタ30への第1流路L1を開通する。
【0049】
切替工程(ステップS64)が終了した場合、水素生成工程(ステップS10)が開始されていないと判定された場合(ステップS50:NO)、触媒温度が第1温度以上でないと判定された場合(ステップS52:NO)、図6に示されるフローチャートは終了する。
【0050】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、本開示は上記実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0051】
ここで、本開示に含まれる種々の例示的実施形態を、以下の条項1~11に記載する。
【0052】
[条項1]
電力によって移動する移動体であって、
テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する原液容器と、
前記原液容器によって調製された前記水溶液を反応させて水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する触媒を有するリアクタと、
前記リアクタによって生成された水素と酸素とを反応させて電力を得る電力変換器と、
前記電力によって駆動される電動機と、
前記電動機によって駆動する推進器と、
前記リアクタによって生成された前記メタほう酸塩水溶液を貯蔵する回収容器と、
前記原液容器から前記リアクタへの流路と、前記回収容器から前記リアクタへの流路とを切り替える切替部と、
を備える移動体。
この移動体では、切替部によって原液容器からリアクタへの流路と、回収容器からリアクタへの流路とが切り替えられる。原液容器からリアクタへの流路が開通している場合、原液容器によって調製された水溶液がリアクタへ供給され、水素及びメタほう酸塩水溶液が生成され、リアクタの温度が上昇する。回収容器からリアクタへの流路が開通している場合、回収容器に貯蔵されたメタほう酸塩水溶液がリアクタへ供給され、リアクタの温度が下降する。このように、移動体は、切替部による切り替えだけでリアクタの温度を制御できる。よって、移動体は、熱交換器を有する移動体と比較して、簡易な構成でリアクタの温度上昇を抑制できる。
【0053】
[条項2]
前記リアクタは、前記原液容器によって調製された前記水溶液又は前記回収容器に貯蔵された前記メタほう酸塩水溶液を前記触媒に噴霧するノズルを有する、条項1に記載の移動体。
この移動体では、ノズルによって、前記原液容器によって調製された水溶液が触媒に噴霧され、水素及びメタほう酸塩水溶液が生成される。さらに、流路が切り替わった場合、ノズルによって、メタほう酸塩水溶液が触媒に噴霧され、触媒が冷却される。このように、共通のノズルを用いて、水素の生成と触媒の冷却とを実現できるので、構造をより簡略化することができる。さらに、メタほう酸塩水溶液が触媒に直接噴霧されるため、移動体は、熱交換器を用いた場合と比べて、確実かつ速やかに温度を下げることができる。これにより、移動体は、リアクタが高温となって加水分解反応つまり水素発生が阻害されることを回避でき、安定した発電を実現できる。さらに、移動体は、冷媒を別途用意する必要がないため、例えば冷却水を追加することによってメタほう酸塩水溶液の濃度が低下して運搬コストが増大したり、メタほう酸塩水溶液に不純物が混入したりすることを回避できる。つまり、移動体は、メタほう酸塩の再生に支障が出ない状態で、リアクタを冷却できる。
【0054】
[条項3]
前記リアクタによって生成された水素及びメタほう酸塩水溶液を分離するバッファ容器を備え、
前記バッファ容器は、前記電力変換器と前記回収容器とに接続される、条項1又は2に記載の移動体。
移動体は、バッファ容器を備えることで、水素及びメタほう酸塩水溶液を分離できるとともに、水素をある程度貯蔵できるため、冷却ために原液容器からリアクタへの流路が遮断され、水素が発生していない状況となった場合であっても、後段の電力変換器に水素を安定して供給できる。
【0055】
[条項4]
前記触媒の温度に基づいて前記切替部の切り替えを制御する制御部を備える、条項1~3の何れか一項に記載の移動体。
移動体は、触媒の温度に応じて冷却要否を判定し、流路を切り替えることができる。
【0056】
[条項5]
前記制御部は、前記原液容器から前記リアクタへの流路を開通するように前記切替部を制御し、前記原液容器と前記リアクタとを接続した後に前記触媒の温度が第1温度以上となった場合には、前記原液容器から前記リアクタへの流路を遮断し、かつ、前記回収容器から前記リアクタへの流路を開通するように、前記切替部を制御する、条項4に記載の移動体。
移動体は、触媒の温度が第1温度以上となった場合に冷却が必要を判定し、流路を切り替えることができる。
【0057】
[条項6]
前記制御部は、前記回収容器と前記リアクタとを接続した後に前記触媒の温度が第2温度以下となった場合には、前記回収容器から前記リアクタへの流路を遮断し、かつ、前記原液容器から前記リアクタへの流路を開通するように、前記切替部を制御する、条項5に記載の移動体。
移動体は、触媒の温度が第2温度以下となった場合に冷却が完了したと判定し、流路を切り替えることができる。
【0058】
[条項7]
前記触媒はラネーニッケルで形成され、前記第1温度は100~120℃であり、前記第2温度は50~95℃であり、前記回収容器に貯蔵された前記メタほう酸塩水溶液の温度は-20~45℃である、条項6に記載の移動体。
ラネーニッケルの温度が高すぎると加水分解反応が生じる前にテトラヒドロほう酸塩を含む水溶液の水分が蒸発してしまい加水分解反応が抑制される。ラネーニッケルの温度を100~120℃より低くすることで加水分解反応が安定的かつ高効率となる。また、ラネーニッケルの温度が低すぎると加水分解反応が緩やかとなりすぎて、安定的かつ高効率な水素発生が難しくなる。ラネーニッケルの温度を50~95℃に調整することで加水分解反応が安定的かつ高効率となる。また、ラネーニッケルに直接噴霧するメタほう酸塩水溶液の温度を-20~45℃とすることで、過熱したラネーニッケルの温度を最適な温度域まで速やかに冷却できる。
【0059】
[条項8]
前記切替部は三方弁である、条項1~7の何れか一項に記載の移動体。
【0060】
[条項9]
前記テトラヒドロほう酸塩は、前記メタほう酸塩水溶液から乾燥抽出したメタほう酸塩を原料として、水素化反応により再生産されたテトラヒドロほう酸塩である、条項1~8の何れか一項に記載の移動体。
ほう砂を原料に化学的に製造された水素化ホウ素ナトリウムは非常に高価であり、エネルギー源として使用するのは現実的ではない。条項1の工程で発生するメタほう酸塩から乾燥抽出したメタほう酸塩(例えばメタほう酸ナトリウム)を原料として、水素化反応により再生産されたテトラヒドロほう酸塩は安価であり、電力供給コスト低減効果が顕著となる。
【0061】
[条項10]
前記電力変換器は、燃料電池及び内燃機関発電機の少なくとも一方である、条項1~9の何れか一項に記載の移動体。
【0062】
[条項11]
移動体の推進方法であって、
テトラヒドロほう酸塩を含む水溶液を調製する工程と、
触媒に前記水溶液を供給し、触媒作用により水素及びメタほう酸塩水溶液を生成する工程と、
生成された前記メタほう酸塩水溶液を貯蔵する工程と、
生成された前記水素と酸素とを反応させて電力を得る工程と、
前記電力によって電動機を駆動して前記移動体の推進器を動作させる工程と、
前記水素を生成する工程において前記触媒の温度が第1温度以上となった場合には、前記貯蔵された前記メタほう酸塩水溶液を前記触媒に噴霧して前記触媒を冷却する工程と、
を含む、移動体の推進方法。
【0063】
以下、実施形態に係る発電システム及び移動方法の効果を説明すべく、本発明者が実施した実施例について説明する。実施例での移動体の制御及び温度測定信号の処理は、PLC(Programmable Logic Controller)を使って実行された。
【0064】
(実施例1)
原料容器10に貯蔵された水素化ほう素ナトリウムを、第1供給装置10aであるスクリューフィーダを10秒間作動させ47g切り出しした。切り出しされた水素化ほう素ナトリウムを、配管を通して、原液容器20に投入した。
【0065】
水容器11に貯蔵された水を、配管を通して第2供給装置11aであるポンプで308mL送り出した。送り出された水を、配管を通して、原液容器20に投入した。原液容器20内に投入された水素化ほう素ナトリウムと水とを撹拌して、水素化ほう素ナトリウム水溶液を調製した。以下では、水素化ほう素ナトリウム水溶液を「原液」と記載する場合がある。
【0066】
原液容器20に貯蔵された原液を、第3供給装置20aであるポンプで送り出した。送り出された原液は、リアクタ30内に配置された噴霧ノズルによって、リアクタ30内のラネーニッケルに噴霧された。リアクタ30内には、保持メッシュに保持された330gのラネーニッケルが充填されていた。
【0067】
原液は、ラネーニッケルと接触することによって、上述した式(1)で示される加水分解され、水素及びメタほう酸塩水溶液が生成された。式(1)の反応による反応熱によって、リアクタ30内に充填されたラネーニッケルの温度が上昇した。式(1)の反応によって発生したメタほう酸ナトリウム水溶液及び水素は、ラネーニッケルを通過して、リアクタ30の下方に設けられたバッファ容器31内に流入した。
【0068】
水素を生成しながら、ラネーニッケルの内部に設けられた熱電対により、触媒30aであるラネーニッケルの温度を測定した。測定温度があらかじめ設定した120℃に達したら、切替部50により原液の送出を停止し、替わって、回収容器32に貯蔵された20℃のメタほう酸塩水溶液(メタほう酸ナトリウム水溶液)を、第2流路L2を通してポンプで送出し、切替部50を通して、ノズル30bよりリアクタ30内部に充填されたラネーニッケルへ噴霧した。これにより、リアクタ30に充填されたラネーニッケルの温度が下降した。そして、ラネーニッケルの内部に設けられた熱電対により、測定温度があらかじめ設定した70℃に達したら、切替部50によりメタほう酸ナトリウム水溶液の送出を停止し、替わって、原液容器20に貯蔵された原液を、第1流路L1を通して送出し、切替部50を通して、ノズル30bよりリアクタ30に充填されたラネーニッケルへ噴霧した。このように、ラネーニッケルの温度を維持しながら水素及びメタほう酸ナトリウム水溶液を生成させた。
【0069】
バッファ容器31内に流入したメタほう酸ナトリウム水溶液と水素は気液分離した。メタほう酸ナトリウム水溶液は、回収容器32に流入した。水素は、気体調整弁31aによって減圧されたうえで、電力変換器40である固体高分子型燃料電池に供給された。固体高分子型燃料電池において発電が行われた。固体高分子型燃料電池が発電した電力は0.95kWで安定していた。
【0070】
固体高分子型燃料電池から得られた電力によって、誘導電動機(定格1kW)を駆動させた。誘導電動機が発生した推力によって、移動体(4輪自動車)を推進させた。移動体は、20km/hの速度で走行した。
【0071】
(実施例2)
以下では、誘導電動機が発生した推力によって、移動体(ボート)を推進させた実施例について説明する。固体高分子型燃料電池が発電するまでの工程は、上述した実施例1と同じである。
【0072】
固体高分子型燃料電池から得られた電力によって、誘導電動機(定格1kW)を駆動させた。誘導電動機が発生した推力によって、移動体(ボート)を推進させた。移動体は、5.4ノットの速度で航行した。
(実施例3)
以下では、誘導電動機が発生した推力によって、飛行体(クアッドコプター)を飛行させた実施例について説明する。固体高分子型燃料電池が発電するまでの工程は、上述した実施例1,2と同じである。
【0073】
固体高分子型燃料電池から得られた電力によって、4台の誘導電動機(定格0.25kW)を駆動させた。各誘導電動機の駆動に応じて、各誘導電動機に対応して設けられたプロペラが回転する。4台の誘導電動機が発生した推力によって、移動体は、高度10mに達するまで飛行した。
【符号の説明】
【0074】
1…発電システム、20…原液容器、30…リアクタ、40…電力変換器、50…切替部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6