(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168529
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20241128BHJP
E02D 27/08 20060101ALI20241128BHJP
E02D 3/08 20060101ALI20241128BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20241128BHJP
E02D 31/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/08
E02D3/08
E02D3/10 101
E02D31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085283
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
(72)【発明者】
【氏名】石川 明
【テーマコード(参考)】
2D043
2D046
【Fターム(参考)】
2D043DA04
2D043DA07
2D043EA02
2D046BA41
2D046DA18
(57)【要約】
【課題】既存構造物の基礎底面が深部にある場合であっても液状化被害を低減できるうえ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【解決手段】液状化地盤G内に基礎が構築されている既存構造物20に対して、液状化地盤Gにおける噴砂を低減させるための既存構造物20に対する液状化対策構造1であって、基礎21の上面21aに配置され、基礎21と地表Gaとの間に設けられ、透水性を有し、かつ砂の通過を抑制する礫層部30と、礫層部30と地表Gaとを通水可能に接続する排水経路部40と、を備え、礫層部30は、基礎21の外周縁全周にわたって連続して配置され、基礎21の側方部21Aを上方から覆うように基礎21から外方に突出する張出部31を有する液状化対策構造を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化地盤内に基礎が構築されている既存構造物に対して、前記液状化地盤における噴砂を低減させるための既存構造物に対する液状化対策構造であって、
前記基礎の上面に配置され、前記基礎と地表との間に設けられ、透水性を有し、かつ砂の通過を抑制する礫層部と、
前記礫層部と前記地表とを通水可能に接続する排水経路部と、を備え、
前記礫層部は、前記基礎の外周縁全周にわたって連続して配置され、前記基礎の側方部を上方から覆うように前記基礎から外方に突出する張出部を有する既存構造物に対する液状化対策構造。
【請求項2】
前記礫層部を構成する礫の粒径は、2~5mmである、請求項1に記載の既存構造物に対する液状化対策構造。
【請求項3】
前記礫層部の厚さは、15cm以上である、請求項1に記載の既存構造物に対する液状化対策構造。
【請求項4】
前記礫層部における前記基礎上の積層部の重なり幅と、前記張出部の張り出し長とは、それぞれ30cm以上である、請求項3に記載の既存構造物に対する液状化対策構造。
【請求項5】
前記基礎の側方部に配置され、前記礫層部に連通するとともに、前記礫層部から鉛直方向で下方に延びる透水性を有する鉛直ドレーンを備える、請求項1に記載の既存構造物に対する液状化対策構造。
【請求項6】
前記鉛直ドレーンは、前記基礎の底面の深度まで設けられている、請求項5に記載の既存構造物に対する液状化対策構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の既存構造物に対する液状化対策構造を構築するための液状化対策方法であって、
前記基礎と地表との間の前記基礎の上面において、前記基礎の外周縁全周にわたって連続して前記張出部を有する前記礫層部を配置する工程と、
前記礫層部と前記地表とを通水可能に接続する排水経路部を設ける工程と、を有する液状化対策方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、設備基礎など既存小規模構造物の液状化対策は、隣接して他の構造物があるなど、施工条件が厳しく、また基礎が小さく高価な対策を行うことが困難であるなど、従来の液状化を防止する工法では対策が難しい現状がある。
そこで、対策工として、既存構造物の外周部に透水性の良い礫を敷き、基礎を拡幅する工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、基礎拡幅のスペースがとれない場合において、既存構造物の外周直下を掘削し、礫で埋め戻す工法(上記の特許文献1)や土のうに詰めた礫で埋め戻す工法(例えば、特許文献2参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6132144号公報
【特許文献2】特許第6544566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2等に示すような従来の液状化対策工法では、既存構造物の基礎における底面深度の下までの掘削を要するため、基礎の底面深度が深い場合や基礎の底面深度が地下水位より深い場合には掘削量が増加したり、掘削のために排水を要したりすることがある。そのため、山留めや施工に要する敷地が大きくなったり、基礎下を掘削するために揚水などの排水工が必要になったりするなど施工が困難になるおそれがある。
【0005】
また、
図8に示すように、既存構造物100の重心が高く、転倒に対する条件が厳しい場合には、転倒に対する抵抗を大きくするため基礎101の根入れ深さは大きめに取られることが多い。この場合、基礎101の上面101aは地中に位置する場合が多くなる。このような場合、液状化時に上昇した水圧により基礎101の脇部分101Aから噴砂Sを生じ、地盤が緩むことにより既存構造物100が傾くなどの液状化被害が生じるという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、既存構造物の基礎底面が深部にある場合であっても液状化被害を低減できるうえ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造は、液状化地盤内に基礎が構築されている既存構造物に対して、前記液状化地盤における噴砂を低減させるための既存構造物に対する液状化対策構造であって、前記基礎の上面に配置され、前記基礎と地表との間に設けられ、透水性を有し、かつ砂の通過を抑制する礫層部と、前記礫層部と前記地表とを通水可能に接続する排水経路部と、を備え、前記礫層部は、前記基礎の外周縁全周にわたって連続して配置され、前記基礎の側方部を上方から覆うように前記基礎から外方に突出する張出部を有することを特徴としている。
【0008】
本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造では、既存構造物の基礎底面が深部にある場合であっても、基礎の上面まで液状化地盤を掘削した後、基礎の上面と地表との間で基礎の外周縁全周のみに礫層部を設け、その礫層部と地表とを排水経路部で接続することで構築することができる。すなわち、礫層部が地表付近のみの施工となり、従来のような基礎下への礫の敷設を行うことがなく、液状化被害を低減できる液状化対策構造を形成することができる。したがって、基礎が深い場合や地下水位が基礎底面よりも浅い場合であっても、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【0009】
また、本発明では、礫層部が基礎の側方部を上方から覆うように基礎から外方に突出する張出部を有するので、側方部を上昇してきた水を礫層部に通過させる。さらに、張出部が基礎の外周縁全周に設けられているので、上昇した水が必ず礫層部内に入る構成となる。そのため、水とともに流通する砂の通過を阻止して水のみを礫層部で集水するとともに、その集水した水を排水経路部を通じて地表に排水することで噴砂を抑制し、噴砂に伴い地盤が緩むことによる液状化被害を防ぐことができる。すなわち、本発明では、少なくとも基礎の周囲において、礫層部の張出部直下の液状化地盤に液状化が生じた場合に砂の流動や噴砂が生じることを防止できる。これにより、既存構造物に傾斜や沈下が生じることや周辺地盤との間に大きな不陸が生じることを抑制することができ、液状化被害を有効に低減させることが可能である。
【0010】
また、本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造は、前記礫層部を構成する礫の粒径は、2~5mmであることが好ましい。
【0011】
この場合には、礫層部に高い透水性をもたせることができ、さらに礫同士の間隙が小さくなることから水とともに流通する砂の通過をより確実に阻止するフィルターとしての機能をもたせることができる。
【0012】
また、本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造は、前記礫層部の厚さは、15cm以上であることが好ましい。
【0013】
この場合には、上昇してきた水の勢いを礫層部で低減することができ、さらに上昇した水を礫層部内に確実に浸入させることができる。これにより、礫層部による水の集水能力を高めることができ、集水した水が排水経路部によって地表に排水されるので、噴砂を確実に防止できる。
【0014】
また、本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造は、前記礫層部における前記基礎上の積層部の重なり幅と、前記張出部の張り出し長とは、それぞれ30cm以上であることが好ましい。
【0015】
この場合には、礫層部の厚さを15cm以上とし、さらに積層部の重なり幅と張出部の張り出し長とを30cm以上に形成することで、上昇してきた水の勢いを礫層部でより低減することができ、さらに上昇した水を礫層部内により確実に浸入させることができる。これにより、礫層部による水の集水能力を高めることができ、集水した水が排水経路部によって地表に排水されるので、噴砂をより確実に防止できる。
【0016】
また、本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造は、前記基礎の側方部に配置され、前記礫層部に連通するとともに、前記礫層部から鉛直方向で下方に延びる透水性を有する鉛直ドレーンを備えることが好ましい。
【0017】
この場合には、基礎の側方部に設けられる鉛直ドレーンによって先行して基礎下の水を礫層部に浸入させることができ、基礎下の水圧を低減することができる。そのため、基礎下を回り込む水量を低減でき、基礎の側方部を上昇する液状化地盤内の水量を減らすことで噴砂が抑えられ、液状化対策の効果を高めることができる。
【0018】
また、本発明に係る既存構造物に対する液状化対策構造は、前記鉛直ドレーンは、前記基礎の底面の深度まで設けられていることが好ましい。
【0019】
この場合には、鉛直ドレーンの下端が基礎底面の深度まで延びて設けられているので、基礎下の水を鉛直ドレーンを通じて礫層部に確実に浸入させることができる。
【0020】
また、本発明に係る液状化対策方法は、上述した既存構造物に対する液状化対策構造を構築するための液状化対策方法であって、前記基礎と地表との間の前記基礎の上面において、前記基礎の外周縁全周にわたって連続して前記張出部を有する前記礫層部を配置する工程と、前記礫層部と前記地表とを通水可能に接続する排水経路部を設ける工程と、を有することを特徴としている。
【0021】
本発明では、基礎の上面まで液状化地盤を掘削した後、基礎の上面と地表との間で基礎の外周縁全周のみに礫層部を設け、その礫層部と地表とを排水経路部で接続することで、既存構造物の基礎底面が深部にある場合であっても、上述した効果を有する液状化対策構造を効率よく構築することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法によれば、既存構造物の基礎底面が深部にある場合であっても液状化被害を低減できるうえ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示すI-I線矢視図であって、液状化対策構造の平面図である。
【
図3】
図1に示す液状化対策構造における水の流れを示した縦断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図5】
図4に示すII-II線矢視図であって、液状化対策構造の平面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図7】
図6に示すIII-III線矢視図であって、液状化対策構造の平面図である。
【
図8】従来の既存構造物における液状化被害の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態による既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法について、図面に基づいて説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1及び
図2に示すように、本実施形態の既存構造物に対する液状化対策構造1は、液状化地盤G内に基礎21が構築されている既存構造物20に対して、液状化地盤Gにおける噴砂を低減する場合に適用される。
【0026】
基礎21は、柱状体22を介して構造物本体23を下方から支持している。基礎21は、平面視で矩形状である。また、本実施形態では、基礎21の基礎底面21cが地下水位Waよりも深い位置に施工されている。
【0027】
液状化対策構造1は、基礎21の上面21aに配置され、基礎21と地表Gaとの間に設けられ、透水性を有し、かつ砂の通過を抑制する礫層部30と、礫層部30と地表Gaとを通水可能に接続する排水経路部40と、を備える。
【0028】
礫層部30は、基礎21の外周縁全周にわたって連続して配置される。礫層部30は、基礎21の側方部21Aを上方から覆うように基礎21から外方に突出する張出部31を有する。
礫層部30の高さ(厚さH)は、15cm以上である。礫層部30における基礎21上の積層部32の重なり幅L1と、張出部31の張り出し長L2とは、それぞれ30cm以上、好ましくは50cm以上である。
【0029】
張出部31は、必ずしも積層部32と同じ厚さ、剛性とすることに限定されることはない。
なお、張出部31は、平面視で基礎21の全周で同じの張り出し長L2であることに限定されることはなく、部分的に張り出し長L2を短くなるように形成されていてもよい。この場合には、張出部31の施工面積を小さくすることが可能となるので、施工費を低減することができる。
【0030】
礫層部30は、礫を敷設することにより形成され、砂の通過を規制するフィルターの機能を有する。礫層部30を構成する礫は、上述したフィルターの機能をもたせるために礫同士の間隙を小さくするため、例えば粒径2~5mmの砕石(7号砕石など)が採用される。礫層部30の目詰まりを防止するために、例えば下から5cm程度上までの範囲に礫径の小さな礫を敷き詰めるようにしてもよい。
【0031】
礫層部30は、上面視して基礎21の外周上縁部21bに沿う矩形状に形成される。礫層部30は、基礎21の上面21aが露出される所定深さで液状化地盤Gを掘削した箇所に、例えば砕石を敷き詰め、掘削した液状化地盤の土砂で埋め戻すことにより造成される。このとき、地表Gaまで礫材を敷き詰めず、礫層部30の上面30aと地表Gaとの間に距離を設けておく。礫層部30の深度は、概ね1m程度とされる。
なお、礫材として、同等の透水性能とフィルター性能が得られるものであれば砕石や各種の人工透水性材料も採用可能である。
【0032】
礫層部30は、液状化地盤Gよりも透水係数が大きい排水機能を有する。礫層部30は、表層部分に設けられ、液状化地盤Gにおいて液状化が生じた際に過剰間隙水を排水経路部40を通じて地表Gaに効率的に排水し、地表Gaへの噴砂が生じることを防止するためのものである。そのため、礫層部30の透水係数は原地盤である液状化地盤Gよりも大きくする必要があり、例えば液状化地盤Gよりも2桁(100倍)程度以上大きくすることが好ましい。
【0033】
なお、礫層部30は地震時に破断することなく変形し得るような柔軟性を有するように非固結状態で形成することが好ましい。つまり、礫層部30を固結状態で硬直な状態で形成した場合には地震時に礫層部30が破断し、その破断部分に隙間が生じたり、あるいは礫層部30全体が基礎21に対して相対変位を生じてそれらの間に隙間が生じる余地があり、その場合には隙間から噴砂が生じてしまう。これに対し、礫層部30を非固結状態で形成して地震時における変形を吸収可能な程度の柔軟性を有するものとすることにより、礫層部30が破断したり隙間が生じることを防止でき、その隙間から噴砂が生じることを有効に防止することが可能である。
【0034】
排水経路部40は、礫層部30と地表Gaとを連通し、地表Gaへの排水経路を確保するためのものである。排水経路部40は、平面視して礫層部30の張出部31から地表Gaに向けて鉛直方向に延びて透水性を有するドレーンや排水枡が採用される。これにより、
図3に示すように、基礎21の側方部21Aを上昇してきた水W(地下水)を礫層部30に取り込み、水Wのみを排水経路部40を通過させて地表Gaに排出する。そのため、礫層部30は、上昇した水が必ず礫層部30内に入るように、基礎21の外周縁全周に形成される。
排水経路部40の設置数は、基礎21の大きさに応じて所定数で設定されるが、通常の設備基礎程度の基礎21であれば1つあれば良い。
【0035】
排水経路部40がドレーンの場合、礫層部30と同様の砂利や砂礫などの透水性を有する材料が用いられるが、さらに透水性の高い材料によって構成されていてもよい。
【0036】
上述した既存構造物20に対する液状化対策構造1を構築するための液状化対策方法としては、
図1に示すように、先ず、液状化地盤Gにおいて、地表Gaから既存構造物20の基礎21の上面21aまでを掘削する。このとき、基礎21の側方部21Aの上方にスペースが形成されるように掘削する。
【0037】
次に、基礎21と地表Gaとの間の基礎21の上面21aにおいて、基礎21の外周縁全周に沿うように礫材を敷き詰めて、周方向に連続する礫層部30を形成する。このとき、上述したスペースには礫層部30の張出部31を形成する。
次に、礫層部30と地表Gaとを通水可能に接続する排水経路部40を形成する。
その後、形成した礫層部30及び排水経路部40を掘削土等で埋め戻し、液状化対策構造1の構築が完了となる。
【0038】
次に、上述した既存構造物20に対する液状化対策構造1および液状化対策方法の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による既存構造物20に対する液状化対策構造1では、既存構造物20の基礎底面21cが深部にある場合であっても、基礎21の上面21aまで液状化地盤Gを掘削した後、基礎21の上面21aと地表Gaとの間で基礎21の外周縁全周のみに礫層部30を設け、その礫層部30と地表Gaとを排水経路部40で接続することで構築することができる。すなわち、礫層部30が地表Ga付近のみの施工となり、従来のような基礎下への礫の敷設を行うことがなく、液状化被害を低減できる液状化対策構造1を形成することができる。したがって、基礎21が深い場合や地下水位Waが基礎底面21cよりも浅い場合であっても、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【0039】
また、本実施形態では、礫層部30が基礎21の側方部21Aを上方から覆うように基礎21から外方に突出する張出部31を有するので、側方部21Aを上昇してきた水Wを礫層部30に通過させる。さらに、張出部31が基礎21の外周縁全周に設けられているので、上昇した水Wが必ず礫層部30内に入る構成となる。そのため、水Wとともに流通する砂の通過を阻止して水Wのみを礫層部30で集水するとともに、その集水した水Wを排水経路部40を通じて地表Gaに排水することで噴砂を抑制し、噴砂に伴い地盤が緩むことによる液状化被害を防ぐことができる。
すなわち、本実施形態では、少なくとも基礎21の周囲において、礫層部30の張出部31直下の液状化地盤Gに液状化が生じた場合に砂の流動や噴砂が生じることを防止できる。これにより、既存構造物20に傾斜や沈下が生じることや周辺地盤との間に大きな不陸が生じることを抑制することができ、液状化被害を有効に低減させることが可能である。
【0040】
また、本実施形態では、礫層部30を構成する礫の粒径が2~5mmである。このように構成することにより、礫層部30に高い透水性をもたせることができ、さらに礫同士の間隙が小さくなることから水Wとともに流通する砂の通過をより確実に阻止するフィルターとしての機能をもたせることができる。
【0041】
また、本実施形態では、礫層部30の厚さHが15cm以上であるので、上昇してきた水Wの勢いを礫層部30で低減することができ、さらに上昇した水Wを礫層部30内に確実に浸入させることができる。これにより、礫層部30による水Wの集水能力を高めることができ、集水した水Wが排水経路部40によって地表Gaに排水されるので、噴砂を確実に防止できる。
【0042】
また、本実施形態では、礫層部30の厚さを15cm以上とし、さらに積層部32の重なり幅L1と張出部31の張り出し長L2とを30cm以上に形成することで、上昇してきた水の勢いを礫層部30でより低減することができ、さらに上昇した水Wを礫層部30内により確実に浸入させることができる。これにより、礫層部30による水Wの集水能力を高めることができ、集水した水Wが排水経路部40によって地表Gaに排水されるので、噴砂をより確実に防止できる。
【0043】
また、本実施形態では、基礎21と地表Gaとの間の基礎21の上面21aにおいて、基礎21の外周縁全周にわたって連続して張出部31を有する礫層部30を配置する工程と、礫層部30と前記地表Gaとを通水可能に接続する排水経路部40を設ける工程と、を有する。すなわち、基礎21の上面21aまで液状化地盤Gを掘削した後、基礎21の上面21aと地表Gaとの間で基礎21の外周縁全周のみに礫層部30を設け、その礫層部30と地表Gaとを排水経路部40で接続することで、既存構造物20の基礎底面21cが深部にある場合であっても、上述した効果を有する液状化対策構造1を効率よく構築することができる。
【0044】
上述のように本実施形態による既存構造物20に対する液状化対策構造1および液状化対策方法では、既存構造物20の基礎底面21cが深部にある場合であっても液状化被害を低減できるうえ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【0045】
次に、本発明の既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法による他の実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0046】
(第2実施形態)
図4及び
図5に示すように、第2実施形態による既存構造物20に対する液状化対策構造1Aは、既存構造物20に隣接して他の既存構造物(第2既存構造物20A)がある場合の一例である。液状化対策構造1Aでは、基礎21の第2既存構造物20A側の1辺において僅かに張り出す張出部31Aが設けられている。この張出部31Aは、他の3辺の張出部31Bに比べて十分な張り出し長L2を有していない。そして、第2既存構造物20A側の張出部31Aは、第2既存構造物20Aに接する位置に設けられている。
【0047】
このように、隣接する構造物方向の礫層部30の対策範囲は、隣接する構造物(本実施形態では第2既存構造物20A)までの範囲とすることが可能である。すなわち、液状化対策構造1Aは、既存構造物20の外周縁全周にわたって張出部31を有する礫層部30を設けるが、隣接する第2既存構造物20A側の張出部31Aの張り出し長は既存構造物20、20A同士の間隔に合わせて設定することができる。
【0048】
(第3実施形態)
図6及び
図7に示すように、第3実施形態による既存構造物20に対する液状化対策構造1Bは、上述した第1実施形態の液状化対策構造1(
図1参照)において、基礎21の側方部21Aに透水性を有する鉛直ドレーン50を備えた構成である。
【0049】
鉛直ドレーン50は、礫層部30の張出部31に連通するとともに、張出部31から鉛直方向で下方に延びる。鉛直ドレーン50の下端50aは、基礎21の基礎底面21cの深度まで設けられている。鉛直ドレーン50は、例えば直径300mm以上であることが好ましい。鉛直ドレーン50は、礫層部30やドレーンからなる排水経路部40と同様の砂利や砂礫などの透水性を有する材料が用いられるが、さらに透水性の高い材料によって構成されていてもよい。
【0050】
鉛直ドレーン50は、基礎21の対角に位置する一対の角部21dのそれぞれ外側の位置に設けられている。なお、鉛直ドレーン50の設置数は、基礎21の大きさに応じて所定数で設定され、本第3実施形態のように2つであることに限定されることはない。また、設置する位置も基礎21の角部20dの外側の位置であることに限定されることはない。
【0051】
第3実施形態による液状化対策構造1Bでは、基礎21の側方部21Aに設けられる鉛直ドレーン50によって先行して基礎21下の水Wを礫層部30に浸入させることができ、基礎21下の水圧を低減することができる。そのため、基礎21下を回り込む水量を低減でき、基礎21の側方部21Aを上昇する液状化地盤G内の水量を減らすことで噴砂が抑えられ、液状化対策の効果を高めることができる。
【0052】
また、第3実施形態では、鉛直ドレーン50の下端50aが基礎底面21cの深度まで延びて設けられているので、基礎21下の水Wを鉛直ドレーン50を通じて礫層部30に確実に浸入させることができる。
【0053】
以上、本発明による既存構造物に対する液状化対策構造および液状化対策方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0054】
例えば、本実施の形態の礫層部30の厚さH、張出部31の張り出し長L2、積層部32の重なり幅L1、排水経路部40及び鉛直ドレーン50の直径、断面形状、深さ方向の長さ、既存構造物20の基礎21の形状、上面21a、基礎底面21cの深さ方向の位置などは、既存構造物20の大きさ、重さ、地盤条件などを考慮して適宜設定される。
そのため、例えば礫層部30を構成する礫の粒径は2~5mmであることに限定されることはない。また、礫層部30の厚さHも15cm以上であることに限定されない。
【0055】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【0056】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、1B 液状化対策構造
20 既存構造物
20A 第2既存構造物
21 基礎
21A 側方部
21a 上面
21b 外周上縁部
21c 基礎底面
30 礫層部
31 張出部
32 積層部
40 排水経路部
50 鉛直ドレーン
G 液状化地盤
Ga 地表
W 水