(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168534
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ペルチェモジュールの取付構造および温調装置
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20241128BHJP
F25B 21/02 20060101ALI20241128BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241128BHJP
H10N 10/13 20230101ALI20241128BHJP
【FI】
H10N10/17 Z
F25B21/02 Z
H05K7/20 F
H10N10/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085289
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】591034280
【氏名又は名称】株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 啓
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322AA04
5E322FA04
(57)【要約】
【課題】曲面形状のものや変形しやすい対象物を温調する用途に適した温調装置を実現する。
【解決手段】ペルチェモジュールをその表裏一方の面側でシート状の取付対象物に取り付けて温調装置を構成するための取付構造であって、前記ペルチェモジュールは、平面に沿って1以上のペルチェ素子を配置した素子空間の表裏が、それぞれ弾性材料で構成され、かつ、熱伝導性を有する一対のシート部材で挟まれ、前記シート部材における表裏他方の面に沿って前記素子空間を包囲する包囲領域に樹脂製の包囲層が形成されており、平面視で前記包囲層に沿って縫い目が形成されるように前記取付対象物と縫い合わされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルチェモジュールをその表裏一方の面側でシート状の取付対象物に取り付けて温調装置を構成するための取付構造であって、
前記ペルチェモジュールは、
平面に沿って1以上のペルチェ素子を配置した素子空間の表裏が、それぞれ弾性材料で構成され、かつ、熱伝導性を有する一対のシート部材で挟まれ、
前記シート部材における表裏他方の面に沿って前記素子空間を包囲する包囲領域に樹脂製の包囲層が形成されており、
平面視で前記包囲層に沿って縫い目が形成されるように前記取付対象物と縫い合わされる、
ペルチェモジュールの取付構造。
【請求項2】
前記ペルチェモジュールは、
一対の前記シート部材それぞれが前記包囲領域を有し、一方における前記包囲領域と他方における前記包囲領域との間に断熱層が介在しており、
表裏他方の面側にある前記シート部材の表面に前記包囲層が形成されている、
請求項1に記載のペルチェモジュールの取付構造。
【請求項3】
前記ペルチェモジュールは、
複数の前記素子空間が平面に沿って配置され、これら前記素子空間がそれぞれ一対の前記シート部材で挟まれ、
前記素子空間それぞれに対応する前記包囲領域に前記包囲層が形成されており、
前記包囲領域それぞれの前記包囲層に沿って縫い目が形成されるように前記取付対象物と縫い合わされる、
請求項1に記載のペルチェモジュールの取付構造。
【請求項4】
前記ペルチェモジュールは、
前記ペルチェ素子それぞれへの通電用のリード線のうち、前記素子空間から前記ペルチェモジュール外側に向けて延びることで前記包囲層を横切る領域が、前記包囲層に固定される、
請求項1に記載のペルチェモジュールの取付構造。
【請求項5】
前記ペルチェモジュールは、
表裏他方の面側にある前記シート部材の表面に、柔軟性および熱伝導性を有する放熱部材が備えられている、
請求項1から4のいずれか一項に記載のペルチェモジュールの取付構造。
【請求項6】
前記ペルチェモジュールは、
表裏他方の面側にある前記シート部材の表面に、相転移物質で構成された放熱部材が備えられており、
前記相転移物質には、前記ペルチェモジュールが使用される環境温度を固相と液相との間の転移点とするものが用いられている、
請求項1から4のいずれか一項に記載のペルチェモジュールの取付構造。
【請求項7】
ペルチェモジュールにおける表裏一方の面側にシート状の取付対象物に取り付けた構造の温調装置であって、
前記ペルチェモジュールは、
平面に沿って配置された1以上のペルチェ素子と、
1以上の前記ペルチェ素子が配置された素子空間の表裏を挟む一対のシート部材と、
前記シート部材における表裏他方の面に沿って前記素子空間を包囲する包囲領域に形成された樹脂製の包囲層と、を備え、
平面視で前記包囲層に沿って縫い目が形成されるように前記取付対象物と縫い合わされており、
前記シート部材は、それぞれが弾性材料で構成され、かつ、熱伝導性を有する、
温調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルチェモジュールをその表裏一方の面側で、シート状の取付対象物に取り付けて温調装置を構成するための取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ペルチェモジュールを用いた温調装置が用いられている。ペルチェモジュールとしては、平面に沿って配置した1以上のペルチェ素子を、一対のセラミック基板で挟んだ構造のものが一般的である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただ、上述した温調装置においては、ペルチェモジュールが、硬質なセラミック基板で構成されているため、このセラミック基板に沿って平面状の対象物を温調することはできても、曲面形状のものや変形しやすい対象物を温調する用途には適していない、という課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、曲面形状のものや変形しやすい対象物を温調する用途に適した温調装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1局面は、ペルチェモジュールをその表裏一方の面側でシート状の取付対象物に取り付けて温調装置を構成するための取付構造であって、前記ペルチェモジュールは、平面に沿って1以上のペルチェ素子を配置した素子空間の表裏が、それぞれ弾性材料で構成され、かつ、熱伝導性を有する一対のシート部材で挟まれ、前記シート部材における表裏他方の面に沿って前記素子空間を包囲する包囲領域に樹脂製の包囲層が形成されており、平面視で前記包囲層に沿って縫い目が形成されるように前記取付対象物と縫い合わされる、ペルチェモジュールの取付構造である。
【0007】
また、上記局面は以下に示す第2局面のようにしてもよい。第2局面において、前記ペルチェモジュールは、一対の前記シート部材それぞれが前記包囲領域を有し、一方における前記包囲領域と他方における前記包囲領域との間に断熱層が介在しており、表裏他方の面側にある前記シート部材の表面に前記包囲層が形成されている。
【0008】
また、上記各局面は以下に示す第3局面のようにしてもよい。第3局面において、前記ペルチェモジュールは、複数の前記素子空間が平面に沿って配置され、これら前記素子空間がそれぞれ一対の前記シート部材で挟まれ、前記素子空間それぞれに対応する前記包囲領域に前記包囲層が形成されており、前記包囲領域それぞれの前記包囲層に沿って縫い目が形成されるように前記取付対象物と縫い合わされる。
【0009】
上記局面の取付構造では、硬質なセラミック基板よりも柔軟なシート部材で構成されたペルチェモジュールが、このシート部材によりシート状の取付対象物に縫い合わせられる。この構造であれば、ペルチェモジュール自体の形状をシート部材の柔軟性に応じて変形させつつ、ペルチェモジュールの位置を取付対象物の柔軟性に応じて表裏方向に変位させることができる。
【0010】
そのため、上記各局面では、曲面形状のものや変形しやすい対象物に対しても、その表面形状にペルチェモジュールの位置および形状を容易に沿わせることができる結果、上記のような対象物を温調する用途に適した温調装置を実現することができる。
【0011】
また、ペルチェモジュールにおける取付対象物との縫い合わせは、シート部材表面に積層された包囲層に沿って縫い目が形成されるように行われ、シート部材に縫い目が直接接触しない状態となる。これにより、シート部材が縫い目から裂けるなどの損傷を予防できる。
【0012】
また、上記各局面は以下に示す第4局面のようにしてもよい。第4局面において、前記ペルチェモジュールは、前記ペルチェ素子それぞれへの通電用のリード線のうち、前記素子空間から前記ペルチェモジュール外側に向けて延びることで前記包囲層を横切る領域が、前記包囲層に固定される。
【0013】
この局面の取付構造では、リード線において包囲層を横切る領域が、この包囲層に固定される。これにより、リード線が意図しない引張などの力を受けた際の断線や脱落などを効果的に予防できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態である温調装置を示す斜視図
【
図2】本開示の一実施形態であるペルチェモジュールを示す平面図、底面図および正面図
【
図3】本開示の一実施形態であるペルチェモジュールの要部断面図(
図2におけるA-A断面図)
【
図4】本開示の一実施形態であるペルチェモジュールのリード線に沿った要部断面図
【
図5】本開示の一実施形態である温調装置の要部断面図(1)
【
図6】本開示の一実施形態である温調装置の要部断面図(2)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)全体構成
【0016】
温調装置1は、
図1に示すように、ペルチェモジュール10をその表裏一方の面(本実施形態では裏面;以下同様)側でシート状の取付対象物20に取り付けた構造となっている。
【0017】
ペルチェモジュール10は、
図2、
図3に示すように、平面に沿って1以上(本実施形態では複数)のペルチェ素子11を配置した素子空間13の表裏が、それぞれ熱伝導性を有する弾性材料で構成された一対のシート部材15で挟まれている。本実施形態では、複数の素子空間13が平面に沿って間隔を空けて配置(具体的には2行2列で4つの素子空間13が配置)され、これら素子空間13が一対のシート部材15で挟まれている。ここで、一対のシート部材15は、それぞれサイズが所定のしきい値未満で近似する同一形状(本実施形態では四角形)のものが用いられている。
【0018】
シート部材15は、その表裏他方の面(本実施形態では表面;以下同様)に沿って素子空間13を包囲する包囲領域17に樹脂製の包囲層30が形成されている。
【0019】
本実施形態では、一対のシート部材15それぞれが各素子空間13に対応する包囲領域17を有し、一方のシート部材15における包囲領域17と他方のシート部材15における包囲領域17との間に断熱層19が介在している。そして、表裏他方の面側にあるシート部材15の表面に包囲層30が形成されている。この包囲層30には、シート部材15よりも一回り大きいサイズのものが用いられている。
【0020】
なお、断熱層19は、ゴム材料により形成された層であり、シート部材15間において、素子空間13を取り囲む領域だけでなく、素子空間13中でペルチェ素子11の存在していない領域にも充填されている。
【0021】
シート部材15としては、熱伝導性フィラー含有の熱伝導性エラストマーやゴム材料で形成されたものが用いられる。熱伝導性フィラーとしては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化珪素(Si3N4)、ダイヤモンド、カーボン、フラーレン、カーボングラファイト、これら2種類以上を組合せたものなどをあげることができる。熱伝導性フィラーの配合量は50~95重量%(より好ましくは65~90重量%)とすることが好ましい。
【0022】
この熱伝導性エラストマーを構成するエラストマー成分は、少なくとも樹脂材料やゴム材料を含むエラストマー組成物で形成されているものである。樹脂材料としては、ポリイミド、PEEK、PSSなどがあげられる。ゴム材料としては、シリコーンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどがあげられる。
【0023】
このシート部材15は、上述したエラストマー成分やゴム材料の組成物と熱伝導性フィラーとを混錬した後、所定時間加熱することによって得られる。
【0024】
各素子空間13は、ペルチェ素子11への通電用の線材41で直列に接続されている。また、いずれかの素子空間13には、
図4に示すように、ここから平面に沿ってペルチェモジュール10外側へと延びるリード線40が設けられており、このリード線40において包囲層30を横切る領域43が包囲層30に固定される。ここでは、リード線40がその被覆と包囲層30との溶着や縫製などの手法により包囲層30に固定される。
【0025】
本実施形態において、包囲層30としては、シート部材15よりも硬質な樹脂材料が用いられる。ただ、包囲層30には、シート部材15と同等、または、これよりも軟質な樹脂材料が用いられていてもよい。
【0026】
このペルチェモジュール10は、平面視で包囲層30に沿って縫い目31が形成されるように取付対象物20と縫い合わされる。本実施形態では、包囲領域17それぞれの包囲層30に沿って縫い目31が形成されるように縫製される。ここで、ペルチェモジュール10と取付対象物20との縫い合わせには、糸状の繊維素材33が用いられ、
図5に示すように、これが包囲層30、表裏他方の面におけるシート部材15、断熱層19、表裏一方の面におけるシート部材15および取付対象物20を、少なくともリード線40が存在していない位置において表裏方向に貫通する。
【0027】
また、表裏他方の面側にあるシート部材15には、その表面に、柔軟性を有する放熱部材50が備えられている。ここでは、放熱部材50として、パッケージされた相転移物質(PCM;Phase Change Material)を用いることにより、ペルチェモジュール10における表裏他方の面を融解熱によって放熱させられるようにしている。なお、本実施形態では、相転移物質として、ペルチェモジュール10や温調装置1が使用される環境温度(例えば25℃)を固相と液相との間の転移点とするものを採用している。
【0028】
なお、本実施形態の取付対象物20は、素子空間13それぞれに対応する部位にそれぞれ素子空間13と同じ形状の孔21が形成されており(
図5参照)、ペルチェモジュール10における表裏一方の面が、温調対象物と直接接触するように構成されている。
【0029】
また、取付対象物20としては、上述した糸状の繊維素材により縫製可能な強度を有していればよく、布地や樹脂製シートなど温調装置1の用途に応じた様々なものが用いられる。
【0030】
(2)変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上記実施形態では、放熱部材50として相転移物質が用いられた構成を例示した。しかし、放熱部材50としては、柔軟性および熱伝導性を有するクッション材が用いられた構成としてもよい。また、放熱部材50に更にヒートシンクを備えた構成としてもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、表裏他方の面側にあるシート部材15の表面に放熱部材50が備えられている構成を例示した。しかし、表裏他方の面側にあるシート部材15には、その表面に、それぞれ熱伝導性を有する複数の放熱部材が間隔を空けて備えられた構成としてもよい。より具体的な例としては、放熱部材として、複数のヒートシンクや、複数の放熱片それぞれを有するコルゲートフィンなどを備えた構成とすることが考えられる。
【0033】
また、上記実施形態では、一対のシート部材15としてそれぞれサイズが所定のしきい値未満で近似する同一形状のものが用いられている構成を例示した。しかし、シート部材15としては、
図6に示すように、表裏一方の面側に他方の面側よりも大きいサイズのものを用いてもよく、この場合、一方の面側のシート部材15に包囲層30を形成し、この包囲層30に沿って取付対象物20と縫い合わされるように構成すればよい。
【0034】
また、上記実施形態では、温調装置1として、取付対象物20に単一のペルチェモジュール10が取り付けられた構造のものを例示した。しかし、温調装置1としては、取付対象物20に複数のペルチェモジュール10が取り付けられた構造のものとしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、取付対象物20に素子空間13と同じ形状の孔21が形成された構成を例示した。しかし、この取付対象物20は孔21が形成されていないものであってもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、包囲層30が、素子空間13を全周にわたって包囲するように形成され、この包囲層30に沿って縫い目が形成されるように取付対象物20と縫い合わされるように構成されたものを例示した。しかし、取付構造としては、素子空間13の全周にわたる領域の一部(具体的な例としては、素子空間13をなす四角形のうちの2辺)のみに形成された包囲層30に縫い目が形成されるように取付対象物20と縫い合わせる構成としてもよい。この場合、包囲層30そのものを、素子空間13の全周にわたる領域の一部のみに形成することとしてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、包囲層30がシート部材15よりも一回り大きいサイズのものが用いられている構成を例示した。しかし、この包囲層30としては、シート部材15と同サイズ(所定のしきい値未満で近似するサイズ)のものを用いることとしてもよい。この場合、包囲層30は、縫い目31の外側にリード線40が横切る領域43が形成されるように、リード線40に対応する部分のみを素子空間13の外側に拡げておくとよい。
【0038】
(3)作用,効果
上述した実施形態の取付構造では、硬質なセラミック基板よりも柔軟なシート部材15で構成されたペルチェモジュール10が、このシート部材15により取付対象物20に縫い合わせられる。この構造であれば、ペルチェモジュール10自体の形状をシート部材15の柔軟性に応じて変形させつつ、ペルチェモジュール10の位置を取付対象物20の柔軟性に応じて表裏方向に変位させることができる。
【0039】
そのため、上記実施形態では、曲面形状のものや変形しやすい対象物に対しても、その表面形状にペルチェモジュール10の位置および形状を容易に沿わせることができる結果、上記のような対象物を温調する用途に適した温調装置1を実現することができる。
【0040】
また、ペルチェモジュール10における取付対象物20との縫い合わせは、シート部材15表面に積層された包囲層30に沿って縫い目31が形成されるように行われ、シート部材15に縫い目31が直接接触しない状態となる。これにより、シート部材15が縫い目31により裂けるなどの損傷を予防できる。
【0041】
また、上記実施形態では、リード線41において包囲層30を横切る領域43が、この包囲層30に固定される。これにより、リード線41が意図しない引張などの力を受けた際の断線や脱落などを効果的に予防できる。
【符号の説明】
【0042】
1…温調装置、10…ペルチェモジュール、11…ペルチェ素子、13…素子空間、15…シート部材、17…包囲領域、19…断熱層、20…取付対象物、21…孔、30…包囲層、31…縫い目、33…繊維素材、40…リード線、41…線材、43…領域、50…放熱部材。