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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168576
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】エンジン式産業車両
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20241128BHJP
   B60T 7/02 20060101ALI20241128BHJP
   B66F 9/24 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T7/02 A
B66F9/24 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085380
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】乙部 遼
【テーマコード(参考)】
3D124
3D246
3F333
【Fターム(参考)】
3D124AA15
3D124AA32
3D124BB01
3D124BB02
3D124BB14
3D124CC31
3D246AA14
3D246DA01
3D246DA02
3D246EA02
3D246GB15
3D246GC07
3D246GC11
3D246HA01A
3D246HA08A
3D246HA26A
3D246HA51A
3D246HA61A
3D246JB11
3D246JB12
3D246KA15
3D246LA02Z
3F333AA02
3F333AB13
3F333AE02
3F333FA20
3F333FA31
(57)【要約】
【課題】インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキの制動力を確実に保つことができるエンジン式産業車両の提供にある。
【解決手段】車体と、車体に搭載されるエンジン31と、エンジン31の回転数を増減するアクセルペダル43と、インチングペダル45と、作業装置を操作する操作レバーと、操作レバーの操作時にアクセルペダル43の操作量に基づいてエンジン31の出力を制御するコントローラ47と、コントローラ47により制御され、停車時に制動力を発生させ、アクセルペダル43の操作によって制動力を解除される自動パーキングブレーキ55と、を有するエンジン式産業車両において、ON/OFFの操作が可能な操作スイッチ58を有し、コントローラ47は、インチングペダル45およびアクセルペダル43の操作時に操作スイッチ58がONのとき、自動パーキングブレーキ55の制動力を維持する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に搭載されるエンジンと、
前記車体の前部に備えられる作業装置と、
前記エンジンの回転数を増減するアクセルペダルと、
前記作業装置による作業時に操作されるインチングペダルと、
前記作業装置を操作する操作レバーと、
前記操作レバーの操作時に前記アクセルペダルの操作量に基づいて前記エンジンの出力を制御するコントローラと、
前記コントローラにより制御され、停車時に制動力を発生させ、前記アクセルペダルの操作によって制動力を解除される自動パーキングブレーキと、を有するエンジン式産業車両において、
ON/OFFの操作が可能な操作スイッチを有し、
前記コントローラは、前記インチングペダルおよび前記アクセルペダルの操作時に前記操作スイッチがONのとき、前記自動パーキングブレーキの制動力を維持することを特徴とするエンジン式産業車両。
【請求項2】
前記操作スイッチは、前記操作レバーに設けられていることを特徴とする請求項1記載のエンジン式産業車両。
【請求項3】
走行中に制動力を発生させる常用ブレーキを備え、
前記コントローラは、前記インチングペダルの踏み込みが一定量以上のとき、前記常用ブレーキを作動させるように制御することを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン式産業車両。
【請求項4】
車体と、
前記車体に搭載されるエンジンと、
前記車体の前部に備えられる作業装置と、
前記エンジンの回転数を増減するアクセルペダルと、
前記作業装置による作業時に操作されるインチングペダルと、
走行時に操作されるブレーキペダルと、
前記作業装置を操作する操作レバーと、
前記操作レバーの操作時に前記アクセルペダルの操作量に基づいて前記エンジンの出力を制御するコントローラと、
前記ブレーキペダルの操作により走行時に制動力を発生させる常用ブレーキと、を有するエンジン式産業車両において、
前記コントローラにより制御され、前記常用ブレーキに自動パーキングブレーキとしての停車時の制動力を発生させ、前記アクセルペダルの操作によって前記停車時の制動力を解除させるブレーキアクチュエータと、
ON/OFFの操作が可能な操作スイッチと、を有し、
前記コントローラは、前記インチングペダルおよび前記アクセルペダルの操作時に前記操作スイッチがONのとき、前記常用ブレーキの前記停車時の制動力を維持するように前記ブレーキアクチュエータを制御することを特徴とするエンジン式産業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行駆動源としてのエンジンを車体に搭載したエンジン式産業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン式産業車両に関係する従来技術として、例えば、特許文献1に開示された産業車両のクリープ走行制御装置が知られている。特許文献1にはエンジン式フォークリフトが開示されている。特許文献1のエンジン式フォークリフトでは、エンジンの出力軸はトルクコンバータを備えた変速機に連結されている。変速機は差動装置を介して駆動輪を有する車軸に連結されている。車軸には常用ブレーキが設けられている。変速機の出力軸には駐車ブレーキが設けられている。
【0003】
特許文献1のエンジン式フォークリフトの運転室の床には、アクセルペダルと、インチングペダルと、ブレーキペダルとが設けられている。インチングペダルは、荷役作業を行ないながらフォークリフトの微速走行を行う際に、クラッチを半係合状態(半クラッチ状態)にするために使用するものである。そして、ブレーキペダルの踏み込み操作は、インチングペダルと独立しているが、インチングペダルの踏み込み操作は、途中からブレーキペダルと連動するようになっている。即ち、インチングペダルは、インチング位置に達するまで及びインチング位置においてはブレーキペダルと独立して移動(操作)されるが、インチング位置を過ぎるとブレーキペダルがインチングペダルと一体に移動するようになっている。
【0004】
ところで、エンジン式フォークリフトでは、インチングペダルの操作を含むインチング操作では、オペレータの意図により走行せずに荷役のみを行う場合と、クリープ走行(微速走行)しつつ荷役を行う場合がある。走行せずに荷役のみを行う場合では、オペレータは、インチングペダルを十分に踏み込みアクセルペダルを操作する。インチング操作時に、クリープ走行しつつ荷役を行う場合では、インチングペダルを一定量以上踏み込まないように、浅く踏み込みアクセルペダルを操作する。この種のエンジン式フォークリフトでは、停車時に自動的に制動力を発生させる自動パーキングブレーキを備える場合がある。自動パーキングブレーキの制動力は、停車後のアクセルペダルの踏み込み操作によって解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-114084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動パーキングブレーキを備えるエンジン式フォークリフトでは、アクセルペダルを踏み込むと自動パーキングブレーキの制動力が必ず解除される。このため、オペレータが走行せずに荷役のみを行う意図でインチングペダルを踏み込んでも、インチングペダルの踏み込みが一定量以上踏み込まれない浅い場合には、エンジン式フォークリフトがオペレータの意図に反して微速走行するという問題がある。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキの制動力を確実に保つことができるエンジン式産業車両の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、車体と、前記車体に搭載されるエンジンと、前記車体の前部に備えられる作業装置と、前記エンジンの回転数を増減するアクセルペダルと、前記作業装置による作業時に操作されるインチングペダルと、前記作業装置を操作する操作レバーと、前記操作レバーの操作時に前記アクセルペダルの操作量に基づいて前記エンジンの出力を制御するコントローラと、前記コントローラにより制御され、停車時に制動力を発生させ、前記アクセルペダルの操作によって制動力を解除される自動パーキングブレーキと、を有するエンジン式産業車両において、ON/OFFの操作が可能な操作スイッチを有し、前記コントローラは、前記インチングペダルおよび前記アクセルペダルの操作時に前記操作スイッチがONのとき、前記自動パーキングブレーキの制動力を維持することを特徴とする。
【0009】
本発明では、インチングペダルおよびアクセルペダルの操作時に操作スイッチがONされると、自動パーキングブレーキの制動力が維持される。つまり、自動パーキングブレーキの制動力が発生している状態でインチングペダルが踏み込まれ、アクセルペダルが踏み込まれても、自動パーキングブレーキの制動が解除されることはない。したがって、インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキの制動力を確実に保つことができる。
【0010】
また、上記のエンジン式産業車両において、前記操作スイッチは、前記操作レバーに設けられている構成としてもよい。
この場合、操作スイッチが操作レバーに設けられているので、インチング操作時に使用される操作レバーの操作と同時に操作スイッチをONにすることができ、フォークリフトのオペレータの操作性が向上する。
【0011】
また、上記のエンジン式産業車両において、走行中に制動力を発生させる常用ブレーキを備え、前記コントローラは、前記インチングペダルの踏み込みが一定量以上のとき、前記常用ブレーキを作動させるように制御する構成としてもよい。
この場合、インチングペダルの踏み込みが一定量以上のとき、常用ブレーキが作動されるので、例えば、インチングペダルの踏み込みが一定量以上のときアクセルペダルが踏まれなければ、自動パーキングブレーキおよび常用ブレーキが同時に制動力を発生させることができる。
【0012】
また、本発明は、車体と、前記車体に搭載されるエンジンと、前記車体の前部に備えられる作業装置と、前記エンジンの回転数を増減するアクセルペダルと、前記作業装置による作業時に操作されるインチングペダルと、走行時に操作されるブレーキペダルと、前記作業装置を操作する操作レバーと、前記操作レバーの操作時に前記アクセルペダルの操作量に基づいて前記エンジンの出力を制御するコントローラと、前記ブレーキペダルの操作により走行時に制動力を発生させる常用ブレーキと、を有するエンジン式産業車両において、前記コントローラにより制御され、前記常用ブレーキに自動パーキングブレーキとしての停車時の制動力を発生させ、前記アクセルペダルの操作によって前記停車時の制動力を解除させるブレーキアクチュエータと、ON/OFFの操作が可能な操作スイッチと、を有し、前記コントローラは、前記インチングペダルおよび前記アクセルペダルの操作時に前記操作スイッチがONのとき、前記常用ブレーキの前記停車時の制動力を維持するように前記ブレーキアクチュエータを制御することを特徴とする。
【0013】
本発明では、自動パーキングブレーキとしての常用ブレーキの制動力が発生している状態でインチングペダルが踏み込まれ、アクセルペダルが踏み込まれても、常用ブレーキの停車時の制動が解除されることはない。したがって、インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキとしての常用ブレーキの制動力を確実に保つことができる。また、ブレーキアクチュエータを設けることで、常用ブレーキに自動パーキングブレーキとしての機能を付加できる。このため、自動パーキングブレーキを別に設ける必要がない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキの制動力を確実に保つことができるエンジン式産業車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係るエンジン式フォークリフトの側面図である。
図2】第1の実施形態に係るエンジン式フォークリフトの平面図である。
図3】第1の実施形態に係るエンジン式フォークリフトの概略構成図である。
図4】インチングペダルの踏み込みが浅い場合の自動ブレーキ装置に対する制御のフロー図である。
図5】インチングペダルの踏み込みが深い場合の自動ブレーキ装置に対する制御のフロー図である。
図6】第2の実施形態に係るエンジン式フォークリフトの概略構成図である。
図7】(a)は制動時のブレーキアクチュエータの縦断面図であり、(b)は制動が開放された状態のブレーキアクチュエータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態に係るエンジン式産業車両について図面を参照して説明する。本実施形態のエンジン式産業車両は、荷役車両としてのエンジン式フォークリフトである。なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、フォークリフトのオペレータが運転席の運転シートに着座して、フォークリフトの前進側を向いた状態を基準として示す。
【0017】
図1図2に示すように、フォークリフト10は、車体11の前部に作業装置としての荷役装置12を備えている。車体11の中央付近には運転席13が設けられている。車体11の前部には前輪14が設けられ、車体11の後部には後輪15が設けられている。前輪14は駆動輪であり、後輪15は操舵輪である。車体11の後部にはカウンタウエイト16が備えられており、カウンタウエイト16は車両重量の調整と車体11における重量バランスを図るためのものである。車体11には、運転席13の上部を覆うヘッドガード17が設けられている。
【0018】
荷役装置12は、アウタマスト19およびインナマスト20を有するマスト18を備えている。左右一対のアウタマスト19には、アウタマスト19の内側にて昇降可能な左右一対のインナマスト20が備えられている。荷役装置12は、インナマスト20に沿って昇降するリフトブラケット21を備えており、リフトブラケット21には、左右一対のフォーク22と、バックレスト23が備えられている。左右のフォーク22は荷を掬い上げて支持する。バックレスト23は、左右一対のフォーク22が支持する荷の後面を支持する。
【0019】
車体11と荷役装置12との間には、作動油により作動するティルトシリンダ24が設置されている。荷役装置12はティルトシリンダ24の作動により荷役装置12の下端部を支点として前後方向に傾動する。アウタマスト19には作動油の給排により作動するリフトシリンダ25が設けられている(図1を参照)。リフトシリンダ25の作動により、インナマスト20がアウタマスト19の内側にて昇降するほか、リフトブラケット21が昇降する。
【0020】
運転席13の前方には、インストルメントパネル26が備えられている。インストルメントパネル26には、ステアリングホイール28を支持するステリングコラム27が設けられている。インストルメントパネル26には、キーが挿入されるキーシリンダ(図示せず)のほか、荷役レバーであるリフトレバー29およびティルトレバー30が備えられている。リフトレバー29は、フォーク22を昇降させるための操作レバーである。ティルトレバー30は、マスト18を前後に傾動させるための操作レバーである。車体11には、エンジン31が搭載されており、車体11は、エンジン31を覆う開閉式のエンジンフード32を備えている。エンジンフード32上には運転者シート33が備えられている。
【0021】
図3に示すように、エンジン31の出力軸35は、トルクコンバータ36と接続されており、トルクコンバータ36の出力軸37は、減速機38と接続されている。減速機38は、トルクコンバータ36から入力される回転力を左右の車軸39に分配するデファレンシャル機構(図示せず)を有している。車軸39には前輪14が備えられている。エンジン31の駆動により作動される作動油ポンプ40が備えられている。車体11には作動油が貯留される作動油タンク41が備えられている。作動油ポンプ40とトルクコンバータ36は作動油配管42により接続されている。作動油ポンプ40は作動により作動油タンク41から作動油を汲み上げる。作動油ポンプ40により汲み上げられた作動油は作動油配管42を介してトルクコンバータ36へ供給される。荷役作業時には作動油ポンプ40により汲み上げられた作動油がリフトシリンダ25やティルトシリンダ24に供給される。
【0022】
ところで、運転席13の床面には、アクセルペダル43、ブレーキペダル44およびインチングペダル45が備えられている。アクセルペダル43はエンジン31の回転数の増減を行うペダルである。アクセルペダル43の踏み込みによる操作量を検知するアクセルセンサ46が備えられている。アクセルセンサ46は、コントローラ47に接続されている。コントローラ47は、車体11において運転者シート33の直下となる位置に搭載されている(図1を参照)。コントローラ47はフォークリフト10の各部を制御する。例えば、コントローラ47は、アクセルペダル43が踏み込まれると、アクセルペダル43の操作量に応じてエンジン31を制御する。図3に示すように、フォークリフト10の各部を制御するコントローラ47は、CPU48、RAMおよびROM等からなる記憶部49と、を備えている。
【0023】
コントローラ47は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)を備えていてもよい。コントローラ47は、コンピュータプログラムにしたがって動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。記憶部49は、処理をCPU48に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部49には、フォークリフト10の各部を制御するための種々のプログラムが記憶されている。
【0024】
図3に示すように、ブレーキペダル44は、左右の車軸39に備えられた常用ブレーキ50の制動力を発生させるためのペダルである。常用ブレーキ50は、車軸39に設けられたディスク板51と、ブレーキペダル44と連動してディスク板51を挟圧するブレーキ板52と、を備えたブレーキである。フォークリフト10は、ブレーキペダル44が踏み込みされたか否かを検知するブレーキセンサ53を備えている。ブレーキセンサ53はコントローラ47と接続されている。なお、常用ブレーキ50は、ドラムブレーキであってもよい。
【0025】
インチングペダル45は、フォーク22を昇降させつつ微速走行を行う場合や停止状態でフォーク22の上昇速度を早くしたい場合に操作されるペダルである。フォークリフト10は、インチングペダル45の操作量を検知するインチングセンサ54を備えている。インチングセンサ54はコントローラ47と接続されている。コントローラ47は、インチングペダル45の踏み込みが一定量未満であれば、インチングペダル45の踏み込みは浅いと認識し、インチングペダル45の踏み込みが一定量以上であれば、インチングペダル45の踏み込みは深いと認識する。インチングペダル45が完全に踏み込まれることで、インチングペダル45の踏み込みは確実に一定量以上となる。なお、インチングペダル45が深く踏み込まれると、コントローラ47は常用ブレーキ50を作動させ、制動力を発生させる。
【0026】
図3に示すように、減速機38の後部には、自動パーキングブレーキ55が備えられている。自動パーキングブレーキ55は、公知の湿式多板ブレーキであり、フォークリフト10が停車することで出力軸37に対する制動力を自動的に発生させる。自動パーキングブレーキ55とトルクコンバータ36とを接続する作動油配管56が設けられている。作動油配管56には、作動油配管56を開閉する電磁開閉弁57が備えられている。電磁開閉弁57はコントローラ47により制御される。電磁開閉弁57が閉止されることで自動パーキングブレーキ55は制動力を発生して保つ状態となる。一方、電磁開閉弁57が開放されることで作動油が自動パーキングブレーキ55へ供給され、作動油圧によって制動力が解除される。コントローラ47は、アクセルペダル43が操作されると電磁開閉弁57を開放するように制御する。
【0027】
ところで、本実施形態では、リフトレバー29に操作スイッチ58が備えられている。操作スイッチ58は、コントローラ47と接続されており、オペレータが操作スイッチ58を押すことでON信号がコントローラ47へ伝達される。操作スイッチ58が押されない状態ではOFF信号がコントローラ47へ伝達される。操作スイッチ58が押されているとき、コントローラ47は、アクセルペダル43が操作されても、自動パーキングブレーキ55の制動力が解除されないように電磁開閉弁57を制御する。
【0028】
具体的には、コントローラ47は、図4図5に示す一連のステップに従い、インチング操作時における自動パーキングブレーキ55に対する制御を行う。まず、インチング操作時においてインチングペダル45が一定量以上踏み込まれず、踏み込みが浅い場合の制御について説明する。微速走行しつつフォーク22を昇降させる場合には、オペレータはインチングペダル45を一定量以上踏み込まないように浅く踏み込む。なお、インチング操作とはインチングペダル45が踏み込まれる操作を指す。
【0029】
図4に示すように、フォークリフト10が停車すると、自動パーキングブレーキ55が作動する(ステップS101)。自動パーキングブレーキ55の作動により制動力が発生する。次に、オペレータが荷役作業中にインチング操作を行う場合、インチングペダル45が踏み込まれる。オペレータは微速走行しつつフォーク22を昇降させることを意図しているので、オペレータはインチングペダル45を一定量以上踏み込まずに浅く踏み込む。このため、コントローラ47はインチングペダル45の踏み込みは浅いと認識する(ステップS102)。オペレータは、インチングペダル45の踏み込み後にアクセルペダル43を踏み込むので、コントローラ47は、アクセルペダル43が踏み込まれていることを認識する(ステップS103)。
【0030】
次に、コントローラ47は操作スイッチ58がONであるか否かを判別する(ステップS104)。操作スイッチ58がONであると判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を閉止した状態を維持する。このため、自動パーキングブレーキ55は作動する状態を維持する(ステップS105)。次に、コントローラ47は、操作スイッチ58がOFFであるか否かを判別する(ステップS106)。操作スイッチ58がOFFであると判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を開放する。このため、自動パーキングブレーキ55の制動力が解除される(ステップS107)。自動パーキングブレーキ55の制動力が解除されることで、フォークリフト10は微速走行(クリープ走行)を行う。
【0031】
なお、ステップS104において、操作スイッチ58がONでないと判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を開放する。このため、自動パーキングブレーキ55の制動力は解除される。また、ステップS106において、操作スイッチ58がOFFでないと判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を閉止した状態を維持する。
【0032】
次に、インチング操作時においてインチングペダル45が一定量以上踏み込まれた踏み込みが深い場合の制御について説明する。フォークリフト10を停止した状態でフォーク22を素早く昇降させる場合には、オペレータはインチングペダル45を一定量以上踏み込む。図5に示すように、フォークリフト10が停車すると、自動パーキングブレーキ55が作動する(ステップS201)。自動パーキングブレーキ55の作動により制動力が発生する。次に、オペレータが荷役作業中にインチング操作を行う場合、インチングペダル45が踏み込まれる。オペレータはフォークリフト10を停止してフォーク22を素早く昇降させることを意図しているので、オペレータはインチングペダル45を一定量以上踏み込む。このため、コントローラ47はインチングペダル45の踏み込みは深いと認識する(ステップS202)。オペレータは、インチングペダル45の踏み込み後にアクセルペダル43を踏み込むので、コントローラ47は、アクセルペダル43が踏み込まれていることを認識する(ステップS203)。
【0033】
次に、コントローラ47は操作スイッチ58がONであるか否かを判別する(ステップS204)。操作スイッチ58がONであると判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を閉止した状態を維持する。このため、自動パーキングブレーキ55は作動する状態を維持する(ステップS205)。次に、コントローラ47は、操作スイッチ58がOFFであるか否かを判別する(ステップS206)。操作スイッチ58がOFFであると判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を開放する。このため、自動パーキングブレーキ55の制動力が解除される(ステップS207)。自動パーキングブレーキ55の制動力が解除されるが、インチングペダル45が深く踏み込まれているので、コントローラ47は常用ブレーキ50の制動力を発生させており、フォークリフト10は停止し、走行することはない。つまり、コントローラ47は、インチングペダル45の踏み込みが一定量以上のとき、常用ブレーキ50を作動させるように制御する。
【0034】
なお、ステップS204において、操作スイッチ58がONでないと判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を開放する。このため、自動パーキングブレーキ55の制動力は解除される。また、ステップS206において、操作スイッチ58がOFFでないと判別されると、コントローラ47は電磁開閉弁57を閉止した状態を維持する。
【0035】
本実施形態のフォークリフト10は以下の効果を奏する。
(1)インチングペダル45およびアクセルペダル43の操作時に操作スイッチ58がONされると、自動パーキングブレーキ55の制動力が維持される。つまり、自動パーキングブレーキ55の制動力が発生している状態でインチングペダル45が踏み込まれ、アクセルペダル43が踏み込まれても、自動パーキングブレーキ55の制動が解除されることはない。したがって、インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキ55の制動力を確実に保つことができる。
【0036】
(2)操作スイッチ58が荷役レバーとしてのリフトレバー29に設けられているので、インチング操作時に使用されるリフトレバー29の操作と同時に操作スイッチ58をONにすることができ、フォークリフト10のオペレータの操作性が向上する。
【0037】
(3)フォークリフト10は、走行中に制動力を発生させる常用ブレーキ50を備え、コントローラ47は、インチングペダル45の操作量が閾値以上のとき、常用ブレーキ50を作動させるように制御する。このため、インチングペダル45の踏み込みが一定量以上のとき、常用ブレーキ50が作動されるので、例えば、インチングペダル45の踏み込みが一定量以上のときアクセルペダル43が踏まれなければ、自動パーキングブレーキ55および常用ブレーキ50は同時に制動力を発生させることができる。
【0038】
(4)コントローラ47は、インチングペダル45およびアクセルペダル43の操作時に操作スイッチ58がONのとき、自動パーキングブレーキ55の制動力を維持する。このため、操作スイッチ58をONにすれば、インチング操作時にアクセルペダル43を踏み込んでも自動パーキングブレーキ55の制動力が必ず解除されることはない。したがって、オペレータが走行せずに荷役のみを行う意図でインチングペダル45を踏み込み、インチングペダル45の踏み込みが一定量以上踏み込まれない浅い場合であっても、操作スイッチ58をONすることにより、フォークリフト10がオペレータの意図に反して微速走行することはない。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るフォークリフトについて説明する。本実施形態は、常用ブレーキが自動パーキングブレーキの機能を備える点で、第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成は、第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0040】
図6に示すように、本実施形態のフォークリフト60は、常用ブレーキ50に自動パーキングブレーキとしての機能を付加するように、自動パーキングブレーキ用のブレーキアクチュエータ61を有している。図7(a)、図7(b)に示すように、ブレーキアクチュエータ61は、筒状の本体部62と、本体部62に対して進退可能な可動部63と、本体部62に形成される作動油室64と、可動部63を付勢するコイルスプリング65と、を有している。
【0041】
図7(a)、図7(b)に示すように、可動部63の一方の端部は本体部62から突出されており、可動部63の突出された端部には、パーキングブレーキケーブル66の一端が連結されている。パーキングブレーキケーブル66の一端は、常用ブレーキ50のブレーキ板52に連結されている。コイルスプリング65は可動部63を本体部62へ引き込む方向へ付勢する付勢部材である。作動油室64は作動油が導入される空間である。作動油室64に作動油が供給されることで、可動部63が作動油圧によってコイルスプリング65に対抗して突出される方向へ移動する。
【0042】
図6に示すように、作動油室64は作動油配管67を介して作動油ポンプ40と接続されている。ブレーキアクチュエータ61には作動油配管67を開閉する電磁開閉弁68が設けられている。電磁開閉弁68はコントローラ47により制御される。コントローラ47は、フォークリフト60が停止したとき常用ブレーキ50を自動パーキングブレーキとして機能するように制御する。具体的には、コントローラ47は、電磁開閉弁68を閉止し、パーキングブレーキケーブル66がブレーキアクチュエータ61に引かれた状態とし、常用ブレーキ50の制動力を発生させる。
【0043】
コントローラ47は、アクセルペダル43が操作されることで電磁開閉弁68を開放する制御を行い、パーキングブレーキケーブル66が緩められることで、自動パーキングブレーキとしての常用ブレーキ50の制動力は解除される。操作スイッチ58をONにすれば、インチング操作時にアクセルペダル43が踏み込まれても自動パーキングブレーキとしての常用ブレーキ50の制動力は解除されない。なお、フォークリフト10の走行時においては、電磁開閉弁68が開放される。このため、ブレーキアクチュエータ61に作動油が供給され、ブレーキアクチュエータ61による常用ブレーキ50の制動力は発生せず、ブレーキペダル44の踏み込みにより制動力が発生する。なお、電磁開閉弁68が開放された状態から閉止されると、作動油室64の作動油は、電磁開閉弁68の閉止と同時に残圧開放されて作動油タンク41へ回収される。
【0044】
本実施形態によれば、自動パーキングブレーキとしての常用ブレーキ50の制動力が発生している状態でインチングペダル45が踏み込まれ、アクセルペダル43が踏み込まれても、常用ブレーキ50の制動が解除されることはない。したがって、インチング操作時にオペレータの意図に反することなく自動パーキングブレーキとしての常用ブレーキ50の制動力を確実に保つことができる。また、ブレーキアクチュエータ61を設けることで、常用ブレーキ50に自動パーキングブレーキとしての機能を付加できる。このため、自動パーキングブレーキを別に設ける必要がない。
【0045】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0046】
○ 上記の実施形態では、操作スイッチが操作レバーに設ける例を説明したが、これに限らない。操作スイッチは、例えば、ステアリングホイールに設けるようにしてもよく、運転席においてオペレータが操作可能な範囲に存在する対象物に設けるようにすればよい。
○ 上記の実施形態では、操作スイッチが操作レバーとしてのリフトレバーに設けられたが、これに限らない。操作スイッチは、例えば、操作レバーとしてのティルトレバーに設けてもよく、サイドシフトレバーのようにリフトレバーおよびティルトレバー以外の荷役レバーに設けてもよい。そして、全ての荷役レバーに操作スイッチを設けるようにしてもよく、あるいは、特定の荷役レバーにのみ操作スイッチを設けてもよい。
○ 上記の実施形態では、コントローラは、インチングペダルの踏み込みが一定量以上のとき、常用ブレーキを自動パーキングブレーキとして作動させるように制御したが、これに限らない。コントローラは、例えば、インチングペダルの踏み込みが一定量以上であっても、常用ブレーキを自動パーキングブレーキとして作動させないように制御してもよい。
○ 上記の第1の実施形態では、自動パーキングブレーキとして湿式ブレーキを例示したがこれに限定されない。自動パーキングブレーキは、例えば、ドラムブレーキでもよく、ブレーキの形式は特に問われない。また、自動パーキングブレーキの位置は、制動可能な位置であれば特に制限はなく自由である。
○ 上記の実施形態では、常用ブレーキをディスクブレーキとしたが、これに限らない。常用ブレーキは、例えば、ドラムブレーキであってもよくブレーキの形式は特に問われない。
○ 上記の実施形態では、ブレーキセンサおよびインチングセンサが備えられたが、これに限定されない。ブレーキセンサおよびインチングセンサは無くてもよい。例えば、インチングペダルとブレーキペダルとを機械的に連動させる構成とし、ブレーキペダルから常用ブレーキまでが機械的に接続されてもよい。
○ 上記の実施形態では、エンジン式産業車両としてエンジン式フォークリフトを例示して説明したが、これに限定されない。エンジン式産業車両は、フォークリフトのような荷役車両のほか、例えば、作業装置を備えるエンジン式の建設車両であってもよく、具体的には、作業装置としてのバケットアームを備えるホイルローダー等である。
【符号の説明】
【0047】
10、60 エンジン式フォークリフト(エンジン式産業車両)
11 車体
12 荷役装置(作業装置)
13 運転席
18 マスト
22 フォーク
29 リフトレバー(操作レバー)
30 ティルトレバー
31 エンジン
33 運転者シート
36 トルクコンバータ
38 減速機
39 車軸
40 作動油ポンプ
43 アクセルペダル
44 ブレーキペダル
45 インチングペダル
47 コントローラ
50 常用ブレーキ
55 自動パーキングブレーキ
57、68 電磁開閉弁
58 操作スイッチ
61 ブレーキアクチュエータ
66 パーキングブレーキケーブル
67 作動油配管
68 電磁開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7