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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168611
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】構造体、及び加工装置
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20241128BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20241128BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20241128BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B32B5/28 A
B32B18/00 Z
B29C65/02
B29C65/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085437
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300091670
【氏名又は名称】株式会社アドテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲田 重範
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義光
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AB01D
4F100AB01E
4F100AB33D
4F100AB33E
4F100AD00C
4F100AD11A
4F100AD11B
4F100AG00C
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AN00D
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100CB00G
4F100DH01A
4F100DH01B
4F100JA02C
4F100JB12G
4F100JD04C
4F100JD04D
4F100YY00C
4F211AA24
4F211AA37
4F211AA39
4F211AA40
4F211AD03
4F211AD04
4F211AD16
4F211AG01
4F211AG03
4F211AR06
4F211AR11
4F211TA01
4F211TA03
4F211TC01
4F211TD11
4F211TN56
(57)【要約】
【課題】加工装置のフレームや構成部材等に採用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮する構造体、及び当該構造体が用いられた加工装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一形態に係る構造体は、本体部と、第1の防湿層と、第2の防湿層とを具備する。前記本体部は、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成され、前記複数のシート状部材の積層方向において互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する。前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層され、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。前記第2の防湿層は、前記第2の主面に積層され、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成され、前記複数のシート状部材の積層方向において互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する本体部と、
前記第1の主面に積層され、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層され、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層と
を具備する構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記表面の全面がセラミック材料により構成される
構造体。
【請求項3】
請求項1に記載の構造体であって、
前記複数のシート状部材の各々は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグであり、
前記本体部は、前記プリプレグを積層して成形された炭素繊維強化プラスチック部材である
構造体。
【請求項4】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、低熱膨張ガラスにより構成される
構造体。
【請求項5】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-6/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスにより構成される
構造体。
【請求項6】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記表面を構成する低熱膨張ガラスと、前記低熱膨張ガラスと前記第1の主面との間に配置される中間部材とを含む
構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の構造体であって、
前記中間部材は、金属箔により構成される
構造体。
【請求項8】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第2の防湿層は、金属箔、前記金属箔が形成されたゴムテープ、及び防湿膜が形成された樹脂フィルムのいずれか1つにより構成される
構造体。
【請求項9】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して、前記本体部に接合される
構造体。
【請求項10】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第2の防湿層は、前記金属箔が、低温で硬化する接着剤により前記第2の主面に接着されて構成される
構造体。
【請求項11】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記本体部に対して前記第1の防湿層を接合する工程を起因とする熱残留応力が、6MPa以下となる材料により構成される
構造体。
【請求項12】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層の前記第1の主面に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率は、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-6/℃よりも小さい範囲に含まれる
構造体。
【請求項13】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記本体部との熱膨張率の差が、1×10-6/℃よりも小さいセラミック材料により構成される
構造体。
【請求項14】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記第1の主面の全面に積層され、
前記第2の防湿層は、前記第2の主面の全面に積層される
構造体。
【請求項15】
請求項1に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、セラミック材料により構成される前記表面が、加工の対象となる加工対象面として構成される
構造体。
【請求項16】
請求項15に記載の構造体であって、
前記加工対象面は、平面加工の対象となる面である
構造体。
【請求項17】
請求項1に記載の構造体であって、
前記本体部は、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面を有し、
前記構造体は、さらに、前記側面に積層される第3の防湿層を具備する
を具備する構造体。
【請求項18】
請求項17に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、金属箔、金属薄板、及び前記金属箔が形成されたゴムテープのいずれか1つにより構成される
構造体。
【請求項19】
請求項17に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して、前記側面に接合される
構造体。
【請求項20】
請求項17に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、前記金属箔又は前記金属薄板が、低温で硬化する接着剤により前記側面に接着されて構成される
構造体。
【請求項21】
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成され、前記複数のシート状部材の積層方向において互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する本体部と、
前記第1の主面に積層される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層される第2の防湿層と、
前記側面に積層される第3の防湿層と
を具備し、
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
【請求項22】
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により構成され、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する本体部と、
前記第1の主面に積層され、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層され、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層と
を具備する構造体。
【請求項23】
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により構成され、互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する本体部と、
前記第1の主面に積層される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層される第2の防湿層と、
前記側面に積層される第3の防湿層と
を具備し、
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
【請求項24】
ワークを加工する加工装置であって、請求項1、21、22又は23に記載の構造体が用いられて構成される
加工装置。
【請求項25】
請求項24に記載の加工装置であって、
前記構造体が、前記ワークを保持するワークステージに用いられる
加工装置。
【請求項26】
請求項24に記載の加工装置であって、
露光装置として構成される
加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を含む構造体、及び当該構造体が用いられた加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、露光装置やレーザ加工装置等の様々な加工装置が用いられている。これらの加工装置では、装置を構成する構成部材がフレームにより支持される設計が採用される場合が多い。例えば、露光装置の場合、光出射部、マスクステージ、投影光学系、ワークステージ等の構成部材がフレームにより支持される。レーザ加工装置の場合、レーザ出射部、ワークステージ等の構成部材がフレームにより支持される。ワークとしては、例えば基板等が挙げられる。
【0003】
このような加工装置において、周辺温度の変化や装置自体の発熱により、フレームが熱膨張により伸縮してしまうと、フレームに支持されている構成部材の位置が変化し、加工精度が低下するおそれがある。そのため、加工装置のフレームの材料としては、熱膨張率ができるだけ低い材料を用いることが望ましい。
【0004】
また、加工装置のフレームには、高い剛性(弾性率)も必要である。例えば、フレームによりワークステージが支持される場合を考える。ワークステージは、例えば、基板の領域を分割して露光するステップ・アンド・リピートや、基板内に多数のスルーホールを形成する穴あけ加工において、頻繁に逐次移動を繰り返す。そのため、実際に露光処理をする時間よりもステージ移動をしている時間の方が長い場合も多い。
【0005】
そのため、剛性が低いフレームでワークステージを支持すると、ワークステージの逐次移動によってフレームが大きく振動し、フレームの振動が停止するまでの時間、すなわち、次の露光や加工を行うまでの時間が長くなる。その結果、ワークの処理時間が長くなり、装置の生産性が低下してしまう。さらに、フレームの剛性が低いと、外部からの振動に対しても弱く、揺れが生じやすい。そのため、加工精度が悪くなる原因にもなり得る。
【0006】
また、フレーム部材の条件として、大型の装置であっても比較的軽量になるように、密度が小さいことも重要である。ステージの移動時間を短くして高速化するためには大きな加速度でステージを加速、減速する必要があるが、ステージ重量が重いと限界がある。そのために移動する部分はできるだけ軽量であるのが望ましい。また大きな駆動モータを使用する方法もあるが重量が重くなり、装置を設置する工場の床を補強しなければならなくなるなど、装置にかかるコストが大きくなる。
【0007】
このように、加工装置のフレームは、剛性(弾性率)が高く、かつ熱膨張率(熱膨張係数)及び密度が小さいといった特性を有することが望まれる。なお剛性が高く、かつ密度が小さいという条件は、比剛性(剛性/比重)が高いという条件ともいえる。
【0008】
これらの条件を満たす特性は、フレームのみならず、加工装置を構成する構成部材に対しても有効となる場合も多い。例えば、基板等が載置されるワークステージは、高精度な位置決めを行うために高い平面度が要求される。また、高精度の位置決めを短時間で行うために剛性が高く、かつ軽量であること、すなわち、比剛性が高いことが必要とされる。さらに、温度変化により寸法変形を起こさないことが必要であり、熱膨張率の小さいことが要求される。もちろん、ワークステージ以外の構成部材に対しても、これらの条件を満たす特性が有効となることも多い。
【0009】
高い剛性を有し、熱膨張率が小さく、密度も小さい。これらの条件を満たす材料としては、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)が挙げられる。
【0010】
CFRPは、炭素繊維で樹脂を強化した複合材料である。同じ複合材料からなる鉄筋コンクリートで例えると、樹脂がコンクリート、炭素繊維が鉄筋に相当する。CFRPは炭素繊維に樹脂を含浸させ、プリプレグと呼ばれる板状(シート状)の部材にして、このプリプレグを、繊維の方向を考慮しつつ、型の中に複数枚積み重ね、オートクレーブで加熱圧着し硬化させることにより成形する。
【0011】
マトリックス(母材)にはエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂が多く用いられる。CFRPは軽くて高い強度を有するため、ゴルフクラブ、釣り竿、航空機、自動車など様々なところに使用されている。
【0012】
なおCFRPには、使用環境の水分を吸収し、膨張して寸法変形が生じるという特性がある。また、CFRP内部への水分の浸透及び拡散はゆっくりと進行するため、CFRP内部の水分濃度の分布は不均一であり、状態も徐々に変化する。そのため、表面粗さの悪化やねじれ変形等、種々の複雑な変形が生じ得るという問題があった。
【0013】
以下の特許文献1及び2には、CFRPの吸湿対策について記載されている。特許文献1には、CFRP部材の両面にセラミックス部材をサンドイッチする形で接合した構造体、とくにCFRP部材に、金属やセラミックスなどの無機物をコーティングすることが記載されている。
【0014】
特許文献2には、CFRPを積層した部材の端面にアルミニウム又はセラミックスを接着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009-248398号公報
【特許文献2】特開2017-80899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
露光装置やレーザ加工装置等において、露光精度の向上やレーザ加工精度の向上は重要な課題となる。もちろん、その他の加工装置においても、加工精度の向上は重要である。上記したように、加工装置において高い精度を実現するためには、フレームや構成部材等の特性を向上させることが有効となる。
【0017】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、加工装置のフレームや構成部材等に採用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮する構造体、及び当該構造体が用いられた加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る構造体は、本体部と、第1の防湿層と、第2の防湿層とを具備する。
前記本体部は、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成され、前記複数のシート状部材の積層方向において互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する。
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層され、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。
前記第2の防湿層は、前記第2の主面に積層され、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0019】
この構造体では、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成される本体部の第1の主面に、表面の少なくとも一部がセラミック材料により構成される第1の防湿層が積層される。また本体部の第2の主面に、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層が積層される。これにより、本構造体を加工装置のフレームや構成部材等に適用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となる。
【0020】
前記第1の防湿層は、前記表面の全面がセラミック材料により構成されてもよい。
【0021】
前記複数のシート状部材の各々は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグであってもよい。この場合、前記本体部は、前記プリプレグを積層して成形された炭素繊維強化プラスチック部材であってもよい。
【0022】
前記第1の防湿層は、低熱膨張ガラスにより構成されてもよい。
【0023】
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-6/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスにより構成されてもよい。
【0024】
前記第1の防湿層は、前記表面を構成する低熱膨張ガラスと、前記低熱膨張ガラスと前記第1の主面との間に配置される中間部材とを含んでもよい。
【0025】
前記中間部材は、金属箔により構成されてもよい。
【0026】
前記第2の防湿層は、金属箔、前記金属箔が形成されたゴムテープ、及び防湿膜が形成された樹脂フィルムのいずれか1つにより構成されてもよい。
【0027】
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して、前記本体部に接合されてもよい。
【0028】
前記第2の防湿層は、前記金属箔が、低温で硬化する接着剤により前記第2の主面に接着されて構成されてもよい。
【0029】
前記第1の防湿層は、前記本体部に対して前記第1の防湿層を接合する工程を起因とする熱残留応力が、6MPa以下となる材料により構成されてもよい。
【0030】
前記第1の防湿層の前記第1の主面に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率は、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-6/℃よりも小さい範囲に含まれてもよい。
【0031】
前記第1の防湿層は、前記本体部との熱膨張率の差が、1×10-6/℃よりも小さいセラミック材料により構成されてもよい。
【0032】
前記第1の防湿層は、前記第1の主面の全面に積層されてもよい。この場合、前記第2の防湿層は、前記第2の主面の全面に積層されてもよい。
【0033】
前記第1の防湿層は、セラミック材料により構成される前記表面が、加工の対象となる加工対象面として構成されてもよい。
【0034】
前記加工対象面は、平面加工の対象となる面であってもよい。
【0035】
前記本体部は、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面を有してもよい。この場合、前記構造体は、さらに、前記側面に積層される第3の防湿層を具備してもよい。
【0036】
前記第3の防湿層は、金属箔、金属薄板、及び前記金属箔が形成されたゴムテープのいずれか1つにより構成されてもよい。
【0037】
前記第3の防湿層は、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して、前記側面に接合されてもよい。
【0038】
前記第3の防湿層は、前記金属箔又は前記金属薄板が、低温で硬化する接着剤により前記側面に接着されて構成されてもよい。
【0039】
本発明の他の形態に係る構造体は、本体部と、第1の防湿層と、第2の防湿層と、第3の防湿層とを具備する。
前記本体部は、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成され、前記複数のシート状部材の積層方向において互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する。
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される。
前記第2の防湿層は、前記第2の主面に積層される。
前記第3の防湿層は、前記側面に積層される。
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0040】
この構造体では、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成される本体部の第1の主面に第1の防湿層が積層され、第2の主面に第2の防湿層が積層される。また、本体部の側面に、第3の防湿層が積層される。第1の防湿層及び第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。これにより、加工装置のフレームや構成部材等に適用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となる。
【0041】
本発明の他の形態に係る構造体は、本体部と、第1の防湿層と、第2の防湿層とを具備する。
前記本体部は、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により構成され、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する。
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層され、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。
前記第2の防湿層は、前記第2の主面に積層され、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
本構造体の構成においても、加工装置のフレームや構成部材等に適用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となる。
【0042】
本発明の他の形態に係る構造体は、本体部と、第1の防湿層と、第2の防湿層と、第3の防湿層とを具備する。
前記本体部は、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により構成され、互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する。
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される。
前記第2の防湿層は、前記第2の主面に積層される。
前記第3の防湿層は、前記側面に積層される。
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
本構造体の構成においても、加工装置のフレームや構成部材等に適用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となる。
【0043】
本発明の一形態に係る構造体の製造方法は、以下の工程を含む。
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材を積層させる積層工程。
前記複数のシート状部材と、前記複数のシート状部材の積層方向における一方の主面である第1の主面に積層される第1の防湿層と、前記第1の主面とは反対側の第2の主面に積層される第2の防湿層とを互いに接合する接合工程。
また、前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。また前記第2の防湿層は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0044】
前記接合工程は、前記複数のシート状部材と前記第1の防湿層と前記第2の防湿層とを加熱圧着により一体的に接合する工程、又は前記複数のシート状部材が加熱圧着により互いに接合された本体部に対して前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の各々を接合する工程を含んでもよい。
【0045】
本発明の他の形態に係る構造体の製造方法は、以下の工程を含む。
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材を積層させる積層工程。
前記複数のシート状部材と、前記複数のシート状部材の積層方向における一方の主面である第1の主面に積層される第1の防湿層と、前記第1の主面とは反対側の第2の主面に積層される第2の防湿層とを互いに接合する第1の接合工程。
前記複数のシート状部材の前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面に第3の防湿層を接合する第2の接合工程。
また、前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0046】
本発明の他の形態に係る構造体の製造方法は、以下の工程を含む。
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により、第1の主面及び前記第2の主面を有する本体部を成形する成形工程。
前記第1の主面に第1の防湿層を接合する第1の接合工程。
前記第2の主面に第2の防湿層を接合する第2の接合工程。
また、前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。また前記第2の防湿層は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0047】
本発明の他の形態に係る構造体の製造方法は、以下の工程を含む。
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により、第1の主面及び前記第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する本体部を成形する成形工程。
前記第1の主面に第1の防湿層を接合する第1の接合工程。
前記第2の主面に第2の防湿層を接合する第2の接合工程。
前記第3の主面に第3の防湿層を接合する第3の接合工程。
また、前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0048】
本発明の一形態に係る加工装置は、ワークを加工する加工装置であって、前記構造体が用いられて構成される。
【0049】
前記構造体が、前記ワークを保持するワークステージに用いられてもよい。
【0050】
前記加工装置は、露光装置として構成されてもよい。
【発明の効果】
【0051】
以上のように、本発明によれば、加工装置のフレームや構成部材等に採用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮する構造体、当該構造体の製造方法、及び当該構造体が用いられた加工装置を提供することが可能となる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】第1の実施形態に係る構造体の基本的な構成例を示す模式図である(側面図)。
図2】第1の実施形態に係る構造体の基本的な構成例を示す模式図である(斜視図)。
図3】第1の実施形態に係る構造体の基本的な構成例を示す模式図である(分解斜視図)。
図4】CFRP部材の第1の主面及び第2の主面に対する防湿層の有無と、吸湿膨張ひずみの変化量の経時変化について、吸湿加速試験により検証した結果を示すグラフである。
図5】実施例1~8における吸湿膨張ひずみの変化量の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例1~8における吸湿膨張ひずみ及びリファレンス比を示す表である。
図7】第2の実施形態に係る構造体の基本的な構成例を示す模式図である(斜視図)。
図8】実施例9~20における吸湿膨張ひずみの変化量の経時変化を示すグラフである。
図9】実施例9~20における吸湿膨張ひずみ及びリファレンス比を示す表である。
図10】各サンプルの水浸漬による重量増加率の経時変化を示すグラフである。
図11】加工装置の一例である露光装置の概略構成を示す模式図である。
図12】加工装置の一例であるレーザ加工装置の概略構成を示す模式図である。
図13】他の実施形態に係る構造体の構成例を示す模式図である。
図14】他の実施形態に係るCFRP部材の構成例を示す模式図である。
図15図14に示すCFRP部材の内部構造体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0054】
<第1の実施形態>
図1図3は、本発明の第1の実施形態に係る構造体の基本的な構成例を示す模式図である。図1は、構造体1を側方から見た側面図である。図2は、構造体1を斜めから見た斜視図である。図3は、構造体1の構成要素を分解して示す分解斜視図である。
【0055】
本実施形態において、構造体1は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を含むCFRP構造体である。
【0056】
以下、説明の理解を容易とするために、構造体1に対して、左右方向、前後方向、上下方向を便宜的に規定する。具体的には、図中のX方向を左右方向(X軸の正側が右側、負側が左側)とし、図中のY方向を前後方向(Y軸の正側が後方側、負側が前方側)とする。また図中のZ方向を、上下方向(Z軸の正側が上方側、負側が下方側)とする。
【0057】
もちろん、本技術の適用について、構造体1が配置される向き等が限定される訳ではない。また構造体1に対して、どの部位を正面側の部位として、どの部位を側面側の部位とするかといった点についても限定される訳ではない。
【0058】
また図3に示す分解斜視図は、構造体1の構成の理解を容易とするために作成した図である。必ずしも構造体1が図3に示すような各構成要素が明確に分解可能な構成であることを意味するものではない(もちろんそのような構成も含まれる)。
【0059】
図1図3に示すように、構造体1は、CFRP部材2と、第1の防湿層3と、第2の防湿層4とを有する。
【0060】
CFRP部材2は、複数のプリプレグ5が積層されることで構成される。プリプレグ5は、炭素繊維を主成分とするシート状部材である。具体的には、炭素繊維に、繊維の方向性を持たせたまま樹脂を含浸させたシート状部材である。
【0061】
本実施形態では、複数のプリプレグ5が、上下方向(Z方向)に沿って積層され、加熱圧着されて一体化されている。具体的には、減圧下で120℃~130℃程度に加熱され、加圧(圧着)して硬化させることでCFRP部材2が成形される。
【0062】
従って、図1図3に示す例では、上下方向(Z方向)が複数のプリプレグ5の積層方向となる。逆に言えば、図1図3は、構造体1に対して、複数のプリプレグ5の積層方向を上下方向(Z方向)として規定した図ともいえる。
【0063】
プリプレグ5を構成するマトリックス樹脂は、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂である。その他、マトリックス樹脂として、例えば不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、シアネートエステル、ポリイミド等の熱硬化性樹脂を用いることも可能である。
【0064】
CFRP部材2は、鉄やアルミ等の金属材料よりも低密度(すなわち軽い)でありながら、高強度な材料となる。なお、炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材として、安価にストックできる基準寸法(標準寸法)の標準CFRP板(例えば、5mmのUD(Uni-Direction)材)を使用することも可能である。
【0065】
本実施形態に係る構造体1では、CFRP部材2の成形時に、第1の防湿層3や第2の防湿層4を一体的に成形することも可能である。もちろん、成形されたCFRP部材2に対して、第1の防湿層3や第2の防湿層4を接合することも可能である。すなわち、本技術の適用において、CFRP部材2に対して第1の防湿層3や第2の防湿層4を接合する接合方法として、任意の方法を採用することが可能である。
【0066】
CFRP部材2の成形時に、第1の防湿層3や第2の防湿層4を一体的に成形する方法では、構造体1の製造にかかる時間短縮及びコスト削減に有利となる。一方で、成形されたCFRP部材2に対して、第1の防湿層3や第2の防湿層4を接着接合する場合には、熱残留応力を小さくできるため、長期的な熱残留応力の緩和にともなう変形のリスクの低減に有利となる。なお熱残留応力に関しては後に詳しく説明する。
【0067】
図3に示すように、CFRP部材2のおおよその外形は、直方体形状となる。CFRP部材2は、複数のプリプレグ5の積層方向、すなわち上下方向(Z方向)において互いに対向する第1の主面6及び第2の主面7を有する。本実施形態では、CFRP部材2の上方側の上面が第1の主面6となり、下方側の下面が第2の主面7となる。これに限定されず、CFRP部材2の下面を第1の主面とし、上面を第2の主面として、本技術を実施することも可能である。
【0068】
またCFRP部材2は、第1の主面6及び第2の主面7の間の側面8を有する。本実施形態では、左側面8a、右側面8b、前側面8c、及び後側面8dの4つの面が、側面8となる。
【0069】
CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7の両面は、CFRP部材2のフラットワイズ面とも呼ばれる。また、CFRP部材2の側面8は、CFRP部材2のエッジワイズ面とも呼ばれる。
【0070】
本実施形態において、CFRP部材2は、本発明に係る本体部の一実施形態に相当する。
【0071】
第1の防湿層3は、CFRP部材2の第1の主面6に積層される。図1~3に示すように、第1の防湿層3は、第1の主面6の全面に積層される。また第1の防湿層3は、第1の主面6に積層させる側とは反対側の表面9の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。本実施形態では、表面9は、第1の防湿層3の上方側の上面に相当する。また本実施形態では、第1の防湿層3は、表面9の全面がセラミック材料により構成される。
【0072】
第2の防湿層4は、第2の主面7に積層される。図1図3に示すように、第2の防湿層4は、第2の主面7の全面に積層される。また第2の防湿層4は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0073】
本実施形態に係る構造体1を製造する方法として、上方から見た場合の左右幅(左右方向におけるサイズ)及び前後幅(前後方向におけるサイズ)が、所望のサイズにそろえられたCFRP部材2と防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)とを接合する方法(一体成形を含む)が挙げられる。
【0074】
これに限定されず、上方から見た場合の左右幅及び上下幅が、所望のサイズよりも大きい状態で、CFRP部材2と防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)との接合(一体成形を含む)が行われ、その後に左右幅及び上下幅が所望のサイズとなるように、切り出しを行う方法が挙げられる。
【0075】
また、上方から見た場合の左右幅及び上下幅が、所望のサイズよりも大きい状態で、CFRPが成形される。その後、左右幅及び上下幅が所望のサイズとなるように切り出しを行うことで、CFRP部材2が作成される。作成されたCFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7に対して、第1の防湿層3及び第2の防湿層4が接合される。このような方法も採用可能である。
【0076】
以下の説明では、左右幅及び上下幅が所望のサイズとなるように切り出しを行う工程については、説明を省略する場合がある。すなわち、主に、左右幅及び上下幅が所望のサイズにそろえられたCFRP部材2(複数のプリプレグ5)と、第1の防湿層3と、第2の防湿層4とが互いに接合される態様で、構造体1についての説明を記載する。
【0077】
もちろん、以下に説明する様々な技術事項は、左右幅及び上下幅が所望のサイズとなるように切り出しを行う工程と適宜組み合わせて実施することが可能である。例えば、以下の説明において複数のプリプレグ5を加熱圧着してCFRP部材2を作成する旨の内容は、左右幅及び前後幅が所望のサイズで揃えられた状態のみならず、左右幅及び前後幅が所望のサイズよりも大きい状態にも適用することが可能である。
【0078】
また以下の説明において、複数のプリプレグ5と防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)とを加熱圧着して、一体成形により構造体1を製造する旨の内容は、左右幅及び前後幅が所望のサイズでそろえられた状態のみならず、左右幅及び前後幅が所望のサイズよりも大きい状態にも適用することが可能である。
【0079】
もちろん、左右幅及び前後幅が所望のサイズよりも大きい状態にて、一体成形や部材同士の接合が行われた場合には、その後適当なタイミングで、左右幅及び上下幅が所望のサイズとなるように切り出しを行う工程が行われればよい。
【0080】
[CFRP部材]
CFRP部材2は複数のプリプレグ5を加圧しながら加熱硬化させることで一体成形される。プリプレグ5としては、例えば、高弾性、高振動減衰を特徴とするピッチ系プリプレグと、高強度を特徴とするPAN系プリプレグとが存在する。
【0081】
ピッチ系プリプレグを構成するピッチ系CF(Carbon Fiber)は、高弾性率である。従って、マトリックス樹脂が熱膨張してもその変化を抑え込むことができるため、熱膨張率(線膨張率)を小さくすることが可能である。また、マトリックス樹脂(例えばエポキシ樹脂)が吸湿する事で膨張しようとしても、ピッチ系CFはその変化を抑え込む事が可能である。
【0082】
従って、ピッチ系プリプレグは、吸湿膨張(変形)に関しても、PAN系プリプレグと比べて小さくする事が可能である。なお、膨張(変形)の要因が熱膨張であっても、吸湿膨張であっても、基本的なふるまい(膨張の態様)は同様である。さらに本発明の用途では高い振動減衰特性を持つピッチ系プリプレグはメリットが大きい。
【0083】
[防湿層]
第1の防湿層3及び第2の防湿層4は、CFRP部材2の吸湿(水分の吸着)を抑制するための防湿性能を有する。防湿性能は、例えば、水蒸気透過度(WVTR)を用いて評価することが可能である。
【0084】
本実施形態では、第1の防湿層3及び第2の防湿層4の防湿性能は、40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が、1.0g/(m2・day)以下であるとする。なお水蒸気透過度が、1×10-1g/(m2・day)以下となる防湿性能は、いわゆるハイバリア特性と呼ばれる。好ましくは、第1の防湿層3及び第2の防湿層4が、1×10-2g/(m2・day)以下となる防湿性能を有することが好ましい。もちろん、水蒸気透過度が小さいほど、高い防湿性能が発揮される。
【0085】
[第1の防湿層]
表面9がセラミック材料により構成される第1の防湿層3は、例えばセラミック材料から構成されるセラミック部材を、CFRP部材2の第1の主面6に積層させることで実現可能である。
【0086】
セラミック部材としては、例えば低熱膨張ガラスを用いることが可能である。低熱膨張ガラスは、線膨張率の小さいガラスであり、結晶化ガラス、合成石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等を含む。この中で結晶化ガラスは、結晶性を有しながら透明性も有するガラスであり、例えば、日本電気硝子株式会社(NEG)製の耐熱結晶化ガラス「ネオセラム」等を用いることが可能である。もちろん低熱膨張ガラス以外のセラミック部材が用いられてもよい。
【0087】
なお本開示において「低熱膨張ガラス」とは、接合面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率(線膨張率)が、±1×10-6/℃を満たすガラスをいう。なお、「/℃」については、表記が省略される場合もあり得る。
【0088】
熱膨張率(CTE)は、温度の上昇によって生じる物体の長さ・体積の変化を、1K(1℃)当たりの変化率で示した値である。例えば、JISR3251(1995)に準拠する光干渉を用いた方法で測定して評価することが可能である。その他、表面やCFRP内部の変位をひずみゲージで測定して評価することも可能である。
【0089】
なおCFRP部材2(複数のプリプレグ5)、第1の防湿層3、第2の防湿層4の熱膨張率を測定する際には、他の部材と接合する前の状態で測定することが好ましい。この場合、各部材について接合面となりうる面に平行な方向の熱膨張係率を測定する。もちろんこれに限定される訳ではない。なお接合面に平行な方向は、本実施形態では、左右方向(X方向)及び前後方向(Y方向)となる。
【0090】
また、CFRP部材2等の等方性を有さない部材に関して、接合面に平行な方向の20℃~130℃における熱膨張率を微視的に見た場合、部材の厚み方向において均一でないことがある。この場合、厚み方向において異なる値として測定される熱膨張率の平均値を、当該部材の接合面に平行な平行の熱膨張率として用いて、本技術を適用することが可能である。
【0091】
以下の説明において、熱膨張率を示す場合に、「接合面に平行な方向の温度20℃~130℃における」という条件の記載を省略する場合もあり得る。
【0092】
第1の防湿層3として、表面9側に配置されるセラミック部材と、セラミック部材と第1の主面6との間に配置される中間部材とからなる構成を採用することも可能である。セラミック部材としては、例えば低熱膨張ガラスが用いられる。中間部材としては、例えば金属を主成分とする金属箔が用いられる。例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ステンレス鋼(SUS)、スーパーインバー等により構成される金属箔を用いることが可能である。
【0093】
このように低熱膨張ガラスと金属箔とからなる多層構造の防湿層を、第1の防湿層3として採用することが可能である。低熱膨張ガラスを表面9側に配置することで、表面9がセラミック部材により構成される第1の防湿層3が実現される。もちろん、低熱膨張ガラス以外のセラミック部材が用いられてもよい。また中間部材として、金属箔以外の部材が用いられてもよい。また中間部材自体が多層構造で構成されてもよい。
【0094】
[第2の防湿層]
第2の防湿層4としては、セラミック材料とは異なる材料であれば、防湿性能を有する任意の構成の部材を用いることが可能である。すなわち、第2の防湿層4は、セラミック材料とは異なる材料であり防湿性能を有する任意の構成の部材を、CFRP部材2の第2の主面7に積層させることで実現可能である。
【0095】
例えば、第2の防湿層4として、金属箔、金属箔が形成(積層形成)されたゴムテープ、又は防湿膜が形成された樹脂フィルム等を使用することが可能となる。
【0096】
金属箔としては、例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ステンレス鋼(SUS)、スーパーインバー等により構成される金属箔を用いることが可能である。金属箔が形成されたゴムテープとしては、例えばAl箔付きブチルテープ等を用いることが可能である。
【0097】
防湿膜が形成された樹脂フィルムとしては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等にPVDやCVD等によりアルミナやシリカ等の防湿膜をコーティングしたハイバリアフィルム等を用いることが可能である。なお、防湿膜が形成された樹脂フィルムを防湿コーティングフィルムと呼ぶことも可能である。
【0098】
第2の防湿層4として防湿膜が形成された樹脂フィルムを用いる場合には、防湿膜側がCFRP部材2側になるように積層するのが効果的である。これはPET等のベースフィルム自体の水蒸気透過の影響をなくする事が可能であり、かつベースフィルムが保護層になるので、性能及び信頼性の向上が期待できるためである。
【0099】
とくに金属箔は、水蒸気を透過しないので水蒸気透過度はゼロとなり、非常に高い防湿性能を発揮することが可能である。
【0100】
[構造体1の製造方法]
構造体1の製造方法として、以下の工程を含む製造方法を採用することが可能である。
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材(複数のプリプレグ5)を積層させる積層工程。
複数のシート状部材と、複数のシート状部材の積層方向における一方の主面である第1の主面6に積層される第1の防湿層3と、第1の主面6とは反対側の第2の主面7に積層される第2の防湿層4とを互いに接合する接合工程。
上記したように、第1の防湿層3は、第1の主面6に積層される側とは反対側の表面9の少なくとも一部(本実施形態では、表面9の全面)が、セラミック材料により構成される。また第2の防湿層4は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0101】
[第1の防湿層3/第2の防湿層4の接合方法]
接合工程において、CFRP部材2に対して防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を接合する方法としては、任意の方法を採用することが可能である。例えば、防湿層の接合方法として、CFRP部材2の成形時に、防湿層を直接的に一体成形する方法を採用することが可能である(以下、一体成形方法と記載する場合がある)。
【0102】
また防湿層の接合方法として、成形されたCFRP部材2に、接着剤を用いて防湿層を貼り合わせて接合する方法を採用することも可能である(以下、接着剤貼り合わせ方法と記載する場合がある)。
【0103】
また防湿層の接合方法として、防湿性能に優れた両面テープ等の粘着テープを用いて、防湿層を張り合わせて接合する方法を採用することも可能である(以下、テープ貼り合わせ方法と記載する場合がある)。
【0104】
また、防湿層として金属箔が形成されたゴムテープ等が用いられる場合は、防湿層に粘着層が形成されており、当該粘着層によりCFRP部材2に対する防湿層の接合が行われる。このように、防湿層内の粘着層により、CFRP部材2に対する防湿層の接合が行われる方法も採用可能である(以下、粘着層接合方法と記載する場合がある)。
【0105】
またシート状の接着剤を用いて、一体成型方法と接着剤貼り合わせ方法とを組み合わせたような方法を採用することも可能である。例えば、複数のプリプレグ5を積層し、積層方向における両端面(CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7となる面)に、シート状の接着剤を挟んで、防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を載置する。そして、CFRP部材2の成形時に、一体的に防湿層を接合する(以下、この接合方法を、接着剤一体成形方法と記載する場合がある)。
【0106】
なお、シート状の接着剤には熱可塑性と熱硬化性とがあるが、その接着時の温度をCFRP部材2の成型時の硬化温度(例えば120℃~130℃)で接着可能なタイプ(型式)を選ぶ。これにより、シート状の接着剤を、防湿層とプリプレグ5との間に挟んで積層硬化する事で、CFRP部材2に対する防湿層の接合を実現することが可能となる。
【0107】
例えば、シート状の接着剤として、いわゆるホットメルト接着フィルム(シート)と呼ばれる熱可塑性接着フィルムを用いることが可能である。当該フィルムを加熱する事で溶融して接着力が発生し、常温に戻すことで再び硬化して安定した接着力が保持される。厚みが一定のフィルム状のものが入手でき、作業性も良く、面内の厚みムラ等を抑える事も容易である。また品種も多いため、接着する材料や加熱接着温度により適切な品種、グレードを選択する事もできる。例えばオレフィン系やポリエステル系のホットメルト接着剤は耐熱性、熱安定性等も良好であるため、本技術に係る構造体1を製造するうえで適切な材料の1つとなる。
【0108】
また、シート状の接着剤として、熱硬化性接着フィルムを用いることが可能であり、エポキシ系の熱硬化性樹脂接着フィルムも存在する。マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる場合、プリプレグ5とフィルムとが同じ材料系となるため、熱膨張率等を含めて特性が近く親和性が高くなり有効である。また、熱硬化性樹脂接着フィルムは、比較的高い温度においても安定した接着力が得られるので、長期的な信頼性の面で有利である。
【0109】
またフィルム状であるため、作業性が良い事は熱可塑性接着フィルムと同様であり、タイプやグレードを適宜選択することで、プリプレグ積層体、接着フィルム、及び各種防湿層を一括で成形できる事も同様である。
【0110】
シート状の接着剤を使用する接着剤一体成形方法では、一体成型方法と比較して、プリプレグ5と防湿層との接着強度を向上させることが可能となる。一方で、シート状の接着剤を使用しない一体成型方法では、部品コストを抑えることが可能である。
【0111】
なお、接着剤張り合わせ方法、テープ張り合わせ方法、粘着層接合方法、接着剤一体成形方法の各々において、CFRP部材2への防湿層の接合後の状態(接合の態様)が、常に明確に異なる特徴を示すとは限られない。接着剤、テープ、粘着層の材料や構成等によっては、接合後の状態が非常に近い状態となる場合もあり得る。
【0112】
上記の一体成形方法、及び接着剤一体成形方法は、本発明に係る、複数のシート状部材と第1の防湿層と第2の防湿層とを加熱圧着により一体的に接合する工程の一実施形態に相当する。接着剤張り合わせ方法、テープ張り合わせ方法、粘着層接合方法は、本発明に係る、複数のシート状部材が加熱圧着により互いに接合された本体部に対して第1の防湿層及び第2の防湿層の各々を接合する工程の一実施形態に相当する。
【0113】
[一体成形方法の具体例]
一体成形方法の具体例について説明する。まず、複数のプリプレグ5を準備する。複数のプリプレグ5を積層し、積層方向における上面(CFRP部材2の第1の主面6となる面)に第1の防湿層3となる低熱膨張ガラスを積層する。また、複数のプリプレグ5の下面(CFRP部材2の第2の主面7となる面)に金属箔を積層する。
【0114】
金属箔、複数のプリプレグ5、低熱膨張ガラスの順番で積層された積層体を、上下方向(Z方向)において2枚のバギングフィルムで挟みこみ、2枚のバギングフィルムの周縁をシールテープにより密封する。これにより、積層体が密封空間に収容される。
【0115】
密封空間の内部を真空引きにより減圧し外部の大気圧による加圧条件化で、120℃~130℃まで1~2時間かけて温度を上昇させる。これにより、プリプレグ5を硬化させつつ、第1の主面6に低熱膨張ガラスを接合し、第2の主面7に金属箔を接合する。
【0116】
以下、構造体を密閉空間に収容し、内部を真空減圧して大気圧により加圧する方法を、バギング吸着加圧と記載する。なお、温度や時間等の条件は適宜設定可能である。
【0117】
バギング吸着加圧の後、硬化度向上と成型時のひずみ解消を目的として、さらに高温(例えば145℃)で2時間かけてPB(ポストベーク)を実施する。なおこのPBの工程は必須ではない。
【0118】
このような加熱圧着により、一体成形で構造体1を製造することが可能である。上記のバギング吸着加圧方法以外に、加圧状態下で昇温硬化させるオートクレーブ法ももちろん使用可能である。オートクレーブ方が採用される場合、設備等の点でコスト的には高価になるが安定した製造が可能となる。
【0119】
なお、第2の防湿層4として金属箔が用いられる場合等において、金属箔のCFRP部材2との接合面と反対側の表面の酸化防止や汚れ防止、摩耗粉の発生防止等のために、保護層を形成することも可能である。保護層としては、例えばPET、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PI(ポリイミド)等のプラスチックフィルムを用いることができる。また、保護層として、ニッケルメッキや錫メッキを用いてもよい。
【0120】
[CFRP部材2にかかる熱残留応力]
例えば、上記した一体成型方法により、CFRP部材2と防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)とが一体成形される場合には、例えば120℃~130℃の温度でCFRP部材2と防湿層との界面で応力がフリーの状態となる。その後、構造体1を室温(使用温度)に戻した場合に、CFRP部材2と防湿層との間に高い熱残留応力が加わると、反り等の変形が生じる。また使用温度において、熱残留応力の緩和が長期間にわたって徐々に進行する場合には、構造体1の変形が徐々に進行するリスクも生じる。
【0121】
高精度なCFRP構造体1を実現するためには、長期的な変化、変形は大きな問題となることが懸念される。従って、高精度な構造体1を実現するためには、CFRP部材2に対して防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を接合する工程を起因とする熱残留応力を低減させることが重要となる。このことは、一体成形方法以外の接合方法が採用される場合も同様である。
【0122】
なお、CFRP部材2自体もマトリックス樹脂がエポキシ樹脂の場合等において、応力緩和はゼロではないが、高弾性のCFを用いることでその影響を小さくすることが可能である。
【0123】
熱残留応力は、例えば両部材の熱膨張率の差と、温度差(応力フリー温度から使用温度までの温度差ΔT)との積により評価することが可能である。このような計算で得られる値を用いた場合、防湿層として、CFRP部材2に対して防湿層を接合する工程を起因とする熱残留応力が、6MPa以下となる材料により構成することが有効である。
【0124】
また熱残留応力を小さくするために有効な対応策として、以下の2つの対応策を挙げることが可能である。
【0125】
(1)CFRP部材2との熱膨張率の差が小さい材料により、防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を構成する。
(2)CFRP部材2に対して防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を接合する工程を、温度を抑えた状態(例えば室温等の使用温度、もしくは使用温度に近い温度)で実行する。これにより、温度差ΔTを小さくする。
【0126】
対応策(1)に関して、例えばピッチ系プリプレグの直交積層板(CP(Cross-Ply)材)や疑似等方板(QI(Quasi-Isotropic )材)の熱膨張率は-5×10-7程度と非常に小さい。一方で、低熱膨張ガラス、とくに「ネオセラム」)は、常温以上の広い温度帯域にわたり-2×10-7程度であり両者はCFRPの硬化成形工程の温度領域においてほぼ同じ熱膨張率であるため、両部材間にかかる熱残留応力を非常に小さくすることが可能である
【0127】
例えば、第1の防湿層3を、第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-6/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスにより構成する。これにより、高温でのCFRP硬化時から常温に戻すまでの成形工程中における熱膨張率差を小さく維持する事が可能となり、熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0128】
さらに言えば、第1の防湿層3を、第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-7/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスにより構成する。これにより、さらに熱膨張率差の低減効果が発揮され、熱残留応力をさらに抑制することが可能となる。
【0129】
なおNEG製「ネオセラム」は、第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-7/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスに該当する。
【0130】
もちろん、低熱膨張ガラス以外のセラミック材料が用いられる場合にも、第1の防湿層3の第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率を、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-6/℃よりも小さい範囲に含まれるように構成することで、熱残留応力を抑制することが可能となる。とくに第1の防湿層3を、第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-7/℃よりも小さい範囲に含まれるように構成することで、さらに熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0131】
また第1の防湿層3を、CFRP部材2との熱膨張率の差が、1×10-6/℃よりも小さいセラミック材料(低熱膨張ガラス等)により構成する。これにより、熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0132】
例えば、CFRP部材2として、ピッチ系プリプレグが積層されて一体化されるピッチ系CFRPの構成を採用する。また第1の防湿層3として、NEG製「ネオセラム」等の、第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-7/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスを、CFRP部材2の第1の主面6に接合させる。
【0133】
このような低熱膨張ガラスと、ピッチ系CFRPの構成を有するCFRP部材2との熱膨張率の差は、1×10-6/℃よりも小さくなる。また、CFRP部材2に対して第1の防湿層3を接合する工程を起因とする熱残留応力は6MPa以下となり、熱残留応力の抑制効果が非常に高くなる。
【0134】
また、例えば金属箔のような非常に厚み(上下方向(Z方向)におけるサイズ)が小さい部材を防湿層として用いる場合には、金属箔自体が弾性変形、塑性変形するので、CFRP部材2にかかる残留応力をかなり小さく設計することが可能となる。従って、第1の防湿層3として、セラミック部材(低熱膨張ガラス)と、金属箔との多層構造を採用しても、熱残留応力の抑制は維持される。
【0135】
例えば、第1の防湿層3として、NEG製「ネオセラム」等の、第1の主面6に積層される側の面に平行な方向の温度20℃~130℃における熱膨張率が、-1×10-6/℃よりも大きく1×10-7/℃よりも小さい範囲に含まれる低熱膨張ガラスと、金属箔との多層構造を採用する。CFRP部材2としては、ピッチ系CFRPの構成を採用する。この場合、ピッチ系CFRPの構成を有するCFRP部材2と、低熱膨張ガラスとの間に金属箔が配置されることになる。この結果、CFRP部材2の熱膨張率をプラス側にシフトさせることが可能となり、低熱膨張ガラスとの熱膨張率の差をさらに低減させることが可能となる。なお、金属箔の厚みを適正に調整することで、この熱膨張率の差の低減効果を向上させることが期待できる。
【0136】
第2の防湿層4に関しても、CFRP部材2との熱膨張率の差が小さい材料により構成する。これにより、CFRP部材2にかかる熱残留応力を小さくすることが可能となる。また第2の防湿層4として、弾性変形、塑性変形により熱残留応力を抑制することが可能な金属箔を用いることも有効である。
【0137】
また、第2の防湿層として、Al箔付きブチルテープ等の金属箔が形成されたゴムテープを用いる。ゴムテープは粘着層がブチルゴム等のゴムからなり弾性率が小さいので、さらに熱残留応力を小さくすることが可能である。また、第2の防湿層4として、ハイバリアフィルム等の防湿膜が形成された樹脂フィルムを用いることでも、熱残留応力の抑制を図ることが可能である。
【0138】
CFRP部材2に対して、接着剤を介して防湿層を貼り合わせる接着剤張り合わせ方法が採用される場合でも、両部材間で熱膨張率に差がある場合には、使用温度に戻したときの収縮量の違いにより、熱残留応力が発生する。
【0139】
また、この熱残留応力がかかった状態は時間と共に変化していく。接着剤は典型的には樹脂であるので粘弾性特性を持ち、応力がかかったままの状態では時間とともにクリープ変形が発生する。そのため、熱残留応力を緩和する方向の変化(変形)が非常にゆっくりと進行する。
【0140】
対応策(2)に関して、CFRP部材2に対して、低温で硬化する接着剤(低温接着剤)、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して、防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を接合する。これにより、温度差ΔTを小さくすることが可能となり、熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0141】
接着剤貼り合わせ方法において、低温接着剤を用いることで、温度差ΔTを小さくすることが可能となり、熱残留応力を抑制することが可能となる。また、テープ張り合わせ方法及び粘着層接合方法において、低温で硬化する粘着層を構成することで、温度差ΔTを小さくすることが可能となり、熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0142】
なお本開示において、「低温」は、常温(構造体1の使用温度)、及び70℃のうち高い方の温度以下の範囲を示すものとする。典型的には、70℃以下の温度が、本開示における「低温」に該当する場合が多いと考えられる。
【0143】
低温接着剤としては、エポキシ樹脂(エポキシ系の接着剤)を用いることが可能である。低温でエポキシ主剤との硬化反応が開始可能な硬化剤を用いる二液混合タイプの他に、例えば、熱や光といった外部からの刺激トリガーにより硬化を開始させるようにした「潜在性硬化剤」を利用することも可能である。
【0144】
低温接着剤を硬化させるための刺激トリガーとしては、熱以外に、光や圧力等を使用する方法(種類)がある。例えば光により分解してカチオンを発生させる物、光により構造変化を起こしてアニオンを生成するタイプ等もある。また硬化剤をマイクロカプセル化しエポキシ樹脂に分散させる方法等もある。これらの方法では熱を使わないでエポキシ主剤と硬化剤の反応を開始、進行させる事ができるため、低温で硬化させることが可能になる。
【0145】
もちろん「潜在性硬化剤」を利用した接着層(接着剤により構成される層)が形成されたテープやフィルム等を適宜用いることでも、対応策(2)を実現することが可能となり、熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0146】
第1の防湿層3及び第2の防湿層4のいずれか一方のみが、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して接合される場合も、熱残留応力の抑制効果は発揮される。
【0147】
CFRP部材2に対する防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)の接合方法として、以下の方法を採用することも可能である。まず第1の主面6及び第2の主面7の各々に金属箔を接合する。そして、第1の主面6に接合された金属箔に、接着剤等を介して熱膨張ガラスを接合する。この構成では、第1の防湿層3が、金属箔と低熱膨張ガラスとの多層構造となる。
【0148】
第1の主面6及び第2の主面7に、まず金属箔を積層することで、第1の主面6及び第2の主面7に対する防湿機能は実現される。従って、次の工程にて金属箔に低熱膨張ガラスを積層する際に用いられる接着剤として、材料の選択自由度が高くなる。例えば低温接着剤を用いることが可能である。また高い剛性を有していない接着剤を用いることも可能である。また応力緩和層として機能するような材料を用いることも可能である。さらに、接着剤の厚み等についても、選択自由度が高い。
【0149】
この点を言い換えると、複数のプリプレグ5と低熱膨張ガラスとの間で、熱膨張率に差がある場合でも、金属箔と低熱膨張ガラスとを接合する接着剤により応力を緩和する機能を発揮させることが可能となる。この結果、完成した構造体1の上下で、反り等の変形が生じることを十分に抑制することが可能となる。
【0150】
[CFRP構造体の特性向上についての検討]
発明者は、加工装置の加工精度の向上に有効な特性を発揮することが可能なCFRP構造体について検討を重ねた。とくに露光装置等のワークステージにおいて、ワークが載置される吸着板のように、高い平面精度が必要な部材に適用可能なCFRP構造体について検討を重ねた。
【0151】
例えば、CFRP部材2単体で吸着板等を構成するとする。この場合、CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7は、高精度の加工が難しく、高い平面精度が確保できない(以下、平面度問題と記載する場合がある)。また、CFRP部材2単体では、吸湿による膨張等の変形や、形状の経時変化が問題となる(以下、吸湿変形問題と記載する場合がある)。
【0152】
図4は、CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7に対する防湿層の有無と、吸湿膨張ひずみの変化量の経時変化について、吸湿加速試験により検証した結果を示すグラフである。図4の横軸は経過時間(Hr)、縦軸は吸湿膨張ひずみの変化量(με)である。また、図4に記載の「両面」が、CFRP部材2のフラットワイズ面である第1の主面6及び第2の主面7に相当する。なお、ひずみ変化はCFRP積層成形時に中央層にひずみゲージを配置し硬化成形する事で内部に埋め込み、測定を行った。
【0153】
図4には、第1の主面6及び第2の主面7のいずれにも防湿層を形成しないCFRP部材2単体をリファレンスサンプルとして、その吸湿膨張ひずみの経時変化が図示されている。また図4には、CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7のいずれか一方の全面に、防湿層としてガラスが接着されたサンプルのグラフが図示されている。さらに、図4には、CFRP部材2の第1の主面6に低熱膨張ガラスが接合され、第2の主面7にAl箔が接合されるサンプル(本構造体1の実施形態に相当する)のグラフが図示されている。
【0154】
図4に示すように、リファレンスサンプル(防湿層なし)では、吸湿加速試験において非常に大きく吸湿膨張してしまうことが確認された。CFRP部材2のフラットワイズ面の片方の面にガラス層を一体成形したサンプルでも、吸湿加速試験では大きく吸湿膨張してしまうことが確認された。
【0155】
一方で、CFRP部材2の第1の主面6に低熱膨張ガラスを積層し、第2の主面7にAl箔を積層したサンプルでは、ほとんど吸湿膨張しないことが確認された。すなわち、CFRP部材2の吸湿のためには、両フラットワイズ面、すなわち第1の主面6及び第2の主面7の両方に防湿層を用いることが非常に重要であることが見出された。
【0156】
図1図3に示す本実施形態に係る構造体1では、CFRP部材2の第1の主面6に第1の防湿層3が積層され、第2の主面7に第2の防湿層4が積層される。これにより、吸湿変形問題に対して、非常に有効な構成となる。
【0157】
また本実施形態に係る構造体1では、CFRP部材2の第1の主面6に、表面9がセラミック材料により構成される第1の防湿層3が積層される。従って、セラミック材料により構成される表面9に対して、高精度の加工が可能となり、高い平面精度を実現することが可能となる。すなわち、本実施形態に係る構造体1は、平面度問題に対しても、非常に有効な構成となる。
【0158】
なお、第1の防湿層3の表面9側に構成されるセラミック材料からなる層は、加工犠牲層ともいえる。第1の防湿層3が、低熱膨張ガラスにより構成される場合には、第1の防湿層3全体を加工犠牲層とみなすことが可能である。
【0159】
また、本実施形態に係る構造体1では、CFRP部材2の第2の主面7に、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層4が積層される。これにより、構造体1の軽量化に非常に有利となる。
【0160】
例えば、CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7の両方に、セラミック材料からなる防湿層(例えば低熱膨張ガラス)を積層させたとする。この場合、セラミック材料の密度、厚みを考慮すると、かなりの重量増加となってしまい、CFRP構造体1の軽量化を行うメリットが大きく損なわれてしまう。
【0161】
例えば第2の防湿層4として、密度2.5g/cm3 厚み3mm 600mm角のサイズの低熱膨張ガラスが用いられる場合、約2.7Kgの重量増加になってしまう。これに対して、第2の防湿層4として、密度2.7g/cm3 厚み20μm 600mm角のサイズのAl箔が用いられる場合、重量は19gとなり、約1/140の軽量化を実現することが可能となる。
【0162】
平面加工の対象となる第1の防湿層3には、加工犠牲層としての機能と防湿層としての機能の両方が必要である。一方で、反対側の第2の主面7に接合される第2の防湿層4は、防湿層としての機能が発揮されればよい。従って、第2の防湿層4としては、厚みが非常に薄い金属箔のような、軽量化が可能な構成を採用する。なお、セラミック材料を薄く加工するには研磨が主な方法となり、加工コストがかかってしまう。そもそもセラミック材料自体も高価な材料であり、材料コストも問題となる。
【0163】
本発明者は、図1図3等に例示する構造体1の構成を新たに考案した。当該構成により、加工装置の加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能な構造体1を実現することが可能となった。
【0164】
本技術に係る構造体1を、ワークステージ(吸着板)に適用した場合、高い平面精度により、高精度の位置決めが実現可能となる。また、高精度の位置決めを短時間で行うことが可能となる。また温度変化や吸湿による寸法変形も十分に抑制することが可能となる。
【0165】
例えば、ステップ&リピート露光装置(分割投影露光装置)のように、頻繁にステージ位置を移動させて高精度露光を行う装置の場合には、本技術に係る構造体1をワークステージ(吸着板)に適用することによるメリットは非常に大きい。
【0166】
本構造体1は、高剛性で高い寸法安定性を持ちながら軽量化できるため、ステージ移動の時間を短縮することが可能となる。F=maの関係から、質量mが小さいほど同じ駆動力Fでも高い加速度aが得られるからである。高い加速度で加速、減速できることで所定距離の移動に必要な時間を短縮する事が可能となり、装置のタクト短縮が可能となる。
【0167】
また、同じ加速度aで移動させる場合において、駆動力Fが小さくて済むため、より小さな駆動モータを採用することが可能となり、装置全体を小型、軽量化する事も可能となる。また反動力も小さくすることが可能となり、装置全体の振動も低減させることが可能となる。
【0168】
また、高い振動減衰特性を発揮することも可能となり、高い加速度で加速、減速を行っても短時間で振動が収束して露光工程に進むことが可能となる。通常はこの振動が収束するまでの整定時間が全体のタクトの中で占める割合がかなり高い。従って、整定時間の短縮により、露光装置の処理速度の性能を大きく改善することも可能となる。
【0169】
もちろん、露光装置に限定されず、レーザ加工装置等の他の加工装置に対して、ワークステージ等に本構造体1を適用することも可能である。また、ワークステージ以外の構成部材や、構成部材を支持するフレームに、本構造体1を適用することも可能である。
【0170】
とくに本構造体1は、第1の防湿層3を、セラミック材料により構成される表面9が加工の対象となる加工対象面となるように構成することが可能である。従って、加工したい面がある構成部材やフレームに対して、本構造体1は有効である。
【0171】
本構造体1をワークステージ(吸着面)に適用する例では、第1の防湿層3の表面9が、平面加工の対象となる面として構成される。もちろんこれに限定されず、テーパ面等の所定の形状の面や凹部/凸部等を形成する加工等の、他の様々な加工に対する加工対象面として、第1の防湿層3の表面9が構成されてもよい。
【0172】
[各実施例に関する評価]
発明者は、本技術に係る構造体1の構成及び製造方法に関して、複数の実施例を作成し、防湿性能を吸湿加速試験により評価した。以下に詳しく説明する。
【0173】
(リファレンスサンプル)
リファレンスサンプルとして用いられるCFRP部材2として、PAN系CP材の上下ミラー対称の8層構成を採用した。実際には高弾性率のピッチ系プリプレグが用いられる場合が多いが、吸湿膨張の変化を測定しやすいために弾性率がピッチ系プリプレグよりも小さいPAN系プリプレグを使用して評価した。なお、ピッチ系プリプレグもPAN系プリプレグも、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる場合、同様な防湿特性を示すため、評価結果は変わらない。
【0174】
リファレンスサンプルのCFRP部材2の作成時には、PAN系プリプレグの推奨硬化条件である120℃ 2時間にて硬化成形を行った(バギング吸着加圧下での硬化)。その後、145℃ 2時間のPBを行った。
【0175】
(吸湿試験条件)
温度80℃、相対湿度95%以上の高温かつ高湿度にて評価を実施した。
温度80℃の条件は水蒸気の拡散係数の観点では室温20℃に対して約32倍の加速条件になる。CFRP部材2の吸湿は内部の水分濃度と環境の相対湿度との差に比例して吸湿が大きくなるため、95%の相対湿度での吸湿試験は、通常環境(例えば相対湿度50%)での評価に比べると厳しい加速条件といえる。
【0176】
(評価測定方法)
ひずみゲージをプリプレグの積層体の中央層の中央部に配置して一体成形して測定した。プリプレグの硬化、PBの実施後に、80℃、相対湿度95%の一定条件に達した時点のひずみレベルを基準に、ひずみ変化を測定した。
【0177】
図5は、以下に記載する各実施例における吸湿膨張ひずみの変化量の経時変化を示すグラフである。
図6は、60時間経過後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点での、各実施例における吸湿膨張ひずみ及びリファレンス比を示す表である。
【0178】
(実施例1)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスを一体成形)/第2の防湿層(Al箔を一体成形)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…Al箔(厚み20μm)
低熱膨張ガラス/PAN系プリプレグCP配列8層/Al箔の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例1の構造体1の吸湿膨張ひずみは0.8μεとなり、リファレンス比0.9%に抑えられた。
【0179】
(実施例2)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスを一体成形)/第2の防湿層(電解銅箔を一体成形)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…銅箔(厚み20μm)
低熱膨張ガラス/PAN系プリプレグCP配列8層/銅箔の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例2の構造体1の吸湿膨張ひずみは0.8μεとなり、リファレンス比0.9%に抑えられた。
【0180】
(実施例3)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスを一体成形)/第2の防湿層(電解銅箔を低温接着剤にて接合)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…銅箔(厚み20μm)
低熱膨張ガラス/PAN系プリプレグCP配列8層の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形。
PB実施後に、粗面化処理したCFRP部材2の第2の主面7に、低温接着剤にて銅箔を貼り合わせて積層。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例3の構造体1の吸湿膨張ひずみは4.5μεとなり、リファレンス比4.8%に抑えられた。
【0181】
実施例1~3の構造体1は、いずれも第2の防湿層4が薄い(厚みの小さい)金属箔からなり、CFRP部材2に対して熱残留応力を十分に抑制することが可能であった。
【0182】
(実施例4)
第1の防湿層(接着フィルムを介して低熱膨張ガラスを一体成形)/第2の防湿層(Al箔を一体成形)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…Al箔(厚み20μm)
低熱膨張ガラス/接着フィルム/PAN系プリプレグCP配列8層/Al箔の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例4の構造体1の吸湿膨張ひずみは1.5μεとなり、リファレンス比1.6%に抑えられた。
【0183】
(実施例5)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスを低温接着剤にて接合)/第2の防湿層(Al箔を一体成形)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…Al箔(厚み20μm)
PAN系プリプレグCP配列8層/Al箔の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形。
PB実施後に、CFRP部材2の第1の主面6に、低温接着剤にて低熱膨張ガラスを貼り合わせて接合。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例5の構造体1の吸湿膨張ひずみは3.5μεとなり、リファレンス比3.7%に抑えられた。
【0184】
(実施例6)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスと銅箔との多層構造)/第2の防湿層(銅箔を一体成形)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)/銅箔(厚み20μm)
第2の防湿層…銅箔(厚み20μm)
銅箔/PAN系プリプレグCP配列8層/銅箔の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形。
PB実施後に、CFRP部材2の第1の主面6に形成された銅箔に、低温接着剤にて低熱膨張ガラスを貼り合わせて接合。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例6の構造体1の吸湿膨張ひずみは2.5μεとなり、リファレンス比2.7%に抑えられた。
【0185】
実施例6では、まずCFRP部材2のフラットワイズ面の両面(第1の主面6及び第2の主面7)に銅箔が一体成形により接合される。例えば、この両面に銅箔が接合される構成を基本構成として、加工対象面が必要な場合等において、第1の主面6に接合された銅箔に低熱膨張ガラスを接合する。このような製造方法を採用することで、構造体1を製造するうえでの作業性を向上させることが可能となり、効率化を図ることが可能となる。
【0186】
(実施例7)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスを一体成形)/第2の防湿層(防湿膜が形成された樹脂フィルムを一体成形)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…ハイバリアフィルム(フィルム上にCVDで防湿層を多層積層した構造)
(厚み38μm)
低熱膨張ガラス/PAN系プリプレグCP配列8層/ハイバリアフィルムの構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形したのちにPBを実施。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例7の構造体1の吸湿膨張ひずみは3.7μεとなり、リファレンス比3.9%に抑えられた。
【0187】
実施例7において、ハイバリアフィルムは、PETフィルム等の樹脂フィルムベースなので弾性率が低く、積層してもCFRP部材2に対して熱残留応力がほとんどかからない。また、CVD成膜のバリア層はSiOX、SiON等の薄膜が多く使用され、可撓製にすぐれ、多層構成にすることで高い水蒸気バリア性が得られる。
【0188】
またPVD(スパッター)成膜によるアルミナ等のバリア層を形成したバリアフィルムも使用可能である。上記でも述べたが、第2の防湿層4として防湿膜が形成された樹脂フィルムが用いられる場合は、水蒸気透過度が1×10-1g/(m2・day)以下となるいわゆるハイバリア特性が望ましく。さらにいえば、1×10-2g/(m2・day)以下となる防湿性能が好ましい。
【0189】
(実施例8)
第1の防湿層(低熱膨張ガラスを一体成形)/第2の防湿層(金属箔が形成されたゴムテープを貼り合わせ)
第1の防湿層…NEG製「ネオセラム」(厚み3mm)
第2の防湿層…Al箔付きブチルテープ(Al箔の厚みは7μm)
低熱膨張ガラス/PAN系プリプレグCP配列8層の構成で積層し、バギング吸着加圧による加熱圧着により一体成形したのちにPBを実施。
60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、実施例8の構造体1の吸湿膨張ひずみは5.5μεとなり、リファレンス比5.9%に抑えられた。
実施例8において、金属箔が非常に薄い事と、厚いゴム層が緩衝材として機能して、熱残留応力を非常に小さく抑えることが可能である。
【0190】
このように各実施例において高い防湿性能が発揮され、吸湿膨張を非常に低減させることが可能であった。各実施例を防湿性能の高い順番、すなわち吸湿膨張が低い順番で記載すると、(実施例1)、(実施例2)、(実施例4)、(実施例6)、(実施例5)、(実施例7)、(実施例3)、及び(実施例8)の順番となった。
【0191】
図5及び図6に示すように、CFRP部材2、第1の防湿層3及び第2の防湿層4の全てを一体成形した場合の方が、成形されたCFRP部材2に対して接着剤等を用いて第1の防湿層3や第2の防湿層4を接合させた場合よりも、防湿性能は若干高くなった。一方で、その差は非常にわずかであり、測定誤差等を考慮すると顕著な差は無いと考えられる。また接合条件を工夫することで、さらに防湿性能は向上可能であると考えられる。
【0192】
以上、本実施形態に係る構造体1では、炭素繊維を主成分とする複数のプリプレグ5が積層されることで構成されるCFRP部材2の第1の主面6に、表面9の少なくとも一部(本実施形態では、表面9の全面)がセラミック材料により構成される第1の防湿層3が積層される。またCFRP部材2の第2の主面7に、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層4が積層される。これにより、本構造体1を加工装置のフレームや構成部材等に適用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となる。
【0193】
本技術を実施することで、CFRP単体よりも湿度変化による寸法変形が少なく、金属よりも剛性が高く、低密度で比剛性が高く、面精度を出すことが可能な構造体1を実現することが可能となる。
【0194】
<第2の実施形態>
本発明に係る第2の実施形態の構造体について説明する。これ以降の説明では、上記の実施形態で説明した構造体1における構成及び作用と同様な部分については、その説明を省略又は簡略化する。
【0195】
[側面に対する防湿層の形成]
図7は、第2の実施形態に係る構造体の基本的な構成例を示す模式図である。本実施形態に係る構造体12は、さらに、CFRP部材2のエッジワイズ面である側面8(左側面8a、右側面8b、前側面8c、後側面8d)に対して防湿層が積層される。なお、側面8(左側面8a、右側面8b、前側面8c、後側面8d)等の各部の図示については、図1図3も参照されたい。
【0196】
以下、側面8に積層される防湿層を、第3の防湿層13と記載する。図7に示す構造体12では、左側面8aの全面に第3の防湿層13a(図示省略)が積層され、右側面8bの全面に第3の防湿層13bが積層される。また構造体12では、前側面8cの全面に第3の防湿層13cが積層され、後側面8dの全面に第3の防湿層13d(図示は省略)が積層される。
【0197】
第1の実施形態で説明したように、CFRP部材2のフラットワイズ面、すなわち第1の主面6及び第2の主面7に防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)を接合する。これにより、高い防湿性能を発揮することが可能となり、CFRP構造体の吸湿変形問題を解決することが可能となった。
【0198】
発明者は、さらなる防湿性能の向上のために、図7に示すような側面8に対する第3の防湿層13の形成に関して、検討を重ねた。
【0199】
吸湿変形問題を十分に防止し、寸法の高精度化や長期的な安定性を実現するためには、防湿性能の向上が重要となる。図1図3に示すような構造体1において、CFRP部材2の側面8からの吸湿を防止することは、防湿性能のさらなる向上に有効であると考えられる。
【0200】
CFRP部材2の内部にて水分の拡散速度は遅く中央部への吸湿の影響は小さくなると考えられる。従って、面積が広く厚み寸法(Z方向における寸法)も小さいフラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)に対しては吸湿の影響が大きくなると考えられる。
【0201】
一方で、エッジワイズ面(側面8)に関しては、フラットワイズ面と比べると、吸湿の影響は小さくなると考えられる。従って、要求される防湿性能は若干低くてもよいと考えられるが、第3の防湿層13を形成することで、防湿性能は向上すると考えられる。
【0202】
CFRP部材2は、複数のプリプレグ5が積層されて加熱圧着により成形される。上記したように、CFRP部材2の成形時に、CFRP部材2の第1の主面6及び第2の主面7に、第1の防湿層3及び第2の防湿層4を一体成形することが可能である。一方で、CFRP部材2の成形時には、余分なマトリックス樹脂が側面8から外部に押し出されるので、CFRP部材2の側面8に第3の防湿層13を同時に一体成形することは難しい。
【0203】
第3の防湿層13は、成形されたCFRP部材2に対して切断カットやエッジトリミングを行い、精密なエッジワイズ面を出現させたのちに積層する必要がある。従って、CFRP部材2の側面8に対する第3の防湿層13の接合は、フラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)に対して第1の防湿層3及び第2の防湿層4を接合する工程とは別工程で実行する必要がある。
【0204】
エッジワイズ面(側面8)の複数のプリプレグ5の積層方向(Z方向)の熱膨張率はプリプレグ5を構成するCFによる拘束がないため、大きな熱膨張率となる。プリプレグ5の種類や成形条件にもよるが、例えば常温付近では、50×10-6/℃以上の熱膨張率となり、より高温の領域ではさらに大きい熱膨張率となる。
【0205】
従って、エッジワイズ面(側面8)に第3の防湿層13を高温での熱硬化性接着剤等で接着一体化するとする。この場合、高温での接着後に室温(使用温度)に戻す過程で熱膨張率の差が大きいために、エッジワイズ面(側面8)に大きな熱残留応力が発生する可能性がある。そのためエッジワイズ面(側面8)周辺の変形の発生や第3の防湿層13の剥離等が生じる可能性がある。この結果、防湿性能の低下等の問題が生じて、高精度な寸法精度を確保できなくなるリスクが増大する。
【0206】
発明者は、CFRP部材2の側面8に積層する第3の防湿層13の材料として、第3の防湿層13の接合時の温度と使用温度との温度差に対する熱残留応力を低く抑えることが可能な材料選択と、接合時と通常使用時との温度差の低減について検討した。その結果、以下の有効な対応策を新たに見出した。
【0207】
(1)第3の防湿層13として、金属箔を基本として構成することで、高い(あるいは完全な)防湿性能と、CFRP部材2への応力を抑えることの両立が可能になる。金属箔は厚みが非常に薄いために、側面8への接合時に温度差が生じても、熱残留応力を抑えることが可能となる。また、金属箔を側面8への接合するための粘着層や接着層が緩衝材として機能して、熱残留応力をさらに抑えることが可能となる。
【0208】
(2)CFRP部材2の側面8に対して第3の防湿層13を接合する温度を低温(構造体12の使用温度及び70℃のうち高い方の温度以下の温度)にして、接合時の熱残留応力を小さくする。使用温度にて、第3の防湿層13の接合が可能な場合には、熱残留応力をほぼゼロにすることが可能である。例えば、第3の防湿層13を、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して側面8に接合することは、非常に有効となる。
【0209】
発明者は、これらの条件を満たす第3の防湿層13の構成及び接合方法について、以下の有効な実施例を新たに見出した。
金属箔を低温接着剤で貼る。
金属箔をUV硬化可能な接着剤で貼る。
金属箔が積層されたブチルテープ(Al箔付きブチルテープ等)の粘着層で室温にて貼る。
両面ブチルテープを使って薄い金属や金属箔を室温にて貼る。
Alテープの粘着層で室温にて貼る。
【0210】
[各実施例に関する評価]
発明者は、金属箔を基本として作成された第3の防湿層13の各実施例に関して、防湿性能を吸湿加速試験により評価した。
【0211】
なお、エッジワイズ面(側面8)と第3の防湿層13との間にひずみゲージを配置して吸湿膨張ひずみの変化量を測定しようとすると、ひずみゲージ自体の吸湿の影響や、第3の防湿層13とエッジワイズ面(側面8)との界面に生じる応力等の影響により、測定精度に疑問が生じると考えられる。
【0212】
従って、まず第3の防湿層13として使用する材料及び接合方法に対する防湿の基本性能を測定するために、CFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6及び第2の主面7)に、第3の防湿層13として使用する材料及び接合方法にて防湿層を形成したうえで、吸湿加速試験にて防湿性能を評価した。
【0213】
(リファレンスサンプル)
リファレンスサンプルとして用いられるCFRP部材2として、ピッチ系UD材の上下ミラー対称の10層構成を採用した。リファレンスサンプルのCFRP部材2の作成時には、ピッチ系プリプレグの推奨硬化条件である120℃ 2時間にて硬化成形を行った(バギング吸着加圧下での硬化)。その後、145℃ 2時間のPBを行った。
【0214】
(吸湿試験条件)
温度45℃、相対湿度95%以上の条件にて評価を実施した。
UD材のCF繊維に対して90°方向での評価は主にマトリックス樹脂(エポキシ樹脂)の吸湿膨張になるため、吸湿膨張ひずみの変化が大きい。そのため、温度条件としては加速倍率の低い45℃で評価を行った。 温度45℃の条件は水蒸気の拡散係数の観点では室温25℃に対して約4倍の加速条件になる。
【0215】
(評価測定方法)
ひずみゲージをプリプレグの積層体の中央層の中央部に配置して一体成形して測定した。プリプレグの硬化、PBの実施後に、45℃、相対湿度95%に到達した時点のひずみレベルを基準に、ひずみ変化を測定した。
【0216】
図8は、以下に記載する各実施例における吸湿膨張ひずみの変化量の経時変化を示すグラフである。
図9は、45℃、相対湿度95%にて135時間経過した時点での、各実施例における吸湿膨張ひずみ及びリファレンス比を示す表である。
【0217】
(実施例9)
第1の主面6及び第2の主面7に、Al箔を低温接着剤にて接合(Al箔厚み20μm)
粗面化処理した第1の主面6及び第2の主面7の各々に低温接着剤を用いて、40℃~60℃の温度で、2時間~8時間かけて硬化させた(バギング吸着加圧下での硬化)。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した時点で、吸湿膨張ひずみ18με、リファレンス比2.8%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては、十分な特性が確認された。
【0218】
(実施例10)
第1の主面6及び第2の主面7に、電解銅箔を低温接着剤にて接合(電解銅箔厚み20μm)
粗面化処理した第1の主面6及び第2の主面7の各々に低温接着剤を用いて、40℃~60℃の温度で、2時間~8時間かけて硬化させた(バギング吸着加圧下での硬化)。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した時点で、吸湿膨張ひずみ15με、リファレンス比2.2%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては、十分な特性が確認された。
【0219】
実施例9及び10において、40℃~60℃の範囲で硬化温度を変化させた場合でも、各温度に対応した十分な硬化時間を確保する事で防湿への影響は表れなかった。低温接着剤は、例えば常温でも時間をかけると硬化させることが可能である。また、加圧条件に関してもバギング吸着加圧に代えて加重による加圧でも防湿性能への影響はなかった。Al箔と電解銅箔との差も、防湿性能にはほとんど差はなく、高い防湿性能が確認された。
【0220】
(実施例11)
第1の主面6及び第2の主面7に、Al箔をUV硬化可能な接着剤にて接合(Al箔厚み20μm)。UV硬化可能な接着剤としては、UV照射をする事で急速に硬化が始まるエポキシタイプのテープ状接着剤を使用。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
事前にAl箔にテープ状接着剤を貼り、UV照射後にCFRP部材2に加重による加圧で接着。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した時点で、吸湿膨張ひずみ64με、リファレンス比9.5%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては、十分な特性が確認された。
【0221】
(実施例12)
第1の主面6及び第2の主面7に、電解銅箔をUV硬化可能な接着剤にて接合(電解銅箔厚み20μm)。UV硬化可能な接着剤としては、UV照射をする事で急速に硬化が始まるエポキシタイプのテープ状接着剤を使用。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
事前に電解銅箔にテープ状接着剤を貼り、UV照射後にCFRP部材2に加重による加圧で接着。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した到達した時点で、吸湿膨張ひずみ54με、リファレンス比8.0%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては、十分な特性が確認された。
【0222】
実施例11及び12において、Al箔と電解銅箔との差は、防湿性能にほとんど差はなく、高い防湿性能が確認された。
【0223】
(実施例13)~(実施例15)
第1の主面6及び第2の主面7に、Al箔付きブチルテープを、室温(使用温度)で加圧して接着。実施例13~15として、3つの異なる製品のAl箔付きブチルテープを使用。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した時点で、(実施例13)は吸湿膨張ひずみ47με、リファレンス比7.0%となり、(実施例14)は吸湿膨張ひずみ71με、リファレンス比10.6%となり、(実施例15)は吸湿膨張ひずみ62με、リファレンス比9.2%となった。
製品ごとに若干の差があったが、第3の防湿層13としていずれも高い防湿性能ができた。また、時間の経過とともに、吸湿膨張が飽和傾向を示す良好な結果が得られた。
【0224】
(実施例16)
第1の主面6及び第2の主面7に、両面ブチルテープを用いてAl箔を室温(使用温度)で加圧して接着(Al箔厚み20μm)。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した到達した時点で、吸湿膨張ひずみ76με、リファレンス比11.3%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては、十分な特性が確認された。
両面ブチルテープを使用することで金属箔の選択自由度を向上させることが可能となる。すなわち、第3の防湿層13として、様々な金属箔を用いることが可能となる。また金属箔以外に薄い金属板等も使用できるため、Al製のチャンネル(断面コの字)を側面に貼る事でCFRP構造体12の保護ガード部材としての機能も持たせる事等も可能である。
【0225】
(実施例17)
第1の主面6及び第2の主面7に、Alテープを、室温(使用温度)にて接着。
Alテープとして、粘着層が合成樹脂系からなるAlテープを使用。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した到達した時点で、吸湿膨張ひずみ98με、リファレンス比14.6%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては、十分な特性が確認された。
【0226】
(実施例18)
第1の主面6及び第2の主面7に、Alテープを、室温(使用温度)にて接着。
Alテープとして、粘着層がアクリル系からなる気密防水タイプのAlテープを使用。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した到達した時点で、吸湿膨張ひずみ288με、リファレンス比42.6%となり、第3の防湿層13の防湿性能としては若干低い特性となるが、第3の防湿層13を形成しないリファレンスサンプルと比べると防湿効果は認められる。
【0227】
実施例17及び18のAlテープの使用では、防湿性能及び再現性が若干低くなった。これは、おそらく下地の状態(凸凹の状態)や貼る時の仕上がり具合による差が原因と推定される。実施例13~16のブチルテープは、粘着層の厚みが大きく、ブチルゴムは水蒸気の透過性が非常に低いといったこと等により、下地の状態に影響を受けにくく安定した結果が得られていると考えられる。
【0228】
これに対してAlテープは、下地条件や貼り合わせ条件により防湿性能が低下する可能性が認められた。しかしながら、適正な条件であれば、かなりの防湿性能が得られると考えられ、またエッジワイズの未処理品(リファレンスサンプル)と比べると効果は発揮される。
【0229】
(実施例19)
第1の主面6及び第2の主面7に、金属箔が付いていないブチルテープを、室温(使用温度)で加圧して接着。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した到達した時点で、吸湿膨張ひずみ550με、リファレンス比81.8%となった。
【0230】
(実施例20)
第1の主面6及び第2の主面7に、気密防水テープを、室温(使用温度)で加圧して接着。
第1の主面6及び第2の主面7の各々に対して粗面化処理を実施。
45℃、相対湿度95%にて135時間経過した時点で、吸湿膨張ひずみ603με、リファレンス比89.7%となった。
【0231】
実施例19及び20の金属箔を使用しない第3の防湿層13では、高い防湿性能は得られなかった。しかしながら、第3の防湿層13を形成しないリファレンスサンプルと比べると防湿効果は発揮される。
【0232】
各実施例を防湿性能の高い順番、すなわち吸湿膨張が低い順番で記載すると、(実施例10)、(実施例9)、(実施例13)、(実施例12)、(実施例15)、(実施例11)、(実施例14)、(実施例16)、(実施例17)、(実施例18)、(実施例19)、及び(実施例20)の順番となった。
【0233】
発明者は、上記の吸湿加速試験による実施例9~20の防湿性能の結果が、実際の吸湿状態に対して整合性があるか否かの確認のために、実施例14、15、20の防湿層を代表サンプルとして、水浸漬による重量増加の長期変化を測定した。
【0234】
(リファレンスサンプル)
リファレンスサンプルとして、PAN系CP材の上下ミラー対称の8層構成からなるCFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)に、上記の実施例15で使用したAl箔付きブチルテープを接合した構成を採用した。図8及び図9に示すように、実施例15で使用したAl箔付きブチルテープは、高い防湿効果が確認されている。
【0235】
(代表サンプル1~3)
リファレンスサンプルのエッジワイズ面(側面8)に、実施例14、15、20の材料及び接合方法にて第3の防湿層13を接合したものを、代表サンプル1~3とした。
【0236】
(水浸漬による重量増加の測定)
水槽に各サンプルを浸漬させ、所定のタイミングにて取り出して、45分の自然乾燥の後に重量を測定。
【0237】
図10は、各サンプルの水浸漬による重量増加率の経時変化を示すグラフである。
【0238】
図10に示すように、CFRP部材2のエッジワイズ面(側面8)に、第3の防湿層13を接合することで、吸湿による重量増加を抑えることが可能となり、防湿効果を発揮することが可能となることが確認された。
【0239】
また、重量増加を抑制する効果は、図8及び図9等に示す吸湿加速試験の吸湿膨張ひずみの抑制効果と、同様の傾向が認められた。すなわち、図8及び図9等に示す吸湿加速試験の吸湿膨張ひずみの抑制効果が高い順番である、代表サンプル2(実施例15)、代表サンプル1(実施例14)、及び代表サンプル3(実施例20)の順番が、そのまま水浸漬による重量増加の抑制効果の高い順番となった。このような結果から、図8及び図9に示す吸湿加速試験による防湿性能の結果は、実際の吸湿状態に対して整合性があると認められる。
【0240】
なお、第1の主面6に積層される第1の防湿層3、及び第2の主面7に積層される第2の防湿層4の各々の防湿性能を向上させることで、図10に示す水浸漬による重量増加は、さらに抑制される。
【0241】
[側面に対する第3の防湿層の形成に関するさらなる考察]
図8図10に示す評価結果により、CFRP部材2の側面8に第3の防湿層13を接合することによる、防湿性能の向上が確認できた。また、その効果は、CFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6及び第2の主面7)に接合される防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)の材料や接合方法を限定することなく、広く発揮されることが分かった。
【0242】
すなわち、CFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6及び第2の主面7)に接合される防湿層(第1の防湿層3/第2の防湿層4)の材料や接合方法として、任意の材料や任意の接合方法が採用されたとする。どのような材料が選択され、どのような接合方法が選択されたとしても、CFRP部材2のエッジワイズ面(側面8)に第3の防湿層13が形成されない構成と、エッジワイズ面(側面8)に第3の防湿層13が形成される構成とを比べると、第3の防湿層13が形成される構成の方が高い防湿性能を発揮する。
【0243】
本発明者は、第1の防湿層3、第2の防湿層4、及び第3の防湿層13が形成される構造体に関して、加工装置の加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能な、以下の構成を新たに見出した。
【0244】
(構成1)
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材が積層されることで構成され、前記複数のシート状部材の積層方向において互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する本体部と、
前記第1の主面に積層される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層される第2の防湿層と、
前記側面に積層される第3の防湿層と
を具備し、
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
【0245】
本構成を有する構造体では、炭素繊維を主成分とする複数のプリプレグ5が積層されることで構成されるCFRP部材2の第1の主面6に第1の防湿層3が積層され、第2の主面7に第2の防湿層4が積層される。またCFRP部材2の側面8に、第3の防湿層13が積層される。これにより、高い防湿性能が発揮される。
【0246】
また、(構成1)を有する構造体では、第1の防湿層3及び第2の防湿層4の少なくとも一方が、セラミック材料とは異なる材料により構成される。これにより、構造体の軽量化を図ることが可能となり、また加工コストや材料コストを低減することが可能となる。
【0247】
この結果、(構成1)を有する構造体を加工装置のフレームや構成部材等に適用することで、加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となる。
【0248】
例えば、第1の実施形態で説明した表面9の少なくとも一部がセラミック材料により構成される第1の防湿層3と、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層4とが、フラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)に接合され、側面8に第3の防湿層13が接合された構造体は、上記の(構成1)を有する構造体に含まれる。なお、本構造体は、図7に示す構造体12の構成に相当する。
【0249】
これに限定されず、第1の防湿層3及び第2の防湿層4の両方ともが、セラミック材料とは異なる材料により構成され、側面8に第3の防湿層13が接合された構成も、上記の(構成1)を有する構造体に含まれる。例えば、第1の実施形態にて、第2の防湿層4の一例として挙げた様々な防湿層が、CFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)の両面に接合され、側面8に第3の防湿層13が接合された構成は、上記の(構成1)を有する構造体に含まれる。
【0250】
例えば、CFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)の両面に、金属箔が接合され、側面8に第3の防湿層13が接合された構成は、上記の(構成1)を有する構造体に含まれる。また、CFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)の両面に、金属箔が形成されたゴムテープが接合され、側面8に第3の防湿層13が接合された構成は、上記の(構成1)を有する構造体に含まれる。またCFRP部材2のフラットワイズ面(第1の主面6/第2の主面7)の両面に、防湿膜が形成された樹脂フィルムが接合され、側面8に第3の防湿層13が接合された構成は、上記の(構成1)を有する構造体に含まれる。
【0251】
また、発明者は、(構成1)の構成を有する構造体に関して、さらに創意工夫を加えた以下の構成を有する構造体を、新たに考案した。
【0252】
(構成2)(構成1)に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
本(構成2)により、構造体1の軽量化を実現することが可能となる。
【0253】
(構成3)(構成1)に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、金属箔、金属薄板、及び前記金属箔が形成されたゴムテープのいずれか1つにより構成される
構造体。
【0254】
(構成4)(構成1)に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、低温で硬化する接着剤、又は低温で接着力を発揮する粘着層を介して、前記側面に接合される
構造体。
【0255】
(構成5)(構成3)に記載の構造体であって、
前記第3の防湿層は、前記金属箔又は前記金属薄板が、低温で硬化する接着剤により前記側面に接着されて構成される
構造体。
【0256】
(構成6)(構成1)に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成され、
前記第2の防湿層は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
本(構成6)により、第1の実施形態にて説明した構造体1に関する効果を発揮させることが可能となる。
【0257】
(構成7)(構成6)に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、前記表面の全面がセラミック材料により構成される
構造体。
【0258】
(構成8)(構成1)に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の各々は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
【0259】
(構成9)(構成1)に記載の構造体であって、
前記第1の防湿層は、金属箔、前記金属箔が形成されたゴムテープ、及び防湿膜が形成された樹脂フィルムのいずれか1つにより構成される
前記第2の防湿層は、金属箔、前記金属箔が形成されたゴムテープ、及び防湿膜が形成された樹脂フィルムのいずれか1つにより構成される
構造体。
【0260】
[(構成1)を有する構造体の製造方法]
(構成1)を有する構造体の製造方法として、以下の工程を含む製造方法を採用することが可能である。
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材(複数のプリプレグ5)を積層させる積層工程。
複数のシート状部材と、複数のシート状部材の積層方向における一方の主面である第1の主面6に積層される第1の防湿層3と、第1の主面6とは反対側の第2の主面7に積層され第2の防湿層4とを互いに接合する第1の接合工程。
複数のシート状部材の第1の主面6及び第2の主面7の間の側面8に第3の防湿層13を接合する第2の接合工程。
上記したように、第1の防湿層3及び第2の防湿層4の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0261】
なお、第2の接合工程にて、低温で硬化する接着剤により側面8に第3の防湿層13を接着することで、熱残留応力を抑制することが可能となる。
【0262】
[加工装置]
本技術に係る構造体を適用可能な加工装置の例について説明する。
本技術に係る構造体は、基板等のワークを加工する任意の加工装置に用いることが可能である。
【0263】
図11は、加工装置の一例である露光装置の概略構成を示す模式図である。露光装置15は、ワークWを露光する投影露光装置である。ここで、ワークWは、シリコンワーク、プリント基板、又は液晶パネル用のガラス基板等であり、表面にレジスト膜が塗布されたワークである。
【0264】
露光装置15は、光出射部16と、マスクステージ17と、投影光学系18と、ワークステージ19と、フレーム20とを有する。
【0265】
光出射部16は、露光光ELを出射する。例えば、光出射部16として、ショートアーク型の水銀ランプが用いられる。水銀ランプからは、例えば、波長365nm(i線)、405nm(h線)、436nm(g線)等を含む紫外光が出射される。もちろんこのような構成に限定されず、紫外光とは異なる波長帯域の光を出射するランプが用いられてもよい。その他、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)等の固体光源が用いられてもよい。
【0266】
マスクステージ17は、光出射部16の下方側に配置される。マスクステージ17は、露光用のマスクMを保持する。マスクMには、所定のマスクパターンが形成されている。またマスクMには、アライメントマーク(マスクマーク)が形成されている。
【0267】
投影光学系18は、光出射部16から出射されマスクMを透過した露光光ELを、ワークステージ19に保持されたワークWに照射する。これにより、マスクMに形成されているマスクパターンの像がワークWに投影される。投影光学系18は、投影レンズを有する結像光学系として構成される。
【0268】
ワークステージ19は、ワークWを保持する。ワークステージ19は、ワークWが吸着する吸着板を有する。吸着板に複数の真空吸着孔が形成され、真空吸着によりワークWが保持される。
【0269】
フレーム20は、光出射部16、マスクステージ17、投影光学系18及びワークステージ19といった露光装置15を構成する構成部材を支持する。これらの構成部材は、フレーム20によって所定の位置で保持されている。
【0270】
なおフレーム20により、マスクステージ17やワークステージ19等の構成部材が、移動可能に支持されてもよい。例えば、水平方向に沿った互いに直行する2方向への直線移動、露光光ELの光軸方向(上下方向)に沿った直線移動、露光光ELの光軸方向(上下方向)を回転軸方向とした回転移動等が可能なように、構成部材がフレーム20に支持されてもよい。もちろん、構成部材を支持するフレーム20の一部分が移動可能に構成されてもよい。
【0271】
例えばステッピングモータ等を使ったリニアステージ等の任意の移動機構や、ギア機構等を使った任意の回転機構等を用いて、構成部材やフレームを移動させるための移動機構を実現することが可能である。
【0272】
露光装置15において、マスクMとワークWとの位置合わせ、及びフォーカス制御が完了すると、ワークWに対する露光工程が開始され、光出射部16から露光光ELが出射される。光出射部16から出射された露光光ELは、マスクパターンが形成されたマスクMと、投影光学系18とを介して、ワークW上に照射される。これにより、マスクパターンがワークW上に投影されて露光される。
【0273】
図11に示す露光装置15において、フレーム20や、ワークステージ(吸着板)19等の構成部材に、本技術に係る構造体を適用する。これにより、露光精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となり、高い露光精度が実現される。
【0274】
図12は、加工装置の一例であるレーザ加工装置の概略構成を示す模式図である。レーザ加工装置22は、レーザ出射部23と、ワークステージ24と、フレーム25とを有する。
【0275】
レーザ出射部23は、レーザLを出射する。レーザ出射部23から出射されたレーザ光Lは、ワークステージ24に保持されたワークWに照射され、ワークWの切断や穴あけ等の加工が行われる。
【0276】
フレーム25は、レーザ出射部23、及びワークステージ24といったレーザ加工装置22を構成する構成部材を支持する。これらの構成部材は、フレーム25によって所定の位置で保持されている。なおフレーム25により、ワークステージ24等の構成部材が、移動可能に支持されてもよい。もちろん、構成部材を支持するフレーム25の一部分が移動可能に構成されてもよい。
【0277】
図12に示すレーザ加工装置22において、フレーム25や、ワークステージ24等の構成部材に、本技術に係る構造体を適用する。これにより、レーザ加工精度の向上に有効な特性を発揮させることが可能となり、高いレーザ加工精度が実現される。
【0278】
その他、本技術に係る構造体は、様々な加工装置に適用可能である。例えば、半導体素子製造装置用の部材として本技術に係る構造体を使用することが可能である。また本技術に係る構造体は、ステッパーや検査装置等において、精密位置決め用に用いるステージ部材として好適である。その他、位置計測用ミラー、ウエハチャック、位置調整部材、精密測定治具等に、本技術に係る構造体を適用することが可能であり、加工精度の向上を図ることが可能となる。
【0279】
<その他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0280】
図13は、他の実施形態に係る構造体の構成例を示す模式図である。図13に示す構造体27は、(実施例6)で説明したような、第1の防湿層3が、セラミック部材28と中間部材29との多層構造で構成されている実施形態となる。
【0281】
図13に示すように、CFRP部材2の第1の主面6の全面に中間部材29として、金属箔が接合される。そして、中間部材29の表面(上面)にセラミック部材28が接合される。第2の防湿層4としては、例えば中間部材29と同じ金属箔が接合される。
【0282】
中間部材29に接合されるセラミック部材28を上方から見た場合の形状及びサイズは、任意に設計することが可能である。すなわち、上方から見た場合に、セラミック部材28を、第1の主面6の全面(中間部材29の全面)のサイズよりも小さいサイズで設計することが可能である。
【0283】
第1の主面6の全面には、中間部材29として金属箔が接合される。従って、第1の主面6に対する防湿機能は実現される。従って、金属箔に接合されるセラミック部材28を、金属箔の全面よりも小さいサイズで構成することが可能である。これにより、構造体1の小型化、軽量化を実現することが可能となる。またセラミック部材28にかかる材料コストを抑えることが可能となる。
【0284】
図13に示す構造体27では、第1の防湿層3の、第1の主面6に積層される側とは反対側の表面9は、セラミック部材28の上面30と、中間部材29のセラミック部材28が積層されていない部分の上面31とを含む。従って、構造体27の第1の防湿層3は、第1の主面6の全面に積層され、第1の主面6に積層される側とは反対側の表面9の一部が、セラミック材料により構成されている。このような構成でも、上記で説明した本発明に特有の効果が発揮される。
【0285】
例えば、構造体27をワークステージ(吸着板)に適用した場合、ワークを保持するために必要な形状及びサイズで、セラミック部材28を設計することが可能である。もちろん、平面加工以外の様々な加工が行われる場合でも、必要な形状及びサイズで、セラミック部材28を設計することが可能である。
【0286】
なお、CFRP部材2の第2の主面7に積層される第2の防湿層4や、側面5に接合される第3の防湿層13の構成に、多層構造が採用されてもよい。
【0287】
[CFRP部材の他の構成例]
図14は、他の実施形態に係るCFRP部材の構成例を示す模式図である。図15は、図14に示すCFRP部材の内部構造体を示す模式図である。
【0288】
上記の実施形態では、炭素繊維を主成分とするシート状部材である複数のプリプレグが積層されることで、CFRP部材2が構成された。上記で説明した本発明に係る第1の防湿層3、第2の防湿層4、及び第3の防湿層13の接合は、他の構成を有するCFRP部材についても適用可能である。
【0289】
図14に示すCFRP部材33は、おおよその外形が直方体形状となり、面積が広いフラットワイズ面となる第1の主面6及び第2の主面7を有する。またCFRP部材32は、面積が小さいエッジワイズ面となる側面8(左側面8a、右側面8b、前側面8c、後側面8d)を有する。
【0290】
また構造体33は、上方側スキン部材34と、下方側スキン部材35と、側方スキン部材36(左側スキン部材36a、右側スキン部材36b、前側スキン部材36c、後側スキン部材36d)と、内部構造体37とを有する。
【0291】
上方側スキン部材34は、内部構造体37の上方側に接合され、第1の主面6を構成する。下方側スキン部材35は、内部構造体37の下方側に接合され、第2の主面7を構成する。
【0292】
側方スキン部36は、内部構造体37の側方に接合され、側面8を構成する。図14及び図15に示すように、内部構造体37の左側に接合される左側スキン部材36aにより、左側面8aが構成される。内部構造体37の右側に接合される右側スキン部材36bにより、右側面8bが構成される。内部構造体37の前方側に接合される前側スキン部材36cにより、前側面8cが構成される。内部構造体37の後方側に接合される後側スキン部材36dにより、後側面8dが構成される。
【0293】
上方側スキン部材34、下方側スキン部材35、及び側方スキン部材36は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグを積層して成形された炭素繊維強化プラスチック部材により構成される。なお、1枚のプリプレグにより、上方側スキン部材34、下方側スキン部材35、及び側方スキン部材36が構成されてもよい。プリプレグの具体的な材料等は限定されない。
【0294】
図15に示すように、内部構造体37は、複数の板状部材39が組み立てられて構成される。板状部材39は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグを積層して成形された炭素繊維強化プラスチック部材により構成される。なお、1枚のプリプレグにより、板状部材39が構成されてもよい。プリプレグの具体的な材料等は限定されない。
【0295】
本実施形態では、長方形状であり、互いに等しい形状からなる4枚の板状部材39aが、左右方向(X方向)に沿って延在するように、前後方向(Y方向)に沿って等間隔で並べられる。そして、板状部材39aと等しい形状を有する4枚の板状部材39bが、4枚の板状部材39aと交差するように配置される。
【0296】
図15に示すように、4枚の板状部材39bは、前後方向(Y方向)に沿って延在するように、左右方向(X方向)に沿って等間隔で並べられる。なお、板状部材39a及び39bの交差部分は、図示しないスリットが形成されており、スリット同士が互いに嵌め合わされる。
【0297】
図15に示すように、板状部材39a及び39bは、上方から見た場合に、各部材の両端部が、所定の矩形状の周縁の位置に配置されるように組み立てられる。
【0298】
板状部材39a及び39bに対して、さらに、短手方向のサイズが板状部材39a及び39bと等しく、長手方向のサイズが適宜調整された6枚の板状部材39cが、板状部材39a及び39bと交差するように配置される。
【0299】
6枚の板状部材39cは、左右方向(X方向)及び前後方向(Y方向)の各々に対して45度で交差する方向(図15における左右方向)に沿って延在するように、その方向に直行する方向(図15における上下方向)に沿って等間隔で並べられる。また、6枚の板状部材39cは、隣接する板状部材39a同士の中間位置、及び隣接する板状部材39b同士の中間位置にて交差するように配置される。その交差する部分には、図示しないスリットが形成されており、スリット同士が互いに嵌め合わされる。
【0300】
6枚の板状部材39cの長手方向におけるサイズは、両端部の位置が、板状部材39a及び39bの両端部が位置する所定の矩形状の周縁に配置されるように、適宜調整されている。
【0301】
図15に示すように、内部構造体37を上方から見た場合、六角形状の隙間部40と、三角形状の隙間部41とが周期的に並ぶような構成となっている。
【0302】
上方から見た場合に、板状部材39a~39cの両端部に沿うような矩形状からなる上方側スキン部材34が、内部構造体37の上方側に接合されて、第1の主面6が構成される。上方側スキン部材34と略等しい形状を有する下方側スキン部材35が、内部構造体37の下方側に接合されて、第2の主面7が構成される。内部構造体37の側方には、側方スキン部材36(36a~36d)が接合されて、側面8(8a~8d)が構成される。
【0303】
このようなCFRP部材37に対して、上記で説明した本発明に係る第1の防湿層3、第2の防湿層4、及び第3の防湿層13の接合を適用することが可能であり、上記で説明した本発明特有の効果を発揮させることが可能である。
【0304】
もちろん、図14及び図15に示す構造体37とは異なる構成からなるCFRP部材に対しても、本発明は適用可能である。すなわち、本発明の適用において、CFRP部材を構成する内部構造体37として、様々な構成を採用することが可能である。
【0305】
例えば上方から見た場合に、三角形、四角形、正六角形、その他の多角形等の、所定の形状からなる隙間部が規則的に並ぶように構成された内部構造体が採用されてよい。例えば、ハニカム構造からなる内部構造体を採用することが可能である。なお、図14及び図15に示す構成も、広義にはハニカム構造を有する内部構造体といえる。
【0306】
また、炭素繊維強化プラスチック部材により構成された波板形状の部材が用いられて、内部構造体が構成されてもよい。あるいは、炭素繊維強化プラスチック部材により構成された部材がランダムに組み立てられて内部構造体が構成されてもよい。
【0307】
第1の主面6、第2の主面7、及び側面8を有する任意の構成からなるCFRP部材2に対して、第1の実施形態で説明した第1の防湿層3及び第2の防湿層4の接合を適用する。そのようにして構成された構造体は、以下の(構造体A)に含まれる。
【0308】
(構造体A)
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により構成され、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する本体部と、
前記第1の主面に積層され、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層され、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層と
を具備する構造体。
【0309】
もちろん、図1等に示す構造体1及び図14に示す構造体33も、(構造体A)に含まれる。
【0310】
このような(構造体A)の製造方法として、以下の工程を含む製造方法を採用することが可能である。
【0311】
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により、第1の主面及び前記第2の主面を有する本体部を成形する成形工程。
前記第1の主面に第1の防湿層を接合する第1の接合工程。
前記第2の主面に第2の防湿層を接合する第2の接合工程。
なお、前記第1の防湿層は、前記第1の主面に積層される側とは反対側の表面の少なくとも一部が、セラミック材料により構成される。また前記第2の防湿層は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0312】
前記成形工程、前記第1の接合工程、前記第2の接合工程は、別工程で行われてもよいし、同じ工程で一体的に行われてもよい。また、前記成形工程、前記第1の接合工程、前記第2の接合工程のうちの任意の組み合わせが同じ工程で一体的に行われてもよい。
【0313】
また、前記第1の接合工程は、前記成形工程前に前記第1の主面を構成するシート状部材(第1のシート状部材といえる)に前記第1の防湿層を接合する工程を含む。また、前記第2の接合工程は、前記成形工程前に前記第2の主面を構成するシート状部材(第2のシート状部材といえる)に第2の防湿層を接合する工程を含む
【0314】
例えば、図14及び図15に示すCFRP部材33において、内部構造体37の成形工程、内部構造体37に対してスキン部材を接合する工程が、別工程で行われてもよいし、同じ工程で一体的に行われてもよい。また、CFRP部材33の成形工程と、各防湿層を接合する工程とが、別工程で行われてもよいし、同じ工程で一体的に行われてもよい。
【0315】
また、上方側スキン部材34に対して第1の防湿層3が接合された後に、上方側スキン部材34と内部構造体37との接合工程(すなわちCFRP部材33の成形工程)が行われてもよい。また下方側スキン部材35に対して第2の防湿層4が接合された後に、下方側スキン部材35と内部構造体37との接合工程(すなわちCFRP部材33の成形工程)が行われてもよい。
【0316】
また、第1の主面6、第2の主面7、及び側面8を有する任意の構成からなるCFRP部材2に対して、上記で説明した(構成1)を適用する。そのようにして構成された構造体は、以下の(構造体B)に含まれる。
【0317】
(構造体B)
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により構成され、互いに対向する第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する本体部と、
前記第1の主面に積層される第1の防湿層と、
前記第2の主面に積層される第2の防湿層と、
前記側面に積層される第3の防湿層と
を具備し、
前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される
構造体。
【0318】
このような(構造体B)の製造方法として、以下の工程を含む製造方法を採用することが可能である。
【0319】
炭素繊維を主成分とする複数のシート状部材により、第1の主面及び前記第2の主面と、前記第1の主面及び前記第2の主面の間の側面とを有する本体部を成形する成形工程。
前記第1の主面に第1の防湿層を接合する第1の接合工程。
前記第2の主面に第2の防湿層を接合する第2の接合工程。
前記第3の主面に第3の防湿層を接合する第3の接合工程。
なお、前記第1の防湿層及び前記第2の防湿層の少なくとも一方は、セラミック材料とは異なる材料により構成される。
【0320】
前記成形工程、前記第1の接合工程、前記第2の接合工程、前記第3の接合工程は、別工程で行われてもよいし、同じ工程で一体的に行われてもよい。また、前記成形工程、前記第1の接合工程、前記第2の接合工程、前記第3の接合工程のうちの任意の組み合わせが同じ工程で一体的に行われてもよい。
【0321】
また、前記第1の接合工程は、前記成形工程前に前記第1の主面を構成するシート状部材(第1のシート状部材といえる)に前記第1の防湿層を接合する工程を含む。また、前記第2の接合工程は、前記成形工程前に前記第2の主面を構成するシート状部材(第2のシート状部材といえる)に第2の防湿層を接合する工程を含む。前記第3の接合工程は、前記成形工程前に前記側面を構成するシート状部材(第3のシート状部材といえる)に第3の防湿層を接合する工程を含む。
【0322】
例えば、図14及び図15に示すCFRP部材33において、内部構造体37の成形工程、内部構造体37に対してスキン部材を接合する工程が、別工程で行われてもよいし、同じ工程で一体的に行われてもよい。また、CFRP部材33の成形工程と、各防湿層を接合する工程とが、別工程で行われてもよいし、同じ工程で一体的に行われてもよい。
【0323】
また、上方側スキン部材34に対して第1の防湿層3が接合された後に、上方側スキン部材34と内部構造体37との接合工程(すなわちCFRP部材33の成形工程)が行われてもよい。また下方側スキン部材35に対して第2の防湿層4が接合された後に、下方側スキン部材35と内部構造体37との接合工程(すなわちCFRP部材33の成形工程)が行われてもよい。また側方スキン部材36に対して第3の防湿層13が接合された後に、側方スキン部材36と内部構造体37との接合工程(すなわちCFRP部材33の成形工程)が行われてもよい。
【0324】
上記の実施形態において、表面9の少なくとも一部がセラミック材料により構成される第1の防湿層3、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層4、及び金属箔を基本として構成される第3の防湿層13について説明した。例えば、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層4として説明した構成や接合方法を用いて、第3の防湿層13を実現させることも可能である。また、金属箔を基本として構成される第3の防湿層13として説明した構成や接合方法を用いて、第2の防湿層13を実現させることも可能である。
【0325】
また、セラミック材料とは異なる材料により構成される第2の防湿層4として説明した構成や接合方法を用いて、セラミック部材と多層構造を構成する第1の防湿層3の中間部材が実現されてもよい。また金属箔を基本として構成される第3の防湿層13として説明した構成や接合方法を用いて、セラミック部材と多層構造を構成する第1の防湿層3の中間部材が実現されてもよい。
【0326】
なお本開示において金属箔は、200μm以下の厚みで構成されるものとする。例えば、厚みが1μm以上200μm以下となるように、本発明に係る金属箔を形成することが可能である。
【0327】
金属箔の厚みが小さすぎるとスルーホール等が形成されてしまい防湿層としての機能が低下する可能性がある。従って、高い防湿機能を発揮させるためには、厚みが5μm以上となる金属箔を用いるのが好ましい。
【0328】
また上記したように、金属箔は弾性変形、塑性変形することにより、CFRP部材2にかかる熱残留応力を小さくすることが可能である。金属箔の厚みが小さいほど、弾性変形、塑性変形による熱残留応力の抑制効果は高くなる。
【0329】
従って、金属箔の厚みの条件として、例えば200μm以下、175μm以下、150μm以下、125μm以下、100μm以下、75μm以下、50μm以下、25μm以下というように上限値を小さくすることで、弾性変形、塑性変形による熱残留応力の抑制効果が高い金属箔を実現することが可能となる。
【0330】
防湿機能と熱残留応力の抑制効果の両方を鑑みると、金属箔の厚みとして、5μm以上の範囲で厚みが小さいほど好ましい構成となる。もちろん、厚みが200μmとなる金属箔が用いられる場合でも、防湿機能と熱残留応力の抑制効果は発揮される。
【0331】
例えば、上記した(実施例6)の構造体1において、第1の防湿層3の中間部材となる銅箔、及び第2の防湿層4となる銅箔をともに厚み20μmのAl箔に変更した。この場合も、熱残留応力を起因とする変形等はみられなかった。また吸湿加速試験の検証結果も、60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、吸湿膨張ひずみは2.5μεとなり、リファレンス比2.7%に抑えられた。この結果は、(実施例6)の厚み20μmの銅箔が用いられる場合と同等の結果である。
【0332】
また(実施例6)の構造体1において、第1の防湿層3の中間部材となる銅箔、及び第2の防湿層4となる銅箔をともに厚み50μmのAl箔に変更した場合も検証した。本構成においても、熱残留応力を起因とする変形等はみられなかった。また吸湿加速試験の検証結果も、60時間後にリファレンスサンプルの吸湿膨張が飽和した時点で、吸湿膨張ひずみは2.0μεとなり、リファレンス比2.1%に抑えられた。
【0333】
すなわち、(実施例6)の構造体1において、第1の防湿層3の中間部材となる金属箔、及び第2の防湿層4となる金属箔として、厚み20μmの銅箔、厚み20μmのAl箔、及び厚み50μmのAl箔の3種類のサンプルを検証した結果、いずれの構造体1も熱残留応力を起因とする変形等はみられず、吸湿加速試験の検証結果もほぼ同じレベルで良好な結果となった。
【0334】
本発明に係る加工装置を用いて様々な部品を製造することが可能である。例えば本発明に係る露光装置を用いて露光を行うことで、所定のパターンが形成された種々の基板を、部品として製造することが可能となる。例えば、部品として、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等を製造することが可能である。
電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性あるいは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0335】
各図面を参照して説明した構造体、CFRP部材、第1の防湿層、第2の防湿層、第3の防湿層、加工装置、露光装置、レーザ加工装置等の各構成、構造体の製造方法、第1の防湿層の接合方法、第2の防湿層の接合方法、第3の防湿層の接合方法、複数のプリプレグの一体成型方法、露光方法、レーザ加工方法等はあくまで一実施形態であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、任意に変形可能である。すなわち本発明を実施するための他の任意の構成、処理フロー、アルゴリズム等が採用されてよい。
【0336】
本開示において、説明の理解を容易とするために、「略」「ほぼ」「おおよそ」等の文言が適宜使用されている。一方で、これら「略」「ほぼ」「おおよそ」等の文言を使用する場合と使用しない場合とで、明確な差異が規定されるわけではない。
すなわち、本開示において、「中心」「中央」「均一」「等しい」「同じ」「直交」「平行」「対称」「延在」「軸方向」「円柱形状」「円筒形状」「リング形状」「円環形状」等の、形状、サイズ、位置関係、状態等を規定する概念は、「実質的に中心」「実質的に中央」「実質的に均一」「実質的に等しい」「実質的に同じ」「実質的に直交」「実質的に平行」「実質的に対称」「実質的に延在」「実質的に軸方向」「実質的に円柱形状」「実質的に円筒形状」「実質的にリング形状」「実質的に円環形状」等を含む概念とする。
例えば「完全に中心」「完全に中央」「完全に均一」「完全に等しい」「完全に同じ」「完全に直交」「完全に平行」「完全に対称」「完全に延在」「完全に軸方向」「完全に円柱形状」「完全に円筒形状」「完全にリング形状」「完全に円環形状」等を基準とした所定の範囲(例えば±10%の範囲)に含まれる状態も含まれる。
従って、「略」「ほぼ」「おおよそ」等の文言が付加されていない場合でも、いわゆる「略」「ほぼ」「おおよそ」等を付加して表現される概念が含まれ得る。反対に、「略」「ほぼ」「おおよそ」等を付加して表現された状態について、完全な状態が必ず排除されるというわけではない。
【0337】
本開示において、「Aより大きい」「Aより小さい」といった「より」を使った表現は、Aと同等である場合を含む概念と、Aと同等である場合を含まない概念の両方を包括的に含む表現である。例えば「Aより大きい」は、Aと同等は含まない場合に限定されず、「A以上」も含む。また「Aより小さい」は、「A未満」に限定されず、「A以下」も含む。
本技術を実施する際には、上記で説明した効果が発揮されるように、「Aより大きい」及び「Aより小さい」に含まれる概念から、具体的な設定等を適宜採用すればよい。
【0338】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0339】
1、12…構造体(CFRP構造体)
2…CFRP部材
3…第1の防湿層
4…第2の防湿層
5…プリプレグ
6…第1の主面
7…第2の主面
8(8a~8d)…側面
9…第1の防湿層の表面
13(13a~13d)…第3の防湿層
15…露光装置
19、24…ワークステージ
20、25…フレーム
22…レーザ加工装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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