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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168617
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】圧力導通路構造および圧力センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 19/06 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01L19/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085452
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 祐希
(72)【発明者】
【氏名】東條 博史
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055AA40
2F055BB05
2F055CC02
2F055DD05
2F055EE40
2F055FF21
2F055GG22
2F055GG25
2F055HH08
(57)【要約】
【課題】破壊強度が相対的に低い部材が破壊されることがない圧力導通路構造およびこの圧力導通路構造を有する圧力センサを提供する。
【解決手段】貫通穴12~14を有する部材からなる積層体10と、貫通穴12~14からなる圧力導通路15とを備える。積層体10は、破壊強度が他の部材より低いガラス部材5(低強度の部材)と、ガラス部材5を挟む第1のシリコン部材4(第1の高強度の部材)および第2のシリコン部材6(第2の高強度の部材)とを含む。第1のシリコン部材4に圧力導入口が設けられ、第2のシリコン部材6に圧力導通路15を塞ぐダイアフラムが設けられる。第1のシリコン部材4の貫通穴12の穴径D2は、ガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より大きい。第2のシリコン部材6の貫通穴14の穴径D3は、ガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さい。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通穴を有する少なくとも3個の部材を前記貫通穴が互いに接続されるように積層してなる積層体と、
前記積層体の中に前記部材の貫通穴によって形成され、圧力伝達媒体で満たされる圧力導通路とを備え、
前記少なくとも3個の部材は、破壊強度が他の部材より低くなる低強度の部材と、前記低強度の部材より破壊強度が高くなる部材であって、前記低強度の部材を挟む第1の高強度の部材と第2の高強度の部材とを含み、
前記第1の高強度の部材に前記圧力導通路の圧力導入口を構成する部材が接続され、
前記第2の高強度の部材に前記圧力導通路を閉塞する部材が接続され、
前記第1の高強度の部材に形成されている貫通穴の穴径は、前記低強度の部材に形成されている貫通穴の穴径より大きく、
前記第2の高強度の部材に形成されている貫通穴の穴径は、前記低強度の部材に形成されている貫通穴の穴径より小さいことを特徴とする圧力導通路構造。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力導通路構造を有する圧力センサであって、
前記第1の高強度の部材と第2の高強度の部材を形成する材料はシリコンであり、
前記低強度の部材を形成する材料はガラスであり、
前記第2の高強度の部材には、前記圧力導通路を閉塞する部材となる圧力計測用ダイアフラムが接合されていること特徴とする圧力センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の圧力センサにおいて、
前記第1の高強度の部材に形成されている前記貫通穴の穴径は、圧力伝達媒体の圧力が作用する圧力伝達状態において前記低強度の部材における前記第1の高強度の部材が接合される接合面に生じる応力の大きさが予め定めた最小値となるように設定され、
前記第2の高強度の部材に形成されている前記貫通穴の穴径は、圧力伝達媒体の圧力が作用する圧力伝達状態において前記低強度の部材における第2の高強度の部材が接合される接合面に生じる応力の大きさが予め定めた最小値となるように設定されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項4】
請求項2に記載の圧力センサにおいて、
前記圧力導通路の圧力導入口を構成する部材は、前記第1の高強度の部材に固着されたパイプであることを特徴とする圧力センサ。
【請求項5】
請求項2~請求項4の何れか一つに記載の圧力センサにおいて、
さらに、前記圧力計測用ダイアフラムを前記第2の高強度の部材と協働して挟む積層部材を備え、
前記積層部材は、前記圧力計測用ダイアフラムが前記圧力伝達媒体の圧力で変形することにより接触する凹曲面からなる過大圧保護部を有していることを特徴とする圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の積層部材を貫通する圧力導通路を有する圧力導通路構造および圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの内部に圧力伝達媒体で満たされる圧力導通路を形成するにあたっては、例えば特許文献1に記載されているように、貫通穴を有する複数の部材を積層して行うことがある。特許文献1には、圧力センサのセンサ素子に形成された圧力導通路が開示されている。センサ素子は、貫通穴を有する複数の部材を貫通穴どうしが互いに接続されるように積層して形成されている。このように複数の部材が積層されることにより、各部材の貫通穴からなる圧力導通路が形成される。センサ素子の一端部には圧力導通路の圧力導入口が開口し、他端部には、圧力導通路を閉塞する部材が接続されている。圧力導通路には圧力伝達媒体が充填され、被測定流体の圧力が圧力伝達媒体を介して伝達される。センサ素子は、この圧力伝達媒体の圧力を計測する。
【0003】
圧力導通路内の圧力伝達媒体によって被測定流体の圧力が伝達される圧力センサにおいては、高圧レンジの計測や、計測レンジの圧力が小さくても極めて大きな静圧が印加される状態で計測を可能とするために、耐圧性能を高くすることが要請されている。センサ素子に過大圧保護機構を有する場合は、差圧の計測レンジは小さくても、静圧として計測レンジの数百倍の圧力が印加される場合がある。例えば、42MPaの圧力印加で計測レンジが0.1MPaとなる場合がある。
耐圧性能を高くするためには、素子内部の圧力伝達経路においてもできる限り発生応力を低減することが必要である。これを実現するためには、センサ素子を形成する全ての部材において、貫通穴の穴径を一致させ、全ての貫通穴を段差なく接続することが望ましい。この構成を採ることにより、圧力導通路に応力集中点が作られることがなくなり、耐圧性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-34155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、貫通穴を有する複数の部材を積層して圧力導通路を形成するにあたっては、各部材の貫通穴の穴径の公差や、各部材を積層する際の接合精度などに起因して、互いに隣り合う貫通穴の一方が他方に対して僅かにずれることがある。このような場合は、圧力導通路の通路壁面に段差が生じることなる。この段差の高さが大きくなると、圧力導通路内に突き出す段差の先端部等に意図しない応力集中点が形成され、耐圧性が低下してしまう。センサ素子は、破壊強度が相対的に低い材料によって形成された絶縁用の部材も積層されており、この部材に応力集中点が形成されると、この部材が破壊されるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、破壊強度が相対的に低い部材が破壊されることがない圧力導通路構造およびこの圧力導通路構造を有する圧力センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明に係る圧力導通路構造は、貫通穴を有する少なくとも3個の部材を前記貫通穴が互いに接続されるように積層してなる積層体と、前記積層体の中に前記部材の貫通穴によって形成され、圧力伝達媒体で満たされる圧力導通路とを備え、前記少なくとも3個の部材は、破壊強度が他の部材より低くなる低強度の部材と、前記低強度の部材より破壊強度が高くなる部材であって、前記低強度の部材を挟む第1の高強度の部材と第2の高強度の部材とを含み、前記第1の高強度の部材に前記圧力導通路の圧力導入口を構成する部材が接続され、前記第2の高強度の部材に前記圧力導通路を閉塞する部材が接続され、前記第1の高強度の部材に形成されている貫通穴の穴径は、前記低強度の部材に形成されている貫通穴の穴径より大きく、前記第2の高強度の部材に形成されている貫通穴の穴径は、前記低強度の部材に形成されている貫通穴の穴径より小さいものである。
【0008】
本発明に係る圧力センサは、前記圧力導通路構造を有する圧力センサであって、前記第1の高強度の部材と第2の高強度の部材を形成する材料はシリコンであり、前記低強度の部材を形成する材料はガラスであり、前記第2の高強度の部材には、前記閉塞部を構成する圧力計測用ダイアフラムが接合されているものである。
【0009】
本発明は、前記圧力センサにおいて、前記第1の高強度の部材に形成されている前記貫通穴の穴径は、圧力伝達媒体の圧力が作用する圧力伝達状態において前記低強度の部材における前記第1の高強度の部材が接合される接合面に生じる応力の大きさが予め定めた最小値となるように設定され、前記第2の高強度の部材に形成されている前記貫通穴の穴径は、圧力伝達媒体の圧力が作用する圧力伝達状態において前記低強度の部材における第2の高強度の部材が接合される接合面に生じる応力の大きさが予め定めた最小値となるように設定されていてもよい。
【0010】
本発明は、前記圧力センサにおいて、前記圧力導通路の圧力導入口を構成する部材は、前記第1の高強度の部材に固着されたパイプであってもよい。
【0011】
本発明は、前記圧力センサにおいて、さらに、前記圧力計測用ダイアフラムを前記第2の高強度の部材と協働して挟む積層部材を備え、前記積層部材は、前記圧力計測用ダイアフラムが前記圧力伝達媒体の圧力で変形することにより接触する凹曲面からなる過大圧保護部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、破壊強度が相対的に低い部材が破壊されることがない圧力導通路構造およびこの圧力導通路構造を有する圧力センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る圧力導通路構造を有するセンサ素子の斜視断面図である。
図2図2は、センサ素子の断面図である。
図3図3は、圧力導通路の圧力導入口部分を拡大して示す断面図である。
図4図4は、圧力導通路が閉塞される部分を拡大して示す断面図である。
図5図5は、ガラス部材と第1のシリコン部材との接合部における穴径比と応力比との関係を示すグラフである。
図6図6は、ガラス部材と第2のシリコン部材との接合部における穴径比と応力比との関係を示すグラフである。
図7図7は、シミュレーション解析の結果を示すコンター図である。
図8図8は、シミュレーション解析の結果を示すコンター図である。
図9図9は、圧力導通路構造の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る圧力導通路構造および圧力センサの一実施の形態を図1図9を参照して詳細に説明する。
この実施の形態においては、本発明に係る圧力導通路構造を圧力センサのセンサ素子に適用する場合の一例について説明する。
【0015】
図1に示すセンサ素子1は、パッケージ2の中に収容された圧力センサ3を構成するものである。センサ素子1は、複数の部材を積層して形成されている。
センサ素子1を構成する複数の部材とは、図1において最も下に描かれている第1のシリコン部材4と、この第1のシリコン部材4に重ねられたガラス部材5と、このガラス部材5に重ねられた第2のシリコン部材6と、第2のシリコン部材6にダイアフラム層7を介して重ねられた第3のシリコン部材8と、第3のシリコン部材8に重ねられた第4のシリコン部材9などを有している。第1のシリコン部材4と、第2のシリコン部材6と、ダイアフラム層7と、第3のシリコン部材8と、第4のシリコン部材9は、シリコンによって形成されている。ガラス部材5はガラスによって形成されている。
第1のシリコン部材4と、ガラス部材5と、第2のシリコン部材6は、本発明でいう積層体10を構成するものである。
【0016】
センサ素子1を形成する複数の部材のうち、第1のシリコン部材4と、ガラス部材5と、第2のシリコン部材6とには、本発明に係る圧力導通路構造11を構成する貫通穴12~14がそれぞれ形成されている。この実施の形態によるセンサ素子1には、圧力導通路構造11が2箇所に設けられている。
第1のシリコン部材4の貫通穴12と、ガラス部材5の貫通穴13と、第2のシリコン部材6の貫通穴14とが互いに接続されることにより、一つの圧力導通路15が形成される。この実施の形態においては、第1のシリコン部材4と、ガラス部材5と、第2のシリコン部材6とに二つの圧力導通路15が形成されている。この実施の形態においては、ガラス部材5が本発明でいう「低強度の部材」に相当し、第1のシリコン部材4が本発明でいう「第1の高強度の部材」に相当する。また、第2のシリコン部材6が本発明でいう「第2の高強度の部材」に相当する。
【0017】
第1のシリコン部材4の二つの貫通穴12は、それぞれガラス部材5とは反対側に位置する小径部12aと、ガラス部材5の貫通穴13に接続する大径部12bとによって構成されている。小径部12aには、図2および図3に示すように、導圧用パイプ16の一端部が挿入され、接着剤17によって固着されている。この導圧用パイプ16の他端部は、図示していない受圧室に接続されている。受圧室は、被測定流体の圧力で変位する接液ダイアフラムを壁の一部として形成されている。2本の導圧用パイプ16のうちの一方の導圧用パイプ16には、相対的に圧力が低い被測定流体の圧力が伝達される。他方の導圧用パイプ16には、相対的に圧力が高い被測定流体の圧力が伝達される。
導圧用パイプ16は、圧力導通路15の圧力導入口15aを構成している。
【0018】
ガラス部材5に形成されている貫通穴13の穴径D1は、第1のシリコン部材4に形成されている貫通穴12の大径部12bの穴径D2より小さい。このように穴径D1,D2を設定した理由は後述する。
第2のシリコン部材6の貫通穴14は、ガラス部材5に形成されている貫通穴13に接続される第1の穴14aと、第2のシリコン部材6におけるガラス部材5とは反対側の端面に開口する第2の穴14bとによって構成されている。第1の穴14aの穴径D3は、ガラス部材5に形成されている貫通穴13の穴径D1より小さい。このように穴径D3,D1を設定した理由は後述する。
【0019】
第2の穴14bは、第1の穴14aより穴径が大きくなるように形成され、第2のシリコン部材6の端面に設けられたダイアフラム層7によって閉塞されている。ダイアフラム層7における第2の穴14bを塞ぐ部分は、圧力計測用ダイアフラム18(以下、単にダイアフラム18という)となる。この実施の形態においては、このダイアフラム18が本発明でいう「圧力導通路を閉塞する部材」に相当する。
【0020】
第3のシリコン部材8は、ダイアフラム18を第2のシリコン部材6と協働して挟んでいる。この実施の形態においては、第3のシリコン部材8が本発明でいう「積層部材」に相当する。
第3のシリコン部材8における、第2のシリコン部材6の第2の穴14bにダイアフラム18を介して対向する2箇所には、図4に示すように、それぞれダイアフラム18が壁の一部となる圧力室19が形成されている。二つの圧力室19は、第3のシリコン部材8に形成された貫通穴20と、第3のシリコン部材8と第4のシリコン部材9との間に形成された連通路21とによって互いに連通されている。
【0021】
第3のシリコン部材8と第4のシリコン部材9の内部の空間(二つの圧力室19、貫通穴20、連通路21)と、上述した第1のシリコン部材4、ガラス部材5および第2のシリコン部材6の内部の空間(貫通穴12~14)は、圧力伝達媒体22で満たされている。第4のシリコン部材9には、圧力伝達媒体22を連通路21に注入するための通路穴23が形成されている。通路穴23の開口端は、図示していない栓部材によって閉塞されている。
【0022】
ダイアフラム18には、図示してはいないが、ダイアフラム18の変形を電気信号に変換する回路が設けられている。この回路は、パッケージ2の図示していない配線部に電気的に接続されている。
図4に示すように、圧力室19のダイアフラム18と対向する壁、すなわち第3のシリコン部材8におけるダイアフラム18と対向する部分には、ダイアフラム18が第2の穴14b内の圧力伝達媒体22の圧力で変形することにより接触する凹曲面24が形成されている。ダイアフラム18が凹曲面24に接触した状態においては、圧力導通路15の圧力が過度に増大したとしてもダイアフラム18がそれ以上変形することはない。すなわち、この凹曲面24は、過大圧からダイアフラム18を保護する過大圧保護部25となる。
【0023】
第1のシリコン部材4の貫通穴12(大径部12b)の穴径D2と、ガラス部材5の貫通穴13の穴径D1と、第2のシリコン部材6の第1の穴14aの穴径D3は、圧力伝達媒体22圧力が作用する圧力伝達状態において、ガラス部材5の両側の2箇所の接合面に生じる応力の大きさが予め定めた最小値となるように設定されている。2箇所の接合面とは、図2に示すように、ガラス部材5に第1のシリコン部材4が接合される第1の接合面26と、ガラス部材5に第2のシリコン部材6が接合される第2の接合面27である。
【0024】
第1および第2の接合面26,27に開口する貫通穴(大径部12b、貫通穴13、第1の穴14a)穴径を決めるにあたっては、第1および第2の接合面26,27において各部材に発生する応力をシミュレーション解析によって試算し、この応力が小さくなるように行った。このシミュレーション解析は、ガラス部材5の貫通穴13の穴径D1を一定とし、この穴径D1に対して第1のシリコン部材4の貫通穴(大径部12b)の穴径D2と、第2のシリコン部材6の貫通穴(第1の穴14a)の穴径D3とを増減させ、第1、第2の接合面26,27で各部材に発生する応力の推移が明確になるように実施した。
【0025】
シミュレーション解析の結果は、図5図6とに示すグラフのようになった。図5図6において、縦軸は、ガラス部材5の貫通穴13の穴径D1と、第1のシリコン部材4および第2のシリコン部材6の貫通穴の穴径D2,D3を揃えたときに生じる応力を1とした応力比を示す。横軸は、ガラス部材5の貫通穴13の穴径D1に対する第1のシリコン部材4および第2のシリコン部材6の貫通穴の穴径D2,D3の比である穴径比を示す。また、図5図6において、実線はガラス部材5の接合面に生じる応力を示し、破線は第2のシリコン部材6の接合面に生じる応力を示し、一点鎖線は第1のシリコン部材4の接合面に生じる応力を示す。
【0026】
図5は、第1のシリコン部材4の貫通穴12の大径部12bの穴径D2を変更したときの応力推移を示すグラフである。図5によれば、大径部12bの穴径D2をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さくする(穴径比を小さくする)ほど、実線で示すように、ガラス部材5の接合面(第1のシリコン部材4が接合された接合面)に生じる応力が大きくなることが分かる。ガラス部材5の接合面に生じる応力は、大径部12bの穴径D2を穴径比で1.1倍程度に大きくすることによって最も小さくなり、それ以上大きくすると増大する傾向であることが分かる。一方、第1のシリコン部材4の接合面(ガラス部材5が接合される接合面)に生じる応力は、一点鎖線で示すように、大径部12bの穴径を変えてもガラス部材5に生じる応力ほど大きく変化することはなく、大径部12bの穴径D2を大きくすることにより単調に増加する傾向であることが分かる。
【0027】
大径部12bの穴径D2を設定するためには、ガラス部材5に生じる応力が予め定めた最小値となるだけではなく、次の条件を満たす必要がある。この条件とは、大径部12bを形成する際の公差や、第1のシリコン部材4にガラス部材5を接合する際の接合精度の影響で大径部12bがガラス部材5の貫通穴13に対してずれたとしても、圧力導通路15の長手方向から見てガラス部材5の貫通穴13が大径部12bの中に位置することである。
ガラス部材5に生じる応力は、図5から明らかなように、穴径比が1.1程度であるときに最小になる。このため、大径部12bの穴径D2を穴径比で1.1程度となるような値とすることにより、ガラス部材5に生じる応力が最小になる。穴径比が約1.1であれば、上述した条件を満たすことができる。
【0028】
大径部12bの穴径D2をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さくした場合のシミュレーション解析の結果を示す応力コンター図は図7(A)に示すようになり、大径部12bの穴径D2をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より大きくした場合(最適化した場合)のシミュレーション解析の結果を示す応力コンター図は図7(B)に示すようになる。図7(A),(B)は、第1の接合面26を第1のシリコン部材4側から斜めに見たような図で、応力が大きいほど濃く見えるように描いてある。
大径部12bの穴径D2をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さくした場合は、図7(A)に示すように、貫通穴13の開口縁13aに応力が集中することが分かる。また、大径部12bの穴径D2をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より大きくした場合は、図7(B)に示すように、応力が貫通穴13の開口縁13aから緩やかに分散されることが分かる。
【0029】
図6は、第2のシリコン部材6の第1の穴14aの穴径D3を変更したときの応力推移を示すグラフである。図6によれば、第1の穴14aの穴径D3を小さく(穴径比を小さくする)するほど、実線で示すように、ガラス部材5の接合面(第2のシリコン部材6が接合された接合面)に生じる応力が小さくなることが分かる。一方、第2のシリコン部材6の接合面(ガラス部材5が接合された接合面)に発生する応力は、破線で示すように、第1の穴14aの穴径D3を小さくするほど大きくなることが分かる。このため、ガラス部材5に生じる応力の大きさと、第2のシリコン部材6に生じる応力の大きさとは、トレードオフの関係になる。シリコンの破壊強度は、ガラスの破壊強度より5倍以上に大きいことが知られている。このため、ガラス部材5に生じる応力が十分に小さくなるように第1の穴14aの穴径D3を小さく設定したとしても、第2のシリコン部材6が破壊されることはない。
【0030】
第1の穴14aの穴径D3を設定するためには、ガラス部材5に生じる応力が予め定めた最小値となるだけではなく、以下の条件を満たす必要がある。この条件とは、第1の穴14aを形成する際の公差や、第2のシリコン部材6をガラス部材5に接合する際の接合精度の影響で第1の穴14aがガラス部材5の貫通穴13に対してずれたとしても、圧力導通路15の長手方向から見て第1の穴14aがガラス部材5の貫通穴13の中に位置することである。
【0031】
ガラス部材5に生じる応力が予め定めた最小値となるような第1の穴14aの穴径D3は、シミュレーション結果に基づいて設定することができる。穴径D3は、例えば図6に示されている応力比の値を用いて設定することができる。図6に示す応力比の最小値は、0.9から0.95の間である。このときの穴径比は0.7である。穴径比が0.7であれば上述した条件は満たされる。
穴径D3を設定するにあたっては、図6に図示されている応力比を下回るような応力比に基づいて行うことができるし、値が0.9と1との間となるような応力比に基づいて行うことができる。
【0032】
第1の穴14aの穴径D3をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さくした場合のシミュレーション解析の結果を示す応力コンター図は図8(A)に示すようになり、第1の穴14aの穴径D3をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より大きくした場合のシミュレーション解析の結果を示す応力コンター図は、図8(B)に示すようになる。図8(A),(B)は、第2の接合面27を第2のシリコン部材6側から見たような図で、応力が大きいほど濃く見えるように描いてある。
図8(A)から分かるように、第1の穴14aの穴径D3をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さくした場合、ガラス部材5の接合面に生じる応力は、貫通穴13を中心して略一定の幅で緩やかに分散されていることが分かる。
一方、第1の穴14aの穴径D3をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より大きくした場合には、図8(B)に示すように、貫通穴13の開口縁13bに応力が集中していることが分かる。
【0033】
このシミュレーション解析の結果、図9に示すように、第2のシリコン部材6の第1の穴14aの穴径D3をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より小さくし、第1のシリコン部材4の貫通穴12の大径部12bの穴径D2をガラス部材5の貫通穴13の穴径D1より大きくする圧力導通路構造11を採ることによって、ガラス部材5に生じる応力を小さくできることが分かった。図9は、穴径の違いが分かるように穴の形状を簡略化して描いてある。
【0034】
したがって、図9に示す圧力導通路構造11を採ることにより、センサ素子1を構成する部材のうち、破壊強度が相対的に低い部材(ガラス部材5)が破壊されることがない圧力センサを提供することができる。
【0035】
この実施の形態による圧力導通路15の圧力導入口15aを構成する部材は、第1のシリコン部材4(第1の高強度の部材)に固着された導圧用パイプ16である。このため、第1のシリコン部材4の圧力伝達媒体22から圧力を受ける部分のうち、第1のシリコン部材4がガラス部材5から離れる方向に圧力が作用する部分の受圧面積を小さくすることができる。したがって、この実施の形態を採ることにより、より一層耐圧強度が高いセンサ素子が実現される。
【0036】
この実施の形態による第3のシリコン部材8は、過大圧保護部25となる凹曲面24を有している。このため、この点からもセンサ素子の耐圧強度を高くすることができる。
【0037】
上述した実施の形態においては、第1のシリコン部材4と、ガラス部材5と、第2のシリコン部材6とからなる3個の部材で積層体10を構成する例を示した。しかし、本発明に係る「積層体」は、3個に限定されることはなく、低強度の部材が2つの高強度の部材で挟まれる基本構造を有していれば、3個以上の部材によって形成することができる。
【0038】
上述した実施の形態においては、本発明を圧力センサのセンサ素子に適用する例を示した。しかし、本発明は、圧力導通路が少なくとも3個の部材を積層して形成されるデバイスであれば、どのようなものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…センサ素子、2…パッケージ、3…圧力センサ、4…第1のシリコン部材(第1の高強度の部材)、5…ガラス部材(低強度の部材)、6…第2のシリコン部材(第2の高強度の部材)、7…ダイアフラム層、8…第3のシリコン部材(積層部材)、9…第4のシリコン部材、10…積層体、11…圧力導通路構造、12~14…貫通穴、15…圧力導通路、16…導圧用パイプ(圧力導入口)、17…接着剤、18…圧力計測用ダイアフラム(圧力導通路を閉塞する部材)、19…圧力室、20…貫通穴、21…連通路、22…圧力伝達媒体、23…通路穴、24…凹曲面、25…過大圧保護部、26…第1の接合面、27…第2の接合面。
図1
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図9