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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168630
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20241128BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085470
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA04
3D054AA07
3D054AA08
3D054AA22
3D054BB30
3D054CC04
3D054CC15
3D054DD07
3D054FF12
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】前席シートとの位置関係が変化した場合であっても安定した反力を得られるエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】シート1に着座した乗員Pの前方側で展開するエアバッグ100を有するエアバッグ装置を、車両の衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出部220と、衝突検出部の出力に基づいてエアバッグに展開用ガスを供給する展開用ガス供給部230とを備え、エアバッグは、乗員の膝部の前方で展開する下半身拘束用バッグ110と、下半身拘束用バッグと乗員の上体との間に設けられ上体に対向する面状に配列された複数の上半身拘束用バッグ120,130,140とを有する構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した乗員の前方側で展開するエアバッグを有するエアバッグ装置であって、
車両の衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出部と、
前記衝突検出部の出力に基づいて前記エアバッグに展開用ガスを供給する展開用ガス供給部とを備え、
前記エアバッグは、
乗員の膝部の前方で展開する下半身拘束用バッグと、
前記下半身拘束用バッグと前記乗員の上体との間に設けられ前記上体に対向する面状に配列された複数の上半身拘束用バッグとを有すること
を特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記複数の上半身拘束用バッグは、左右方向に配列されて展開する左側バッグ、右側バッグ、及び、左側バッグと右側バッグの下方で展開する下側バッグを有すること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記下側バッグは、前記下半身拘束用バッグを介して展開用ガスが導入され、
前記左側バッグ及び前記右側バッグは、前記下側バッグを介して展開用ガスが導入されること
を特徴とする請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記左側バッグと前記右側バッグとは、前記下側バッグ内を介してのみ連通していること
を特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記複数の上半身拘束用バッグは球体状に形成されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
後席用のエアバッグ装置に関する技術として、例えば特許文献1には、後方の座席の乗員から前方の座席までの距離の変化に係わらず、後方の座席の乗員を好適に保護するため、エアバッグ装置は、フロントシートとリヤシートの間で膨張展開して乗員を保護するエアバッグと、エアバッグとフロントシートの間で膨張展開する補助エアバッグとを備えることが記載されている。エアバッグ及び補助エアバッグは、第1インフレータ及び第2インフレータからのガスの供給により膨張展開し、補助エアバッグは、制御装置による展開制御処理によって、乗員からフロントシートまでの距離が近い場合には膨張展開されず、距離が遠い場合に膨張展開されることが記載されている。
特許文献2には、下半身を守るエアバッグ本体と頭部を守る別個のエアバッグとからなる二段エアバッグ安全装置が記載されている。エアバッグ本体と別個のエアバッグとは、排気口により連結しており、エアバッグ本体に気体(ガス)を供給し、別個のエアバッグには排気口を介してガスが流入することが記載されている。
特許文献3には、前席後部の上方に上半身保護用の球状エアバッグと、下方に下半身保護用の球状エアバッグとを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006- 88902号公報
【特許文献2】特開昭49- 92729号公報
【特許文献3】実公昭47- 43142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前面衝突時に、車両の後席(2列目以降の座席)に着座する乗員の上半身を保護する安全装置において、前席のバックレストを反力にエアバッグを展開して衝突エネルギを吸収する手法が提案されている。
しかし、この場合、前席の位置やバックレストの角度によって後席乗員との関係が異なってしまい、安定した乗員拘束性能を得られないことが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、前席シートとの位置関係が変化した場合であっても安定した反力を得られるエアバッグ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係るエアバッグ装置は、シートに着座した乗員の前方側で展開するエアバッグを有するエアバッグ装置であって、車両の衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出部と、前記衝突検出部の出力に基づいて前記エアバッグに展開用ガスを供給する展開用ガス供給部とを備え、前記エアバッグは、乗員の膝部の前方で展開する下半身拘束用バッグと、前記下半身拘束用バッグと前記乗員の上体との間に設けられ前記上体に対向する面状に配列された複数の上半身拘束用バッグとを有することを特徴とする。
これによれば、下半身拘束用バッグと上半身拘束用バッグとが乗員の上体と膝部との間で反力を得ることが可能であり、シートの前方に設けられる他のシート(前席シート)との位置関係に関わらず安定した反力を得て乗員拘束性能を向上することができる。
【0006】
本発明において、前記複数の上半身拘束用バッグは、左右方向に配列されて展開する左側バッグ、右側バッグ、及び、左側バッグと右側バッグの下方で展開する下側バッグを有する構成とすることができる。
これによれば、簡単な構成により効果的に乗員の上体を拘束することができる。
【0007】
本発明において、前記下側バッグは、前記下半身拘束用バッグを介して展開用ガスが導入され、前記左側バッグ及び前記右側バッグは、前記下側バッグを介して展開用ガスが導入される構成とすることができる。
これによれば、エアバッグの展開時に、先ず下半身拘束用バッグ及び下側バッグを展開させることにより、乗員の腹部と骨盤部を拘束し、上半身の挙動を安定化することができる。
【0008】
本発明において、前記左側バッグと前記右側バッグとは、前記下側バッグ内を介してのみ連通している構成とすることができる。
これによれば、乗員の上体にヨー挙動(鉛直軸回りの回転挙動)が発生し、左側バッグ又は右側バッグのいずれかが乗員の肩部を拘束する際の反力を高めることができる。
【0009】
本発明において、前記複数の上半身拘束用バッグは球体状に形成される構成とすることができる。
これによれば、簡単な構成により上述した効果を適切に得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、前席シートとの位置関係が変化した場合であっても安定した反力を得られるエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態のエアバッグ装置が展開した状態を示す模式的側面視図である。
図2】実施形態のエアバッグを車両後方側(乗員側)から見た状態を示す図である。
図3】実施形態のエアバッグを車両前方側(前席側)から見た状態を示す図である。
図4】実施形態のエアバッグ内の展開用ガス流路の構成を示す図である。
図5】実施形態のエアバッグが乗員の前方側で展開した状態を示す図であって、乗員が正面を向いている状態を示す図である。
図6】実施形態のエアバッグが乗員の前方側で展開した状態を示す図であって、乗員の身体が左側にヨーイングしている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したエアバッグ装置の実施形態について説明する。
実施形態のエアバッグ装置は、例えば乗用車等の車両の後席シート用として搭載されるものである。
なお、本明細書等において、後席シートとは、前後方向に複数列のシートを配列した場合の2列目以降のシートを総称するものとする。
【0013】
図1は、実施形態のエアバッグ装置が展開した状態を示す模式的側面視図である。
エアバッグ装置による拘束対象となる乗員Pは、後席シート1に着座している。
後席シート1の前方側には、図示しない前席シートのバックレスト部が設けられている。
後席シート1は、シートクッション部10、バックレスト部20を有する。
シートクッション部10は、乗員Pの腰部、大腿部が載せられる部分である。
バックレスト部20は、乗員Pの背部に対向して配置された部分である。
バックレスト部20は、シートクッション部10の後端部近傍から上方側へ張り出している。
【0014】
エアバッグ装置は、エアバッグ100、エアバッグ制御ユニット210、エアバッグセンサ220、インフレータ230等を有して構成されている。
エアバッグ100は、例えばナイロン系繊維の基布パネルを袋状に縫合したバッグ部(袋状体)を複数有する。
エアバッグ100は、未使用状態(展開前)の状態においては、折り畳まれて前席シートのバックレスト部に設けられたリテーナに収容されている。
エアバッグ100は、インフレータ230から展開用ガスGを供給されることにより乗員Pの前方で展開する。
【0015】
エアバッグ100は、下半身拘束用バッグ110、及び、上半身拘束用エアバッグ群を構成する下側バッグ120、左側バッグ130、右側バッグ140を有する。
図2は、エアバッグ100を車両後方側(乗員側)から見た状態を示す図である。
図3は、エアバッグ100を車両前方側(前席側)から見た状態を示す図である。
【0016】
下半身拘束用バッグ110は、乗員Pの膝部前方側で展開する。
下半身拘束用バッグ110の下端部は、前席バックレスト部に設けられたインフレータ230に接続されている。
下半身拘束用バッグ110のインフレータ230との接続箇所は、下半身拘束用バッグ110の支持箇所として機能する。
下半身拘束用バッグ110は、展開後における形状が、回転軸(楕円の長軸)が上下方向に延在した回転楕円体状となるように形成されている。
【0017】
上半身拘束用エアバッグ群は、下半身拘束用バッグ110の車両後方側に取り付けられている。
上半身拘束用エアバッグ群は、乗員Pの上体と対向する面状に配置されている。
下側バッグ120は、上半身拘束用エアバッグ群の下部に設けられ、乗員Pの腹部、腰部の前方側で展開する。
【0018】
左側バッグ130、右側バッグ140は、下側バッグ120の上方左右でそれぞれ展開する。
左側バッグ130は、乗員Pの左肩部の前方側で展開する。
右側バッグ140は、乗員Pの右肩部の前方側で展開する。
下側バッグ120、左側バッグ130、右側バッグ140は、展開後における形状が、それぞれ球体状に形成されている。
【0019】
エアバッグ制御ユニット210は、エアバッグセンサ220の出力に基づいて、インフレータ230を制御しエアバッグ100の展開を制御するものである。
エアバッグ制御ユニット210は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROM等の記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイコンとして構成することが可能である。
【0020】
エアバッグセンサ220は、車両の前面衝突を検出する加速度センサ等のセンサである。
エアバッグ制御ユニット210は、車体に所定以上の加速度が作用した場合にエアバッグセンサ220の出力に基づいて衝突判定を成立させ、インフレータ230を作動させる。
【0021】
インフレータ230は、エアバッグ制御ユニット210が衝突判定を成立した場合に、展開用ガスを発生させエアバッグ100に導入する展開用ガス供給部である。
インフレータ230は、例えば化薬式のガス発生装置を有する。
【0022】
図4は、エアバッグ内の展開用ガス流路の構成を示す図である。
なお、図4において、左側バッグ130は図示を省略するが、左側バッグ130は右側バッグ140と左右対称に構成されている。
インフレータ230は、下半身拘束用バッグ110の下端部かつ前端部に設けられたガス導入口111に展開用ガスGを導入する。
下半身拘束用バッグ110と下側バッグ120との接合部には、下半身拘束用バッグ110から下側バッグ120に展開用ガスGを導入するガス導入口121が設けられている。
下半身拘束用バッグ110と右側バッグ140、左側バッグ130との接合部には、展開用ガスGの連通流路は設けられていない。
【0023】
下側バッグ120には、余剰な展開用ガスGを外部(車室内)に放出するベントホール122が設けられている。
下側バッグ120と右側バッグ140との接続部には、下側バッグ120から右側バッグ140に展開用ガスGを導入するガス導入口141が設けられている。
右側バッグ140は、下側バッグ120を介してのみ展開用ガスGが供給されるようになっている。(左側バッグ130も同様)
右側バッグ140と左側バッグ130との接合部には、展開用ガスGの連通流路は設けられていない。
右側バッグ140と左側バッグ130とは、下側バッグ120内を介してのみ連通している。
【0024】
図5は、実施形態のエアバッグが乗員の前方側で展開した状態を示す図であって、乗員が正面を向いている状態を示す図である。
図5に示す状態においては、乗員Pはエアバッグ100に対して正対しており、乗員Pの頭部は、左側バッグ130の上部と右側バッグ140の上部とに挟み込まれるよう拘束される。
乗員Pの右肩部及び左肩部は、左側バッグ130、右側バッグ140によって均等に支持、拘束される。
【0025】
図6は、実施形態のエアバッグが乗員の前方側で展開した状態を示す図であって、乗員の身体が左側にヨーイングしている状態を示す図である。
図6に示す状態においては、乗員Pの上体が、右肩が前進する方向に回動するとともに、頭部が左側に倒れ込んでいる。
これにより、右側バッグ140が左側バッグ130に対して強く前方側に押し込まれるが、右側バッグ140と左側バッグ130とが直接連通していないことから、右側バッグ140の内圧が向上する。
右側バッグ140は、内圧が向上することにより、乗員Pの右肩部をより強固に拘束する反力CFを発生することができる。
【0026】
以上説明した実施形態によれば、以下説明する効果を得ることができる。
(1)エアバッグ100は、乗員Pの膝部の前方で展開する下半身拘束用バッグ110と、下半身拘束用バッグと乗員Pの上体との間に設けられ上体に対向する面状に配列された複数の上半身拘束用エアバッグ120,130,140とを有することにより、下半身拘束用バッグ110と上半身拘束用エアバッグ120,130,140とが乗員Pの上体と膝部との間で反力を得ることが可能であり、シート1の前方に設けられる他のシート(前席シート)との位置関係に関わらず安定した反力を得て乗員拘束性能を向上することができる。
(2)上半身拘束用エアバッグは、左右方向に配列されて展開する左側バッグ130、右側バッグ140、及び、左側バッグ130と右側バッグ140の下方で展開する下側バッグ120を有することにより、簡単な構成により効果的に乗員Pの上体を拘束することができる。
(3)下側バッグ120は、下半身拘束用バッグ110を介して展開用ガスが導入され、左側バッグ130及び右側バッグ140は、下側バッグ120を介して展開用ガスGが導入されることにより、エアバッグ100の展開時に、先ず下半身拘束用バッグ110及び下側バッグ120を展開させることにより、乗員Pの腹部と骨盤部を拘束し、上半身の挙動を安定化することができる。
(4)左側バッグ130と右側バッグ140とは、下側バッグ120内を介してのみ連通していることにより、乗員Pの上体にヨー挙動が発生し、左側バッグ130又は右側バッグ140のいずれかが乗員Pの肩部を拘束する際の反力を高めることができる。
(5)下側バッグ120、左側バッグ130、右側バッグ140は球体状に形成されることにより、簡単な構成により上述した効果を適切に得ることができる。
【0027】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エアバッグ装置、車両用シート、車両を構成する各部材の形状、構造、材質、製法、配置、数量等は、上述した実施形態に限定されず適宜変更することができる。
(2)実施形態においては、上半身拘束用エアバッグを例えば3つ設けているが、この個数及び配置は特に限定されず適宜変更することができる。
(3)実施形態においては、エアバッグを単一のインフレータによって展開させる構成としてるが、本発明はこれに限らず、複数のインフレータを有する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 シート 10 シートクッション部
20 バックレスト部 100 エアバッグ
110 下半身拘束用バッグ 111 ガス導入口
120 下側バッグ 121 ガス導入口
122 ベントホール 130 左側バッグ
140 右側バッグ 141 ガス導入口
210 エアバッグ制御ユニット 220 エアバッグセンサ
230 インフレータ P 乗員
G 展開用ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6