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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168639
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】生体内可視化装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0536 20210101AFI20241128BHJP
【FI】
A61B5/0536
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085482
(22)【出願日】2023-05-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 発行日(公開日) 2022年5月25日 刊行物名 日本機械学会論文集 発行者 一般社団法人日本機械学会(Web公開URL DOI: https://doi.org/10.1299/transjsme.22-00090 ) <資 料> 日本機械学会論文集 Web公開ページ <資 料> 日本機械学会論文集 Web公開 研究論文 (2) 発行日(公開日) 2022年6月24日 刊行物名 第61回日本生体医工学会大会 予稿集/抄録 発行者 公益社団法人日本生体医工学会 *参加者専用パスワードにて、参加者のみ閲覧可 (3) 公開日 2022年6月28日(会期:2022年6月28日~30日) 集会名 開催場所 第61回日本生体医工学会大会 朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター) (新潟県新潟市中央区万代島6番1号) 主催 公益社団法人日本生体医工学会 <資 料> 第61回日本生体医工学会大会 開催概要 <資 料> 第61回日本生体医工学会大会 プログラム及び抄録 <資 料> 第61回日本生体医工学会大会 発表資料 (4) 発行日(公開日) 2022年11月7日 刊行物名 IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement 発行者 Institute of Electrical and Electronics Engineers(Web公開URL DOI: https://doi.org/10.1109/TIM.2022.3220282 ) <資 料> IEEE 研究論文 Web公開ページ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム「リンパ浮腫トモグラフィック・モニタ(LTモニタ)の実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】武居 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】小川 良磨
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127BB05
4C127GG13
4C127HH13
(57)【要約】
【課題】時間・空間における局所的な変化を特定可能な生体内可視化装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る生体内可視化装置は、互いに間隔をあけて被験者の皮膚に配置可能な複数の電極を備えるセンサを有し、皮膚に各電極が接触した状態で、各電極間に電流又は電位差を印加し、電流を印加する場合は電流印加電圧測定パターンに基づき電位差および位相である第1測定データを測定し、各電極間に電位差を印加する場合は電圧印加電流測定パターンに基づき電流および位相である第2測定データを測定する、電流電圧印加測定部と、第1測定データまたは前記第2測定データと所定のパラメータとに基づき、前記被験者の体内の電気物性分布を作成する画像再構成部と、電気物性分布に対して対象領域を識別化する識別化処理を行い、識別後電気物性分布を作成する、対象領域識別部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて被験者の皮膚に配置可能な複数の電極を備えるセンサを有し、
前記皮膚に前記各電極が接触した状態で、前記各電極間に電流又は電位差を印加し、前記電流を印加する場合は電流印加電圧測定パターンに基づき電位差および位相である第1測定データを測定し、前記各電極間に前記電位差を印加する場合は電圧印加電流測定パターンに基づき電流および位相である第2測定データを測定する、電流電圧印加測定部と、
前記第1測定データまたは前記第2測定データと所定のパラメータとに基づき、前記被験者の体内の電気物性分布を作成する画像再構成部と、
前記電気物性分布に対して対象領域を識別化する識別化処理を行い、識別後電気物性分布を作成する、対象領域識別部と、
を備える、生体内可視化装置。
【請求項2】
前記識別化処理が、所定の閾値に基づいて行われる、請求項1に記載の生体内可視化装置。
【請求項3】
前記対象領域識別部が、
前記電気物性分布に対して標準偏差処理を行うことで、対象領域指標分布を作成し、
前記対象領域指標分布に対し、前記識別化処理を行うことで、前記識別後電気物性分布を作成する、請求項1または2に記載の生体内可視化装置。
【請求項4】
前記画像再構成部が、
前記第1測定データまたは前記第2測定データから得られたインピーダンス、レジスタンス、リアクタンス、キャパシタンス、アドミタンス、コンダクタンス、サセプタンス及び位相の少なくとも1種から多重測定行列を作成し、
前記多重測定行列および前記所定のパラメータから前記電気物性分布を作成し、
前記所定のパラメータが、スパース性に関する事前分散ベクトルγ、時間相関に関する正定値行列B、およびノイズに関する多次元正規分布の分散値λを含む、請求項1または2に記載の生体内可視化装置。
【請求項5】
少なくとも前記識別後電気物性分布に基づいて、前記所定のパラメータを更新する学習部をさらに備える、請求項1に記載の生体内可視化装置。
【請求項6】
前記学習部が、expectation-maximizationアルゴリズムを用いて、平均データ尤度を最大化することで、前記所定のパラメータを更新する、請求項5に記載の生体内可視化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療・介護・ヘルスケアの分野において、高齢化や精神的ストレスに伴う疾患が大きな社会問題となっている。特に高齢者疾患と併発することの多い浮腫・高齢に伴う筋量などが低下するサルコペニアなどは社会的損失が大きく、これらの疾患の状態の評価として、生体内の体液や組織の異常などを可視化することの重要性が、医療・介護・ヘルスケアの分野で認識されている。
【0003】
疾患の状態の評価を目的に生体内の体液や組織の異常などを可視化する装置としては、例えば、X線コンピューティッド・トモグラフィ(CT)、核磁気共鳴イメージング(MRI)などが用いられている。しかし、X線CT、MRIはきわめて高価で巨大なものであり、適切な撮影条件の担保や安全対策に費用と手間がかかることから、簡易的に生体内を可視化することは困難である。
【0004】
簡易的な生体内可視化装置としては、例えば、特許文献1に、使用者の腕又は足の周囲に配置される複数の電極を備えた電極バンドと、アルブミン特有の緩和周波数に関する電気的特性を測定する計測手段、前記計測手段が測定した電気的特性に基づき早期リンパ浮腫を検出するリンパ浮腫推測手段と、を備えた情報処理装置と、を有するリンパ浮腫モニタ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6555715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の測定技術によれば、計測する断面に含まれる体液や組織の量や低解像度の分布を測定することはできるが、疾患の状態の評価が行えるほどの高解像度の分布は測定できない。すなわち、生体内の体液や組織の空間分布は複雑であり、また、正常か異常かに関わらず体液などは僅かな時間でも大きく変化していることから、特許文献1の測定技術よりも、時間・空間における局所的変化をより詳細に特定可能な生体内可視化技術が求められている。
【0007】
本発明は上記の事情を鑑みなされた発明であり、簡易的かつ高精度に、時間・空間における局所的な変化を特定可能な生体内可視化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1>本発明の態様1の生体内可視化装置は、
互いに間隔をあけて被験者の皮膚に配置可能な複数の電極を備えるセンサを有し、
前記皮膚に前記各電極が接触した状態で、前記各電極間に電流又は電位差を印加し、前記電流を印加する場合は電流印加電圧測定パターンに基づき電位差および位相である第1測定データを測定し、前記各電極間に前記電位差を印加する場合は電圧印加電流測定パターンに基づき電流および位相である第2測定データを測定する、電流電圧印加測定部と、
前記第1測定データまたは前記第2測定データと所定のパラメータとに基づき、前記被験者の体内の電気物性分布を作成する画像再構成部と、
前記電気物性分布に対して対象領域を識別化する識別化処理を行い、識別後電気物性分布を作成する、対象領域識別部と、
を備える。
<2>本発明の態様2は、態様1の生体内可視化装置において、
前記識別化処理が、所定の閾値に基づいて行われてもよい。
<3>本発明の態様3は、態様1または態様2の生体内可視化装置において、
前記対象領域識別部が、
前記電気物性分布に対して標準偏差処理を行うことで、対象領域指標分布を作成し、
前記対象領域指標分布に対し、前記識別化処理を行うことで、前記識別後電気物性分布を作成してもよい。
<4>本発明の態様4は、態様1または態様2の生体内可視化装置において、
前記画像再構成部が、
前記第1測定データまたは前記第2測定データから得られたインピーダンス、レジスタンス、リアクタンス、キャパシタンス、アドミタンス、コンダクタンス、サセプタンス及び位相の少なくとも1種から多重測定行列を作成し、
前記多重測定行列および前記所定のパラメータから前記電気物性分布を作成し、
前記所定のパラメータが、スパース性に関する事前分散ベクトルγ、時間相関に関する正定値行列B、およびノイズに関する多次元正規分布の分散値λを含んでもよい。
<5>本発明の態様5は、態様1の生体内可視化装置において、
少なくとも前記識別後電気物性分布に基づいて、前記所定のパラメータを更新する学習部をさらに備えてもよい。
<6>本発明の態様6は、態様5の生体内可視化装置において、
前記学習部が、expectation-maximizationアルゴリズムを用いて、平均データ尤度を最大化することで、前記所定のパラメータを更新してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記各態様によれば、X線CT装置やMRI装置に代わる非侵襲的な生体内可視化装置となる。また、識別化処理の実施や最適化されたスパース性・時間相関・ノイズに関するパラメータが使用可能となるため、従来技術では困難であった時間・空間における局所的な変化を特定可能な生体内可視化装置を提供することができる。また、生体内の体液や組織の局所的な状態を評価することで、様々な疾患・健康状態の診断をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る皮膚内部計測装置の模式図である。
図2図1の電流電圧印加計測部の模式図である。
図3A】対極法による電流印加電圧測定パターンを説明するための図である。
図3B】隣接法による電流印加電圧測定パターンを説明するための図である。
図3C】リファレンス法による電流印加電圧測定パターンを説明するための図である。
図4】本実施形態に係る生体内可視化方法のフローチャートである。
図5A】は、ヒト脹脛の簡易的な模擬画像である。
図5B】は、条件1のリンパ浮腫模擬条件を示した図である。
図5C】は、条件2の静脈性浮腫模擬条件を示した図である。
図6】条件1における実施例、比較例および従来例で画像再構成された導電率分布Δσを示す図である。
図7】条件2における実施例、比較例および従来例で画像再構成された導電率分布Δσを示す図である。
図8】実験例2で用いた測定装置の模式図である。
図9】皮下脂肪組織(SAT)の細胞外液(ECF)に局所的時空間変化(LSTC)を誘発するための長時間の立位と脚の挙上に関する実験プロトコルを説明するための図である。
図10】生体内可視化装置によって再構成された、ある被験者の周波数差導電率分布Δσである。
図11A】典型的なヒトの脹脛の断面図である。
図11B】被験者No.12のΔσである。
図11C】当該被験者のEIT電極No.(4)付近の超音波画像である。
図12】分離されたSATにおける正規化された空間平均伝導率<Δσ>SATと、長時間の立位と脚の挙上中の正規化された従来のBIAインピーダンスzBIAを示す図である。
図13】ある被験者の脹脛に対して、分離されたSATの空間平均導電率<Δσ>SATと従来のインピーダンスzBIAとの相関を示す図である。
図14】被験者15人の右脚のΔLECFの時間変化を示す図である。
図15】被験者15人の従来の生体電気インピーダンス分析(従来のBIA)によって測定された、ECFmax(ΔLECF)の最大体積変化(t8=40分でのΔLECF)と右脚vRLの筋肉量との間に相関を示す図である。
図16A】筋肉、SAT、およびGSVを含む人間の脹脛の例である。
図16B】シミュレーションのための導電率値σの条件を示す図である。
図17A】不安定な背景場の下で各アルゴリズムによって画像再構成されたiter=15でのΔσである。
図17B】理想的な再構成画像である。
図17C】対応する正規化された空間平均伝導率<Δσk>perturbである。
図17D】実施例、比較例および従来例の<LE>、SE、INである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る生体内可視化装置100を説明する。図1に示すように、生体内可視化装置100は、電流電圧印加測定部10および測定計算部50を備える。測定計算部50は、画像再構成部52、対象領域識別部53、学習部54、および出力部55を備える。生体内可視化装置100の測定計算部50は、例えば、Central Processing Unit(CPU)、Read Only Memory(ROM)、Random Access Memory(RAM)及びHard Disk Drive(HDD)/Solid State Drive(SSD)を備える。画像再構成部52、対象領域識別部53、学習部54、出力部55は、CPUにおいて、所定のプログラムを実行することで実現される。プログラムは、記録媒体経由で取得してもよく、ネットワーク経由で取得してもよい。また、生体内可視化装置100の構成を実現するための専用のハードウェア構成を用いてもよい。以下、各部について説明する。
【0012】
(電流電圧印加測定部10)
電流電圧印加測定部10について、図2を用いて説明する。図2は、被験者の脚にセンサ20を配置した状態の電流電圧印加測定部10の模式図である。図2に示すように、電流電圧印加測定部10は、1つ以上のセンサ20と制御部30とを備える。センサ20は、互いに間隔をあけて皮膚に配置可能な複数の電極21(一例として電極数Q=16として図示)および電極21を保持する支持体25を備える。電流電圧印加測定部10は、1つ以上のセンサ20を用い、センサ20の各電極21が被測定者の皮膚に接触した状態で、各電極21間に所定の電流または電位差を印加し、電位差または電流を測定する。ここで、電位差とは二つの電極間の電圧の差を表す。電流を印加する場合は、あらかじめ決めた電流印加電圧測定パターン(多数ある電極から二つずつの電極を順番に選び、電流を印加し順次電位差を測定するパターン)に基づき、電位差を測定する。このとき、位相(印加電流と測定電位差との時間的なずれ)も測定することが望ましい。電位差を印加する場合は、あらかじめ決めた電圧印加電流測定パターン(多数ある電極から二つずつの電極を順番に選び、電位差を印加し順次電流を測定するパターン)に基づき、電流を測定する。このとき、位相(印加電位差と測定電流との時間的なずれ)も測定することが好ましい。以後、電流を印加する場合を中心に記載し、電位差を印加する場合の詳細な記載を省略する場合もある。ここで、電極21の数Qは例えば、3以上である。電極21の数Qは8以上が好ましい。電極21の数Qは32個以下が好ましい。電極21の数Qは、16個以下であってもよい。濃度分布の精度を高めるために電極の数は多いほうが好ましい。電極21の配置位置は、特に限定されない。電極15は、被験者者の周囲(ここでは、脚の周囲)を取り囲むように、均等に間隔をおいて配置されることが好ましい。
【0013】
電極21は、電気的に制御部30と接続される。被測定者の皮膚に電流または電位差を印加できれば、電極21の材質や形状は特に限定されない。電極21の材質としては、例えば、Au、Ag、Cu、ステンレスなどの金属、導電性高分子、表面を金属で被覆した繊維、導電性高分子で表面を被覆した繊維などが挙げられる。各電極21を皮膚に接触させるために電流印加方向に対して垂直な面における電極21の形状は特に限定されないが、例えば、円形、多角形状である。電極21は非侵襲的電極であることが好ましい。
【0014】
電極21と制御部30との電気的な接続方法は、特に限定されず、公知の電気的接続方法を用いることができる。本実施形態では、各電極21と制御部30とは電線41で接続される。
【0015】
支持体25は、電極21を保持できれば特に限定されない。支持体25は、電極21を被験者の皮膚に配置可能であることが好ましい。ここで、「被験者の皮膚に配置可能な」とは、被験者がセンサ20を着用した際、各電極21が皮膚と接触されるように配置されることをいう。
【0016】
支持体25は、被験者に電極21を密着できる程度に所定の圧力が印加できることが好ましい。これによって、電極21と被験者との密着性が向上し、より正確に電流または電位差を印加し、電位差または電流を測定することができる。支持体25の材質としては、特に限定されず、例えば、エラストマー、革、布などの絶縁体が好ましい。支持体25の形状は、特に限定されないが、例えば、バンド状などが挙げられる。
【0017】
(制御部)
制御部30は、例えば、電流を印加する電流印加電極(または電位差を印加する電圧印加電極)と電位差を測定する電圧測定電極(または電流を測定する電流測定電極)の切り替えを行うためのマルチプレクサ、電圧測定(または電流測定)と位相測定を行うインピーダンスアナライザなどを備える。インピーダンスアナライザとは、印加周波数と振幅を変化させて、インピーダンス、すなわち、測定電位差(印加電位差)と印加電流(測定電流)の比、および、その位相とを測定する部品である。制御部30は、例えば、CPUにおいて、所定のプログラムを実行し、マルチプレクサおよびインピーダンスアナライザを制御することで、インピーダンス測定(電位差と電流の比、およびその位相の測定)を行う。電流電圧印加測定部10内部だけで制御部30を制御し、インピーダンス測定を行ってもよいし、測定計算部50で実行されたプログラムに応じて制御部30を制御し、インピーダンス測定を行ってもよい。インピーダンス測定の結果は、測定計算部50に送られる。測定計算部50への情報の伝達方法は特に限定されない。制御部30から有線で測定計算部50に送ってもよいし、その他の伝達手段により、測定計算部50に送ってもよい。
【0018】
図3A図3Bおよび図3Cの電極配置を例にして電極21への電流印加電圧測定パターンを説明する。電極21の位置を表す番号は、例えば、基準となる第1電極から反時計回りに番号が振られる。電流印加電圧測定パターンの数Mは、各電流印加電圧測定パターンで異なる。以下、各電流印加電圧測定パターンについて説明する。以下、電流印加電圧測定パターンの例を説明するが、本発明は、以下の電流印加電圧測定パターンに限定されない。
【0019】
まず、対極法による電流印加電圧測定パターンについて説明する。この場合、対向する一対の電極間に電流を印加する。例えば、図3Aで説明をすると、1番電極と9番電極、2番電極と10番電極といったように、対向する電極に電流を印加する。図3Aの場合は、電極数Qが16であるので、全部で8通りある。電位差は、電流を印加する電極を除外した第2電極および第3電極、第3電極および第4電極のように電極ペアで測定し、第2電極および第3電極の電極ペアから第15電極と第16電極の電極ペアまで測定するので、1つの電流印加パターンに13通りの電圧測定パターン(電位差測定パターン)が存在する。したがって、対極法の場合、測定数(測定パターン)Mは、全部で104通りとなる。ここで、電流を印加して電位差を測定した場合は、測定パターンは、電圧測定パターンとなる。電位差を印加して電流を測定した場合は、測定パターンは電流測定パターンとなる。
【0020】
次に、隣接法による電流印加電圧測定パターンについて説明する。この場合、隣接する電極間に電流を印加する。例えば図3Bで説明をすると、1番電極と2番電極、2番電極と3番電極といったように、隣接する電極に電流を印加する。図3Bの場合は、電極数Qが16であるので、全部で16通りある。電位差は、電流を印加する電極を除外した第3電極および第4電極のように電極ペアで測定し、第3電極および第4電極から第15電極と第16電極まで測定するので、1つの電流印加パターンに13通りの電圧測定パターン(電位差測定パターン)が存在する。したがって、隣接法の場合では、測定数(測定パターン)Mは、全部で208通りとなる。
【0021】
リファレンス法による電流印加電圧測定パターンについて説明する。この場合、基準となる電極と、基準となる電極以外の電極との間のすべての組み合わせで電位差を測定する。例えば、図3Cで説明をすると、1番電極と2番電極、1番電極と3番電極といったように、基準となる電極と基準となる電極以外の電極との間に電流を印加する。図3Cの場合は、電極数Qが16であるので、全部で16通りある。電位差は、電流を印加する電極を除外した第3電極および第4電極のように電極ペアで測定し、第3電極および第4電極の電極ペアから第15電極と第16電極の電極ペアまで測定するので、1つの電流印加パターンに13通りの電圧測定パターン(電位差測定パターン)が存在する。したがって、リファレンス法では、測定数(測定パターン)Mは、全部で208通りとなる。
【0022】
以下、本実施形態の生体内可視化装置100では、隣接法を用いて、電位差を測定した例について説明する。なお、以下に、1つのセンサ20についての計算例を説明するが、センサ20が2つ以上の場合も同様に計算することができる。また、本実施形態に係る生体内可視化装置100は、スパースベイズ学習を用いて所定のパラメータの学習を行う。
【0023】
(画像再構成部)
測定計算部50の画像再構成部52は、所定のパラメータと電流電圧印加測定部10で測定された電位差および位相電流(以下、第1測定データと称する場合がある)および電流および位相(以下、第2測定データと称する場合がある)に基づき、被験者内部の電気物性分布を作成する。具体的には、画像再構成部52は、第1測定データまたは第2測定データから得られたインピーダンス、レジスタンス、リアクタンス、キャパシタンス、アドミタンス、コンダクタンス、サセプタンス及び位相の少なくとも1種から多重測定行列を作成し、多重測定行列および所定のパラメータから電気物性分布を作成する。ここでは、インピーダンスを用いて多重測定行列を作成する場合を例にして説明する。例えば、画像再構成部52は、インピーダンス時間差分ΔZの多重測定行列(Multiple Measurement Matrix:MMM)を生成し、作成したインピーダンス時間差分ΔZのMMMと所定のパラメータとから被験者の体内の電気物性分布を作成する。所定のパラメータは、例えば、スパース性に関する事前分散ベクトルγ、時間相関に関する正定値行列B、およびノイズに関する多次元正規分布の分散値λである。パラメータの初期値は、データに基づいて入力してもよい。初期値は、例えば、生体内の電気物性に関する先験情報などに基づき決定してもよいし、実験条件のノイズなどを考慮して経験的に決定してもよい。画像再構成部52が初期の所定のパラメータに基づいて、作成した初期電気物性分布は、対象領域識別部53に送られる。初期電気物性分布は、対象領域識別部53に送られて識別化処理がされる。初期電気物性分布を識別化処理した後に得られる識別後電気物性分布はさらに学習部54に送られる。画像再構成部52は、学習部54で更新されたパラメータに基づいて、更新した更新電気物性分布を作成した場合は、学習部54または出力部55に送る。具体的には、学習部54で後述する終了条件を満たすまで、画像再構成部52での更新電気物性分布の作成と、学習部54での所定のパラメータの更新が繰り返される。学習部54でのパラメータの更新が完了した場合、画像再構成部52は、出力部55に電気物性分布を送る。
【0024】
電気物性分布は、特に限定されず、例えば、空間的な導電率、空間的な誘電率分布、空間的な位相分布、時間的な導電率分布、時間的な誘電率分布、時間的な位相分布、印加周波数の導電率応答分布、印加周波数の誘電率応答分布、印加周波数の位相応答分布などが挙げられる。以下、被験者内部の導電率分布の作成方法を例に挙げて、電気物性分布の作成方法を説明する。
【0025】
電流電圧印加測定部10で測定された電流等から得られた初期時刻tと時刻t(k=1,2,・・・,K)とのインピーダンスとのインピーダンス差分ΔZは、下記(1)式で表される。ここで、式(1)中のJは、下記(2)式で表される感度行列である。下記(1)式中のΔσkは、下記(3)式で表される時刻tにおける導電率分布である。下記(1)式中のεは、下記(4)式で表されるノイズベクトルである。ここで、下記(2)式および下記(3)式のNは、画像を構成するメッシュの総数(総要素数)であり、下記(2)中のMは、測定数(測定パターン数)である。また、式(1)中の○印に/印を組み合わせてなる記号は、ベクトルの要素ごとの除算を示す。
【0026】
【数1】
【0027】
画像再構成部52は、列ベクトルのΔZから下記(5)式で表されるMMMのΔZを生成する。下記(5)式中のMは、測定数(測定パターン数)であり、Kは、時刻tの数である。MMMのΔZは、下記(6)式で表されるMMMの導電率分布Δσおよび下記(7)式で表されるMMMのノイズ行列εから、下記(8)式で表される。(8)式のMMMのΔZに対して列ベクトル化を行うと、下記(9)式が得られる。ここで、*は列ベクトル化のシンボルである。(9)式中のΔZは、下記(10)式で表される。(9)式中のΔσは、下記(11)式で表される。(9)式中のεは、下記(12)式で表される。下記(9)式中のJは、下記(13)式で表される。下記(13)式中のIは、下記(14)式で表される単位行列である。下記(13)式中の〇印に×印を組み合わせてなる記号は、クロネッカー積のシンボルを示す。
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
ここで、スパースベイズ学習における、Δσの事前確率分布p(Δσ;Σpre)、尤度p(ΔZ|Δσ;ε)および事後確率分布p(Δσ|ΔZ;Σpast)を定義する。時間相関を利用したスパースベイズ学習では、平均ゼロベクトル0と、スパース性に関する事前分散ベクトルγと、時間相関に関する正定値行列Bとからなる事前共分散行列Σpreである多次元正規分布を仮定すると、Δσの事前確率分布p(Δσ;Σpre)は、下記(15)式で表される。なお、事前分散ベクトルγは、下記(16)式で表され、正定値行列Bは、下記(17)式で表され、事前共分散行列Σpreは、下記(18A)式及び(18B)式で表される。スパース性に関する事前分散ベクトルγの大きさを変化させることで局所性を調整することができる。下記(18B)式において、正定値行列Bを全要素Nにおいて共通とすると、学習のオーバーフィットを防ぐことができるので好ましい。オーバーフィットは、機械学習モデルがトレーニングデータに対して正確な予測を提供するが、新しいデータについては予測しない場合に発生する、望ましくない機械学習動作をいう。
【0031】
【数4】
【0032】
ノイズ確率分布p(ε)を平均ゼロベクトル0と各要素が独立で、同一なノイズ共分散行列λIである多次元正規分布を仮定すると、下記(19)式で表される。ここで、ノイズ共分散行列λIは、下記(20)式となる。ここで、(20)式中のλは、多次元正規分布の分散値である。式(9)と式(19)とから、インピーダンス時間差分ΔZの尤度p(ΔZ|Δσ;ε)は、条件付確率分布として下記(21)式で表される。
【0033】
【数5】
【0034】
ベイズの定理、即ち事前確率分布(19)式と尤度(21)式との関係は下記(22)式の通りとなる。下記(22)式により、事後確率分布も正規分布で仮定することができるため、事後確率分布は、導電率の平均ベクトルと事後共分散行列Σpostとから、下記(23)式で表される。なお、導電率の平均ベクトルは、下記(24)式で表され、事後共分散行列Σpostは下記(25)式で表される。正規分布は、期待値で確率が最大となるので、Δσの最大事後確率推定解(MAP推定解)は、式(23)式における導電率の平均ベクトルであり、下記(26)式および(27)式で表される。ここで、Tは転置のシンボルである。導電率分布Δσは、下記(26)式のΔσ*をN×K次元のΔσに変換しなおすことで、得られる。これによって、被験者の体内の電気物性分布(ここでは、導電率分布)を作成することができる。
【0035】
【数6】
【0036】
(対象領域識別部53)
対象領域識別部53は、画像再構成部52で得られた初期電気物性分布に対し、所定の処理を行い、対象領域を識別する。以下、所定の処理による対象領域の識別方法を説明する。
【0037】
対象領域識別部53は、画像再構成部52で得られた電気物性分布に対し、前処理を行い、対象領域指標分布を作成する。前処理は、対象領域である生体組織の識別ができるのであれば、特に限定されず、標準偏差処理、所定のピクセルaにおける最大値と最小値との差分処理(max(a)-min(a))、最大値と最小値の変化の正規化差分処理((max(a)-min(a))/min(a))、1階微分処理(∂y/∂k:yは対象となる電気物性)、2階微分処理(∂y/∂k)、フーリエ変換、ウェーブレット変換などの各種周波数解析などが挙げられる。これらは、総ピクセル数Nと総フレーム数Kをもとに、N×Kの行列と見立てて、各種行列処理を行う(特異値分解、主成分分析、独立成分分析等)。上記の前処理は、空間的局所変化を見たい場合は、時間的に処理を行えばよく、時間的な局所変化を見る場合は、空間的に処理を行えばよい。以下、空間的な変化を見るための、標準偏差処理を例に挙げて説明する。
【0038】
画像再構成部52で得られた導電率分布を用いて、下記(28)式で表される対象領域指標分布(ここでは、時間的標準偏差画像v)を下記(29)式の通りに計算する。ここで、下記(29)式中のΔσk,nは、時刻tにおけるn番目の要素の導電率の値であり、<σ>はn番目の要素の値の時間平均である。
【0039】
背景の電気物性(ここでは、導電率)が大きく時間的または空間的に変化する場(ここでは、時間的に変化する場)において、対象領域(ROI:Region of Interest)内の電気物性の時間空間局所的変化を抽出するため、ROI以外の要素を削除し、ROIの要素を識別するために、対象領域指標分布(ここでは、時間的標準偏差画像v)および所定の閾値cに基づき、識別化処理を行い、識別後電気物性分布を作成する。識別化処理は、ROI以外の要素を削除できれば特に限定されず、例えば、対象領域指標分布の各値が当該閾値の範囲に入るかどうかの判定を行い、当該閾値の範囲に入らない場合は、要素の削除を行うという処理であってもよい。例えば、下記(30)式の通り処理を行い、式(30)より得られた識別後電気物性分布は、再び列ベクトル化され学習部54に送られる。
ここで、所定の閾値cは各生体組織のσに関する先験情報のもと、対象領域ROIと背景のσの大小関係から決定される。例えば、画像の全ピクセル数のうち、対象領域(ROI)が占めるピクセル数の割合に応じて所定の閾値cを決定してもよい。
【0040】
【数7】
【0041】
学習部54は、画像再構成部52で得られた更新電気物性分布、または、対象領域識別部53で得られた識別後電気物性分布に基づいて、所定のパラメータを更新する。具体的には、学習部54は、パラメータ行列Θ{例えば、λ、γ、B}を、負の対数周辺尤度-logp(ΔZ*|Θ)を最大化または平均データ尤度Q(Θ)を最大化することで学習する。例えば、それぞれの確率分布を正規分布と仮定した場合、周辺尤度の対数のみを考慮することで、尤度関数L(Θ)が取得される。
【0042】
ここで、尤度関数L(Θ)は下記(31)式で表される。(31)式中のΣlikelihoodは下記(32)式で表される。対数周辺尤度-logp(ΔZ*|Θ)の最大化は、L(Θ)の最大化によって行ってもよい。本実施形態では、平均データ尤度Q(Θ)を用いて学習する方法について説明するが、以下の方法に限定されない。具体的には、expectation-maximization(EM)アルゴリズムを用いて、平均データ尤度Q(Θ)を最大化する場合について説明する。平均データ尤度は下記(33)式で表される。(33)式中のE[・]は、期待値を表す。EMアルゴリズムの更新値、即ち、平均データ尤度Q(Θ)を最大化するΘは、Q(Θ)のΘに関する偏微分がゼロとなるΘとなる。
【0043】
パラメータ行列Θ内のγおよびBの更新について説明する。(33)式中のλについての右辺第1項を無視することで、下記(34)式となる。ここで、式(34)式中のΓは、下記(35)式で表される、γを対角要素に持つ対角行列である。Trace{}は、正方行列のトレースである。γのn番目の要素あるγnの更新値は、(34)式のγn関する偏微分がゼロとなるγnであり、反復計算数iterを用いて、下記(36)式の通り更新される。ここで(36)式中のΔσ は下記(37)式で表され、n番目の要素の時間変化を表す。下記(36)式中のΣpost は、下記(38)式で表され、対応する共分散行列を表す。
【0044】
同様にBの更新値は(34)式のBに関する偏微分がゼロとなるBであり、下記(39)式の通り更新される。
【0045】
Θ内のλの更新について説明する。(33)式中のγおよびBについての右辺第2項を無視することで下記(40)式で表される。λの更新値は、式(40)のλに関する偏微分がゼロとなるλであり、下記(41)式の通り更新される。Θの学習過程は、終了条件を満たすまで繰り返し行われる。例えば、終了条件は、例えば、下記(42)式で表される誤差δが最小値δminとなること、または、iter が最大反復数itermaxとなることのどちらかを満たすとしてもよい。
【0046】
【数8】
【0047】
【数9】
【0048】
(出力部)
出力部55は、画像再構成部52で得られた更新電気物性分布を出力する。更新電気物性分布の出力先は、特に限定されない。例えば、出力部55は、生体内可視化装置100内のHDDなどの記憶装置に更新電気物性分布を出力して記憶してもよい。また、出力部55は、外部の液晶ディスプレイなどの表示装置に更新電気物性分布を出力してもよい。
【0049】
(生体内可視化方法)
次に、本実施形態に係る生体内可視化装置100を用いた生体内可視化方法について説明する。図4は、本実施形態に係る生体内可視化方法のフローチャートである。
生体内可視化方法は、所定のパラメータ(ここでは、γ、B、λ)を初期化し、電流電圧印加測定部10を用い、インピーダンス測定(電位差と電流の比、およびその位相の測定)を行う(S1)。その後、初期化された所定のパラメータおよび測定されたインピーダンスに基づいて、電気物性分布を作成する(S2)。次に、初期化された所定のパラメータに基づいて作成された初期電気物性分布か、学習部54で更新された所定のパラメータに基づいて作成された更新電気物性分布化を判定する(S3)。この場合は、iter=1の場合を初期電気物性分布と判定する。初期電気物性分布の場合、対象領域識別部53で初期電気物性分布に対し、対象領域を識別化する識別化処理を行い、識別後電気物性分布を作成する(S4)。次に、学習部54は、識別後電気物性分布または更新電気物性分布を基に、所定のパラメータを更新する(S5)。次に、終了条件(誤差δが最小値または所定の反復回数を実施したか)を満足したかを判定する(S6)。終了条件を満足していた場合、更新した電気物性分布を出力部55は出力する(S7)。終了条件を満足しない場合は、S2に、戻る。
【0050】
以上、生体内可視化装置100について詳述した。本実施形態に係る100は、時間・空間における局所的変化を特定することができる。
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実験例1)
次に、本実施形態に係る生体内可視化装置100の有効性を検証するために実験した例について説明する。
【0053】
本発明の生体内可視化装置を用いたリンパ浮腫を模擬条件とした数値シミュレーションを用いて、SATと筋肉である背景の導電率が大きく時間変化する場に対して、リンパ浮腫の特徴である静脈付近のσの時間・空間局所的変化を抽出できるか否かを確認し、その精度を定性的に検討した。さらに、導電率比ρGSV/SATとρGSV/muscleをパラメータとして、定量的に検討した。
【0054】
従来例として、従来手法である繰り返しガウス・ニュートン法を用いて画像再構成を行った。画像再構成に用いた式は、下記(43)式となる。(43)式中のΔσiter kはiter番目の反復における時刻tでの導電率分布を示す。(43)式中のIは下記(44)式で表される単位行列であり、ηは正則化パラメータである。Jは感度行列であり、Jは、感度行列Tの転置行列である。下記(43)式中のΔZは、測定インピーダンスである。測定インピーダンスΔZはMATLAB(登録商標)R2020a(Mathworks,Natick、MA)を用いて有限要素法(FEM)により計算した。準問題計算用の要素数は2946とし、逆問題計算用の要素数NはN=4560とした。
【0055】
図5Aは、ヒト脹脛の簡易的な模擬画像である。大伏在静脈(Great Saphenous Vein:GSV)、皮下脂肪組織(Subcutaneous Adipose Tissue:SAT)、および、筋肉の3つの部位から構成される。なお、ROIは、GSVとした。
【0056】
2種類の浮腫進行の生理現象を模擬するために、各部位の導電率値σをtからtまで時間変化させた。図5Bは、条件1のリンパ浮腫模擬条件を示したもので、GSVのσのみが一定変化率aGSVで時間変化し、SATと筋肉のσは時間変化しないとした。図5Cは、条件2の静脈性浮腫模擬条件を示したもので、GSVと筋肉のσが一定変化率aGSV=amuscle(=0.667)で時間変化し、SATのσが変化率aSAT(=0.222<aGSV)で時間変化するとした。
【0057】
2つの条件におけるSATと筋肉の初期時刻tでのσは、SATのσを0.022[S/m]とし、筋肉のσを0.321[S/m]とし、tでのGSVのσ(=0.022[S/m])はSATと同じ値を用いた。一般的に、浮腫時のσは水分量に比例するため、変化率aGSVは60分間起立状態での脹脛の水分変化からaGSV=0.667と算出した。さらに、SATはGSVよりも緩やかに変化することからaSAT=aGSV/3とした。
【0058】
感度行列Jは均質条件、すなわちσ=1.0[S/m]で計算した。印加電流Iおよび印加周波数fはそれぞれI=1mA、f=1kHzと設定し、印加パターンは隣接法を適用した。
【0059】
式(30)における閾値cは時間的標準偏差画像νの中央値と設定し、λ、γ、およびBの初期値はそれぞれ、λを0.01とし、γは下記(45)式のように設定し、Bを下記(46)式のように設定した。また、SN比が40dBとなるようにZにガウシアンノイズを付加した。2つの条件における実施例(画像再構成部52+対象領域識別部53+学習部54:ROI識別有り)と比較例(画像再構成部52+学習部54:ROI識別無し)、および、従来手法である繰り返しガウス・ニュートン法((43)式)において最大反復数itermax=10とした。
繰り返しガウス・ニュートン法における正則化パラメータηはP.C.HansenのLカーブ法を用いてη=4.17×10-6(リンパ浮腫模擬条件)、η=1.80×10-5(静脈性浮腫模擬条件)とした。
【0060】
【数10】
【0061】
図6は、条件1における実施例(画像再構成部52+対象領域識別部53+学習部54:ROI識別有り)と比較例(画像再構成部52+学習部54:ROI識別無し)および従来例(ガウス・ニュートン法)により画像再構成された導電率分布Δσである。条件1において、繰り返しガウス・ニュートン法はGSV付近の導電率の時間変化を画像化することはできたが、オリジナル画像よりもぼやけた画像となった。さらに、リンギングアーティファクトによる影響も大きくなった。一方、スパースベイズ学習を用いた実施例および比較例は、局所的な導電率変化のみ抽出することができた。
【0062】
次に、図7は、条件2における実施例(画像再構成部52+対象領域識別部53+学習部54:ROI識別有り)と比較例(画像再構成部52+学習部54:ROI識別無し)および従来例(ガウス・ニュートン法)により画像再構成された導電率分布Δσである。条件2において、繰り返しガウス・ニュートン法はSATと筋肉の境界を画像化することはできたが、GSV付近の導電率の時間変化を画像化することはできなかった。これは、全部位が時間変化したことにより、初期時刻tと時刻tとの間でバックグラウンドを一定の条件にすることができなかったためと考えられる。一方、比較例(画像再構成部52+学習部54:ROI識別無し)は、SATの導電率変化を画像化することができ、さらに、そのSATにおいて特に時間変化の大きなGSV付近を抽出することができた。しかしながら、SATにおける変化に影響を受けたため円状のアーティファクトが生成された。実施例の場合、GSV付近の導電率変化のみを抽出することができた。全部位が時間変化したにもかかわらず、対象領域の識別化処理を行ったことにより、対象領域ROIにおいて特に時間・空間局所的変化の大きいGSV付近の導電率変化を鮮明に抽出することができた。本シミュレーション結果において、生体内可視化装置100は、時間変化する局所的なσを可視化計測可能であることが明らかになった。
【0063】
(実験例2)
生体内可視化装置100を用い、15人の健康な被験者に対して生体内可視化を実施した。実験例2で用いた測定装置の模式図を図8に示す。図8に示すように、従来の生体電気インピーダンス分析用センサを手と足とに取り付け、従来の生体電気インピーダンス分析用センサと生体電気インピーダンス分析とを接続した。
【0064】
本実施形態に係る生体内可視化装置は、右脹脛の位置に取り付けられた16個の乾式電極(5×10mm)からなるセンサと、当該センサに接続されたデジタル・マルチプレクサ、インピーダンスアナライザ―(IM3570、HIOKI、日本)、および制御用PCから構成されている。同軸ケーブル、デジタル・マルチプレクサに接続されたインピーダンスアナライザー、および、浮腫識別方法ソフトウェアを含むPCによって、インピーダンスアナライザーで測定されたインピーダンスZは、USBケーブルを使用してPCに送信される。従来のBIAは電極(手用に2つ、足用に2つ)(InBodyS10、InBody Japan Inc.)で構成される。本実施形態に係る生体内可視化装置と従来のBIA の測定は、電極を取り付けたままでも、両方の測定を同時に行わない限り、相互に干渉しないことを事前のテストで確認した。
【0065】
図9は、皮下脂肪組織(SAT)の細胞外液(ECF)に局所的時空間変化(LSTC)を誘発するための長時間の立位と脚の挙上に関する実験プロトコルを示した。実験の開始時に、被験者はリクライニングベッドに横になり、運動や筋肉疲労などの前の活動によって影響を受ける脚のむくみを軽減するために、角度φ=30度の脚上げを行った。長時間立っている間、被験者はECF体積の増加を誘発するために小さな動きをせずに40分間立っており、生体内可視化装置による測定と従来のBIAの測定が連続して行われ、それぞれ3分と2分かかった。上記のプロセスは、被験者ごとに8回(k=1-8:t=5/10/15/20/25/30/35/40分)繰り返された。脚の挙上中、被験者はリクライニングベッドを使用して3分間脚を上げ、その後ゆっくりと立ち上がった。その後、生体内可視化装置による測定、および、従来のBIA測定が連続して行われ、ECF体積の減少を誘発するために合計8分間の時間をかけた。上記のプロセスは、各被験者に対して 3回繰り返された(k=8-11:t=50/60/70分)。
【0066】
実験例2では、15人の健康な被験者(男性:9人、女性:6人、年齢:23.1±2.3歳、体格指数:23.1±4.9kg/m2)が参加した。細胞外空間のみを貫通する電流経路を考慮して選択された2つの周波数f1=1.6kHzおよびf2=4.7kHzで電流I0=1mAを使用して、さまざまな時間枠(k=1-11)でインピーダンスZを測定した。次に、インピーダンスZを使用して、MATLAB(登録商標)R2020a(Mathworks)でサポートされているNETGENによって生成された有限要素法(FEM)のメッシュで周波数差導電率分布Δσを画像再構成した。下肢浮腫を評価するための局所時空間変化(LSTC)を定量化するために、分離されたSATで空間平均伝導率〈Δσ〉SATを計算した。
【0067】
比較として従来のBIAは、周波数f=5kHzで右脚で測定され、ECFを求めた。これらの2つのパラメータは、t検定の有意水準が0.05に設定されている相関係数Rによって比較した。さらに、生体内可視化装置による測定および従来のBIA測定の平均0および標準偏差1の正規化された値、つまり、正規化された空間平均導電率(<Δσ>SAT)および正規化された従来のインピーダンスZBIAを計算し、それらの傾向を評価した。
【0068】
LSTCの大伏在静脈(GSV)の位置を取得するために、本開示のセンサの電極の位置に対して高周波マトリックスプローブ(LOGIQePremium、GE ヘルスケア、日本)を使用して超音波画像を取得した。生体内可視化装置の最小エラーバウンドと最大反復回数は、それぞれδmin=1×10-2とitermax=15に設定して、最適化した。これらのパラメータの影響について、以下で説明する。
【0069】
時間相関の正則化パラメータβは、β=4に設定した。しきい値cは、時間標準偏差画像νの25%に設定した。図10に、生体内可視化装置によって再構成された、ある被験者の周波数差導電率分布Δσを示す。長時間にわたるある被験者の脹脛の角度θ=120°とθ=-150°(図11Bで説明)の間でトリミングされている。人間の脹脛の寸法は、x軸とy軸はz軸に直交したx-y-zデカルト座標系に基づいており、z軸は重力方向に沿っている。破線の円は、大伏在静脈(GSV)の位置に関連するΔσの局所的な最大位置を示す。GSVに伴う局所時空間変化(LSTC)は小さく、画像全体では区別が難しいため、円形画像全体は図11Bの代表的な例にのみ示され、Δσは15人の被験者すべてについてトリミングされている。図10の角度 θとθは、脛骨の前内側に位置するGSV位置付近のΔσを強調するように選択されている。超音波画像でGSVが観察されたEIT電極番号は、被験者ごとに多少のばらつきはあるものの、EIT電極番号(3)~(5)の近くに位置していた。したがって、分離された皮下脂肪組織(SAT)の細胞外液(ECF)のLSTCは、Δσによって正確に監視できる。すなわち、LSTCは長時間の立位中に減少し、LSTCは脚の挙上中に増加する。高いΔσは、GSVの近く以外の場所でも観察される。これは、ECFが比較的大きな静脈の近くの毛細血管によって保持されているためと考えられる。さらに興味深いことに、GSVに近い場所は、ほとんどの被験者で最大のΔσを示した。
【0070】
図11Aは典型的なヒトの脹脛の断面、図11Bは被験者No.12のΔσ、図11Cは当該被験者のEIT電極No.(4)付近の超音波画像である。図11Bにおいて、白い破線は分離されたSATの境界を示す。対照的に、図11Cの破線は、超音波画像の原点からGSV位置に向かう方向で、原点から極大値位置に向かう方向を示しており、その角度θEITG=150°で、破線上の角度θUSG=150°と同じである。これらの図から、ΔσのLSTC位置は、筋肉のコンパートメントや骨ではなく、分離されたSATに示されていることが確認された。特に、図11Bの破線の円として示されるΔσの極大位置は、GSV位置に関連付けできることが確認された。
【0071】
Δσの極大値(図10の破線の円)が大伏在静脈(GSV)の位置に関連付けられている理由について説明する。スパースベイズ学習フレームワークの大域的最小値は、Δσの個々の要素を制御するスパース性に関連する事前分散ベクトルγによって、常に最もスパースである。GSVは浅筋膜と伏在筋膜の間に位置し、その深さ位置は皮下組織の厚さに依存する。さらに、GSVは脚の皮下組織から心臓に血液を戻す上で重要な役割を果たす。図10ではいくつかの大きな極大値が観察されたが、これはGSV近くの毛細血管から拡散したECFに関連していると推測される。以上より、生体内可視化装置は、分離されたSATのΔσの時間的相関を抽出することができることが分かった。
【0072】
図12に、分離されたSATにおける正規化された空間平均伝導率<Δσ>SATと、長時間の立位と脚の挙上中の正規化された従来のBIAインピーダンスzBIAを示す。図12において、<Δσ>SATおよびzBIAは長時間の立位で減少し、<Δσ>SATおよびzBIAは下肢挙上で増加する。<Δσ>SATの標準偏差は、zBIAの標準偏差よりも相対的に高いが、<Δσ>SATはECFの傾向をよく示した。
【0073】
図13に、ある被験者の脹脛に対して、分離されたSATの空間平均導電率<Δσ>SATと従来のインピーダンスzBIAとの相関を示す。縦軸は空間平均導電率<Δσ>SATであり、横軸は、zBIA[Ω]である。2つのパラメータ間の相関係数Rとp値も示した。図13に示すように、ΔσとzBIAには強い正の相関があり、この傾向はいずれの被験者の場合も同様であった。スコアは0.715<R<0.957(p<0.05)であった。したがって、LSTCがzBIAの時間的変化と同様の傾向を示し、さらに、従来のBIAでは不可能なLSTCが可視化できることが確認された。
それぞれの値の範囲について、zBIAが170~340[Ω]の範囲であったのに対し、<Δσ>SATは10~1400[-]の範囲であった。従来のBIAは主に絶対値に基づいて静的状態を評価し、生体内可視化装置は主に相対値に基づいて動的傾向を評価する。<Δσ>SATの変動はzBIAの変動よりも大きく、最大約2桁の差があった。
【0074】
分離された皮下脂肪組織(SAT)における周波数差導電率分布Δσの局所時空間変化(LSTC)の発生の理由について説明する。長時間立っていると、血液の重力により下肢の静水圧が増加し、SATなどの組織の細胞外空間への毛細管ろ過が増加する。同時に、主にナトリウム・イオン濃度に依存する細胞外空間の浸透圧の上昇により、細胞外液(ECF)での再吸収が減少する。したがって、下記(47)式に示す比率値の比例関係が導き出される。ここで、LECFとLICFはそれぞれECFの体積と細胞内液(ICF)の体積であり、Na+ECFとNa+ICFはそれぞれECFのナトリウム・イオン濃度およびICFのナトリウム・イオン濃度である。ECFの主成分であるNaCl溶液の導電率分布σは、周波数f<1MHzでは周波数に依存しないが、ECFの副成分であるタンパク質溶液のσは、低周波数で周波数に依存する。f=5kHz未満の低周波数で測定されたインピーダンスZはECFを表す。健康な人のタンパク質濃度は長時間立っている間一定に保たれるため、図12の正規化された空間平均伝導率<Δσ>SATは、Naの増加によって引き起こされるECFのσの周波数依存性の減少と関連する。
以上より、健常者の場合、下記(48)式の関係が導かれる。(48)式によると、長時間の立位と脚の挙上中の右脚のECFの体積変化ΔLECFは、空間平均伝導率<Δσ>SATから下記(49)式のように推定される。ここで、k番目の時間枠での ΔLECFと<Δσ>SATが考慮される。wは被験者の体重、ρTBFは総体液(TBF)と総体重の比(ここでは、0.6)、ρTBF/ECFはTBFに対するECFの比率(ここでは0.29)であり、ρRLは全身に対する右脚の比率(ここでは、0.1)である。
【0075】
【数11】
【0076】
図14は、被験者15人の右脚のΔLECFの時間変化を示す。ΔLECFは長時間の立位では増加し、脚を上げるとΔLECFは減少した。〈Δσ〉SATはLSTCのみを表したが、図14のΔLECFは、〈Δσ〉SATの傾向が右脚全体のΔLECFと一致しているという仮定に基づいて、合理的である。
続いて、ΔLECFの範囲を調べた。図15に被験者15人の従来の生体電気インピーダンス分析(従来のBIA)によって測定された、ECFmax(ΔLECF)の最大体積変化(t=40分でのΔLECF)と右脚vRLの筋肉量との間に相関を示した。max(ΔLECF)とvRLとの間には強い正の相関があり、スコアはR=0.729(p<0.01)であった。血流変化は筋肉量と相関があるため、血管内圧上昇によるmax(ΔLECF)も筋肉量と相関すると推定される。
【0077】
(実験例3)
本高精度EIT方法を定量的に評価するために、実施例(画像再構成部52+対象領域識別部53+学習部54:ROI識別有り)、比較例(画像再構成部52+学習部54:ROI識別無し)、および従来例である繰り返しガウス・ニュートン法(式(43)、Gauss-Newton アルゴリズム Tikhonov)とを比較検討した。ここで、Δσiter はk番目の任意の時間(1≦k≦3)におけるiter番目の反復手段での導電率分布であり、η=0.01は正則化パラメータである。測定されたインピーダンスΔZは、上述の場合と同様のFEM計算によって計算した。順問題と逆問題の要素番号はそれぞれ3219および4261である。インピーダンスZは、2つの周波数f1=1.6kHzとf2=4.7kHzで測定され、加算性ガウス雑音によるSNR=40dBであった。
【0078】
図16Aは、図11Bで使用したものと同じ境界を持つ筋肉、SAT、およびGSVを含む人間の脹脛の例を示す。図16Bは、シミュレーションのための導電率値σを示す。単純な不安定な背景場の下では、GSVのσのみが時間依存であると想定される。このとき、SATと筋肉のσは時間に依存しないと想定され、さらに、筋肉のσは周波数に依存しないと想定される。筋肉とSATが時間に依存しない場合でも、非常に小さなGSVの影響による局所時空間変化(LSTC)の画像再構成は、周波数依存のSATの下では困難である。周波数f1でのGSVのσは、任意のt番目、t番目、およびt番目のSATのσのそれぞれ2、3、および4倍である。周波数f2でのGSVのσは、下記(50)式を満たすように調整される。また、aGSV=0.905は、図12の長時間放置中の実験データから推定される。これは、GSV近くのNa+ECFの増加によって引き起こされるECFのσの周波数依存性の減少を反映した。つまり、σは一時的に増加するとき、Δσは一時的に減少する。スパースベイズ学習のアルゴリズムのハイパーパラメータは、正則化パラメータβ=4および最小誤差範囲δmin=1×10-5に設定した。生体内可視化装置の閾値cは、時間標準偏差画像νの75%に設定し、より高い値を維持した。これは、式(30)とは符号の向きが異なる。このcは、再構成の結果に大きく影響する重要なパラメータの1つであるため、アプリケーションごとにヒューリスティックに最適化する必要がある。たとえば、ターゲットのLSTCは不適切なcによって消滅する。すべてのアルゴリズムの最大反復回数itermaxは、下記(51)式で表される時間平均定位誤差<LE>、下記(52)式で表されるスペクトル誤差SE、および下記(53)式で表される画像ノイズ<IN>の3つのメトリックによってさまざまな反復回数の変化を調べるために、itermax=50に設定した。ここで、rは再構成された摂動Δσ perturbの原点と重心間の距離、<Δσperturbは、摂動Δσ perturb内のk番目の任意時間における空間平均伝導度<Δσ>の平均0と標準偏差1とで正規化された値である。std(-)は標準偏差の記号、xはΔσ perturbに属さない導電率分布である。ここで、Δσ perturbは、全域的最大値の半分よりも高い導電率分布を持つ接続されたピクセルとして定義される。上付き文字trueは、各メトリックの真の値を示す。理想的な条件では、<LE>、SE、および<IN>の値は0である。
【0079】
【数12】
【0080】
図17A図17Cは、不安定な背景場の下で各アルゴリズムによって画像再構成されたiter=15でのΔσと、対応する正規化された空間平均伝導率<Δσk>perturbを示す。図17Bは理想的な再構成画像を示す。また、実施例、比較例、および従来例の<LE>、SE、INを図17Dに示す。
【0081】
再構成のパフォーマンスは反復回数によって大きく変化しないため、iter=15でのΔσを示す。GSVの存在による再構成された摂動Δσ perturbはスパースベイズ学習のアルゴリズムによって区別され、従来のGauss-Newton アルゴリズムはΔσ perturbを明確に示すことができず、アーティファクトがあった。さらに、<Δσperturbは、実験を行ったアルゴリズムの中で最も正値から離れていた。Gauss-Newton アルゴリズムは、時間相関やスパース性を使用せずに周波数差を単純に取得するため、不安定な背景場の影響をキャンセルできないためと考えられる。一方、スパースベイズ学習のアルゴリズムでは、Δσ perturbが正しい位置で明確に区別される。図17Cの<Δσ> perturbに関して、実施例の生体内可視化装置は比較例よりもわずかに正値に近いものの、どちらもスペクトルを適切に推定した。ただし、比較例にはアーティファクトが存在した。
3つのアルゴリズムは、反復回数に大きく依存せず、SBL アルゴリズムはガウス・ニュートンアルゴリズムよりも優れたパフォーマンスを示した。時間平均定位誤差<LE>は、実施例と比較例で同じであり、スコア<LE>=0.139±0.012であった。GSVローカリゼーションの場合、両方のアルゴリズムでこの条件下ではiter=2だけで十分であった。スペクトル誤差SEは、実施例と比較例でそれぞれ0.031±0.004と0.061±0.001であった。このことから、実施例の生体内可視化装置が、SAT分離によるノイズロバスト性の向上により、周波数差の時間変化をより適切に推定していることが分かった。イメージノイズINは、実施例と比較例によって、それぞれ0.072±0.009と0.132±0.001であった。SEの結果と同様に、SAT分離は、LSTCを監視するために重要なノイズ抑制に貢献することが分かった。
【符号の説明】
【0082】
10 電流電圧印加測定部、52 画像再構成部、53 対象領域識別部、54 学習部、55 出力部、100 生体内可視化装置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
図17D