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特開2024-168642脱気装置及びインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168642
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】脱気装置及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/19 20060101AFI20241128BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085489
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 英樹
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA15
2C056EB20
2C056EB29
2C056EB34
2C056EB38
2C056EB59
2C056EC15
2C056EC32
2C056HA28
2C056HA30
2C056HA46
2C056KB16
2C056KB40
2C056KC16
2C056KD02
(57)【要約】
【課題】簡潔な構成で効率の高い脱気を行うことを目的とする。
【解決手段】脱気装置40は、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置40であって、液体を貯留する液体タンク(例えば、インクタンク32A)と、液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、減圧された液体タンク内の負圧によって液体タンクに液体を流入させる流入流路47と、を備える。脱気装置40は、複数の液体タンク(例えば、インクタンク32A、32B)を備え、減圧装置は、いずれか1つの液体タンクに設けられ、流入流路47は、減圧されていない液体タンクから減圧装置によって減圧されている液体タンクに液体を流入させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置であって、
液体を貯留する1つ以上の液体タンクと、
前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、
減圧された前記液体タンク内の負圧によって前記液体タンクに液体を流入させる流入流路と、を備えることを特徴とする脱気装置。
【請求項2】
複数の前記液体タンクを備え、
前記減圧装置は、少なくともいずれか1つの前記液体タンクと連通しており、
前記流入流路は、減圧されていない前記液体タンクから、前記減圧装置によって減圧されている他の前記液体タンクに液体を流入させることを特徴とする請求項1に記載の脱気装置。
【請求項3】
複数の前記液体タンクを備え、
前記流入流路は、いずれか2つ以上の前記液体タンクを連通させることを特徴とする請求項1に記載の脱気装置。
【請求項4】
複数の前記液体タンクと、
各々がいずれか2つの前記液体タンクを連通させる複数の前記流入流路と、
前記減圧装置と複数の前記流入流路とを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、いずれか1つの前記液体タンクを減圧するように前記減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない前記液体タンクから、前記減圧装置によって減圧されている他の前記液体タンクに液体を流入させるように、複数の前記流入流路を制御することを特徴とする請求項1に記載の脱気装置。
【請求項5】
3つ以上の前記液体タンクを備え、
前記制御装置は、いずれか1つの前記液体タンクを減圧するように前記減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない前記液体タンクから、前記減圧装置によって減圧されている他の前記液体タンクに液体を流入させるように、複数の前記流入流路を制御することを特徴とする請求項4に記載の脱気装置。
【請求項6】
前記制御装置は、減圧されている前記液体タンクに液体を流入させた後、減圧されている前記液体タンクの減圧状態を保持するように前記減圧装置を制御することを特徴とする請求項5に記載の脱気装置。
【請求項7】
前記制御装置は、いずれか1つの減圧されていない前記液体タンクに貯留されている液体の略全量を、前記減圧装置を制御することで減圧した他の前記液体タンクに流入させることを特徴とする請求項5に記載の脱気装置。
【請求項8】
前記流入流路は、前記液体タンクに液体を流入させる複数の流入口を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の脱気装置。
【請求項9】
複数の前記流入口は、シャワー状の液体を流入させることを特徴とする請求項8に記載の脱気装置。
【請求項10】
複数の前記流入口の開口径は、0.8mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の脱気装置。
【請求項11】
複数の前記流入口の数は、25以上であることを特徴とする請求項8に記載の脱気装置。
【請求項12】
請求項1に記載の脱気装置と、
前記脱気装置により脱気された液体をシートに吐出する記録ヘッドと、を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱気装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、インクの溶存気体量が多くなると、記録ヘッドの内部で気泡が発生して吐出不良を起こすおそれがある。そこで、従来、インクの溶存気体量を減らす技術が検討されている。例えば、特許文献1、2では、インクタンク内を減圧した状態でインクを攪拌することでインクを脱気する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-162821号公報
【特許文献2】特開2019-142189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2で開示された方式では、撹拌子を回転させるために、磁石回転子を回転させる機構をインクタンクの外部に設けることが必要となる。また、撹拌子は、磁石回転子が発生する磁界によって拘束されているため、装置輸送時の振動を受けた場合や、磁石回転子の回転数を上げた場合に、撹拌子が磁界の拘束から離脱することが考えられ、撹拌子の離脱を防止する機構をインクタンク内に設ける必要がある。また、インクタンクの減圧は記録ヘッドのメニスカスに影響を及ぼすため、減圧中は記録ヘッドにインクを供給できないという制約がある。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、簡潔な構成で効率の高い脱気を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る脱気装置は、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置であって、液体を貯留する1つ以上の液体タンクと、前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、減圧された前記液体タンク内の負圧によって前記液体タンクに液体を流入させる流入流路と、を備える。
【0007】
前記脱気装置は、複数の前記液体タンクを備え、前記減圧装置は、少なくともいずれか1つの前記液体タンクと連通しており、前記流入流路は、減圧されていない前記液体タンクから、前記減圧装置によって減圧されている他の前記液体タンクに液体を流入させてもよい。
【0008】
前記脱気装置は、複数の前記液体タンクを備え、前記流入流路は、いずれか2つ以上の前記液体タンクを連通させてもよい。
【0009】
前記脱気装置は、複数の前記液体タンクと、各々がいずれか2つの前記液体タンクを連通させる複数の前記流入流路と、前記減圧装置と複数の前記流入流路とを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、いずれか1つの前記液体タンクを減圧するように前記減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない前記液体タンクから、前記減圧装置によって減圧されている他の前記液体タンクに液体を流入させるように、複数の前記流入流路を制御してもよい。
【0010】
前記脱気装置は、3つ以上の前記液体タンクを備え、前記制御装置は、いずれか1つの前記液体タンクを減圧するように前記減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない前記液体タンクから、前記減圧装置によって減圧されている他の前記液体タンクに液体を流入させるように、複数の前記流入流路を制御してもよい。
【0011】
前記制御装置は、減圧されている前記液体タンクに液体を流入させた後、減圧されている前記液体タンクの減圧状態を保持するように前記減圧装置を制御してもよい。
【0012】
前記制御装置は、いずれか1つの減圧されていない前記液体タンクに貯留されている液体の略全量を、前記減圧装置を制御することで減圧した他の前記液体タンクに流入させてもよい。
【0013】
前記流入流路は、前記液体タンクに液体を流入させる複数の流入口を備えていてもよい。
【0014】
複数の前記流入口は、シャワー状の液体を流入させてもよい。
【0015】
複数の前記流入口の開口径は、0.8mm以下であってもよい。
【0016】
複数の前記流入口の数は、25以上であってもよい。
【0017】
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、前記脱気装置と、前記脱気装置により脱気された液体をシートに吐出する記録ヘッドと、を備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡潔な構成で効率の高い脱気を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図5】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図7】本発明の一実施形態の第1変形例に係るインク供給構造を示す模式図である。
図8】本発明の一実施形態の第2変形例に係るインク供給構造を示す模式図である。
図9】本発明の一実施形態の第3変形例に係るインク供給構造を示す模式図である。
図10】流入口の数を変えたときの脱気性能を示すグラフである。
図11】本発明の一実施形態の第4変形例に係る複数の流入口の一例を示す図である。
図12】本発明の一実施形態の第4変形例に係る複数の流入口の他の一例を示す図である。
図13】本発明の一実施形態の第4変形例に係るインクをシャワー状に噴射する一例を示す図である。
図14】インクをシャワー状に噴射したときの脱気性能を示すグラフである。
図15】複数の流入口の開口径と流入口の数を調整したときの脱気性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態のインクジェット記録装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置1を示す模式図である。説明の便宜上、図1における紙面前側をインクジェット記録装置1の正面側(前側)とし、左右の向きはインクジェット記録装置1を正面から見た方向を基準として説明する。各図に付される矢印L、R、U、Loは、それぞれインクジェット記録装置1の左側、右側、上側、下側を示している。
【0021】
インクジェット記録装置1は、インクジェット式の各記録ヘッド21から記録媒体としてのシートSに向けてインクを吐出して印刷する。インクジェット記録装置1は、各種機器が収容された箱型形状のハウジング10を備えている。ハウジング10の下部にはシートSがセットされる給紙カセット11が収容され、ハウジング10の右側面にはシートSが手差しでセットされる手差しトレイ12が設置されている。ハウジング10の左側面の上側には、記録済みのシートSが積載される排紙トレイ13が設置されている。
【0022】
ハウジング10内の右側部には、給紙カセット11からハウジング10中央の記録ヘッド21に向けてシートSを搬送する第1搬送経路14が形成されている。第1搬送経路14の上流には給紙カセット11のシート束からシートSを取り出す第1給紙部15が設けられ、第1搬送経路14の下流にはシートSの送り出しタイミングを調整するレジストローラー18が設けられている。また、第1搬送経路14の下流には手差しトレイ12の給紙経路16が合流しており、給紙経路16には手差しトレイ12のシート束からシートSを取り出す第2給紙部17が設けられている。
【0023】
レジストローラー18の下流には搬送装置22と色毎(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)の記録ヘッド21が設置されている。レジストローラー18は、シートSのスキューを矯正して、各記録ヘッド21によるインクの吐出動作に合わせて搬送装置22にシートSを送り出す。ハウジング10には記録ヘッド21毎にインクコンテナ31及びインクタンク32が設けられている。各インクコンテナ31のインクがインクタンク32に一時的に貯留され、必要に応じてインクが脱気されて、インクタンク32から記録ヘッド21にインクが供給される。
【0024】
搬送装置22は、各記録ヘッド21の下方に設置された複数の張架ローラー23に搬送ベルト24を巻き掛けて構成されている。搬送装置22の下流には、シートSのインクを乾燥する乾燥装置25が設けられている。乾燥装置25の下流には、インクの乾燥によってシートSに生じたカールを矯正するデカール装置26が設けられている。デカール装置26の下流には、排紙トレイ13に向けてシートSを搬送する第2搬送経路27が形成されている。第2搬送経路27の下流には、排紙トレイ13に記録済みのシートSを排出する排紙部28が設けられている。
【0025】
乾燥装置25の下方には、記録ヘッド21をクリーニングするメンテナンスユニット35と、記録ヘッド21をキャッピングするキャップユニット36とが設けられている。メンテナンスユニット35にはスキージ状のワイピングブレードが設けられており、ワイピングブレードによって記録ヘッド21のノズル面に残ったインクが掻き取られる。キャップユニット36にはヘッドキャップが設けられており、ヘッドキャップが記録ヘッド21のノズル面に被せられる。ヘッドキャップによりノズル内のインクの乾燥が抑制される。ヘッドキャップ内に洗浄液などの液体を貯めておくことでノズル内のインクの乾燥を、より抑制してもよい。
【0026】
また、インクジェット記録装置1には、装置全体を統括制御する制御装置38が設けられている。制御装置38は、プロセッサによって構成されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって構成されてもよい。プロセッサで構成される場合には、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)が使用される。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶装置によって構成されている。
【0027】
画像記録時には、第1給紙部15、第2給紙部17によってそれぞれ給紙カセット11、手差しトレイ12からシートSが取り出されてレジストローラー18に送られる。インクの吐出タイミングに合わせて、レジストローラー18から搬送ベルト24にシートSが送られて、各記録ヘッド21から脱気済みのインクが吐出されてシートSの表面にカラー画像が記録される。乾燥装置25によってシートSが乾燥され、デカール装置26によってシートSのカールが矯正される。第2搬送経路27を通って排紙部28にシートSが搬送されて、排紙部28によって記録済みのシートSが排紙トレイ13に排出される。
【0028】
ところで、インクタンク32内でインクの液面が空気に触れて空気の溶解が進行し、インク内の気泡によって記録ヘッド21のノズルが目詰まりする場合がある。このため、インク内の溶存気体量を適切に抑えることが望まれている。例えば、中空糸フィルターの周囲を減圧した状態で、中空糸フィルターにインクを通すことで、中空糸の壁面から減圧側に空気が移動して脱気する方法が提案されている。この方法では、高価な中空糸フィルターが必要になると共に定期的な交換作業が必要になってコストが増加する。
【0029】
また、ノズルの目詰まりを防止するために、インクタンク32内を大気圧以下に減圧した状態で、撹拌子によってインクを撹拌して脱気する方法(以下、撹拌脱気方式と称する)が提案されている。撹拌脱気方式ではインクタンク32内の撹拌子に外部から磁力が加えられて、磁力によって撹拌子が回転してインクタンク32内のインクが撹拌される。インクの深さやタンク径が大きい場合にはインクが撹拌され難くなって脱気効率が低下する。撹拌子の回転数を高くすれば撹拌され易くなるが、撹拌子の回転数が高くなり過ぎると脱調現象が生じると共に撹拌子の回転音も大きくなる。そこで、本実施形態では、以下に示される減圧流入脱気方式が採用されている。
【0030】
[脱気装置]
本実施形態に係る脱気装置40は、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置40であって、液体を貯留する液体タンク(例えば、インクタンク32A)と、液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、減圧された液体タンク内の負圧によって液体タンクに液体を流入させる流入流路47と、を備える。具体的には、以下のとおりである。
【0031】
図2は、本実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。本実施形態に係るインクジェット記録装置1にはインクの色毎にインク供給構造が設けられているが、これらのインク供給構造の構成は同一であるため、ここでは1つのインク供給構造について説明する。なお、バルブ(補給バルブ51等)の記号において、黒塗りの場合が閉鎖、白抜きの場合が開放を表す。
【0032】
[インクタンク]
インクタンク32A、32Bは、例えば、上下方向を軸方向とする筒の上端部と下端部が塞がれた形状を有する。インクタンク32A、32Bの水平断面は、円形が望ましい。インクタンク32Bは、インクタンク32Aよりも下方に配置されている。インクタンク32Bには、インクコンテナ31から補給されたインクが貯留されている。インクタンク32Aには、後述する流入脱気工程においてインクタンク32Bから流入したインクが貯留される。
【0033】
なお、図1等は模式的に描かれており、実際には、記録ヘッド21は、インクタンク32Bより上方に配置されている。記録ヘッド21内のインクには、インクタンク32B内のインクとの水頭差により負圧が加わっており、その負圧により、記録ヘッド21のノズルにはメニスカスが形成されている。記録ヘッド21からインクが吐出された後、インクの表面張力がメニスカスの表面積を減らすように働き、それによって生じる負圧によって、インクタンク32Bから記録ヘッド21に、減った分のインクが引き込まれる。
【0034】
[補給流路]
補給流路41は、インクコンテナ31とインクタンク32Bとに連通している。補給流路41には、補給ポンプ61と補給バルブ51が設けられている。
【0035】
[大気開放流路]
大気開放流路43Aは、インクタンク32Aの頂部に接続され、インクタンク32A内の液面よりも上方の空間である上部空間34Aに連通している。大気開放流路43Aには、大気開放バルブ53Aが設けられている。
【0036】
大気開放流路43Bは、インクタンク32Bの頂部に接続され、インクタンク32B内の液面よりも上方の空間である上部空間34Bに連通している。大気開放流路43Bには、大気開放バルブ53Bが設けられている。
【0037】
[減圧流路]
減圧流路42は、インクタンク32Aの頂部に接続され、インクタンク32Aの上部空間34Aに連通している。減圧流路42には、減圧ポンプ62と減圧バルブ52が設けられている。
【0038】
[供給流路]
供給流路44は、インクタンク32Bと記録ヘッド21とに連通している。供給流路44の一端部は、インクタンク32Bの底部に接続されている。供給流路44には、供給バルブ54と供給ポンプ64が設けられている。
【0039】
[回収流路]
回収流路45は、インクタンク32Bと記録ヘッド21とに連通している。回収流路45には、回収バルブ55が設けられている。
【0040】
[バイパス流路]
供給流路44には、供給バルブ54と供給ポンプ64を迂回するバイパス流路46が設けられている。バイパス流路46には、バイパスバルブ56が設けられている。
【0041】
[流入流路]
流入流路47は、インクタンク32Bとインクタンク32Aとに連通している。インクタンク32Bから流入流路47への流出口71Bは、インクタンク32Bの底部に接続されている。流入流路47は、インクタンク32Aの側壁部又は頂部を貫通していてもよい。流入流路47からインクタンク32Aへの流入口72Aは、上部空間34A内に突出していてもよい。また、流入流路47は、インクタンク32Aの底部又は側壁部に接続され、インクがインクタンク32A内に流入した後の液面よりも下方に突出していてもよい。流入流路47には、流入バルブ57が設けられている。
【0042】
[還流流路]
還流流路48は、インクタンク32Aとインクタンク32Bとに連通している。インクタンク32Aから還流流路48への流出口71Aは、インクタンク32Aの底部に接続されている。還流流路48は、インクタンク32Bの頂部を貫通している。還流流路48からインクタンク32Bへの流入口72Bは、インクタンク32Bの底部付近に達しており、液面よりも下方に位置している。還流流路48には、還流バルブ58が設けられている。
【0043】
[制御装置]
補給ポンプ61、減圧ポンプ62、供給ポンプ64、補給バルブ51、減圧バルブ52、大気開放バルブ53A、大気開放バルブ53B、供給バルブ54、回収バルブ55、バイパスバルブ56、流入バルブ57、還流バルブ58は、制御装置38(図1参照)によって制御される。制御装置38には、インクの放置時間に応じて脱気動作の要否を判定する判定部39が設けられている。
【0044】
[気圧計]
インクタンク32Aには、インクタンク32Aの上部空間34A内の気圧を計測する気圧計33が設けられている。制御装置38は、気圧計33から気圧データを取得する。
【0045】
次に、脱気装置40の基本的な動作について説明する(図2乃至6参照)。図3乃至6は、インク供給構造を示す模式図である。ここでは、待機状態を初期状態として説明する。
【0046】
[待機状態]
待機状態においては(図2参照)、補給バルブ51、減圧バルブ52、大気開放バルブ53A、供給バルブ54、流入バルブ57、還流バルブ58が閉鎖され、大気開放バルブ53B、回収バルブ55、バイパスバルブ56が開放されている。インクタンク32Bにはインクが貯留されており、大気開放された上部空間34Bの空気に液面が触れることで時間経過に伴ってインクに空気が溶解していく。
【0047】
待機状態において、制御装置38の判定部39は、脱気の要否を判定する。例えば、制御装置38にはタイマーが設けられ、タイマーによってインクの放置時間が計時されている。インクの溶存気体量は、気圧、インクの温度、前回印刷時からの経過時間等の1つ又は複数のパラメータから推定可能である。このため、判定部39には各パラメータとインクの溶存気体量との対応関係を示す変換情報が記憶されており、各パラメータに基づいてインクの溶存気体量が推定される。また、判定部39にはインクの溶存気体量と許容時間の対応関係を示す変換情報が記憶されており、インクの溶存気体量に基づいて許容時間が設定される。許容時間は、インクを放置していても脱気せずに印刷が許容される時間である。なお、各パラメータとインクの溶存気体量の対応関係を示す変換情報やインクの溶存気体量と許容時間の対応関係を示す変換情報には、マップデータ、ルックアップテーブル、変換式等が用いられる。これらマップデータ、ルックアップテーブル、変換式は、事前に実験的、経験的、理論的に求められたものが使用される。
【0048】
インクの放置時間が許容時間内である場合には、溶存気体量が少ないため、判定部39は、脱気が不要と判定する。インクの放置時間が許容時間を超えた場合には、溶存気体量が多いため、判定部39は、脱気が必要と判定する。脱気が必要な場合、制御装置38は、減圧工程に移行する。
【0049】
[減圧工程]
減圧工程においては(図3参照)、制御装置38は、減圧バルブ52を開放し、減圧ポンプ62を駆動する。すると、インクタンク32Aの上部空間34Aから空気が吸い出されて上部空間34Aが減圧される。制御装置38は、気圧計33が示す上部空間34Aの気圧が目標値(例えば、-50[kPa])に到達すると、減圧バルブ52を閉鎖し、減圧ポンプ62を停止させる(図2参照)。
【0050】
[流入脱気工程]
減圧工程が終了すると、制御装置38は、流入脱気工程に移行する(図4参照)。流入脱気工程においては、制御装置38は、流入バルブ57を開放する。すると、インクタンク32Aの上部空間34Aが減圧されているため、インクタンク32Bから流入流路47を通じてインクタンク32Aへとインクが吸引される。一度に吸引されるインクの量は、インクタンク32Aとインクタンク32Bとの水頭差、上部空間34Aとインクタンク32A外との気圧差などの諸条件によって決まるが、貯留されているインクの略全量が吸引されるように設定することも可能である。インクタンク32B内の溶存気体量が多いインクが流出口71Bを通じて流入流路47に流出し、流入口72Aを通じてインクタンク32Aの上部空間34Aに流入する。上部空間34A内が減圧されているため、インクに溶存している空気がインクの表面から抜けていくことで、インクが脱気される。ここで、略全量とは、インクタンク32Bから排出されずにインクタンク32Bの壁面や底面に残る水滴状のインクなどを除いたインクの全量を意味する。
【0051】
[減圧保持工程]
流入脱気工程が終了すると、制御装置38は、減圧保持工程に移行する(図2参照)。減圧保持工程においては、制御装置38は、流入バルブ57を閉鎖する。すると、上部空間34A内の減圧状態が保持されるため、インクの脱気が継続される。
【0052】
減圧保持工程においては、上部空間34Aにおけるインクの表面積は、液面の面積に等しいが、流入脱気工程においては、上部空間34Aにおけるインクの表面積は、流入口72Aが液面より高い位置にある場合、流入口72Aから液面に向かって落下中のインクの表面積の分だけ増えるため、脱気効率が向上する。また、流入口72Aが液面より高い位置にある場合、流入脱気工程においては、インクタンク32Aに貯留されたインクが、流入口72Aから落下したインクによって撹拌され、インクタンク32Aの底面付近の溶存気体量が多いインクと、液面付近の溶存気体量が少ないインクとの入れ替えが促進されるから、脱気効率がさらに向上する。また、流入口72Aが液面より低い位置にある場合、流入脱気工程においては、貯留されたインクが流入したインクによって撹拌されるから、脱気効率がさらに向上する。よって、脱気効率は、流入脱気工程において最大となる。
【0053】
減圧保持工程を実行する時間の長さは、予め定められていてもよいが、印刷ジョブが入力されるまで減圧保持工程を継続してもよい。その場合、減圧保持工程を継続する時間の長さに上限値が設定されていてもよい。
【0054】
[還流工程]
減圧保持工程が終了すると、制御装置38は、還流工程に移行する(図5参照)。還流工程においては、制御装置38は、大気開放バルブ53Aと還流バルブ58を開放する。すると、上部空間34Aが大気に開放されるため、脱気されたインクがインクタンク3Aから還流流路48を通じてインクタンク32Bへと還流する。
【0055】
なお、流入脱気工程の後、溶存気体量を判定部39が判定し、溶存気体量を必要な程度まで減少させられていないと判定された場合、還流工程を実行してインクをインクタンク32Aからインクタンク32Bへ戻し、再度、流入脱気工程を実行してもよい。また、溶存気体量を必要な程度まで減少させられたと判定されるまで、流入脱気工程と還流工程を複数回、繰り返してもよい。
【0056】
[印刷工程]
【0057】
記録ヘッド21とインクタンク32Bとが連通した状態でインクタンク32Bを減圧すると、ノズル内のメニスカスが破壊されたり、メニスカスの形状変化により吐出特性が変わったりするおそれがある。これに対して、本実施形態では、減圧工程、流入脱気工程、減圧保持工程、還流工程においてインクタンク32Bが減圧されないから、メニスカスへの影響が生じない。従って、本実施形態では、減圧工程、流入脱気工程、減圧保持工程、還流工程と並行して、印刷工程が実行可能である。なお、減圧工程、流入脱気工程、減圧保持工程、還流工程と異なるタイミングで印刷工程を実行してもよいことは、もちろんである。
【0058】
印刷工程においては(図2参照)、制御装置38は、補給バルブ51、供給バルブ54を閉鎖し、大気開放バルブ53B、回収バルブ55、バイパスバルブ56を開放する。記録ヘッド21からインクが吐出される度に、バイパス流路46、回収流路45を通じてインクタンク32Bから記録ヘッド21にインクが供給される。なお、回収バルブ55を閉じて、記録ヘッド21へのインク供給を、バイパス流路46からだけにしてもよい。
【0059】
[ヘッド循環工程]
ヘッド循環工程もまた、減圧工程、流入脱気工程、減圧保持工程、還流工程と並行して実行可能である。ヘッド循環工程においては(図6参照)、制御装置38は、補給バルブ51、バイパスバルブ56を閉鎖し、大気開放バルブ53B、供給バルブ54、回収バルブ55を開放し、供給ポンプ64を駆動する。すると、供給流路44を通じてインクタンク32Bから記録ヘッド21にインクが供給され、回収流路45を通じて記録ヘッド21からインクタンク32Bにインクが回収される。記録ヘッド21とインクタンク32Bの間でインクが循環されることで、記録ヘッド21内で粘度が増加したインクが入れ替えられると共に記録ヘッド21から気泡が除去される。
【0060】
なお、印刷工程及びヘッド循環工程の途中でインクが補給される場合がある。インクを補給する場合、制御装置38は、補給バルブ51を開放し、補給ポンプ61を駆動する。補給流路41を通じてインクコンテナ31からインクタンク32Bにインクが補給される。
【0061】
以上説明した本実施形態に係る脱気装置40によれば、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置40であって、液体を貯留する液体タンク(例えば、インクタンク32A)と、液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、減圧された液体タンク内の負圧によって液体タンクに液体を流入させる流入流路47と、を備える。この構成によれば、液体タンク内の液体の表面から上部空間34Aに気体が抜けていくから、液体を脱気することができる。また、流入口72Aが液面より高い位置にある場合には、上部空間34Aにおけるインクの表面積は、液面の面積に加えて、流入口72Aから液面に向かって落下中のインクの表面積の分だけ増えるため、脱気効率が向上する。また、流入口72Aが液面より高い位置にある場合には、貯留されたインクが落下したインクによって撹拌されるから、脱気効率がさらに向上する。また、流入口72Aが液面より低い位置にある場合にも、貯留されたインクが流入したインクによって撹拌されるから、脱気効率がさらに向上する。また、液体を液体タンクに流入させるための駆動力が不要である。よって、本実施形態によれば、簡潔な構成で効率の高い脱気を行うことができる。
【0062】
また、本実施形態に係る脱気装置40によれば、複数の液体タンク(例えば、インクタンク32A、32B)を備え、減圧装置は、いずれか1つの液体タンクに設けられ、流入流路47は、減圧されていない液体タンクから減圧装置によって減圧されている液体タンクに液体を流入させる。この構成によれば、減圧されている液体タンクにおいては脱気が行われるが、他の液体タンクは、減圧されていないため、外部への液体の供給が可能である。よって、液体の供給と並行して脱気を行うことができる。
【0063】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、脱気装置40と、脱気装置40により脱気された液体をシートSに吐出する記録ヘッド21と、を備えている。この構成によれば、気泡による画質の低下を抑制することができる。
【0064】
上記実施形態は以下のように変形されてもよい。
【0065】
[第1変形例]
図7は、上記実施形態の第1変形例に係るインク供給構造を示す模式図である。本変形例に係る脱気装置40は、複数の液体タンクと、各々がいずれか2つの液体タンクを連通させる複数の流入流路47A、47Bと、減圧装置と複数の流入流路47A、47Bとを制御する制御装置38と、を備え、制御装置38は、いずれか1つの液体タンクを減圧するように減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない液体タンクから、減圧装置によって減圧されている液体タンクに液体を流入させるように、複数の流入流路47A、47Bを制御する。以下、上記実施形態と異なる点について説明する。
【0066】
[補給流路]
補給流路41は、補給流路41Aと補給流路41Bとに分岐している。補給流路41A、41Bは、それぞれインクタンク32A、32Bに接続されている。補給ポンプ61は、補給流路41に設けられている。補給流路41A、41Bには、それぞれ補給バルブ51A、51Bが設けられている。
【0067】
[減圧流路]
減圧流路42は、減圧流路42Aと減圧流路42Bとに分岐している。減圧流路42Aは、インクタンク32Aの頂部に接続され、インクタンク32Aの上部空間34Aに連通している。減圧流路42Bは、インクタンク32Bの頂部に接続され、インクタンク32Bの上部空間34Bに連通している。減圧ポンプ62は、減圧流路42に設けられている。減圧流路42A、42Bには、それぞれ減圧バルブ52A、52Bが設けられている。
【0068】
[供給流路]
インクタンク32A、32Bには、それぞれ供給流路44A、44Bが接続されている。供給流路44A、44Bは、供給流路44に合流している。供給流路44は、記録ヘッド21に接続されている。供給流路44A、44Bには、それぞれ供給バルブ54A、54Bが設けられている。供給ポンプ64は、供給流路44に設けられている。
【0069】
[回収流路]
インクタンク32A、32Bには、それぞれ回収流路45A、45Bが接続されている。回収流路45A、45Bは、回収流路45に合流している。回収流路45は、記録ヘッド21に接続されている。回収流路45A、45Bには、それぞれ回収バルブ55A、55Bが設けられている。
【0070】
[バイパス流路]
供給流路44A、44には、供給バルブ54Aと供給ポンプ64を迂回するバイパス流路46Aが設けられている。供給流路44B、44には、供給バルブ54Bと供給ポンプ64を迂回するバイパス流路46Bが設けられている。バイパス流路46A、46Bには、それぞれバイパスバルブ56A、56Bが設けられている。
【0071】
[流入流路]
流入流路47Aは、インクタンク32Bとインクタンク32Aとに連通している。インクタンク32Bから流入流路47Aへの流出口71Bは、インクタンク32Bの底部に接続されている。流入流路47Aは、インクタンク32Aの側壁部又は頂部を貫通している。流入流路47からインクタンク32Aへの流入口72Aは、上部空間34A内に突出している。流入流路47Aには、流入バルブ57Aが設けられている。
【0072】
流入流路47Bは、インクタンク32Aとインクタンク32Bとに連通している。インクタンク32Aから流入流路47Bへの流出口71Aは、インクタンク32Aの底部に接続されている。流入流路47Bは、インクタンク32Bの側壁部又は頂部を貫通している。流入流路47Bからインクタンク32Bへの流入口72Bは、上部空間34B内に突出している。流入流路47Bには、流入バルブ57Bが設けられている。
【0073】
次に、本変形例の流入脱気工程の動作について説明する。インクタンク32Aで脱気を行う場合には、制御装置38は、最初に、減圧バルブ52Aを開放して減圧ポンプ62を駆動することで、インクタンク32Aを減圧する。所定の負圧に達したならば、制御装置38は、減圧バルブ52Aを閉鎖して減圧ポンプ62を停止する。次に、制御装置38は、大気開放バルブ53Bと流入バルブ57Aを開放する。すると、インクタンク32Bから流入流路47Aを通じてインクタンク32Aにインクが吸引され、上部空間34A内で脱気が行われる。
【0074】
一方、インクタンク32Bで脱気を行う場合には、制御装置38は、インクタンク32Bを減圧した後、大気開放バルブ53Aと流入バルブ57Bを開放する。すると、インクタンク32Aから流入流路47Bを通じてインクタンク32Bにインクが吸引され、上部空間34B内で脱気が行われる。
【0075】
なお、2つの液体タンクのいずれか1つで脱気を実行した後、溶存気体量を判定部39が判定し、溶存気体量を必要な程度まで減少させられていないと判定された場合、もう1つの液体タンクにインクを流入させて脱気を実行してもよい。また、溶存気体量を必要な程度まで減少させられたと判定されるまで、2つの液体タンクで交互に脱気を実行してもよい。
【0076】
なお、上記の減圧及び流入の動作と並行して、記録ヘッド21にインクを供給することが可能である。インクタンク32Aで脱気を行う場合には、バイパスバルブ56B、回収バルブ55Bを開放することで、記録ヘッド21にインクが供給される。インクタンク32Bで脱気を行う場合には、バイパスバルブ56A、回収バルブ55Aを開放することで、記録ヘッド21にインクが供給される。
【0077】
前述のとおり、減圧による液体の流入時に脱気効率が最大となるが、液体の流入に要する時間の長さには限りがある。これに対して、本変形例によれば、複数の液体タンクで交代で減圧及び流入を行うことができる。その結果、最大効率の脱気が反復され、脱気に要する時間を短縮することができる。また、減圧されていない液体タンクからは外部への液体の供給が可能であるから、液体の供給を中断する時間を減らすことができる。
【0078】
さらに、第1変形例の変形例として、インクタンク32Aとインクタンク32Bとを連通させる流入流路を1つ設けてもよい。この流入経路は、インクタンク32Aの底部とインクタンク32Bの底部とに接続されていてもよい。この流入経路には、バルブを設けてなくてもよいが、バルブを設けて制御しもよい。いずれの構成においても、第1変形例よりは、脱気効率が劣るが、脱気を行なうことができる。
【0079】
[第2変形例]
図8は、上記実施形態の第2変形例に係るインク供給構造を示す模式図である。本変形例に係る脱気装置40は、3つ以上の液体タンクを備え、制御装置38は、いずれか1つの液体タンクを減圧するように減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない液体タンクから、減圧装置によって減圧されている液体タンクに液体を流入させるように、複数の流入流路47A、47B、47Cを制御する。なお、本変形例においても第1変形例と同様にインクコンテナ31からインクを補給する構成、及び、記録ヘッド21にインクを供給する構成を備えているが、その説明と図示は省略する。
【0080】
[インクタンク]
脱気装置40は、インクタンク32A、32Bに加えて、同様の構成を有するインクタンク32Cを備える。
【0081】
[減圧流路]
減圧流路42は、減圧流路42Aと減圧流路42Bと減圧流路42Cに分岐している。減圧流路42Cは、インクタンク32Cの頂部に接続され、インクタンク32Cの上部空間34Cに連通している。減圧流路42Cには、減圧バルブ52Cが設けられている。
【0082】
[流出流路、流入流路]
インクタンク32A、32B、32Cの底部には、それぞれ流出流路49A、49B、49Cが接続されている。インクタンク32A、32B、32Cの側壁部又は頂部には、それぞれ流入流路47A、47B、47Cが貫通している。流出流路49A、49B、49C、流入流路47A、47B、47Cは、互いに連通している。流出流路49A、49B、49Cには、それぞれ流出バルブ59A,59B、59Cが設けられている。流入流路47A、47B、47Cには、それぞれ流入バルブ57A,57B、57Cが設けられている。
【0083】
次に、本変形例の動作について説明する。流出バルブ59A,59B、59Cのいずれか1つと、流入バルブ57A,57B、57Cのいずれか1つとを開放することで、インクタンク32A、32B、32Cのいずれか1つから他の1つへとインクを流入させることができる。具体的には、流出バルブ59Aと流入バルブ57Bとを開放することで、インクタンク32Aからインクタンク32Bへとインクが流入する。流出バルブ59Aと流入バルブ57Cとを開放することで、インクタンク32Aからインクタンク32Cへとインクが流入する。流出バルブ59Bと流入バルブ57Aとを開放することで、インクタンク32Bからインクタンク32Aへとインクが流入する。流出バルブ59Bと流入バルブ57Cとを開放することで、インクタンク32Bからインクタンク32Cへとインクが流入する。流出バルブ59Cと流入バルブ57Aとを開放することで、インクタンク32Cからインクタンク32Aへとインクが流入する。流出バルブ59Cと流入バルブ57Bとを開放することで、インクタンク32Cからインクタンク32Bへとインクが流入する。
【0084】
第1変形例では、2つの液体タンクを備えるから、減圧する液体タンクを切り替える際に液体の供給を中断する期間が発生する。これに対して、第2変形例では、3つの液体タンクを備えるから、常に1つの液体タンクが液体を供給可能な状態にある。よって、第2変形例によれば、液体の供給を中断せずに脱気を行うことができる。なお、4つ以上の液体タンクを備える場合も、本変形例と同様の効果を奏する。
【0085】
なお、3つの液体タンクのいずれか1つ(例えば、インクタンク32A)で脱気を実行した後、溶存気体量を判定部39が判定し、溶存気体量を必要な程度まで減少させられていないと判定された場合、別の液体タンク(例えば、インクタンク32B)にインクを流入させて脱気を実行してもよい。また、溶存気体量を必要な程度まで減少させられたと判定されるまで、3つの液体タンクで所定の順番(例えば、インクタンク32A、32B、32C、32A、・・・の順)でインクを移動させて脱気を実行してもよい。また、溶存気体量を必要な程度まで減少させられたと判定されるまで、3つの液体タンクのうちの2つで交互に脱気を実行してもよい。
【0086】
[第3変形例]
図9は、上記実施形態の第3変形例に係るインク供給構造を示す模式図である。本変形例に係る脱気装置40もまた、3つ以上の液体タンクを備え、制御装置38は、いずれか1つの液体タンクを減圧するように減圧装置を制御し、いずれか1つの減圧されていない液体タンクから、減圧装置によって減圧されている液体タンクに液体を流入させるように、複数の流入流路47A、47B、47Cを制御する。
【0087】
ただし、本変形例では、第2変形例と比べて、流入流路47A、47B、47Cの構成が簡略化されている。具体的には、インクタンク32A、32B、32Cの側壁部又は頂部には、それぞれ流入流路47A、47B、47Cが貫通している。インクタンク32A、32B、32Cの底部には、それぞれ流入流路47C、47A、47Bが接続されている。流入流路47A、47B、47Cには、それぞれ流入バルブ57A,57B、57Cが設けられている。この構成により、インクタンク32Aからインクタンク32Cへの流入、インクタンク32Cからインクタンク32Bへの流入、インクタンク32Bからインクタンク32Aへの流入のみが可能であり、これらとは逆方向の流入は不能である。なお、流入流路47Aが、インクタンク32Aの底部と、インクタンク32Bの底部とを接続する構成であれば、インクタンク32Aとインクタンク32Bとの間で相互にインクの流入が可能である。流入流路47B、47Cに同様である。
【0088】
次に、本変形例の動作について説明する。インクタンク32Aで脱気を行う場合には、制御装置38は、インクタンク32Aを減圧した後、大気開放バルブ53Bを閉鎖したまま、流入バルブ57Aを開放する。すると、インクタンク32Bから流入流路47Aを通じてインクタンク32Aにインクが吸引され、上部空間34A内で脱気が行われる。
【0089】
制御装置38は、インクタンク32Bに貯留されていたインクの略全量がインクタンク32Aに流入しても、減圧ポンプ62による減圧を継続する。すると、大気開放バルブ53Bが閉鎖されているため、インクタンク32B内が減圧される。インクタンク32Bが所定の負圧に到達したならば、制御装置38は、流入バルブ57Aを閉鎖して減圧ポンプ62を停止する。上記の動作と並行して、インクタンク32Cから記録ヘッド21へのインクの供給が可能である。
【0090】
次に、制御装置38は、大気開放バルブ53Bを閉鎖したまま、流入バルブ57Bを開放する。すると、インクタンク32Cから流入流路47Bを通じてインクタンク32Bにインクが吸引され、上部空間34B内で脱気が行われる。
【0091】
以上説明したとおり、制御装置38は、減圧されている液体タンクに液体を流入させた後、減圧されている液体タンクの減圧状態を保持するように減圧装置を制御する。この構成によれば、液体の流入後も脱気を継続することができる。
【0092】
また、制御装置38は、いずれか1つの減圧されていない液体タンクに貯留されている液体の略全量を、減圧装置によって減圧されている液体タンクに流入させた後、液体を流入させた液体タンクを減圧するように減圧装置を制御する。この構成によれば、脱気を継続している間に、液体の略全量を流出させた液体タンクが流入流路47A、47B、47Cを介して減圧されるから、次回の流入の準備ができる。
【0093】
なお、3つの液体タンクのいずれか1つ(例えば、インクタンク32A)で脱気を実行した後、溶存気体量を判定部39が判定し、溶存気体量を必要な程度まで減少させられていないと判定された場合、別の液体タンク(例えば、インクタンク32B)にインクを流入させて脱気を実行してもよい。また、溶存気体量を必要な程度まで減少させられたと判定されるまで、3つの液体タンクで所定の順番(例えば、インクタンク32A、32B、32C、32A、・・・の順)でインクを移動させて脱気を実行してもよい。
【0094】
[第4変形例]
第4変形例は、流入口72の複数化に関する変形例である。図10は、流入口72の数を変えたときの脱気性能を示すグラフである。図11は、複数の流入口72の一例を示す図である。図12は、複数の流入口72の他の一例を示す図である。図13は、インクをシャワー状に噴射する一例を示す図である。図14は、インクをシャワー状に噴射したときの脱気性能を示すグラフである。図15は、複数の流入口72の開口径と流入口72の数を調整したときの脱気性能を示すグラフである。
【0095】
脱気性能に対する流入口72の複数化の影響を、第1変形例(図7参照)のインク供給構造を用いて確認した。インクの粘度を7[mPa・s]、インクの温度を25[℃]、インクの深さを28[mm]、インクタンク32A、32Bのタンク径を60[mm]、インクの循環流量を770[ml/min]とし、流速を変えずに流入口72A、72Bの数を変えたときの脱気性能を比較した。インクタンク32Aとインクタンク32Bとの間で交互にインクを移動させながら流入脱気工程を実行した。流入口72A、72Bが1つ、流入口72A、72Bが2つ、流入口72A、72Bが3つの場合について、既存の測定器によって脱気時間の経過に伴う酸素飽和度の変化を測定した。酸素飽和度は、式(1)で表される。
酸素飽和度[%]=溶存酸素量/大気圧下の飽和溶存酸素量×100 式(1)
【0096】
図10に示すように、流入口72A、72Bが3つの場合が最も短時間で酸素飽和度が低下しており、流入口72A、72Bの増加によって脱気効率が向上することが確認された。グラフに示した脱気時間には、インクの移動方向の切り替えに要した時間を除いた時間を示した。
【0097】
以下の説明では、第1変形例における流入口72Aに本変形例を適用した例を示すが、本変形例は、上記実施形態と全ての変形例における流入口72A、72B、72C等に適用可能である。
【0098】
複数の流入口72Aは、流入流路47Aからインクタンク32Aにインクを戻すように形成されていればよい。例えば、図11に示すように、流入流路47Aの下流側の部分である下流配管75Aが複数の分岐配管76A(分岐路)に分かれ、複数の分岐配管76Aの下流端に複数の流入口72Aが形成されてもよい。この構成によれば、複数の分岐配管76Aによって複数の流入口72Aのレイアウト自由度が向上し、インクタンク32A内のインクに複数の流れが作り出される。また、図12に示すように、流入流路47Aの下流配管75Aに複数の流入口72Aが流れ方向に沿って並んで形成されてもよい。この構成によれば、シンプルな構成でインクタンク32A内のインクに複数の流れが作り出される。なお、分岐配管76Aに複数の流入口72Aが流れ方向に沿って並んで形成されてもよい。
【0099】
次に、シャワー状にインクを戻したときの脱気性能を確認した。インクの粘度を7[mPa・s]、インクの温度を25[℃]、インクの深さを28[mm]、インクタンク32Aのタンク径を60[mm]、インクの循環流量を770[ml/min]とし、1つの流入口72Aからインクを戻した場合と多数の流入口72Aからシャワー状にインクを戻したときの脱気性能を比較した。ここでは、液面の上方35[mm]に流入口72Aを位置付けた場合について、既存の測定器によって脱気時間の経過に伴う酸素飽和度の変化を測定した。
【0100】
図13に示すように、流入流路47Aの下流配管75Aに複数の流入口72Aとして多数の小孔を形成することでインクをシャワー状に噴射している。ここでは、多数の小孔からインクが線状に落下するのではなく、多数の小孔からインクが断続的な液滴になって落下している。循環流量が比較的大きく設定されることで、多数の小孔からインクが線状に噴出された後に、表面張力によってインクがまとまってインク滴が作り出される。断続的なインク滴を作り出すには、インクの粘度や表面張力等の物性に応じて小孔の開口径や循環流量を調整すればよい。
【0101】
図14に示すように、複数の流入口72Aからシャワー状にインクを戻すことで脱気性能の大幅な向上が確認された。これは、複数の流入口72Aからシャワー状にインクが噴出されることで、断続的なインク滴となってインクがインクタンク32Aに戻されるからである。インクがインク滴になることで、減圧雰囲気に晒されるインクの表面積が増加すると共に、空気抵抗によってインク滴の落下速度が小さくなってインク滴が減圧雰囲気に晒される時間が長くなる。これにより、複数の流入口72Aからインク滴が落下する際の脱気が促進されている。また、インク滴の落下速度が小さくなることで泡立ちが生じ難くなっている。
【0102】
次に、複数の流入口72A(小孔)の合計の開口面積が一定となるように、複数の流入口72Aの開口径と流入口72Aの数を調整したときの脱気性能を確認した。インクの粘度を7[mPa・s]、インクの温度を25[℃]、インクの深さを28[mm]、インクタンク32Aのタンク径を60[mm]、インクの循環流量を770[ml/min]とし、流入口72Aの数と開口径を変えたときの脱気性能を比較した。ここでは、複数の流入口72Aの合計の開口面積が約12.5[mm]となるように流入口72Aの数と開口径を調整して、インクに空気が十分に溶解した状態から脱気して5分後の酸素飽和度を測定した。
【0103】
図15に示すように、複数の流入口72Aの開口径が4[mm]から0.8[mm]までは酸素飽和度が低下しているが、複数の流入口72Aの開口径が0.8[mm]以下になると酸素飽和度が低い状態で定常になっている。また、流入口72Aの数が1から25までは酸素飽和度が低下しているが、流入口72Aの数が25以上になると酸素飽和度が低い状態で定常になっている。このため、複数の流入口72Aの開口径が0.8[mm]以下又は流入口72Aの数が25以上であることが好ましい。複数の流入口72Aの開口径が0.8[mm]以下であればインク滴が断続的に作り出され、流入口72Aの数が25以上であればインクの噴射速度を弱めることができる。
【0104】
以上説明した本変形例によれば、流入流路47Aは、液体タンクに液体を流入させる複数の流入口72Aを備える。また、複数の流入口72Aは、シャワー状の液体を流入させる。また、複数の流入口72Aの開口径は、0.8[mm]以下である。また、複数の流入口72Aの数は、25以上である。これらの構成によれば、脱気効率を向上させることができる。
【0105】
[その他の変形例]
上記実施形態では、インクジェット記録装置1に脱気装置40が設けられた例が示されたが、脱気装置40は半導体の製造分野、ディスプレイの製造分野等の他分野で使用される装置にも適用可能である。すなわち、インク以外の薬液、電解液、液状樹脂、接着剤、溶剤、潤滑油、液状食品、美容液等の脱気にも適用可能である。
【0106】
上記実施形態では、減圧装置として減圧ポンプ62が例示されたが、減圧装置はインクタンク32A内を減圧可能な装置であればよく、例えば減圧装置はエジェクターでもよい。
【符号の説明】
【0107】
1 インクジェット記録装置
21 記録ヘッド
32A、32B、32C インクタンク(液体タンク)
38 制御装置
40 脱気装置
47A、47B、47C 流入流路
62 減圧ポンプ(減圧装置)
72 流入口
S シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図12
図13
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図15