(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168657
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 19/49 20060101AFI20241128BHJP
F16C 23/06 20060101ALI20241128BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20241128BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20241128BHJP
【FI】
F16C19/49
F16C23/06
F16C43/04
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085524
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田辺 真之
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
2G024
3J012
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
2G024CA02
2G024CA30
3J012AB20
3J012BB03
3J012BB05
3J012CB10
3J012DB20
3J117HA02
3J701AA03
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701AA83
3J701BA53
3J701BA55
3J701BA64
3J701DA20
3J701GA03
3J701XB23
(57)【要約】
【課題】負隙間の大きさを精度よく測定可能にすると共に、負隙間の大きさを厳密に管理することができるハブユニット軸受の製造方法を提供する。
【解決手段】ハブユニット軸受10は、複列のうちのいずれか一方の列を構成する転動体が玉である玉軸受部と、いずれか他方の列を構成する転動体が円錐ころである円錐ころ軸受部と、を備える。そして、ハブユニット10の製造方法は、ハブ輪31、外輪20、及び玉42が組み立てられた状態で、内輪37及び円錐ころ52に対応する測定治具60を、ハブ輪31に組み付けて、内輪37と測定治具60との間の軸方向隙間Sを測定する工程と、測定された軸方向隙間Sに基づいて、ハブ輪31の小径段部34と内輪37との間が所望の負隙間となるように、内輪37、円錐ころ52、及び保持器51を有する組立体55を使用し、内輪37をハブ輪31の小径段部34に嵌合固定する工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に第1及び第2の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に車輪を支持固定する為のフランジ、前記第1の外輪軌道に対向する第1の内輪軌道、及び小径段部を少なくとも有するハブ輪と、アウトボード側端面を前記小径段部の段差面に突き当てた状態で前記小径段部の外周面に外嵌されて前記ハブ輪に固定され、外周面に前記第2の外輪軌道に対向する第2の内輪軌道を有する内輪と、を備えるハブと、
前記第1及び第2の外輪軌道と前記第1及び第2の内輪軌道との間で、複列に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブユニット軸受は、前記複列のうちのいずれか一方の列を構成する前記転動体が玉である玉軸受部と、いずれか他方の列を構成する前記転動体が円錐ころである円錐ころ軸受部と、を備え、
前記玉軸受部側の内輪軌道を構成する前記ハブ輪と前記内輪の一方、前記外輪、及び前記玉が組み立てられた状態で、前記ハブ輪と前記内輪の他方、及び前記円錐ころに対応する測定治具を、前記ハブ輪と前記内輪の一方に組み付けて、前記ハブ輪と前記内輪の一方と前記測定治具との間の軸方向隙間を測定する工程と、
前記測定された軸方向隙間に基づいて、前記ハブ輪の小径段部と前記内輪との間の所望の負隙間となるように、前記内輪、前記第2の外輪軌道及び前記第2の内輪軌道を転動する前記転動体、及び前記転動体を保持する保持器を有する組立体を使用し、前記内輪を前記ハブ輪の小径段部に嵌合固定する工程と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法。
【請求項2】
前記嵌合固定する工程は、前記測定された軸方向隙間に基づいて、前記所望の負隙間になるように、前記組立体を選択的に選定して、或いは、前記組立体の前記内輪のアウトボード側端面を加工したのち、前記組立体の前記内輪を前記ハブ輪の小径段部に嵌合固定する、
請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項3】
前記測定治具は、前記ハブ輪の小径段部の外周面に嵌合する内輪相当部と、前記外輪の前記円錐ころ軸受部側の外輪軌道と当接する当接部と、を備え、
前記内輪相当部は、前記ハブ輪と前記測定治具との間の軸方向隙間に圧縮空気を吐出する吹き出し口を有する流路を備え、前記吹き出し口から流出する前記圧縮空気の流量、又は背圧によって、前記軸方向隙間を測定する、
請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項4】
前記測定治具は、前記内輪の内周面が嵌合する小径段部相当部を有するハブ輪相当部と、前記外輪の前記円錐ころ軸受部側の外輪軌道と当接する当接部と、を備え、
前記ハブ輪相当部は、前記内輪と前記測定治具との間の軸方向隙間に圧縮空気を吐出する吹き出し口を有する流路を備え、前記吹き出し口から流出する前記圧縮空気の流量、又は背圧によって、前記軸方向隙間を測定する、
請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するハブユニット軸受としては、ハブ輪の外周面に内輪軌道が直接形成される第三世代と称される構造において、複列の転動体のうち、一方の列を玉、他方の列を円錐ころとして、モーメント剛性や寿命向上を図ったものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このように転動体を玉とした玉軸受部と、転動体を円錐ころとした円錐ころ軸受部との組み合わせからなるハブユニット軸受(以下、「ハイブリッドハブユニット軸受」とも称す)では、円錐ころ軸受部側のアキシアル剛性が玉軸受部側のアキシアル剛性よりも非常に高い。また、ハブユニット軸受では、軸受の寿命、剛性、フレッチング(フォールスブリネリング)等の面から、軸受に予圧を付与することが行われており、軸受軸方向隙間を負隙間としているが、アキシアル剛性が低い玉軸受部側では、この負隙間に伴う軌道面と転動体の変形が片寄り、円錐ころ軸受部側の負隙間へ寄与する寸法(組高さに係わる寸法)のばらつきを狭めないと、玉軸受部にかかる予圧(負隙間によるアキシアル荷重)が過大となって寿命が低下したり、或いは、予圧過少による剛性低下といった不具合が発生しやすくなる。
【0004】
一方、円錐ころ軸受部は、円錐ころが軌道面上を軸方向に移動できないため、何周もなじませ回転を行って円錐ころをスパイラル状に整列位置に移動させて円錐ころを整列させた後(全ての円錐ころの頭部が大鍔面に当接すると共に、円錐ころの中心軸が軸受中心軸に対して周方向に傾いていない状態)でないと両軸受け間の正隙間や負隙間(起動トルクが代用特性となるが、複列軸受の場合には両列の起動トルクの和となる)の測定が難しい。なお、玉軸受部では、ある程度玉が軌道面上を軸方向に移動できるため、なじませ回転は少なくて済む。
【0005】
特許文献3には、複列円錐ころ軸受部の負隙間測定方法として、内輪と円錐ころと保持器の組立体、所謂コーンを、ハブ輪に正隙間が残留する位置まで仮圧入し、正隙間を測定後、正規位置(内輪正面側端面とハブ輪段差面が当接する位置)まで再圧入し、その際の変位量を求めて、正隙間値と圧入による変位量から負隙間を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-232343号公報
【特許文献2】特開2007-290530号公報
【特許文献3】特開2006-342877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の測定方法では、両列の軌道面に対して、それぞれになじませ回転を行わないと正しく正隙間が測れない。また、予圧域での再圧入時、予圧値により円錐ころの整列位置が変わるため、外輪と内輪とを相対回転しながら圧入を行う必要がある。さらに、円錐ころの整列位置の移動分が誤差となり、厄介な作業の割には、測定誤差が大きい問題がある。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受軸方向隙間の大きさを精度よく測定可能にすると共に、負隙間の大きさを厳密に管理することができるハブユニット軸受の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の上記目的は、ハブユニット軸受の製造方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 内周面に第1及び第2の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に車輪を支持固定する為のフランジ、前記第1の外輪軌道に対向する第1の内輪軌道、及び小径段部を少なくとも有するハブ輪と、アウトボード側端面を前記小径段部の段差面に突き当てた状態で前記小径段部の外周面に外嵌されて前記ハブ輪に固定され、外周面に前記第2の外輪軌道に対向する第2の内輪軌道を有する内輪と、を備えるハブと、
前記第1及び第2の外輪軌道と前記第1及び第2の内輪軌道との間で、複列に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブユニット軸受は、前記複列のうちのいずれか一方の列を構成する前記転動体が玉である玉軸受部と、いずれか他方の列を構成する前記転動体が円錐ころである円錐ころ軸受部と、を備え、
前記玉軸受部側の内輪軌道を構成する前記ハブ輪と前記内輪の一方、前記外輪、及び前記玉が組み立てられた状態で、前記ハブ輪と前記内輪の他方、及び前記円錐ころに対応する測定治具を、前記ハブ輪と前記内輪の一方に組み付けて、前記ハブ輪と前記内輪の一方と前記測定治具との間の軸方向隙間を測定する工程と、
前記測定された軸方向隙間に基づいて、前記ハブ輪の小径段部と前記内輪との間の所望の負隙間となるように、前記内輪、前記第2の外輪軌道及び前記第2の内輪軌道を転動する前記転動体、及び前記転動体を保持する保持器を有する組立体を使用し、前記内輪を前記ハブ輪の小径段部に嵌合固定する工程と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハブユニット軸受の製造方法によれば、軸受軸方向隙間の大きさを精度よく測定可能にすると共に、負隙間の大きさを厳密に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッドハブユニット軸受の断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る測定治具により該測定治具とハブ輪との間の軸方向隙間を測定する方法を示す断面図である。
【
図3】マスターカップを用いて内輪、円錐ころ及び保持器の組立体である所謂コーンの軸方向距離を測定する方法を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態の第1変形例に係る測定治具により、該測定治具とハブ輪との間の軸方向隙間を測定する方法を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態の第2変形例に係る測定治具により、該測定治具とハブ輪との間の軸方向隙間を測定する方法を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るハイブリッドハブユニット軸受の断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る測定治具により、該測定治具と内輪との間の軸方向隙間を測定する方法を示す断面図である。
【
図8】マスターカップを用いて内輪、円錐ころ及び保持器の組立体の軸方向距離を測定する方法を示す断面図である。
【
図9】第2実施形態の第1変形例に係る測定治具により、該測定治具と内輪との間の軸方向隙間を測定する方法を示す断面図である。
【
図10】第2実施形態の第2変形例に係る測定治具により、該測定治具と内輪との間の軸方向隙間を測定する方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るハブユニット軸受の製造方法の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本実施形態のハブユニット軸受10の製造方法は、アウトボード側列の軸受が玉軸受部40で構成され、インボード側列の軸受が円錐ころ軸受部50で構成された複列のハイブリッドハブユニット軸受10において、円錐ころ軸受部50側(インボード側)の内輪37、円錐ころ(転動体)52及び保持器51の一方の組立体であるコーン55(以下、一方の組立体を単にコーン55とも言う)を測定治具60に置き換え、製品となる玉軸受部40側(アウトボード側)の外輪20、ハブ輪31及び玉(転動体)42の他方の組立体70との軸方向隙間(負隙間)を測定し、測定された軸方向隙間に対応するコーン55を選択して、或いは、内輪37のアウトボード側端面38を測定した軸方向隙間に対応させて加工し、他方の組立体70に嵌合することで、所望の負隙間を有するハブユニット軸受10を製作することである。
【0014】
なお、本明細書及び特許請求の範囲の全体で、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向外側となる、
図1の左側を言い、「アウトボード側」とも称す。また、反対に車体の幅方向中央側となる、
図1の右側を、軸方向に関して「内」と言い、「インボード側」とも称す。
【0015】
まず、
図1を参照して、本実施形態のハイブリッドハブユニット軸受について概略説明する。
図1に示すように、本実施形態のハイブリッドハブユニット軸受10は、従動輪用であり、外輪20と、ハブ30と、外輪20とハブ30との間に転動自在に収容されたアウトボード側の複数の玉42及びインボード側の複数の円錐ころ52と、を主に備える。即ち、ハイブリッドハブユニット軸受10は、複列の転動体のうち、アウトボード側の一方の列を構成する玉42を有する玉軸受部40と、インボード側の他方の列を構成する円錐ころ52を有する円錐ころ軸受部50と、を備える。、
【0016】
外輪20には、外周面の軸方向中間部に懸架装置のナックルに結合される静止側フランジ21が設けられている。外輪20の内周面には、アウトボード側に玉軸受部40の第1の外輪軌道22が断面円弧状に形成され、インボード側に円錐ころ軸受部50の第2の外輪軌道23が円錐面形状に形成されている。
【0017】
ハブ30は、ハブ輪31と内輪37とにより構成されている。ハブ輪31には、外輪20の軸方向外側開口から軸方向外方に突出した部分に、外径側に延出して、車輪(駆動輪)及びディスクロータ等の制動用回転部材を支持固定する為の円輪状の回転フランジ32が設けられている。ハブ輪31は、外輪20の内径側に外輪20と同軸に配置されており、ハブ輪31の外周面には、軸方向中間部分に玉軸受部40の第1の内輪軌道33が断面円弧状に形成され、軸方向内端部に小径段部34が形成されている。
【0018】
内輪37は、そのアウトボード側端面38を小径段部34の段差面34aに突き当てた状態で、ハブ輪31の小径段部34の外周面に締め代を持って圧入により外嵌され、また、ハブ輪31の軸方向内端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部36と段差面34aに挟持されて、ハブ輪31に固定されている。内輪37の外周面には、円錐ころ軸受部50の第2の内輪軌道35が円錐面状に形成されている。
【0019】
したがって、複数の玉42は、外輪20の第1の外輪軌道22とハブ輪31の第2の内輪軌道33との間に、保持器41に回動自在に保持された状態で配置されている。また、複数の円錐ころ52は、外輪20の第1の外輪軌道23と、内輪37の第2の内輪軌道35との間に、尾部53を外側に向けて、保持器51に回動自在に保持された状態で配置されている。
【0020】
玉軸受部40のアウトボード側には、外輪20の軸方向外側端部とハブ輪31の軸方向中間部との間にシール部材12が配置されている。また、円錐ころ軸受部50のインボード側には、外輪20の軸方向内側端部と内輪37の軸方向内側端部との間にシール部材13が配置されている。これにより、複数の玉42及び円錐ころ52が設けられた内部空間16の軸方向両側を塞いでいる。
【0021】
図2は、専用の測定治具60を用いて、ハブ輪31、外輪20及び複数の玉42が組み立てられた状態でのハブ輪31の小径段部34の段差面34aと、測定治具60のアウトボード側端面61との軸方向隙間Sを測定する方法を示す説明図である。
【0022】
図2に示すように、測定治具60は、ハブ輪31の小径段部34に隙間なく外嵌する内周面を有して略筒状に形成されている。即ち、測定治具60は、ハブ輪31の小径段部34の外周面に嵌合し、内輪37と類似した形状を有する内輪相当部63と、外輪20の第2の外輪軌道23に当接する当接部である円錐ころ相当部64と、を備える。円錐ころ相当部64は、内輪相当部63から外径側に突出する少なくとも3つの凸部からなり、本実施形態の3つの凸部は、例えば120°間隔で周方向に離間して形成されている。
【0023】
内輪相当部63には、軸方向に貫通する流路65が形成され、内輪相当部63のアウトボード側端面61には、小径段部34の段差面34aに向けて開口し、ハブ輪31と測定治具60との間の軸方向隙間に圧縮空気を吐出する吹き出し口65aが形成されている。流路65は、外部に配置された圧縮空気供給源71に圧力計72や流量計(不図示)、絞り73を介して接続されている。
なお、内輪相当部63の内周面には、ブッシュなどの滑り軸受が嵌められていてもよい。
【0024】
内輪相当部63の内周面には、Oリング14が装着されるOリング溝66が形成されている。Oリング14は、ハブ輪31の小径段部34と測定治具60の貫通孔62との隙間を封止して該隙間からの後述する圧縮空気の漏れを防止する。
【0025】
図2に示すように、測定治具60は、ハブ輪31、外輪20及び複数の玉42が組み立てられた状態で、ハブ輪31の小径段部34に嵌合され、円錐ころ相当部64である3つの凸部を外輪20の外輪軌道23に当接させた状態でアウトボード側(図中左方向)に軽く押して、玉軸受部40の軸方向ガタ及び外輪軌道23と円錐ころ相当部64の軸方向ガタがない状態にする。
【0026】
そして、圧縮空気供給源71から供給する一定圧力の圧縮空気を、吹き出し口65aから小径段部34の段差面34aとアウトボード側端面61との軸方向隙間Sに吐出させる。この時の圧縮空気の背圧や流量から測定治具60のアウトボード側端面61(
図1における内輪37のアウトボード側端面38相当部)と小径段部34の段差面34aとの間の軸方向隙間Sを測定する。なお、供給される圧縮空気の背圧や流量は、軸方向隙間Sの大きさに比例するので、圧縮空気の背圧や流量を測定することで軸方向隙間Sを容易に測定することができる。
【0027】
また、貫通孔62の内周面に設けられたOリング14は、ハブ輪31の小径段部34と測定治具60の貫通孔62との隙間を封止して該隙間からの圧縮空気の漏れを防止するので、圧縮空気の背圧や流量による隙間測定への影響を排除することができ、測定精度が向上する。
【0028】
また、軸方向隙間Sの測定は、円錐ころ52に換えて円錐ころ相当部64である3つの凸部を外輪軌道23に当接して行うので、円錐ころ52の位置を安定させる為のなじませ回転が不要であり、作業効率が向上する。
【0029】
上記した測定方法によって軸方向隙間Sの大きさを測定することで、軸方向隙間Sが測定される。
【0030】
次いで、上記の測定方法によって測定された軸方向隙間Sに基づいて、複数の予め準備したコーンから、所望の負隙間となるようなコーン55を選択し、或いは、所望の負隙間となるように予め加工代が設けられた内輪37のアウトボード側端面38を削り又は押圧加工して(差幅カットして)、内輪37のアウトボード側端面38を小径段部34の段差面34aに突き当て小径段部34に嵌合固定する。これにより、ハブ輪31(小径段部34の段差面34a)と内輪37(アウトボード側端面38)との負隙間を厳密に管理して、所望の負隙間を有するハブユニット軸受10を製作することができる。
【0031】
次に、測定された軸方向隙間Sに対応するコーン55の選択方法について、
図3を参照して説明する。
【0032】
図3に示すように、マスターカップ75は、円錐ころ軸受部50の第2の外輪軌道23と同一形状の外輪軌道相当面76と、測定治具60のアウトボード側端面61との位置関係(寸法)が既知の基準面77とを備え、コーン55が挿入可能な略カップ状に形成されている。
【0033】
例えば、測定治具60の円錐ころ相当部64をマスターカップ75の外輪軌道相当面76に当接させて、測定治具60とマスターカップ75とを組み合わせたとき、マスターカップ75の基準面77と測定治具60のアウトボード側端面61との距離が与えられている。
【0034】
そして、製品として組み付けられるコーン55の内輪幅寸法C1をダイヤルゲージ78で測定する(
図3(a)参照)と共に、円錐ころ52をマスターカップ75の外輪軌道相当面76に当接させ、基準面77と内輪37のインボード側端面39間の距離C2をダイヤルゲージ78aで測定する(
図3(b)参照)。
【0035】
従って、測定された小径段部34の段差面34aと測定治具60のアウトボード側端面61との軸方向隙間Sに基づいて、内輪幅寸法C1と、基準面77と内輪37のインボード側端面39間の距離C2と、基準面77と測定治具60のアウトボード側端面61との距離との関係が、所望の負隙間を与えるように、既知の複数のコーン55の中から適合するコーン55を選択して小径段部34に圧入嵌合する。
【0036】
なお、コーン55(内輪37)を小径段部34に圧入嵌合すると、該圧入嵌合により軸方向隙間Sが変化する虞がある。しかし、内輪37の内径と小径段部34の外径を測定しておくことで、圧入による該軸方向隙間Sの変化量を演算により求め、コーン55の選択の際に補正することができる。
同様に、内輪37のアウトボード側端面38を軸方向隙間Sに対応させて加工する場合にも、圧入嵌合による軸方向隙間Sの変化量を補正量として加味することができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のハブユニット軸受の製造方法によれば、軸方向隙間の大きさを精度よく測定可能にすると共に、負隙間の大きさを厳密に管理して所望の負隙間を有するハブユニット軸受を製作できる。
【0038】
(第1実施形態の第1変形例)
本変形例の測定治具60Aは、
図4に示すように、3つの凸部である円錐ころ相当部64(
図2参照)を備えておらず、代わりに、複数の円錐ころ52及び保持器51とを具備している。そして、測定治具60Aは、複数の円錐ころ52を円錐ころ軸受部50の第2の外輪軌道23に当接させて軸方向隙間Sを測定している。
【0039】
本変形例の測定治具60Aによる軸方向隙間Sの測定は、測定治具60Aと外輪20とを相対回転させて、円錐ころ52を外輪軌道23の整列位置に整列させる必要はあるものの、目標予圧を負荷した上で測定を行えば、予圧値による円錐ころ52の整列位置の変化が発生するのを防止することができ、より確実なコーン55の選択、或いは、内輪37のアウトボード側端面38の加工が可能となる。
【0040】
(第1実施形態の第2変形例)
本変形例の測定治具60Bは、
図5に示すように、測定治具60Bの圧縮空気の吹き出し口65bが、小径段部34の段差面34aに向けて開口する環状溝67を備える点で第1実施形態の第1変形例の測定治具60A(
図4参照)と異なる。
【0041】
吹き出し口65bに環状溝67を設けることで、測定治具60Bのアウトボード側端面61とハブ輪31の段差面34aとの軸方向隙間Sを平均化して測定することができ、さらに確実なコーン55の選択、或いは、内輪37のアウトボード側端面38の加工が可能となる。
【0042】
なお、吹き出し口65bに環状溝67を設けて平均化した軸方向隙間Sを測定する上記の方法は、第1実施形態の測定治具60(
図2参照)にも適用できる。
【0043】
(第2実施形態)
図6に示すように、本実施形態のハイブリッドハブユニット軸受10Aは、転動体として玉42を有する玉軸受部40がインボード側に設けられ、転動体として円錐ころ52を有する円錐ころ軸受部50がアウトボード側に設けられる点において、第1実施形態のものと異なる。
【0044】
このため、外輪20の内周面には、アウトボード側の第1の外輪軌道22が円錐面状に形成され、インボード側の第2の外輪軌道23が断面円弧状に形成されている。また、ハブ輪31の外周面に形成された第1の内輪軌道33が円錐面状に形成され、内輪37の外周面に形成された第2の内輪軌道35が断面円弧状に形成されている。
【0045】
本実施形態のハイブリッドハブユニット軸受10の製造に用いられる測定治具80は、
図7に示すように、内輪37の内周面が嵌合する小径段部相当部82を有し、ハブ輪31と類似した形状を有するハブ輪相当部81と、外輪20の第2の外輪軌道23に当接する当接部である円錐ころ相当部83と、を備える。円錐ころ相当部83は、ハブ輪相当部81から外径側に突出する少なくとも3つの凸部からなり、本実施形態の3つの凸部は、例えば120°間隔で周方向に離間して形成されている。
【0046】
そして、専用の測定治具80を用いて、内輪37、外輪20及び複数の玉42が組み立てられた状態で、内輪37の内周面に小径段部相当部82を嵌合させ、小径段部相当部82の段差面82aと内輪37のアウトボード側端面38とを対向させて、第1実施形態で説明したと同様に、流路85を介して吹き出し口85aから圧縮空気を吐出した時の流量や背圧を測定することで軸方向隙間Sを測定する。
【0047】
なお、負隙間の調整は、玉軸受40側で行っても、円錐ころ軸受部50側で行っても複列軸受では結果的に同じであり、さらに、ハブ輪31は、アウトボード側のシール摺接面からインボード側の小径段部34まで、総形砥石による一体研削で製作され、全てのハブ輪31が同一寸法となることから、ハブ輪31を選択して内輪37と嵌合することは困難である。また、小径段部34の段差面34aを加工することも困難である。このため、選択嵌合が容易な玉軸受40側の構成部材を、測定された軸方向隙間Sに合わせて選択して負隙間の調整を行うのがよい。具体的には、玉42のゲージを選択することや、内輪のアウトボード側端面38を加工して(差幅カット)、負隙間の調整を行う。
【0048】
なお、玉軸受40側の構成部材を選択する場合には、
図3で説明したマスターカップ75の外輪軌道相当面76を断面円弧状に変更した
図8に示すマスターカップ75Aを用いて、第1実施形態と同様にして、所望の負隙間を与えるように、既知の複数の玉軸受40側の内輪37、玉42、保持器41の組立体の中から適合する組立体を選択して小径段部34に圧入嵌合する。
【0049】
(第2実施形態の第1変形例)
本変形例の測定治具80Aは、
図9に示すように、3つの凸部である円錐ころ相当部83(
図7参照)を備えておらず、代わりに、複数の円錐ころ52及び保持器51とを具備している。そして、測定治具80Aは、複数の円錐ころ52を介して円錐ころ軸受部50側の第1の外輪軌道22に当接させて軸方向隙間Sを測定している。
【0050】
本変形例の測定治具80Aによる軸方向隙間Sの測定は、測定治具80Aと外輪20とを相対回転させて、円錐ころ52を外輪軌道22の整列位置に整列させる必要はあるものの、目標予圧を負荷した上で測定を行えば、予圧値による円錐ころ52の整列位置の変化をキャンセルすることができ、より確実な内輪37、玉42、保持器41の組立体の選択、或いは、内輪37のアウトボード側端面38の加工が可能となる。
【0051】
(第2実施形態の第2変形例)
本変形例の測定治具80Bは、
図10に示すように、測定治具80Bの圧縮空気の吹き出し口85bが、内輪37のアウトボード側端面38に向けて開口する環状溝86を備える点で第2実施形態の第1変形例の測定治具80A(
図9参照)と異なる。
【0052】
吹き出し口85bに環状溝86を設けることで、測定治具80Bの小径段部相当部82の段差面相当部82aと内輪37のアウトボード側端面38との軸方向隙間Sを平均化して測定することができ、さらに確実な内輪37、玉42、保持器41の組立体の選択、或いは、内輪37のアウトボード側端面38の加工が可能となる。
【0053】
なお、吹き出し口85bに環状溝86を設けて平均化した軸方向隙間Sを測定する上記の方法は、第2実施形態の測定治具80(
図7参照)にも適用できる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態のハブユニット軸受の製造方法によれば、負隙間の大きさを精度よく測定可能にすると共に、負隙間の大きさを厳密に管理して所望の負隙間を有するハブユニット軸受を製作できる。
【0055】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0056】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に第1及び第2の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に車輪を支持固定する為のフランジ、前記第1の外輪軌道に対向する第1の内輪軌道、及び小径段部を少なくとも有するハブ輪と、アウトボード側端面を前記小径段部の段差面に突き当てた状態で前記小径段部の外周面に外嵌されて前記ハブ輪に固定され、外周面に前記第2の外輪軌道に対向する第2の内輪軌道を有する内輪と、を備えるハブと、
前記第1及び第2の外輪軌道と前記第1及び第2の内輪軌道との間で、複列に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブユニット軸受は、前記複列のうちのいずれか一方の列を構成する前記転動体が玉である玉軸受部と、いずれか他方の列を構成する前記転動体が円錐ころである円錐ころ軸受部と、を備え、
前記玉軸受部側の内輪軌道を構成する前記ハブ輪と前記内輪の一方、前記外輪、及び前記玉が組み立てられた状態で、前記ハブ輪と前記内輪の他方、及び前記円錐ころに対応する測定治具を、前記ハブ輪と前記内輪の一方に組み付けて、前記ハブ輪と前記内輪の一方と前記測定治具との間の軸方向隙間を測定する工程と、
前記測定された軸方向隙間に基づいて、前記ハブ輪の小径段部と前記内輪との間の所望の負隙間となるように、前記内輪、前記第2の外輪軌道及び前記第2の内輪軌道を転動する前記転動体、及び前記転動体を保持する保持器を有する組立体を使用し、前記内輪を前記ハブ輪の小径段部に嵌合固定する工程と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、軸方向隙間の大きさを精度よく測定することが可能となり、負隙間の大きさを厳密に管理することができる。
【0057】
(2) 前記嵌合固定する工程は、前記測定された軸方向隙間に基づいて、前記所望の負隙間になるように、前記組立体を選択的に選定して、或いは、前記組立体の前記内輪のアウトボード側端面を加工したのち、前記組立体の前記内輪を前記ハブ輪の小径段部に嵌合固定する、
(1)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、測定された軸方向隙間に基づいて、所望の負隙間になるように、内輪、転動体及び保持器からなる組立体を選択して、或いは、内輪のアウトボード側端面を加工して、内輪を小径段部に嵌合固定し、負隙間の大きさを厳密に管理することができる。
【0058】
(3) 前記測定治具は、前記ハブ輪の小径段部の外周面に嵌合する内輪相当部と、前記外輪の前記円錐ころ軸受部側の外輪軌道と当接する当接部と、を備え、
前記内輪相当部は、前記ハブ輪と前記測定治具との間の軸方向隙間に圧縮空気を吐出する吹き出し口を有する流路を備え、前記吹き出し口から流出する前記圧縮空気の流量、又は背圧によって、前記軸方向隙間を測定する、
(1)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、吹き出し口から流出する圧縮空気の流量、又は背圧によって、軸方向隙間を精度よく測定できる。
【0059】
(4) 前記測定治具は、前記内輪の内周面が嵌合する小径段部相当部を有するハブ輪相当部と、前記外輪の前記円錐ころ軸受部側の外輪軌道と当接する当接部と、を備え、
前記ハブ輪相当部は、前記内輪と前記測定治具との間の軸方向隙間に圧縮空気を吐出する吹き出し口を有する流路を備え、前記吹き出し口から流出する前記圧縮空気の流量、又は背圧によって、前記軸方向隙間を測定する、
(1)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、吹き出し口から流出する圧縮空気の流量、又は背圧によって、軸方向隙間を精度よく測定できる。
【符号の説明】
【0060】
10 ハブユニット軸受
20 外輪
22 第1の外輪軌道
23 第2の外輪軌道
30 ハブ
31 ハブ輪
32 回転フランジ
33 第1の内輪軌道
34 小径段部
34a 段差面
35 第2の内輪軌道
37 内輪
38 アウトボード側端面
39 インボード側端面
40 玉軸受部
42 玉(転動体)
50 円錐ころ軸受部
52 円錐ころ(転動体)
55 コーン(組立体)
60、80 測定治具
64 円錐ころ相当部(凸部)
65a 吹き出し口
66 環状溝
70 組立体
S 軸方向隙間