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特開2024-168679締結方法、アルミニウム部材の製造方法、及びアルミニウム部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168679
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】締結方法、アルミニウム部材の製造方法、及びアルミニウム部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/73 20060101AFI20241128BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20241128BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C23C22/73 Z
F16B43/00 Z
F16B5/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085555
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】田邉 雅大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 貴博
(72)【発明者】
【氏名】福田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 康史
(72)【発明者】
【氏名】木村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】奥野 俊
(72)【発明者】
【氏名】戎本 圭佑
【テーマコード(参考)】
3J001
3J034
4K026
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA03
3J001GA06
3J001GB01
3J001HA02
3J001HA07
3J001JA04
3J001KA21
3J034AA13
4K026AA09
4K026BA08
4K026BB08
4K026BB10
4K026CA14
4K026DA13
4K026DA14
(57)【要約】
【課題】高摩擦性及び高耐食性を有するアルミニウム部材と対象部材との締結方法を提供する。
【解決手段】締結方法は、準備工程と、形成工程と、締結工程とを含む。準備工程では、対象部材とアルミニウム部材とを準備する。対象部材はその表面に樹脂膜を有する。形成工程では、アルミニウム部材の表面において、中間層と、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する。締結工程では、アルミニウム部材の凹凸を対象部材の樹脂膜に突き刺しつつ、アルミニウム部材と対象部材とを締結させる。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面に樹脂膜を有する対象部材とアルミニウム部材とを準備する準備工程と、
前記アルミニウム部材の表面において、中間層と、前記中間層上に配置され、前記対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する形成工程と、
前記アルミニウム部材の前記凹凸を前記対象部材の前記樹脂膜に突き刺しつつ、前記アルミニウム部材と前記対象部材とを締結させる締結工程と、
を含み、
前記中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、前記アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有し、
前記接触層は、アルミニウム水酸化物を含み、
前記凹凸は、前記対象部材の前記樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい、
締結方法。
【請求項2】
前記形成工程は、前記アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって4.30MPa以下の圧力下で反応させ、前記アルミニウム部材の表面をアルミニウム水酸化物に改質し、前記中間層及び前記接触層を形成する表面水酸化工程を含む、請求項1に記載の締結方法。
【請求項3】
前記表面水酸化工程は、前記アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させる、請求項2に記載の締結方法。
【請求項4】
前記表面水酸化工程は、前記アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、30分以上48時間以下の処理時間で反応させる、請求項2又は3に記載の締結方法。
【請求項5】
前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の締結方法。
【請求項6】
前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の締結方法。
【請求項7】
前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率は10%以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の締結方法。
【請求項8】
前記対象部材の前記樹脂膜の厚みは、5μm以上50μm以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の締結方法。
【請求項9】
その表面に樹脂膜を有する対象部材に締結されるアルミニウム部材の製造方法であって、
前記アルミニウム部材の表面において、中間層と、前記中間層上に配置され、前記対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する形成工程を含み、
前記中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、前記アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有し、 前記接触層は、アルミニウム水酸化物を含み、
前記凹凸は、前記対象部材の前記樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい、
アルミニウム部材の製造方法。
【請求項10】
前記形成工程は、前記アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって4.30MPa以下の圧力下で反応させ、前記アルミニウム部材の表面をアルミニウム水酸化物に改質し、前記中間層及び前記接触層を形成する表面水酸化工程を含む、請求項9に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項11】
前記表面水酸化工程は、前記アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させる、請求項10に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項12】
前記表面水酸化工程は、前記アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、30分以上48時間以下の処理時間で反応させる、請求項10又は11に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項13】
前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上である、請求項9~11の何れか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項14】
前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下である、請求項9~11の何れか一項にアルミニウム部材の製造方法。
【請求項15】
前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率は10%以上である、請求項9~11の何れか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項16】
その表面に樹脂膜を有する対象部材に締結されるアルミニウム部材であって、
表面に形成された中間層と、
前記中間層上に配置され、前記対象部材と接触可能な第1の凹凸を有する接触層と、
を備え、
前記中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、前記アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有し、 前記接触層は、アルミニウム水酸化物を含み、
前記第1の凹凸は、前記対象部材の前記樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい、
アルミニウム部材。
【請求項17】
前記第1の凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上である、請求項16に記載のアルミニウム部材。
【請求項18】
前記第1の凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下である、請求項16又は17に記載のアルミニウム部材。
【請求項19】
前記第1の凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率は10%以上である、請求項16又は17に記載のアルミニウム部材。
【請求項20】
前記アルミニウム部材の前記表面に形成され、マイクロオーダーの第2の凹凸をさらに備え、
前記第1の凹凸は、前記第2の凹凸の表面に形成されている、請求項16又は17に記載のアルミニウム部材。
【請求項21】
前記アルミニウム部材の腐食電流密度は、前記中間層及び前記接触層を有しないアルミニウム素材の腐食電流密度と比較して130分の1以下である、請求項16又は17に記載のアルミニウム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、締結方法、アルミニウム部材の製造方法、及びアルミニウム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、管接合部のねじ山表面を改良する方法を開示する。この方法は、雌楔形ねじ山及び雄楔形ねじ山の全表面を表面処理する工程と、雌楔形ねじ山及び雄楔形ねじ山の指定された領域にフルオロポリマーベースのコーティングを付ける工程と、雌楔形ねじ山及び雄楔形ねじ山の全ねじ山に樹脂コーティングを付ける工程とを含む。樹脂コーティングは、フルオロポリマーベースのコーティングを欠いた領域に接着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-507588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウムは、鉄と比べて軽量であるため、締結部材に用いられ得る。締結部材と当該締結部材により締結された対象部材との間において、部材同士の摩擦力が小さくなるにつれて締結が解除されやすくなる場合がある。また、部材間で異種金属接触腐食及び迷走電流腐食等の腐食が生じる場合がある。特許文献1に記載の方法によれば、締結部材に対してねじ山面のコーティングを実施することで、締結部材に耐腐食性が付与され得る。一方で、当該コーティングは、摩擦力の向上には寄与しない場合があり、締結部材に必要な高摩擦性及び高耐食性が共に担保されない場合がある。よって、アルミニウム部材と対象部材との締結において、高摩擦性及び高耐食性を発揮できる締結方法、アルミニウム部材の製造方法及びアルミニウム部材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る締結方法は、準備工程と、形成工程と、締結工程とを含む。準備工程では、対象部材とアルミニウム部材とを準備する。対象部材はその表面に樹脂膜を有する。形成工程では、アルミニウム部材の表面において、中間層と、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する。締結工程では、アルミニウム部材の凹凸を対象部材の樹脂膜に突き刺しつつ、アルミニウム部材と対象部材とを締結させる。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【0006】
本開示の他の側面に係るアルミニウム部材の製造方法は、その表面に樹脂膜を有する対象部材に締結されるアルミニウム部材の製造方法である。アルミニウム部材の製造方法は、形成工程を含む。形成工程は、アルミニウム部材の表面において、中間層と、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【0007】
本開示の他の側面に係るアルミニウム部材は、その表面に樹脂膜を有する対象部材に締結されるアルミニウム部材である。アルミニウム部材は、表面に形成された中間層と、接触層とを備える。接触層は、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な第1の凹凸を有する。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。第1の凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、アルミニウム部材と対象部材との締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るアルミニウム部材を含む締結ユニットを示す断面図である。
図2図1及び図8のIIで示す一点鎖線内の締結ユニットの拡大図である。
図3】第1実施形態及び第2実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の概念図である。
図4】第1実施形態及び第2実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の構成を説明する図である。
図5図4の噴射ノズルの断面図である。
図6】第1実施形態及び第2実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法を含む締結方法のフローチャートである。
図7】第2実施形態に係るアルミニウム部材を含む締結ユニットを示す上面図である。
図8】第2実施形態に係るアルミニウム部材を含む締結ユニットを示す断面図である。
図9】変形例に係るアルミニウム部材及び締結ユニットの拡大図である。
図10】実施例に係る加工条件に対する摩擦試験結果及び耐食性試験結果である。
図11】実施例に係る加工条件に対する摩擦試験結果及び耐食性試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の第1実施形態及び第2実施形態の概要]
最初に、本開示の第1実施形態及び第2実施形態の概要を説明する。
【0011】
(条項1) 本開示の一側面に係る締結方法は、準備工程と、形成工程と、締結工程とを含む。準備工程では、その表面に樹脂膜を有する対象部材とアルミニウム部材とを準備する。形成工程では、アルミニウム部材の表面において、中間層と、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する。締結工程では、アルミニウム部材の凹凸を対象部材の樹脂膜に突き刺しつつ、アルミニウム部材と対象部材とを締結させる。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【0012】
この締結方法によれば、形成工程後のアルミニウム部材の表面には、接触層において凹凸が形成される。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。そして、締結工程によりアルミニウム部材の凹凸が対象部材の樹脂膜に突き刺さる。ここでの突き刺さるとは、アルミニウム部材の凹凸が対象部材の樹脂膜内に入り込むことを含む。対象部材の樹脂膜に突き刺さった凹凸は、対象部材との締結においてアンカー効果を奏する。このため、アルミニウム部材と対象部材との高摩擦性を安定して維持できる。また、アルミニウム部材の表面において、中間層が形成されている。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。よって、対象部材の樹脂膜にアルミニウム部材の接触層の凹凸が突き刺さった場合であっても、締結されたアルミニウム部材と対象部材との間には中間層が介在することとなる。このため、電気化学作用によるアルミニウム部材の腐食が抑制され、この締結方法は対象部材との締結において高耐食性を安定して維持できる。このように、この締結方法は、アルミニウム部材と対象部材との締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できる。
【0013】
(条項2) 条項1に記載の締結方法において、形成工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって4.30MPa以下の圧力下で反応させ、アルミニウム部材の表面をアルミニウム水酸化物に改質し、中間層及び接触層を形成する表面水酸化工程を含んでもよい。この場合、アルミニウム部材は、上述の圧力により水蒸気と反応するため、この締結方法は、アルミニウム部材の表面において、中間層と、凹凸を有する接触層と、を形成できる。
【0014】
(条項3) 条項2に記載の締結方法において、表面水酸化工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させてもよい。この場合、この締結方法は、アルミニウム部材と水蒸気とを100℃より高い熱を加えて反応させることで、アルミニウム部材の表面をアルミニウム水酸化物に容易に改質できる。また、この締結方法は、アルミニウム部材と水蒸気とを100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させることで、適切な剛性を有する凹凸を形成できる。
【0015】
(条項4) 条項2又は条項3に記載の締結方法において、表面水酸化工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、30分以上48時間以下の処理時間で反応させてもよい。この場合、この締結方法は、アルミニウム部材の表面に適切な厚さのアルミニウム水酸化物の層を形成できる。
【0016】
(条項5) 条項1~4の何れか一項に記載の締結方法において、形成工程において凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上であってもよい。この場合、この締結方法では、アルミニウム部材の表面には、最大高さ及び十点平均粗さが0.5 μm以上の凹凸が形成されるため、摩擦性への寄与が大きい凹凸が形成される。
【0017】
(条項6) 条項1~5の何れか一項に記載の締結方法において、形成工程において凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下であってもよい。この場合、この締結方法は、高摩擦性及び高耐食性を発揮できる凹凸を形成できる。
【0018】
(条項7) 条項1~6の何れか一項に記載の締結方法において、前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率は10%以上であってもよい。この場合、この締結方法では、アルミニウム部材の表面に適切な数の凹凸を形成でき、アルミニウム部材と対象部材との締結において高摩擦性を発揮できる。
【0019】
(条項8) 条項1~7の何れか一項に記載の締結方法において、対象部材の樹脂膜の厚みは、5μm以上50 μm以下であってもよい。この場合、この締結方法では、樹脂膜の厚みが5 μm以上であるため、アルミニウム部材の接触層の凹凸が対象部材の樹脂膜内に適切に突き刺さることができる。また、この締結方法では、樹脂膜の厚みが50μm以下であるため、アルミニウム部材と対象部材との間で摩擦が生じる時に樹脂膜がアルミニウム部材に対して変形する度合いが小さくなり、破断を抑制できる。これらより、この締結方法は、アルミニウム部材と対象部材との高摩擦力を適切に発揮させることができる。
【0020】
(条項9) 本開示の他の側面に係るアルミニウム部材の製造方法は、その表面に樹脂膜を有する対象部材に締結されるアルミニウム部材の製造方法である。アルミニウム部材の製造方法は、形成工程を含む。形成工程は、アルミニウム部材の表面において、中間層と、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な凹凸を有する接触層とを形成する。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【0021】
このアルミニウム部材の製造方法によれば、形成工程後のアルミニウム部材の表面には、接触層において凹凸が形成される。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。アルミニウム部材の凹凸は、対象部材の樹脂膜に突き刺さることができる。対象部材の樹脂膜に突き刺さった凹凸は、対象部材との締結においてアンカー効果を奏する。このため、このアルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム部材と対象部材との高摩擦性を安定して維持できるアルミニウム部材を製造できる。また、アルミニウム部材の表面において、中間層が形成されている。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。よって、対象部材の樹脂膜にアルミニウム部材の接触層の凹凸が突き刺さる場合であっても、締結されるアルミニウム部材と対象部材との間には中間層が介在することとなるため、電気化学作用によるアルミニウム部材の腐食が抑制される。これらにより、このアルミニウム部材の製造方法は、対象部材との締結において高耐食性を安定して維持できるアルミニウム部材を製造できる。このように、このアルミニウム部材の製造方法は、対象部材との締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できるアルミニウム部材を製造できる。
【0022】
(条項10) 条項9に記載のアルミニウム部材の製造方法において、形成工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって4.30MPa以下未満の圧力下で反応させ、アルミニウム部材の表面をアルミニウム水酸化物に改質し、中間層及び接触層を形成する表面水酸化工程を含んでもよい。この場合、このアルミニウム部材の製造方法は、条項2に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0023】
(条項11) 条項10に記載のアルミニウム部材の製造方法において、表面水酸化工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させてもよい。この場合、このアルミニウム部材の製造方法は、条項3に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0024】
(条項12) 条項10又は条項11に記載のアルミニウム部材の製造方法において、表面水酸化工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、30分以上48時間以下の処理時間で反応させてもよい。この場合、このアルミニウム部材の製造方法は、条項4に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0025】
(条項13) 条項9~12の何れか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法において、形成工程において凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上であってもよい。この場合、このアルミニウム部材の製造方法は、条項5に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0026】
(条項14) 条項9~13の何れか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法において、形成工程において凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下であってもよい。この場合、このアルミニウム部材の製造方法は、条項6に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0027】
(条項15) 条項9~13の何れか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法において、前記形成工程において前記凹凸が形成された前記アルミニウム部材の表面において、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率は10%以上であってもよい。この場合、このアルミニウム部材の製造方法は、条項7に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0028】
(条項16) 本開示の他の側面に係るアルミニウム部材は、その表面に樹脂膜を有する対象部材に締結されるアルミニウム部材である。アルミニウム部材は、表面に形成された中間層と、接触層とを備える。接触層は、中間層上に配置され、対象部材と接触可能な第1の凹凸を有する。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。接触層は、アルミニウム水酸化物を含む。第1の凹凸は、対象部材の樹脂膜の厚みに比べて突出長さが小さい。
【0029】
このアルミニウム部材は、対象部材と締結するための部材である。アルミニウム部材の接触層に第1の凹凸があるため、対象部材との締結においてアンカー効果を奏する。このため、アルミニウム部材と対象部材との高摩擦性が安定して維持される。また、アルミニウム部材の表面において中間層が形成されている。中間層は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。よって、対象部材の樹脂膜にアルミニウム部材の接触層の凹凸が突き刺さる場合であっても、締結されるアルミニウム部材と対象部材との間には中間層が介在することとなるため、電気化学作用によるアルミニウム部材の腐食が抑制される。これらにより、このアルミニウム部材は、対象部材との締結において高耐食性を安定して維持できる。このように、このアルミニウム部材は、対象部材との締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できる。
【0030】
(条項17) 条項16に記載のアルミニウム部材において、第1の凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上であってもよい。この場合、このアルミニウム部材は、条項5に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0031】
(条項18) 条項16又は17に記載のアルミニウム部材において、第1の凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下であってもよい。この場合、このアルミニウム部材は、条項6に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0032】
(条項19) 条項16~18の何れか一項に記載のアルミニウム部材の第1の凹凸が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率は10%以上であってもよい。この場合、このアルミニウム部材は、条項7に記載の締結方法と同一の効果を奏する。
【0033】
(条項20) 条項16~19の何れか一項に記載のアルミニウム部材は、アルミニウム部材の表面に形成され、マイクロオーダーの第2の凹凸をさらに備えてもよく、第1の凹凸は、第2の凹凸の表面に形成されていてもよい。この場合、第2の凹凸は、アンカー効果に寄与する。第2の凹凸が鋭角な突起であっても、第1の凹凸が第2の凹凸の表面に形成されることで、アルミニウム部材の表面が中間層及び接触層に覆われる。これにより、第2の凹凸は丸み付けされる。このアルミニウム部材によれば、第2の凹凸が鋭角な突起として対象部材の樹脂膜の破断の起点となり得ないため、アルミニウム部材と対象部材との高摩擦性を安定して維持できる。
【0034】
(条項21) 条項16~20の何れか一項に記載のアルミニウム部材の腐食電流密度は、中間層及び接触層を有しないアルミニウム素材の腐食電流密度と比較して130分の1以下であってもよい。このアルミニウム部材は、中間層及び接触層を有しないアルミニウム素材に比べて耐食性が高い。
【0035】
[本開示の第1実施形態の例示]
以下、図面を参照して、本開示の第1実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」等の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。本実施形態における噴射材は、ブラスト加工時に噴射される部材であって、一例としてセラミックス(アルミナ、炭化ケイ素等)の砥粒である。特に指定がない限り、本実施形態における噴射材の粒子径は、平均粒子径(D50)にて表記する。
【0036】
[アルミニウム部材]
図1は、実施形態に係るアルミニウム部材を含む締結ユニットを示す斜視図である。図中のX方向及びY方向が水平方向であり、Z方向が垂直方向である。X方向、Y方向及びZ方向は、3次元空間の直交座標系における互いに直交する軸方向である。以下では、XY平面に沿った方向を水平方向、Z方向を上下方向ともいう。以下では、Z軸の正方向を上方、Z軸の負方向を下方ともいう。図1に示されるように、締結ユニット1は、複数の部材が締結により一体化された部材である。例えば、締結ユニット1は、アルミニウム部材2と、締結部材3と、対象部材4とを備える。本実施形態のアルミニウム部材2は、締結部材3によって対象部材4に締結される。すなわち、アルミニウム部材2は、締結部材3によって、対象部材4に向かって下方に押し込まれ、対象部材4の接触面4bと接触する。
【0037】
本実施形態のアルミニウム部材2は、例えば、水平方向に延在する環状の板部材である。アルミニウム部材2は、例えば、ワッシャーである。アルミニウム部材2には、例えば、上下方向に貫通する開口部2aが設けられている。アルミニウム部材2は、下方に向かって露出している表面2bと、上方に向かって露出している裏面2cとを有する。アルミニウム部材2の材料は限定されず、例えば、A1100、A2024,A3003、A4032、A5052、A6061、A7075、ADC12などである。
【0038】
締結部材3は、アルミニウム部材2の開口部2aに挿通され、対象部材4と螺合している。締結部材3は、例えば、雄ねじである。締結部材3は、頭部3aと、挿入部3bとを有する。水平方向において、頭部3aは、開口部2aの開口径より大きく、挿入部3bより太い。頭部3aの下方に向かって露出している表面3cにおいて挿入部3bが設けられている。挿入部3bが設けられていない頭部3aの表面3cの一部は、アルミニウム部材2の裏面2cに接触する。水平方向において、挿入部3bは、開口部2aの開口径より細い。挿入部3bは、上下方向に延在し、少なくとも下端部がねじ切りされている。
【0039】
本実施形態の対象部材4は、締結部材3によってアルミニウム部材2と締結される。対象部材4は、締結部材3と螺合する。対象部材4は、締結部材3が挿入される部材である。対象部材4は、例えば、締結部材3の挿入部3bと螺合可能なようにねじ切りがされている開口部4aを有する。
【0040】
アルミニウム部材2と締結部材3とが締結する場合を説明する。一例として、アルミニウム部材2は、締結部材3によって対象部材4に締結される。アルミニウム部材2は、例えば、開口部2aの位置と開口部4aの位置とが重なるように対象部材4の接触面4b上に載置される。アルミニウム部材2は、アルミニウム部材2の表面2bが対象部材4の接触面4bと接触するように載置される。締結部材3の挿入部3bは、アルミニウム部材2及び対象部材4の上方から、アルミニウム部材2及び対象部材4内に挿通される。具体的には、締結部材3の挿入部3bは、開口部2a内に挿通され、開口部4aと螺合する。締結部材3が対象部材4の開口部4aと螺合するにしたがって、締結部材3の表面3cがアルミニウム部材2の裏面2cに接触し、締結部材3の頭部3aがアルミニウム部材2を対象部材4側(下方)に押圧する。これにより、アルミニウム部材2の表面2bが、対象部材4の接触面4bに接触し、押圧される。挿入部3bのすべてが開口部2a及び開口部4a内に挿通されているとき、アルミニウム部材2の表面2bが対象部材4の接触面4bに適切に突き刺さる。このように、アルミニウム部材2は、締結部材3の頭部3aと対象部材4との間に挟まれ、アルミニウム部材2は、締結部材3によって対象部材4に締結される。ここで、締結とは、ある部材とある部材とが相対的に回転してひねられることで、当該2つの部材間に挟まれた部材と、当該ある部材とが緩みなく固定されることを含む。
【0041】
図2は、図1のIIで示す一点鎖線内の締結ユニットの拡大図である。図2に示されるように、アルミニウム部材2の表面2bには、後述の第1の凹凸7aと第2の凹凸2dとが形成されている。以下、アルミニウム部材2の表面2bとは、表面への加工及び改質の有無に関わらずアルミニウム部材2の最表面の表層のことである。なお、アルミニウム部材2の表面2bは、第2の凹凸2dの表層を特に説明する場合には第2の凹凸2dの表面2bともいう。第2の凹凸2dは、マイクロオーダーの凹凸である。マイクロオーダーの凹凸とは、1μm以上1000 μm未満の高低差を有する凹凸である。第2の凹凸2dには、第2の凹凸2dの凸部から凹部にかけて傾斜している傾斜部が形成される。当該傾斜部は、締結部材3による対象部材4との締結に寄与し、せん断耐力及び摩擦力に寄与する応力集中部となっている。
【0042】
アルミニウム部材2は、本体部5と、中間層6と、接触層7と、を備える。接触層7が最も外側(対象部材4側)に位置し、本体部5が表面(対象部材4に接する面)から最も遠い位置に位置する。中間層6は、本体部5と接触層7との間に設けられている。第2の凹凸2dは、本体部5の表面に形成されている。本体部5は、主にアルミニウム原子で構成されている。
【0043】
中間層6は、本体部5の第2の凹凸2dの表面2bに形成されている。中間層6は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。ここでのアモルファス物質とは、アモルファス状態の構造を有する物質を指す。中間層6が有するアモルファス物質は、アルミニウム原子及び酸素原子を含む固体物質の配列が不規則である物質を指す。中間層6は、層状複水酸化物を有さず、アモルファス物質を有する形態を取り得る。中間層6は、アモルファス物質のみを有する形態を取り得る。中間層6は、例えば、緻密なアルミナ(Al)で構成されている。中間層6は、第2の凹凸2dの上層(本体部5より外側)に位置し、厚みは、例えば、数十nm以上数μm以下である。
【0044】
接触層7は、アルミニウム水酸化物を含み、対象部材4と直接接触可能な層である。接触層7は、中間層6の上層(中間層6より外側)に位置する。アルミニウム水酸化物は、ヒドロキシル基を有するアルミニウムの化合物である。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの何れか1つを含んでよい。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの中から選択された複数の種類のアルミニウム水酸化物を含んでよい。
【0045】
接触層7は、対象部材4と接触可能な第1の凹凸7aを有する。接触層7は、例えば、対象部材4と接触可能なマイクロオーダー及びナノオーダーの少なくとも一方のオーダーの第1の凹凸7aを有する。ナノオーダーの凹凸とは、1nm以上1000 nm未満の高低差を有する凹凸である。接触層7は、例えば、対象部材4と接触可能な10 μm以下の第1の凹凸7aを有する。第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は0.5μm以上である。JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は、対象部材4の後述の樹脂膜8の厚さ未満であってもよい。JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は、例えば、50μm未満であってもよく、45 μm以下であってもよい。第1の凹凸7aのみが形成されたアルミニウム部材2においてJIS B0601(1994)に規定される最大高さRyは、0.5μm以上であってもよい。第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2においてJIS B0601(1994)に規定される十点平均粗さRzは、0.5μm以上であってもよい。
【0046】
第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下である。また、第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは10%以上である。なお、第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは20%以上であってもよい。
【0047】
アルミニウム部材2は、本体部5と中間層6との間に析出層が形成されていてもよい。当該析出層は、熱処理によりアルミニウム部材2の本体部5からケイ素(Si)又はマグネシウム(Mg)などのアルミニウム合金元素が析出したことにより形成された層である。例えば、中間層6の近くに存在する本体部5が、当該析出層を有していてもよい。
【0048】
対象部材4は、その表面に樹脂膜8を有する。例えば、樹脂膜8は、アルミニウム部材2の接触層7と接触可能な接触面4bに設けられる。対象部材4は、樹脂膜8より内側(アルミニウム部材2から遠い下方の位置)に位置する対象本体部9を有する。樹脂膜8は、対象本体部9を覆うように設けられ、外部に向かって露出している。樹脂膜8は、電着塗装膜又はコーティングである。樹脂膜8の材料は限定されず、例えば、エポキシ、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、アクリル、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリプロピレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン又はこれらの組み合わせなどである。
【0049】
樹脂膜8は、例えば、第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおける最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方の値より大きい厚さを有する。樹脂膜8は、例えば、アルミニウム部材2の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおける最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方の値より大きい厚さを有する。樹脂膜8は、例えば、5μm以上50 μm以下である。
【0050】
対象部材4の対象本体部9の材料は限定されず、金属であっても樹脂であってもよい。対象本体部9は、アルミニウム部材2に対して電位差を有する材料で構成されてもよく、電位差を有しない材料で構成されていなくてもよい。対象本体部9の材料は、例えば、鉄、アルミニウム、チタン、銅、樹脂(炭素繊維強化樹脂等)やセラミック又はこれらの組み合わせである。アルミニウム部材2と対象部材4とは、少なくとも締結後において電位差を有し得る。
【0051】
以上、第1実施形態に係るアルミニウム部材2は、その表面に樹脂膜8を有する対象部材4と締結するための部材である。アルミニウム部材2は、接触層7を備える。接触層7は、対象部材4と接触可能な第1の凹凸7aを有する。接触層7は、例えば、対象部材4と接触可能なマイクロオーダー及びナノオーダーの少なくとも一方のオーダーの第1の凹凸7aを有する。接触層7は、アルミニウム水酸化物を含む。アルミニウム部材2と対象部材4とが締結部材3によって締結されるとき、アルミニウム部材2の第1の凹凸7aが対象部材4の樹脂膜8に突き刺さる。表面に凹凸がない場合に比べて、第1の凹凸7aによってアルミニウム部材2と樹脂膜8との接触表面積が増大する。したがって、対象部材4の樹脂膜8に突き刺さった第1の凹凸7aは、対象部材4との締結においてアンカー効果を奏する。このため、アルミニウム部材2と対象部材4との高摩擦性を安定して維持できる。
【0052】
また、アルミニウム部材2は、中間層6を備えている。中間層6は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。ここで、少なくともアルミニウム部材2の本体部5と対象部材4とが直接接触する場合、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が生じる場合がある。例えば、アルミニウム部材2の材料と対象部材4の材料とが異なる種類の金属を有する場合、アルミニウム部材2と対象部材4との間でJIS-Z0103にて規定される異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が生じる場合がある。また、例えば、アルミニウム部材2と対象部材4とが同一の材料を含む場合又は対象部材4が導電性を有する物質を含む場合、アルミニウム部材2と対象部材4との間でJIS-Z0103にて規定される迷走電流腐食(電蝕)が生じる場合がある。本実施形態では、アルミニウム部材2の接触層7の第1の凹凸7aが対象部材4の樹脂膜8に突き刺さった場合であっても、締結されたアルミニウム部材2と対象部材4との間には中間層6が介在することとなる。中間層6は、絶縁性を有するため、アルミニウム部材2の本体部5と対象部材4の樹脂膜8及び対象本体部9とが接触することが抑制される。仮に、対象部材4が導電性物質又は誘電体を有する場合であっても、対象部材4とアルミニウム部材2の本体部5と接触することが抑制されるため、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が抑制される。よって、アルミニウム部材2は、対象部材4との締結において高耐食性を安定して維持できる。このように、このアルミニウム部材2は対象部材4との締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できる。
【0053】
また、アルミニウム部材2において、第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は0.5μm以上である。アルミニウム部材の表面には、最大高さRy及び十点平均粗さRzが0.5 μm以上の凹凸が形成されるため、摩擦性への寄与が大きい凹凸が形成される。
【0054】
また、アルミニウム部材2において、第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さRzに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さRyの割合は1.0以上2.0以下である。この場合、このアルミニウム部材2は、高摩擦性及び高耐食性を発揮できる凹凸を有する。
【0055】
また、アルミニウム部材2において、第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは10%以上である。この場合、アルミニウム部材2の表面2bには、適切な数の第1の凹凸7aが形成されている。このため、アルミニウム部材2と対象部材4との締結において高摩擦性を発揮できる。また、第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは20%以上であってもよい。この場合、アルミニウム部材2の表面2bには、より多くの第1の凹凸7aが形成されている。このため、アルミニウム部材2と対象部材4との締結において更なる高摩擦性を発揮できる。なお、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは、完全に平坦な面では0となり、表面の形状が緻密で起伏が大きいほど大きくなる。このことから、第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが大きければ大きいほど、より多くの第1の凹凸7aが形成され、アルミニウム部材2と対象部材4との締結において更なる高摩擦性を発揮できる。
【0056】
アルミニウム部材2は、アルミニウム部材2の表面2bに形成され、マイクロオーダーの第2の凹凸2dをさらに備える。第1の凹凸7aは、第2の凹凸2dの表面2bに形成されている。この場合、第2の凹凸2dは、アンカー効果に寄与する。第2の凹凸2dが鋭角な突起であっても、第1の凹凸7aが第2の凹凸2dの表面2bに形成されることで、アルミニウム部材2の表面2bが中間層6及び接触層7に覆われる。これにより、第2の凹凸2dは丸み付けされる。このアルミニウム部材2によれば、第2の凹凸2dが鋭角な突起として対象部材4の樹脂膜8の破断の起点となり得ないため、アルミニウム部材2と対象部材4との高摩擦性を安定して維持できる。
【0057】
また、アルミニウム部材2の腐食電流密度は、中間層6及び接触層7を有しないアルミニウム素材の腐食電流密度と比較して130分の1以下である。このアルミニウム部材2は、中間層6及び接触層7を有しないアルミニウム素材に比べて耐食性が高い。また、アルミニウム部材2の腐食電流密度は、中間層6及び接触層7を有しないアルミニウム素材の腐食電流密度と比較して140分の1以下であってもよい。この場合、アルミニウム部材2は、中間層6及び接触層7を有しないアルミニウム素材、並びに、中間層6及び接触層7の形成が十分ではないアルミニウム部材に比べて耐食性が高い。アルミニウム部材2の腐食電流密度は、中間層6及び接触層7を有しないアルミニウム素材の腐食電流密度と比較して160分の1以下、又は、180分の1以下であってもよい。この場合、アルミニウム部材2には、十分な厚さの中間層6及び接触層7が形成されているため、アルミニウム部材2は、中間層6及び接触層7を有しないアルミニウム素材、並びに、中間層6及び接触層7の形成が十分ではないアルミニウム部材に比べて耐食性がより高い。
【0058】
[締結方法及びアルミニウム部材の製造方法]
アルミニウム部材2の製造方法に用いる装置概要を説明する。最初に、アルミニウム部材2の表面2bにブラスト加工を行う装置を説明する。ブラスト加工装置は、重力式(吸引式)のエアブラスト装置、直圧式(加圧式)のエアブラスト装置、遠心式のブラスト装置、等何れのタイプを用いてもよい。本実施形態に係る製造方法は、一例として、いわゆる直圧式(加圧式)のエアブラスト装置を用いる。図3は、アルミニウム部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の概念図である。ブラスト加工装置10は、処理室11、噴射ノズル12、貯留タンク13、加圧室14、圧縮気体供給機15及び集塵機(不図示)を備える。
【0059】
処理室11の内部には、噴射ノズル12が収容されており、処理室11にてワーク(ここではアルミニウム部材2)に対してブラスト加工が行われる。噴射ノズル12にて噴射された噴射材は、粉塵とともに処理室11の下部に落下する。落下した噴射材は、貯留タンク13に供給され、粉塵は集塵機へ供給される。貯留タンク13に貯留された噴射材は加圧室14に供給され、圧縮気体供給機15により加圧室14が加圧される。加圧室14に貯留された噴射材は、圧縮気体とともに噴射ノズル12に供給される。このように、噴射材を循環させながらワークがブラスト加工される。
【0060】
図4は、実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の構成を説明する図である。図4に示されるブラスト加工装置10は、図3に示された直圧式のブラスト装置である。図4では、処理室11の壁面を一部省略して示している。
【0061】
図4に示されるように、ブラスト加工装置10は、圧縮気体供給機15が接続され密閉構造に形成された噴射材の貯留タンク13及び加圧室14と、加圧室14内に貯留タンク13と連通する定量供給部16と、定量供給部16に連接管17を介して連通する噴射ノズル12と、噴射ノズル12の下方にワークを保持しながら可動する加工テーブル18と、制御部19とを備える。
【0062】
制御部19は、ブラスト加工装置10の構成要素を制御する。制御部19は、一例として表示部及び処理部を含む。処理部は、CPU及び記憶部などを有する一般的なコンピュータである。制御部19は、設定された噴射圧力及び噴射速度に基づいて貯留タンク13及び加圧室14へ圧縮気体を供給する圧縮気体供給機15のそれぞれの供給量を制御する。また、制御部19は、設定されたワークとノズルとの間の距離、及び、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数など)に基づいて、噴射ノズル12の噴射位置の制御をする。具体的な一例として、制御部19は、ブラスト加工処理前に設定された走査速度(X方向)と送りピッチ(Y方向)とを用いて噴射ノズル12の位置を制御する。制御部19は、ワークを保持する加工テーブル18を移動させることにより、噴射ノズル12の位置を制御する。
【0063】
図5は、図4の噴射ノズルの断面図である。噴射ノズル12は、本体部である噴射管ホルダー120を有する。噴射管ホルダー120は、内部に噴射材及び圧縮気体を通過させる空間を有する筒状部材である。噴射管ホルダー120の一端は、噴射材導入口123であり、その他端は噴射材吐出口122である。噴射管ホルダー120の内部には、噴射材導入口123側から噴射材吐出口122に向けて先細りした内壁面が形成されており、傾斜角度を有する円錐形状の収束加速部121が構成されている。噴射管ホルダー120の噴射材吐出口122側には、円筒形状の噴射管124が連通して設けられている。収束加速部121は、噴射管ホルダー120の円筒形部の中間から噴射管124に向けて先細りしている。これにより、圧縮気体流115が形成される。
【0064】
噴射ノズル12の噴射材導入口123には、ブラスト加工装置10の連接管17が接続されている。これにより、貯留タンク13、加圧室14内の定量供給部16、連接管17、及び、噴射ノズル12が順次連接された噴射材経路を形成している。
【0065】
このように構成されたブラスト加工装置10は、制御部19により制御された供給量の圧縮気体が圧縮気体供給機15から貯留タンク13及び加圧室14に供給される。そして、一定の圧流力によって、貯留タンク13内の噴射材は、加圧室14内の定量供給部16で定量され、連接管17を介して噴射ノズル12に供給され、噴射ノズル12の噴射管124よりワークの加工面に噴射される。これにより、常に一定の噴射材がワークの加工面に噴射される。そして、噴射ノズル12のワークの加工面への噴射位置が制御部19により制御され、ワークがブラスト加工される。
【0066】
また、噴射された噴射材とブラスト加工で生じた切削粉は、図示しない集塵機により吸引される。処理室11から集塵機に向かう経路には図示しない分級機が配置されており、再使用可能な噴射材とその他微粉(再使用できないサイズとなった噴射材やブラスト加工で生じた切削粉)とに分離される。再使用可能な噴射材は貯留タンク13に収容され、再び噴射ノズル12に供給される。微粉は集塵機にて回収される。
【0067】
次に、締結ユニット1の締結方法及びアルミニウム部材2の製造方法の一連の流れを説明する。図6は、実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法を含む締結方法MTのフローチャートである。図6に示されるように、最初に、準備工程(S10)として、その表面に樹脂膜8を有する対象部材4とアルミニウム部材2とが準備される。準備工程(S10)は、少なくとも対象部材4を決定する決定工程を有してもよい。後述の締結工程(S14)において用いる対象部材4を予め決定しておくことで、対象部材4に合わせてアルミニウム部材2に対する処理内容を決定することができる。決定工程では、例えば、接触面4bにおいて、5μm以上50 μm以下の樹脂膜8が形成されている対象部材4を後述の締結工程(S14)に用いる対象部材4として決定する。
【0068】
また、準備工程(S10)として、所定の噴射材がブラスト加工装置10に充填される。噴射材の粒子径は、例えば30μm以上1000 μm以下である。噴射材の粒子径が小さくなるほど、質量が小さくなるため、慣性力が低くなる。このため、噴射材の粒子径が30 μmより小さい場合には所望の形状の第2の凹凸2dを形成することが困難となる。また、噴射材の粒子径が30μmより小さい場合には噴射材の流動性が悪くなり、ブラスト加工装置10における噴射が不安定になる可能性がある。粒子径が1000 μmを超える噴射材がアルミニウム部材に噴射された場合、このアルミニウム部材の最大高さRy及び十点平均粗さRzが対象部材の樹脂膜の厚みを超える可能性がある。また、粒子径が1000μmを超える噴射材がアルミニウム部材に向けて噴射された場合、欠損する噴射材の数が多くなることによって、アルミニウム部材の表面に当たることになる噴射材の粒度分布が短時間で大きく変動する。この場合、アルミニウム部材の表面に対して均一な処理を実行することができなくなる。このため、第2の凹凸2dの安定した形成を実現できる噴射材の粒子径は、30μm以上1000 μm以下となる。噴射材の粒子径は、例えば30 μm以上710 μm以下であってもよい。噴射材の材質は、例えばアルミナである。噴射材は、例えば、鋭角状の突起を有する。
【0069】
ブラスト加工装置10の制御部19は、準備工程(S10)として、ブラスト加工条件を取得する。制御部19は、ブラスト加工条件を、オペレータの操作又は記憶部に記憶された情報に基づいて取得する。ブラスト加工条件には、噴射圧力、噴射速度、ノズル間距離、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数)などが含まれる。噴射圧力は、例えば0.3MPa以上2.0 MPa以下である。噴射圧力が小さくなるほど、慣性力が低くなる。このため、噴射圧力が0.3 MPaより小さい場合には所望の形状の第2の凹凸2dを形成することが困難となる。噴射圧力が大きくなるほど、慣性力が高くなる。このため、アルミニウム部材2との衝突により噴射材が粉砕され易くなる。その結果、(1)衝突のエネルギーが第2の凹凸2dの形成以外に分散されることから加工効率が悪い(2)噴射材の損耗が激しく、経済的でない、等の問題が発生する。このような問題は、噴射圧力が2.0MPaを越えた場合に顕著となる。制御部19は、ブラスト加工条件を管理することで、アルミニウム部材2の表面2bの第2の凹凸2dの大きさ、凹凸の数などをマイクロオーダーで精密にコントロールする。なお、ブラスト加工条件には、ブラスト加工対象領域を特定する条件が含まれていてもよい。この場合、選択的な表面処理が可能となる。
【0070】
続いて、形成工程(S12)として、アルミニウム部材2の表面2bに第2の凹凸2dを形成する。形成工程(S12)は、例えば、ブラスト加工工程を含む。ブラスト加工装置10は、ブラスト加工工程として、以下の一連の処理を行う。まず、ブラスト加工対象となるアルミニウム部材2が処理室11内の加工テーブル18上にセットされる。次に、制御部19は、図示しない集塵機を作動させる。集塵機は、制御部19の制御信号に基づいて、処理室11の内部を減圧して負圧状態とする。次に、噴射ノズル12は、制御部19の制御信号に基づいて、噴射圧力0.3MPa以上2.0 MPa以下の範囲で、噴射材を圧縮空気の固気二相流として噴射する。次いで、制御部19は、加工テーブル18を作動させ、アルミニウム部材2を固気二相流の噴射流中(図5では噴射ノズルの下方)に移動させる。ここで、制御部19は、加工テーブル18の作動を継続させて、アルミニウム部材2に対して噴射流が予め設定された軌跡を描くように作動させる。
【0071】
粒子径30 μm以上1000μm以下の噴射材を用いて、噴射圧力0.3 MPa以上2.0 MPa以下の範囲でブラスト加工をすることにより、アルミニウム部材2の表面2bに所望のマイクロオーダーの第2の凹凸2dが形成される。ブラスト加工により、第2の凹凸2dにおいてJIS B0601(1994)に規定される算術平均粗さRaは、0.7μm以上5.0 μm以下となってもよい。ブラスト加工により。第2の凹凸2dにおいてJIS B0601(1994)に規定される算術平均傾斜RΔaは、0.17以上0.50以下となってもよい。ブラスト加工により、第2の凹凸2dにおいてJIS B0601(1994)に規定される二乗平均平方根傾斜RΔqは、0.27以上0.60以下となってもよい。ブラスト加工装置10の作動を停止した後、アルミニウム部材2を取り出し、ブラスト加工が完了する。以上のブラスト加工を実行することで、マイクロオーダーの第2の凹凸2dが形成される。なお、ブラスト加工を実行することにより、アルミニウム部材2の表面2bの傷、アルミニウム部材2の表面2bに付着した付着物等が適切に削り取られる。
【0072】
続いて、形成工程(S12)として、第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、中間層6と接触層7とを形成する。形成工程(S12)は、例えば、表面水酸化工程を含む。表面水酸化工程として、アルミニウム部材2の表面2bと水蒸気とを反応させて、アルミニウム部材2の表面2bをアルミニウム水酸化物に改質し、中間層6及び接触層7とを形成する。表面水酸化工程では、第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2の表面2bと水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって4.30MPa以下の圧力下で反応させる。表面水酸化工程では、第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2の表面2bと水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって4.30 MPa以下の圧力下で反応させる。上述の4.30MPaとは、250℃のときの飽和水蒸気圧の有効数字4桁目を四捨五入した数値である。または、表面水酸化工程では、第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2の表面2bと水蒸気とを、100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させてもよい。当該温度は、アルミニウム部材2の表面2bと水蒸気とを反応させる機器内の空間(雰囲気)の温度である。このとき、表面水酸化工程では、アルミニウム部材2の表面2bと水蒸気とを、30分以上48時間以下の処理時間で反応させる。
【0073】
これにより、第2の凹凸2dの表面2bに中間層6が形成され、中間層6上に第1の凹凸7aを有する接触層7が形成される。中間層6は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。ここでのアモルファス物質とは、アルミニウム原子及び酸素原子を含み、アモルファス状態の構造を有する物質を指す。中間層6は、層状複水酸化物を有さず、アモルファス物質を有する形態を取り得る。中間層6は、例えば、緻密なアルミナ(Al)で構成されている。中間層6は、第2の凹凸2dの上層(本体部5より外側)に位置し、厚みは、例えば、数十nm以上数μm以下である。
【0074】
接触層7は、アルミニウム水酸化物を含む。接触層7は、中間層6の上層に位置する。アルミニウム水酸化物は、ヒドロキシル基を有するアルミニウムの化合物である。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの何れか1つを含んでよい。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの中から選択された複数の種類のアルミニウム水酸化物を含んでよい。接触層7の形成により、ブラスト加工工程により形成された第2の凹凸2dの鋭利な部分(鋭角な突起)上に、中間層6を介して接触層7が形成され、アルミニウム水酸化物に改質されるため、第2の凹凸2dに入り込む後述の対象部材4の樹脂膜8が当該鋭利な部分を起点として破断することが起きにくくなるという付加的な効果も奏する。
【0075】
接触層7は、対象部材4と接触可能な第1の凹凸7aを有する。接触層7は、例えば、対象部材4と接触可能なマイクロオーダー及びナノオーダーの少なくとも一方のオーダーの第1の凹凸7aを有する。第1の凹凸7aは、対象部材4の樹脂膜8の厚みに比べて突出長さが小さい。第1の凹凸7aの突出長さは、例えば、50μm未満である。第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は0.5μm以上である。JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は、対象部材4の樹脂膜8の厚さ未満であってもよい。すなわち、第1の凹凸7aの突出長さは、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方で表されてもよい。JIS-B0601:1994にて規定される最大高さRy及び十点平均粗さRzの少なくとも一方は、例えば、50μm未満であってもよい。上述の値は、例えば、第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおける最大高さRy及び十点平均粗さRzである。なお、上述の値は、例えば、第1の凹凸7aのみが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおける最大高さRy及び十点平均粗さRzであってもよい。
【0076】
第1の凹凸7aが形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下である。
【0077】
形成工程(S12)の表面水酸化工程では、工程開始後から所定の期間において、アルミニウム部材2の表面2bにおいて、ナノオーダーのアルミニウム水酸化物の鋭角な結晶が形成される。その後、表面水酸化工程におけるアルミニウム部材2と水蒸気との反応が継続されることでマイクロオーダー及びナノオーダーの少なくとも一方のオーダーの第1の凹凸7aが形成される。アルミニウム部材2の表面2bには、第1の凹凸7aとして、例えば、マイクロオーダーの凹凸とナノオーダーの凹凸とが混在した凹凸が形成される。なお、形成工程(S12)のブラスト加工工程が実行され、アルミニウム部材2の表面2bに第2の凹凸2dが形成されている場合、第1の凹凸7aは、第2の凹凸2dを丸み付ける効果を奏する。
【0078】
次に、締結工程(S14)として、アルミニウム部材2の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dを対象部材4の樹脂膜8に突き刺しつつ、アルミニウム部材2と対象部材4とを締結させる。例えば、作業者は、アルミニウム部材2を対象部材4の接触面4b上に、開口部2aの位置と開口部4aの位置とが重なるように載置する。アルミニウム部材2は、アルミニウム部材2の表面2bが対象部材4の接触面4bと接触するように載置される。アルミニウム部材2及び対象部材4の上方から、アルミニウム部材2及び対象部材4内に挿通される。具体的には、作業者は、例えば、締結部材3の挿入部3bを、開口部2a内に挿通し、対象部材4の開口部4aと螺合させる。締結部材3を対象部材4の開口部4aと螺合させるにしたがって、締結部材3の頭部3aの表面3cをアルミニウム部材2の裏面2cに接触させ、アルミニウム部材2を対象部材4側(下方)に押圧させることができる。これにより、締結部材3の頭部3aと対象部材4とに挟まれたアルミニウム部材2の表面2bは、対象部材4の接触面4bに設けられた樹脂膜8に突き刺さる。挿入部3bのすべてが開口部2a及び開口部4a内に挿通されるとき、アルミニウム部材2の表面2bが対象部材4の接触面4bに適切に突き刺さる。このように、アルミニウム部材2は、締結部材3の頭部3aと対象部材4との間に挟まれ、アルミニウム部材2は、締結部材3によって対象部材4に締結される。なお、締結工程(S14)では、上述のような作業者によらず、図示しない締結装置等によって自動的にアルミニウム部材2と対象部材4とが締結されてもよい。締結工程(S14)が終了すると、図6に示されたフローチャートが終了する。
【0079】
以上説明したように、締結方法MT及びアルミニウムの製造方法によれば、形成工程(S12)後のアルミニウム部材2の表面2bには、第2の凹凸2dと、接触層7において第1の凹凸7aとが形成される。接触層7は、アルミニウム水酸化物を含むため、アルミニウム部材2の第2の凹凸2dの表面は、第1の凹凸7aによって丸み付けられる。そして、締結工程(S14)によりアルミニウム部材2の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが対象部材4の樹脂膜8に突き刺さる。対象部材4の樹脂膜8に突き刺さった第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dは、対象部材4との締結においてアンカー効果を奏する。このため、アルミニウム部材2と対象部材4との高摩擦性を安定して維持できる。
【0080】
また、アルミニウム部材2の表面において、中間層6が形成されている。中間層6は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。ここで、少なくともアルミニウム部材2の本体部5と対象部材4とが直接接触する場合、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が生じる場合がある。例えば、アルミニウム部材2の材料と対象部材4の材料とが異なる種類の金属を有する場合、アルミニウム部材2と対象部材4との間でJIS-Z0103にて規定される異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が生じる場合がある。また、例えば、アルミニウム部材2と対象部材4とが同一の材料を含む場合又は対象部材4が導電性を有する物質を含む場合、アルミニウム部材2と対象部材4との間でJIS-Z0103にて規定される迷走電流腐食(電蝕)が生じる場合がある。本実施形態では、アルミニウム部材2の接触層7の第1の凹凸7aが対象部材4の樹脂膜8に突き刺さった場合であっても、締結されたアルミニウム部材2と対象部材4との間には中間層6が介在することとなる。中間層6は、絶縁性を有するため、アルミニウム部材2の本体部5と対象部材4の樹脂膜8及び対象本体部9とが接触することが抑制される。仮に、対象部材4が導電性物質又は誘電体を有する場合であっても、対象部材4とアルミニウム部材2の本体部5と接触することが抑制されるため、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が抑制される。よって、アルミニウム部材2は、対象部材4との締結において高耐食性を安定して維持できる。このように、この締結方法MTにおいて、高摩擦性及び高耐食性が発揮される。また、このアルミニウム部材の製造方法は、対象部材4との締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できるアルミニウム部材2を製造できる。
【0081】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)は、アルミニウム部材2の表面2bと飽和水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって約4.30MPa以下の圧力下で反応させ、アルミニウム部材2の表面2bをアルミニウム水酸化物に改質し、中間層6及び接触層7を形成する表面水酸化工程を含む。この場合、アルミニウム部材2は、上述の圧力により水蒸気と反応するため、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2の表面において、中間層6と、第1の凹凸7aを有する接触層7と、を形成できる。
【0082】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、表面水酸化工程は、アルミニウム部材2の表面2bと飽和水蒸気とを、100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させる。この場合、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材と飽和水蒸気とを100℃より高い熱を加えて反応させることで、アルミニウム部材2の表面2bをアルミニウム水酸化物に容易に改質できる。また、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2と飽和水蒸気とを100℃以上250℃以下の熱を加えて反応させることで、適切な剛性を有する第1の凹凸7aを形成できる。この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材と飽和水蒸気とを反応させる熱は、250℃以下であれば、100℃より高ければ高いほどよい。この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2と飽和水蒸気とを120℃以上250℃以下の熱を加えて反応させることで、十分な水蒸気の圧力と熱とがアルミニウム部材に加わって、適切な厚さの接触層と中間層が形成され、より高摩擦性及び高耐食性を発揮できるアルミニウム部材を製造できる。この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2と飽和水蒸気とを180℃以上250℃以下の熱を加えて反応させることで、更に高い水蒸気の圧力と熱とがアルミニウム部材に加わって、より適切な厚さの接触層と中間層が形成され、高摩擦性及び高耐食性をさらに発揮できるアルミニウム部材を製造できる。
【0083】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、表面水酸化工程は、アルミニウム部材の表面と飽和水蒸気とを、30分以上48時間以下の処理時間で反応させる。この場合、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2の表面2bに適切な厚さのアルミニウム水酸化物の層を形成でき、耐食性のよいアルミニウム部材を製造できる。この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材と飽和水蒸気とを反応させる時間は、48時間以下であれば、30分より長ければ長いほどよい。この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2と飽和水蒸気とを2時間以上48時間以下の処理時間で反応させることで、十分な水蒸気の圧力と熱とがアルミニウム部材に加わって、適切な厚さの接触層と中間層が形成され、より高摩擦性及び高耐食性を発揮できるアルミニウム部材を製造できる。この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2と飽和水蒸気とを4時間、8時間、16時間又は24時間以上であって、48時間以下の処理時間で反応させることで、より長い時間、水蒸気の圧力と熱とがアルミニウム部材に加わって、より適切な厚さ接触層と中間層が形成され、高摩擦性及び高耐食性をさらに発揮できるアルミニウム部材を製造できる。
【0084】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)において第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さの少なくとも一方は0.5μm以上である。この場合、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法では、アルミニウム部材2の表面2bには、最大高さ及び十点平均粗さが0.5 μm以上の第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されるため、摩擦性への寄与が大きい凹凸が形成される。
【0085】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)において第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材の表面において、JIS-B0601:1994にて規定される十点平均粗さに対するJIS-B0601:1994にて規定される最大高さの割合は1.0以上2.0以下である。この場合、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、高摩擦性及び高耐食性を発揮できる第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)を形成できる。
【0086】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)において第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは10%以上である。この場合、アルミニウム部材2の表面2bには、適切な数の第1の凹凸7aが形成されている。このため、アルミニウム部材2と対象部材4との締結において高摩擦性を発揮できる。また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)において第1の凹凸7a(及び第2の凹凸2d)が形成されたアルミニウム部材2の表面2bにおいて、JIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrは20%以上であり得る。この場合、アルミニウム部材2の表面2bには、より多くの第1の凹凸7aが形成されている。このため、アルミニウム部材2と対象部材4との締結において更なる高摩擦性を発揮できる。
【0087】
また、締結方法MTによれば、対象部材4の樹脂膜8の厚みは、5μm以上50 μm以下である。この場合、この締結方法MTでは、樹脂膜8の厚みが5 μm以上であるため、アルミニウム部材2の接触層7の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが対象部材4の樹脂膜8内に適切に突き刺さることができる。また、この締結方法MTでは、樹脂膜8の厚みが50μm以下であるため、アルミニウム部材2と対象部材4との間で摩擦が生じる時に樹脂膜8がアルミニウム部材2に対して変形する度合いが小さくなり、破断を抑制できる。これらより、この締結方法MTは、アルミニウム部材2と対象部材4との高摩擦力を適切に発揮させることができる。また、形成工程(S12)において第1の凹凸7aが形成される前に第2の凹凸2dが形成されることで、アルミニウム部材2の表面2bを樹脂膜8の厚みに対応した適切な粗さとすることができる。
【0088】
さらに、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、アルミニウム部材2の表面2bにおけるJIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さが0.5μm以上であり、かつ、樹脂膜8の厚みに対して小さく、アルミニウム部材2の表面2bにおけるJIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが10%以上となるアルミニウム部材2を製造できる。このアルミニウム部材2は、安定して高摩擦性を発揮できる。アルミニウム部材2の表面2bにおけるJIS-B0601:1994にて規定される最大高さ及び十点平均粗さが0.5μm以上であり、かつ、樹脂膜8の厚みに対して小さく、アルミニウム部材2の表面2bにおけるJIS-B0681-2:2018にて規定される輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが20%以上となるアルミニウム部材2を製造できる。このアルミニウム部材2は、安定して更なる高摩擦性を発揮できる。
【0089】
さらに、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)においてブラスト加工が実行されることで、アルミニウム部材2の表面2bの傷、アルミニウム部材2の表面2bに付着した付着物等が適切に削り取られ、均一な第2の凹凸2dが形成される。したがって、ブラスト加工工程及び表面水酸化工程が実行されるアルミニウム部材2と、対象部材4との締結において、発揮される摩擦力のばらつきが小さくなる。締結ユニット1は、安定して高摩擦性を発揮できる。
【0090】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るアルミニウム部材、当該アルミニウム部材の製造方法、及び、締結方法について図8を参照しながら説明する。第2実施形態に係る締結ユニット1Aは、第1実施形態に係る締結ユニット1とは異なる数の締結部材3及び対象部材4を備えている。以降の説明では、第1実施形態と重複する説明を適宜省略する。
【0091】
図7は、実施形態に係るアルミニウム部材を含む締結ユニットを示す上面図である。図8は、実施形態に係るアルミニウム部材を含む締結ユニットを示す断面図である。図7及び図8に示す例では、締結ユニット1は、複数の部材が締結により一体化された部材である。例えば、締結ユニット1は、アルミニウム部材2と、一対の締結部材3Aと、一対の対象部材4Aとを備える。第2実施形態のアルミニウム部材2は、一対の締結部材3Aによって一対の対象部材4Aに締結される。すなわち、アルミニウム部材2は、一対の締結部材3Aによって、一対の対象部材4Aの間に挟み込まれ、各対象部材4Aの接触面4bと接触する。
【0092】
本実施形態のアルミニウム部材2は、例えば、水平方向に延在する板部材である。アルミニウム部材2には、例えば、上下方向に貫通する開口部2aが設けられている。アルミニウム部材2は、少なくとも上方及び下方に向かって露出している表面2bを有する。
【0093】
締結ユニット1は、一対の締結部材3Aとして、第1締結部材31及び第2締結部材32を備える。第1締結部材31及び第2締結部材32は、上下方向において、アルミニウム部材2及び一対の対象部材4Aを間に挟んでいる。第1締結部材31は、アルミニウム部材2及び一対の対象部材4Aに挿通されており、第2締結部材32と螺合している。第1締結部材31は、第2締結部材32の上方に設けられている。第1締結部材31は、例えば、ボルトである。第1締結部材31は、アルミニウム部材2の開口部2aに挿通されている。第1締結部材31は、頭部3aと、挿入部3bとを有する。水平方向において、頭部3aは、開口部2aの開口径より大きく、挿入部3bより太い。頭部3aの下方に向かって露出している表面3cにおいて挿入部3bが設けられている。挿入部3bが設けられていない頭部3aの表面3cの一部は、一対の対象部材4Aのうち後述の第1対象部材41に接触する。水平方向において、挿入部3bは、開口部2aの開口径より細い。挿入部3bは、上下方向に延在し、少なくとも下端部がねじ切りされている。第2締結部材32は、例えば、ナットである。第2締結部材32は、第1締結部材31のねじ切りされている挿入部3bと螺合する。
【0094】
本実施形態の一対の対象部材4Aは、一対の締結部材3Aによってアルミニウム部材2と締結される。各対象部材4Aは、第1締結部材31が挿入される部材である。締結ユニット1は、一対の対象部材4Aとして、第1対象部材41及び第2対象部材42を備える。第1対象部材41及び第2対象部材42は、上下方向において、アルミニウム部材2を間に挟んでいる。第1対象部材41及び第2対象部材42には、例えば、それぞれ上下方向に貫通する開口部4aが設けられている。締結ユニット1において、第1対象部材41は、アルミニウム部材2の上方に設けられる。締結ユニット1において、第1対象部材41の上面4cが第1締結部材31の頭部3aの表面3cと接触し、第1対象部材41の下面である接触面4bがアルミニウム部材2の上面である表面2bと接触している。第2対象部材42は、アルミニウム部材2の下方に設けられる。締結ユニット1において、第2対象部材42の上面である接触面4bがアルミニウム部材2の下面である表面2bと接触し、第2対象部材42の下面4dが第2締結部材32の上面3dに接触している。
【0095】
アルミニウム部材2と一対の締結部材3Aとが締結する場合を説明する。一例として、アルミニウム部材2は、一対の締結部材3Aによって一対の対象部材4Aに締結される。アルミニウム部材2は、例えば、開口部2aの位置と一対の対象部材4Aの開口部4aの位置とが重なるように第1対象部材41と第2対象部材42との間に載置される。アルミニウム部材2は、アルミニウム部材2の表面2bが第1対象部材41及び第2対象部材42の各接触面4bと接触するように載置される。一対の締結部材3Aのうち第1締結部材31の挿入部3bは、アルミニウム部材2及び一対の対象部材4Aの上方から、アルミニウム部材2及び対象部材4内に挿通される。具体的には、第1締結部材31の挿入部3bは、開口部2a及び2つの開口部4a内に挿通され、第2締結部材32と螺合する。第1締結部材31が第2締結部材32と螺合するにしたがって、第1締結部材31の表面3cが第1対象部材41の上面4cに接触し、第1締結部材31の頭部3aが第1対象部材41を第2対象部材42側(下方)に押圧する。また、第1締結部材31が第2締結部材32と螺合するにしたがって、第2締結部材32の上面3dが第2対象部材42の下面4dに接触し、第2締結部材32が第2対象部材42を第1対象部材41側(上方)に押圧する。すなわち、一対の対象部材4Aは、一対の締結部材3Aにより、アルミニウム部材2側に向かって押圧される。これにより、アルミニウム部材2の上面及び下面を指す表面2bが、一対の対象部材4Aの接触面4bにそれぞれ接触し、挟み込まれて押圧される。挿入部3bのすべてが開口部2a及び2つの開口部4a内に挿通されて、第2締結部材32と螺合しているとき、アルミニウム部材2の表面2bが第1対象部材41の接触面4b及び第2対象部材42の接触面4bに適切に突き刺さる。このように、アルミニウム部材2は、第1対象部材41と第2対象部材42との間に挟まれ、アルミニウム部材2は、締結部材3によって一対の対象部材4Aに締結される。ここで、締結とは、ある部材とある部材とが相対的に回転してひねられることで、当該2つの部材間に挟まれた複数の部材同士が緩みなく固定されることを含む。
【0096】
図2に示される拡大図は、第1実施形態の締結ユニット1の対象部材4を、第2対象部材42に置き換えた場合に図8のIIで示す一点鎖線内の締結ユニットの拡大図となる。なお、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aとの接触の一例として、アルミニウム部材2と第2対象部材42との接触を挙げたが、アルミニウム部材2と第1対象部材41との接触も同様に行われる。すなわち、図2における対象部材4を第1対象部材41及び第2対象部材42の何れかと置き換えてもよく、第1実施形態の対象部材4の説明は、第1対象部材41及び第2対象部材42の何れにも当てはまる。
【0097】
以上、第2実施形態に係るアルミニウム部材2は、その表面に樹脂膜8を有する一対の対象部材4Aと締結するための部材である。アルミニウム部材2は、接触層7を備える。接触層7は、対象部材4と接触可能な第1の凹凸7aを有する。接触層7は、アルミニウム水酸化物を含む。アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aとが一対の締結部材3Aによって締結されるとき、アルミニウム部材2の第1の凹凸7aが一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺さる。表面に凹凸がない場合に比べて、第1の凹凸7aによってアルミニウム部材2と樹脂膜8との接触表面積が増大する。したがって、一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺さった第1の凹凸7aは、一対の対象部材4Aとの締結においてアンカー効果を奏する。このため、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aとの高摩擦性を安定して維持できる。
【0098】
また、アルミニウム部材2は、中間層6を備えている。中間層6は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。少なくともアルミニウム部材2の本体部5と一対の対象部材4Aのそれぞれとが直接接触する場合、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が生じる場合がある。例えば、アルミニウム部材2の材料と一対の対象部材4Aのそれぞれの材料とが異なる種類の金属を有する場合、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間でJIS-Z0103にて規定される異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が生じる場合がある。また、例えば、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとが同一の材料を含む場合又は一対の対象部材4Aのそれぞれが導電性を有する物質を含む場合、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間でJIS-Z0103にて規定される迷走電流腐食(電蝕)が生じる場合がある。本実施形態では、アルミニウム部材2の接触層7の第1の凹凸7aが一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺さった場合であっても、締結されたアルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間には中間層6が介在することとなる。中間層6は、絶縁性を有するため、アルミニウム部材2の本体部5と一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8及び対象本体部9とが接触することが抑制される。仮に、一対の対象部材4Aのそれぞれが導電性物質又は誘電体を有する場合であっても、一対の対象部材4Aのそれぞれとアルミニウム部材2の本体部5と接触することが抑制されるため、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が抑制される。よって、アルミニウム部材2は、一対の対象部材4Aのそれぞれとの締結において高耐食性を安定して維持できる。このように、このアルミニウム部材2は一対の対象部材4Aのそれぞれとの締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できる。
【0099】
アルミニウム部材2は、アルミニウム部材2の表面2bに形成され、マイクロオーダーの第2の凹凸2dをさらに備える。第1の凹凸7aは、第2の凹凸2dの表面2bに形成されている。この場合、第2の凹凸2dは、アンカー効果に寄与する。第2の凹凸2dが鋭角な突起であっても、第1の凹凸7aが第2の凹凸2dの表面2bに形成されることで、アルミニウム部材2の表面2bが中間層6及び接触層7に覆われる。これにより、第2の凹凸2dは丸み付けされる。このアルミニウム部材2によれば、第2の凹凸2dが鋭角な突起として一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8の破断の起点となり得ないため、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの高摩擦性を安定して維持できる。
【0100】
[締結方法及びアルミニウム部材の製造方法]
締結ユニット1Aの締結方法及びアルミニウム部材2の製造方法の一連の流れを説明する。第2実施形態に係る締結ユニット1Aの締結方法及びアルミニウム部材2の製造方法においては、第1実施形態に係る図6に示すアルミニウム部材の製造方法を含む締結方法MTのフローチャートと同様の処理が行われる。第1実施形態と重複する処理の説明は省略する。
【0101】
準備工程(S10)において、その表面に樹脂膜8を有する一対の対象部材4Aとアルミニウム部材2とが準備される。準備工程(S10)は、少なくとも一対の対象部材4Aを決定する決定工程を有してもよい。後述の締結工程(S14)において用いる一対の対象部材4Aを予め決定しておくことで、一対の対象部材4Aに合わせてアルミニウム部材2に対する処理内容を決定することができる。決定工程では、例えば、それぞれの接触面4bにおいて、5μm以上50 μm以下の樹脂膜8が形成されている一対の対象部材4Aを後述の締結工程(S14)に用いる一対の対象部材4Aとして決定する。本実施形態では、後述の締結工程(S14)に用いる第1対象部材41及び第2対象部材42を複数の対象部材4として決定する。
【0102】
締結工程(S14)において、アルミニウム部材2の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dを一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺しつつ、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとを締結させる。例えば、作業者は、アルミニウム部材2を一対の対象部材4Aのそれぞれの接触面4b上に、開口部2aの位置と開口部4aの位置とが重なるように載置する。アルミニウム部材2は、アルミニウム部材2の表面2bが一対の対象部材4Aのそれぞれの接触面4bと接触するように載置される。すなわち、アルミニウム部材2は、上方に設けられる第1対象部材41と下方に設けられる第2対象部材42との間に挟まれるように載置される。一対の締結部材3Aのうち第1締結部材31を、アルミニウム部材2及び一対の対象部材4Aの上方から、アルミニウム部材2及び一対の対象部材4A内に挿通させる。このとき、一対の締結部材3Aのうち、第2締結部材32をアルミニウム部材2及び一対の対象部材4Aの下方に配置させる。具体的には、作業者は、例えば、第1締結部材31の挿入部3bを、第1対象部材41の開口部4a、アルミニウム部材2の開口部2a、及び第2対象部材42の開口部4aの順に上方から挿通し、第2対象部材42の下方に配置された第2締結部材32と螺合させる。第1締結部材31を第2締結部材32と螺合させるにしたがって、第1締結部材31の頭部3aの表面3cを第1対象部材41の上面4cに接触させ、第2締結部材32の上面3dを第2締結部材32の下面4dに接触させ、第1対象部材41及び第2対象部材42をアルミニウム部材2側に押圧することができる。これにより、第1対象部材41と第2対象部材42とに挟まれたアルミニウム部材2の表面2bは、第1対象部材41及び第2対象部材42の各接触面4bに設けられた樹脂膜8に突き刺さる。第1締結部材31の挿入部3bが開口部2a及び各開口部4a内に挿通され、第2締結部材32と螺合しているとき、アルミニウム部材2の表面2bが第1対象部材41及び第2対象部材42の各接触面4bに適切に突き刺さる。このように、アルミニウム部材2は、第1締結部材31と第2締結部材32との螺合によって第1対象部材41と第2対象部材42との間に挟まれ、アルミニウム部材2は、一対の締結部材3Aによって一対の対象部材4Aに締結される。なお、締結工程(S14)では、上述のような作業者によらず、図示しない締結装置等によって自動的にアルミニウム部材2と一対の対象部材4Aとが締結されてもよい。
【0103】
以上説明したように、第2実施形態に係る締結方法及びアルミニウムの製造方法によれば、締結工程(S14)によりアルミニウム部材2の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺さる。一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺さった第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dは、一対の対象部材4Aのそれぞれとの締結においてアンカー効果を奏する。このため、アルミニウム部材2と複数の対象部材4との高摩擦性を安定して維持できる。
【0104】
また、アルミニウム部材2の表面において、中間層6が形成されている。中間層6は、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質、又は、アモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物との両方を有する。少なくともアルミニウム部材2の本体部5と一対の対象部材4Aのそれぞれとが直接接触する場合、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が生じる場合がある。例えば、アルミニウム部材2の材料と一対の対象部材4Aのそれぞれの材料とが異なる種類の金属を有する場合、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間でJIS-Z0103にて規定される異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が生じる場合がある。また、例えば、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとが同一の材料を含む場合又は一対の対象部材4Aのそれぞれが導電性を有する物質を含む場合、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間でJIS-Z0103にて規定される迷走電流腐食(電蝕)が生じる場合がある。本実施形態では、アルミニウム部材2の接触層7の第1の凹凸7aが一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8に突き刺さった場合であっても、締結されたアルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間には中間層6が介在することとなる。中間層6は、絶縁性を有するため、アルミニウム部材2の本体部5と一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8及び対象本体部9とが接触することが抑制される。仮に、一対の対象部材4Aのそれぞれが導電性物質又は誘電体を有する場合であっても、一対の対象部材4Aのそれぞれとアルミニウム部材2の本体部5と接触することが抑制されるため、電気化学作用によるアルミニウム部材2の腐食が抑制される。よって、アルミニウム部材2は、一対の対象部材4Aのそれぞれとの締結において高耐食性を安定して維持できる。このように、この締結方法MTにおいて、高摩擦性及び高耐食性が発揮される。また、このアルミニウム部材の製造方法は、一対の対象部材4Aとの締結において高摩擦性及び高耐食性を発揮できるアルミニウム部材2を製造できる。
【0105】
また、締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法によれば、形成工程(S12)は、アルミニウム部材2の表面2bと飽和水蒸気とを、大気圧を超える圧力であって約4.30MPa以下の圧力下で反応させ、アルミニウム部材2の表面2bをアルミニウム水酸化物に改質し、中間層6及び接触層7を形成する表面水酸化工程を含む。第2の凹凸2dがアルミニウム部材2の表面2bに形成されている場合、第2の凹凸2dは、表面水酸化工程によって中間層6及び接触層7に覆われることから、一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8の破断の起点となり得る鋭角な凹凸から、丸み付けられた凹凸へと変化する。また、アルミニウム部材2は、上述の圧力により水蒸気と反応するため、この締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法は、アルミニウム部材2の表面において、中間層6と、第1の凹凸7aを有する接触層7と、を形成できる。
【0106】
また、締結方法MTによれば、一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8の厚みは、5μm以上50 μm以下である。この場合、この締結方法MTでは、樹脂膜8の厚みが5 μm以上であるため、アルミニウム部材2の接触層7の第1の凹凸7a及び第2の凹凸2dが一対の対象部材4Aのそれぞれの樹脂膜8内に適切に突き刺さることができる。また、この締結方法MTでは、樹脂膜8の厚みが50μm以下であるため、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの間で摩擦が生じる時に樹脂膜8がアルミニウム部材2に対して変形する度合いが小さくなり、破断を抑制できる。これらより、この締結方法MTは、アルミニウム部材2と一対の対象部材4Aのそれぞれとの高摩擦力を適切に発揮させることができる。また、形成工程(S12)において第1の凹凸7aが形成される前に第2の凹凸2dが形成されることで、アルミニウム部材2の表面2bを樹脂膜8の厚みに対応した適切な粗さとすることができる。
【0107】
以上、第1実施形態及び第2実施形態について説明したが、本発明は、上記第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものでなく、第1実施形態及び第2実施形態以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0108】
[アルミニウム部材、樹脂部材の変形例]
第1実施形態に係るアルミニウム部材2として、ワッシャーを例として示し、第2実施形態に係るアルミニウム部材2として、板状の部材を例として示したが、ワッシャー及び板状の部材に限定されることはなく、締結に用いられる種々の部品に適用できる。締結部材3として、雄ねじを例として示したが、雄ねじに限定されることはなく、アルミニウム部材2との締結に用いられる種々の部品に適用できる。
【0109】
例えば、アルミニウム部材2は、ワッシャー、ボルト、ナット、リベット、ピン、キー、止め輪であってもよい。例えば、アルミニウム部材2がボルトであるとき、対象部材4は、ワッシャーなどを介さずに直接締結される母材であってもよい。例えば、アルミニウム部材2がボルトであるとき、対象部材4は、例えば、ワッシャー又はナット等の締結部材であってもよい。例えば、アルミニウム部材2がワッシャー又はナット等の締結部材であるとき、対象部材4は、例えば、ボルト等の締結部材であってもよい。ここでの締結とは、部材同士が相対的に回転してひねられることで、緩みなく固定されることを含んでいてもよい。アルミニウム部材2又は対象部材4,4Aが締結部材である場合には、第2実施形態の第1締結部材31又は第2締結部材32が、アルミニウム部材2又は対象部材4に置き換えられてもよい。
【0110】
締結ユニット1は、例えば、複数の締結部材3を含んでいてもよく、締結ユニット1Aは、例えば、1又は3つ以上の締結部材3を含んでいてもよい。また、締結ユニット1は、例えば、複数の対象部材4を含んでいてもよく、締結ユニット1Aは、例えば、1又は3つ以上の対象部材4を含んでいてもよい。
【0111】
締結方法MT及びアルミニウム部材2の製造方法において、形成工程(S12)は、ブラスト加工工程を含まなくてもよい。形成工程(S12)は、ブラスト加工工程の代わりに鏡面研磨工程(鏡面加工工程)を含んでもよい。鏡面研磨工程は、表面水酸化工程の前に実行される。このとき、準備工程(S10)として、ブラスト加工装置10に係る準備の代わりに、鏡面研磨工程に用いられる装置などの準備が行われる。
【0112】
鏡面研磨工程は、形成工程(S12)において、鏡面研磨対象となるアルミニウム部材2B(後述の図9参照)に対して、バフ研磨機によってバフ研磨が行われる。なお、形成工程(S12)は、バフ研磨が行われた後、アルミニウム部材2Bの表面をエタノールによって洗浄する工程を含んでもよい。これにより、形成工程(S12)の鏡面研磨工程後、かつ、表面水酸化工程が実行される前には、アルミニウム部材2の表面が平滑化されるため、形成工程(S12)が実行される前のアルミニウム部材の表面における凹凸の数が減少する。また、鏡面研磨工程が実行されることで、表面水酸化工程を実行する前のアルミニウム部材の表面に形成されていた傷、表面水酸化工程を実行する前のアルミニウム部材の表面に付着していた付着物等が削り取られる。形成工程(S12)の鏡面研磨工程及び表面水酸化工程が実行されたアルミニウム部材において、表面粗さを示す最大高さRy及び十点平均粗さRzが小さくなる。これにより、表面水酸化工程の実行前に鏡面研磨工程が実行されることで、アルミニウム部材の表面に形成される第1の凹凸が樹脂膜を突き破ることが抑えられる。このため、形成工程(S12)において鏡面研磨工程を実行したアルミニウム部材は、様々な対象部材に対して適切に高摩擦性を担保できる。
【0113】
図9は、変形例に係るアルミニウム部材及び締結ユニットの拡大図である。図9は、締結ユニット1Bに含まれるアルミニウム部材2Bが対象部材4に突き刺さっている状態を示している。アルミニウム部材2Bの本体部5Bは、平面状に加工されている。中間層6は、平面状の本体部5Bの表面上に形成され、接触層7は、当該中間層6の下端に形成される。この場合も、アルミニウム部材2Bにおいて、上述の第1実施形態及び第2実施形態と同様、対象部材4(第2対象部材42)の樹脂膜8に突き刺さることが可能な接触層7が形成される。なお、アルミニウム部材2Bにおいて、上述の第2実施形態と同様、第1対象部材41の樹脂膜8に突き刺さることが可能な接触層7も形成可能である。
【実施例0114】
[表面水酸化工程実行によるアルミニウム部材の摩擦力及び耐食性の確認]
図10は、実施例に係る加工条件に対する摩擦試験結果及び耐食性試験結果である。図10に示す実施例1~10及び比較例1~4では、ブラスト加工を実行していないアルミニウム部材を含む第2実施形態の締結ユニット1Aと同様の締結ユニットを用意して、摩擦力としてのすべり抗力を確認した。また、実施例1~10及び比較例1~4では、上述の締結ユニットに用いられたアルミニウム部材と同条件の表面水酸化工程を実行したアルミニウム部材を用意して、耐食性としての腐食電流密度を確認した。
【0115】
[実施例1]
実施例1のアルミニウム部材として、すべり抗力試験用のアルミニウム部材と、耐食性試験用のアルミニウム部材とを用意した。準備工程(S10)において、すべり抗力試験用の締結ユニットを作成可能な部材として、アルミニウム部材、一対の締結部材及び一対の対象部材を準備した。アルミニウム部材として、幅50mm、奥行30 mm、厚さ5 mmのアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。アルミニウム部材において、開口部として、厚さ方向にM12のボルトを挿通可能な貫通穴を形成した。貫通穴の中心が2つの長辺から15mmだけ離れた位置、かつ、一方の短辺から15mmだけ離れた位置に設けられるように貫通穴を形成した。一対の締結部材のうち、第1締結部材として、アルミニウム製のM12の六角ボルトを用いた。一対の締結部材のうち、第2締結部材として、アルミニウム製のM12の六角ナットを用いた。一対の対象部材として、第1対象部材及び第2対象部材を準備した。第1対象部材及び第2対象部材として、それぞれ幅50mm、奥行30 mm、厚さ5 mmのアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。第1対象部材及び第2対象部材において、開口部として、厚さ方向にM12のボルトを挿通可能な貫通穴をそれぞれ形成した。貫通穴は、一方の短辺から他方の短辺に向かって15mmの箇所に形成した。第1対象部材及び第2対象部材は、樹脂コーティングされ、樹脂膜がそれぞれ形成される。各樹脂膜は、エポキシを主成分とする。図10に示すように、対象部材の樹脂膜の厚みは5μmである。また、準備工程(S10)において、耐食性試験用のアルミニウム部材として、幅15 mm、奥行15 mm、厚さ1.5 mmのアルミニウム板(JIS:A5052)を準備した。続いて、すべり抗力試験用のアルミニウム部材、及び、耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、形成工程(S12)において表面水酸化工程を実行した。具体的には、(1)各アルミニウム部材をエタノール(特級、キシダ化学(株))で2分間洗浄する処理、(2)テフロン(登録商標)容器内に台座とアルミニウム部材と10mlの純水とを収容する処理、(3)テフロン容器をオートクレーブ容器(HUTc-100、三愛科学(株))内に密閉する処理、(4)予め180℃に加熱していた定温乾燥機(SONW-300S、アズワン(株))内にオートクレーブ容器を収容する処理、(5)テフロン容器内で純水が加熱されることで発生した水蒸気とアルミニウム部材とを24時間反応させる処理、(6)24時間経過後、定温乾燥機からオートクレーブ容器を取り出し、オートクレーブ容器からテフロン容器を取り出し、テフロン容器からアルミニウム部材を取り出す処理、を順に実行した。なお、上述の処理(5)において、温度が180℃のとき、テフロン容器内の水蒸気の圧力は飽和水蒸気圧の値と等しくなるため、テフロン容器内の水蒸気の圧力は、絶対圧において大気圧より大きい1.05MPaとなる。以下、水蒸気の圧力は、真空状態を0 MPa、大気圧下の状態を0.1013MPaとする絶対圧によって記載する。各アルミニウム部材と飽和水蒸気とを上述の通り反応させた結果、図10に示すようにRyが2.7μm、Rzが1.9 μm、Rzに対するRyの比率が1.4となった。その後、すべり抗力試験用のアルミニウム部材に対して、締結工程(S14)として、当該アルミニウム部材と一対の対象部材とを一対の締結部材により締結して締結ユニットを形成した。具体的には、すべり抗力試験用のアルミニウム部材を第1対象部材と第2対象部材との間に挟み込み、当該アルミニウム部材、第1対象部材及び第2対象部材を、それぞれの開口部が重なるように位置させた。このとき、当該アルミニウム部材、第1対象部材及び第2対象部材を奥行方向において同一の位置に位置させた。当該アルミニウム部材と第1対象部材とが重なっている幅、及び、アルミニウム部材と第2対象部材とが重なっている幅がそれぞれ30mmとなるように重ね合わせた。そして、当該アルミニウム部材の開口部と第1対象部材及び第2対象部材の開口部に第1締結部材の挿入部を上方から挿通し、第1締結部材の挿入部のうち、第2対象部材の開口部から突出した部位を第2締結部材で締結した。これにより、すべり抗力試験用のアルミニウム部材と複数の対象部材とは、第1締結部材及び第2締結部材に挟まれることで、互いに接触する方向に押圧され、締結される。
【0116】
[実施例2]
実施例2は、形成工程(S12)の表面水酸化工程において、温度が100℃となるように設定した。温度が100℃のとき、オートクレープ容器内の水蒸気の圧力は飽和水蒸気圧の値と等しくなるため、容器内の水蒸気の圧力は、大気圧より大きい0.102MPaとなる。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0117】
[実施例3]
実施例3は、形成工程(S12)の表面水酸化工程において、温度が120℃となるように設定した。温度が120℃のとき、オートクレープ容器内の水蒸気の圧力は飽和水蒸気圧の値と等しくなるため、容器内の水蒸気の圧力は、大気圧より大きい0.202MPaとなる。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0118】
[実施例4]
実施例4は、形成工程(S12)の表面水酸化工程において、温度が250℃となるように設定した。温度が250℃のとき、オートクレープ容器内の水蒸気の圧力は飽和水蒸気圧の値と等しくなるため、容器内の水蒸気の圧力は、大気圧より大きい4.30MPaとなる。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0119】
[実施例5]
実施例5は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを0.5時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0120】
[実施例6]
実施例6は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを2時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0121】
[実施例7]
実施例7は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを8時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0122】
[実施例8]
実施例8は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを16時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0123】
[実施例9]
実施例9は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを48時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0124】
[実施例10]
実施例10では、準備工程(S10)におけるすべり抗力試験用のアルミニウム部材、及び、耐食性試験用のアルミニウム部材として、それぞれアルミニウム板(JIS:A6061)を準備した。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0125】
[比較例1]
比較例1では、形成工程(S12)において表面水酸化工程を実行しなかった。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0126】
[比較例2]
比較例2は、形成工程(S12)の表面水酸化工程において、温度が90℃となるように設定した。温度が90℃のとき、オートクレープ容器内の水蒸気の圧力は飽和水蒸気圧の値と等しくなるため、容器内の水蒸気の圧力は、大気圧より小さい0.0705MPaとなる。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0127】
[比較例3]
比較例3は、形成工程(S12)の表面水酸化工程において、温度が300℃となるように設定した。温度が300℃のとき、オートクレープ容器内の水蒸気の圧力は飽和水蒸気圧の値と等しくなるため、容器内の水蒸気の圧力は、大気圧より大きい9.41MPaとなる。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0128】
[比較例4]
比較例4は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを0.25時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0129】
[比較例5]
比較例5は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを72時間反応させた。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。
【0130】
[中間層の組成分析及び結晶構造解析]
実施例1~10及び比較例2~5に係る表面水酸化工程前後のアルミニウム部材を対象としてXRD(X線回折法:X-ray Diffraction)によって回折角度ごとの回折X線強度を測定した。また、比較例1に係る準備工程(S10)後のアルミニウム部材を対象としてXRDによって回折角度ごとの回折X線強度を測定した。回折角度とは、走査軸の角度を示す。回折X線強度とは、1秒間に検出器が取り込んだ回折X線数を示す強度(CPS)である。回折角度に対する回折X線強度の測定結果に示されるピークの特徴に基づいて、アルミニウム部材の表層(中間層)の組成及び結晶構造を確認した。XRD測定結果から、実施例1~10及び比較例2~5の表面水酸化工程前のアルミニウム部材の表層には、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質と、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていないことが確認された。XRD測定結果から、比較例1の準備工程(S10)後のアルミニウム部材の表層には、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質と、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていないことが確認された。
【0131】
XRD測定結果から、実施例1の表面水酸化工程後のアルミニウム部材の中間層においては、図10中の「A」と示すように、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていることが確認された。XRD測定結果から、実施例2~10及び比較例3,5の表面水酸化工程後のアルミニウム部材の中間層においては、図10中の「B」と示すように、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物が含まれておらず、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質が含まれていることが確認された。XRD測定結果から、比較例2,4の表面水酸化工程後のアルミニウム部材の表層には、図10中の「C」と示すように、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質と、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていないことが確認された。
【0132】
[摩擦力評価]
上記条件で作成された実施例1~10及び比較例1~5の締結ユニットにおける摩擦力としてすべり抗力を測定した。図7及び図8において、アルミニウム部材をY軸の正方向、第1対象部材及び第2対象部材をY軸の負方向に沿ってそれぞれ引張力を加えた。実施例1~10及び比較例1~5の締結ユニットにおいて、ブラスト加工工程及び表面水酸化工程を実行していないアルミニウム部材を用いている比較例1の締結ユニットの試験結果を基準として、すべり抗力が2倍以上の場合を、図10中で評価値として「非常に良い」と表し、比較例1を基準としてすべり抗力が1倍より大きく2倍未満の場合を図10中の評価値として「良い」と表し、比較例1を基準としてすべり抗力が1倍以下の場合を図10中の評価値として「悪い」と表している。実施例1,3,4,6~10及び比較例3,5の評価値は、「非常に良い」である。実施例2,5の評価値は、「良い」である。比較例1,2,4の評価値は、「悪い」である。
【0133】
実施例1,2と比較例1とを比較することで、形成工程(S12)における表面水酸化工程はすべり抗力の発生に寄与することが確認された。表面水酸化工程を行わない場合には、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが10%未満となり、アルミニウム部材の表面に凹凸が発生せず、摩擦に寄与しなくなるため、すべり抗力の評価が悪くなると考えられる。
【0134】
実施例1~4及び比較例3と比較例2とを比較することにより、形成工程(S12)における表面水酸化工程の温度を100℃以上に設定する場合に、すべり抗力が良くなることが確認された。表面水酸化工程の温度が100℃以上である場合には、表面水酸化工程の温度が90℃である場合に比べて大気圧を超えた圧力が加わっているため、十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが10%以上となり、接触層において第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に適切に形成される。このため、反応前後でのアルミニウム部材のすべり抗力(摩擦力)に変化が認められると考えられる。表面水酸化工程の温度が90℃である比較例2では、大気圧を超えた圧力が加わっていないため、接触層(第1の凹凸)の形成が不十分であったと考えられる。
【0135】
また、実施例2と実施例1,3,4及び比較例3とを比較することで、表面水酸化工程の温度が120℃以上である場合に、すべり抗力が非常に良くなることが確認された。表面水酸化工程の温度が120℃以上である場合には、表面水酸化工程の温度が100℃である場合よりもさらに十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが20%以上となり、接触層においてより多くの第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に適切に形成されると考えられる。このため、反応前後でのアルミニウム部材のすべり抗力(摩擦力)に大きな変化が認められ、評価値が非常に良くなったと考えられる。
【0136】
さらに、実施例1~4及び比較例3の結果から、表面水酸化工程の温度が250℃より大きい場合であっても、すべり抗力が非常に良くなることが確認された。表面水酸化工程の温度が250℃以上である場合には、十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが30%以上となり、接触層における第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に大きく発達して形成されると考えられる。このため、反応前後でのアルミニウム部材のすべり抗力(摩擦力)に変化が認められると考えられる。
【0137】
実施例1,5~9及び比較例4の結果から、形成工程(S12)における表面水酸化工程の反応時間を0.5時間以上とする場合に、すべり抗力が良くなることが確認された。表面水酸化工程の反応時間が0.25時間である場合とは異なり、表面水酸化工程の反応時間が0.5時間以上である場合には、十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが10%以上となり、接触層において第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に形成されるため、反応前後でのアルミニウム部材のすべり抗力(摩擦力)に変化が認められると考えられる。
【0138】
また、実施例5と実施例1,6~9とを比較することで、表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合に、すべり抗力が非常に良くなることが確認された。表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合には、表面水酸化工程の反応時間が0.5時間である場合よりもさらに十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが20%以上となり、接触層においてより多くの第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に適切に形成されると考えられる。
【0139】
さらに、実施例1,5~9及び比較例5の結果から、表面水酸化工程の反応時間が48時間より長い場合であっても、すべり抗力が非常に良くなることが確認された。表面水酸化工程の反応時間が48時間より長い場合には、十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが40%以上となり、接触層における第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に大きく発達して形成されると考えられる。このため、反応前後でのアルミニウム部材のすべり抗力(摩擦力)に変化が認められると考えられる。
【0140】
実施例1及び実施例10の結果から、アルミニウム部材の材質によらず、形成工程(S12)における表面水酸化工程が実行されることによって、非常に良いすべり抗力を担保できることが確認された。
【0141】
図10内には示されていないが、実施例1~10の中で、実施例4のすべり抗力が最も大きかった。形成工程(S12)における表面水酸化工程の温度を高く設定することで、アルミニウム部材の表面に十分な厚さの第1の凹凸が形成され、対象部材に接触する面積が増大することで摩擦力(すべり抗力)の増大に寄与することができたためだと考えられる。
【0142】
[耐食性評価]
上記条件で作成された実施例1~10及び比較例1~5の耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、耐食性としての腐食電流密度を測定した。ポテンショスタットを用いて、実施例1~10及び比較例1~5の耐食性試験用のアルミニウムをそれぞれ室温中のpH3のHSO水溶液に浸漬させ、窒素バブリングを行いながら分極測定を行った。そして得られた分極曲線に対してターフェル外挿法により実施例1~10及び比較例1~5の耐食性試験用のアルミニウムにおいて、腐食電流密度を算出した。ブラスト加工工程及び表面水酸化工程を実行していない比較例1において、腐食電流密度は、6.80×10-7A/cmであった。図10では、耐食性(耐食性能)として、実施例1~10及び比較例1~5の各腐食電流密度に対する比較例1の腐食電流密度の割合を示している。当該割合が1より大きければ大きいほど、腐食電流密度が比較例1より小さく、耐食性が良いことを示している。以下、当該割合が140以上である場合、耐食性が非常に良い(非常に高い)と評価し、当該割合が130以上140未満である場合、耐食性が良い(高い)と評価し、当該割合が130未満である場合、耐食性が悪い(低い)と評価する。
【0143】
実施例1,2と比較例1とを比較することにより、形成工程(S12)において表面水酸化工程は耐食性の向上に寄与することが確認された。表面水酸化工程を行われる場合には、表面水酸化工程を行わない場合に比べて、アルミニウム部材の表面に中間層が形成されるため、腐食電流密度が小さくなり、耐食性が良くなると考えられる。実施例2の腐食電流密度は、比較例1の腐食電流密度と比較して1/130になっている。表面水酸化工程において、アルミニウム部材の表面に不動態の機能を有する中間層が形成されたことで、アルミニウム部材の表面における電流密度の低下につながり、耐食性が高くなった(非常に良くなった)と考えられる。
【0144】
実施例2と比較例2とを比較することにより、形成工程(S12)における表面水酸化工程の温度が100℃以上である場合に、耐食性が良くなり、耐食性の向上に寄与することが確認された。表面水酸化工程の温度が100℃以上である場合には、表面水酸化工程の温度が90℃である場合に比べて大気圧を超えた圧力が加わっているため、十分な反応が行われ、中間層がアルミニウム部材の表面(アルミニウム部材と接触層との間)に適切に形成されるため、反応前後でのアルミニウム部材の耐食性に変化が認められると考えられる。表面水酸化工程の温度が90℃である比較例2では、大気圧を超えた圧力が加わっていないため、中間層の形成が不十分であったと考えられる。
【0145】
また、実施例1,3,4と実施例2とを比較することにより、形成工程(S12)における表面水酸化工程の温度が120℃以上である場合に、耐食性が非常に良くなり、耐食性の向上に大きく寄与することが確認された。表面水酸化工程の温度が120℃以上である場合には、表面水酸化工程の温度が100℃である場合よりもさらに十分な反応が行われ、中間層がアルミニウム部材の表面に適切に形成されると考えられる。このため、反応前後でのアルミニウム部材の耐食性に大きな変化が認められ、耐食性が非常に良くなったと考えられる。
【0146】
さらに、実施例1~4と比較例3とを比較することにより、形成工程(S12)における表面水酸化工程の温度を250℃以下に設定する場合に、耐食性が非常に良くなり、耐食性の向上に大きく寄与することが確認された。表面水酸化工程の温度が250℃以下である場合には、表面水酸化工程の温度が300℃である場合に比べて接触層及び中間層の少なくとも一方が固く成長しすぎず、冷却されるときに熱衝撃で接触層及び中間層の少なくとも一方にクラックが入ることが抑制されるため、アルミニウム部材の耐食性が高いまま維持されると考えられる。表面水酸化工程の温度が300℃である比較例3では、熱衝撃により接触層及び中間層の少なくとも一方にクラックが入ったため、耐食性が悪くなったと考えられる。
【0147】
実施例1,5~9及び比較例4の結果から、形成工程(S12)における表面水酸化工程の反応時間を0.5時間以上とする場合に、耐食性が良くなり、耐食性の向上に寄与することが確認された。表面水酸化工程の反応時間が0.25時間である場合とは異なり、表面水酸化工程の反応時間が0.5時間以上である場合には、十分な反応が行われ、中間層がアルミニウム部材の表面に形成されるため、反応前後でのアルミニウム部材の耐食性に変化が認められると考えられる。
【0148】
また、実施例5と実施例1,6~9とを比較することで、表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合に、耐食性が非常に良くなることが確認された。表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合には、表面水酸化工程の反応時間が0.5時間である場合よりもさらに十分な反応が行われ、中間層がアルミニウム部材の表面に適切に形成されると考えられる。
【0149】
実施例1,4~7と比較例5を比較することにより、形成工程(S12)における表面水酸化工程の反応時間を48時間以下とする場合に、耐食性が非常に良くなり、耐食性の向上に大きく寄与することが確認された。表面水酸化工程の反応時間が48時間以下である場合には、表面水酸化工程の反応時間が72時間である場合に比べて、接触層及び中間層の少なくとも一方が固く成長しすぎず、冷却されるときに熱衝撃で接触層及び中間層の少なくとも一方にクラックが入ることが抑制されるため、アルミニウム部材の耐食性が高いまま維持されると考えられる。表面水酸化工程の反応時間が72時間である比較例4では、熱衝撃により接触層及び中間層の少なくとも一方にクラックが入ったため、耐食性が悪くなったと考えられる。しかし、比較例1と比較例4とを比べることで、表面水酸化工程の反応時間が0.5時間以上であれば、よりよい耐食性が得られることが確認された。
【0150】
実施例1及び実施例10の結果から、アルミニウム部材の材質によらず、表面水酸化工程が実行されることによって非常に良い耐食性を担保できることが確認された。
【0151】
以上のように、上述の実施形態に記載された締結方法MT及びアルミニウム部材の製造方法により製造された実施例1~10に係るアルミニウム部材は、比較例1~5に係るアルミニウム部材に比べて、対象部材4との締結において高摩擦性及び高耐食性の双方の効果を発揮することが確認された。
【0152】
[ブラスト加工工程及び表面水酸化工程実行によるアルミニウム部材の摩擦力及び耐食性の確認]
図11は、実施例に係る加工条件に対する摩擦試験結果及び耐食性試験結果である。図11に示す実施例11~15及び比較例6~8では、第2実施形態の締結ユニット1Aと同様の締結ユニットを用意して、摩擦力としてのすべり抗力を確認した。また、実施例11~15及び比較例6~8では、上述の締結ユニットに用いられたアルミニウム部材と同条件のブラスト加工及び表面水酸化工程を実行したアルミニウム部材を用意して、耐食性としての腐食電流密度を確認した。
【0153】
[実施例11]
準備工程(S10)において、すべり抗力試験用の締結ユニットを作成可能な部材として、実施例1と同一条件のアルミニウム部材、一対の締結部材及び一対の対象部材を準備した。また、準備工程(S10)において、耐食性試験用のアルミニウム部材として、実施例1と同一条件のアルミニウム板を準備した。続いて、すべり抗力試験用のアルミニウム部材、及び、耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、形成工程(S12)において鏡面研磨工程を実行した。鏡面研磨工程では、精密試料自動研磨機(Tegramin-30,Struers)を用いてバフ研磨を行い、エタノール(特級、キシダ化学(株))を用いて2分間洗浄した。続いて、鏡面研磨されたすべり抗力試験用のアルミニウム部材、及び、耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、各アルミニウム部材と飽和水蒸気との反応時間を2時間とした以外は実施例1と同一条件の形成工程(S12)における表面水酸化工程を実行した。鏡面研磨工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、図11に示すようにRyが0.5μm、Rzが0.25 μm、Rzに対するRyの比率が2となった。その後、すべり抗力試験用のアルミニウム部材に対して、実施例1と同一条件の締結工程(S14)を実行し、締結ユニットを形成した。
【0154】
[実施例12]
実施例12は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを4時間反応させた。それ以外の条件は、実施例11と同一とした。鏡面研磨工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、各アルミニウム部材と飽和水蒸気とを上述の通り反応させた結果、図11に示すようにRyが0.9μm、Rzが0.5 μm、Rzに対するRyの比率が1.8となった。
【0155】
[実施例13]
実施例13は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを24時間反応させた。それ以外の条件は、実施例11と同一とした。鏡面研磨工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、図11に示すようにRyが1.4μm、Rzが0.9 μm、Rzに対するRyの比率が1.5となった。
【0156】
[実施例14]
実施例14では、準備工程(S10)において樹脂膜の厚みが20μmである第1対象部材及び第2対象部材を準備した。実施例11と異なり、鏡面研磨工程の代わりに重力式のブラスト加工装置を用いて形成工程(S12)においてブラスト加工工程を実行した。ブラスト加工には、材料が鋭角状の突起を有するアルミナ、噴射材中心粒子径が106μm~125 μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は0.3 MPaとした。図11では、上述のブラスト加工条件を「ブラスト加工(A)」と表している。続いて、ブラスト加工されたすべり抗力試験用のアルミニウム部材、及び、耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、形成工程(S12)において、実施例1と同一条件の表面水酸化工程を実行した。それ以外の条件は、実施例11と同一とした。ブラスト加工工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、図11に示すようにRyが17.7μm、Rzが12.5 μm、Rzに対するRyの比率が1.4となった。
【0157】
[実施例15]
実施例15では、準備工程(S10)において樹脂膜の厚みが50μmである第1対象部材及び第2対象部材を準備した。実施例11と異なり、鏡面研磨工程の代わりに図4図6に示される直圧式のブラスト加工装置を用いて形成工程(S12)においてブラスト加工工程を実行した。ブラスト加工には、材料が鋭角状の突起を有するアルミナ、噴射材中心粒子径が420μm~590 μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は0.3 MPaとした。図11では、上述のブラスト加工条件を「ブラスト加工(B)」と表している。続いて、ブラスト加工されたすべり抗力試験用のアルミニウム部材、及び、耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、形成工程(S12)において、実施例1と同一条件の表面水酸化工程を実行した。それ以外の条件は、実施例11と同一とした。ブラスト加工工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、図11に示すようにRyが45.0μm、Rzが43.3 μm、Rzに対するRyの比率が1.0となった。
【0158】
[比較例6]
比較例6は、形成工程(S12)の表面水酸化工程においてアルミニウム部材と飽和水蒸気とを0.25時間反応させた。それ以外の条件は、実施例11と同一とした。鏡面研磨工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において図11に示すようにRyが0.2μm、Rzが0.1 μm、Rzに対するRyの比率が2となった。
【0159】
[比較例7]
比較例7は、形成工程(S12)のブラスト加工工程において、ブラスト圧は、0.5MPaとした。それ以外の条件は、実施例15と同一とした。ブラスト加工工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、図11に示すようにRyが71.5μm、Rzが55.0 μm、Rzに対するRyの比率が1.3となった。
【0160】
[比較例8]
比較例8は、形成工程(S12)のブラスト加工工程において、ブラスト圧は、1.0MPaとした。それ以外の条件は、実施例15と同一とした。ブラスト加工工程及び表面水酸化工程実行後のアルミニウム部材において、図11に示すようにRyが94.5μm、Rzが45.0 μm、Rzに対するRyの比率が2.1となった。
【0161】
[中間層の組成分析及び結晶構造解析]
実施例11~15及び比較例6~8に係る表面水酸化工程前後のアルミニウム部材を対象としてXRDによって回折角度ごとの回折X線強度を測定した。回折角度に対する回折X線強度の測定結果に示されるピークの特徴に基づいて、アルミニウム部材の表層(中間層)の組成及び結晶構造を確認した。XRD測定結果から、実施例11~15及び比較例6~8の表面水酸化工程前のアルミニウム部材の表層には、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質と、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていないことが確認された。
【0162】
XRD測定結果から、実施例13~15及び比較例7,8の表面水酸化工程後のアルミニウム部材の中間層においては、図11中の「A」と示すように、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質とアルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていることが確認された。XRD測定結果から、実施例11,12の表面水酸化工程後のアルミニウム部材の中間層においては、図11中の「B」と示すように、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物が含まれておらず、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質が含まれていることが確認された。XRD測定結果から、比較例6の表面水酸化工程後のアルミニウム部材の表層には、図11中の「C」と示すように、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス物質と、アルミニウム原子及び酸素原子を含む層状複水酸化物とが含まれていないことが確認された。
【0163】
[摩擦力評価]
上記条件で作成された実施例11~15及び比較例6~8の締結ユニットにおける摩擦力としてすべり抗力を測定した。測定方法及び図11中の評価値は、上述の測定方法及び図10中の評価値と同一である。
【0164】
実施例11~13と比較例6とを比較することにより、形成工程(S12)における表面水酸化工程の反応時間を2時間以上とする場合に、すべり抗力が非常に良くなることが確認された。表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合には、表面水酸化工程の反応時間が0.25時間以上である場合と比べて、アルミニウム部材の最大高さRy及び十点平均粗さRzが高い。よって、表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合には、表面水酸化工程の反応時間が0.25時間以上である場合と比べて、十分な反応が行われ、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが20%以上となり、接触層において第1の凹凸がアルミニウム部材の表面に形成されると考えられる。このため、反応前後で、アルミニウム部材によって生じるすべり抗力(摩擦力)に変化が認められると考えられる。
【0165】
実施例6と実施例11、及び、実施例1と実施例13とを比較することにより、鏡面研磨工程を実行することにより、アルミニウム部材の表面粗さを示す最大高さRy及び十点平均粗さが小さくなることが示された。鏡面研磨工程において、バフ研磨が実行されることで、表面が平滑化されるため、形成工程(S12)が実行される前のアルミニウム部材の表面における凹凸の数が減少する。また、鏡面研磨工程が実行されることで、表面水酸化工程を実行する前のアルミニウム部材の表面に形成されていた傷、表面水酸化工程を実行する前のアルミニウム部材の表面に付着していた付着物等が削り取られる。このため、鏡面研磨工程が実行されたアルミニウム部材の表面の表面粗さが小さくなったと考えられる。このことから、実施例11,13に係るアルミニウム部材は、それぞれ実施例6,1に係るアルミニウム部材に比べて、最大高さRy及び十点平均粗さRzが小さいため、薄い樹脂膜を有する対象部材に締結される場合であっても、アルミニウム部材の表面の第1の凹凸が樹脂膜を突き破ることが無いと考えられる。このため、実施例のアルミニウム部材は、様々な対象部材に対して適切に高摩擦性を担保できる。
【0166】
実施例1と実施例13と実施例14及び実施例15とを比較する。ブラスト加工工程を実行する場合には、ブラスト加工工程を実行しない場合、及び、ブラスト加工工程の代わりに鏡面研磨工程を実行する場合と比べて、アルミニウム部材の表面粗さを示す最大高さRy及び十点平均粗さが非常に大きくなり、輪郭曲面の展開界面面積率Sdrが140%以上となることが示された。ブラスト加工工程において、表面にマイクロオーダーの第2の凹凸が形成され、表面水酸化工程を実行する前のアルミニウム部材の表面粗さが大きくなったと考えられる。このため、対象部材の樹脂膜の厚さに応じて、ブラスト加工工程及び表面水酸化工程によりアルミニウム部材に、第1の凹凸及び第2の凹凸を含む適切な厚さの凹凸を形成することができることが示された。
【0167】
実施例15と比較例7及び比較例8とを比較することにより、最大高さRy及び十点平均粗さRzの両方が対象部材の樹脂膜の厚さより小さい場合、すべり抗力が非常に良くなることが確認された。最大高さRy及び十点平均粗さRzの両方が対象部材の樹脂膜の厚さより小さい場合、アルミニウム部材と対象部材との間に隙間が発生しにくく、密着性が向上し、摩擦が生じやすくなっていると考えられる。
【0168】
[耐食性評価]
上記条件で作成された実施例11~15及び比較例6~8の耐食性試験用のアルミニウム部材に対して、耐食性としての腐食電流密度を測定した。測定方法及び図11中の評価値は、上述の測定方法及び図10中の評価値と同一である。
【0169】
実施例11~13と比較例6とを比較することにより、形成工程(S12)において表面水酸化工程の反応時間を2時間以上とする場合に、耐食性の向上に寄与することが確認された。表面水酸化工程の反応時間が2時間以上である場合には、表面水酸化工程の反応時間が0.25時間以上である場合と比べて、十分な反応が行われ、中間層がアルミニウム部材の表面に形成されるため、腐食電流密度が小さくなり、耐食性が良くなったと考えられる。実施例11の腐食電流密度は、比較例1の腐食電流密度と比較して1/140になっている。表面水酸化工程において、アルミニウム部材の表面の第2の凹凸に不動態の機能を有する中間層が形成されたことで、アルミニウム部材の表面における電流密度の低下につながり、耐食性が高くなった(非常に良くなった)と考えられる。
【0170】
以上のように、上述の実施形態に記載された締結方法MT及びアルミニウム部材の製造方法により製造された実施例11~15に係るアルミニウム部材は、比較例6~8に係るアルミニウム部材に比べて、対象部材4との締結において高摩擦性及び高耐食性の双方の効果を発揮することが確認された。
【符号の説明】
【0171】
1,1A,1B…締結ユニット、2,2B…アルミニウム部材、2b…表面、2d…第2の凹凸、3,3A…締結部材、4,4A…対象部材、4b…接触面、5,5B…本体部、6…中間層、7…接触層、7a…第1の凹凸、8…樹脂膜、9…対象本体部、10…ブラスト加工装置、31…第1締結部材(締結部材の一例)、32…第2締結部材(締結部材の一例)、41…第1対象部材(対象部材の一例)、42…第2対象部材(対象部材の一例)、MT…締結方法。
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図11