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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168680
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】転舵システム及び制御情報設定方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241128BHJP
   G01M 17/06 20060101ALN20241128BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
B62D6/00
G01M17/06
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085556
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC45
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA10
3D232DA15
3D232DA19
3D232DA63
3D232DA64
3D232DA99
3D232DC10
3D232DD15
3D232EB04
3D232EB08
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC30
3D232EC37
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】市場出荷前の工場工程での設定作業を好適に実施することができる転舵システム及び制御情報設定方法を提供する。
【解決手段】転舵システムは、操舵ユニットと転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する車両用操舵システムに適用され、前記転舵ユニットを含んで構成される。転舵システムは、CPUと、メモリとを有する。CPUは、転舵ユニットを動作させる制御モードを、設定モード又は通常制御モードに設定するモード設定処理を含む。設定モードは、転舵ユニットの市場出荷前における工場工程において設定可能なモードである。通常制御モードは、工場工程を経た後において設定可能なモードである。CPUは、設定モード又は通常制御モードを排他的に設定する処理(ステップ104、ステップ106、ステップ108)を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により操舵される操舵ユニットと車両の転舵輪を転舵させるべく動作する転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する車両用操舵システムに適用され、前記転舵ユニットを含んで構成される転舵システムであって、
前記転舵ユニットの動作を制御する制御部と、
前記制御部が前記転舵ユニットの動作を制御する際に使用する制御情報を記憶する記憶部と、を有し、
前記制御部は、前記転舵ユニットを動作させる制御モードを、設定モード又は通常制御モードに設定するモード設定処理を実行するように構成され、
前記設定モードは、前記転舵ユニットの市場出荷前における工場工程において設定可能なモードであって、前記転舵ユニットを動作させて前記制御情報を前記記憶部に設定するための設定作業を実施するモードであり、
前記通常制御モードは、前記工場工程を経た後において設定可能なモードであって、前記制御情報を使用して前記転舵ユニットを動作させるように制御するモードであり、
前記モード設定処理は、前記設定モード又は前記通常制御モードを排他的に設定する処理を含む転舵システム。
【請求項2】
前記転舵ユニットは、前記転舵輪を転舵させるべく動作する転舵軸と、前記転舵軸を動作させる動力を発生させる転舵側モータとを含み、
前記制御部は、前記設定作業の実施にかかる工場転舵処理を実行するように構成されており、
前記工場転舵処理は、前記転舵側モータの駆動を通じて前記転舵軸を、少なくとも1つの予め定めた規定動作させることによって、前記制御情報を前記記憶部に設定する処理を含む請求項1に記載の転舵システム。
【請求項3】
前記設定作業は、前記転舵ユニットの機械的な状態に対応付けられた値である基準値を、前記制御情報として前記記憶部に設定するための作業を含み、
前記基準値は、前記車両が直進する際の前記転舵軸の転舵状態である直進状態を示す値であり、
前記規定動作は、前記転舵軸を第1の方向又は第2の方向の移動限界までそれぞれ移動させる学習動作を含み、
前記工場転舵処理は、
前記学習動作させるなかで、各方向の移動限界のときの前記転舵軸の位置である限界位置を当該各方向の毎に取得する処理と、
前記各方向の毎に取得した限界位置に基づき前記基準値を設定する処理と、を含む請求項2に記載の転舵システム。
【請求項4】
前記工場転舵処理は、前記学習動作を通じて前記基準値を前記記憶部に設定したことを条件に、前記基準値の設定完了を示す完了情報を前記記憶部に設定する処理を含み、
前記モード設定処理は、前記記憶部に前記完了情報が設定されている場合に前記設定モードに設定するとともに、前記記憶部に前記完了情報が記憶されていない場合に前記通常制御モードに設定する処理である請求項3に記載の転舵システム。
【請求項5】
前記工場転舵処理は、処理開始時、及び、前記規定動作の完了毎に、前記転舵軸の状態を保持する保持動作させる処理を含む請求項2~4のうちいずれか一項に記載の転舵システム。
【請求項6】
運転者により操舵される操舵ユニットと車両の転舵輪を転舵させるべく動作する転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する車両用操舵システムに適用され、前記転舵ユニットを含んで構成される転舵システムが有する記憶部に記憶される情報であって、前記転舵システムが有する制御部が前記転舵ユニットの動作を制御する際に使用する制御情報を設定するための制御情報設定方法であって、
前記制御部は、前記転舵ユニットの市場出荷前における工場工程において設定可能な設定モードにおいて、前記転舵ユニットを動作させて前記制御情報を前記記憶部に設定するための設定作業を実施するように、前記転舵ユニットを動作させる工場転舵処理を実行するように構成されており、
前記工場転舵処理は、前記転舵ユニットの転舵側モータの駆動を通じて、前記転舵輪を転舵させるべく動作する前記転舵ユニットの転舵軸を、少なくとも1つの予め定めた規定動作させることによって、前記制御情報を前記記憶部に設定する処理を含む制御情報設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵システム及び制御情報設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用操舵システムは、車両が適切に走行できるようにするための設定作業を必要とすることが知られている。例えば、下記特許文献1は、電動パワーステアリング装置を備える車両用操舵システムについて、車両の直進に対応する状態を検知するための設定作業の方法を提案している。この設定作業の方法は、運転者によりラック中立点認知スイッチがオンされたことを条件に、ラック軸の中立点等を演算するラック中立点認知動作をするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-230275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の設定作業は、運転手によりラック中立点認知スイッチがオンされたことを条件にしていることから、市場出荷後の作業しか想定されていない。つまり、市場出荷前の工場工程での作業を想定すると、改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し得る転舵システムは、運転者により操舵される操舵ユニットと車両の転舵輪を転舵させるべく動作する転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する車両用操舵システムに適用され、前記転舵ユニットを含んで構成される。前記転舵システムは、前記転舵ユニットの動作を制御する制御部と、前記制御部が前記転舵ユニットの動作を制御する際に使用する制御情報を記憶する記憶部と、を有し、前記制御部は、前記転舵ユニットを動作させる制御モードを、設定モード又は通常制御モードに設定するモード設定処理を実行するように構成され、前記設定モードは、前記転舵ユニットの市場出荷前における工場工程において設定可能なモードであって、前記転舵ユニットを動作させて前記制御情報を前記記憶部に設定するための設定作業を実施するモードであり、前記通常制御モードは、前記工場工程を経た後において設定可能なモードであって、前記制御情報を使用して前記転舵ユニットを動作させるように制御するモードであり、前記モード設定処理は、前記設定モード又は前記通常制御モードを排他的に設定する処理を含む。
【0006】
上記構成によれば、設定モード及び通常制御モードにおいて、転舵ユニットにそれぞれの状況に応じた動作をさせることができるようになる。これにより、制御部は、設定モードでは市場出荷前における工場工程での作業を想定した制御を実行するとともに、通常制御モードでは工場工程を経た後、例えば、市場出荷後での使用を想定した制御を実行することができる。こうした設定モード又は通常制御モードが、状況に応じて排他的に設定されるので、例えば、工場工程において設定作業に携わる作業者の混乱が抑えられる。したがって、市場出荷前の工場工程での設定作業を好適に実施することができる。
【0007】
上記転舵システムにおいて、前記転舵ユニットは、前記転舵輪を転舵させるべく動作する転舵軸と、前記転舵軸を動作させる動力を発生させる転舵側モータとを含み、前記制御部は、前記設定作業の実施にかかる工場転舵処理を実行するように構成されており、前記工場転舵処理は、前記転舵側モータの駆動を通じて前記転舵軸を、少なくとも1つの予め定めた規定動作させることによって、前記制御情報を前記記憶部に設定する処理を含むことが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、市場出荷前の工場工程の設定作業のなかでも、転舵軸を動作させて実施する設定作業に適した転舵システムを提案することができる。
上記転舵システムにおいて、前記設定作業は、前記転舵ユニットの機械的な状態に対応付けられた値である基準値を、前記制御情報として前記記憶部に設定するための作業を含み、前記基準値は、前記車両が直進する際の前記転舵軸の転舵状態である直進状態を示す値であり、前記規定動作は、前記転舵軸を第1の方向又は第2の方向の移動限界までそれぞれ移動させる学習動作を含み、前記工場転舵処理は、前記学習動作させるなかで、各方向の移動限界のときの前記転舵軸の位置である限界位置を当該各方向の毎に取得する処理と、前記各方向の毎に取得した限界位置に基づき前記基準値を設定する処理と、を含むことが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、転舵軸を動作させて実施する設定作業のなかでも、基準値を設定するための設定作業に特化することができる。
上記転舵システムにおいて、前記工場転舵処理は、前記学習動作を通じて前記基準値を前記記憶部に設定したことを条件に、前記基準値の設定完了を示す完了情報を前記記憶部に設定する処理を含み、前記モード設定処理は、前記記憶部に前記完了情報が設定されている場合に前記設定モードに設定するとともに、前記記憶部に前記完了情報が記憶されていない場合に前記通常制御モードに設定する処理であることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、制御部は、完了情報に基づいて、設定モード又は通常制御モードを排他的に設定することができるとともに、こうした設定を自動的に行うことができる。これは、例えば、市場出荷前の工場工程の自動化を図るのに効果的である。
【0011】
上記転舵システムにおいて、前記工場転舵処理は、処理開始時、及び、前記規定動作の完了毎に、前記転舵軸の状態を保持する保持動作させる処理を含むことが好ましい。
上記構成によれば、例えば、市場出荷前の工場工程において、外部から衝撃が加えられる等して、転舵軸がずれることを抑制することができる。これにより、工場工程における作業効率を向上させることができる。
【0012】
上記課題を解決し得る制御情報設定方法は、運転者により操舵される操舵ユニットと、車両の転舵輪を転舵させるべく動作する転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する車両用操舵システムに適用され、前記転舵ユニットを含んで構成される転舵システムが有する記憶部に記憶される情報であって、前記転舵システムが有する制御部が前記転舵ユニットの動作を制御する際に使用する制御情報を設定するための方法である。前記制御部は、前記転舵ユニットの市場出荷前における工場工程において設定可能な設定モードにおいて、前記転舵ユニットを動作させて前記制御情報を前記記憶部に設定するための設定作業を実施するように、前記転舵ユニットを動作させる工場転舵処理を実行するように構成されており、前記工場転舵処理は、前記転舵ユニットの転舵側モータの駆動を通じて、前記転舵輪を転舵させるべく動作する前記転舵ユニットの転舵軸を、少なくとも1つの予め定めた規定動作させることによって、前記制御情報を前記記憶部に設定する処理を含む。
【0013】
上記方法によれば、設定モードにおいて、市場出荷前における工場工程に応じた動作を転舵ユニットにさせることができるようになる。これにより、制御部は、設定モードでは市場出荷前における工場工程での作業を想定した制御を実行することができるので、例えば、工場工程において設定作業に携わる作業者の混乱が抑えられる。こうした市場出荷前の工場工程の設定作業のなかでも、転舵軸を動作させて実施する設定作業を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、市場出荷前の工場工程での設定作業を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態にかかるステバイワイヤ式の操舵装置の構成を示す図である。
図2図1の操舵制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3図2の転舵制御部におけるCPUの状態遷移を説明する図である。
図4】工場工程における転舵ユニットの設定作業を説明する図である。
図5図4の設定作業に係る転舵制御処理の処理手順を説明するフローチャートである。
図6】学習動作の処理手順を説明するフローチャートである。
図7】中点戻し動作の処理手順を説明するフローチャートである。
図8】一方向動作の処理手順を説明するフローチャートである。
図9】学習動作及び中点戻し動作させる場合における工場工程用制御角の変化態様を説明する図である。
図10】一方向動作させる場合における工場工程用制御角の変化態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一実施形態に係る転舵装置を説明する。
図1に示すように、車両用操舵システム2は、操舵制御装置1を備えている。車両用操舵システム2は、操舵ユニット4と、転舵ユニット6とを備えている。操舵ユニット4は、操舵部材である車両のステアリングホイール3を介して運転者により操舵される。転舵ユニット6は、運転者により操舵ユニット4に入力される操舵に応じて車両の左右の転舵輪5を転舵させる。本実施形態の車両用操舵システム2は、例えば、操舵ユニット4と、転舵ユニット6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。後述の操舵アクチュエータ12と、後述の転舵アクチュエータ31との間の動力伝達路は、機械的に常時分離した構造とされている。すなわち、車両用操舵システム2は、ステアバイワイヤ式の操舵装置を備える。
【0017】
操舵ユニット4は、ステアリング軸11と、操舵アクチュエータ12とを備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール3に連結されている。操舵アクチュエータ12は、操舵側モータ13と、操舵側減速機構14とを有している。操舵側モータ13は、ステアリング軸11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する反力モータである。操舵側モータ13は、例えば、ウォームアンドホイールからなる操舵側減速機構14を介してステアリング軸11に連結されている。本実施形態の操舵側モータ13には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0018】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、転舵軸としてのラック軸22と、ラックハウジング23とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって連結されている。ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛み合わせることによりラックアンドピニオン機構24が構成されている。ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵位置である転舵角θiに換算可能な回転軸に相当する。ラックハウジング23は、ラックアンドピニオン機構24を収容している。
【0019】
ピニオン軸21のラック軸22と連結される側と反対側の一端は、ラックハウジング23から突出している。ラック軸22の両端は、ラックハウジング23の軸方向の両端から突出している。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0020】
転舵ユニット6は、転舵アクチュエータ31を備えている。転舵アクチュエータ31は、転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。転舵側モータ32は、伝達機構33及び変換機構34を介してラック軸22に対して転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する。転舵側モータ32は、例えば、ベルト伝達機構からなる伝達機構33を介して変換機構34に対して回転を伝達する。伝達機構33は、例えば、ボールねじ機構からなる変換機構34を介して転舵側モータ32の回転をラック軸22の往復動に変換する。本実施形態の転舵側モータ32には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0021】
車両用操舵システム2では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、転舵輪5の転舵角θiが変更される。このとき、操舵アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。これにより、車両用操舵システム2では、操舵アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0022】
ラック軸22の移動範囲は、ラックハウジング23の軸方向両側の端部23aによって規定される。例えば、ラック軸22は、右方の移動限界22rと左方の移動限界22lとの間を移動範囲として移動可能である。ラック軸22の各移動限界22r,22lは、ラック軸22が軸方向移動するなかでラックエンド25がラックハウジング23の端部23aにそれぞれ当接することによって、ラック軸22の軸方向への移動が機械的に規制されるエンド当ての位置である。ラック軸22の移動範囲は、転舵輪5の転舵範囲を規定する。
【0023】
なお、ピニオン軸21を設ける理由は、ピニオン軸21と共にラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するためである。車両用操舵システム2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0024】
<車両用操舵システムの電気的構成>
図1に示すように、操舵側モータ13と転舵側モータ32とは、操舵制御装置1に接続されている。操舵制御装置1は、各モータ13,32の作動を制御する。
【0025】
操舵制御装置1には、各種のセンサの検出結果が入力される。各種のセンサには、例えば、トルクセンサ41、操舵側回転角センサ42、転舵側回転角センサ43、車速センサ44、及びピニオン絶対角センサ45が含まれる。
【0026】
トルクセンサ41は、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と操舵側減速機構14との間の部分に設けられている。トルクセンサ41は、運転者のステアリング操舵によりステアリング軸11に付与されたトルクを示す値である操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリング軸11の途中であって、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と操舵側減速機構14との間に設けられたトーションバー41aの捩じれに関わって検出される。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13に設けられている。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13の回転軸の角度である回転角θaを360度の範囲内で検出する。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32に設けられている。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32の回転軸の角度である回転角θbを360度の範囲内で検出する。車速センサ44は、車両の走行速度である車速Vを検出する。ピニオン絶対角センサ45は、ピニオン軸21の回転軸の角度の実測値であるピニオン絶対回転角θabpを360°を超える範囲で検出する。
【0027】
操舵制御装置1には、電源システム46が接続されている。電源システム46は、バッテリ47を有している。バッテリ47は、車両に搭載された二次電池であり、操舵側モータ13及び転舵側モータ32が動作するべく供給される電力の電力源になる。また、バッテリ47は、操舵制御装置1が動作するべく供給される電力の電力源になる。
【0028】
操舵制御装置1とバッテリ47との間には、イグニッションスイッチ等の車両の起動スイッチ48(図1中「SW」)が設けられている。起動スイッチ48は、操舵制御装置1とバッテリ47との間を接続する2つの給電線L1,L2のうちの給電線L1から分岐している給電線L2の途中に設けられている。起動スイッチ48は、エンジン等の車両の走行用駆動源を作動させて車両の動作が可能になるように各種の機能を起動する際に操作される。起動スイッチ48の操作を通じて給電線L2の導通がオンオフされる。本実施形態において、車両用操舵システム2の動作の状態は、車両の動作の状態と関連付けられている。なお、給電線L1については基本的に導通が常時オンとされているが、車両用操舵システム2の動作の状態に応じて給電線L1の導通が車両用操舵システム2の機能として間接的にオンオフされる。車両用操舵システム2の動作の状態は、バッテリ47の電力の供給の状態である給電線L1,L2の導通のオンオフと関連付けられている。車両用操舵システム2の動作の状態は、起動スイッチ48の操作に基づいて、給電線L1,L2の導通がオンされる場合に電源オンとなる。車両用操舵システム2の動作の状態は、起動スイッチ48の操作に基づいて、給電線L1,L2の導通がオフされる場合に電源オフとなる。
【0029】
操舵制御装置1には、CAN等の車載ネットワーク8を介して車両用制御装置7が接続されている。車両用制御装置7は、車両用操舵システム2が搭載される車両に操舵制御装置1とは別に設けられている。車両用制御装置7は、車両の走行に係る駆動系を制御するシステムや車両の制動に係るブレーキ系を制御するシステム等を制御する。
【0030】
<操舵制御装置の機能>
図2に示すように、操舵制御装置1は、反力制御部50と、転舵制御部60とを有している。反力制御部50は、制御対象であるステアリングホイール3を制御する。反力制御部50は、制御対象の制御量である操舵反力を制御すべく、操舵アクチュエータ12、より詳しくは操舵側モータ13の駆動を制御する。転舵制御部60は、制御対象であるラック軸22を制御する。転舵制御部60は、制御対象の制御量である転舵力を制御すべく、転舵アクチュエータ31、より詳しくは転舵側モータ32の駆動を制御する。反力制御部50と転舵制御部60とは、例えば、シリアル通信等のローカルネットワーク49を介して情報の送受信を相互に行う。反力制御部50は、操舵ユニット4と組み合わせて反力システムRSを構成する。転舵制御部60は、転舵ユニット6と組み合わせて転舵システムTSを構成する。
【0031】
反力制御部50は、中央処理装置(以下「CPU」という。)50aやメモリ50bを備えている。反力制御部50は、メモリ50bに記憶されたプログラムを所定の演算周期毎にCPU50aが実行することにより、各種の処理を実行する。転舵制御部60は、中央処理装置(以下「CPU」という。)60aやメモリ60bを備えている。転舵制御部60は、メモリ60bに記憶されたプログラムを所定の演算周期毎にCPU60aが実行することにより、各種の処理を実行する。CPU50a,60a及びメモリ50b,60bは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリ50b,60bは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。反力制御部50及び転舵制御部60が有する処理回路は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。本実施形態において、転舵制御部60が有するCPU60aは、制御部の一例である。転舵制御部60が有するメモリ60bは、記憶部の一例である。
【0032】
反力制御部50におけるCPU50aは、操舵トルクTh、車速V、回転角θa、及び転舵情報Stを入力する。転舵情報Stは、ローカルネットワーク49を介して転舵制御部60から得られる情報である。その他、CPU50aは、車載ネットワーク8を介して車両用制御装置7等から車両情報Svcを入力する。CPU50aは、操舵トルクTh、車速V、回転角θa、転舵情報St、及び車両情報Svcに基づいて、操舵反力を制御するための、反力用インバータ51への制御信号MSsを演算する。反力用インバータ51は、バッテリ47の直流電圧を交流電圧に変換して操舵側モータ13に印加する駆動回路である。その際、CPU50aは、操舵側モータ13に流れる電流iu1,iv1,iw1を参照する。電流iu1,iv1,iw1は、反力用インバータ51の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。これにより、CPU50aは、操舵反力となるモータトルクが発生するように操舵側モータ13の駆動を制御する。
【0033】
CPU50aは、回転角θaを、メモリ50bに記憶された反力用基準値θnsからの積算角に換算する。積算角は、反力用基準値θnsからの操舵側モータ13の回転回数をカウントすることにより、360°を超える範囲で換算された値である。反力用基準値θnsは、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール3の操舵状態である直進状態を示す値である。本実施形態において、反力用基準値θnsは、ステアリングホイール3の直進状態における回転位置であるステアリング中立位置を示す値であって、御情報の一例である。CPU50aは、換算して得られた積算角に操舵側減速機構14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。CPU50aは、ステアリング中立位置、すなわち反力用基準値θnsに対する絶対角度として操舵角θsを演算する。こうして得られた操舵角θsは、制御信号MSsを演算する際に使用される。操舵角θs等、CPU50aが使用する操舵情報Ssは、ローカルネットワーク49を介して転舵制御部60に出力される。
【0034】
転舵制御部60におけるCPU60aは、車速V、回転角θb、ピニオン絶対回転角θabp、及び操舵情報Ssが入力される。操舵情報Ssは、ローカルネットワーク49を介して反力制御部50から得られる情報である。その他、CPU60aは、車載ネットワーク8を介して車両用制御装置7等から車両情報Svcを入力する。CPU60aは、車速V、回転角θb、ピニオン絶対回転角θabp、操舵情報Ss、及び車両情報Svcに基づいて、転舵力を制御するための転舵用インバータ61への制御信号MStを演算する。転舵用インバータ61は、バッテリ47の直流電圧を交流電圧に変換して転舵側モータ32に印加する駆動回路である。その際、CPU60aは、転舵側モータ32に流れる電流iu2,iv2,iw2を参照する。電流iu2,iv2,iw2は、転舵用インバータ61の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として定量化されている。これにより、CPU60aは、転舵力となるモータトルクが発生するように転舵側モータ32の駆動を制御する。
【0035】
CPU60aは、回転角θbを、メモリ60bに記憶された転舵用基準値θntからの積算角に換算する。積算角は、転舵用基準値θntからの転舵側モータ32の回転回数をカウントすることにより、360°を超える範囲で換算された値である。転舵用基準値θntは、例えば、車両が直進しているときのラック軸22の転舵状態である直進状態を示す値である。本実施形態において、転舵用基準値θntは、ラック軸22の直進状態における位置であるラック中立位置を示す値であって、制御情報の一例である。CPU60aは、換算して得られた積算角に、伝達機構33の回転速度比と、変換機構34のリードと、ラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオン角θpを演算する。CPU60aは、ラック中立位置、すなわち転舵用基準値θntに対する絶対角度として、ピニオン軸21の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。こうして得られたピニオン角θpは、制御信号MStを演算する際に使用される。ピニオン角θp等、CPU60aが使用する転舵情報Stは、ローカルネットワーク49を介して反力制御部50に出力される。
【0036】
本実施形態において、反力用基準値θnsは、反力システムRSと転舵システムTSとが組み付けられた後の車両用操舵システム2の状態で設定される。つまり、反力用基準値θnsは、車両が車両用操舵システム2を搭載して市場出荷された後、車両、すなわち車両用操舵システム2が運転者によって使用される環境のなかで設定される。
【0037】
これに対して、転舵用基準値θntは、反力システムRSと転舵システムTSとが組み付けられる前の転舵システムTSのみの状態で設定される。つまり、転舵用基準値θntは、転舵システムTSの市場出荷前であって、当該転舵システムTSを製造する工場工程において、運転者によって使用されることのない環境のなかで設定される。
【0038】
<転舵制御部におけるCPUの状態遷移について>
図3に示すように、電源オフ中において、CPU60aは、起動スイッチ48がオン状態にされて電源オンされた後(ステップ100)、イニシャルチェック処理を実行する(ステップ102)。ステップ100において、CPU60aは、起動スイッチ48が出力するIG信号Sgの入力の有無によって電源オン及び電源オフの状態を判断する。
【0039】
イニシャルチェック処理は、CPU60a及びメモリ60bが正常動作することができるか否か、転舵システムTSの動作にかかるチェック処理を含む。イニシャルチェック処理は、ローカルネットワーク49を介して操舵情報Ssを入力することができるか否か、反力システムRSとの通信にかかるチェック処理を含む。イニシャルチェック処理は、車載ネットワーク8を介して車両情報Svcを入力することができるか否か、車両用制御装置7との通信にかかるチェック処理を含む。イニシャルチェック処理は、メモリ60bから各種情報を読み出す等して、転舵ユニット6を動作させるための処理を実行することができるようにするための処理を含む。イニシャルチェック処理において、CPU60aがメモリ60bから読み出す各種情報は、学習状態情報Lの内容を含む。
【0040】
続いて、ステップ102におけるイニシャルチェック処理の完了後、CPU60aは、学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされているか否かを判断する(ステップ104)。ステップ104において、学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされていることは、転舵用基準値θntのメモリ60bへの設定が完了していることを示す。これに対して、学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされていないことは、転舵用基準値θntのメモリ60bへの設定が完了していないことを示す。
【0041】
メモリ60bの情報は、書き込み可能な情報については、電源オン及び電源オフに応じて内容が消去して初期化される情報と、電源オン及び電源オフに関係なく内容が保持される情報とを含む。学習状態情報Lの情報は、電源オン及び電源オフに関係なく内容が保持される情報に相当する。さらに、学習状態情報Lの内容は、一旦、完了情報lcが書き込みされた後、消去して初期化不能とされている。学習状態情報Lの内容は、完了情報lcが一旦書き込みされた後、転舵制御部60又はメモリ60bが新品の別物に取り換えられる等されない限りは消去して初期化不能である。つまり、学習状態情報Lの内容は、完了情報lcが一旦書き込みされて市場出荷後、ディーラー等の整備工場であっても、消去して初期化不能である。また、学習状態情報Lの内容は、バッテリ交換によっても、消去して初期化されることなく保持される情報である。
【0042】
続いて、CPU60aは、完了情報lcが書き込みされている場合(ステップ104:YES)、ステップ106に移行して通常制御モードMnを設定する。通常制御モードMnは、運転者によって使用される環境のなかで、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵ユニット6を動作させるためのステアリング制御にかかる通常転舵処理を実行する状態である。この場合、転舵システムTSは、操舵ユニット4と協働して動作するように転舵ユニット6を動作させる。
【0043】
例えば、通常転舵処理は、転舵側回転角センサ43から入力する回転角θbと、ピニオン絶対角センサ45から入力するピニオン絶対回転角θabpと、メモリ60bに記憶された転舵用基準値θntとを参照する処理を含む。通常転舵処理は、回転角θb、ピニオン絶対回転角θabp、及び転舵用基準値θntからピニオン角θpを演算する処理を含む。通常転舵処理は、ローカルネットワーク49を介して入力する操舵情報Ssのうち、操舵角θsを参照する処理を含む。通常転舵処理は、操舵角θsに基づいて、ピニオン角θpの目標値である目標ピニオン角θp*を演算する処理を含む。目標ピニオン角θp*は、舵角比を考慮して操舵角θsに対応する値である。なお、舵角比とは、操舵角θsと、ピニオン角θpとの比のことであり、車速V等に応じて変化する。通常転舵処理は、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp*に追従するようにフィードバック制御を実行することにより、制御信号MStを演算する処理を含む。これにより、CPU60aは、反力システムRSによって制御される操舵角θsに対して、転舵角θiの位置関係が舵角比に応じて定める所定の対応関係となるように、転舵ユニット6の動作を制御する。
【0044】
一方、CPU60aは、完了情報lcが書き込みされていない場合(ステップ104:NO)、ステップ108に移行して設定モードMfを設定する。設定モードMfは、運転者によって使用されることのない環境のなかで、工場設備Feqからの指令信号CMDに応じて転舵ユニット6を動作させるための工場工程における設定作業にかかる工場転舵処理を実行する状態である。この場合、転舵システムTSは、操舵ユニット4が存在しないなかで単独動作するように転舵ユニット6を動作させる。工場転舵処理については、後で詳しく説明する。
【0045】
通常制御モードMn又は設定モードMfの設定中において、CPU60aは、起動スイッチ48がオフ状態にされて電源オフされた後(ステップ110)、停止処理を実行する(ステップ112)。その後、CPU60aは動作を停止する。ステップ112において、CPU60aは、起動スイッチ48が出力するIG信号Sgの入力の有無を判断する。停止処理は、メモリ60bに各種情報を書き込み等して、転舵システムTSを停止させるための処理を含む。
【0046】
本実施形態において、ステップ104、ステップ106、及びステップ108の処理は、設定モードMf又は通常制御モードMnを排他的に設定するためのモード設定処理の一例である。
【0047】
<工場工程における設定作業について>
図4は、市場出荷前の工場工程における転舵システムTSを示す。工場工程では、転舵システムTSの他、反力システムRSが存在していないとともに、転舵輪5が存在していない。その他、転舵システムTSは、バッテリ47及び起動スイッチ48等が存在していないとともに、車載ネットワーク8を介して車両用制御装置7との接続がされていない。これに対して、転舵システムTSは、反力システムRS等が存在していない代わりに、工場設備Feqが接続されている。工場設備Feqは、反力システムRS、起動スイッチ48、及び車両用制御装置7等を模擬するとともに、転舵システムTSの電力源になる。例えば、転舵制御部60におけるCPU60aは、電源オンを判断することができるとともに、イニシャルチェック処理において必要な情報として、工場設備Feqを介して操舵情報Ss及び車両情報Svcを入力することができる。これにより、CPU60aは、工場工程であっても、電源オン(ステップ100)、イニシャルチェック処理(ステップ102)、及び学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされているか否かの判断(ステップ104)の処理を実行することができる。
【0048】
<工場転舵処理について>
図5に示すように、CPU60aが実行する工場転舵処理は、保持動作及び規定動作にかかる処理を含む。工場設備Feqは、規定動作の動作を指示するための指令信号CMDを出力する。
【0049】
指令信号CMDは、例えば、指令信号CMD1、指令信号CMD2、及び指令信号CMD3の3種類を含む。3種類の指令信号CMD1,CMD2,CMD3は、ラック軸22の動作態様が互いに異なる規定動作を指示する。指令信号CMD1が指示するラック軸22の動作態様は、ラック軸22を左右の移動限界22l,22rまでそれぞれ移動させるエンド当ての態様である。指令信号CMD2が指示するラック軸22の動作態様は、ラック軸22をラック中立位置まで移動させる中点戻しの態様である。指令信号CMD3が指示するラック軸22の動作態様は、ラック軸22を一方向に少しずつ移動させる一方向移動の態様である。工場工程において、CPU60aは、指令信号CMDに基づいて、制御対象であるラック軸22の移動を制御すべく、転舵側モータ32の駆動を制御する。
【0050】
より詳しくは、設定モードMfの設定後、CPU60aは、まず転舵用基準値θntに、予め定めた初期基準値θnt0を、転舵用基準値θntの仮値としてメモリ60bに一時的に記憶する。続いて、CPU60aは、保持動作にかかる保持動作処理を実行する(ステップ202)。
【0051】
ステップ202における保持動作処理は、転舵側回転角センサ43から入力する回転角θbと、ピニオン絶対角センサ45から入力するピニオン絶対回転角θabpと、メモリ60bに記憶された初期基準値θnt0とを参照する処理を含む。保持動作処理は、回転角θb、ピニオン絶対回転角θabp、及び初期基準値θnt0から工場工程用制御角θfpを演算する処理を含む。保持動作処理は、工場工程用制御角θfpが、現在値を保持するようにフィードバック制御を実行することにより、制御信号MStを演算する処理を含む。これにより、CPU60aは、制御対象であるラック軸22の移動を規制すべく、転舵側モータ32の駆動を制御する。
【0052】
続いて、CPU60aは、指令信号CMDの入力を契機に、規定動作にかかる規定動作処理を実行する(ステップ204)。ステップ204における規定動作処理は、指令信号CMDに応じた処理を実行する。規定動作処理については、後で詳しく説明する。CPU60aは、規定動作処理の実行中、当該処理の実行中を示す旨を工場設備Feqに通知する処理を含む。工場設備Feqは、CPU60aから規定動作処理の実行中を示す旨が通知される間、ステップ204において指示した規定動作の際中であることを判断する。
【0053】
ステップ204において、CPU60aは、規定動作処理を開始してから規定時間に達しても、当該処理を完了することができない場合、当該処理を強制的に終了する処理を含む。CPU60aは、規定動作処理を強制的に終了する場合、当該処理を完了させることなく、強制終了を示す旨を工場設備Feqに通知する。その後、CPU60aは、保持動作処理、すなわちステップ202の処理を実行する。工場設備Feqは、CPU60aから強制終了を示す旨が通知される場合、ステップ204において指示した規定動作が完了しなかったことを判断する。
【0054】
一方、ステップ204において、CPU60aは、規定動作処理が完了する場合、当該処理の完了を示す旨を工場設備Feqに通知する処理を含む。工場設備Feqは、CPU60aから完了を示す旨が通知される場合、ステップ204において指示した規定動作が完了したことを判断する。その後、CPU60aは、保持動作処理、すなわちステップ202の処理を実行する。また、CPU60aは、電源オフされる場合に停止処理を実行する(ステップ112)。
【0055】
CPU60aは、工場転舵処理の処理開始時、及び、規定動作処理の完了後、保持動作処理、すなわちステップ202の処理を実行する。CPU60aは、規定動作が連続して指示されるなかで、規定動作の間に保持動作を介在させる。つまり、工場工程におけるラック軸22の規定動作は、保持動作を初期状態とする。
【0056】
なお、設定モードMfの設定後、CPU60aは、イニシャルチェック処理において、CPU60a及びメモリ60bが正常動作することができないことを判断している場合、その旨を工場設備Feqに通知する処理を含む。その後、CPU60aは、電源オフされる場合と同様、停止処理を実行する(ステップ112)。工場設備Feqは、CPU60aから正常動作することができない旨が通知される場合、指令信号CMDによって規定動作を指示しないようにする等のフェールを実施する。
【0057】
<学習動作の処理手順について>
図6は、指令信号CMD1に基づいて、エンド当ての態様が指示される場合の規定動作処理の処理手順の一例を示す。当該規定動作処理において、CPU60aは、エンド当ての態様でラック軸22を動作させることによって、ラック中立位置に対応する転舵用基準値θntを設定する。本実施形態において、エンド当ての態様でラック軸22を動作させることは、転舵用基準値θntを設定するための学習動作である。
【0058】
同図に示すように、学習動作での規定動作が指示される場合、CPU60aは、ラック軸22を左右一方の第1の方向である右方へ移動させる(ステップ302)。ステップ302において、CPU60aは、ラック軸22を右方へ自動的に移動させるための制御信号MStを演算する。例えば、CPU60aは、工場工程用制御角θfpを目標角θfp*に追従させるようにフィードバック制御を実行することにより、制御信号MStを演算する処理を含む。目標角θfp*は、ステップ302の処理時における工場工程用制御角θfpの値に対して、ラック軸22の全移動範囲の設計値の絶対値を加算して得られる値である。
【0059】
続いて、CPU60aは、ラック軸22が右方の移動限界22rに達したか否かを判断する(ステップ304)。ステップ304において、CPU60aは、例えば、電流iu2,iv2,iw2及び工場工程用制御角θfpの変化量である角速度ωfpを監視する。
【0060】
CPU60aは、電流iu2,iv2,iw2をラック軸22の軸力に換算して得られるラック軸力Rtの絶対値が、軸力閾値Rthを超えないなかで所定範囲まで近付いたか否かを判断する処理を含む。ラック軸力Rtの絶対値が、軸力閾値Rthを超えないなかで所定範囲まで近付いたか否かを判断することは、エンド当てによって、転舵側モータ32の負荷が増大しているか否かを判断することに相当する。例えば、軸力閾値Rthは、エンド当ての衝撃によるダメージが小さいとして実験的に求められる範囲の値である。なお、軸力閾値Rthは、転舵輪5が存在しない状態を想定して得られる範囲の値であって、市場出荷後である転舵輪5が存在する状態を想定する場合と比較して小さい値である。
【0061】
CPU60aは、角速度ωfpの絶対値が、角速度閾値ωth未満であるか否かを判断する処理を含む。例えば、角速度閾値ωthは、ラック軸22が移動していないとして実験的に求められる範囲の値である。角速度ωfpの絶対値が、角速度閾値ωth未満であるか否かを判断することは、エンド当てによって、ラック軸22が停止しているか否かを判断することに相当する。
【0062】
CPU60aは、電流iu2,iv2,iw2に基づき転舵側モータ32の負荷が増大していることと、角速度ωfpの絶対値に基づきラック軸22が停止していることとを判断する場合、ラック軸22が右方の移動限界22rに達したことを判断する処理を含む。
【0063】
続いて、CPU60aは、ラック軸22が右方の移動限界22rに達していないことを判断する場合(ステップ304:NO)、ステップ302及びステップ304の処理を繰り返し実行する。一方、CPU60aは、ラック軸22が右方の移動限界22rに達したことを判断する場合(ステップ304:YES)、右限界位置θrlを一時的に記憶する(ステップ306)。ステップ306において、CPU60aは、右方の移動限界22rに達したことの判断時のピニオン絶対回転角θabpを右限界位置θrlとして一時的に記憶する。
【0064】
続いて、CPU60aは、ラック軸22を右方の他方である第2の方向である左方へ移動させる(ステップ308)。ステップ308において、CPU60aは、ラック軸22を左方へ自動的に移動させるための制御信号MStを演算する。例えば、CPU60aは、ステップ302の処理と同様、工場工程用制御角θfpを目標角θfp*に追従させるようにフィードバック制御を実行することにより、制御信号MStを演算する処理を含む。目標角θfp*は、ステップ308の処理時における工場工程用制御角θfpの値に対して、ラック軸22の全移動範囲の設計値の絶対値を減算して得られる値である。
【0065】
続いて、CPU60aは、ラック軸22が左方の移動限界22lに達したか否かを判断する(ステップ310)。ステップ310において、CPU60aは、ステップ304の処理と同様、例えば、電流iu2,iv2,iw2及び工場工程用制御角θfpの変化量である角速度ωfpを監視する。
【0066】
続いて、CPU60aは、ラック軸22が左方の移動限界22lに達していないことを判断する場合(ステップ310:NO)、ステップ308及びステップ310の処理を繰り返し実行する。一方、CPU60aは、ラック軸22が左方の移動限界22lに達したことを判断する場合(ステップ310:YES)、左限界位置θllを一時的に記憶する(ステップ312)。ステップ312において、CPU60aは、左方の移動限界22lに達したことの判断時のピニオン絶対回転角θabpを左限界位置θllとして一時的に記憶する。
【0067】
続いて、CPU60aは、中点値θcを演算する(ステップ314)。ステップ314において、CPU60aは、ステップ306で一時的に記憶した右限界位置θrl、及び、ステップ312で一時的に記憶した左限界位置θllの和の2分の1に対応する値を中点値θcとして演算する。これは、右限界位置θrlから左限界位置θllの差の2分の1に対応する値を、左限界位置θllに加算することでもある。中点値θcと右限界位置θrlとの差分の絶対値と、中点値θcと左限界位置θllとの差分の絶対値とは、互いに等しくなる。
【0068】
続いて、CPU60aは、中点値θcの妥当性を判断する(ステップ316)。ステップ316において、CPU60aは、ステップ314において得られた中点値θcが予め定めた所定範囲内の値であるか否かを判断する。CPU60aは、中点値θcが、下側閾値θcth1よりも大きい、かつ、上側閾値θcth2未満であるか否かを判断する処理を含む。例えば、下側閾値θcth1及び上側閾値θcth2は、ピニオン絶対回転角θabpについて、ラック中立位置の設計値であることを判断できるとして公差を加味して得られる範囲の値が設定されている。
【0069】
続いて、CPU60aは、中点値θcが妥当でないことを判断する場合(ステップ316:NO)、ステップ302以後の処理を繰り返し実行する。一方、CPU60aは、中点値θcが妥当であることを判断する場合(ステップ316:YES)、中点値θcを転舵用基準値θntに設定し(ステップ318)、当該処理を終了して他の処理に移行する。ステップ318において、CPU60aは、転舵用基準値θntに中点値θcを書き込みするとともに、学習状態情報Lの内容に完了情報lcを書き込みする。ステップ318のタイミングで、CPU60aは、学習動作の完了を示す旨の情報を工場設備Feqに出力する(ステップ204)。こうして得られた転舵用基準値θntは、ラック中立位置に対応する値である。
【0070】
<中点戻し動作の処理手順について>
図7は、指令信号CMD2に基づいて、中点戻しの態様が指示される場合の規定動作処理の処理手順の一例を示す。当該処理において、CPU60aは、中点戻しの態様でラック軸22を動作させることによって、ラック軸22をラック中立位置まで移動させる。本実施形態において、中点戻しの態様でラック軸22を動作させることは、中点戻し動作である。
【0071】
同図に示すように、中点戻し動作での規定動作が指示される場合、CPU60aは、ラック軸22をラック中立位置へ移動させる(ステップ402)。ステップ402において、CPU60aは、ラック軸22を転舵用基準値θntに対応する位置へ自動的に移動させるための制御信号MStを演算する。例えば、CPU60aは、工場工程用制御角θfpを転舵用基準値θntに対応する値に追従させるようにフィードバック制御を実行することにより、制御信号MStを演算する処理を含む。転舵用基準値θntは、ステップ318の処理前であれば初期基準値θnt0であるとともに、ステップ318の処理後であれば当該ステップ318で設定した中点値θcである。
【0072】
続いて、CPU60aは、ラック軸22がラック中立位置に達したか否かを判断する(ステップ404)。ステップ404において、CPU60aは、工場工程用制御角θfpが転舵用基準値θntに対応する値に一致したか否かを監視する。CPU60aは、工場工程用制御角θfpが転舵用基準値θntに対応する値に一致したことを判断する場合、ラック軸22がラック中立位置に達したことを判断する処理を含む。
【0073】
続いて、CPU60aは、ラック軸22がラック中立位置に達していないことを判断する場合(ステップ404:NO)、ステップ402及びステップ404の処理を繰り返し実行する。一方、CPU60aは、ラック軸22がラック中立位置に達したことを判断する場合(ステップ404:YES)、当該処理を終了して他の処理に移行する。ステップ404のタイミングで、CPU60aは、中点戻し動作の完了を示す旨の情報を工場設備Feqに出力する(ステップ204)。
【0074】
<一方向動作の処理手順について>
図8は、指令信号CMD3に基づいて、一方向移動の態様が指示される場合の規定動作処理の処理手順の一例を示す。当該処理において、CPU60aは、一方向移動の態様でラック軸22を動作させることによって、ラック軸22を所定量だけ移動させる。本実施形態において、一方向移動の態様でラック軸22を動作させることは、一方向動作である。
【0075】
同図に示すように、一方向動作での規定動作が指示される場合、CPU60aは、ラック軸22を所定量だけ移動させる(ステップ502)。ステップ502において、CPU60aは、ラック軸22を指令信号CMD3に指示される左右方向のいずれかへ自動的に移動させるための制御信号MStを演算する。例えば、CPU60aは、工場工程用制御角θfpを右方向及び左方向のいずれかに所定角度だけ変化させる値に追従させるようにフィードバック制御を実行することにより、制御信号MStを演算する処理を含む。所定角度は、予め定められた固定値であってもよいし、指令信号CMD3によって指示可能な変数値であってもよい。
【0076】
続いて、CPU60aは、ラック軸22が所定量だけ移動したか否かを判断する(ステップ504)。ステップ504において、CPU60aは、工場工程用制御角θfpがステップ502において指示された所定角度だけ変化させる値に一致したか否かを監視する。CPU60aは、工場工程用制御角θfpがステップ502において指示された所定角度だけ変化させる値に一致したことを判断する場合、ラック軸22が所定量だけ移動したことを判断する処理を含む。
【0077】
続いて、CPU60aは、ラック軸22が所定量だけ移動していないことを判断する場合(ステップ504:NO)、ステップ502及びステップ504の処理を繰り返し実行する。一方、CPU60aは、ラック軸22が所定量だけ移動したことを判断する場合(ステップ504:YES)、当該処理を終了して他の処理に移行する。ステップ504のタイミングで、CPU60aは、一方向動作の完了を示す旨の情報を工場設備Feqに出力する(ステップ204)。
【0078】
<工場転舵処理における動作について>
例えば、図9は、学習動作及び中点戻し動作させる場合における工場工程用制御角θfpの変化態様の一例を示す。
【0079】
学習動作が開始される場合、ラック軸22は、保持状態である保持位置から右方へ自動的に移動し始める。時間t1までの間、工場工程用制御角θfpは、保持位置に対応する開始角θfp0から右方の移動限界22rに対応する対応角θfp1に向かって、増加側(図中「θfp(+)」)に変化する。
【0080】
ラック軸22は、右方の移動限界22rに達する場合、自動的に移動が停止する。これは、ラック軸22が右方の移動限界22rに達することによって、電流iu2,iv2,iw2に基づき転舵側モータ32の負荷が増大していることと、角速度ωfpの絶対値に基づきラック軸22が停止していることとが判断されるからである。この場合、工場工程用制御角θfpは、対応角θfp1になってそれ以後変化しなくなる。その時のピニオン絶対回転角θabpが右限界位置θrlとして一時的に記憶される。
【0081】
続いて、ラック軸22は、右方の移動限界22rから左方へ自動的に移動し始める。時間t2までの間、工場工程用制御角θfpは、対応角θfp1から左方の移動限界22lに対応する対応角θfp2に向かって、減少側(図中「θfp(-)」)に変化する。
【0082】
ラック軸22は、左方の移動限界22lに達する場合、自動的に移動が停止する。これは、ラック軸22が左方の移動限界22lに達することによって、電流iu2,iv2,iw2に基づき転舵側モータ32の負荷が増大していることと、角速度ωfpの絶対値に基づきラック軸22が停止していることとが判断されるからである。この場合、工場工程用制御角θfpは、対応角θfp2になってそれ以後変化しなくなる。その時のピニオン絶対回転角θabpが左限界位置θllとして一時的に記憶される。これと合わせて、転舵用基準値θnt及び完了情報lcがメモリ60bに書き込みされることによって、学習動作が終了する。その後、ラック軸22は、左方の移動限界22lにおいて保持状態とされる。
【0083】
続いて、中点戻し動作が開始される場合、ラック軸22は、保持状態である左方の移動限界22lから右方へ自動的に移動し始める。時間t3までの間、工場工程用制御角θfpは、対応角θfp2から転舵用基準値θntに対応する値(図中「0」)に向かって、増加側(図中「θfp(+)」)に変化する。
【0084】
ラック軸22は、転舵用基準値θntに対応する位置、すなわちラック中立位置(図中「N」)に達する場合、自動的に移動が停止する。これは、工場工程用制御角θfpが転舵用基準値θntに対応する値に一致することが判断されるからである。この場合、工場工程用制御角θfpは、転舵用基準値θntに対応する値になってそれ以後変化しなくなることによって、中点戻し動作が終了する。その後、ラック軸22は、ラック中立位置において保持状態とされる。
【0085】
続いて、別の規定動作が開始する場合、ラック軸22は、保持状態であるラック中立位置から自動的に移動し始める。例えば、図10は、一方向動作させる場合における工場工程用制御角θfpの変化態様の一例を示す。この場合、指令信号CMD3は、左方向に所定角度(図中「θfp3」)だけ変化させることを示す。
【0086】
一方向動作が開始される場合、ラック軸22は、保持状態であるラック中立位置から左方へ自動的に移動し始める。時間t4までの間、工場工程用制御角θfpは、ラック中立位置(図中「0」)から左方に向かって、減少側(図中「θfp(-)」)に所定角度だけ変化する。
【0087】
ラック軸22は、左方に所定量だけ移動した場合、自動的に移動が停止する。これは、工場工程用制御角θfpが左方に所定角度だけ変化させる値に一致したことが判断されるからである。この場合、工場工程用制御角θfpは、左方に所定角度だけ変化させた値になってそれ以後変化しなくなることによって、一方向動作が終了する。その後、ラック軸22は、左方に所定量だけ移動した位置において保持状態とされる。
【0088】
<本実施形態の作用>
本実施形態によれば、転舵システムTSは、学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされた状態での工場出荷後、反力システムRS及び転舵輪5が組み付けられる。こうして車両用操舵システム2に適用された転舵システムTSでは、市場出荷後、学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされた状態を保持することによって、電源オン及び電源オフを繰り返しても、通常制御モードMnのみが設定されることになる。すなわち、転舵システムTSでは、市場出荷後、学習状態情報Lの内容に完了情報lcが書き込みされた状態を保持することによって、電源オン及び電源オフを繰り返しても、設定モードMfが設定されることがなくなる。
【0089】
つまり、設定モードMf及び通常制御モードMnにおいて、転舵ユニット6にそれぞれの状況に応じた動作をさせることができるようになる。これにより、転舵制御部60におけるCPU60aは、設定モードMfでは市場出荷前における工場工程での作業を想定した制御を実行するとともに、通常制御モードMnでは工場工程を経た後、市場出荷後での使用を想定した制御を実行することができる。つまり、設定モードMf又は通常制御モードMnが、状況に応じて排他的に設定されるようになる。
【0090】
<本実施形態の効果>
(1-1)CPU60aは、設定モードMf又は通常制御モードMnを排他的に設定することができるようにしている。こうした設定モードMf又は通常制御モードMnが、状況に応じて排他的に設定されるので、工場工程において設定作業に携わる作業者の混乱が抑えられる。したがって、市場出荷前の工場工程での設定作業を好適に実施することができる。
【0091】
(1-2)工場転舵処理は、転舵側モータ32の駆動を通じてラック軸22を、学習動作させることによって、転舵用基準値θntをメモリ60bに設定する処理を含むようにしている。これにより、市場出荷前の工場工程の設定作業のなかでも、ラック軸22を動作させて実施する設定作業に適した転舵システムTSを提案することができる。
【0092】
(1-3)工場転舵処理は、学習動作させるなかで、各限界位置θrl,θllを取得する処理と、転舵用基準値θntを設定する処理とを含むようにしている。これにより、ラック軸22を動作させて実施する設定作業のなかでも、転舵用基準値θntを設定するための設定作業に特化することができる。
【0093】
(1-4)工場転舵処理は、学習動作を通じて転舵用基準値θntをメモリ60bに設定したことを条件に、転舵用基準値θntの設定完了を示す完了情報lcをメモリ60bに設定する処理を含むようにしている。これにより、転舵制御部60におけるCPU60aは、完了情報lcに基づいて、設定モードMf又は通常制御モードMnを排他的に設定することができるとともに、こうした設定を自動的に行うことができる。これは、例えば、市場出荷前の工場工程の自動化を図るのに効果的である。
【0094】
(1-5)工場転舵処理は、処理開始時、及び、規定動作の完了毎に、ラック軸22を保持する保持動作させる処理を含むようにしている。これにより、例えば、市場出荷前の工場工程において、外部から衝撃が加えられる等して、ラック軸22がずれることを抑制することができる。これにより、工場工程における作業効率を向上させることができる。
【0095】
(1-6)市場出荷前の工場工程において、CPU60aは、指示された規定動作にかかる規定動作処理の状況を工場設備Feqに通知するようにしている。これにより、工場設備Feqは、CPU60aに規定動作を指示するなかで、転舵システムTSの状況を把握することができる。したがって、工場設備Feqと転舵システムTSとの好適な連携を図ることができる。
【0096】
<他の実施形態>
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0097】
・工場転舵処理は、保持動作させる処理をなくしてもよい。その他、工場転舵処理は、処理開始時にのみ保持動作させる等、所定のタイミングでのみ保持動作させるようにしてもよい。
【0098】
・工場転舵処理は、中点戻し動作させる処理をなくてもよい。その他、工場転舵処理は、電源オフされる場合の停止処理時にのみ中点戻し動作させる等、所定のタイミングでのみ中点戻し動作させるようにしてもよい。
【0099】
・工場転舵処理は、一方向動作させる処理をなくてもよい。その他、工場転舵処理は、学習動作にかかる処理中に、中点値θcが妥当でないことが判断される場合の調整動作として一方向動作させるようにしてもよい。
【0100】
・学習状態情報Lの内容は、完了情報lcの代わりに、未完了情報lnが書き込みされるようにしてもよい。この場合、学習状態情報Lの内容は、未完了情報lnが書き込みされた状態を初期状態として、学習動作の完了に伴って、未完了情報lnが消去されるようにすればよい。これと合わせて、ステップ102におけるイニシャルチェック処理の完了後、CPU60aは、学習状態情報Lの内容に未完了情報lnが書き込みされている場合、設定モードMfを設定するようにすればよい。つまり、ステップ102におけるイニシャルチェック処理の完了後、CPU60aは、学習状態情報Lの内容に未完了情報lnが書き込みされていない場合、通常制御モードMnを設定するようにすればよい。
【0101】
・設定モードMf又は通常制御モードMnを排他的に設定するための実現方法は、適宜変更可能である。例えば、設定モードMf及び通常制御モードMnは、転舵輪5又は反力システムRSが存在するか否かに基づいて、いずれかが設定されるようにしてもよい。この場合、設定モードMfは、転舵輪5又は反力システムRSが存在しないことを条件として、設定されるようにすればよい。つまり、通常制御モードMnは、転舵輪5又は反力システムRSが存在することを条件として、設定されるようにすればよい。ここに記載した他の実施形態では、学習状態情報Lに関わる構成をなくすことができる。
【0102】
・保持動作処理は、工場設備Feqから指令信号CMDによって保持動作が指示されることによって実行する処理であってもよい。
・学習動作にかかる処理は、先に左方へラック軸22を移動させるとともに、その後に右方へラック軸22を移動させる処理であってもよい。この場合、図6の処理は、ステップ302、304、306の処理よりも先に、ステップ308、310、312の処理を実行する構成であればよい。
【0103】
・学習動作にかかる処理は、各限界位置θrl,θllのいずれかを一時的に記憶する処理を含んでいればよい。つまり、学習動作にかかる処理は、各限界位置θrl,θllのいずれかを一時的に記憶する処理をなくしてもよい。例えば、右限界位置θrlを一時的に記憶する処理を含む場合、CPU60aは、右限界位置θrlからラック軸22の全移動範囲の設計値の2分の1を減算して得られる値を中点値θcとして演算するようにしてもよい。
【0104】
・学習動作にかかる処理は、中点値θcの妥当性を判断する処理をなくしてもよい。この場合、CPU60aは、ステップ314において得られた中点値θcを転舵用基準値θntに設定するようにすればよい。
【0105】
・学習動作にかかる処理において、ラック軸22が各移動限界22l,22rに達したか否かを判断する処理は、電流iu2,iv2,iw2の絶対値が、電流閾値ith以上であるか否かを判断する処理であってもよい。例えば、電流閾値ithは、エンド当てによって、転舵側モータ32の負荷が十分に増大しているとして実験的に求められる範囲の値であればよい。
【0106】
・学習動作にかかる処理において、ラック軸22が各移動限界22l,22rに達したか否かを判断する処理は、電流iu2,iv2,iw2及び工場工程用制御角θfpの変化量である角速度ωfpのいずれかのみを監視する処理であってもよい。
【0107】
・学習動作にかかる処理において、ラック軸22が各移動限界22l,22rに達したか否かを判断する処理は、電流iu2,iv2,iw2及び工場工程用制御角θfpの変化量である角速度ωfpに加えて、他のパラメータを加味してもよい。例えば、他のパラメータは、電流iu2,iv2,iw2の変化量、角速度ωfpの変化量、及びラック軸22が移動を開始してからの時間等が考えられる。
【0108】
・工場転舵処理は、工場工程用制御角θfpの現在値を転舵用基準値θntに設定するように、工場工程における作業者が手動設定できる処理を含んでいてもよい。この場合、工場工程における作業者は、一方向動作を繰り返すなかで、任意のタイミングで、工場工程用制御角θfpの現在値を転舵用基準値θntに設定することができるようになる。
【0109】
・工場工程では、転舵システムTSの他、反力システムRS又は転舵輪5が存在していてもよい。つまり、設定モードMfは、反力システムRS又は転舵輪5が存在していても設定可能であってもよい。
【0110】
・ピニオン角θpは、ラック軸22の移動量の検出値を換算して得られるようにしてもよい。この場合、ピニオン角θpに関する制御量等は、ラック軸22の移動量の検出値によって換算されることになる。
【0111】
・ステアリングホイール3の変位量としては、回転角θaの積算処理に基づき算出された量に限らない。例えば、ステアリング軸11の回転角を直接的に検出する舵角センサの検出値であってもよい。なお、舵角センサは、例えば、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3とトルクセンサ41との間に設けてもよい。
【0112】
・運転者が車両を操舵するために操作する操作部材としては、ステアリングホイール3に限らない。例えば、ジョイスティックであってもよい。
・転舵側モータ32は、3相のブラシレスモータに限らない。例えば、ブラシ付きの直流モータであってもよい。ここに記載した他の実施形態は、操舵側モータ13に対しても同様に適用することができる。
【0113】
・転舵ユニット6は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達したが、これに限らず、例えば、転舵側モータ32の回転を歯車機構を介して変換機構34に伝達するように転舵ユニット6を構成してもよい。また、転舵側モータ32が変換機構34を直接回転させるように転舵ユニット6を構成してもよい。さらに、転舵ユニット6が第2のラックアンドピニオン機構を備える構成とし、転舵側モータ32の回転を第2のラックアンドピニオン機構にてラック軸22の往復動に変換するように転舵ユニット6を構成してもよい。
【0114】
・転舵ユニット6としては、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とが連動している構成に限らない。換言すれば、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とを独立に制御できるものであってもよい。
【0115】
・上記実施形態は、車両用操舵システム2を、操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、例えば、クラッチにより操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0116】
TS…転舵システム
2…車両用操舵システム
4…操舵ユニット
5…転舵輪
6…転舵ユニット
22…ラック軸
22l,22r…移動限界
60…転舵制御部
60a…CPU(制御部)
60b…メモリ(記憶部)
32…転舵側モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10