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特開2024-16870劣化度判定システム、学習装置、判定装置、及び、劣化度判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016870
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】劣化度判定システム、学習装置、判定装置、及び、劣化度判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240201BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119136
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599041606
【氏名又は名称】三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太中 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】脇本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】倉原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】回転機に対する劣化の種類に応じて、劣化度を判定可能とする。
【解決手段】学習装置1は、回転機における劣化の種類毎に設けられたモデル構築部13を備え、モデル構築部13は、回転機における振動振幅値に対する複数の基準値毎に、学習用データが示す振動加速度値の正規化を行う正規化部131と、正規化部131による正規化後の振動加速度値に基づき、複数の閾値を計算することでモデルを得る計算部132とを有し、判定装置3は、振動加速度値を周波数領域に変換する前処理部31と、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づき、劣化の種類を判別する劣化種類判別部32と、劣化種類判別部32による判別結果に基づき、学習装置1により作成されたモデルの中からモデルを選択するモデル選択部33と、前処理部31による変換後の振動加速度値、及び、モデル選択部33により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定する劣化度判定部34とを備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
学習装置、及び、判定装置を備え、
前記学習装置は、
回転機における劣化の種類毎に設けられ、対応する種類の劣化に対する回転機の劣化度を判定するためのモデルを構築するモデル構築部を備え、
前記モデル構築部は、
回転機における振動振幅値に対する複数の基準値、並びに、回転機における正常状態及び対応する種類の劣化状態での振動加速度値を示すデータを含む学習用データに基づき、当該基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う学習用正規化部と、
前記学習用正規化部による正規化後の振動加速度値に基づき、複数の閾値を計算することでモデルを得る計算部とを有し、
前記判定装置は、
回転機における振動加速度値を周波数領域に変換する前処理部と、
前記前処理部による変換後の振動加速度値に基づき、劣化の種類を判別する劣化種類判別部と、
前記劣化種類判別部による判別結果に基づき、前記学習装置により作成されたモデルの中からモデルを選択するモデル選択部と、
前記前処理部による変換後の振動加速度値、及び、前記モデル選択部により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定する劣化度判定部とを備えた
ことを特徴とする劣化度判定システム。
【請求項2】
前記劣化度判定部は、
前記前処理部による変換後の振動加速度値に基づき、周波数に起因する特徴量を計算する判定用特徴量計算部と、
前記判定用特徴量計算部による計算結果、及び、前記モデル選択部により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定する判定部とを有する
ことを特徴とする請求項1記載の劣化度判定システム。
【請求項3】
前記前処理部は、
回転機における振動振幅値に対する複数の基準値、及び、回転機における振動加速度値に基づき、当該基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う判定用正規化部と、
前記判定用正規化部による正規化後の振動加速度値を、周波数領域に変換する周波数領域変換部とを有する
ことを特徴とする請求項1記載の劣化度判定システム。
【請求項4】
前記劣化種類判別部は、パターンマッチによる方法を用いて、劣化の種類を判別する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの何れか1項記載の劣化度判定システム。
【請求項5】
前記劣化種類判別部は、ユーザによる選択に基づいて、劣化の種類を判別する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの何れか1項記載の劣化度判定システム。
【請求項6】
回転機における劣化の種類毎に設けられ、対応する種類の劣化に対する回転機の劣化度を判定するためのモデルを構築するモデル構築部を備え、
前記モデル構築部は、
回転機における振動振幅値に対する複数の基準値、並びに、回転機における正常状態及び対応する種類の劣化状態での振動加速度値を示すデータを含む学習用データに基づき、当該基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う学習用正規化部と、
前記学習用正規化部による正規化後の振動加速度値に基づき、複数の閾値を計算することでモデルを得る計算部とを有する
ことを特徴とする学習装置。
【請求項7】
回転機における振動加速度値を周波数領域に変換する前処理部と、
前記前処理部による変換後の振動加速度値に基づき、劣化の種類を判別する劣化種類判別部と、
前記劣化種類判別部による判別結果に基づき、回転機における劣化の種類毎に作成されたモデルであって、回転機における振動振幅値に対する複数の基準値毎に正規化された振動加速度値に基づき計算された複数の閾値を含むモデル、の中からモデルを選択するモデル選択部と、
前記前処理部による変換後の振動加速度値、及び、前記モデル選択部により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定する劣化度判定部と
を備えた判定装置。
【請求項8】
学習装置、及び、判定装置を備えた劣化度判定システムによる劣化度判定方法であって、
前記学習装置は、
モデル構築部が、回転機における劣化の種類毎に設けられ、対応する種類の劣化に対する回転機の劣化度を判定するためのモデルを構築するステップを有し、
前記モデル構築部は、
学習用正規化部が、回転機における振動振幅値に対する複数の基準値、並びに、回転機における正常状態及び対応する種類の劣化状態での振動加速度値を示すデータを含む学習用データに基づき、当該基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行うステップと、
計算部が、前記学習用正規化部による正規化後の振動加速度値に基づき、複数の閾値を計算することでモデルを得るステップとを有し、
前記判定装置は、
前処理部が、回転機における振動加速度値を周波数領域に変換するステップと、
劣化種類判別部が、前記前処理部による変換後の振動加速度値に基づき、劣化の種類を判別するステップと、
モデル選択部が、前記劣化種類判別部による判別結果に基づき、前記学習装置により作成されたモデルの中からモデルを選択するステップと、
劣化度判定部が、前記前処理部による変換後の振動加速度値、及び、前記モデル選択部により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定するステップとを有する
ことを特徴とする劣化度判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機の劣化度を判定する劣化度判定システム、学習装置、判定装置、及び、劣化度判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、設備に対する保全及び保守の概念の一つとして、CBM(Condition Based Maintenance)が知られている。このCBMは、状況基準保全を指し、対象設備の状態を監視して必要に応じて保全を行うことを指す。このCBMは、部品交換及び故障発生数が少なくて済む一方、対象設備の状況を知るために初期コストがかかる。
【0003】
一方、高圧電動機は、発電プラント又は化学プラント等の工場で稼働する重要な電気機器である。この高圧電動機に予期せぬ故障が生じると、工場全体に影響が及ぶ。そのため、この高圧電動機のような回転機ではメンテナンスが必要であり、従来から回転機に対する劣化診断又は精密診断が行われている(例えば特許文献1参照)。
なお、劣化診断は、劣化度を判定するための診断である。劣化度は、劣化の進行度である。また、精密診断は、劣化の種類を判定するための診断である。
【0004】
なお、電動機は、機種、大きさ、及び、定格回転速度等によって、多岐にわたる種類が存在している。
高圧電動機は、交流電圧が600V以上且つ7000V以下で駆動する電動機を指す。また、電動機のうち、出力が約40kW~約1400kWの電動機は中型の電動機に分類され、出力が約1400kW以上である電動機は大型の電動機に分類される。また、一般電力、産業分野で使用される電動機においては、4極、6極又は8極が一般的に多く使われている。
【0005】
そして、高圧電動機に対する劣化診断は、例えば、高圧電動機における振動振幅値を用いて実施されている。より具体的には、高圧電動機に対する劣化診断は、高圧電動機における振動振幅値を、振動振幅値に対する基準値と比較することで、実施されている。なお、振動振幅値は、振動の変位である。また、振動振幅値に対する基準値としては、例えば、現地目標値、アラーム値、及び、トリップ値といった3段階の基準値が設定される場合がある。
【0006】
また、高圧電動機に対する精密診断は、例えば、高圧電動機における振動加速度値を用いて実施されている。なお、振動加速度値は、振動振幅値の微分値である。また、高圧電動機の故障箇所又は劣化の要因を特定する精密診断では、故障モード毎の明確な基準値は用いられていない。
以下、この精密診断について説明する。
【0007】
高圧電動機には、様々な劣化が想定される。具体的には、電動機巻線を含む電気的な劣化と、内外輪傷等の軸受損傷、ミスアライメント、及び、回転子アンバランス等を含む機械的な劣化とが挙げられる。そして、高圧電動機では、劣化の仕方によって、スペクトルのパターンが異なることが知られている。すなわち、高圧電動機では、劣化に応じて着目すべきスペクトルの軸及び周波数が存在する。そこで、従来の高圧電動機に対する精密診断では、高圧電動機における振動加速度値に対してFFT(高速フーリエ変換)を実施することで周波数領域に変換し、その変換結果であるデータを用いて精密診断を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/217069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来、高圧電動機に対し、振動振幅値を用いた劣化診断が行われている。
【0010】
一方、高圧電動機では、様々な劣化の種類が想定される。なお、劣化の種類としては、上記でも示したように、電動機巻線を含む電気的な劣化と、内外輪傷等の軸受損傷、ミスアライメント、及び、回転子アンバランス等を含む機械的な劣化とが挙げられる。
また、一般的に定期メンテナンスを行なっている高圧電動機では、運転中の振動は管理値内であることが殆どであるが、傾向管理の観点においては、その中で、要注意レベルか、注意レベルか、正常レベルかの判定が必要となる。すなわち、高圧電動機に対する劣化検知では、異常又は正常の2値判定ではなく、どんな劣化に対してどの程度の劣化具合となっているのかといった劣化度の判定が重要である。
このように、高圧電動機に対しては、劣化の種類毎に的確に劣化度を判定する必要がある。
【0011】
しかしながら、従来の振動振幅値を用いた劣化診断では、劣化の種類に応じた劣化度を適切に判定できない。
すなわち、従来の振動振幅値を用いた劣化診断では、劣化の種類毎に基準値を設定しているのではなく、劣化の種類に依存しない基準値を用いて振動振幅値との比較を行い、劣化度を判定している。一方、劣化の種類によって、振動振幅値が上がりやすい事象もあれば、振動振幅値が上がりにくい事象もある。そのため、従来の振動振幅値を用いた劣化診断だけでは、劣化の種類によっては異常な状態を見逃す可能性がある。
【0012】
例えば図19では、符号191に示されるような振動振幅値に対する基準値が用いられていたとする。一方、第1の種類の劣化では符号192に示されるような振動振幅値に対する基準値を用いることが適切であり、第2の種類の劣化では符号193に示されるような振動振幅値に対する基準値を用いることが適切であるとする。そして、この場合において、実際の高圧電動機における振動振幅値が符号194に示す値であったとする。
この場合、従来の振動振幅値を用いた劣化診断では、符号194に示す実際の高圧電動機における振動振幅値が、符号191に示す振動振幅値に対する基準値を上回っているため、劣化が生じていると判定する。
ここで、この劣化が第1の種類の劣化である場合には、符号194に示す実際の高圧電動機における振動振幅値が、符号192に示す振動振幅値に対する基準値を上回っているため、上記と同一の判定結果が得られる。一方で、この劣化が第2の種類の劣化である場合には、符号194に示す実際の高圧電動機における振動振幅値が、符号193に示す振動振幅値に対する基準値を下回っているため、上記とは異なる判定結果が得られる。すなわち、この劣化が第2の種類の劣化である場合には、従来の振動振幅値を用いた劣化診断では、誤判定となってしまう。
このように、従来の振動振幅値を用いた劣化診断では、劣化の種類によって誤判定となる可能性がある。
【0013】
また、上記のような劣化検知における課題は、劣化度の判定対象が高圧電動機である場合に限らず、劣化度の判定対象がその他の回転機である場合についても同様に存在する。
【0014】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、回転機に対する劣化の種類に応じて、劣化度を判定可能となる劣化度判定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示に係る劣化度判定システムは、学習装置、及び、判定装置を備え、学習装置は、回転機における劣化の種類毎に設けられ、対応する種類の劣化に対する回転機の劣化度を判定するためのモデルを構築するモデル構築部を備え、モデル構築部は、回転機における振動振幅値に対する複数の基準値、並びに、回転機における正常状態及び対応する種類の劣化状態での振動加速度値を示すデータを含む学習用データに基づき、当該基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う学習用正規化部と、学習用正規化部による正規化後の振動加速度値に基づき、複数の閾値を計算することでモデルを得る計算部とを有し、判定装置は、回転機における振動加速度値を周波数領域に変換する前処理部と、前処理部による変換後の振動加速度値に基づき、劣化の種類を判別する劣化種類判別部と、劣化種類判別部による判別結果に基づき、学習装置により作成されたモデルの中からモデルを選択するモデル選択部と、前処理部による変換後の振動加速度値、及び、モデル選択部により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定する劣化度判定部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、上記のように構成したので、回転機に対する劣化の種類に応じて、劣化度を判定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1に係る劣化度判定システムの構成例を示す図である。
図2】実施の形態1に係る学習装置の構成例を示す図である。
図3】実施の形態1におけるモデル構築部の構成例を示す図である。
図4】実施の形態1に係る判定装置の構成例を示す図である。
図5】実施の形態1における前処理部の構成例を示す図である。
図6】実施の形態1における劣化度判定部の構成例を示す図である。
図7】実施の形態1に係る劣化度判定システムの動作例を示すフローチャートである。
図8】実施の形態1に係る学習装置の動作例を示すフローチャートである。
図9】実施の形態1に係る学習装置で用いられる振動振幅値に対する基準値、及び、学習用データの一例を示す図である。
図10】実施の形態1における特徴量計算部の動作例を説明する図である。
図11】実施の形態1における閾値計算部の動作例を説明する図である。
図12】実施の形態1における閾値計算部の動作例を説明する図である。
図13】実施の形態1に係る判定装置の動作例を示すフローチャートである。
図14】実施の形態1における前処理部の動作例を説明する図である。
図15】実施の形態1における判定部の動作例を説明する図である。
図16図16A図16Dは、実施の形態1に係る劣化度判定システムの効果を説明する図である。
図17】実施の形態2に係る劣化度判定システムの構成例を示す図である。
図18図18A図18Bは、実施の形態1,2に係る劣化度判定システムのハードウェア構成例を示す図である。
図19】従来の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る劣化度判定システムの構成例を示す図である。
劣化度判定システムは、回転機における劣化の種類に応じて、当該回転機の劣化度を判定する。劣化度は、劣化の進行度である。また、以下では、劣化度判定システムが劣化度の判定対象とする回転機が、高圧電動機である場合を例に説明を行う。
この劣化度判定システムは、図1に示すように、学習装置1、データベース2、及び、判定装置3を備えている。
【0019】
学習装置1は、高圧電動機における劣化の種類毎にモデルを作成する。なお、高圧電動機の劣化の種類としては、電動機巻線を含む電気的な劣化と、内外輪傷等の軸受損傷、ミスアライメント、及び、回転子アンバランス等を含む機械的な劣化とが挙げられる。また、学習装置1が作成するモデルは、高圧電動機における特定の種類の劣化に対する劣化度を判定するためのモデルである。
この学習装置1の構成例については後述する。
【0020】
データベース2は、学習装置1により作成されたモデルを示すデータを、対応する高圧電動機における劣化の種類毎に格納する。
【0021】
このデータベース2としては、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically EPROM)等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、又は、DVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
【0022】
なお、図1では、データベース2が劣化度判定システムの内部に設けられた場合を示した。しかしながら、これに限らず、データベース2が劣化度判定システムの外部に設けられていてもよく、劣化度判定システムは、外部に設けられたデータベース2との間でデータのやり取りを行ってもよい。
【0023】
判定装置3は、データベース2に格納されたモデルを用い、高圧電動機における劣化度を判定する。
この判定装置3の構成例については後述する。
【0024】
次に、学習装置1の構成例について、図2を参照しながら説明する。
学習装置1は、図2に示すように、基準値記憶部11、劣化種類振分部12、及び、複数のモデル構築部13を備えている。図2では、学習装置1にモデル構築部13がN個設けられた場合を示している。
【0025】
基準値記憶部11は、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータを記憶する。この高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータは、例えば図2に示すように振動振幅値管理表から得られる。また、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値としては、例えば、高圧電動機における回転速度毎に推奨される現地目標値、アラーム値、及び、トリップ値が挙げられる。
【0026】
この基準値記憶部11としては、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、又は、DVD等が該当する。
【0027】
なお、図2では、基準値記憶部11が学習装置1の内部に設けられた場合を示した。しかしながら、これに限らず、基準値記憶部11が学習装置1の外部に設けられていてもよく、学習装置1は、外部に設けられた基準値記憶部11との間でデータのやり取りを行ってもよい。
【0028】
劣化種類振分部12は、入力された学習用データに含まれるラベルに基づいて、当該学習用データをモデル構築部13に振り分ける。
【0029】
この学習用データには、高圧電動機における正常状態及び劣化状態での振動加速度値を示すデータ、及び、当該劣化の種類を示すラベルが含まれている。また、高圧電動機における振動加速度値としては、例えば、3軸方向における振動加速度値が用いられる。
そして、劣化種類振分部12は、入力された学習用データに含まれるラベルが示す劣化の種類から、当該劣化の種類に対応しているモデル構築部13に対して当該学習用データを振り分ける。
【0030】
図2では、劣化種類振分部12に、N個の学習用データ(第1~第Nの学習用データ)が入力され、劣化種類振分部12が、それぞれの学習用データを対応するモデル構築部13に振り分ける場合を示している。
【0031】
なお、図2では、劣化種類振分部12が学習装置1の内部に設けられた場合を示した。しかしながら、これに限らず、劣化種類振分部12が学習装置1の外部に設けられていてもよい。
【0032】
モデル構築部13は、高圧電動機における劣化の種類毎に設けられている。図2では、高圧電動機における劣化の種類がN個あり、学習装置1にモデル構築部13がN個設けられた場合を示している。
そして、このモデル構築部13は、基準値記憶部11に記憶された高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータ、及び、劣化種類振分部12により振り分けられた学習用データに基づいて、モデルを構築する。このモデル構築部13は、図3に示すように、正規化部(学習用正規化部)131、及び、計算部132を有している。
【0033】
正規化部131は、基準値記憶部11に記憶された高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータ、及び、劣化種類振分部12により振り分けられた学習用データに基づいて、当該基準値毎に、当該学習用データが示す振動加速度値の正規化を行う。すなわち、正規化部131は、振動振幅値に対する複数の基準値、及び、高圧電動機における振動振幅値を用いて、学習用データが示す振動加速度値を正規化する。この際、例えば、正規化部131は、下式(1)に従って、振動振幅値に対する複数の基準値毎に、振動加速度値の正規化を行う。
振動加速度値×(振動振幅値に対する基準値/振動振幅値)(1)
【0034】
なお、高圧電動機における振動振幅値は、学習用データに含まれる振動加速度値を示すデータに基づいて、当該振動加速度値を積分することで求めることができる。又は、高圧電動機における振動振幅値を示すデータが、学習用データに含まれていてもよい。すなわち、振動振幅値は、振動加速度値の測定と共に測定されていてもよい。
【0035】
計算部132は、正規化部131による正規化後の振動加速度値に基づいて、複数の閾値を計算することで、モデルを得る。すなわち、計算部132は、特定の種類の劣化に対するモデルとして、複数の閾値を計算する。
この計算部132は、図3に示すように、特徴量計算部(学習用特徴量計算部)1321、及び、閾値計算部1322を有している。
【0036】
特徴量計算部1321は、正規化部131による正規化後の振動加速度値に基づいて、周波数に起因する特徴量を計算する。
【0037】
閾値計算部1322は、特徴量計算部1321により計算された特徴量に基づいて、複数の閾値を計算することで、モデルを得る。
【0038】
次に、判定装置3の構成例について、図4を参照しながら説明する。
判定装置3は、図4に示すように、前処理部31、劣化種類判別部32、モデル選択部33、及び、劣化度判定部34を備えている。
【0039】
前処理部31は、高圧電動機における振動加速度値に対して前処理を行うことで当該振動加速度値を周波数領域に変換する。この高圧電動機における振動加速度値を示すデータは、例えば図4に示すように振動データとして判定装置3に入力される。また、高圧電動機における振動加速度値としては、例えば、3軸方向における振動加速度値が用いられる。
この前処理部31は、図5に示すように、正規化部(判定用正規化部)311、及び、周波数領域変換部312を有している。
【0040】
正規化部311は、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータ、及び、高圧電動機における振動加速度値に基づいて、当該振動振幅値に対する複数の基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う。すなわち、正規化部311は、振動振幅値に対する複数の基準値、及び、高圧電動機における振動振幅値を用いて、振動加速度値を正規化する。この際、例えば、正規化部311は、式(1)に従って、振動振幅値に対する複数の基準値毎に、振動加速度値の正規化を行う。
【0041】
なお、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータは、例えば図4に示すように振動振幅値管理表から得られる。また、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値としては、例えば、高圧電動機における回転速度毎に推奨される現地目標値、アラーム値、及び、トリップ値が挙げられる。
また、高圧電動機における振動振幅値は、振動データに含まれる振動加速度値を示すデータに基づいて、当該振動加速度値を積分することで求めることができる。又は、高圧電動機における振動振幅値を示すデータが、振動データに含まれていてもよい。すなわち、振動振幅値は、振動加速度値の測定と共に測定されていてもよい。
【0042】
周波数領域変換部312は、正規化部311による正規化後の振動加速度値を周波数領域に変換する。
【0043】
劣化種類判別部32は、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づいて、高圧電動機に生じている可能性のある劣化の種類を判別する。すなわち、劣化種類判別部32は、上記振動加速度値から、どの種類の劣化の特徴に近いかを判別する。実施の形態1では、劣化種類判別部32は、パターンマッチによる方法を用いて、劣化の種類を判別する。なお、パターンマッチによる判別方法については、既存技術を適用可能である。
【0044】
モデル選択部33は、劣化種類判別部32による判別結果に基づいて、データベース2に格納されたモデルの中からモデルを選択する。すなわち、モデル選択部33は、劣化種類判別部32により高圧電動機に生じている可能性のある劣化の種類が判別された場合、データベース2に格納されたモデルの中から、当該劣化の種類に対応するモデルを選択する。
【0045】
劣化度判定部34は、前処理部31による変換後の振動加速度値、及び、モデル選択部33により選択されたモデルに基づいて、高圧電動機の劣化度を判定する。この劣化度判定部34は、図6に示すように、特徴量計算部(判定用特徴量計算部)341、及び、判定部342を有している。
【0046】
特徴量計算部341は、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づいて、周波数に起因する特徴量を計算する。
【0047】
判定部342は、特徴量計算部341による計算結果、及び、モデル選択部33により選択されたモデルに基づいて、高圧電動機の劣化度を判定する。この際、判定部342は、特徴量計算部341により計算された特徴量に基づく値を、モデル選択部33により選択されたモデルに含まれる複数の閾値と比較することで、高圧電動機の劣化度を判定する。この判定部342により判定される高圧電動機の劣化度は、特定の種類の劣化に対する劣化度である。
【0048】
次に、図1に示す実施の形態1に係る劣化度判定システムの動作例について、図7を参照しながら説明する。
【0049】
図1に示す実施の形態1に係る劣化度判定システムの動作例では、図7に示すように、まず、学習装置1は、高圧電動機における劣化の種類毎にモデルを作成する(ステップST701)。この学習装置1の動作例については後述する。
【0050】
この学習装置1により作成されたモデルを示すデータは、対応する高圧電動機における劣化の種類毎に、データベース2に格納される。
【0051】
次いで、判定装置3は、データベース2に格納されたモデルを用い、高圧電動機における劣化度を判定する(ステップST702)。この判定装置3の動作例については後述する。
【0052】
次に、図2,3に示す実施の形態1に係る学習装置1の動作例について、図8を参照しながら説明する。
【0053】
なお、基準値記憶部11は、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータを記憶している。
図9では、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値として、3つの基準値(x,y,z)が用いられた場合を示している。ここで、xは、高圧電動機における正常状態での振動振幅値に対する基準値である。また、yは、高圧電動機における1段階劣化が進行した状態での振動振幅値に対する基準値である。また、zは、高圧電動機における2段階劣化が進行した状態での振動振幅値に対する基準値である。
【0054】
図2,3に示す実施の形態1に係る学習装置1の動作例では、図8に示すように、まず、劣化種類振分部12は、入力された学習用データに含まれるラベルに基づいて、当該学習用データをモデル構築部13に振り分ける(ステップST801)。
【0055】
この学習用データには、高圧電動機における正常状態及び劣化状態での振動加速度値を示すデータ、及び、当該劣化の種類を示すラベルが含まれている。
そして、劣化種類振分部12は、入力された学習用データに含まれるラベルが示す劣化の種類から、当該劣化の種類に対応しているモデル構築部13に対して当該学習用データを振り分ける。
【0056】
図9では、学習用データが示す特定の種類の劣化での高圧電動機における振動加速度値が、(X’,Y’,Z’)である場合を示している。ここで、X’は、高圧電動機における正常状態での振動加速度値である。また、Y’は、高圧電動機における1段階劣化が進行した状態での振動加速度値である。また、Z’は、高圧電動機における2段階劣化が進行した状態での振動加速度値である。
【0057】
また、図9では、学習用データに、劣化の種類を示すラベル(劣化ラベル)、及び、振動加速度値を示すデータに加え、特定の種類の劣化での高圧電動機における振動振幅値を示すデータも含まれている場合を示している。
図9では、振動振幅値が、(x’,y’,z’)である場合を示している。ここで、x’は、高圧電動機における正常状態での振動振幅値である。また、y’は、高圧電動機における1段階劣化が進行した状態での振動振幅値である。また、z’は、高圧電動機における2段階劣化が進行した状態での振動振幅値である。
【0058】
なお、図9に示すように、高圧電動機における振動振幅値、及び、高圧電動機における振動加速度値は、互いに変換可能である。
【0059】
次いで、モデル構築部13は、基準値記憶部11に記憶された高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータ、及び、劣化種類振分部12により振り分けられた学習用データに基づいて、モデルを構築する(ステップST802)。
【0060】
この際、まず、正規化部131は、基準値記憶部11に記憶された高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータ、及び、劣化種類振分部12により振り分けられた学習用データに基づいて、当該基準値毎に、当該学習用データが示す振動加速度値の正規化を行う。すなわち、正規化部131は、振動振幅値に対する複数の基準値、及び、高圧電動機における振動振幅値を用いて、学習用データが示す振動加速度値を正規化する。この際、例えば、正規化部131は、式(1)に従って、振動振幅値に対する複数の基準値毎に、振動加速度値の正規化を行う。
【0061】
例えば、振動振幅値に対する複数の基準値を(x,y,z)とし、特定の種類の劣化での振動振幅値を(x’,y’,z’)とし、当該特定の種類の劣化での振動加速度値を(X’(t),Y’(t),Z’(t))とした場合、正規化部131は、式(1)を用い、下式(2)に示すような正規化後の振動加速度値を得る。

【0062】
そして、計算部132は、正規化部131による正規化後の振動加速度値に基づいて、複数の閾値を計算することで、モデルを得る。すなわち、計算部132は、特定の種類の劣化に対するモデルとして、複数の閾値を計算する。
【0063】
この際、まず、特徴量計算部1321は、正規化部131による正規化後の振動加速度値に基づいて、周波数に起因する特徴量を計算する。
【0064】
より具体的には、例えば図10の左側に示すように、まず、特徴量計算部1321は、正規化部131による正規化後の振動加速度値に対して、当該振動加速度値毎に、周波数解析を行う。この際、例えば、特徴量計算部1321は、振動加速度値毎に、正規化部131による正規化後の振動加速度値に対してSTFT(短時間フーリエ変換)を実施することで、当該振動加速度値の回転N次の周波数(回転N次成分)を取得する。図10では、特徴量計算部1321が、振動加速度値の回転1次、回転2次、及び、回転3次の周波数を取得した場合を示している。ここで、回転N次の周波数をNfで示し、回転N次の周波数におけるスペクトルをp(Nf)で示す。
また、この際、特徴量計算部1321は、振動加速度値毎に、OverAll値も取得する。OverAll値は、全ての周波数のスペクトルの合計値であり、A=p(1[Hz])+p(2[Hz])+・・・で表される。
そして、例えば図10の右側に示すように、特徴量計算部1321は、周波数解析結果に基づいて、周波数に起因する特徴量を計算する。この際、例えば、特徴量計算部1321は、振動加速度値毎且つ回転N次の周波数毎に、当該周波数におけるスペクトルの分位点を計算し、その分位点を特徴量とする。また、特徴量計算部1321は、OverAll値についても分位点を計算する。なお、分位点としては、例えば、80%の値が挙げられる。
【0065】
なお、図10では、特徴量計算部1321が、高圧電動機における正常状態での正規化後の振動加速度値を用いて、周波数に起因する特徴量を計算した場合の例を示している。
【0066】
そして、閾値計算部1322は、特徴量計算部1321により計算された特徴量に基づいて、複数の閾値を計算することで、モデルを得る。
【0067】
より具体的には、例えば図11に示すように、まず、閾値計算部1322は、特徴量計算部1321により計算された特徴量について、振動加速度値毎且つ回転N次の周波数毎に、OverAll値の分位点で割った値を計算する(Step1)。
なお、図11において、pX’(Nf)は、高圧電動機における正常状態での正規化後の振動加速度値の回転N次の周波数におけるスペクトルの分位点を示し、A’は、高圧電動機における正常状態での正規化後の振動加速度値のOverAll値の分位点を示している。また、図11において、pY’(Nf)は、高圧電動機における1段階劣化が進行した状態での正規化後の振動加速度値の回転N次の周波数におけるスペクトルの分位点を示し、A’は、高圧電動機における1段階劣化が進行した状態での正規化後の振動加速度値のOverAll値の分位点を示している。また、図11において、pZ’(Nf)は、高圧電動機における2段階劣化が進行した状態での正規化後の振動加速度値の回転N次の周波数におけるスペクトルの分位点を示し、A’は、高圧電動機における2段階劣化が進行した状態での正規化後の振動加速度値のOverAll値の分位点を示している。
【0068】
そして、閾値計算部1322は、回転N次の周波数毎に、Step1で計算した値のうち、劣化状態での値を正常状態での値と比較し、当該劣化状態での値が当該正常状態での値に対して大きくなった周波数の値のみを抽出して、その合計値を計算する(Step2)。図11では、回転1次の周波数の値及び回転3次の周波数の値が大きくなった場合を示している。
そして、例えば、閾値計算部1322は、Step2で計算した合計値の中間値を計算し、この中間値を閾値として取得する(Step3)。図11では、閾値計算部1322が、閾値として第1閾値及び第2閾値を得た場合を示している。また、閾値計算部1322は、合計値の計算に用いた周波数を示す情報も取得する。図11では、合計値の計算に用いた周波数は、回転1次の周波数及び回転3次の周波数である。
そして、閾値計算部1322は、この複数の閾値、及び、合計値の計算に用いた周波数を示す情報を、モデルに含める。
【0069】
ここで、振動加速度値を周波数領域に変換した結果であるスペクトルは、ある種のエネルギーと考えられる。
そして、Step1では、全てのエネルギーのうちで、各周波数におけるエネルギーの占める割合を求めている。
そして、Step2では、例えば図12に示すように、高圧電動機における劣化が進むことでどの周波数にエネルギーが偏るのかを調べている。具体的には、Step1で求めたエネルギー占有率について、劣化状態のうち、正常状態の場合と比べた際の変化が最も大きい成分のみを抽出している。なお、図12Aは正常状態でのスペクトルの一例を示す図であり、図12Bは劣化状態でのスペクトルの一例を示す図である。
【0070】
次に、図4~6に示す実施の形態1に係る判定装置3の動作例について、図13を参照しながら説明する。
図4~6に示す実施の形態1に係る判定装置3の動作例では、図13に示すように、まず、前処理部31は、高圧電動機における振動加速度値に対して前処理を行うことで周波数領域に変換する(ステップST1301)。この高圧電動機における振動加速度値を示すデータは、例えば振動データとして判定装置3に入力される。
【0071】
この際、まず、正規化部311は、高圧電動機における振動振幅値に対する複数の基準値を示すデータ、及び、高圧電動機における振動加速度値に基づいて、当該振動振幅値に対する複数の基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う。すなわち、正規化部311は、振動振幅値に対する複数の基準値、及び、高圧電動機における振動振幅値を用いて、振動加速度値を正規化する。この際、例えば、正規化部311は、式(1)に従って、振動振幅値に対する複数の基準値毎に、振動加速度値の正規化を行う。
【0072】
次に、周波数領域変換部312は、正規化部311による正規化後の振動加速度値を周波数領域に変換する。この際、例えば、周波数領域変換部312は、振動加速度値毎に、正規化部311による正規化後の振動加速度値に対してSTFT(短時間フーリエ変換)を実施することで、当該振動加速度値の回転N次の周波数を取得する。
【0073】
図14では、前処理部31が、3軸(Ax軸、Ay軸、Az軸)方向における振動加速度値に対して前処理を行って周波数領域に変換した場合を示している。
なお、図14のうちの1番右側の図は、振動加速度値の周波数領域への変換結果を、ヒートマップで示した場合を示す図である。
【0074】
次いで、劣化種類判別部32は、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づいて、高圧電動機に生じている可能性のある劣化の種類を判別する(ステップST1302)。すなわち、劣化種類判別部32は、上記振動加速度値から、どの種類の劣化の特徴に近いかを判別する。実施の形態1では、劣化種類判別部32は、パターンマッチによる方法を用いて、劣化の種類を判別する。
【0075】
次いで、モデル選択部33は、劣化種類判別部32による判別結果に基づいて、データベース2に格納されたモデルの中からモデルを選択する(ステップST1303)。すなわち、モデル選択部33は、劣化種類判別部32により高圧電動機に生じている可能性のある劣化の種類が判別された場合、データベース2に格納されたモデルの中から、当該劣化の種類に対応するモデルを選択する。
【0076】
次いで、劣化度判定部34は、前処理部31による変換後の振動加速度値、及び、モデル選択部33により選択されたモデルに基づいて、高圧電動機の劣化度を判定する(ステップST1304)。
【0077】
この際、まず、特徴量計算部341は、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づいて、周波数に起因する特徴量を計算する。
【0078】
より具体的には、例えば、特徴量計算部1321は、周波数領域変換部312による変換結果に基づいて、振動加速度値毎且つ回転N次の周波数毎に、当該周波数におけるスペクトルの分位点を計算し、その分位点を特徴量とする。なお、分位点としては、例えば、80%の値が挙げられる。
【0079】
次に、判定部342は、特徴量計算部341による計算結果、及び、モデル選択部33により選択されたモデルに基づいて、高圧電動機の劣化度を判定する。この際、判定部342は、特徴量計算部341により計算された特徴量に基づく値を、モデル選択部33により選択されたモデルに含まれる複数の閾値と比較することで、高圧電動機の劣化度を判定する。この判定部342により判定される高圧電動機の劣化度は、特定の種類の劣化での劣化度である。
【0080】
この際、例えば図15に示すように、まず、判定部342は、特徴量計算部341により計算された特徴量のうち、モデルが示す周波数に対応する特徴量を抽出し、当該抽出した特徴量の合計値を計算する。図15では、判定部342は、特徴量計算部341により計算された特徴量のうち、回転1次の周波数及び回転3次の周波数の特徴量を抽出して合計値であるSを計算している。
そして、判定部342は、計算した合計値を、モデルが示す複数の閾値と比較する。そして、判定部342は、その比較結果に基づいて、特定の種類の劣化における劣化度を判定する。図15では、合計値であるSが第1閾値と第2閾値との間にあるため、判定部342は、高圧電動機に対し、上記特定の種類の劣化が1段階進行した状態であると判定する。
【0081】
ここで、従来から、高圧電動機に対する診断に用いられるデータとして、振動振幅値及び振動加速度値が知られている。
そして、振動振幅値を用いた診断では、劣化の進行度を判定するための基準値は定まっているものの、劣化の種類の判別はできない。
一方、振動加速度値のスペクトルを用いた診断では、劣化の種類の判別はできるものの、劣化の進行度を判定するための基準値は定まっていないためレベル分けができない。
一方、この振動振幅値、及び、振動加速度値のスペクトルは、ある種のベクトルの長さとベクトルそのものに対応している。
【0082】
ここで、例えば図16Aに示すように、振動加速度値を周波数領域に変換し、その実施結果をE=(p(1[Hz]),・・・,p(f[Hz]),・・・,p(3f[Hz]),・・・)とする。この場合、振動振幅値をVとすると、下式(3)のような関係が得られる。

よって、式(3)の関係から、ベクトルEの大きさを振動振幅値と見做すことができる。
【0083】
また、例えばある特定の種類の劣化(例えばミスアライメント等)が進んだ場合に、p(f[Hz])の値のみが大きくなるとする。そして、この場合、例えば図16Bに示すように、v1=(0,・・・,p(f[Hz]),・・・,0,・・・)として、(v,E-v)の関係について考える。このvは、Vのうちの上記特定の種類の劣化の成分である。また、v=E-vである。このvは、Vのうちの上記特定の種類の劣化以外のその他の成分である。
なお、図16Bは、学習用データの場合での(v,E-v)の関係を示している。また、図16Bにおいて、実線で示す円の大きさであるノルム||E||は、振動振幅値に対する基準値に相当する。なお、ここでは、説明を簡略化するため、振動振幅値に対する基準値を1つしか示していない。
【0084】
ここで、上記特定の種類の劣化ではなく、外乱によって振動振幅値が大きくなった場合には、例えば図16Cに示すように、全ての成分が大きくなる。すなわち、例えば図16Cに示すように、cosθは変化せず、v及びvが大きくなる。
一方、上記特定の種類の劣化によって振動振幅値が大きくなった場合には、例えば図16Dに示すように、vは変化せず、cosθ及びvが変化する。
なお、図16C及び図16Cは、振動データの場合での(v,E-v)の関係を示している。また、図16C及び図16Dにおいて、実線で示す円の大きさは実際の振動振幅値に相当し、破線で示す円の大きさは振動振幅値に対する基準値に相当する。なお、ここでは、説明を簡略化するため、振動振幅値に対する基準値を1つしか示していない。
【0085】
以上から、cosθを確認すれば、外乱の大小にかかわらず、上記特定の種類の劣化が進んでいるのか否かを確認することができる。
また、v1の大きさを振動振幅値に対する基準値と比較すれば、上記特定の種類の劣化がどの程度進んでいるのかを確認することができる。
このように、実施の形態1に係る劣化度判定システムでは、劣化の種類に応じて、適切に周波数を選択し、その周波数の値をvとすることで、劣化の種類毎に劣化度を判定可能となる。
【0086】
なお、上記では、劣化度判定システムが劣化度の判定対象とする回転機が、高圧電動機である場合を示した。しかしながら、これに限らず、劣化度判定システムが劣化度の判定対象とする回転機は、高圧電動機以外の回転機であってもよく、上記と同様の効果が得られる。
【0087】
以上のように、この実施の形態1によれば、劣化度判定システムは、学習装置1、及び、判定装置3を備え、学習装置1は、回転機における劣化の種類毎に設けられ、対応する種類の劣化に対する回転機の劣化度を判定するためのモデルを構築するモデル構築部13を備え、モデル構築部13は、回転機における振動振幅値に対する複数の基準値、並びに、回転機における正常状態及び対応する種類の劣化状態での振動加速度値を示すデータを含む学習用データに基づき、当該基準値毎に、当該振動加速度値の正規化を行う正規化部131と、正規化部131による正規化後の振動加速度値に基づき、複数の閾値を計算することでモデルを得る計算部132とを有し、判定装置3は、回転機における振動加速度値を周波数領域に変換する前処理部31と、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づき、劣化の種類を判別する劣化種類判別部32と、劣化種類判別部32による判別結果に基づき、学習装置1により作成されたモデルの中からモデルを選択するモデル選択部33と、前処理部31による変換後の振動加速度値、及び、モデル選択部33により選択されたモデルに基づき、回転機の劣化度を判定する劣化度判定部34とを備えた。これにより、実施の形態1に係る劣化度判定システムは、回転機に対する劣化の種類に応じて、劣化度を判定可能となる。
【0088】
実施の形態2.
実施の形態1に係る劣化度判定システムでは、判定装置3において、パターンマッチによる方法を用いて、劣化の種類を判別する場合を示した。しかしながら、これに限らず、例えば、判定装置3において、ユーザによる選択に基づいて、劣化の種類を判別してもよい。
【0089】
図17は実施の形態2に係る判定装置3の構成例を示す図である。この図17に示す実施の形態2に係る判定装置3では、図4に示す実施の形態1に係る判定装置3に対し、劣化種類判別部32が劣化種類判別部32bに変更されている。実施の形態2に係る劣化度判定システムにおけるその他の構成例については、実施の形態1に係る劣化度判定システムにおけるその他の構成例と同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0090】
劣化種類判別部32bは、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づいて、高圧電動機に生じている可能性のある劣化の種類を判別する。すなわち、劣化種類判別部32bは、上記振動加速度値から、どの種類の劣化の特徴に近いかを判別する。実施の形態2では、劣化種類判別部32bは、ユーザによる選択に基づいて、劣化の種類を判別する。
この際、ユーザは、前処理部31による変換後の振動加速度値に基づいて、その振動加速度値のスペクトルの様相から、すなわち、回転N次の周波数から、劣化の種類を判断する。
【0091】
なお、実施の形態2におけるモデル選択部33は、劣化種類判別部32bによる判別結果に基づいて、データベース2に格納されたモデルの中からモデルを選択する。
【0092】
また、上記では、劣化度判定システムが劣化度の判定対象とする回転機が、高圧電動機である場合を示した。しかしながら、これに限らず、劣化度判定システムが劣化度の判定対象とする回転機は、高圧電動機以外の回転機であってもよく、上記と同様の効果が得られる。
【0093】
最後に、図18を参照して、実施の形態1,2に係る劣化度判定システムのハードウェア構成例を説明する。なお、以下では、実施の形態1に係る劣化度判定システムのハードウェア構成例について説明するが、実施の形態2に係る劣化度判定システムのハードウェア構成例についても同様である。
劣化度判定システムにおける学習装置1及び判定装置3の各機能は、処理回路51により実現される。処理回路51は、図18Aに示すように、専用のハードウェアであってもよいし、図18Bに示すように、メモリ53に格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、又は、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)52であってもよい。
【0094】
処理回路51が専用のハードウェアである場合、処理回路51は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。学習装置1及び判定装置3の各部の機能それぞれを処理回路51で実現してもよいし、各部の機能をまとめて処理回路51で実現してもよい。
【0095】
処理回路51がCPU52の場合、学習装置1及び判定装置3の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ53に格納される。処理回路51は、メモリ53に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、劣化度判定システムは、処理回路51により実行されるときに、例えば図7,8,13に示した各ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ53を備える。また、これらのプログラムは、学習装置1及び判定装置3の手順及び方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ53としては、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、又は、DVD等が該当する。
【0096】
なお、学習装置1及び判定装置3の各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。例えば、学習装置1については専用のハードウェアとしての処理回路51でその機能を実現し、判定装置3については処理回路51がメモリ53に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
【0097】
このように、処理回路51は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0098】
なお、各実施の形態の自由な組合わせ、或いは各実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 学習装置、2 データベース、3 判定装置、11 基準値記憶部、12 劣化種類振分部、13 モデル構築部、31 前処理部、32,32b 劣化種類判別部、33 モデル選択部、34 劣化度判定部、51 処理回路、52 CPU、53 メモリ、131 正規化部、132 計算部、311 正規化部、312 周波数領域変換部、341 特徴量計算部、342 判定部、1321 特徴量計算部、1322 閾値計算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19