(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168707
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】生物処理水からの資源回収方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20241128BHJP
C05C 3/00 20060101ALI20241128BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20241128BHJP
C05D 1/00 20060101ALI20241128BHJP
C01C 1/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C02F1/28 M
C02F1/28 E
C05C3/00
C05G5/20
C05D1/00
C01C1/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085603
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390019529
【氏名又は名称】株式会社土谷特殊農機具製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】谷津 愛和
(72)【発明者】
【氏名】小野 徳昭
(72)【発明者】
【氏名】土谷 樹生
【テーマコード(参考)】
4D624
4H061
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AB13
4D624AB15
4D624BA07
4D624BA17
4D624BB01
4D624BC01
4D624BC04
4D624CA01
4D624DB03
4D624DB05
4D624DB15
4D624DB16
4D624DB19
4D624DB21
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB08
4H061BB51
4H061CC36
4H061EE44
4H061GG29
4H061GG43
4H061GG50
4H061GG52
4H061GG56
4H061HH29
4H061KK09
(57)【要約】
【課題】各種産業や下水の生物処理中のアンモニアを回収して有効活用することを課題とする。
【解決手段】嫌気処理水などのアンモニア含有生物処理水とゼオライトとを接触させて、ゼオライトにアンモニアを吸着させ、アンモニアが吸着したゼオライトを肥料又は土壌改良材として使用する生物処理水からの資源回収方法。ゼオライトに対しアンモニアと共にカリウムを吸着させてもよい。アンモニアを吸着させた後の処理水の少なくとも一部を液肥として使用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア含有生物処理水とゼオライトとを接触させてゼオライトにアンモニアを吸着させ、アンモニアが吸着したゼオライトを肥料又は土壌改良材として使用する生物処理水からの資源回収方法。
【請求項2】
生物処理水が嫌気処理水である請求項1に記載の生物処理水からの資源回収方法。
【請求項3】
嫌気処理がメタン発酵処理である請求項2に記載の生物処理水からの資源回収方法。
【請求項4】
前記ゼオライトに対しアンモニアと共にカリウムを吸着させる請求項1に記載の生物処理水からの資源回収方法。
【請求項5】
アンモニアを吸着させた後の処理水の少なくとも一部を液肥として使用する請求項1~4のいずれかに記載の生物処理水からの資源回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は生物処理水からの資源回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品産業、化学産業、農業などの各種産業や下水の生物処理水には、アンモニアが100mg/L以上の濃度で存在している。特にバイオガス発電所等における嫌気生物処理水には、アンモニアが1000mg/L以上の濃度で存在していることが多い。このような生物処理水をそのまま放流すると河川や海の富栄養化を招くため、一般的には硝化脱窒処理を行って窒素へと変換した後、放流している。
【0003】
近年、アンモニアは水素キャリアとして注目されており、エネルギーソースとして考えられるようになって来ている。また、農業における貴重な窒素源でもある。上述の通り、現状では、各種産業や下水の生物処理中のアンモニアは有効活用されていない。
【0004】
特許文献1には、アンモニア性窒素含有廃水中のアンモニアをゼオライト系鉱物によって除去することが記載されている。また、特許文献1の実施例には、アンモニアを吸着したゼオライトからNaCl20%溶液によってアンモニアを脱着させ、脱着廃液に塩化マグネシウム及びリン酸第一ナトリウムを加えてリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させること、この沈殿は塩基性肥料として利用可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、各種産業や下水の生物処理水中のアンモニアを回収して有効活用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] アンモニア含有生物処理水とゼオライトとを接触させてゼオライトにアンモニアを吸着させ、アンモニアが吸着したゼオライトを肥料又は土壌改良材として使用する生物処理水からの資源回収方法。
【0008】
[2] 生物処理水が嫌気処理水である[1]に記載の生物処理水からの資源回収方法。
【0009】
[3] 嫌気処理がメタン発酵処理である[2]に記載の生物処理水からの資源回収方法。
【0010】
[4] 前記ゼオライトに対しアンモニアと共にカリウムを吸着させる[1]に記載の生物処理水からの資源回収方法。
【0011】
[5] アンモニアを吸着させた後の処理水の少なくとも一部を液肥として使用する[1]~[4]のいずれかに記載の生物処理水からの資源回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、上記課題を解決するため、生物処理中のアンモニアの回収にゼオライトを使用する。ゼオライトを使用すると一般的には、特許文献1のように、再生処理が必要であるが、本発明では、アンモニアが吸着したゼオライトごと農業における肥料や土壌改良材として活用するため、再生処理は必要としない。
【0013】
本発明の一態様では、ゼオライトに対し、アンモニアに加えてカリウムも吸着させる。アンモニアとカリウムが吸着したゼオライトは、農業における肥料や土壌改良材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、食品産業排水、化学産業排水などの各種産業排水や、農業排水、下水などの生物処理水中のアンモニアをゼオライトによって吸着除去する。そのため、硝化脱窒の負荷が低減すると共に、アンモニアが吸着したゼオライトを農業における肥料や土壌改良材として有効活用できる。
【0016】
生物処理としては、嫌気処理、特にメタン発酵処理が好適である。
【0017】
アンモニア吸着に使用するゼオライトとしては、モルデナイトが適している。特にSiとAlの比率をSiO2/Al2O3で表した時、100以下、好ましくは5~50となるゼオライトが望ましい。
【0018】
本発明における生物処理水からのアンモニア回収は、例えば
図1に示すフローによって行われる。
【0019】
図1(a)では、生物処理水を固液分離した後、ゼオライトによって吸着処理を行う。固液分離としては、スクリーン処理、凝集沈殿、濾過、膜処理などが好適であるが、これに限定されない。この吸着処理は、ゼオライトを充填した充填塔に通水することなどによって行われる。なお、アンモニア濃度が100~1000mg/L程度の生物処理水の場合、充填塔への通水SVは2hr
-1以下が好適である。
【0020】
吸着処理後の水は、小規模な硝化脱窒処理設備によって硝化脱窒処理した後、放流される。
【0021】
図1(b)では、
図1(a)において、吸着処理後の水の一部を液肥として利用する。その他は
図1(a)と同様である。
【0022】
図1(c)では、生物処理水を固液分離した後、一部をゼオライトによる吸着処理を行った後、放流する。別の一部は、小規模な硝化脱窒処理設備によって硝化脱窒処理した後、放流される。残部は液肥として利用する。
【実施例0023】
[実験例1]
以下の吸着材及び試料液についてアンモニア、カリウム及びリンの吸着試験を行った。
<吸着材>
ゼオライト粒状破砕品(とかちゼオライト、共成レンテム)をふるい分けし、粒径1~2mmとしたものを用いた。
<試料液>
畜産排水の生物処理消化液(メタン発酵処理液)を濾紙5Aで濾過した液
【0024】
<実験方法>
(1) 試料液のpH、アンモニア性窒素濃度、カリウム濃度、リン酸性リン濃度を測定する。
(2) 試料液100mLに対して、吸着材を3、5、10又は20g添加する。
(3) 15時間、振盪する。
(4) 上澄みを5A濾紙で濾過し、pH、アンモニア性窒素濃度、カリウム濃度、リン酸性リン濃度を測定する。
【0025】
<結果>
実験結果を表1に示す。pHはゼオライトの添加前後でほとんど変化していない。アンモニア性窒素、カリウムは減少しており、ゼオライトに吸着していることが分かる。リン酸性リンの減少も見られるため、リンの吸着も起こっている。
【0026】
この結果から、ゼオライト1g当たりに4~11mgのアンモニア性窒素、4~6mgのカリウムが吸着し、リンも5~9μg吸着すると算出される。従って、生物処理消化液の吸着処理に使用したゼオライトを農業における肥料や土壌改良材として有効活用できることが示された。
【0027】
【0028】
[実験例2]
<吸着材>
ゼオライト(合成ゼオライト:ゼオラム・モルデナイトHSZ-600 640HOD1A,HSZ-600 690HOD1A、東ソー)。640HOD1Aと690HOD1AのSiとAlの比率(SiO2/Al2O3)は、それぞれ、18、240である。
【0029】
<試料液>
純水にNH4Clを添加して、アンモニア性窒素1000mg/Lとし、1NHClと1NNaOHにより、pHを約3、8又は10に調整した試料液A(pH3)、B(pH8)及びC(pH10)
【0030】
<実験方法>
(1) 試料液のpH、アンモニア性窒素濃度を測定する。
(2) 試料液100mLに対して、吸着材5gを添加する。
(3) 15時間、振盪する。
(4) 上澄みのアンモニア性窒素濃度を測定する。
【0031】
<結果>
実験結果を表2に示す。pHはゼオライトの添加前後で変化が見られる。これは実験例1とは異なり、NH4Clを添加してpHを調整しただけの試料であり、緩衝能が低いためと考えられる。640HOD1A、690HOD1Aいずれの吸着材も、pHが3、8の時よりもpH10の時の方がアンモニア性窒素の濃度は減少している。吸着材1g当たりにアンモニア性窒素の吸着量は、640HOD1Aは7~11mg、690HOD1は1~9mgである。アンモニア性窒素SiO2/Al2O3=比が100以下の640HOD1Aの方がアンモニアの吸着量が多く、肥料や土壌改良材への適用性が高いと言える。
【0032】
【0033】
[実験例3]
<吸着材>
実験例2で用いたものと同じゼオライト(合成ゼオライト:ゼオラム・モルデナイトHSZ-600640HOD1A,HSZ-600690HOD1A)、東ソー)。平均粒径約1.4mmの粒状品
【0034】
<試料液>
純水にKClを添加して、カリウム濃度を1500mg/Lとし、1NHClと1NNaOHにより、pHを3、8又は10に調整した試料液D(pH3)、E(pH8)、F(pH10)
【0035】
<実験方法>
(1) 試料液のpH、カリウム濃度を測定する。
(2) 試料液100mLに対して、吸着材5gを添加する。
(3) 15時間、振盪する。
(4) 上澄みのカリウム濃度を測定する。
【0036】
<結果>
実験結果を表3に示す。pHはゼオライトの添加前後で変化が見られる。実験例2よりも変化幅が大きいが、緩衝能が低いためと考えられる。640HOD1A、690HOD1Aいずれの吸着材も、pHにほとんど依存せずカリウム濃度を減少させている。SiO2/Al2O3比が100以下の640HOD1Aの方がカリウムの吸着量が多く、肥料や土壌改良材への適用性が高いと言える。
【0037】
【0038】
[実験例4]
<吸着材>
ゼオライト(モルデナイト、HS-642、富士フィルムワコーケミカル)、粒径1~5μmの粉末状
カチオン交換樹脂(KR-UC1、栗田工業)
【0039】
<試料液>
純水にNH4Clを添加して、アンモニア性窒素濃度78mg/L及び780mg/Lとした試料液G,H
【0040】
<実験方法>
(1) 試料液のアンモニア性窒素濃度を測定する。
(2) 試料液200mLに対して、吸着材(上記ゼオライト又はカチオン交換樹脂)2gを添加する。
(3) 5時間、振盪する。
(4) 上澄みを5A濾紙で濾過し、アンモニア性窒素濃度を測定する。
【0041】
<結果>
実験結果を表4に示す。表4の通り、試料液G,Hのいずれの場合もゼオライトによってアンモニア性窒素濃度が減少している。カチオン交換樹脂と同程度の能力があることが分かる。
【0042】
吸着材1g当たりのアンモニア性窒素の吸着量は、試料のアンモニア性窒素濃度が78mg/Lの場合は、ゼオライト10mg、イオン交換樹脂9mgと算出され、試料のアンモニア性窒素濃度が780mg/Lの場合は、ゼオライト25mg、イオン交換樹脂31mgと算出される。
イオン交換樹脂を農業における肥料や土壌改良材として用いることはできない。
一方、ゼオライトは有効活用できる点で、イオン交換樹脂に比べて資源の有効利用の観点から優位であるが、アンモニア性窒素の吸着量もイオン交換樹脂と同等レベルであることが示された。
【0043】