(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168712
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】低温プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241128BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241128BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/68 N
H05H1/46 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085608
(22)【出願日】2023-05-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り SAMCO NOW、VOL.120、サムコ株式会社、令和5年1月1日 〔刊行物等〕 https://www.samco.co.jp/company/samconow/uploads/7caf41c6de93b3a76cbe367517f903d9a6defda7.pdf、令和5年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 駿
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】西宮 智靖
【テーマコード(参考)】
2G084
5F004
5F131
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA05
2G084BB03
2G084BB33
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD38
2G084FF06
2G084FF31
2G084HH11
2G084HH20
2G084HH45
5F004AA16
5F004BA20
5F004BB18
5F004BB22
5F004BB25
5F004BB26
5F004BD03
5F004CA04
5F004DA22
5F004DA23
5F004DA25
5F004EA30
5F131AA02
5F131BA19
5F131CA03
5F131CA06
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB31
5F131EB81
5F131EB82
5F131EB85
(57)【要約】
【課題】本来のプラズマ処理に影響を与えることなく、安定して処理対象基板の温度制御を行うことのできる低温プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る低温プラズマ処理装置1は、処理対象物Wを載置する下部電極11の内部又は下部に設けられた、液体窒素を用いた冷却部(冷却流路118)と、該冷却部と前記下部電極11の上面の間に設けられた、気体が流通することのできるガス流通空間(加熱流路117)と、該ガス流通空間に、加熱した気体を供給する加熱部151とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を載置する下部電極の内部又は下部に設けられた、液体窒素を用いた冷却部と、
前記下部電極の上面と前記冷却部の間に設けられた、気体が流通することのできるガス流通空間と、
前記ガス流通空間に、加熱した気体を供給する加熱部と
を有することを特徴とする低温プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記冷却部が、下方に液体窒素を貯留する貯留部と、上方壁から下方に突出して該液体窒素内に浸漬される、前記下部電極に熱を伝える伝熱部材を備える貯留式液体窒素冷却部である請求項1に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記伝熱部材が複数の柱状部材から成る請求項2に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記冷却部が、液体窒素が流れる流路を有する流通式液体窒素冷却部である請求項1に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記下部電極の内部又は前記下部電極の下部に設けられた空洞を上下に隔てる板状部材であって、上面に前記ガス流通空間が、下面に前記液体窒素が流れる流路が設けられたセパレータ部材を有する請求項4に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記加熱部が前記ガス流通空間に供給する気体の温度が40℃以上であり且つ300℃以下である請求項1に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記加熱部が供給する気体が窒素ガスである請求項1に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項8】
前記加熱部が、供給する気体の温度又は流量を変化させることができる請求項1に記載の低温プラズマ処理装置。
【請求項9】
前記冷却部の下部に断熱空間が設けられており、該断熱空間を真空吸引する真空吸引部を更に備える請求項1に記載の低温プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いて半導体基板等の表面にエッチングや成膜等の処理を行うためのプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化に伴って、プラズマを用いたエッチングにおけるエッチングレート(処理速度)、アスペクト比(異方性の程度)、マスクとの選択比などの高度化への要求は高まり続けている。このような要求に対し、炭化ケイ素(SiC)、シリコン(Si)や窒化ケイ素(SiN)などのエッチングレートを高め、マスクとの選択比を向上し、形成するトレンチ(溝)の側壁に保護膜を形成して高アスペクト比の異方性エッチングを実現する方法として、低温エッチング(クライオエッチング)が知られている。
【0003】
プラズマを用いて低温エッチング処理を行う場合、処理対象基板を載置する下部電極を液体窒素で冷却する方法が一般的に用いられる。しかし、エッチングレートやアスペクト比等は、プラズマ条件の他、処理対象基板の温度によっても変化するため、安定した処理を行うためには該温度を制御する必要がある。
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載のプラズマ処理装置では、液体窒素(LN2)を溜めた冷却ダメと処理対象基板の間にヒーターを設け、処理対象基板を載置するサブサセプタの温度を検出して該ヒーターへの電力をフィードバック制御するという構成をとっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06-163433号
【特許文献2】特開平06-252093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載のようにヒーターを用いる構成の場合、プラズマ生成に用いられる高周波がこのヒーターの配線やその制御系統に流れることを防ぐ機構が必要となる。逆に、ヒーターへの電流やその電流の変化がプラズマ処理に影響を与える可能性もあり、それを防ぐ対策も必要となる。
【0007】
本発明は従来技術のこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、本来のプラズマ処理に影響を与えることなく、安定して処理対象基板の温度制御を行うことのできる低温プラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る低温プラズマ処理装置は、
処理対象基板を載置する下部電極の内部又は下部に設けられた、液体窒素を用いた冷却部と、
前記冷却部と前記下部電極の上面の間に設けられた、気体が流通することのできるガス流通空間と、
前記ガス流通空間に、加熱した気体を供給する加熱部と
を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る低温プラズマ処理装置は、誘導結合型、容量結合型のいずれのタイプのものであっても構わない。
【0010】
前記冷却部は、液体窒素を貯留する貯留タイプ(貯留式液体窒素冷却部)であってもよいし、液体窒素を流通させる流通タイプ(流通式液体窒素冷却部)であっても構わない。
【0011】
貯留タイプ、流通タイプのいずれの場合においても、前記ガス流通空間は、下部電極の内部に空洞を設け、該空洞を上下に隔てる板状部材の上面に形成することができる。貯留タイプの場合、その板状部材の下に液体窒素を貯留する貯留部が設けられ、流通タイプの場合、その板状部材の下面に液体窒素を流通させる流通路が設けられる。
【0012】
前記加熱部が前記ガス流通空間に供給する気体の温度は、40℃以上、300℃以下とすることが望ましい。また、その気体は窒素ガス又は空気、アルゴンガス、ヘリウムガスとすることができる。
前記加熱部は、前記ガス流通空間に供給する気体の温度又は流量(或いはその双方)を変化させることにより処理対象基板の温度を任意に制御することができるようにしておくことが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る低温プラズマ処理装置では、冷却部と下部電極に載置された処理対象基板の間にガス流通空間が設けられているため、このガス流通空間にガスを流通させ、そのガスの温度を適切に設定することにより、冷却部の液体窒素による冷却と相まって、処理対象基板の温度を適切に制御することができる。そして、本発明に係る低温プラズマ処理装置では、処理対象基板と冷却部の間に電気の流れる部分が存在しないため、処理対象基板のプラズマ処理に電気的影響を与えることがなく、安定したプラズマ処理及び温度制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る低温プラズマ処理装置の一実施形態の概略構成図。
【
図2】前記実施形態の低温プラズマ処理装置の下部電極の断面図と冷却部、加熱部の概略構成図。
【
図3】前記下部電極内のセパレータ部材の上面の加熱流路パターンを示す図。
【
図4】前記下部電極内のセパレータ部材の下面の冷却流路パターンを示す図。
【
図5】前記低温プラズマ装置で各種温度測定試験を行う際に用いた温度測定用ウエハの平面図。
【
図6】下部電極の冷却時の温度変化を示すグラフで、(a)は冷却流路に液体窒素を流し始めてからの下部電極及び温度測定用ウエハ上の5測定点の温度変化のグラフ、(b)は温度がほぼ安定した後における温度測定用ウエハの5測定点の温度を示す表。
【
図7】下部電極の温度が-150℃となるように制御を行った場合の下部電極の温度変化を表すグラフで、(a)は加熱流路に加熱窒素ガスを流した場合、(b)は加熱流路にガスを流さない場合のグラフ。
【
図8】下部電極を-100 ℃から室温に戻すまでの下部電極の温度変化を示すグラフで、(a)は加熱流路に加熱した加熱窒素を流通させた場合、(b)はガスを流通させなかった場合のグラフ。
【
図9】本発明の一実施形態である貯留式冷却部の一例の概略構成図で、(a)は横断面図、(b)は縦断面図。
【
図10】従来の貯留式冷却部の一例の概略構成図で、(a)は横断面図、(b)は縦断面図。
【
図11】貯留式冷却部を採用した下部電極の貯留部に液体窒素を注入した時点からの時間と下部電極上に載置した温度測定用ウエハの温度の関係を示すグラフ。
【
図12】下部電極の設定温度を0 ℃から-150 ℃まで段階的に下げていった場合の下部電極の温度の追随性を調べた結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の効果を確認するために、市販されている低温プラズマ処理装置に本発明に係る下部電極を装備させたものを用いて各種試験を行った結果を説明する。
【0016】
まず、試験で用いた低温プラズマ処理装置である誘導結合型低温反応イオンエッチング装置(製品名:RIE-800iPLN。サムコ株式会社製)について説明する。
図1はその低温プラズマ処理装置1の概略構成図である。低温プラズマ処理装置1はプラズマエッチングを行う処理室10を有し、その底部に、処理対象物である基板(以下、これをワークと言う)Wを載置する下部電極11が設けられている。この下部電極11には、プラズマ処理中にワークWを固定するための静電吸着機構ないしメカチャック機構(図示せず)、及び、ワークWを室温以下に冷却し、そして室温以下の所定の温度に制御するための温度制御機構が設けられている(後述)。また、下部電極11にはプラズマ中のイオンをワークWに引き込むための高周波電源101が設けられている。
【0017】
処理室10の側壁には、エッチングガスを導入するガス導入口12と、処理室10内を排気するガス排気口13が設けられている。ガス導入口12にはプラズマガスを供給するガス供給部121及びその流量を調整する流量制御部(MFC)122が接続され、ガス排気口13には真空ポンプ131が接続される。
【0018】
処理室10の上部には、誘電体窓14を介して上部電極である渦巻状の高周波コイル141が設けられ、高周波コイル141には高周波電源142からプラズマガスをプラズマ化するための高周波電力が供給される。
【0019】
本低温プラズマ処理装置1にはコンピュータにより構成される制御部15が設けられており、操作者は、本低温プラズマ処理装置1による各種処理を制御部15を通じて行う。制御部15は、ワークWに対する所定のプラズマ処理を行うため、操作者により指定された条件及び予め設定された条件等に基づいて、真空ポンプ131、流量制御部122、高周波電源142等を適宜動作させると共に、処理時のワークWの温度を制御するため、下部電極11内に設けられた下記温度調節機構の各部を制御する。
【0020】
下部電極11の詳しい構造を
図2に示す。下部電極11は、ワークWが載置される上面から下方側に空洞を有するベース部111、該空洞に収納されたセパレータ部材112、セパレータ部材112を該空洞内に密閉するための内部隔壁113、そして内部隔壁113よりも下に真空空間114を形成するための下部隔壁115等から構成される。ベース部111の上面、すなわち、ワークWと接する面には浅い凹部116が設けられており、処理時にはここにヘリウムガスを導入および封止することにより、ベース部111、すなわち下部電極11、とワークWの間の熱伝達を良好にする。真空空間114は、液体窒素による下部電極11の結露を防止するために設けられている。
【0021】
セパレータ部材112は、ベース部111と内部隔壁113により形成される前記空洞を上下に気密・液密に分離し、セパレータ部材112の上面はベース部111の下面に密に接し、セパレータ部材112の下面は内部隔壁113の上面に密に接している。セパレータ部材112の上面には
図3に示すようなパターンを有する加熱流路117が形成され、セパレータ部材112の下面には
図4に示すようなパターンを有する冷却流路118が形成されている。上面の加熱流路117には加熱制御部151より窒素ガス(G-N2)が供給され、下面の冷却流路118には液体窒素供給部152より液体窒素(L-N
2。-196℃)が供給される。液体窒素供給部152と冷却流路118が本発明の冷却部を構成する。加熱制御部151においては、窒素ガス(G-N
2)はヒーター153により加熱され、その温度が制御される。
【0022】
下部隔壁115には、内部隔壁113の下部の真空空間114を真空引きするための吸引口119が設けられている。真空空間114を真空引きするためのポンプとしては、ターボ分子ポンプを用いることが望ましい。また、真空空間114と処理室10等の他の部分との圧力差を気密に保持するためのシールとしては、-60 ℃まで使用できるシール材を使用することが望ましい。そのようなシール材の例としては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)やインジウムを挙げることができる。
【0023】
このような構造を有する下部電極11を用いてワークWに対して低温エッチングを行う際、制御部15は次のような動作をする。まず、液体窒素供給部152よりバルブ162を備えた配管を通じて液体窒素を冷却流路118に供給し、加熱制御部151より加熱した窒素ガスを加熱流路117に供給する。そして、バルブ162の開閉・開度をパルス制御することにより、冷却流路118に供給する液体窒素の量及び/又はタイミングを調節してプラズマ処理時のワークWの温度制御を行うとともに、加熱流路117に供給する窒素ガスの温度をヒーター153で制御することにより、ワークWの温度制御性を上げる。加熱窒素ガスは、低温から温度を上げる際に速く昇温させるためにも使用される。本発明によれば、プラズマ処理時にワークWを低温に均一に温度制御することができるとともに、その制御も迅速に行うことができる。
【0024】
この制御の効果を確認するため、温度測定用ウエハW0を用いて各種温度測定試験を行った。温度測定用ウエハW0は
図5に示すように、径200 mm(8インチ)のシリコンウエハであり、その上面の中心及び四方の計5点p1~p5に熱電対による温度センサを固定したものである。
【0025】
まず、下部電極11の冷却時の温度均一性を調べた。
図6(a)は、加熱流路117にガスを流すことなく、室温である下部電極11の冷却流路118に液体窒素(-196℃)を流して下部電極11を冷却した場合の、下部電極11(
図5のp0点)およびその上に載置した温度測定用ウエハW0内の5測定点(p1~p5点)の温度を温度測定部154で測定したグラフである。
【0026】
温度測定用ウエハW0は、液体窒素を冷却流路118に流し始めてから約1500 secで約-170℃まで冷却され、その温度でほぼ一定となった。
図6(a)の実線の各グラフがほぼ重なっていることから測定点(p1~p5)における温度制御(温度降下の速度)が均一であることがわかった。温度がほぼ安定した後の2000 secにおける5測定点(p1~p5)の温度を
図6(b)の表に示す。温度測定用ウエハW0の面内5点の温度幅Δは1.2℃以下となり、良好な温度均一性が得られていることが確認された。なお、このとき下部電極11の温度(p0)は-179.5℃であった。
【0027】
次に、下部電極11の温度制御を行った場合の温度安定性を調査した。下部電極11の測定点p0における検出温度に基いて加熱制御部151のヒーター153をPID制御しつつ、温度測定部154により温度測定用ウエハW0の各点p1~p5の温度を経時的に測定した。その結果を
図7に示す。
図7は、下部電極11の測定点p0の温度が-150℃となるようにPID制御した場合の温度測定用ウエハW0の各点p1~p5の平均温度の経時変化を示すグラフである。(a)は加熱流路117に加熱窒素ガスを流した場合のグラフであり、(b)は加熱流路117にガスを流さずに、冷却流路118への液体窒素の流量のみを変化させて温度を制御した場合のグラフである。加熱流路117に加熱窒素ガスを流さない場合(b)にはウエハW0の温度は-155 ℃~-140 ℃の幅(Δ=15 ℃)で変動しているのに対し、加熱窒素ガスを流した場合(a)には-153 ℃~-147 ℃の幅(Δ=6 ℃)に収まっている。
【0028】
低温プラズマ処理を行った後、ワークWを処理室10内から取り出す際には、結露を避けるために下部電極11を常温に戻しておく必要がある。その際にも加熱流路117に加熱した窒素ガスを流すことにより下部電極11を短時間で常温に戻すことができる。
図8はその効果を調べた結果を示すもので、下部電極11を-100 ℃から室温に戻すまでの測定点p0の温度の経時変化を示すグラフ、(a)は加熱流路117に約100 ℃に加熱した加熱窒素を流通させた場合、(b)は加熱窒素ガスを流通させなかった場合である。加熱窒素ガスを流通させた場合、下部電極11は約120 minで+12 ℃まで到達したが、加熱窒素ガスを流通させなかった場合は+12 ℃に到達するまで800 min以上かかった。
【0029】
上記実施形態では冷却部はセパレータ部材112の下面に設けた冷却流路118に液体窒素を流通させる形式のもの(流通式)であったが、これは液体窒素を貯留する形式のもの(貯留式)でもよい。貯留式冷却部155の構造の一例を
図9に示す。この形態の貯留式冷却部155では、液体窒素(L-N2)を貯留する貯留部156が設けられ、その中に液体窒素が、上部に空間を残すように貯留される。そして、その貯留部156の天井から下方に、貯留された液体窒素に漬かる程度の長さの多数本の伝熱ロッド(伝熱部材)157が突出するように設けられる。
【0030】
従来の貯留式の冷却部では、貯留部の天井から突出する伝熱部材は
図10に示すように板状のフィン形態であったため、液体窒素(L-N2)の各部から揮発した気体窒素(G-N2)は気体窒素排出口から排出されるまでに長い経路を経る必要があり、排気コンダクタンス(排気容易性)が低いという問題があった。排気コンダクタンスが小さい、液体窒素の上部空間(気体窒素貯留空間)の圧力が高まり、下部電極の圧損が大きくなると共に、伝熱効率を考慮して薄く設計されている貯留部156の各部材の溶接箇所の破損等を引き起こす恐れがある。
【0031】
それに対し、
図9に示すロッド形態の伝熱部材157では、気化した窒素の排気コンダクタンスが大きいため、気体窒素の圧力を高めることなく液体窒素を供給することができ、液体窒素の液面高さをより早く高くすることができる。このため、液体窒素の冷熱を良好に下部電極11及びワークWに伝えることができる。伝熱性の点で、ロッドと貯留部156の天井とは一体構造であることが好ましい。また、このロッド形態では液体窒素と接触する部分の熱容量が小さいため、伝熱部材157表面での膜沸騰を抑え、液体窒素による冷却を効率よく行うことができる。
【0032】
図9では伝熱ロッドは断面が三角形であるが、これは四角形、円形等、様々な形態とすることができる。また、この伝熱部材157の数を増やし又は減らすことにより、液体窒素とワークWとの間の伝熱効率を調節することができる。
図10の従来のフィン形態のものでは、伝熱部材(フィン)の数を増やすと排気コンダクタンスが悪化するため、その数を単純に増減することは困難である。さらに、伝熱部材157の先端、すなわち、液体窒素に浸漬される部分を細くすることにより、伝熱面積を大きくすると共にその熱容量を小さくして表面での膜沸騰を抑え、冷却効率を高めるという効果を得ることができる。伝熱部材157の断面積は、液体窒素の貯留部156全体の断面積の30%以上とすることが望ましい。
【0033】
図9の形態において、貯留式冷却部155の上部には加熱した窒素ガスを流通させる流路158が形成されており、前記実施形態と同様、その流路158に加熱制御部151より加熱窒素ガスを流通させることにより、ワークWの温度を低温で制御することができる。また、貯留部156の方においては、そこに供給する液体窒素の量を調節し、貯留部156における液体窒素の液面高さを変化させることにより、ワークWの温度を制御することもできる。
【0034】
図9の貯留式冷却部155を採用した下部電極11の冷却効果を確認する試験を行った。
図11は、前記温度測定用ウエハW0(
図5)を本実施形態の下部電極11の上に載置し、貯留部156に液体窒素(L-N2。-196℃)を注入した時点からの時間と温度測定用ウエハW0上の5測定点p1~p5の温度の関係をプロットしたものである。
図6と比較すると、冷却開始後の初期冷却が急速であり、温度測定用ウエハW0の到達温度も-190.3 ℃と、より大きな冷却効果が得られていることがわかる。従って、本実施形態に本発明の加熱部を組み合わせることにより、より広い範囲の低温でプラズマ処理を制御することができるようになる。
【0035】
そこで、本実施形態の貯留式冷却部155と本発明の加熱部を採用した下部電極11の温度制御特性を調査した。
図12は、下部電極11の測定点p0の温度により加熱制御部151を制御し、p0の設定温度を0 ℃から-150 ℃まで段階的に下げていった場合の下部電極11の温度の追随性を調べた結果である。設定温度を急激に変化させた直後には若干のオーバーシュートが見られるものの、いずれの段階においても10 min(600 sec)ほどで下部電極11の温度は設定温度に近づき、十分な制御性が確保されていることが確認された。
【0036】
以上説明した実施形態においては、冷却部は下部電極の内部に形成する形式のものを挙げたが、冷却部は下部電極とは別に下部電極の下に設け、下部電極との良好な熱伝達を確保するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10…処理室
11…下部電極
111…ベース部
112…セパレータ部材
113…内部隔壁
114…真空空間
115…下部隔壁
116…ヘリウムガス用凹部
117…加熱流路
118…冷却流路
119…真空吸引口
12…ガス導入口
121…ガス供給部
122…流量制御部
13…ガス排気口
131…真空ポンプ
14…誘電体窓
141…高周波コイル
142…高周波電源
15…制御部
151…加熱制御部
152…液体窒素供給部
153…ヒーター
154…温度測定部
155、160…貯留式冷却部
156…貯留部
157…伝熱部材
158…加熱流路
161…圧力室
162…バルブ