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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168740
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】マグナスロータ、構造物
(51)【国際特許分類】
   B63H 9/02 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
B63H9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085657
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐司
(72)【発明者】
【氏名】舛谷 明彦
(57)【要約】
【課題】風の状況に応じて効率的に運用することができるマグナスロータ、及び水上物を提供する。
【解決手段】マグナスロータ10は、ロータ帆31の直径を変更可能な直径変更機構34を備える。この場合、直径変更機構34は、マグナスロータ10に吹き付けられる風の状況に応じて、ロータ帆31の直径を大きくしたり、小さくしたりすることができる。これにより、風の状況に応じてマグナスロータ10を効率的に運用することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部と、
前記本体部の直径を変更可能な直径変更機構と、を備えるマグナスロータ。
【請求項2】
前記直径変更機構は、所定の風速以下の場合は、前記本体部の直径を大きくする、請求項1に記載のマグナスロータ。
【請求項3】
前記直径変更機構は、所定の風速以上の場合は、前記本体部の直径を小さくする、請求項2に記載のマグナスロータ。
【請求項4】
水上、陸上、及び空中の少なくともいずれかに配置される構造物であって、
請求項1~3の何れか一項に記載のマグナスロータを備える、構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグナスロータ、構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CO等のGHGの削減のために、風力等の再生可能エネルギーを用いて推力を発生する船舶が知られている。例えば、特許文献1に記載された船舶は、プロペラによる推進器に加えて、船体上に、風力によって船体を推進させるマグナスロータを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-45018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、マグナスロータは、船舶などの構造物に設けられ、風力によって推力を発生させることができる。ここで、マグナスロータが用いられる環境下では、風速が大きい強風時のときもあれば、風速が小さい微風時のときもある。マグナスロータに吹き付けられる風の状況に応じて、マグナスロータを効率的に運用することが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、風の状況に応じて効率的に運用することができるマグナスロータ、及び構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るマグナスロータは、円筒状の本体部と、本体部の直径を変更可能な直径変更機構と、を備える。
【0007】
本発明に係るマグナスロータは、本体部の直径を変更可能な直径変更機構を備える。この場合、直径変更機構は、マグナスロータに吹き付けられる風の状況に応じて、本体部の直径を大きくしたり、小さくしたりすることができる。これにより、風の状況に応じてマグナスロータを効率的に運用することができる。
【0008】
直径変更機構は、所定の風速以下の場合は、本体部の直径を大きくしてよい。例えば、微風時などでマグナスロータの推力が低下するときなどに、本体部の直径を大きくして推力を確保することができる。
【0009】
直径変更機構は、所定の風速以上の場合は、本体部の直径を小さくしてよい。例えば、強風時などに本体部の直径を小さくすることで、マグナスロータや周辺の構造物へのダメージを抑制することができる。
【0010】
本発明に係る構造物は、水上、陸上、及び空中の少なくともいずれかに配置される構造物であって、上述のマグナスロータを備える。
【0011】
このような構造物によれば、マグナスロータを浮体構造物、または船舶に設けた場合に、風の状況に応じたマグナスロータの運用を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、風の状況に応じて効率的に運用することができるマグナスロータ、及び構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る船舶の一例を示す概略断面図である。
図2】(a)はロータ帆の原理について説明する図であり、(b)は船舶の平面図である。
図3】マグナスロータの概略断面図である。
図4】マグナスロータを上方から見たときの概略構成図である。
図5】変形例に係るマグナスロータを示す概略断面図を示す。
図6】マグナスロータを上方から見たときの概略構成図である。
図7】変形例に係るマグナスロータを示す概略構成図である。
図8】変形例に係るマグナスロータを示す概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、マグナスロータ10を備えた水上物100(構造物)は、船舶1であるものとする。なお、以下の説明において、「前」「後」の語は船体の進行方向に対応するものであり、「横」の語は船体の左右(幅)方向に対応するものであり、「上」「下」の語は船体の上下方向に対応するものである。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るマグナスロータ10を備えた船舶の一例を示す概略断面図である。船舶1は、例えば原油や液体ガス等の石油系液体貨物を運搬する船舶であり、例えば、オイルタンカーである。なお、船舶は、オイルタンカー(所謂タンカー)に限定されず、例えば、鉱石や石炭を輸送するばら積み船、LNG船、自動車運搬船等様々な種類の船舶であってよい。
【0016】
船舶1は、図1に示すように、船体11と、推進器12と、複数のマグナスロータ10と、を備えている。船体11は、船首部2と、船尾部3と、機関室4と、貨物室6と、を有している。船体11の上部には(または船内には)上甲板19が設けられている。船首部2は、船体11の前方側に位置している。船尾部3は、船体11の後方側に位置している。
【0017】
船首部2は、例えば満載喫水状態における造波抵抗の低減が図られた形状を有している。推進器12は、船体11の推力を機械的に発生させるものであり、例えばスクリュープロペラが用いられている。推進器12は、推進時に船尾部3における喫水線(海Wの水面)よりも下方に設置される。また、船尾部3における喫水線よりも下方には、推進方向を調整するための舵15が設置されている。
【0018】
機関室4は、船尾部3の船首側に隣り合う位置に設けられている。機関室4は、推進器12に駆動力を付与するためのメインエンジン16を配置するための区画である。上甲板19上には、機関室4の上方に居住区22、及び排気用の煙突23が設けられる。貨物室6は、船首部2と機関室4との間に設けられている。貨物室6は、貨物を収容するための区画である。貨物室6は、外板20と内底板21の二重船殻構造を採用することによって、複数のタンク26と複数のバラストタンク27とに区画されている。タンク26は、船舶1によって運搬される貨物を積載する。バラストタンク27は、船の大きさ等に応じた量のバラスト水を収容する。
【0019】
マグナスロータ10は、風力を受ける事によって推力を発生する機構である。これにより、マグナスロータ10は、風力によって船体11を推進させる。マグナスロータ10は、船体11の上甲板19上に前後左右方向に単数または複数(ここでは四個)設けられている。図2(a)に示すように、マグナスロータ10は、上下方向に延びる円柱状のロータ帆31(本体部)と、ロータ帆31を回転させる電動機と、を備える。ロータ帆31に対して横側から風WDが吹き込むと、後側ではロータ帆31の回転方向と風WDの向きが互いに反対となり、前側ではロータ帆31の回転方向と風WDの向きが一致する。これによって、ロータ帆31の前後で圧力差が発生することで、前側へ向かう推力PFが発生する(マグナス効果)。図2(b)に示すように、船体11に対して横側から風WDが吹くことで、各マグナスロータ10の推力PFにより、船体11は前方へ進む。
【0020】
図3は、マグナスロータ10の概略断面図である。図4は、直径変更機構を上方から見た図である。図3(a)及び図4(a)は、ロータ帆31の直径を小さくした状態を示す。図3(b)及び図4(b)は、ロータ帆31の直径を大きくした状態を示す。図3に示すように、マグナスロータ10は、ロータ帆31と、支持構造32と、電動機33と、直径変更機構34と、を備える。
【0021】
ロータ帆31は、土台36上において、上方へ向かって延びる。ロータ帆31の外形は、金属、樹脂、ゴム、木材などの弾性変形や伸縮する材料によって形成される。具体的には、ロータ帆31は、板状の部材を丸めることによって円筒状に構成される(図4参照)。板状の部材の一方の端部31a側の一部と、他方の端部31b側の一部とが重なり合う。直径が小さい状態では端部31a,31b同士の重なり部分の面積が大きく、直径が大きい状態では端部31a,31b同士の重なり部分の面積が小さい。ロータ帆31は、直径を広がった状態(図4(b)の状態)から自動的に元の状態(図4(a)の状態)へ戻るような復元力を有する。ロータ帆31の下端部は、直径の変化を許容しつつ、土台36にロータ帆31の重量を伝達する機構41によって支持されている。
【0022】
支持構造32は、土台36上にて、ロータ帆31を回転可能に支持する構造である。支持構造32は、サポート37と、テーブル38と、支柱39と、天板40と、を備える。サポート37は、ロータ帆31の内周側であってロータ帆31の中心位置において、土台36から上方へ延びる部材である。サポート37は、土台36に固定されており、回転しない部材である。サポート37上には、ロータ帆31を回転させるための電動機33が設けられる。電動機33上には、テーブル38が設けられる。テーブル38は、ロータ帆31の内部において中心位置から外周側へ広がるように設けられる。テーブル38と直径変更機構34が一緒に回る。支柱39は、テーブル38上から上方へ向かって延びる。支柱39の上端には、天板40が設けられる。天板40は、中心位置から外周側へ向かって広がる板状部材である。天板40は、ロータ帆31の上端に配置され、当該ロータ帆31にロックされている。テーブル38、支柱39、及び天板40は、電動機33の回転に伴って回転する。天板40は、ロータ帆31の直径の変更を許容した状態で、ロータ帆31を支持する。これにより、ロータ帆31は、支持構造32と共に回転可能である。あるいは、直径変形機構34とロータ帆31とをお互いをロックする機構とし、電動機33の回転力をロータ帆31に伝えることができる。
【0023】
直径変更機構34は、ロータ帆31の直径を変更可能な機構である。本実施形態では、直径変更機構34は、複数(ここでは四つ)の直径コントローラ42を有する。直径コントローラ42は、テーブル38上において、径方向に往復移動可能に支持されている。
【0024】
図4に示すように、四つの直径コントローラ42は、ロータ帆31を内周側から押さえつけるように配置される。直径コントローラ42は、三角形状の形状を有しており、外周側の先端にてロータ帆31を押し付ける。図3(a)及び図4(a)に示すように、複数の直径コントローラ42が内周側の位置に配置された状態では、ロータ帆31は直径が小さい状態となる。図3(b)及び図4(b)に示すように、複数の直径コントローラ42が外周側へ移動すると、ロータ帆31が外周側へ押し出され、直径が大きくなる。次に、複数の直径コントローラ42が内周側へ移動すると、ロータ帆31の弾性力によって当該ロータ帆31の直径が小さくなり、図3(a)及び図4(b)に示す状態に戻る。
【0025】
直径変更機構34は、所定の風速以下の場合は、ロータ帆31の直径を大きくする。例えば、船舶1の運行中に微風であった場合、マグナスロータ10の推力が低下してしまう。従って、マグナスロータ10の推力を確保するために、直径変更機構34は、ロータ帆31の直径を大きくする。船舶1は、風速をセンサなどで検出し、予め定めた所定の風速以下となった場合に、直径変更機構34によってロータ帆31の直径を大きくしてよい。微風であることを判定する風速は特に限定されない。
【0026】
直径変更機構34は、所定の風速以上の場合は、ロータ帆31の直径を小さくする。例えば、強風時には、ロータ帆31の直径を小さくすることで、マグナスロータ10や土台36の破損等を防ぐことができる。船舶1は、風速をセンサなどで検出し、予め定めた所定の風速以上となった場合に、直径変更機構34によってロータ帆31の直径を大きくしてよい。強風であることを判定する風速は特に限定されない。
【0027】
また、直径変更機構34は、船舶1の速度を一時的に上昇させる必要があるときに、ロータ帆31の直径を大きくすることで、大きな推力を発生させてもよい。
【0028】
本実施形態に係るマグナスロータ10の作用・効果について説明する。
【0029】
本実施形態に係るマグナスロータ10は、ロータ帆31の直径を変更可能な直径変更機構34を備える。この場合、直径変更機構34は、マグナスロータ10に吹き付けられる風の状況に応じて、ロータ帆31の直径を大きくしたり、小さくしたりすることができる。これにより、風の状況に応じてマグナスロータ10を効率的に運用することができる。
【0030】
直径変更機構34は、所定の風速以下の場合は、ロータ帆31の直径を大きくしてよい。例えば、微風時などでマグナスロータ10の推力が低下するときなどに、ロータ帆31の直径を大きくして推力を確保することができる。
【0031】
直径変更機構34は、所定の風速以上の場合は、ロータ帆31の直径を小さくしてよい。例えば、強風時などにロータ帆31の直径を小さくすることで、マグナスロータ10や土台36などの周辺の構造物へのダメージを抑制することができる。
【0032】
本実施形態に係る水上物100は、船舶1によって構成される、水上に配置される水上物100であって、上述のマグナスロータ10を備える。
【0033】
このような水上物100によれば、マグナスロータ10を船舶1に設けた場合に、風の状況に応じたマグナスロータ10の運用を行うことができる。
【0034】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。
【0035】
上述の実施形態では、直径変更機構34として、複数の直径コントローラ42が採用された。ただし、直径変更機構34の具体的な構成は特に限定されず、直径を変更可能な機構であればどのようなものを採用してもよい。
【0036】
例えば、図5及び図6に示す構成を採用してもよい。図5及び図6では、直径変更機構34として、ロープ47による巻き取り機構が採用されている。図5に示すように、直径変更機構34は、ロープ47と、支柱39を回転させる電動機46と、を備える。ロープ47は、支柱39とロータ帆31とを連結する。ロープ47は、支柱39から二方向へ延びて、ロータ帆31の内周面に接続される。電動機46は、支柱39を回転させることで、支柱39によってロープ47の巻き取り及び巻き出しを行うことができる。
【0037】
図5(a)及び図6(a)に示すように、ロープ47によってロータ帆31が引っ張られた状態では、ロータ帆31は直径が小さい状態となる。図5(b)及び図6(b)に示すように、ロープ47を巻き戻すと、ロータ帆31の弾性力によって直径が大きくなり、元の状態に戻る。
【0038】
例えば、図7(a)に示すように、ゴム等の伸縮性のある材質でロータ帆31の外形を構成する場合、直径変更機構34は、ロータ帆31の内部へ流体51で満たすことで、油圧、水圧、気圧などによってロータ帆31の直径の拡大及び縮小を行う。直径変更機構34は、ロータ帆31の内部へ流体51を供給することで、ロータ帆31の直径を大きくする。直径変更機構34は、ロータ帆31の内部から流体51を除去することで、ロータ帆31の直径を小さくする。
【0039】
例えば、図7(b)に示すように、直径変更機構34は、ロータ帆31の内部に取り付けた錘52によって構成される。ロータ帆31の内部には、互いに対向する状態で一対の錘52が設けられる。マグナスロータ10の回転数を上げると錘52の遠心力の作用が大きくなることで、ロータ帆31が外周側へ押し出されることで、ロータ帆31の直径が大きくなる。マグナスロータ10の回転数が低下すると、錘52の遠心力の影響が小さくなる。これにより、ロータ帆31の弾性力によって元の直径へ戻る。
【0040】
支持構造32の構造は、上述の実施形態で示されるものに限定されない。例えば、図8に示す支持構成を採用してもよい。図8に示すサポート37は、円錐台形状を有している。この場合、ロータ帆31の下端部は、サポート37の傾斜側面に乗せられる。
【0041】
上述の実施形態では、水上物100として、船舶1を例示した。しかしながら、水上物100として、浮体構造物に対してマグナスロータ10が採用されてよい。浮体構造物として水上の風力発電所、メガフロート、巨大いけす等が適応可能である。その他、水上に限らず、陸上に設けられたマグナス効果を用いた風力発電等にも適応可能である。また、水陸両用、すなわち水中に設置しても良いし、陸上に設置しても良い風力発電機に適用可能である。もしくは飛行機の翼(ローター飛行機)に対し、離陸時に不足する傾向のある揚力を本発明に係るマグナスロータで補っても良い。
【0042】
船体11の構造も図1に示すものに限定されず、用途等に応じて適宜変更してよい。
【符号の説明】
【0043】
1…船舶、10…マグナスロータ、31…本体部、34…直径変更機構、100…水上物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8