(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168749
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】試験システム及び評価方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/391 20150101AFI20241128BHJP
H04W 88/02 20090101ALI20241128BHJP
H04W 24/06 20090101ALI20241128BHJP
【FI】
H04B17/391
H04W88/02 150
H04W24/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085674
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 武史
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 碩文
(72)【発明者】
【氏名】大谷 育也
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE02
5K067EE10
5K067LL08
(57)【要約】
【課題】チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を評価することができる試験システム及び評価方法を提供する。
【解決手段】試験システム1は、実伝搬路を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性を算出する実伝搬路推定特性算出部21と、推定特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するパラメータ算出部22と、パラメータに応じた複数の擬似伝搬路特性を生成する擬似伝搬路特性生成部30と、複数の擬似伝搬路特性のそれぞれについての擬似チャネル容量を算出する擬似チャネル容量算出部24と、複数の解析対象タイミングのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける推定特性のそれぞれについてのチャネル容量を算出する実伝搬路チャネル容量算出部25と、擬似チャネル容量とチャネル容量の類似度を評価するための評価指標を算出するチャネル容量評価部28と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性を算出する実伝搬路推定特性算出部(21)と、
前記推定特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するパラメータ算出部(22)と、
複数の擬似伝搬路特性を前記パラメータに応じて生成する擬似伝搬路特性生成部(30)と、
前記複数の擬似伝搬路特性のそれぞれについての擬似チャネル容量を算出する擬似チャネル容量算出部(24)と、
前記複数の解析対象タイミングのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける前記推定特性のそれぞれについてのチャネル容量を算出する実伝搬路チャネル容量算出部(25)と、
前記擬似チャネル容量と前記チャネル容量の類似度を評価するための評価指標を算出するチャネル容量評価部(28)と、を含むことを特徴とする試験システム。
【請求項2】
前記チャネル容量評価部は、
前記擬似チャネル容量の頻度分布と、前記チャネル容量の頻度分布を算出する頻度分布算出部(26)と、
前記擬似チャネル容量の前記頻度分布と前記チャネル容量の前記頻度分布との類似度を前記評価指標として算出する類似度評価部(27)と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項3】
前記類似度評価部は、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の平均値と前記チャネル容量の前記頻度分布の平均値との差に基づいた前記評価指標と、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の幅と前記チャネル容量の前記頻度分布の幅との差に基づいた前記評価指標と、を算出することを特徴とする請求項2に記載の試験システム。
【請求項4】
前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の前記幅は、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であり、
前記チャネル容量の前記頻度分布の前記幅は、前記チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であることを特徴とする請求項3に記載の試験システム。
【請求項5】
ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性を算出する実伝搬路推定特性算出ステップ(S2)と、
前記推定特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するパラメータ算出ステップ(S3)と、
複数の擬似伝搬路特性を前記パラメータに応じて生成する擬似伝搬路特性生成ステップ(S4)と、
前記複数の擬似伝搬路特性のそれぞれについての擬似チャネル容量を算出する擬似チャネル容量算出ステップ(S5)と、
前記複数の解析対象タイミングのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける前記推定特性のそれぞれについてのチャネル容量を算出する実伝搬路チャネル容量算出ステップ(S6)と、
前記擬似チャネル容量と前記チャネル容量の類似度を評価するための評価指標を算出するチャネル容量評価ステップ(S7,S8)と、を含むことを特徴とする評価方法。
【請求項6】
前記チャネル容量評価ステップは、
前記擬似チャネル容量の頻度分布と、前記チャネル容量の頻度分布を算出する頻度分布算出ステップ(S7)と、
前記擬似チャネル容量の前記頻度分布と前記チャネル容量の前記頻度分布との類似度を前記評価指標として算出する類似度評価ステップ(S8)と、を含むことを特徴とする請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記類似度評価ステップは、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の平均値と前記チャネル容量の前記頻度分布の平均値との差に基づいた前記評価指標と、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の幅と前記チャネル容量の前記頻度分布の幅との差に基づいた前記評価指標と、を算出することを特徴とする請求項6に記載の評価方法。
【請求項8】
前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の前記幅は、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であり、
前記チャネル容量の前記頻度分布の前記幅は、前記チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であることを特徴とする請求項7に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャネルモデルの評価を行う試験システム及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末を試験する際には、基地局シミュレータが出力するダウンリンク信号を伝搬路シミュレータに通した信号を携帯電波端末に供給することによって、フェージング環境における復調性能が評価される。その伝搬路シミュレータで使われるチャネルモデルとしては、試験用に定義されたものが使われることが多い。一方で、実際の伝搬路環境に近い伝搬路特性のチャネルモデルを使って携帯電話端末の復調性能を評価したいという要求もある。
【0003】
一般に、実際の伝搬路環境を模擬する方法としては、実際の伝搬路環境で測定された伝搬路特性そのものを再生する方法が知られている。
【0004】
ACE RNX Channel Emulatorの「Field-to-Lab」(例えば、非特許文献1参照)は、実基地局が送信するダウンリンク信号が実伝搬路を伝わったデータを収集して、そのデータを解析することで実伝搬路の伝搬路特性を取り出して、実伝搬路の伝搬路特性の瞬時値をそのまま再生して、携帯電話端末の復調部の試験を実施するものである。「Field-to-Lab」は、実際の伝搬路特性をそのまま再生することで、実際の伝搬路特性をそのまま忠実に再現することができる。
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示された既存の「Field-to-Lab」は、実際の伝搬路特性をそのまま再生するため、データ収集時間で携帯電話端末の試験時間が決まることになる。また、データ収集する際のアンテナは、実際の携帯電話端末のアンテナとは異なるため、伝搬路特性の瞬時値そのものを再生することに大きな意味はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"ACE RNX Channel Emulator"製品カタログ、2018年3月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、非特許文献1に開示された方法に対して、測定された伝搬路特性の統計的な性質をパラメータ化してチャネルモデルに変換した上で伝搬路環境を模擬する方法が考えられる。この方法では、チャネルモデルが十分な精度で実際の伝搬路環境における伝搬路特性を模擬できているか否かを評価できることが望ましい。
【0008】
携帯電話端末の復調性能を評価する際には、一般的にスループットが測定される。チャネルモデルが適切であるか否かは、本来は達成されるスループットの「ずれ」によって評価できれば一番分かり易い。しかしながら、スループットそのものを決定する要素としては伝搬路特性以外にも、その測定対象の通信のために無線リソースがどれだけ割り当てられるかなども関わるため、スループットは実際の伝搬路特性に対応するチャネルモデルの伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を評価する指標として適切ではないという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を評価することができる試験システム及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る試験システムは、ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性を算出する実伝搬路推定特性算出部(21)と、前記推定特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するパラメータ算出部(22)と、複数の擬似伝搬路特性を前記パラメータに応じて生成する擬似伝搬路特性生成部(30)と、前記複数の擬似伝搬路特性のそれぞれについての擬似チャネル容量を算出する擬似チャネル容量算出部(24)と、前記複数の解析対象タイミングのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける前記推定特性のそれぞれについてのチャネル容量を算出する実伝搬路チャネル容量算出部(25)と、前記擬似チャネル容量と前記チャネル容量の類似度を評価するための評価指標を算出するチャネル容量評価部(28)と、を含む構成である。
【0011】
この構成により、本発明に係る試験システムは、基地局からのダウンリンク信号の取得時間に制限されずに、伝搬路特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータから擬似伝搬路特性を生成することができる。
【0012】
また、本発明に係る試験システムは、擬似伝搬路特性を用いて実伝搬路の統計的な伝搬路特性を再現する形で、被測定物の試験を実施することができる。
【0013】
また、本発明に係る試験システムは、チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度をチャネル容量を使って評価することができる。つまり、本発明に係る試験システムは、チャネルモデルのパラメータを算出する過程の妥当性を、チャネル容量を指標として評価することができる。
【0014】
また、本発明に係る試験システムは、前記チャネル容量評価部が、前記擬似チャネル容量の頻度分布と、前記チャネル容量の頻度分布を算出する頻度分布算出部(26)と、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布と前記チャネル容量の前記頻度分布との類似度を前記評価指標として算出する類似度評価部(27)と、を含む構成であってもよい。
【0015】
また、本発明に係る試験システムは、前記チャネル容量評価部が、前記疑似チャネル容量の平均値又は/及び標準偏差と、前記チャネル容量の平均値又は/及び標準偏差と、を評価指標として算出する構成であってもよい。
【0016】
また、本発明に係る試験システムは、前記類似度評価部が、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の平均値と前記チャネル容量の前記頻度分布の平均値との差に基づいた前記評価指標と、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の幅と前記チャネル容量の前記頻度分布の幅との差に基づいた前記評価指標と、を算出する構成であってもよい。
【0017】
これらの構成により、本発明に係る試験システムは、チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を適切に評価することができる。
【0018】
また、本発明に係る試験システムは、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の前記幅が、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であり、前記チャネル容量の前記頻度分布の前記幅が、前記チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差である構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明に係る試験システムは、チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を適切に評価することができる。
【0020】
また、本発明に係る評価方法は、ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性を算出する実伝搬路推定特性算出ステップ(S2)と、前記推定特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するパラメータ算出ステップ(S3)と、複数の擬似伝搬路特性を前記パラメータに応じて生成する擬似伝搬路特性生成ステップ(S4)と、前記複数の擬似伝搬路特性のそれぞれについての擬似チャネル容量を算出する擬似チャネル容量算出ステップ(S5)と、前記複数の解析対象タイミングのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける前記推定特性のそれぞれについてのチャネル容量を算出する実伝搬路チャネル容量算出ステップ(S6)と、前記擬似チャネル容量と前記チャネル容量の類似度を評価するための評価指標を算出するチャネル容量評価ステップ(S7,S8)と、を含む構成である。
【0021】
また、本発明に係る評価方法は、前記チャネル容量評価ステップが、前記擬似チャネル容量の頻度分布と、前記チャネル容量の頻度分布を算出する頻度分布算出ステップ(S7)と、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布と前記チャネル容量の前記頻度分布との類似度を前記評価指標として算出する類似度評価ステップ(S8)と、を含む構成であってもよい。
【0022】
また、本発明に係る評価方法は、前記チャネル容量評価ステップが、前記疑似チャネル容量の平均値又は/及び標準偏差と、前記チャネル容量の平均値又は/及び標準偏差と、を評価指標として算出する構成であってもよい。
【0023】
また、本発明に係る評価方法は、前記類似度評価ステップが、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の平均値と前記チャネル容量の前記頻度分布の平均値との差に基づいた前記評価指標と、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の幅と前記チャネル容量の前記頻度分布の幅との差に基づいた前記評価指標と、を算出する構成であってもよい。
【0024】
また、本発明に係る評価方法は、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の前記幅が、前記擬似チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であり、前記チャネル容量の前記頻度分布の前記幅が、前記チャネル容量の前記頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を評価することができる試験システム及び評価方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】基地局とアンテナ装置との間の実伝搬路の環境を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る試験システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】チャネル容量の頻度分布を模式的に示すグラフである。
【
図4】目標スループットとチャネル容量の頻度分布の平均値及び幅との関係を説明するためのグラフである。
【
図5】本発明の実施形態に係る試験システムを用いる評価方法の処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る試験システム及び評価方法の実施形態について、図面を用いて説明する。本発明に係る試験システム及び評価方法は、チャネルモデルの擬似伝搬路特性と実際の伝搬路特性との類似度を評価する指標として、理論的なスループットの上限であるチャネル容量を用いるものである。
【0028】
図1は、ネットワーク側の送受信装置の一例である基地局100とアンテナ装置10との間の実伝搬路110の環境を模式的に示す図である。
図1において、基地局100とアンテナ装置10との間のデータ通信は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式による複数のサブキャリアを使って行われる。
【0029】
アンテナ装置10は、1以上のチャネルで構成される実伝搬路110の環境において、基地局100のT個のアンテナTx1~TxTから送信されたダウンリンク信号を受信するものである。例えば、アンテナ装置10は、エアモニタ又は携帯電話端末などである。アンテナ装置10は、基地局100のアンテナTx1~TxTから送信されたダウンリンク信号を受信信号として受信するR個のアンテナRx1~RxRと、IQデータ出力部11と、を有する。
【0030】
ここで、基地局100のアンテナTx1~TxTの個数Tと、アンテナ装置10のアンテナRx1~RxRの個数Rは、それぞれ1以上の整数であり、T×Rの値が実伝搬路110のチャネル数となる。
【0031】
IQデータ出力部11は、アンテナRx1~RxRにより受信されたR個の受信信号に、増幅、周波数変換、アナログ-デジタル変換などの受信処理を行うようになっている。さらに、IQデータ出力部11は、受信処理されたR個の受信信号を復調して、R組の互いに直交するI成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号を生成するようになっている。本明細書では、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とをまとめて、単に「IQデータ」とも呼ぶ。
【0032】
図1におけるH
n
11(k),H
n
21(k),・・・,H
n
R1(k),H
n
12(k),H
n
22(k),・・・,H
n
R2(k),・・・,H
n
1T(k),H
n
2T(k),・・・,H
n
RT(k)は、後述する式(1)で示すチャネル行列H(k,n)の要素である。
【0033】
図2に示すように、本実施形態の試験システム1は、試験装置15と、信号処理部20と、擬似伝搬路特性生成部30と、表示部41と、を含む。
【0034】
試験装置15は、被測定物(Device Under Test:DUT)120を試験するために必要なダウンリンク信号を生成して擬似伝搬路を介してDUT120に送信し、DUT120から送信されたアップリンク信号を受信して試験に必要な処理を行なう擬似基地局装置の機能を備えたものである。試験装置15は、例えば、DUT120の復調性能の試験を行うようになっている。試験装置15とDUT120との間の擬似伝搬路は、後述する擬似伝搬路特性生成部30により形成される。DUT120は、例えば、MIMO(Multiple Input Multiple Output)方式での通信が可能な携帯電話端末である。
【0035】
信号処理部20は、実伝搬路推定特性算出部21と、パラメータ算出部22と、擬似チャネル容量算出部24と、実伝搬路チャネル容量算出部25と、チャネル容量評価部28と、を含む。
【0036】
実伝搬路推定特性算出部21は、アンテナ装置10のIQデータ出力部11から出力されたIQデータを用いて、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性Hn
ij(k)の複数の解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)を算出するようになっている。ここで、Hn
ij(k)は、下記の式(1)の実伝搬路110のチャネル行列H(k,n)の各要素を表している。iはアンテナ装置10のR個のアンテナRx1~RxRのインデックスであり、jは基地局100のT個のアンテナTx1~TxTのインデックスである。
【0037】
すなわち、R=1かつT=1はSISO(Single Input Single Output)方式、R≧2かつT=1はSIMO(Single Input Multiple Output)方式、R=1かつT≧2はMISO(Multiple Input Single Output)方式、R≧2かつT≧2はMIMO方式を表している。
【0038】
【0039】
式(1)において、kは周波数方向のインデックスであり、例えば、サブキャリア番号のインデックスである。ここで、Δfをサブキャリアの周波数間隔とすると、各サブキャリアの周波数fkはk×Δfである。また、nは、時間方向のインデックスであり、例えばOFDMシンボル番号のインデックスである。ここで、kは0からK-1までの整数であり、nは0からN-1までの整数である。
【0040】
アンテナ装置10のIQデータ出力部11から出力されたIQデータには、参照信号(Reference Signal:RS)が含まれている。例えば、5G NR規格であれば、CSI-RS(Channel State Information Reference Signal)、DM-RS(Demodulation Reference Signal)、TRS(Tracking Reference Signal)、PT-RS(Phase Tracking Reference Signal)などの参照信号が用意されている。
【0041】
実伝搬路推定特性算出部21は、基地局100のT個のアンテナTx1~TxTから送信されたダウンリンク信号に含まれる既知のRSと、IQデータ出力部11から出力されたR組のIQデータに含まれる各チャネルのRSとから、伝搬路特性Hn
ij(k)の推定特性H^n
ij(k)を算出するようになっている。推定特性H^n
ij(k)は、j番目のアンテナTxjが送信する既知のRSに対する、i番目のアンテナRxiで受信された受信信号から得られたIQデータのRSの振幅変動量及び位相変動量の情報を含んでいる。例えば、5G NR規格であれば、実伝搬路推定特性算出部21は、IQデータに含まれるCSI-RS、DM-RS、TRS、及びPT-RSなどのRSと、対応する既知のRSとを、推定特性H^n
ij(k)の算出に用いる。ここで、H^n
ij(k)は、式(1)の実伝搬路110のチャネル行列H(k,n)の推定値の行列H^(k,n)の各要素を表しており、式(2)のように表現される。
【0042】
【0043】
パラメータ算出部22は、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するようになっている。すなわち、パラメータ算出部22は、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^n
ij(k)のうち、統計的な性質が変化していないとみなせる期間内の推定特性H^n
ij(k)を用いて、パラメータを算出する。パラメータ算出部22により算出されたパラメータは、擬似伝搬路特性生成部30に入力される。
【0044】
擬似伝搬路特性生成部30は、例えば、TDLモデル(Tapped Delay Line model)やCDLモデル(Clustered Delay Line model)などの公知のチャネルモデルを含む。擬似伝搬路特性生成部30は、パラメータ算出部22により算出されたパラメータに応じた、複数の擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)を生成するようになっている。
【0045】
ここで、Pn1
ij(k1)は、下記の式(3)のチャネル行列P(k1,n1)の各要素を表している。i、jの各インデックスは、式(1)と同様である。k1は周波数方向のインデックスであり、k1で示される周波数は、式(1)のインデックスkで示される周波数と必ずしも一対一に対応していなくてもよい。同様に、n1は、時間方向のインデックスであり、n1で示されるタイミングは、式(1)のインデックスnで示される解析対象タイミングtnと必ずしも一対一に対応していなくてもよい。
【0046】
【0047】
例えば、パラメータ算出部22は、TDLモデルのパラメータとして、「Kファクタ」、「PDP(Power Delay Profile)」、「アンテナ相関行列」などを算出する。
【0048】
さらに、擬似伝搬路特性生成部30は、生成した擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)を有する擬似伝搬路を試験装置15とDUT120との間に形成する伝搬路シミュレータとして機能する。
【0049】
擬似チャネル容量算出部24は、下記の式(4)に示すように、擬似伝搬路特性生成部30により生成された複数の擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)のそれぞれについての擬似チャネル容量Cpを算出するようになっている。
【0050】
【0051】
実伝搬路チャネル容量算出部25は、下記の式(5)に示すように、複数の解析対象タイミングtnのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)のそれぞれについてのチャネル容量C0を算出するようになっている。
【0052】
【0053】
チャネル容量評価部28は、擬似チャネル容量算出部24により算出された擬似チャネル容量Cpと、実伝搬路チャネル容量算出部25により算出されたチャネル容量C0との類似度を評価するための評価指標を算出するようになっている。チャネル容量評価部28は、例えば、頻度分布算出部26と、類似度評価部27とを含む。
【0054】
頻度分布算出部26は、擬似チャネル容量算出部24により算出された擬似チャネル容量Cpの頻度分布と、実伝搬路チャネル容量算出部25により算出されたチャネル容量C0の頻度分布を算出するようになっている。
【0055】
類似度評価部27は、頻度分布算出部26により算出された擬似チャネル容量Cpの頻度分布と、頻度分布算出部26により算出されたチャネル容量C0の頻度分布との類似度を評価指標として算出するようになっている。例えば、類似度評価部27は、評価指標として、擬似チャネル容量Cpの頻度分布の平均値と、チャネル容量C0の頻度分布の平均値との差に基づいた値を算出する。また、類似度評価部27は、評価指標として、擬似チャネル容量Cpの頻度分布の幅と、チャネル容量C0の頻度分布の幅との差に基づいた値を算出する。
【0056】
一般的に、チャネル容量の頻度分布は、
図3のグラフに示すようなものとなる。チャネル容量は、瞬時瞬時で様々な値を取る。
図3のグラフにおいて、平均値C
Aveはチャネル容量の平均値である。また、幅W
95%は、チャネル容量の頻度分布の95%信頼区間において、最大値となるチャネル容量と最小値となるチャネル容量の差である。
【0057】
以降では、チャネル容量C0の頻度分布のCAve及びW95%をそれぞれCAve(Org)及びW95%(Org)と表記する。また、擬似チャネル容量Cpの頻度分布のCAve及びW95%をそれぞれCAve(Model)及びW95%(Model)と表記する。すなわち、チャネル容量C0の頻度分布の幅W95%(Org)は、チャネル容量C0の頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差である。同様に、擬似チャネル容量Cpの頻度分布の幅W95%(Model)は、擬似チャネル容量Cpの頻度分布の95%信頼区間の最大値と最小値の差である。
【0058】
類似度評価部27は、例えば下記の式(6)に従って、CAve(Org)とCAve(Model)との差の絶対値をCAve(Org)で割った値をパーセント表示したものを評価指標として算出するようになっている。
【0059】
【0060】
また、類似度評価部27は、例えば下記の式(7)に従って、W95%(Org)とW95%(Model)との差の絶対値をW95%(Org)で割った値をパーセント表示したものを評価指標として算出するようになっている。
【0061】
【0062】
なお、類似度評価部27が用いるチャネル容量の頻度分布の幅は、上記の95%信頼区間の幅に限定されず、他の任意の幅であってもよい。
【0063】
図4は、目標スループットとチャネル容量の頻度分布の平均値及び幅との関係を説明するためのグラフである。スループットは、変調方式、誤り訂正の方式、無線リソース割り当て量などによって決まる。チャネル容量は、理論的なスループットの上限であり、スループットの出やすさを表す指標であると言える。
【0064】
図4に示すように、頻度分布の平均値C
Aveが同じであっても、幅W
95%の大きさによっては、チャネル容量が目標スループットを下回る場合がある。このような場合、誤り検出用の冗長巡回符号CRC(Cyclic Redundancy Check)の失敗情報であるCRC NGが、目標スループット未満のチャネル容量で発生することになる。つまり、類似度評価部27の評価指標として、チャネル容量の頻度分布の平均値及び幅の両方が重要であることが分かる。
【0065】
なお、チャネル容量評価部28は、上記の頻度分布を算出する構成に限定されず、擬似チャネル容量Cpの平均値又は/及び標準偏差と、チャネル容量C0の平均値又は/及び標準偏差とを評価指標として算出して、擬似チャネル容量Cpとチャネル容量C0の類似度を評価するものであってもよい。
【0066】
以下、TDLモデルのパラメータのうち、「Kファクタ」、「PDP」、及び「アンテナ相関行列」のパラメータ算出部22による計算方法の一例を示す。
【0067】
推定特性H^n
ij(k)は、kを周波数方向のインデックスとする周波数特性であるが、複数の経路に対応する複数の遅延タップτmからなるインパルス応答gn
ij(m)で表すことができる。まず、パラメータ算出部22は、式(2)における推定特性H^n
ij(k)から、下記の式(8)のインパルス応答gn
ij(m)を算出する。ここでは、行列Aの一般逆行列をA+と表している。Mは、遅延タップの数を表しており、mは0からM-1までの整数である。行列Aは、時間領域のインパルス応答を要素とする列ベクトルを乗算することで、周波数特性を要素とする列ベクトルを算出することができるような一種のフーリエ変換行列である。
【0068】
【0069】
Kファクタは、直接波(line-of-sight:LOS)のパワーと、散乱波(non-line-of-sight:NLOS)のパワーとの比を表すパラメータである。Kファクタの算出方法は、例えば下記参考文献に記載されている方法を使うことができる。式(8)で定義される1番目の遅延タップのインパルス応答gn
ij(0)を下記参考文献の式(1)に記載の「V+v(t)」に対応づけることで、下記参考文献の式(9)からKファクタを算出することができる。
【0070】
参考文献:L. J. Greenstein, et al, "Moment-Method Estimation of the Ricean K-Factor," in IEEE Communications Letters, Vol. 3, No. 6, pp. 175-176, June 1999
【0071】
PDPは、平均化された遅延タップのパワー対遅延の特性を示すパラメータである。トータルパワーで正規化してdB単位で表したPDPは、下記の式(9)のように計算される。
【0072】
【数9】
式(9)において、P
tap(m)は、下記の式(10)のように表される。
【0073】
【0074】
ただし、1番目の遅延タップについて、NLOS成分をLOS成分から分けたものをPDPとする場合には、Ptap(0)は、KファクタKfを使って、下記の式(11)のように計算される。
【0075】
【0076】
アンテナ相関行列は、実伝搬路110を構成する複数のチャネルの伝搬路特性Hn
ij(k)が互いにどれくらい似ているかを表す行列である。m番目の遅延タップについてのアンテナ相関行列は、例えば2×2MIMOの場合、以下のように計算することができる。(別のアンテナ構成の場合でも同様にアンテナ相関行列を計算することができる。)
【0077】
まず、m番目の遅延タップについての2×2MIMOの伝搬路行列は、下記の式(12)のように表される。
【0078】
【0079】
式(12)の伝搬路行列に含まれる列ベクトルを積み重ねて生成される列ベクトルgstack(m,n)を下記の式(13)のように定義する。
【0080】
【0081】
式(13)のベクトルの要素間の相関を表す行列は、下記の式(14)のようになる。
【0082】
【0083】
ここで、式(14)を下記の式(15)のように行列表記で表現することにする。式(15)の行列の対角成分は常に実数であるが、非対角成分は複素数である。
【0084】
【0085】
式(15)の行列の対角成分が全て1となるように、下記の式(16)のように計算することでアンテナ相関行列Rcorr(m)が算出される。
【0086】
【0087】
表示部41は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などの表示機器などで構成され、信号処理部20からの表示制御信号に基づいて、試験システム1の試験内容に関わる設定を行うための設定画面、試験結果、擬似チャネル容量Cpの頻度分布とチャネル容量C0の頻度分布との類似度を評価するための評価指標などを表示する。なお、表示部41は、表示画面上のソフトキーなどの操作機能を有していてもよい。
【0088】
信号処理部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などを含むコンピュータなどの制御装置で構成される。また、信号処理部20は、CPU又はGPUによる所定のプログラムの実行により、実伝搬路推定特性算出部21、パラメータ算出部22、擬似チャネル容量算出部24、実伝搬路チャネル容量算出部25、頻度分布算出部26、及び類似度評価部27の少なくとも一部をソフトウェア的に構成することが可能である。
【0089】
なお、上記のプログラムは、ROM又はHDDにあらかじめ格納されている。あるいは、上記のプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式でコンパクトディスク、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録された状態で提供又は配布されるものであってもよい。あるいは、上記のプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータに格納され、ネットワーク経由でのダウンロードにより提供又は配布されるものであってもよい。
【0090】
以下、本実施形態の試験システム1を用いる評価方法について、
図5のフローチャートを参照しながら、その処理の一例を説明する。なお、上述の試験システム1の構成の説明と重複する説明は適宜省略する。
【0091】
まず、ダウンリンク信号のIQデータをアンテナ装置10のIQデータ出力部11から信号処理部20に入力する(ステップS1)。
【0092】
次に、実伝搬路推定特性算出部21は、ステップS1で入力されたIQデータを用いて、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルの伝搬路特性Hn
ij(k)の複数の解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する(実伝搬路推定特性算出ステップS2)。
【0093】
次に、パラメータ算出部22は、実伝搬路推定特性算出ステップS2で算出された推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出する(パラメータ算出ステップS3)。
【0094】
次に、擬似伝搬路特性生成部30は、パラメータ算出ステップS3で算出されたパラメータに応じた、複数の擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)を生成する(擬似伝搬路特性生成ステップS4)。
【0095】
次に、擬似チャネル容量算出部24は、複数の擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)のそれぞれについての擬似チャネル容量Cpを算出する(擬似チャネル容量算出ステップS5)。
【0096】
次に、実伝搬路チャネル容量算出部25は、複数の解析対象タイミングtnのうちの少なくとも一部の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)のそれぞれについてのチャネル容量C0を算出する(実伝搬路チャネル容量算出ステップS6)。
【0097】
次に、頻度分布算出部26は、擬似チャネル容量算出ステップS5で算出された擬似チャネル容量Cpの頻度分布と、実伝搬路チャネル容量算出ステップS6で算出されたチャネル容量C0の頻度分布を算出する(頻度分布算出ステップS7)。
【0098】
次に、類似度評価部27は、擬似チャネル容量Cpの頻度分布とチャネル容量C0の頻度分布との類似度を評価指標として算出する(類似度評価ステップS8)。
【0099】
次に、信号処理部20は、類似度評価ステップS8で算出された評価指標を表示部41に表示させる(ステップS9)。
【0100】
なお、実伝搬路チャネル容量算出ステップS6と頻度分布算出ステップS7は、擬似チャネル容量Cpとチャネル容量C0の類似度を評価するための評価指標を算出するチャネル容量評価ステップを構成する。
【0101】
以上説明したように、本実施形態に係る試験システム1は、実伝搬路110の環境で得られた推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するようになっている。これにより、本実施形態に係る試験システム1は、基地局100からのダウンリンク信号の取得時間に制限されずに、推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータから擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)を生成することができる。
【0102】
さらに、本実施形態に係る試験システム1は、擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)を用いて実伝搬路110の統計的な伝搬路特性を再現する形で、DUT120の試験を実施することができる。
【0103】
また、本実施形態に係る試験システム1は、実伝搬路110の環境で得られた推定特性H^n
ij(k)のチャネル容量C0の頻度分布と、推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータから得られた擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)の擬似チャネル容量Cpの頻度分布と、を算出するようになっている。さらに、本実施形態に係る試験システム1は、擬似チャネル容量Cpの頻度分布とチャネル容量C0の頻度分布との類似度を評価するようになっている。
【0104】
これにより、本実施形態に係る試験システム1は、チャネルモデルの擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)と実際の推定特性H^n
ij(k)との類似度をチャネル容量を使って評価することができる。つまり、本実施形態に係る試験システム1は、チャネルモデルのパラメータを算出する過程の妥当性を、チャネル容量を指標として評価することができる。ただし、推定特性H^n
ij(k)は、ダウンリンク信号に含まれる既知のRSを利用して算出するものであり、その推定精度は十分に良い。
【0105】
本実施形態に係る試験システム1及び評価方法は、主に、以下のような2つの場面で適用可能である。
場面1:実伝搬路110の推定特性H^n
ij(k)をチャネルモデルへ変換するソフトウェアを開発する際の評価(アルゴリズム上の問題があるかどうかなどの調査手段)
場面2:実伝搬路110の推定特性H^n
ij(k)をチャネルモデルへ変換するソフトウェアを利用するユーザがその変換の信頼性を確かめる手段としての評価
【0106】
場面2で本実施形態に係る試験システム1及び評価方法を使う際には、実伝搬路110の推定特性H^n
ij(k)をチャネルモデルへ変換するソフトウェアの機能として、チャネルモデルを生成する都度、その変換の精度をチャネル容量のずれを示す評価指標によって評価することができるようになる。それによって、そのソフトウェアを使うユーザが、チャネルモデルと実伝搬路110の違いの大きさを確認しながら携帯電話端末を評価することができるようになる。
【0107】
また、本実施形態に係る試験システム1は、チャネル容量C0の頻度分布の平均値CAve(Org)及び幅W95%(Org)と、擬似チャネル容量Cpの頻度分布の平均値CAve(Model)及び幅W95%(Model)を算出するようになっている。これにより、本実施形態に係る試験システム1は、チャネルモデルの擬似伝搬路特性Pn1
ij(k1)と実際の推定特性H^n
ij(k)との類似度を適切に評価することができる。
【0108】
以上で説明した本実施形態では、実伝搬路110に向けてダウンリンク信号を送信するネットワーク側の送受信装置が基地局100であるとしたが、基地局の代わりに例えばWi-Fi(登録商標)のアクセスポイントなどをネットワーク側の送受信装置としてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 試験システム
10 アンテナ装置
11 IQデータ出力部
15 試験装置
20 信号処理部
21 実伝搬路推定特性算出部
22 パラメータ算出部
24 擬似チャネル容量算出部
25 実伝搬路チャネル容量算出部
26 頻度分布算出部
27 類似度評価部
28 チャネル容量評価部
30 擬似伝搬路特性生成部
41 表示部
100 基地局(ネットワーク側の送受信装置)
110 実伝搬路
120 DUT
Rx1~RxR アンテナ
Tx1~TxT アンテナ